(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】基材上にコーティング材を堆積させるためのコーティング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
C23C14/24 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578830
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2021066897
(87)【国際公開番号】W WO2022008224
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020118015.2
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャニーヌ-クリスティーナ シャウアー-パース
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン シュヴァート
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ストラック
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】スラヴチョ トパルスキー
(72)【発明者】
【氏名】アクセル ツヴィック
(72)【発明者】
【氏名】テジャ ロック
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DB15
4K029DB17
(57)【要約】
本発明は、真空チャンバー(8)と、るつぼ(6)と、コーティング材を準備するための少なくとも1つのスプレーヘッド(7)と、噴射管(5)と、を有するコーティング装置(1)に関する。噴射管(5)は、準備されたコーティング材をるつぼ(6)に導くように設計され、るつぼ(6)に接続されており、少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、スプレーヘッド(7)が準備されたコーティング材を噴射管(5)に供給する動作位置と、取出位置との間で移動可能である。真空チャンバー(8)の外側からアクセスできるように設計され、真空チャンバー(8)から遮断密封されることができる、少なくとも1つの取出用チャンバー(12)が設けられ、その取出位置における少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、真空チャンバー(8)から気密的に分離される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にコーティング材を堆積させるためのコーティング装置(1)であって、
真空チャンバー(8)と、前記真空チャンバー(8)内に配置されるるつぼ(6)と、前記コーティング材を準備するための少なくとも1つのスプレーヘッド(7)と、前記真空チャンバー(8)内に配置される噴射管(5)と、を備え、
前記噴射管(5)は、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)で準備された前記コーティング材を前記るつぼ(6)に導くように設計され、前記るつぼ(6)に接続され、
前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、前記準備されたコーティング材のための出口開口部(17)を有し、前記準備されたコーティング材を前記噴射管(5)に供給するように前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)が配置される動作位置と、取出位置との間で移動可能に設計され、
前記真空チャンバー(8)の外部からアクセスできるように設計され、前記取出位置において前記真空チャンバー(8)から気密的に遮断密封されることができる、少なくとも1つの取出用チャンバー(12)が設けられ、前記スプレーヘッド(7)の前記取出位置における前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)の少なくとも前記出口開口部(17)は、前記取出用チャンバー内で前記真空チャンバー(8)から気密的に分離される、コーティング装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、少なくとも1つのコーティング材供給部(2、3)と少なくとも1つのガス供給部(4)とを有し、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)の前記動作位置において、前記少なくとも1つのコーティング材供給部(2、3)および前記少なくとも1つのガス供給部(4)は、前記真空チャンバー(8)の外側から前記真空チャンバー(8)内へ真空フィードスルー(18、19)を通って案内される、請求項1に記載のコーティング装置(1)。
