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特表2023-533277軸方向に圧縮可能且つ伸張可能なベアステント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】軸方向に圧縮可能且つ伸張可能なベアステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20230726BHJP
【FI】
A61F2/90
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500373
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 CN2020127278
(87)【国際公開番号】W WO2022007282
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】202010643288.X
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523002057
【氏名又は名称】シャンハイ フローダイナミクス メディカル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジエン
(72)【発明者】
【氏名】ファン チェンイン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267BB11
4C267BB40
4C267CC08
4C267GG23
4C267GG24
4C267HH08
(57)【要約】
大動脈に使用されるステント(10、20)であって、ステント(10、20)は、少なくとも2種類の異なる直径の第1ワイヤ(13、23)と第2ワイヤ(14、24)によって編組される。当該ステントは、自然解放状態でステントの軸方向に沿って少なくとも部分的に圧縮可能且つ伸張可能であり、ここで、第1ワイヤ(13、23)は20~150μmの直径を有し、第2ワイヤ(14、24)は150~800μmの直径を有する。当該ステントは、大動脈瘤及び/又は大動脈解離病変の治療に使用され、ステントの軸方向の圧縮性と伸張性により、大動脈内の必要な部位に低い液透過性と強い径方向の支持力を提供し、その軸方向の伸展性により、適切な直径を有する送達システムに容易に組み立てることができる。また、当該ステントを備えるステントキット及びステント送達システムを更に提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に圧縮可能且つ伸張可能なベアステントであって、前記ベアステントは、大動脈に使用され、少なくとも2層の編組メッシュを有し、前記ベアステントは、
少なくとも2つの異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤを重ね織りすることによって形成された非低密度メッシュ領域であって、第1ワイヤは20~150μmの直径を有し、第2ワイヤは150~600μmの直径を有する、非低密度メッシュ領域と、
前記第2ワイヤのみで構成される任意の低密度メッシュ領域であって、前記低密度メッシュ領域は、前記ベアステントが解放された後、分枝動脈を有する治療部位に対応する部位に配置される、任意の低密度メッシュ領域と、を含み、
前記ベアステントは、自然解放状態で、前記低密度メッシュ領域を除いて、少なくとも60%の金属被覆率を有する、ベアステント。
【請求項2】
前記ベアステントは、自然解放状態で、100N以上の径方向の支持力を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項3】
前記ベアステントは、自然解放状態で、100~600Nの径方向の支持力を有し且つ前記低密度メッシュ領域を除いて70~90%の金属被覆率を有する、
請求項2に記載のベアステント。
【請求項4】
前記ベアステントが前記大動脈に留置される場合、その長さ方向に沿って異なる圧縮程度を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項5】
前記低密度メッシュ領域を除いて、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤは、均一分布する方式で織り合わせることによって前記ベアステントを形成する、
請求項2に記載のベアステント。
【請求項6】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、90~100%の金属被覆率を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のベアステント。
【請求項7】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、500N以上の径方向の支持力を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のベアステント。
【請求項8】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、500~1000Nの径方向の支持力を有する、
請求項7に記載のベアステント。
【請求項9】
前記ベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも上行大動脈を含む領域に使用され、前記低密度メッシュ領域は、大動脈弓部位に対応する第1低密度メッシュ領域を含み、前記第1低密度メッシュ領域に対応する中心角は120°~180°である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項10】
前記低密度メッシュ領域は、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を含み、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第2低密度メッシュ領域に対応する中心角は180°である、
請求項9に記載のベアステント。
【請求項11】
前記ベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも腹部大動脈を含む領域に使用され、前記ベアステントは、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を有し、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第1低密度メッシュ領域に対応する中心角は180°である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項12】
前記ベアステントの内部空間には、左右の総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられている、
請求項10又は11に記載のベアステント。
【請求項13】
前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ベアステント内の、腹部大動脈の左右の総腸骨動脈に近い腹部大動脈に対応する分岐部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに正接するように環状に配置され且つ前記ベアステントの内壁と一体に形成される、
請求項12に記載のベアステント。
【請求項14】
前記ベアステントは、可変直径を有し、前記直径は20~60mmの範囲内である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項15】
前記ベアステントの一部は、38~60mmの範囲の直径を有する、
請求項14に記載のベアステント。
【請求項16】
前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太いワイヤと第2太いワイヤとを有し、ここで前記第1太いワイヤは150~300μmの直径を有し、且つ前記第2太いワイヤは300~600μmの直径を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項17】
前記第1ワイヤは異なる直径を有する第1細いワイヤと第2細いワイヤとを含み、前記第1細いワイヤは50~100μmの直径を有し、前記第2細いワイヤは100~150μmの直径を有することができる、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項18】
前記ベアステントは96~202本のワイヤによって編組され、前記第2ワイヤは4~30本であり、残りが第1ワイヤである、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項19】
