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特表2023-533168タイトジャンクション透過性のモジュレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】タイトジャンクション透過性のモジュレーター
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20230726BHJP
   C07K 4/00 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K38/08
C07K4/00 ZNA
A61K38/10
A61P43/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022575980
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2021065842
(87)【国際公開番号】W WO2021250260
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2009007.2
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514007092
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ バース
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ムルスニー,ランディ
(72)【発明者】
【氏名】タバナー,アリステア
(72)【発明者】
【氏名】アルマンスール,ハレド
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA11
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZC011
4C084ZC012
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA10
4H045BA16
4H045BA41
4H045BA72
4H045EA20
4H045FA33
4H045FA51
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、上皮細胞間のジャンクションの透過性を調節することができるコンパウンド、および上皮表面を横切る治療薬や診断薬のような物質の送達を促進するためのそれらの使用に関する。特に、本発明は、既知の透過強化剤PIP250の主要アミノ酸を同定し、より一過性の活性を有する新しい透過強化ペプチドを提供し、したがって、より速い上皮の回復を提供することに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮透過性を増大することができる薬剤であって、長さが50個以下のアミノ酸のペプチドを含み、前記ペプチドが式I:
x3-k-x5-k(式I)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列、または式Iのコア配列のレトロ-インバーソ型
を含む、薬剤。
【請求項2】
ペプチドが式II:
x3-k-x5-ktk(式II)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列、または式IIのコア配列のレトロ-インバーソ型
を有する、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
薬剤が上皮細胞の形質膜を通過することができる、請求項1または請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
ペプチドが、形質膜を横切る通過を媒介することができる1つまたは複数の追加の配列を含む、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
ペプチドが、コア配列のN末端の残基rr、および/またはコア配列のC末端の残基krkを含む、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
ペプチドが、配列:
rr-x3-k-x5-ktkkrk
そのレトロ-インバーソ型、
またはいずれかの機能的断片もしくはバリアント
を含む、またはそれからなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
x3がD-Pheであり、x5がD-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項8】
x5がD-Alaであり、x3がD-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項9】
式Iのコア配列がakvk、fkakまたはakak、好ましくはakvkまたはfkakである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項10】
式IIのコア配列がakvktk、fkaktk、またはakaktk、好ましくはakvktkまたはfkaktkである、請求項2に記載の薬剤。
【請求項11】
ペプチドが、配列:
rrakvktkkrk
もしくは
rrfkaktkkrk
そのいずれかのレトロ-インバーソ型、
またはその機能的断片もしくはバリアント
を含む、またはそれからなる、請求項1から10のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項12】
式:
-Z-R
(式中、
は、H、C1~4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル、またはトリフルオロアセチルであり、
はOHまたはNHであり、
Zは、請求項1から11のいずれか一項に記載のペプチド配列を表す)
を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項13】
H-rrakvktkkrk-NH
または
H-rrfkaktkkrk-NH
である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
治療における使用のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか一項に記載の薬剤および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項16】
上皮表面を横切って送達される物質をさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
(i)請求項1から15のいずれか一項に記載の薬剤を含む第1の組成物;および
(ii)上皮表面を横切って送達される物質を含む第2の組成物、
を含む、キット。
【請求項18】
上皮表面の透過性の増大における使用のための、請求項1から14のいずれか一項に記載の薬剤または請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
上皮表面を横切って物質を送達する方法における使用のための、請求項1から14のいずれか一項に記載の薬剤または請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項20】
物質が診断薬または治療薬である、請求項16、17または19のいずれか一項に記載の医薬組成物、キット、または使用のための薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮細胞間のジャンクションの透過性を調節することができるコンパウンド、および上皮表面を横切る治療薬や診断薬のような物質の送達を促進するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管上皮は半透性隔壁であり、分子量約500Da超の大きな親水性分子の吸収を制限している。したがって、治療用ペプチドや水溶性抗生物質など、様々な種類の薬物を経口投与する場合、この隔壁を通過することが大きな障害となる。腸管上皮は単層の細胞で構成されており、腸管内腔からの大きな親水性分子の移動に抵抗し、細胞内を薬物が移動するのを制限しており、経細胞ルートと呼ばれる。このため、大きな親水性分子は、傍細胞間隙と呼ばれる隣接する上皮細胞の間を移動して、腸管内腔から体内に入る可能性がある。傍細胞ルートを通る溶質の移動を妨げる重要な要素は、腸管上皮細胞の頂部頸部に組織され、細胞同士を非常に接近させている複数のタンパク質複合体であり、この複合体はタイトジャンクション(TJ)として知られている[1]。TJタンパク質複合体は、アクチン/ミオシンリングを介して細胞骨格に複合体を固定する密着帯ファミリー(例えば、ZO-1、ZO-2、ZO-3)などの細胞内タンパク質、傍細胞溶質移動を妨げる生体性細胞外隔壁を構築するために組織化されているオクルディン、トリセルリン、クローディンなどの膜貫通タンパク質、ならびに、細胞内および膜貫通タンパク質のTJ構成要素の両者を修飾することによって傍細胞隔壁の動的特性を制御している様々な細胞内制御タンパク質で構成されている[2]。
【0003】
上皮の隔壁機能を変化させ、吸収の悪い薬物分子の傍細胞ルートからの取り込みを改善する方法として、多種多様なTJモジュレーターが研究されてきた[3]。TJの様々な構成要素が標的とされてきた。合成ペプチドは、オクルディン[4]や特定のクローディンタンパク質の細胞外ドメインを模倣することにより、TJの透過性を増大することが示されている。密着帯毒素、Clostridium perfringensエンテロトキシン、C. perfringensイオタ毒素などの細菌毒素のアナログは、それぞれZO-1[5]、クローディン-4[6]、およびトリセルリン[7]を破壊することによって透過性を高めることが示されている。カプリン酸ナトリウムは、TJのトリセルリンを減少させることにより透過性を高めることが示されている[8]。さらに多くの透過強化剤がin vitro試験で有望視され、一部は臨床試験も行われているが[9][10]、これらのアプローチのin vivo応用は通常、低いバイオアベイラビリティまたは安全性の懸念によって制限されている[11]。TJタンパク質の細胞外ドメイン間で起こるタンパク質間相互作用を物理的に破壊したり、混乱させたりする代わりに、TJ機能を動的に制御する制御タンパク質に影響を与えることによって、TJ透過性の特性を変える試みがなされてきた。非特異的ホスファターゼ阻害剤を用いた研究、など(参考文献)。
【0004】
