(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】細胞結合タンパク質および使用の方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230726BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230726BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230726BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230726BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230726BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230726BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230726BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230726BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230726BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K47/68
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 T
G01N33/531 A
G01N33/53 D
C12N15/13 ZNA
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581714
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 US2021040043
(87)【国際公開番号】W WO2022006370
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523002068
【氏名又は名称】マブリティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンス, アンソニー クラーク
(72)【発明者】
【氏名】ショーバーグ, エリック リチャード
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
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4C076EE59
4C076FF70
4C085AA14
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4C085AA27
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示の実施形態は、シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)タンパク質に結合する抗体を提供する。併せて、かかる抗体を使用して癌を処置および診断する方法も提供される。開示は、シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)に結合し、少なくとも1つのヒト抗体可変ドメインを含む抗体を提供する。siglecは、siglec12を含み得る。本抗体は、表5から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列、表6から選択されるCDRアミノ酸配列セットを含む少なくとも1つの可変ドメイン、および/または表7から選択されるCDRアミノ酸配列セットの対を含む可変ドメイン対を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)に結合し、少なくとも1つのヒト抗体可変ドメインを含む抗体。
【請求項2】
前記siglecがsiglec12を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
表5から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
表6から選択されるCDRアミノ酸配列セットを含む少なくとも1つの可変ドメインを含む、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
表7から選択されるCDRアミノ酸配列セットの対を含む一対の可変ドメインを含む、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
表8から選択される少なくとも1つの抗体フレームワーク(FR)アミノ酸配列を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
表2から選択される可変ドメインのアミノ酸配列、または表3から選択される核酸配列によってコードされる可変ドメインのアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
表4から選択される可変ドメインのアミノ酸配列対を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
前記siglec12細胞外ドメインに結合する、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記siglec12の長いアイソフォーム細胞外ドメイン、前記siglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメイン、前記siglec12の長いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメイン、および/または前記siglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインに結合する、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
前記siglec12の長いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインおよび/または前記siglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインが、Vset1(S12-V1)領域、Vset2(S12-V2)領域、C2set1(S12-C1)領域、またはC2set2(S12-C2)領域を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
前記siglec12細胞外ドメインのサブドメインの組合せに結合する、請求項9~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
前記サブドメインの組合せが、S12-V2およびS12-C1(S12-V2C1)、またはS12-V2、S12-C1およびS12-C2(S12-V2C1C2)を含む、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
S12-V1またはS12-C2に結合しない、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
siglec7またはsiglec9に結合しない、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
siglec12以外の任意のsiglecタンパク質に結合しない、請求項15に記載の抗体。
【請求項17】
前記siglecが細胞と会合している、請求項1~16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
前記細胞が癌細胞である、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
前記癌細胞が、表10に列挙される癌のいずれかから選択される癌に由来する、請求項18に記載の抗体。
【請求項20】
前記癌細胞が白血病細胞である、請求項18に記載の抗体。
【請求項21】
前記白血病細胞が、急性骨髄性白血病(AML)細胞または慢性骨髄性白血病(CML)細胞である、請求項20に記載の抗体。
【請求項22】
細胞関連siglecに結合する抗体が細胞死を誘導する、請求項17~21のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項23】
細胞関連siglecに結合する抗体が腫瘍免疫抑制を阻害する、請求項22に記載の抗体。
【請求項24】
細胞関連siglecに結合する抗体が抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導する、請求項22に記載の抗体。
【請求項25】
細胞関連siglecに結合する抗体が補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導する、請求項22に記載の抗体。
【請求項26】
二重特異性抗体である、請求項22に記載の抗体。
【請求項27】
CD3結合ドメインを含む、請求項26に記載の抗体。
【請求項28】
キメラ抗原受容体を含む、請求項22に記載の抗体。
【請求項29】
コンジュゲートを含む、請求項1~23、26および27のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項30】
前記コンジュゲートが治療剤を含む、請求項29に記載の抗体。
【請求項31】
前記治療剤が毒素を含む、請求項30に記載の抗体。
【請求項32】
前記毒素がカリケアマイシンを含む、請求項31に記載の抗体。
【請求項33】
前記毒素がMYLOTARG(登録商標)を含む、請求項31に記載の抗体。
【請求項34】
前記コンジュゲートが検出可能な標識を含む、請求項29に記載の抗体。
【請求項35】
対象における治療適応症を処置する方法であって、請求項1~34のいずれか一項に記載の抗体の使用を含む、方法。
【請求項36】
前記治療適応症が癌関連適応症を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記癌関連適応症が白血病を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記白血病が、AMLおよび/またはCMLを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記AMLおよび/またはCMLが、siglec12を発現する癌細胞を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体を前記対象に投与する、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体を、注射または注入によって前記対象に投与する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
対象または対象試料中のsiglecを検出する方法であって、前記対象または対象試料を請求項1~21、29、および34のいずれか一項に記載の抗体と接触させることを含む、方法。
【請求項43】
前記抗体が検出可能な標識を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗体が前記対象または対象試料中の前記siglecに結合し、結合した前記抗体を検出するために検出試薬が使用される、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
対象試料中の前記siglecを検出することを含み、前記対象試料が細胞を含む、請求項42~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記siglecが、蛍光関連細胞選別(FACS)分析によって前記対象試料中で検出される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記siglecが、免疫組織化学によって前記対象試料中で検出される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記免疫組織化学が、siglec検出のための比色分析法に基づくシステムまたは免疫蛍光に基づくシステムを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
対象または対象試料中のsiglecの検出に基づいて前記対象を分類する方法であって、
請求項42~48のいずれか一項に記載の方法に従って前記対象または前記対象試料中のsiglecを検出すること、ならびに
検出されたsiglecのタイプおよび/またはレベルに従って前記対象を分類することを含む、方法。
【請求項50】
前記対象が、前記対象または前記対象試料中のsiglec12の有無および/またはsiglec12のレベルに従って分類される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記対象が、前記対象または前記対象試料中の特定のsiglec12細胞外サブドメインの有無および/または前記特定のsiglec12細胞外サブドメインのレベルに従ってさらに分類される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
癌を有する対象を処置する方法であって、抗siglec12抗体を前記対象に投与することを含み、前記抗siglec12抗体が、
配列番号1~7からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
配列番号8~14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む、方法。
【請求項53】
前記抗siglec12抗体が、対象の癌細胞に結合する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記対象の癌細胞がAML癌細胞である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記抗siglec12抗体が、前記対象の癌細胞によって内在化される、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
