(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】電解質用二官能性イオン液体
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230726BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230726BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230726BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230726BHJP
C08F 2/56 20060101ALI20230726BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20230726BHJP
C08F 226/00 20060101ALI20230726BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C08F2/44 B
H01M10/0565
H01M10/052
H01B1/06 A
C08F2/56
C08F2/48
C08F2/44 A
C08F226/00
C08F220/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567301
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 US2020031453
(87)【国際公開番号】W WO2021225583
(87)【国際公開日】2021-11-11
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】ノームズ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モガンティ スリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディア ルトビク
(72)【発明者】
【氏名】シニクロピ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ユエ
(72)【発明者】
【氏名】トーレス ガブリエル
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4J011PA04
4J011PA06
4J011PA08
4J011PA10
4J011PA14
4J011PA25
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5G301CA16
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5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AM16
5H029CJ08
5H029CJ11
5H029HJ01
(57)【要約】
リチウムイオンと相互作用することができる官能基を有する架橋されたイオン液体(IL)マトリクスを含む固体ポリマー電解質;リチウムイオンと相互作用することができる官能基および架橋することができる反応性の重合性官能基を有する重合性イオン液体(IL)材料(モノマー)を含有する重合性PEM配合物;リチウム伝導性塩、可塑剤、架橋剤、ならびに、リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基および架橋することができる反応性の重合性官能基を含有する重合性IL化合物を含む重合性配合物から調製される電解質;重合されたイオン液体(IL)材料を含有するこれらの固体PEMを組み込んだ電解質を含有する電気化学セル;ならびにそれらの方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンと相互作用することができる官能基および架橋することができる反応性の重合性官能基を含有する、重合性イオン液体(IL)モノマーと;
リチウムイオン伝導性塩と;
可塑剤と;
架橋剤と
を含む、重合性ポリマー電解質材料(PEM)配合物。
【請求項2】
リチウムイオンと相互作用することができる官能基が、単結合の炭素-酸素-炭素構造を含む、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項3】
リチウムイオンと相互作用することができる官能基が、エーテル、ニトリル、シリル、フルオロアルキル、シロキサン、スルホネート、カーボネート、エステル、エチレンオキシドまたはこれらの組み合わせより選択される、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項4】
架橋することができる反応性の重合性官能基が、ビニル、アリル、アクリレート、ベンジルビニルおよびアクリロイルより選択される基を含有する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項5】
架橋することができる反応性の重合性官能基が、窒素カチオン部分、リンカチオン部分および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含有する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項6】
窒素カチオン部分が、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、アゼピニウム、およびモルホリニウム部分からなる群より選択される、請求項5記載の重合性配合物。
【請求項7】
硫黄カチオン部分が、スルホニウム部分からなる群より選択される、請求項5記載の重合性配合物。
【請求項8】
リンカチオン部分が、ホスホニウム部分からなる群より選択される、請求項5記載の重合性配合物。
【請求項9】
リチウムイオン伝導性塩が、前記配合物の重量あたり10%~50%の範囲で存在する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項10】
可塑剤が、前記配合物の重量あたり5%~50%の範囲で存在する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項11】
可塑剤が室温イオン液体(RTIL)である、請求項9記載の重合性配合物。
【請求項12】
重合性イオン液体(IL)モノマーが、前記配合物の重量あたり0.1%~50%の範囲で存在する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項13】
架橋剤が、前記配合物の重量あたり10%~50%の範囲で存在する、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項14】
架橋剤が、モノ、ジ、およびトリアクリレートならびにモノ、ジ、およびトリメタクリレートのうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項15】
前記配合物の重量あたり0.1%~5%の範囲で重合開始剤をさらに含む、請求項1記載の重合性配合物。
【請求項16】
リチウムイオン伝導性塩と;
可塑剤と;
リチウムイオンと相互作用することができる官能基を有しかつ複数のペンダント基を有するポリマー骨格を含む、架橋されたイオン液体(IL)マトリクスであって、複数のカチオン部分が、該ポリマー骨格の複数のペンダント基のうちの1つまたは複数に結合しており、該カチオン部分が、窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つである、架橋されたイオン液体(IL)マトリクスと
を含む固体ポリマー電解質。
【請求項17】
マトリクスが二官能性イオン液体架橋を含む、請求項16記載の電解質。
【請求項18】
請求項16記載の電解質内で互いに間隔をあけた正極および負極を含む、電気化学セル。
【請求項19】
a.
