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  • 特表-黒牛肝菌の菌株と応用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】黒牛肝菌の菌株と応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
C12N1/14 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572423
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 CN2022093948
(87)【国際公開番号】W WO2022253002
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】202110621298.8
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522456958
【氏名又は名称】景洪宏臻農業科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】JINGHONG HONGZHEN AGRICULTURAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Manliangsan Villager Group, Ganan Village Committee, Menglong Town Jinghong City, Xishuangbanna Prefecture, Yunnan 666112, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羅 順珍
(72)【発明者】
【氏名】紀 開萍
(72)【発明者】
【氏名】曹 ▲やん▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 燕
(72)【発明者】
【氏名】紀 光燕
(72)【発明者】
【氏名】紀 光玉
(72)【発明者】
【氏名】刀 明晶
(72)【発明者】
【氏名】李 恒
(72)【発明者】
【氏名】陶 玲
(72)【発明者】
【氏名】晏 汐▲ぺえぃ▼
(72)【発明者】
【氏名】王 秋蘭
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA71X
4B065AC20
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、YL1701-2自家交雑により得られ、2021年3月3日に中国微生物菌種保存管理委員会の一般微生物センターCGMCCに保存され、保存番号がCGMCC NO.21921である黒牛肝菌の菌株及び応用を開示する。本発明は、黒牛肝菌を生産するための黒牛肝菌の菌株の応用をさらに開示する。この菌株は、遺伝的に安定しており、活力が強く、後期にキノコ発生の速度が速くて、キノコ発生が整斉であり、成長速度が速く、保存に耐える等の利点がある。子実体は、親本に比べて形態上で明らかな差異があり、生産量がより高くて、高い商業価値がある。YL1701-2に属する純結合の菌株である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒牛肝菌の菌株であって、
黒牛肝菌(Phlebopus portentosus)FC0580は、2021年3月3日に中国微生物菌種保存管理委員会の一般微生物センターCGMCCに保存され、保存番号がCGMCC NO.21921であることを特徴とする、黒牛肝菌の菌株。
【請求項2】
黒牛肝菌の生産における請求項1に記載の黒牛肝菌の菌株の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<相互参照>
本願は、出願番号が202110621298.8で、2021年6月3日に出願された中国特許に基づいて提出され、この中国特許出願の優先権を主張し、この中国特許出願の全ての内容は、参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、食用菌の人工育種技術分野に属し、特に、自家交雑育種により選抜・育種して得られ、生物学特性が優れており、工場での栽培条件に適応する黒牛肝菌の新菌株に関する。
【背景技術】
【0003】
黒牛肝菌(Phlebopus portentosus)は、牛肝菌目(Boletales)小牛肝菌科(Boletinellaceae)脈柄牛肝菌属(Phlebopus)の大型真菌で、暗褐色の網柄牛肝菌の俗称である。現在、黒牛肝菌は、宿主樹から離れて、成熟した子実体を育成し、人工栽培を実現できる牛肝菌種類であり、市場の見通しが広い。
【0004】
