(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】積層リアウィンドウグレージング
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20230726BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20230726BHJP
B60J 1/18 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C21/00 101
B60J1/18 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501138
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 GB2021051774
(87)【国際公開番号】W WO2022008934
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ペーター パウルス
【テーマコード(参考)】
3D127
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
3D127CC03
3D127DD25
4G059AA01
4G059HB00
4G061AA02
4G061AA20
4G061BA02
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
4G061DA38
(57)【要約】
グレージング材料の少なくとも2つのプライとグレージング材料のプライの間に延在するプラスチック中間層材料の少なくとも1つのプライとを備える、車内に設置するための自動車用リアウィンドウグレージングであって、プラスチック中間層材料のプライは、グレージング材料のプライと実質的に同一の広がりを有し、グレージング材料のプライを互いに接着し、プラスチック中間層材料のプライは、実質的に一方向に延在するドローラインを含有し、自動車用リアウィンドウグレージングは、上縁と下縁を有し、自動車用リアウィンドウグレージングは、上縁から下縁まで延在するプラスチック中間層材料内のドローラインに合わせて設置される、自動車用リアウィンドウグレージングを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内に設置するための自動車用リアウィンドウグレージングであって、グレージング材料の少なくとも2つのプライと前記グレージング材料のプライの間に延在するプラスチック中間層材料の少なくとも1つのプライとを備え、前記プラスチック中間層材料のプライは、前記グレージング材料のプライと実質的に同一の広がりを有し、前記グレージング材料のプライを互いに接着し、前記プラスチック中間層材料のプライは、実質的に一方向に延在するドローラインを含有し、前記自動車用リアウィンドウグレージングは、上縁と下縁を有し、前記自動車用リアウィンドウグレージングは、前記上縁から前記下縁まで延在する前記プラスチック中間層材料内の前記ドローラインに合わせて設置される、自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項2】
前記グレージング材料のプライの一方または両方は、ドローラインを含有し、前記グレージング材料のプライ内の前記ドローラインは、前記プラスチック中間層材料のプライ内の前記ドローラインと実質的に平行である、請求項1に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項3】
前記グレージングの設置角度は、65°以上である、請求項1または2に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項4】
前記グレージングの設置角度は、68°以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項5】
前記グレージングの設置角度は、72°以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項6】
前記グレージングの設置角度は、75°以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項7】
前記グレージングの設置角度は、78°以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項8】
