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特表2023-533129非プロトン性極性溶媒中の安定な持続放出治療組成物およびその製造方法
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  • 特表-非プロトン性極性溶媒中の安定な持続放出治療組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】非プロトン性極性溶媒中の安定な持続放出治療組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20230726BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K38/02
A61K38/26
A61K47/04
A61K47/20
A61P3/08
A61K9/08
A61P25/28
A61P5/00
A61P1/00
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571780
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021039236
(87)【国際公開番号】W WO2021263197
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/044,973
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511176159
【氏名又は名称】ゼリス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カサボー エバン
(72)【発明者】
【氏名】プレストレルスキ スティーブン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC30
4C076DD21
4C076DD22
4C076DD23
4C076DD24
4C076DD26
4C076DD55
4C076EE24M
4C076FF31
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA44
4C084DB35
4C084MA17
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA12
4C084ZA16
4C084ZA66
4C084ZC03
4C084ZC35
(57)【要約】
本発明は、非プロトン性極性溶媒系に治療剤(活性成分)を溶解させることによって保存安定性持続放出治療製剤を調製するための非プロトン性極性溶媒およびイオン化安定化剤の使用に関するものであり、該製剤はその後、様々な身体状態または障害、特に低血糖症に罹っているまたは罹りやすい患者に投与され得る。特定の態様において、本発明は、1つまたは複数の治療剤を含む製剤、ならびにそのような製剤を作製する方法に関するものであり、該製剤は、治療剤に物理的および化学的安定性を付与するのに十分な、および製剤を投与された動物の血流への治療剤の持続的放出をもたらす製剤を製造するのに十分な濃度で、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤(適切には、無機酸)と少なくとも1つの持続放出調整剤(適切には、二価カチオン供与化合物、例えば、亜鉛塩および/またはポリマー、例えばPLGA)とを含む非プロトン性極性溶媒、例えばDMSO、中に溶解された、少なくとも1つの治療剤を含む。本発明はまた、そのような保存安定性持続放出治療製剤を製造する方法ならびにそのような保存安定性持続放出治療製剤を患者に投与することにより特定の身体的状態および障害、特に低血糖症を処置、予防、および診断する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの治療剤と、
(b)少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と、
(c)少なくとも1つの持続放出調整剤と、
(d)非プロトン性極性溶媒と
を含む、持続放出治療製剤であって、
該製剤は、25℃で少なくとも6か月間、保存安定性があり、かつ該製剤は、患者に投与された場合に、同じ治療剤を含む即時放出製剤と比較して長い期間にわたって患者の血液中での治療レベルの治療剤の存在をもたらす、
持続放出治療製剤。
【請求項2】
治療剤がペプチドである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
ペプチドが、グルカゴンペプチド、グルカゴンアナログ、グルカゴン模倣物、またはそれらの塩である、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
イオン化安定化賦形剤が無機酸である、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
無機酸が、塩酸、硫酸、硝酸、およびリン酸からなる群より選択される、請求項4記載の製剤。
【請求項6】
持続放出調整剤が二価カチオン供与化合物である、請求項1記載の製剤。
【請求項7】
二価カチオン供与化合物が亜鉛含有化合物である、請求項6記載の製剤。
【請求項8】
亜鉛含有化合物が亜鉛塩である、請求項7記載の製剤。
【請求項9】
亜鉛塩が、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛からなる群より選択される、請求項8記載の製剤。
【請求項10】
亜鉛塩が硫酸亜鉛である、請求項8記載の製剤。
【請求項11】
非プロトン性極性溶媒がDMSOである、請求項1記載の製剤。
【請求項12】
治療剤がグルカゴンであり、イオン化安定化賦形剤が無機酸であり、持続放出調整剤が亜鉛塩であり、かつ非プロトン性溶媒がDMSOである、請求項1記載の製剤。
【請求項13】
その必要がある対象に、有効量の請求項1記載の製剤を導入することにより、低血糖症を処置または予防する方法。
【請求項14】
前記製剤が、非経口投与を通じて対象に導入される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
非経口投与が、注射または注入を通じて行なわれる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
注射が、皮下、皮内、または筋内注射である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
注入が静脈内である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
注入が、ポンプ注入により達成される、請求項15記載の方法。
【請求項19】
ポンプ注入が、連続もしくはボーラスポンプ注入、またはそれらの組み合わせを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
保存安定性持続放出治療製剤を製造する方法であって、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と、少なくとも1つの持続放出調整剤と、非プロトン性極性溶媒と、少なくとも1つの治療剤とを混合する工程を含み、それによって、患者に投与された場合に、同じ治療剤を含む即時放出製剤と比較して長い期間にわたって患者の血液中での治療レベルの治療剤の存在をもたらす保存安定性治療製剤を形成する、方法。
【請求項21】
治療剤がペプチドである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ペプチドが、グルカゴンペプチド、グルカゴンアナログ、グルカゴン模倣物、またはそれらの塩である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
イオン化安定化賦形剤が無機酸である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
無機酸が、塩酸、硫酸、硝酸、およびリン酸からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
持続放出調整剤が二価カチオン供与化合物である、請求項20記載の方法。
【請求項26】
二価カチオン供与化合物が亜鉛含有化合物である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
亜鉛含有化合物が亜鉛塩である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
亜鉛塩が、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
亜鉛塩が硫酸亜鉛である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
非プロトン性極性溶媒がDMSOである、請求項20記載の方法。
【請求項31】
治療剤がグルカゴンであり、イオン化安定化賦形剤が無機酸であり、持続放出調整剤が亜鉛塩であり、かつ非プロトン性溶媒がDMSOである、請求項20記載の方法。
【請求項32】
疾患または障害に罹っているまたは罹りやすい患者に、有効量の請求項1記載の製剤を、診断検査に付属するものとして導入することと、該患者に対して診断検査を行うこととにより、ヒト患者において疾患または身体的障害を診断する方法。
【請求項33】
治療剤がペプチドである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
ペプチドが、グルカゴンペプチド、グルカゴンアナログ、グルカゴン模倣物、またはそれらの塩である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
イオン化安定化賦形剤が無機酸である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
持続放出調整剤が二価カチオン供与化合物である、請求項32記載の方法。
【請求項37】
二価カチオン供与化合物が亜鉛含有化合物である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
亜鉛含有化合物が亜鉛塩である、請求項32記載の方法。
【請求項39】
亜鉛塩が、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛からなる群より選択される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
亜鉛塩が硫酸亜鉛である、請求項38記載の方法。
【請求項41】
非プロトン性極性溶媒がDMSOである、請求項32記載の方法。
【請求項42】
治療剤がグルカゴンであり、イオン化安定化賦形剤が無機酸であり、持続放出調整剤が亜鉛塩であり、かつ非プロトン性溶媒がDMSOである、請求項32記載の方法。
【請求項43】
患者が、アルツハイマー病に罹っているまたは罹りやすい、請求項32記載の方法。
【請求項44】
患者が、成長ホルモン欠乏症に罹っているまたは罹りやすい、請求項32記載の方法。
【請求項45】
患者が、胃腸障害に罹っているまたは罹りやすい、請求項32記載の方法。
【請求項46】
診断検査が、患者の胃腸管の放射線検査である、請求項32記載の方法。
【請求項47】
前記製剤が、患者へと静脈内、筋内、または皮内に導入される、請求項32記載の方法。
【請求項48】
ペプチドの持続放出製剤の調製における使用に適した少なくとも1つのポリマーをさらに含む、請求項1記載の製剤。
【請求項49】
ポリマーがPLGAである、請求項48記載の製剤。
【請求項50】
PLGAが、エステル末端化PLGAまたは酸末端化PLGAである、請求項49記載の製剤。
【請求項51】
前記製剤を投与した動物の血流への前記製剤からの前記ペプチドの完全な放出を、7~14日の期間内に提供する、請求項48記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照および参照による組み入れ
本願は、2020年6月26日に出願された米国仮出願番号63/044,973の恩典を主張し、その開示の全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
A. 発明の分野
本発明は、医学および薬学の分野におけるものである。特定の態様は、概して、哺乳類、特にヒトにおける疾患、障害、および医学的状態を処置、予防、および/または診断する上で治療製剤として使用され得る、1つまたは複数の活性な薬学的成分を含む、増強された保存安定性を有する持続放出治療用非プロトン性溶媒製剤に関する。特に、本発明は、非プロトン性極性溶媒系に、治療剤(活性な薬学的成分)、少なくとも1つのイオン化安定化剤、および少なくとも1つの持続放出調整剤を溶解することにより、安定な持続放出治療製剤を調製するための、非プロトン性極性溶媒および少なくとも1つの安定化剤の使用に関するものであり、該製剤はその後、該製剤の投与のための様々なデバイスと共に使用され得る。本発明はまた、そのような安定な持続放出製剤の調製方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
B. 関連技術分野の説明
低血糖症、または低血糖は、糖尿病を有する人々にとって重大な懸念事項である。健常な個体において、グルカゴン放出は、インスリン誘導低血糖症に対する身体の一次防御である。グルカゴンは、健常な個体において、グリコーゲン分解および糖新生を刺激することにより、グルコース代謝に対するインスリンの作用との釣り合いをとり、血糖を正常血糖範囲内で維持する。
【0004】
インスリンに対する一次対抗調節ホルモンとして、グルカゴンは、糖尿病患者における重度の低血糖症の最前線処置として治療的に使用される。しかし、このグルカゴンの使用は、水中での乏しい溶解性および安定性、それによる低血糖症患者への投与前の時間のかかる再構成および調製工程により制限されている。
【0005】
Gvoke(登録商標)(グルカゴン注射液)(Xeris Pharmaceuticals, Chicago, IL)は、2歳以上の小児および成人糖尿病患者における重度の低血糖症の処置について承認された最初の即時使用可能、室温、液体の安定なグルカゴンである(1、2)。この商用のFDA承認組成物は、非プロトン性極性溶媒系(ジメチルスルホキシド(DMSO))中に治療レベルのグルカゴンを含み、重度の低血糖症に罹っているまたは罹りやすい患者におけるその処置および予防に適した保存安定性即時放出救済製剤を提供する。
【0006】
非プロトン性極性溶媒系(例えば、DMSOベースの溶媒系)中で調製された非経口製剤、例えばGvoke(グルカゴン注射液)は、水を通じた分解経路が存在しないことにより、改善された薬物分子安定性という利益を提供する。加水分解、脱アミド化およびアスパラギン酸異性化を含むこれらの経路は、水ベースの製剤中でのペプチドおよびタンパク質の不安定性の大きな原因であることが知られている。さらに、加水分解はまた、低分子薬の化学的不安定性を促進することも知られている。以前の研究は、他の治療用ペプチドおよび低分子のそのような製剤の、同じ活性な薬学的成分を含む水溶液に対する改善された安定性を示した(例えば、その開示の全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第9,339,545号(特許文献1)および米国特許第10,485,850号(特許文献2)を参照のこと)。
【0007】
液体の安定なグルカゴンが利用可能となれば、重度低血糖症の救済以外でのグルカゴンの使用の可能性が生じる。特に、低用量の持続放出(SR)グルカゴン製剤は、無自覚性低血糖症、夜間低血糖症、運動誘発性低血糖症および先天性高インスリン血症等の症状に対して利用可能な処置オプションを拡大し得る。そのような状態に対して、患者は多くの場合、ひどい低血糖イベントを回避するために、炭水化物経口摂取という現行の処置を複数回繰り返しているが、それは急激な高血糖症を引き起こす可能性がある。安定なSRグルカゴン製剤を用いる処置は、低血糖症を予防および処置する上でより的確な治療オプションを提供し得、それによって追加のカロリー消費およびそれにより引き起こされる高血糖症を回避し得(例えば、Haymond, M. et al., Diabetes Care 39: 466-468 (2016)(非特許文献1)を参照のこと)、治療範囲を超えるグルカゴンレベルに付随する任意の潜在的な症状(例えば、吐き気、高血糖症)を最小限に抑えるのを助け得る。他の治療用ペプチドおよび低分子の安定なSR製剤の開発も同様に、そのような製剤の投与によって適切に処置および/または予防される様々な他の障害および状態に罹っているまたは罹りやすい患者に対してより柔軟なオプションを提供し得る。