【請求項3】
前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、蛇腹状接続部材(10)によって前記真空チャンバー(8)の壁部(11)に接続されるフランジ(9)に取り付けられる、請求項2に記載のコーティング装置(1)。
【請求項4】
前記蛇腹状接続部材(10)は、前記少なくとも1つの取出用チャンバー(12)を形成する、請求項3に記載のコーティング装置(1)。
【請求項5】
前記取出位置において、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、前記蛇腹状接続部材(10)内に完全に配置される、請求項3または4に記載のコーティング装置(1)。
【請求項6】
チャンバー壁部材(20)が、前記少なくとも1つの取出用チャンバー(12)を形成し、前記動作位置から前記取出位置に移動可能および戻すことが可能な前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)に対して、封止部材(22)によって当該取出用チャンバー(12)を遮断密封する、請求項2に記載のコーティング装置(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、前記出口開口部(17)から離れる側のその長手方向端部においてフランジに取り付けられ、前記真空フィードスルーは、前記フランジ(9)に形成される、請求項6に記載のコーティング装置(1)。
【請求項8】
前記真空フィードスルー(18)は、前記フランジ(9)に形成される、請求項3に記載のコーティング装置(1)。
【請求項9】
前記真空フィードスルー(19)は、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)内に形成され配置される、請求項2乃至6のいずれかに記載のコーティング装置(1)。
【請求項10】
遮断装置(15)が、前記真空チャンバー(8)内で解放位置と遮断位置との間で移動可能に配置され、前記遮断位置において、前記遮断装置(15)は、その取出位置に配置された前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)を前記真空チャンバー(8)から気密的に分離する、請求項1乃至9のいずれかに記載のコーティング装置(1)。
【請求項11】
前記少なくとも1つの取出用チャンバー(12)は、通気弁(16)を有する、請求項1乃至10のいずれかに記載のコーティング装置(1)。
【請求項12】
前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、その動作位置において少なくとも部分的に前記噴射管(5)内に突出し、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、前記動作位置から前記取出位置の方向への移動中に前記噴射管(5)内で同軸方向に移動可能であり、気密的に案内される、請求項1乃至11のいずれかに記載のコーティング装置(1)。
【請求項13】
前記噴射管(5)は、解放位置と遮断位置との間で移動可能な遮断弁(14)を有し、前記遮断弁(14)は、前記遮断位置において、前記噴射管(5)を通る流れを遮断する、請求項1乃至12のいずれかに記載のコーティング装置(1)。
【請求項14】
前記遮断弁(14)の前記遮断位置において、前記少なくとも1つのスプレーヘッド(7)は、部分的に前記噴射管(5)内に配置される、請求項13に記載のコーティング装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にコーティング材を堆積させるためのコーティング装置であって、真空チャンバーと、真空チャンバー内に配置されるるつぼと、コーティング材を準備するための少なくとも1つのスプレーヘッドと、真空チャンバー内に配置される噴射管と、を備えるコーティング装置に関する。噴射管は、少なくとも1つのスプレーヘッドで準備されるコーティング材をるつぼに導くように設計され、るつぼに接続されている。
【背景技術】
【0002】
前記タイプのコーティング装置は、例えば、WO2016/042079A1より知られている。この公知のコーティング装置では、陰極および陽極を形成して直流電圧電源に接続される2本のワイヤーが、スプレーヘッドに到達するコーティング材として連続的に供給されることで、2本の材料ワイヤー間に電気アークが形成され、その結果、2本の材料ワイヤーの形態で供給されたコーティング材は蒸発および/または液化する。さらに、スプレーヘッドには、蒸発または液化したコーティング材を噴射管を介してるつぼに導くガス流が供給される。そして、るつぼに導かれたコーティング材は、加熱されたるつぼ内で完全に蒸発し、るつぼからコーティング対象の基材上に導かれる。基材は、例えば、鋼帯であってもよい。酸素が確実に存在しないようにするために、大気圧よりかなり低い圧力の真空チャンバー内でコーティング処理を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような公知のコーティング装置の動作中に噴射ヘッドが故障して交換が必要となることもあり、噴射ヘッドの定期的なメンテナンスが必要な場合もある。噴射ヘッドをコーティング装置の真空チャンバーから取り外すには、コーティング装置全体を停止させ、冷却し、完全に通気しなければならず、時間がかかり、非常に複雑であることから、大幅な生産低下が生じる。