前記抗siglec12抗体が、細胞毒素にコンジュゲートされる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記細胞毒素がカリケアマイシンを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記細胞毒素がMYLOTARG(登録商標)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記VHが配列番号4のアミノ酸配列を含み、前記VLが配列番号11のアミノ酸配列を含む、請求項52~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記抗siglec12抗体が、Fabフォーマットおよび全抗体フォーマットからなる群から選択されるフォーマットを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記抗siglec12抗体のsiglec12への結合の平衡解離定数(Kd)が、約1nMから約10nMである、請求項59または60に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月2日に出願された「CELL-BINDING PROTEINS AND METHODS OF USE」という名称の米国仮出願第63/047,613号および2021年1月22日に出願された「CELL-BINDING PROTEINS AND METHODS OF USE」という名称の米国仮出願第63/140,309号の優先権を主張し、これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、電子形式の配列表と共に出願されている。2197_1000PCT_SL.txtという名称の配列表ファイルは、2021年6月29日に作成され、サイズは、91,114バイトである。配列表の電子形式の情報は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
背景
シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)は、15個のメンバーからなるタンパク質の大きなファミリーである。それらは、N結合グリカンおよび糖脂質上に見られるシアル酸グリカンに連結する(Duan and Paulson.,2020,Ann Rev Immunology 14,365-395)。シアル酸は、C1カルボキシル基、C5 N-アセチル基、およびC7~C9のグリセロール側鎖を有する炭素数9のアニオン性糖である。siglec細胞外ドメインには、抗体の可変領域および定常領域と構造的に類似している免疫グロブリン(Ig)ドメインが含まれる。CD33関連siglecは、CD33遺伝子のCD33重複に由来すると考えられるファミリーメンバーである。シアル酸結合部位は、細胞外ドメインに存在し、大部分のsiglecは、それらの細胞内ドメイン内に免疫受容体チロシン阻害剤モチーフ(ITIM)を有する。ITIMは、srcキナーゼによってリン酸化され、ホスファターゼSHP-1およびSHP-2を含有するsrc相同2ドメイン(SH2)を動員する。SHP-1およびSHP-2は、様々な細胞活性化シグナル伝達経路においてシグナル伝達分子を脱リン酸化する。
癌は、世界中で主要な死因である。それは、抑制がきかない細胞増殖および増殖を特徴とする。SHP2は、様々な癌に関連する細胞浸潤、増殖、および生存を促進することが分かっている既知の癌原遺伝子である。当分野では、異常なsiglecの発現および/または機能に関連するSHP2関連癌などの癌を処置するための化合物および方法が依然として必要とされている。本開示は、本明細書に記載の関連化合物および方法を用いてこの必要性に対処する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Duan and Paulson.,2020,Ann Rev Immunology 14,365-395
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
いくつかの実施形態では、本開示は、シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)に結合し、少なくとも1つのヒト抗体可変ドメインを含む抗体を提供する。siglecは、siglec12を含み得る。本抗体は、表5から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列、表6から選択されるCDRアミノ酸配列セットを含む少なくとも1つの可変ドメイン、および/または表7から選択されるCDRアミノ酸配列セットの対を含む可変ドメイン対を含み得る。本抗体は、表8から選択される少なくとも1つの抗体フレームワーク(FR)アミノ酸配列を含み得る。本抗体は、表2から選択されるか、または表3から選択される核酸配列によってコードされる可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。本抗体は、表4から選択される可変ドメインのアミノ酸配列対を含み得る。本抗体は、siglec12細胞外ドメインに結合し得る。本抗体は、siglec12の長いアイソフォーム細胞外ドメイン、siglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメイン、siglec12の長いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメイン、および/またはsiglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインに結合し得る。siglec12長アイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインおよび/またはsiglec12短アイソフォーム細胞外ドメインのサブドメインは、Vset1(S12-V1)領域、Vset2(S12-V2)領域、C2set1(S12-C1)領域またはC2set2(S12-C2)領域を含み得る。本抗体は、siglec12細胞外ドメインのサブドメインの組合せに結合し得る。サブドメインの組合せは、S12-V2およびS12-C1(S12-V2C1)またはS12-V2、S12-C1、およびS12-C2(S12-V2C1C2)を含み得る。本抗体は、S12-V1またはS12-C2に結合しない場合がある。本抗体は、siglec7またはsiglec9に結合しない場合がある。本抗体は、siglec12以外の任意のsiglecタンパク質に結合しない場合がある。siglecは、細胞に会合し得る。細胞は、癌細胞であり得る。癌細胞は、表10に列挙されるもののいずれかから選択される癌に由来し得る。癌細胞は、白血病細胞であり得る。白血病細胞は、急性骨髄性白血病(AML)細胞または慢性骨髄性白血病(CML)細胞であり得る。細胞関連siglecへの抗体結合は、細胞死を誘導し得る。細胞関連siglecへの抗体結合は、腫瘍免疫抑制を阻害し得る。細胞関連siglecへの抗体結合は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導し得る。細胞関連siglecへの抗体結合は、補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導し得る。本抗体は、二重特異性抗体であり得る。本抗体は、CD3結合ドメインを含み得る。本抗体は、キメラ抗原受容体を含み得る。本抗体は、コンジュゲートを含み得る。コンジュゲートは、治療剤を含み得る。治療剤は毒素を含み得る。コンジュゲートは、検出可能な標識を含み得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、本開示は、siglecに結合し、少なくとも1つのヒト可変ドメインを含む抗体を使用して、対象の治療適応症を処置する方法を提供する。治療適応症は、癌関連の適応症を含み得る。癌関連の適応症は、白血病を含み得る。白血病は、AMLおよび/またはCMLを含み得る。AMLおよび/またはCMLは、siglec12を発現する癌細胞を含み得る。本抗体は、対象に投与され得る。本抗体は、注射または注入によって対象に投与され得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象または対象試料を、siglecに結合し、少なくとも1つのヒト可変ドメインを含む抗体と接触させることによって、対象または対象試料中のsiglecを検出する方法を提供する。本抗体は、検出可能な標識を含み得る。本抗体は、対象または対象試料中のsiglecに結合し得、検出試薬を使用して、結合した抗体を検出し得る。本方法は、細胞を含む対象試料中のsiglecを検出することを含み得る。siglecは、蛍光関連細胞選別(FACS)分析によって対象試料中で検出することができる。siglecは、免疫組織化学によって対象試料中で検出することができる。免疫組織化学は、siglec検出のための比色分析法に基づくシステムまたは免疫蛍光に基づくシステムを含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に記載の方法のいずれかに従って対象または対象試料中のsiglecを検出し、検出されたsiglecの種類および/またはレベルに従って対象を分類することによって、対象または対象試料中のsiglecの検出に基づいて対象を分類する方法を提供する。対象は、対象または対象試料中のsiglec12の有無および/またはsiglec12のレベルに従って分類され得る。対象は、対象または対象試料中の特定のsiglec12細胞外サブドメインの有無および/または特定のsiglec12細胞外サブドメインのレベルに従ってさらに分類され得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗siglec12抗体を対象に投与することによって癌を有する対象を処置する方法であって、抗siglec12抗体が、配列番号1~7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号8~14からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む、方法を提供する。抗siglec12抗体は、対象の癌細胞に結合し得る。対象の癌細胞は、AML癌細胞であり得る。抗siglec12抗体は、対象の癌細胞によって内在化され得る。抗siglec12抗体は、細胞毒素にコンジュゲートされ得る。細胞毒素には、カリケアマイシンが含まれ得る。細胞毒素は、MYLOTARG(登録商標)であり得る。VHは配列番号4のアミノ酸配列を含み得、VLは配列番号11のアミノ酸配列を含み得る。抗siglec12抗体は、Fabフォーマットおよび全抗体フォーマットからなる群から選択されるフォーマットを含み得る。抗siglec12抗体のsiglec12への結合の平衡解離定数(Kd)は、約1nMから約10nMであり得る。
【0010】
本開示の特定の実施形態の上記および他の目的、特徴および利点は、添付の図面における以下の説明および実例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、正常組織と同じ組織に由来する腫瘍との間のsiglec12のmRNAの発現量の差を示すグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をRSEM単位で表す(予想最大化によるRNA配列決定)。
【0012】
【
図2】
図2は、RNA-seqにより測定した様々な癌細胞株におけるsiglec12のmRNA転写レベルを示すグラフである。mRNAレベルをTPM(Transcript Per kilobase Million)で表す。
【0013】
【
図3】
図3は、様々な造血組織及びリンパ組織の癌細胞株における中央値のsiglec12のmRNA発現量を示すグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をTPMとして表す。
【0014】
【
図4】
図4は、急性骨髄性白血病細胞株における様々な急性骨髄性白血病細胞抗原のmRNA発現量を示すグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をTPMで表す。
【0015】
【
図5】
図5は、造血細胞における様々な急性骨髄性白血病細胞抗原のmRNA発現量を示すグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をTPMで表す。
【0016】
【
図6】
図6は、造血前駆細胞及び幹細胞における様々な急性骨髄性白血病細胞抗原のmRNA発現量を示すグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をTPMで表す。
【0017】
【
図7】
図7は、様々な正常組織におけるsiglec12およびCD33のmRNA発現レベルを比較するグラフである。RNA-seq測定遺伝子発現をTPM中央値として表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
いくつかの実施形態では、本開示は、シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(siglec)に結合する抗体を提供する。siglecは、15個のメンバーを有するタンパク質の大きなファミリーである。それらは、N結合グリカンおよび糖脂質上に見られるシアル酸グリカンに結合するN末端Vセット免疫グロブリンドメインを含む(Duan and Paulson.,2020,Ann Rev Immunology 14,365-395)。細胞外ドメインはまた、1~16のCセット免疫グロブリン(Ig)ドメインからなる。これらのIg VセットドメインおよびCセットドメインは、それぞれ抗体可変ドメインおよび定常ドメインに構造的に類似している。
【0019】
siglec1、2、4および15は、互いのオルソログである。siglecファミリーの残りのメンバーは、CD33遺伝子の複製に由来すると考えられるため、CD33関連siglecと呼ばれる。シアル酸は、C1にカルボキシル基、C5にN-アセチル基、およびC7~C9のグリセロール側鎖を有する炭素数9のアニオン性糖である。siglecのVセットドメインのシアル酸結合部位は、シアル酸のC1カルボキシル基と塩橋を形成する保存されたアルギニン残基を含む。
【0020】
大部分のsiglecは、阻害性または活性化性シグナル伝達に関与し得るITIMまたはITIM様モチーフを含むそれらの細胞内ドメイン内に免疫受容体チロシンインヒビターモチーフを含有する。ITIMは、srcキナーゼによってリン酸化され、ホスファターゼSHP-1およびSHP-2を含有するsrc相同2ドメイン(SH2)を動員する。SHP-1およびSHP-2は、活性化複合体中のシグナル伝達分子を脱リン酸化し、続いて様々なシグナル伝達経路に関与して細胞活性化に影響を及ぼす。SHP2は、腫瘍細胞浸潤を促進し、腫瘍細胞アポトーシスを防止し、細胞増殖を促進することが分かっている公知の癌原遺伝子である。
【0021】
siglec12は、2つのVセットドメイン、2つのCセットドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメイン上の2つのITIMドメインから構成される。siglec12は、以下のいくつかの理由でsiglecファミリーにおいて独特である。1)そのタンパク質は、他のすべてのsiglecではたった1つであるのに対して、2つのアミノ末端Vセットドメイン(Yuら、2001,J Biol Chem,276,23816-24)を有する。2)両方のVセットドメインに重要なアルギニン残基のヒトユニバーサル突然変異があり、シアル酸のC1のカルボン酸と塩橋を形成することができない。3)Vセット1ドメインのArg→Cys突然変異が、近縁関係にある「大型類人猿」(チンパンジー、ヒヒ、ゴリラおよびオランウータン)のオルソログに存在しない(Angataら、2001,J Biol Chem,276,40282-7)。4)siglec12遺伝子は、一般的な多型フレームシフト突然変異を有し、siglec12の早期切断および長いアイソフォームの発現の喪失を引き起こす(Mitraら、2011,J Biol Chem 286 23003-11)。正常組織では、siglec12は脾臓に発現し、より具体的には組織マクロファージおよび単球上に発現する。他のsiglecとは異なり、siglec12は、前立腺癌などの特定の上皮細胞癌で発現される(Mitraら、2011,J Biol Chem,286,23003-11)。