前記ベアステントは96~202本のワイヤによって編組され、前記第2ワイヤは、6~12本の第1太いワイヤと、4~12本の第2太いワイヤとを含み、残りは第1ワイヤである、
請求項16に記載のベアステント。
【請求項20】
前記ベアステントは96~202本のワイヤによって編組され、前記第2ワイヤは4~30本のワイヤを含み、残りは第1ワイヤであり、前記第1ワイヤは、前記第1細いワイヤと前記第2細いワイヤとの合計が198本を超えないという条件で、32~166本の前記第1細いワイヤと、32~166本の前記第2細いワイヤとを含む、
請求項17に記載のベアステント。
【請求項21】
前記ベアステントは4層の編組メッシュを有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項22】
前記ベアステントの少なくとも一端の端部は、織り返し編み方式で形成される、
請求項1に記載のベアステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2020年7月6日に中国特許局に提出された、出願番号が202010643288.Xである中国特許出願に基づいて提出されるものであり、当該中国特許出願の優先権を主張し、当該中国特許出願の全ての内容が参照によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、ベアステントに関し、特に、大動脈瘤又は大動脈解離などの大動脈病変の治療に使用されるベアステントに関する。
【背景技術】
【0003】
動脈血管壁は、内膜、中膜、及び外膜がぴったりとくっついた構造になっている。動脈血管の内壁が局所的に損傷すると、動脈血流の強い衝撃により、動脈血管壁の中膜が徐々に剥がれ、血液が血管壁の中膜と外膜との間に入り、真腔と偽腔の2つの腔が形成される。最も一般的なのは大動脈解離である。大動脈解離は動脈壁を弱め、いつでも破裂する危険があり、挟層が破裂すると、数分以内に患者を死に至らしめる。
【0004】
大動脈解離は、内膜の裂傷部位と伸展程度によってA型とB型の2つのタイプ(例えばStanford分類)に分けられる。A型は、上行大動脈に関わる病変を指し、動脈壁の解離は、上行大動脈から始まり、又は大動脈弓や下行大動脈の近端で発生するが上行大動脈に関わる場合もある。B型は、動脈壁の解離が、左鎖骨下動脈の開口部の近位端を超えない下行大動脈で発生することを指す。
【0005】
大動脈瘤も、大動脈が異常に拡張する病気の一種である。大動脈瘤の破裂も、患者にとって致命的となる。
【0006】
よって、大動脈解離と大動脈瘤に対する早期診断と適時の治療は非常に必要である。
【0007】
現在、大動脈解離又は大動脈瘤の治療には、通常3つの方案がある。
【0008】
一つの方案は、開腹手術により、人工血管の置換を行うことである。当該方案は、現在、主にA型の大動脈解離に使用されているが、術中死亡率が高く、術後に残余の挟層が形成されることが多く(即ち、B型の解離が生じる)、10年以内に再手術が必要になる割合が9~67%に達するという欠点がある。更に、治療費が非常に高く、このような手術技術を備えている病院が比較的に少ない。更に、開腹手術はすべての患者に適しているわけではなく、当該方案がカバーできる患者の割合が非常に少ない。
【0009】
もう一つの方案は、EVAR腔内介入法、即ち、ステントグラフト移植である。当該方案は、外傷が少なく、回復が早く、死亡率が低いという利点があるが、ステントの留置部位が大動脈弓及び/又は腹部大動脈に及ぶことが多いため、大動脈弓の凸側の3つの主要な枝動脈と、腹部大動脈における左腎動脈、右腎動脈、腹腔幹と上腸間膜動脈などの主な分枝動脈とは、術中及び術後に閉塞してはいけない。従来の方法は、重要な分枝動脈に対応するステントグラフトの部位に、現場で穴を開けることである。これは、手術の難易度を高め、経験豊富な外科医によって実施する必要があり、一方、留置中に位置が不正確になったり、解放プロセス中にステントが移動したりすることによって、重要な分枝血管が閉塞されると、深刻な結果を引き起こす。更に、術前にステントを改造した場合、製造者は品質保証サービスの提供を拒否する可能性がある。
【0010】
第3の方案は、最近提案された、高密度メッシュステントを採用して全大動脈腔内の介入を行う方案(即ち、TEVAR介入法)である。EVAR腔内介入法とは異なり、当該方案は、機械的に偽腔を塞ぐメカニズムを採用しておらず、高密度メッシュステントは血流の通過を著しく阻害せず、病変血管の内壁に血流の阻害を形成することにより、偽腔内の血行動態を変化させ、その中の圧力を低下させ、腔内血栓化を促進することにより治療目的を達成する。当該方案では、高密度メッシュステントを採用することにより、EVAR腔内介入法と比べて、外傷が少なく、回復が早く、死亡率が低いという利点があるだけでなく、高密度メッシュステントは分枝動脈への血流を著しく阻害しないため、手術の難易度が大幅に低下し、したがって、通常の経験を持つ医者も実施することができる。
【0011】
しかし、当該種類のステントの治療効果は理想的ではなく、血管内壁の破裂が完全に塞がれるわけではなく、いつも理想的な腔内血栓が形成されるとは限らない。更に、現在の高密度メッシュステントは、依然として、すべての大動脈解離や大動脈瘤の病変タイプに適用することが困難であり、特に、A型大動脈病変に適用することが困難である。
【0012】
A型大動脈解離は上行大動脈に関わり、当該部位の血管の内径は、病変により通常38~55mmまで大幅に増加する。このような大径の高密度メッシュステントは、径方向に圧縮して小径にすることができず、より太い送達システムが必要である。これにより、特に血管が比較的細いアジア人にとっては、直径が比較的に小さい大腿動脈を介して送達システムを留置することが困難になり、実施することさえ不可能になる。圧縮状態におけるステントの直径を小さくするために、比較的細いワイヤでステントを編組することができるが、そうすると、ステントの径方向の支持力が不十分になり、治療作用を発揮することができなくなる。
【発明の概要】
【0013】
これを鑑みて、本発明の主な目的は、先行技術における上記の問題の少なくとも1つのを解決又は改善できるステント、当該ステントを備える送達システム、及びステント留置方法を提供することである。具体的には、本発明の目的は、送達状態で大腿動脈を通る送達に適した直径を有する、大動脈解離又は大動脈瘤、特にA型大動脈病変を治療するためのステントを提供することである。前記ステントは、大動脈、特に上行大動脈に適した大きな直径を有することができる。それは、解放状態で軸方向に伸張し径方向に圧縮して、適切なサイズを有する送達構成を得ることで、大腿動脈を通して送達される従来の送達カテーテルを使用して手術を実施できるようにし、同時に、治療部位に解放された後、軸方向の圧縮により、分枝動脈の血液供給に影響を与えずに、適切な液体不透過性と径方向の支持力を得ることができる。
【0014】
この目的のために、本発明の第1態様は、大動脈に使用されるベアステントを提供し、前記ベアステントは、少なくとも2層の編組メッシュを備え、前記ベアステントは、非低密度メッシュ領域と、任意の低密度メッシュ領域を含み、前記非低密度メッシュ領域は、少なくとも2つの異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤとを重ね織りすることによって構成されることを特徴とし、ここで、第1ワイヤは20~150μmの直径を有し、且つ第2ワイヤは150~600μmの直径を有し、前記低密度メッシュ領域は、前記第2ワイヤのみによって構成され、前記ベアステントが解放された後、分枝動脈を有する治療部位に対応する部位に配置され、ここで、前記ベアステントの自然解放状態で、前記低密度メッシュ領域を除いて、前記ベアステントは、少なくとも60%の金属被覆率を有する。
【0015】
本発明のステントは、少なくとも2つの異なる直径のワイヤ、即ち、上記で定義した第1ワイヤと第2ワイヤとを重ね織りすることによって形成された、少なくとも2層の編組メッシュを有するベアステントである。このような重ね織り方式は、ステントをその軸方向に伸張可能且つ圧縮可能にする。本発明によれば、上記の直径範囲内の第1ワイヤと第2ワイヤによって編組されたベアステントを採用して、自然解放状態(即ち、軸方向の圧縮又は伸張なし)で、指定された範囲内の編組密度を有する場合、比較的高い径方向の支持力を得ることができる。
【0016】
1つの実施形態によれば、前記ベアステントは、自然解放状態で100N以上の径方向支持力を有する。
【0017】
より具体的な実施形態によれば、前記ベアステントは、100~600Nの径方向支持力と、前記低密度メッシュ領域を除いて70~90%の金属被覆率とを有する。