【0004】
本発明の目的は、噴射ヘッドのメンテナンスおよび交換に関連する労力を低減し、動作の中断を最小限に抑えることができる、構造的に簡単な方法で改良されたコーティング装置を提供する解決策を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の特徴を有するコーティング装置によって達成される。
【0006】
本発明によれば、基材上にコーティング材を堆積させるためのコーティング装置は、真空チャンバーと、真空チャンバー内に配置される、加温処理および必要に応じて蒸発後処理のために形成された1つ以上のるつぼと、コーティング材を準備するために設計された少なくとも1つのスプレーヘッドと、真空チャンバー内に配置された噴射管と、を備える。噴射管は、少なくとも1つのスプレーヘッドで準備されたコーティング材をるつぼに導くよう設計され、少なくとも1つのスプレーヘッドは、準備されたコーティング材のための出口開口部を有し、供給されたコーティング材を噴射管に供給するように少なくとも1つのスプレーヘッドが配置される動作位置と、取出位置との間で移動可能に設計される。この場合、真空チャンバーの外側からアクセスできるように設計され、真空チャンバーから遮断密封されるように構成された、少なくとも1つの取出用チャンバーが設けられ、スプレーヘッドの取出位置における少なくとも1つのスプレーヘッドの少なくとも出口開口部は、真空チャンバーから気密的に分離される。この場合、るつぼは、コーティング材を保温し、必要に応じてコーティング材を再蒸発させるように設計され、コーティング材の実際の加熱は、少なくとも1つのスプレーヘッドで行われる。その動作位置において、少なくとも1つのスプレーヘッドは、噴射管に対して蒸気密閉的に遮断密封される。
【0007】
本発明の有利かつ好的な実施形態および展開は、従属請求項に見出すことができる。
【0008】
本発明は、簡易な設計を特徴とし、比較的短時間かつ簡単な手段でスプレーヘッドをコーティング装置から取り外し、例えば当該スプレーヘッドを新しいスプレーヘッドと交換することが可能なコーティング装置を提供するものである。取出用チャンバー内のその取出位置にある少なくとも1つのスプレーヘッドが真空チャンバーから気密的に分離されていることにより、真空チャンバーの真空を中断することなく、コーティング装置の継続動作中に、真空チャンバーの外側からアクセスできる取出用チャンバーから修理およびメンテナンスのために当該スプレーヘッドを取り外すことができる。
【0009】
コンパクトな設計を実現するために、本発明が提供することとして、少なくとも1つのスプレーヘッドは、少なくとも1つのコーティング材供給部と少なくとも1つのガス供給部とを有し、少なくとも1つのスプレーヘッドの動作位置において、少なくとも1つのコーティング材供給部および少なくとも1つのガス供給部は、真空チャンバーの外側から真空チャンバー内に真空フィードスルーを通って案内される。真空フィードスルーにより、結果的に、異なる供給部が真空チャンバーの外側から真空フィードスルーを通って真空チャンバー内にスプレーヘッドへと案内される。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのスプレーヘッドの移動可能な設計は、少なくとも1つのスプレーヘッドが、蛇腹状接続部材によって真空チャンバーの壁部に接続されるフランジに取り付けられることで実現される。
【0011】
本発明の一実施形態では、蛇腹状接続部材が少なくとも1つの取出用チャンバーを形成すると、特に小さな設置スペースしか取らない。蛇腹状接続部材を伸ばした状態、または展開した状態では、接続部材自体が、メンテナンスまたは交換のためにアクセス対象となるスプレーヘッドを収容することができる十分なスペースを提供する。
【0012】
コーティング装置の動作中にスプレーヘッドを取り外すために、一実施形態で提供されることとして、取出位置において、少なくとも1つのスプレーヘッドは、蛇腹状接続部材内に完全に配置される。この場合、蛇腹状接続部材は、弾性的に、アコーディオン状に折り重なる筒の形に形成される。
【0013】
