(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230726BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230726BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230726BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230726BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230726BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
G01N33/53 N
C07K16/10
C12Q1/02
A61P31/14
A61K39/395 S
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501599
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 NL2021050435
(87)【国際公開番号】W WO2022010353
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523009159
【氏名又は名称】ライデン ラボラトリーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ゴーズミット,ヤープ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ギル,マリト ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】サンデルス,ロギール ウィレム
【テーマコード(参考)】
4B063
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR48
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4B063QS33
4B063QS35
4B063QX01
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB33
4C085BB36
4C085BB37
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA31
(57)【要約】
本開示は、コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法を提供する。そのような抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する。本明細書に記載されている方法により同定される抗体は、特に高病原性コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS-CoV及び/又はSARS-CoV-2による、コロナウイルス感染症の他に、典型的に非ヒトコロナウイルスの種間伝染を処置又は予防する為に特に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法であって、
a)1以上のヒト対象からの血漿試料、好ましくは少なくとも45歳以上の1以上のヒト対象からの血漿試料、を用意すること、ここで、上記試料が独立して時点(X)で収集される;
b)少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、ヒトコロナウイルス(HCoV)に結合する免疫グロブリンを有する血漿試料を有する対象を同定すること、ここで、該HCoVが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される;
c)上記同定された対象からのPBMC試料を用意すること、ここで、該PBMC試料が、時点(X)又はそれ以後に収集され、並びにメモリーB細胞、形質細胞、及び形質芽球から選択されるB細胞を含む;
d)c)の該B細胞によりコードされる抗体又はその抗原結合性断片を、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすること;
e)HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合するところの抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくはここで、上記選択される抗体又はその抗原結合性断片はまた、動物コロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する;
f)HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害するところの、e)からの抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;
g)SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる為の、f)からの該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定すること;並びに、
h)SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
複数の対象からの更なる血漿試料を用意することを更に含み、ここで、上記試料は時点(Y)で収集され、時点(Y)は時点(X)よりも少なくとも3ヶ月前又は後である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象からの血漿試料が選択され、該血漿試料は、より前又はより後の時点で収集された対象からの血漿試料と比較して少なくとも2つのHCoVに結合する免疫グロブリンにおける増加を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該血漿試料は、独立して、少なくとも2つのHCoVに結合する、IgG、IgM、及び/又はIgA免疫グロブリンを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該免疫グロブリンは、HCoVスパイクタンパク質のS2ドメインに結合する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程d)が、抗体又はその抗原結合性断片を、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのSタンパク質の融合ペプチド、該Sタンパク質のHR1ヘプタッドリピート、又は該Sタンパク質のHR2ヘプタッドリピートの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程e)が、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択することを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程e)が、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV2のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程g)が、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程h)が、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのS2ドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合するところの抗原結合性断片を選択すること;好ましくはここで、上記選択される抗体又はその抗原結合性断片はまた、動物コロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する;
該選択された抗原結合性断片を含むIgM、IgA、又はIgG抗体を調製すること、
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該IgM、IgA、又はIgG抗体の能力を決定すること;並びに、
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させるIgM、IgA、又はIgG抗体を選択すること
を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1稿に記載の方法によって同定される抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項13】
前記抗体が、IgG、IgM、又はIgA抗体である、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
コロナウイルスによる感染症を処置又は予防する方法であって、それを必要とする対象に局所的に、好ましくは鼻腔内に、請求項12又は13に記載の抗体を投与することを含む、前記方法。
【請求項15】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-1、MERS-CoV又はSARS-CoV-2である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法を提供する。そのような抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する。本明細書に記載されている方法により同定される抗体は、特に高病原性コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS-CoV及び/又はSARS-CoV-2による、コロナウイルス感染症の他に、典型的に非ヒトコロナウイルスの種間伝染を処置又は予防する為に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、哺乳動物及び鳥に感染できるエンベロープ型RNAウイルスである。アルファコロナウイルス及びベータコロナウイルスは哺乳動物に感染し(例えば、ウシコロナウイルス(BCoV:bovine coronavirus);イヌコロナウイルス(CCoV:canine coronavirus)、ネココロナウイルス(FCoV:feline coronavirus)、及びヒトコロナウイルス(HCoV:human coronavirus)、ガンマコロナウイルス及びデルタコロナウイルスは一般に鳥に感染する。殆どのコロナウイルスは1つの宿主種にのみ感染する。しかしながら、種間伝染が起こることもあり、ヒトにおける疾患出現の有意な原因である(すなわち、人獣共通感染症)。
【0003】
コロナウイルスは、スパイクタンパク質、膜タンパク質、エンベロープタンパク質及びヌクレオカプシドタンパク質を包含する幾つものウイルスタンパク質をコードする。該スパイクタンパク質(Sタンパク質)は、大きいI型膜貫通のクラスI融合タンパク質である。該Sタンパク質のエクトドメインはS1ドメイン及びS2ドメインを含有する。該N末端S1ドメインは受容体結合ドメイン(RBD:receptor binding domains)を含み、受容体結合を担う。該S1ドメイン、特に該S1 RBDは、特有のコロナウイルスに対して開発された幾つもの抗体及びワクチンの標的部位とされている。該C末端S2エクトドメインは融合を担い、UHドメイン(上流ヘリックス)、融合ペプチド、2つのヘプタッドリピート(hepted repeat)(HR1及びHR2)、中心ヘリックス、並びにベータヘアピンを含む。これらの領域及びそのような領域の例示的な配列は当技術分野において既知であり、コロナウイルスの配列アライメントは以前に報告されている(例えば、Walls et al.Nature 2016 531:114-117、特にExtended Data Figure 9を参照)。
【0004】
コロナウイルスの7つの株は、ヒトに感染することが知られている。ヒトコロナウイルスの4つによる感染症、すなわち、HCoV-229E、OC43、NL63、及びHKU1感染症、は、典型的に軽症~重症の上及び下気道疾患をもたらす。これらのウイルスは感冒の約15%を占める。ヒトコロナウイルスの3つ、すなわち、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV:Middle East respiratory syndrome-related coronavirus)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:Severe acute respiratory syndrome coronavirus)、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、による感染症は、重度の症状の他に死に繋がる可能性がある。ヒトはヒトコブラクダからMERS-CoVを;コウモリからSARS-CoVを獲得した可能性が高く;コウモリはまたSARS-CoV-2のリザーバー宿主であった可能性がある。
【0005】
ウイルス受容体エンゲージメント及びウイルス融合は、宿主細胞へのウイルス進入の為に必須である。コロナウイルスのスパイクタンパク質は、異なる標的に結合して感染力を媒介する。SARS-CoV-2、SARS-CoV-1及びNL63はACE2に結合し、OC43及びHKU1は9-O-アセチル化されたシアル酸に結合し、MERS-CoVはDPP4及びシアル酸に結合し、229EはAPNに結合する。これらのウイルスの間の更なる区別的な要因は、ヒトフューリン切断部位の、ウイルススパイクタンパク質Sにおける存在又は非存在である。ヒトフューリン切断部位は、SARS-CoV-2、OC43、HKU1、及びMERS-CoVのSタンパク質中に存在するが、NL43、229E及びSARS-CoVのSタンパク質には存在しない。
【0006】
SARS-CoV-2はCOVID-19ウイルス(すなわち、コロナウイルス疾患2019を引き起こす新規のコロナウイルス)とも称される。Covid-19パンデミックは莫大な健康上の危機をもたらしており、この感染症を予防、寛解又は治癒する為に新規の解決策が緊急に必要とされている。本開示の1つの目的は、SARS-CoV-2、並びに他の病原性コロナウイルスに対する免疫を増加させる為の方法及び組成物を提供することである。
【0007】
入院をもたらす重症COVID-19の主要なリスク群は70~80歳においてピークとなっており、COVID-19死亡率はオランダのような国において80~90歳においてピークとなっている。この群では、その大部分が非伝染性である併存症の数が増えている。COVID-19はそのため、肺炎球菌性肺炎、重症インフルエンザ、帯状疱疹及び百日咳のように、加齢での新興疾患である(Santesmasses D et al.COVID-19 is an emergent disease of the aging,MedRxiv 2020)。当該群は、免疫の減衰及びこの年齢群を対象としたワクチンに対する不良な応答性という問題がある。これは依然として、高齢者におけるワクチン有効性についての主要な障害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