TJ透過性の主要な動的調節制御の1つに、ミオシン軽鎖(MLC)のSer-19のリン酸化がある。リン酸化されたMLC(pMLC)は、TJに関連したアクチン/ミオシン細胞骨格の収縮をもたらし、この収縮はTJ透過性の特性の上昇につながる[12][13]。TJの透過性は、pMLCがリン酸化されていない状態に戻れば、通常の状態に戻るので、この機構の動的な性質が定義される。MLCのリン酸化は、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)とミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)という酵素によって制御されており[14]、通常のTJ透過性が低い状態では、MLCPが優勢である。慢性炎症の状態では、MLCKが優勢となり、そのような病態に関連したTJ透過性の上昇をもたらす。より動的な状況では、食事に応答して、pMLCのレベルの一時的な増加がTJ透過性を高め、必須栄養素を吸収するための第2の機構を提供すると思われる。栄養成分によってTJ透過性が一過性に高まるこの動的なプロセスが、経口投与では吸収率の低い薬物の吸収率を高める誘発的な機会を提供する。
【0005】
MLCPは、触媒的なプロテインホスファターゼサブユニット(PP1)、ミオシン標的サブユニット(MYPT1)、機能不明の38kDaサブユニットからなるホロ酵素である[15]。さらに、阻害サブユニットであるCPI-17は、Thr-38でリン酸化された状態(pCPI-17)でMLCPに結合し、酵素の作用を阻害する[16]。MYPT1がPP1に結合すると、酵素の基質であるMLCの親和性が飛躍的に高まり、特異性の高いホスファターゼとなる[17]。MYPT1が結合していない場合、PP1のMLC脱リン酸化活性は大幅に低減するため、このタンパク質/タンパク質相互作用はMLCPが効果的に作用するために不可欠である。MYPT1とPP1には、この相互作用の鍵となるアミノ酸残基と配列が多数同定されている。MYPT1上のMet-1からPhe-38の配列は、PP1のMLCに対する特異性を高めるが、全長のMYPT1よりもその程度は低いことが示されていた[18]。また、Asp-23からPhe-38までのより短い配列は、PP1に結合することができるが、特異性は増加しない[19]。このことから、アミノ酸23~38の配列内の残基が結合に必要であり、N末端がPP1のMLCへの標的化に関与していることが示唆された。具体的には、結合モチーフ35KVKF38はPP1とMYPT1との結合の鍵となるが、MLCに対する特異性を高めるには不十分であると思われる。Val-36とPhe-38は、PP1上の特定の疎水性ポケットに結合するようである[15]。
【0006】
本発明者らは以前、MLCPの相互作用に関わる配列に基づいて合理的に設計された2種類のホスファターゼの透過性阻害剤(PIP)ペプチドを研究したことがある。PIP640はpCPI-17のセグメントに基づき、PIP250はMYPT1上の結合モチーフに基づくものである。どちらのペプチドもpMLCレベルを増大することにより透過性を高めた[20]。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上皮透過性を増大することができるさらなるペプチドであって、先に記載したペプチドPIP250と比較して利点を有するペプチドに関する[20]。
本発明は、上皮透過性を増大することができる薬剤であって、長さが50個以下のアミノ酸のペプチドを含み、前記ペプチドが式I:
x3-k-x5-k(式I)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列、または式Iのコア配列のレトロ-インバーソ型
を含む、薬剤を提供する。
【0008】
一部の実施形態では、ペプチドは式II:
x3-k-x5-ktk(式II)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列、または式IIのコア配列のレトロ-インバーソ型
を有する。
【0009】
薬剤は、上皮細胞の形質膜を通過することができてもよい。例えば、脂質(例えばコレステロール)のような親油性部分や、カチオン性ポリマーやデンドリマーのような形質膜を横切る通過を増大する能力を有する他の部分で、化学的に修飾されてもよい。
【0010】
あるいは、ペプチド自体が、さらなる化学的修飾を受けることなく、形質膜を通過することが可能であってもよい。したがって、ペプチドは、形質膜を横切る通過を媒介することができる1つまたは複数の追加の配列を含んでもよい。このような配列は、「CPP」(細胞浸透性ペプチド)配列と呼ばれることがある。したがって、ペプチドは、1つまたは複数のCPP配列を含んでもよい。
【0011】
本明細書に記載されるペプチドPIP251およびPIP252は、それぞれのコア配列のN末端およびC末端に付加的な配列を有する。これらの付加的な配列は、複数の正に荷電した残基を含み、特に、形質膜を横切る通過を媒介すると信じられている。
【0012】
したがって、ペプチドは、コア配列のN末端および/またはC末端に1つまたは複数の正に荷電した残基(例えば、関連するDまたはL配置におけるLysまたはArg)を含んでもよい。
【0013】
例えば、ペプチドは、コア配列のN末端の残基rr、および/またはコア配列のC末端の残基krkを含んでもよい。
したがって、ペプチドは、配列:
rr-x3-k-x5-ktkkrk
そのレトロ-インバーソ型、
またはいずれかの機能的断片もしくはバリアント
を含んでもよく、またはからなってもよい。
【0014】
機能的断片は、N末端および/またはC末端から切断されることがある。式Iまたは式II(またはそのレトロ-インバーソ型)のコア配列は維持されることが理解されるであろう。
【0015】
機能的バリアントは、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失または挿入によって、上記の配列(またはそのレトロ-インバーソ型)のうちの1つと異なってもよい。それは、5個以下の位置、例えば4個以下の位置、3個以下の位置、2個以下の位置、または1個以下の位置で、上記の配列と異なってもよい。式Iまたは式II(またはそのレトロ-インバーソ型)のコア配列は変化しなくてもよいことが理解されるであろう。
【0016】
機能的断片またはバリアントは、上皮透過性を増大する活性を保持することになる。また、形質膜を通過する能力を保持することもできるが、ペプチドが膜通過を容易にする適切な化学的修飾を含む場合には、その必要はない。
【0017】
一部の実施形態では、x3はD-Pheであり、x5はD-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択される。
一部の実施形態では、x5はD-Alaであり、x3はD-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択される。
【0018】
一部の実施形態では、式Iのコア配列はakvk、fkakまたはakak、好ましくはakvkまたはfkakである。
一部の実施形態では、式IIのコア配列はakvktk、fkaktk、またはakaktk、好ましくはakvktkまたはfkaktkである。
【0019】
したがって、ペプチドは、配列:
rrakvktkkrk
もしくは
rrfkaktkkrk
そのいずれかのレトロ-インバーソ型、
またはその機能的断片もしくはバリアント
を含んでもよく、またはからなってもよい。
【0020】
ペプチドは、長さが50個以下のアミノ酸残基、例えば40個以下のアミノ酸残基、30個以下のアミノ酸残基、20個以下のアミノ酸残基、15個以下のアミノ酸残基、例えば長さが11、12、13、または14個のアミノ酸残基である。
【0021】
ペプチドは、少なくとも5残基の長さ、例えば、少なくとも6残基、少なくとも7残基、少なくとも8残基、少なくとも9残基、少なくとも10残基または少なくとも11残基の長さであり、例えば、少なくとも10残基または少なくとも11残基の長さである。
【0022】
一部の実施形態では、ペプチドは、10から20残基の間の長さ、例えば、10から15残基の間の長さである。
ペプチドは、式:
-Z-R
(式中、
は、H、C1~4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル、またはトリフルオロアセチルであり、
はOHまたはNHであり、
Zは、本明細書に記載のペプチド配列を表す)
を有することがある。
【0023】
本発明の特に好ましい薬剤は、
H-rrakvktkkrk-NH
および
H-rrfkaktkkrk-NH
である。
【0024】
本発明の薬剤、具体的にはその薬剤のペプチド成分は、上皮透過性を増大することができる。特に、上皮細胞間のタイトジャンクションの透過性を増大することができ、特に、消化管または気道の上皮透過性を高めることができる。
【0025】
理論に拘束されることを望まないが、ペプチド成分、より詳細には式Iのコア配列は、PP1とMYPT1との間の相互作用を、例えばPP1に結合することによって阻害することができると考えられている。
【0026】
本薬剤は、特定の物質と一緒に上皮に投与されると、当該関連する上皮を通過する当該物質の通過を増大することができる。
本発明の薬剤は、PIP250のような既知の透過強化剤と比較して、ある種の望ましい特性を示す。例えば、上皮は、PIP250で処置した場合よりも本発明の薬剤で処置した場合の方が、ベースライン透過性への早い回復を示す場合がある。したがって、上皮のタイトジャンクションがより短い時間開いたままであり、所望の物質の通過を可能にするが、毒素または病原体のような不要な物質が上皮を通過する時間を短縮するので、本発明の薬剤は、治療効果または診断効果と毒性との間のより良いバランスを示す可能性がある。
【0027】
本発明は、さらに、治療における使用のための本明細書に記載の薬剤を提供する。
本発明はさらに、本明細書に記載の薬剤および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。組成物は、標的上皮細胞の形質膜を横切る薬剤の通過を許容または促進するように製剤化されてもよい。例えば、それはリポソーム製剤であってもよい。
【0028】
組成物は、上皮表面を横切って送達される物質をさらに含んでもよい。
本発明は、
(i)本明細書に記載される薬剤を含む第1の組成物;および
(ii)上皮表面を横切って送達される物質を含む第2の組成物、
を含む、キットをさらに提供する。
【0029】
第1および第2の組成物は、必要に応じて、医薬製剤であってもよく、それぞれ独立して、薬学的に許容される担体を含んでもよい。
本発明は、医薬の製造のための本明細書に記載の薬剤の使用をさらに提供する。
【0030】
本発明は、上皮表面の透過性の増大における使用のための、本明細書に記載の薬剤または医薬組成物をさらに提供する。
本発明は、本明細書に記載の薬剤または医薬組成物の有効量を上皮に投与することを含む、上皮表面の透過性増大の方法をさらに提供する。
【0031】
本発明は、上皮表面を横切って物質を送達する方法における使用のための、本明細書に記載の薬剤または医薬組成物をさらに提供する。本方法は、薬剤または医薬組成物と共に前記物質を投与することを含んでもよい。
【0032】
本発明は、本明細書に記載の薬剤または医薬組成物と共に前記物質を投与することを含む、上皮表面を横切って物質を送達する方法をさらに提供する。
本方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoで実施することができる。
【0033】
物質は、診断薬や治療薬、あるいは上皮表面に導入することが望ましい他の物質であってもよい。
