(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を生産するための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/00 20060101AFI20230726BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20230726BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20230726BHJP
C07K 14/04 20060101ALI20230726BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230726BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230726BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230726BHJP
【FI】
C12P21/00 B ZNA
C07K1/18
C07K1/20
C07K14/04
C12N5/10
C12N1/00 B
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574801
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 KR2021008537
(87)【国際公開番号】W WO2022010213
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0085685
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】リー, グァン ベ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ミ スク
(72)【発明者】
【氏名】イム, ジョン エ
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ユ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ハン, スン ヨル
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユ, ジ ソン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG32
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064CE11
4B065AA90X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA45
4H045AA11
4H045BA09
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA21
4H045GA23
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原の生産のための方法に関する。本発明による水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原の生産のための方法は、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を高収率及び高純度で得ることができる有効な生産方法である。したがって、本方法は、水痘又は帯状疱疹を予防又は治療するためのワクチン組成物として使用するための水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原の生産のために有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)表面タンパク質(gE)抗原を生産する方法であって、
(a)VZVgE抗原を生産する組換え細胞株を培養して培養液を得るステップ、及び
(b)前記培養液を精製するステップを含む方法。
【請求項2】
前記培養液を得るステップ(a)が、
(a-1)前記組換え細胞株に種培養を実行するステップ、及び
(a-2)前記種培養を行った前記細胞株に対して生産培養を実行するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養液を精製するステップ(b)が、
陰イオン交換クロマトグラフィーを実行するステップ、
疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行するステップ、
前記培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化するステップ、
混合モードクロマトグラフィーを実施するステップ、並びに
濃縮及び濾過を実行するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培養液を精製するステップ(b)が、
(b-1)陰イオン交換クロマトグラフィーを実行するステップ、
(b-2)疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行するステップ、
(b-3)前記培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化し、次いで濃縮及びダイアフィルトレーションを実行するステップ、
(b-4)混合モードクロマトグラフィーを実行して溶出液を得るステップ、並びに
(b-5)前記溶出液を濃縮及びダイアフィルトレーションに供し、次いでナノ濾過を実行するステップを含み、前記ステップが一連の順序で実行される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記VZVgE抗原が、配列番号1によって表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞株が、配列番号2によって表されるヌクレオチド配列からなる遺伝子で形質転換されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記種培養を実行するステップ(a-1)が、前記VZVgE抗原生産細胞株を、継代培養、懸濁培養、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つの方法によって培養することである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記種培養を実行するステップ(a-1)が、前記細胞株を34℃~38℃の温度で培養することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記生産培養を実行するステップ(a-2)が、前記細胞株を34℃~35.5℃の温度で培養することