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特表2023-533390グリコペプチド抗生物質およびポリカチオン性ペプチド抗生物質局所送達のための親水性分解性マイクロスフェア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】グリコペプチド抗生物質およびポリカチオン性ペプチド抗生物質局所送達のための親水性分解性マイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20230726BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230726BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230726BHJP
   C08G 63/66 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K38/12
A61P31/04
A61K47/32
A61K47/34
A61K9/50
A61K9/19
C08G63/66
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525116
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2021068910
(87)【国際公開番号】W WO2022008624
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】20305778.1
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523010018
【氏名又は名称】オクルジェル
【氏名又は名称原語表記】OCCLUGEL
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ベイユヴェール,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】コリュ,エメリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブドゥエ,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】モワンヌ,ロランス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4J029
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA61
4C076BB11
4C076BB16
4C076CC32
4C076EE06
4C076EE12
4C076EE23
4C076EE47
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA25
4C084BA44
4C084DA43
4C084MA41
4C084MA44
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA12
4C084ZB351
4C084ZB352
4J029AA01
4J029AB01
4J029AB07
4J029AE06
4J029HE06
4J029JB182
4J029JB232
4J029JE182
(57)【要約】
本発明は、有効量のペプチド抗生物質、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび注入投与のための薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも、a)10mol%~90mol%の一般式(I)の親水性モノマー;b)0.1~30mol%の式(II)の環状モノマー;およびc)5mol%~90mol%の1つの分解性ブロックコポリマークロスリンカーを含む組成物であって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、かつ前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが-3~11.20の分配係数Pを有するものである、組成物に関する。本発明はまた、局所送達により感染症、特に哺乳動物感染症を予防および/または処置するための、このような組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入により投与するための、有効量のペプチド抗生物質、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D(I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の、0.50~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);または
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
11は独立して、水素原子または(C-C)アルキル基;
またはXは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCL;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
pは1~100の整数であり;
zは3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物。
【請求項2】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に、
X=PLA、n+k=12およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13;または
X=PCL;n+k=8およびp=13;または
X=PLGA;n+k=12およびp=13;または
X=PCL、n+k=10およびp=4;または
X=PCL、n+k=12およびp=2
である、一般式(IIIa)の化合物から成る群から選択されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、一般式(IIIa)または(IIIc)、特に、XがPCLまたはPLAPCLを表す一般式(IIIa)のものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)の量が、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して5mol%~60mol%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
環状モノマーb)が、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
親水性モノマーa)が、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド)メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスが、さらに鎖転移剤d)に基づくものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
架橋マトリックスが、少なくとも1つのイオン化したまたはイオン化可能な一般式(V):
(CH=CR12)-M-E (V)
〔式中、
12は水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Mは単結合または1~20個の炭素原子を有する二価のラジカル、有利には単結合であり;
Eはイオン化されているか、イオン化可能な基であり、有利には、-COOH、-COO、-SOH、-SO 、-PO、-PO、-PO 2-、-NR1314および-NR151617 から成る群から選択され;ここでR13、R14、R15、R16およびR17は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
のモノマーe)に基づくものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ペプチド抗生物質がグリコペプチド抗生物質またはポリカチオン性ペプチド抗生物質であり、有利には、前記疎水性グリコペプチド抗生物質が、テイコプラニン、バンコマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、ラモプラニン、デカプラニン、コルボマイシン、コンプレスタチン、ブレオマイシン、オリタバンシンおよびダルババンシン、特にテイコプラニンから成る群から選択され、有利には、前記ポリカチオン性ペプチドが、ポリミキシン群またはカテリシジン群およびディフェンシン群、特にポリミキシンBから選択されるものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
10~300mg/mLのグリコペプチド抗生物質および2~10mg/mLのポリカチオン性ペプチド抗生物質を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
局所送達による感染症、特に、哺乳動物感染症の予防および/または処置に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
処置を必要とする対象への有効量のペプチド抗生物質の局所送達に使用するための親水性分解性マイクロスフェアであって、前記親水性分解性マイクロスフェアが請求項1~10のいずれか一項で定義されるとおりのものである、親水性分解性マイクロスフェア。
【請求項13】
ペプチド抗生物質が、グリコペプチド抗生物質またはポリカチオン性ペプチド抗生物質であり、有利には、前記疎水性グリコペプチド抗生物質が、テイコプラニン、バンコマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、ラモプラニン、デカプラニン、コルボマイシン、コンプレスタチン、ブレオマイシン、オリタバンシンおよびダルババンシン、特にテイコプラニンから成る群から選択され、有利には、前記ポリカチオン性ペプチドが、ポリミキシン群またはカテリシジン群およびディフェンシン群、特にポリミキシンBから選択されるものである、請求項12に記載の使用のための親水性分解性マイクロスフェア。
【請求項14】
i)少なくとも1つの請求項1~9のいずれか一項で定義される親水性分解性マイクロスフェアとともに、注入による投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量のペプチド抗生物質;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、
ここで、前記親水性分解性マイクロスフェアおよびペプチド抗生物質は別個に包装されているものである、医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド抗生物質の局所送達のための親水性分解性マイクロスフェアに関する。特に、本発明は、有効量のペプチド抗生物質および親水性分解性マイクロスフェアを含む組成物に関する。本発明はまた、局所送達による感染症、特に哺乳動物感染症の予防および/または処置に使用するための、前記組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染を処置するために、全身性抗生物質が経口または静脈内投与され、全身に作用する。最初の抗生物質処置の選択は、感染症の重篤度、患者が別の抗生物質処置を受けたか、または感染症が一般的な抗生物質に耐性であると知られる微生物により引き起こされるか、および患者の全体的な健康などのいくつかの因子に依存する。抗生物質処置の目標は、感染症を停止し、その拡大を予防することである。
【0003】
全身性化学療法アプローチは、一方では耐性菌、他方では副作用が発生するリスクがある。局所治療は、遅延放出デバイスに組み込まれた活性抗微生物成分の拡散を制御することに基づく。この治療選択肢は、全身への影響を回避し、標的部位における高い活性薬剤濃度を得ることを可能にする。抗生物質の濃度を常に最小阻害濃度(MIC)より高く、イン・サイチュで維持することが不可欠である。局所抗生物質送達は、感染部位が灌流不足で適切な抗生物質の注入が妨げられるとき、有用である。抗生物質濃度の局所的な増加に加えて、局所治療は、全身に使用されるときに有毒な(聴器毒性、腎毒性)抗生物質の使用を可能にする。
【0004】
当分野において(Kanellakopoulou K et al.; Drugs. 2000. 59: 1223-32)、抗菌剤の局所送達のための担体は、非生分解性または生分解性に分類され得る。前者のカテゴリーの主な代表例は、しばしばゲンタマイシン、バンコマイシンまたはトブラマイシンを含浸したポリメチルメタクリレート(PMMA)である(Sorensen TS et al; 1990. Acta Orthop Scand. 61: 353-6)。整形外科における局所抗生物質の近年の使用は、感染した人工関節を処置するための抗生物質が含浸されたポリメチルメタクリレート接合剤の使用から始まった。PMMAは、留置後、最初の数日間、高濃度の抗生物質(バンコマイシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシンおよびセフロキシム)の迅速な放出をもたらす。この物質の主な不利益は、抗生物質の放出が完了した後に外科的な摘出が必要なことであり、これは通常、留置の4週間後に行われる。