物質は、ペプチド性であってもよい。本明細書で使用される「ペプチド性」という用語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の直鎖で構成されているか、またはそれを含むコンパウンドを含み、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質が含まれる。「ペプチド」という用語は、2個から50個の間の連続したアミノ酸からなる分子に対して使用され、「ポリペプチド」は、50個を超える連続したアミノ酸からなる分子に対して使用される。タンパク質という用語は、ポリペプチドと互換的に使用されることがあるが、共有結合または非共有結合によって結合した1つまたは複数のペプチドまたはポリペプチドの複合体も包含することがある。
【0034】
物質は、DNAやRNAなどの核酸であってもよい。例えば、アプタマーであってもよいし、遺伝子治療薬であってもよい。
あるいは、物質は、非ペプチド性有機分子を含む、他の任意の適切な分子であってもよい。物質は、低分子、すなわち分子量が500Da以下であっても、高分子(500Da超)であってもよい。
【0035】
本発明の薬剤は、消化管、例えば腸や胃でタンパク質分解を受けるようなタンパク質性の治療薬の経口送達に特に使用されることが見出される場合がある。
本発明は、そのような組合せが明らかに許されないか、または明示的に回避される場合を除き、記載された態様と好ましい特徴の組合せを含む。
【0036】
次に、本発明の原理を示す実施形態および実験について、添付の図を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】5mM PIP250~254シリーズがin vitroのCaco-2単層のTEERに与える影響の図である。A)Phe-P3(PIP250)をアラニン(PIP251)またはアスパラギン酸(PIP253)に変更した場合の効果。B)Val-P5(PIP250)をアラニン(PIP252)またはアスパラギン酸(PIP254)に変更した場合の効果。一元配置ANOVAは、A)、B)ともにデータセット間で有意差を示した(p<0.05)。PIP250、PIP251およびPIP252のデータセットは、ボンフェローニ事後検定で対照と有意に異なった(p<0.05)。PIP253とPIP254は有意差なし。
図2】5mMで試験したPIP250~254シリーズが、A)Caco-2単層を通過する4kDa蛍光デキストランの見かけの透過性(PAPP)、B)リン酸化ミオシン軽鎖(pMLC)と総MLCの比に与える影響の図である。データは平均値±SDである(n=3)。*p<0.05は、対応なし、両側t検定により対照と比較した。
図3】PIP250、PIP251、またはPIP252の洗い流し後、A)Caco-2単層の経上皮電気抵抗(TEER)およびB)Caco-2単層を通過する4kDa蛍光デキストランの見かけの透過性(PAPP)の回復の図である。Caco-2単層は、5mMの試験ペプチドを180分間頂部に添加して処理し、次いで90分間TEERの読み取りをモニターするか、その期間の終わりにPAPPについて調べた。↑ペプチドが洗い流された点データは平均値土SDである(n=3)。*p<0.05は、対応なし、両側t検定により対照と比較した。
図4】PIP250シリーズを腔内に注入した後のゲンタマイシンの血清濃度の図である。データは平均値±SDである。n=3。
図5-1】PIP250シリーズペプチド注入後に遅延して腔内注入した後の血清ゲンタマイシン濃度の図である。A)他のグラフから算出したAUCの概要。B)PIP250注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。C)PIP251注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。D)PIP252注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。データは平均値+SDである。n=3。
図5-2】PIP250シリーズペプチド注入後に遅延して腔内注入した後の血清ゲンタマイシン濃度の図である。A)他のグラフから算出したAUCの概要。B)PIP250注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。C)PIP251注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。D)PIP252注入後、0分、30分、60分遅れて注入した後のゲンタマイシン濃度。データは平均値+SDである。n=3。
図6】PIPペプチドで処置したCaco-2単層由来の溶解物におけるオクルディンのウエスタンブロットから測定したバンド強度の図である。データは、対照=100として正規化した。データは平均値+SDである。n=3*p<0.05は、両側、対応なし、t検定により対照と比較した。
図7】PIPペプチドのPP1への結合の図である。
図8】PIPペプチドによるMYPT1のPP1への結合の阻害の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の態様および実施形態について、添付の図を参照しながら説明する。さらなる態様および実施形態は、当業者には明らかであろう。本文中で言及された全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
本発明は、内因性制御機構を利用してタイトジャンクションの動的開閉を制御することにより、上皮内の隣接細胞間の傍細胞ルートを開く戦略の開発に基づく。特定の細胞標的を標的とし、それらの標的に対して特異的に作用するように設計されたペプチドコンパウンドの提供に関する戦略である。
【0040】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、天然に存在するアミノ酸に対する従来の3文字および1文字のコードが使用されている、すなわち、
A(Ala)、G(Gly)、L(Leu)、I(Ile)、V(Val)、F(Phe)、W(Trp)、S(Ser)、T(Thr)、Y(Tyr)、N(Asn)、Q(Gln)、D(Asp)、E(Glu)、K(Lys)、R(Arg)、H(His)、M(Met)、C(Cys)およびP(Pro)。
【0041】
本文脈における「天然に存在する」とは、標準的な遺伝暗号によってコードされた20種類のアミノ酸を意味し、タンパク質原性アミノ酸と呼ばれることもある。
1文字コードを使用する場合、D立体配置のアミノ酸残基には小文字を、L立体配置のアミノ酸残基には大文字を使用する。キラルではないアミノ酸残基(グリシンなど)については、どちらを使用してもよい。3文字コードを使用する場合、通常、DまたはL立体配置を明示的に表示する。表示されていない場合は、D立体配置が仮定される。
【0042】
所与のアミノ酸配列に適用する場合、「レトロ-インバーソ」という用語は、同じ残基を含む代替形態を示すために用いられ、反対の立体配置(LまたはD)で、N末端からC末端までの残基の順序が逆であるものを示す。この用語は、L型残基からなる従来のペプチドの逆配列の全D体バージョンを指すためにしばしば用いられる。しかし、本明細書では、全D体ペプチドは全L体ペプチドよりもタンパク質分解に対してかなり抵抗性であるため、特に消化管での使用を意図したペプチドの場合、ペプチドは典型的に全D体である。したがって、「レトロ-インバーソ」という用語は、所与の配列の逆配列の全L体バージョンを示すために使用される。全L体ペプチドは、気道や他の上皮の文脈での使用に、より適していると考えられる。
【0043】
ペプチド骨格のN末端およびC末端に存在する末端基は、それぞれRおよびRと指定されることがある。したがって、RはN末端のアミノ基の窒素原子に結合し、RはC末端のカルボニル炭素原子に結合している。
【0044】
は、水素(「H」または「Hy」)、C1~4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル、またはトリフルオロアセチルである。
したがって、例えば、R=水素(「H-」または「Hy-」)は、N末端に遊離の第一級アミノ基があることを示す。(N末端のアミノ基の他の水素原子は、Rの性質にかかわらず、一般に不変である。)
は、典型的には「-OH」または「-NH」であり、それぞれC末端のカルボキシル(COOH)基またはアミド(CONH)基を示す。
【0045】
本発明の一部の実施形態において、RはH(またはHy)であり、RはNHである。
【0046】
上皮
本明細書に記載の薬剤および組成物を使用して、上皮、すなわち「上皮表面」と呼ばれることがある上皮細胞の1つまたは複数の層の透過性を高めることができる。
この表面は、in vitro、ex vivo、またはin vivoの表面であってもよい。
【0047】
非限定的な例は、消化管(例えば、口、食道(eosohagus)、胃、小腸、大腸、直腸または肛門の上皮)、気道(例えば、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、細気管支または肺の上皮)の上皮、または角膜、子宮頸部もしくは膣の上皮を含むがこれに限定しない他の適切な上皮を含む。
上皮細胞の不死化細胞株、例えば、すぐ上に記載した上皮細胞型の細胞株が特に企図される。
【0048】
対象
本発明の薬剤、組成物および方法は、タイトジャンクションを有する上皮を有するあらゆる種の対象に適用される場合がある。哺乳動物対象が特に好ましい。対象は、齧歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ目(例えば、ウサギ)、ネコ科(例えば、ネコ)、イヌ科(例えば、イヌ)、ウマ科(例えば、ウマ)、ウシ科(例えば、ウシ)、ヤギ科(例えば、ヤギ)、ヒツジ科(例えば、ヒツジ)、その他の飼育動物、家禽、実験動物、霊長類(例えば、旧世界ザル、新世界ザル、類人猿またはヒト)を含む、任意の哺乳動物種であってもよい。
【0049】
送達のための物質
本発明の薬剤は、典型的には、上皮を横切って送達するための物質と共に投与される。薬剤および送達のための物質は、同じ組成物(例えば、混合物)または別々の組成物中に用意される場合がある。
【0050】
一部の実施形態では、それらが同じ組成物中に用意されることが典型的に望ましいであろう。しかし、特定の成分によっては、例えば、それらが製剤のために相容れない要件を有する場合、これは可能でない場合がある。したがって、他の実施形態では、それらが別々の組成物中に用意されることが望ましい場合がある。
【0051】
別々の組成物に製剤化される場合、それらは典型的に、実質的に同じ部位に投与されるであろう。これらは、同じ経路または異なる経路で投与される場合がある。典型的には、それらは互いに1時間以内、例えば互いに30分以内、15分以内、5分以内または1分以内に、例えば実質的に同時に投与されるであろう。それらが同時に投与されない場合、上皮を横切って送達される物質を導入する前に、関連する上皮の透過性にその効果を発揮する時間を有するように、本発明の薬剤を最初に送達することが有利である場合がある。
【0052】
本発明の薬剤は、低分子、ペプチド性物質(ペプチド、ポリペプチド、タンパク質)、核酸、その他の有機高分子など、様々な物質を、上皮を横切って送達するために使用される場合がある。