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーでは、塩化ナトリウム濃度が0.1mM~150mMの洗浄緩衝液を使用する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項11】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーでは、塩化ナトリウム濃度が400mM~600mMの溶出緩衝液を使用する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルス不活化剤がリン酸溶液である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスを不活化するステップがpH2.8~3.2の条件下で実行される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ濾過ステップ(b-5)では、ナノフィルターを用いた濾過系を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(b-5)の後に、前記ナノ濾過によって得られた濾液を製剤化緩衝液で希釈し、次いで濾過を実行するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を生産するための方法に関する。
【0002】
[背景技術]
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、主に小児及び青少年に水痘を引き起こすウイルスである。一度感染すると、VZVは感覚根や脳神経節細胞に休眠状態で数年間残存し、成人期に免疫が低下した際に、再活性化して帯状疱疹を引き起こす。水痘は感染力が非常に強く、一度感染すると発熱や倦怠感を伴った全身の水疱状の発疹が引き起こされる。ほとんどの健常児では、水痘が重篤な状態に進行することは稀で、やがて自然治癒疾患に進行する。しかし、臓器移植又は化学療法を受けた患者では、水痘が重篤な症状に進行する多くの症例が生じることが知られている(Adriana Weinberg他、J Infectious Diseases、200(7):1068、2009;Judith Breuer他、Expert Review of Vaccines、2017、DOI:10.1080/14760584.2017.1394843)。
【0003】
帯状疱疹は、体のうずきのような全身のうずき及び疼痛の初期症状、又はナイフで刺されたような激しい疼痛を伴う、激しい痒み、ピリピリ感、及び灼熱感の感覚を有する。帯状疱疹は、数日後に水ぶくれができ、皮膚病変が増えるにつれて疼痛が増加し、年配の患者はより激しい疼痛を訴える傾向がある疾患である。帯状疱疹が治癒した場合でも、後遺症として神経痛が残ることがある。60歳以上の人では、神経痛は断続的な睡眠の原因となることがあり、慢性疲労を訴えたり、軽い接触若しくは摩擦でも激痛を感じたり、うつ状態の原因にさえなったりすることが知られているが、40歳以下の成人ではこのような神経痛は比較的稀である。
【0004】
岡株を使用して生産された弱毒生ワクチンであるゾスタバックス(ZOSTAVAX)(Merck & Co,Inc.)は、帯状疱疹に対する予防ワクチンとして開発された。このワクチンは、ワクチンに大量のウイルスが含まれているので、米国及び韓国では、小児や青少年ではなく、50歳以上の成人に使用するという条件で承認され、販売されている。近年、ウイルス表面タンパク質(gE)及びアジュバントで構成されているワクチンが、50歳以上の成人を対象として、GlaxoSmithKline Biologicals SAによって開発され、臨床試験で予防効果があることが証明された(米国特許第7,939,084号)。
【0005】
[発明の開示]
技術的課題
したがって、本発明者等は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)表面タンパク質(gE)抗原の生産性を、その免疫原性に影響を与えることなく増加させることが可能な方法の研究を行なう一方で、VZVgE抗原の生産性を改善することができる培養及び精製方法を見出し、そして本発明を完成させた。
【0006】
課題の解決
本発明の一態様では、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)表面タンパク質(gE)抗原を生産するための方法であって、(a)VZVgE抗原を産生する組換え細胞株を培養して培養液を得るステップ;及び(b)培養液を精製するステップを含む方法を提供する。
【0007】
培養液を得るステップ(a)は、(a-1)組換え細胞株に対して種培養を実行するステップ、及び(a-2)種培養を行った細胞株に対して生産培養を実行するステップを含んでいてもよい。
【0008】
培養液を精製するステップ(b)は、陰イオン交換クロマトグラフィーを実行するステップ、疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行するステップ、培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化するステップ、混合モードクロマトグラフィーを実行するステップ、並びに濃縮及び濾過を実行するステップを含んでいてもよい。
【0009】
本発明の有利な効果
本発明による水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を生産するための方法は、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を高収率及び高純度で得ることができる有効な生産方法である。したがって、この方法は、水痘又は帯状疱疹を予防又は治療するためのワクチン組成物として使用するための水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原を生産するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、VZVgE抗原の生産のための培養及び精製を実行する工程を示すフローチャートを示した図である。
【
図2】
図2は、pMSID2-MGgEベクターの作製の工程を示す模式図である。
【
図3】
図3は、VZVgE及び細胞株の種類に応じて、VZVgEの生産性をウェスタンブロッティングで確認することによって得られた結果を示した図である。
【
図4】
図4は、VZVgE及び細胞株の種類に応じて、VZVgEの生産性をELISAで確認することによって得られた結果を示した図である。
【
図5a】
図5Aは、MGgE導入細胞株の生産培養ステップにおける培養温度変化に応じて、生細胞密度(VCD)を確認することによって得られた結果を示した図である。
【
図5b】
図5Bは、MGgE導入細胞株の生産培養ステップにおける培養温度変化に応じて、生産性を確認することによって得られた結果を示した図である。