前記グレージング材料のうちの少なくとも1つのプライの厚さは、0.4~1.3mmの範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項9】
前記グレージング材料のうちの少なくとも1つのプライの厚さは、0.5~1.1mmの範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項10】
前記グレージング材料のうちの少なくとも1つのプライの厚さは、0.6~0.9mmの範囲である、請求項1から9のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項11】
前記グレージング材料のうちの少なくとも1つのプライは、化学的に強化されたガラスである、請求項1から10のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項12】
前記ドローラインの波長は、50mm以上である、請求項1から11のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項13】
前記ドローラインの波長は、80mm以上である、請求項1から12のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項14】
前記ドローラインの波長は、120mm以上である、請求項1から13のいずれか一項に記載の自動車用リアウィンドウグレージング。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の自動車後部窓用グレージングを備えた、自動車、特に高性能自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層グレージングに関し、特に車両用の積層グレージングに関する。積層グレージングは、プラスチック材料の1つ以上のプライに接合された、通常はガラスである、グレージング材料の1つ以上のプライを備え得る。
【背景技術】
【0002】
本発明の積層グレージングは、設置時に水平に対して低い角度、すなわち垂直に対して高い角度に向けられる窓について特に有用であり、そのような窓は、道路用車両または鉄道車両内に明示され得る。道路用車両の場合、本発明の積層グレージングは、自動車に特に適しており、この場合、積層グレージングは、自動車用リアウィンドウグレージング(業界では「バックライト」として知られている)、ルーフライトまたはサンルーフであり得る。
【0003】
もちろん、窓を通した視界に歪みがないことが望ましい。すなわち、窓を通した視界は、窓の向こうにあるものを何でも正確に表現するべきである。窓を通した視界に関する歪みについて言及するとき、それは透過光学歪みを意味する。透過光学歪みがまったくないグレージングでガラス張りされた窓の理想的な場合では、窓を通して見た物体の画像は、直接見た物体の画像と区別がつかない、すなわち、画像は、本来の物を忠実に複写したものである。実際には、これを完全に達成することは可能ではないが、それでもガラス製造業者は、その結果、観察者には目立たないように、窓に存在する透過光学歪みの度合を最小限に抑えようと努めている。
【0004】
さらに、安全上の理由のために、車両の運転者が車両の窓を通して有する視界に歪みがないことが特に重要であり、車両の運転者が外部環境の正確で歪みのない視界を有する必要があることは自明である。道路用車両の場合、運転者が前方の道路の正確な視界を有する必要があることは明らかであるが、運転者が例えばその位置および軌道を把握し得るように、後方の他の車両の正確な視界を形成することが可能であることも重要である。これらすべての理由から、自動車での使用を目的としたグレージングは、他の特性の中でも歪みに対する厳しい基準に従って製造され、歪みのレベルが関連する基準に準拠することを確認するために慎重に検査される。
【0005】
ガラスの主表面が互いに完全に平行でないとき、ガラスのシート内に透過光学歪みが発生し、そのため、ガラスの局所的な領域は、屈折力が非常に低いにもかかわらず、レンズとして機能する。通常、屈折力は、ガラスのシート全体にわたって連続的に変化するが、値は低くなる。
【0006】
このような透過光学歪みは、さまざまな原因から生じ得る。例えば、ガラスのシートが形成されるプロセスは、ガラスに歪みを与え得る。ガラスのシートを形成するために使用されるプロセスは、通常、フロートガラスプロセスであるが、フュージョンドロープロセスとしても知られるオーバーフローダウンドロープロセスの場合もあり得る。ガラスの成形などのその後の処理によって、異なる性質の歪みがさらに追加され得る。例えば、ローラーで熱いガラスを搬送している間に一瞬停止しただけであっても、ガラスがローラーの形状に適応し始め、ガラスがわずかに波形になるということが十分に起こり得る。