理論により縛られることを望まないが、本開示は、「一般的な(common)」HCoV(例えば、HCoV-229E、OC43、NL63、及びHKU1)による感染、特に同時的な又は逐次的な感染、は、異種ウイルス株、例えば病原性HCoV、に対する交差反応性B細胞を誘導することを提唱する。本明細書に開示されている方法は、イン・ビボ(in vivo)汎コロナ交差保護を提供する抗体を同定する為にイン・ビボモデルと共にこれらの交差反応性B細胞を活用する。そのような方法は、例えば、イン・ビトロ(in vitro)中和活性研究に基づいて、又は回復期COVID-19患者から、抗体候補を選択する従来の研究とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載されている方法から同定される抗体は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を包含する、重症の及び潜在的に生命を脅かす感染症を発症するリスクがある対象を保護する為に特に有用である。そのような抗体はまた、コロナウイルスの種間伝染からの保護のファーストラインとして有用でありうる。
【0010】
本開示は以下の好ましい実施態様を提供する。しかしながら、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0011】
1つの観点において、コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法であって、
a)1以上のヒト対象からの血漿試料、好ましくは少なくとも45歳以上の1以上のヒト対象からの血漿試料、を用意すること、ここで、上記試料が独立して時点(X)で収集される;
b)任意的に及び好ましくは、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、ヒトコロナウイルス(HCoV)に結合する免疫グロブリンを有する血漿試料を有する対象を同定すること、ここで、該HCoVが、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される;
c)上記同定された対象からのPBMC試料を用意すること、ここで、該PBMC試料が、時点(X)又はそれ以後に収集され、並びにメモリーB細胞、形質細胞、及び形質芽球から選択されるB細胞を含む;
d)c)の該B細胞によりコードされる抗体又はその抗原結合性断片を、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのS(スパイク)タンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすること;好ましくは、抗体又はその抗原結合性断片を、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのSタンパク質の融合ペプチド、該Sタンパク質のHR1ヘプタッドリピート、又は該Sタンパク質のHR2ヘプタッドリピートの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすること;
e)HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくはここで、上記選択される抗体又はその抗原結合性断片はまた、動物コロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する;好ましくは、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV2のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;
f)HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害するところの、e)からの抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;
g)SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる為の、f)からの該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定すること;並びに、
h)SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択すること
を含む、上記方法が提供される。
【0012】
1つの観点において、コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法であって、
1以上のヒト対象からのPBMC試料を用意すること、ここで、該PBMC試料が、メモリーB細胞、形質細胞、又は形質芽球から選択されるB細胞を含む;
少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのS(スパイク)タンパク質の少なくとも部分に結合するB細胞を同定すること;好ましくは、抗体又はその抗原結合性断片を、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの、異なるコロナウイルスからのSタンパク質の融合ペプチド、該Sタンパク質のHR1ヘプタッドリピート、又は該Sタンパク質のHR2ヘプタッドリピートの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすること;
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス、好ましくはHCoV-NL63、のSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2、のSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合するところの抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくはここで、上記選択される抗体又はその抗原結合性断片はまた、動物コロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する;好ましくは、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV2のSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのウイルス融合、感染、及び/又は複製を阻害するところの、上記からの抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定すること;並びに
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択すること;好ましくは、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2からのHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる抗体又はその抗原結合性断片を選択すること
を含む、上記方法が提供される。
【0013】
好ましくは、該方法は、複数の対象からの更なる血漿試料を用意することを含み、ここで、上記試料は時点(Y)で収集され、時点(Y)は時点(X)よりも少なくとも3ヶ月前又は後である。
【0014】
好ましくは、対象からの血漿試料が選択され、該血漿試料は、より前又はより後の時点で収集された対象からの血漿試料と比較して少なくとも2つのHCoVに結合する免疫グロブリンにおける増加を有する。
【0015】
好ましくは、該血漿試料は、独立して、少なくとも2つのHCoVに結合する、IgG、IgM、及び/又はIgA免疫グロブリンを有する。好ましくは、該免疫グロブリンは、HCoVスパイクタンパク質のS2ドメインに結合する。
【0016】
好ましくは、該方法は、
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのS2ドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2ドメインの少なくとも部分に結合するところの抗原結合性断片を選択すること;好ましくはここで、上記選択される抗体又はその抗原結合性断片はまた、動物コロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合する;
該選択された抗原結合性断片を含むIgM、IgA、又はIgG抗体を調製すること、
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該IgM、IgA、又はIgG抗体の能力を決定すること;並びに
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させるIgM、IgA、又はIgG抗体を選択すること
を含む。
【0017】
1つの観点において、本明細書に開示されている方法により同定されるか又は得られ得る抗体又はその抗原結合性断片が提供される。好ましくは、該抗体は、IgG、IgM、又はIgA抗体である。
【0018】
1つの態様において、コロナウイルスによる感染症、特に、SARS-CoV-1、MERS-CoV又はSARS-CoV-2による感染症、を処置又は予防する方法であって、それを必要とする対象に局所的に、好ましくは鼻腔内に、本明細書に開示されている抗体又はその抗原結合性断片を投与することを含む、該方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、NL63-S特異的メモリーB細胞についてのFACSにおける選別戦略の例である。
【
図2】
図2は、293T上清のELISAの結果。NL63 S、SARS-COV-2 S、及びSARS-COV-2 S2三量体への結合についての選別F NL63 SメモリーB細胞由来抗体(小スケールHEK293T培養において発現される)のELISAの結果。
【
図3A】
図3Aは、NL63 SメモリーB細胞由来の精製されたモノクローナル抗体(大スケールHEK293F培養において発現される)のFACS及びELISAの結果。
図3A)。
【
図3B】
図3Bは、一般的なhCoV NL63、hCoV OC43 S及び229E(選別B/Eのみ)並びに病原性hCoV SARS-CoV-2のSタンパク質への結合についての選別B/E及び選別F NL63由来についてのFACSの結果。
図3B)病原性hCoV SARS-CoV-2 S2三量体への結合についてのELISAの結果。
【発明を実施するための形態】
【0020】
SARS-CoV-2パンデミックへの応答として、感染症を予防する為にSARS-CoV-2特異的ワクチンを開発する為の様々な努力が為されてきた。典型的なワクチン開発は、疾患を引き起こすウイルスを使用すること、及び「弱毒生ワクチン」としての使用の為に該ウイルスを弱毒化すること又は該ウイルスを不活性化することに依拠する。サブユニットワクチンがまた、該ウイルスの断片、例えば表面タンパク質、に基づいて開発されうる。ワクチン開発、特には新たなウイルスに関するワクチン開発、は、長い及び困難な過程である。ワクチンはまた、リスク群、例えば高齢者、においてより低い有効性でありうる。
【0021】
COVID-19患者からのSARS-CoV-2に向けられている抗体を同定する為の努力がまたなされている。例えば、COVID-19患者からの中和抗体の同定を記載するKreer C et al.(Longitudinal isolation of potent near-germline SARS-CoV-2 neutralizing antibodies from COVID-19 patients.MedRxiv 2020)を参照。
【0022】
対照的に、本明細書に記載されているアプローチにより提供される解決策は、COVID-19患者からのSARS-CoV-2中和抗体に依拠しない。理論により縛られることを望まないが、COVID-19患者から単離されるそのような抗体は、特定の患者に感染したSARS-CoV-2株を特異的に標的化しうるが、そのような抗体は、進化しているSARS-CoV-2株、他の病原性コロナウイルス、又は種間伝染を起こしやすい動物コロナウイルスの標的化においてより低い有効性であることが本明細書において提唱される。MERS-CoV、SARS-CoV-1、及びSARS-CoV-2の大流行により実証されるように、コロナウイルスの種間伝染は疾患出現に繋がる。特定のHCoV株に高度に特異的な抗体は、そのような新たに出現するHCoVに対する、あったとしても、有意な保護を提供する可能性が低い。
【0023】
一部の態様において、本開示は、コロナウイルス交差反応性抗体を同定する方法を提供する。1つのステップにおいて、該方法は、1以上(例えば、複数)のヒト対象からの血漿試料を用意することを含む。該試料は時点(X)で収集される。収集の時点は各々の対象について独立している。
【0024】
該ヒト対象は、好ましくは、MERS-CoV、SARS-CoV-1、又はSARS-CoV-2のいずれにも過去に感染していない。MERS-CoV及びSARS-CoV-1による感染症の数が相対的に少ないことに起因して、MERS-CoV及びSARS-CoV-1に影響されなかった地域における2019年の終わりよりも前に収集された全ての試料は、MERS-CoV、SARS-CoV-1、又はSARS-CoV-2のいずれにも過去に感染していない対象からのものである可能性が高い。
【0025】
幾つかの実施態様において、該対象は、少なくとも40歳、より好ましくは少なくとも45歳又はより高齢である。高齢の個体は、複数のHCoVに感染した可能性がより高い。幾つかの実施態様において、該対象は、75歳又はそれ未満、より好ましくは65歳又はそれ未満、である。好ましくは、該対象は45~65歳である。
【0026】
以下により詳細に記載されているように、該血漿試料は、例えば、対象が1以上のHCoVに感染しているか又は感染したかどうかを決定する為に、有用である。幾つかの実施態様において、該方法は、HCoV(好ましくは少なくとも2つの一般的なHCoV)に感染しているか又は感染した対象から収集された血漿試料を選択することを更に含む。よって、該方法は、好ましくは、ヒトコロナウイルス(HCoV)、好ましくは少なくとも2つのヒトコロナウイルス、に結合する免疫グロブリンを有する血漿試料を選択することを含み、ここで、該HCoVは、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される。言い換えれば、HCoVに対して免疫反応性を有する血漿試料が選択されうる。好ましくは、該血漿試料は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択されるHCoVのうちの少なくとも3つ及び少なくとも4つに対して免疫反応性を有する。好ましくは、該血漿試料は、HCoV NL63に対して免疫反応性を有する。好ましくは、該血漿試料は、HCoV NL63及びHKU1に対して免疫反応性を有する。
【0027】
免疫反応性及び免疫グロブリン結合性は、HCoVを抗原として認識する、該血漿試料中の免疫グロブリンの能力を云う。上記免疫グロブリンが測定可能な免疫効果を生成することは本開示の文脈において必要ではない。2つのウイルス、例えば、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1、に対する増加した免疫グロブリン結合性は、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1の両方に結合する免疫グロブリンにおける増加を云いうるが、そのような増加は、HCoV-NL63に結合する特定の免疫グロブリン及びHCoV-HKU1に結合する特定の免疫グロブリンにおける増加に起因することが予想される。
【0028】