【
図6a】
図6Aは、MGgE導入細胞株の生産培養ステップにおける培養温度に応じて、生細胞密度を確認することによって得られた結果を示した図である。
【
図6b】
図6Bは、MGgE導入細胞株の生産培養ステップにおける培養温度に応じて、生産性を確認することによって得られた結果を示した図である。
【0011】
[本発明を実施するための最良の形態]
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の一態様では、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)表面タンパク質(gE)抗原を生産する方法であって、(a)VZVgE抗原を産生する組換え細胞株を培養して培養液を得るステップ、及び(b)培養液を精製するステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明では、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原は、国際公開第2019/225962号で開示された水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原の1つであることが好ましい。詳細には、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原(MGgE)は、配列番号1によって表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよく、このポリペプチドは、配列番号2によって表されるヌクレオチド配列からなる遺伝子によってコードされていてもよい。
【0014】
配列番号1のアミノ酸配列によって表される水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原は、配列番号3のアミノ酸配列によって表される水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原に由来する水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原バリアントであり、かかる抗原バリアントは水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原の537番目のアミノ酸残基でカルボキシ末端が切断されている変種を含む。
【0015】
537番目のアミノ酸残基でカルボキシ末端が切断されている変種とは、アミノ末端(N末端)からカルボキシ末端(C末端)の方向に、1番目から537番目のアミノ酸残基が残り、538番目のアミノ酸残基からカルボキシ末端までの連続するアミノ酸残基が切断されていることを意味する。
【0016】
VZVgE抗原を産生する細胞株は、配列番号2によって表されるヌクレオチド配列からなるVZVgE抗原をコードする遺伝子で形質転換された細胞株であってもよい。細胞株は、このVZVgE抗原をコードする遺伝子を含有する発現ベクターを有していていもよい。本発明の一実施形態では、発現ベクターは、韓国特許第1591823号で開示されたpMSID2ベクターを含む発現ベクターであってもよい。しかし、発現ベクターには、VZVgE抗原の細胞株へのトランスフェクションに適している限り、任意のベクターを制限なく使用することができる。
【0017】
本明細書で使用したように、「ベクター」という用語は、宿主細胞に導入されて組換えられ、宿主細胞のゲノムに挿入され得るか、又はエピソームとして自発的に複製することができるヌクレオチド配列を含む核酸手段を意味する。適切な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーなどの発現調節要素、並びに膜標的化又は分泌のためのシグナル配列又はリーダー配列を含み、それらの目的に応じて様々に作製することができる。開始コドン及び終止コドンは、標的タンパク質をコードする遺伝子構築物が個体に投与されたときに個体において作用しなければならず、コード配列とインフレームでなければならない。
【0018】
本発明の一実施形態によるベクターでトランスフェクト又は形質転換された宿主細胞又は非ヒト宿主対象は、ベクターで遺伝子改変されている宿主細胞又は非ヒト宿主対象であってもよい。本明細書で使用したように、「遺伝子改変された」という用語は、宿主細胞、非ヒト宿主対象、先祖、又は親が、それ自体のゲノムに加えて、宿主細胞、非ヒト宿主対象、先祖、又は親に入れられた、本発明の一実施形態によるポリヌクレオチド又はベクターを含むことを意味する。さらに、本発明の一実施形態によるポリヌクレオチド又はベクターは、遺伝子改変された宿主細胞又は非ヒト宿主対象において、独立した分子として、詳細には複製可能な分子として、そのゲノムの外側に存在することができるか、又は宿主細胞又は非ヒト宿主対象のゲノムに安定的に挿入され得る。
【0019】
本発明の一実施形態による宿主細胞は、真核細胞である。真核細胞には、真菌細胞、植物細胞、又は動物細胞が含まれる。真菌細胞の例には、酵母、詳細にはサッカロマイセス種(Saccharomyces sp.)の酵母、より詳細にはサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含めることができる。さらに、動物細胞の例には、昆虫細胞又は哺乳動物細胞が含まれ、動物細胞の特定の例には、HEK293、293T、NSO、CHO、MDCK、U2-OSHela、NIH3T3、MOLT-4、Jurkat、PC-12、PC-3、IMR、NT2N、Sk-n-sh、CaSki、C33Aなどが含まれる。さらに、当技術分野で周知の適切な細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)などの細胞株寄託機関から入手することができる。
【0020】
本発明によるVZVgE抗原は、細菌、酵母、哺乳動物細胞、植物、及びトランスジェニック動物などの様々な種類の生物において発現させることができる。好ましくは、タンパク質治療剤に関する規制及び生産されたタンパク質がその天然の形態に類似している必要があるという事実を考慮して、哺乳動物細胞を使用することができる。哺乳動物細胞の例には、不死ハイブリドーマ細胞、NS/Oミエローマ細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、HeLa細胞、CapT細胞(ヒト羊水由来細胞)、COS細胞などが含まれる。本発明の一実施形態によれば、哺乳動物細胞としてCHODG44細胞を使用することができる。
【0021】
本発明による発現ベクターを上記の細胞株に導入するために、当技術分野で公知の技術を使用することができ、その例には、エレクトロポレーション、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、及び塩化カルシウム(CaCl2)沈殿が含まれる。
【0022】