本発明の一実施形態において、コーティング装置の動作中にスプレーヘッドを取り外すための別の可能性がもたらされるのは、チャンバー壁部材が、少なくとも1つの取出用チャンバーを形成し、動作位置から取出位置に移動させることおよび戻すことができる少なくとも1つのスプレーヘッドに対して、封止部材によって遮断密封する点においてである。封止部材は、例えば、Oリングであってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのスプレーヘッドは、出口開口部から離れる側のその長手方向端部においてフランジに取り付けられ、真空フィードスルーは、フランジに形成される。
【0015】
本発明のさらなる実施形態では、真空フィードスルーは、フランジに形成されてもよい。この場合、考えられる変形例が提供することとして、フランジは、蛇腹状接続部材を介して真空チャンバーの壁部に接続されてもよい。
【0016】
代替の実施形態として、真空フィードスルーは、少なくとも1つのスプレーヘッド内に形成され配置されることも考えられる。
【0017】
さらに、本発明のさらなる実施形態によれば、取出用チャンバーは、水平に配置され、真空チャンバーの内側または外側に形成されることが考えられる。
【0018】
本発明のさらなる実施形態において、少なくとも1つのスプレーヘッドはフランジに取り付けられ、取出位置において、少なくとも1つのスプレーヘッドは蛇腹状接続部材内に完全に配置されると構造的に好ましい。その結果、フランジを介して、スプレーヘッドはその動作位置とその取出位置の間で移動させることができるため、フランジは、蛇腹状接続部材を介して真空チャンバーに移動可能に取り付けられる。
【0019】
コーティング装置の動作中に真空チャンバー内で保たれている真空を維持するために、メンテナンスが行われるとき、またはスプレーヘッドが交換されるときに、さらなる実施形態において本発明が提供することとして、遮断装置が、真空チャンバー内で解放位置と遮断位置との間で移動可能に配置され、遮断位置において、遮断装置は、その取出位置に配置された少なくとも1つのスプレーヘッドを真空チャンバーから気密的に分離する。
【0020】
さらなる実施形態において本発明が提供することとして、少なくとも1つの取出用チャンバーは、通気弁を有する。遮断装置が遮断位置に配置されることでスプレーヘッドが真空チャンバーから気密的に分離されるとすぐに、メンテナンスまたは交換対象のスプレーヘッドが配置されている取出用チャンバーを、例えば、不活性ガスで充満させると、その後、冷却されたスプレーヘッドを取り出すことができる。
【0021】
気化または融解したコーティング材がスプレーヘッドからるつぼに導かれて通る噴射管は、噴射管内でのコーティング材の凝縮を防止するために、コーティング装置の動作中に所定の温度に加熱される。所定温度は、例えば、供給されるコーティング材の凝縮温度を超える温度であってもよい。このため、さらなる実施形態において本発明が提供することとして、噴射管は、例えば、グラファイトなどの耐高温材料から製造され、材料適合性の理由から、ガスまたは蒸気に接触するグラファイトの表面をセラミック層でコーティングすること、あるいは代わりに噴射管を完全にセラミックで作ることが必要となる場合がある。したがって、本発明が提供することとして、耐高温材料は、グラファイトまたはセラミックであってもよい。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明に係るコーティング装置の特にコンパクトな設計が提供されるのは、少なくとも1つのスプレーヘッドは、その動作位置にあるときに、少なくとも部分的に噴射管内に突出し、少なくとも1つのスプレーヘッドは、動作位置から取出位置の方向への移動中に噴射管内で同軸方向に移動可能であり気密的に案内されるよう設計される点においてである。
【0023】
修理やメンテナンスのためにスプレーヘッドを取り外したり交換したりする場合でも、高温の蒸気および液体をるつぼ内に保持できるようにするために、本発明のさらなる実施形態で提供されることとして、噴射管は、解放位置と遮断位置との間で移動可能に設計される遮断弁を有し、遮断弁は、遮断位置において、噴射管を通る流れを遮断する。これにより、特に真空チャンバーへの蒸発材料の混入が防がれる。この場合、遮断弁は耐高温材料で製造されると有利である。
【0024】
さらなる有利な実施形態によれば、少なくとも1つのスプレーヘッドは、遮断弁の遮断位置において、少なくとも部分的に噴射管内に配置されてもよい。
【0025】
なお、上述した特徴および以下に説明する特徴は、所定の組み合わせだけでなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、他の組み合わせや単独でも使用できることは言うまでもない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0026】
本発明の主題の他の詳細、特徴、および利点は、本発明の例示的かつ好ましい実施形態が示されている図面と併せて、以下の説明で見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、スプレーヘッドが動作位置に配置されたコーティング装置の概略図である。
【
図2】