【0007】
積層グレージングは、プラスチック材料の少なくとも1つのプライに積層されたガラスの少なくとも1つのプライを備え得る。このような構造は二重層とも呼ばれる。より一般的には、積層グレージングは、ガラスの少なくとも2つのプライとプラスチック材料の少なくとも1つのプライとを備え、プラスチック材料のプライは、ガラスのプライの間に延在し、それらと実質的に同一の広がりを有し、ガラスのプライを共に接合する。プラスチック材料のプライは、ガラスのプライの間に「挟まれている」と言うことができ、この理由からしばしば中間層と表現される。
【0008】
ガラスの2つのプライとプラスチック中間層材料のプライとを備える積層グレージングを製造するために、プラスチック中間層材料のプライを、それらと同一の広がりを有するように、ガラスのプライの間に配置し、ニップローラーの間を通過させることによってまたは真空バッグを使用することによって、アセンブリから空気を除去する。このプロセスは、脱気として知られる。次いで、アセンブリをオートクレーブ内に配置し、高温および高圧に供し、中間層材料をガラスに結合させ、それによって、ガラスのプライを共に結合し、積層を形成する。
【0009】
ガラスの2つのプライを備える積層ガラスの場合、透過光学歪みは、通常、ガラスプライの両方および中間層に存在し、より複雑な光学的状況を引き起こす。
【0010】
フロートプロセスとオーバーフローダウンドローまたはフュージョンドロープロセスとの両方で、ガラスは、わずかな張力下で成形段階を通過してドローされるため、ドローの方向に平行に向いた細長い山および谷を備えるわずかな凹凸またはうねりが生じる。これらの細長い谷および山は、ガラス内に、ドローラインとして知られる、またはフロートプロセスの場合はフロートラインとして知られる、交互の相対明暗の離隔した平行線またはフリンジの形態で歪みを生じさせる。
【0011】
同様に、プラスチック中間層材料のシートが製造されるとき、製造プロセスの結果として、中間層材料の厚さに波状の凹凸が形成される場合があり得る。この凹凸はまた、交互の山と谷を備え、中間層材料で作られた積層ガラスに交互の相対明暗の離隔した平行線の形態で歪みを生じさせ得、これもまたドローラインとして知られる。例えば、ドローラインを引き起こす凹凸は、押出ノズルまたはダイを通してシートを押し出すこと、または中間層材料の応力、例えば、材料の伸張または冷却から、生じ得る。これらのドローラインを生じさせる細長い谷および山は、ドロー方向に平行な伸長方向に再び整列される。
【0012】
道路用車両の運転者にとっての前方の道路の歪みのない視界の重要性を考えると、背景技術がフロントガラスの歪みを軽減することに特に注意を払っていることは驚くべきことではない。例えば、米国特許第3700542号明細書は、1枚のガラスシートの歪み線が第2のガラスシートの歪み線に対してある角度をなすように、2枚のガラスシートから安全なフロントガラスを作る方法を開示する。
【0013】
対照的に、米国特許第4093438号明細書は、ガラスのドローラインが垂直に整列された積層フロントガラスの製造方法を教示している。この向きは、フロントガラスが車両の所定の位置にあるときに観察可能なドローラインの歪みを減らすと言われている。
【0014】
米国特許出願公開第2020/156352号明細書(国際公開第2018/215082号から派生)は、少なくとも1つのガラス板および熱可塑性フィルムをも備え、各々が複数の細長い隆起要素と細長い窪み要素とを有する、積層グレージングを開示している。積層グレージングでは、ガラス板の細長い要素は、熱可塑性フィルムの細長い要素から90°以外の角度で配置される。この発明は、フロントガラスに対して特に有用であると言われ、実際、フロントガラスは、明細書に記載され、
図5に示されている。
【0015】
しかしながら、前述のように、車両の運転者が車両の後方に対して明瞭かつ歪みのない視界を有することも重要である。ほとんどの場合、運転者はバックミラーによってリアウィンドウを通して車両の後方の視界を得るが、後方の視界の方向は、ほぼ水平である。
【0016】
自動車用リアウィンドウグレージングは、しばしば、強化された単一のガラスシートから作られるが、安全性およびセキュリティが向上し、同様に遮音性が向上するため、積層ガラスは、より高度な仕様の自動車に使用されることが増えている。また、近年、垂直に対してますます大きな角度で設置され、その結果、ウィンドウ自体の一般的な向きは水平に近づく、リアウィンドウグレージング(業界では「バックライト」として知られている)を有する、特定の車両、特にスポーツカーおよび高性能車を設計する傾向がある。