【0018】
当該特性を持つベアステントは、軸方向の伸長性が高いため、従来のベアステントよりも編組密度と径方向支持力がはるかに高いにもかかわらず、単位長さあたりの編組ワイヤの密度を下げるために軸方向に引き伸ばされた後、径方向に適切なサイズに容易に圧縮して、適宜の送達システムに組み立てることができる。これにより、本発明のベアステントが38~60mmという大きな直径を有する場合でも、許容可能なサイズの送達構成を得ることができ、それにより、上行大動脈に関わるA型解離の治療にも適用できる。具体的には、本発明のベアステントは、より大きな外径を有する送達システムを使用することなく、従来の外径(例えば、約5~10mm、好ましくは約5~7mm)を有する送達システムを使用して大腿動脈を通過して送達することができる。
【0019】
本実施形態のステントは、局所解放後、圧縮なしで比較的大きな径方向支持力と編組密度を有し、血管真腔を直ちに支持・拡張し、裂け目をある程度塞ぐことを容易にする。更に、ステントの局部を軸方向に圧縮することにより、径方向支持力を更に増加し編組密度を高めて、上記の要件を満たす必要な径方向支持力と編組密度を形成して、血管内壁の裂け目をより効果的に塞ぐことができる。
【0020】
したがって、前記ベアステントを前記大動脈に留置する場合、その長さ方向に沿って異なる圧縮程度を有する。
【0021】
本発明のベアステントは、自然解放状態において、編組密度が高いほど、大動脈から分枝動脈への血流に一定の阻害を与えることができる。そのため、前記ベアステントは、分枝動脈を有する治療部位に対応する領域全体にわたって低密度メッシュ領域を有する。前記低密度メッシュ領域は第2ワイヤのみで構成されるため、編組密度が大幅に減少し、低密度メッシュ領域を有する部位の血流が阻害されない。本発明のベアステントは、分枝動脈ごとに開窓するステントグラフトとは異なり、大動脈弓などの大湾曲部に1つの低密度メッシュ領域しかなく、大動脈における大湾曲部の3つの分枝動脈の開口部はすべて当該低密度メッシュ領域の範囲内にあるため、手術の難易度が軽減される。このように、本発明のベアステントは、ステントグラフトのように血管内膜の裂け部位を効果的に塞ぐことができる一方、従来のステントグラフトのように、経験豊富な医者が現場で開窓して改造する必要がなく、分枝血管の閉塞のリスクもない。
【0022】
本発明によれば、前記ベアステントは、前記大動脈に留置される場合、その長さ方向に沿って異なる圧縮程度を有する。前記低密度メッシュ領域を除いて、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤは、均一分布する方式で織り合わせることによって前記ベアステントを形成する。
【0023】
1つの実施形態によれば、前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、90~100%、好ましくは90~95%の金属被覆率を有する。
【0024】
1つの実施形態によれば、前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、500N以上、好ましくは500~1000Nの径方向支持力を有する。
【0025】
以上で限定された軸方向の最大圧縮状態における編組メッシュ密度と径方向支持力範囲内で、本発明のステントは、上行大動脈に適した最大直径(例えば38~60mm)を有していても、狭窄した血管真腔を効果的に支持することができる。特に、好ましい範囲の径方向支持力は、引き裂かれた血管内膜片が硬化し、それを開くのに大きな力を必要とする、形成してから一定時間経過した患部に特に有益である。
【0026】
よって、実際の応用において、本発明のステントが血管(特に大動脈)内で解放されるとき、圧縮比率に基づいて、その異なる部位の径方向支持力は100~1000Nの範囲内で変化することができる。
【0027】
本発明のベアステントは、大動脈、特に、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも上行大動脈を含む領域に適用される。1つの方案によれば、前記治療部位は大動脈弓を含む。本発明のベアステントの前記低密度メッシュ領域は、大動脈弓部位に対応する第1低密度メッシュ領域を含み、前記第1低密度メッシュ領域に対応する中心角は約120°~180°である。
【0028】
当該第1低密度メッシュ領域は、具体的には前記大動脈弓の大湾曲部に対応し、特に、大動脈弓上の分枝動脈(腕頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈)に対応する。具体的には、前記第1低密度メッシュ領域の長さは、大動脈弓上の分枝動脈領域の長さよりも、例えば6~8cm長い。
【0029】
別の方案によれば、前記治療部位は腹部大動脈を更に含む。本発明のベアステントの前記低密度メッシュ領域は、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を更に含み、ここで、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第2低密度メッシュ領域に対応する中心角は約180°である。具体的には、前記第2低密度メッシュ領域の長さは、腹部大動脈上の上記の分枝動脈の分布領域の長さよりも、例えば2~4cm長い。
【0030】
別の実施形態によれば、前記ベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも腹部大動脈を含む領域に使用される。前記治療部位は、腹部大動脈上の分枝血管を有する部位に関する。前記ベアステントの低密度メッシュ領域は、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を含み、ここで、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第2低密度メッシュ領域に対応する中心角は180°である。同様に、前記第2低密度メッシュ領域の長さは、腹部大動脈上の上記の分枝動脈の分布領域の長さよりも、例えば2~4cm長い。
【0031】
別の実施形態によれば、本発明のベアステントは、下行大動脈の分枝血管がない領域に使用される。当該領域に使用されるベアステントは、非低密度メッシュ領域のみを含み得る。
【0032】
本発明のベアステントの治療部位が腹部大動脈部位を含む場合、前記ベアステントの内部空間には、左右の総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられている。前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ベアステント内の、左右の総腸骨動脈に近い腹部大動脈に対応する分岐部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに正接するように環状に配置され且つ前記ベアステントの内壁と一体に形成されている。
【0033】
腹部大動脈ステントの下部に2つの円筒状の分枝を形成するための固定部とは異なり、本発明のベアステントの2つの固定部は、ベアステントの内側に設けられるため、ベアステントの外側は依然として円筒形のままであり、これは、総腸骨動脈付近の支持力を弱めずに、血管を広げるのに有益である。更に、総腸骨動脈固定部はステントと一体に形成されているため、左右の腸骨動脈ステントをより安定的に固定することができる。
【0034】
異なる方案において、前記ステントは、前記第1低密度メッシュ領域を有してもよいし、又は第1低密度メッシュ領域と第2低密度メッシュ領域とを有してもよいし、又は第2低密度メッシュ領域のみを有してもよい。
【0035】
重ね織りの使用により、前記低密度メッシュ領域の任意の1つのメッシュは拡張可能であり、それにより、拡張したメッシュを通して分枝ステントを留置することができる。
【0036】
当該実施形態におけるベアステントは、ステントの低密度メッシュ領域以外の部位の編組密度要件に従って織ることができ、織りが完了した後、低密度メッシュ領域を形成する予定の領域で前記第1ワイヤを除去することにより、前記低密度メッシュ領域を形成することができる。
【0037】
本発明によれば、前記ベアステントは、可変直径を有し得、前記直径は20~60mmであり、好ましくは20~55mmの範囲である。
【0038】