図2は、スプレーヘッドが中間位置に配置されたコーティング装置の概略図である。
【
図3】
図3は、スプレーヘッドが取出位置に配置されたコーティング装置の概略図である。
【
図4】
図4は、スプレーヘッドが動作位置に配置されたさらなるコーティング装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1~
図3は、基材上にコーティング材を堆積させるための本発明に係るコーティング装置1を概略的に示しており、基材は、鋼製の帯状材料であってもよい。この場合、ワイヤー状材料が、例えば、駆動ローラー(図示せず)によりコーティング材供給部2および3を介してコーティング装置1に供給される。この際、直流電圧電源によって、コーティング材供給部2により供給される材料素線が陰極として形成され、コーティング材供給部3により供給される材料素線が陽極として形成されることで、供給されたワイヤー状材料の2本の素線の間にアークが形成できるようになっており、結果として端面端部が蒸発および/または少なくとも融解する。さらに、ガス供給部4を用いてガス流が供給され、蒸発および/または融解したコーティング材は、例えば、誘導加熱器により加熱できて熱損失を防ぐために熱絶縁できるるつぼ6に、ガス流によって噴射管5を介して導入される。コーティング対象の基材は、るつぼ6の開口部から短い距離をおいて、蒸発したコーティング材がコーティング対象の基材の表面に接触するように、適切な供給速度で移動される。
【0029】
コーティング材を準備して噴射管5に送るユニットは、ガス供給部4とコーティング材供給部2および3とを備える噴射ヘッド7として設計される。さらに、コーティング材を準備するように設計されたスプレーヘッド7は、加熱器と、冷却器と、準備されたコーティング材を噴射管5に導くノズルと、陰極および陽極または直流電圧電源と、を含み得る。スプレーヘッド7は、アークおよびガス流を形成するために必要な要素を備えなくてはならず、ワイヤー状または帯状のコーティング材を供給するための要素は、噴射ヘッド7の一部であってもよい。スプレーヘッド7で準備されたコーティング材が出る出口開口部17を有する、噴射管5に面するスプレーヘッド7の少なくとも一部は、真空チャンバー8内に配置される。ここでは、るつぼ6と、スプレーヘッド7で準備されたコーティング材をるつぼ6に導くよう設計され、るつぼ6と接続された噴射管5とは、真空チャンバー8内に配置される。噴射管5内で準備されたコーティング材の凝縮を防ぐために、噴射管5は、所定の温度に加熱される。所定の温度は、例えば、供給されたコーティング材の凝縮温度を超える温度であってもよい。したがって、噴射管5は、耐高温材料、好ましくはグラファイトで製造されてもよい。材料適合性の理由から、ガス材料または融解材料に接触するグラファイトの表面をセラミック層でコーティングしたり、完全にセラミックで製造したりすることが必要な場合もある。
【0030】
コーティング材供給部2、3およびガス供給部5は、真空フィードスルー18によって、真空チャンバー8の外側の雰囲気から真空中すなわち真空チャンバー8の内部に導かれる。したがって、コーティング材供給部2、3およびガス供給部5は、真空チャンバー8の外側から真空フィードスルー18を介して真空チャンバー8内に導かれる。
図1~
図3に模式的に示すように、真空フィードスルー18は、フランジ9に形成されている。このフランジ9は、真空チャンバー8の外側に配置され、蛇腹状接続部材10を介して真空チャンバー8の壁部11に接続されている。この場合、スプレーヘッド7はフランジ9に取り付けられ、フランジ9は、その次に、蛇腹状接続部材10を介して真空チャンバー8に接続される。蛇腹状接続部材10は、フランジ9に取り付けられたスプレーヘッド7が真空チャンバー8内で自由に移動させられるように、真空チャンバー8の貫通開口部に取り付けられている。
図1において、スプレーヘッド7は、スプレーヘッド7が準備されたコーティング材を噴射管5に供給するよう配置される動作位置に、配置されている。動作位置では、ノズルの形に形成されたスプレーヘッド7の出口開口部17、すなわち噴射管5に面するスプレーヘッド7の一部が噴射管5内に突出しており、スプレーヘッド7の出口開口部17またはスプレーヘッド7自体を噴射管5内で同軸方向に移動させることができる。この場合、スプレーヘッド7は、噴射管5内で気密的に案内され、コーティング装置1の動作中は、噴射管5内のできるだけ奥に配置される。その結果、スプレーヘッド7が動作位置に配置されると、噴射管5により、スプレーヘッド7はるつぼ6に気密的に接続される。
【0031】
スプレーヘッド7を修理またはメンテナンスのために取り外す場合は、まずガス供給部4を介するガス供給を中断し、コーティング材供給部2および3を介するスプレーヘッド7へのコーティング材のさらなる供給を停止することにより、スプレーヘッド7をオフに切り替え、電力供給もオフに切り替える必要がある。次に、スプレーヘッド7が噴射管5から完全に引き抜かれる前に、噴射管5を真空チャンバー8から遮断密封するために、遮断弁14が