i.リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基、ならびに
窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含有し、重合性イオン液体(IL)モノマーを架橋することができる反応性の重合性官能基
を含有する、該重合性イオン液体(IL)モノマーと、
ii.リチウムイオン伝導性塩と、
iii.可塑剤と、
iv.重合開始剤と、
v.架橋剤とを含む反応混合物を形成する工程;および
b.固体PEMを形成するために該反応混合物中で重合を開始する工程であって、イオン液体(IL)モノマーが該PEMのポリマーコアの一部を形成する、工程
を含む、固体ポリマー電解質を製造する方法。
【請求項20】
重合反応が、紫外線エネルギー、熱、電子衝撃、およびマイクロ波エネルギーからなる群より選択されるエネルギー源によって開始される、請求項19記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は重合性ポリマー電解質材料配合物、固体ポリマー電解質、固体ポリマー電解質を含有する電気化学セル、およびそれらの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
2017年に米国環境保護庁(EPA)によって提供された情報によると、運輸部門だけで世界の温室効果ガス排出量の29%を占めている。世界中での電気自動車の普及はこの数字の大幅な減少に役立つであろう。電気およびハイブリッド電気自動車の世界市場が成長しかつリチウムイオン(Li-ion)電池が消費者向け電子機器の共通の特徴となっており、高充放電率、長寿命および高エネルギー密度の電池を開発することが重要である。とりわけ、これらのデバイスを通常および悪条件下で安全なものにすることに重点的に取り組む必要がある。Li-ion電池はソニーが1991年に最初の電池を商品化して以来、ほとんどの家庭用電子機器で多用されてきた。20世紀初頭では電気自動車(EV)が個人用車両の販売台数における市場占有率を競い合っていたが、ゼネラルモーターズ(GM)がEV-1を発売した1990年代までおよびカリフォルニア州の無公害車(ZEV)指令によって、内燃機関(ICE)の利点、つまりエネルギー密度の高い燃料およびより大きな出力が、EV開発が散発的でありかつ非集中的であることを意味した。EVの主要な構成要素の1つはエネルギー貯蔵システム(ESS)であり、電池技術を向上することはEVの商用化に潜在的影響を及ぼしかつ化石燃料需要の低減に役立ち得る。電池は車両またはデバイスのなかで高コストの構成要素であるため、車両またはデバイスの寿命にわたり使い続けられることが重要である。これは、EVおよび電子機器で用いられる次世代のLi-ion電池が、現時点で最先端のLi-ion技術と比較して、すべての構成要素において大幅な向上を必要とすることを意味している。
【0003】
電池電極間の陽および陰イオンの往復が電解質の主な機能である。歴史的に、研究者は電池電極の開発に集中し、電解質の開発は限定的であった。従来のLi-ion電池はリチウムイオンを輸送し得るカーボネート系電解質を用いていたが、可燃性および揮発性の高さに悩まされてきた。電解質研究の大部分は、電極上で反応して電極と電解質の反応を防止するかまたは制限し得る添加剤の開発に向けられてきた。難燃性の添加剤も研究されてきたが、電池における有害な熱反応を防止することはなく、火災の程度および規模を制限するのみである。
【0004】
最近では、Li-ion電池における電解質向けの有望な材料であるため、室温イオン液体(RTIL)がそれらの電気化学的特性について広く研究されてきた。イオン液体(IL)は大きなカチオンおよび無機アニオンを持つ有機塩であり、100℃未満の融点を有する。イオン液体における格子エネルギーは嵩高いカチオンにより減少しているので、融点がより低くなる。ILは蒸気圧が無視できるほど小さく、不燃性であり、電気化学ウインドウが広く、化学的および熱的安定性が高く、かつイオン伝導性が良好であるため、リチウム電池用に従来の電解質の代替物となる可能性がある。
【0005】
Kangらの米国特許第6,727,024号(特許文献1)および米国特許第6,395,429号(特許文献2)は、アクリレートおよび他の官能化された架橋剤との、リチウム塩系固体電解質および可塑剤としてのジアルキルエーテルの使用を報告している。先行技術の電解質で用いられる架橋剤分子のイオン伝導性が元々低いため、当技術分野では高エネルギーLi-ionおよびリチウム系電池のイオン伝導性を向上させるための二官能性重合性イオン液体の組み込みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,727,024号
【特許文献2】米国特許第6,395,429号
【発明の概要】
【0007】
概要
本開示の1つの局面によれば、リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基および重合性イオン液体(IL)モノマーを架橋することができる反応性の重合性官能基を含有する、該重合性イオン液体(IL)モノマーと;リチウムイオン伝導性塩と;可塑剤と;架橋剤とを含む、重合性ポリマー電解質材料(PEM)配合物が提供される。
【0008】
本開示の別の局面によれば、複数のペンダント基を備えた、リチウムイオンと相互作用することができる官能基を有するポリマー骨格を含む、架橋されたイオン液体(IL)マトリクスであって、該ポリマー骨格の複数のペンダント基のうちの1つまたは複数に複数のカチオン部分が結合しており、該カチオン部分が窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つである、架橋されたイオン液体(IL)マトリクスと;リチウムイオン伝導性塩と;可塑剤とを含む、固体ポリマー電解質が提供される。
【0009】
本開示の別の局面によれば、固体ポリマー電解質内で互いに間隔をあけた正極および負極を含む電気化学セルが提供される。
【0010】
本開示の別の局面によれば、
a.