【0017】
残念なことに、積層ガラスから作られ、そのような高い設置角度で設置されたリアウィンドウグレージングは、望ましくない高レベルの透過光学歪みを示し得る。これは特に、運転者がバックミラーによって窓越しに見るときに当てはまる。後方の視界の方向は、リアウィンドウに対して小さな角度になっており、両方とも水平に近いためである。言い換えると、リアウィンドウを通した視界の角度は、極めて斜めであり、これは、窓の表面で発生する屈折の度合を増加させ、したがって、窓内に存在する任意の歪みの影響を増加させる。さらに、このような斜めの角度では、車両の後ろから運転者の目に到達する光は、もちろんその経路が最小であるとき、視界の角度がグレージングに対して垂直であるときよりも後部グレージングを通ってはるかに長い経路に沿って移動する。これによって、発生する歪みの量もまた増加し得る。
【0018】
中間層の厚さの変化、より具体的にはドローラインが、この状況での透過光学歪みに実質的に寄与することが現在認識されている。この認識は、上記のように、垂直に対して大きな角度で自動車に設置される自動車用リアウィンドウグレージングに特に適用可能である。以前までは、積層ガラスにおける光学歪みの主な原因としてガラスに注目が集まっており、中間層内の凹凸は、オートクレーブ処理中に温度および圧力の下で流動するにつれて消失すると考えられていた。
【発明の概要】
【0019】
本発明によれば、車内に設置するための自動車用リアウィンドウグレージングであって、グレージング材料の少なくとも2つのプライとグレージング材料のプライの間に延在するプラスチック中間層材料の少なくとも1つのプライとを備え、プラスチック中間層材料のプライは、グレージング材料のプライと実質的に同一の広がりを有し、グレージング材料のプライを互いに接着し、プラスチック中間層材料のプライは、実質的に一方向に延在するドローラインを含有し、自動車後部窓用グレージングは、上縁と下縁を有し、自動車用リアウィンドウグレージングは、上縁から下縁まで延在するプラスチック中間層材料内のドローラインに合わせて設置される、自動車用リアウィンドウグレージングが提供される。
【0020】
グレージング材料は、ガラスであることが好ましい。しかしながら、さまざまなプラスチック材料もまた、グレージング材料として使用されており、使用される製造プロセスによっては、それら自体もドローラインを引き起こし得る。
【0021】
プラスチック中間層材料内のドローラインが、グレージングが設置されるときに左右に、つまり概して水平方向に延在する、フロントガラス、サイドグレージング、リアウィンドウグレージングなどの積層グレージングを製造するのが慣行である。これにはいくつかの理由があるが、これらを簡単にまとめる。
【0022】
第一に、中間層材料が製造されるプロセスの性質のために、中間層材料の製造業者にとって、約1メートルの幅を有する中間層材料のロールを供給する方がより経済的である。自動車用グレージングの製造に適したサイズおよび形状のプラスチック中間層材料の小片は、小片が、中間層材料の連続ストリップの長さに沿って材料がロールから巻き出される方向、すなわち長手方向に平行に延在するそれらの長軸で切断される場合、および中間層材料のドローラインに平行に切断される場合、幅1メートルの中間層材料のロールから切り取られ得る。しかしながら、これの結果として、得られるグレージングは、概して水平方向または左右方向に延在するドローラインで設置されることになる。プラスチック中間層材料は、比較的高価であり、より広幅のロールを指定することによって、このコストが増加する。
【0023】
第二に、利用率を向上させ、コストを削減するために、切断前にプラスチック中間層材料を引き伸ばすことが標準的な手法である。これは、ほとんどのフロントガラスおよびリアウィンドウの形状が概して台形であるのに対し、引き伸ばされていない中間層の材料は長方形の形状に切断されるという事実に基づく。実際的な観点から、中間層材料を横方向ではなく長手方向にのみ引き伸ばすことが可能であるため、この手法においても、材料がロールから巻き出されて引き伸ばされる方向(すなわち、中間層材料の連続ストリップの長さに沿って)に平行に延在する長軸で、中間層材料のドローラインに平行に、中間層材料の小片を切断することが好まれる。
【0024】
染色されるのは中間層材料のロールの一方の縁であるため、中間層材料の小片を長手方向に切断する場合にのみ、フロントガラスの上部にシェードバンド(中間層材料の染色部分)を設けることが可能である。しかしながら、現在、シェードバンドの需要は、減少している。