【0005】
後者のカテゴリー(生分解性)の例は、コラーゲン-ゲンタマイシンスポンジ、リン灰石-珪灰石ガラスセラミックブロック、ハイドロキシアパタイトブロック、ポリ乳酸/ポリグリコライドインプラントおよびポリ乳酸ポリマーを含む(Kanellakopoulou K et al.; Drugs. 2000. 59:1223-32)。上記の系の全ては、最初の数日間、全身循環に抗生物質を放出することなく、かつ副作用を生じさせることなく、高濃度で抗生物質を放出する。生分解性の担体は外科的な摘出が必要なく、その中でも、コラーゲン-ゲンタマイシンスポンジは、過去10年にわたり骨感染症への適用に成功している。コラーゲンスポンジは、ゲンタマイシンを充填したベクターのみが、市販で入手可能である。それらは1~2週間で完全に溶解してしまうため、虫歯の詰め物には適さない。さらに、それらの溶解は、主に初日に極端に速い(Sorensen TS et al; 1990. Acta Orthop Scand. 61:353-6)。
【0006】
今日、抗生物質の生分解性局所送達系、より具体的には、PMMAビーズで報告されるような系へのバイオフィルム形成を回避しながら、長期間にわたって送達を可能にする抗微生物ペプチドに対する必要性が存在する。より具体的には、ペプチド抗生物質の局所持続放出に特化した新規な分解性薬物送達系(DDS)の開発は、全身曝露を低減することによる多剤耐性病原体の出現への対応に関与するものである。ペプチド抗生物質を充填した局所DDSの使用は、筋骨格組織、皮膚および軟組織ならびに眼においてグラム陰性およびグラム陽性細菌により引き起こされる感染症の処置に有効な手段であり得る。
【0007】
グラム陰性細菌は、肺炎、血流感染、創傷または術部感染、および髄膜炎を含む感染症を引き起こす。グラム陰性細菌は、多くの利用可能な抗生物質に対する耐性が増加し続けている。これらの細菌は、新たな耐性方法を見つける能力を発達させ、他の細菌が薬剤耐性になることが可能な遺伝物質を伝え得る(Velkov et al; 2016. Future Med Chem. 8:1017-25)。
【0008】
グラム陰性細菌により引き起こされる感染症を処置するための元のアプローチは、ポリミキシンファミリーに属するペプチドなどのペプチド抗生物質の持続的な局所送達に基づくものであり得る。ポリミキシンは、1947年に発見され、1950年代後半に臨床に導入されたポリペプチド抗生物質である。ポリミキシンは、N末端で脂肪酸末端によりアシル化されたトリペプチド側鎖を有する環状ヘプタペプチドから成るカチオン性ポリペプチドである。コリスチン(ポリミキシンE)およびポリミキシンBは、ペプチド環におけるアミノ酸が1個異なるのみであり、ポリミキシンBはフェニルアラニンを有し、コリスチンはロイシンを有する(Poirel et al; 2017. Clin Microbiol Rev. 30:557-96)。ポリミキシンは、負に荷電したLPS(LPSの脂質A領域のホスフェート部分)とポリミキシンの正に荷電したアミノ酪酸残基との間の静電相互作用によるリポ多糖(LPS)との高い親和性のため、グラム陰性細菌を無力化にする。ポリミキシンの非経腸投与は腎毒性を引き起こし、これらの臨床的使用は1970年までに減少した。この20年、ポリミキシン多剤耐性細菌、特に、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)の出現ならびに将来的にこれらの細菌に有効な新たな抗生物質が存在しないことにより、ポリミキシンが再注目された。この状況は、グラム陰性病原菌に対する重要な最後の砦を代表するポリミキシン抗生物質の復活に好都合である。腎毒性を低減するが殺菌活性を保持するポリミキシン構造の修飾は、成功していない(elkov et al; 2016. Future Med Chem. 8:1017-25)。現在まで、敗血症性ショック中の臨床血液浄化のために、ポリミキシンをセルロースマイクロスフェアに固定し、循環LPSに結合させていた(Stegmayr. 2001. Ther Apher. 5:123-7)。ポリミキシンは、マウスの血液中でポリミキシンの遅延放出を維持し、マウスを内毒素誘発性敗血症から保護するために、PLGAマイクロスフェアに封入された(Nanjo et al; 2013. Journal of Infection and Chemotherapy. 19:683-90)。ポリミキシンの局所DDSは、現在まで、局所的なグラム陰性細菌を治癒するための開発はされていないと考えられる。ポリミキシンを分解性の担体に充填し、全身抗生物質に耐性のグラム陰性細菌により引き起こされた感染症を局所的に処置することは、革新的な抗感染戦略である。
【0009】
多剤耐性グラム陽性細菌により引き起こされる感染症は、公衆衛生上の大きな負担である。グラム陽性細菌は、感染症の原因の中では最も一般的なものであり、グラム陽性細菌の薬物耐性株(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)およびグリコペプチド耐性腸球菌を含む)の有病率が増加している(Munita et al; 2015. Clin Infect Dis. 61 (Suppl 2):S48-S57)。グラム陽性生物(スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属およびエンテロコッカス属の細菌)は、臨床感染を引き起こす最も一般的な細菌である。MRSAは、ほぼ全てのβ-ラクタム抗微生物剤(すなわち、ペニシリン、セファロスポリンおよびカルバペネム)に対する耐性のため、懸念される病原体である。抗微生物ペプチド、特に、グリコペプチド(バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、オリタバンシン)は、グラム陽性細菌に対して有効な主要な分子クラスである。グリコペプチドは、細菌細胞壁形成における架橋安定化段階を阻害することにより、グラム陽性細菌を死滅させる。ペニシリンに耐性または不寛容の場合、それらは代替となる。バンコマイシンはMRSAを含む大部分のグラム陽性細菌に対して抗微生物活性を示す、2番目に広く使用される抗生物質である。テイコプラニン(放線菌アクチノプラネス・テイコミセチウス(Actinoplanes teichomyceticus)により産生される)はバンコマイシンと構造的に類似しており、同一のヘプタペプチド塩基と芳香族アミノ酸、芳香族アミノ酸、1個のα-D-マンノースおよび2個のN-アセチル-D-グルコサミン残基を含むアグリコン(その1つは10個または11個の炭素原子を含む脂肪酸残基から成るアシル部分で置換されている)を有する5つの近縁なグリコペプチドの複合体である。テイコプラニンはバンコマイシンの約5倍親油性である。
【0010】
不運なことに、グリコペプチドに対する耐性がグラム陽性病原性細菌で生じており、バンコマイシンに対する耐性が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)で(Gardete et Tomasz; 2014. 124:2836-40)そしてテイコプラニンに対する耐性がスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)で(Trueba et al; 2006. J Clin Microbiol. 44:1922-23)が生じている。全身処置の代わりに局所治療が可能であるとき、最終手段であるこれらの抗生物質への耐性の出現を低減するための一つの方法の恩恵がある。分解性担体に適用されたグリコペプチドの局所送達は、全身処置中に誘発される耐性の発生のリスクを低減しつつ、重篤な感染症を局所的に処置する機会を提供する。
【0011】
テイコプラニンの多くのDDSは、慢性骨髄炎の処置における局所送達について記載されている。Jia et al. 2010 (Acta Biomaterialia. 6:812-19)では、ホウ酸塩生物活性ガラスとキトサンからなる複合材料が製造された。インビトロでは、24時間で約40%、7日後に約70%のテイコプラニンの放出が起こった。インビボでは、12週間後、テイコプラニンを持続放出することにより、ウサギモデルにおける骨髄炎を処置するために留置剤が効率的であった。テイコプラニンを骨感染症を処置するためのソルゲル薬物送達系としてのポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル(mPEG)およびポリ(乳酸-グリコール酸)(PLGA)コポリマーに封入した。標的組織において組成物のゲル化が生じ、これはウサギで誘発された実験的骨髄炎の処置に有効であった(Peng et al; 2010. Biomaterials. 31:5227-36)。テイコプラニンを含む硫酸カルシウムペレットもまた、製造された。インビトロ薬物溶出は、1週間継続する(80%の放出)。インビボでは、骨髄炎のウサギモデルで留置6週間後、細菌感染の低減および骨の修復が観測された(Peng et al; 2010. Biomaterials. 31:5227-36)。テイコプラニンを、ウサギでの関節内留置のためにPLGAマイクロスフェアへ封入した。滑膜流体におけるテイコプラニンの有効濃度を5週間計測した(Jia et al; 2010. Antimicrob Agents Chemother. 54:170-176)。テイコプラニンのインビトロ持続送達(100時間で37%)は、薬物を含むトリポリリン酸架橋キトサンナノ粒子を用いて得られた(Kahdestani et al; 2020. Polym. Bull. 20)。ゼラチンスポンジについては、テイコプラニンの含浸はバンコマイシンと比較して乏しく、感染した創傷へのテイコプラニン局所適用のための有望な担体であると考えられていない(Drognitz et al; 2006. Infection 34(1):29-34)。種々の分解性担体によるテイコプラニンの局所送達は、試験的骨髄炎を処置するための動物モデルにおける有効な手段である。
【0012】
グラム陽性およびグラム陰性細菌により引き起こされた感染症を局所的に処置するために、全身的な抗生物療法による耐性菌の出現を回避するために、本発明者らは、局所抗生物質送達系により示される利益に注目した。破裂することなく持続放出を可能にし、有効成分の簡易かつ迅速な充填を可能にする、グラム陰性およびグラム陽性細菌に対して有効な抗微生物ペプチドの分解性担体に対する必要性が存在する。本発明者らはまた、ポリミキシンの創傷への局所送達のための分解性担体が存在しないことにも着目した。
【発明の概要】
【0013】
第一の態様において、本発明は、注入により投与するための、有効量のペプチド抗生物質、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の、0.50~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);または
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
11は独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
またはXは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLであり;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
pは1~100の整数であり;
zは3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物に関する。
【0014】
第二の態様において、本発明は、局所送達により、感染症、特に哺乳動物感染症の予防または処置に使用するための、本発明の組成物に関する。
【0015】
第三の態様において、本発明は、必要とする対象への有効量のペプチド抗生物質の局所送達に使用するための、本発明の親水性分解性マイクロスフェアに関する。
【0016】
第四の態様において、本発明は、
i)薬学的に許容される担体を含む少なくとも1つの本発明の親水性分解性マイクロスフェア;
ii)有効量のペプチド抗生物質;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよびペプチド抗生物質が別個に包装された、医薬キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MS2への薬物充填に対する、充填媒体中のテイコプラニン量の影響。水中のテイコプラニンを増加させながら(10mgから300mgまで)、0.5mLの乾燥した無菌マイクロスフェアとインキュベートした。充填反応を室温または37℃で実施した。1mLのMSに充填したテイコプラニン量(mg)(A)および即時テイコプラニン充填の効率(%)(B)。
図2】実施例1の無菌分解性マイクロスフェアへの即時充填後の、テイコプラニンおよびダルババンシンのインビトロ放出。*37℃での抗生物質放出中の、PBS中でのマイクロスフェアの分解時間。
図3】実施例3による、PBS中での分解性MS1およびMS5への即時充填後のポリミキシンBの溶出、およびそれらのその後の推移。*ペプチドの溶出中の、PBS中でのマイクロスフェア分解時間。
図4】実施例3による、PBS中での分解性MS2、MS6、MS7およびMS10への即時充填後のポリミキシンBの溶出、およびそれらのその後の推移。*ペプチドの溶出中の、PBS中でのマイクロスフェア分解時間。
