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特表2023-533383海洋性細菌性エキソポリサッカライド誘導体及びムコ多糖症の処置におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】海洋性細菌性エキソポリサッカライド誘導体及びムコ多糖症の処置におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20230726BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P3/00
A61K35/74 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523675
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2021068202
(87)【国際公開番号】W WO2022003112
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20183661.6
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506413247
【氏名又は名称】アンスティテュ・フランセ・ドゥ・レシェルシェ・プール・レクスプローテシオン・ドゥ・ラ・メール (イエフエルウメール)
(71)【出願人】
【識別番号】522504260
【氏名又は名称】フォンダシオン・サンフィリッポ・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・コリエク-ジュオル
(72)【発明者】
【氏名】コランヌ・サンキン
(72)【発明者】
【氏名】アガタ・ズィクウィンスカ
(72)【発明者】
【氏名】アリアヌ・デ・アゴスティーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・ティレ
(72)【発明者】
【氏名】ノエミ・ヴェラルディ
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・デンタン-クアドリ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー・ムボッソ・ベフォール
(72)【発明者】
【氏名】ナウェル・ゾグガリ
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC21
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC54
4C087CA10
4C087CA14
4C087NA14
4C087ZC21
(57)【要約】
本発明は、深海熱水環境からの中温性の海洋性細菌によって分泌される海洋性の天然エキソポリサッカライドから調製される、抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖を提供し、ムコ多糖症、特にムコ多糖症III型(サンフィリッポ症候群)の予防又は処置のためのこれらの低分子量の過硫酸化多糖の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるムコ多糖症の予防又は処置における使用のための抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖であって、深海熱水環境からの中温性の海洋性細菌によって分泌される天然のエキソポリサッカライド(EPS)の誘導体であり、以下の工程:
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する脱重合されたEPSを得るための、アルテロモナス属のGY785株又はビブリオ・ジアボリクスのHE800株からの海洋性の天然EPSのフリーラジカル脱重合からなる工程;
(b)過硫酸化され脱重合されたEPSを得るための脱重合されたEPSの硫酸化からなるその後の工程であって、脱重合されたEPSに少なくとも1つの硫酸化剤を、過硫酸化され脱重合されたEPSの全質量と比較して10%~55質量%の硫酸基置換の程度を有する硫酸化多糖を得るのに十分な量で加えることを含む工程;及び
(c)過硫酸化され脱重合されたEPSから低分子量の過硫酸化多糖を単離することからなるその後の工程であって、低分子量の過硫酸化多糖は約5,000~約16,000g/molの分子量を有する工程、
を含む方法を使用して得られる、低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項2】
工程(a)で前記フリーラジカル脱重合がGY785株によって分泌される天然のGY785 EPSで実行され、約6kDa~約10kDa又は約7kDa~約9kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約30%~約40質量%の硫酸基置換の程度を有する、請求項1に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項3】
約8kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約36質量%の硫酸基置換の程度を有するGYS8である、請求項2に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項4】
工程(a)で、前記フリーラジカル脱重合がHE800株によって分泌される天然のHE800 EPSで実行され、約3kDa~約7kDa又は約4kDa~約6kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約45%~約55質量%の硫酸基置換の程度を有する、請求項1に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項5】
約5.1kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約50質量%の硫酸基置換の程度を有するHE5.1である、請求項4に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項6】
前記過硫酸化され脱重合されたEPSから前記低分子量の過硫酸化多糖を単離する工程が、分別、特にサイズ排除クロマトグラフィーによって実行される分別によって実行される、請求項1から5のいずれか一項に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項7】
前記ムコ多糖症がムコ多糖症III型である、請求項1から6のいずれか一項に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項8】
ムコ多糖III型が、サブタイプA、サブタイプB、サブタイプC又はサブタイプDである、請求項7に記載の低分子量の過硫酸化多糖。
【請求項9】
対象においてムコ多糖症の予防又は処置における使用のための、治療的有効量の請求項1から6のいずれか一項に記載の抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
前記ムコ多糖症がムコ多糖症III型である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ムコ多糖III型が、サブタイプA、サブタイプB、サブタイプC又はサブタイプDである、請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年7月2日に出願された欧州特許出願番号EP 20 183 661.6への優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ムコ多糖症(MPS)は、より大きなリソソーム蓄積症(LSD)ファミリーの中の稀な遺伝性の代謝障害のグループである。全体の発生率は、25,000~30,000の出生数の1例である。しかし、ムコ多糖症、特に疾患のより軽度の形態はしばしば認識されないので、これらの障害は過小診断されるか誤診断され、一般集団でそれらの真の頻度を決定することを困難にしている。MPSは、グリコサミノグリカン(GAG)-結合組織生物学及び細胞クロストークにおいて必須の役割を行う長い非分枝状多糖-の代謝(異化又は分解)に関与する11の特定のリソソーム酵素のいずれか1つの欠乏症(不在又は機能不全)によって特徴付けられる。そのようなリソソーム酵素欠乏症は、リソソームの中で分解されない及び部分的に分解されたGAGの蓄積につながり、多系疾患を起こす恒久的な進行性の細胞傷害をもたらす。MPS障害の個体は、多くの類似の症状、例えば複数臓器の関与、特徴的な「粗い」顔の特徴、及び骨格の異常、特に関節の問題を共有する。追加の所見には、低い背丈、心臓異常、呼吸不規則性、肝臓及び脾臓肥大及び/又は神経異常が含まれる。異なるMPS障害の重症度は、罹患個体の間で、同じ種類のMPSを有する個体の間でさえ、及び同じファミリーの個体の間でさえ大いに異なる。各MPSは臨床的に異なるが、ほとんどの患者はある期間の正常な発達、続いて身体的及び/又は精神的な機能の衰退を一般的に経験する。MPSには、以下の異なるタイプが含まれる:MPS I-H/S(ハーラー/シェイエ症候群)、MPS I-H(ハーラー症候群)、MPS I-S(シェイエ症候群)、MPS II(ハンター症候群)、MPS III(サンフィリッポ症候群)、MPS IV(モルキオ症候群)、MPS IX(ヒアルロニダーゼ欠乏症又はNatowicz症候群)、MPS VII(スライ症候群)及びMPS VI(マロトー・ラミー症候群)。現在、支持療法及び合併症の処置で利用可能である特異的処置はなく、MPS患者の大きなサブグループのために処置戦略が必要とされる。
【0003】