【0022】
siglec12は2001年に最初にクローニングされ、選択的スプライシングに由来する2つのアイソフォームを有することが分かっている(Foussiasら、2001、BBRC.284,887-899)。スプライシング型形態は、第1のVセットドメインを欠く455アミノ酸の短いアイソフォームを生成する第1のエクソンを除去する(Floresら、2019,Cell Mol Immunology,16,154-164)。これは、多型フレームシフト突然変異がタンパク質の早期終結を引き起こす第1のエクソンにあるので、特に重要である。このフレームシフト突然変異は、ヒト集団の50~60%に存在する。しかしながら、選択的スプライシングされたアイソフォーム(短いアイソフォーム)のために、一方または両方のアイソフォームが集団全体にわたって発現されるので、集団にはヌル対立遺伝子は存在しない。
【0023】
他のsiglecと同様に、siglec12はITIMシグナル伝達ドメインを細胞内に有する。そのカノニカルシアル酸結合部位の喪失にもかかわらず、siglec12は、SHP1およびSHP2を近位ITIMドメインに動員することが実証されている(Yuら、J Biol Chem,276,23816-23824)。ヒトのsiglec12は、シアル酸カルボン酸と塩橋を形成する能力を失っているが、シアル酸と相互作用する重要な保存残基、すなわちVセットドメイン(Tyr24およびTrp130)および第2のVセットドメイン(Tyr151およびTrp257)の両方でシアル酸とファンデルワールス接触を形成する2つの芳香族残基を依然として保持している。これまでのシアル酸依存性結合データは議論の余地があり、シアル酸依存性赤血球のロゼット化に基づいている(Yuら、JBiolChem,276,23816-23824、Angataら、2001,JBiolChem,276,40282-7)。
I.化合物および組成物
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示は、細胞表面タンパク質と相互作用する組成物を提供する。そのような組成物は、本明細書で「抗siglec抗体」と呼ばれる、siglecに結合する抗体であり得る。抗siglec抗体は、対象の処置および/または診断、ならびに本明細書に記載の他の用途に有用であり得る。
抗体
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗体(例えば、抗siglec抗体)を提供する。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、具体的には、限定するものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体または三重特異性抗体)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、一本鎖Fv(scFv)フォーマット、ダイアボディ、イントラボディ、ユニボディ、マキシボディ、キメラ抗原受容体(CAR)、および抗体断片などの数多くの実施形態を包含する。本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、抗体全体の一部またはかかる一部を含む融合タンパク質を指す。抗体断片は、抗原結合領域を含み得る。いくつかの実施形態では、抗体断片には、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、Fc断片、可変ドメイン、定常ドメイン、重鎖および軽鎖が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗体断片は酵素消化によって調製され得る。Fab断片は、全抗体のパパイン消化によって調製され得る。F(ab’)2断片は、全抗体のペプシン処理によって調製することができる。
【0026】
「ネイティブ抗体」は、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖を有するヘテロ四量体糖タンパク質を指す。抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は、その特徴が十分に明らかにされている(Matsuda,F.ら、1998.The Journal of Experimental Medicine.188(11);2151-62およびLi,A.ら、2004.Blood.103(12):4602-9を参照されたい(これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))。軽鎖は共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されているが、重鎖間のジスルフィド結合の数は免疫グロブリンアイソタイプによって異なる。各重鎖は、可変ドメイン(VH)と、それに続くいくつかの定常ドメインとを含む。軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VL)を含み、他方の末端に定常ドメインを含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、「可変ドメイン」という用語は、抗体間で配列が大幅に異なり、特定の抗原に対する抗体特異性を決定する、抗体の重鎖と軽鎖の両方に見られる特異的抗体ドメインを指す。可変ドメインは、抗原結合に関与するアミノ酸残基を含む超可変領域を含む。超可変領域内に存在するアミノ酸は、抗体の抗原結合部位の一部となる相補性決定領域(CDR)の構造を決定する。本明細書で使用される場合、「CDR」という用語は、その標的抗原またはエピトープに相補的な構造を有する抗体領域を指す。抗原と相互作用しない可変ドメインの他の部分は、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる。抗原結合部位(また、パラトープとしても知られる)には、特定の抗原と相互作用するために必要なアミノ酸残基が含まれる。抗原結合部位を構成する残基は、CDR分析によって調べることができる。本明細書で使用される場合、「CDR分析」は、どの抗体可変ドメインアミノ酸がCDRを形成するかを調べるためのプロセスを指す。CDR配列を調べる様々な方法が当技術分野で公知であり、公知の抗体配列に適用され得る(Strohl,W.R.Therapeutic Antibody Engineering.Woodhead Publishing、Philadelphia PA.2012.Ch.3,p47-54、この内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。CDR分析は、結合した抗原との共結晶学によって行うことができる。いくつかの実施形態では、CDR分析は、他の抗体とのアラインメントに基づく計算評価を含む(Strohl,W.R.Therapeutic Antibody Engineering.Woodhead Publishing、Philadelphia PA.2012.Ch.3,p47-54、この内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。CDR分析は、限定するものではないが、Kabat[Wu,T.T.ら、1970,JEM,132(2):211-50、およびJohnson,G.ら、2000,Nucleic Acids Res.28(1):214-8(これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)]、Chothia[Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196,901(1987)、Chothiaら、Nature 342,877(1989)、およびAl-Lazikani,B.ら、1997,J.Mol.Biol.273(4):927-48(これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)]、Lefranc(Lefranc,M.P.ら、2005,Immunome Res.1:3)、およびHonegger(Honegger,A.and Pluckthun,A.2001.J.Mol.Biol.309(3):657-70(その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))によって説明されているものなどのナンバリングスキームを利用することができる。
【0028】
VHドメインおよびVLドメインはそれぞれ3つのCDRを含む。VL CDRは、本明細書では、VLのN末端からC末端に沿って出現する順番に、CDRL1、CDRL2およびCDRL3と呼ばれる。VH CDRは、本明細書では、VHのN末端からC末端に沿って出現する順番に、CDRH1、CDRH2およびCDRH3と呼ばれる。ほとんどのCDRは、様々な三次元抗原結合ドメイン構造をもたらす抗体間で配列および長さが大きくばらつくアミノ酸配列を含むCDRH3を除いて、標準的な構造に有利であった(Nikoloudis,D.ら、2014.PeerJ.2:e456)。
【0029】
VHドメインおよびVLドメインは、それぞれCDR領域の前、その後およびその間に配置された4つのフレームワーク領域(FR)を有する。VHフレームワーク領域は、本明細書ではFRH1、FRH2、FRH3、およびFRH4と呼ばれ、VLフレームワーク領域は、本明細書ではFRL1、FRL2、FRL3、およびFRL4と呼ばれる。VHドメインのFRおよびCDRは、典型的には、N末端からC末端に向かって、FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4の順番である。VLドメインのFRおよびCDRは、典型的には、N末端からC末端に向かって、FRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4の順番である。
【0030】
「Fv」抗体断片は、完全な抗原結合部位を形成するのに必要な最小の抗体断片を含む。これらの領域は、緊密に非共有結合的に会合している重鎖および軽鎖可変ドメイン二量体を含む。安定なFv断片は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に柔軟なリンカーを組み込むことによって組換え合成することができ、一本鎖Fv(scFv)フォーマットを形成する。他のFvフォーマットは、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとの間にジスルフィド架橋を含み得る(Strohl,W.R.Therapeutic Antibody Engineering.Woodhead Publishing,Philadelphia PA.2012.Ch.3,p46-47、この内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0031】
脊椎動物の抗体軽鎖は、典型的には、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つの異なるタイプである、カッパおよびラムダのうちの1つに分類される。さらなる抗体クラスは、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に依存する。
【0032】
ScFvは、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイまたは他のディスプレイ技術と組み合わせて利用して、高い抗原親和性を有するペプチドを同定するために細胞またはコート表面と関連して(例えば、ファージコートタンパク質に関連して)発現されるscFvライブラリーを作製することができる。抗体は、scFvと抗体Fcドメインとの融合物を含むscFvFc抗体として調製され得る。
【0033】
「キメラ抗体」は、2またはそれを超える供給源に由来する部分、例えば、異なる種に由来する部分を有する抗体を指す。キメラ抗体は、マウス可変ドメインおよびヒト定常ドメインを含み得る。キメラ抗体および関連する合成方法の例は、米国特許第5,807,715号、同第4,816,567号、および同第4,816,397号に記載されており、各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、CAR標的抗原を発現する細胞へのそのような免疫エフェクター細胞の特異的標的化を促進する免疫エフェクター細胞表面上での発現のために操作された人工受容体を指す。CARは、免疫エフェクター細胞をそのような抗体セグメントによって認識される抗原に向けるために、1またはそれを超える抗体セグメント、例えば、抗体可変ドメインおよび/または抗体CDRを含むように設計され得る。場合によっては、CARは、癌細胞を特異的に標的化し、癌細胞の免疫介在性クリアランスをもたらすように設計される。
【0035】
「モノクローナル抗体」という用語は、特定の標的抗原の同じエピトープに結合する実質的に同一の抗体を産生する実質的に均一な細胞集団から得られる抗体を指す。「ポリクローナル」抗体調製物は、典型的には、特定の標的の異なるエピトープに対する抗体の異種群を含む。
【0036】
モノクローナル抗体は、いくつかの異なる方法を用いて調製され得る。モノクローナル抗体は、2またはそれを超える種に由来する部分を有するキメラであり得る。例えば、キメラモノクローナル抗体は、ヒト可変ドメイン配列に対応する抗体可変ドメインおよびマウス定常ドメイン配列に対応する抗体定常ドメインを含み得る。
【0037】
本開示の抗体は、哺乳動物、鳥類、爬虫類、および昆虫などの様々な動物起源の抗体に由来し得、または対応し得る。哺乳動物の抗体は、例えば、マウス(例えば、マウスまたはラット)、ウサギ、ロバ、ヒツジ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウシ、ウマまたはヒト起源のものであり得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「抗体バリアント」という用語は、構造、配列および/または機能が抗体に似ているが、別の抗体またはネイティブ抗体と比較してそれらのアミノ酸配列、組成または構造にいくつかの違いがある生体分子を指す。
【0039】
本開示の抗体は、コンジュゲートを含み得る。本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」という用語は、レシピエント化合物に結合した任意の薬剤、カーゴもしくは化学的部分、またはそのような薬剤、カーゴもしくは化学的部分を結合するプロセスを指す。本明細書で使用される場合、「抗体コンジュゲート」という用語は、結合した薬剤、カーゴ、または化学的部分を有する抗体を指す。コンジュゲートは、治療剤を含み得る。治療剤は薬物を含み得る。コンジュゲート化薬物を含む抗体コンジュゲートは、本明細書では「抗体薬物コンジュゲート」と呼ばれる。抗体薬物コンジュゲートは、特定のタンパク質またはエピトープに対する抗体親和性に基づいて、コンジュゲートされた薬物を特定の標的に送達するために使用され得る。抗体薬物コンジュゲートは、コンジュゲートされた薬物の生物学的活性を標的細胞、組織、臓器などに集中させるために使用され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、抗体コンジュゲートは検出可能な標識を含む。検出可能な標識は、抗体結合を検出するために使用され得る。検出可能な標識の例としては、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、化学発光化合物、酵素、酵素補因子、色素、金属イオン、リガンド、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ハプテン、量子ドット、または当技術分野で公知のもしくは本明細書に記載される任意の他の検出可能な標識が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