【0053】
送達のための物質は、治療薬または診断薬であってもよい。
ペプチド性治療薬には、ホルモンおよびホルモン受容体の他のアゴニスト、例えばインスリンおよびそのアナログ、GLP-1およびエキセンディン-4およびそのアナログなどの他のGLP-1受容体アゴニスト、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、オクトレオチド、カルシトニンおよびエリスロポエチンなどのソマトスタチンおよびそのアナログが含まれる場合がある。ペプチド性治療薬は、サイトカイン(GM-CSF、インターロイキンなど)、ケモカイン、インターフェロン、抗生物質、抗体を含んでもよい。
【0054】
治療用ペプチドの具体例としては、以下のものが挙げられ、これらのいずれもが、本発明の組成物および方法の文脈において採用される場合がある。
【0055】
【表1-1】
【0056】
【表1-2】
【0057】
核酸治療薬は、DNA、RNAを問わず、任意の適切な核酸を含んでもよい。核酸治療薬は、プラスミドやウイルスベクターなどの遺伝子治療薬およびアプタマーを含んでもよい。
【0058】
その他の有機分子としては、脂質、オリゴ糖や多糖類などの炭水化物、アミノグリコシド系抗生物質(例えば、ゲンタマイシン)などの抗生物質を含むあらゆる種類の薬物分子を含んでもよい。
【0059】
物質は、抗体であってもよい。「抗体」という用語は、抗体の機能的断片もしくは誘導体、または合成抗体もしくは合成抗体断片を含むように使用される。抗体は、治療または診断の目的で採用される場合がある。
【0060】
モノクローナル抗体技術に関する今日の技術に鑑みれば、抗体はほとんどの抗原に対して調製され得る。抗原結合部分は、抗体の一部(例えば、Fab断片)または合成抗体断片(例えば、単鎖Fv断片[scFv])であってもよい。選択された抗原に対する適切なモノクローナル抗体は、例えば「Monoclonal Antibodies:A manual of techniques」、H Zola、(CRC Press,1988)、および「Monoclonal Hybridoma Antibodies:Techniques and Applications」、J G R Hurrell、(CRC Press、1982)、に開示されているような既知の技術によって調製される場合がある。キメラ抗体は、Neubergerら、(1988、8th International RICMP7164916 Biotechnology Symposium Part 2、792~799)によって論じられている。
【0061】
モノクローナル抗体(mAb)は、特に有用であり、抗原上の単一のエピトープを特異的に標的とする均質な抗体集団である。
FabおよびFab2フラグメントなどの抗体の抗原結合断片も、遺伝子操作された抗体および抗体断片と同様に使用/提供される場合がある。抗体の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)ドメインは抗原認識に関与しており、この事実は初期のプロテアーゼ消化実験によって初めて認識された。齧歯類の抗体の「ヒト化」によって、さらなる確認がなされた。得られる抗体が齧歯類由来の抗体の抗原特異性を保持するように齧歯類由来の可変ドメインとヒト由来の定常ドメインを融合させてもよい(Morrisonら、(1984)Proc.Natl.Acad.Sd.USA 81、6851~6855)。
【0062】
抗原特異性が可変ドメインによって与えられ、定常ドメインとは無関係であることは、全て1つまたは複数の可変ドメインを含む抗体断片の細菌発現に関する実験から知られている。これらの分子には、Fab様分子(Betterら、(1988)Science 240、1041)、Fv分子(Skerraら、(1988)Science 240、1038)、VHおよびVLパートナードメインが可動性オリゴペプチドを介して結合している単鎖Fv(scFv)分子(Birdら、(1988)Science 242、423;Hustonら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sd.USA 85、5879)、および単離Vドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Wardら、(1989)Nature 341、544)などがある。特異的結合部位を保持した抗体断片の合成に関わる技術の総説は、WinterおよびMilstein、(1991)Nature 349、293~299に記載されている。
【0063】
「scFv分子」とは、VHおよびVLパートナードメインが、例えば、可動性オリゴペプチドによって共有結合されている分子を意味する。
Fab、Fv、ScFv、およびdAb抗体断片は、いずれもE.coliで発現され、分泌させることが可能であり、前記断片を容易に大量に産生することができる。抗体全体、およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」とは、当該抗体およびF(ab’)2断片が、2つの抗原結合部位を有することを意味する。一方、Fab、Fv、scFv、dAb断片は、1つの抗原結合部位のみを有する一価のものである。
【0064】
医薬組成物
本発明は、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤または当業者によく知られている他の材料との組合せで、本明細書に記載されるような薬剤を含む医薬組成物を提供する。「担体」という用語は、文脈が他に要求しない限り、これらの選択肢のいずれかを包含するために使用される。このような材料は、非毒性であるべきであり、活性成分の有効性を妨害すべきではない。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路に依存する場合があり、任意の適切な経路による場合がある。
【0065】
本発明に関する医薬組成物には、経口、非経口吸入(様々なタイプの定量投与、加圧エアゾル、ネブライザーまたは注入器によって生成される場合がある微粒子ダストまたはミストを含む)、直腸および局所(皮膚、経皮、経粘膜、頬、舌下および眼内を含む)投与に適したものがあるが、最も適した経路は、例えば、レシピエントの状態および障害に依存してもよい。
【0066】
組成物は、便利なことに、単位剤形で提示され、薬学の技術分野でよく知られている方法のいずれかによって調製される場合がある。全ての方法は、活性成分を、1つまたは複数の付属成分を構成する医薬担体と会合させるステップを含む。一般に製剤は、活性成分を液体担体または細かく分割された固体担体またはその両方と均一かつ密接に会合させ、その後、必要に応じて製品を所望の製剤に成形することによって調製される。
【0067】
経口投与に適した本発明の組成物は、それぞれが所定量の活性成分を含有するカプセル剤、カシェ剤または錠剤などの個別単位として、散剤または顆粒剤として、水性液体または非水性液体中の液剤または懸濁剤として、あるいは水中油型液体乳剤または油中水型液体乳剤として提示される場合がある。また、活性成分は、ボーラス、舐剤またはペーストとして提示される場合がある。様々な薬学的に許容される担体およびそれらの製剤は、標準的な製剤学の専門書、例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。Wang,Y.J.およびHanson,M.A.、Journal of Parenteral Science and Technology,Technical Report、第10号、付録、42:2S、1988、も参照されたい。
【0068】
錠剤は圧縮または成型により、必要に応じて1つまたは複数の副成分とともに作製することができる。圧縮錠剤は、粉末または顆粒などの自由に流動する形態の活性成分を、必要に応じて結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、滑沢剤、表面活性剤または分散剤と混合して、適切な機械で圧縮することにより調製される場合がある。成型錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末状コンパウンドの混合物を適切な機械で成型することにより作製される場合がある。錠剤は、必要に応じて被覆されるか、または溝を刻まれてもよく、その中の活性成分の徐放または制御放出を提供するように製剤化されてもよい。本発明のコンパウンドは、例えば、即時放出または持続放出に適した形態で投与することができる。即時放出または持続放出は、本発明のコンパウンドを含む適切な医薬組成物の使用により達成することができる。本発明のコンパウンドは、経口投与のために、治療用高分子および高荷電コンパウンドの細胞膜を横切る輸送、特に小腸での輸送を促進する送達剤または担体とともに、製剤化することができる。そのような送達剤または担体は、さらに、胃腸(GI)管通過中のペプチドの酵素分解を阻害してもよく、および/または製剤は、そのような分解から保護する追加の薬剤を含んでもよい。本発明のコンパウンドはまた、リポソーム的に投与することができる。
【0069】
経口投与のための例示的な組成物には、例えば、かさを付与するための微晶質セルロース、懸濁化剤としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、粘度増強剤としてのメチルセルロース、および当技術分野で知られているような甘味料または香味料を含むことができる懸濁液、および、例えば、微晶質セルロース、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウムおよび/またはラクトースおよび/または当該技術分野で知られているような他の賦形剤、結合剤、伸展剤、崩壊剤、希釈剤および滑沢剤を含むことができる即時放出錠剤が挙げられる。本発明のペプチドはまた、舌下および/または頬への投与により口腔を通して送達することができる。成型錠剤、圧縮錠剤または凍結乾燥錠剤が、使用されてもよい例示的な形態である。例示的な組成物には、マンニトール、ラクトース、スクロースおよび/またはシクロデキストリンなどの速溶性希釈剤とともに本発明のコンパウンドを製剤化したものが含まれる。また、このような製剤には、セルロース(アビセル)またはポリエチレングリコール(PEG)などの高分子量賦形剤も含まれる場合がある。このような製剤は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、無水マレイン酸コポリマー(例えば、Gantrez)などの粘膜接着を補助する賦形剤、およびポリアクリルコポリマー(例えば、Carbopol 934)などの放出制御する薬剤も含むことができる。滑沢剤、流動促進剤、香料、着色剤および安定剤も、製造および使用の容易さのために添加されてもよい。
【0070】
含有させることができる賦形剤は、例えば、タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミンまたは血漿製剤である。所望により、医薬組成物は、例えば酢酸ナトリウムまたはモノラウリン酸ソルビタンなどの湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤などの非毒性の補助物質を少量含有する場合もある。