MPS障害のうち、サンフィリッポ症候群としても公知のIII型ムコ多糖症が最も一般的である。MPS IIIは、以下の4つの異なるサブタイプで構成される:A、B、C及びD、各サブタイプはヘパラン硫酸の分解に関与する4つの酵素のうちの1つの欠乏症によって引き起こされる。MPS IIIの全体的発生率は100,000の出生数あたり0.28~4.1である。異なるサブタイプの発生率は非常に不均等な地理的分布を有する;しかし、タイプA及びBは、タイプC及びDより常に一般的である。全てのMPS IIIサブタイプで、中枢神経系(CNS)の関与が際立つが(神経変性、進行性認知症、活動過多、発作及び行動障害)、成長に影響を及ぼして変性関節疾患、肝脾腫大、大頭蓋(macrocrania)及び難聴を引き起こす骨格病状等の他の症状が存在することもある。減弱患者を除いて、20代で通常死に至り、MPS IIIサブタイプAの児童の生存率はより短い。現在、サンフィリッポ症候群患者のための治療法も標準処置もない。有効な療法がない場合、患者ケアは症状管理及び待期的サポートに限定される。MPS III障害は注目及び研究を正当化するのに十分に患者を衰弱させ、親及び介護者にとって困難である。遺伝子療法、骨髄移植、シャペロン分子、基質収奪療法(substrate deprivation therapy)及びクモ膜下酵素療法は、最も活発な治療研究領域の一つである。
【0004】
破壊的な精神及び行動の悪化を止める治療的介入が、将来のある時点で実行可能である可能性があるという希望をいくつかの進展が与えているが、MPS III及び他のMPSで利用可能である有効な療法は現在ない。したがって、ムコ多糖症障害の処置における治療オプションの必要性が当技術分野になおある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2006/003290
【特許文献2】WO 2007/066009
【特許文献3】WO 02/02051号
【特許文献4】欧州特許出願EP 0 221 977
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、18版、1990、Mack Publishing社: Easton、PA
【非特許文献2】Rehm等、Rev. Microbiol.、2010、8: 578~592頁
【非特許文献3】Colliec-Jouault等、Handbook of Exp. Pharmacol.、2012、423~449頁
【非特許文献4】Delbarre-Ladrat等、Microorganisms、2017、5(3): 53頁
【非特許文献5】Raguenes等、Int. J. Syst. Bacteriol.、1997、47: 989~995頁
【非特許文献6】Rougeaux等、J. Carbohydr. Res.、1999、322: 40~45頁
【非特許文献7】Raguenes等、J. Appl. Microbiol.、1997、82: 422~430頁
【非特許文献8】Roger等、Carbohydr. Res.、2004、339: 2371~2380頁
【非特許文献9】Guezennec等、Carbohydr. Polym.、1998、37: 19~24頁
【非特許文献10】Colliec-Jouault等、Biochim. Biophys. Acta、2001、1528: 141~151頁
【非特許文献11】Senni等、Mar. Drugs、2013、11: 1351~1369頁
【非特許文献12】Merceron等、Stem Cells、2012、30: 471~480頁
【非特許文献13】Senni等、Mar. Drugs、2011、9: 1664~1681頁
【非特許文献14】Heymann等、Molecules、2016、21:309頁
【非特許文献15】Ruiz Velasco等、Glycobiology、2011、21: 781~795
【非特許文献16】Crawley等、Brain Res.、2006、1104: 1~17頁
【非特許文献17】Colliec-Jouault等、J. Biol. Chem.、1994、269: 24953~24958頁
【非特許文献18】Yanagishita及びHascall、Proteoglycan metabolism by rat ovarian granulosa cells in vitro。典拠: Wight、Mecham RP(編)、Biology of the proteoglycans、第1版。Orlando: Academic Press社; 1987: 105~128頁
【非特許文献19】Mulloy等、Thromb Haemost. 1997、77(4): 668~674頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
GY785株(アルテロモナス属のアルテロモナス・インフェルヌス(Alteromonas infernus)種)によって分泌される海洋性の天然のエキソポリサッカライド(EPS)から、又はHE800株(ビブリオ属のビブリオ・ジアボリクス(Vibrio diabolicus)種)から得られる低分子量の過硫酸化多糖は、抗ヘパラナーゼ(HPSE)活性を示すことを本発明者は示した。低分子量の過硫酸化多糖は、ヘパラン硫酸(HS)代謝回転に影響を及ぼすことができ、したがって、タイプIIIAのムコ多糖症のマウスモデルに由来する線維芽細胞における細胞内HSの不完全な分解につながることを証明した。ヘパラナーゼはその異化経路においてヘパラン硫酸を分解する最初の酵素であり、エキソグリコシダーゼによってリソソーム内でその後脱重合されるHS鎖の大きなセグメントを切断する。その機構は完全には理解されていないが、HPSEによって切断されない(低分子量の過硫酸化多糖の阻害作用のために)インタクトなHS鎖は、リソソーム分解経路に入ることができず、細胞外間隙に方向転換されて血液及び尿中でクリアランスされると考えられている。したがって、毒性のリソソームHS蓄積から細胞を保存することができる。低分子量の過硫酸化多糖による処置は、不完全に分解されたヘパラン硫酸によるリソソーム過負荷による症状を緩和する可能性がある。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象におけるムコ多糖症の予防又は処置における使用のための抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖であって、深海熱水環境からの中温性の海洋性細菌によって分泌される天然のエキソポリサッカライド(EPS)の誘導体であり、以下の工程:
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する脱重合されたEPSを得るための、アルテロモナス属のGY785株又はビブリオ・ジアボリクスのHE800株からの海洋性の天然EPSのフリーラジカル脱重合からなる工程;
(b)過硫酸化され脱重合されたEPSを得るための脱重合されたEPSの硫酸化からなるその後の工程であって、脱重合されたEPSに少なくとも1つの硫酸化剤を、過硫酸化され脱重合されたEPSの全質量と比較して10%~55質量%の硫酸基置換の程度を有する硫酸化多糖を得るのに十分な量で加えることを含む工程;及び
(c)過硫酸化され脱重合されたEPSから低分子量の過硫酸化多糖を単離することからなるその後の工程であって、低分子量の過硫酸化多糖は約5,000~約16,000g/molの分子量を有する工程
を含む方法を使用して得られる、低分子量の過硫酸化多糖に関する。
【0009】
ある特定の実施形態では、上で規定される調製方法の工程(a)では、フリーラジカル脱重合はGY785株によって分泌される天然のGY785 EPSで実行され、抗ヘパラナーゼ活性を有する前記低分子量の過硫酸化多糖は、約6kDa~約10kDa又は約7kDa~約9kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約30%~約40質量%の硫酸基置換の程度を有する。
【0010】
例えば、抗ヘパラナーゼ活性を有する前記低分子量の過硫酸化多糖は、約8kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約36質量%の硫酸基置換の程度を有するGYS8であってもよい。
【0011】
ある特定の実施形態では、上で規定される調製方法の工程(a)では、フリーラジカル脱重合はHE800株によって分泌される天然のHE800 EPSで実行され、抗ヘパラナーゼ活性を有する前記低分子量の過硫酸化多糖は、約3kDa~約7kDa又は約4kDa~約6kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約45%~約55質量%の硫酸基置換の程度を有する。
【0012】
例えば、抗ヘパラナーゼ活性を有する前記低分子量の過硫酸化多糖は約5.1kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約50質量%の硫酸基置換の程度を有するHE5.1であってもよい。
【0013】
ある特定の実施形態では、過硫酸化され脱重合されたEPSから低分子量の過硫酸化多糖を単離する工程は、分別、特にサイズ排除クロマトグラフィーによって実行される分別によって実行される。
【0014】
ある特定の実施形態では、ムコ多糖症はムコ多糖症III型である。ムコ多糖III型は、サブタイプA、サブタイプB、サブタイプC又はサブタイプDであってもよい。
【0015】
別の態様では、本発明は、対象においてムコ多糖症の予防又は処置における使用のための、本明細書に規定される治療的有効量の抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0016】
ある特定の実施形態では、ムコ多糖症はムコ多糖症III型である。ムコ多糖III型は、サブタイプA、サブタイプB、サブタイプC又はサブタイプDであってもよい。
【0017】
本発明のこれら及び他の目的、利点並びに特徴は、好ましい実施形態の以下の詳細な記載を読んだ当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びヘパラナーゼトラフィッキングの概要モデルを示す図である。
図2】全プロテオグリカンへの処置の影響を示す図である。グラフは、対照及び処置細胞(MPSIIIAのマウスモデルに由来する線維芽細胞)におけるプロテオグリカンの総量を示す。各エキソポリサッカライド誘導体(HES5.1(A5_3)及びGYS8(A5_4))について、2つの独立した実験の平均を±S.D.で示す。
図3】対照及び処置細胞におけるプロテオグリカンの分布を示す図である。グラフは、第1の精製工程の後の、全プロテオグリカンに対応する細胞外及び細胞内コンパートメントで測定された放射能を示す。各エキソポリサッカライド誘導体について、2つの独立した実験の平均を±S.D.で示す。