詳細には、培養液を得るステップ(a)は、(a-1)組換え細胞株に対して種培養を実行するステップ、及び(a-2)種培養を行った細胞株に対して生産培養を実行するステップを含んでいてもよい。
【0023】
本明細書で使用したように、「種培養」という用語は、細胞株を大量に得ることを目的とした培養を意味する。種培養は、細胞数を最も活発に増加させる温度条件で実行することができる。言い換えると、種培養は、細胞株について一定数の細胞が得られるように実行することができる。
【0024】
本明細書で使用したように、「生産培養」という用語は、組換えタンパク質を生産することを目的とした細胞株の大量培養を意味する。
【0025】
種培養を実行するステップ(a-1)は、VZVgE抗原生産細胞株を、継代培養、懸濁培養、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つの方法によって培養することであってもよい。例えば、VZVgE抗原産生細胞株の種培養は、継代培養及び懸濁培養によって実行することができ、その生産培養は懸濁培養によって実行することができる。
【0026】
本明細書で使用したように、「継代培養」という用語は、細胞株を培養周期に応じて同じか又は異なる新鮮な培地に移しながら細胞株を培養する方法を意味する。
【0027】
本発明の一実施形態では、継代培養は、細胞株を同じ新鮮な培地に1~7日、2~5日、又は3~4日の間隔で移して接種することによって実施することができる。ここで、接種する細胞数は、2×105細胞/mL~5×105細胞/mL、3×105細胞/mL~4×105細胞/mL、又は4×105細胞/mLであってもよいが、これらに限定されない。さらに、継代培養におけるCO2濃度は、4.0%~6.0%、4.5%~5.5%、又は5.0%であってもよいが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用したように、「懸濁培養」という用語は、細胞を培養液に懸濁する培養方法を意味する。血液細胞又は腹水中のがん細胞など、インビボにおいても懸濁状態で増殖する細胞に対しては、震盪又は回転を行うことなく懸濁培養を実施することができるが、ほとんどの場合、攪拌翼を回転させるか(攪拌培養)、各培養瓶を震盪するか(震盪培養)、又はインキュベーターを回転させる(回転培養)ことによって懸濁培養を実施することができる。
【0029】
本発明の一実施形態では、懸濁培養は、86rpm~96rpm、88rpm~94rpm、又は90rpm~92rpmの攪拌速度条件で実施することができるが、攪拌速度はこれに限定されない。懸濁培養において接種する細胞数は、2×105細胞/mL~5×105細胞/mL、3×105細胞/mL~4×105細胞/mL、又は4×105細胞/mLであってもよいが、これらに限定されない。さらに、pHは、pH6.7~pH7.1、又はpH6.8~pH7.0であってもよい。さらに、溶存酸素濃度は、10%~90%、20%~80%、又は30%~60%であってもよいが、これらに限定されない。
【0030】
細胞培養、特に動物細胞培養により組換えタンパク質を生産する場合、培養期間を延長するにつれて生産性が増加するように細胞増殖に適した温度で培養を実行して、その後は細胞分裂周期を停止させ、したがって組換えタンパク質生産への切り替えが達成されるように細胞増殖に適した温度よりも低い温度で培養を実行することが一般的である(「Enhancement of productivity of recombinant α-amidating enzyme by low temperature culture」、Furukawa K他、Cytotechnol、1999、31巻、85~94;及び「Enhancing Effect of Low Culture Temperature on Specific Antibody Productivity of Recombinant Chinese Hamster Ovary Cells:Clonal Variation」Yoon S K他、Biotechnol Prog、2004、20巻、1683~1688)。しかし、本発明者等は、VZVgE抗原を生産するための細胞株培養の場合、培養温度を変化させずに細胞株増殖に適した温度よりも低い温度で生産培養を実行するか、種培養及び/又は生産培養を一定温度条件下で実行するか、又は種培養及び生産培養を一定の低温条件下で実行することが、収率及び純度の点で有利であることを突き止めた。
【0031】
詳細には、種培養を実行するステップ(a-1)は、細胞株を34℃~38℃の温度で培養することを含んでいてもよい。さらに、生産培養を実行するステップ(a-2)は、細胞株を34℃~35.5℃の温度で培養することを含んでいてもよい。例えば、細胞株に36℃~38℃、36.5℃~37.5℃、又は37℃の温度で種培養を行い、その後、種培養を行った細胞株に34℃~35.5℃、34.5℃~35.5℃、又は35℃の温度で生産培養を行ってもよい。さらに、細胞株に34℃~35.5℃、34.5℃~35.5℃、又は35℃の温度で種培養を行い、その後、種培養を行った細胞株に34℃~35.5℃、34.5℃~35.5℃、又は35℃の温度で生産培養を行ってもよい。さらに、細胞株に34℃~35.5℃の温度範囲内の一定温度で種培養及び生産培養を行ってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態では、生産培養は、懸濁培養によって実行することができる。ここで、懸濁培養は、62rpm~72rpm、64rpm~70rpm、又は66rpm~68rpmの攪拌速度条件で実行することができるが、攪拌速度はこれに限定されない。懸濁培養において接種する細胞数は、2×105細胞/mL~5×105細胞/mL、3×105細胞/mL~4×105細胞/mL、又は4×105細胞/mLであってもよいが、これらに限定されない。上記の細胞数は、VZVgE抗原の生産培養に最適な細胞密度に対応している。細胞密度が2×105細胞/mL未満の場合、細胞数が少なすぎるため得られるタンパク質量が少なく、細胞密度が5×105細胞/mLを超える場合は、細胞片などの宿主細胞タンパク質(HCP)も多く生成され、精製工程で薬事基準を満たす濃度までHCPを除去することが困難であるという問題がある。さらに、pHは、pH6.7~pH7.1、又はpH6.8~pH7.0であってもよい。さらに、溶存酸素濃度は、10%~90%、20%~80%、又は30%~60%であってもよいが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の一実施形態では、培養は、フラスコ又はバイオリアクターで実行することができる。しかし、本発明はこれらに限定されない。フラスコ及びバイオリアクターの種類並びに培養条件は、当業者が通常調整できる範囲内で変更することができる。詳細には、動物細胞の懸濁培養が可能なウェーブバイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクターなどを使用することができ、培養液は、CO2又は炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムなどの塩基溶液を使用して、pH6.8~7.2にpH調整して使用することができる。しかし、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