【0008】
したがって、非プロトン性極性溶媒系により提供される安定性および溶解性を合わせ持ちつつ、持続放出治療製剤により提供される柔軟性および増強された生理学的管理も提供する製剤プラットフォームに対する要望が依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,339,545号
【特許文献2】米国特許第10,485,850号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Haymond, M. et al., Diabetes Care 39: 466-468 (2016)
【発明の概要】
【0011】
発明の簡単な概要
本明細書に記載される態様は、1つまたは複数の治療的に活性な成分(例えば、1つまたは複数の活性な薬学的成分)、適切には治療用ペプチドまたは低分子を含む、保存安定性持続放出(SR)組成物(製剤)を提供する。他の態様において、本発明は、そのような保存安定性SR治療製剤を作製する方法を提供する。さらなる態様において、本発明は、特定の疾患、身体的障害または状態を、そのような疾患、身体的障害または状態に罹っているまたは罹りやすい脊椎動物およびヒトを含む動物において処置、予防、および/または診断する方法において本発明の保存安定性SR治療製剤を使用する方法を提供する。
【0012】
特定の例示的な態様において、本発明は、低血糖症、特に重度の低血糖症を処置および予防する上で有用であり、また特定の診断手順に付属するものとしても有用である、保存安定性SRグルカゴン製剤を提供する。そのような製剤は、水性グルカゴンを用いる際の安定性および溶解性の課題に対処するために、現時点で市販されている即時放出グルカゴン救済製品(Gvoke(登録商標);Xeris Pharmaceuticals, Chicago, IL)と同じ非水性製剤化技術を利用する。しかし、本発明において、SRグルカゴン製剤は、薬品の安定性を維持しつつグルカゴンの水溶性を低下させるために1つまたは複数のカチオン供与化合物、適切には二価亜鉛含有化合物、例えば亜鉛塩を含む溶液中でグルカゴンをさらに安定化させることにより製造されている。そのような本発明の保存安定性SRグルカゴン製剤は、注射前に、透明、即時使用可能な、非水性溶液である。皮下投与の場合、亜鉛安定化グルカゴンは、生理学的条件下での乏しい溶解性のためにデポー(depot)を形成し、血流へのグルカゴンの漸次的放出を促進する。
【0013】
したがって、特定の態様において、本発明は、(a)少なくとも1つの治療剤と、(b)少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と、(c)少なくとも1つの持続放出調整剤と、(d)非プロトン性極性溶媒とを含む、持続放出治療製剤であって、特に、該製剤は、大気温度(例えば、20℃~25℃)で少なくとも6か月間、保存安定性があり、患者に投与された場合に、同じ治療剤を含む即時放出製剤と比較して長い期間にわたって患者の血液中での治療レベルの治療剤の存在をもたらす、持続放出治療製剤を提供する。特定のそのような態様において、治療剤はペプチドである。本発明の保存安定性SR製剤において適切に使用されるペプチドは、グルカゴンペプチド、グルカゴンアナログ、グルカゴン模倣物、またはそれらの塩を含むがこれらに限定されない。他の態様において、治療剤は低分子であり、低分子は任意の低分子治療剤、特にヒトおよび他の動物において生理学的pH下で負に荷電するものを含み得る。そのような低分子治療剤の例は、レボチロキシン、スマトリプタン、ケトロラクおよびオンダンセトロンを含むがこれらに限定されない。
【0014】
少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤は、治療剤のイオン化を安定化させる量で非プロトン性溶媒に溶解され得る。特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は、0.01 mM~200 mM未満の濃度である。イオン化安定化賦形剤は、無機酸であり得るがこれに限定されない。特定の態様において、無機酸は、塩酸、硫酸、硝酸、およびリン酸から選択され得る。イオン化安定化賦形剤はまた、有機酸(カルボン酸-COOH官能基を有する酸)であり得る。有機酸の非限定的な例は、酢酸、クエン酸およびアミノ酸を含む。特定の局面において、非プロトン性溶媒はDMSOである。特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は無機酸であり、非プロトン性溶媒はDMSOである。
【0015】
特定の態様において、持続放出調整剤は、二価カチオン供与化合物、特に亜鉛含有化合物、例えば亜鉛塩である。本発明のそのような局面における使用に適した亜鉛塩は、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛を含むがこれらに限定されない。
【0016】
特定の態様において、本発明は、治療剤がグルカゴンであり、イオン化安定化賦形剤が無機酸であり、持続放出調整剤が亜鉛塩であり、非プロトン性溶媒がDMSOである、保存安定性SR製剤を提供する。
【0017】
他の態様において、本発明は、疾患、身体的状態または障害を、そのような疾患、身体的状態または状態に罹っているまたは罹りやすい患者、例えば脊椎動物またはヒトにおいて処置、改善または予防する方法を提供する。本発明の特定の局面に従う適切なそのような方法は、その必要がある患者に、有効量の本発明の保存安定性SR製剤を、患者の血流への製剤からの治療化合物の持続的放出を促進するのに適した様式で導入する工程を含む。特定のそのような態様において、製剤は、非経口投与を通じて、例えば注射(皮下、皮内もしくは筋内注射であり得る)または注入(静脈内であり得るもしくはポンプ注入により、例えば連続もしくはボーラスポンプ注入により、もしくはそれらの組み合わせにより達成され得る)を通じて対象に導入される。特定の局面において、本発明は、本発明の保存安定性SRグルカゴン製剤をヒトに投与することにより、ヒトにおいて低血糖症を処置または予防する方法を提供する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、保存安定性持続放出治療製剤を製造する方法であって、該方法は、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と、少なくとも1つの持続放出調整剤と、非プロトン性極性溶媒と、少なくとも1つの治療剤とを混合する工程を含み、それによって、患者に投与された場合に、同じ治療剤を含む即時放出製剤と比較して長い期間にわたって患者の血液中での治療レベルの治療剤の存在をもたらす保存安定性治療製剤を形成する、方法を提供する。適切なそのような局面において、治療剤はペプチド、特にグルカゴンペプチド、グルカゴンアナログ、グルカゴン模倣物、またはそれらの塩であり、非プロトン性溶媒はDMSOまたは脱酸素化DMSOであり、イオン化安定化賦形剤は無機酸であり、持続放出調整剤はカチオン含有化合物、適切には亜鉛含有化合物、例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛、および酢酸亜鉛を含むがこれらに限定されない亜鉛塩である。
【0019】
さらなる局面において、本発明は、疾患または障害に罹っているもしくは罹りやすいまたは罹っているもしくは罹りやすいと疑われる患者に、有効量の本発明の保存安定性SR製剤の1つを、診断検査に付属するものとして導入することと、該患者に対して診断検査を行うこととにより、ヒト患者において疾患または身体的障害を診断する方法を提供する。本発明のこの局面において有用な適切な製剤は、本明細書の他所に記載されるもの、特に本発明の保存安定性SRグルカゴン製剤を含む。そのような診断方法は、アルツハイマー病、成長ホルモン欠乏症および胃腸障害を含むがこれらに限定されない様々な疾患、身体的障害および身体的状態を診断するために使用され得る。この方法が胃腸障害の診断に使用される局面において、診断試験は、適切には、患者の胃腸管の放射線検査である。これらの本発明の診断方法を実施する上で、保存安定性SR治療製剤は、患者へと、任意の非経口経路により、特に経口で、胃内に、静脈内に、筋内に、または皮内に導入され得る。
【0020】
本発明の保存安定性SR治療製剤を製造するために、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤が、治療剤のイオン化を安定化させるのに十分な量で非プロトン性溶媒中に溶解され得る。適切なそのようなイオン化安定化賦形剤(無機酸を含むがこれに限定されない)、および本発明の製剤に含める所望の濃度は、本明細書に上記されているものを含む。
【0021】
本発明の保存安定性SR治療製剤を製造するために、少なくとも1つの持続放出調整剤が、製剤が動物に導入された場合に、動物、例えば脊椎動物またはヒトの血流への治療化合物の放出動態を、持続放出調整剤を含まない同じ治療化合物の即時放出製剤の放出動態と比較して長期化させるのに十分な量で非プロトン性溶媒中に溶解され得る。特定の局面において、持続放出調整剤は、約0.1 mM~約100 mM、適切には約0.5 mM~約50 mM、および約1 mM~約25 mMの濃度である。持続放出調整剤は、二価カチオン供与化合物、例えば、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、および酢酸亜鉛を含むがこれらに限定されない二価亜鉛含有化合物であり得るがこれに限定されない。特定の態様において特に好ましいのは、硫酸亜鉛および塩化亜鉛である。特定の局面において、持続放出調整剤は、亜鉛塩、例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛または酢酸亜鉛であり、非プロトン性溶媒はDMSOである。
【0022】
製剤はさらに、10、5または3% w/v未満の防腐剤を含み得る。特定の局面において、防腐剤はベンジルアルコールである。
【0023】
製剤はさらに、10、5または3% w/v未満の1つまたは複数の二糖を含み得る。特定のそのような局面において、二糖は、約5.5% w/vのトレハロース二水和物である。
【0024】
製剤はさらに、10、5または3% w/v未満の1つまたは複数の糖アルコールを含み得る。特定のそのような局面において、糖アルコールは、約2.9%(w/v)のマンニトールである。
【0025】
特定の態様において、製剤は、約10℃またはそれ未満、例えば、約10℃、約5℃、約0℃、または約0℃未満、例えば、-20℃未満、または-50℃~-70℃の間の凝固点を有し得る。
【0026】
特定の態様において、製剤は、治療用ペプチドまたは低分子を治療有効量で含む。特定のそのような局面において、製剤は、約0.5 mg/mL~約20 mg/mL、適切には約0.5 mg/mL、約1 mg/mL、約2 mg/mL、約2.5 mg/mL、約5 mg/mL、約10 mg/mL、約15 mg/mL、または約20 mg/mLの濃度(w/w)でグルカゴンを含む。他の局面において、亜鉛イオンおよびグルカゴンの濃度は、約1:1~約20:1の、製剤中の亜鉛:グルカゴンの比、適切には約1:1、約2:1、約4:1、約5:1、約8:1、約10:1、約12:1、約15:1、約16:1または約20:1の、製剤中の亜鉛:グルカゴンの比を提供するよう調節される。
【0027】
特定の態様は、その必要がある対象に、有効量の本明細書に記載される製剤を投与することにより、低血糖症を処置する方法に関する。特定の局面において、製剤は注入により投与される。特定の局面において、投与は、注入用セットと直列に接続され得るポンプを通じた注入による。注入は、連続および/またはボーラスポンプ注入であり得る。
【0028】
特定の態様は、持続放出治療剤を安定的に製剤化する方法に関する。例示的なそのような方法は、(a)少なくとも1つの治療剤と、(b)少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と、(c)少なくとも1つの持続放出調整剤と、(d)非プロトン性溶媒とを混合する工程を含み、結果として、即時使用可能溶液中の治療用ペプチドまたは低分子の保存安定性SR製剤をもたらす。
【0029】
理論に縛られることを望まないが、持続放出調整剤、特に二価カチオン(例えば、Zn++イオンを供与することができる亜鉛含有化合物)は、ペプチド治療剤上の1つまたは複数のアスパラギン酸および/またはヒスチジン残基と配位錯体を形成し得、それによってアミロイド様フィブリル(治療用ペプチドの溶液の不安定さの象徴)の形成を防止し得ると考えられる。水中での亜鉛-ペプチド錯体の比較的低い溶解度は、動物(例えば、脊椎動物またはヒト)に投与された場合に、錯体からのペプチドの持続放出をもたらし、それによって非錯体化(即時放出)ペプチド製剤よりも長期化した放出動態での注射部位から血流へのペプチドの放出をもたらすと理論づけられる(例えば、Trading, F. et al., Eur. J. Pharmacol. 7:206-210 (1969)を参照のこと)。したがって、本明細書に記載される製剤化アプローチは、グルカゴン(およびそのアナログ、GLP-1、GLP-2、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、ロイプロリド、ヒルジン、インスリン、プラムリンタイド、エキセンジン、エキセナチド、胃抑制ペプチド、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、アミリン、アドレノメデュリン、アンジオテンシン等を含むがこれらに限定されない様々なアスパラギン酸および/またはヒスチジン含有治療用ペプチドの保存安定性SR製剤の調製において特に有用であると考えられる。当業者は、本発明の製剤を調製する際に適切に使用され得る1つまたは複数のアスパラギン酸および/またはヒスチジン残基を含む他のペプチドを容易に決定することができる。
【0030】
治療用分子は、典型的には、非プロトン性極性溶媒系に溶解される場合、長期化した安定性を示すために最適なまたは有益なイオン化プロファイルを必要とする。非プロトン性極性溶媒系に溶解された治療用分子の有益なイオン化プロファイルの維持は、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤を使用することにより達成され得る。特定の局面において、治療用分子は、非プロトン性極性溶媒系中での再構成の前に事前に緩衝化水溶液から乾燥されることを必要としない。既存の(例えば、市販の)デバイスを使用する能力および治療用分子(例えば、ペプチド)を緩衝化水溶液から乾燥する必要性を回避する能力は、様々な製品開発段階を通して膨大な時間および費用を節約することができる。
【0031】
非水性非プロトン性極性溶媒(例えば、DMSO)に可溶化された治療剤の安定な溶液は、イオン化安定化賦形剤として機能する特定量の化合物または化合物の組み合わせを添加することにより調製され得る。理論に縛られることを望まないが、イオン化安定化賦形剤は、治療用分子が非プロトン性極性溶媒系において改善された物理的および化学的安定性を示すイオン化プロファイルを有するよう、治療用分子上のイオノゲン基をプロトン化し得る非プロトン性極性溶媒系中のプロトン源(例えば、治療用分子にプロトンを供与し得る分子)として作用し得ると考えられる。あるいは、イオン化安定化賦形剤は、治療用分子が非プロトン性極性溶媒系において改善された物理的および化学的安定性を示すイオン化プロファイルを有するよう、プロトンシンク(例えば、治療用分子からプロトンを受け取り得る/除去し得る分子または部分)として作用し得る。
【0032】