「一般的」なHCoVの配列は当技術分野において既知であり、上記ウイルスによりコードされるウイルスタンパク質の配列についても同様である。コロナウイルス(coronoavirus)の供給源は、例えば、ヒト患者の鼻又は咽頭スワブから得られた、臨床分離株でありうる。該ウイルスは、細胞株、例えば哺乳動物細胞株、例えばvero細胞、MadinDarbyイヌ腎臓(MDCK:MadinDarby canine kidney)細胞、及びPERC6細胞、において繁殖させうる。例示的なHCoV-NL63配列は国際公開第2005017133号パンフレットにおいて記載されている。幾つかの臨床分離株のゲノム配列がまた公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスNL63分離株Amsterdam496のゲノム配列は、アクセッション番号DQ445912(VRL 21-NOV-2006)を有してPyrc et al.(J.Mol.Biol.364 (5),964-973 (2006)において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株Amsterdam057のゲノム配列は、アクセッション番号DQ445911(VRL 21-NOV-2006)を有してPyrc et al.(J.Mol.Biol.364 (5),964-973 (2006)において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株ChinaGD01のゲノム配列は、アクセッション番号MK334046(28-FEB-2020)を有してZhang et al.(Microbiol Resour Announc 9 (8),e01597-19 (2020))において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株ChinaGD05のゲノム配列は、アクセッション番号MK334045(VRL 28-FEB-2020)を有してZhang et al.(Microbiol Resour Announc 9 (8),e01597-19 (2020))において記載されており;ヒトコロナウイルスNL63分離株NL63/human/USA/891-4/1989のゲノム配列はアクセッション番号KF530114(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスNL63分離株NL63/human/USA/838-9/1983のゲノム配列はアクセッション番号KF530110(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される6つの分離株のBLAST分析は、それらは、98%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0029】
HCoV-229Eの幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルス229E分離株0349のゲノム配列は、アクセッション番号JX503060(VRL 04-APR-2013)を有してFarsani et al.(Virus Genes 45 (3),433-439 (2012))において記載されており;ヒトコロナウイルス229E分離株J0304のゲノム配列は、アクセッション番号JX503061(VRL 04-APR-2013)を有してFarsani et al.(Virus Genes 45 (3),433-439 (2012))において記載されており;ヒトコロナウイルス229E/Seattle/USA/SC9724/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN369046(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルス229E/human/USA/933-40/1993のゲノム配列はアクセッション番号KF514433(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルス229E/BN1/GER/2015のゲノム配列はアクセッション番号KU291448 VRL(04-SEP-2016)を有し;ヒトコロナウイルス229E/Seattle/USA/SC1212/2016のゲノム配列はアクセッション番号KY369911(VRL 21-FEB-2020)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、99%より高い配列同一性を共有することを指し示す。追加的に、該ウイルスはまた、ヒトコロナウイルス229EとしてATCCから公的に入手可能である(ATCC VR-740;Hamre D,Procknow JJ.A new virus isolated from the human respiratory tract.Proc.Soc.Exp.Biol.Med.121:190-193,1966)。
【0030】
HCoV-HKU1の幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスHKU1分離株Caen1のゲノム配列はアクセッション番号HM034837(VRL 08-OCT-2010)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1分離株遺伝子型Aのゲノム配列はアクセッション番号AY597011(VRL 27-JAN-2006)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-15/2009のゲノム配列は、アクセッション番号KF686344(VRL 26-SEP-2014)を有してDominguez et al.(J.Gen.Virol.95 (PT 4),836-848 (2014))において記載されており;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-5/2009のゲノム配列はアクセッション番号KF686340(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスHKU1/human/USA/HKU1-11/2009のゲノム配列はアクセッション番号KF430201(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、99%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0031】
HCoV-OC43の幾つかの臨床分離株のゲノム配列が公開されており;例えば、ヒトコロナウイルスOC43分離株MDS16のゲノム配列はアクセッション番号MK303625(VRL 30-MAR-2019)を有し;ヒトコロナウイルスOC43分離株MDS12のゲノム配列はアクセッション番号MK303623(VRL 30-MAR-2019)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/Seattle/USA/SC9428/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN310476(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/Seattle/USA/SC9430/2018のゲノム配列はアクセッション番号MN306053(VRL 21-FEB-2020)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/human/USA/9211-43/1992のゲノム配列はアクセッション番号KF530097(VRL 26-SEP-2014)を有し;ヒトコロナウイルスOC43/human/USA/873-6/1987のゲノム配列はアクセッション番号KF530087(VRL 26-SEP-2014)を有する。上記に列記される該6つの分離株のBLAST分析は、それらは、98%より高い配列同一性を共有することを指し示す。
【0032】
HCoVに対する免疫反応性をアッセイする方法は当技術分野において知られている。例えば、Chan KH et al.Serological Responses in Patients With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Infection and Cross-Reactivity With Human Coronaviruses 229E,OC43,and NL63.Clin Diagn Lab Immunol.2005 Nov;12(11):1317-21;Kramer AR et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45;及びPohl-Koppe 1995 Journal of Virological Methods 55:175-183を参照。例えば、そのような方法は、例えば、ウエスタンブロット分析、ELISA、又は任意の他の既知のイムノアッセイ、を使用して、血漿試料中に存在する免疫グロブリンを検出する為にウイルスタンパク質、又はその断片を使用することを含む。好ましくは、該方法は、HCoVに結合する免疫グロブリンの存在を(定性的に又は定量的に)決定することを含む。好ましくは、該方法は、1以上のHCoVに対する該血漿試料の免疫反応性を決定することを含む。
【0033】
当業者に明らかなように、HCoVに対する免疫反応性又は抗体結合性は、上記ウイルスによりコードされるタンパク質に対する免疫反応性又は抗体結合性を包含する。好ましくは、該方法は、HCoV Sタンパク質のS2ドメインに結合する免疫グロブリンにおける増加を有する血漿試料を選択する。
【0034】
理論により縛られることを望まないが、HCoVに対する免疫反応性は、該HCoVによる感染症又は過去の感染症の指標であると考えられる。好ましくは、該方法は、IgM、IgA、又はIgGを検出する。より好ましくは、IgM及びIgAが検出され、これらの免疫グロブリンは早期感染症の指標となる。HCoVに結合する免疫グロブリンのレベルが感染症を指し示すかどうか又はそれがバックグラウンドレベル内にあるかどうかを当業者は容易に決定することができる。例えば、抗体が、少なくとも8倍に希釈された血漿中で検出されることができる場合に、免疫反応性が指し示される。
【0035】
該方法の幾つかの実施態様において、更なる血漿試料が経時的に同じ対象から収集されうる。例えば、試料は、3、6、9、若しくは12ヶ月又はそれらの任意の組み合わせ毎に収集されうる。幾つかの実施態様において、該方法は、時点(Y)で収集された血漿試料を用意することを含み、ここで、時点(Y)は時点(X)よりも少なくとも3ヶ月前又は後である。
【0036】
同じ対象から様々な時点で収集される試料は、特定の時点における対象のウイルス感染症が、HCoVに特異的な免疫グロブリンのレベルを試料の間で比較することにより決定されることができるという利点を提供する。例えば、以前の時点で収集された試料と比較した血漿中のHCoV-NL63に特異的な免疫グロブリンのレベルの増加は、該対象が、上記試料が収集された時点においてHCoV-NL63に感染していた(又は最近感染した)ことを指し示す。
【0037】
免疫グロブリンレベルにおける差異が「有意」であるかどうかを当業者は容易に決定することができる。例えば、IgMレベルにおける10%の増加は有意と考えられうるが、IgMレベル及びIgAレベルの両方におけるより小さい増加(例えば、5%)は有意と考えられうる。
【0038】
少なくとも2つのHCoVに対して免疫反応性を有する時点(X)における血漿試料を有する対象は、時点(X)において又はその前に少なくとも2つのHCoVに感染していた可能性が高い。理論により縛られることを望まないが、本開示は、これらの対象の一部からのB細胞が、交差反応性汎コロナ抗体をコードしうることを提供する。よって、該方法は、上記対象からのPBMC試料を用意することを更に開示する。該PBMC試料は、時点(X)又はそれ以後に収集される。「時点(X)において」はまた、時点Xの数日前を包含することを当業者は認識する。
【0039】
当業者により理解されるように、血漿試料は、血漿を含む試料を云い、PBMC試料は、PBMCを含む試料を云う。該血漿試料及び該PBMC試料は、同じ試料、例えば血液試料(例えば、時点(X)で収集されたもの)、でありうるが、長期貯蔵の為にこれらの2つの成分は通常は分離される。1つの実施態様において、血液試料は、時点Xにおいて対象から得られうる。該血液試料は、必要な場合に長い時間的期間にわたり別々に貯蔵されることができる血漿試料及びPBMC試料を調製する為に更に処理されうる。貯蔵の為に血漿及びPBMCを処理する方法は当技術分野において周知である。
【0040】
幾つかの実施態様において、該方法は、本明細書に記載されているように対象からの血漿試料を用意すること及び免疫反応性を決定することを含む。PBMC試料は次に、その血漿試料が少なくとも2つのHCoVに対して免疫反応性を示した対象から得られうる。幾つかの実施態様において、該方法は、複数のヒト対象からの試料を用意することを含み、ここで、各々の対象について該試料は、時点(X)で収集された血漿試料及び末梢血単核細胞(PBMC)試料を含む試料のペアを含む。幾つかの実施態様において、該方法は、時点(Y)で収集された血漿試料及び末梢血単核細胞(PBMC)試料を含む対象からの試料の少なくとも第2のペアを用意することを含み、ここで、時点(Y)は時点(X)よりも少なくとも3ヶ月前又は後である。
【0041】
該方法は、メモリーB細胞を含有するPBMC試料を用意することを含む。本明細書において使用される場合、「メモリーB細胞」は、CD27+/IgA+;CD27+/IgG+;CD27+/IgM+及びCD27+/IgM+/IgD+メモリーB細胞を云い、これは更にCD19+、CD22+及び/又はCD24+でありうる。
【0042】
幾つかの実施態様において、該メモリーB細胞は、他のPBMCから単離又は濃縮されうる。メモリーB細胞の特徴の他に、そのような細胞を単離又は濃縮する方法は当技術分野において知られている。例えば、メモリーB細胞は、抗CD27マイクロビーズを使用して陽性細胞選別により濃縮されることができる。
【0043】
該方法は、該メモリーB細胞によりコードされる抗体を、異なるコロナウイルスからのS2エクトドメインの少なくとも部分への結合についてスクリーニングすることを更に含む。一部の場合において、全てのメモリーB細胞からの抗体がスクリーニングされうるが、本開示は、該B細胞の画分のみを使用することを包含する。幾つかの実施態様において、幾つかの異なるコロナウイルスからのSタンパク質全体又はS2エクトドメインが、該抗体をスクリーニングする為に使用される。幾つかの実施態様において、UH、FP、HR1、中心ヘリックス、ベータ-ヘアピン、及びHR2ドメインから選択されるドメインに対応するペプチドが、抗体結合性についてスクリーニングする為に使用される。幾つかの実施態様において、ペプチドは、FP、HR1又はHR2ドメインから選択されるドメインに対応する。該ペプチドは、上記されているドメイン全体に対応する必要はないが、該ドメインの少なくとも部分を含有するペプチドも包含する。幾つかの実施態様において、該ペプチドは、10~200個のアミノ酸、好ましくは12~50個のアミノ酸、である。幾つかの実施態様において、該S2エクトドメインの少なくとも部分に結合する抗体又はその抗原結合性断片をスクリーニングする該ステップは、結合アッセイを行って、該S2エクトドメインの少なくとも部分に結合する抗体を同定することを云う。
【0044】