【0025】
第三に、車両の乗員は、頭を左右に向けた結果として、さまざまな角度で窓を通して見る。これは、「車内を横切り」見る、と呼ばれ、概して垂直方向の光学歪みをより目立たせる傾向がある。ドローラインが左右に延在するように配置することによって、この影響が軽減され、すなわち、歪みがより目立たなくなる。
【0026】
第四に、自動車を含む車両でのヘッドアップディスプレイ(「HUD」)の使用が増加しており、HUDは、くさび状の断面を有するフロントガラスを必要とし、すなわち、フロントガラスの厚さは下から上に向かって細くなっている。通常、このようなくさび状の断面は、くさび状のプラスチック中間層材料を使用することによって実現される。製造上の理由から、中間層材料のロールにおけるくさびまたはテーパーは横方向に延在し、中間層片を切断し得る方向を制限する。
【0027】
これらすべての理由から、左右に、すなわち概して水平に、延在するドローラインを有する自動車用グレージングを製造することが慣行として受け入れられてきた。しかしながら、この慣行が自動車用リアウィンドウグレージングの透過光学歪みに実質的に寄与することが認識されたため、この慣行を再検討し変更する動機がもたらされる。さらに、上記の第三と第四の理由は、リアウィンドウグレージングには当てはまらない。車両の乗員は、原則として、リアウィンドウグレージングを通して車内を横切って見ることはなく、HUDSは、リアウィンドウグレージングには使用されないためである。第三の理由、すなわち車内を横切る視界において見られる歪みに関しては、いずれの場合でも、中間層材料が、上から下に向くドローラインと共に使用されるとき、これは予想されるほど悪化しないことが実際に判明した。
【0028】
それにもかかわらず、本発明が提供する透過光学歪みに関する利点を得るためには、中間層の小片を長手方向ではなく横方向に切断するとき、これはあまり経済的に使用できないため、プラスチック中間層材料にかかるコストが増加することが予想される。大きなリアウィンドウグレージングが高い設置角度で設置される高価な高級車の場合、透過光学歪みにおける改善は、追加コストを正当化するのに十分である。
【0029】
通常、特にグレージング材料がガラスの場合、グレージング材料のプライの片方または両方にドローラインが含有される。好ましくは、グレージング材料のプライに表示されるドローラインは、プラスチック中間層材料のプライのドローラインと実質的に平行である、すなわち、すべてのドローラインは、上縁から下縁まで延在する。
【0030】
グレージング材料内のドローラインをプラスチック中間層材料内のドローラインと同じ向きに配することによって、透過光学歪みは、さらに減少する。
【0031】
本発明は、65°以上、好ましくは68°以上、より好ましくは72°以上、さらにより好ましくは75°以上、さらにより好ましくは78°以上の設置角度で設置される自動車用リアウィンドウグレージングに特に適用可能である。
【0032】
上で説明したように、設置角度がより大きいほど、実際には自動車用リアウィンドウグレージングは、より水平に近づく。グレージングを通る視界の方向は概してほぼ水平であるため、グレージング内に表示される透過光学歪みの度合は、設置角度が80°以上に増加するにつれて急激に増加する。
【0033】
本発明はまた、少なくとも1つの薄いガラスのプライを有する自動車用リアウィンドウグレージングに特に適用可能である。好ましくは、ガラスまたは他のグレージング材料のプライのうちの少なくとも1つの厚さは、0.4~1.3mmの範囲、より好ましくは0.5~1.1mmの範囲、さらにより好ましくは0.6~0.9mmの範囲である。透過光学歪みは、ガラスがより薄いほどより明瞭になることが分かった。
【0034】
グレージング材料のプライがガラスである場合、ガラスのプライのうちの少なくとも1つを強化することによって、積層自動車用リアウィンドウグレージングの安全性能を高め得る。車両の設計によっては、一部の自動車用リアウィンドウグレージングは、非常に大きくなり得る。例えば、表面積が1平方メートルを超え、少なくとも1つの寸法が1.5mに近いか、1.5mを超えることさえある。これは特に、リアウィンドウグレージングが高い設置角度で設置されているときに当てはまる。車両の燃料効率および性能(例えば、加速、制動、コーナリング、一般的なハンドリングなど)の理由から、可能な限り車両の重量を減らすことが望ましい。比較的大きなリアウィンドウグレージングは、かなりの重量を有し得るが、これは、グレージングの構造において1つ以上のより薄いガラスプライを使用することによって減らされ得る。ガラスの非常に薄いプライ、例えば厚さが1.5mm未満のものは、強化しない限りかなり壊れやすく、このような薄いガラスに特に適した強化プロセスは、化学強化プロセスである。好ましくは、プライのうちの少なくとも1つは、化学的に強化されたガラスである。すなわち、このガラスは、ガラス表面においてより大きなイオンがより小さなイオンに置き換わるイオン交換プロセスに供され、それによって、表面に圧縮応力を発生させ、クラックの伝播に対するその抵抗を増加させる。