i.リチウムイオンと相互作用することができる官能基、ならびに、窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含有する反応性の重合性官能基を含有する、重合性イオン液体(IL)モノマーと、
ii.リチウムイオン伝導性塩と、
iii.可塑剤と、
iv.重合開始剤と、
v.架橋剤と
を含む反応混合物を形成する工程;および
b.PEMを形成するために該反応混合物中で重合を開始する工程であって、二官能性ILモノマーがポリマー構造のコアの一部を形成する、工程
を含む、固体ポリマー電解質を製造する方法が提供される。
【0011】
本開示のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明およびそれに添付の請求項を検討することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は先行技術の重合性ILモノマー(ILA)ならびに本開示に係る重合性ILモノマー(ILB)および(ILC)の分子構造を示す。
【
図2】
図2は本開示に係る合成された重合性ILモノマーI~IVの分子構造を示す。
【
図3】
図3は架橋固体電解質(PEM)の設計および合成を示す。
【
図4】
図4は本開示に係る重合性ILモノマーを用いて合成されたPEMフィルムにおけるイオン伝導メカニズムの態様を示す。
【
図5】
図5はPEMフィルムのイオン伝導性を測定するために用いられるスウェージロックセルの各部を示す写真である。
【
図6】
図6はバルク抵抗に基づいてPEMフィルムのイオン伝導性を算出するために用いられるナイキスト線図を示す。
【
図7】
図7は高温で優れた熱安定性を示すPEMフィルムのTGAデータを示す。
【
図8】
図8は本開示に係る重合性ILモノマーV~XVIの分子構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
開示の技術は概してリチウム電池の電解質に関する。特に、本技術はリチウムイオンの輸送のために用いられる不燃性で不揮発性の固体電解質に関する。本技術は消費者向け電子機器および電気駆動車両での使用に適したエネルギー貯蔵システムにおいて有用な電解質にも関する。
【0014】
本開示は現時点では最先端のLi-ion電池および次世代のリチウム系電池における安全性の懸念を克服する不燃性かつ不揮発性の固体電解質を記載している。該技術は固体ポリマー電解質を形成し得る革新的な架橋された重合性ILに基づいている。メンブレン、フィルム、ブロックなどを含む、得られるイオン伝導性ポリマー電解質材料(PEM)は、長年リチウム電池の電解質が悩まされてきた熱的および電気化学的安定性ならびに安全性の低さの問題を同時に克服する。これらは、化学的および機械的両面のチューニング性を備えた電解質であって自動車用途および家電向けに利用可能な電池フォームファクターの範囲を拡大する電解質を設計するためのプラットフォームを提供する。架橋されたPEMは、固有の広い電気化学的安定性ウインドウにより、あらゆるリチウム系電池の動作温度範囲および安全性を大幅に向上させるために用い得る。
【0015】
本開示は、リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基および1つの反応性の重合性官能基を含有する、重合性イオン液体(IL)材料(モノマー);重合性イオン液体(IL)材料(モノマー)を含有する重合性PEM配合物;重合されたイオン液体(IL)材料を含有する固体の重合されたPEM;ならびに重合されたイオン液体(IL)材料を含有するこれらの固体PEMを組み込んだ電解質を含有する電気化学セルに関する。
【0016】
好適な重合性イオン液体(IL)モノマーは、リチウムイオンと相互作用することができる官能基およびポリマー内で架橋することができる反応性の重合性官能基を含有する。リチウムイオンと相互作用することができるという表現はポリマー電解質材料におけるLi+イオンコンジュゲーションを増加させることを意味する。好適なリチウムイオン相互作用官能基は、単結合の炭素-酸素-炭素構造を含む。例はエーテル、ニトリル、シリル、フルオロアルキル、シロキサン、スルホネート、カーボネート、エステル、エチレンオキシドまたはこれらの組み合わせを含む。ポリマー内で架橋することができる好適な反応性の重合性官能基は、窒素カチオン部分、リンカチオン部分および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含む。そのような好適な架橋官能基は、ビニル、アリル、アクリレート、ベンジルビニルまたはアクリロイル基を含む。
【0017】
本開示の1つの態様では、リチウムイオン伝導性塩、可塑剤、架橋剤、リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基およびポリマー内で架橋することができる反応性の重合性官能基を含有する、複数の重合性イオン液体(IL)モノマー、ならびに光開始剤を含む配合物から調製された固体ポリマー電解質が提供される。1つの態様では、電気エネルギー貯蔵デバイスは、a)リチウムイオン伝導性塩;b)可塑剤;c)架橋剤;d)リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基およびポリマー内で架橋することができる反応性の重合性官能基を含む、複数の重合性イオン液体(IL)モノマー;ならびにe)光開始剤を含む配合物から調製された電解質を含む。
【0018】
1つの態様では、固体PEM電解質は、リチウムイオンと相互作用することができる少なくとも1つの官能基を含有するポリマー骨格を有する、重合されたILマトリクスを含む。該ポリマー骨格は、ビニル、アリル、アクリレート、ベンジルビニルまたはアクリロイル基によってポリマーマトリクス内で架橋された、窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含むカチオン部分を有する、複数のペンダント基を有する。PEM電解質はリチウムイオン伝導性塩および可塑剤をさらに含む。