幾つかの実施態様において、抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスへの結合についてスクリーニングされ、及び好ましくは選択される。幾つかの実施態様において、抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1への結合についてスクリーニングされ、及び好ましくは選択される。幾つかの実施態様において、抗体は、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2への結合についてスクリーニングされ、及び好ましくは選択される。幾つかの実施態様において、抗体は、非ヒトコロナウイルス、例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ラクダ、ネコ、イヌ、齧歯動物、鳥、コウモリ、ウサギ、フェレット、又はミンクコロナウイルス、への結合についてスクリーニングされ、及び好ましくは選択される。好ましくは、該抗体は、5個又はより多く又は更には10個又はより多くの異なるコロナウイルスへの結合についてスクリーニングされる。
【0045】
好ましい実施態様において、該抗体は、少なくとも1つの高病原性HCoV、少なくとも1つの一般的なHCoV、及び少なくとも1つの動物CoVからのS2エクトドメインへの結合についてスクリーニングされる。幾つかの実施態様において、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス;SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルス;並びにブタ、ウシ、ウマ、ラクダ、ネコ、イヌ、齧歯動物、鳥、コウモリ、ウサギ、フェレット、又はミンクコロナウイルスから選択される少なくとも1つの動物コロナウイルスに結合する抗体が選択される。例えば、Fenner's Veterinary Virology,Chapter 24 - Coronaviridae 2017,pp.435-461及び配列の為にthe CoVDB (Coronavirus Database at covdb.popgenetics.net/v1/)を参照。
【0046】
本開示の例示的な実施態様において、抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、及び少なくとも1つの動物コロナウイルスのS2エクトドメインへの結合を決定する為にスクリーニングされる。好ましい抗体は、試験されるS2エクトドメインの全てへの結合を実証する。しかしながら、サブセットのみに結合する抗体がまた交差反応性抗体として有用であることを当業者は理解する。
【0047】
当業者に明らかなように、それぞれの抗原結合性断片がまた該スクリーニングステップにおいて使用されうる。抗体の抗原結合性断片は、Fab、F(ab’)2、及びFv断片を包含する。好ましくは、抗原結合性断片は、重鎖のCDR 1~3及び軽鎖のCDR 1~3を含む。より好ましくは、抗原結合性断片は軽鎖及び重鎖可変領域を含む。
【0048】
例えば、幾つかの実施態様において、単鎖可変断片(ScFv:single chain variable fragment)ファージディスプレイ抗体ライブラリーは、該メモリーB細胞によりコードされる抗体配列(すなわち、可変鎖ドメイン)を使用して構築されうる。例えば、Kramer AR et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45.)を参照。ファージディスプレイライブラリーは次に、(バイオ-)パニングを通じて抗原(Sタンパク質のS2ドメインに対応する)に結合するファージについてスクリーニングされる。
【0049】
幾つかの実施態様において、単一細胞スクリーニング(single cell screening)は、特定の標的に結合するB細胞を同定する為に行われうる。これは、例えば、ファージディスプレイライブラリーを生成する前に、初期ステップとして使用されることができる。幾つかの実施態様において、B細胞は、コロナウイルスのパネルからのS2エクトドメインに結合する能力についてスクリーニングされる。陽性B細胞は次に、複数のコロナウイルスと交差反応する抗原結合性断片を同定する為にファージディスプレイライブラリーを生成する為の供給源として使用される。
【0050】
他の実施態様において、上記B細胞により産生された抗体はスクリーニングされうる。例えば、幾つかの実施態様において、B細胞は不死化され、分泌された抗体は、上記パネルに対してスクリーニングされる。B細胞は、例えば、B細胞をエプスタインバーウイルス(EBV)に感染させることにより、不死化されることができ、個々のクローンは増殖されることができる。EBVで不死化される細胞の不死化及びクローニングの効率は、メモリーB細胞上に発現されるパターン認識受容体のアゴニスト、例えば、TLR-7、TLR-9又はTLR-10アゴニスト、も使用することにより改善されることができる(例えば、米国特許第9290786(B2)号明細書を参照)。
【0051】
抗原結合性を決定する為に免疫グロブリンをスクリーニングする方法は当技術分野において知られている。ウエスタンブロット分析、ELISA、又は任意の他の既知のイムノアッセイが使用されうる。例えば、ペプチドは、固体表面、例えばペプチドマイクロアレイ(すなわち、ペプチドチップ)、に連結されうる。幾つかの実施態様において、Pepscan分析が行われることができ、例えば、S2ドメインにわたるオーバーラップする15-mer直鎖状ペプチドが免疫グロブリン結合性についてスクリーニングされる(例えば、Kramer et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45を参照)。該S2ドメイン又はその部分はまた、細胞表面上に発現され、免疫グロブリン結合性についてスクリーニングする為に使用されうる。
【0052】
該S2ドメインに結合する抗体をコードするか又は発現するとして同定されたB細胞は、該抗体遺伝子をクローニングする為の核酸の供給源として使用されうる。
【0053】
該方法は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2エクトドメインの少なくとも部分に結合し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのSタンパク質のS2ドメインに結合するところの抗体又はその抗原結合性断片を選択することを更に含む。好ましい実施態様において、HCoV-NL63のHR1ドメイン、HCoV-OC43のHR1ドメイン、HCoV-229EのHR1ドメイン及びHCoV-HKU1のHR1ドメインに結合し並びに/又はSARS-CoV-1のHR1ドメイン、MERS-CoVのHR1ドメイン及びSARS-CoV-2のHR1ドメインに結合するところの抗体又はその抗原結合性断片が選択される。
【0054】
該方法は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルスのウイルス融合、複製、及び/又は複製を阻害し並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスのウイルス融合を阻害する及び/又は細胞感染力を阻害するところの抗体又はその抗原結合性断片を選択することを更に含む。ウイルス融合アッセイ、感染アッセイ、及び複製アッセイは当業者に周知であり、そのような方法を行う例示的な方法は実施例において本明細書に記載されている。例えば、様々なHCoVのSタンパク質により媒介される複数の細胞-細胞融合アッセイが開発されている(Xia S,Yan L,Xu W,et al.A pan-coronavirus fusion inhibitor targeting the HR1 domain of human coronavirus spike.Sci Adv.2019;5(4))。シュードタイプウイルス感染アッセイ、例えばLu et al.(Nat.Commun.5,3067 (2014)において記載されているもの、もまた使用されうる。HCoV複製を測定する為のアッセイもまた記載されている(実施例を参照)。当業者に明らかなように、完全な阻害は要求されず、当業者は、ウイルス融合、感染、又は複製を有意に阻害する抗体を同定することができる。好ましくは、抗体は少なくとも50%の阻害をもたらす。
【0055】
幾つかの実施態様において、該方法は、ウイルス融合、感染、及び/又は複製に対する該抗体又は抗原結合性断片の効果を測定することを含む。本開示の例示的な実施態様において、抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、及び少なくとも1つの動物コロナウイルスを用いて融合、感染、又は複製に対する効果を決定する為にスクリーニングされる。好ましい抗体は、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、及び少なくとも1つの動物コロナウイルスの融合、感染、及び/又は複製を阻害する。しかしながら、コロナウイルスのサブセットのみに対して融合、感染、及び/又は複製を阻害する抗体もまた交差反応性抗体として有用であることを当業者は理解する。
【0056】
該方法は、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択されるHCoV感染症のイン・ビボモデルにおいて感染症を予防する又は低減させる、該選択された抗体又はその抗原結合性断片の能力を決定することを更に含む。抗原結合性断片、例えばscFv、が該イン・ビボモデルにおいて使用されうる。好ましくは、IgG、IgM、又はIgAフォーマットの全長抗体が使用される。可変領域を全長フォーマット又は異なる全長フォーマットにクローニングする方法は当技術分野において知られている。例えば、Boel E et al.Functional Human Monoclonal Antibodies of All Isotypes Constructed From Phage Display Library-Derived Single-Chain Fv Antibody Fragments.J Immunol Methods.2000 May 26;239(1-2):153-66を参照。幾つかの実施態様において、特定の抗体からの該抗原結合性断片が幾つかのフォーマット、例えばIgG、IgM、及びIgAフォーマットにおいて、該抗体フォーマットが機能に対して効果を有するかどうかを決定する為に試験されうる。
【0057】
SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2感染症のイン・ビボモデルは知られている。SARS-CoV-2感染症の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Sia,S.F.,Yan,L.,Chin,A.W.H.et al.Pathogenesis and transmission of SARS-CoV-2 in golden hamsters.Nature (2020)、に記載されている。MERS-CoV感染症の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Kim J et al.Middle East Respiratory Syndrome-Coronavirus Infection Into Established hDPP4-Transgenic Mice Accelerates Lung Damage Via Activation of the Pro-Inflammatory Response and Pulmonary Fibrosis.J Microbiol Biotechnol.2020 Mar 28;30(3):427-438、に記載されている。SARS-CoV-1感染症の好適なイン・ビボモデルは、例えば、Roberts et al.Virus Research 2008 133:20-32、に記載されている。
【0058】
イン・ビボでの感染症の予防又は低減は、感染症に対する抵抗性の増加又は感染症と戦う能力の改善を包含する(例えば、感染症は、症状が現れる前に解消されうるか、又は経験される症状はより軽症である)。死亡率、体重損失、及び肺病理学は、イン・ビボで感染症を予防する又は低減させる能力の指標として使用されうる。
【0059】
1つの態様において、本開示は、コロナウイルス交差反応性抗体を提供する。該抗体は、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの、HCoVに結合する。該抗体はまた、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つのHCoVに結合する。好ましくは、該抗体はまた、少なくとも1以上の動物コロナウイルス、例えばブタ、ウシ、ウマ、ラクダ、ネコ、イヌ、齧歯動物、鳥、コウモリ、ウサギ、フェレット、又はミンクコロナウイルス、に結合する。好ましくは、該抗体はSタンパク質のS2ドメインに結合する。好ましくは、該抗体は、Sタンパク質の融合ペプチド、HR1、又はHR2に結合する。幾つかの実施態様において、該抗体は、本明細書に開示されている方法に従って同定される。
【0060】
本明細書において同定される抗体は、コロナウイルスに対する個体における免疫を増加させる為に有用である。語「免疫を増加させる」は、特定の抗原(例えば、コロナウイルス)に対する個体の免疫応答を増加させることを云う。増加された免疫は、感染症に対する抵抗性の増加に繋がることができるか、又は感染症と戦う、個体の能力を改善しうる(例えば、感染症は、症状が現れる前に解消されうるか、又は経験される症状はより軽症である)。増加された免疫は完全な免疫を要求せず、部分的な免疫を包含する。当業者に明らかなように、本明細書に開示されている方法及び組成物は、コロナウイルス感染症を予防するか若しくは低減させるため及び/又はコロナウイルス感染症の重症度を低減させる為に使用されうる。上記方法及び組成物はまた、コロナウイルス感染症と関連付けられる症状の重症度を予防する又は低減させる為に使用されうる。特に、増加された免疫は、例えば抗体の投与による、受動免疫を云う。
【0061】
幾つかの実施態様において、増加された免疫は、滅菌免疫(sterilizing immunity)を提供することを云う。感染を可能にするが該感染を排除するのに有効である免疫とは対照的に、滅菌免疫は強力なウイルス感染を防止する。幾つかの実施態様において、本明細書に開示されている組成物は滅菌免疫を提供する。幾つかの実施態様において、本明細書に開示されている抗体を含む組成物は、少なくとも1日、好ましくは少なくとも1週間、にわたり滅菌免疫を提供する。幾つかの実施態様において、本明細書に開示されている抗体を含む組成物は、1~2週間にわたり滅菌免疫を提供する。
【0062】
本開示は、コロナウイルスに対する免疫を増加させる為の方法及び組成物を提供する。好ましくは、該個体はヒトであり、及び該コロナウイルスはヒトコロナウイルス、すなわち、ヒトに感染する能力を有するウイルス、である。好ましくは、該コロナウイルスは、高病原性ウイルス、又は感染した患者において重度の症状に繋がることができるウイルスである。幾つかの実施態様において、高病原性ウイルスは、本明細書において使用される場合、1%以上の致死率を有するウイルスを云う。例示的な高病原性コロナウイルスは、MERS-CoV(約34%の致死率)、SARS-CoV-1(約9.5%の致死率)、及びSARS-CoV-2(約2%の致死率)を包含する(Petrosillo et al.Clinical Microbiology and Infection Volume 26,Issue 6,June 2020,Pages 729-734)。病原性はまた、症状の重症度に基づいて定義されることができる。例えば、幾つかの実施態様において、高病原性コロナウイルスは、本明細書において使用される場合、感染した個体の少なくとも10%において急性呼吸窮迫症候群を引き起こすウイルスを云い、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、及びMERS-CoVを包含する(Petrosillo et al.2020)。好ましい実施態様において、該コロナウイルスはアルファ-又はベータ-コロナウイルスである。
