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▶ イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】強磁性合金からの希土類金属の回収
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20230726BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230726BHJP
   C22B 3/00 20060101ALI20230726BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20230726BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20230726BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B7/00 E
C22B3/00
C25C1/22
B09B3/70
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523700
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 IL2021050811
(87)【国際公開番号】W WO2022003694
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】63/046,727
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
(71)【出願人】
【識別番号】503202608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リュボミアスキー,イゴール
(72)【発明者】
【氏名】カプラン,ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4D004AA16
4D004AB03
4D004BA06
4D004CA34
4D004CB31
4D004CC01
4D004CC02
4D004DA06
4K001AA39
4K001AA40
4K001BA22
4K001CA11
4K001CA13
4K001DB21
4K058AA23
4K058BA26
4K058BB04
4K058CA07
4K058CA11
4K058CA22
4K058EB13
4K058EB16
4K058EC04
(57)【要約】
本発明は、強磁性合金から少なくとも1つの希土類金属を回収するための方法に関し、本方法は、希土類金属を塩素化すること、およびその後に塩素化生成物を分離することを含む。
【選択図】図なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法であって、
(a)揮発性鉄含有塩化物生成物および少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を得るために少なくとも1つの塩素含有ガスと強磁性合金を反応させることと;
(b)前記揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供すること、それにより酸化鉄へと前記鉄含有塩化物生成物を酸化することと;
(c)前記酸化鉄生成物と少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を分離することと;
(d)前記分離された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を冷却することと;
(e)前記冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解すること;
を含み、
これにより前記少なくとも1つの希土類金属を回収する、方法。
【請求項2】
ステップ(a)の少なくとも1つの塩素含有ガスと前記強磁性合金を反応させる前に、前記強磁性合金が任意で、原子状水素か焼処理を用いて粉末合金を形成するためにか焼により前処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記か焼が、室温で実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの希土類金属が、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびイットリウム(Y)から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)の前記反応が、400℃~450℃の温度で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)の反応における前記少なくとも1つの塩素含有ガスが、前記強磁性合金の1kgあたり0.5~2.0kgの前記塩素の量で存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)の前記揮発性鉄含有塩化物生成物への前記空気流が、前記揮発性鉄含有塩化物生成物の1kgあたり0.5~2.0kgの空気の量で存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記原子状水素か焼処理が、電気分解を用いて実施される、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気分解が、銅、ニッケル、鋼、チタン、またはそれらの組み合わせの第1の電極(カソード)および鉛、ニッケル、鋼、またはそれらの組み合わせの第2の電極(アノード)を使用して実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記強磁性合金が、前記第1の電極(カソード)に取り付けられる、請求項2、3、8、9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって調製される少なくとも1つの希土類金属組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性合金から少なくとも1つの希土類金属を回収するための方法に関し、希土類金属を塩素化すること、およびその後に塩素化生成物を分離することを含む。