【0019】
1つの態様では、窒素カチオン部分は、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、アゼピニウム、およびモルホリニウム部分からなる群より選択される。
【0020】
1つの態様では、リンカチオン部分は、ホスホニウム部分からなる群より選択される。
【0021】
1つの態様では、硫黄カチオン部分は、スルホニウム部分からなる群より選択される。
【0022】
1つの態様では、重合性ILモノマーはビニルまたはアリルまたはアクリレートイミダゾリウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートアンモニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートピリジニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートピペリジニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートピロリジニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートアゼピニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートモルホリニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートホスホニウム部分、ビニルまたはアリルまたはアクリレートスルホニウム部分を含む。
【0023】
1つの態様では、好ましい重合性ILモノマーはビニルイミダゾリウム部分、ビニルピロリジニウム、アクリレートアンモニウム部分、アクリレートピロリジニウム部分を含む。
【0024】
本開示の1つの態様によれば、架橋されたポリマーイオン液体マトリクスの架橋は、窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含む。1つの態様では、架橋された重合性ILの架橋はジェミニIL部分である。
【0025】
1つの態様では、リチウムイオンと相互作用することができる官能基を含有する重合性IL材料の好適な分子構造はILBおよびILCとして
図1に示されている。ILAはリチウムイオンと相互作用することができる官能基(例えば、アルキル鎖)を含有しない比較用の重合性IL材料である。
【0026】
1つの態様では、リチウムイオンと相互作用することができる官能基を含有する重合性IL材料は、固体PEM電解質および重合性PEM配合物のそれぞれの重量あたり0.1%~50%の範囲で存在する。
【0027】
1つの態様では、リチウムイオン伝導性塩は固体PEM電解質および重合性PEM配合物のそれぞれの重量あたり10%~50%の範囲で存在する。好適なリチウムイオン伝導性塩はLiBF4、LiNO3、LiPF6、LiAsF6、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロアセテート、LiBoB、LiDFOB、LiPO2F2など、またはこれらの混合物を含む。
【0028】
1つの態様では、リチウムイオンを解離することができる可塑剤は固体PEM電解質および重合性PEM配合物のそれぞれの重量あたり5%~50%の範囲で存在する。1つの態様では、可塑剤は非重合性RTILである。イオン液体は有機カチオンおよび無機/有機アニオンを含有し、好適な有機カチオンはN-アルキル-N-アルキル-イミダゾリウム、N-アルキル-N-アルキル-ピロリジニウム、N-アルキル-N-アルキル-ピリジニウム、N-アルキル-N-アルキル-スルホニウム、N-アルキル-N-アルキル-アンモニウム、N-アルキル-N-アルキル-ピペリジニウムなどを含み、好適なアニオンはテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、トリフルオロアセテートなどを含む。
【0029】
1つの態様では、可塑剤はエチレングリコールを含有するモノまたはジエーテルである。好適な例はエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、またはそれらの混合物を含む。
【0030】
1つの態様では、本明細書において記載される固体電解質によって互いから分離させた正極および負極を含む電池が提供される。
【0031】
1つの態様では、複合電解質を製造する方法は、(1)リチウムイオンと相互作用することができる官能基と、窒素カチオン部分、リンカチオン部分、および硫黄カチオン部分のうちの少なくとも1つを含有し、ポリマー内で架橋することができる反応性の重合性官能基とを含有する、重合性ILモノマーを含む反応混合物を形成する工程、ならびに(2)ポリマーイオン液体マトリクスを形成するために該反応混合物中で重合を開始する工程を含む。
【0032】
1つの態様では、重合開始剤が、重合性配合物の重量あたり0.1%~5%の範囲で存在する。1つの態様では、重合はフリーラジカル重合反応である。1つの態様では、反応は、熱によるか、または紫外線エネルギーによるかまたはマイクロ波エネルギーによって開始される。1つの態様では、方法は反応混合物において開始剤を加える工程をさらに含む。1つの態様では、重合は光開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを用いることによって紫外線エネルギーによって開始される。
【0033】