【0063】
幾つかの実施態様において、本開示は、本明細書に開示されている抗体をコードする核酸分子を提供する。本開示の更なる観点は、本明細書に開示されている核酸分子を含むベクター及び発現ベクターを提供する。本開示において有用な発現ベクターは、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、及びバキュロウイルスを包含する。該発現ベクターは、調節エレメント、例えばプロモーター、の制御下の又はそれに作動可能に連結した、本明細書に開示されている核酸配列又はその断片を含みうる。プロモーターとも称されるDNAのセグメントは、mRNAへのDNAの転写の調節の原因となる。該発現ベクターは、例えば、植物細胞、真菌細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞又は他の真核細胞において、遺伝子の発現の為に好適な1以上のプロモーターを含みうる。
【0064】
本明細書に記載されている抗体を含む組成物は、医薬的に許容される担体、希釈剤及び/又はアジュバントと共に製剤化されることができる。医薬的に許容される担体又は希釈剤の例は、脱イオン又は蒸留水;食塩水溶液;植物油、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール等を包含する。
【0065】
好ましくは、本明細書に開示されている抗体は、局所的に、又は非全身的に投与される。局所投与は、皮膚、目、及び粘膜への投与を包含する。好ましい実施態様において、該組成物は、粘膜、例えば気管支、食道、鼻、及び口腔粘膜、並びに舌に施与される。好ましくは、該組成物は鼻吸入により提供される。該組成物はまた、クリーム又はローションとして鼻に提供されうる。該組成物はまた、口により吸引されうるか、又は口の粘膜に、例えばマウスウォッシュとして、施与されうる。幾つかの実施態様において、該組成物は、非経口的に投与されない(例えば、静脈内(IV:intravenous)、筋肉内(IM:intramuscular)、皮下(SC:subcutaneous)又は皮内(ID:intradermal)投与によるものではない)。
【0066】
該組成物は、高病原性コロナウイルスとの潜在的な遭遇の前に予防的に又は「必要に応じて」投与されうる。例えば、該組成物は1日1回投与されうる。該組成物の投与は、個体が、曝露のリスクなしに家に留まる日にはスキップされうる。
【0067】
本明細書において使用される場合、「含む」及びその活用形は、その非限定的な意味において使用され、該語に先行する項目が含まれるが、特に言及されない項目は除外されないことを意味する。追加的に、動詞「からなる」は、本明細書において定義されている化合物又は補助化合物が、特に同定されるもの以外の、発明の独特の特徴を変更しない1以上の追加の成分を含みうることを意味する「から本質的になる」により置き換えられうる。
【0068】
冠詞「1つ(a)」及び「1つ(an)」は、該冠詞の文法的な目的語の1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を云う為に本明細書において使用される。例として、「要素」(an element)は、1つの要素又は1つより多くの要素を意味する。
【0069】
語「おおよそ」又は「約」は、数値との関連において使用される場合(おおよそ10、約10)、好ましくは、該値が、10の該所与の値に該値の1%を足すか又は引いたものでありうることを意味する。
【0070】
本明細書において使用される場合、語「処置」、「処置する」(treat)、及び「処置している」(treating)は、本明細書に記載されている疾患若しくは障害、又はその1以上の症状を逆転させるか、軽減するか、その開始を遅延させるか、又はその進行を阻害することを云う。幾つかの実施態様において、処置は、1以上の症状が発現した後に投与されうる。他の実施態様において、処置は、症状の非存在下で投与されうる。例えば、処置は、症状の開始の前に感受性の個体に投与されうる。処置はまた、症状が解消した後に、例えばそれらの再発を予防するか又は遅延させる為に、継続されうる。本明細書において使用される場合、語「予防する」は、例えば、感染症の、絶対的な予防を要求しないが、感染症のリスク又は可能性を低減させうる。
【0071】
本明細書において参照される全ての特許及び参照文献は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0072】
[実施例]
本発明は、以下の実施例において更に説明される。これらの実施例は、本発明の範囲を限定せず、本発明を実行する1つの可能な仕方を明確化する為に役立つものに過ぎない。他の方法が使用されうることを当業者は認識する。
【0073】
実施例1
血漿及びPBMC試料は、以下のように数人のヒト対象から得られる。
【0074】
各々のドナーから、10mlの血液が、抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを補充されたVacutainerチューブ(10ml)に収集される。収集後8時間以内に血漿及び末梢血単核細胞(PBMC)が、生産者の指示書に従ってFicoll-Paque(GE Healthcare Bio Sciences AB、Uppsala、Sweden)密度勾配遠心分離を使用することにより単離される。血漿が採取され、1ミリリットルNalgeneクライオチューブ(cryotubes)(Nalgene)に移される。
【0075】
PBMNCを含有するバフィコートが採取され、冷(+4℃)リン酸緩衝食塩水(PBS)中で3~5回洗浄されて、該バフィコート中に存在する栓球が除去される。最後の洗浄ステップ後に、PBMNCを含有する細胞ペレットが、10%のジメチルスルホキシド(DMSO)、40%の熱不活性化されたウシ胎仔血清(FCS:fetal calf serum)、及び5×106細胞/mlの濃度の50%のRPMI 1640培養培地を含有する冷凍結培地で希釈される。凍結培地は、連続的な混合下において滴下で細胞懸濁物に加えられた。該細胞懸濁物は1ミリリットルNalgeneクライオチューブに移される。
【0076】
血漿又はPBMNC細胞懸濁物を含有するクライオチューブは、Mr.Frosty凍結容器(Nalgene)に入れられ、-80℃で一晩保たれた後に、長期貯蔵の為に液体窒素に移される。
【0077】
実施例2
血漿試料は、以下の方法の1以上を使用してHCoVに対する免疫反応性について試験される。
【0078】
1.ELISA試験
HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1のS、N及び/又はN(NCt)タンパク質のc末端に対する抗体レベルがELISAにより決定される。今までに、HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1の該S、N及びNCt配列は、以前(Dijkman R,Jebbink MF,El Idrissi NB,Pyrc K,Muller MA,Kuijpers TW,et al.Human coronavirus NL63 and 229 E seroconversion in children.J Clin Microbiol 2008;46(July (7)):2368-73;Dijkman R,Jebbink MF,Gaunt E,et al.The dominance of human coronavirus OC43 and NL63 infections in infants.J Clin Virol.2012;53(2):135-139)に記載されたように、クローニング、発現及び精製される。ELISAは、以前(Edridge et al.,Coronavirus protective immunity is short-lasting,medRxiv 2020.05.11.20086439)に記載されたように行われる。簡潔に述べれば、96ハーフエリアマイクロプレート(Greiner Bio-one)が、0.1M炭酸緩衝液(pH9.6)に希釈された3μg/mLのタンパク質で4℃において一晩被覆される。非特異的結合部位が、5%のスキムミルク(Fluka)を補充されたリン酸緩衝食塩水-0.1% Tween 20(PBST)を用い、室温で1時間穏やかに振盪して、遮断される。血清試料が、1%のスキムミルクを含有するPBSTに1:200で希釈され、室温で2時間穏やかに振盪して、該プレート中でインキュベーションされる。洗浄後に、1%スキムミルク-PBSTに希釈(1:1500)されたアルカリホスファターゼをコンジュゲートされた抗ヒト免疫グロブリンG Fcγ-テイル抗体(Jackson Immunoresearch)が加えられる。室温でインキュベーションを1時間穏やかに振盪した後に、該プレートは洗浄され、室温において暗所中で1時間穏やかに振盪して、Lumi-Phos Plus(Lumigen)を用いてシグナルが発生される。測定は、Glomax 96 plate luminometer(Promega)を用いて行われる。全ての血清は2連又は3連で試験され、照明時間における差異を矯正する為に正規化される。各々の正規化された観察について、標準偏差が技術的複製の間で算出される(2連/3連のELISAが、同じ血清試料の新たに作製された希釈液において行われる)。
【0079】
2.Pepscan分析
HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1のSタンパク質配列からの、14残基オーバーラップする15-merペプチドが、Pepscanハイドロゲルの固体支持体上のFmoc連結により合成される(Langedijk JPM,Zekveld MJ,Ruiter M,Corti D,Back JW.Helical peptide arrays for lead identification and interaction site mapping.Anal.Biochem.2011;417:149-155.[PubMed:21708118])。ペプチドライブラリーが、1:1000の希釈において、熱不活化されたヒト血清でプロービングされる。大規模な洗浄後に、ヤギ抗ヒトHRPをコンジュゲートされた二次抗体が加えられ、続いて2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)を使用する顕色が行われる。電荷結合デバイスカメラが、405nmにおける吸光度を定量化する為に使用される。あらゆる個々のPepscanデータセットについて、データは、全体的な分析に由来する平均シグナル強度に対して正規化される。
【0080】
3.HCoVを使用するAB力価の試験
HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1に対する抗体力価が、一部の修飾と共に、以前に記載された免疫蛍光試験により決定された(Chan KH et al.Serological Responses in Patients With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Infection and Cross-Reactivity With Human Coronaviruses 229E,OC43,and NL63.Clin Diagn Lab Immunol.2005 Nov;12(11):1317-21.)。
【0081】
簡潔に述べれば、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1に感染されたHCT-8、HCoV-229に感染されたMRC-5細胞、並びにHCoV-NL63に感染されたLLCMK2細胞のスメアが研究の為に使用された。細胞の60%~70%がウイルス抗原発現の証拠を有するときに、該細胞は、冷却されたアセトン中20℃で10分間固定され、使用まで80℃で貯蔵される。抗体検出が、上記の論文に記載されたように間接免疫蛍光を使用して行われる。最低2つのHCoVに対して免疫反応性を実証する血漿試料が選択される。
【0082】
血漿試料が、最低2つのHCoVからのSタンパク質、S2ドメイン、又はNタンパク質ドメインに対して免疫反応性を実証するドナーが選択される。
【0083】
実施例3
血漿試料が、実施例2において決定されるように、最低2つのHCoVからのS又はNタンパク質に対して免疫反応性を実証するドナーからのPMBC試料が、標準的なファージ-ディスプレイ、B細胞不死化又は単一B細胞選別アプローチ、例えば以下に記載されているもの、を使用する抗体の単離の為のメモリーB細胞の供給源として使用される。
【0084】
メモリーB細胞の選択
B細胞はPBMC試料から濃縮される。以前(Throsby M et al.Heterosubtypic Neutralizing Monoclonal Antibodies Cross-Protective Against H5N1 and H1N1 Recovered From Human IgM+ Memory B Cells.PLoS One.2008;3(12):e3942,Ellebedy AH et al.Defining antigen-specific plasmablast and memory B cell subsets in blood following viral infection and vaccination of humans.Nat Immunol.2016;17(10):1226-1234,Wrammert J et al.Rapid and Massive Virus-Specific Plasmablast Responses During Acute Dengue Virus Infection in Humans.J Virol.2012 Mar;86(6):2911-8,Pascual G et al.Immunological Memory to Hyperphosphorylated Tau in Asymptomatic Individuals.Acta Neuropathol 2017 May;133(5):767-783)に記載されたように、メモリーB細胞は、特異的な蛍光をコンジュゲートされた抗体を用いて標識され、フローサイトメーターを用いて選別される。選別された細胞は細胞画分又は単一細胞として収集される。
【0085】
実施例3A
一部の実験において、該B細胞は、以下のようにファージディスプレイ抗体ライブラリーの構築の為に使用される。単鎖可変断片(ScFv)ファージディスプレイライブラリーは、以前(Kramer AR et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45.)に記載されたように構築される。簡潔に述べれば、ファージライブラリーは、メモリーB細胞から単離された抗体遺伝子を使用して構築される。該ライブラリーの品質は、コロニーPCRを使用することにより無作為に選ばれたクローンを分析することにより検証される。
【0086】