図4】対照及び処置細胞におけるへパラン硫酸の分布を示す図である。グラフは、細胞外及び細胞内コンパートメントにおける対応するプロテオグリカン(PG)中のヘパラン硫酸(HS)のパーセンテージを示す。各コンパートメント中のPGSは、100%とみなされる。各化合物((A)A5_4(GYS8)及び(B)A5_3(HES5.1))について、2つの独立した実験の平均を±S.D.で示す。
図5】MPSIIIA細胞における細胞内及び細胞外ヘパラン硫酸(HS)のPAGE-NaClプロファイルを示す図である。HSは対照細胞から単離し、PAGEによって分析した。標準は、Azure A 0.08%で検出し、MPSIIIA細胞からのHSはオートラジオグラフィーによって検出した。左側にはソフトウェアImageJを使用して得た細胞内及び細胞外HSのプロファイルを示し、対応するゲルは右側に示す。
図6】GFCによって得たプロファイルを示す図である。(A)第1のグラフは標準曲線を提示する。標準の分子量が示される。(B)第2のグラフは、対照MPSIIIA細胞における細胞内及び細胞外HSのプロファイルを提示する。
図7】A5_3(HES5.1)で処置したMPSIIIA細胞における細胞内及び細胞外HSのPAGE-NaClプロファイルを示す図である。HSは対照及び処置細胞から単離し、PAGE NaClによって分析し、オートラジオグラフィーによって検出した。
図8】A5_4(GYS8)で処置したMPSIIIA細胞における細胞内及び細胞外HSのPAGE-NaClプロファイルを示す図である。HSは対照及び処置細胞から単離し、PAGE NaClによって分析し、オートラジオグラフィーによって検出した。
図9】対照(未処置)細胞及び20μg/mlのA5_3(HES5.1)で処置した細胞からのHSのGFCプロファイルを示す図である。(A)対照及び処置細胞からの細胞外HSのプロファイルの重ね合せ。(B)対照及び処置細胞からの細胞内HSのプロファイルの重ね合せ。処置は、細胞外HSのそれに対応する分子量(MW)の方へのシフトを引き起こす。
図10】対照(未処置)細胞及び20μg/mlのA5_4(GYS8)で処置した細胞からのHSのGFCプロファイルを示す図である。(A)対照及び処置細胞からの細胞外HSのプロファイルの重ね合せ。(B)対照及び処置細胞からの細胞内HSのプロファイルの重ね合せ。処置は、細胞外HSのそれに対応する分子量(MW)の方へのシフトを引き起こす。
図11】A5_3(HES5.1)で処置したMPSIIIA細胞からのHSのPAGEプロファイルを示す図である。(A)0、20、50及び100μg/mlのA5_3で処置した細胞からの細胞内HS。(B) 0、20、50及び100μg/mlのA5_3で処置した細胞からの細胞外HS。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書で使用されるように、用語「対象」は、ムコ多糖症を起こすことができるが、その疾患を患っていても患っていなくてもよい、ヒト又は別の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等)を指す。非ヒト対象は、トランスジェニックであるかさもなければ改変された動物であってもよい。本発明の多くの実施形態では、対象はヒトである。そのような実施形態では、対象は「個体」又は「患者」としばしば呼ばれる。これらの用語は特定の年齢を表さず、したがって新生児、児童、10代及び成人を包含する。用語「患者」は、より具体的には疾患を患っている個体を指す。したがって、用語「ムコ多糖症患者」は、ムコ多糖症を患っている(すなわち、診断された)個体を指す。
【0020】
本明細書で使用されるように、用語「阻害する」は、ある事が起こることを阻止すること、ある事が起こることの発生を遅らせること及び/又はある事が起こる程度若しくは可能性を低減することを意味する。したがって、本明細書で互換的に使用される用語「ヘパラナーゼ阻害剤」及び「HPSE阻害剤」は、ヘパラナーゼの正常な機能を阻害する(すなわち、阻止、低減及び/又は遅らせる)分子、化合物又は薬剤を指すものである。分子、化合物又は薬剤を特徴付けるために本明細書で使用される場合、用語「抗ヘパラナーゼ活性を有する」は、ヘパリナーゼ阻害剤である分子、化合物又は薬剤を指す。
【0021】
用語「処置」は、本明細書では(1)疾患若しくは状態(ここではムコ多糖症)の開始を遅らせるか阻止すること;(2)疾患若しくは状態の症状の進行、増悪若しくは悪化を遅くするか停止すること;(3)疾患若しくは状態の症状の改善をもたらすこと;又は(4)疾患若しくは状態を治療することを目指す方法又はプロセスを特徴付けるために使用される。処置は、治療作用のために疾患又は状態の開始後に投与することができる。或いは、処置は、予防的又は防止的作用のために、疾患又は状態の開始前に投与することができる。この場合、「予防」という用語が使用される。
【0022】
「医薬組成物」は、本発明による抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量(LMW)の過硫酸化多糖誘導体の有効量、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含むと本明細書で規定される。
【0023】
本明細書で使用されるように、用語「治療的有効量」は、その意図された目的、例えば、細胞、組織、系又は対象での所望の生物学的又は治療的応答を満たすのに十分な任意の量の分子、化合物、薬剤又は組成物を指す。
【0024】
用語「薬学的に許容される担体又は賦形剤」は、活性成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、それが投与される濃度で宿主に過度に毒性でない担体媒体を指す。この用語には、溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌及び抗真菌剤、等張剤、並びに吸着遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、18版、1990、Mack Publishing社: Easton、PA、を参照する)。
【0025】
数に関して本明細書で使用される用語「概ね」及び「約」は、特記しない限り又は別途文脈から明白でない限り、その数からいずれかの方向の(その数より大きいかそれ未満の)10%の範囲内の数を一般的に含む(そのような数が可能な値の100%を超えるような場合を除き)。
【0026】
前記の通り、本発明は、深海熱水環境からの中温性の海洋性細菌によって分泌される天然のエキソポリサッカライドの誘導体である、抗ヘパラナーゼ活性を有する低分子量の過硫酸化多糖を提供し、対象でムコ多糖症の予防又は処置における、特にIII型のムコ多糖症の予防又は処置における、これらの低分子量の過硫酸化多糖の使用に関する。
【0027】
I-低分子量過硫酸化エキソポリサッカライド誘導体
本発明で使用される低分子量の過硫酸化多糖は、深海熱水環境からの中温性海洋性細菌によって分泌される2つの天然のエキソポリサッカライド(EPS)、HE800 EPS及びGY785 EPS、の誘導体である。近年、多様な産業で新規の適用を有し得る海洋起源の新規の多糖の単離及び同定への関心が高まっている。それらは、海草、甲殻類、動物又は植物等の他の供給源からの多糖と競合する。過小活用されている資源の生物工学的使用への革新的なアプローチを表す、海洋性環境からの微生物の大量培養への関心がかなり増加している。海洋細菌性EPS及びその誘導体は、それらが医薬品製造品質管理基準(Good Manufacturing Practice)に従った管理条件で実行可能な経済費用で生産することができ、患者が大きな「種障壁」のために非従来の伝染性因子、例えばプリオン又は新興ウイルスに感染する非常に低いリスクを示すので、治療化合物としていくつかの大きな利点を有する。
【0028】
3つの主な属(ビブリオ属、アルテロモナス属及びシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属)に属する、深海熱水ベント環境からの海洋性細菌は、好気的な炭水化物追加培地で通常でない細胞外ポリマーを生成するそれらの能力を実証した。分泌されたエキソポリサッカライドは、生体活性化合物を設計して、それらの特異性を向上させるように改変することができる、元の構造的特徴を提示する(Rehm等、Rev. Microbiol.、2010、8: 578~592頁; Colliec-Jouault等、Handbook of Exp. Pharmacol.、2012、423~449頁; Delbarre-Ladrat等、Microorganisms、2017、5(3): 53頁)。特に、活発な深海熱水ベント試料から単離されるビブリオ属の第1のEPS産生種は、ビブリオ・ジアボリクスと命名された(Raguenes等、Int. J. Syst. Bacteriol.、1997、47: 989~995頁)。それは、HE800 EPSと呼ばれる高分子量(>106g/mol-Rougeaux等、J. Carbohydr. Res.、1999、322: 40~45頁)エキソポリサッカライドを生成し、それは線状テトラサッカライド反復単位からなる:2つのグルクロン酸残基、1つはNアセチル化グルコサミン残基及び1つはNアセチル化ガラクトサミン残基。アルテロモナス・インフェルヌスと命名される別の細菌-アルテロモナス属の新規の種-も、Guaymas内湾(カリフォルニア湾)の深海堆積物で単離された(Raguenes等、J. Appl. Microbiol.、1997、82: 422~430頁)。この細菌アルテロモナス・インフェルヌスはGY785 EPSと呼ばれる水溶性のEPSを生成し、それは4つのグルコース残基、2つのガラクトース残基、2つのグルクロン酸残基、及びC2位に硫酸基を有する1つのガラクツロン酸残基を含む、非サッカライド反復単位を有する分枝状ヘテロ多糖である(Roger等、Carbohydr. Res.、2004、339: 2371~2380頁; Guezennec等、Carbohydr. Polym.、1998、37: 19~24頁)。
【0029】