【背景技術】
【0002】
ネオジム-鉄-ホウ素(NdFeB)ベースの希土類磁石は、ハードディスクドライブ(HDD)、電気自動車のモーター、風力タービンの発電機を含む、多くのクリーンエネルギーおよびハイテク用途で使用されている。近年、希土類金属の供給は、かなり緊迫している。これは、希土類金属、特にNdFeB磁石の希土類成分であるネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウムの劇的な価格変動をもたらした。EU Critical Materials list(2010、2014)およびenergy critical element list(2010)(US Department of Energy)によれば、希土類金属は、クリーンエネルギー技術に使用される他のすべての材料のものと比較して、供給不足のリスクが最も高いと分類されている。
【0003】
これらの材料不足が対処され得る方法は、いくつかあり、(a)より多くの希土類鉱山を開拓すること、(b)希土類を含まない代替技術を使用すること、(c)磁石などの、特定の用途で使用される希土類金属の量を減少させること、または(d)様々なタイプの機器により希土類金属を含む磁石の既存の備蓄をリサイクルすること、を含む。しかし、選択肢(a)については、希土類元素の採掘、選鉱、および分離は、エネルギー集約的であり、酸浸出プロセスから有毒な副産物を生じ、一次鉱石がほぼ常に、トリウムなどの放射性元素と混合される。選択肢(b)でのように代替技術を使用する場合、または選択肢(c)でのように希土類金属の量を減少させる場合、永久磁石機器と比較して、これは多くの場合、効率および性能の低下をもたらす。
【0004】
廃棄物から磁石スクラップをリサイクルすることは、予備ステップ;廃棄物からの磁石の分離、300~350℃での熱処理による消磁、空気または酸素気流下における700~1000℃での燃焼による脱炭(樹脂除去)、および水素還元による脱酸[1-3]を含む、複数のステップからなる。主要プロセス(希土類金属および鉄を分離すること)が、これらの予備段階後に始まる。いくつかの湿式プロセス:酸溶解[4]、溶媒抽出、およびシュウ酸塩法[5]も、ネオジムの回収のために使用される。これらの湿式化学法は、酸溶解および廃液処理ステップからの収率が低く、それは、高コストをもたらす多段階プロセスを必要とする。生成物からの磁石の回収は、可能な限り低コストでかつ少ないステップを有することが重要であり、なぜなら生成物からの磁石の回収は、それ自体が多段階プロセスであるためである。
【0005】
いくつかの研究が、様々な試薬:NHCl[6]、FeCl[7]、MgCl[8]、および炭素を含む塩素ガス[9]、を用いる磁石の塩素化について実施された。塩素化剤としてのNHCl、FeClおよびMgClの使用は、塩化ネオジムの形成をもたらし、鉄およびホウ素の合金は、固体金属形態のままであった。得られた塩化ネオジムとFe-B金属残渣との混合物は次いで、真空蒸留または磁気分離によって分離された。塩素化法は、低コストであり、プロセス全体を簡素化し、乾式プロセスとしての処理を必要とする廃液の量を減少する。予備酸化処理を行い100~1000℃の温度で塩素および炭素を添加する、磁石を塩素化するための方法が、[9]で提唱された。
【0006】
すべての金属を酸化物(Fe、FeNdO、Nd)に変換する空気流中での予備酸化焼結は、純粋な塩素による塩素化中に鉄およびホウ素の昇華度を劇的に低下させることが示された。炭素が塩素化プロセスに加えられると(炭素塩素化プロセス)、塩化鉄および塩化ホウ素の昇華度は、上昇する。塩素ガスによる金属酸化物の塩素化反応のギブズエネルギーは、有意な正の値であることが知られており[10]、そのため純粋な塩素によるそれらの良好な塩素化は、事実上不可能である。金属酸化物の塩素化は、還元剤の添加および酸化物の塩素化中の炭素の添加により有効であることが示され、これは、塩化物の昇華プロセスの有効性を劇的に向上させた[10]。
【0007】
磁石のリサイクルに関連する最大の課題の1つは、磁石を他の成分から効率的に分離する方法である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、強磁性合金から少なくとも1つの希土類金属を回収するための方法を提供し、本方法は、
(a)強磁性合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させて、揮発性鉄含有塩化物生成物および少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を得ることと;
(b)上記の揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供し、それによって鉄含有塩化物生成物を酸化鉄へと酸化することと;
(c)上記の酸化鉄生成物と少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を分離することと;
(d)上記の分離された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を冷却することと;
(e)上記の冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解すること;
を含み、
これにより、少なくとも1つの希土類金属を回収する。
【0009】
本発明は、本発明の方法によって調製される少なくとも1つの希土類金属組成物を提供する。