コンジュゲートは、直接またはリンカーを介して結合され得る。直接的な結合は、共有結合的会合または非共有結合的会合(例えば、イオン結合、静水圧結合、疎水結合、水素結合、ハイブリダイゼーションなど)が関与する。コンジュゲーションに使用されるリンカーは、抗体をコンジュゲートと結合させることができる任意の化学構造を含み得る。例えば、リンカーは、ポリマー分子(例えば、核酸、ポリペプチド、ポリエチレングリコール、炭水化物、脂質、またはそれらの組合せ)を含み得る。抗体コンジュゲートリンカーは切断可能であり得る(例えば、酵素との接触、pHの変化、または温度の変化を介して)。
抗原
【0042】
抗体は、例えば抗原を使用して(例えば、免疫化によって)開発または(例えば、候補のプールから)選択され得る。本明細書で言及される「抗原」は、生物において免疫応答を誘導する任意の実体であるか、または単に抗体結合のパートナーを指し得る。免疫応答は、異物に対する生物の細胞、組織および/または臓器の反応である。免疫応答は、典型的には、生物による異物に対する1またはそれを超える抗体の産生をもたらす。
【0043】
いくつかの実施形態では、本開示の抗原は、本明細書で「siglec抗原」と呼ばれる、siglecまたはその一部を含む。siglec抗原は、siglec細胞外ドメインを含み得る。siglec抗原は、siglecまたはsiglec部分と他の実体との融合タンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、siglec抗原は、siglec細胞外ドメインと抗体Fc領域との融合タンパク質を含む。siglec抗原融合タンパク質に使用されるFc領域は、異なる種に由来し得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「標的抗原」という用語は、抗体が結合するか、または抗体が親和性を有するように所望され、設計され、もしくは開発された実体、タンパク質、またはエピトープを指す。
免疫
【0045】
いくつかの実施形態では、抗体は免疫化によって調製され得る。免疫化は、開発中の抗体の標的抗原で宿主を免疫化することを含み得る。宿主動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、霊長類、またはラマ)は、標的抗原に特異的なリンパ球を誘発する免疫化に利用され得る。リンパ球を単離し、不死化細胞株と融合させて、培養して増殖させることができるハイブリドーマを得ることができる(例えば、Kohler,G.ら、Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity.Nature.1975 Aug 7;256(5517):495-7(この内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。いくつかの実施形態では、リンパ球免疫化をインビトロで実施することができる。
【0046】
ハイブリドーマ生成に使用される不死化細胞株は、形質転換された哺乳動物細胞(例えば、げっ歯類、ウサギ、ウシ、またはヒト起源の骨髄腫細胞)であり得る。ラットまたはマウス骨髄腫細胞株を使用してもよい。ハイブリドーマ細胞は、未融合細胞の成長または生存を阻害する1またはそれを超える物質と共に培養され得る。いくつかの実施形態では、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(「HAT媒体」)を補充した培養培地を使用して、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く親細胞から作製されたハイブリドーマ細胞を培養して、HGPRT欠損(非融合)細胞の増殖を防ぐことができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、不死化細胞株はマウス骨髄腫株である。ヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は、ヒトモノクローナル抗体の調製に使用され得る(例えば、Kozbor,D.ら、A human hybrid myeloma for production of human monoclonal antibodies.J Immunol.1984 Dec;133(6):3001-5、および、Brodeur,B.ら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications.Marcel Dekker,Inc.,New York.1987;33:51-63(これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0048】
ハイブリドーマ細胞培養物からの培地を、所望の特異性を有する分泌抗体についてアッセイすることができる。そのようなアッセイとしては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および蛍光関連細胞選別(FACS)アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。アッセイを行って、標的抗原に対する結合特異性を調べることができる。望ましい特徴を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、標準的な方法を用いてサブクローニングおよび増殖することができる。ハイブリドーマ抗体は、標準的な免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-SEPHAROSE(登録商標)精製、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーを用いて単離および精製することができる。ハイブリドーマ細胞は、腹水として哺乳動物においてインビボで増殖させることができる。いくつかの実施形態では、抗体は、宿主血清試料から直接単離され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、免疫化によって生成された抗体は、組換え技術を使用して複製するためにアミノ酸配列またはコード核酸配列について分析され得る。例えば、抗体は、抗体をコードする核酸配列を細胞へ導入するための発現ベクターへ挿入して、コードされた抗体を発現させることによって産生され得る。
抗siglec抗体
【0050】
いくつかの実施形態では、本開示は抗siglec抗体を提供する。この抗体はsiglec12に結合し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、表1に列挙された抗体のいずれかを含む。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0051】
これらの抗体は、siglec12の細胞外ドメインに結合し得る。そのようなsiglec12の細胞外ドメインは、長いアイソフォームまたは短いアイソフォームを含み得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、siglec12の細胞外ドメイン(長いまたは短いアイソフォーム)のサブドメインに結合する。そのようなサブドメインは、siglec12 Vset1(S12-V1)領域、Vset2(S12-V2)領域、C2set1(S12-C1)領域、またはC2set2(S12-C2)領域を含み得る。これらの抗体は、サブドメインの組合せに結合し得る。これらの組合せは、S12-V2およびS12-C1(S12-V2C1)を含み得る。いくつかの実施形態では、これらの組合せは、siglec12の短いアイソフォーム細胞外ドメインに対応する、S12-V2、S12-C1、およびS12-C2(S12-V2C1C2)を含み得る。
【0052】
S12-V2C1に結合する抗siglec抗体を使用して、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームの両方を標的化および/または検出することができる。そのような抗体は、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームの両方を発現する細胞を標的化するのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、S12-V2C1に結合する抗体は、S12-V1またはS12-C2に結合しない場合があり、またはS12-V2C1に対する親和性と比べて低い親和性でいずれかに結合する場合がある。
【0053】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、S12-C2に結合する。S12-C2は、siglec12細胞外ドメインの細胞表面により近い領域に位置する。細胞表面に近いエピトープへの結合は、抗CD3二重特異性抗体処理による細胞傷害性に関してより高い感度をもたらすことが分かっている(例えば、Estey E.H.ら、Am J Hematol.2018.93:1267-91を参照されたい)。したがって、S12-C2に結合する本明細書に記載の抗siglec抗体を利用して、siglec結合領域とCD3結合領域の両方を有する二重特異性抗体を産生することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、siglec12に結合する抗体は、CD33関連siglecファミリーの他のsiglec(例えば、siglec12と最大の配列同一性を有するsiglec7またはsiglec9)などの他のsiglecに結合しない場合がある。
【0055】
抗siglec抗体は、細胞(例えば、細胞表面)に会合するsiglecに結合し得る。そのような細胞は、癌細胞を含み得る。抗siglec抗体(例えば、抗siglec12抗体)によって結合される癌細胞は、白血病細胞であり得る。そのような白血病細胞としては、急性骨髄性白血病(AML)細胞および慢性骨髄性白血病(CML)細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、少なくとも1つのヒト抗体可変ドメインを含み得る。そのような抗体は、ヒト抗体可変ドメインに対応する抗体可変ドメインを発現する宿主の免疫化によって調製され得る。ヒト可変ドメインに対応する可変ドメインを発現する宿主としては、トリアニトランスジェニックマウスが挙げられる(例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2013/0219535号を参照されたい)。内因性免疫グロブリンのVH、DHおよびJH遺伝子セグメントと、VκおよびJκ遺伝子セグメントと、VλおよびJλ遺伝子セグメントは、これらのマウスにおいて、ヒト対応遺伝子セグメントの完全なレパートリーによって置き換えられている。ヒト遺伝子コード配列は、重鎖および軽鎖親和性成熟を伴うアイソタイプスイッチングなどの、「正常な」免疫応答を可能にするマウスシス作用調節エレメントおよび組換えシグナル配列に隣接している。得られたヒト-マウスキメラ抗体は、マウスの重鎖および軽鎖免疫グロブリン定常領域に隣接するヒト抗体可変ドメインを含む。これらの抗体は、ヒト可変ドメインをヒト定常領域と組み合わせるための標準的な方法を使用して、完全ヒト抗体により容易に変換される。
【0057】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、細胞関連siglecに結合すると細胞死を誘導する。そのような抗体は、siglec関連細胞に結合すると、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導し得る。細胞関連siglecへの抗体結合は、補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、細胞関連siglecに結合すると腫瘍免疫抑制を阻害し得る。腫瘍免疫抑制は、抗腫瘍免疫応答の機能不全抑制を伴う。抗siglec抗体は、抗腫瘍免疫抑制に関与する細胞を標的とし、その抑制活性を阻害し得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体(例えば、抗siglec12抗体)を使用して、二重特異性抗体を開発するか、または二重特異性抗体に組み込むことができる。そのような抗体は、CD3発現免疫細胞を、siglec(例えば、siglec12)を発現する細胞に動員するためのCD3結合ドメインを含み得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体(例えば、抗siglec12抗体)を使用して、キメラ抗原受容体(CAR)を開発するかまたはキメラ抗原受容体(CAR)に組み込むことができる。そのようなCARは、免疫細胞の表面上に発現され得、免疫細胞のsiglecを発現する細胞(例えば、siglec12)への動員を促進し得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体(例えば、抗siglec12抗体)は、コンジュゲートを含み得る。コンジュゲートは、治療剤を含み得る。いくつかの実施形態では、治療剤は毒素を含み得る。そのような毒素としては、放射性同位体、サポリン、タキサン、ビンカアルカロイド、アントラサイクリン、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン二量体および白金系物質が挙げることができるが、これらに限定されない。カリケアマイシンとしては、MYLOTARG(登録商標)が挙げることができる。いくつかの実施形態では、コンジュゲートは、検出可能な標識を含み得る。
【0062】
本開示の抗siglec抗体は、表2に列挙されたいずれかの可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、抗siglec抗体可変ドメインは、列挙された可変ドメインのアミノ酸配列の断片またはバリアントを含む。そのような断片またはバリアントは、表2に列挙された1またはそれを超える可変ドメインのアミノ酸配列に対して、約50%から約99.9%の配列同一性(例えば、約50%から約60%、約55%から約65%、約60%から約70%、約65%から約75%、約70%から約80%、約75%から約85%、約80%から約90%、約85%から約95%、約90%から約99.9%、約95%から約99.9%、約97%、約97.5%、約98%、約98.5%、約99%、約99.5%、約99.6%、約99.7%または約99.8%)を有し得る。
【表2-1】
【表2-2】
【0063】