海洋性の天然エキソポリサッカライドHE800 EPS及びGY785 EPSからの低分子量(LMW)過硫酸化多糖誘導体は、本発明者(Colliec-Jouault等、Biochim. Biophys. Acta、2001、1528: 141~151頁; WO 2006/003290; WO 2007/066009; WO 02/02051号;Guezennec J.等、Carbohydrate Polymers 1998、37(1): 19~24頁; Senni等、Mar. Drugs、2013、11: 1351~1369頁; Merceron等、Stem Cells、2012、30: 471~480頁; Senni等、Mar. Drugs、2011、9: 1664~1681頁; Heymann等、Molecules、2016、21:309頁)によってラジカル脱重合の第1の工程及び続く硫酸化反応を使用し、それによって分子量が<30kg/mol(30,000Da)の生体活性分子を生成することによって以前に調製されている。本発明の実施では、低分子量の過硫酸化多糖は類似の方法を使用して調製され、前記方法は以下の工程を含む:
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する脱重合されたEPSを得るための、アルテロモナス属のGY785株又はビブリオ属のHE800株からの海洋性の天然エキソポリサッカライド(EPS)のフリーラジカル脱重合からなる工程;
(b)過硫酸化され脱重合されたEPSを得るための脱重合されたEPSの硫酸化からなるその後の工程であって、脱重合されたEPSに少なくとも1つの硫酸化剤を、過硫酸化され脱重合されたEPSの全質量と比較して約10%~約55質量%の硫酸基置換の程度を有する硫酸化多糖を得るのに十分な量で加えることを含む工程;及び
(c)過硫酸化され脱重合されたEPSから低分子量の過硫酸化多糖を単離することからなるその後の工程であって、低分子量の過硫酸化多糖は約5,000~約16,000g/molの分子量を有する工程。
【0030】
ある特定の実施形態では、工程(a)の後に得られる脱重合されたEPSは凍結乾燥される。
【0031】
他の実施形態では、プロセスの工程(b)の後に透析工程が続く。
【0032】
第1の脱重合工程の間、天然のEPSは液体状態で使用することができるが、すなわちそれは細菌によって培地に分泌されるからである。好ましくは、培地は遠心分離され、天然のEPSを含有し、細菌性デブリのない上清だけが収集される。天然のEPSは当業者に公知の任意の好適な技術、例えば膜限外濾過によって収集することができ、その後必要に応じてそのまま、又は付加塩の形で凍結乾燥することができる。
【0033】
天然のEPSのフリーラジカル脱重合からなる工程は、好ましくは金属触媒の存在下における酸化剤の溶液の天然のEPSを含む反応混合物への添加によって好ましくは実行される。酸化剤は、好ましくは過酸化物、特に過酸化水素、並びに過酸、特に過酢酸及び3-クロロ過安息香酸から選択される。添加は、好ましくは連続的に、及び撹拌しながら30分~10時間の間実行される。反応混合物は、好ましくは、フリーラジカル脱重合反応の全期間中、例えば水酸化ナトリウム等の塩基性化剤の添加によりpH6~8で、及び概ね30℃~70℃の温度で維持される。
【0034】
本発明の具体的な実施形態により、この工程では、天然のEPSは反応混合物1mlあたり約2mg~約10mgの濃度で反応混合物中に存在する。
【0035】
好ましい実施形態では、酸化剤は、約0.1%~約0.5質量%、好ましくは0.1%~0.2質量%程度の濃度を好ましくは有する過酸化水素(H2O2)の溶液であり、V1/1000~V1/10ml/分、好ましくはV1/50~V1/500ml/分、より好ましくはV1/100ml/分程度の流速で加えられ、ここで、V1は、過酸化水素溶液が加えられる海洋性エキソポリサッカライド(EPS)を含有する反応培地の量である。
【0036】
脱重合工程の間に使用することができる金属触媒は、特に欧州特許出願EP 0 221 977に記載される通り、Cu2+、Fe2+及びCr3+イオン並びにCr2O7 2-アニオンから好ましくは選択される。具体的な実施形態により、金属触媒は約10-3M~約10-1Mの濃度で、好ましくは約0.001M~約0.05Mの濃度で反応混合物中に存在する。
【0037】
本発明による及び上記のフリーラジカル脱重合プロセスは、単一の工程及び優れた収量で、均一な低分子量多糖誘導体を得ることを可能にする。本発明との関連で、用語「均一な誘導体」は、高速サイズ排除クロマトグラフィーを使用して調査したときに、<5の多分散指数I(Mw/Mn)によって特徴付けられるようにサイズに関して均一である、多糖鎖の支配的な集団を表す単一の主ピークを示す誘導体を意味するものであり、ここで、Mwは質量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0038】
ある特定の実施形態では、脱重合反応が終了したとき、得られた多糖誘導体は、鎖を安定させるために還元剤を使用して還元され、その還元末端は、特に「ピーリング」反応による鎖加水分解を回避するために非常に反応性である。この効果に対して使用することができる還元剤の性質は、必須でない。特に、還元剤は水素化ホウ素ナトリウムであってもよい。
【0039】
脱重合工程で使用される金属触媒は、任意の好適な方法を使用して、例えばイオン交換クロマトグラフィー、好ましくは前もって不動態化される弱陽イオン交換樹脂によって、又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)による処置によって、脱重合反応の終わりに(又は、還元工程が実行される場合は還元反応の終わりに排除されてもよい。
【0040】
脱重合から及び/又は還元からもたらされる多糖誘導体は、必要に応じて、当業者に周知の任意の好適な技術によって、例えば膜限外濾過又は透析によって回収することができる。次に、それらは凍結乾燥され、以降の硫酸化工程を向上させるのに必要なそれらの純度を増加させるためにサイズ排除クロマトグラフィーによって分別される。最後に、精製された多糖誘導体は、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラブチルアンモニウム及び水酸化ナトリウムから選択することができる、弱又は強塩基の添加によって塩の形で調整される。この凍結乾燥された塩は、例えば、イオン交換樹脂カラム、例えばDow Chemical社によってDOWEX(登録商標)の名前で販売されるもの、の上の1~8mg/mlの濃度の多糖誘導体の水溶液の溶出によって調製することができる。溶出液は、pHが酸性、例えば5未満のままである限り収集され、次にpHは上で規定される所望の塩基で概ね6.5にその後調整される。塩の形の多糖誘導体は、次に限外濾過され、凍結乾燥される。
【0041】
凍結乾燥された多糖誘導体は、おそらく付加塩の形で、硫酸化工程の初めに無水溶媒に好ましくは溶解される。溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド及びそれらの混合物から好ましくは選択される。無水溶媒中に存在する多糖誘導体の量は、概ね1mg/ml~10mg/ml、好ましくは約1mg/ml~約5mg/mlであってよく、より好ましくは、この量は約2.5mg/mlである。無水溶媒でのEPSの溶解は、好ましくは分子篩によりアルゴン又は窒素の下で撹拌しながら室温で約1時間~約2時間、その後40℃~50℃の温度で、好ましくは約45℃の温度で約2時間実行される。
【0042】
凍結乾燥形又は溶液の形の脱重合及び/又は還元されたEPSに、硫酸化工程の間に使用される1つ又は複数の化学的硫酸化剤を加えることができる。
【0043】
硫酸化剤は、硫酸ピリジン(遊離の又はポリマーに結合した)、硫酸ジメチルホルムアミド、硫酸トリエチルアミン及び硫酸トリメチルアミンの複合体から好ましくは選択される。1つ又は複数の化学的硫酸化剤は、溶液中の多糖誘導体の質量の好ましくは約4~約6倍、より好ましくは約5倍に相当する質量で多糖誘導体の溶液に加えられる。化学的硫酸化反応は、次に好ましくは硫酸化の所望の程度に応じて2~24時間、撹拌しながら実行される。硫酸化の所望の程度に到達したとき、以下により硫酸化反応を反応培地の冷却後に停止する:
- 塩化ナトリウム-飽和アセトン又はメタノールの存在下での沈殿、次に沈殿物の水での溶解;
- 又は、好ましくは、好ましくは反応量の1/10に等しい割合の水の添加、及び例えば水酸化ナトリウム(3M)等の塩基性化剤による反応培地のpHの9への調整。
【0044】
ある特定の実施形態により、硫酸化多糖誘導体の溶液は様々な塩を除去するために好ましくは透析され、次に凍結乾燥される。正確な分子量及び低い多分散指数を一般的に有する最終生成物(すなわち、低分子量の過硫酸化多糖)は、得られた低分子量の脱重合されたEPSからの単離によって得られる。単離は、当技術分野で公知である任意の好適な方法によって実行することができる。好ましくは、単離は、サイズ排除クロマトグラフィーによって遂行される分別によって実行される。
【0045】
本発明による低分子量の過硫酸化多糖は、5未満、好ましくは1.5~4の、より好ましくは2未満の低い多分散指数を有する。多分散指数(PDI)は、本明細書で使用されるように、EPS誘導体の分子質量の分布の尺度である。計算されるPDIは、数平均分子量で割った質量平均分子量である。PDIは、サイズ排除クロマトグラフィーによって一般的に測定される。
【0046】
本発明による低分子量の過硫酸化多糖は、硫酸化多糖誘導体の全質量と比較して10%~55質量%の硫酸基置換の程度を有する。ある特定の実施形態では、硫酸基置換の程度は、10%~40%、20%~45%又は20%~40%である。他の実施形態では、硫酸基置換の程度は、30%~60%、40%~55%又は約50%である。
【0047】
ある特定の実施形態では、低分子量の過硫酸化多糖は、GY785株(アルテロモナス属のアルテロモナス・インフェルヌス種)によって分泌される天然のGY785 EPSから調製され、約6kDa~約10kDa又は約7kDa~約9kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約30%~約40質量%の硫酸基置換の程度を有する。特定の実施形態では、低分子量の過硫酸化多糖はGYS8であり、それは天然のGY785 EPSから調製され、約8kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約36質量%の硫酸基置換の程度を有する。
【0048】