例えば、種培養は、細胞株を震盪フラスコに接種し、継代培養及び懸濁培養を実施して、一定数の細胞を得ることによって実行することができ、生産培養は、一定数の細胞が得られた細胞株をバイオリアクターに接種し、懸濁培養を実施して、組換えタンパク質を得ることによって実行することができる。
【0035】
培養液を精製するステップ(b)は、陰イオン交換クロマトグラフィーを実行するステップ、疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行するステップ、培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化するステップ、混合モードクロマトグラフィーを実行するステップ、並びに濃縮及び濾過を実行するステップを含んでいてもよい。クロマトグラフィー工程、ウイルス不活化工程、並びに濃縮及び濾過工程は、最適な生産収率を達成するために、様々な順序で実行することができる。
【0036】
本発明の一実施形態では、培養液を精製するステップ(b)は、(b-1)陰イオン交換クロマトグラフィーを実行するステップ、(b-2)疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行するステップ、(b-3)培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化し、次いで濃縮及びダイアフィルトレーションを実行するステップ、(b-4)混合モードクロマトグラフィーを実行して溶出液を得るステップ、並びに(b-5)溶出液を濃縮及びダイアフィルトレーションに供し、次いでナノ濾過を実行するステップを含んでいてもよく、ステップは一連の順序で実行される。
【0037】
さらに、培養液精製ステップ(b)の前に、培養液から細胞片を除去するための処理工程を培養液に行ってもよい。例えば、培養液に濾過を行うことによって得られた培養濾液に精製ステップを行ってもよい。ここで、濾過に使用した濾材はデプスフィルターであってもよい。さらに、濾材の孔径は、1μm以下、0.5μm以下、0.45μm以下、0.3μm以下、0.25μm以下、又は0.2μm以下であってもよく、様々な直径の濾材の混合物を使用することができる。
【0038】
本明細書で使用したように、「クロマトグラフィー」という用語は、特定の緩衝条件下で、混合物中の目的の溶質、例えば、目的のタンパク質を他の溶質から分離する工程を意味し、分離は、pI、疎水性、サイズ、及び構造などの溶質の特性により、程度の差はあるが強く溶質を吸着又は保持する吸着剤によって、混合物の浸出によって達成される。
【0039】
培養液精製ステップ(b)では、陰イオン交換クロマトグラフィーを使用することができる。陰イオン交換クロマトグラフィーは、培養液又は培養濾液中に含有されている液体培地組成物及び不純物の除去を導くことができる。陰イオン交換クロマトグラフィーは、DEAEセルロース、Poros PI20、PI50、HQ10、HQ 20、HQ50、D50(Applied Biosystems)、MonoQ、MiniQ、Source15Q及び3OQ、Q、DEAE及びANX Sepharose Fast Flow、QセファロースHigh Performance、QAE SEPHADEXTM及びQセファロースFast Flow(GE Healthcare)、WP PEI、WP DEAM、WP QUAT(J.T.Baker)、Hydrocell DEAE及びHydrocell QA(Biochrom Labs Inc.)、UNOsphere Q、Macro-Prep DEAE及びMacro-Prep High Q(Biorad)などの樹脂を使用して実施することができるが、Q Sepharose Fast Flow樹脂が好ましい。
【0040】
さらに、カラムをpH7.0±0.2に平衡化した後、精製する培養液を150±15cm/hrの流速で添加することができる。樹脂の種類、pH、及び流速などの条件は、前述の条件に限定されることはなく、当業者が通常調整できる範囲内で変更することができる。
【0041】
さらに、陰イオン交換クロマトグラフィーでは、塩化ナトリウム濃度が150mM以下、0.1mM~150mM、10mM~150mM、又は100mM~150mMの洗浄緩衝液を使用することができる。さらに、塩化ナトリウム濃度が400mM~600mM、450mM~550mM、又は500mMの溶出緩衝液を使用することができる。塩化ナトリウム濃度が上記範囲内である洗浄緩衝液及び溶出緩衝液を使用して精製を実行する場合、VZVgE抗原を含有する培養液中の不純物含有量を最小限に抑えることができる。
【0042】
培養液精製ステップ(b)では、疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用することができる。疎水性相互作用クロマトグラフィーは、液体培地組成物及び不純物を除去するために使用することができる。疎水性相互作用クロマトグラフィーは、ブチルFF、ブチルHP、オクチルFF、フェニルFF、フェニルHP、フェニルFF(high sub)、フェニルFF(low sub)、カプトフェニルImpRes、カプトフェニル(high sub)、カプトオクチル、カプトブチルImpRes、カプトブチル(GE Healthcare)、トヨパール(TOYOPEAL)(登録商標)スーパーブチル-550C、トヨパール(登録商標)ヘキシル-650C、ブチル-650C、フェニル-650C、ブチル600M、フェニル-600M、PPG-600M、ブチル-650M、フェニル-650M、エーテル-650M、ブチル-650S、フェニル-650S、エーテル-650S、TSKgelフェニル-5PW、TSKgelエーテル-5PW(Tosoh Bioscience)などの樹脂を使用して実施することができるが、トヨパール(登録商標)ブチル-650M(Tosoh Bioscience)が好ましい。
【0043】
さらに、カラムをpH7.0±0.2に平衡化した後、精製する培養液、例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出液を100±10cm/hrの流速で添加することができる。ここで、精製前に、1~10M、2~8M、3~7M、又は5Mの塩化ナトリウムを精製する溶液に添加してもよい。さらに、塩化ナトリウムを含有している洗浄緩衝液を使用してもよいし、塩化ナトリウムを含有していない溶出緩衝液を使用してもよい。樹脂の種類、pH、及び流速などの条件は、前述の条件に限定されることはなく、当業者が通常調整できる範囲内で変更することができる。