図1に示す解放位置から
図2に示す遮断位置へ移動される。その後、
図2に示すように、交換するためにスプレーヘッド7が噴射管5から引き抜かれる。その結果、スプレーヘッド7を取り外すために、遮断弁14がその遮断位置に来るまでは、スプレーヘッド7は噴射管5に対して蒸気密閉的に遮断密封されるその動作位置に留まる。
図2では、スプレーヘッド7は、スプレーヘッド7が噴射管5の外側で水平に配置される中間位置にある。このスプレーヘッド7の移動の間、蛇腹状接続部材10は引き離され、ここでスプレーヘッド7は部分的に接続部材10内において水平に配置される(
図2参照)。噴射管5には、真空チャンバー8の外側から閉じることができる遮断弁14が設けられている。この遮断弁14は、耐高温材料でできており、真空チャンバー8への蒸発材料の混入を防ぐために、高温の蒸気および液体をるつぼ6内に保持する役割を担っている。閉位置すなわち遮断位置に配置された遮断弁14(例えば
図2参照)は、結果として、スプレーヘッド7がその動作位置またはその中間位置あるいは取出位置に配置されたときに、噴射管5を通る流れを遮断し、遮断弁14は、スプレーヘッド7が噴射管5の外へ完全に移動させられる前でも、その遮断位置に配置されていなければならない。
【0032】
スプレーヘッド7がるつぼ6の高温蒸気および液体から空間的に分離されるように遮断弁14が閉じられると、フランジ9およびその上に配置されたスプレーヘッド7はるつぼ6から離れる方向に移動され、その結果、
図3に示すように、蛇腹状接続部材10のさらなる伸長によりスプレーヘッド7がさらに引き出される。
図3では、スプレーヘッド7は、スプレーヘッド7が蛇腹状接続部材10内に完全に配置される、その取出位置に配置されている。スプレーヘッド7の取出位置では、蛇腹状接続部材10は、スプレーヘッド7の出口開口部17が内部に配置される取出用チャンバー12を形成する。取出用チャンバー12は、真空チャンバー8の外側からアクセスできるように設計されている。
図1~
図3に示す実施形態では、取出用チャンバー12は、真空チャンバー8の外側に形成されている。また、代替の実施形態では、取出用チャンバー12が真空チャンバー8内に形成され配置されることも考えられる。取出用チャンバー12は、真空チャンバー8から遮断密封できるように設計されており、取出用チャンバー12において、その取出位置にあるスプレーヘッド7は、真空チャンバー8から気密的に分離される。このために、スプレーヘッド7が取出位置に配置されると、例えば真空チャンバー8の壁部11に設置された遮断装置15が閉じられる。この場合の遮断装置15は遮断位置に配置されているが(
図3参照)、
図1および
図2では遮断装置15は解放位置に配置されている。遮断装置15は、真空チャンバー8内の真空を維持する役割を果たし、高い圧力差に耐えられるように製造されている。遮断装置15が閉じられ、スプレーヘッド7と真空チャンバー8とが気密的に分離されるとすぐに、スプレーヘッド7が位置する蛇腹状接続部材10は、通気弁16によって(好ましくは不活性ガスで)充満させることができる。
図1~
図3から分かるように、通気弁16は、取出用チャンバー12に配置されている。取出用チャンバー12が充満されてスプレーヘッド7が冷却された後、冷却されたスプレーヘッド7を次に取り外すことができるように、フランジ9を蛇腹状接続部材10から取り外す、または蛇腹状接続部材10を真空チャンバー4から取り外すことができる。
【0033】
好ましくは、コーティング装置1には、1つの噴射ヘッド7が常に動作している一方で、他のスプレーヘッド7を交換することができるように、少なくとも2つのスプレーヘッド7が設けられる。スプレーヘッド7が故障した場合でも動作を維持できるように、メンテナンスの場合でも1つの噴射ヘッド7が動作するよう、真空チャンバー8には3つのスプレーヘッド7を設けるのが理想的である。
【0034】
そして、メンテナンスまたは修理されたスプレーヘッド7あるいは新しいスプレーヘッド7が逆の手順で装着され、スプレーヘッド7が蛇腹状接続部材10にフランジ取り付けされた後に、接続部材10が真空引きされる。次に、スプレーヘッド7が加熱され、遮断装置15、そして遮断弁14が開かれることにより、スプレーヘッド7は取出用チャンバー12から真空チャンバー8に入り、そして噴射管5内に移動できるようになる。遮断弁14が開かれる前に、スプレーヘッド7は、少なくとも部分的に噴射管5内に配置されなければならず、その中でスプレーヘッド7は、同軸方向に移動可能かつ気密的に導かれる。
【0035】
図4は、本発明に係るコーティング装置1の代替実施形態を示す。そこでは、
図1~
図3に示した実施形態と同じ参照符号が、同じ構成要素に使用されており、機能および動作モードに関する上記の説明は、
図4の代替実施形態の構成要素にも当てはまるため、これらの構成要素の上記の説明が参照される。