【0010】
本発明とみなされる主題は、本明細書の結論の部分で特に指摘され、明確に特許請求される。しかし、本発明は、その目的、特徴、および利点とともに、構成および操作方法の両方に関して、添付の図面とともに読まれるときに、以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】原子状水素のか焼前の強磁性合金を示す。
図2】原子状水素のか焼後の強磁性合金を示す。
図3】本発明の方法の概略説明である。
図4A】原子状水素か焼前の強磁性合金(初期磁石)のX線回折(XRD)を示す。図4A:サンプル1;図4B:サンプル2(サンプル1および2の含量は、以下の実施例3、表3で提供する)。
図4B】原子状水素か焼前の強磁性合金(初期磁石)のX線回折(XRD)を示す。図4A:サンプル1;図4B:サンプル2(サンプル1および2の含量は、以下の実施例3、表3で提供する)。
図5図5A-D。エネルギー分散型蛍光X線分光法によって特徴づけられた初期磁石の特徴を示し、初期磁石1のSEM画像(図5A);初期磁石2のSEM画像(図5B);初期磁石-サンプル1のEDSスペクトル(図5C);および初期磁石-サンプル2のEDSスペクトル(図5D)を示す。
図6】原子状水素のか焼の実験室の設定を示す。
図7】原子状水素のか焼後の磁石粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
図8】原子状水素のか焼後の磁石粉末のSEM像を示す。
図9】永久磁石から希土類金属を抽出するための塩素処理の実験室の設定を示す。
図10図10A-図10B。サンプル1(図10A)およびサンプル2(図10B)のエネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS、LEO Supra)による塩素ガス処理後の材料の組成物の特徴を示す。
図11A】塩素ガスによる温度処理(400℃)後のネオジム磁石サンプルからの昇華の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。「1」は、Feを指し、「2」は、FeOClを指す。
図11B図11のXRDパターンから得られた昇華の定量的相分析を示す。
【0012】
説明を簡素かつ明瞭にするために、図に示される要素は必ずしも一定の縮尺で描写されていないことを理解されたい。例えば、要素のうちのいくつかの寸法は、明確にするために他の要素に対して誇張され得る。さらに、適切であると考えられる場合、対応する要素または類似の要素を示すために、図面間で参照番号が繰り返され得る。
【発明の詳細な説明】
【0013】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解をもたらすために、多くの具体的な詳細が述べられる。しかし、当業者であれば、本発明はこれらの特定の詳細なく実施され得ることを理解するであろう。他の例では、周知の方法、手順、および構成要素は、本発明を不明瞭にしないように詳細には説明されていない。
【0014】
本発明は、強磁性合金から少なくとも1つの希土類金属を回収するための方法を提供し、本方法は、
(a)強磁性合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させて、揮発性鉄含有塩化物生成物および少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を得ることと;
(b)上記の揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供し、それによって鉄含有塩化物生成物を酸化鉄へと酸化することと;
(c)上記の酸化鉄生成物と少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を分離することと;
(d)上記の分離された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を冷却することと;
(e)上記の冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解すること;
を含み、
これにより、少なくとも1つの希土類金属を回収する。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、強磁性合金をステップ(a)の少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させる前に、原子状水素のか焼処理を使用して粉末合金を形成するためのか焼による強磁性合金の前処理を含む。他の実施形態では、か焼は、室温で実施される。他の実施形態では、原子状水素のか焼処理は、電気分解を使用して実施される。他の実施形態では、電気分解は、銅、ニッケル、鋼、チタン、またはそれらの組み合わせの第1の電極(カソード)および鉛、ニッケル、鋼、またはそれらの組み合わせの第2の電極(アノード)を使用して実施される。他の実施形態では、強磁性合金は、第1の電極(カソード)に取り付けられる。
【0016】
したがって、本発明は、強磁性合金から少なくとも1つの希土類金属を回収するための方法を提供し、本方法は、(i)原子状水素をか焼して、強磁性合金粉末合金を形成することと;(ii)上記粉末を磁気分離して、より低い鉄含量を有する粉末合金を形成することと;(iii)より少ない鉄含量を有する粉末合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させて、揮発性鉄含有塩化物生成物および少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を得ることと;(iv)揮発性鉄含有塩化物生成物と少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物とを分離することと;(v)分離された不揮発性希土類金属塩化物を冷却することと;(vi)冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解すること;を含み、それによって少なくとも1つの希土類金属を回収する。他の実施形態では、原子状水素のか焼は、室温で実施される。他の実施形態では、原子状水素のか焼は、電気分解を使用して実施される。他の実施形態では、電気分解は、銅、ニッケル、鋼、チタン、またはそれらの組み合わせの第1の電極(カソード)および鉛、ニッケル、鋼、またはそれらの組み合わせの第2の電極(アノード)を使用して実施される。他の実施形態では、強磁性合金は、第1の電極(カソード)に取り付けられる。