【0044】
培養液精製ステップ(b)は、培養液をウイルス不活化剤で処理してウイルスを不活化するステップを含んでいてもよい。ウイルス不活化工程は、精製するVZVgE抗原を含有する溶液中の潜在的なエンベロープウイルスの不活化を導くことができる。
【0045】
詳細には、ウイルス不活化剤はリン酸溶液であってもよい。例えば、溶出液のpHがpH2.8~pH3.2、pH2.9~pH3.1、又はpH3.0に調整されるように、ウイルス不活化剤を疎水性相互作用クロマトグラフィーの溶出液に添加してもよい。ウイルス不活化ステップでは、pHが2.8未満の場合、VZVgE抗原の構造が変性することがあり、pHが3.2を超える場合、ウイルスが不活化されないことがある。
【0046】
培養液精製ステップ(b)では、混合モードクロマトグラフィーを実行することができる。混合モードクロマトグラフィーは、VZVgE抗原を含有する溶液から二量体及び不純物の除去を導くことができる。混合モードクロマトグラフィーは、BAKERBOND ABX(登録)(J.Baker)、セラミックハイドロキシアパタイトタイプI及びII、並びにフッ化ハイドロキシアパタイト(BioRad)、並びにMEP及びMBI HyperCel(Pall Corporation)等の樹脂を使用して実行することができるが、セラミックハイドロキシアパタイトが好ましい。
【0047】
さらに、カラムをpH7.0±0.2に平衡化した後、精製する培養液、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィーの溶出液に濃縮及び濾過を実行することによって得られた溶液を100±10cm/hrの流速で添加することができる。混合モードクロマトグラフィーでは、樹脂の種類、緩衝液、及びpHなどの条件は前述の条件に限定されず、当業者が通常調整できる範囲内で変更することができる。
【0048】
培養液精製ステップ(b)は、濃縮及び濾過を実行するステップを含んでいてもよい。濃縮及び濾過工程は、培養液の精製工程中に複数回実行することができ、各クロマトグラフィーステップの間、クロマトグラフィーステップとウイルス不活化ステップとの間、又はクロマトグラフィーステップ若しくはウイルス不活化ステップの後に実行することができる。
【0049】
例えば、混合モードクロマトグラフィーを実行する前に、濃縮及び濾過を実行して混合モードクロマトグラフィーに適した条件を有する溶液を得ることができる。例えば、VZVgE画分の濃縮は、限外濾過及び/又はダイアフィルトレーションによって達成することができ、1つ又は複数のタンジェンシャルフロー濾過(TFF)ステップを含むことができる。
【0050】
さらに、混合モードクロマトグラフィーを実行した後に、濃縮及び濾過を実行してVZVgE抗原濃度を調整することができる。ここで、濾液のpH及び導電率が所望の値に達するまでダイアフィルトレーションを実行してもよく、その後限外濾過を使用してタンパク質濃度を調整してもよい。
【0051】
さらに、培養液精製ステップ(b)は、濃縮及び濾過した混合モードクロマトグラフィーの溶出液にナノ濾過を実行するステップを含んでいてもよい。ここで、ナノ濾過には、ナノフィルターを用いた濾過系を使用してもよい。VZVgE抗原を含有する溶液からウイルスを分離するために、ナノ濾過は、例えば、75nm、50nm未満、又は15nm未満の孔径を有するナノフィルターを使用して実行することができる。
【0052】
培養液精製ステップ(b)は、ナノ濾過によって得られた濾液を製剤化緩衝液で希釈し、次いで濾過を実行するステップをさらに含んでいてもよい。ここで、濾過は、孔径が0.05~0.8μm、0.07~0.6μm、又は0.1~0.4μmのマイクロフィルターを使用して実行することができる。
【0053】
培養液精製ステップ(b)中にナノ濾過によって得られた濾液を希釈し、マイクロフィルターを使用して濾過した場合、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上の収率でタンパク質を得ることができる。さらに、精製培養液中のHCP含有量は、約180ppm以下、170ppm以下、160ppm以下、150ppm以下、100ppm以下、80ppm以下、70ppm以下、60ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、10ppm以下であってもよい。
【0054】
本発明の様式
以後、以下の実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、例示のみを目的としており、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0055】
実施例1.水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原のための発現ベクターの構築及び形質転換
国際公開第2019/225962号で開示された水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)表面タンパク質(gE)抗原バリアント遺伝子(MGgE;配列番号2)は、韓国特許第1591823号で開示されたpMSID2ベクターにクローニングされ、pMSID2-MGgE発現ベクターを構築した(
図2)。次に、発現ベクターを、合成培地(CDM4CHO(+0/20nM MTX;メトトレキサート)に適合しているCHO DG44(Thermo Fisher Scientific、USA)宿主細胞にトランスフェクトし、水痘帯状疱疹ウイルス表面タンパク質抗原(MGgE;配列番号1)を強く発現する細胞株(MGgE-CHO DG44)を作製した。
【0056】
実施例1.1.抗原及び細胞株に応じたタンパク質生産性の確認
抗原及び細胞株の種類に応じたタンパク質生産性を確認するために、実施例1で構築したpMSID2-MGgE発現ベクター及び韓国特許第1357204号で開示された切断型gE抗原(GSKgE;配列番号4)をコードする遺伝子をpMSID2ベクターにクローニングすることによって構築したpMSID2-GSKgE発現ベクターをそれぞれ、合成培地(CD forti CHO(+50nM MTX))に適合させたCHO-S宿主細胞にトランスフェクトして、細胞株(MGgE-CHO-S及びGSKgE-CHO-S)を作製した。
【0057】
MGgE-CHO DG44、MGgE-CHO-S、及びGSKgE-CHO-Sをそれぞれ合成培地で6日間培養した後、VGVgEの発現レベルをウェスタンブロッティング及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって調べた。
【0058】
結果として、
図3及び
図4を参照すると、MGgEはCHO-S細胞株においてGSKgEよりも優れた生産性を示し、MGgEはCHO DG44細胞株においてCHO-S細胞株よりもはるかに優れた生産性を示した。特に、MGgEは、CDM4CHO(+20nM MTX)培地に適合しているCHO DG44(S)細胞株において最高の生産性を示した。