他の実施形態では、低分子量の過硫酸化多糖は、HE800株(ビブリオ属のビブリオ・ジアボリクス種)によって分泌される天然のHE800 EPSから調製され、約3kDa~約7kDa又は約4kDa~約6kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約45%~55質量%の硫酸基置換の程度を有する。特定の実施形態では、低分子量の過硫酸化多糖は天然のHE800 EPSから調製され、約5.1kDaの分子量、及び過硫酸化された多糖の全質量と比較して約50質量%の硫酸基置換の程度を有するHES5.1である。
【0049】
II-低分子量の過硫酸化多糖の用途
1-効能
本発明者は、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖はヘパラナーゼ(HSPE)阻害剤である(すなわち、抗ヘパラナーゼ活性を示す)ことを実証した。したがって、それらの抗HSPE活性のために、上記の低分子量の過硫酸化多糖、特にHES5.1及びGYS8は、対象でムコ多糖症、好ましくはIII型ムコ多糖症の処置又は予防で使用することができる。用語「ムコ多糖症」及び「MPS」は、本明細書で互換的に使用される。それらは、リソソーム中のグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積及び貯蔵によって特徴付けられる、リソソーム貯蔵障害のサブグループを指す。ムコ多糖症は、MPS I-H/S(ハーラー/シェイエ症候群)、MPS I-H(ハーラー症候群)、MPS I-S(シェイエ症候群)、MPS II(ハンター症候群)、MPS III(サンフィリッポ症候群)、MPS IV(モルキオ症候群)、MPS IX(ヒアルロニダーゼ欠乏症又はNatowicz症候群)、MPS VII(スライ症候群)又はMPS VI(マロトー-ラミー症候群)であってもよい。好ましくは、ムコ多糖症はMPS III(サンフィリッポ症候群)である。MPS IIIは、MPS IIIの4つのサブタイプ:IIIA型(ヘパランスルファミダーゼ)、IIIB型(アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ)、IIIC型(アルファ-グルコサミニド-N-アセチルトランスフェラーゼ)及びIIID型(N-アセチルグルコサミン-6-サルファターゼ)の1つを担う、その異化のために必要な4つの酵素の1つの欠損による、未分解のヘパラン硫酸の存在によって特徴付けられる。
【0050】
本発明の処置方法は、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖又はその医薬組成物を使用して達成することができる。これらの方法は、それを必要とする対象への、低分子量の過硫酸化多糖(上記の、特にHES5.1又はGYS8)又はその医薬組成物の有効量の投与を一般的に含む。投与は、当業者に公知の方法のいずれかを使用して実行することができる。特に、低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、噴霧、非経口、経口又は局所の経路を含むが、それらに限定されない様々な経路のいずれかによって投与することができる。
【0051】
好ましくは、対象はMPS III患者である。本発明の実施では、MPS III障害はサブタイプA、B、C又はDであってもよい。ある特定の実施形態では、MPS III障害はMPS IIIA又はMPS IIIBである。
【0052】
一般に、低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、有効量で、すなわちその意図された目的にかなうのに十分な量で投与される。低分子量の過硫酸化多糖又は医薬組成物の投与すべき正確な量は、MPS III障害のサブタイプ、処置対象の年齢、性別、体重及び一般的健康状態、所望の生物学的又は医学的応答等によって対象によって異なる。ある特定の実施形態では、有効量は、MPS障害と関連する少なくとも1つの症状の可能性を阻止し、遅らせ及び/又は低減するものである。例えば、MPS III障害の場合、症状は行動の問題(癇癪、活動過多、破壊性、攻撃的な行動、異食症、睡眠障害、発作)、歩行問題、硬直した関節、視力及び/又は聴力障害、意思伝達困難等であってもよい。本発明による処置の効果は、当技術分野で公知の診断アッセイ、検査及び手技のいずれかを使用してモニタリングすることができる。
【0053】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、本発明による方法によって単独で投与される。他の実施形態では、低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、少なくとも1つの追加の治療剤又は治療手技と組み合わせて投与される。低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、治療剤若しくは治療手技の投与の前に、治療剤若しくは手技と同時に、及び/又は治療剤若しくは手技の投与の後に投与することができる。
【0054】
本明細書に記載の低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物と組み合わせて投与することができる治療剤は、MPS障害、特にMPS III障害の管理で有益な効果を有することが知られている多様な生物活性化合物から選択することができる(例えば、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗生物質、抗酸化剤、殺菌剤、抗発作薬、心臓疾患のための医薬品及びその組合せ)。低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物の投与と組み合わせて実行することができる治療手技には、関節異常を矯正するための整形外科手術、視力異常のための角膜移植、聴覚障害の修正等が含まれるが、それらに限定されない。サンフィリッポ症候群の症状を管理するために使用される他の療法には、言語療法、作業療法、理学療法、行動療法等が含まれる。
【0055】
2-投与
所望の投薬量の本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖は(必要に応じて1つ又は複数の適当な薬学的に許容される担体又は賦形剤と製剤化の後)、任意の好適な経路によってそれを必要とする対象に投与することができる。錠剤、カプセル剤、注射用液剤、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへのカプセル化等を含む様々な送達系が公知であり、本発明のエキソポリサッカライド誘導体を投与するために使用することができる。投与の方法には、経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、病巣内、静脈内、皮下、鼻腔内、肺、硬膜外、目及び経口経路を含むが、それらに限定されない。本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物は、任意の便利な又は他の適当な経路、例えば、注入又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜内膜(例えば、口、粘膜、直腸及び腸粘膜等)を通した吸着によって投与することができる。投与は、全身又は局所であってもよい。非経口投与は、例えばカテーテル導入によって、患者の所与の組織に向けることができる。当業者に理解されるように、低分子量の過硫酸化多糖が追加の治療剤と一緒に投与される実施形態では、エキソポリサッカライド誘導体及び治療剤は、同じ経路(例えば、経口)によって、又は異なる経路(例えば、経口と静脈内)によって投与することができる。
【0056】
3-投薬量
本発明による本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖(又はその組成物)の投与は、送達される量が意図された目的のために有効であるような投薬量である。投与経路、製剤及び投与される投薬量は、所望の治療効果、処置される障害の重症度、任意の感染症の存在、患者の年齢、性別、体重及び一般的健康状態、並びに低分子量の過硫酸化多糖の力価、生物学的利用能及びin vivo半減期、同時療法の使用(又は不使用)及び他の臨床因子による。これらの因子は、療法の間に主治医が容易に決定できる。或いは、又は追加的に、投与される投薬量は、動物モデルを使用した研究から決定することができる。これらの又は他の方法に基づいて最大効能を達成するように用量を調整することは当技術分野で周知であり、熟練医師の能力の範囲内にある。本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖を使用して試験が実行されるにつれて、処置の適当な投薬量レベル及び持続時間に関して更なる情報が出てくる。
【0057】
本発明による処置は、単回投与又は多回投与からなることができる。したがって、本明細書に記載の低分子量の過硫酸化多糖又はその組成物の投与は、一定期間不変であってもよいか定期的であってよく、及び特定の間隔、例えば、1時間ごと、毎日、毎週(又は、何らかの他の複数日間隔)、毎月、毎年(例えば、時間放出形態)であってもよい。或いは、送達は所与の期間中に複数回、例えば1週につき2回又はそれより多い回数、1月につき2回又はそれより多い回数等であってもよい。送達は、しばらくの間連続的送達、例えば静脈内送達であってもよい。
【0058】
III-医薬組成物
上で指摘した通り、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖は、それ自体で、又は医薬組成物として投与することができる。したがって、本発明は、低分子量の過硫酸化多糖(特に、HES5.1又はGYS8)の有効量、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は1つ又は複数の追加の生物学的活性剤を更に含む。
【0059】