【0071】
鼻腔エアロゾルまたは吸入投与のための例示的な組成物は、生理食塩水中の溶液を含み、これは、例えば、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存剤、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、および/または当該技術分野で知られているような他の可溶化剤または分散剤を含有することができる。好都合には、鼻腔エアロゾルまたは吸入投与のための組成物において、本発明のコンパウンドは、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切な気体を使用して、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示の形で送達される。加圧エアロゾルの場合には、定量された量を送達するためのバルブを提供することにより、投与単位は決定され得る。吸入器または注入器で使用するための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、コンパウンドの粉末混合物と、例えばラクトースまたはデンプンのような適切な粉末基剤を含むように製剤化することができる。1つの具体的な非限定的な例では、本発明のコンパウンドは、アクチュエータとしても知られるエアロゾルアダプタを通じて、定量バルブからエアロゾルとして投与される。必要に応じて、安定剤も含まれ、および/または肺深部送達のための多孔質粒子が含まれる(例えば、米国特許第6,447,743号参照)。
【0072】
直腸投与用の製剤は、ココアバター、合成グリセリドエステルまたはポリエチレングリコールなどの通常の担体を用いた保形浣腸または坐剤として提示される場合がある。このような担体は、通常、常温では固体であるが、直腸腔内で液化および/または溶解して薬物を放出する。
【0073】
口腔内、例えば頬側または舌下に局所投与するための製剤としては、スクロースとアカシアまたはトラガカントなどの香味料ベースで活性成分を含むロゼンジ剤、およびゼラチンとグリセリンまたはスクロースとアカシアなどのベースで活性成分を含むトローチ剤が挙げられる。局所投与用の例示的な組成物は、プラスチベース(ポリエチレンでゲル化した鉱油)のような局所用担体を含む。
【0074】
医薬組成物は、腸溶性コーティングを有する剤形を含んでもよい。腸溶性コーティングは、小腸で行われるように吸収を制御するために、錠剤、カプレット剤およびカプセル剤などの経口医薬組成物に施されるコーティングである。腸溶性コーティングは、通常、剤形の表面に施され、胃の強酸性pHでは安定した表面を示すが、小腸の比較的塩基性の高い環境では急速に分解されるようになっている。腸溶性コーティングに使用される材料には、脂肪酸、ワックス、シェラック、プラスチックおよび植物繊維がある。
【0075】
本発明が、小腸の上皮を横切る経口投与での第2の治療薬の送達の文脈で使用される場合、治療薬がさもなければ胃の環境で分解されるならば、腸溶性コーティングが使用されてもよい。このようなコーティングは、第2の治療薬が胃に刺激を与える場合、酸に不安定な場合(例えば、エソメプラゾールなどの特定のアゾールは酸に不安定)、または第2の治療薬が胃に存在する酵素によって分解されると予想されるタンパク質またはペプチド(例えば、インシュリン、GLP-1またはその誘導体、またはアナログ)の場合に特に有用であることがある。
【0076】
したがって、本発明の第2の態様に記載の医薬組成物は、腸溶性コーティングを有する固体剤形を含んでいてもよく、本発明の他の態様もまた、このようなコーティングを利用する、または関連する場合がある。
【0077】
好ましい単位剤形製剤は、活性成分の、本明細書に記載された有効量、またはその適切な分量を含むものである。
上記で特に言及した成分に加えて、本発明の製剤は、当該製剤のタイプに関して当該技術分野で慣用されている他の薬剤を含んでもよく、例えば、経口投与に適したものは香味料を含んでもよいことが理解されるべきである。
【0078】
また、本発明の薬剤は、好適には、徐放性システムとして投与される。本発明の徐放システムの好適な例は、好適な高分子材料、例えば、成形品、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態の半透過性ポリマーマトリックス;好適な疎水性材料、例えば、許容できる油中のエマルジョンとして;またはイオン交換樹脂;および本発明のコンパウンドの難溶性の誘導体、例えば、難溶性の塩、を含む。徐放性システムは、経口;直腸;非経口;大槽内;膣内;腹腔内;局所、例えば粉末、軟膏、ゲル、ドロップまたは経皮パッチとして;頬側(bucally);または口腔もしくは鼻腔スプレーとして投与されることがある。
【0079】
投与のための調製物は、本発明の薬剤の制御された放出を与えるように好適に製剤化することができる。例えば、医薬組成物は、生分解性ポリマー、多糖類ゼリー化ポリマーおよび/または生体接着性ポリマー、両親媒性ポリマー、本発明のペプチドの粒子の界面特性を変更することができる薬剤の1つまたは複数を含む粒子の形態であってもよい。これらの組成物は、活性物質の制御された放出を可能にする特定の生体適合性の特徴を示す。米国特許第5,700,486号を参照されたい。
【0080】
本発明のペプチドまたは医薬組成物の治療上有効な量は、単一のパルス投与として、ボーラス投与として、または時間をかけて投与されるパルス投与として投与される場合がある。したがって、パルス投与では、本発明のペプチドまたは組成物のボーラス投与が提供され、その後、時間の経過に続いて第2のボーラス投与が提供される。具体的な非限定的な例では、本発明のコンパウンドのパルス投与は、1日の経過中に、1週間の経過中に、または1ヶ月の経過中に投与される。
【0081】
医薬組成物は、標的上皮細胞の形質膜を横切る薬剤(またはペプチド)の通過を促進する薬剤、例えばリポソーム形成剤を含んでもよい。このような薬剤の存在は、薬剤自体がCPP配列または適切な化学的修飾を欠く場合に特に望ましい。しかしながら、細胞浸透を補助する薬剤は、そのような配列または化学的修飾の有無に関係なく存在していてもよい。そのような薬剤は、コレステロールなどの脂質、胆汁酸、カチオン性ポリマー、およびデンドリマーを含む。また、ナノ粒子製剤が採用されてもよい。例えば、Wangら、AAPS J.2010 12月、12(4):492~503、を参照されたい。
【0082】
投与は、好ましくは「治療上有効な量」であり、これは個体に利益を示すのに十分な量である。実際の投与量、投与速度、投与期間は、処置する疾患の性質と重症度に依存する。処置の処方、例えば投与量などの決定は、一般開業医および他の医師の責任範囲であり、一般的には、処置される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、その他開業医に知られている要因を考慮する。上記の技術やプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000、Lippincott、Williams & Wilkins出版、に掲載されている。
【0083】
処置条件
本明細書に記載される薬剤および組成物は、適切な治療薬と共に投与される場合、疾患、障害または他の状態の処置のために使用される場合がある。治療薬を離散的な上皮の位置に送達する能力は、粘膜下腔への局所的な送達ももたらすであろう。
【0084】
状態は、上皮表面またはその近傍に局在し、その上皮表面を介した治療薬の投与が有効である場合がある。
例えば、状態は、炎症状態の喘息や線維症、気道の感染症、肺疾患、気道のがんを含む、気道の状態であってもよい。
【0085】
状態は、消化管の状態であってよく、特に、消化管固有層およびそれに続く肝門血管床への指向性送達から利益を得る可能性のある状態であってもよい。例としては、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、大腸炎、セリアック病)、胃腸の感染症、および消化管のがんが挙げられる。
【0086】
肝臓に影響を及ぼす状態では、消化管を経由して肝門血管床に直接送達することも有効である場合がある。
あるいは、状態は、がん、自己免疫状態(例えば、関節リウマチ)、代謝性疾患(例えば、1型または2型にかかわらず糖尿病)、病原体による感染(例えば、敗血症を含む細菌またはウイルス感染などの微生物感染)、低身長、高カルシウム血症、骨粗鬆症などの、気道または消化管を介した治療薬の投与によって利益を得る全身状態であってもよい。
【0087】
投与される物質は、そのような状態の予防または処置に有用である任意の薬剤であってもよい。例えば、消化管を介したインスリンまたはGLP-1(または他のGLP-1受容体アゴニスト)の送達は、糖尿病(1型または2型)および他の代謝障害の処置に特に有用である場合がある。抗生物質(例えば、ゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質)は敗血症を含む細菌感染症の処置に有用であり、オクトレオチドおよび他のソマトスタチンアナログは成長ホルモン産生腫瘍(例えば、先端巨大症)の処置に有用であり、カルシトニンは高カルシウム血症または骨粗鬆症の処置に有用である場合がある。化学療法剤は、適切ながんの治療のために投与される場合がある。当業者であれば、多数の他の潜在的な用途を認識するであろう。
【0088】
塩および溶媒和物
本明細書に記載される薬剤は、薬学的に許容される塩などの適切な塩の形態で提供されてもよい。適切な塩は、有機または無機の酸または塩基と形成されるものを含む。薬学的に許容される酸付加塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、コハク酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびイセチオン酸と形成されるものが含まれる。シュウ酸のような他の酸は、それ自体は薬学的に許容されないが、本発明のコンパウンドおよびその薬学的に許容される塩を得るための中間体として有用である場合がある。塩基との薬学的に許容される塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えばカリウム塩およびナトリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム塩およびマグネシウム塩、ならびに有機塩基との塩、例えばジシクロヘキシルアミンおよびN-メチル-D-グルコサミン(N-methyl-D-glucomine)が含まれる。
【0089】
有機化学の技術に精通した人であれば、多くの有機化合物が、それらが反応する溶媒、あるいはそれらが沈殿または結晶化する溶媒と錯体を形成することができることを理解するだろう。このような錯体は、「溶媒和物」として知られている。例えば、水との錯体は、「水和物」として知られている。本発明は、本発明のコンパウンドの溶媒和物を提供する。
【0090】
ペプチド合成
本発明のペプチドは、従来の方法論、例えば、個々のアミノ酸からの合成、特に自動ペプチド合成機を用いた段階的合成、ネイティブペプチドの修飾、または組換え製造技術などを含むがこれらに限定されない、ペプチドを製造する任意の適切な技術によって製造することができる。