特定の態様は、少なくとも0.01、0.1、0.5、1、10もしくは50 mMから、10、50、75、100、500、1000 mM、多くとも0.01、0.1、0.5、1、10もしくは50 mMから、10、50、75、100、500、1000 mM、または約0.01、0.1、0.5、1、10もしくは50 mMから、10、50、75、100、500、1000 mM、または最大で非プロトン性極性溶媒系におけるイオン化安定化賦形剤の溶解限度までの濃度のイオン化安定化賦形剤を含む製剤に関する。特定の局面において、イオン化安定化賦形剤の濃度は、約0.1 mM~約100 mM、特に約1 mM~約10 mM、例えば、約1 mM、約2 mM、約3 mM、約4 mM、約5 mM、約6 mM、約7 mM、約8 mM、約9 mMおよび約10 mMである。特定の態様において、イオン化安定化賦形剤は、適切な無機酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等であり得る。特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は、有機酸、例えば、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸もしくはアミノ酸誘導体の塩であり得る(例としては、グリシン、トリメチルグリシン(ベタイン)、グリシン塩酸塩、およびトリメチルグリシン(ベタイン)塩酸塩が挙げられる)。さらなる局面において、アミノ酸は、グリシンまたはアミノ酸誘導体トリメチルグリシンであり得る。特定の局面において、ペプチドは、150、100、75、50または25アミノ酸未満である。さらなる局面において、非プロトン性溶媒系は、DMSOを含む。非プロトン性溶媒は、脱酸素化され得る、例えば脱酸素化DMSOであり得る。特定の態様において、製剤は、最初にイオン化安定化賦形剤を非プロトン性極性溶媒系に添加し、その後に治療用分子を添加することにより調製され得る。あるいは、治療用分子が最初に非プロトン性極性溶媒系に可溶化され、その後にイオン化安定化賦形剤が添加され得る。さらなる局面において、イオン化安定化賦形剤および治療用分子は、非プロトン性極性溶媒系に同時に可溶化され得る。特定の局面において、治療剤は、グルカゴン、グルカゴンアナログ、またはそれらの塩である。
【0033】
本発明の他の態様は、(a)非プロトン性極性溶媒系中での標的治療剤(例えば、ペプチドまたは低分子)の安定化イオン化プロファイルを達成するのに必要とされる適切なイオン化安定化賦形剤(例えば、プロトン濃度)を計算または決定する工程、(b)少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤を非プロトン性極性溶媒系と混合して、(a)で決定されたイオン化プロファイルを提供する適切なイオン化環境を得る工程、ならびに(c)治療剤を物理的および化学的に安定化させるために、適切な環境を有する非プロトン性溶媒に持続放出調整剤および標的治療剤を可溶化させる工程を含む、治療剤(例えば、ペプチドまたは低分子)を安定的に製剤化する方法に関する。特定の非限定的な局面において、治療剤は、室温、冷蔵温度(例えば、約2℃~約10℃または約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃もしくは約10℃)、またはゼロ度以下の温度(例えば、約-4℃~約-80℃、または約-4℃、約-10℃、約-15℃、約-20℃、約-25℃、約-40℃、約-45℃、約-50℃、約-60℃、約-70℃もしくは約-80℃)で、少なくともまたは約0.25、0.5、1、2、3、4または5年間、より好ましくは約0.25~約2年間、化学的または物理的に安定である。特定の局面において、非プロトン性極性溶媒系への治療剤の溶解ならびにイオン化安定化賦形剤および持続放出調整剤の添加は、任意の順でまたは同時に行われ得、したがってイオン化安定化賦形剤および持続放出調整剤が最初に混合され、その後に治療剤が溶解され得る、または治療剤が最初に溶解され、その後すぐに(例えば、約5分以内に)イオン化安定化賦形剤および持続放出調整剤が溶液に添加され得る、またはイオン化安定化賦形剤、持続放出調整剤、および/もしくは治療剤が非プロトン性極性溶媒系に同時に添加もしくは溶解され得る。いくつかの態様において、イオン化安定化賦形剤の添加は、非プロトン性極性溶媒系への溶解を促進するよう治療剤および/または持続放出調整剤の添加前に行われ得る。1つまたは複数のさらなる製剤の構成要素(例えば、防腐剤、界面活性剤、多糖、糖アルコール等)は、治療剤の添加の前または後のいずれかに製剤に投入され得る。さらなる局面において、構成要素(例えば、治療剤またはイオン化安定化賦形剤)の全量が特定の時点で混合される必要はない、すなわち、1つまたは複数の構成要素の一部分が最初に、2番目にまたは同時に混合され、別の部分が別の時点で、最初に、2番目にまたは同時に混合され得る。溶液に添加される治療剤および/またはイオン化安定化賦形剤の濃度は、その間のすべての値および範囲を含む、0.01、0.1、1、10、100、1000 mM、または最大でその溶解限度の間であり得る。特定の局面において、非プロトン性極性溶媒系は、脱酸素化される。さらなる局面において、溶媒系中の非プロトン性極性溶媒は、DMSOまたは脱酸素化DMSOを含む、それから本質的になる、またはそれからなる。
【0034】
本発明のさらなる局面において、状態、疾患、障害等を処置または予防する方法であって、その状態、疾患、障害等を処置または予防するのに有効な量の本発明の製剤を、その必要がある対象に投与する工程を含む方法が開示される。任意の適切な用量の治療剤(例えば、タンパク質、ペプチド、または低分子)が、本発明の方法で投与され得る。投与される用量は、当然、既知の要因、例えば、個々の化合物、塩もしくは組み合わせの薬力学的特徴、対象の年齢、健康もしくは体重、症状の性質および程度、薬物および患者の代謝的特徴、同時処置の種類、処置の頻度、または望まれる効果に依存して異なり得る。特定の局面において、有効量のグルカゴンを含む本明細書に記載される製剤を投与することにより、低血糖症が処置され得る。
【0035】
本明細書に記載される安定なSR製剤は、水性環境下で限定的なまたは乏しい安定性または溶解性を有する任意の治療剤(タンパク質、ペプチド、および/または低分子)の非経口注射に有用である。特定の局面において、本明細書に記載される製剤は、注射可能な製剤として提供される。注射可能な製剤は、患者の表皮、皮膚、皮下または筋内層に投与され得る。特定の局面において、製剤は、皮内投与される。
【0036】
したがって、いくつかの態様において、治療剤もしくはペプチドまたはそれらの塩は、グルカゴン、プラムリンタイド、インスリン、イカチバント、ロイプロリド、LHRHアゴニスト、副甲状腺ホルモン(PTH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、ヒルジン、アミリン、ボツリヌストキシン、ヘマタイド、アミロイドペプチド、コレシストキニン、コノトキシン、胃抑制ペプチド、抗体(モノクローナルもしくはポリクローナルであり得る)またはそのフラグメント、免疫原性ペプチド(例えば、ウイルス、細菌、または任意の原核もしくは真核生物もしくはその細胞由来のペプチドまたはペプチド複合体)、インスリン様成長因子、成長ホルモン放出因子、抗菌因子、グラチラマー、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-1アゴニスト、エキセナチド、そのアナログ、およびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ペプチドは、グルカゴンまたはグルカゴンアナログもしくはグルカゴンペプチド模倣体である。別の態様において、ペプチドは副甲状腺ホルモンである。別の態様において、ペプチドはACTHである。さらに別の態様において、ペプチドはロイプロリドである。さらに別の態様において、ペプチドはグラチラマーである。さらに別の態様において、ペプチドはイカチバントである。さらに別の態様において、第1のペプチドはプラムリンタイドであり、第2のペプチドはインスリンである。さらに別の態様において、第1のペプチドはグルカゴンであり、第2のペプチドはエキセナチドである。他の態様において、本発明に従い使用される安定な製剤は、本明細書に記載されるタイプの化合物、例えば、少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つの低分子、およびそれらの組み合わせ、の共製剤または混合物を含む。
【0037】
定義
「容器」、「リザーバ」、「注入用セット」、「ポンプ」、「製剤流路」、「流体流路」等の用語は、言い換え可能および等価であると解釈されるべきであり、これらの構成要素は、その構成要素およびそれらの表面と相互作用する可能性のある投与または保管される製剤と直接接触する。これらの用語は、保管(例えば、ポンプリザーバ)および送達(例えば、ポンプおよびポンプに直列に接続された場合の注入用セット内の流体流路)の間に製剤が接触し得る任意かつすべての構成要素を暗示している。「注入用セット」という用語は、本明細書で使用される場合、内蔵されている注入用セット(すなわち、パッチポンプ内に含まれるそれら)およびポンプをポンプ利用者に接続する、通常ポンプに外付けされる完全チューブシステムの両方を含むと解釈され得る。特定の構成において、外部の注入用セットは、カニューレ(例えば、皮下投与用)、粘着マウント、クイックディスコネクト、およびポンプカートリッジコネクタ(例えば、ルアー型コネクタ)を含む。
【0038】
「製剤」および「組成物」という用語は、本明細書で言い換え可能に使用され得、本明細書で使用される場合、少なくとも2つの構成要素の混合物であって、それらの構成要素のすべて、それらの構成要素のいくつか、またはそれらの構成要素の混合により生じる複合体もしくは反応混合物もしくは反応物を含む調製物を生成するものを表す。
【0039】
「溶解」という用語は、本明細書で使用される場合、気体、固体または液体状態にある物質が、溶媒の、溶解した構成要素である溶質になり、溶媒中の気体、液体または固体の溶液を形成するプロセスを表す。特定の局面において、治療剤または賦形剤、例えばイオン化安定化賦形剤もしくは持続放出調整剤もしくは他の構成要素は、最大でその溶解限度の量で存在する、または完全に可溶化されている。「溶解」という用語は、気体、液体または固体が溶媒中に組み込まれ、溶液を形成することを表す。
【0040】
「エラストマー」という用語は、本明細書で使用される場合、弾性を有する天然または合成ポリマーを表す。「エラストマー」および「ゴム」という用語は、本明細書で言い換え可能に使用され得る。
【0041】
「賦形剤」という用語は、本明細書で使用される場合、安定化、かさ上げの目的で、または最終投薬形態において活性成分に治療的増強を施す、例えば、薬物吸収を促進する、粘性を減少させる、水性もしくは非水性の溶解性を増強するもしくは減少させる、浸透圧を調整する、注射部位の不快感を軽減する、凝固点を下げる、または安定性を増強するために含まれる、医薬の活性または治療用成分と共に製剤化される天然または合成物質(活性成分でない成分)を表す。賦形剤はまた、インビトロ安定性の補助、例えば、予想される貯蔵期間の間の変性または凝集の防止に加えて、製造プロセスにおいても、例えば粉末流動性または非粘着特性を促進することにより、関心対象の活性物質の取り扱いを補助する上で有用であり得る。
【0042】
本発明の文脈における「低分子薬」は、対象に所望の、有益な、および/または薬理学的な効果をもたらし得る生物学的に活性な化合物(およびその塩)である。これらの「低分子薬」は、有機または無機化合物である。したがって、本発明の文脈における低分子薬は、多量体化合物ではない。典型的には、低分子薬は、およそ1000ダルトン未満の分子量を有する。特定の低分子薬は、それらが水の存在下で次第に不安定になるという点で、「水分感受性」である。また、低分子薬と共に使用され得る塩は、当業者に公知であり、無機酸、有機酸、無機塩基、または有機塩基との塩を含む。
【0043】
「治療剤(therapeutic agent)」または「治療剤(therapeutic)」という用語は、タンパク質、ペプチド、低分子薬、およびそれらの薬学的に許容される塩を包含する。有用な塩は、当業者に公知であり、無機酸、有機酸、無機塩基、または有機塩基との塩を含む。本発明において有用な治療剤は、単独であっても他の薬学的賦形剤または不活性成分と組み合わせてであっても、ヒトまたは動物に投与されたときに所望の、有益な、そしてしばしば薬理学的な効果を提供するタンパク質、ペプチド、および低分子化合物である。
【0044】
「ペプチド」および「ペプチド化合物」という用語は、アミド(CONH)または他の連結によって一緒に結合された最大約200アミノ酸残基のアミノ酸またはアミノ酸様(ペプチド模倣物)多量体を表す。特定の局面において、ペプチドは、最大150、100、80、60、40、20、または10アミノ酸であり得る。「タンパク質」および「タンパク質化合物」は、アミド結合によって一緒に結合された200を超えるアミノ酸残基の多量体を表す。本明細書に開示されるペプチドまたはタンパク質化合物のいずれかのアナログ、誘導体、アゴニスト、アンタゴニスト、および薬学的に許容される塩は、これらの用語に含まれる。これらの用語はまた、構造の一部としてD-アミノ酸、修飾、誘導体化、またはDもしくはL構成の天然アミノ酸、および/またはペプチド模倣体の単位を有するペプチド、タンパク質、ペプチド化合物、およびタンパク質化合物を含む。
【0045】
「アナログ(analogue)」および「アナログ(analog)」は、ペプチドまたはタンパク質を参照する場合、そのペプチドもしくはタンパク質の1つもしくは複数のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換されている、またはそのペプチドもしくはタンパク質から1つもしくは複数のアミノ酸残基が欠失している、またはそのペプチドもしくはタンパク質に1つもしくは複数のアミノ酸残基が付加されている、またはそのような修飾の任意の組み合わせである、修飾されたペプチドまたはタンパク質を表す。そのようなアミノ酸残基の付加、欠失、または置換は、そのペプチドもしくはタンパク質のN末端および/またはそのペプチドもしくはタンパク質のC末端を含む、そのペプチドを構成する一次構造に沿った任意の点、または複数の点で起こり得る。
【0046】
親ペプチドまたはタンパク質に関連して、「誘導体」は、化学的に修飾された親ペプチドもしくはタンパク質またはそのアナログであって、その親ペプチドもしくはタンパク質またはそのアナログには少なくとも1つの置換が存在しないものを表す。1つのそのような非限定的な例は、共有結合的に修飾された親ペプチドまたはタンパク質である。典型的な修飾は、アミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステル、ペグ化等である。
【0047】
「単相溶液」は、溶媒または溶媒系(例えば、2つまたはそれ以上の溶媒(例えば、溶媒および共溶媒)の混合物)に溶解された治療剤から調製される溶液であって、その溶液が光学的に透明であると表現できるよう、治療剤が溶媒または溶媒系に完全に溶解しており、粒状物質が視認できないものを表す。単相溶液はまた、「単相系」とも称され得、「二相系」とは、後者が流体中に懸濁化された粒状物質(例えば、粉末)から形成される点で区別される。
【0048】
「阻害」、「減少」、またはこれらの用語の任意のバリエーションは、所望の結果を達成する任意の測定可能な低下または完全な阻害を含む。
【0049】
「有効」もしくは「処置」もしくは「予防」、またはこれらの用語の任意のバリエーションは、所望の、期待される、または意図される結果を達成する上で十分であることを意味する。
【0050】
「化学的安定性」は、治療剤を参照する場合、化学的経路、例えば酸化および/または加水分解および/または断片化および/または他の化学的分解経路により許容可能な比率の分解産物が生じることを表す。特に、本明細書に記載されるタイプの製剤は、その製品の意図された保管温度での少なくとも1年間の保管(例えば、冷蔵保管もしくはゼロ度以下での保管)、または1か月、2か月もしくは好ましくは3か月間の加速条件(25℃/60%相対湿度)下での製品の保管後に約20%以下の分解産物が形成される場合、化学的に安定であるとみなされ得る。いくつかの態様において、化学的に安定な製剤は、その製品の意図された保管温度下での長期間の保管後に形成される30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満の分解産物を有する。
【0051】
「物理的安定性」は、治療剤を参照する場合、許容可能な比率の凝集物(例えば、二量体、三量体およびそれより大きな形態)が形成されることを表す。特に、製剤は、その製品の意図された保管温度での少なくとも1年間の保管(例えば、冷蔵保管もしくはゼロ度以下での保管)、または1か月、2か月および好ましくは少なくとも3か月間の25℃/60%相対湿度下での製品の保管後に約15%以下の凝集物が形成される場合、物理的に安定であるとみなされる。いくつかの態様において、物理的に安定な製剤は、その製品の意図された保管温度下での長期間の保管後に形成される15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満の凝集物を有する。
【0052】