【0059】
実施例2.MGgE生産のための培養方法の確立
実施例2.1.細胞株の一定数の細胞を得るための種培養
実施例1で作製したMGgE-CHO DG44細胞株を500mLフラスコ中の全量100mLに3×105細胞/mL以上で接種し、36℃~38℃及び4%~6%CO2の条件下で培養した。その後、フラスコの容量を増やしながら2~4日間隔で細胞株を2×105細胞/mL~5×105細胞/mLで全量200mL~800mLに接種するステップを繰り返し、一定数の細胞を得た。フラスコ内で得られた細胞をバイオリアクターに2×105細胞/mL~5×105細胞/mLの濃度で接種し、その後36℃~38℃、pH6.7~pH7.1、溶存酸素10%~90%、及び攪拌速度86rpm~96rpmの条件下で懸濁培養を実施した。このようにして、一定数の細胞が得られた。
【0060】
実施例2.2.MGgE抗原の生産培養
一定数の細胞が実施例2.1で得られたMGgE-CHO DG44細胞株をバイオリアクターに2×105細胞/mL~5×105細胞/mLの細胞濃度で接種し、その後34℃~35.5℃の温度、pH6.7~pH7.1、溶存酸素10%~90%、及び攪拌速度62rpm~72rpmの条件下で懸濁培養を実施した。
【0061】
実施例2.3.MGgE抗原の定量
以下の実施例では、MGgE抗原の含有量を測定するためにELISAを実行した。詳細には、VZVgE抗体(カタログ番号sc-17549、200μg/mL)をPBSで1μg/mLの濃度に希釈した後、得られたものをウェル当たり100μLで96ウェルELISAプレートに添加した。一晩インキュベ-ション(コーティング)を4℃で実行した。プレートを洗浄液(0.05%Tween20/リン酸緩衝生理食塩水(PBS))で3回洗浄した後、2%BSAを含有するPBS溶液で1時間インキュベートした。ELISAプレートを再度洗浄した後、希釈試料を添加して2時間インキュベートした。次に、プレートを再度洗浄した。培養液試料それぞれを遠心分離した後、上清を-20℃以下で保存した。試料は測定1時間前に室温で解凍して使用した。VZVgE抗体(カタログ番号sc-56995、100μg/mL)を1μg/mLの濃度に希釈し、ウェル当たり100μLで添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄した。次に、ヤギ抗マウスIgG-HRPを1/1000の濃度に希釈した後、プレートにウェル当たり100μLで添加した。プレートは室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、3,3,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)をプレートに添加してHRP反応を誘導した。次に、プレートにウェル当たり1NH2SO4を100μL分注して反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。測定された吸光度を検量線の式に代入し、得られた値に希釈係数を掛けることによって、試料の含有量を計算した。
【0062】
実験実施例1.培養温度変化後の生産性の確認
培養温度変化がMGgE抗原の生産性に及ぼす影響を確認するため、生産培養ステップ中に細胞が十分に増殖したと判断された時点で、実施例2.1で一定数の細胞が得られたMGgE-CHO DG44細胞株を、2×10
5細胞/mL~5×10
5細胞/mLの細胞濃度でバイオリアクターに接種し、懸濁培養を行った。その後、細胞株の細胞濃度がそれぞれ約60×10
5細胞/mL、80×10
5細胞/mL、150×10
5細胞/mLに達したとき、培養温度を32℃に低下させて生産培養を実施した。さらに、実施例2.1で一定の細胞数が得られたMGgE-CHO DG44細胞株を37℃の一定温度条件で生産培養し、その後MGgE抗原生産性を比較した(表1、
図5A及び
図5B参照のこと)。
【0063】
【0064】
結果として、表1並びに
図5A及び5Bを参照すると、温度変化が生じた場合、細胞株が生存している培養時間が長くなるのに対して、MGgE抗原生産性(q
P)はむしろ一定温度条件の場合よりも低かったことがわかった。
【0065】
このことは、MGgE抗原の生産培養中、MGgE-CHO DG44細胞株の培養温度を温度変化させずに一定範囲内に維持した場合、生産性が改善されることを示唆している。
【0066】
実験実施例2.生産温度に応じたMGgE抗原生産性の確認
実施例2.2におけるMGgE抗原の生産培養ステップでは、細胞濃度2×10
5細胞/mL~5×10
5細胞/mLでバイオリアクターに接種したMGgE-CHO DG44細胞株に、33℃~37℃の範囲内で選択した一定温度条件下で生産培養を行った(表2、
図6A及び6B)。
【0067】
【0068】
結果として、表2並びに
図6A及び6Bを参照すると、一般的なCHO細胞が増殖するために適した温度である37℃よりも低い低温培養条件下(34℃~35.5℃の一定温度条件)では、培養期間が長くなり、生産性が増加した。さらに、33.5℃以下の条件下では、細胞増殖が低下し、生産性は減少した。一方、q
Pは培養細胞数に関係しているという観点から、q
Pの値が33℃で高く計算されたのは、生産性が低いにも関わらず、細胞数が他のバッチと比較して非常に少ないからであった(積算VCD値を参照)。すなわち、34℃~35.5℃の低温条件は、MGgE-CHO DG44細胞株においてMGgE抗原生産の著しい改善を引き起こすことがわかった。
【0069】
実施例3.MGgE抗原の精製
実施例3.1.回収及び清澄化
実験実施例2における生産培養のための条件である35℃で培養した培養液(MG1120)については、培養液中の細胞片を除去するため、デプスフィルター(COHC Millipore、USA)を使用して回収及び清澄化を実行した。
【0070】
濾過中の圧力条件は0.9bar以下に維持し、細胞片を除去することによって得られた濾液は0.45±0.2μmフィルター(Sartopore II、Sartorius、Germany)で濾過して培養濾液を得た。
【0071】
実施例3.2.陰イオン交換クロマトグラフィー-洗浄緩衝液及び溶出緩衝液中の塩化ナトリウム濃度に応じた収率の比較
陰イオン交換クロマトグラフィーを実行して、実施例3.1で得られた培養濾液中に含有される液体培地組成物及び不純物を除去した。
【0072】
詳細には、カラムにQセファロースFF(GE Healthcare、USA)樹脂を充填し、次いで平衡化緩衝液を使用して7.0±0.2のpHに平衡化した。次に、実施例3.1で得られた培養濾液を、流量が150±15cm/hrになるようにカラムに添加した。その後、カラムを平衡化緩衝液及び塩化ナトリウムを含有する洗浄緩衝液で順次洗浄した。その後、塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝液を使用してMGgE抗原を溶出し、収集した。