【実施例
【0091】
材料と方法
ペプチド合成
ペプチドは、Sigma Aldrichから入手したイソロイシンを除き、Novabiochemから入手したアミノ酸誘導体を用いて、(Fmoc)-SPPSプロセスで合成した。最初のアミノ酸は、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミドと1-ヒドロキシベンゾトリアゾールを用いてRink Amide MBHA樹脂(100~200メッシュ、Novabiochem)にカップリングさせた。その後のカップリングはActivo P-11ペプチド合成機でPyBOPを使用して行った。脱保護は、ジメチルホルムアミド中の20%ピペリジンを使用して行った。ジエチルエーテルで沈殿させる前に、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン、水(95:2.5:2.5)を用いてペプチドを樹脂から切断した。粗ペプチドを、Phenomenex Gemini C18カラム(250×10mm、孔径5μm)と水とアセトニトリル(ともに0.1%TFA含有)のグラジエント移動相を用いたHPLCにより、流速2.5mL/分で精製した。ペプチドの同一性を検証するために、エレクトロスプレーイオン化(ESI)したBruker Daltonics micrOTOF質量分析計で、高分解能飛行時間型質量スペクトルを取得した。精製ペプチドは凍結乾燥し、-20℃で保存した。
【0092】
Caco-2細胞培養
不死化ヒト腸管上皮細胞株(Caco-2)を、10%FBS、2mM L-グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(Gibco)を補充したDMEM/F12(Gibco、Paisley、UK)中で維持した。Caco-2細胞をTranswell(商標)(Corning、NY)ポリエステルメンブレンフィルター(直径12mm、孔径0.4μm)上に7×10/ウェルの密度で播種した。新鮮な培地(Life Technologies、Paisley、UK)の供給は2日おきに実施した。これらの研究には、経上皮電気抵抗(TEER)>350Ω・cmのCaco-2単層を使用し、固定パドル電極とボルトメーター(World Precision Instruments、UK)を用いて測定したこのようなTEER値は、通常Transwell(商標)フィルターへの播種後15~18日目で達成された。
【0093】
in vitro輸送アッセイ
10mg/mL4kDa蛍光デキストラン(Sigma)の頂部から基部へのフラックスを行い、傍細胞透過性に対するPIPペプチドの影響を評価した。頂部(200μL)および基部(500μL)コンパートメント培地を新鮮なHBSSで置換し、TEER測定が得られたときに30分間平衡化させて、単層完全性を確保した。蛍光デキストランを頂部に適用した後、設定した時間(通常0、15、30、60、90、120、180分)ごとに基部コンパートメントの体積を収集し、毎回新鮮なHBSSで置換した。頂部および基部コンパートメントの蛍光は、Fluorostar Omegaマイクロプレートリーダー(BMG Labtech、Ortenburg、Germany)を用いて決定した。3時間後、頂部コンパートメント蛍光デキストラン/ペプチド溶液を除去し、PBSで置換し、TEER値をさらに30分間記録し、単層回復をモニターした。TEER値はブランクフィルターの測定値を差し引いて計算し、その単層の初期TEER値に対するパーセンテージとして正規化した。
【0094】
動物
in vivo実験には、体重250~300gの雄のWistarラットを使用した。ラットをUniversity of Bathの屋内で飼育した。ラットを12/12時間の明暗サイクルで飼育した。実験は光周期の中間点±3時間で行った。ラットは、実験開始までの間、自由に餌と水にアクセスできた。実験後、ラットを濃度が増大するCOに曝露して安楽死させた。
【0095】
in vivo腔内注入(ILI)
ラットを5%吸入イソフルランで麻酔した。麻酔が達成されると、ラットを麻酔を維持するためにノーズコーンに移した。2cmの切開を使用して、腹腔にアクセスした。腸の十分な部分を切除して空腸の位置を確認し、25Gの注射針を用いてその内腔に直接試験物質を注入した。試験終了時の組織採取のため、永久マーカーを使用して、注射部位に隣接する腸間膜を確認した。
【0096】
LCMS/MS用血清サンプルの採取
尾静脈または門脈から血液サンプル(100μL)を1.5mLエッペンドルフチューブに採取し、室温で20分間凝固させた。2000×gで10分間遠心分離した後、凝固した血液から採取した血清をアセトニトリルと1:3の割合で混合し、4℃で一晩放置してタンパク質を沈殿させた。サンプルは2000×gで10分間遠心分離し、上清を回収してLCMS/MSで分析した。
【0097】
in vivoでのゲンタマイシンの輸送
ラットに10mg/kgのゲンタマイシンを、20mMのPIP250シリーズペプチドの有無で、ILIによって投与した。IL後15分から90分までに採取した血液サンプルについて、ゲンタマイシンを分析した。別の実験では、PIP250シリーズペプチドを単独で注射し、30分または60分の遅延後にゲンタマイシンを単独で注射した。血液サンプルを、以前に記載したように採取し、分析した。
【0098】
ゲンタマイシンの血清濃度のLCMS/MS分析
サンプルを、Agilent 6545四重極飛行時間型LC/MS装置を用いて分析した。10μLのゲンタマイシンサンプルをC18逆相HPLCカラムに注入し、202nmで検出した。サンプルをエレクトロスプレーイオン化によりイオン化し、サンプル中のゲンタマイシンを質量/電荷分析により確認した。定量は、Agilent Mass Hunter Quant Softwareで行った。
【0099】
ウェスタンブロッティング
200μLのRIPAバッファーと10μLのプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を使用して調製したCaco-2単層の溶解物を、1.5mLエッペンドルフチューブに入れ、4000×gで10分間遠心して上清を取り除き、12%SDS-PAGEゲルで分離するまで-80℃で保存した。タンパク質サンプルをローディングバッファーと1:1で混合し、95℃で5分間加熱して変性させ、20μLを分析のためにロードした。分離したタンパク質を、30Vで75分間、ニトロセルロース膜に転写した。膜をTBS-T中の5%ウシ血清アルブミンで2時間ブロックした後、TBS-Tで希釈した一次抗体を用いて4℃で一晩インキュベートした。膜をTBS-Tで3回洗浄し、次いで蛍光標識2次抗体と室温で2時間インキュベートした。膜をTBS-Tで3回洗浄し、Licorイメージングシステムを使用して分析した。
【0100】
結合アッセイ
PBS-Tで希釈したHis-タグ付きPP1をニッケルでコートしたウェルで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄した。ビオチン化PIPペプチドまたはMYPT1のアミノ酸1~299の濃度を増大させながら、ウェルをインキュベートした。ウェルをPBS-Tで再度3回洗浄し、Alexa Fluor 488に結合したストレプトアビジンを用いて1時間インキュベートした。ウェルを前回と同様に洗浄し、プレートの蛍光を読み取った(Ex:480nm、Em:510nm)。
【0101】
MYPT1との結合アッセイを、濃度が増大するPIPペプチドの存在下で繰り返し、MYPT1とペプチドとの間の競合を測定した。
【0102】
データ処理
グラフと統計解析は、一元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定を使用したGrapPadPrsimソフトウェアを用いて実施した。
【0103】
結果
ペプチド修飾の理論的根拠
PIP250は、PP1とMYPT1との相互作用を阻害するように設計された。MYPT1上のPP1結合モチーフ、35KVKF38、および隣接するアミノ酸を基にして設計された。結合モチーフは保持されたままに、隣接する負に荷電したアスパラギン酸残基を正に荷電したアルギニン残基に置換して、ペプチドを細胞浸透性ペプチドに類似させた[23]。L-アミノ酸の配列を逆にしてD-アミノ酸に置換する戦略(すなわちレトロインバーソ)を使用して、側鎖の順序と配向を維持しながらペプチドの安定性を高めた。レトロインバーソ配列への置換は、PP1との相互作用に関与すると予想されるアミノ酸を基に行われた。例えば、MYPT1上のPhe-38とVal-36は、結合時にPP1上の疎水性ポケットと会合する。これらの残基はPP1上のPhe-P3およびVal-P5と類似しており、本研究の焦点である。フェニルアラニンとバリンは疎水性の側鎖を持つアミノ酸である。この性質が、これらのアミノ酸がPP1の疎水性ポケットに結合することに関与していることがある。この仮説を検証するために、負に荷電したアスパラギン酸を使用して、ペプチドPIP253とPIP254のPhe-P3またはVal-P5をそれぞれ置換した。これらのアミノ酸が疎水性だけでなく特異的に必要とされているかどうかを評価するために、アラニンも使用してペプチドPIP251とPIP252のPhe-P3またはVal-P5をそれぞれ置換した(表1)。
【0104】
【表2】
【0105】
TEERに及ぼすPhe-P3またはVal-P5修飾の影響
いずれの場合も、これらのペプチドは5mMでコンフルエントな分極Caco-2単層の頂部表面に適用して試験した。Phe-P3をアラニンに置換したPIP251では、TEERを62.7%に低下させたが、PIP250で見られたTEERに対する効果よりもわずかに小さいが、有意差はなかった(図1A)。一方、Phe-P3をグルタミン酸に置換したPIP253では、TEERはベースラインの88%に低下し、PIP250とは統計的に異なる結果となった(図1A)。Val-P5のアラニン残基での置換(PIP252)は、TEERがベースラインの66%に低下し、元のPIP250と同様の結果を示したが、Val-P5のアスパラギン酸での置換(PIP254)は、TEERがベースラインの85%にしか低下しないペプチドとなった(図1B)。
【0106】
Phe3またはVal5の変化が透過性とpMLCレベルに及ぼす影響
PIP250~254シリーズによって誘導されるTEERの変化が傍細胞溶質の移動に及ぼす影響を評価するために、Caco-2細胞単層を通過する4kDa蛍光デキストランの見かけの透過性(PAPP)を測定した(図2A)。未処置のCaco-2単層のPAPPは0.60×10-5cm/sであった。PIP250を頂部に適用すると、PAPPは1.65×10-5cm/sに増加した。PIP251はPAPPを1.68×10-5cm/sに、PIP252は1.47×10-5cm/sに増加させた。PIP253適用後のPAPPは0.87×10-5cm/sであり、PIP254適用後は0.51×10-5cm/sであった。対応のない両側t検定により、PIP250(p=0.006)、PIP251(p=0.006)、PIP252(p=0.005)の効果は未処置の対照と著しく異なり、PIP253とPIP254は対照との有意差を示さないことが示された。