「安定な製剤」は、室温での少なくとも1か月間の保管または冷蔵もしくはゼロ度以下の温度での最大で少なくとも1年間の保管後に治療剤(例えば、ペプチドまたはその塩)の少なくとも約65%が化学的および物理的に安定な状態を維持している製剤を表す。特に好ましい製剤は、これらの保管条件下で少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の化学的および物理的に安定な治療剤が維持されるものである。特に好ましい安定な製剤は、滅菌照射(例えば、ガンマ線、ベータ線、または電子ビーム)後に分解を示さないものである。
【0053】
本明細書で使用される場合、「非経口注射」は、消化管(alimentary canal)以外の経路を通じた治療剤(例えば、ペプチドまたは低分子)の投与 -- 消化管(digestive tract)によらない任意の投与 -- 例えば、静脈内注入、鼻内投与、口腔内投与、経皮投与、または動物、例えばヒトの皮膚もしくは粘膜の1つもしくは複数の層の下でのまたはそれを通じた注射、を表す。標準的な非経口注射は、動物、例えばヒトの皮下、筋内、または皮内組織へと行われる。これらの深い部位は、その組織が、大部分の治療剤、例えば、0.1~3.0 cc(mL)を送達するのに必要とされる注射体積を受容するよう、浅い皮膚部位よりも容易に拡大することから、標的とされる。
【0054】
「皮内」という用語は、表皮、皮膚または皮下の皮膚層への投与を包含する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「非プロトン性極性溶媒」という用語は、酸性水素を含まず、したがって水素結合供与体として作用しない極性溶媒を表す。極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸エチル、n-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、および炭酸プロピレンを含むがこれらに限定されない。
【0056】
本明細書で使用される場合、「非プロトン性極性溶媒系」という用語は、溶媒が単一の非プロトン性極性溶媒(例えば、ニートなDMSO)または2つもしくはそれ以上の非プロトン性極性溶媒の混合物(例えば、DMSOとNMPの混合物)、または少なくとも1つの非プロトン性極性溶媒と別の薬学的に許容される溶媒系の混合物である溶液を表す。さらなる局面において、「非プロトン性極性溶媒系」という用語は、溶媒が、ある量の水分と、例えば水と、約0.1%の水に対する少なくとも約99.9%の非プロトン性溶媒のv/v比から最大で約50%の水に対する少なくとも約50%の非プロトン性溶媒のv/v比で混合された1つまたは複数の非プロトン性極性溶媒である、溶液を表す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「残留水分」は、製造元/供給元による調製後の薬物粉末中の残留水分(典型的には、残留水)を表し得る。典型的な粉末は、多くの場合、最大10%(w/w)の範囲の残留含水量を有する。これらの粉末が非プロトン性極性溶媒系に溶解された場合、粉末中の残留水分は製剤中に組み込まれる。さらに、非プロトン性極性溶媒はまた、一定レベルの残留水分を含み得る。例えば、新たに開封されたボトルのUSP等級のDMSOは、最大0.1%(w/w)の水分を含み得る。残留水分は、水が意図的に、例えば共溶媒として作用するようまたは非プロトン性極性溶媒系の凝固点を低下させるよう製剤に添加される「添加水分」と異なる。水分はまた、イオン化安定化賦形剤の添加時に(例えば、水性ストック溶液からの無機酸(例えば1N HClもしくはH2SO4)の添加を通じて)、または水(例えば、注射用水)の添加を通じて製剤に導入され得る。調製直後の製剤中の総含水量(それ以外のことに言及されていない限り、% v/v)は、残留水分および添加水分の両方からの寄与によるものである。
【0058】
本明細書で使用される場合、「デバイス流路」は、そのデバイスを用いて対象に製剤/溶液/溶媒を投与する間に製剤/溶液/溶媒と接触し得るデバイスの部分を表す。いくつかの局面において、デバイスは、様々な針および/またはチューブを通じて対象に製剤/溶液/溶媒を非経口投与することができるポンプと直列につながれた注入用セットであり得る。他の局面において、デバイスは、患者に直接装着し、ポンプに直列に接続される外部の注入用セットの使用を必要としないパッチポンプであり得る。
【0059】
「約」または「およそ」または「実質的に変化しない」という用語は、当業者に理解されているのと近い意味で定義され、1つの非限定的な態様において、この用語は、10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、最も好ましくは0.5%以内と定義される。さらに、「実質的に非水性」は、重量または体積で5%、4%、3%、2%、1%未満またはそれより少ない水を表す。
【0060】
「薬学的に許容される」成分、賦形剤または構成要素は、合理的な利益/リスク比に見合う、過度の有害な副作用(例えば、毒性、刺激およびアレルギー反応)を生じない、ヒトおよび/または動物において使用するのに適したものである。
【0061】
「薬学的に許容される担体」は、本発明の薬化合物を哺乳類、例えばヒトに送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤、またはビヒクルを意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「イオン化安定化賦形剤」は、治療剤のために特定のイオン化状態を確立および/または維持する賦形剤である。特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は、適切な条件下で少なくとも1つのカチオン、特に少なくとも1つの二価カチオンを供与するまたはカチオン(特に二価カチオン)供与化合物もしくは供与源である、分子であり得る、または分子を含む。
【0063】
本明細書で使用される場合、「無機酸(mineral acid)」は、1つまたは複数の無機化合物に由来する酸である。したがって、無機酸は、「無機酸(inorganic acid)」とも称され得る。無機酸は、単プロトン性または多プロトン性(例えば、二プロトン性、三プロトン性等)であり得る。無機酸の非限定的な例は、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)、およびリン酸(H3PO4)を含む。
【0064】
本明細書で使用される場合、「無機塩基(mineral base)」(同等におよび代替的に「無機塩基(inorganic base)」と称され得る)は、1つまたは複数の無機化合物に由来する塩基である。すべてではないが多くの無機塩基は、通常、「強塩基」に分類され、無機塩基の非限定的な例は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)および水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を含む。
【0065】
本明細書で使用される場合、「有機酸」は、酸性を有する(すなわち、プロトン源として機能し得る)有機化合物である。カルボン酸、例えば酢酸またはクエン酸が、有機酸の1つの例である。有機酸の他の公知の例は、アルコール、チオール、エノール、フェノール、およびスルホン酸を含むがこれらに限定されない。有機酸は、単プロトン性または多プロトン性(例えば、二プロトン性、三プロトン性等)であり得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「有機塩基」は、塩基性を有する(すなわち、プロトン受容体/シンクとして機能し得る)有機化合物である。すべてではないが、多くの有機塩基は、窒素原子を含み(例えば、アミン)、有機塩基の非限定的な例は、アミノ酸(例えば、ヒスチジン、アルギニン、リジン)、ピリジン、イミダゾールおよびトロメタミンを含む。有機塩基は、1分子あたり1つまたは複数のプロトンを受容し得る。
【0067】
「電荷プロファイル」、「電荷状態」、「イオン化」、「イオン化状態」、および「イオン化プロファイル」は、言い換え可能に使用され得、そのペプチドのイオノゲン基のプロトン化および/または脱プロトン化に基づくイオン化状態を表す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「共製剤」は、非プロトン性極性溶媒系に溶解された2つまたはそれ以上の治療剤を含む製剤である。治療剤は、同じクラスに属し得(例えば、2つもしくはそれ以上の治療用ペプチド、例えばインスリンおよびプラムリンタイド、もしくはグルカゴンおよびGLP-1を含む共製剤)、または治療剤は、異なるクラスに属し得る(例えば、1つもしくは複数の治療用低分子および1つもしくは複数の治療用ペプチド分子、例えば、GLP-1およびリソフィリンを含む共製剤)。
【0069】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と組み合わせて使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味も有し得る。
【0070】
「含む(comprising)」(および含む(comprising)の任意の形態、例えば、「含む(comprise)」および「含む(comprises)」)、「有する(having)」(および有する(having)の任意の形態、例えば、「有する(have)」および「有する(has)」)、「含む(including)」(および含む(including)の任意の形態、例えば、「含む(includes)」および「含む(include)」)または「含む(containing)」(および含む(containing)の任意の形態、例えば、「含む(contains)」および「含む(contain)」)は、包括的かつオープンエンド型であり、追加の、言及されていない要素または方法の工程を除外しない。
【0071】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および実施例は、本発明の具体的態様を示しているものの、例示目的で提供されるにすぎないことが理解されるべきである。加えて、この詳細な説明から、本発明の精神および範囲内での変更および改変が当業者に明らかとなるであろうことが企図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書に示される具体的態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、より理解され得る。
【0073】
図1図1A~1Bは、製剤化直後の(すなわち、T=0における)本発明の例示的な製剤の物理的外観の視覚的評価を示す写真である。図1A:製剤A-1;図1B:製剤A-2(製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと)。
図2図2A~2Bは、本発明のSRグルカゴン製剤の安定性を示す一連の写真である。-20℃で6か月間の保存後にサンプルを撮影し、グルカゴン分解(例えば、変色、沈殿、ゲル化、凝集)の証拠について視覚的に試験した。画像は、対照(非SR)グルカゴン製剤に対して、任意の視認可能な変色を示すよう白色を背景に(図2A)、または任意の視認可能な凝集/フィブリル化を示すよう黒色を背景に(図2B)撮影した。図2Aおよび2Bの両方において、サンプルは、左から右に向かって、以下のように並べられている:非SR(対照);製剤A-1;製剤A-2;製剤B-1;製剤B-2;製剤C-1;製剤C-2。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと。
図3図3A~3Bは、本発明のSRグルカゴン製剤の安定性を示す一連の写真である。5℃で6か月間の保存後にサンプルを撮影し、グルカゴン分解(例えば、変色、沈殿、ゲル化、凝集)の証拠について視覚的に試験した。画像は、対照(非SR)グルカゴン製剤に対して、任意の視認可能な変色を示すよう白色を背景に(図3A)、または任意の視認可能な凝集/フィブリル化を示すよう黒色を背景に(図3B)撮影した。図3Aおよび3Bの両方において、サンプルは、左から右に向かって、以下のように並べられている:非SR(対照);製剤A-1;製剤A-2;製剤B-1;製剤B-2;製剤C-1;製剤C-2。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと。
図4図4A~4Bは、本発明のSRグルカゴン製剤の安定性を示す一連の写真である。25℃で6か月間の保存後にサンプルを撮影し、グルカゴン分解(例えば、変色、沈殿、ゲル化、凝集)の証拠について視覚的に試験した。画像は、対照(非SR)グルカゴン製剤に対して、任意の視認可能な変色を示すよう白色を背景に(図4A)、または任意の視認可能な凝集/フィブリル化を示すよう黒色を背景に(図4B)撮影した。図4Aおよび4Bの両方において、サンプルは、左から右に向かって、以下のように並べられている:非SR(対照);製剤A-1;製剤A-2;製剤B-1;製剤B-2;製剤C-1;製剤C-2。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと。
図5図5A~5Bは、本発明のSRグルカゴン製剤の安定性を示す一連の写真である。40℃/75%相対湿度で6か月間の保存後にサンプルを撮影し、グルカゴン分解(例えば、変色、沈殿、ゲル化、凝集)の証拠について視覚的に試験した。画像は、対照(非SR)グルカゴン製剤に対して、任意の視認可能な変色を示すよう白色を背景に(図5A)、または任意の視認可能な凝集/フィブリル化を示すよう黒色を背景に(図5B)撮影した。図5Aおよび5Bの両方において、サンプルは、左から右に向かって、以下のように並べられている:非SR(対照);製剤A-1;製剤A-2;製剤B-1;製剤B-2;製剤C-1;製剤C-2。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと。
図6】即時放出対照グルカゴン製剤と比較した本発明の例示的なSRグルカゴン製剤の対比薬物動態(PK)研究を示す線グラフである。グラフは、ラットPK研究における選択された製剤の平均±SD(n=3)血漿グルカゴンレベルおよび半減期を示している。●:対照(市販の即時放出グルカゴン製剤);▲:SRグルカゴン製剤(製剤A-1;実施例1の表1を参照のこと)。
図7図7A~7Dは、本発明のSRグルカゴン製剤の安定性を示す写真および線グラフ集である。サンプルを、5℃(図7A、7B)または25℃(図7C、7D)のいずれかで12か月間の保存後にRP-UHPLCを通じて純度について評価し、写真撮影した。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例1の表1を参照のこと。
図8図8A~8Bは、即時放出対照グルカゴン製剤と比較した本発明の特定のSRグルカゴン製剤の対比薬物動態(PK)研究を示す1組の線グラフである。グラフは、ラットPK研究における選択された製剤の平均±SD(n=3)血漿グルカゴンレベルおよび半減期を示している。図8A:製剤グループ1~5;図8B:製剤グループ1および6~8。製剤の構成要素については本明細書中以下の実施例2の表3を参照のこと。
図9図9A~9Dは、本発明の長期作用性(「LA」)グルカゴン製剤の安定性を示す線グラフ集である。製剤を、本明細書中以下の実施例3に記載されるように調製し、-20℃(図9A)、5℃(図9B)、25℃(図9C)または40℃(図9D)で3か月間の保存後にRP-UHPLCを通じて純度について評価した。IR:即時放出GVOKE(登録商標)グルカゴン(100 mg/mLグルカゴン、126 mM H2SO4);A:100 mg/mLグルカゴン、126 mM H2SO4、40%エステル末端化PLGA;B:100 mg/mLグルカゴン、126 mM H2SO4、5%(w/v)トレハロース、40%エステル末端化PLGA;C:100 mg/mLグルカゴン、126 mM H2SO4、40%酸末端化PLGA。
図10】即時放出対照グルカゴン製剤と比較した本発明の特定のLAグルカゴン製剤の対比薬物動態(PK)研究を示す線グラフである。グラフは、ラットPK研究における選択された製剤の平均±SD(n=3)血漿グルカゴンレベルおよび半減期を示している。グループ1:即時放出GVOKE(登録商標)グルカゴン製剤;グループ2:Resomer(登録商標)RG502 PLGAグルカゴン製剤;グループ3:Resomer RG502 PLGAおよびイソ酪酸酢酸スクロース(SAIB)グルカゴン製剤;グループ4:ペースト様高濃度Xeriject(商標)グルカゴン製剤(Xeris Pharmaceuticals, Chicago, IL)(それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,110,209号、同第8,790,679号および同第9,314,424号を参照のこと);グループ5:トリアセチンを含むグルカゴン製剤;グループ6:安息香酸ベンジルを含むグルカゴン製剤。