図4では、スプレーヘッド7は、スプレーヘッド7が少なくとも部分的に噴射管5内で水平に気密的に配置される、その動作位置に配置されている。
図4に示す実施形態のコーティング装置1には、フランジに形成された真空フィードスルーがない。その代わりに、
図4に示す実施形態では、スプレーヘッド7に真空フィードスルー19が配置され、形成されている。この場合、
図4に示す実施形態では、スプレーヘッド7が取り付けられるフランジもない。その代わりに、
図4に示す実施形態で提供されることとして、チャンバー壁部材20が取出用チャンバー12を形成する。チャンバー壁部材20は、真空チャンバー8の開口部におけるその壁部11において、真空チャンバー8の外側に延在している。チャンバー壁部材20は、封止部材22によってスプレーヘッド7の外壁21に対して封止される。この実施形態により、スプレーヘッド7は、その動作位置またはその取出位置に移動できるように設計されており、封止部材22は、チャンバー壁部材20およびスプレーヘッド7の外壁21を互いに遮断密封する。封止部材22は、例えば、Oリングとして設計されてもよい。
図4に示す実施形態におけるスプレーヘッド7の取出位置において、出口開口部17が取出用チャンバー12内に配置され、チャンバー壁部材20が真空チャンバー8内に延在する場合、取出用チャンバー12も真空チャンバー8内に形成することが可能である。スプレーヘッド7を取り外すには、まず遮断弁14を閉じ、次にスプレーヘッド7を、出口開口部17が取出用チャンバー12内にあるように水平に配置される取出位置に、移動させる。そして、
図1~
図3の実施形態について既に説明したように、通気弁16を介して取出用チャンバー12を次に充満させるために、取出用チャンバー12が真空チャンバー8から気密的に分離されるように、遮断装置15をその遮断位置に移動させる。
【0036】
図1~
図4の説明から、さらなる実施形態が考えられることは明らかである。
図1~
図3に示す実施形態では、例えば、
図4に示すように、真空フィードスルーをフランジ9にではなく、噴射ヘッド7内に形成することができる。また、
図4に示す実施形態では、出口開口部17から離れる側のスプレーヘッド7の長手方向端部に、フランジが取り付けられ、噴射ヘッド7内の真空フィードスルーの代わりに、フランジに真空フィードスルーが配置されることも考えられる。
【0037】
要約すると、以上説明したものは、基材上にコーティング材を堆積させるための本発明に係るコーティング装置1であって、コーティング装置1は、真空チャンバー8と、真空チャンバー8内に配置されるるつぼ6と、コーティング材を準備するためのスプレーヘッド7と、真空チャンバー8内に配置される噴射管5と、を備え、1つのるつぼ6に2つ以上のスプレーヘッド7を設けることもできる。噴射管5は、少なくとも1つのスプレーヘッド7で準備されたコーティング材をるつぼ6に導くように設計され、るつぼ6に接続されており、少なくとも1つのスプレーヘッド7は、スプレーヘッド7が準備されたコーティング材を噴射管5に供給するように配置される動作位置と、取出位置との間で移動可能であるように設計されている。この場合、コーティング装置1は、取出用チャンバー12をさらに備え、当該取出用チャンバーは、真空チャンバー8の外側からアクセスできるように設計され、真空チャンバー8から遮断密封されるように設計されており、その取出位置にある少なくとも1つのスプレーヘッド7は、真空チャンバー8から気密的に分離される。
【0038】
もちろん、説明された発明は、説明および図示された実施形態に限定されるものではない。当然のことながら、本発明の範囲から逸脱することなく、意図された用途に応じて当業者にとって明らかな多数の変更を、図面に示された実施形態に対して行うことができる。例えば、両面コーティングを可能にするために、例えば、複数のるつぼ6を真空チャンバー8内に配置することもでき、複数の噴射管5を1つのるつぼ6に取り付けることもでき、コーティング装置1の動作中に、それぞれの場合で別のスプレーヘッド7が配置される。コーティング装置1が2つ以上の真空チャンバー8を有し、少なくとも1つの噴射管5をそれぞれ備えた1つ以上のるつぼ6を個々の真空チャンバー8内に配置することができ、当該噴射管の中にスプレーヘッド7が動作中に配置される、ということも考えられる。本発明は、明細書および/または図面に含まれるすべてのものを含み、特定の実施形態からずれていても当業者にとって自明なものはいずれも含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1 コーティング装置
2 コーティング材供給部
3 コーティング材供給部(陽極)
4 ガス供給部
5 噴射管
6 るつぼ
7 スプレーヘッド
8 真空チャンバー
9 フランジ
10 蛇腹状接続部材
11 壁部
12 取出用チャンバー
14 遮断弁
15 遮断装置
16 通気弁
17 出口開口部
18 真空フィードスルー
19 真空フィードスルー
20 チャンバー壁部材
21 外壁
22 封止部材
【国際調査報告】