【0017】
本発明はまた、磁石の前処理を必要としない、塩素処理による使用済みネオジム磁石を回収するための方法を提供する。これらの磁石は、消磁、破砕、および粉砕を行わずに使用された。400℃での処理後に、希土類金属の塩化物からなるクリンカー、ならびに酸化鉄および塩化鉄からなる昇華物が得られた。得られた希土類金属塩化物は、希土類金属を産生するための溶融塩の電気分解によって、容易に処理され得る[12,13]。
【0018】
強磁性(フェリ磁性と交換可能に使用できる)合金に言及する場合、独自の持続磁場を創出する金属の組み合わせで作られた永久磁石の任意のタイプの供給源(使用済みを含む)を包含すると理解されるべきである。これらの金属としては、これらに限定されないが、鉄、ニッケルおよびコバルトなどの元素、希土類金属、天然鉱物(例えば、ロードストーン)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0019】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの希土類金属は、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびイットリウム(Y)から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの塩素含有ガスとの反応を含む(ステップ(a)またはステップ(iii))。他の実施形態では、反応は、400℃~450℃の温度で実施される。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明の方法(ステップ(a)またはステップ(iii))で使用される少なくとも1つの塩素含有ガスは、強磁性合金(または粉末合金)1kgあたり塩素0.5~2.0kgの量で存在する。
【0022】
ステップ(b)の揮発性鉄含有塩化物生成物への空気流が、揮発性鉄含有塩化物生成物1kgあたり空気0.5~2.0kgの量で存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解するステップ(ステップ(e)またはステップ(vi))を含む。他の実施形態では、電気分解は、グラファイト電極(カソード、アノード)を使用して実施される。いくつかのさらなる実施形態では、電気分解は、約500~1500℃の温度範囲で実施される。他の実施形態では、電気分解は、10~15Vの電位を使用して実施される。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の方法によって調製される少なくとも1つの希土類金属組成物を提供する。
【0025】
以下の非限定的な実施例は、本発明の特定の実施形態をより十分に説明するために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変形および修正を容易に想起できる。

【0026】
実施例
実施例1-原子状水素による磁石処理-か焼
強磁性合金のか焼を、室温で1M水酸化ナトリウム水溶液中で実施した。電気分解を、カソード銅電極および鉛アノード電極を用いて実施した。電流密度は、0.1A/cmであった。破砕されていない強磁性合金を、カソード電極に取り付けた。カソードで放出される原子状水素は、強磁性合金片の層を通過し、それと反応する。強磁性合金片は、強磁性合金粉末の生成に伴う原子状水素反応によって散乱される。図1図2、および図8は、原子状水素か焼の前および後の強磁性合金を示す。
【0027】
初期磁石の特性評価。
使用した磁石片を、投入材料として使用した。
【0028】
成分の含量を表1に示した。
【表1】
【0029】
いくつかの磁石片の写真を図1に示す。
【0030】
材料X線回折(XRD)を、UltimaIII回折計(Rigaku Corporation,Japan)で実施し、Jade_10(MDI,Cal.)ソフトウェアおよびICSDデータベース(図4A)を使用して定量的位相分析を実施した。
【0031】
材料の組成を、エネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS,LEO Supra)によって特徴づけた(図5A図5D)。
【0032】
熱力学計算。
ギブズエネルギーの計算を、コンピュータープログラムを使用し純物質の標準値に基づき実施した[11]。温度範囲273~473Kでのギブズエネルギー(ΔG)を、水素との反応について表2に示す。群1-原子状水素との反応;群2-分子状水素との反応;群3-水中での金属水素化物の加水分解反応。
【表2】
【0033】
上記の条件下で、希有金属の群1の反応(1、2)のギブズエネルギーは、大きく負であった(-520~570kJ/mole)。
【0034】