重合性イオン液体は電解質としての使用向けにこれまでに調査されてきた。しかしながら、従来のイオン液体モノマーを重合するそのようなアプローチは、可動イオン数の減少およびTgの大幅な上昇により、イオン伝導性を大幅に低下させることが示された。本開示によれば、ポリマー材料のイオン伝導性を高めるために、リチウムイオンと相互作用することができる官能基が二官能性の重合性ILモノマー構造に導入された。ポリマー骨格におけるそのようなリンケージにより、Li+イオンコンジュゲーションの増加、したがって、より速いイオンの輸送が可能になる。したがって、本二官能性ILモノマーはリチウム輸率がより高くかつ熱安定性が向上したIL系PEMを提供する。
【0034】
重合性ILは様々な用途において有用な機能性ポリマーのクラスである。これらのポリマーの繰り返し単位は電解質基(カチオンまたはアニオン)を有している。ILのイオン伝導性はいくつかの要因:ポリマー骨格の化学的性質、イオンの性質、およびガラス転移温度(Tg)、に応じて異なる。高いイオン伝導性および高い熱安定性とは別に、本モノマーILは高いLi+イオン輸率を提供する。高いLi+イオン輸率は、カチオンがポリマー骨格に固定され、これによってイオン伝導に関与しない結果である。エネルギー貯蔵用途には、フィルム型、例えば、固体ポリマーのイオン伝導性材料が液体電解質よりも好ましい。重合性基をイオン液体成分に付加し得る。液体電解質と比較して、固体ポリマーは重量が軽く、加工、処理および包装がより容易である。
【0035】
イオン伝導性、熱的および機械的安定性が向上したリチウムイオン電池用電解質が記載される。電解質はフィルム、メンブレンおよびブロックなどの様々な形状に成型または形成し得る重合性IL材料を含む。ポリマーILは重合性ILモノマーの架橋から形成され、骨格(任意でイオン液体部分を含み得る)およびペンダントイオン液体基(正および負に帯電した粒子対として示される)を含む。イオン液体PEMの態様は、フィルムに機械的安定性をもたらしかつ複合体のイオン伝導性をさらに補助する二官能性イオン液体架橋(架橋性ジェミニイオン液体)を含む。
【0036】
EVまたはPHEVにおける用途向けの高いイオン伝導性、広い電気化学的安定性および高い熱安定性を示すIL系ハイブリッドPEMが開示される。これらの電解質は高電圧カソードを備えたLi-金属電池、Li-硫黄電池およびLiイオン電池に組み込まれ得る。電極化学物質の特定の組み合わせを補完するようにカスタマイズされたすなわち明確に設計されたILを作製するために組み合わせ得る広範なアニオンおよびカチオン化学物質は、電池の安全性に関する懸念に対処し得る、大部分が未利用の材料ライブラリも、提供する。
【0037】
Shaplovらは、彼らの評論(Recent Advances in Innovative Polymer Electrolytes based on Poly (ionic liquid)s, 2015)において、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムTFSIイオン液体およびLiTFSI塩を用いた30℃でのイオン伝導率が0.1mS/cmのイオンゲルの合成を報告している。Porcarelliらによる別の記事(Design of ionic liquid like monomers towards easy-accessible single-ion conducting polymer electrolytes, 2018)は、25および70℃では最も高いイオン伝導率がそれぞれ1.9×10-6および2×10-5S.cm-1である、リチウム3-[4-(2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ)-4オキソブタノイル)オキシ)プロピルスルホニル]-1-(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートに基づくコポリマー電解質を報告している。本明細書において引用されるすべての特許、特許出願および出版物は、本明細書において記載される開示の時点で当業者に公知であった技術水準を記載するために、それらの全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0038】
二官能性の重合性ILモノマーは1つまたは複数の重合性単位が組み込まれたイオン液体である。イオン液体モノマーにおいては、重合性特徴部はカチオン、またはアニオン、またはカチオンとアニオンの両方に位置し得る。
【0039】
ILの二官能性は、a)重合の可能な反応性末端基、およびb)リチウム伝導性塩のリチウムイオンと相互作用することができる官能基によるものである。リチウムイオンと相互作用することができる好適な官能基は、エーテル、ニトリル、シリル、フルオロアルキル、シロキサン、スルホネート、カーボネート、エステルまたはこれらの組み合わせより選択される。したがって、機械的安定性を損なうことなくイオン伝導性が向上したポリマー電解質を生成するために、市販の架橋剤を二官能性ILと部分的または完全に置き換え得る。
【0040】
イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、アゼピニウム、およびモルホリニウム窒素カチオン部分を非限定的に含む群より選択される、窒素カチオンを有する窒素カチオン部分を含むILモノマーの例。これらの基は重合することができる側基により官能化され得る。重合性基はビニル、アリル、アクリレート、ベンジルビニルおよびアクリロイル基を含む。これらの反応性基はフリーラジカル、熱、紫外線またはマイクロ波で開始される重合が可能であり、これによってモノマーILがポリマーに組み込まれる。
図1は、PEMフィルムを生成するための実施例において用いられ、それぞれモノマー構造中にリチウムイオンと相互作用することができる官能基およびモノマーを架橋することができる反応性の重合性官能基を組み込んだ重合性ILモノマーILBおよびILCの分子構造と比較した、リチウムイオンと相互作用することができる官能基が欠如した先行技術の重合性ILモノマーILAの分子構造を示す。