本明細書に記載の低分子量の過硫酸化多糖又はその医薬組成物は、任意の量で及び、所望の予防的又は治療的効果を達成するために有効な任意の投与経路を使用して投与することができる。最適な医薬製剤は、投与経路及び所望の投薬量によって変えることができる。そのような製剤は、投与される活性成分の物理的状態、安定性、in vivo放出速度及びin vivoクリアランス速度に影響することができる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、投与の容易さ及び投薬量の均一性のために、投薬単位形態で製剤化することができる。本明細書で使用される表現「単位剤形」は、処置患者のための物理的に個別の単位を指す。しかし、組成物の合計日投薬量は、主治医によって健全な医学判断の範囲内で決定されると理解される。
【0061】
1-製剤
注射可能な製剤、例えば無菌の注射可能な水性又は油性の懸濁剤は、好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して公知技術によって製剤化することができる。無菌の注射用製剤は、無毒の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌の注射用液剤、懸濁剤又は乳剤、例えば2,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。用いることができる許容されるビヒクル及び溶媒には、水、リンガー液U.S.P.及び等張性の塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌の不揮発性油が溶液又は懸濁媒として従来通り用いられる。この目的のために、合成のモノ-又はジグリセリドを含む、任意の刺激の少ない不揮発性油を用いることができる。注射用製剤の調製において、オレイン酸等の脂肪酸を使用することもできる。無菌の液体担体は、非経口投与のための無菌の液状組成物で有用である。
【0062】
注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターによる濾過によって、又は使用前に無菌水又は他の無菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる無菌の固体組成物の形で滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。無菌の溶液又は懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内又は皮下注射によって投与することができる。注射は、単一のプッシュによるか又は段階的注入によることができる。必要であるか所望される場合、組成物は注射部位の疼痛を軽減するために局所麻酔薬を含むことができる。
【0063】
活性成分の効果を延長するために、皮下又は筋肉内注射からの成分の吸収を遅らせることがしばしば望ましい。非経口的に投与される活性成分の吸収を遅らせることは、成分を油状ビヒクルに溶解又は懸濁することによって達成することができる。注射用デポー剤形は、生分解性ポリマー、例えばポリラクチド-ポリグリコリドの中で活性成分のマイクロカプセル化マトリックスを形成することによって作製される。活性成分のポリマーに対する比及び用いられる特定のポリマーの性質によって、成分放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルソエステル)及びポリ(アンヒドリド)が含まれる。デポー注射用製剤は、体組織に適合するリポソーム又はマイクロエマルジョンに活性成分を取り込むことによって調製することもできる。
【0064】
経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容される乳剤、マイクロ乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤及び圧縮組成物が含まれるが、それらに限定されない。本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖に加えて、液体剤形は、当技術分野で一般的に使用される不活性の希釈剤、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、ベンジル安息香酸、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実、落花生、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ及びゴマの油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、及びそれらの混合物を含むことができる。不活性希釈剤の他に、経口組成物はアジュバント、例えば、湿潤剤、懸濁化剤、保存剤、甘味料、着香及び芳香剤、増粘剤、着色、粘度調節剤、安定又は浸透調節剤を含むこともできる。経口投与のための好適な液体担体の例には、水(上記の添加剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液等のセルロース誘導体を含有する可能性がある)、アルコール(一価アルコール及び多価アルコール、例えばグリコールを含む)及びそれらの誘導体、及び油(例えば、ヤシ油及び落花生油)が含まれる。圧縮組成物のために、液体担体は、ハロゲン化炭化水素又は他の薬学的に許容される噴射剤であってもよい。
【0065】
経口投与のための固体剤形には、例えば、カプセル剤、錠剤、丸薬、散剤及び顆粒剤が含まれる。そのような固体剤形では、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖は、少なくとも1つの不活性の薬学的に許容される賦形剤又は担体、例えばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、及び:(a)フィラー又は増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及びケイ酸;(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース及びアラビアゴム;(c)グリセロール等の保湿剤;(d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩及び炭酸ナトリウム;(e)パラフィン等の溶解遅延剤;四級アンモニウム化合物等の吸収促進剤;(g)湿潤剤、例えばセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール;(h)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイト粘土;並びに(i)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びそれらの混合物、の1つ又は複数と混合されてもよい。固体製剤のために好適な他の賦形剤には、表面修飾剤、例えば非イオン性及びアニオン性表面修飾剤が含まれる。表面修飾剤の代表例には、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、二酸化コロイドシリコン、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム及びトリエタノールアミンが含まれるが、それらに限定されない。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含むこともできる。
【0066】
類似のタイプの固体組成物は、ラクトース又はミルク糖のような賦形剤並びに高分子量ポリエチレングリコール等を使用したソフト及びハード充填ゼラチンカプセル剤においてフィラーとして用いることもできる。錠剤、カプセル剤、丸剤及び顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング及び医薬製剤技術分野で周知の他のコーティング等のコーティング及びシェルで調製することができる。必要に応じてそれらは乳白剤を含有することができ、それらが活性成分のみを、好ましくは腸管のある特定部位で、必要に応じて遅延性に放出するような組成物であってもよい。使用することができる埋封組成物の例には、重合物質及びワックスが含まれる。
【0067】
ある特定の実施形態では、発明の組成物を特定の領域に局所的に投与することが望ましい可能性がある。これは、例えば、限定するものでないが、局所注入、局所適用、注射、カテーテル、坐剤、又は皮膚貼付剤又はステント又は別のインプラントによって達成することができる。
【0068】
局所投与のために、組成物は好ましくは、水、グリセロール、アルコール、プロピレングリコール、脂肪アルコール、トリグリセリド、脂肪酸エステル若しくは鉱油等の担体を含むことができるゲル剤、軟膏剤、ローション剤又はクリーム剤として製剤化される。他の局所の担体には、流動石油、パルミチン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水の中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)又は水の中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)が含まれる。抗酸化剤、保湿剤、粘度安定剤及び類似の薬剤等の他の物質を必要に応じて加えることができる。
【0069】
更に、ある特定の場合には、発明の組成物を皮膚の上、中又は下に置かれる経皮装置の中に配置することができると予想される。そのような装置には、受動又は能動放出機構によって活性成分を放出する貼付剤、インプラント及び注射が含まれる。経皮投与には、体表面並びに上皮及び粘膜組織を含む身体の通路の内膜を越える全ての投与が含まれる。そのような投与は、ローション剤、クリーム剤、フォーム剤、貼付剤、懸濁剤、液剤及び坐剤の形の本組成物を使用して実行することができる。
【0070】
経皮投与は、活性成分(すなわち、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖)及び皮膚に無毒である担体を含有する経皮貼付剤の使用を通して達成することができ、皮膚を通した血流への全身吸収のための成分の送達を可能にする。担体は、クリーム剤及び軟膏剤、ペースト剤、ゲル剤及び閉鎖装置等の任意の数の形をとることができる。クリーム剤及び軟膏剤は、水中油又は油中水型の粘性液体又は半固体乳剤であってもよい。活性成分を含有する石油又は親水性石油に分散させた吸収性粉末で構成されるペースト剤は、好適であり得る。活性成分を血流に放出するために、担体の有る無しで活性成分を含有するレザバー又は活性成分を含有するマトリックスを覆う半透膜等の様々な閉鎖装置を使用することができる。