図5】実施例3による、PBS中での分解性MS2およびMS5への即時充填後のポリミキシンE(コリスチン)の溶出、およびそれらのその後の推移。*ペプチドの溶出中の、PBS中でのマイクロスフェア分解時間。
図6】実施例1の分解性MS2に即時充填したヒトカテリシジンペプチドLL-37のインビトロ放出。ペグ化化合物のアッセイにより、MS2の分解は、その時間中にPBS中で放出された分解生成物のmgとして表される。
図7】テイコプラニンで即時充填した分解性マイクロスフェアの単回皮下注入後の、ウサギ体内でのテイコプラニンの血漿濃度。
図8】分解性マイクロスフェアMS1およびMS2のサイズ分布。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、架橋ヒドロゲルから成る分解性親水性マイクロスフェアがペプチド抗生物質、特にポリミキシンおよびテイコプラニンペプチドに対して高い親和性を示し、予め形成されたマイクロスフェアに数分で効率的に充填され、その後の持続放出を可能にすることを発見した。
【0019】
本発明は、種々の抗微生物ペプチドを感染した組織に局所送達するための過程を簡略化する可能性を提供する。すなわち、抗生物質を含浸したPMMAビーズを調製するよりも単純な手順である水溶液中の抗微生物ペプチドと予め形成された分解性マイクロスフェアを単に混合するのみである(Meeker et al., 2019. J Arthroplasty 34:1458-61)。
【0020】
本発明者らは、局所送達のための生体適合性の薬物担体として使用され得て、ポリミキシンを含む、脂肪酸テイルを有し得るポリカチオン性ペプチドとの親和性を示す親水性分解性マイクロスフェア、およびテイコプラニンを含む、脂肪酸末端を有するグリコペプチド抗生物質を発見した。
【0021】
このように、本発明者らは抗微生物ペプチドの局所送達系を発見した。送達系は有機溶媒を含まず、一日から数か月の範囲で分解時間を調整可能であり、充填が容易であり(水中で、室温で数分)、完全な薬物放出が可能であり、激しい炎症反応や即時破裂を回避することが可能である。
【0022】
本発明の局所送達系は、抗微生物ペプチドの延長放出および局所放出を可能にする。このような送達は全身循環におけるいずれかの抗生物質の放出による副作用を回避し、一方で、複数回投与の必要なしに、かつ送達系の外科的摘出なしに、長期の放出が可能である。
【0023】
定義
本明細書で使用される表現「に基づくマトリックス(matrix based on)」は、少なくとも成分(a)~(c)の混合物を含むマトリックスおよび/または反応、特に少なくとも成分(a)~(c)間の重合により生じたマトリックスを意味する。したがって、成分(a)~(c)は、マトリックスの重合(例えば、不均一な媒体重合)に使用される出発成分として理解され得る。
【0024】
本明細書で使用される表現「反応混合物」は、重合に関与するいずれかの成分を含む重合媒体を示す。反応混合物は、典型的に、少なくとも、特許請求の範囲および本明細書で定義される成分a)、b)、c)、場合により重合開始剤、例えば、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)とも称される)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、または場合により、1以上の光開始剤、例えば、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)、および少なくとも1種の溶媒、好ましくは、水性溶媒と非極性非プロトン性溶媒などの有機溶媒を含む溶媒混合物、例えば、水/トルエン混合物および場合により本明細書に記載の任意の適切な成分(例えば、ポリビニルアルコールなどの)安定化剤を含む。
【0025】
したがって、本明細書において、「[出発成分X]をYY%~YYYY%の量で反応混合物に添加する」および「架橋マトリックスは、YY%~YYYY%の量の[出発成分X]に基づく」などの表現は、同様に理解される。同様に、「反応混合物は少なくとも[出発成分X]を含む」および「架橋マトリックスは、少なくとも[出発成分X]に基づく」などの表現も、同様に理解される。
【0026】
本発明の内容において、反応混合物の「有機相」は、有機溶媒および前記有機溶媒に可溶な化合物、特にモノマー、および重合開始剤を含む相を意味する。
【0027】
本明細書で使用される用語「(C-C)アルキル基」は、X~Y個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和一価炭化水素鎖を意味し、ここでXおよびYは、1~36、好ましくは1~18、特に1~6の整数である。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルまたはヘキシル基が挙げられる。
【0028】
本明細書で使用される用語「アリール基」および「(C-C)アリール」は、好ましくはX~Y個の炭素原子を有する芳香族炭化水素を意味し、ここでXおよびYは、6~36、好ましくは6~18、特に6~10の整数である。アリール基は、単環式または多環式(縮合環)であり得る。例としては、フェニル基またはナフチル基が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される用語「分配係数P」は、平衡状態における2つの非混和溶媒:水および1-オクタノールの混合物中の化合物の濃度比を意味する。したがって、この比は、これらの2つの液体における溶質の溶解度を比較したものである。したがって、オクタノール/水分配係数は、化合物がどの程度親水性(オクタノール/水比<1)または疎水性(オクタノール/水>1)であるかを測定するものである。分配係数Pは、水中および1-オクタノール中の化合物の溶解度を測定することにより、オクタノールにおける溶解度/水における溶解度の比を計算することにより決定され得る。分配係数Pはまた、ChemAxonにより提供されるChemicalizeを用いて、イン・シリコで計算され得る。
【0030】
本明細書で使用される解性クロスリンカーの疎水性/親水性平衡Rは、次の式:
【数1】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
に従って、疎水性単位の数と親水性単位の数の比により数値化され得る。
【0031】
例えば、本発明において使用され得るクロスリンカーについて、Rは:
【数2】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
である。
【0032】
本明細書で使用される用語「分解性マイクロスフェア」は、マイクロスフェアが、腎臓ろ過の50kg・mol-1の閾値を下回る分子量を有する低分子量の化合物および水溶性ポリマー鎖から成る分解生成物の混合物中で加水分解により分解または開裂することを意味する。
【0033】
本明細書で使用される表現「親水性分解性マイクロスフェア」は、水性媒体との良好な適合性および固体表面(シリンジ、針、カテーテル)への低付着性を可能にする親水性モノマーを10%~90%含む分解性マイクロスフェアを意味する。
【0034】
本明細書で使用される表現「X~Y」(XおよびYは数値である)は、XおよびYを限定する数値範囲が含まれる。
【0035】
本明細書で使用される、有効成分の「即時放出(IR)」という表現は、製剤が投与されてすぐに、製剤から送達箇所へ有効成分が迅速に放出されることを意味する。
【0036】
本明細書で使用される、有効成分の「延長放出」という表現は、製剤から送達箇所まで所定の速度で長期間にわたって有効成分を「持続放出(SR)」または「制御放出(CR)」し、最小限の副作用で一定の有効成分レベルを維持することを意味する。制御放出(CR)は、CRが一定の速度で持続的な期間にわたって薬物放出を維持し、持続放出(SR)が薬物放出を一定の速度ではなく持続的に放出する点で、SRと相違する。
【0037】
本明細書で使用される、有効成分の「持続放出」という表現は、初回用量部分により、目的の組織中の薬物を治療濃度で特定の予め決定された時間維持するための、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0038】
本明細書で使用される表現、有効成分の「制御放出(CR)」という表現は、時間的もしくは空間的な性質またはその両方を一部制御することを提供する、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0039】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の製造に有用なもの、および医薬用途について一般に安全であり、非毒性のものを意味することが意図される。
【0040】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、上記で定義されるとおり薬学的に許容され、かつ対応する化合物の薬理学的活性を有する化合物の塩を意味する。このような塩は、下記のものを含む:
(1)水和物および溶媒和物、
(2)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸などの無機酸を用いて形成される;または酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフト酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機酸を用いて形成される酸付加塩、および
(3)化合物中に存在する酸プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアルミニウムイオンなどの金属イオンで置換されたとき;または有機または無機塩基と配位したときに形成される塩。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどを含む。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含む。
【0041】
モルパーセントは、本明細書においてmol%と略記される。
【0042】
マイクロスフェア
本発明によれば、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも次の成分:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化2】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11が互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり、かつ前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが9-3~11.2、典型的には、0.5~11.2の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づくものであり、好ましくは、少なくともこれらの成分の重合により生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0043】
分配係数Pは、ChemAxonにより提供された成分a)~c)のmol%を用いて、イン・シリコで決定される。
【0044】
親水性分解性マイクロスフェアがさらなるモノマー(下記モノマーe)を参照)に基づくものであるとき、成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して表される。
【0045】
用語「親水性モノマー」は、水に対して高い親和性を有する、すなわち、水に溶解しやすい、水と混合しやすい、水により湿潤しやすい、または重合後に水中で膨張することが可能なポリマーを生じさせるモノマーを意味する。
【0046】
ブロックコポリマークロスリンカーは、分解性ブロックコポリマークロスリンカー、すなわち、共有結合により結合した種々のブロックの直鎖状(または放射状)配置を有するポリマーである。分解性ブロックコポリマーにおいて、共有結合は、エステル結合、アミド結合、無水物結合、尿素結合またはポリサッカライド結合などの分解性のものであり、ここでは特にエステル結合である。
【0047】
Xが単結合であるとき、R、R、RおよびR10基を有する炭素原子は、単結合を介して直接結合することを意味する。
【0048】
親水性分解性マイクロスフェアは、生理食塩水溶液(すなわち、通常の食塩水溶液)中で膨潤後に20μm~1200μmの範囲の直径を有する、球状粒子の形態の膨潤分解性(すなわち、加水分解性)架橋ポリマーである。特に、本発明のポリマーは、少なくとも1つの上記で定義される重合化モノマーa)、b)およびc)の鎖で構成される。
【0049】
本発明の内容において、ポリマーは、液体、特に水を吸収する能力を有するならば、膨潤性である。したがって、「膨潤後のサイズ」という表現は、マイクロスフェアの大きさが、それらの製造中に生じる重合および滅菌の工程後に考慮されることを意味する。
【0050】
有利には、本発明のマイクロスフェアは、光学顕微鏡により決定して、生理食塩水溶液(すなわち、生理食塩水)中での膨潤後に20μm~100μm、40μm~150μm、100μm~300μm、300μm~500μm、500μm~700μm、700μm~900μmまたは900μm~1200μmの直径を有する。マイクロスフェアは、有利には、数百マイクロメートル~一ミリメートル以上の範囲の内径を有する針、カテーテルまたはマイクロカテーテルにより注入するために十分小さな直径である。
【0051】
親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