【0073】
洗浄緩衝液及び溶出緩衝液に含有される塩化ナトリウムの濃度を変化させた場合、陰イオン交換クロマトグラフィーステップにおける収率を比較した。
【0074】
詳細には、陰イオン交換クロマトグラフィーは、150mM、200mM、又は250mMの塩化ナトリウムを含有する洗浄緩衝液及び500mMの塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝液を使用して実行した(表3)。
【0075】
【0076】
結果として、表3を参照すると、洗浄緩衝液中の塩化ナトリウム濃度が150mMの場合、MGgE当たりの不純物の含有量が最も低かった。
【0077】
したがって、陰イオン交換クロマトグラフィーは、150mMの塩化ナトリウムを含有する洗浄緩衝液及び400mM、500mM、600mMの塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝液を使用して実行した(表4)。
【0078】
【0079】
結果として、表4を参照すると、500mMの塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝液を使用した場合、MGgE当たりの不純物の含有量が最も低かった。
【0080】
したがって、MGgE抗原の精製ステップ中の陰イオン交換クロマトグラフィーにおける洗浄緩衝液及び溶出緩衝液に含有される塩化ナトリウムの最適濃度はそれぞれ、150mM及び500mMである。
【0081】
実施例3.3.疎水性相互作用クロマトグラフィー
疎水性相互作用クロマトグラフィーは、実施例3.2で得られた陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出液に対して実行し、それまで除去されなかった液体培地組成物及び不純物を除去した。
【0082】
詳細には、カラムにトヨパールブチル-650M(Tosoh)樹脂を充填し、次いで平衡化緩衝液を使用して7.0±0.2のpHに平衡化した。次に、実施例3.2で得られた陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出液に塩化ナトリウム5Mを添加し、結果として得られたものを流速が100±10cm/hrになるようにカラムに添加した。その後、カラムを平衡化緩衝液及び塩化ナトリウム1Mを含有する洗浄緩衝液で順次洗浄した。その後、塩化ナトリウムを含有しない溶出緩衝液を使用してMGgE抗原を溶出し、収集した。
【0083】
実施例3.4.ウイルス不活化
MGgE抗原を含有する溶液中の潜在的なエンベロープウイルスを不活化するために、溶媒を添加してウイルス不活化ステップを実行した。
【0084】
詳細には、実施例3.3で得られた疎水性相互作用クロマトグラフィーの溶出液にリン酸を添加して、溶出液のpHを3.0±0.2に調整し、室温で100±20rpmで30分間(対照)攪拌し、ウイルスを不活化した。次に、リン酸二ナトリウムを使用してpHを6.5±0.5に調整した。
【0085】
さらに、ウイルス不活化時間を60分、90分、120分に変化させて、MGgE抗原の安定性を調べた(表5)。
【0086】
【0087】
結果として、表5を参照すると、120分の不活化でも、MGgE抗原の含有量及び純度に有意な変化は生じなかった。したがって、ウイルス不活化に有効なpH3.0の条件下では、ウイルス不活化時間が120分の場合でもMGgEは安定していた。
【0088】
実施例3.5.1回目の濃縮及びダイアフィルトレーション
実施例3.4で得られた溶媒添加したMGgE抗原含有溶液から低分子イオンを除去し、溶液を混合モードクロマトグラフィー工程に適した状態にするため、1回目の濃縮及びダイアフィルトレーションステップを実行した。
【0089】
詳細には、溶剤添加したMGgE抗原含有溶液に、限外濾過/ダイアフィルトレーション系(Sartocon Cassette(50K))を使用して限外濾過を行い、濾液は次の工程である混合モードクロマトグラフィー工程のための平衡化緩衝液を使用して、濾液のpHが7.2±0.2、伝導度が2.5mS/cm以下になるまでダイアフィルトレーションを行った。
【0090】
実施例3.6.混合モードクロマトグラフィー
実施例3.5で得られた透析及び/又は濃縮を行ったMGgE抗原含有溶液に、混合モードクロマトグラフィーを実行し、溶液から二量体及び不純物を除去した。
【0091】
詳細には、カラムにセラミックハイドロキシアパタイト(Bio-Rad)樹脂を充填し、次いで平衡化緩衝液を使用して7.2±0.2のpHに平衡化した。次に、実施例3.5で得られた透析及び/又は濃縮を行ったMGgE抗原含有溶液を流速が100±10cm/hrとなるようにカラムに添加し、非吸着溶液を収集した。その後、収集のためにカラムを平衡化緩衝液で洗浄した。
【0092】
実施例3.7.2回目の濃縮及びダイアフィルトレーション
実施例3.6で得られた混合モードクロマトグラフィーの非吸着溶液中のタンパク質濃度を調整し、溶液をナノ濾過工程に適した条件にするために、2回目の濃縮及びダイアフィルトレーションステップを実行した。
【0093】
混合モードクロマトグラフィーの非吸着溶液に限外濾過/ダイアフィルトレーション系(Sartocon Cassette(50K))を行い、濾液は次の工程であるナノ濾過工程のための平衡化緩衝液を使用して、濾液のpHが7.4±0.2、伝導度が15.5mS/cm以上になるまでダイアフィルトレーションを行った。その後、得られたものを限外濾過によってタンパク質濃度7.0±0.5mg/mLまで濃縮した。
【0094】
実施例3.8.ナノ濾過
ナノ濾過はウイルス除去ステップであり、ナノフィルター(Planova 20N、Asahi)を使用し、製剤化緩衝液を使用してpHを7.4±0.2に平衡化した。
【0095】
次に、実施例3.7で得られた透析及び濃縮を行ったMGgE抗原含有溶液をナノフィルターに1.0±0.2barの圧力条件で通過させてウイルスを除去した後、ナノフィルターを平衡化緩衝液で洗浄した。ナノ濾過によって得られた濾液及び洗浄液を一緒に混合した後、タンパク質濃度を測定した。
【0096】
実施例3.9.希釈及び濾過
実施例3.8でナノ濾過によって得られた濾液を製剤化緩衝液でタンパク質濃度が5.0±0.5mg/mLになるように希釈した後、0.2μmフィルターを使用して濾過を実行した。
【0097】
その後、得られたMGgE抗原含有溶液を分注し、-20℃以下で保存した。
実験実施例3.各精製ステップの収率評価
精製ステップの各ステップの収率は、実施例3の各ステップのMGgE抗原の含有量を測定することによって調べた(表6)。表6のMGgEのタンパク質含有量に関して、回収及び清澄化及び陰イオン交換クロマトグラフィーステップを行った*印の各培養液はELISA試験で測定し、その後のステップの培養液はUVで測定した。
【0098】
【配列表】
【国際調査報告】