【0035】
組み立て中の脱気を助けるために、中間層材料の片面または両面にテクスチャを適用することは、プラスチック中間層材料の製造業者の間で一般的な慣行であることに留意されたい。このテクスチャは、細長い谷および山をも備える場合があり得るが、しかしながら、これらは、ドローラインを特徴付ける谷および山よりも小さいスケールである。脱気目的で提供される谷および山の波長は、通常、1または2ミリメートルのオーダーであるが、ドローラインを構成する細長い谷および山の波長は、数十ミリメートルのオーダーという、かなり大きい場合があり得、通常は50mm以上であり得る。好ましくは、本発明による自動車用リアウィンドウグレージングに表示されるドローラインの波長は、50mm以上、より好ましくは80mm以上、さらにより好ましくは120mm以上である。
【0036】
別の態様によれば、本発明はまた、本発明による自動車用リアウィンドウグレージングを備えた自動車にも関する。車は特に、スポーツカーやクーペなどの高性能車である場合があり得る。
【0037】
本明細書において、自動車用リアウィンドウグレージングの上縁もしくは下縁、またはグレージングの上縁もしくは下縁への言及は、車に設置されたときのグレージングの向きへの言及として理解されたい。設置された向きでは、グレージングの上縁および下縁は、自動車の一方の側から他方の側まで概して横方向に延在する。上縁および下縁の部分は、かなりの部分であっても、通常は水平に延在する。
【0038】
リアウィンドウグレージングはまた、グレージングの上縁と下縁とを接続する少なくとも2つの側縁を有する。側縁の向きは、グレージングの設置角度に依存するが、常に垂直成分を含む方向に延在する。
【0039】
設置された状態におけるグレージングの向きに対して、グレージングの左右に延在するドローラインは、ほぼ水平に延在すると言うことができ、対照的に、グレージングの上縁から下縁まで延在するドローラインは、大まかに垂直にまたは垂直方向に延在すると言うことができるが、より正確には、垂直成分を有するが完全に垂直ではない方向である。
【0040】
本発明は、添付の図面を参照して示される下記の非限定的な特定の実施形態によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】自動車用リアウィンドウグレージングの概略平面図である。
【
図2】自動車用リアウィンドウグレージングの一部を著しく拡大して示す、
図1の線A-Aに沿った断面図である。
【
図3】グレージングが断面で示されている、自動車用リアウィンドウグレージングの設置角度を示す図である。
【
図4】プラスチック中間層材料のシートの斜視図と断面図とを組み合わせた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1を参照すると、自動車用リアウィンドウグレージング10の概略平面図が示される。グレージングは、上縁11、下縁12、ならびに側縁13および14を有する。表示されているグレージングの形状は、純粋に概略であり、リアウィンドウグレージングは、表示されている以外のさまざまな形状を有し得る。しかしながら、概して、リアウィンドウグレージングの形状は、台形、長方形、または正方形に非常に大まかに基づいているが、縁および角は湾曲している。
【0043】
図2は、
図1の線A-Aに沿った断面図であり、自動車用リアウィンドウグレージングの上部を著しく拡大して示している。上記のように、グレージングは、積層グレージングであり、ガラスの第1のプライ20および第2のプライ21を備え、プラスチック中間層材料のプライ22(下記では簡潔にするために「中間層」と呼ぶ)がガラスのプライの間に延在し、それらを共に結合する。
【0044】
自動車用グレージングは、通常、凸面が外部に面し、凹面が車両の内部に面するように湾曲する。自動車産業では、外面から順に、プライの表面に1、2、3、4と番号を付けるのが慣例である。したがって、第1のプライ20は、表面1および2を有する、外部プライであり、第2のプライ21は、表面3および4を有する、内部プライである。本明細書では、「内部」は、積層の内部ではなく、車両の内側を示すために使用される。