図11図11A~11Bは、本発明の特定のLAグルカゴン製剤のインビトロアッセイシステムにおける対比放出動態を示す1組の線グラフである。グラフは、水性放出媒体中の平均±SD(n=3)グルカゴン量を経時的に示している。図11A:酸性化DMSO中に250 mg/mLグルカゴン、40% Resomer(登録商標)RG502 PLGAを含む製剤;図11B:酸性化DMSO中に100 mg/mLグルカゴン、40% Resomer(登録商標)RG502 PLGA(下線)または酸性化DMSO中に100 mg/mLグルカゴン、40% Resomer(登録商標)RG502H PLGA(上線)を含む製剤。
図12】本発明の特定のLAグルカゴン製剤のインビトロアッセイシステムにおける対比放出動態を示す線グラフである。グラフは、水性放出媒体中の平均±SD(n=3)グルカゴン量を経時的に示している。製剤の構成要素、特にグルカゴン:PLGA比は、グラフの右側に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0074】
発明の詳細な説明
水溶液として調製される場合、標準的な低分子、ペプチド、およびタンパク質分子は、複数の物理的および化学的分解経路の影響を受け得る。これらの治療用分子の多くにとって、水により触媒、媒介および/または促進される分解経路(例えば、加水分解、ラセミ化、脱アミド化)は、回避することができず、その結果、分子は十分に安定化され得ない。したがって、多くの治療剤は、非経口注射用の安定な溶液として調製することができず、代わりに、使用直前に再構成される粉末として調製される。
【0075】
多くの治療用分子が水中で示す物理的および/または化学的不安定性に対処するため、治療剤が生体適合性の非水性液、例えば、非プロトン性極性溶媒(例えば、DMSO)に溶解された製剤が調製され得る。以前の非水性製剤は、少なくとも部分的に、製剤の含水量を制限することで、水を介した分解経路を阻害することにより物理的および化学的安定性を促進するという前提に基づいている。これらの公知の製剤の多くは、その含水量を多くとも10% (w/w)に制限している。
【0076】
多くの共通の分解経路、特に水が関与するそれらを阻害するための非水性治療製剤を調製する上での非プロトン性極性溶媒の使用は、可溶化または溶解された治療用分子の安定性を大きく改善し得る。しかし、当技術分野で開示されている組成物および方法には問題が依然として残されている。特に、非プロトン性極性溶媒への治療用分子の直接溶解は、大部分の治療用分子の安定な組成物を調製する上で適切なアプローチではない。様々な治療剤は、DMSOに直接溶解された場合、例えば5 mg/mLの濃度のグルカゴンは、室温での保管で1日以内に不溶性の凝集物を形成し得る。グルカゴンおよびDMSOのみを含む組成物の場合、5 mg/mLはおよそ0.45%(w/w)のペプチド化合物に対応し、このことは、比較的低い濃度でさえも、非プロトン性極性溶媒系への直接溶解は、それ単独では、治療用分子の物理的凝集および/またはゲル化を防ぐことができないことを示している。さらに、非プロトン性極性溶媒系中で不溶性の凝集物を形成しないかもしれない治療用分子は、それにもかかわらず、非プロトン性極性溶媒系に直接可溶化された場合、化学的分解を受けやすい場合がある。
【0077】
理論に縛られることを望まないが、非プロトン性極性溶媒系において製剤化された場合に増強されたまたは最適な安定性および溶解性を示すために、治療用分子は、特定のイオン化プロファイルを必要とし得ると考えられる。イオン化プロファイルは、治療用分子のイオノゲン基のプロトン化および/または脱プロトン化を通じて獲得される電荷状態である。例えば、治療用ペプチドを構成するイオノゲン性アミノ酸残基(例えば、アルギニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸)のプロトン化は、溶液中の分子に、全体として正の電荷を付与し得る。あるいは、イオノゲン性アミノ酸残基の脱プロトン化は、溶液中の分子に、全体として負の電荷を付与し得る。本明細書で使用される非限定的な例においては、プロトン化された(すなわち、正に荷電した)分子が記載されるが、治療用ペプチド分子内のイオノゲン性アミノ酸残基の脱プロトン化もまた本発明の範囲内であるとみなされる。正に荷電したペプチド分子の間の比較的長距離の静電気的反発は、物理的凝集および/またはゲル化をもたらし得る短距離の疎水性相互作用を阻害し得る。したがって、十分なプロトン化(すなわち、最適なまたは有益なイオン化プロファイル)の非存在下で、非プロトン性極性溶媒系に溶解された治療用分子は、物理的に不安定であり、可溶性および/または不溶性の凝集物を形成し得る。したがって、非プロトン性極性溶媒系中の活性剤に改善された物理的および/または化学的安定性のためのイオン化プロファイルを付与することができるイオン化安定化賦形剤として機能するのに十分な濃度の少なくとも1つの賦形剤を含めることが必要となり得る。溶液に添加されるイオン化安定化賦形剤の適切な濃度は、イオン化安定化賦形剤の化学構造、活性剤の化学構造、薬剤の濃度、使用される溶媒系、共溶媒の存在、ならびに追加の賦形剤または製剤の構成要素の存在およびそれらの各々の濃度を含むがこれらに限定されない様々な要因に依存する。
【0078】
特定の組成物および方法は、治療用分子に最適なイオン化プロファイルを、それらが非プロトン性極性溶媒系に可溶化される前に確立するよう設計される。例えば、供給元/製造元からのペプチド粉末は最初に、緩衝化水溶液に溶解され、その緩衝化水性ペプチド溶液のpHが個々のペプチドに最適な安定性および溶解性のそれに設定される。ペプチドはその後、粉末中でのペプチド分子のイオン化プロファイルが、乾燥される以前の水溶液中のペプチド分子のイオン化プロファイルとほぼ同等となり得るよう、水溶液から(例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥を通じて)乾燥され粉末にされる。その後、そのペプチド粉末が非プロトン性極性溶媒系に可溶化された場合、ペプチド分子のイオン化プロファイルは粉末中のペプチド分子のイオン化プロファイルとほぼ同等となり得る。したがって、非プロトン性極性溶媒系中のペプチド分子のイオン化プロファイルは、緩衝化水溶液中のペプチド分子のイオン化プロファイルとほぼ同等である。
【0079】
非プロトン性極性溶媒に可溶化される前にその分子のイオン化プロファイルを最適化し、pH記憶を与えるために緩衝化水溶液から治療用分子を乾燥する必要性は、多くの場合、製剤製造工程に、時間および金銭の両面で大きな追加コストを課す。特に、乾燥プロセスは、治療用分子に様々な負荷をかけることが周知であり、治療用分子を保護するのに十分な量の追加の賦形剤(例えば、凍結保護剤、例えばトレハロースおよびスクロース、ならびに/または界面活性剤、例えばポリソルベート80)が水溶液中に含まれなければならず、そのため製剤のコストおよび複雑性が増大する。さらに、乾燥プロセス(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥)は、多くの場合、そのプロセスが最初に開発される初期研究開発の間に、研究スケールで、およびその後の、そのプロセスがスケールアップされ商業スケールのバッチを製造することができる機器および設備に移される製造スケールの間に、の両方において、与えられた治療用分子に対して最適化されなければならない。その結果、乾燥プロセスの初期開発および与えられた治療用分子に対する最適化の組み合わせは、該方法の移行および製造プロセスにおける追加工程の組み込みの両方に付随する時間およびコストも加わり、非常に高価となり得る。理論に縛られることを望まないが、治療用分子の適切または最適なイオン化プロファイルを達成するために十分な量の少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤を提供することにより、同じ電荷極性を有する(すなわち、負または正に荷電した)治療用分子の間の静電気的反発は、その規模が、(例えば、凝集をもたらす分子間の短距離の疎水性相互作用を通じた)物理的分解を防ぐのに十分となり得ると考えられる。このことは、特に溶液中の分子の濃度が高くなる場合に、溶液中で凝集する傾向を示す分子にとって特に重要である。さらに、治療剤のイオン化(すなわち、プロトン化または脱プロトン化)の程度を制御および最適化することにより、例えば、過剰なプロトン化は分解反応、例えば酸化(例えば、メチオニン残基の酸化)および断片化(例えば、ペプチド骨格の切断)を通じて化学的不安定化を促進し得るため、化学的分解が最小化され得る。したがって、いくつかの治療用分子に対して、物理的および/または化学的分解反応が最小化されるよう、プロトン化または脱プロトン化を通じて最適または有益なイオン化プロファイルが達成され得る。治療用ペプチドの場合、安定化に必要とされるイオン化(すなわち、プロトン化または脱プロトン化)の程度、したがって溶液中で必要とされるイオン化安定化賦形剤の量は、とりわけ、その一次構造(すなわち、アミノ酸配列)および溶液中のペプチド濃度に依存し得る。
【0080】
イオン化安定化賦形剤として機能する各分子は、与えられた溶媒系内で、治療用分子および/または追加の薬物物質/粉末状構成要素(例えば、塩、対イオン、緩衝分子等)にプロトンを供与する、またはそれらからプロトンを受容する一定の傾向を示し得、プロトンを供与する傾向は、その分子の相対酸性強度として表され得、プロトンを受容する傾向は、その分子の相対塩基性強度として表され得る。非限定的な例として、固定濃度のプロトン供与分子の場合(および、単純化すると、この例において単プロトン性分子のみを想定すると)より高い酸性強度を有する分子は、より弱い酸よりも高い程度に治療用分子をプロトン化し得る。したがって、治療用分子に適したまたは最適なイオン化プロファイルを達成するのに必要とされる、与えられたプロトン供与分子(イオン化安定化賦形剤)の濃度は、その酸性強度に逆比例し得る。本発明のこれらおよび他の非限定的な局面が、本明細書で議論される。
【0081】
本発明の保存安定性SR製剤はまた、製剤中に組み込まれている治療化合物に持続放出(SR)特性を与える化合物である少なくとも1つの持続放出調整剤を含む。「持続放出」は、製剤中に含まれる治療剤が、水性環境下で、例えばSR製剤を投与された動物(ヒトを含む)の体内で、少なくとも1つの持続放出調整剤を含まない同じ治療化合物の即時放出非SR製剤と比較して遅延または長期化した放出動態を示すことを意味する。本発明のそのような局面に従う使用に適した持続放出調整剤の例は、カチオン供与化合物(またはカチオン含有源)であるもの、特に二価カチオン供与性(または二価カチオン含有源)であるものを含む。適切なそのような化合物は、亜鉛の二価塩、例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛、および酢酸亜鉛;マグネシウムの二価塩;マンガンの二価塩;カルシウムの二価塩;鉄の二価塩;銅の二価塩;ならびにアルミニウムの二価塩を含む、特定の金属の塩を含む。本発明のこの局面に従う持続放出調整剤として有用な他の適切な二価塩化合物は、当技術分野で公知であり、当業者に馴染みがあるであろう。そのような二価カチオン化合物は、本発明の保存安定性SR製剤の製造において持続放出調整剤として使用される場合、少なくとも1:1、適切には1:1、2:1、4:1、5:1、8:1、10:1、12:1、15:1、16:1、20:1またはそれより高い塩対治療化合物の比で製剤に含まれる。非限定的な例として、本発明の適切な保存安定性SRグルカゴン製剤は、1:1、2:1、4:1、8:1または16:1の亜鉛:グルカゴンの比で亜鉛塩(例えば、硫酸亜鉛、塩化亜鉛または酢酸亜鉛)を含む。他の適切な持続放出調整剤は、ポリ(D,L-乳酸-コ-グリコール酸)(「PLGA」)、例えばResomer(登録商標)RG502(エステル末端化PLGA)およびResomer RG502H(酸末端化PLGA)を含むEvonik(Parsippany, NJ)から入手可能なもの、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)等を含むがこれらに限定されない1つまたは複数のポリマーを含む。ペプチドの適切なSRおよび長期作用性(「LA」)製剤は、本明細書に記載される製剤において様々な濃度、特に約25%~約50%、約25%~約45%、約25%~約40%、約25%~約35%、および約25%~約30%の1つまたは複数のPLGAを用いて調製され得る。
【0082】
特定の局面において、非プロトン性極性溶媒は、製剤の調製前に脱酸素化され得る。非プロトン性極性溶媒を脱酸素化するまたは非プロトン性極性溶媒から酸素を除去する(例えば、脱気または脱酸素化)ために、多くの異なる技術が本発明の文脈において使用され得る。例えば、脱酸素化は、液体のみにより、液体および他の溶質分子(例えば、ミセル、シクロデキストリン等)により、または他の溶質分子のみにより、のいずれかにより液体非プロトン性極性溶媒に溶解されている酸素を除去し得るが、これらに限定されないことが想定される。脱酸素化技術の非限定的な例は、非プロトン性極性溶媒を減圧下におくことおよび/もしくは液体を加熱して、溶解しているガスの溶解度を下げること、分留、膜脱気、不活性ガスによる置換、還元剤の使用、凍結-脱気-解凍サイクル、またはエアロック付き容器での長期保管を含む。1つの態様において、非プロトン性極性溶媒は、真空脱気により脱酸素化される。別の態様において、非プロトン性極性溶媒は、脱気装置を用いて脱酸素化される。1つの例において、脱気装置は、トレイ型またはカスケード型の脱気装置である。別の例において、脱気装置は、スプレー型脱気装置である。さらに別の態様において、非プロトン性極性溶媒は、気体-液体分離膜を用いて脱酸素化される。1つの例において、非プロトン性極性溶媒は、気体-液体分離膜および減圧を用いて脱気される。1つの態様において、非プロトン性極性溶媒中の酸素を置換または減少させるために、非酸素ガス(例えば、N2)を液体に通気させる。1つの例において、非プロトン性極性溶媒に通気されるガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素、不活性ガス、および/または水素ガス、好ましくは窒素ガスである。別の例において、ガスは、ガスストリップ塔を用いて、非プロトン性極性溶媒に通気させる。さらに別の態様において、非プロトン性極性溶媒は、1つまたは複数の還元剤を用いて脱酸素化される。還元剤の非限定的な例は、亜硫酸アンモニウム、水素ガス、活性脱酸金属、銅、錫、カドミウム、ウッドメタル合金(50%ビスマス、25%鉛、12.5%錫、および12.5%カドミウム)等を含む。さらに別の態様において、非プロトン性極性溶媒は、凍結-脱気-解凍サイクルにより脱気される(例えば、少なくとも1、2、3、またはそれ以上のサイクルが使用され得る)。1つの例において、凍結-脱気-解凍サイクルは、液体窒素下での非プロトン性極性溶媒の凍結、真空の適用、およびその後の温水中での溶媒の解凍を含む。1つの態様において、非プロトン性極性溶媒は、スチール、ガラスまたは木製容器内での長期保管により脱酸素化される。別の態様において、非プロトン性極性溶媒は、脱酸素化の間、音波処理、超音波処理、または攪拌される。
【0083】
処理または脱酸素化されると、非プロトン性極性溶媒は、0.1 mM未満の溶解酸素、好ましくは0.05 mM未満の溶解酸素を有し得る。当業者に公知の方法が、任意の与えられた非プロトン性極性溶媒中の溶解酸素の量を決定するために使用され得る(例えば、溶解酸素メーターまたはプローブデバイス、例えばVernier(Beaverton, Oregon, USA)により市販されている溶解酸素プローブが使用され得る)。
【0084】
特定の局面において、本願に開示される製剤は、不活性ガス雰囲気下で調製および/または密封され得る。一般的な方法は、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)のヘッドスペースを提供するよう一次容器封止システム(例えば、バイアル)をバックフィル(backfill)することを含む。二次容器封止システム(例えば、密封されたホイルポーチ)もまた、不活性ガス環境下で密封され得る。
【0085】
I. 製剤