別の実施形態によれば、前記ベアステントの一部は、38~60mm、好ましくは38~55mmの範囲の直径を有する。当該実施形態におけるベアステントは、解放状態において、前記ベアステントの近心端の第1段を有することができる。当該第1段は、上行大動脈に適合するように、38~60cm、好ましくは38~55mmの直径を有することができる。当該第1段の長さは、8~11cm、好ましくは8~10cmである。前記ベアステントは更に、前記第1段に隣接する第2段を有することができる。当該第2段は、大動脈弓、さらには腹部大動脈に至る部分に適合するように、例えば20~35mmの直径を有することができる。当該第2段は、当該第1段に続いて前記ベアステントの遠心端まで延在する。当該第2段の長さは20~35cm、好ましくは25~30cmであり得る。上記の2つの段は、それぞれ2つのステントを形成することもでき、留置する際に、第2段のステント部分は、第1段のステントの内部に延在することができる。2番目の方式はより柔軟的である。必要に応じて、操作を容易にするために、独立した3段のステントを形成してもよい。
【0039】
本発明のベアステントは、上行大動脈に関わるA型大動脈解離に使用するのに特に有利である。上行大動脈は、内径が大きいが直線部分が短く、その遠心端はほぼ180度回転した大動脈弓であることは周知のことである。これにより、上行大動脈でのステントの解放はより困難である。本発明のベアステントは、自然解放状態で一定の編組密度と径方向支持力を有し、よって、わずかな軸方向圧縮のみで、大動脈内膜の裂け部位を効果的に塞ぐことができる。以下の具体的な実施形態を参照して詳述するステント解放方法から分かるように、上行大動脈でステントの比較的短い1段を解放し、比較的低い比率の圧縮を行った後、所望の効果を得ることができる。したがって、本発明のベアステントは、直線部分が比較的短い上行大動脈の治療に特に有利である。
【0040】
他の実施形態によれば、前記ベアステントは、下行大動脈から補助大動脈に対応する部分のみを有してもよく、したがって、例えば20~35mmの直径及び20~30cmの長さを有する。
【0041】
1つの実施形態によれば、前記ベアステントは、3つの異なる直径を有するワイヤから編組され、ここで、前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太いワイヤと第2太いワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1太いワイヤは、150~300μmの直径を有し、且つ前記第2太いワイヤは300~600μmの直径を有してもよい。
【0042】
別の実施形態によれば、前記ベアステントは、3つの異なる直径を有するワイヤから編組され、ここで、前記第1ワイヤは、異なる直径を有する第1細いワイヤと第2細いワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1細いワイヤは、50~100μmの直径を有し、且つ前記第2細いワイヤは100~150μmの直径を有してもよい。
【0043】
更に別の実施形態によれば、前記ベアステントは、上記の4つの異なる直径を有する、第1細いワイヤ、第2細いワイヤ、第1太いワイヤ、及び第2太いワイヤから編組されることができる。
【0044】
前記ベアステントの編組に使用されるワイヤの数は、96~202本、好ましくは96~156本であってもよい。ここで、第2ワイヤの数は、4本以上、例えば4~30、4~24本であり得、残りは第1ワイヤである。
【0045】
1つの実施形態によれば、異なる直径の2つの太いワイヤを使用する場合、前記第2ワイヤは、6~12本の第1太いワイヤと、4~12本の第2太いワイヤとを含み、残りは第1ワイヤである。
【0046】
太いワイヤ(即ち、第2ワイヤ)の数が多過ぎると、ステントが所望の送達状態に効果的に圧縮できなくなり、数が少な過ぎると、前記ステントは圧縮後でも予期した径方向支持力を提供できず、解放状態で前記ステントの予期した構造と形態を維持できなくなる。
【0047】
別の実施形態によれば、異なる直径の2つの細いワイヤ(第1ワイヤ)を使用する場合、第2ワイヤは4~30本、好ましくは4~24本であり、残りは第1ワイヤであり、ここで、前記第1細いワイヤと前記第2細いワイヤとの合計が198本を超えないという条件で、前記第1ワイヤは、32~166本の前記第1細いワイヤと、32~166本の前記第2細いワイヤとを含む。
【0048】
径方向の圧縮率を考慮しながら、本発明のベアステントの編組密度と径方向支持力を得るためには、編組メッシュの層数を増やすことで実現できる。
【0049】
1つの実施形態によれば、前記ベアステントは、少なくとも2層の編組メッシュによって構成される。1つの実施形態によれば、前記ステントは2~4層の編組メッシュ、好ましくは4層の編組メッシュを有する。
【0050】
本発明のステントの編組方法は特に限定されない。前記ステントを軸方向に容易に圧縮及び伸張できる限り、通常の重ね織り(即ち、ワイヤとワイヤの交点に縛りがない)を採用できる。
【0051】
理解されたいこととして、具体的な治療タイプに必要とされる径方向支持力範囲と編組密度範囲に基づいて、当業者は、本明細書の説明に基づいて具体的な機器条件下で適切な編組材料を選択し、合理的な層数を決定し、更に適切なワイヤの直径、数などを決定し、適切な編組方案を決定して、所望の径方向支持力範囲と金属被覆率範囲を有するステントを得ることができる。例えば、専用のソフトウェアによって適切な編組方案を設計することができる。
【0052】
さらなる実施形態によれば、本発明のベアステントの端部(特に、ステントの径方向支持力が最も大きい近心端)は、織り返し編み方式で形成されることができる。他端に再度織り返し編みできないバリが存在する場合、各層の適切な配布方式を選択することにより、バリを前記ベアステントの内側に位置させる。又は、2層のバリが存在する場合、その一層のバリを短い距離だけ織り返し編みし、別のバリを当該織り返し編みされた段内に包み、又は、複数のステントを合わせて使用する場合、単層又は2層のバリを重ねて、別のメッシュステント内に配置することができる。当該実施形態におけるベアステントは、滑らかな端部を有し、それにより、露出したワイヤ端部(バリ)による血管内壁への機械的損傷を回避する。
【0053】
本発明のベアステントは、自己拡張可能又はバルーン拡張可能である。前記ベアステントを編組する第1ワイヤと第2ワイヤの材料は異なってもよいが、同じであることが好ましい。通常、前記ワイヤの材料は、形状記憶合金(例えばニチノール)、コバルトクロム合金、タングステン、又はタンタルなどの金属であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の1つの実施形態によるベアステントの単層の概略図である。
図2図1に示すベアステントの部分セグメントの軸方向圧縮と伸張、及び軸方向伸張後の径方向圧縮の概略図である。
図3】本発明の別の実施形態によるベアステントの概略図である。
図4】本発明の更に別の実施形態によるベアステントの概略図である。
図5】本発明の1つの実施形態によるベアステントの局部拡大概略図である。
図6】本発明によるベアステントの多層ステント壁の概略断面図である。
図7】本発明のベアステントに使用されるステント送達システムの概略図である。
図8】A型大動脈解離病変においてステント送達システムを使用して本発明のベアステントを留置することを示す概略図である。
図9】ステント送達システムを使用して大動脈内膜の裂け目に本発明のベアステントを留置する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下では、本発明の実施形態及び図面を参照して、本発明の実施形態における技術的解決策を明確且つ完全に説明する。明らかに、説明される実施形態は、すべての実施形態ではなく、本発明の実施形態の一部に過ぎず、本発明の実施例に記載された技術的解決策は、競合することなく任意の組み合わせで実施することができる。本発明における実施形態に基づいて、創造的な努力なしに当業者によって取得される他のすべての実施形態は、すべて本発明の保護範囲に含まれる。
【0056】
本明細書全体において、特に明記しない限り、本明細書で使用される用語は、当技術分野で一般的に使用されるものとして理解すべきである。したがって、特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語と科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、本明細書を優先とする。
【0057】
図面における同じ参照番号は同じ部品を指す。例示的な図面における部品の形状やサイズは、例示的なものに過ぎず、実際の形状、サイズ、及び絶対位置を表すものと見なすべきではない。
【0058】
本発明において、「備える」、「含む」又はその任意の他の変形の用語は、非排他的な包含をカバーすることを意図し、それにより、一連の要素を含む方法又は装置は、明示的に記載される要素を含むだけでなく、明示的に列挙されていない他の要素、又は、方法又は装置の実装に固有の要素も含むことに留意されたい。
【0059】