S2ドメイン特異的scFvファージのファージディスプレイ選択は、本質的に以前(Kramer AR et al.The Human Antibody Repertoire Specific for Rabies Virus Glycoprotein as Selected From Immune Libraries.Eur J Immunol.2005 Jul;35(7):2131-45.)に記載されたように行われるが、HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の他に、SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2のS2ドメイン(特にUH、FP、HR1、中心ヘリックス、ベータ-ヘアピン、及びHR2領域)にわたるオーバーラップするペプチドのパネルを使用する。代替的には、HCoV-OC43、HCoV-229、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の他に、SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2からの細胞表面に発現されたか又は精製されたスパイクタンパク質が使用されうる。
【0087】
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスからの1以上のペプチド(又は表面に発現されたか若しくは精製されたSタンパク質)への結合を実証するクローンが選択される。
【0088】
実施例3B
一部の実験において、該B細胞は、モノクローナル抗体の製造の為のB細胞不死化の為に使用される。モノクローナル抗体産生性の不死化されたB細胞クローンは、以前(Lanzavecchia A et al.Human monoclonal antibodies by immortalization of memory B cells.Curr Opin Biotechnol.2007;18(6):523-528.)に記載されたように生成される。
【0089】
メモリーB細胞を使用する場合、該細胞は最初に、形質細胞を生成するように誘導されなければならない。形質細胞は、以前(Maiga RI et al.Human CD38hiCD138+ Plasma Cells Can Be Generated in Vitro From CD40-activated Switched-Memory B Lymphocytes.J Immunol Res.2014;2014:635108)に記載されたようにメモリーB細胞からイン・ビトロで生成される。簡潔に述べれば、選別されたメモリーB細胞が拡大増殖され、その後にCD154+及びCD70+接着細胞上で培養され、これはCD38hiCD138+形質細胞を生成する。
【0090】
培養上清は、上記されている複数のコロナウイルスからのS2ドメインにわたるペプチド及び/又は表面に発現されたか若しくは精製されたSタンパク質への結合について試験される。HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスからの1以上のペプチド又はSタンパク質に結合する抗体を産生するB細胞が選択される。
【0091】
実施例3C
一部の実験において、イン・ビトロでS2ドメインに結合するメモリーB細胞が選択される。ウイルスペプチドに結合するメモリーB細胞は、本質的に以前(Pascual G et al.Acta Neuropathol.2017;133(5):767-783.Immunological memory to hyperphosphorylated tau in asymptomatic individuals)に記載されたように選択される。
【0092】
簡潔に述べれば、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2のスパイクタンパク質からのHR1、HR2及び/又はFPドメインペプチド配列が調製され、ビオチン化され、蛍光色素にコンジュゲートされる。CD22+ PBMNC細胞は、蛍光をコンジュゲートされた抗体IgG-FITC、CD19-PerCPCy5.5で標識され、該ビオチン化された蛍光ウイルスペプチドとインキュベーションされる。該蛍光ウイルスペプチドに結合するメモリーB細胞表現型を有する細胞は、フローサイトメーターを用いて単一細胞として選別される。
【0093】
選択されたものは、実施例4に記載されているように全長抗体を生成する為に使用される。そのような抗体は次に、幾つかのコロナウイルスからのS2エクトドメインへの結合について更に試験されうる。
【0094】
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスからのペプチドに結合する細胞が選択される。
【0095】
実施例4
選択されたファージ(実施例3A)又はメモリーB細胞(実施例3B及びC)からIgG、IgA及び/又はIgM抗体が生成される。
【0096】
選択されたファージからのヒトIgG、IgM又はIgAモノクローナル抗体の製造は、以前(Boel E et al.Functional Human Monoclonal Antibodies of All Isotypes Constructed From Phage Display Library-Derived Single-Chain Fv Antibody Fragments.J Immunol Methods.2000 May 26;239(1-2):153-66.)に記載されたように行われる。
【0097】
簡潔に述べれば、ベクターは、ヒトIgG1~4、IgA1~2、及び/又はIgMモノクローナル抗体の製造の為に構築される。選択されたファージのscFv断片をコードするVH 3 H鎖及びVλ3 L鎖の遺伝子は、該異なるIgサブクラスのモノクローナル抗体を生成する為に該異なる発現ベクターにクローニングされる。安定的にトランスフェクションされた細胞株は、fur-BHK21細胞におけるH及びL鎖構築物の共トランスフェクションにより確立される。培養上清は採取され、全てのサブクラスは、プロテインAカラムを使用することにより精製される。
【0098】
IgG1~4、IgA1~2、IgM及びIgE抗体は、選択されたメモリーB細胞から以前(Apetri A et al.A Common Antigenic Motif Recognized by Naturally Occurring Human V H 5-51/V L 4-1 Anti-Tau Antibodies With Distinct Functionalities.Acta Neuropathol Commun.2018 May 31;6(1):43)に記載されたように本質的に生成される。
【0099】
簡潔に述べれば、重鎖及び軽鎖(HC/LC:heavy and light chain)抗体可変領域は、リーダー特異的及びフレームワーク特異的プライマーのプールを使用して単一細胞選別されたメモリーB細胞から2ステップPCRアプローチを使用して回収される。重鎖及び軽鎖PCR断片(380~400kb)は、オーバーラップ伸長PCRを介して連結され、その後に二重CMVベースのヒトIgG1~4、IgA1~2、IgM又はIgE哺乳動物発現ベクターにクローニングされる。クローニングされた抗スパイクタンパク質ヒトモノクローナル抗体は、ヒト胚性腎臓293に由来するExpi293細胞(Thermo Fisher)に一過的にトランスフェクションされ、トランスフェクションの72時間後に、細胞培地は採取され、1200RPMで7分間遠心分離される。免疫グロブリンは、標準的なプロテインAアフィニティークロマトグラフィー法により該培養培地から精製される。
【0100】
該モノクローナル抗体は、幾つかのコロナウイルス、例えばHCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-HKU1、SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2、からのSタンパク質、S2エクトドメイン又は特有のペプチドへの結合について試験されうる。
【0101】
実施例5
該モノクローナル抗体のイン・ビトロ機能性は、以下の方法の1以上を使用して評価されうる。
【0102】
1.細胞融合阻害
様々なHCoVのSタンパク質により媒介される複数の細胞-細胞融合アッセイが開発されている(Xia S,Yan L,Xu W,et al.A pan-coronavirus fusion inhibitor targeting the HR1 domain of human coronavirus spike.Sci Adv.2019;5(4))。特に:(1)MERS-CoV Sに媒介される細胞融合;(2)229E Sに媒介される細胞融合;(3)SARS-CoV及びSL-CoV Sに媒介される細胞-細胞融合;並びに(4)OC43又はNL63 Sに媒介される細胞-細胞融合。該異なるSタンパク質により媒介される融合に対する該モノクローナル抗体の阻害効力を評価する為に、エフェクター細胞(293 T/S/GFP)及び標的細胞(Huh-7細胞)が、融合の為に指し示される濃度において試験mAbの存在又は非存在下において共培養される。融合した及び融合していない細胞をカウントした後に、細胞-細胞融合のパーセンテージが算出される。今までに、各々のウェル中の5つの視野が、該融合した及び融合していない細胞をカウントする為に無作為に選択される。該融合した細胞は、該融合していない細胞の少なくとも2倍の大きさであり、該融合した細胞における蛍光強度は、1つのエフェクター細胞から標的細胞への強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP:enhanced green fluorescent protein)の拡散の結果として弱くなる。細胞-細胞融合のパーセンテージ[(該融合した細胞の数/該融合した及び融合していない細胞の数)×100%]が次に算出される。細胞-細胞融合の阻害パーセントは、以下の式:[1-(E-N)/(P-N)]×100%を使用して算出される。ここで、「E」は、実験群における細胞-細胞融合のパーセンテージを表す。「P」は、293 T/HCoV S/EGFP細胞がエフェクター細胞として使用され、そこにPBSのみが加えられた陽性対照群における細胞-細胞融合のパーセンテージを表す。「N」は、293 T/EGFP細胞がエフェクター細胞として使用される陰性対照群における細胞-細胞融合のパーセンテージである。
【0103】
2.シュードタイプウイルス感染アッセイ
CoV Sタンパク質又はVSV-Gタンパク質及びルシフェラーゼをレポーターとして発現する欠陥性HIV-1ゲノムを有するシュードウイルスが、以前(L.Lu,Q.Liu,Y.Zhu,K.-H.Chan,L.Qin,Y.Li,Q.Wang,J.F.-W.Chan,L.Du,F.Yu,C.Ma,S.Ye,K.-Y.Yuen,R.Zhang,S.Jiang,Structure-based discovery of Middle East respiratory syndrome coronavirus fusion inhibitor.Nat.Commun.5,3067 (2014).)に記載されたように、293 T細胞において製造され、その力価が、HIV-1 p24 ELISAを使用することにより定量化された。該シュードウイルスは次に、段階希釈された試験mAbの存在又は非存在下で標的Huh-7細胞(又はシュード型SARS-CoVの為にACE2/293 T細胞)(96ウェルプレート中104個/ウェル)に感染させる為に使用される。感染の12時間後に、培養培地は交換され、次に追加の48時間にわたりインキュベーションされ、続いてPBSで細胞を洗浄し、溶解試薬(Promega)で細胞を溶解し、Firefly Luciferase Assay Kit(Promega)及びUltra 384 luminometer(Tecan)を使用する相対光単位の検出の為に96-well Costar flat-bottom luminometer plates(Corning Costar)に該細胞溶解液を移す。
【0104】
3.生HCoVの複製の阻害
HCT-8細胞におけるOC43複製に対するmAbの阻害活性は、他の箇所(E.Brison,H.Jacomy,M.Desforges,P.J.Talbot,Novel treatment with neuroprotective and antiviral properties against a neuroinvasive human respiratory virus.J.Virol.88,1548-1563 (2014))に記載されたように評価される。簡潔に述べれば、100 TCID50のOC43が抗体の段階希釈液と混合され、37℃で30分間インキュベーションされる。該混合物は次に、96ウェルマイクロタイタープレート中で増殖されたHCT-8細胞の単層に3連で施与される。感染後5日目に、該培養培地中のウイルス力価が試験され、TCID50が、細胞傷害効果(CPE)に基づいて算出された(J.Ciejka,K.Wolski,M.Nowakowska,K.Pyrc,K.Szczubialka,Biopolymeric nano/ microspheres for selective and reversible adsorption of coronaviruses.Mater.Sci.Eng.C Mater.Biol.Appl.76,735-742 (2017))。A549細胞における229E複製及びLLC-MK2細胞におけるNL63複製に対する該試験された抗体の阻害活性は、上記されるものと類似した仕方で評価される。
【0105】
MERS-CoV複製に対する抗体の阻害活性は、以前(X.Tao,F.Mei,A.Agrawal,C.J.Peters,T.G.Ksiazek,X.Cheng,C.-T.K.Tseng,Blocking of exchange proteins directly activated by cAMP leads to reduced replication of Middle East respiratory syndrome coronavirus.J.Virol.88,3902-3910 (2014))に記載されたように、修飾された標準的なマイクロ中和試験アッセイを使用してCalu-3細胞において試験される。簡潔に述べれば、60μlの段階的に2倍希釈されたmAbは、96ウェルプレートの2連のウェル中で2%のFBSを補充されたMEM培地(M-2培地)中、60μl(120 TCID50)のMERS-CoVと室温で約60分間インキュベーションされる。100マイクロリットルの該mAb/MERS-CoV混合物は次に、96ウェルプレート中で増殖されたコンフルエントなCalu-3細胞中に移される。ウイルスあり及びなしでM-2培地と培養されたCalu-3細胞のウェルがこれらのアッセイにおいてそれぞれ陽性及び陰性対照として含められた。上清が72時間時に採取され、感染性ウイルス力価が標準的なVero E6ベースの感染力アッセイにより定量化され、該力価がlog10 TCID50/mlとして表される。
【0106】
実施例6
HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E及びHCoV-HKU1から選択される少なくとも1つの一般的なヒトコロナウイルス並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2から選択される少なくとも1つの高病原性ヒトコロナウイルスに対して免疫応答性の実施例5からの抗体がイン・ビボ有効性研究の為に選択される。イン・ビボウイルス負荷研究は以下のように行われる。
【0107】
SARS-CoV-2及びSARS-CoV
モノクローナル抗体(0.1~2mg/kg)がゴールデンシリアンハムスターの鼻腔内に投与される。以前(Sia,S.F.,Yan,L.,Chin,A.W.H.et al.Pathogenesis and transmission of SARS-CoV-2 in golden hamsters.Nature (2020))に記載されたように、2時間後に、該ゴールデンシリアンハムスターは、SARS-CoV-2又はSARS-CoVで負荷される。該SARS-CoV-2に感染させた動物の体重が、感染前から感染の14日後まで測定される。イン・ビボで保護効果を提供する抗体は、処置されていない動物と比較して体重損失を予防する又は低減させる。