本発明の製剤は、容器および/または流体流路と適合する少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤と少なくとも1つの持続放出調整剤とを含む非プロトン性極性溶媒系中に存在する治療剤を含む。治療剤は、非プロトン性極性溶媒系に溶解(例えば、完全にもしくは部分的に可溶化)または懸濁(完全にもしくは部分的に)され得る。
【0086】
いくつかの態様において、治療剤は、「ニート」な、すなわち、共溶媒を含まないか、または共溶媒を含む場合は水以外の共溶媒を含まない、非プロトン性極性溶媒中に存在する。他の態様において、治療剤は、2つまたはそれ以上の非プロトン性極性溶媒の混合物かつ10% v/v超の含水量(moisture content)または含水量(water content)である溶媒系(すなわち、非プロトン性極性溶媒系)中に存在する。例は、10% (v/v)超の総含水量のDMSOおよびNMPの75/25 (% v/v)混合物である。しかし、いくつかの態様において、共溶媒が使用され得、1つまたは複数の非プロトン性極性溶媒が共溶媒と混合される。共溶媒の非限定的な例は、(水を明示的に除くと)エタノール、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、およびそれらの混合物を含む。共溶媒は、約0.1% (w/v)~約50% (w/v)、例えば、約0.1%、約0.5%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、または約40% (w/v)の範囲の量で製剤中に存在し得る。いくつかの態様において、共溶媒は、約10% (w/v)~約50% (w/v)、約10% (w/v)~約40% (w/v)、約10% (w/v)~約30% (w/v)、約10% (w/v)~約25% (w/v)、約15% (w/v)~約50% (w/v)、約15% (w/v)~約40% (w/v)、約15% (w/v)~約30% (w/v)、または約15% (w/v)~約25% (w/v)の範囲の量で製剤中に存在する。
【0087】
なおさらに、本発明の製剤は、少なくとも1つのイオン化安定化賦形剤および少なくとも1つの持続放出調整剤に加えて1つまたは複数の他の賦形剤を含み得る。いくつかの態様において、他の賦形剤は、糖、塩、デンプン、糖アルコール、抗酸化物質、キレート剤、および防腐剤から選択される。適切な糖賦形剤の例は、トレハロース、グルコース、スクロース等を含むがこれらに限定されない。安定化賦形剤に適したデンプンの例は、ヒドロキシエチルデンプン(HES)を含むがこれに限定されない。安定化賦形剤に適した糖アルコール(ポリオールとも称される)の例は、マンニトールおよびソルビトールを含むがこれらに限定されない。適切な抗酸化物質の例は、アスコルビン酸、システイン、メチオニン、モノチオグリセロール、チオ硫酸ナトリウム、スルファイト、BHT、BHA、パルミチン酸アスコルビル、没食子酸プロピル、N-アセチル-L-システイン(NAC)、およびビタミンEを含むがこれらに限定されない。適切なキレート剤の例は、EDTA、EDTA二ナトリウム塩(エデト酸二ナトリウム)、酒石酸およびその塩、グリセリン、ならびにクエン酸およびその塩を含むがこれらに限定されない。適切な無機塩の例は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、および酢酸亜鉛を含むがこれらに限定されない。適切な防腐剤の例は、ベンジルアルコール、メチルパラベン、メタクレゾール、プロピルパラベン、およびそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。追加の製剤の構成要素は、局所麻酔剤、例えば、リドカインまたはプロカインを含む。いくつかの態様において、追加の安定化賦形剤は、約0.01% (w/v)~約60% (w/v)、約1% (w/v)~約50% (w/v)、約1% (w/v)~約40% (w/v)、約1% (w/v)~約30% (w/v)、約1% (w/v)~約20% (w/v)、約5% (w/v)~約60% (w/v)、約5% (w/v)~約50% (w/v)、約5% (w/v)~約40% (w/v)、約5% (w/v)~約30% (w/v)、約5% (w/v)~約20% (w/v)、約10% (w/v)~約60% (w/v)、約10% (w/v)~約50% (w/v)、約10% (w/v)~約40% (w/v)、約10% (w/v)~約30% (w/v)、または約10% (w/v)~約20% (w/v)の範囲の量で製剤中に存在する。いくつかの態様において、追加の安定化賦形剤は、約0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、もしくは60% (w/v)、多くとも0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、もしくは60% (w/v)、または少なくとも0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、もしくは60% (w/v)の量で製剤中に存在する。
【0088】
II. 治療剤
本発明の文脈における治療剤は、ペプチドまたはタンパク質化合物、低分子薬、ならびにそれらの薬学的に許容されるアナログおよび/または塩を含む。当業者は、特定の疾患または状態の処置にどの治療剤が適するかを知っており、そして疾患または状態の処置のために本明細書に記載される製剤中の有効量の治療剤を投与することができるであろう。
【0089】
本発明の文脈において使用され得るペプチドおよびタンパク質(ならびにそれらの塩)の非限定的な例は、グルカゴン、プラムリンタイド、インスリン、ロイプロリド、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、ロイプロリド、ヒルジン、副甲状腺ホルモン(PTH)、アミリン、アンギオテンシン(1~7)、ボツリヌストキシン、ヘマタイド、アミロイドペプチド、胃抑制ペプチド、抗体(モノクローナルもしくはポリクローナルであり得る)またはそのフラグメント、免疫原性ペプチド(例えば、ウイルス、細菌、または原核もしくは真核生物もしくはその細胞由来のペプチドまたはペプチド複合体)、インスリン様成長因子、成長ホルモン放出因子、抗菌因子、グラチラマー、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-1アゴニスト、エキセナチド、そのアナログ、アミリンアナログ(プラムリンタイド)、およびそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。いくつかの好ましい局面において、治療剤は、グルカゴン、インスリンおよび/またはプラムリンタイドである。本発明の組成物および方法において有利に使用され得るそのようなペプチド、タンパク質、ペプチド複合体およびそれらの誘導体のさらなる適切な例は、本明細書に提供される情報および当技術分野において容易に入手可能な情報に基づき、当業者に知られているであろう。
【0090】
本発明の文脈において使用され得る低分子薬(およびその塩)の非限定的な例は、エピネフリン、ベンゾジアゼピン、レボチロキシン、カテコールアミン(catecholemines)、「トリプタン」、スマトリプタン、ノバントロン、化学療法用低分子(例えば、ミトキサントロン)、コルチコステロイド系低分子(例えば、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル)、免疫抑制性低分子(例えば、アザチオプリン、クラドリビン、シクロホスファミド一水和物、メトトレキサート)、抗炎症性低分子(例えば、サリチル酸、アセチルサリチル酸、リソフィリン、ジフルニサル、トリサリチル酸コリンマグネシウム、サリチレート、ベノリレート、フルフェナム酸、メフェナム酸、メクロフェナム酸、トリフルム酸(triflumic acid)、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、アルクロフェナク、フェンチアザク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、スプロフェン、インドプロフェン、チアプロフェン酸、ベノキサプロフェン、ピルプロフェン、トルメチン、ゾメピラク、クロピナク、インドメタシン、スリンダク、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、アザプロパゾン、フェプラゾン、ピロキシカム、イソキシカム)、神経学的障害を処置するために使用される低分子(例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、タクリン、メトリホネート、リバスチグミン、セレギリン、イミプラミン、フルオキセチン、オランザピン、セルチンドール、リスペリドン、バルプロ酸セミナトリウム、ガバペンチン、カルバマゼピン、トピラメート、フェニトイン)、癌を処置するために使用される低分子(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、テモゾロミド、イマチニブ、ボルテゾミブ)、スタチン(例えば、アトルバスタチン、アムロジピン、ロスバスタチン、シタグリプチン、シンバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)および他のタキサン誘導体、結核を処置するために使用される低分子(例えば、リファンピシン)、低分子抗真菌剤(例えば、フルコナゾール)、低分子抗不安剤および低分子抗けいれん剤(例えば、ロラゼパム)、低分子抗コリン作動剤、(例えば、アトロピン)、低分子β-アゴニスト薬(例えば、硫酸アルブテロール)、低分子マスト細胞安定化剤およびアレルギーを処置するために使用される低分子剤(例えば、クロモリンナトリウム)、低分子麻酔剤および低分子抗不整脈剤(例えば、リドカイン)、低分子抗生剤(例えば、トブラマイシン、シプロフロキサシン)、低分子抗片頭痛剤(例えば、スマトリプタン)、ならびに低分子抗ヒスタミン薬(例えば、ジフェンヒドラミン)を含むがこれらに限定されない。好ましい態様において、低分子は、エピネフリンである。
【0091】
本発明の治療剤は、疾患の予防、診断、軽減、処置、または治癒のために皮内投与され得る。本発明に従い製剤化され得るおよび本発明に従う送達システムで用いられ得るタンパク質およびタンパク質性化合物の例は、生物学的活性を有するまたは疾患もしくは他の病的状態を処置するために使用され得るタンパク質を含む。
【0092】
上記のペプチド、タンパク質、および低分子薬の各々は、周知であり、様々な製造元および提供元から市販されている。さらに、投薬製剤中のペプチド、タンパク質、または低分子薬の量は、現在受け入れ可能な量、対象/患者の要求(例えば、年齢、健康、体重、性質および症状の程度)等に依存して様々であり得、そのような量は、容易に入手可能な情報に基づき薬学および薬理学分野の当業者により容易に決定され得る。
【0093】
製造元または商業的提供元により提供される治療剤は、典型的には、本明細書に記載される製剤に溶解させるための粉末として提供される。溶解させるための粉末化された薬剤を形成するために、多くの公知技術が使用され得る。
【0094】
任意の適切な用量のペプチドまたはペプチド群が、本発明の安定な製剤において製剤化され得る。一般に、ペプチド(または、2つもしくはそれ以上のペプチドを含む態様においては、各ペプチド)は、約0.1 mg/mLから、最大でそのペプチドまたはペプチド群の溶解限度までの範囲の量で製剤中に存在する。特定のそのような態様において、用量は、約0.1 mg/mL~約500 mg/mL、または最大で約200 mg/mL、約250 mg/mL、約300 mg/mL、約350 mg/mL、約400 mg/mL、約450 mg/mL、もしくは約500 mg/mLである。いくつかの態様において、ペプチドは、約2 mg/mL~約60 mg/mLの範囲の量で製剤中に存在する。他の態様において、ペプチドは、約3 mg/mL~約50 mg/mLの範囲の量で製剤中に存在する。さらに他の態様において、ペプチドは、約5 mg/mL~約15 mg/mLの範囲の量で製剤中に存在する。さらに他の態様において、ペプチドは、約0.1 mg/mL~約10 mg/mL(例えば、約0.5 mg/mL、約1 mg/mL、約2 mg/mL、約2.5 mg/mL、約3 mg/mL、約4 mg/mL、約5 mg/mL、約7.5 mg/mL、または約10 mg/mL)の範囲の量で製剤中に存在する。さらに他の態様において、ペプチドは、約1 mg/mL~約50 mg/mLの範囲の量で製剤中に存在する。繰り返しになるが、ペプチドの用量が、使用されるペプチドおよび処置される疾患、障害または状態に依存して様々であり得ることは、本明細書に提供されるおよび関連技術において容易に入手可能な情報に基づき、当業者に直ちに明らかになるであろう。
【0095】
いくつかの態様において、本発明の製剤はさらに、抗酸化物質を含む。他の態様において、製剤はさらに、キレート剤を含む。さらに他の態様において、本発明の製剤はさらに、防腐剤、糖(例えば、単糖、二糖、もしくは多糖、例えば、トレハロース二水和物)、糖アルコール(例えば、マンニトール、キシリトール、またはエリスリトール)、ポリオール、界面活性剤および/または塩を含む。
【0096】
III. 治療方法
別の局面において、本発明は、疾患、状態、または障害を処置または予防するために、その疾患、状態、または障害を処置、軽減、改善、または予防するのに効果的な量の本明細書に記載される安定な製剤中の治療剤を対象に投与することにより疾患、状態、または障害を処置または予防する方法を提供する。
【0097】
いくつかの態様において、本発明の治療方法は、低血糖症を有する対象に、本明細書に記載される保存安定性SR製剤中の低血糖症に対する治療剤を、低血糖症を処置するのに効果的な量で投与することにより、低血糖症を処置する工程を含む。いくつかの態様において、対象は、グルカゴンを含む保存安定性SR製剤を、グルカゴンを含む非SR(または「即時放出」)製剤と比較して長期間にわたって投与部位から動物の血流または組織へのグルカゴンの放出(すなわち、「持続放出」)がもたらされる様式で投与される。特定の局面において、低血糖症は、糖尿病(1型もしくは2型糖尿病、運動誘導もしくは運動関連糖尿病、肥満後糖尿病、妊娠糖尿病、夜間糖尿病等を含む)または非糖尿病関連疾患、状態、および障害に起因し得る。
【0098】
低血糖症に関してthe American Diabetes Association and the Endocrine Societyのワークグループにより報告されたように(Seaquist, et al, (2013), Diabetes Care, Vol 36, pages 1384-1395)、低血糖症の症状に関する血糖の閾値は(他の応答の中でも)直近の先行する低血糖症の後にはより低い血漿グルコース濃度側に、および糖尿病が十分に制御されていないおよび低血糖症を頻発しない患者においてはより高い血漿グルコース濃度側に移行するため、糖尿病における低血糖症を定義する血漿グルコース濃度の単一の閾値は、典型的には指定されていない。
【0099】
しかしながら、患者および介護者の双方の注意を低血糖症に関連する潜在的危害に向ける警告値を定義することができる。低血糖症のリスクのある患者(すなわち、スルホニル尿素、グリニドおよびインスリンで処置される患者)は、自身によりモニタリングされる血漿グルコース - または連続グルコースモニタリングされる皮下グルコース - の濃度が ≦ 70 mg/dL(≦3.9 mmol/L)で、低血糖症を発症する可能性を警告されるべきである。それは非糖尿病個体および糖尿病が十分管理されている個体の両方における症状に関する血糖の閾値よりも高いので、それは通常、臨床的な低血糖エピソードを予防する時間を与え、低グルコースレベルにおけるモニタリングデバイスの限定的な精度に対してある程度のマージンを提供する。
【0100】