のものである。
【0052】
有利には、親水性モノマーa)は、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル(メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート;有利には、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される。
【0053】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-CHまたは-(CR)-OHであるとき、mは好ましくは、1~6の整数である。
【0054】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-CHであるとき、Zは好ましくは、C-C-アルキル基である。
【0055】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-OHであるとき、RおよびRは好ましくは水素であり、mは1~6の整数である。
【0056】
いくつかの実施態様において、親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH-CH-O)-Hまたは-(CH-CH-O)-CHであり、ここでmは1~30の整数であり;
は水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチルである〕
のものである。
【0057】
より有利には、親水性モノマーa)は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル メタクリレート(m-PEGMA)である。
【0058】
親水性モノマーa)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)10mol%~90mol%、好ましくは30mol%~85mol%、より好ましくは30mol%~80mol%の範囲である。
【0059】
成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0060】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0061】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0062】
有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよびその誘導体、特にベンゾ誘導体およびフェニル置換誘導体から成る群から、有利には、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から、より有利には、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンおよび2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンから成る群から選択される。より有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキセパンまたは2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンである。
【0063】
成分b)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に1mol%~10mol%の範囲である。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0064】
一般式(II)の環状モノマーb)は、有利には、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に5mol%~15mol%または1mol%~10mol%の範囲で、反応混合物中に存在する。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0065】
成分c)は分解性ブロックコポリマークロスリンカーであり、ここで前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である。
【0066】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、-3~11.20、典型的には0.5~11.20、有利には2.00~9.00の分配係数Pを有するか;または分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、1~20、有利には3~15の疎水性/親水性平衡Rを有する。
【0067】
クロスリンカーの疎水性およびその濃度、およびクロスリンカーの分配係数Pは、ペプチド抗生物質の放出に影響を与える。したがって、分配係数Pが増加するとき、ペプチド抗生物質、特にポリカチオン性ペプチド抗生物質の送達時間もまた増加する。クロスリンカーもまた、ペプチド抗生物質、特に疎水性グリコペプチド抗生物質の放出に影響を与え、高濃度のクロスリンカーはペプチド抗生物質の大部分の即時放出を妨げ、放出時間を増加させる。
【0068】
本明細書で意図されるとおり、「コポリマークロスリンカー」という表現は、コポリマーが、複数のポリマー鎖を一緒に連結するためにその末端の少なくとも2つに二重結合を含む官能基を含むことを意味するために意図される。
【0069】
上記で定義されるクロスリンカーc)は、直鎖状または星型(有利には、3~8アーム)であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、クロスリンカーc)は、その全ての末端に(CH=(CR11))-CO-を示し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、R11は同一であり、Hまたは(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。
【0070】
有利には、上記で定義されるクロスリンカーc)は直鎖状であり、その両端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である。有利には、クロスリンカーc)はその両端に(CH=(CR11))-CO-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、R11は同一であり、Hまたは(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。
【0071】
クロスリンカーc)は、下記の一般式(IIIa)または(IIIc):
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);
W-(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLを表し;
n、kおよびpは各々、XおよびPEGの重合度を表し、nおよびkは独立して、1~150の整数であり、pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基(好ましくはC-C-アルキル基)、または1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含むエーテル基であり;
zは3~8の整数である〕
のものである。
【0072】
式(IIIc)のクロスリンカーc)は、星型ポリマー、すなわち、中核部分に結合したいくつかの直鎖(アームとも称される)から成るポリマーである。式(IIIc)のクロスリンカーにおいて、Wは、星型ポリマーの中核であり、-(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)は、星型ポリマーであり、ここでzはアームの数である。
【0073】
有利には、クロスリンカーc)が一般式(IIIc)のものであるとき、nは、PEGの各アームにおいて同一でも異なってもよい。
【0074】
本発明の内容において、本明細書で使用される略語は、次の意味を有する:
【表1】
【0075】
上の表において、n、pおよびkは本明細書に記載の値を有する。
【0076】
上記式(IIIa)において、pは、好ましくは1~25、好ましくは2~15の整数である。
【0077】
上記式(IIIc)において、pは、好ましくは1~16の整数である。
【0078】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPLAPCLまたはPCLを表す。より有利には、クロスリンカーc)は、一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPCLを表す。
【0079】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでnおよびkは独立して、1~150、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは4~7の整数である。好ましくは、n+kは5~15または8~14の範囲であり、pは1~100、好ましくは1~20の整数である。
【0080】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでR11は同一であり、Hまたは(C-C)アルキル基である。
【0081】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に式(IIIa)の化合物から成る群から選択され、ここで:
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12であり、R11はメチルである);
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG-PCL10であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0082】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0083】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIc)の化合物であり、ここでpは7であり、X=PLAPCLであり、n=10であり、zは3であり、ここでR11は、好ましくは水素またはメチルである(例えば、PEG3アーム-PLA-PCLであり、R11はメチルである)。
【0084】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に式(IIIa)の化合物から成る群から選択され、ここで:
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0085】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0086】
上記クロスリンカーc)の定義の範囲内で、ポリエチレングリコール(PEG)は、100~10000g/mol、好ましくは100~2000g/mol、より好ましくは100~1000g/molの高い平均分子量(Mn)を有する。
【0087】
クロスリンカーc)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)(および存在するとき、成分e)、下記参照)の総モル数に対して5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%の量である。
【0088】
クロスリンカーc)は、有利には、反応混合物中に、成分a)、b)およびc)(および存在するとき、成分e))の総モル数に対して5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%の範囲の量で存在する。
【0089】
有利には、本発明の組成物がペプチド抗生物質としてテイコプラニンなどのグリコペプチド抗生物質を含むとき、クロスリンカーの濃度が放出に影響を与える。10mol%を超える量については、テイコプラニンなどのグリコペプチド抗生物質の最適な放出が達成され、これは特に、その量がグリコペプチド抗生物質の大部分の即時放出を妨げるからである。したがって、本発明の組成物がペプチド抗生物質としてテイコプラニンなどのグリコペプチド抗生物質を含むとき、クロスリンカーc)は、有利には、モノマー(成分a)、b)およびc)、および存在するとき、成分e))の総モル数に対して5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%、特に10mol%~60mol%の量で、反応混合物中に存在する。
【0090】
有利には、本発明の組成物がペプチド抗生物質としてポリミキシンBなどのポリカチオン性ペプチド抗生物質を含むとき、クロスリンカーの疎水性およびクロスリンカーの分配係数Pまたは疎水性/親水性平衡Rが放出に影響を与える。0.50~11.20、有利には2.00~9.00の分配係数Pまたは1~20、優先的には3~15の疎水性/親水性平衡Rについては、ポリミキシンBなどのポリカチオン性ペプチド抗生物質の最適な放出が達成され、これは特に、PまたはRがポリカチオン性ペプチド抗生物質の大部分の即時放出を妨げるからである。
【0091】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスは、有利には、鎖転移剤d)に皿に基づくものであり、好ましくは、鎖転移剤d)の存在下、成分a)、b)およびc)の重合から生じる。