黒牛肝菌の人工栽培を成功させるためには、良質の菌種が重要である。現在、良質の菌種を得る方法には、主に野生ならしと交雑育種がある。うち、交雑育種は、良質の菌株を得る最も有効なルートであり、具体的な方法には、自家交雑、近縁交雑、異縁交雑及び遠縁交雑などが含まれる。交雑育種の作業過程には、選択、同定、スクリーニング及び拡大検証などの一環が含まれ、多くの場合、商業的に価値のある菌株を得るために、数千数万ものペアをスクリーニングする必要がある。黒牛肝菌は、近親交雑の場合、1つの個体が生産する配偶子が75%の確率で非親和的になり、25%の確率だけが親和的になる四極交雑系に属するため、近親配偶子を選択して交雑する自家交雑手段は、遠親配偶子の交雑よりもはるかに多くの労力を必要とするのである。他の交雑方式に比べて、自家交雑は良質な遺伝子を集め、純粋に結合する利点があるため、多くの育種作業者にも選ばれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、本発明の実施例では、優れた栽培形質を有し、工場生産に適した黒牛肝菌の菌株FC0580を提供すると共に、このFC0580菌株の黒牛肝菌の生産における応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するために、主に以下の技術解決策を提供する。
【0007】
一態様において、本発明の実施例は、黒牛肝菌の菌株YL1701-2の自家交雑により得られ、分類学上の名称が黒牛肝菌(Phlebopus portentosus)FC0580であって、すでに2021年3月3日に中国微生物菌種保存管理委員会の一般微生物センターCGMCCに保存され、保存番号がCGMCC NO.21921である黒牛肝菌の菌株を提供する。
【0008】
本発明の菌株は、黒牛肝菌の菌株YL1701-2単胞子菌糸の自家交雑により得られる。その子実体形態の特徴は、菌蓋が茶褐色、菌柄が黄色、酒瓶形状で比較的に長く、菌孔が黄色、肉質が緻密で固く、菌肉が黄金色であり、調理後の菌肉はほとんど褐変せず、土臭さが薄い等が含まれる。SSR標識の鑑別により、菌株YL1701-2と一定の遺伝的差異があり、一部の標識は純粋な結合を現れる。
【0009】
別の態様において、本発明の実施例は、黒牛肝菌の生産における上記黒牛肝菌FC0580菌株の応用を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の利点は、以下の通りである。
この菌株は、遺伝的に安定しており、活力が強く、後期にキノコ発生の速度が速くて、キノコ発生が整斉で、成長速度が速く、保存に耐えるなどの利点がある。子実体は、親本に比べて形態上で明らかな差異があり、生産量がより高くて、高い商業価値がある。また、YL1701-2に属する純粋な菌株であり、現在、黒牛肝菌の工場化栽培に使用されている菌株YL1701-2と比べて、FC0580菌株は、栽培形質がより安定しており、キノコ発生の過程で成長力がより強く、生産量がより高く、汚染防止能力がより強く、菌柄が酒瓶形状になり、牛肝菌の俗称「大足茸」の形態特徴に合致し、黒牛肝菌の工場での生産に適切な新品種であり、高い商業価値を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例3における非重み付けペア算術平均法(UPGMA)のクラスタ分析結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を組み合わせて、本発明をさらに詳細に説明するが、実施例は本発明の技術的解決策を限定するものではなく、本発明の教示に基づく均等な置き換えまたは変更は、全て本発明の保護範囲に属するべきである。
【0013】
本発明に使用される原料等は、いずれも市販で購入可能な慣用品である。
【0014】
本発明に記載の黒牛肝菌の菌株は、黒牛肝菌の菌株YL1701-2を自家交雑して得られ、分類学上の名称が黒牛肝菌(Phlebopus portentosus)FC0580であって、すでに2021年3月3日に中国微生物菌種保存管理委員会の一般微生物センターCGMCCに保存され、保存番号がCGMCC NO.21921である。
【0015】
以下、本発明の黒牛肝菌の菌株及び応用について、具体的な実施例を組み合わせて、さらに詳細に説明する。
【0016】
<実施例1>
黒牛肝菌(Phlebopus portentosus)FC0580菌株の培養方法:本発明は、自家交雑の育種・選択方法により得られた。
【0017】
1.1 親本菌株YL1701-2の子実体培養及び胞子収集:
YL1701-2菌株の子実体を培養し、胞子を収集する。
【0018】
具体的には、キノコ房の中でキノコ型の成長勢いの良いYL1701-2菌株の子実体を選択し、子実体の菌蓋が完全に展開し、菌蓋の縁にある菌孔が明らかになった時点で胞子を採取して収集する。
【0019】
1.2 親本菌株YL1701-2の胞子塗布と単コロニーのトランスファー培養及び同定:
上記の手順で得られた胞子を培地に塗布し、トランスファー培養することにより、単核菌糸体を得る。うち、この培地は、M1培地を採用するのが適切しており、培地組成は、200gのジャガイモ(煮水)、20gのグルコース、2gの酵母ペースト、1gのMgSO、1gのKHPO、16gの寒天を1000mLまでに定容する。
【0020】