図2は、リチウムイオンと相互作用することができる官能基およびモノマーを架橋することができる反応性の重合性官能基をそれぞれ含有する、好適な重合性ILモノマーI~IVの分子構造を示す。
【0041】
例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、アゼピニウム、およびモルホリニウム窒素カチオン部分、ならびにホスホニウムおよびスルホニウムカチオン部分を含む、ILを用いたバリエーションも用い得る。
【0042】
1つまたは複数の態様では、ビニル官能化重合性イミダゾリウム(Im)、ピロリジニウム(Pyr)およびピペリジニウム(Pip)カチオン系モノマーILのファミリーがイオンポリマーモノマーとしての使用に好適である。ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)を対イオンとするビニルモノマーイオン液体が合成され得る。
【0043】
架橋剤
複合電解質は本開示の重合性イオン液体(IL)モノマーと架橋し機械的強度の向上を補助する架橋剤も含む。架橋剤はメンブレンの柔軟性を規定する役割を果たす。架橋剤は従来の二官能性分子(ILモノマー)であり得るか、またはそれ自体が重合が可能なイオン液体であり得る。架橋剤(従来のILモノマー)の二官能性の性質によりポリマー鎖間にブリッジが形成されるが、架橋剤はまた成長するポリマー鎖に組み込まれ得る。従来の架橋剤はジビニルベンゼン、ジメタクリレートおよびジアクリレートなどの2つ以上のビニル特徴部を有する部分を含む。ILモノマーとの反応時に、架橋イオン液体は2つのポリマー骨格間にブリッジを形成し得るか、またはポリマー骨格に組み込まれ得、これによってポリマー自体のイオン伝導性を増加させる。これは、架橋剤およびモノマーILがより速いLi
+イオン輸送を可能にするエーテル基をそれぞれ有する
図3に示されている。
【0044】
図8は、リチウムイオンと相互作用することができる官能基およびポリマー内で架橋することができる反応性の重合性官能基をそれぞれ含有する、重合性ILモノマーV~XVIの分子構造を示す。
図8は、エーテル酸素官能部分を有するビニルピロリジニウムカチオン(モノマーV)、エーテル酸素官能部分を有するビニルピペリジニウムカチオン(モノマーVI)、ニトリル官能部分を有するスチレンピロリジニウムカチオン(モノマーVII)、トリメチルシリル官能部分を有するビニルアンモニウムカチオン(モノマーVIII)、トリメチルシリル官能部分を有するビニルピペリジニウムカチオン(モノマーIX)、ニトリル官能部分を有するビニルホスホニウムカチオン(モノマーX)、ニトリル官能部分を有するビニルスルホニウムカチオン(モノマーXI)、トリメチルシリル官能部分を有するビニルホスホニウムカチオン(モノマーXII)、トリメチルシリル官能部分を有するビニルスルホニウムカチオン(モノマーXIII)、カルボニル官能部分を有するビニルピロリジニウムカチオン(モノマーXIV)、カルボニル官能部分を有するビニルアンモニウムカチオン(モノマーXV)、エーテル酸素官能部分を有するアクリレートアンモニウムカチオン(モノマーXVI)を含む様々な好適な二官能性の重合性イオン液体(IL)モノマーを示す。
【0045】
【0046】
以下の具体的な実施例を参照して開示をさらに説明する。これらの実施例は説明として与えられており、開示または以下の請求項を限定することを意味するものではないと理解されたい。
【実施例】
【0047】
実施例A - 比較例(CE)1、CE2、CE3および実施例1のPEMフィルムは、リチウム伝導性塩、モノマーIL、可塑剤および架橋剤を含有し、光開始剤を用いたUV放射によって重合した配合物から製造した。架橋剤は機械的強度に関与する一方で、可塑剤は塩の解離を助けるのでイオン伝導性を高める。その二官能性の性質により、モノマーILはPEMフィルムのイオン伝導性と機械的特性とのバランスをもたらす。PEMフィルムの個々の成分は遠心ミキサーを用いて混合されて、粘性の高いポリマーゲルが得られる。粘性のポリマーゲルはガラスプレートにドロップキャストされ、
図4に示すように、プレートをUV光下に通して厚さが50μmのPEMフィルムを作製する。
図4は重合性ILモノマーを用いて合成されたPEMフィルムのイオン伝導メカニズムを示す。架橋度はUV光の露出時間および強度を変更することによって調整し得る。
【0048】
【0049】
実施例B - Im(ビニル)メチルエチル-エーテル-TFSI(ILB)の合成
【0050】
四級化
磁気撹拌棒を備えた20mLバイアルに1-ビニルイミダゾールを加えた。室温(RT)で撹拌しながら2-ブロモエチルメチルエーテルを加えた。発熱は観察されなかった。反応は出発ビニルイミダゾールに対するTLC(シリカゲル50%EtOAc/DCM)によってモニタリングした。元物質から移行しない未反応のビニルイミダゾールは生成物と比べて遥かに小さい割合で存在した。琥珀色の混合物をRTで96時間撹拌して、粘性で琥珀色の油が形成された。収率:琥珀色の油、5.0g(>99%)。
【0051】
メタセシス
工程1からの二臭化物を含有する20mLバイアルにDI水(20mL)を加え、この溶液にDI水(10mL)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを加えた。濁った析出物が直ちに形成され、この後、琥珀色の液層が水から分離する。混合物をRTで1時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(10mL)を加え、混合物全体を分液漏斗に注ぐ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO
4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去する。収率:明るい琥珀色の油、7.8g(84%)。
【0052】
実施例C - [Im(ビニル)]2-トリエチレングリコール-TFSI(ILC)の合成