重度の低血糖症の状態は、炭水化物、グルカゴンを能動的に投与する、または他の是正措置を行なうために他者の補助を必要とするイベントである。血漿グルコース濃度は、イベントの間に利用可能でないかもしれないが、正常への血漿グルコースの復帰後の神経学的回復は、このイベントが低い血漿グルコース濃度により誘導されたことの十分な証拠とみなされる。典型的には、これらのイベントは、≦50 mg/dL(2.8 mmol/L)の血漿グルコース濃度で起こり始める。裏付けのある有症状性の低血糖症は、低血糖症の典型的症状に≦70 mg/dL(≦3.9 mmol/L)の測定された血漿グルコース濃度が付随するイベントである。無症状性の低血糖症は、低血糖症の典型的症状が付随しないが、≦70 mg/dL(≦3.9 mmol/L)の測定された血漿グルコース濃度が付随するイベントである。推定有症状性低血糖症は、低血糖症に典型的な症状に血漿グルコース測定が付随しないが、≦70 mg/dL(≦3.9 mmol/L)の測定された血漿グルコース濃度により引き起こされたと考えられるイベントである。偽低血糖症は、糖尿病を有する人が、低血糖症の典型的症状のいずれかを報告すると共に、測定された血漿グルコース濃度が>70 mg/dL(>3.9 mmol/L)であるがそのレベルに近づいているイベントである。
【0101】
さらに、低血糖症関連自律神経不全症(HAAF)が、開示される発明により処置され得る適応症に含まれる。Philip E. Cryer, Perspectives in Diabetes, Mechanisms of Hypoglycemia-Associated Autonomic Failure and Its Component Syndromes in Diabetes, Diabetes, Vol. 54, pp. 3592-3601 (2005)に記載されるように、「直近の先行する医原性低血糖症は、(インスリン減少なしおよびグルカゴン増加なしの状況下で一定レベルのその後の低血糖症に対するエピネフリン反応を減少させることによる)不完全なグルコースカウンターレギュレーションおよび(一定レベルのその後の低血糖症に対する交感神経副腎髄質系反応およびそれにより生じる神経原性症状反応を減少させることによる)低血糖症無知覚の両方を、したがって低血糖症の悪循環を引き起こす。」HAAFは、1型および進行型2型糖尿病を有する者に影響する。さらに、本開示の発明はまた、膵島細胞移植後の患者において低血糖症を処置し得る。
【0102】
本発明の製剤はまた、広義には過剰なインスリンにより引き起こされる低い血中グルコースレベルの状態および影響を表す高インスリン性低血糖症の処置に使用され得る。重篤であるが典型的に一過性である高インスリン性低血糖症の最も一般的なタイプは、1型糖尿病患者における外因性インスリンの投与により引き起こされる。このタイプの低血糖症は、医原性低血糖症と定義され得、1型および2型糖尿病の血糖管理における制限要因である。夜間低血糖症(夜間低血糖)は、外因性インスリンを摂取した患者において生じる一般的なタイプの医原性低血糖症である。しかし、高インスリン性低血糖症はまた、例えば、先天性高インスリン血症、インスリノーマ(インスリン分泌性腫瘍)、運動誘発性低血糖症および反応性低血糖症において、内因性インスリンによっても引き起こされ得る。反応性低血糖症は、非糖尿病性低血糖症であり、食事後に(典型的には食後4時間以内に)起こる低い血糖に起因する。反応性低血糖症はまた、食後低血糖症とも称され得る。反応性低血糖症の症状および兆候は、空腹感、薄弱、震え、眠気、発汗、錯乱および不安を含み得る。胃手術(例えば、肥満手術)は、術後に食物が小腸へと素早く通過しすぎ得るため、1つの可能性のある要因である(肥満手術後低血糖症(PBH))。さらなる要因は、身体が食物を分解することを困難にする酵素欠乏、またはホルモンであるエピネフリンに対する感受性亢進を含む。
【0103】
いくつかの態様において、本発明の安定な製剤を用いて処置される疾患、状態、または障害は、糖尿病状態である。糖尿病状態の例は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、前糖尿病、高血糖症、低血糖症、および代謝症候群を含むがこれらに限定されない。いくつかの態様において、疾患、状態、または障害は、糖尿病関連低血糖症、運動誘発性低血糖症、および肥満手術後低血糖症、または本明細書に記載されるおよび当業者に公知の他のタイプの低血糖症を含むがこれらに限定されない低血糖症である。いくつかの態様において、疾患、状態、または障害は、糖尿病である。
【0104】
いくつかの態様において、本発明の治療方法は、糖尿病を処置するのに効果的な量の本明細書に記載される安定な製剤中の治療剤を、糖尿病を有する対象に投与することにより、糖尿病を処置することを含む。いくつかの態様において、対象には、インスリンを含む安定な製剤が投与される。いくつかの態様において、対象には、プラムリンタイドを含む安定な製剤が投与される。いくつかの態様において、対象には、インスリンおよびプラムリンタイドを含む安定な製剤が投与される。いくつかの態様において、対象には、エキセナチドを含む安定な製剤が投与される。いくつかの態様において、対象には、グルカゴンおよびエキセナチドを含む安定な製剤が投与される。
【0105】
特定の局面において、エピネフリンが、アナフィラキシーのリスクのあるまたはアナフィラキシーが疑われる対象に投与され得る。エピネフリンは、食物、薬物および/または他のアレルゲン、アレルゲン免疫療法、診断検査物質、昆虫による刺創および咬傷、ならびに突発性または運動誘発性アナフィラキシーを含むがこれらに限定されない複数の原因に起因し得るI型アレルギー反応の緊急処置として指定されている。
【0106】
疾患、状態、または障害(例えば、糖尿病状態、低血糖症、またはアナフィラキシー)を処置するための本明細書に記載されるペプチドまたは低分子薬の投与用量は、当業者により実施される用量および日程計画に従う。本発明の方法において使用されるすべての薬理学的薬剤の適切な用量に関する一般的なガイドラインは、Goodman and Gilman's, The Pharmacological Basis of Therapeutics, 11th Edition, 2006, 前記、およびPhysicians' Desk Reference (PDR)、例えばその第65(2011)または第66(2011)版, PDR Network, LLCに提供されており、その各々が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に記載される疾患、状態、または障害を処置するためのペプチド薬の適切な用量は、組成物の製剤化、患者の反応、状態の重篤度、対象の体重、および処方医の判断を含む様々な要因に従い異なり得る。記載される製剤の有効用量は、医学的に有効な量のペプチド薬を送達する。用量は、個々の患者により必要とされる場合または医師により決定される場合、時間とともに増加または減少され得る。
【0107】
有効量または用量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。一般に、これらの用量を送達する製剤は、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の低分子、ペプチド、またはペプチドアナログ(ペプチドアナログが明示的に除外されない限り、集合的に「ペプチド」)を含み得、各ペプチドは、製剤中に約0.1 mg/mLから、最大でそのペプチドの溶解限度の濃度で存在する。この濃度は、好ましくは、約1 mg/mL~約100 mg/mLである。特定の局面において、濃度は、約1 mg/mL、約2 mg/mL、約2.5 mg/mL、約3 mg/mL、約4 mg/mL、約5 mg/mL、約7.5 mg/mL、約10 mg/mL、約15 mg/mL、約20 mg/mL、約25 mg/mL、約30 mg/mL、約35 mg/mL、約40 mg/mL、約45 mg/mL、約50 mg/mL、約55 mg/mL、約60 mg/mL、約65 mg/mL、約70 mg/mL、約75 mg/mL、約80 mg/mL、約85 mg/mL、約90 mg/mL、約95 mg/mL、または約100 mg/mLである。低分子の濃度は、医療関係者に公知であり、本明細書に提供される開示を用いて、例えば、その間のすべての値および範囲を含む、0.01 mg/ml~500 mg/ml、または約1、2、2.5、3、4、5、10、25、50、75、100、200、500~約1000 mgの用量で、確立および実施され得る。
【0108】
本発明の製剤は、(例えば、注射によるまたは注入による)皮下、皮内、筋内、鼻内、口腔内、経皮、または静脈内投与を含むがこれらに限定されない、非経口投与で使用され得る。いくつかの態様において、製剤は、皮下投与される。製剤はまた、経皮的に、例えば、組成物を皮膚に局所適用(例えば、組成物を皮膚上に拡散させるまたは組成物を皮膚パッチに充填し、その皮膚パッチを皮膚に貼付する)することにより、送達され得る。
【0109】
本開示の製剤は、任意の適切なデバイスを用いて注入によりまたは注射により投与され得る。例えば、本発明の製剤は、シリンジ(例えば、事前充填済シリンジ)、ペン注射デバイス、自動注射デバイス、またはポンプデバイス内に入れられ得る。いくつかの態様において、注射デバイスは、多用量注射ポンプデバイスまたは多用量自動注射デバイスである。製剤は、注射デバイス、例えば自動注射器を作動させたときに、ペプチド薬を送達するよう針から容易に流出することができるような様式でデバイス内に存在する。適切なペン/自動注射デバイスは、Becton-Dickenson、Swedish Healthcare Limited(SHL Group)、YpsoMed Ag等により製造されるペン/自動注射デバイスを含むがこれらに限定されない。適切なポンプデバイスは、Tandem Diabetes Care, Inc.、Delsys Pharmaceuticals等により製造されるポンプデバイスを含むがこれらに限定されない。
【0110】
いくつかの態様において、本発明の製剤は、バイアル、カートリッジ、または事前充填済シリンジにて投与準備完了状態で提供される。
【0111】
いくつかの態様において、安定な製剤は、低血糖症の処置のための医薬を製剤化するために使用される。いくつかの態様において、安定な製剤は、グルカゴンまたはその塩(例えば、グルカゴン酢酸塩)を含む。いくつかの態様において、安定な製剤は、グルカゴンおよびエキセナチドを含む。
【0112】
いくつかの態様において、安定な製剤は、糖尿病の処置のための医薬を製剤化するために使用される。いくつかの態様において、安定な製剤は、インスリンを含む。いくつかの態様において、安定な製剤は、エキセナチドを含む。いくつかの態様において、安定な製剤は、プラムリンタイドを含む。いくつかの態様において、安定な製剤は、インスリンおよびプラムリンタイドを含む。
【0113】
さらなる態様において、本発明により提供される製剤は、特定の診断手順で使用され得る。特定のそのような態様において、本発明のグルカゴン含有製剤は、1つまたは複数の診断手順の前に、それに付属するものとして、その一部として、またはそれと組み合わせて、哺乳類、例えばヒトまたは脊椎動物に投与され得、それによって、疾患または障害に罹っているまたは罹りやすい患者において疾患または障害を診断する方法を提供する。本発明のグルカゴン含有製剤が適切に使用され得るそのような診断手順の非限定的な例は、アルツハイマー病(その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,727,041号を参照のこと)および成長ホルモン欠乏症(米国特許第5,065,747号を参照のこと;Boguszewski, C.L., Endocrine 57: 361-363 (2017)、およびYuen, K.C.J., ISRN Endocrinology, vol. 211, Article ID 608056, pp. 1-6 (2011), doi:10.5402/2011/608056も参照のこと;これらすべての開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)を診断する方法を含む。そのような使用のさらなる例は、特定の放射線学的診断手順、特に、消化器病状態(その非限定的な例は、腸閉塞、虫垂炎、バレット食道、セリアック病、癌、肝硬変、クローン病、憩室炎、憩室症、潰瘍、胆石、胃脱出症、胃炎、胃食道逆流症、肝炎(A/B/C)、裂孔ヘルニア、炎症性腸障害、ヘルニア、刺激性腸症候群、膵炎、肛門周囲裂、潰瘍性大腸炎等を含む。)の診断において使用される手順におけるもの、成人患者において胃腸管の器官および結合組織の動きを一時的に抑制する胃腸系の放射線学的試験の間、を含む(例えば、https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?setid=8c8acad6-44cc-43aa-966b-027e053be8f5においてアクセス可能な、グルカゴン凍結乾燥物の製品ラベル(NDCコード63323-185-03)を参照のこと;Glucagon in Gastroenterology, J. Picazo, ed., Lancaster, England: MTP Press Ltd. (1979), 特に第3~7章, pp. 39-120もまた参照のこと;その開示は、参照により本明細書に組み入れられる)。そのような診断方法において、本発明のグルカゴン含有製剤は、障害に罹っているまたは罹りやすい患者に対して、患者体内へのそのような製剤の任意の適切な導入方法、例えば本明細書に記載されるものにより、例えば約0.2 mg~約0.75 mgの用量で診断検査(例えば放射線学的手順)の約1~10分前に静脈内に、または約1 mg~約2 mgの用量で診断検査(例えば、放射線学的手順)の約5~15分前に筋内もしくは経皮的に、投与される。本発明の製剤の他の適切な治療的および診断的使用方法は、当技術分野で入手可能な情報に照らして、本明細書に含まれる開示に基づき、通常の知識を有する医師または薬剤師に直ちに知られるであろう。
【0114】
IV. キット/容器
キットもまた、本発明の特定の局面において使用されることが想定される。例えば、本発明の製剤は、容器を含み得るキットに含まれ得る。1つの局面において、例えば、製剤は、製剤を再構成または希釈する必要なく対象に投与するまたは対象に投与するよう構成されたデバイスに組み込まれる用意ができている容器内に含まれ得る。すなわち、投与される製剤は、この容器内で保管され得、必要なときに直ちに使用することができる。容器は、デバイスであり得る。デバイスは、シリンジ(例えば、事前充填済シリンジ)、ペン注射デバイス、自動注射デバイス、製剤をくみ上げもしくは投与することができるデバイス(例えば、自動もしくは非自動外部ポンプ(例えば、パッチポンプ、もしくは外部の注入用セットを必要とするポンプ)、移植可能なポンプ)または灌流バッグであり得る。適切なペン/自動注射デバイスは、Becton-Dickenson、Swedish Healthcare Limited(SHL Group)、YpsoMed Ag等により製造されるペン/自動注射デバイスを含むがこれらに限定されない。適切なポンプデバイスは、Tandem Diabetes Care, Inc.、Delsys Pharmaceuticals等により製造されるポンプデバイスを含むがこれらに限定されない。適切な注入用セットは、Tandem Diabetes Care, Inc.、Medtronic、Disetronic、YpsoMed Ag、 Unomedical A/S等により製造/流通/販売されるものを含むがこれらに限定されない。
【実施例
【0115】
本開示のいくつかの態様は、具体的実施例によりさらに詳細に記載される。以下の実施例は、例示を目的として提供されるものであり、いかなる様式によっても本発明を限定することは意図されていない。例えば、当業者は、過度の実験を行うことなく、本質的に同じ結果を得るために変更または改変することができる様々な決定的でないパラメータを容易に認識するであろう。
【0116】
実施例1:持続放出グルカゴン製剤の調製
持続放出グルカゴン製剤の調製に関する以前の報告は、水性亜鉛-グルカゴン懸濁物の調製およびZn-グルカゴン錯体の結晶化に基づくものであり、再水和により、そのようなZn-グルカゴン懸濁物は、グルカゴンの持続放出を示した(Trading, F. et al., Eur. J. Pharmacol. 7:206-210 (1969)を参照のこと)。しかし、そのようなグルカゴンの水性懸濁物は、治療利用の直前に調製されなければならず、それは、水溶液へのグルカゴンの懸濁がグルカゴンの急速な加水分解および失活をもたらすためであり、これは、グルカゴン溶液の長期保存安定性を向上させる非プロトン性溶媒系、例えばDMSOにグルカゴンを溶解することにより克服することができる問題である(例えば、それらの開示の全体が本明細書に組み入れられる米国特許第9,339,545号および同第10,485,850号を参照のこと)。したがって、溶液中でも保存安定性を示すグルカゴンの持続放出(SR)製剤を調製する能力を評価することが望まれた。
【0117】