熱力学的計算は、磁石からのNdおよびPrと原子状水素ガスとの反応は、目的の273~373Kの範囲を含む、広い温度範囲内でNdおよびPrの水素化物の形成をもたらし得ることを予測する。ジスプロシウムは、酸化物Dyの形態で添加物として磁石に存在し、原子状水素と反応し、金属ジスプロシウムまたはDyHを産生できる(反応4、5)。群2は、磁石成分と分子状水素の間の水素処理反応を含む。反応(6、7)の可能性も、目的の温度範囲全体で保証されており、負の最大値は、反応(6)についてΔG=-163kJ/moleである。しかし、反応(6、7)についてのギブズエネルギー値は、反応(1、2)よりもはるかに低い。Dyは、水素分子と反応しない(反応8、9)。磁石からの鉄は、本発明者らの条件下では、水素との反応に実質的に関与しない(反応3、8)。群3は、水中でのネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応を含む。本発明者らの条件下で、希有金属についての群3の加水分解反応(11~16)のギブズエネルギーは、大きく負である(-350~530kJ/mole)。熱力学的計算は、ネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応が、目的の273~373Kを含む、広い温度範囲内で、Nd、Pr、およびDyの水酸化物または酸化物の形成をもたらし得ることを予測する。
【0035】
反応(1、2)で表される磁石の化学的か焼は、-520~570kJ/moleのギブズエネルギーを示し、これにより原子状水素処理時における磁石の急速な化学的か焼を予測する。Dyは、金属ジスプロシウムまたはDyH産生を伴い原子状水素と反応できる(反応4、5)。これらの反応(1、2、4、5)は、磁石のか焼をもたらし、200メッシュ未満の粒径を有する磁石粉末を得る。
【0036】
実験手順
実験室の設定を図6に示す。試験期間は、2~4時間であった。温度を、室温から沸点へと変化させた。電位は、4.7V、電流は13~15Aであった。カソード電流密度は、0.8~0.9A/cmであった。
【0037】
1モル/リットルのKOH溶液を含むガラスを、電解槽として使用した。チタンをカソードとして、ニッケル板をアノードとして使用した。ネオジム磁石片(30~40mm)(消磁、破砕、および粉砕を行わずに、そのまま)を、カソードに接続したチタングリッド上に置いた。電気分解中に出された原子状水素が、磁石片の表面に放出され、磁石片をか焼して粉末を産生する。磁石粉末は、グリッドを通過し、電解槽の底で収集された。図7は、か焼後の磁石粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示し、図8は、か焼後の磁石粉末の写真およびSEM画像を示す。
【0038】
実施例2-原子状水素を含む希土類金属の抽出-か焼ステップ
400~450℃での塩素ガスによる強磁性合金粉末の処理。材料を、反応器に装填した。塩素を、反応器に供給し、温度400~450℃に加熱した。反応後、鉄およびホウ素の塩化物は、昇華し、反応器から除去された。塩化鉄を、水でスクラバーに捕捉し、塩化ホウ素を、ガスにより除去した。希土類金属の塩化物は、反応器内に残存した。鉄含有塩化物蒸気生成物(FeCl)を、スクラバーで受け取り、不揮発性の塩化ネオジムおよび塩化プラセオジム(NdCl、PrCl)を、反応器で受け取った。
【0039】
実施例3-原子状水素の前処理を行わない希土類金属の抽出-か焼
この実施例では、希土類抽出のプロセスは、磁石の前処理を必要としなかった。使用された磁石は、消磁、破砕、および粉砕の前処理を含まなかった。400℃での処理後に、希土類金属の塩化物からなるクリンカー、ならびに酸化鉄および塩化鉄からなる昇華物が得られた。
【0040】
初期磁石の特性評価。
使用した磁石片を、投入材料として使用した。成分の含量を表3に示した。
【表3】
【0041】
材料のX線回折(XRD)を、UltimaIII回折計(Rigaku Corporation,Japan)で実施し、Jade_10(MDI,Cal.)ソフトウェアおよびICSDデータベース(図4Aおよび図4B)を使用して定量的位相分析を実施した。
【0042】
材料の組成を、エネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS,LEO Supra)により特徴づけた(表3ならびに図4Aおよび図4B)。
【0043】
表3は、両方の磁石が同じ元素で構成されていることを示すが、元素間の関係は、かなり異なる。X線回折パターンによれば、第1のサンプル(図4A)は、約70nmの平均結晶径を有する良好な結晶性材料であり、第2のサンプル(図4B)は、約5nmの寸法を有するナノ結晶からなる。
【0044】
図4Aのすべての主なピークは、NdFe14BおよびbNdPrFe14Bによく対応し(それらのピークは、ほぼ同一の位置を有する)、残りのピークは、Dyに相当し、それらは、わずかに、数パーセントであった。EDSの結果(表3)によれば、サンプル1での2つの主な相は、同じ量を有した。図4Bでは、NdFe14B(またはNdPrFe14B)のピークが観察されたが、それらは比較的小さかった。図5Bにおいて主なピークの上に示される化合物が、見出されり、表3にまた示される。
【0045】
熱力学計算。
【0046】
ギブズエネルギーの計算を、コンピュータープログラムを使用し純物質の標準値に基づき実施した[11]。温度範囲373~773Kにおけるギブズエネルギー(ΔG)を、塩素ガスによる塩素化反応について表4に示す。
【表4】
【0047】
焼結条件下で、反応のギブズエネルギー(1~、6、8)は、目的の573~673Kの範囲を含む、広い温度範囲内で強い負であり、負の最大値は、反応(3および5)についてΔG=-(800~900)kJ/moleであった。したがって、反応(1)~(6、8)の最も高い可能性は、塩素ガスの注入直後に期待され得る。ジスプロシウムは、酸化物のDyの形態で添加剤として磁石中に存在し、塩素とは反応しなかった(表4の反応7)。
【0048】
実験手順
塩素ガスによるネオジム磁石の焼結を、400℃で温度制御された実験炉で実施し、焼結時間は2時間であった。実験室の設定を図9に示す。
【0049】
ネオジム磁石片(30~40mm)(消磁、破砕、粉砕を行わずに、そのまま)を、Pyrexガラスるつぼの炉に入れた。加熱前に、石英反応器を100ml/分の窒素流下で清浄し、その後炉を、再び100ml/分の窒素流下で所定の温度に加熱した。塩素ガスを、炉が所定の温度に到達した後で反応器に供給した。すべての元素(鉄、ネオジム、プラセオジム、およびホウ素)を、表4からの反応(1~6、8)に従って塩素化した。ジスプロシウム酸化物Dyは、塩素と反応しなかった(表4の反応7)。