説明すべきこととして、本発明の実施例に係る「第1/第2」という用語は、類似する対象を区別するためのものに過ぎず、対象の特定の順序を表すものではないことに留意されたい。理解できることとして、許可される場合、「第1/第2」は、特定の順序又は前後順番を互換することができる。理解されたいこととして、本明細書で説明される本発明の実施例が、図示又は説明されるもの以外の順序で実施できるようにするために、「第1/第2」によって区別される対象は適切な状況下で互換可能である。
【0060】
本発明をより明確に説明するために、「近心端」及び「遠心端」という用語は、介入治療の分野における慣用の用語である。ここで、「遠心端」とは、手術中に心臓から離れた端を指し、「近心端」とは、手術操作中に心臓に近い端を指す。
【0061】
本明細書において、「ベアステント」と「ステント」という用語は、別段の説明がない限り、互換可能に使用でき、同じ意味を有し、即ち、ベアステントを指す。本発明は、大動脈内に使用されるベアステントを提供し、前記ベアステントは,少なくとも2層の編組メッシュを有し、少なくとも2つの異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤによって重ね織りされ、ここで、第1ワイヤは20~150μmの直径を有し、第2ワイヤは150~600μmの直径を有し、ここで、前記ベアステントの自然解放状態で、前記ベアステントは、前記低密度メッシュ領域を除いて、少なくとも60%の金属被覆率を有し、前記ベアステントは、少なくとも1つの低密度メッシュ領域を更に有し、前記低密度メッシュ領域は、前記第2ワイヤのみで構成され、前記ベアステントが解放された後、分枝動脈を有する治療部位に対応する部位に配置される。
【0062】
図1は、1つの実施形態による本発明のベアステント10の単層の概略図を示す。図1に示すように、ベアステント10は、上行大動脈に適したセグメント18と、動脈弓に適したセグメント19とを有し、ここで、上行大動脈に適したセグメント18は、約38mm~60mmの直径を有し、動脈弓に適したセグメント19の直径は、約25mm~35mmに縮小される。当該ベアステント10は、所望の編組密度を得るために、4層などの複数の層を有してもよい。前記ベアステントの具体的な構造を明確に説明するために、図1には、単層の場合のみが示されている。ベアステント10の各層はすべて、第1ワイヤ(細いワイヤ)13と第2ワイヤ(太いワイヤ)14とを織り合わせることによって形成される。大動脈弓に適したセグメント19には、低密度メッシュ領域16がある。低密度メッシュ領域16は、第2ワイヤ(即ち、太いワイヤ)14のみを有する。低密度メッシュ領域16は、ステント解放後の動脈弓の大湾曲部に対応する部位の、動脈における大湾曲部の分枝血管の開口部より大きい領域に配置される。典型的には、低密度メッシュ領域16は、約6~8cmの長さと、ステント10の当該セグメント19の円周の約1/3~1/2弧長を占める幅を有し、又は約120°~180°の対応する中心角を有することができる。
【0063】
前記ベアステントが少なくとも2つの異なる直径のワイヤによって編組されるため、前記ステントは、解放状態で前記ステントの軸方向に沿って少なくとも部分的に圧縮可能且つ延在可能であるように構成される。
【0064】
本発明のベアステント10は、重ね織りすることによって形成され、ワイヤとワイヤとの間の交点で任意の相対移動が生じ得るので、本発明のステント10上の任意のメッシュは容易に拡張又は圧縮することができる。このように形成されたベアステントは、一端が固定された場合に、その中心軸に沿って軸方向に圧縮又は伸張することができる。
【0065】
図2を参照すると、図1に示すベアステント10の部分セグメント18が、軸方向にセグメント18'に圧縮されること、軸方向にセグメント18''に伸張されること、及び軸方向に伸張されたセグメント18''が更に径方向にセグメント18'''に圧縮されることを例示的に示している。
【0066】
本明細書に言及されたステントの「軸方向」とは、図1に示すA-Aに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の中心軸の方向である。本明細書に言及されたステントの「径方向」とは、図1に示すD-Dに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の円の直径方向である。通常、本明細書において、「軸方向に沿って圧縮/伸張」することは、A-A軸方向に沿って圧縮/伸張することを指し、「径方向に沿って圧縮」することは、円周から円心への圧縮を指す。
【0067】
図2に示すように、本発明のベアステントの上記の特性は、様々な利点をもたらすことができる。以下に説明するステント留置方法によれば、本発明のベアステントは、留置中に部分的に解放され(例えば、上行大動脈におけるセグメント18を解放)、軸方向に圧縮されることができ、圧縮されたステントのセグメント18'は、高い編組密度を形成し、単位長さあたりの第2ワイヤの密度の増加より、高い径方向支持力を得ることができる。高い径方向支持力により、狭窄した血管を効果的に拡張することができ、高い編組密度により、非常に低い流体透過性を得ることができ、これにより、血管内膜の損傷部分を効果的に塞ぐことができる。このとき、上行大動脈におけるセグメント18’の第2ワイヤ4は骨格を支える作用を果たし、第1ワイヤは、第2ワイヤ間の隙間を埋め、ステントグラフトの織物膜のような作用を発揮する。ステントグラフトとは異なり、本発明のベアステントは、軸方向に圧縮された後、ステントグラフトでは実現が困難なかなり高い径方向支持力を提供できるため、上行大動脈に関わるA型大動脈解離の治療に効果的に使用できる。更に、ステントが軸方向に伸張できるため、適切に伸張されたステント(図2に示すセグメント18''を参照)の編組ワイヤ、特に第2ワイヤの、単位長さにあたりの密度が大幅に減少され、よって、このとき、径方向に圧縮する(図2に示すセグメント18'''を参照)と、比較的小さな直径に圧縮でき、これにより、従来の外径(例えば5~10cm、好ましくは5~7cm)の送達システムに実装できるようになる。したがって、本発明のベアステントは、先行技術における大きいサイズで支持力の高いステントが適切な直径を有する送達システムに実装できないという問題と、従来の高密度メッシュステント又はステントグラフトが上行大動脈に適用することが困難であるという問題を解决する。
【0068】
本発明のベアステントは、自然解放状態で100N以上の径方向支持力を有することができ、軸方向最大圧縮状態で500N以上の径方向支持力を有することができる。
【0069】
本明細書に言及されたステントの「自然解放状態」とは、37±2℃の水にステントを固定した際に、ステントが軸方向に圧縮されずに解放された状態を指す。
【0070】
本明細書に言及されたステントの「軸方向最大圧縮状態」とは、ステントが自然解放状態で軸方向に圧縮できなくなるまで圧縮された状態を指す。
【0071】
本明細書に言及されたステントの「径方向支持力」とは、自然解放状態で、ステントを固定した後に直径方向に沿って元の直径の85%まで圧縮するのに必要な力を指す。
【0072】
径方向支持力に対応して、本発明のステントは、血管内膜の裂け目を効果的に塞ぐ効果を得るために、高度の液体不透過性を必要とする。当該性質は編組密度で表すことができる。本発明のステント1は、自然解放状態で、60%以上、最大90%の金属被覆率を有することができ、軸方向最大圧縮状態で、90~100%、好ましくは90~95%の金属被覆率を有することができる。
【0073】
本明細書に言及されたステントの「金属被覆率」とは、電子顕微鏡によるスキャンによって測定された単位面積あたりの金属被覆比率を指す。単位面積あたりの金属被覆率と空隙率との合計は100%であるべきである。
【0074】
図1は単層のみを示したが、本発明のステントは、2~4層などの多層構造を有する。例えば、織り返し編み方式で前記多層を形成することができる。
【0075】
本発明によれば、ステント1は合計96~202本のワイヤによって編組されることができる。例えば、例を挙げると、本発明のステントは、96、128、160、196本のワイヤによって編組されてもよい。ワイヤの数は、ステントの直径、層数、及び使用されるワイヤの材質などに基づいて決定することができる。
【0076】
本発明ステントの材質は、十分な径方向支持力を提供でき且つある程度の細かさを有するものであれば、末梢血管用ステントに使用される任意の適切な材料であってもよい。通常、ニッケルチタン合金ワイヤ、コバルトクロム合金ワイヤ、タングステンワイヤ、タンタルワイヤなどの金属ワイヤを使用することが好ましく、より好ましくは、ニッケルチタン合金ワイヤを使用する。
【0077】