具体的には、収集した胞子を無菌水で希釈してM1培地に塗布し、胞子が発芽した後、M1培地に移して培養し、菌糸がいっぱい生えてきたら単核菌糸の同定を行い、保存する。
【0021】
1.3 単核菌糸の交配型を同定する。
【0022】
1.4 親和性のある胞子単核菌糸の対合、顕微鏡の観察、培養及びキノコ発生の検証:
上記の手順で得られた単核菌糸のうち、親和性のある単核菌糸を対合し、対合に成功した菌糸体を培地に移して培養した後、キノコ発生の検証を行い、黒牛肝菌FC 0580菌株を選択・育成する。
【0023】
具体的には、親和性のある胞子単核菌糸を対合した後、菌糸同士が接触するまで培養し、顕微鏡で検査を行い、特殊な場合に鎖状結合を形成していない菌株を排除する。対合に成功した菌糸は、斜面培地に移して培養する。菌糸体がいっぱい生えてきたら、キノコ発生を検証することができる。キノコ発生の検証では、自家交雑した菌株のキノコ発生率、キノコ発生の整列度、生産量、生成物の特性などを記録する。初スクリーニング、再スクリーニング、生産検証を経て、キノコ発生率が高く、汚染率が低く、平均生産量が高く、子実体の形態が完全で奇形がなく、肉質が硬くて保存に耐え、土臭さが薄い菌株を選んで育成して、最終的に本発明のFC0580菌株を選別・育成する。
【0024】
本発明の黒牛肝菌FC0580菌株は、黒牛肝菌の生産に応用され、FC0580菌株から生産された黒牛肝菌の生産量がより高くて、汚染の抵抗能力がより強くて、キノコを発生する過程で成長力がより強く、菌柄が酒瓶形状になり、牛肝菌の俗称「大足茸」の形態特徴に合致し、黒牛肝菌の工場での生産に適する。以下の実施例は、黒牛肝菌の生産におけるFC0580菌株の応用状況を提供する。
【0025】
<実施例2>
本発明におけるFC0580菌株の基本状況及び子実体の形態特徴:
2.1 培地
FC0580菌種に最も適した培地はM1培地であり、調合方法は、200gのジャガイモ(煮水)、20gのグルコース、2gの酵母ペースト、1gのMgSO、1gのKHPO、16gの寒天を1000mLまでに定容する。
【0026】
2.2 菌糸の成長状況
菌種FC0580は、M1培地で20日間成長し、コロニーが濃い黄褐色で、菌糸が濃密で、成長が旺盛であり、菌核がなく、吐水し、1日の成長量が3.01mm/日に達し、親本の菌株YL1701-2と比べて0.48mm/日速い。
【0027】
2.3 子実体の形態特徴
菌株FC0580の子実体形態は、親本の菌株YL1701-2と比較して、以下の共通点、相違点がある。
【0028】
共通点:菌蓋が銅色で、半球形で、菌柄が黄色、菌孔が黄色、食感に土臭さがなく、調理後に褐変が基本的にない。
【0029】
相違点:1)FC0580の菌蓋は直径が小さく、厚さが厚い。2)FC0580の菌柄が長く、酒瓶型になっており、上部が細く下部が太く、上下の直径差が大きく(約25~30mm)、YL1701-2の菌柄が円筒形になっており、上下の直径差が小さい(約8~16mm)。
【0030】
具体的なデータは表1を参照する。
【0031】
菌株FC0580とYL1701-2の栽培形質上の比較は、工場でのキノコ発生を経て検証し、下表のように示す。
【0032】
【0033】
菌株FC0580はYL1701-2と比較すると、栽培期間の所要時間、形質、キノコ発生の整列度が基本的に同じであり、キノコ発生率がやや低いが、キノコ発生までの土で覆う所要時間、栽培期間の汚染率及び単瓶の平均生産量が、菌株YL1701-2より優れている。これにより、菌株FC0580は、黒牛肝菌の工場化生産に適した菌株であると判断できる。
【0034】
<実施例3>
SSR分子を標識して鑑別する。
菌株FC0580、YL1701-2及びその他の6つの黒牛肝菌の菌株の菌糸体を収集し、DNAを抽出した後、本明細書に記載された21対のプライマーでDNAサンプルをPCR増幅し、プライマーを合成する際に、プライマーの順方向末端にFAMまたはHEX蛍光標識を付ける。PCR生成物はABI3730シーケンサを用いて遺伝子分類を行う。ソフトウェアGene mapper 4.1(Applied Biosystems Co.、Ltd.、USA)を用いて、プライマー対応関係のコア塩基反復数を参照して、正確な部位のデータを分析する。Popgene32を用いて対立遺伝子数、有効な対立遺伝子数、Shannon’s情報指数、期待ヘテロ接合度、観測ヘテロ接合度を計算する。NTSYSpc-2.10ソフトウェアを適用して遺伝的類似係数を計算し、非重み付けペア算術平均法(UPGMA)を用いてクラスタ分析を行う。UPGMAクラスタ分析結果を図1のように示す。
【0035】
使用される21対のSSRプライマー情報は、下表のように示される。
【0036】
【0037】
分析の結果、菌株FC0580は、鑑別するためのSSR部位において、その親本のYL1701-2を含む他の菌株と遺伝的に異なり、全く新しい菌株であることが示された。
【0038】
上述の内容は、本発明の好ましい実施例にすぎず、いかなる形式で本発明を制限するものではない。本発明の技術的実質に基づいて、上記の実施例に対して行ったいかなる簡単な修正、均等な変化及び修飾も、すべて本発明の技術的解決策の範囲内に属する。
図1
【国際調査報告】