【0053】
二臭化物への変換
磁気撹拌棒、水冷凝縮器、N2注入口および熱電対を備えた100mL三つ口フラスコにトリエチレングリコールおよびDCM(30mL)を加えた。混合物を氷/塩浴で2℃まで冷却した。2℃で撹拌しながら、三臭化リンをシリンジで滴下すると、最大で11℃までの発熱が観察された。混合物をゆっくりとRTまで戻し、72時間撹拌した。DI水(10mL)を滴下して明るい青色の溶液をクエンチすることができた。混合物を分液漏斗に注いだ。有機相をDCMに抽出し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去した。収率:無色の油、6.5g(71%)。
【0054】
四級化
工程Aからの混合物を含有する100mLのRBに1-ビニルイミダゾールを加えた。発熱は観察されず、混合物は未希釈条件下にてRTで7日間撹拌した。混合物は淡い白色の固体になった。固体をDCM(30mL)中でスラリー化し、真空ろ過により収集した。未反応の出発物質を除去した母液は黄色であった。収率:淡い白色の固体、8.8g(81%)。
【0055】
メタセシス
磁気撹拌棒を備えた100mL瓶にDI水(20mL)に溶解した工程1からの臭化物を加え、20mLのDI水に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの溶液と混ぜ合わせた。濁った析出物が直ちに形成され、淡い黄色の油が底に沈殿した。混合物をRTで2時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(20mL)を加え、混合物全体を分液漏斗に注ぐ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO
4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去する。収率:明るい黄色の油、14.8g(90%)。
【0056】
イオン伝導率は、下の式を用いて、ナイキスト線図から得られたPEMフィルムのバルク抵抗に基づいて算出される。コインセルよりも良好な接触のためにセルを密閉し、これによって界面抵抗を低下させたスウェージロックセルの上側プランジャーと下側プランジャーの間に開示のフィルムを挟んだ。
図5はPEMフィルムのイオン伝導率を測定するために用いられるスウェージロックセルの各部の写真を示す。
上の式では、σはPEMフィルムの厚さ(t)および面積(A)を用いて算出されるイオン伝導率であり、Rはナイキスト線図から得られるバルク抵抗である。
【0057】
【0058】
PEMフィルムのイオン伝導率データは、様々な用途におけるリチウム系電池の標準的な動作温度条件と考えられる25~45℃の温度範囲で報告されている。可塑剤が何ら含まれていないCE1フィルムでは、室温で0.05mS/cm未満の低いイオン伝導率を見ることができる。これらのフィルムはモノマーILが分子構造中にEO基を有さないILAを含有するフィルムよりも架橋剤の充填量が多く、伝導率の低いPEMが得られる。Li
+イオン伝導性塩を増加させかつ架橋剤濃度を至適化するとCE2フィルムと比べてCE3フィルムにおけるイオン伝導率が増加する。
図1に示すように、ILBおよびILCはそれぞれ、モノビニルイミダゾールおよびジビニルイミダゾール部分に結合したEO基を有する。これは、
図3に示すように、ILにおける酸素とのLi
+イオンのより良好なコンジュゲーションをもたらし、より速いイオンの移動をもたらす。実施例1のPEMは3つの反応部位を有するトリアクリレート架橋剤Bを用いてさらに至適化されて、より架橋されたPEMフィルムをもたらすので、前記配合物中に10重量%のみ必要である。イオン伝導率の値は
図6に見ることができるナイキスト線図を用いて算出され、CE2フィルムと比べて実施例1フィルムではインピーダンス(抵抗=R)の低下を見ることができる。
図6はバルク抵抗に基づいてPEMフィルムのイオン伝導率を算出するために用いられるナイキスト線図を示す。したがって、室温(25℃)でのイオン伝導率は、CE3 PEMにおける0.33mS.cm
-1から実施例1のPEMの0.82mS.cm
-1までの増加が見られる(表B)。これらは液体またはゲル成分を何ら含まない固体PEMフィルムであり、室温で高いイオン伝導率の値を達成できることに留意されたい。
【0059】
従来の液体電解質は熱安定性が非常に低い可燃性のカーボネート共溶媒を含有しているので、これらの電解質を用いたLi-ion電池は安全性の問題がある。モノマーILを含有するPEMフィルムの熱安定性を調べるために熱重量分析(TGA)を実施した。ランピングレートを5℃/分にして、20~500℃の温度範囲で走査を実施した。
【0060】
図7は高温で優れた熱安定性を示す実施例1のPEMフィルムと比較したCE2およびCE3のPEMフィルムのTGAデータの線図を示す。実施例1のPEMフィルムならびにCE2およびCE3は250℃超であっても優れた熱安定性を有しているため、リチウム系電池の安全性を向上し得る。リチウム系電池における本開示に係るPEMの使用は広い温度領域でより安全な動作を可能にするであろう。
【0061】
実施例D - Im(ビニル)-ジエチレングリコール-モノエチル-エーテル-TFSI(モノマーIL I)の合成
【0062】
臭化物への変換
磁気撹拌棒、水冷凝縮器、N2注入口および熱電対を備えた100mL三つ口フラスコにジエチレングリコール-モノエチル-エーテルおよびDCM(30mL)を加えた。混合物を氷/塩浴で2℃まで冷却した。2℃で撹拌しながら、三臭化リンをシリンジで滴下すると、最大で9℃までの発熱が観察された。混合物をゆっくりとRTまで戻し、18時間撹拌した。DI水(10mL)を滴下して明るい青色の溶液をクエンチすることができた。混合物を分液漏斗に注いだ。有機相をDCMに抽出し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去した。収率:無色の油、5.1g、(70%)。