本開示の抗siglec抗体可変ドメインは、表3に列挙された核酸配列によってコードされ得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体可変ドメインをコードする核酸配列は、列挙された核酸配列の断片またはバリアントを含み得る。そのような断片またはバリアントは、列挙された1またはそれを超える核酸配列に対して、約50%から約99.9%の配列同一性(例えば、約50%から約60%、約55%から約65%、約60%から約70%、約65%から約75%、約70%から約80%、約75%から約85%、約80%から約90%、約85%から約95%、約90%から約99.9%、約95%から約99.9%、約97%、約97.5%、約98%、約98.5%、約99%、約99.5%、約99.6%、約99.7%または約99.8%)を有し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体可変ドメインをコードする核酸配列は、列挙された核酸配列のコドン最適化バリアントを含む。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0064】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、VHドメインとVLドメインの対を含み、この対の各メンバーは、本明細書に示される可変ドメインのアミノ酸配列を含み、かつ/または本明細書に示される可変ドメイン核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、表4に列挙されたいずれかの可変ドメイン対を含む。
【表4】
【0065】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、表2に示される1またはそれを超える可変ドメインのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する1またはそれを超えるCDRを含む。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、表3に示される1またはそれを超える可変ドメイン核酸配列に由来する核酸配列によってコードされる1またはそれを超えるCDRを含む。抗siglec抗体CDRは、抗原結合に関与する(例えば、結合した抗原との共結晶構造解析によって決定される)1またはそれを超えるアミノ酸残基を含み得る。本開示の抗siglec抗体は、結合抗原の共結晶構造解析を介した本明細書に示される可変ドメイン配列のCDR分析によって、または、他の抗体との比較に基づく計算評価によって(例えば、Strohl,W.R.Therapeutic Antibody Engineering.Woodhead Publishing,Philadelphia PA.2012.Ch.3,p47-54を参照されたい)、または前述のように、Kabat、Chothia、Al-Lazikani、Lefranc、もしくはHoneggerの番号付けスキームによって同定されたCDRを含み得る。いくつかの実施形態では、抗siglec抗体CDRアミノ酸配列は、表5に示されるいずれかのもの、またはその断片を含み得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、列挙されたもののアミノ酸配列バリアントを含むCDRを含む。抗siglec抗体CDRに含まれるアミノ酸断片またはバリアントは、列挙された1またはそれを超えるアミノ酸配列に対して、約50%から約99.9%の配列同一性(例えば、約50%から約60%、約55%から約65%、約60%から約70%、約65%から約75%、約70%から約80%、約75%から約85%、約80%から約90%、約85%から約95%、約90%から約99.9%、約95%から約99.9%、約97%、約97.5%、約98%、約98.5%、約99%、約99.5%、約99.6%、約99.7%または約99.8%)を有し得る。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0066】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、CDRのセットを有する可変ドメインを含み、そのセットの各メンバーは、本明細書に示されるCDRアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、可変ドメインCDRのアミノ酸配列セットは、表6に示されるもののいずれかを含み得る。
【表6-1】
【表6-2】
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、本明細書に示される可変ドメインCDRのアミノ酸配列セットの対を含む。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、表7に示す可変ドメインCDRのアミノ酸配列セットの対を含む。
【表7-1】
【表7-2】
【0068】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、1またはそれを超えるフレームワーク領域(FR)を含む。FRは、表2に示される可変ドメインのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含み得る。FRは、表3に示される1またはそれを超える可変ドメイン核酸配列に由来する核酸配列によってコードされ得る。いくつかの実施形態では、抗siglec抗体FRは、表8に示されるいずれかのアミノ酸配列またはその断片を含み得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、列挙されたもののアミノ酸配列バリアントを含むFRを含む。抗siglec抗体FRに含まれるアミノ酸断片またはバリアントは、列挙された1またはそれを超えるアミノ酸配列に対して、約50%から約99.9%の配列同一性(例えば、約50%から約60%、約55%から約65%、約60%から約70%、約65%から約75%、約70%から約80%、約75%から約85%、約80%から約90%、約85%から約95%、約90%から約99.9%、約95%から約99.9%、約97%、約97.5%、約98%、約98.5%、約99%、約99.5%、約99.6%、約99.7%または約99.8%)を有し得る。
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【0069】
本開示による抗siglec抗体は、本明細書に示される抗体配列(例えば、可変ドメインのアミノ酸配列、可変ドメインのアミノ酸配列対、CDRアミノ酸配列、可変ドメインCDRのアミノ酸配列セット、可変ドメインCDRのアミノ酸配列セットの対、および/またはフレームワーク領域のアミノ酸配列)のいずれかを使用して調製することができ、いずれも、例えば、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、抗体模倣物、scFv、または抗体断片として調製することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に示される抗体配列のいずれかを使用する抗siglec抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgM抗体として調製され得る。マウスIgG抗体として調製される場合、抗siglec抗体は、IgG1、IgG2a、IgG2bまたはIgG3のアイソタイプとして調製され得る。ヒトIgG抗体として調製される場合、抗siglec抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のアイソタイプとして調製され得る。ヒト抗体またはヒト化抗体として調製された抗siglec抗体は、1またはそれを超えるヒト定常ドメインを含み得る。
siglecタンパク質抗原
【0070】
いくつかの実施形態では、抗siglec抗体はsiglec12タンパク質抗原に結合する。いくつかの実施形態では、siglec12タンパク質抗原は、表9に列挙されたもののいずれかを含む。いくつかのsiglec12タンパク質抗原は、翻訳後にプロセシングされるか、またはリーダー配列(表で下線を引いている)を除外するように組換え発現され得る。いくつかの実施形態では、siglec12タンパク質は、列挙された配列のバリアントまたは断片を含み得る。
【表9-1】
【表9-2】
【0071】
いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、本明細書に記載のsiglec12タンパク質抗原上のsiglec12タンパク質エピトープに結合する。そのようなsiglec12タンパク質エピトープは、表9に列挙されるsiglec12タンパク質抗原アミノ酸配列を含むか、またはその中に含まれ得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、siglec12タンパク質エピトープと別のタンパク質またはエピトープとの複合体によって形成される領域を含むsiglec12タンパク質エピトープに結合する。
【0072】
いくつかの実施形態では、siglec12タンパク質抗原は、融合タンパク質として調製され得る。siglec12タンパク質抗原は、抗体Fc領域との融合タンパク質として調製され得る。抗体Fc領域との融合物は、免疫化およびsiglec12タンパク質抗原特異的免疫応答の生成を促進するために調製され得る。いくつかの実施形態では、siglect12タンパク質抗原は、マウスFc領域との融合タンパク質として調製される。そのようなFc領域は、Fc2a断片
【化1】
を含み得、またはマウス2cFc
【化2】
を含み得る。マウスにおいて免疫化を実施してFc領域に対する抗体の生成を最小限にする場合、マウスのFc領域をヒトFcの代わりに使用してもよい。
II.方法
【0073】
いくつかの実施形態では、本開示は、治療および診断用途のために抗siglec抗体を使用および評価する方法を提供する。
治療用途
【0074】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載されるもののいずれか)を使用して治療適応症を処置する方法を提供する。本明細書で使用される「治療適応症」という用語は、何らかの形態の処置または他の治療的介入によって、緩和し、安定化し、改善し、治癒し、または別様に対処し得る任意の疾患、症状、状態、または障害を指す。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に開示される抗体を提供することによって対象における治療適応症を処置する方法を提供する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置」などの用語は、病理学的プロセスの軽減または緩和をもたらすために行われる任意の行為を指す。本明細書に列挙される治療適応症のいずれかに関連するので、「処置する」、「処置」などの用語は、そのような適応症に関連する少なくとも1つの症状を軽減もしくは緩和すること、またはそのような適応症の進行もしくは予想される進行を遅らせるもしくは好転させることを意味する。
【0076】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載される抗体のいずれか)を使用して対象の治療適応症を処置する方法を提供する。そのような抗体は、ヒト可変ドメインを含み得る。治療的適応症としては、癌関連適応症、例えば白血病、例えばAMLおよび/またはCMLを挙げることができる。本処置方法は、例えば、注射または注入によって、抗siglec抗体を対象に投与することを含み得る。
癌関連の適応症
【0077】
いくつかの実施形態では、治療適応症は、癌関連適応症を含む。「癌」という用語は、機能不全の細胞増殖および分裂を特徴とし、場合によって身体の領域間で広がる疾患の集合体を指し、本明細書で使用される場合、「癌関連適応症」という用語は、癌、癌の処置、または前癌状態に関連する任意の疾患、障害、または状態を指す。癌関連適応症としては、悪性新生物成長、腫瘍および/または血液悪性腫瘍を特徴とする病理学的状態が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載されるもののいずれか)による癌関連適応症の処置を含む。
【0078】
癌関連の適応症としては白血病が挙げられ、白血病は血液または血液形成組織(例えば、骨髄およびリンパ系)の癌である。白血病は、典型的には、進行および罹患細胞型によって分類される。急性白血病は急速に発症するが、慢性白血病は経時的に悪化する結果を伴ってゆっくり発症する。リンパ性白血病は、典型的にはリンパ球を生成する細胞における突然変異に起因して、リンパ球に影響を及ぼす。骨髄性白血病は、血球産生を担う骨髄細胞に関与する。
【0079】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載されるもののいずれか)による急性骨髄性白血病(AML)および/または慢性骨髄性白血病(CML)の処置を含む。AMLは、典型的には骨髄における急激で異常な骨髄芽球蓄積を伴う。CMLは、身体の他の部分に広がり得る白血病細胞の経時的により漸進的な蓄積をもたらす未成熟骨髄細胞における突然変異を伴う。
【0080】
さらなる癌関連の適応症としては、以下の表10に列挙されるもののいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の癌関連適応症の処置方法に従って使用される抗siglec抗体は、表10に列挙される癌関連適応症のいずれかに関連する癌細胞などの癌細胞に会合するsiglec12に結合し得る。
【表10】
【0081】
本明細書に記載の癌関連適応症の処置方法に従って使用される抗siglec抗体は、固形上皮腫瘍に会合するsiglec12に結合し得る。このような腫瘍は、免疫組織化学的分析により、siglec12を発現することが分かっている(米国特許出願公開第2020/0003779号)。いくつかの方法によれば、本開示の処置方法に従って標的化されるsiglec12関連癌細胞は、造血細胞および/またはリンパ球系細胞を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載の任意の抗siglec抗体)を提供することによって対象のAMLおよび/またはCMLを処置することを含む。siglec-3またはCD33は、AML患者のAML芽球などのAML細胞上に発現される。ゲムツズマブオゾガマイシン(GO、MYLOTARG(登録商標)、ファイザー、ニューヨーク、ニューヨーク州)は、CD33を標的とし、カリケアマイシン弾頭を含む抗体薬物コンジュゲートである。GOは、現在指定されているAMLに対する免疫療法の唯一の形態である。いくつかの実施形態では、本開示の抗siglec抗体は、本明細書に記載の方法に従って処置された対象のAMLおよび/またはCML細胞上のsiglec12を標的とする。