【0050】
鉄およびホウ素の塩化物は、昇華し(FeClの沸点は、316℃であり、BClの沸点は、-107℃である)、希土類金属の塩化物は、残留クリンカー中に残存する(NdClの沸点は、1600℃であり、PrClの沸点は、1710℃である)。希土類金属塩化物およびDyを、固体粉末クリンカーから形成した(NdCl3の融点は、758℃であり、PrClの融点は、786℃であり、Dyの融点は、2408℃である)。空気を、反応(7)に従い塩化鉄の酸化のために反応器の上部に追加した。
2FeCl+1.5O=Fe+3Cl(7)
【0051】
塩素は、反応(7)によって得られ、塩素化段階のパイロットまたは工業ユニットに戻されてよく、そのため塩素ガスの循環が達成され得る。
【0052】
窒素気流下での冷却後に、るつぼを、炉から取り出し破壊した。最終生成物(固体のNdCl-PrClクリンカー)を、秤量し、XRDおよびEDSで分析した。塩化鉄と酸化鉄の混合物を、反応器の上部から集め、XRDおよびEDSで分析した。
【0053】
材料の組成を、エネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS,LEO Supra)により特徴づけた(図10A図10Bおよび表5)。
【表5】
【0054】
得られた希土類金属塩化物は、金属希土類金属の産生のために溶融塩の電気分解により容易に処理され得る[12,13]。
【0055】
昇華のX線回折パターンの定量的相分析(図11A)は、2つの結晶性鉄含有相(ヘマタイトFeおよび鉄(III)酸化物塩化物FeOCl)が得られ、ヘマタイトが支配的であることを示した(図11B)。
参考文献
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13.H. Vogel, B. Friedrich.Development and Research Trends of the Neodymium Electrolysis - A Literature Review.European Metallurgical Conference, Dusseldorf.Proceedings of EMC 2015. 1-13.
【0056】
本発明の特定の特徴が図示され、本明細書に記載されているが、当業者は、多くの修正、置換、変更、および等価物を思いつくであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨に含まれるすべての修正および変更を網羅することを意図していることを理解されたい。

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
【手続補正書】
【提出日】2023-03-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性合金の電気分解による原子状水素か焼のための方法であって、アノードとカソードとの間に印加電位を提供して電気分解反応を行い、前記カソードで原子状水素を生成することを含み、前記強磁性合金を前記原子状水素により散乱させて強磁性合金粉末を得る、方法。
【請求項2】
前記原子状水素か焼が、室温で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カソードが、銅、ニッケル、鋼、チタン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アノードが、鉛、ニッケル、鋼、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記強磁性合金が、前記カソードに取り付けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載の原子状水素か焼処理による前記強磁性合金の前処理と、次いで、
(a)揮発性鉄含有塩化物生成物および少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を得るために少なくとも1つの塩素含有ガスと強磁性合金を反応させることと;
(b)前記揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供すること、それにより酸化鉄へと前記鉄含有塩化物生成物を酸化することと;
(c)前記酸化鉄生成物と少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を分離することと;
(d)前記分離された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を冷却することと;
(e)前記冷却された少なくとも1つの不揮発性希土類金属塩化物を電気分解すること;
を含み、
これにより前記少なくとも1つの希土類金属を回収する、方法。
【請求項7】
ステップ(a)の前記反応が、400℃~450℃の温度で実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)の反応における前記少なくとも1つの塩素含有ガスが、前記強磁性合金の1kgあたり0.5~2.0kgの前記塩素の量で存在する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)の前記揮発性鉄含有塩化物生成物への前記空気流が、前記揮発性鉄含有塩化物生成物の1kgあたり0.5~2.0kgの空気の量で存在する、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの希土類金属が、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびイットリウム(Y)から選択される、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】