【0063】
四級化
工程Aからの混合物を含有する20mLバイアルに1-ビニルイミダゾールを加えた。発熱は観察されず、混合物は未希釈条件下にてRTで撹拌した。反応はTLC(シリカゲル、50%EtOAc/DCM)によってモニタリングした。元物質から移行しない未反応のビニルイミダゾールは生成物と比べて遥かに小さい割合で存在した。琥珀色の混合物をRTで9日間撹拌して、粘性で明るい琥珀色の油が形成された。収率:明るい琥珀色の油、7.5g(>99%)。
【0064】
メタセシス
磁気撹拌棒を備えた50mL瓶にDI水(20mL)に溶解した工程1からの臭化物を加え、20mLのDI水に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの溶液と混ぜ合わせた。濁った析出物が直ちに形成され、淡い黄色の油が底に沈殿した。混合物をRTで2時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(20mL)を加え、混合物全体を分液漏斗に注ぐ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去する。収率:明るい黄色の油、10.2g(80%)。
【0065】
【0066】
実施例E - Im(ビニル)(2HImTEOS)-ジエチルエーテル-TFSI(モノマーIL II)の合成
【0067】
四級化
磁気撹拌棒を備えた20mLバイアルに、真空下で蒸留された無色の油(ポット、135℃;p、0.25~0.11mmHg;蒸気、96~109℃)であるN-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾールおよび1-ビニルイミダゾールおよびDCM(5mL)を加えた。RTで撹拌しながら、混合物にビス(2-ブロモエチル)エーテルを加えた。発熱は観察されなかった。反応は出発ビニルイミダゾールに対するTLC(シリカゲル50%EtOAc/DCM)によってモニタリングした。元物質から移行しない未反応のビニルイミダゾールは生成物と比べて遥かに小さい割合で存在した。琥珀色の混合物をRTで5日間撹拌して、粘性の高い琥珀色のゲルが形成された。収率:粘性で琥珀色のゲル、3.2g(>99%)。
【0068】
メタセシス
工程1からの二臭化物を含有する20mLバイアルにDI水(20mL)を加え、この溶液にDI水(10mL)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを加えた。濁った析出物が直ちに形成され、この後、明るい黄色の油層が水から分離する。混合物をRTで1時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(10mL)を加え、混合物全体を分液漏斗に注いだ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去した。収率:琥珀色の油、4.2g(79%)。
【0069】
実施例F - Im(ビニル)プロピル-TMOS-TFSI(モノマーIL III)の合成
【0070】
四級化
磁気撹拌棒を備えた20mLバイアルに1-ビニルイミダゾールを加えた。RTで撹拌しながら、(3-ヨードプロピル)トリメトキシシランを加えた。発熱は観察されなかった。反応は出発ビニルイミダゾールに対するTLC(シリカゲル50%EtOAc/DCM)によってモニタリングした。元物質から移行しない未反応のビニルイミダゾールは生成物と比べて遥かに小さい割合で存在した。琥珀色の混合物をRTで4日間撹拌して、粘性で琥珀色の油が形成された。収率:琥珀色の油、4.1g(>99%)。
【0071】
メタセシス
工程1からの二臭化物を含有する20mLバイアルにDI水(20mL)を加え、この溶液にDI水(10mL)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを加えた。濁った析出物が直ちに形成され、この後、琥珀色の液層が水から分離する。混合物をRTで1時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(10mL)を加え、混合物全体を分液漏斗に注ぐ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去する。収率:明るい琥珀色の油、5.4g(95%)。
【0072】
実施例G - Im(ビニル)メチルブチレート-TFSI(モノマーIL IV)の合成
【0073】
四級化
磁気撹拌棒を備えた20mLバイアルにメチル-4-ブロモブチレートおよび1-ビニルイミダゾールを加えた。発熱は観察されなかった。琥珀色の混合物をRTで7日間撹拌して、粘性の高い琥珀色のゲルが形成された。収率:粘性で琥珀色のゲル、5.8g(>99%)。
【0074】
メタセシス
工程1からの二臭化物を含有する20mLバイアルにDI水(20mL)を加え、この溶液にDI水(10mL)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを加えた。濁った析出物が直ちに形成され、この後、明るい黄色の油層が水から分離する。混合物をRTで1時間撹拌した。水層をデカントし、DCM(10mL)を加え(部分的にのみ可溶)、混合物全体を分液漏斗に注いだ。有機層をDI水(2×10mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥させ、回転蒸発によって溶媒を除去した。収率:明るい黄色の油、9.3g(93%)。
【0075】
本明細書において様々な態様を示しかつ詳細に説明してきたが、開示の精神から逸脱することなく様々な修飾、付加、置換などを行うことができ、したがって、これらは以下の請求項において規定される開示の範囲内に包含されるとみなされることは関連する技術分野の当業者には明らかである。
【国際調査報告】