【0083】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗siglec12抗体(例えば、本明細書に記載されるもののいずれか)を投与することによって癌を有する対象を処置する方法を提供する。抗siglec12抗体は、表2に示されるもののいずれかによるVHアミノ酸配列を含み得、かつ/または表3に示される核酸配列のいずれかによってコードされ得る。抗siglec12抗体は、表2に示されるもののいずれかによるVLアミノ酸配列を含み得、かつ/または表3に示される核酸配列のいずれかによってコードされ得る。抗siglec12抗体は、対象の癌細胞に結合し得る。そのような癌細胞としては、AML癌細胞が挙げられる。いくつかの実施形態では、抗siglec12抗体は、結合した細胞によって内在化され得る。そのような抗体はADCであり得る。そのようなADCに会合する治療剤には、細胞毒素が含まれ得る。そのような毒素としては、放射性同位体、サポリン、タキサン、ビンカアルカロイド、アントラサイクリン、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン二量体および白金系物質が挙げることができるが、これらに限定されない。カリケアマイシンとしては、MYLOTARG(登録商標)が挙げることができる。いくつかの実施形態では、抗siglec12抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するVHおよび配列番号11のアミノ酸配列を有するVLを含む。抗siglec12抗体は、全抗体であり得、または抗体断片(例えば、Fab断片)であり得る。抗siglec12抗体は、siglec12への結合について、約0.001nMから約10,000nM(例えば、約0.001nMから約0.1nM、約0.01nMから約1nM、約0.5nMから約5nM、約1nMから約10nM、約2nMから約20nM、約5nMから約50nM、約15nMから約100nM、約25nMから約250nM、約100nMから約1,000nMまたは約500nMから約10,000nM)の平衡解離定数(Kd)を有し得る。
診断的応用
【0084】
いくつかの実施形態では、本開示は、抗siglec抗体の使用を含む診断方法を提供する。そのような方法は、抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載されるいずれかの抗体)を使用してsiglecを検出することを含み得る。そのような方法は、対象または対象試料を抗siglec抗体(例えば、本明細書に記載されるもののいずれか)と接触させることを含み得る。抗siglec抗体は、siglec12に結合し得る。抗siglec抗体は、ヒト可変ドメインを含み得る。検出方法に使用される抗体は、検出可能な標識を含み得る。検出方法は、結合した抗体を検出するための検出試薬の使用を含み得る。本明細書で使用される場合、「検出試薬」という用語は、物体(例えば、結合した抗体または検出可能な標識)または事象を視覚化または観察するために使用される任意の化合物または物質を指す。検出試薬は、検出される抗体またはコンジュゲートに結合する二次抗体または他の高親和性化合物(例えば、ビオチンまたはアビジン)を含み得る。検出試薬は、酵素的に検出可能な(例えば、一次抗体または二次抗体と会合する)標識の検出のための基質であり得、またはその基質を含み得る。
【0085】
本開示の診断的応用は、細胞を含む対象試料中のsiglecを検出することを含み得る。いくつかの実施形態では、細胞関連siglecが検出され得る。細胞関連siglecは、蛍光関連細胞選別(FACS)分析によって対象試料で検出され得る。いくつかの実施形態では、免疫組織化学によって、対象試料中のsiglecを検出することができる。かかる方法は、siglec検出のための比色分析法に基づくシステムまたは免疫蛍光に基づくシステムの使用を含み得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象または対象試料におけるsiglecの検出に基づいて対象を分類する方法を提供する。かかる方法は、本明細書に記載の方法のいずれかに従って(例えば、抗siglec抗体を使用して)対象または対象試料中のsiglecを検出すること、および検出されたsiglecのタイプおよび/またはレベルに従って対象を分類することを含み得る。いくつかの実施形態では、対象は、対象または対象試料中のsiglec12の有無および/またはsiglec12のレベルに従って分類され得る。対象は、対象または対象試料における特異的siglec12細胞外サブドメインの有無および/または特異的siglec12細胞外サブドメインのレベルに従ってさらに分類され得る。対象の分類に使用される分類には、疾患の種類、疾患の予後または重症度、処置に対する適合性、および成功するまたは適切である可能性が最も高い処置の種類による分類が挙げられるが、これらに限定されない。
III.定義
【0087】
会合した:本明細書で使用される場合、2またはそれを超える実体に関して使用される場合には、「会合した」、「コンジュゲートした」、「連結した」、「結合した」、および「繋げられた」という用語は、その実体が、直接的に、または連結剤として働く1またはそれを超える部分を介して、互いに物理的に関連または連結して、十分に安定な構造を形成し、それにより、例えば、作業条件下、例えば、生理学的条件下で、その実体が物理的に会合した状態を維持することを意味する。「会合」は、共有結合性の化学結合を介する必要はなく、その「会合」実体が物理的に会合した状態を維持するように十分に安定な他の形態の会合または結合、例えば、イオン結合もしくは水素結合またはハイブリダイゼーションベースの接続を含み得る。
【0088】
エピトープ:本明細書で使用される場合、「エピトープ」は、抗体または他の結合生体分子と相互作用することができる1またはそれを超える実体上の表面または領域を指す。例えば、タンパク質エピトープは、抗体と相互作用する1またはそれを超えるアミノ酸および/または翻訳後修飾(例えば、リン酸化残基)を含み得る。いくつかの実施形態では、エピトープは、「立体構造エピトープ」であり得、これは、エピトープを有するかまたは形成する実体の特定の三次元配置を含むエピトープを指す。例えば、タンパク質の立体構造エピトープは、アミノ酸の組合せおよび/またはアミノ酸鎖の折り畳まれた非線形ストレッチからの翻訳後修飾を含み得る。
【0089】
発現:本明細書で使用される場合、核酸配列の「発現」は、1またはそれを超える以下の事象、すなわち、(1)DNA配列からのRNA鋳型の作製(例えば、転写による)、(2)RNA転写物のプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、および/または3’末端処理による)、(3)RNAのポリペプチドまたはタンパク質への翻訳、および(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾、を指す。
【0090】
同一性:本明細書で使用される場合、「同一性」という用語は、ポリマー分子間、例えば、ポリヌクレオチド分子間(例えば、DNA分子および/またはRNA分子)および/またはポリペプチド分子間の全体的な関連性を指す。2つのポリヌクレオチド配列の同一性パーセントの計算は、例えば、最適な比較目的のために2つの配列をアライメントすることによって行うことができる(例えば、最適なアラインメントのために第1および第2の核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較目的のために非同一配列を無視することができる)。特定の実施形態では、比較目的のためにアラインメントされる配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または100%である。次いで、対応するヌクレオチド位置のヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と同じヌクレオチドによって占められている場合、その分子はその位置において同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数と各ギャップの長さを考慮した、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数である。配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。例えば、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、例えば、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993、Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994、および、Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991に記載されるものなどの方法を使用して決定することができ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。例えば、2つのヌクレオチド間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているMeyersおよびMiller(CABIOS,1989,4:11-17)のアルゴリズムを使用し、PAM120重量残基表、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を使用して決定することができる。あるいは、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdna CMPマトリックスを使用するGCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを使用して決定することができる。配列間の同一性パーセントを決定するために一般的に用いられる方法としては、参照により本明細書に組み込まれる、Carillo,H.and Lipman,D.,SIAM J Applied Math.,48:1073(1988)に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されない。同一性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムに体系化されている。2つの配列間の相同性を決定するための例示的なコンピュータソフトウェアとしては、GCG program package,Devereux,J.,ら、Nucleic Acids Research,12(1),387(1984)),BLASTP,BLASTN,and FASTA Altschul,S.F.ら、J.Molec.Biol.,215,403(1990))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
試料:本明細書で使用される場合、「試料」または「生物学的試料」という用語は、その組織、細胞または構成部分(例えば、限定するものではないが、血液、血清、血漿、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、および尿などの体液)のサブセットを指す。試料はさらに、例えば、限定するものではないが、血漿、血清、髄液、リンパ液、皮膚の外部切片、呼吸器、腸および尿生殖路の外部切片、涙液、唾液、乳、血球、腫瘍および臓器などの、生物全体またはその組織、細胞もしくは構成部分のサブセット、またはその画分もしくは一部から調製されたホモジネート、溶解物または抽出物を含み得る。試料はさらに、細胞成分または他の生物学的材料、例えば、タンパク質(例えば、抗体)または核酸分子を含有し得る培地、例えば、栄養ブロスまたはゲルを指し得る。
【0092】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、例えば、実験、診断、予防、および/または治療目的のために、本開示による組成物が投与され得る任意の生物を指す。典型的な対象としては、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、およびヒトなどの哺乳動物)および/または植物が挙げられる。医学的処置を受けている、またはそれを必要としている、またはそれに適格である、またはそれを求めている対象は、本明細書では「患者」と呼ばれる。
【0093】
標的:本明細書で使用される場合、「標的」という用語は、対象、臓器、組織、細胞、タンパク質、核酸、生体分子、または前述のいずれかの群、複合体、もしくは部分を含み得る、関心対象または注目対象を指す。いくつかの実施形態では、標的は、抗体が親和性を有するか、または抗体が親和性を有するように所望され、設計され、もしくは開発されたタンパク質またはそのエピトープであり得る。本明細書で使用される場合、「標的」という用語はまた、特定の対象を対象とする薬剤の活性を指すために使用され得る。例えば、特定のタンパク質「X」に対して親和性を有する抗体は、標的タンパク質Xと呼ばれる場合があり、または抗体標的化タンパク質Xと呼ばれる場合があり、またはタンパク質X標的化抗体と呼ばれる場合がある。同様に、薬剤の活性の対象であるオブジェクトは、「標的」オブジェクトと呼ばれる場合がある。例えば、抗体が特定のタンパク質「X」に対して親和性を有する場合、タンパク質Xは、抗体によって標的化されていると言うことができる。
IV.均等物および範囲
【0094】
本開示では、本発明の様々な実施形態を特に示し説明してきたが、本明細書に開示され、添付の特許請求の範囲に記載された実施形態の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行うことができることが当業者には理解されよう。
【0095】
当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の特定の実施形態に対する多くの均等物を理解するか、または確認することができるであろう。本開示の範囲は、上記の説明に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に記載されているとおりである。
【0096】
特許請求の範囲において、「a」、「an」、および「the」などの冠詞は、それとは反対に示されない限り、または文脈から明らかでない限り、1またはそれを超えることを意味し得る。ある群の1またはそれを超えるメンバーの間に「または」を含む特許請求の範囲または明細書は、それとは反対に示されない限り、または文脈から明らかでない限り、1つ、2つ以上、またはその群のメンバーの全てが所与の生成物またはプロセスに存在するか、それに使用されるか、さもなければそれに関連する場合に満たされるものと見なされる。本開示は、ある群の正確に1つのメンバーが所与の生成物またはプロセス中に存在するか、それに使用されるか、さもなければそれに関連する実施形態を含む。本発明は、1つ以上の、または全ての群メンバーが、所与の生成物またはプロセス中に存在するか、それに使用されるか、さもなければそれに関連する実施形態を含む。
【0097】
「含む(comprising)」という用語は、オープンであることを意図しており、追加の要素または工程を含むことを可能にするが、それを要求するものではないことにも留意されたい。したがって、「含む(comprising)」という用語が本明細書で使用される場合、「からなる(consisting of)」および「または含む(or including)」という用語もまた包含および開示される。
【0098】
範囲が与えられる場合、端点が含まれる。さらに、文脈および当業者の理解から特に指示されないか、さもなければ明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、本発明の異なる実施形態において記載された範囲内の任意の特定の値または部分範囲を、その範囲の下限の単位の10分の1まで想定し得ることを理解されたい。
【0099】