【0045】
積層グレージングは、まずプライを組み立て、次にアセンブリを脱気し、最後にアセンブリをオートクレーブ内で加熱してプライを共に結合して積層を形成するという、3つのステップにおいて製造される。したがって、まず、プラスチック中間層材料のプライをガラスのプライの間に配置して、それらと位置が合うように、すなわちそれらと同一の広がりを有するようにし、次に、ニップローラーの間を通過させることによってまたは真空バッグを使用することによって、アセンブリから空気を除去する。次に、脱気したアセンブリをオートクレーブ内に配置し、高温および高圧に供し、中間層材料をガラスに結合させ、それによって、ガラスのプライを共に結合し、積層を形成する。
【0046】
オートクレーブ内で到達する最高温度は、125℃~150℃、好ましくは140℃であり得、最高圧力は、8~15バール(0.8~1.5MPa)、好ましくは12バール(1.2MPa)であり得る。これらの状態は、15~45分間、好ましくは、約30分間維持され得る。加熱および加圧を含むオートクレーブの全サイクルには、約90分かかり得る。
【0047】
グレージングがオートクレーブ内にある間に、中間層材料は、軟化および流動し、これは以前には、中間層材料の厚さにおける凹凸がオートクレーブ処理中に解消され、結果としてドローラインが消えると考えられていた。しかし、そうではないことがわかっており、現在では、オートクレーブサイクル中に利用可能な時間中に厚さの違いを均質化するには、ドローラインの波長が大きすぎると考えられる。さらに、ドローラインの振幅を小さくする目的でオートクレーブサイクルの長さを延長すると、コストがかかるだけでなく、中間層材料が流動するにつれて、ガラスの凹凸による歪みが強調されるとも考えられる。
【0048】
図2もまた、実質的に概略的であることに留意されたい。特に、プライは、ほぼ等しい厚さであるとして示されているが、通常、ガラスの少なくとも一方のプライ、場合によっては両方のプライは、中間層よりも厚い場合があり得る。ガラスのプライの厚さは、1.6~2.9mmである。あるいは、ガラスのプライの1つは、1.5mm未満の厚さ、好ましくは、0.4~1.3mmの範囲の厚さであり得る。プライの1つが化学強化ガラスで構成されるとき、その厚さは通常、0.4~1.3mm、好ましくは、0.5~1.1mmの範囲である。存在する場合、化学的に強化されたプライは、内側のプライである可能性がある。
【0049】
図3は、グレージングを断面で示す、自動車用リアウィンドウグレージングの設置角度を示す図である。接線30を、設置された状態におけるグレージング10に対して描き、垂線31に対する角度を測定し、これが設置角度32である。
【0050】
図4は、プラスチック中間層材料22のシートの斜視図と断面図とを組み合わせた概略図であり、一方向に延在する細長い山40および谷41を示し、すなわちそれらはすべて単一の方向に延在する。したがって、山と谷とは、互いに平行であり、結果として中間層と共に作製された積層ガラスにおけるドローラインも同様である。
【0051】
図4は、純粋な図式であり、山および谷の振幅が大幅に誇張され、波長が大幅に圧縮されていることに留意されたい。山および谷の波長は、
図4の断面部分に示され、参照番号42で示される。
【0052】
再び
図1を参照すると、グレージング10がシャドウグラフなどの適切な照明条件で見られるとき、かすかな平行線15のパターンの形態における透過光学歪みは、上縁11から下縁12まで延在するのが見られ得る(明らかなとおり、またはその逆も同じである)。前述のように、線15は、中間層内の細長い山と谷による、積層グレージングの局所的な屈折力から生じる相対的な明暗の交互の線を備える。これらの交互の線は、前述のドローラインである。線画ではドローラインを忠実に表現することはできないため、より良い代替手段がない場合は破線が使用されている。
【0053】
透過光学歪みの大きさと広がりは、ISRA Vision AG (インドゥストリーシュトラーセ14、D-64297、ダルムシュタット、ドイツ)から入手可能な機器を使用して、正確かつ定量的に測定され得る。
【0054】
そのような装置は、実験室でリアウィンドウグレージングの光学的品質を評価し、存在する歪みの度合を検出するために使用され得る。しかしながら、本発明の結果として、この歪みは、本発明によるリアウィンドウグレージングが取り付けられた車両の乗員にはほとんど見えることができない。
【国際調査報告】