【0108】
SARS-CoVに感染させたゴールデンシリアンハムスターにおいてモノクローナル抗体の効果を決定する為に、肺病理が感染の8日後にスコア付けされる。イン・ビボで保護効果を提供する抗体は、処置されていない動物と比較して肺病理を予防する又は低減させる。
【0109】
MERS-CoV
モノクローナル抗体(0.1~2mg/kg)がhDPP4トランスジェニックマウスの鼻腔内に投与される。以前(Kim J et al.Middle East Respiratory Syndrome-Coronavirus Infection Into Established hDPP4-Transgenic Mice Accelerates Lung Damage Via Activation of the Pro-Inflammatory Response and Pulmonary Fibrosis.J Microbiol Biotechnol.2020 Mar 28;30(3):427-438.)に記載されたように、2時間後に該hDPP4トランスジェニックマウスはMERS-CoVで負荷される。該MERS-CoVに感染させたマウスの体重が、感染前から感染の14日後まで測定される。イン・ビボで保護効果を提供する抗体は、処置されていない動物と比較して体重損失を予防する又は低減させる。
【0110】
実施例7
静脈血試料が、Leiden、the Netherlandsに住む成人ボランティア(40~62歳の範囲に及ぶ)から収集された。PBMCが単離され、後の分析の為に凍結保存された。全ての参加者は、血液収集前10日以内にコロナウイルスに感染した(可能性がある)人物と接触していないと回答し、またいずれの参加者もSARS-CoV-2の試験で以前に陽性とされていなかった。鼻スワブが収集され、他のヒトコロナウイルスの中でもNL63、OC43、HKU1、229E及びSARS-CoV-2を包含するマルチプレックス呼吸器ウイルスPCRにおいて試験され、全てのボランティアは全てのウイルスについて陰性であると試験された。血清試料は、hCoV NL63、OC43、HKU1、及び229Eのスパイクタンパクに対するIgG抗体力価を評価する為に1:4,000で希釈され、マルチプレックスLuminexアッセイにおいて病原性hCoV SARS-COV-1、MERS-COV及びSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対するIgG抗体力価を評価する為に1:200で希釈された。先行する発見(Grobben et al.2021)に基づいて、ドナーは、NL63、OC43、HKU1、及び229Eに対するIgGについて≧125MFIの結果、並びにSARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2に対するIgGについて≧2,500MFIの結果を返す場合に、以前の1以上の感染症について陽性であると考えられた。これらのカットオフに基づいて各々のボランティアは、4つ全てのhCoV NL63、OC43、HKU1、及び229Eに過去に感染したと考えられ(ドナーID番号:1001~1020;表1);全員はMERS-CoV及びSARS-CoV-1による過去の感染症について陰性であると試験され、2人を除いて全員は、過去のSARS-CoV-2感染症について陰性であると試験された(ドナーID番号:1007及び1017は陽性であると試験され、表1に含まれていない)。
【0111】
末梢血単核細胞(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)が、ヒトドナーから収集された静脈血試料から得られ、B細胞について濃縮された。B細胞を濃縮されたPBMCは、
図1に示されているように、メモリーB細胞マーカー及び一般的なhCOV NL63スパイク(S)タンパク質への結合に基づいてFACSにおいて単一細胞選別された。mRNAが、NL63 S特異的な単一選別されたB細胞から得られ、cDNAに転写され、該B細胞により発現される抗体のV(D)J可変領域がPCRにより増幅された。表1は、単一細胞選別されることができたNL63 S特異的なB細胞の数及び異なるドナーに由来することができた成功裏のVH VLペアの数を例として示す。該表はまた、該選別されたNL63-S特異的なメモリーB細胞及びそれに由来するVH VLペアのどれほど多くが選別前に該FACSアッセイにおいてSARS-CoV-2 Sに結合したかの他に、発現された抗体のアイソタイプを示す。選別B、E及びFにおいて単一細胞選別されたNL63 SメモリーB細胞について、該組換え抗体の重鎖及び軽鎖の可変V(D)J領域が次に、Gibsonアセンブリーを使用して該重鎖又は軽鎖についてのヒトIgG1の定常領域を含有する発現ベクターにクローニングされた。接着HEK293T細胞が小スケールトランスフェクションの為に使用され、上清がトランスフェクションの48時間後に採取された。異なる方法が、該上清を分析する為に使用され、これは、一般的なhCoV NL63及び病原性hCoV SAR-CoV-2(武漢)のスパイクタンパク質への抗体の結合を評価するLuminex又はELISAアッセイ、並びに一般的なhCoV NL63及びOC43並びに病原性hCoV SARS-CoV-2の2つのバリアント(ブラジル及び南アフリカバリアント)のスパイクタンパク質への抗体の結合を評価する為のFACS分析を含んだ(分析の為に利用可能な限られた体積に起因して、異なる選別に由来する上清は、異なる方法を試験して分析された)。結果は
図2並びに表2及び表3に示され、少なくとも1つの一般的なhCoVのSタンパク質及び病原性hCoV SARS-CoV-2のSタンパク質に結合する抗体を産生した複数のクローンが同定され、一部のクローンは、安定化されたSARS-CoV-2 S2三量体への結合を追加的に示した。これらのクローンはその後に、懸濁HEK293F細胞におけるトランスフェクション及びmAbの大スケール発現の為に選択された。精製された抗体は、一般的なhCoV NL63及び病原体hCoV SARS-CoV-2のスパイクタンパク質への結合についてFACS分析において、並びにSARS-CoV-2のS2サブユニットの安定化された三量体への結合についてELISAアッセイにおいて試験された。結果が、
図3A及び
図3B並びに下記の表4に示されている。
【0112】
【0113】
HEK293T培養物
HEK293T培養物 上清 B/E選別
「選別B及びE」に由来するクローンが293T細胞においてトランスフェクションされ、上清が、1.一般的なhCoV NL63及び病原性hCoV SAR-CoV-2(武漢)のスパイクタンパク質への結合についてLuminexアッセイにおいて、並びに2.一般的なhCoV NL63及びOC43並びに病原性hCoV SARS-CoV-2の2つのバリアント(ブラジル及び南アフリカバリアント)のスパイクタンパク質への結合についてFACS分析において試験された。少なくとも1つの一般的なhCoV及び少なくとも1つの病原性SARS-CoV-2バリアントのSに結合する抗体を産生するクローンについてのデータが表2に示され、これらのクローンはその後に、293F細胞におけるトランスフェクションの為に選択された。
【0114】
少なくとも1つの一般的なhCoV(NL63)並びに少なくとも1つの病原性hCoV(B1C1&B1E3:SARS-CoV-2武漢及びブラジルバリアント;並びにE1B2:SARS-CoV-2武漢及び南アフリカバリアント)のスパイクタンパク質に結合する抗体を産生する3つのクローン(B1C1、B1E3&E1B2)。
【0115】
少なくとも2つの一般的なhCoV(NL63&OC43)及び少なくとも1つの病原性hCoV(SARS-CoV-2ブラジルバリアント)のスパイクタンパク質に結合する抗体を産生する2つのクローン(B1B2&B1E8)。
【0116】
【0117】
HEK293T培養物 上清 F選別
「選別F」に由来するクローンが293T細胞においてトランスフェクションされ、上清が、一般的なhCoV NL63及び病原性hCoV SAR-CoV-2(武漢)のスパイクタンパク質の他に、SAR-CoV-2(武漢)のS2サブユニットの安定化された三量体への結合についてELISAアッセイにおいて試験された。NL63 S及びSARS-CoV-2 Sに結合する抗体を産生し、その後に293F細胞におけるトランスフェクションの為に選択されたクローンについてのデータが示されている(
図2及び下記の表3)。
【0118】
4つのクローン(F6B2、F6G1、F6F6及びF6A10)は、一般的なhCoV NL63(試験された一般的なhCoV Sのみ)及び病原性hCoV SARS-CoV-2(試験された病原性hCoV Sのみ)のSタンパク質に結合する抗体を産生した。クローンF6B2及びF6F6はSARS-CoV-2 S2三量体への結合を追加的に示した。
【0119】
【0120】
HEK293F培養物
293F培養物 精製された抗体 B/E及びF選別
少なくとも1つの一般的なhCoV及び病原性SARS-CoV-2のSに結合する抗体を製造する為に選択されたクローンが293F細胞にトランスフェクションされ、抗体が培養物から精製され、1.一般的なhCoV NL63、並びにhCoV OC43及び229E(選別B/Eのみに由来するクローン)並びに病原体hCoV SARS-CoV-2(武漢)のスパイクタンパク質への結合についてFACS分析において、並びに2.SARS-CoV-2のS2サブユニットの安定化された三量体への結合についてELISAアッセイにおいて試験された。
【0121】
6つのクローン(B1B2、B1C1、B1E3、B1E8、F6B2&F6F6)からの精製された抗体は、第2の一般的なhCoV(229E)のスパイクタンパク質に結合するB/E選別からの2つのクローン並びに3つの試験された一般的なhCoV(NL63、229E、及びOC43)のスパイクタンパク質に結合するこの選別からの1つのクローン(B1E8)を含めて、一般的なhCoV NL63(F選別由来のクローンについて、試験された一般的なhCoVのみ)のスパイクタンパク質への結合を示し、6つ全てのクローンはまた、FACSにおいて病原性hCoV SARS-CoV-2(試験された武漢のみ)に結合した。クローンE1B2、F6A10、及びF6G1により産生された抗体は、該FACS実験においてSARS-CoV-2 Sへの良好な結合を示したが、親メモリーB細胞はNL63 Sへのそれらの結合に基づいて選別され、該293T培養物において産生された抗体はNL63 Sへの良好な結合を示したにもかかわらず、NL63 Sへの低い/無結合を示した。表4及び
図3Aを参照。
【0122】
クローンF6G1からの293F培養物で精製された抗体は、ELISAにおいてSARS-CoV-2のS2サブユニットの安定化された三量体への結合を示し、クローンB1C1により産生される抗体は、より高い濃度で試験された場合にS2に結合することの何らかの証拠があった。
図3B及び下記の表4を参照。
【0123】
【0124】
【0125】
材料及び方法
コロナウイルスSタンパク質の設計
T4三量体化ドメイン及びヘキサヒスチジン(His)タグを有するSARS-CoV-2の融合前Sタンパク質エクトドメイン、並びにSARS-CoV-2のRBDドメインは、以前(Brouwer et al.2020)に記載されたように設計及びクローニングされ、T4三量体化ドメイン及びStrepIIタグを有するSARS-CoV-2 S2エクトドメインが作製された。他のヒトコロナウイルスの融合前Sタンパク質エクトドメインは、この配列を鋳型として使用して設計され、Genscriptに注文された。切断部位は、異なるタンパク質配列のアライメントにより選択された。存在する場合、フューリン切断部位は、SARS-CoV-2 Sタンパク質参照配列中の682~685に対応するアミノ酸において「GGGG」で置き換えられ、プロリン置換が、SARS-CoV-2参照配列中の986及び987に対応するアミノ酸において挿入された。Genbank ID MN908947.3(SARS-CoV-2)、ABD72984.1(SARS-CoV)、AHI48550.1(MERS-CoV)、AAT84362.1(OC43-CoV)、Q0ZME7(HKU1-CoV)、NP_073551.1(229E-CoV)及びAKT07952.1(NL63-CoV)は、タンパク質設計の為の鋳型として役立った。Aviタグが、フローサイトメトリーにおいて使用されるタンパク質の為に該三量体化ドメインと該hisタグとの間に付加された。
【0126】
コロナウイルスSタンパク質の発現及び精製
SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2、NL63-CoV、OC43-CoV、HKU1-CoV、及び229E-CoVスパイクタンパク質は、Freestyle培地(Life Technologies)中に維持されたHEK293F細胞(Invitrogen)において製造された。トランスフェクションが、1リットル当たり50mLのOptiMEM(Gibco)において1mg/Lのポリエチレンイミン塩酸塩(PEI)MAX(Polysciences)及び3:1の比で312.5μg/Lの該発現プラスミドを使用して行われた。上清が4000rpmで30分間の遠心分離によりトランスフェクションの7日後に採取され、続いて0.22μM Steritopフィルターユニット(Merck Millipore)を使用して該上清が濾過された。Hisタグ付加されたタンパク質は、ニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)アガロースビーズ(Qiagen)を使用してアフィニティークロマトグラフィーを用いて清澄化された上清から精製された。100kDa分子量カットオフ(MWCO)Vivaspin遠心濃縮装置を使用して溶出液が濃縮され、PBSに緩衝液交換された。凝集した及び単量体タンパク質画分を除去する為の更なる精製が、PBSを緩衝剤として使用するSuperose 6 increase 10/300 GL column(GE Healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィーを使用して行われた。三量体Sタンパク質は約13mLの体積で溶出された。三量体タンパク質を含有する画分がプールされ、100kDa MWCO Vivaspin遠心濃縮装置を使用して濃縮された。もたらされたタンパク質濃度が、Nanodrop 2000分光光度計を使用して決定された。タンパク質は、必要とされるまで-80℃で貯蔵された。
【0127】
aviタグを有するタンパク質は、生産者のプロトコールに従って全てのタンパク質について同じ条件を使用してBirA kit(Avidity)を用いてビオチン化された。その後に、タンパク質は、SuperDex200 10/300 GL increase columnを使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により更に精製された。S三量体タンパク質に対応するピーク画分がプールされ、再び濃縮され、PBS中-80℃で貯蔵された。
【0128】
コロナウイルスSタンパク質に結合する抗体を評価するLuminexアッセイ