太いワイヤとしての第2ワイヤ4の数は、少なくとも4本であり、通常、30本を超えず、例えば、8、10、12、14、16、20、24、28本であり得る。第2ワイヤ4の直径は150~800μm、好ましくは150~600μmであり、例えば、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm又は600μmである。第2ワイヤ4は、ステント1に基本的な支持力と完全な構造を提供する。しかし、第2ワイヤの数が多すぎてはいけない。例えば、300μm直径のワイヤのみを採用する場合でも、ワイヤの数が約32本になると、特に約40mmを超える超大径のステント部分の場合、適切な送達サイズに圧縮できず、使用できなくなる。
【0078】
ステント1において、太いワイヤ以外は、すべて細いワイヤとしての第1ワイヤ3である。本発明に使用される第1ワイヤ3は、20~150μm、好ましくは50~150μmの直径を有し得、例えば、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、1120μm、130μm、140μm及び150μmである。第1ワイヤ3は、ステント1を補助的に支持し、第2ワイヤ4の隙間の埋め作用を発揮する。また、第1ワイヤ3は、その数が第2ワイヤ4よりはるかに多いため、ステント1の形状を維持する作用を発揮する。本発明者は、論理的には可能であるように見えるが、実際には、本発明の重ね織り方式を採用すると、第2ワイヤ(即ち太いワイヤ)だけでは、特定の形状と十分な支持力を有する大径のステントを形成できないことを発見した。一方、例えばレーザー彫刻技術を使用して、ワイヤとワイヤの交点を固定することによって形成された大径ステントは、ワイヤの直径が同じであっても、支持力ははるかに小さく、大動脈血管に対する本発明の要件を満たすことができない。
【0079】
別の実施例によれば、本発明のベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈までの動脈領域全体に適用することができる。
【0080】
図3を参照すると、本発明の別の実施形態による、2つの低密度メッシュ領域を有するベアステント20の単層概略図を例示的に示している。図3には、単層構造のみが示されているが、当該実施形態のベアステント20は、同じ方式で編組された2~4層の編組層を有することができる。
【0081】
図3に示すように、ベアステント20は、上行大動脈に対応するセグメント28と、大動脈弓に対応するセグメント29と、下行大動脈から腹部大動脈に対応するセグメント25とを含む。ここで、上行大動脈に対応するセグメント28は、38~60mm、例えば、38~55mmの直径と、8~11cmの長さを有する。大動脈弓に対応するセグメント29は、20~45mm、例えば、約20~35mmの範囲の先細りの直径を有することができる。下行大動脈から腹部大動脈までに対応するセグメント25は、大動脈弓の後ろの領域から腹部大動脈の領域までずっと延在することができ、直径は、約25mm~30mmから約20mm~25mmまで変化し得る。大動脈弓に対応するセグメント29は、8~11cmの長さを有することができ、下行大動脈から腹部大動脈までに対応するセグメント25は、例えば20~35cmの長さを有することができる。
【0082】
当該実施形態におけるベアステント20も同様に、第1ワイヤ23と第2ワイヤ24とを織り合わせることによって形成される。
【0083】
1つの変形実施形態によれば、上記の3つのセグメントは、それぞれ3つの独立したステントにすることができ、これにより、柔軟に組み合わせて使用することができる。使用時には、心臓から遠いステントの近心端は、心臓に近いステントの遠心端に挿入され、これにより、各ステントの相対位置が固定される。
【0084】
ベアステント20は、第2ワイヤ24のみで構成された2つの低密度メッシュ領域を含み得、これらはそれぞれ、大動脈弓の分枝動脈(腕頭幹、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈)に対応する第1低密度メッシュ領域26、及び腹部大動脈にの分枝動脈(主に、左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、及び上腸間膜動脈)に対応する第2低密度メッシュ領域27である。第1低密度メッシュ領域は、図1に示す実施形態のサイズを有することができる。第2低密度メッシュ領域は、約2~4cmの長さと、当該セグメントの円周の約1/2弧長を占める幅を有する。
【0085】
図1及び図3に示すベアステントは両方とも、従来の方式で編組することができ、その後、所定の領域の第1ワイヤ13、23を除去することによって、低密度メッシュ領域16、26、27を形成することができる。
【0086】
さらなる実施形態によれば、本発明のベアステントは、腹部大動脈の治療部位に対応する部分に、左右の総腸骨動脈用のステントを受けて固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部を有することができる。図4を参照すると、当該実施形態のベアステントが例示的に示されている。図4に示すステント20’は、腹部大動脈に適用され、低密度メッシュ領域27’を有する。ステント20’の下部の内側には、2つの隣接する円形チャネルとして配置された総腸骨動脈ステント固定部22’がある。明確にするために、図4では、当該固定部22’は平面として示されているが、実際には、当該固定部22’は一定の厚みを有している。いくつかの実施例では、総腸骨動脈ステント固定部22’は、ステント20’の下端部まで下方に延在することができる。
【0087】
前記総腸骨動脈ステント固定部22’も、ステント20’と同様に、第1ワイヤと第2ワイヤによって編組され(第1ワイヤと第2ワイヤは図示せず)、ベアステントと一体に形成される。2つの環状の外側部分は、ステント20’の内壁と一体的に編組される。2つの環状の内径のサイズは、受容及び固定される左右の総腸骨動脈ステントの外径に適合され、総腸骨動脈ステントを固定できるように、通常、左右の総腸骨動脈ステントの外径よりわずかに小さい。
【0088】
1つの実施形態によれば、本発明のステントは、異なる直径を有する3本のワイヤによって編組することもできる。図5には、当該実施形態のステントの単層の局部拡大概略図が示されている。当該ステントは、第1ワイヤ33と、第2ワイヤ34a及び第2ワイヤ34bで編組される。ここで、第1ワイヤ33は、細いワイヤであり、50~150μmの直径を有することができ、第2ワイヤは、150~300μmの直径を有し得る第1太いワイヤ34aと、300~600μmの直径を有し得る第2太いワイヤ34bとを含む。ここで、6~12本の第1太いワイヤを使用してもよく、4本以上の第2太いワイヤを使用できるが、多くても12本を超えず、残りは第1ワイヤである。当該実施形態はまた、他の変形を有することができ、例えば、2つのタイプの第1ワイヤ(例えば、それぞれ20~100μm及び100~150μmの範囲の直径を有する)と1つのタイプの第2ワイヤでステントを構成するか、又は2つのタイプの第1ワイヤと2つのタイプの第2ワイヤでステントを構成することができるが、これに限定されない。
【0089】
3つ以上の異なる直径のワイヤによって形成されたステントは、ステント全体でより均一な径方向支持力を持ち、ステントの柔軟性も向上させることができる。
【0090】
上記のように、本発明のベアステントは複数の層を有し、立体的には2層、3層又は4層を有する。好ましい実施形態によれば、多層のベアステントは、単層の編組メッシュを織り返し編みする方式で形成されることができる。図6のA~Cに示すように、2~4層のステント壁の断面の概略図を示す。図6のAは、2層構造であり、図面における構造の上層42はステントの内側に位置し、下層44はステントの外側(即ち、血管壁と接触する側)に位置する。織り返し編みにより、当該構造の近心端41に滑らかな端口が形成される。遠心端43では、ステントの外側に向かう下層44が一定の距離だけ織り返し編みして、ステント内側の上層42の遠心端に向かう開口縁(バリ)を下層44の内側に包む。これにより、両端が滑らかな端口を形成する。同様に、図6のBにおいて、上層52は、近心端51で織り返し編みされて下層54を形成し、更に遠心端53で織り返し編みされて中間層56を形成する。遠心端53の下層54と中間層56は、上層52よりわずかに長く、それにより、上層の遠心端の開口縁がベアステント内側に位置するようにする。このようにして、ベアステントの両端が滑らかな端口になる。図6のCにおける4層の場合も同様であり、ベアステントの内側の2つの層62、68は、遠心端63でベアステントの外側の2つの層64、66の織り返し編みによって形成された縁よりも短く、近心端61では、最上層62を織り返し編みすることによって最下層64を形成し、2つの中間層68及び66をその間に包む。1つの変形例として、最上層62又は中間層68の遠心端で小さな部分だけ織り返し編みして、他の層の開口縁をその中に包むことができる。このようにして、ベアステントの両端が両方とも完全に滑らかな端口になる。