【0107】
Caco-2単層にPIP250を適用した後、MLCに対するpMLCの比は、同じ処置をした未処置(対照)単層と比較して、著しく増加した(図2B)。PIP251およびPIP252処置もまた、MLCに対するpMLCの比を増加させたが、その程度は親PIP250よりも小さかった。PIP253とPIP254はMLCに対するpMLCの比を著しく増加させなかった。
【0108】
洗い流し後の回復は、Phe3またはVal5の変化に影響される
Caco-2単層を5mMのPIP250、PIP251、またはPIP252で180分間処置し、次いで洗い流し後のTEERの回復をモニターした(図3A)。PIP250で処置したCaco-2単層は、洗い流し時に最初のTEER値の約50%であり、洗い流し後のTEERレベルは、洗い流し後90分までに回復することができなかった。具体的には、PIP250では、TEERは最初のベースラインの49%であり、洗浄後90分では54%であった。比較すると、PIP251はTEERをベースラインの58%まで低下させ、90分後には94%まで回復させた。この時点では、もはやベースラインとの統計的な差はなかった。PIP252はTEERをベースラインの55%まで低下させ、洗い流し90分後にはベースラインの70%までわずかに回復したが、ベースラインとの統計的な差は残っていた。さらに、PIP250ペプチドの洗い流しから90分後のCaco-2単層を通過する4kDa蛍光デキストランのPAPPを調べ、PIP251およびPIP252のものと比較した(図3B)。対照ウェルのPAPPは0.05×10-6cm/sであった。PIP250およびPIP252ウェルのPAPPはそれぞれ0.21および0.19×10-6cm/sで、依然として対照とは統計的に異なっていた。しかし、PIP251ウェルのPAPPは、0.07×10-6cm/sで対照との統計的な差はなかった。修飾されたPAPPおよびTEERのこれらの結果は、PIP250、PIP251、PIP252はTEERを同程度に低下させ、傍細胞透過性を高めるが、PIP251の作用はより迅速に可逆的であることが示唆された。
【0109】
in vivoにおけるゲンタマイシンの吸収促進
ゲンタマイシンは、経口バイオアベイラビリティが低い、478Daの水溶性抗生物質である。実際、ゲンタマイシンを単独でラットの空腸に腔内注入(ILI)しても、血清中レベルは検出されなかった(データは示していない)。ゲンタマイシンとPIPペプチドであるPIP250、PIP251、PIP252をILIで同時投与すると、いずれもゲンタマイシンの血清濃度が上昇し、TMAXは約45分であった(図4)。ゲンタマイシンCMAXはPIP250との共注入後に3.79μg/mL、PIP251との共注入後に1.63μg/mL、PIP252との共注入後に3.62μg/mLであった。
【0110】
PIPペプチド注入に続く遅延注入後のゲンタマイシンの吸収
PIP250およびPIP252と比較して、PIP251のin vitroでの休薬後は上皮の隔壁特性がより迅速に回復したので、PIPペプチドの30分後または60分後に腔内注入した場合のゲンタマイシンの吸収の程度を、共注入と比較して、これらのペプチドの作用の持続性をin vivoで調べる一連の研究が行われた。まず、薬物動態プロファイルから算出した全体のAUC値を比較のために示す(図5A)。PIP250とゲンタマイシンを共注入した場合、AUCは155μg/mL・分となり、PIP250の30分後または60分後にゲンタマイシンを注入した場合は、それぞれ584μg/mL・分と68.6μg/mL・分となった。PIP251とゲンタマイシンを共注入した場合のAUCは97.7μg/mL・分となり、PIP251の30分後にゲンタマイシンを注入した場合は32.9μg/mL・分となった。PIP252とゲンタマイシンを共注入した場合のAUCは127.4μg/mL・分となり、PIP252の30分後にゲンタマイシンを注入した場合は8.6μg/mL・分となった。PIP250の30分後に注入した場合、ゲンタマイシンのCMAXは10.03μg/mLであり、共注入後の3.79μg/mLと比較してより高濃度になった(図5B)。PIP250の60分後に注入すると、ゲンタマイシンのCMAXは1.46μg/mLに減少する。PIP251の30分後に注入した場合、ゲンタマイシンのCMAXは0.64μg/mLであり、共注入後の1.63μg/mLと比較してより低濃度になった(図5C)。PIP252の30分後に注入した場合、ゲンタマイシンのCMAXは0.19μg/mLであり、共注入後の3.79μg/mLと比較してより低濃度になった(図5D)。
【0111】
タイトジャンクションタンパク質レベルの変化
分極Caco-2単層をPIP250またはPIP252で90分間処置すると、オクルディンのレベルはそれぞれ対照レベルの65.8%と61.4%に著しく低下した。PIP251処置では、オクルディンは対照の84.1%まで低下したが、これは統計学的に有意ではなかった。
【0112】
プロテインホスファターゼ1へのペプチドの結合
ペプチドPIP250はPP1に結合し、その結果MYPT1とPP1がMLCPを形成する際の結合を阻害するように設計された。PIP250がPP1と結合することを確認し、結合親和性に対する単一のアミノ酸修飾の影響を評価するために、ペプチド/タンパク質相互作用の結合曲線アッセイを行った。Hisタグ付きPP1をニッケルコートしたプレートに固定化し、ビオチン化ペプチドとインキュベートし、蛍光ラベルしたストレプトアビジンで検出した。PP1に結合するペプチドの結合曲線を図7に示す。PIP250は計算上のKが610μMでPP1に結合した。バリンまたはフェニルアラニンの置換は、結合を完全に失うことなく、結合親和性を低下させた。PIP251(Phe→Ala)とPIP252(Val→Ala)の計算上のK値はそれぞれ1282と724μMであった。MYPT1~299のPP1への結合も同じアッセイで評価され、Kは49nMと著しく高い結合親和性を有していた。
【0113】
PP1へのペプチドの結合がMYPT1の結合を阻害するのに十分であるかどうかを評価するため、MYPT1/PP1結合アッセイを、PIPペプチドの濃度を増大させながら繰り返した。ペプチドによるMYPT1結合の阻害を図8に示す。PIP250は、MYPT1のPP1への結合を用量依存的に阻害した。PIP250のKは155μMと算出された。
【0114】
【表3】
【0115】
考察
PIP250を用いた実験の結果は、このペプチドに関する以前のデータ[20]と一致する。データはまた、重要なアミノ酸残基の置換が、MLCのリン酸化状態を変化させ、Caco-2単層の透過性を増大するというペプチドの活性に影響を与えることを示す。Phe3とVal5の両方がペプチド活性に重要であるように思われる。これらの疎水性アミノ酸のいずれかを、荷電した親水性側鎖を持つアミノ酸に置換すると、単層とpMLCに対するペプチドの効果を妨げる。しかし、これらの残基を別の疎水性残基に置換すると、ペプチドの単層への作用には、わずかな影響があるかまたはほとんどなく、ペプチドのpMLCの増加もわずかに低下する。このことから、これらの残基の疎水性がMLCPとの会合に重要な因子であることが示唆される。
【0116】
アミノ酸を変えて疎水性を保持したPIP251とPIP252は、Caco-2透過性に対して同様の効果を示すが、MLCリン酸化に対する効果はわずかに低下した。このことから、ペプチドがMLCPを阻害するためには疎水性側鎖があれば十分であるが、その効果が若干低下していることが示唆される。pMLCの増加が低いことはin vitroでのPIP媒介性の透過性に大きな影響を与えないようである。しかしながら、フェニルアラニンをアラニンに置換すると、ペプチドを洗い流した後の単層膜の回復速度が著しく増加するように見え、結合親和性が弱くなることが示唆された。洗い流してから1時間後、PIP250で処置した単層は、対照と比較してPAPPが著しく増加し、TEERが低下していることが依然として示された。一方、PIP251で処置した単層は、対照と同程度のPAPPとTEERに回復していた。また、PIP252を洗い流すとTEERがいくらか回復したが、これはPAPPの減少には対応しなかった。3種類のペプチドは全てMLCPと同様の方法で相互作用するが、PIP250の方が酵素との相互作用が強く、洗い流した後もより長く会合しているという可能性がある。PIP251とMLCPの相互作用が弱ければ弱いほど、より迅速に解離し、ベースラインの生理状態に早く戻ることができる可能性がある。この結果から、PIP252は洗い流し後の解離という点では、PIP250とPIP251との間のどこかにあることが示唆される。実際、ペプチドとPP1との結合アッセイから得られたデータはこの仮説を支持する。それぞれのペプチドはPP1に結合し、PIP250が最も親和性が高く、次にPIP252、次いでPIP251の順に結合する。最も重要なことは、ペプチドはMYPT1の最初の299アミノ酸断片のPP1への結合を阻害することができることである。再度、PIP250がこの相互作用を阻害する上で最も有効であり、PIP252はPIP251よりも有効であった。これらのペプチドの設計の理論的根拠は、MYPT1がPP1に結合してMLCPを形成するのをこれらのペプチドが阻害することであり、したがって、ペプチドがMYPT1を置換する能力がその作用の鍵であることである。低い効能でMYPT1をPP1から置換することで、修飾ペプチドPIP252とPIP251はより一過性の効果をもつ場合があるようである。
【0117】
in vivoで試験した場合、PIP250は、空腸への共注入後にゲンタマイシンの血中への送達を促進した。PIP251は、ゲンタマイシンの送達も促進したが、一方、in vitroのデータは、PIP251の効果はPIP250に比べてほとんど減少していないことを示し、in vivoでは、ゲンタマイシンのレベルはAUCが90.5μg/mL・分で、PIP250の155μg/mL・分に比べ明らかに低い。PIP250よりも低いものの、PIP251を媒介性のゲンタマイシンの吸収は皮下投与のゲンタマイシンとよく比較される。PIP252とゲンタマイシンの共注入はPIP251よりも多くのゲンタマイシンを送達し、AUCは127.4μg/mL・分となった。このAUCと投与されたゲンタマイシンの用量を用いて、相対的バイオアベイラビリティ(FREL)は以下の式:
REL=((AUCILI×DSC)/(AUCSC×DILI))×100
で算出することができる。
【0118】
これにより、FRELは、PIP250が36.5%、PIP251が21.3%、PIP252が31.0%となる。
30分後、ゲンタマイシンの血清濃度はin vivoで試験した3つのペプチドの全てで同様であり、いずれもゲンタマイシンの中程度の上昇を示す。次いで、30分から45分の間に、ゲンタマイシンとPIP250またはPIP252を注入した動物では急激な濃度の上昇が見られるが、PIP251では見られない。このことは、PIP250とPIP252によって誘導される透過性の上昇には2段階あり、PIP251では第2段階が存在しないことを示唆する。このことは、in vitroでのオクルディンレベルに対するペプチドの影響と相関している。PIP250とPIP252は処置後、caco-2細胞で検出されるオクルディン量を著しく低下させる。PIP251はそれほどでもないが、オクルディンを低下させるようである。これは、オクルディンの下方制御が原因で、PIP250とPIP252によりゲンタマイシン濃度がより上昇する可能性があることを示唆する。PIP251とPIP252はpMLCに同程度の効果を示すが、オクルディンレベルには有意差があることから、副次的な作用機序が関与していることが示唆される。