タンパク質は、2ステップカルボジイミド反応を使用してLuminex Magplexビーズに共有結合的に連結された。SARS-CoV-2 Sタンパク質は、75μgのタンパク質と1250万個のビーズとの比で連結された。他のタンパク質は、SARS-CoV-2 Sタンパク質に対して等モルで連結された。SARS-CoV-2 S1及びS2タンパク質はAbclonalから得られた。Luminex Magplexビーズ(Luminex)が100mM一塩基性リン酸ナトリウム(pH6.2)で洗浄され、スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Thermo Fisher Scientific)及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Thermo Fisher Scientific)の添加により活性化され、ローテーター上で、室温で30分間インキュベーションされた。活性化されたビーズは、50mM MES(pH5.0)で3回洗浄された。タンパク質は50mM MES(pH5.0)中に希釈され、該ビーズに加えられた。該ビーズ及びタンパク質はローテーター上で、室温で3時間インキュベーションされた。次に、該タンパク質をコンジュゲートされたビーズはPBSで洗浄され、2%のBSA、3%のウシ胎仔血清(FCS)及び0.02%のTween-20を含有するpH7.0のPBSを用いてローテーター上で、室温で30分間ブロッキングされた。タンパク質をコンジュゲートされたビーズは洗浄され、0.05%のアジ化ナトリウムを含有するPBS中4℃で貯蔵され、6ヶ月以内に使用された。各々のSタンパク質を連結されたビーズ上の該Hisタグの検出が、該ビーズ上のタンパク質の量を確認する為に使用された。
【0129】
各々のタンパク質-ビーズコンジュゲート1μl当たり20個のビーズを含有する50μlの作業用ビーズ混合物は、50μlの希釈された血清と一晩インキュベーションされた。プレートは密閉され、プレートシェーカー上4℃で一晩インキュベーションされた。翌日に、プレートは、携帯式磁気分離装置を使用して0.05%のTween-20を含有するTBS(TBST)を用いて洗浄された。タンパク質をコンジュゲートされたビーズは、50μlのヤギ-抗ヒトIgG-PE(Southern Biotech)中に再懸濁され、プレートシェーカー上で、室温で2時間インキュベーションされた。次に、ビーズは、TBSTで洗浄され、70μlのMagpix drive fluid(Luminex)中に再懸濁され、プレートシェーカー上で、室温で数分間静置された。読み出しが次にMagpix(Luminex)上で行われた。メジアン蛍光強度(MFI)値がウェル当たり約50個のビーズのメジアンとして評価され、緩衝剤及びビーズのみのウェルからのMFI値の減算により補正された。
【0130】
単一細胞メモリーB細胞選別
フローサイトメトリーにおいてコロナウイルスタンパク質に結合するB細胞を同定する為に、Brouwer et al.(Science 2020)に記載されているように、ビオチン化された組換えCoV(NL63)及びSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質はストレプトアビジンフルオロフォアとコンジュゲートされ、蛍光標識されたプローブがもたらされた。簡潔に述べれば、組換えNL63 Sタンパク質は、2:1のモル比でストレプトアビジン-コンジュゲートAF647(0.5mg/mL、BioLegend)及びBV421(0.1mg/mL BioLegend)にコンジュゲートされた。組換えSARS-CoV-2 Sタンパク質は、ストレプトアビジンBB515(0.1mg/mL BD Biosciences)を用いて標識された。コンジュゲーションのインキュベーションは、4℃で最低1時間行われた。プローブのコンジュゲーションは、10mM遊離ビオチン(Genecopoeia)との15分のインキュベーションにより停止された。
【0131】
末梢血単核細胞(PBMC)は最初に、生産者の指示書に従ってHuman B cell enrichment kit(Stemcell)を使用してB細胞について濃縮された。B細胞を濃縮されたPBMCは次に、該蛍光標識されたコロナウイルスと4℃で30分間インキュベーションされた。スパイクタンパク質(NL63S-AF647;NL63S-BV421;SARS-CoV-2 S-BB515;生/死細胞マーカー(viability-eF780、eBiosciences);表面マーカーCD20-PE-CF594(2H7、BD Biosciences)、CD27-PE(L128、BD Biosciences)、IgG AF700(G18-145、BD Biosciences)、IgM-BV605(MHM-88、BioLegend)、IgD-PE-Cy7(IA6-2、Biolegend);並びに、T細胞マーカーCD3(UCHT1、eBiosciences)及びCD4(OKT4、eBiosciences)、単球及びマクロファージマーカーCD14(C1D3、eBiosciences)、並びにNK細胞マーカーCD16(CB16、eBiosciences)を包含する、全ての非B細胞を排除する為の同じフルオロフォアAPC-eF780を有する様々な表面マーカー。1mM EDTA及び2%のウシ胎仔血清を補充されたPBS(ダルベッコリン酸緩衝食塩水、eBiosciences)中での3回の洗浄後に、フローサイトメトリーが4-laser FACS ARIA(BD Biosciences)において行われた。生メモリーB細胞は、NL63 S(AF647及びBV421)、SARS-CoV-2 Sの結合、並びにアイソタイプ発現についてFlowJo(バージョン10.6.2)を使用して分析された。NL63 S(AF647及びBV421)について二重陽性の生メモリーB細胞(例示的な
図1を参照)は、空の96ウェルプレートへの収率純度を使用して単一細胞選別され、-80℃で少なくとも1時間直ちに凍結された後に、溶解され、mRNAをcDNAに転写する為の逆転写酵素(RT)-PCRが行われた。
【0132】
メモリーB細胞からの抗体cDNAの抽出
凍結された単一細胞選別されたメモリーB細胞は、20μlの総体積の20Uリボヌクレアーゼ(RNAse)阻害剤(Invitrogen)、first strand SuperScript III buffer(Invitrogen)、及び1.25μlの0.1Mジチオトレイトール(DTT)(Invitrogen)からなる溶解緩衝液(室温)中で再構成された。該溶解されたNL63 Sタンパク質特異的な単一B細胞のmRNAはRT-PCRによりcDNAに変換された。簡潔に述べれば、6μlの総体積の50UのSuperScript III RTase(Invitrogen)、2μlの6mM dNTP(Invitrogen)、及び200ngのランダム六量体プライマー(Thermo Scientific)が、単一の溶解された細胞を含有する各々のウェルに加えられた。以下のRTプログラムが使用された:42℃で10分、25℃で10分、50℃で60分、95℃で5分、及び4℃で無限時間。cDNAは、更なる分析まで-20℃で貯蔵された。
【0133】
該NL63 S特異的な単一細胞選別されたB細胞により発現された抗体のV(D)J可変領域は、Tiller et al J Immunol Methods 2008により以前に記載されたように増幅された。簡潔に述べれば、カッパ鎖及びラムダ鎖の両方について、PCR 1は、20μlの総体積で0.5UのMyTaqポリメラーゼ(BioLine)、0.1μMフォワード及びリバースの両方のマルチプレックスプライマー、MyTaq PCR反応緩衝液(BioLine)、並びに2μlのcDNAを用いて95℃で1分間、50サイクルの95℃で15秒、58℃で15秒、72℃で45秒、続いて72℃で10分行われた。該ネステッドPCRは、14.5μlの総体積で0.375UのHotStarTaq Plusポリメラーゼ(Qiagen)、0.2mM dNTP、0.034μMフォワード及びリバースの両方のマルチプレックスプライマー、HotstarTaq Plus PCR緩衝液(Qiagen)、並びに2μlのPCR 1生成物を用いて95℃で5分間、50サイクルの94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分、続いて72℃で10分行われた。重鎖の為に一次及び2つのネステッドPCR反応が行われた。簡潔に述べれば、該一次PCRは、14.5μlの総体積で0.375UのHotStarTaq Plusポリメラーゼ(Qiagen)、0.2mM dNTP、0.069μMフォワード及びリバースの両方のマルチプレックスプライマー、HotstarTaq Plus PCR緩衝液(Qiagen)、並びに2μlのcDNAを用いて95℃で5分間、50サイクルの94℃で30秒、52℃で30秒、72℃で1分、続いて72℃で10分行われた。該第1のネステッドPCRは、20μlの総体積で0.5UのMyTaqポリメラーゼ(Bioline)、0.05μMフォワード及びリバースの両方のマルチプレックスプライマー(39)、MyTaq PCR反応緩衝液(BioLine)、並びに2μlのPCR 1生成物を用いて95℃で1分間、30サイクルの95℃で15秒、58℃で15秒、72℃で45秒、続いて72℃で10分行われた。最終のPCRは、14.5μLの総体積で0.375UのHotStarTaq Plusポリメラーゼ(Qiagen)、0.2mM dNTP、ベクターオーバーハングを有する0.034μMフォワード及びリバースの両方のマルチプレックスプライマー、HotstarTaq Plus PCR緩衝液(Qiagen)、並びに2μlのPCR 2生成物を用いて95℃で5分間、50サイクルの94℃で30s、60℃で30s、72℃で1分、続いて72℃で10分行われた。
【0134】
抗体クローニング及び小スケール発現
全ての組換え抗体は、Sok et al.(PNAS 2014)及びvan Gils et al.(Nat Microbiol 2016)により以前に記載されたように哺乳動物細胞発現系において発現された。簡潔に述べれば、該抗体の重鎖及び軽鎖の可変V(D)J領域が、Gibsonアセンブリー(Gibson et al.Nat Methods 2009)を使用して該重鎖又は軽鎖の為のヒトIgG1の定常領域を含有する対応する発現ベクターにクローニングされた。該Gibsonアセンブリーは、2x Gibsonミックス(0.2UのT5エキソヌクレアーゼ(Epibio)、12.5UのPhusionポリメラーゼ(New England Biolabs)、Gibson反応緩衝液(0.5gのPEG-8000(Sigma Life Sciences)、1M Tris/HCl pH7.5、1M MgCl2、1M DTT、100mM dNTP、50mM NAD(New England Biolabs)、MQ))からなる自社製Gibsonミックスを用いて実行され、50℃で60分間行われた。該プラスミドの配列完全性はサンガーシークエンシングにより検証された。小スケールトランスフェクションの為に、接着HEK293T細胞(ATCC、CRL-11268)は、10%のウシ胎仔血清(FCS)、ペニシリン(100U/mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で維持され、van Gils et al.(Nat Microbiol 2016)により以前に記載されたようにトランスフェクションされた。HEK293T細胞が、トランスフェクションの24h前に24ウェル又は48ウェルプレートに、上記されている完全培地中にそれぞれ2.75x10^5又は1.5x10^5細胞/ウェルの密度で播種された。トランスフェクションミックスは、それぞれ200又は100μLのOpti-MEM中のlipofectamin 200(Invitrogen)と1:2.5の比を使用して1:1(w:w)のHC/LC比からなるものであった。室温で15分のインキュベーション後に、該トランスフェクションミックスが該細胞に加えられた。上清がトランスフェクションの48時間後に採取され、清澄化され、更なる分析まで4℃で貯蔵された。
【0135】
大スケール抗体発現及び精製
選択されたmAbのより大スケール発現の為に、懸濁HEK293F細胞(Invitrogen、カタログ番号R79007)は、FreeStyle培地(Gibco)中で培養され、1mg/LのPEImax(Polysciences)と1:3の比で80~120万個の細胞/mLの密度において1:1の比の対応する重鎖及び軽鎖を発現する該2つのIgGプラスミドを共トランスフェクションされた。該組換えIgG抗体は、以前(Sok et al.PNAS 2014)に記載されたように5日の培養後に細胞上清から単離された。簡潔には、細胞懸濁物は4000rpmで25分遠心分離され、上清は、0.22μmの孔径のSteriTopフィルター(Millipore)を使用して濾過された。該濾過された上清は、10mLのプロテインA/Gカラム(Pierce)に流され、続いて2カラム体積のPBS洗浄が行われた。該抗体は、0.1Mグリシン(pH2.5)を用いて1:9の比の該中和緩衝液1M TRIS(pH8.7)に溶出された。該精製された抗体は、100kDa VivaSpin20 column(Sartorius)を使用してPBSに緩衝液交換された。IgG濃度がNanoDrop 2000で決定され、該抗体は更なる分析まで4℃で貯蔵された。
【0136】
Ni2+-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)捕捉ELISA
SARS-CoV-2のHisタグ付加されたスパイクタンパク質及びStrepIIタグ付加されたS2タンパク質は、96ウェルNi-NTAプレート(Qiagen)上のカゼイン(Thermo Scientific)中にRTで2hロードされた。該プレートがTris緩衝食塩水(TBS)で洗浄された後に、10μg/mLの濃度から開始する、カゼイン中のmAbの3倍段階希釈液、又はHEK 293Tの抗体をトランスフェクションされた上清が加えられた。TBSでの3回の洗浄後に、カゼイン中のHRP標識されたヤギ抗ヒトIgG(Jackson Immunoresearch)の1:3000希釈液がRTで1時間加えられた。最後に、該プレートをTBS/0.05% Tween-20で5回洗浄した後に、顕色溶液(1% 3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(Sigma-Aldrich)、0.01%の過酸化水素、100mM酢酸ナトリウム及び100mMクエン酸)が加えられた。比色エンドポイントの顕色は4分間進行した後に、0.8M硫酸を加えることにより終了され、光学密度(OD値)が450nmで決定された。
【0137】
全長SARS-CoV-2及びCoVスパイクの発現及びFACSにおける結合
表面発現されるSARS-CoV-2及びCoVスパイクは、ペトリ皿中の12~15mLのHEK293T細胞(前日に3.0x10^6で播種された)への400μlのOptimem中の8μgのSARS-CoV-2全長プラスミドDNA及び25μlのPEImaxのトランスフェクションにより得られた。48時間後に、細胞は採取され、凍結された。解凍後に、関心対象のスパイクタンパク質を発現する293T細胞が96ウェルプレート中でウェル当たりPBS/0.5%FCS(FACS緩衝液)中に20,000~30,000細胞でプレーティングされ、293T細胞からの未精製の上清と、又は293F細胞における精製及び製造後のmAbの希釈液と1:1で、4℃で1時間インキュベーションされた。細胞はその後にFACS緩衝液で2回洗浄され、1:1000で希釈された、PEをコンジュゲートされたヤギF(ab)’2抗ヒトIgG(Southern Biotech 2042-09)を含有する50μlのFACS緩衝液中、4℃及び暗所で30分間染色された。細胞はFACS緩衝液で更に1回洗浄され、FACS canto II analyzer(BD)で分析された。試料はFlowJoソフトウェアにより分析され、結合を示す細胞のパーセンテージがプロットされた。
【0138】
方法は、以下の参考文献において更に記載されている。
【0139】
【国際調査報告】