【0092】
本発明の目的のために、「転移剤」は、少なくとも1つの弱い化学結合を有する化学的化合物を意味する。この薬剤は、伸長するポリマー鎖のラジカル部位と反応し、鎖の伸長を妨げる。鎖転移過程において、ラジカルが一時的に転移剤へ移動し、別のポリマーまたはモノマーへラジカルを移動させることにより、伸長が再開する。
【0093】
有利には、鎖転移剤d)は、一官能性または多官能性チオール、ハロゲン化アルキル、遷移金属塩または錯体、および2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンなどの、フリーラジカル鎖転移過程で活性であることが知られている他の化合物から成る群から選択される。より有利には、鎖転移剤は、好ましくは2~24個の炭素原子、より好ましくは2~12個の炭素原子を有し、かつアミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基から選択されるさらなる官能基を有するまたは有さないシクロ脂肪族または脂肪族、チオールである。有利には、鎖転移剤d)は、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、ドデカンチオールおよびヘキサンチオールから成る群から選択される。
【0094】
鎖転移剤d)の量は、典型的に、親水性モノマーa)のモル数に対して0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の範囲である。
【0095】
鎖転移剤d)は、有利には、親水性モノマーa)のモル数に対して、例えば0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の量で反応混合物中に存在する。
【0096】
本発明の特定の態様において、架橋マトリックスは上記で定義される成分a)、b)、c)および場合によりd)からの開始にのみ基づき、上記の内容において、反応媒体に他の出発成分は添加されない。したがって、モノマー(成分(a)、(b)および(c))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0097】
いくつかの実施態様において、架橋マトリックスは、有利には、少なくとも1つのイオン化したまたはイオン化可能な一般式(V):
(CH=CR12)-M-E (V)、
〔式中、
12は水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Mは単結合または1~20個の炭素原子を有する二価ラジカル、有利には単結合であり;
Eはイオン化したまたはイオン化可能な基であり、有利には、-COOH、-COO、-SOH、-SO 、-PO、-PO、-PO 2-、-NR1314および-NR151617 から成る群から選択され;R13、R14、R15、R16およびR17は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
のモノマーe)の重合にさらに基づくものであり、好ましくはその重合から生じる。
【0098】
本発明の内容において、イオン化したまたはイオン化可能な基は、荷電したまたは荷電し得る形態(イオン形態)である、すなわち媒体のpHに応じて少なくとも1つの正電荷または負電荷を有する基であると理解される。例えば、COOH基は、COOの形態にイオン化され得て、NH基は、NH の形態の形態にイオン化され得る。
【0099】
イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの反応媒体への導入は、得られたマイクロスフェアの親水性の増大を可能にし、それにより前記マイクロスフェアの膨潤率を増大させ、さらにカテーテルおよびマイクロカテーテルによるそれらの注入を容易にする。さらに、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの存在により、活性物質のマイクロスフェアへの充填が改善される。
【0100】
有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はカチオン性モノマーであり、有利には、2-(メタクリロイルオキシ)エチル ホスホリルコリン、2-(ジメチルアミノ)エチル (メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル (メタ)アクリレートおよび2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化アンモニウムから成る群から選択され、より有利には、前記カチオン性モノマーはジエチルアミノエチル (メタ)アクリレートである。有利には、イオン化したまたはイオン化可能なe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~20モル%または15モル%の量で反応混合物に存在する。したがって、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0101】
別の有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチル アクリレート、2-カルボキシエチル アクリレートオリゴマー、3-スルホプロピル (メタ)アクリレートカリウム塩および2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウムから成る群から有利に選択されるアニオン性モノマーであり、より有利には、前記アニオン性モノマーはアクリル酸またはメタクリル酸である。有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~50モル%、有利には1モル%~50モル%、好ましくは10モル%~30モル%の範囲の量で、反応混合物中に存在する。このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は、100%でなければならないことが明らかである。
【0102】
有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はアクリル酸であり、有利には、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~15モル%の範囲の量で、反応混合物中に存在する。このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は、100%でなければならないことが明らかである。
【0103】
いくつかの実施態様において、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも下記成分:
10~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH-CH-O)-Hまたは-(CH-CH-O)-CHであり、ここでmは1~30の整数であり;
は水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチルである〕
の親水性モノマー、好ましくはm-PEGMA;
0.1~30mol%の式(II):
【化3】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー、好ましくは2-メチレン-1,3-ジオキセパン;および
5~90mol%の式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa)または
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
11、X、W、n、p、k、zは本明細書に記載されるとおりであり、
好ましくはここで、
11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12でありR11はメチルである);または
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG-PCL10であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)である〕
の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、-3~11.2、典型的には0.5~11.2の分配係数Pまたは1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する分解性ブロックコポリマークロスリンカーの重合に基づくか、これらの重合から生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0104】
親水性分解性マイクロスフェアがさらなるモノマー(上記モノマーe)を参照)に基づく架橋マトリックスを含むとき、成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して表される。
【0105】
成分a)、b)およびc)の量は、本明細書に記載されるとおりであり得る。
【0106】
本発明のマイクロスフェアは、当分野で既知の多くの方法により容易に製造され得る。例として、本発明のマイクロスフェアは、下記および実施例において記載するとおり、直接または逆懸濁重合により、またはマイクロ流体により得られ得る。
【0107】
直接懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部の水溶液に対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;
(iv)100重量部の水溶液に対して、約10重量部を超えない、好ましくは約5重量部を超えない、および最も好ましくは1~4重量部の範囲の量の塩;および
(v)水中油懸濁液を形成するための水
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0108】
このような直接懸濁重合において、界面活性剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールおよびポリソルベート20(Tween(登録商標)20)から成る群から選択され得る。
【0109】
逆懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部のモノマーに対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;および
(iv)油中水懸濁液を形成するための油;
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0110】
このような逆懸濁法において、界面活性剤は、ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20)、ソルビタンモノパルミテート(Span(登録商標)40)、ソルビタンモノオレート(Span(登録商標)80)およびソルビタントリオレート(Span(登録商標)85)などのソルビタンエステル、ヒドロキシエチルセルロース、グリセリルステアレートおよびPEGステアレートの混合物(Arlacel(登録商標))ならびにセルロースアセテートから成る群から選択され得る。
【0111】
上記工程において、重合開始剤は、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸としても知られる))、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)または1以上の熱開始剤、例えば2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)を含み得る。
【0112】
さらに、油は、パラフィン油、シリコーン油およびヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチルまたは酢酸ブチルなどの有機溶媒から選択され得る。
【0113】
充填は、受動的吸着(薬物溶液中でのポリマーの膨潤)またはイオン相互作用などの、当業者に既知の多くの方法により実施され得る。
【0114】
薬物充填量を増加させ、薬物放出速度を制御するために、非共有相互作用により薬物と相互作用することができる特定の化学部分をポリマー骨格に導入する概念が考案された。このような相互作用の例は、とりわけ、静電相互作用(以降に記載する)、疎水性相互作用、π-πスタッキングおよび水素結合を含む。
【0115】
薬物
組成物は、有効量のペプチド抗生物質を含む。ペプチド抗生物質は抗微生物ペプチドとも称され、これらは非タンパク質ポリペプチド鎖を含む抗感染性および抗腫瘍性抗生物質の化学的に多様なクラスである。抗微生物ペプチド抗生物質は、特にグリコペプチド抗生物質およびポリカチオン性ペプチド抗生物質を含む。
【0116】
有利には、抗微生物ペプチド抗生物質はグリコペプチド抗生物質、特に疎水性グリコペプチド抗生物質であり、かつポリカチオン性ペプチド抗生物質、特に環状または直鎖状の、脂肪酸末端を有するまたは有しないポリカチオン性ペプチドである。
【0117】
本発明の内容において、「ポリカチオン性ペプチド」は水溶性の、すなわち、-2.4(ポリミキシンE-コリスチン)~-0.9(ポリミキシンB)の分配係数Pを有する環状ペプチドであり得る。ポリミキシン部分は、疎水性末端、すなわち、ジアミノ酪酸末端に共有結合したメチル-オクタンアミド鎖を含む。
【0118】