そのような製剤の安定性の初期研究において、グルカゴン製剤を、ガラスバイアル内で、DMSO中5 mg/mLまたは10 mg/mLとなるよう、また様々な濃度の二価亜鉛化合物(塩化亜鉛、酢酸亜鉛、または硫酸亜鉛)も溶液中に含むよう調製した。すべての製剤は、以下の構成要素も有していた:5.5%(w/v)トレハロース二水和物および2.9%(w/v)マンニトール。以下の例示的な製剤を調製した(「対照」は市販の非SR液体グルカゴン製剤(GVOKE(登録商標);Xeris Pharmaceuticals, Inc., Chicago, IL)である)。
【0118】
(表1)例示的なSRグルカゴン製剤
【0119】
二価亜鉛化合物は、グルカゴン製剤に対する適合性および皮下用途への適性に基づき選択した。これらの製剤の生理化学的安定性を、安定性試験チャンバー内で、様々な温度(-20℃、5℃、25℃/60%相対湿度、または40℃/75%相対湿度)での保存後に、視覚分析および逆相UHPLC(RP-UPHLC)を通じて分析した。最大6か月間の保存後に、各製剤のサンプルを、バイアルの内容物の変色、ゲル化または凝集の存在について視覚的に試験し、撮影した。RP-UPHCL分析のために、1%トリフルオロ酢酸(TFA)およびアセトニトリルならびにWaters ACQUITY UPLC(登録商標)Peptide CSH C18、100 mm x 2.1 mm、1.7μm、130Åカラムに基づき勾配法を構築した。検出は280 nmで行い、流速は0.55 mL/分とし、カラム温度は60℃とし、注射量は25μgのグルカゴンとした。各製剤におけるグルカゴンの純度は、主ピークの面積(非分解グルカゴン)を、その製剤の出発物質(ゼロ時)における主ピークのパーセントとして評価することにより決定した。
【0120】
図1は、調製直後に撮影された、表1に記載される例示的なSRグルカゴン製剤の2つ -- 製剤A-1(図1A)および製剤A-2(図1B) -- の例示的な写真を示している。図1で見られるように、これらの製剤に関しては、保存時間T=0で変色、ゲル化または凝集がバイアル内で視覚的に観察されなかった。同様の結果が、表1に列挙される他の製剤についても得られた(データ示さず)。
【0121】
様々な温度での最大6か月間の保存において、SR製剤のいくつかは、変色および凝集/フィブリル形成(フィブリル化)に関して視覚的に評価された保存安定性の点で他よりも優れた性能を発揮した。これらの結果を図2~5に示す。
【0122】
-20℃で6か月間保存したサンプル(図2)において、変色(図2A)およびフィブリル化(図2B)に関して以下の視覚的結果が得られた。
【0123】
【0124】
5℃で6か月間保存したサンプル(図3)において、変色(図3A)およびフィブリル化(図3B)に関して以下の視覚的結果が得られた。
【0125】
【0126】
25℃で6か月間保存したサンプル(図4)において、変色(図4A)およびフィブリル化(図4B)に関して以下の視覚的結果が得られた。
【0127】
【0128】
40℃/75%相対湿度で6か月間保存したサンプル(図5)において、変色(図5A)およびフィブリル化(図5B)に関して以下の視覚的結果が得られた。
【0129】
【0130】
RP-UHPLCを通じたこれらの製剤のいくつか(具体的には、25℃で6か月間保存されたそれら;図4)の安定性についてのより高感度の分析では、表2に示されるように同様の結果が明らかとなった。
【0131】
(表2)RP-UHPLCによる、25℃で6か月間保存されたグルカゴン製剤の純度
【0132】
これらの研究を、5℃および25℃で保存されるこれらの同じ製剤サンプルの12か月保存にまで拡張した。結果を図7に示す。図7Aおよび7Bで見られるように、最大12か月間の5℃でのサンプルの保存は、製剤のごくわずかな分解またはフィブリル化しかもたらさず、すべての製剤が、RP-UHPLCによる評価で、12か月間の保存後でさえ98~99%の純度を示した。25℃で12か月間の製剤サンプルの保存(図7Cおよび7D)は、4:1グルカゴン:酢酸亜鉛製剤で見られた初期の軽微な分解が、このサンプルにおいて約84%の純度が観察されるまで6か月~12か月継続したことを示した。これに対して、8:1グルカゴン:酢酸亜鉛および8:1グルカゴン:塩化亜鉛製剤は、分解し続けたが、25℃で12か月間の保存後にそれらの初期純度の約92~94%を保持する、ずっと遅い速度であった。
【0133】
まとめると、これらの結果は、亜鉛含有SRグルカゴン製剤のすべてが、少なくとも3か月間、長期室温安定性を示し、塩化亜鉛(B-1、B-2)ならびに硫酸亜鉛(C-1およびC-2)を含む製剤が、25℃~40℃で6か月間保存した場合に、やや低い安定性であった酢酸亜鉛含有製剤(A-1、A-2)と比較して25℃~40℃でより長期の安定性(少なくとも6か月間まで)を示すことを示している。同様の結果が、より長期の保存時間で観察され、すべての製剤が、5℃での保存後ではすぐれた長期保存性(少なくとも12か月間)を、25℃でのより長期(12か月間)の保存ではそれよりやや低い安定性を示し、8:1グルカゴン/酢酸亜鉛製剤が、25℃での保存時に最大の長期安定性を示した。塩化亜鉛および硫酸亜鉛製剤の25℃~40℃での保存安定性は、市販の保存安定性液体グルカゴン製剤である対照製剤で見られた安定性と近似するものであった。
【0134】
実施例2:前臨床研究における保存安定性SRグルカゴン製剤の評価
上記の結果に基づき、実施例1に記載される保存安定性SRグルカゴン製剤の初期薬物動態(PK)を実験動物における前臨床研究で試験することが関心対象となった。頸静脈にカニューレ挿入したSprague-Dawleyラット(n=3/グループ)のすべてに、肩甲骨間のテント状につまんだ皮膚へと針および注射器を通じて試験製剤を皮下投与した。投与体積は、投与日の午前の動物の体重に基づき調節した。保存安定性SRグルカゴン溶液を、2 mg/kgから8 mg/kgの60μL~250μL注射液として与えた。市販の非SRグルカゴン救済製品(GVOKE(登録商標);Xeris Pharmaceuticals, Chicago, IL)と同様の製剤を対照として使用した。投与前ならびに投与から0.25、0.5、1、1.5、2、4、6、12、24および48時間後に各動物からK2EDTAプロテアーゼ阻害剤P800血液チューブに血液サンプルを採集した。3つの処置グループおよび対照において薬物動態パラメータを分析した。血漿グルカゴンは、AltaSciences(Laval, Quebec, Canada)においてLC-MSを通じてアッセイした。各動物において非コンパートメントPK分析を行った。CmaxおよびTmaxは、観察されたデータから計算し、曲線下面積(AUC)概算値は、以下の線形台形法を用いて算出した:
消失半減期
は以下の通りに計算した:
SRグルカゴン製剤の1つ(A-1)の例示的なPK結果を図6に示す。
【0135】
図6で見られるように、グルカゴンの消失半減期の、非SR対照でのおよそ0.3時間からSR(亜鉛含有)グルカゴン製剤での少なくとも6.1時間の延長があった。さらに、SR製剤は、グルカゴンの最小限のバースト放出(Cmax=73 ng/mL)をもたらし、非SR即時放出対照製剤(Cmax=214 ng/mL)と比較して、比較的平坦かつ時間的に延長された放出プロファイルを示した。したがって、本発明の保存安定性SRグルカゴン製剤は、重度の低血糖種イベントに対してグルカゴンレベルを急速に上昇させることが意図されている市販の救済製品である対照と異なり、投与後に血中グルカゴンレベルが治療ウィンドウ内にとどまる時間を最大化することができる。
【0136】
次に、これらの製剤が1日1回のみの対象への投与で治療的に有効であり得るSRグルカゴン製剤の製造に適し得るかどうかを試験するため、これらの薬物動態研究を、実施例1に記載されたものを含む追加の製剤を用いて拡張した。製剤は、表3に示されるように調製した。
【0137】
(表3)動物PK研究のために調製された亜鉛-グルカゴン製剤
【0138】
ついで、これらの製剤を、本明細書の他所に記載されるようにしてラットに皮下投与し、処置動物において12時間にわたり血漿グルコースレベルを評価した。結果を図8に示す。図8Aおよび図8Bで見られるように、対照即時放出GVOKE(登録商標)(グルカゴン注射液)製剤は、SR(亜鉛含有)グルカゴン製剤と比較して、高いCmaxおよび比較的短い血漿半減期という予想された動態を示した。これらの製剤の各々についての具体的なPK値を表4に示す。
【0139】
(表4)1日1回SRグルカゴン製剤の薬物動態結果
【0140】
これらの結果は、1日1回のみの投与でさえも、長期間にわたり最適かつ治療的な血漿グルカゴン濃度を提供する持続放出グルカゴン製剤を調製することが可能であることを示している。特に、高い亜鉛:グルカゴン比を有する製剤は、グルカゴンの初期バースト放出の減少(すなわち、より低いCmax)および血漿グルカゴンレベルのより遅い経時的下降を示した。さらに、示された亜鉛:グルカゴンの比で、より高用量の製剤の投与または製剤中のより高濃度のグルカゴンは、両方とも、より高い血漿グルカゴン活性(すなわち、より高いAUCおよびT1/2)をもたらした。
【0141】
実施例1の結果とともにまとめると、これらの結果は、以前には示されていなかったまたは想定されていなかった保存安定性SRグルカゴン製剤を製造することが可能であることを示している。そのような保存安定性SRグルカゴン製剤は、急性の重度低血糖症に罹った患者に対する緊急救済シナリオにおいてだけでなく、潜在的に長期間にわたる、例えば睡眠前、運動前、または患者が血中グルコースの低下に気付いていないかもしれない状況において使用される、血中グルコースレベルを管理する非緊急的な処置および予防アプローチにおいても潜在的に使用することができる。さらに、これらの結果は、有利なことに患者に1日1回投与することができ、それによって救済的状況においてのみグルカゴンを使用するという必要性をなくし、かつ患者の血中グルコースレベルの、現在利用可能なものよりも良い管理を潜在的に提供する、グルカゴン製剤を調製することも可能であることを示している。
【0142】
実施例3:週1回グルカゴン製剤の調製
持続放出(SR)グルカゴン製剤を製造する能力が示されたので、同じ原理を長期作用性(「LA」)グルカゴン製剤、例えば血中グルコース管理を必要とする患者に週1回のみ投与され得る製剤の調製に適用することができるかどうかを決定することが本発明者らにとっての関心対象となった。理想的には、そのような製剤は皮下または皮内投与、グルカゴンの最小限の初期バースト放出、およびその期間にさらなるグルカゴン投与を必要とすることのない少なくとも1週間にわたる血流へのグルカゴンのほぼ直線的な放出を提供するであろう。そのような製剤は、例として、2型糖尿病に罹った患者に特に有用であり、これらの患者による血中グルコースのより良い自己管理だけでなく、そのような患者における体重の減少およびHbA1cレベルの改善の可能性を提供し得る。
【0143】
これらの製剤を製造するため、様々なペプチド治療剤の徐放を提供する特定のポリマーを用いてグルカゴンを製剤化した。特に、そのようなLAグルカゴン製剤を製造する上での適切なキャリアとして、ポリ-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)を調査した。どちらもEvonik(Parsippany, NJ)から入手した、エステル末端基を有するRESOMER(登録商標)RG502(ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド) 50:50、0.16~0.24 dl/g(MW 約7~17 kD)、および酸末端基を有するRESOMER(登録商標)RG502H((ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド) 50:50、0.16~0.24 dl/g(MW 約7~17 kD)という2つのPLGAポリマーを試験した。実施例1および2に記載されるようにしてDMSO中の様々なグルカゴンの製剤(100 mg/ml)を調製し、トレハロース(5% w/v)の存在下または非存在下でPLGAを製剤に添加した。ついで、各製剤のサンプルを、-20℃、5℃、25℃および40℃で3か月間保存し、上記実施例に記載されるようにして保存安定性についてサンプルを評価した。結果を図9に示す。上記実施例で観察されたように、即時放出GVOKE(登録商標)対照製剤を含むすべての製剤が、-20℃で保存された場合、3か月間にわたってほぼ分解なしを示した(図9A)。対照的に、即時放出製剤は、5℃(図9B)、25℃(図9C)および40℃(図9D)で有意に分解したのに対して、PLGAを用いて製剤化されたSR製剤はそれよりずっと良好な保存安定性を示し、(エステル末端化PLGAまたはPLGAおよびトレハロースのいずれかを含む)2つの製剤は40℃でさえも増強された長期保存安定性を示した(図9D)。これらの結果は、製剤へのPLGAの添加がDMSO-グルカゴン製剤の保存安定性を低下させず、逆に増強するようであることを示している。
【0144】
つぎに、上記の実施例2に記載される方法を用いて、試験動物(雄SDラット)に投与された場合のこれらのPLGA含有製剤の薬物動態を試験した。図10に示されるように、これらの初期研究において製造されたPLGA含有製剤は、所望の薬物動態を提供しなかった。2つのPLGA含有製剤においてより低いCmaxが観察されたものの、これらの製剤はいずれも、そのような製剤の目標である、より長期の血漿グルカゴン製剤を提供しなかった。
【0145】
製剤を最適化し、LAグルカゴン製剤を製造する可能性を提供することを試みるため、製剤開発の間に動物を犠牲にする必要なく試験製剤の放出動態を試験するようインビトロ放出アッセイを使用した。これらの実験において、試験グルカゴン製剤を、37℃でインキュベートされた試験容器中の水性放出媒体(PBS)に導入し、この水性媒体からサンプルを採取して、経時的なグルカゴン濃度について試験した。そのような研究の一例の結果を図11に示す。酸性化DMSO中に250 mg/mLグルカゴンおよび40% Resomer(登録商標)RG502を含む製剤は、グルカゴンの比較的高い初期バースト放出および7日間にわたる非直線的な放出を示した(図11A)。これに対して、100 mg/mLグルカゴンおよび40% Resomer RG502または33% Resomer RG502Hを含む製剤は、グルカゴンの低い初期バースト放出と共にほぼ直線的な放出を示した(図11B)が、これらの製剤は望まれるよりもずっと長い(グルカゴンの全用量を放出するのに必要とされる1か月超の)放出期間を示した。
【0146】
ついで、これらの初期結果を使用して、PLGA中のグルカゴンの製剤を最適化し、適切な時間(例えば、1~2週間)以内に最適な放出特性を提供する製剤を得る試みを行った。Resomer RG502(エステル末端化)PLGAおよび様々な濃度のグルカゴンを用いて9つの製剤を調製し、上記のインビトロアッセイにおいて評価した。これらの研究の結果を図12に示す。この図で見られるように、250 mg/mLグルカゴンおよび33%または40%のいずれかのPLGAを含む製剤、ならびに281 mg/mLグルカゴンおよび36.5% PLGAを含む製剤は、比較的低い初期バースト(Cmax)、その後に経時的な持続放出を示し、製剤中のグルカゴンの完全な放出を約10~11日以内に達成した。これらの結果は、グルカゴンの低い初期バースト放出および長期間の経時的放出ならびに2週間以内での注射された製剤から血流中へのグルカゴンの完全な放出により特徴づけられるLAグルカゴン製剤を製造することが可能であることを示している。
【0147】
本願で開示され特許請求される組成物および/または方法はすべて、本開示に照らせば、過度の実験を行うことなく製造および実施することができる。本開示の組成物および方法はいくつかの態様の観点で記載されているが、本開示の構想、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される組成物および方法に対してならびに方法の工程においてまたは工程の順序においてバリエーションが適用され得ることが当業者に明らかであろう。より具体的に、本明細書に記載される薬剤は、化学的および生理学的の両面で関連する特定の薬剤で置き換えられ得、それでも同一または類似の結果を達成され得ることが明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような類似の置換および改変は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲および構想の範囲内であるとみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】