【0091】
以上では、例を挙げて本発明のステントを詳細に説明した。当業者であれば理解できるように、上記の例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明のステントの利点を説明するためのものであり、例における特徴は、適切な状況下で、独立して又は組み合わせて他の例のステントに適用することができる。本明細書の開示に基づいて前記ステントに対して当業者によってなされた明らかな変形及び修正も、本発明の構想に適合する限り、すべて本発明の範囲内に含まれる。
【0092】
以下では、本発明のベアステントを留置するためのステント送達システム及び前記ベアステントの留置方法を例示的に説明する。
【0093】
本発明のベアステントは、38~60mmもの高い直径及び60~90%の編組密度を有するにもかかわらず、上述のように適切な直径の送達構成に圧縮して、従来の外径を有する送達システムに実装されることができる。送達システムにおいて、本発明の上述したステントは、前記システム内に送達構成で実装され、且つ前記ステントの両端は解除可能に拘束され、前記ステントの残りの部分が解放された後にのみ、前記拘束が解除され、前記ステントが完全に解放される。
【0094】
図7を参照すると、本発明による半解放状態のステント送達システム100の概略図が示されている。ステント送達システム100は、送達カテーテル120とステント150とを備える。
【0095】
送達カテーテル120は、縦軸X-Xに沿って外側から内側に順次同軸に配置された、外側カテーテル130、内側カテーテル140及び押し棒170を含む。送達カテーテル120は、遠心端123と近心端122を有する。送達カテーテル120は更に止血弁125を有する。外側カテーテル130は、近心端部180と遠心端部190を有し、第1中空腔133は、外側カテーテル130全体を貫通する。内側カテーテル140は、縦軸X-Xに沿って外側カテーテル130と同軸に、その遠心端部190の第1中空腔133内に配置され且つ第2中空腔143を有する。押し棒170は、近心端123から外側カテーテル130の第1中空腔内に延在し、内側カテーテル140の第2中空腔143を通って遠心端の端口135の外側まで延在する。押し棒170は、ガイドワイヤが通過するための第3中空腔(未図示)を有してもよい。
【0096】
外側カテーテル130の近心端180において、ステント150は、押し棒170と外側カテーテル130との間の第1中空腔133に送達構成で解放可能に維持されている。第1拘束具161は、ステント150の近心端154を押し棒170の近心端に拘束する。当該第1拘束具161は、従来のストッパーであってもよく、必要に応じてステント150から取り外すことができ、それによってステント150の近心端154を解放することができる。第2拘束具162は、ステント150の遠心端156を内側カテーテル140の近心端に拘束する。同様に、当該第2拘束具162は、従来のストッパーであってもよく、必要に応じてステント150から取り外すことができ、それによってステント150の遠心端156を解放させることができる。
【0097】
当該実施形態の送達システム100によれば、外側カテーテル130の近心端131は、送達カテーテル120の近心端の端部122から分離することができ、押し棒170を近心端に押すことによって、又は外側カテーテル130を遠心端に引っ張ることによって、外側カテーテル130、内側カテーテル140、及び押し棒170を互いに対して移動させることができる。
【0098】
図7に示すシステム100は、押し棒170を近心端122に押すことによって、送達カテーテル120の近心端122が、それに固定して接続された押し棒170と、押し棒170の端部に結合されたステント150とを駆動して、外側カテーテル130に対して近心端に移動させる。このようにして、ステント150はその近心端154から解放される。
【0099】
本発明のステント送達システムは、A型大動脈解離の治療に特に有利である。
【0100】
図8を参照すると、A型大動脈解離に対する本発明のステント送達システムの治療上の利点を説明するために、A型大動脈解離病変に本発明のステント送達システム100を使用してステント150を留置する概略図が示されている。図8は、上行大動脈81に裂け目93が存在するため、上行大動脈81から大動脈弓83を通って下行大動脈84に至る偽腔92が形成されることを示している。本発明のステント送達システム100は、ガイドワイヤ101によって大動脈の真腔91内に導かれる。ステント150の解放を開始するために、操作者は押し棒170を近心端方向に押し、ここで、押し力はf1で示され、押し力の方向は下行大動脈に沿って上向きの矢印で示される。押し力f1は、押し棒170に沿って送達カテーテルの近心端122に伝達されるが、このとき、前記送達システム100は、大動脈弓83を通過した後、ほぼ180°の屈曲が生じ、送達カテーテルの近心端122に作用する力f2の方向は、f1における押し力の方向とほぼ反対(矢印で示すように)である。その結果、最初の解放に必要な押し力の量を制御することが困難になる。本発明のステント送達システム100において、図8を参照すると、ステント150の近心端は、ストッパーなどの部材によって押し棒170の近心端に一時的に拘束され、それにより、近心端におけるステント150の外側への拡張力が大幅に減少し、それにより、ステント150と外側カテーテル130の内壁との間の摩擦力が減少する。したがって、本発明の送達システム100は、ステントを最初に解放するのに必要な押し力が大幅に減少し、押し棒170の近心端を外側カテーテル130から比較的容易に押し出すことができる。
【0101】
更に図9を参照すると、本発明のステント送達システムを使用して大動脈の内膜裂け目にステントを留置する概略図が示されている。図9のAには、血管内膜の裂け目93を含む大動脈血管91の部分が例示的に示されており、当該裂け目93によって生じる内膜の引き裂きよって偽腔92が形成される。本発明のステント送達システム100は、裂け目93まで導かれており、外側カテーテル130の位置を変えずに維持しながら、押し棒を矢印で示す方向に押すことによって、ステント151の一部が解放されている。更に図9のBを参照すると、送達システム100の内側カテーテル及び外側カテーテルの位置を変えずに維持しながら、押し棒を図面の矢印の方向に引き戻すことによって、解放されたステントセグメント151が押し戻され、最終的に血管内膜の裂け目93が位置する血管領域に当接して、圧縮セグメント151’を形成する。ステントを設計するとき、通常、ステントの直径は、留置部位の血管の直径よりわずかに大きくなるように設計するため、圧縮セグメント151’は、当該部分の血管内壁にしっかりと当接して、裂け目93を塞ぎ、当該部分の血管の真腔を拡張させる。血管壁の内側への収縮力により、圧縮セグメント151’は、その圧縮された形状で当該部分の血管内に留まる。
【0102】
次に、図9のCに示すように、外側カテーテル130を遠心端に向かって図面の矢印で示される方向に引っ張ることによって(内側カテーテル140及び押し棒170は静止したままである)、残りのステントセグメント152が更に解放される。最後に、ステント150が完全に解放されると、ストッパーによるステントの両端への拘束が解除され、それにより、ステント150全体が治療部位に解放され、送達カテーテルが血管内から引き抜かれる(図9のDを参照)。病変部位に留置されたステント150は2つのセグメントを有し、1つは圧縮セグメント151’であり、もう1つは自然解放セグメント152である。ここで、圧縮セグメント151’は、裂け目93を塞ぐ作用を発揮し、血管に対して比較的強い径方向支持効果を有し、自然解放セグメント152は、血管の他の部分に対して適切な支持効果を有し、血流を妨げず、特に分枝血管への血流を妨げない。
【0103】
本発明によれば、ステントセグメント151が解放された後(即ち、図9のAに示す状態である場合)にステントの位置を確認することができるので、圧縮後の当該セグメントが裂け目93を正確に塞ぐことができる。位置が理想的でない場合は、調整を行うことができ、解放されたセグメント151を再び外側カテーテル内に回収し、送達システムの位置を調整してから、再解放することさえできる。
【0104】
同様に、任意のセグメントが解放された後にもステントの位置を確認することができ、これにより、最適な留置効果を得ることができる。最後に、ステントの両端への拘束を解除する前に、ステントの位置を再確認し、これは、このとき、留置位置が理想的でなければ、ステントを回収して再解放することができるからである。ステントの両端の拘束を解除すると、ステントの位置は調整できなくなる。