本発明の内容において、「ポリカチオン性ペプチド」は種々の生物(細菌、真菌、動物および植物)により産生される水溶性の直鎖状ペプチドであり得て、通常、カチオン性および疎水性アミノ酸に富む組成を含み、カチオン性(正電荷)および両親媒性の特性を有し、カテリシジンおよびデフェンシンの一部のファミリーに属する(Lei et al; 2019. Am J Transl Res 11:3919-31)。
【0119】
有利には、本発明のポリカチオン性ペプチド抗生物質はポリミキシン、特にポリミキシンBである。
【0120】
ポリミキシンは、抗生物質として作用するカチオン性界面活性剤である。これらの一般構造は、疎水性末端を有するポリカチオン性環状ペプチドの構造である。リポ多糖の脂質Aとの相互作用の後、膜不安定化が起こり、細胞死が起こる。ポリミキシンは、グラム陰性病原菌、特に、シュードモナス属および腸内細菌科に対する殺菌効果を示す。
【0121】
本発明の内容において、「グリコペプチド抗生物質」は水溶性の、すなわち、-3.1(バンコマイシン)~4.10(オリタバンシン)の分配係数Pを有する、上記で定義されるグリコペプチド抗生物質である。グリコペプチド抗生物質は、9個以上の炭素原子から成る疎水性末端を含む。
【0122】
有利には、疎水性グリコペプチド抗生物質は、テイコプラニン、バンコマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、ラモプラニン、デカプラニン、コルボマイシン、コンプレスタチン、ブレオマイシン、オリタバンシンおよびダルババンシン、特にテイコプラニンから成る群から選択される。
【0123】
有利には、本発明の組成物において、抗微生物ペプチドは、非共有相互作用により、上記で定義されるマイクロスフェアに充填/吸収される。薬物またはプロドラッグを封入するこの特定の方法は、物理的封入と称される。
【0124】
本発明のマイクロスフェアへの抗微生物ペプチドの充填は、マイクロスフェア製造後の前充填または予め形成され、滅菌されたマイクロスフェアへの即座の充填などの当業者に既知の多くの方法により実施され得る。
【0125】
有利には、本発明の組成物は、10~300mg/mLまたは10~50mg/mL、より有利には、10~30mg/mLの疎水性グリコペプチド抗生物質、例えばテイコプラニンを含む。
【0126】
有利には、本発明の組成物は、100~500μgの一定の速度で、疎水性グリコペプチド抗生物質、例えばテイコプラニンを局所放出する。
【0127】
有利には、本発明の組成物は、2~10mg/mL、より有利には、2~5mg/mLのポリカチオン性ペプチド抗生物質、例えばポリミキシンBを含む。
【0128】
有利には、本発明の組成物は、100~500μgの一定の速度で、ポリカチオン性ペプチド抗生物質、例えばポリミキシンBを局所放出する。
【0129】
有利には、本発明の組成物は、局所濃度が最小阻害濃度(MIC)を1~30日、有利には1~15日、好ましくは1~7日間上回り、治療剤が1μg/mL~40μg/mLの範囲となるように、抗微生物ペプチドを放出する。
【0130】
組成物
本発明の内容において、組成物は、有効量の抗微生物ペプチド、少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および薬学的に許容される担体を含む。担体は注入による投与に適切である。
【0131】
抗微生物ペプチドおよび親水性分解性マイクロスフェアは、上記で定義されるとおりである。
【0132】
本発明によれば、薬学的に許容される担体は注入による抗微生物ペプチドの投与を意図するものであり、有利には、注射用水、生理食塩水、グルコース、デンプン、ヒドロゲル、ポリビニルピロリドン、ポリサッカライド、ヒアルロン酸エステル、造影剤および血漿から成る群から選択される。
【0133】
本発明の組成物はまた、緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤またはこれらの混合物を含み得る。有利には、薬学的に許容される担体は、生理食塩水または注射用水である。
【0134】
本発明の組成物は、数時間から数週間の範囲の期間にわたる抗微生物ペプチドの延長放出、特に制御放出を可能にする。有利には、本発明の組成物は1日~14日間、有利には1日~7日間の抗微生物ペプチドの制御放出を可能にする。
【0135】
本発明の組成物は、例えば、モノマーa)、b)および/またはc)の性質および内容物を調節することにより、上記で定義される一時的制御および持続放出を可能にする。
【0136】
本発明はまた、感染症、特に哺乳動物感染症を局所送達により予防および/または処置するための、上記で定義される組成物に関する。
【0137】
本発明はまた、必要とする対象に有効量の上記で定義される組成物を局所投与することを含む、感染症、特に哺乳動物感染症を予防および/または処置する方法に関する。
【0138】
本発明はまた、局所送達により感染症、特に哺乳動物感染症を予防および/または処置するための薬物の製造のための、上記で定義される組成物の使用に関する。有利には、感染症は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)などのグラム陽性細菌により、または緑膿菌またはカルバペネマーゼ産生腸内細菌などのグラム陰性細菌により引き起こされる。
【0139】
有利には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)により引き起こされる感染症は、皮膚および軟組織のみならず、血流感染、心内膜炎、骨および関節感染、髄膜炎にも存在し、緑膿菌は、骨関節感染、人工関節感染、院内感染、または結膜炎、微生物性角膜炎、眼内炎、眼瞼炎およびドライアイなどの眼の疾患に関与する。グラム陽性細菌は、眼の感染の主要原因である(Teweldemedhin et al. 2017. BMC Ophthalmology. 17:212)。角膜炎診断において、複数の種の細菌が特定されている:緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌、アシネトバクター属、セラチア属(セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)およびセラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens))、エロモナス属、フソバクテリウム属、エンテロバクター種、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)。
【0140】
本発明はまた、テイコプラニンを含むグリコペプチド抗生物質の抗ウイルス活性に基づく、MERS、SARSおよびエボラウイルス(Zhou et al ; 2016 ; J Biol Chem.291: 9218-32)およびSARS-CoV-2(Tripathi et al., 2020; Int J Biol Macromol. 164: 2622-31)などのウイルス関連疾患を予防および/または処置するための、またはウイルス関連疾患を予防および/または処置するための薬物の製造のための、本明細書に記載のマイクロスフェアに関する。テイコプラニンを含むグリコペプチド抗生物質は、ウイルス粒子の細胞移行に関与するカテプシンLプロテアーゼを低濃度で阻害する。分解性マイクロスフェアからのグリコペプチド抗生物質の持続送達は、入院できない感染初期の患者に対してウイルス増殖を停止させる血漿中治療濃度を達成し得る。グリコペプチド抗生物質を充填した分解性マイクロスフェアは、数日間のテイコプラニンの持続送達のために、腹部深部に皮下注射され得る。
【0141】
即座の充填
本発明の特定の実施態様において、微生物ペプチドは、乾燥無菌マイクロスフェアに即座に充填され得る。
【0142】
したがって、本発明はまた、
i)少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および注入投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量の抗微生物ペプチド;および
iii)場合により、注入デバイス、
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよび抗微生物ペプチドが別個に包装されたものである、キットに関する。
【0143】
このような実施態様において、抗微生物ペプチドは、有利には、注入直前に親水性分解性マイクロスフェアに充填されることが意図される。
【0144】
本発明の内容において、「グリコペプチド抗生物質」は有利には、水溶性である、すなわち、-3.1(バンコマイシン)~4.10(オリタバンシン)の分配係数Pを有するグリコペプチド抗生物質である。グリコペプチド抗生物質は、9個以上の炭素原子から成る疎水性末端を含む。
【0145】
有利には、疎水性グリコペプチド抗生物質は、テイコプラニン、バンコマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、ラモプラニン、デカプラニン、コルボマイシン、コンプレスタチン、ブレオマイシン、オリタバンシンおよびダルババンシンから成る群から選択される。
【0146】
本発明の内容において、「ポリカチオン性ペプチド」は、水溶性、すなわち-2.4(ポリミキシンE-コリスチン)~-0.9(ポリミキシンB)の分配係数Pを有する環状ペプチドであり得る。ポリミキシン部分は、疎水性末端、すなわち、ジアミノ酪酸末端に共有結合したメチル-オクタンアミド鎖を含む。
【0147】
本発明の内容において、「ポリカチオン性ペプチド」は種々の生物(細菌、真菌、動物および植物)により産生される水溶性の直鎖状ペプチドであり得て、通常、カチオン性および疎水性アミノ酸に富む組成を含み、カチオン性(正電荷)および両親媒性の特性を有し、カテリシジンおよびデフェンシンの一部のファミリーに属する(Lei et al; 2019. Am J Transl Res 11:3919-31)
【0148】
本発明によれば、「注入デバイス」は、非経腸投与のためのいずれかのデバイスを意味する。有利には、注入デバイスは、予め満たされていてよい1以上のシリンジ、および/または1以上のカテーテルまたはマイクロカテーテルである。
【0149】
マイクロスフェアの使用
本発明はまた、必要とする対象への有効量の抗微生物ペプチドの局所送達、有利には制御および局所送達のための、上記で定義される水性分解性マイクロスフェアの使用に関する。
【0150】
有利には、抗微生物ペプチドの持続送達は、破裂することなく、数時間から数か月間、有利には1日~14日、より有利には1日~7日の範囲の期間にわたるものである。
【0151】
本発明はまた、注入投与のための薬学的に許容される担体とともに本明細書に記載の親水性分解性マイクロスフェアを投与することを含む、それを必要とする対象に有効量の抗微生物ペプチドを、有利には破裂することなく、数時間から数か月間、有利には1日~14日、より有利には1日~7日の範囲の期間にわたって局所送達するための方法に関する。
【0152】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、いかなる場合であっても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0153】
実施例1:充填されていない本発明によるマイクロスフェアの製造
出発成分およびそれらの内容物を表1aおよび1bに要約する。表1aおよび1bはまた、マイクロスフェア合成の主要なパラメーターを要約する。
【表2】

【表3】
【0154】
1wt% ポリビニルアルコール(Mw=13000~23000g/mol)、3wt% NaCl脱イオン水溶液を含む水相溶液(917mL)を1dmの反応器に入れ、50℃に加熱した。
【0155】
有機相を三角フラスコに調製した。簡潔には、トルエン(36.9g)および2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(0.28wt%/有機相重量)を計量した。AIBNを別のバイアルへ入れ、一定体積分率(約30%)の計量したトルエンに溶解した。
【0156】
その後、分解性クロスリンカーを三角フラスコに計量した。ポリエチレングリコールメチルエーテル メタクリレート(Mn=300g/mol)またはtert-ブチル メタクリレート(Mn=142.2g/mol)、メタクリル酸および2-メチレン-1,3-ジオキセパン(MDO)を計量し、三角フラスコに添加した。その後、トルエンの残量を添加し、モノマーを溶解した。マイクロピペットを用いて、ヘキサンチオール(3mol%/m-PEGMAまたはtert-ブチル メタクリレートのモル)を三角フラスコに添加した。AIBNのトルエン溶液を、モノマーを含む三角フラスコに添加した。最後に、激しく撹拌することなく有機相を透明にし(モノマーおよび開始剤は完全に可溶化されなければならない)、その後、水相へ導入した。
【0157】
50℃で、有機相を水相へ注いだ。その後、撹拌翼を用いて撹拌(240rpm)した。4分後、温度を80℃に昇温させた。8時間後、撹拌を停止し、40μmのふるい上でろ過することによりマイクロスフェアを回収し、アセトンおよび水で徹底的に洗浄した。その後マイクロスフェアをふるいのサイズを減少させながら、ふるいにかけた(125μm、100μm、50μm)。50~100μmのサイズ範囲のMSを、薬物回収試験のために回収した。
【0158】
実施例2:テイコプラニンまたはポリミキシンBを用いた実施例1のマイクロスフェアの充填(MS合成後の前充填)