さらに、先行技術に含まれる本開示の任意の特定の実施形態は、1またはそれを超える請求項のいずれかから明示的に除外され得ることを理解されたい。そのような実施形態は当業者に知られていると見なされるので、たとえ除外されることが本明細書に明示的に記載されていないとしても、それらは除外され得る。本明細書に開示される組成物の任意の特定の実施形態は、先行技術の存在に関連するか否かにかかわらず、任意の理由で、1またはそれを超える請求項のいずれかから除外され得る。
【0100】
引用されたすべての情報源、例えば、本明細書に引用された参考文献、刊行物、データベース、データベースエントリ、および技術は、たとえその引用において明示的に述べられていないとしても、参照により本出願に組み込まれる。引用された情報源と」本出願の記載が矛盾する場合、本出願の記載が優先されるものとする。
【0101】
セクションおよび表の見出しは、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0102】
実施例
実施例1.siglec12は急性骨髄性白血病の新規標的である
siglec12は、免疫組織化学を使用して、固形上皮腫瘍において検出されることが報告された(米国特許出願公開第2020/0003779号)。しかしながら、免疫組織化学は非定量的な方法であり、どの癌がsiglec12標的化免疫療法アプローチを使用して処置可能であるかを理解するためには、腫瘍と正常組織との間の相対的なsiglec12発現レベルを理解することが重要である。組織中の特定の標的のmRNAレベルは、特定の標的の相対的発現レベルの尺度として一般に認められている。様々な公開データベース(TCGAプロジェクト、Depmap Portal、CCLE、Blueprintプロジェクト、およびGTEx)からのRNAseqデータ(次世代シークエンシング、NGSによって定量化されたmRNAレベル)を分析して、どの癌がsiglec12標的化免疫療法の最も適切な標的となるかを見出した。
図1に示す結果は、正常組織と同じ組織に由来する腫瘍との間のsiglec12の差次的発現レベルを示す(TCGA Research Networkによって生成されたデータに全体的または部分的に基づく)。これらの結果は表11に要約されており、特定の固形腫瘍が、他のもの、すなわち、子宮頸部扁平上皮癌腫および子宮頸管腺癌、頭頸部扁平上皮癌腫、腎明細胞癌腫、食道癌腫ならびに胃食道癌よりもsiglec12標的化免疫療法の好ましい癌標的であることであることを明らかにする。
【表11】
【0103】
さらなるデータベース解析[DepMapPortal,Broad(2020):DepMap20Q2Public,v4]により、
図2に示すように、1304種類の異なる腫瘍細胞株のmRNAレベル(RNAseq)を測定したところ、白血病細胞株においてsiglec12が最も高発現していることが明らかとなった。造血およびリンパ組織起源の癌細胞株では、AML(急性骨髄性白血病)細胞株およびCML(慢性骨髄性白血病)細胞株の両方が、他の細胞株よりもsiglec12のmRNA発現が有意に高かった[2020 Broad Institute CCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)mRNA発現(RNAseq)データに基づいて、
図3を参照されたい]。AMLとCMLとの間では、AMLにおけるsiglec12のmRNA発現の中央値は、CMLにおける中央値レベルよりも6倍高かった。
【0104】
CD33は、AML患者のAML細胞株およびAML芽球上に高度に発現されることが知られている。CD33標的ゲムツズマブオゾガマイシン(GO、MYLOTARG(登録商標)、ファイザー、ニューヨーク、ニューヨーク州)は、カリケアマイシン弾頭を使用する抗体薬物コンジュゲート(ADC)である。GOは、現在指定されているAMLに対する免疫療法の唯一の形態である。臨床研究および前臨床研究において免疫療法標的の候補として現在研究されている患者のAML細胞株および芽球上に発現することが知られているいくつかの他のAML標的がある。さらなるRNAseqデータベース分析は、AML細胞株におけるsiglec12の発現レベルが他のAML標的のmRNAレベルに非常に都合よく匹敵することを実証した[2020 Broad Institute CCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)mRNA発現(RNAseq)データに基づいて、
図4を参照されたい]。AML細胞株上のCD33の発現レベルはsiglec12の発現レベルに匹敵し、AMLの免疫療法の開発および処置のための標的候補としてsiglec12を指定することを支持した。
【0105】
AML芽球上の発現に対するAML標的は、免疫療法標的の候補を評価する場合に重要であるが、正常組織および造血細胞上の発現は、毒性をもたらし得、用量制限が必要になり得る。GOは、持続性血小板減少症および長期の好中球減少症として現れる造血前駆細胞上のCD33発現に関連するオンターゲット血液毒性を有する(Castaigne,S.ら、Lancet.2012,379(9825):1508-16)。
図5は、公的mRNA発現データ(Blueprint Consortium)の分析に基づく、一般的な造血細胞におけるsiglec12および他のAML標的タンパク質のmRNA発現レベルを示す。siglec12は、比較的低レベルではあるが、古典的な単球、マクロファージおよび代替活性化マクロファージにおいて主に発現される。
図6は、公的mRNA発現データ(Blueprint Consortium)の解析に基づく造血前駆細胞および造血幹細胞におけるsiglec12および他のAML標的タンパク質の発現レベルを示す図である。これらの細胞型はまれであるが、一般的な造血毒性に関して重要である。siglec12と他のAML標的との間に有意差が観察され、siglec12は、これらの造血幹細胞および前駆細胞において例外的に低い発現を有するか、または検出可能な発現を有しなかった。AML細胞上のsiglec12の高過剰発現と造血幹細胞および前駆細胞上の発現の欠如との組合せは、AML免疫療法の開発のための例示的な標的としてsiglec12を指定することを支持する。siglec12およびCD33のmRNA発現を、公開データの分析に基づいて正常組織で比較して(遺伝子型-組織発現プロジェクト)、正常組織でのsiglec12の発現が比較的低いことが再び実証され(
図7を参照されたい)、これは、siglec12標的化免疫治療薬への全身曝露に関連するオンターゲット毒性が低いという予想される利点を裏付けている。全体として、公的なRNAseqデータベース分析から得られた発現プロファイルの結果は、siglec12が抗体ベースの免疫療法開発およびsiglec12発現AML、CMLおよび固形腫瘍の処置に使用するための理想的な標的であることを示している。
実施例2.siglec12を標的化する抗体の調製
【0106】
Trianniトランスジェニックマウス(米国特許出願公開第2013/0219535号)を免疫することによって、siglec12に特異的な抗体を作製した。内因性免疫グロブリンのVH、DHおよびJH遺伝子セグメントと、VκおよびJκ遺伝子セグメントと、VλおよびJλ遺伝子セグメントは、これらのマウスにおいて、ヒト対応遺伝子セグメントの完全なレパートリーによって置き換えられている。ヒト遺伝子コード配列は、重鎖および軽鎖親和性成熟を伴うアイソタイプスイッチングなどの、「正常な」免疫応答を可能にするマウスシス作用調節エレメントおよび組換えシグナル配列に隣接している。得られたヒト-マウスキメラ抗体は、マウスの重鎖および軽鎖免疫グロブリン定常領域に隣接するヒト抗体可変ドメインを含む。これらの抗体は、ヒト可変ドメインをヒト定常領域と組み合わせるための標準的な方法を使用して、完全ヒト抗体により容易に変換される。
【0107】
Trianni動物を、可溶性ヒトsiglec12細胞外(ecto)ドメイン(S12ecto、UniProtKB Q96PQ1、アミノ酸1-481、配列番号171)とマウスFc2a断片(配列番号177)との融合によって調製された抗原で免疫化し、得られた融合タンパク質を本明細書では「S12-Fc」と呼ぶ。Fc領域に対する抗体の生成を最小限に抑えるために、一般的に使用されるヒトFcの代わりにマウスFcを使用した。S12-Fcを調製するために、全長ヒトS12ectoをコードするDNAをコドン最適化し、合成し、哺乳動物細胞における一過性トランスフェクションおよび発現のためにプラスミドベクターに挿入した。発現した融合タンパク質を、プロテインA/G SEPHAROSE(登録商標)を用いて精製した。
【0108】
6週間の免疫後、免疫マウスからの血清試料を、siglec12特異的免疫グロブリンの存在についてスクリーニングした。スクリーニングは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および蛍光関連細胞選別(FACS)によって行った。ELISAアッセイでは、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートした抗マウス軽鎖(カッパおよびラムダ)二次抗体を使用して検出したマウス血清試料由来のsiglec12特異的免疫グロブリンを固定化するために、S12-Fc標的抗原でコーティングしたアッセイプレートを利用した。結合した二次抗体のレベルを、比色ペルオキシダーゼ基質とのインキュベーション、続いて450nmで得られた吸光強度値の測定によって評価した。FACS分析のために、血清試料を、ヒトsiglec12を過剰発現するAML細胞株であるU937細胞(10%ヒト血清でブロックされたFc受容体)と組み合わせた。これらの細胞に関連するsiglec12への免疫グロブリンの結合は、AMLを処置するために免疫療法を使用する可能性を強く示唆するものである。FACS分析の前に、抗マウス重鎖蛍光検出試薬を使用して細胞表面に結合した血清免疫グロブリンを標識した。3人の最良の応答者からリンパ節および脾臓細胞を採取し、P3X63Ag8.653マウス骨髄腫細胞と融合した。選択の10~14日後、得られたハイブリドーマライブラリーを、FACSを使用して96ウェル培養プレートに単一細胞クローン化した。10~14日の単一細胞増殖の後、すべてのモノクローナルハイブリドーマ培養上清をELISAによってS12-Fc結合免疫グロブリンについてスクリーニングした。S12-Fc結合免疫グロブリンに対して陽性の上清を、U937細胞への免疫グロブリンの結合についてFACSによってさらにスクリーニングした。結果を表12に示す。この表は、各ハイブリドーマ培養物に関連するsiglec12結合抗体に割り当てられた抗体識別番号(ID番号)を含む。ELISAの結果について、450nmで得られたバックグラウンド調整平均吸光度値を示す。FACS分析の場合、Flow Fluor MFIは、フローサイトメトリーアッセイからの平均蛍光強度(バックグラウンドMFI=100)であり、flow % gatedは、バックグラウンド蛍光より大きい蛍光を有する細胞のパーセンテージである。
【表12-1】
【表12-2】
【表12-3】
【0109】
試験された抗体の多くは、S0016、S0017、S0025、S0033、S0041、S0044、S0045、S0048、S0049、S0057、S0061、S0067、S0070、S0074、S0079、S0082、S0083、S0084、S0086、S0087、S0088、S0092、S0094、S0097、S0098、S0105およびS0106などのU937細胞表面と強い会合を示した(flow % gated>10)。
【0110】
抗体を、プロテインA捕捉によってマウスの腹水またはハイブリドーマ培養培地から単離し、以下の実施例によるさらなる分析に使用した。
実施例3.siglec12ドメイン特異性による抗体のキャラクタライゼーション
【0111】
ELISAアッセイを行って、上記のハイブリドーマスクリーニング中に同定された抗体のsiglec12ドメイン特異性を評価した。S12ectoドメインの特定のサブドメインに結合する抗体は、特定の利点をもたらし得る。例えば、siglec12は、2つの異なる膜結合アイソフォーム、すなわち、4つの細胞外ドメインに加えて膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含有する長型(595aa、UniProtKB Q96PQ1-1、配列番号172)、ならびに、単一の細胞外ドメイン(Vsetドメイン)に加えて同じ膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインのみを含有するより短いアイソフォーム(477aa、UniProtKB Q96PQ1-2、配列番号173)を発現することが知られている。
【0112】
siglec12のVset2-C2set1領域に結合する抗体(S12-V2C1)は、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームの両方を認識するという利点を有する。治療的観点から、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームの両方が腫瘍細胞上で発現される場合、S12-V2C1結合抗体は、標的細胞の細胞表面上のより多くのsiglec12分子に結合し、ひいては治療の感度および有効性を増加させる。
【0113】
siglec12のVset1領域に特異的に結合する抗体(S12-V1)は、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームを識別するという利点を有する。このような抗体は、siglec12の長いアイソフォームのみを発現する腫瘍細胞を標的化するのに有用であり得るが、siglec12の短い形態を発現する正常細胞を標的化しない。S12-V1抗体はまた、長いsiglec12アイソフォームと短いsiglec12アイソフォームとを識別するためのバイオマーカーの観点から有用であり得る。
【0114】
siglec12のC2領域に特異的に結合する抗体(S12-C2)は、細胞表面により近いsiglec12細胞外ドメインの領域を標的化するのに有利であり得る。細胞表面により近い癌エピトープへの結合は、CD3媒介二重特異性抗体に関連する細胞傷害性に関してより高い感度を提供することが分かっており(例えば、EsteyE.H.ら、Am J Hematol.2018.93:1267-91)、それゆえ、S12-C2特異的抗体は、S12-CD3二重特異性抗体の開発および免疫療法の候補であり得る。
【0115】
ELISA標的抗原として使用するために、S12ectoドメインのサブドメインに対応するタンパク質を調製した。調製されたサブドメインには、S12-V1(UniProtKB Q96PQ1のアミノ酸1-142、配列番号174)、S12-V2C1(UniProtKB Q96PQ1のアミノ酸143~358を有する天然のリーダー配列、配列番号175)およびS12-C2(UniProtKB Q96PQ1のアミノ酸365-481を有する天然のリーダー配列、配列番号176)ドメインが含まれていた。siglec12のVset2ドメインとC2set1ドメインとの間に天然に存在するジスルフィド間結合があるため、2つのドメインVset2とC2set1を組み合わせた。サブドメインタンパク質を生成するために、S12-V1、S12-V2C1、およびS12-C2のそれぞれをコードするプラスミドを、精製のためのサブドメインC末端のStrepII親和性タグ(aa配列WSHPQFEK(配列番号180))に加えて、6-His親和性タグ(配列番号179)をコードする追加のヌクレオチドを用いて調製した。タンパク質発現のためにプラスミドをヒト細胞培養物にトランスフェクトし、Ni-IMAC(固定化金属アフィニティークロマトグラフィー)およびSTREP-TACTIN(登録商標)SEPHAROSE(登録商標)(GE Healthcare、ワウケシャ、ウィスコンシン州)アフィニティークロマトグラフィー精製を使用して培養培地からサブドメインタンパク質を単離した。