【0071】
坐剤製剤は、坐薬の融点を変更するワックス及びグリセリンの追加の有る無しで、カカオ脂を含む伝統的な物質から作製することができる。様々な分子量のポリエチレングリコール等の水溶性の坐剤基剤を使用することもできる。
【0072】
様々な製剤を生産するための物質及び方法は当技術分野で公知であり、対象発明を実施するために適合させることができる。抗体の送達のための好適な製剤は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990、Mack Publishing社: Easton、PAに見出すことができる。
【0073】
2-追加の生物学的活性剤
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖は、本発明の医薬組成物中の唯一の活性成分である。他の実施形態では、医薬組成物は1つ又は複数の生物学的活性剤を更に含む。好適な生物学的活性剤の例には、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗生物質、抗酸化剤、殺菌剤、抗発作薬、心臓疾患のための医薬品及びその組合せを含むが、それらに限定されない。
【0074】
そのような医薬組成物では、本明細書に記載される低分子量の過硫酸化多糖及び少なくとも1つの追加の治療剤は、低分子量の過硫酸化多糖及び治療剤の同時、別個又は連続投与のために1つ又は複数の製剤に組み合わせることができる。より具体的には、発明の組成物は、低分子量の過硫酸化多糖及び治療剤を一緒に又は互いから独立して投与することができるような方法で製剤化することができる。例えば、低分子量の過硫酸化多糖及び治療剤は、単一の組成物に一緒に製剤化することができる。或いは、それらを維持し(例えば、異なる組成物及び/又は容器に)、別々に投与することができる。
【0075】
3-医薬パック又はキット
別の態様では、本発明は、発明の医薬組成物の1つ又は複数の成分を含有する1つ又は複数の容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ又はボトル)を含む医薬パック又はキットを提供し、本明細書に記載の低分子量の過硫酸化多糖の投与を可能にする。
【0076】
医薬パック又はキットの異なる成分は、固体(例えば、凍結乾燥される)又は液体の形で供給することができる。各成分は一般的にそのそれぞれの容器に等分するのに好適であるか、濃縮された形で提供される。本発明によるパック又はキットは、凍結乾燥された成分の再構成のための媒体を含むことができる。キットの個々の容器は、市販のために好ましくは密閉されて維持される。
【0077】
ある特定の実施形態では、パック又はキットは、1つ又は複数の追加の治療剤を含む。必要に応じて、医薬又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定される形の注意書き又は添付文書が容器に付随してもよく、この注意書きは、ヒト投与のための製造、使用又は販売の機関による承認を反映する。添付文書の注意書きは、本明細書に開示される処置の方法による、医薬組成物の使用説明書を含むことができる。
【0078】
識別子、例えば、バーコード、高周波、IDタグ、等がキットの中かその上に存在してもよい。識別子は、例えば、ワークステーションの間での品質管理、在庫管理、追跡行動等のためにキットを特異的に同定するために使用することができる。
【0079】
この発明の更なる態様及び利点は以下の図面及び実施例で開示され、それらは例示的であり、本出願の範囲を限定するものでないと考えるべきである。
【実施例
【0080】
以下の実施例は、本発明を作製し、実施する好ましいモードの一部を記載する。しかし、これらの実施例は例示だけが目的であり、本発明の範囲を限定するものでないことを理解すべきである。更に、実施例中の記載が過去形で提示されない限り、本文は、残りの明細書と同様に、実験が実際に実行されたことを示唆するものでも、データが実際に得られたことを示唆するものでもない。
【0081】
作業仮説
図1は、へパラン硫酸(HS)プロテオグリカン及びヘパラナーゼ(HPSE)トラフィッキングの模式的モデルを提示する。このスキームでは:1.ゴルジ装置では、HS鎖は重合され、プレHPSEはN末端シグナルペプチドの排除によってプロHPSEを生成するように処理される。2.新たに生合成されたHSPGは、それらがプロHPSEと相互作用することができる細胞膜へ次に移され、3.複合体はエンドサイトーシスによって速やかに内在化され、次に、4.後期エンドソームの中に蓄積される。5.後期エンドソームのリソソームとの融合により、プロHPSEは活性化され、リソソームヒドロラーゼによって完全に分解されるHS鎖を切断する。6. HPSE及びHSPGはエンドソームから細胞表面へ再循環させることができる。活性HPSEは細胞中の他の経路を追及するようである。7.後期エンドソームに存在する活性HPSEによるシンデカンからのHSのトリミングは、シンデカン-シンテニン-ALIX複合体の形成につながる。エンドソーム膜の陥入によって腔内小胞(ILV)が次に形成され、多胞体(MVB)の形成をもたらす。MVBは細胞膜との融合の結果エキソソームとしてILVを放出し、それらのカーゴをレシピエント細胞へ送達する。高レベルのHPSEの存在下で、酵素はエキソソームの表面で見出すことができ、腫瘍微小環境をモジュレートする。8.リソソームエキソサイトーシスが、悪性細胞で観察されている。9. HPSEは、リソソームと単量体単位に高分子を分解するオートファゴソームとの融合を促進することによって、オートファジーも調節する。10.核周囲リソソームHPSEは核に転位して、遺伝子転写及び細胞分化を調節することもできる。
【0082】
作業仮説は、エキソポリサッカライド誘導体によるHPSEの阻害は、欠陥のある分解酵素の状況でHSのHPSE切断断片のリソソーム分解を阻止することによって、サンフィリッポ症候群におけるHSの異化作用の消長を改変することができるというものであった。
【0083】
エキソポリサッカライド誘導体
前述の通り細菌のGY785及びHE800エキソポリサッカライド(EPS)を生成し、精製し、特徴付けた(Guezennec等、Carbohydr. Polym.、1998、37: 19~24頁)。低分子量の過硫酸化EPS誘導体の調製、精製及び特徴付けは、前に示した通りに実行した(Ruiz Velasco等、Glycobiology、2011、21: 781~795; WO 2006/003290; Colliec-Jouault等、Biochim. Biophys. Acta、2001、1528: 141~151頁; WO 2007/066009; WO 02/02051号; Guezennec J.等、出典Carbohydrate Polymers 1998、37(1): 19~24頁; Senni等、Mar. Drugs、2013、11: 1351~1369頁; Merceron等、Stem Cells、2012、30: 471~480頁; Senni等、Mar. Drugs、2011、9: 1664~1681頁; Heymann等、Molecules、2016、21:309頁)。簡潔には、天然の高分子量GY785 EPS及びHEP800をフリーラジカル脱重合プロセスを使用して先ず脱重合して、異なる分子量の低分子量誘導体を得た。これらの低分子量GY785及びHE800 EPS誘導体は、次に硫酸ピリジンを硫酸化剤として使用してジメチルホルムアミド(DMF)中で硫酸化し、低分子量の過硫酸化多糖をもたらした。硫酸化の前後の分子量(MW)は、HPAECクロマトグラフィーによってHPSEC-MALS及び硫黄含有量(Sの質量%)によって決定した。硫酸化反応の効率を調査するために、ATR-FTIR及びNMR分光法を使用した。ブタ腸管粘膜からのヘパリンナトリウム塩H4784は、Sigma社から購入した。
【0084】
(実施例1)
抗凝固及び抗ヘパラナーゼ活性
エンドグルクロニダーゼヘパラナーゼ(HPSE)はその異化経路のヘパラン硫酸を分解する最初の酵素であり、エキソグリコシダーゼによってリソソーム内でその後脱重合されるHS鎖の大きなセグメントを切断する。HS-6-O-サルファターゼ1及び2(Sulf1及びSulf2)は、硫酸基をグルコサミン単位から除去し、HS中の電荷分布を修飾し、増殖因子等のリガンドタンパク質とのそれらの相互作用に影響を与える。第1の実験の目標は、低分子量の過硫酸化EPS誘導体が、HS鎖を合成後に修飾する酵素、ヘパラナーゼ及びサルファターゼを阻害することができるかどうか決定することであった。
【0085】
結果
エキソポリサッカライド誘導体の抗凝固及び抗ヘパラナーゼ活性。Jin-ping Li博士(Uppsala University、Sweden)と協力して、発明者は異なるエキソポリサッカライド(EPS)誘導体の抗ヘパラナーゼ(抗HPSE)活性を決定した。結果は、下のTable 1(表1)に提示する。抗HPSE活性はEPS誘導体の電荷に依存することが見出されたが、5,000~16,000Daに含まれるEPS誘導体のサイズによって有意に影響されなかった。EPS誘導体のIC50値は、1~5μMであると決定された(Table 1(表1)を参照する)。その結果として、試験したEPS誘導体は、HPSE阻害剤として強力な潜在能力を示す。
【0086】
更に、Romain Vives博士(Structure and Activites des Glycosaminoglycanes、Institut de Biologie Structurale de Grenoble)と協力して、本発明者は、EPS誘導体研究がHSの硫酸化パターンを修飾し、したがってリガンドタンパク質へのそれらの親和性をモジュレートする酵素である6-O-エンドサルファターゼ(Sulf1及びSulf2)も阻害することを見出した。
【0087】
【表1】
【0088】
(実施例2)
サンフィリッポ症候群のための可能な処置としての海洋性細菌エキソポリサッカライド誘導体