ふるい分け工程の後、実施例1で得られた500μLのマイクロスフェア(サイズ範囲50~100μm)を15mLのポリプロピレンバイアルに入れた。その後、水中10mg/mLで0.5~最大2mLのテイコプラニン(Sigma T0578-100mg)または2mLのポリミキシンBスルフェート(Merck番号5291-500MG)を添加し、マイクロスフェアを湿潤させた。ポリミキシンBスルフェートの充填については、12mMの重炭酸ナトリウムで溶液を完成させた。充填工程は、チューブ回転機で(約30rpm)、撹拌しながら室温で1時間実施した。
【0159】
その後、
テイコプラニン充填について、結合していないテイコプラニンの測定のために上清を除去した。吸光度を280nmで測定し、上清中のテイコプラニンの量を標準曲線(15~500μg/mL)からの外挿により得て、充填用量を減算により計算し;
ポリミキシンBスルフェート充填について、結合していないポリミキシンBの測定のために上清を除去した。吸光度を280nmで測定し、上清中のポリミキシンBの量を標準曲線(12.5~500μg/mL)からの外挿により得て、充填用量を差し引くことにより計算した。
【0160】
各ペプチドの充填用量を、初めのペプチド量からペプチドの最終量を差し引くことにより計算した。ビーズ1mLに対する抗生物質の充填量は、0.5mLのMSに充填された量を2倍することで得た。充填効率は、次の式により計算した:充填効率=((フィード中の抗生物質-上清中の抗生物質上清)/フィード中の抗生物質)×100。ペレットを10mLのグルコース水溶液(2.5%w/v)で洗浄した。その後、マイクロスフェアペレットを凍結乾燥させ、その後電子線滅菌(15~25キログレイ)した。
【0161】
表2は、試験された各MS製剤の充填を要約する
【表4】
【0162】
実施例1のマイクロスフェアをふるい分けした直後に、有意な量の抗生物質(テイコプラニンまたはポリミキシンB)を、ペプチドと分解性ポリマー間に親和性を示すMSと混合した1時間後に。
【0163】
実施例3:実施例1の無菌マイクロスフェアへのテイコプラニン、ダルババンシン、ポリミキシンB、ポリミキシンE(コリスチン)およびヒトカテリシジンペプチドLL-37の即時充填
室温で混合(約30rpm)することにより、抗生物質充填反応を乾燥した無菌マイクロスフェア上で短時間(60分間)で実施した。その後、37℃で、シンク条件で、薬物放出試験をPBS(Sigma P-5368;10mM リン酸緩衝化食塩水;NaCl 0.136M;KCl 0.0027M;25℃、pH 7.4)中で直ちに開始した。
【0164】
テイコプラニン充填:ふるい分け工程の後、5%(w/v)のグルコースを含む溶液5mL中で、実施例1で得られたマイクロスフェア(サイズ範囲50~100μm)の0.5mLのペレットを調製した。均一化後、上清を除去し、マイクロスフェアのペレットを凍結乾燥させ、電子線照射(15~25キログレイ)により滅菌した。その後、テイコプラニン(Sigma、T0578)を10または80mg/mLで水に溶解し、その後種々の体積(1~4mLまで)で乾燥マイクロスフェアペレットに添加した。充填工程は、チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら、室温で60分間実施した。15分後-30分後-45分後および60分後にサンプル(50μL)を取り出し、動的なテイコプラニン充填を分析した。最後のサンプリング後、上清を除去した。結合していないテイコプラニンの測定のために、上清の吸光度を280nmで測定し、標準曲線からの外挿により、テイコプラニンの量を得た(15~500μg/mL)。初めのペプチド量からペプチドの最終量を差し引くことにより、テイコプラニンの充填用量を計算した。ビーズ1mLに対する抗生物質の充填量は、0.5mLのMSに充填された量を2倍することで得た。
【0165】
ダルババンシン充填:ふるい分け工程の後、5%(w/v)のグルコースを含む溶液5mL中で、実施例1(サイズ範囲50~100μm)で得られたマイクロスフェアの0.5mLのペレットを調製した。均一化後、上清を除去し、マイクロスフェア(MS2)のペレットを凍結乾燥させ、電子線照射(15~25キログレイ)により滅菌した。その後、ダルババンシン(Sigma、SML2378)を5mg/mLで水に溶解し、乾燥マイクロスフェアペレットに2mL(10mg)添加した。充填工程は、チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら、室温で60分間実施した。15分後-30分後-45分後および60分後にサンプル(50μL)を取り出し、動的なダルババンシン充填を分析した。1時間後、上清を除去した。結合していないダルババンシンの測定のために、上清の吸光度を280nmで測定し、標準曲線からの外挿により、ダルババンシンの量を得た(15~500μg/mL)。初めのペプチド量からペプチドの最終量を差し引くことにより、ダルババンシンの充填用量を計算した。ビーズ1mLに対する抗生物質の充填量は、0.5mLのMSに充填された量を2倍することで得た。
【0166】
ポリミキシンBまたはポリミキシンE(コリスチン)充填:ふるい分け工程の後、5%(w/v)のグルコースおよび12mMの重炭酸ナトリウムを含む溶液中で、実施例1(サイズ範囲50~100μm)で得られたマイクロスフェアの0.5mLのペレットを調製した。MS11については、重炭酸ナトリウムの濃度を24mMに増加させた。均一化後、上清を除去し、マイクロスフェアのペレットを凍結乾燥させ、電子線照射(15~25キログレイ)により滅菌した。その後、1mLのポリミキシンB(Merck、5291-500MG)またはポリミキシンE(Sigma、C4401)の、10mg/mLの水溶液を、無菌の乾燥マイクロスフェアに添加した。充填工程は、チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら室温で15分間実施した。5分後-10分後および15分後にサンプル(20μL)を取り出し、動的なポリミキシン充填を分析した。15分後、上清を除去した。上清の吸光度を220nmで測定し、標準曲線からの外挿により、ポリミキシンBまたはポリミキシンEの量を得た(12.5~500μg/mL)。初めのペプチド量からペプチドの最終量を差し引くことにより、ポリミキシンの充填用量を計算した。ビーズ1mLに対する抗生物質の充填量は、0.5mLのMSに充填された量を2倍することで得た。
【0167】
ペプチドLL-37(ヒトカテリシジンペプチド)充填:ふるい分け工程の後、5%(w/v)のグルコースおよび12mMの重炭酸ナトリウムを含む溶液中で、実施例1(サイズ範囲50~100μm)で得られたマイクロスフェア(MS2)の100μLのペレットを調製した。均一化後、上清を除去し、MS2のペレットを凍結乾燥させ、電子線照射(25キログレイ)により滅菌した。その後、配列LLGDFFRKSKEKIGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTES(Theoretical pI/Mw:10.61/4493.32)(SB-ペプチド、サンテグレーヴ、フランス)を有する抗微生物ペプチドLL-37、0.5mLの、2mg/mLの水溶液を、無菌の乾燥マイクロスフェアに添加した。MS2へのペプチドの充填は、チューブ回転機で(約30rpm)、撹拌しながら室温で実施した。5分後-10分後および15分後にサンプル(20μL)を取り出し、動的なポリミキシン充填を分析した。結合していないペプチドの測定をCカラム(ACE5 C4、150×4.6mm)上のRP-HPLCで、210nmでの検出で実施した。クロマトグラフィー分離で使用された移動相は、2種の溶媒:0.1% TFAを含む水(A)および0.1% TFAを含むアセトニトリル(B)の二成分の混合物から成り、流速1mL/分、25℃であった。溶媒Bを6分間で40%~85%に上昇させ、その後、60%の溶媒Aで4分間平衡化した。標準曲線からの外挿により、結合していないペプチドLL-37の量を得た(0.5~50μg/mL)。初めのペプチド量からペプチドの最終量を差し引くことにより、LL-37ペプチドの充填用量を計算した。ビーズ1mLに対する抗生物質の充填量は、100μLのMS2に充填された量を10倍することで得た。
【0168】
各抗生物質について、充填効率を次の式により計算した:充填効率=((フィード中の抗生物質-上清中の抗生物質上清)/フィード中の抗生物質)×100。
【0169】
表3は、種々の製剤についてテイコプラニンおよびダルババンシンを含むグリコペプチドを用いて実施した即時充填試験の結果を要約する。
【表5】
【0170】
乾燥した無菌MSへのテイコプラニンの即時充填は様々な収量で、室温で、水中で速やかに起こる(表3)。テイコプラニンは、メタクリル酸モノマーの有無にかかわらず分解可能マイクロスフェアに良好な有効性で充填可能であった。30%のメタクリル酸を含むMS(MS1~MS4)について、クロスリンカー含量は、テイコプラニン充填の有効性に大きな影響を与えた。抗生物質と混合して15分後、充填量は、クロスリンカーの含量とともに減少する:5mol%のクロスリンカーに対して88%、9mol%のクロスリンカーに対して75%、30mol%のクロスリンカーに対して51%および50mol%のクロスリンカーに対して29%。高度に架橋したマイクロスフェア(MS3およびMS4)について、充填反応は遅く、充填効率は時間とともにゆっくりと増加し、混合して1時間後にMS3およびMS4に対してそれぞれ74%、54%の量に達した。
【0171】
MS2上でのダルババンシンの充填効率は、30分後にプラトーに達し、約50%の低い充填効率である。この充填量の差異は、極めて近いグリコペプチドの分子量(テイコプラニン:1879.7g/molおよびダルババンシン:1816.7g/mol)により説明できない。
【0172】
フィード溶液中のテイコプラニンの量の薬物充填への効果を、MS2で分析した(図1)。
【0173】
実施例1の分解性MSに充填したテイコプラニンは、フィード溶液中に存在する薬物の量に従って調整可能であった。多量のグリコペプチド(160mg/mL)を、テイコプラニンと分解性ポリマー環に強い親和性を有する分解性マイクロスフェアに充填した。MS2に充填したテイコプラニンの量は、37℃で充填反応を実施したときに改善し、1mLのビーズに対して300mg近い抗生物質のペイロードが達成された。
【0174】
試験された各MS製剤に対する、ポリミキシンB、ポリミキシンE(コリスチン)およびヒトカテリシジンペプチドLL-37を含むカチオン性ペプチドの即時充填試験の結果を表4に要約する。
【表6】
【0175】
ポリミキシンBの充填は、カチオン性シクロペプチドとの静電相互作用を示す、30mol%のメタクリル酸モノマーを含むアニオン性MS上で起こる。負電荷を有さないMS8上では、充填は観測されなかった。実施例1の無菌アニオン性MS上では、ポリミキシンBの即時充填が迅速であり、混合して5分後にプラトーに達した。充填効率は50%~75%であった。より長いインキュベート時間では、充填量は改善しなかった。親水性モノマーm-PEGMAを別の主要モノマーであるtert-ブチル メタクリレート(MS11)に置き換えたとき、ポリミキシンBの即時充填は、他のマイクロスフェアと類似の効率で起こった。
【0176】
5mol%または9mol%クロスリンカーで、ポリミキシンBのバリアントであるポリミキシンE(フェニルアラニンをロイシン残基で置換)もまた、実施例1の分解性MS上で実行可能であった(表4)。異なる組成のポリミキシン類は、単純な充填方法に従って、実施例1の乾燥した無菌マイクロスフェア上で数分で充填可能である。
【0177】
直鎖状カチオン性ペプチドLL-37の充填は、MS2上では迅速で効率的であり;約10mgのペプチドの充填はMS2との接触5分後に達成され、100%近くの充填量を有する。多量のヒトカテリシジンペプチドの充填は、メタクリル酸を含む実施例1の分解性MSで予測可能であった。
【0178】
実施例4.実施例3により充填されたマイクロスフェアからのテイコプラニンおよびダルババンシンを含むグリコペプチド抗生物質、ならびにポリミキシンB、ポリミキシンE(コリスチン)およびペプチドLL-37を含むカチオン性抗生物質ペプチドのインビトロ放出試験。
種々の充填溶液を除去した後、37℃で、撹拌下(150rpm)、即時充填した抗生物質の乾燥した無菌MS上での溶出をPBS(Sigma、P-5368;10mM リン酸緩衝化食塩水;NaCl 0.136M;KCl 0.0027M;pH 7.4)中で実施し、チューブをオーブン中に水平に置いた。各サンプリング時間に、媒体を新たなPBS(ヒトカテリシジンペプチドLL-37に対して1mL;テイコプラニンおよびポリミキシンに対して14mL、およびダルババンシンに対して40mL)と完全に入れ替えた。
【0179】
PBS上清中で放出されたテイコプラニンおよびダルババンシンの量は、標準曲線からの外挿により、280nmのUVスペクトロメトリーにより決定した(テイコプラニンについて15~500μg/mL、およびダルババンシンについて1~50μg/mL)(表5および図2)。PBS中で溶出したポリミキシン(BおよびE)のアッセイは、C18カラム(ACE、Super C18、150×4.6mm)上のRP-HPLCで、205nmでの検出で実施した(表6および図3)。クロマトグラフィー分離で使用された移動相は、2種の溶媒:0.075% TFAを含む水(A)および0.075% TFAを含むアセトニトリル(B)の二成分の混合物から成り、流速1mL/分、25℃であった。溶媒Bを6分間で10%~90%に上昇させ、その後、90%の溶媒Aで4分間平衡化した。標準曲線からの外挿により、PBS中のポリミキシン量を得た(10~400μg/mL)。PBS中で溶出したペプチドLL-37のアッセイをCカラム(ACE5 C4、150×4.6mm)上のRP-HPLCで、210nmでの検出で実施し、溶媒B(0.1% TFAを含むアセトニトリル)を6分間で40%~85%に上昇させ、その後、60%の溶媒A(0.1% TFAを含む水)で4分間平衡化した。標準曲線からの外挿により、放出されたペプチドLL-37の量を得た(0.5~50μg/mL)。PBS中でのペプチドLL-37の放出中のMS2の分解生成物は、ペグ化化合物に特異的な比色分析アッセイ(Gong et al., 2007. Talanta, 71:381-4)により定量した。