【0116】
ELISAアッセイのために、精製されたサブドメインタンパク質をアッセイプレート上に受動的に固定化し、上記のハイブリドーマ培養物からの培地とインキュベートした後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートした抗マウス(重/軽)二次抗体を使用して、結合した抗サブドメイン抗体を検出した。結合した二次抗体のレベルを、比色基質を適用し、450nmで吸光度値を測定することによって評価した。各ハイブリドーマ培養物に関連する抗体について得られた平均吸光度値を表13に示す。0.07を超える吸光度値は特異的結合を示す。
【表13-1】
【表13-2】
【表13-3】
実施例4.siglec間特異性による抗体のキャラクタライゼーション
【0117】
併せてELISAアッセイを行い、他のCD33関連siglecに対するsiglec間抗体特異性を評価した。siglec12は、CD33関連siglecファミリーのメンバーである。このファミリーから、ヒトsiglec7およびsiglec9は、ヒトsiglec12に対して最大の配列同一性を有する。候補抗体による他のCD33関連siglecに対するsiglec12の特異性は、オフターゲット結合に関連する毒性の可能性を低減するにあたって望ましい特性である。
【0118】
ヒトFcドメイン(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)と融合したヒトsiglec7外部ドメインまたはヒトsiglec9外部ドメインの融合タンパク質をアッセイプレートに固定化し、上記のハイブリドーマ培養物からの培地とインキュベートした後、HRPにコンジュゲートした抗マウス(重/軽)二次抗体を用いて結合抗体を検出した。結合した二次抗体のレベルを、比色基質を適用し、450nmで吸光度値を測定することによって評価した。各ハイブリドーマ培養物に関連する抗体について得られた平均吸光度値を表14に示す。
【表14-1】
【表14-2】
【表14-3】
【0119】
U937細胞表面との強い会合を有する抗体(flow % gated>10)のうち、ほとんどが、S0016、S0017、S0025、S0033、S0041、S0044、S0045、S0048、S0049、S0057、S0061、S0067、S0070、S0074、S0079、S0082、S0083、S0086、S0087、S0088、S0092、S0094、S0097、S0105およびS0106などのsiglec7およびsiglec9に対する特異性の欠如を示した(A450>0.09)。
実施例5.siglec12依存性内在化
【0120】
実施例2に記載の抗siglec12抗体を使用して、U937 AML細胞におけるsiglec12結合抗siglec12抗体の内在化を評価した。U937 AML細胞を培養し、二重ウェルを、抗siglec12抗体(実施例2に記載)または抗CD33抗体(P67.6、BioLegend、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて、または用いないで、氷上で1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、800μLの氷冷完全培地(10%FBS、RPMI)に再懸濁した後、96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種した。次いで、細胞を37℃および5%CO
2でインキュベートして内在化を促進した。15、30、45、60、90、および120分の時点で、氷上に置くことによって内在化を停止させた後、細胞を採取して、冷PBSB(PBS+0.1%BSA)で洗浄した。次いで、採取した細胞をフィコエリトリン(PE)結合ヤギ抗マウス抗体(1:400、Bethyl Laboratories、モンゴメリー、テキサス州)とともに氷上で30分間インキュベートした。細胞を再びPBSBで洗浄し、GUAVA(登録商標)EASYCYTE(商標)Plusフローサイトメーター(MilliporeSigma、バーリントン、マサチューセッツ州)を使用してフローサイトメトリーによって分析して、評価した時点での抗体関連siglec12およびCD33の表面発現パーセントおよび内在化パーセントを評価した。siglec12(S0057抗体を使用して標識)とCD33との間の経時的な平均表面発現パーセントの比較を表15に示す。
【表15】
【0121】
これらの結果は、2つの抗体関連マーカー間の経時的な内在化レベルが同等であったことを示す。異なる抗siglec12抗体で2時間目に観察されたsiglec12の内在化パーセントの比較を表16に示す。
【表16-1】
【表16-2】
【0122】
これらの結果は、試験した各抗体での内在化活性を示し、抗体S0042、S0057、およびS0114の中で最も高い活性を示す。
実施例6.siglec12細胞内輸送
【0123】
siglec12-抗体複合体を、酸感受性色素を使用して酸性化細胞区画(例えば、リソソーム)への細胞内輸送について評価した。酸性化された細胞区画への内在化抗体-標的複合体の輸送は、いくつかの利用抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を含むいくつかの治療抗体用途に望ましい。そのような輸送は、ADC薬物の放出および/または活性化を促進し得る。ZENON(登録商標)標識試薬(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)は、酸性化時に緑色蛍光を増加させるpH感受性色素で標識された抗マウスFab断片を含む。S0057抗siglec12抗体をPBSB中750nMのZENON(登録商標)標識試薬と15分間プレインキュベートした。50nMのP67.6(抗CD33)を同様に調製し、比較のために使用した(内在化CD33-抗体複合体はリソソームに輸送されることが知られているため)。得られた複合体を、U937細胞を含む別々のウェルに添加し、5%CO
2、37℃で0、4、または24時間インキュベートした。GUAVA(登録商標)EASYCYTE(商標)Plusフローサイトメーターを使用して各時点における緑色蛍光を測定した。得られた平均蛍光強度(MFI)値を表17に示す。
【表17】
【0124】
酸性化は、siglec12結合複合体とCD33結合複合体との間で同等であり、このことから、ADC治療の選択肢としてsiglec12特異的抗体を標的化することの可能性が確認された。
実施例7.AML細胞に対するADC細胞傷害性
【0125】
細胞傷害性ペイロードを細胞に送達する際の有用性について、抗siglec12抗体を評価した。1mgのS0057を使用して、PBS(pH7.8)/30%プロピレングリコール中の3mg/mLの抗体溶液を調製し、40nmolのN-スクシンイミジルエステル活性化MYLOTARG(登録商標)リンカー/ペイロード(Levena Biopharma、サンディエゴ、カリフォルニア州)と合わせた。MYLOTARG(登録商標)は、カリケアマイシンペイロードを有する酸感受性リンカーを有する。抗体溶液を穏やかに振盪しながら室温で一晩インキュベートした。得られたS0057-ADCを、非結合リンカー/ペイロードから緩衝液交換およびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。U937 AML細胞を96ウェルプレートに播種し、S0057-ADCを100から0.1nMに滴定した完全培地(10%FBS、RPMI+100μg/mLヒトIgG)中でインキュベートした。細胞を37℃および5%CO
2で3日間インキュベートし、その後、平均細胞生存パーセントを、GUAVA(登録商標)VIACOUNT(登録商標)試薬(Luminex、オースチン、テキサス州)およびGUAVA(登録商標)EASYCYTE(商標)Plusフローサイトメーターを使用して求めた。試験した各抗体濃度での平均生存パーセントの値を表18に示す。
【表18】
【0126】
6.25nMという低いS0057-ADC濃度は、細胞生存率をほぼ半分低下させることができた。
実施例8.AML骨髄におけるsiglec12の検出
【0127】
AMLまたは急性前骨髄球性白血病(APL、陰性対照)を有する患者由来の骨髄穿刺液を10%ホルマリンで固定し、これを用いて5ミクロン厚の切片を調製して、標本にした。抗原回復緩衝液(pH9)中で切片を40分間インキュベートすることによって、抗原回復を行った。切片を10%正常ウマ血清を含むブロッキング緩衝液で処理し、S0102抗siglec12抗体(1:150)とインキュベートした。結合した抗体を、ペルオキシダーゼ結合二次抗体および3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)色素原による発色を使用して検出した。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで対比染色し、顕微鏡で可視化した。AML芽球のsiglec12染色がAML患者の骨髄で観察されたが、APL患者の組織では染色がなかった。
実施例9.siglec12特異性の評価
【0128】
天然のsiglec12(他のsiglecファミリーメンバー全体)に対する抗siglec12抗体特異性を検証するために、フローサイトメトリーを使用して交差反応性分析を行った。Expi293細胞を6ウェルプレートで増殖させ、C末端FLAGタグを有するsiglec6、siglec7、siglec8、siglec9、またはsiglec12タンパク質をコードするインサートを有する2.5mgのpcDNA3.1発現ベクター(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)でトランスフェクトした。翌日、Expi293エンハンサーを添加した。(トランスフェクション後)2日目に、細胞をPBSBで洗浄し、5×10
5細胞/ウェルの密度でプラスチック製V底プレートに分取した。また、アリコートをウエスタンブロット分析にも使用して(下記に記載される抗FLAG抗体を使用して)siglec発現を確認した。プレートした細胞を、氷上で2時間、500nMの濃度の抗siglec12抗体または12.5μg/mLの濃度のsiglec特異的対照抗体(全てR&D Systems製、ミネアポリス、ミネソタ州、siglec6特異的クローン 767329、siglec8特異的クローン 837535、siglec9特異的クローン 191240)と共にインキュベートした。次いで、細胞を氷冷PBSBで洗浄し、氷上で30分間PE-ヤギ抗マウスH/L鎖二次抗体(PBSB中1:400)とインキュベートした。細胞を再び氷冷PBSBで洗浄し、GUAVA(登録商標)EASYCYTE(商標)Plusフローサイトメーターによって測定された蛍光強度に基づいて表面染色について分析した。得られたMFI値を表19に示す。
【表19】
【0129】
試験した全てのanit-siglec12抗体は、siglec12発現細胞に結合し、他のsiglecタンパク質の結合をほとんどまたは全く示さなかった。
【0130】
FLAG特異的ウエスタンブロット分析のために、細胞を放射免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液に溶解し、4~12%のNUPAGE(商標)ゲル(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)で泳動した。タンパク質をPVDF膜上に転写し、PBS中3%BSAでブロックした。抗FLAG一次抗体(Anti-FLAG OTI4C5、Origene Biotechnology、ロックヴィル、メリーランド州)を、0.05%TWEEN(登録商標)20および0.3%BSAを含むPBSで1:2000に希釈し、これを使用してPVDF膜を4℃で一晩処理した。膜を洗浄し、アルカリホスファターゼ(AP)標識ヤギ抗マウスH/L鎖二次抗体と室温で30分間インキュベートした。膜を再度洗浄し、標識バンドのデジタル画像化のためにCDP-STAR(登録商標)化学発光検出試薬で発色させた。これらの結果により、siglecタンパク質の発現が確認された。
実施例10.S0057エピトープの評価
【0131】
抗体結合競合アッセイを行って、S0057エピトープを確認し、他の抗siglec12抗体とのエピトープ重複を評価した。S12 V2C1(配列番号175)とマウスFc領域断片m2cFc(配列番号178)との融合タンパク質を調製し、これを使用してPBS中の96ウェルプレートを4℃で一晩コーティングした。次いで、プレートを3%BSA/PBSで1時間ブロックした後、ビオチン化S0057(15nM)を添加し、非標識抗体(200nMから6.2nMのS0057、S0023、S0102またはS0042)を滴定した。プレートを2時間インキュベートし、洗浄した後、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ複合体(0.3%BSAを含むPBS/TWEEN(登録商標)20中、1:5000)とともに30分間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、CDP-STAR(登録商標)化学発光基質とインキュベートした後、BioTek CYTATION(商標)5装置(ウィノスキー、バーモント州)を使用して化学発光分析を行った。得られた平均発光値を表20に示す。
【表20】
【0132】
V2C1特異的抗体S0023およびS0102(実施例3を参照されたい)は、S0057と効果的に競合せず、これにより、S0057エピトープがS0023またはS0102エピトープと重複しない可能性が最も高いことが示された。非標識S0057は陽性対照として効果的な競合を示し、S0042(V1結合陰性対照)は結合について競合しなかった。
実施例11.S0057の結合親和性
【0133】
siglec12結合の動態を、S0057全抗体および対応するFab断片(全抗体の消化によって得られた)について評価した。S12 V2C1(配列番号175)とマウスFc領域断片m2cFc(配列番号178)との融合タンパク質を調製し、これを使用してPBS中の96ウェルプレートを4℃で一晩コーティングした。次いで、プレートを3%BSA/PBSで1時間ブロックした後、3倍希釈を使用して3μMから50pM(0.3%BSA/PBS中)の滴定でS0057Fab断片またはS0057全抗体を添加した。次いで、プレートを穏やかに振盪しながら室温で2.5時間インキュベートした。プレートを洗浄し、二次抗体[0.3%BSA/PBS/Triton(登録商標)X-100中、1:10,000のヤギ抗マウスκ鎖HRPコンジュゲート(Bethyl Laboratories、モンゴメリー、テキサス州)]と室温で30分間インキュベートした。プレートを再度洗浄した後、比色ペルオキシダーゼ基質を添加し、クエンチし、450nmでの吸光度測定を行った。吸光度値を使用して、Fabフォーマットと全抗体フォーマットの平衡解離定数(Kd)値を求めた。S0057のFab断片のKdは4.8nMと、全抗体のKdは2.8nMと求められた。
【配列表】
【国際調査報告】