実施例1で最も興味深い特性を示すことが見出された2つの低分子量の過硫酸化多糖、HES5.1(A5_3)及びGYS8(A5_4)を、サンフィリッポ処置のための処置として働くそれらの能力を探るために更に調査した。HS鎖の最初の切断の阻害が断片のリソソーム分解を阻止するとの作業仮説に基づき、エキソポリサッカライド誘導体はサンフィリッポ症候群(MPSIII)の全ての形態を処置する活性があるはずである。発明者は、酵素HS-スルファミダーゼが変異によって不活性化されるMPSIII障害の1つ、MPS IIIサブタイプA(MPSIIIA)を研究した。仮説によると、低分子量の過硫酸化多糖によるHPSEの阻害は、欠陥のある分解酵素の状況でHPSE切断断片のリソソーム分解を阻止することによってHSの異化作用の消長を改変するはずである。
【0089】
本発明者は、MPSIIIAのマウスモデルに由来する線維芽細胞を使用してin vitroで研究した(K. Hemsley博士、Adelaide、Australia、と共同して)(Crawley等、Brain Res.、2006、1104: 1~17頁)。彼らは細胞外コンパートメント(培地プラス表面)及び細胞内コンパートメントでHSを精製し、ゲル電気泳動(PAGE)及びゲル濾過(GFC)によってそれらのサイズ及び電荷を特徴付けた。彼らは、これらのパラメータに及ぼす低分子量の過硫酸化多糖による処置の影響を分析した。エキソポリサッカライド誘導体の各々について、細胞の播種から開始してHSの単離及びHSの寸法(長さ/分子量)の最終分析まで、2つの独立した実験を実行した。
【0090】
結果
ヘパラン硫酸(HS)の量の分析。各実験で、細胞を数え、得られた結果は細胞の総数に標準化した。結果を更に標準化するために、35SO4組込みレベルに関する修正を実行し、回収され測定された全放射能と細胞に投与された初期放射能の間の比として計算した。本実験での組込みレベルは、1.2%から5.6%にわたることが見出された。
【0091】
プロテオグリカンに及ぼす影響の観察:サイズ排除クロマトグラフィーに存する第1の精製工程は、遊離のNa2 35SO4から高分子量種を単離することを可能にした。硫酸化されたプロテオグリカン(PG)の総量は、第1の精製工程から回収された物質としてみなされ、cpm(放射能)で表される。両方のエキソポリサッカライド誘導体(HES5.1(A5_3)及びGYS8(A5_4))について、PGの総量は対照未処置のMPSIIIA細胞と処置されたMPSIIIA細胞とで類似することが見出された(図2を参照する)。
【0092】
PGの分布をより深く観察することによって、発明者は細胞外コンパートメントにおいて対応する細胞内コンパートメントより多い量のプロテオグリカンを観察した(図3を参照する)。対照と処置細胞の間の変動は有意でなく、EPS誘導体処置が細胞によって生成されたPGの総量及び分布に影響しないことを意味する。
【0093】
ヘパラン硫酸に及ぼす影響の観察:ヘパラン硫酸は細胞外及び細胞内分画の両方から単離し、それは細胞に存在する全グリコサミノグリカンの少数を表した。実際、全PG中のHSのパーセンテージは、対照細胞で12%から37%にわたることが見出された。発明者は、PGの量を100%と考えて対応する分画中のPGに対するHSのパーセンテージを計算した(図4を参照する)。対照細胞では、HSは細胞内PGの(29±11)%、及び細胞外PGの(16±4)%、及び全PGの(20±5)%に相当すると決定された(n=8)。一般に、HSの分配及びHSの全パーセンテージは異なるが、対照と処置細胞の間に統計的差はない。細胞をA5_3(HES5.1)でなくA5_4(GYS8)で処置したときに細胞外コンパートメント中のHSの増加に向かう傾向がある。
【0094】
要約すると、エキソポリサッカライド誘導体によるMPSIIIA細胞の処置はプロテオグリカンの総量及び分布を変更しないと結論づけることができる。全ヘパラン硫酸のパーセンテージは変動するが、EPS誘導体処置によって有意な影響を受けない。
【0095】
分析における以下の工程は、ヘパラン硫酸の寸法(長さ/分子量)を、低分子量の過硫酸化多糖による処置がHS分解の第1の工程に影響を与え、したがってより高い分子量のHS鎖が細胞内コンパートメントに見出されるだろうという考えで見ることであった。
【0096】
対照細胞中のヘパラン硫酸(HS)の分子量の分析。野生型細胞は、分子量が20kDaを超えるフルサイズHSを生成し、それは細胞内コンパートメントでアセンブルされ、プロテオグリカンとして細胞表面で発現される(Colliec-Jouault等、J. Biol. Chem.、1994、269: 24953~24958頁)。HSのリソソーム異化は急速であり、低分子量(LMW)中間体は一時的であり、検出されない低い量である(Yanagishita及びHascall、Proteoglycan metabolism by rat ovarian granulosa cells in vitro。典拠:Wight、Mecham RP(編)、Biology of the proteoglycans、第1版。Orlando: Academic Press社; 1987: 105~128頁)。MPSIIIA細胞では、PAGE-NaCl電気泳動によって確認されるように、細胞内HSはLMWの広く拡散した分布、機能不全のスルファミダーゼのためにリソソーム中に蓄積する部分的に分解されたHS断片を示した(図5を参照する)。試料のグリコサミノグリカン標準との比較によって(Mulloy等、Thromb Haemost. 1997、77(4): 668~674頁)、高分子量領域(>20kDa)に集中している細胞外HSの分子量を推定することが可能であった。対照的に、LMW領域(<20kDa)に蓄積する広範囲のHS断片は細胞内HSで観察することができ、ゲルの上でスメアをもたらす。
【0097】
発明者は、次に異なる技術を使用することに決め、PBS、0.15M NaCl、pH7.4で平衡させたCL6B樹脂の上でのゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を選んだ。PAGEによる分子の分離は、分子量だけでなく全体の負電荷にも依存するが、GFCによる分離は分子の寸法に大部分依存する。図6は、標準を用いて得られた較正曲線並びに対照の細胞内及び細胞外HSのプロファイルの例を示す。細胞内HSの明白なピークは、GFCで観察された。分子量及び分布は、Table 2(表2)に提示する。PAGE(n=8)によって計算された細胞外HSの平均MWは37.1kDaであり、24から50.7kDaにわたることが見出され、GFC(n=3)によって計算されたものは43kDaであり、17.7から116.7kDaにわたることが見出された。細胞内HSはGFCだけで良く決定され、平均MWは7.9kDaであったが、断片は3.5から28kDa(n=5)にわたった。
【0098】
【表2】
【0099】
処置細胞におけるヘパラン硫酸(HS)の分子量の分析。MPSIIIA細胞に及ぼす低分子量の過硫酸化多糖による処置の効果は、処置細胞からのHSが未分解のままであり、MWが細胞外種(>20kDa)に類似するように細胞内HSの部分的分解をブロックすることであった。EPS誘導体の3つの濃度を試験した:20、50及び100μg/ml。放射性硫酸供与体を加える前に細胞を4日間処置し、24時間後に収集した。
【0100】
図7及び図8は、それぞれ対照及びA5_3(HES5.1)処置細胞、並びに対照及びA5_4(GYS8)処置細胞で得られたPAGE NaClゲルの例を示す。対照細胞は、細胞内の低分子量HS及び細胞外の高分子量HSを示す。処置細胞は、未処置細胞と比較して高分子量の細胞内HS(>20kDa)を明らかに示す。処置及び未処置の細胞外HSの分子量は同じである。観察された効果は、使用した3つの濃度で類似していた。
【0101】
図9は、対照及び処置(20μg/mlのA5_3(HES5.1))細胞からのHSのGFCプロファイルを示す。重ね合わせたGFCプロファイルによって観察される通り、細胞外HSは処置の影響を受けなかった。処置は、細胞内HSに影響を及ぼす:処置によるより高いMW(>20kDa)へのシフトが明らかに観察され、処置されたHSのMWは細胞外の高分子量HSに類似していた。
【0102】
図10は、対照及び処置(20μg/mlのA5_4(GYS8))細胞からのHSのGFCプロファイルを示す。A5_4処置の効果は、A5_3に類似している:細胞外HSは低分子量の過硫酸化多糖による処置による影響を受けないが、細胞内HSはより高いMW(>20kDa)にシフトする。
【0103】
Table 3(表3)及びTable 4(表4)は、PAGE及びGFC分析の結果を要約する。両方の技術は、細胞内HSだけに影響を及ぼす処置の特異性を実証する。効果は、試験した3つの濃度の全部で類似している。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
HSのMW分布を表す別の方法は、ある特定の閾値の前後の鎖のパーセンテージを見ることである。簡略化のために、発明者はそれを図11及びTable 5(表5)に示す通り、処置による細胞内HSのピークに対応するPAGEプロファイル中の細胞外HSのピークと規定した。効果は試験した3つの濃度で類似していることが見出されたので、結果は3つの濃度の平均で表した。明らかに、A5_3(HES5.1)又はA5_4(GYS8)による処置の後の高分子量HSのパーセンテージは、細胞外対照HSの値に到達する。
【0107】
【表5】
【0108】
結論
A5_3(HES5.1)及びA5_4(GYS8)の両方はHSの代謝回転に影響を及ぼし、したがって細胞内HSの不完全な分解に導くことができることが証明された。細胞を低分子量の過硫酸化多糖の各々の異なる濃度で処置したときに、類似の効果が観察され、20μg/mlのEPS誘導体が有効であるだけでなく、おそらく濃度を更に低下させることができることを示す。初期の作業仮説によれば、HPSEによって切断されないインタクトなHS鎖は、リソソーム分解経路に入ることができず、細胞外間隙に方向転換されて血液及び尿中でクリアランスされる。したがって、毒性のリソソームHS蓄積から細胞を保護することができる。その結果として、A5_3(HES5.1)及びA5_4(GYS8)の両方は、サンフィリッポ症候群患者の処置のための強力な可能性を有する。これらのEPS誘導体による処置は、不完全に分解されたヘパラン硫酸によるリソソーム過負荷による症状を緩和することができる可能性がある。
【0109】
本出願全体で、様々な参考文献が、本発明が関係する最新技術を記載する。これらの参考文献の開示情報は、ここに参照により本開示に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
【国際調査報告】