【0180】
表5は、試験された各MS製剤に対するグリコペプチド(テイコプラニンおよびダルババンシン)のインビトロ放出値を要約する。
【表7】
【0181】
テイコプラニンのインビトロ溶出はマイクロスフェア組成に依存する(表5)。10分間で充填されたMSをPBSで洗浄している間に重要な薬物放出が起こり、MSによって13~33%のペイロードとなる。その後、テイコプラニン放出はその時間中、MS1、MS2、MS5およびMS8についてはマイクロスフェア分解まで増加する。5mol%のクロスリンカーのMS(MS1、MS5、MS8、MS9)については、テイコプラニン放出へのメタクリル酸の影響は有意ではなかった。メタクリル酸はMS分解を加速し、MS1については1週間、およびMS8については2週間であり、いずれも5mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLであった。
【0182】
PBS中での一日目の間、放出値は、5mol%、30mol%または50mol%のクロスリンカー含量のMSと比較して9mol%のクロスリンカーでのMS2が低かった。試験中に分解しなかった高度に架橋したマイクロスフェア(MS3およびMS4)については、10分および1時間で重要な破裂放出が生じ、2週間わずかな薬物溶出が続く。薬物充填が遅く(表4)、かつ初期の放出反応が迅速であるため、これらの高度に架橋したMS(30mol%および50mol%のクロスリンカー)は、テイコプラニンに対しては効率的な担体ではない。高度なヒドロゲル架橋は効率的な制御および持続送達を妨げるが、これは恐らく、ヒドロゲルの小さなメッシュサイズのために一部のテイコプラニン分子が材料と弱く結合し、テイコプラニン(破裂中に除去された分子)を恐らくマイクロスフェア表面に維持し、一方で抗生物質の分子の別の一部はポリマーネットワーク内にしっかりと取り込まれ,時間内に低い流速で溶出したためである。
【0183】
効率的な充填およびMS分解中にポリマーを介した分子の良好な拡散を可能にするヒドロゲルの最適な架橋度(約9mol%)が存在する。PEG13-PLA-PCL(MS1)と比較したMS5へのより多くの疎水性クロスリンカー(PEG13-PLA-PCL)の導入は、最初の一週間のテイコプラニンの放出プロファイルを変化させず、薬物放出制御には架橋剤の疎水性よりもMS架橋が重要であることが示された。
【0184】
MS2からのダルババンシンの溶出は、テイコプラニンについてのものよりより持続的な方法で起こるが、これは恐らく、脂肪酸側鎖がテイコプラニンより一つ多くの炭素基を含むダルババンシンのより疎水性の性質によるものであり、これがクロスリンカーとの疎水性相互作用を恐らく増加させる。
【0185】
グリコペプチド溶出の期間は、分解性MSにおけるクロスリンカー組成および含量に依存する(図2)。
【0186】
5mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLでのMS(MS1)は一週間で分解したが、9mol%のクロスリンカー(MS2)では、2週間後に分解が起こった。30mol%および50mol%のクロスリンカーでは、MSはPBS中で2週間後に分解しなかった。5mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLでのMS5は2週間後に分解したが、初めの破裂が甚大であった。グリコペプチド放出(テイコプラニン、ダルババンシン)は、マイクロスフェアの分解後に起こる。9mol%のクロスリンカーでのMS2は、小さな破裂と2週間のグリコペプチド放出の両方の持続放出(PBS中で10分後、ダルババンシンについては3.4%およびテイコプラニンについては13%)を可能にした。
【0187】
試験された各MS製剤に対する、カチオン性ペプチド(ポリミキシンBおよびポリミキシンEおよびペプチドLL-37)のインビトロ放出値を要約する。
【表8】
【0188】
抗生物質を充填したMSへの添加直後、分解性MSから、MS11では0.5%からMS6では31%まで、種々の量のポリミキシンBが溶出し、これは5mol%のPEG13-PLGA12クロスリンカーでのMSについてはポリミキシンBの親和性が低いことを示す。その後、MS1、MS2、MS5、MS6およびMS7について、PBS中でのポリミキシン溶出は時間とともに、MS分解まで増加する(表6および図3および4)。ゆっくりと分解するマイクロスフェア、MS10(5mol%の疎水性PEG-CL12クロスリンカー)およびMS11(30mol%のクロスリンカーおよび30mol%の疎水性tert-ブチル メタクリレートモノマー)は、PBS中でのインキュベート後初めの2週間、少量のポリミキシンBを放出し、これはMS分解および抗生物質溶出との相関を示す。
【0189】
9mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLでのMS2からのポリミキシンB(図4)およびポリミキシンE(図5)の放出は、恐らくポリマーネットワークへのカチオン性ペプチドの重要な取り込みによりPBS中でのインキュベートの初めの一週間は低く、これは立体障害と正電荷ペプチドとクロスリンカーの加水分解で生じる負電荷との静電相互作用がおそらく併存している。9mol%のクロスリンカーでは、ポリミキシンの破裂がMS分解の最後に起こる。
【0190】
ポリミキシンBおよびEのより多くの持続放出は、5mol%のクロスリンカーでのMS(MS1およびMS5)で達成されたが、これは初めの破裂が低く、MS分解まで放出がより持続的であったからである。ヒドロゲルの架橋度は実施例1の分解性マイクロスフェアからのカチオン性ポリミキシンペプチドの放出反応を制御する。
【0191】
ポリミキシンBとポリミキシンEの持続放出は、マイクロスフェアの分解時間によって調整可能であった:MS6については1日、MS7については2日、MS1については1週間、MS2およびMS5については2週間、PBS中でゆっくり分解するMS10はほとんど溶出しない(図3図4図5)。同一のクロスリンカー組成について、5mol%でのマイクロスフェア(MS1)は1週間で分解し、9mol%のクロスリンカー(MS2)では2週間で分解した。クロスリンカーの疎水性が増加すると(MS1とMS5)、マイクロスフェアの分解時間は1週間から2週間へと増加した(図3)。分解性MSからのポリミキシンBおよびE放出期間は、クロスリンカー組成および含量に依存する。
【0192】
ヒトカテリシジンペプチドLL-37について、MS2に即時充填した後、破裂することなくPBS中での溶出が起こった。溶出は21日後のマイクロスフェア分解までの時間、徐々に増加した。LL-37ペプチドの放出とMS2分解の進行には、強い正の相関が存在する(rho=0.986、p=0.0004)(図6)。
【0193】
37個のアミノ酸ペプチドと解性ポリマーの間の強い相互作用は分解性MS2のペプチドおよびカルボキシレート官能基の数多くの正電荷のリシン(16%)およびアルギニン(13%)アミノ酸残基の静電相互作用、および恐らくポリマーおよびLL-37ペプチドの疎水性アミノ酸(ロイシン(10%)、フェニルアラニン(10%)、バリン(5%))の間に確立された疎水性相互作用により説明され得る。メタクリル酸を含む実施例1の分解性MSにより、カテリシジンやディフェンシンサブファミリーののファミリーに属するポリカチオン性および両親媒性ペプチドの持続送達が達成され得る。
【0194】
実施例5:実施例3によりテイコプラニンを充填した分解性マイクロスフェアのウサギ単回皮下注射後の時間による、血漿テイコプラニン濃度の試験
試験は、白色ニュージーランド雄性ウサギ(体重:3.63±0.17kg;最小~最大 3.47~3.88kg)で実施され、40mg/mLのテイコプラニン(Sigma、T-0578)を充填したMS1およびMS2が含まれた。簡潔には、テイコプラニンを注射用水中で10mg/mL(100mL)で再構成した。回転ホイール(約30rpm)で継続的に撹拌しながら、無菌乾燥ビーズ(5% グルコースに約6mL)をテイコプラニン溶液(20mL)中で水和/充填した。20分後、上清を回収し、薬物定量のために保存した。その後、マイクロスフェア(MS1およびMS2)を水で洗浄し、投与時間までシェルで保存した。注射時、MSを生理食塩水中で懸濁し、適切な体積(約4mL)のビーズ懸濁液を、2:1のMS/生理食塩水比で、注射のためにサンプリングした(表7)。各マイクロスフェアを2匹の動物に2箇所の注射部位に同量の薬剤で1回皮下投与した。テイコプラニン対照(Sigma、T-0578)を1匹の動物に1回投与し、別の動物で毎日繰り返した。注射は、全量について10mLのルアーシリンジおよび18~21ゲージ針を用いて2つの異なる注射部位で、動物の背部の2か所の皮下に実施した。
【0195】
各ウサギへの投与量は,ヒトで推奨される負荷量および維持量に基づいて、それぞれ400mgを3回注射した後、6mg/kg注射を選択した。さらに、治療レベルは、ウサギの細菌感染試験で、18mg/kgの単回投与で達成され、これを負荷用量として使用した。維持用量については、マイクロスフェアは、5日間で薬物内容物を放出し得ると推定され、これは4日×6mg/kg、すなわち24mg/kgの総維持用量に相当する(表7)。
【表9】
【0196】
テイコプラニン充填MSを投与された動物を10mg/kgのケタミンおよび2.5mg/kgのキシラジンの筋肉内注射により麻酔し、マスクを通して送達される酸素(100%)およびイソフルラン(1~3%)で維持した。モニタリングは、末梢動脈血酸素飽和度(SpO)および心拍数を含んだ。30μg/kgのブプレノルフィンを用いた鎮痛剤処置を実施し、その後、物質を投与した。対照のテイコプラニンを投与した動物は、投与時に麻酔せず、鎮痛剤処理も実施しなかった。
【0197】
血液採取のために耳介動脈に、および灌流のために耳介静脈に、血管アクセスを設けた。血液サンプル(約1.2mL)を耳介を通してドライチューブに4mL採取し、次の時点:注射前(T0)、15分、30分、1時間、3時間、5時間、24時間、2日、3日、4日および7日でテイコプラニンの全身濃度を評価した。1~2時間後、サンプルを1800gで12分間遠心分離し、血漿(>200μL)を得て、アッセイまで-80℃で保存した。IVD反応材としてQMS(登録商標)テイコプラニン(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国、参照番号0374645を用いて、Cobas 6000(Roche Diagnostics、バーゼル、スイス)上のParticle Enhanced Turbidimetric Immuno assay (PETIA)法により、血漿サンプル中のテイコプラニンアッセイを実施した。その方法の定量下限(LOQ)は2.0mg/Lであった。テイコプラニンの血漿アッセイの結果を表8および図7で報告する。
【表10】
【0198】
表8および図7は、各動物についての各時点での個々の血漿テイコプラニン濃度を示す。血漿薬物濃度プロファイルは、テイコプラニン注射剤と分解性MS1およびMS2の間で異なり、2つのMSの間で同様であった。
【0199】
対照動物の時間-濃度曲線は、3時間および5時間で、それぞれ29.0および28.0mg/Lの最大血漿濃度を示した。その後薬物の血漿レベルは、24時間で2.0mg/Lと3.0mg/Lまで減少した。薬物の単回投与を受けた動物については、48時間以降、テイコプラニン濃度はLOQの2.0mg/Lを下回った。テイコプラニンの繰り返し投与量を受けた動物については、濃度は、薬物投与の全ての期間で2.0mg/mL超が維持され、7日(最終投与の3日後)でLOQ未満に減少した。
【0200】
2つのマイクロスフェアバッチについて、テイコプラニン血漿濃度は投与後徐々に増加し、一般に24時間後に6.0~9.0mg/LのCmaxに達した。これらの薬物レベルは約4日間維持され、7日後に減少した。MS留置から1週間後、血漿テイコプラニンは、より短い分解時間(PBS中で1週間)を有するMS1を投与された2匹の動物についてはLOQを下回ったが、一方でより長い分解時間(PBS中で2週間)を有するMS2を投与された2匹の動物ではLOQを上回り続けた(図2)。
【0201】
乾燥した無菌分解性マイクロスフェア上でのテイコプラニンの瞬間即時充填は、破裂を伴わないインビボでの抗生物質の制御放出および持続放出を可能にし、薬物放出の期間はマイクロスフェアの分解時間に依存する。このインビボ試験は、テイコプラニンおよびポリエチレングリコールから成る分解性マイクロスフェアとの高い親和性が存在することを確認するものである。実施例1の分解性マイクロスフェアは、インビボ持続送達のためのテイコプラニンの効率的なプラットホームである。
【0202】
実施例6:合成後の親水性マイクロスフェア(MS1およびMS2)のサイズ分布
薬物動態試験に使用される分解性マイクロスフェアは、実施例1に記載のふるい分け(50~100μm)工程後、類似のサイズ分布を有する(図8)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】