【0119】
PIP250とゲンタマイシンの注入の間に30分の遅延があった後でも、血中のゲンタマイシンの量は共注入の場合より著しく多い。このことは、PIP250が持つ効果は30分後にも増大していることを示唆する。PIP251とゲンタマイシンの遅延時間が同じ場合、血中のゲンタマイシンの量は共注入と比較して少なくなっている。PIP250とゲンタマイシンの注入の間に60分の遅延があった後でも、30分の遅延のPIP251よりも高いゲンタマイシンの吸収がある。これらのデータは、PIP250がPIP251およびPIP252よりも注入後長い時間効果を発揮していることを示唆しており、PIP250と比較してPIP251およびPIP252の回復プロファイルが改善されていることを示すin vitroのデータと一致している。興味深いことに、PIP252はin vitroでは部分的な回復しか示さなかったが、in vivoでは最も良好な回復を示した。
【0120】
臨床的に使用するためには、透過強化剤は生理的状態に確実に戻る一過性の作用が必要であり、したがって透過性の増加は、上皮の完全性に長期的または持続的な影響を与えることなく、薬物送達の時間に限定される。本データは、PIP251とPIP252がゲンタマイシンの吸収を促進することを示唆している。PIP251はPIP250よりもかなり効果が低いように見えるが、静止状態への回復時間が短い。PIP252はPIP250と同程度にゲンタマイシンの送達を促進するが、30分後の回復が改善されており、したがってPIP251より若干優れているようである。
【0121】
総合すると、これらのデータは、PIP252はPIP250と同様の透過性強化のプロファイルを持つが、回復時間が著しく優れていることを示す。このことから、PIP252はこれまで試験されたペプチドの中で最も有望な一過性透過強化剤の候補となる。
【0122】
上述の説明、特許請求の範囲、または添付図面において、特定の形態や開示した機能を実現するものとして記載された特徴、および開示した結果を得るための方法や手順は、適宜、そのような特徴を分離してまたは組み合わせて、本発明を様々な形態で実現するために利用されてもよい。
【0123】
本発明については、上記した例示的な実施形態と関連付けて記載してきたが、当業者であれば、ここで開示した内容を得た時に、数多くの同様な修正や変形が明らかであろう。したがって、上記にある本発明の例示的な実施形態は、あくまでも例示的なものであり、本発明を限定するものではないものと見なされる。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に多様な変化を行ってよい。
【0124】
誤解を避けるために、本明細書で提供される理論的説明は、読者の理解を向上させる目的で提供されるものである。本発明者らは、これらの理論的説明のいずれにも拘束されることを希望しない。
【0125】
本明細書で用いる全ての節の見出しは構成のみを目的としており、記載された対象物を限定するものとみなされるべきではない。
特許請求の範囲を含め、本明細書を通じて、文脈上特に必要とされない限り、単語「comprise」および「include」、ならびに「comprises」、「comprising」、「including」などの変形形態は、記載の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むが他の任意の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を排除しないことを意味すると理解されるであろう。
【0126】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、複数形の参照対象を含むことに注意しなければならない。範囲は、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして本明細書中で表されてもよい。このような範囲を表示する場合、別の実施形態は、ある特定の値から、および/または別の特定の値までを含む。同様に、前に「約」を付けて値を近似値として表す場合、その特定の値が別の実施形態を形成すると理解される。数値に関連する「約」という用語は任意であり、例えば±10%を意味する。
【0127】
参考文献
本発明および本発明が属する技術の状態をより十分に記載し、開示するために、多数の刊行物を上記に引用する。これらの文献の完全な引用は、以下に提供される。これらの各文献の全体は、本明細書に組み込まれる。
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11. McCartney, F., J.P. Gleeson, and D.J. Brayden, Safety concerns over the use of intestinal permeation enhancers: A mini-review.Tissue Barriers, 2016. 4(2).
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14. Cunningham, K.E. and J.R. Turner, Myosin light chain kinase: pulling the strings of epithelial tight junction function. Ann N Y Acad Sci, 2012. 1258: p. 34-42.
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標準的な分子生物学的手法については、Sambrook,J.、Russel,D.W.、Molecular Cloning,A Laboratory Manual、第3版、2001、Cold Spring Harbor、New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press、を参照されたい。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
【配列表】
2023533168000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-07-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮透過性を増大することができる薬剤であって、長さが15個以下のアミノ酸のペプチドを含み、前記ペプチドが式I:
x3-k-x5-k(式I)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列
を含む、薬剤。
【請求項2】
ペプチドが式II:
x3-k-x5-ktk(式II)
(式中、
x3は、D-Phe、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、
x5は、D-Val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択され、ならびに
x3とx5の両方がD-Pheであることはない)
のコア配列
を有する、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
薬剤が上皮細胞の形質膜を通過することができる、請求項1または請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
ペプチドが、形質膜を横切る通過を媒介することができる1つまたは複数の追加の配列を含む、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
ペプチドが、コア配列のN末端の残基rr、および/またはコア配列のC末端の残基krkを含む、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
ペプチドが、配列:
rr-x3-k-x5-ktkkrk

を含むか、またはそれからなり、
式中、
(i)x3は、D-Pheであり、x5は、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択されるか;あるいは
(ii)x3は、D-Alaであり、x5は、D-val、D-Ala、D-LeuおよびGlyから選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
式Iのコア配列がakvk、fkakまたはakak、好ましくはakvkまたはfkakである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項8】
式IIのコア配列がakvktk、fkaktk、またはakaktk、好ましくはakvktkまたはfkaktkである、請求項2に記載の薬剤。
【請求項9】
ペプチドが、配列:
rrakvktkkrk
もしくは
rrfkaktkkrk
を含む、またはそれからなる、請求項1から8のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項10】
式:
-Z-R
(式中、
は、H、C1~4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル、またはトリフルオロアセチルであり、
はOHまたはNHであり、
Zは、請求項1から9のいずれか一項に記載のペプチド配列を表す)
を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項11】
H-rrakvktkkrk-NH
または
H-rrfkaktkkrk-NH
である、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
治療における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
上皮表面を横切って送達される物質をさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
(i)請求項1から13のいずれか一項に記載の薬剤を含む第1の組成物;および
(ii)上皮表面を横切って送達される物質を含む第2の組成物、
を含む、キット。
【請求項16】
上皮表面の透過性の増大における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項17】
上皮表面を横切って物質を送達する方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項18】
物質が診断薬または治療薬である、請求項14、15または17のいずれか一項に記載の医薬組成物、キット、または使用のための薬剤。
【国際調査報告】