【0105】
更に、ステントの他のセグメントの圧縮方式は、図9のBに示すのと同様である。例えば、ステントの前部が解放されて血管壁に当接した後、続いて一部のステントが解放される。後続で解放されるステントの端部が外側カテーテルによって拘束されるため、押し棒を移動せずに外側カテーテルと内側カテーテルを近心端に同時に移動させ、これにより、新たに解放されたが、血管壁にまだ当接していないステントの部分が圧縮されて血管壁に当接して、高い金属被覆率と高い径方向支持力のセグメントの部分を形成する。
【0106】
以上の例により、本発明のステント送達システムの詳細な方案及び当該システムを使用してステントを血管内に留置する方法を説明した。当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、上記の内容に基づいて変形や修正を容易に行うことによって、実際の応用要求を満たすことができ、これらの変形や修正も本発明の範囲内に含まれる。
【0107】
実施例
本実施例は、図1に示す構造を有するベアステントを提供し、当該ステントは、上行大動脈から大動脈弓までの領域に使用される。前記ベアステントは、ニッケルチタン材料でできており、直径100μmの120本の第1ワイヤと直径400μmの8本の第2ワイヤによって編組される。当該ベアステントは織り返し編み方式で合計4層に編組される。織り返し編み方式は、図5のCに示すとおりであり、ここで、近心端は完全に織り返し編みされた滑らかな端部であり、遠心端では、2層のバリがステントの内側に位置し、2層の織り返し編みエッジがステントの外側に位置し、これにより、バリが露出して血管壁を損傷するのを回避する。
【0108】
前記ベアステントの上行大動脈に対応する部分の直径は45mmであり、長さは9cmであり、大動脈弓に対応する部分の直径は32mmであり、長さは6cmである。ベアステントの近心端から30mmの位置に、低密度メッシュ領域を設け、低密度メッシュ領域の長さは6cmであり、弧長は円周の1/3である。
【0109】
走査型電子顕微鏡の検出によると、本実施例におけるステントは、自然状態で、低密度メッシュ領域を除いた金属被覆率は80%であり、軸方向最大圧縮後の金属被覆率は98%である。径方向支持力試験機で試験したところ、本実施例のステントは、自然状態において、上行大動脈のより太い部分に対応する径方向支持力は約400Nであり、低密度メッシュ領域を有する部分の径方向支持力は約100Nであり、軸方向最大圧縮後の径方向支持力はすべて400Nを超え、さらには500Nを超える。
【0110】
また、大動脈弓に固定されたステントの軸方向の曲げ力をシミュレートするために、ステントの径方向矯正力が0.4~1.0Nであると測定した。
【0111】
以上の説明は、本発明のいくつかの特定の実施例に過ぎず、本発明の特許請求の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の発明概念を基に、本発明の明細書及び図面の内容を利用してなされた同等の構造変換、もしくは他の関連する技術分野への直接的/間接的な適用は、すべて本発明の特許保護の範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-02-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に圧縮可能且つ伸張可能なベアステントであって、前記ベアステントは、大動脈に使用され、少なくとも2層の編組メッシュを有し、前記ベアステントは、
少なくとも2つの異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤを重ね織りすることによって形成された非低密度メッシュ領域であって、第1ワイヤは20~150μmの直径を有し、第2ワイヤは150~600μmの直径を有する、非低密度メッシュ領域と、
前記第2ワイヤのみで構成される任意の低密度メッシュ領域であって、前記低密度メッシュ領域は、前記ベアステントが解放された後、分枝動脈を有する治療部位に対応する部位に配置される、任意の低密度メッシュ領域と、を含み、
前記ベアステントは、自然解放状態で、前記低密度メッシュ領域を除いて、少なくとも60%の金属被覆率を有する、ベアステント。
【請求項2】
前記ベアステントは、自然解放状態で、100N以上の径方向の支持力を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項3】
前記ベアステントは、自然解放状態で、100~600Nの径方向の支持力を有し且つ前記低密度メッシュ領域を除いて70~90%の金属被覆率を有する、
請求項2に記載のベアステント。
【請求項4】
前記ベアステントが前記大動脈に留置される場合、その長さ方向に沿って異なる圧縮程度を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項5】
前記低密度メッシュ領域を除いて、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤは、均一分布する方式で織り合わせることによって前記ベアステントを形成する、
請求項2に記載のベアステント。
【請求項6】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、90~100%の金属被覆率を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のベアステント。
【請求項7】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、500N以上の径方向の支持力を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のベアステント。
【請求項8】
前記ベアステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態で、500~1000Nの径方向の支持力を有する、
請求項7に記載のベアステント。
【請求項9】
前記ベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも上行大動脈を含む領域に使用され、前記低密度メッシュ領域は、大動脈弓部位に対応する第1低密度メッシュ領域を含み、前記第1低密度メッシュ領域に対応する中心角は120°~180°である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項10】
前記低密度メッシュ領域は、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を含み、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第2低密度メッシュ領域に対応する中心角は180°である、
請求項9に記載のベアステント。
【請求項11】
前記ベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈にかけて少なくとも腹部大動脈を含む領域に使用され、前記ベアステントは、腹部大動脈の分枝動脈部位に対応する第2低密度メッシュ領域を有し、前記腹部大動脈の分枝動脈は、腹部大動脈上の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈であり、前記第低密度メッシュ領域に対応する中心角は180°である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項12】
前記ベアステントの内部空間には、左右の総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられている、
請求項10又は11に記載のベアステント。
【請求項13】
前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ベアステント内の、腹部大動脈の左右の総腸骨動脈に近い腹部大動脈に対応する分岐部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに正接するように環状に配置され且つ前記ベアステントの内壁と一体に形成される、
請求項12に記載のベアステント。
【請求項14】
前記ベアステントは、可変直径を有し、前記直径は20~60mmの範囲内である、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項15】
前記ベアステントの一部は、38~60mmの範囲の直径を有する、
請求項14に記載のベアステント。
【国際調査報告】