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特表2023-533391トラボプロストを送達するための親水性分解性マイクロスフェア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】トラボプロストを送達するための親水性分解性マイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20230726BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20230726BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230726BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K9/10
A61K47/69
A61K9/16
A61P27/02
A61P27/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525117
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2021068911
(87)【国際公開番号】W WO2022008625
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】20305777.3
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523010018
【氏名又は名称】オクルジェル
【氏名又は名称原語表記】OCCLUGEL
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ベイユヴェール,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】コリュ,エメリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブドゥエ,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】モワンヌ,ロランス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA31
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC10
4C076EE45
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA01
4C086MA05
4C086MA21
4C086MA41
4C086MA66
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、有効量のプロスタグランジンアナログ、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび注入投与のための薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも、a)10mol%~90mol%の一般式(I)の親水性モノマー;b)0.1~30mol%の式(II)の環状モノマー;およびc)5mol%~90mol%の1つの分解性ブロックコポリマークロスリンカーを含む組成物であって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有するものである、組成物に関する。本発明はまた、中程度の高眼圧症または緑内障を予防および/または処置するための、このような組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入により投与するための、有効量のプロスタグランジン、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の、0.50~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
各R11は独立して、水素原子または(C-C)アルキル基;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCL;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
zはPEG分子のアーム数を表し、3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物。
【請求項2】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に、
X=PLA、n+k=12およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13;または
X=PCL;n+k=8およびp=13;または
X=PLGA;n+k=12およびp=13;または
X=PCL、n+k=10およびp=4;または
X=PCL、n+k=12およびp=2
である、一般式(IIIa)の化合物から成る群から選択されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、一般式(IIIa)または(IIIc)、特に、XがPCLまたはPLAPCLを表す一般式(IIIa)のものである、請求項1に記載の組成
物。
【請求項4】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、総モル数に対して5mol%~60mol%、有利には15mol%~60mol%の量で反応混合物中に存在するものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
環状モノマーb)が、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
親水性モノマーa)が、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド)メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスが、さらに鎖転移剤d)に基づくものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
1~6mg/mLのプロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロストを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ブロックコポリマークロスリンカーc)が、pが7であり、X=PLAPCLであり、n=10であり、zが3である一般式式(IIIc)の化合物である、請求項1および4~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
高眼圧症または緑内障の予防および/または処置に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
プロスタグランジンアナログが、少なくとも3週間、有利には3週間~6か月間の間放出されるものである、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
処置を必要とする対象への有効量のプロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロストの送達に使用するための親水性分解性マイクロスフェアであって、前記親水性分解性マイクロスフェアが請求項1~9のいずれか一項で定義されるとおりのものである、親水性分解性マイクロスフェア。
【請求項13】
プロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロストが、少なくとも3週間、有利には3週間~6か月間の間放出されるものである、請求項12に記載の使用のための親水性分解性マイクロスフェア。
【請求項14】
i)少なくとも1つの請求項1~9のいずれか一項で定義される親水性分解性マイクロスフェアとともに、注入による投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量のプロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロスト;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、
ここで、前記親水性分解性マイクロスフェアおよびトラボプロストは別個に包装されているものである、医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンアナログを送達するための親水性分解性マイクロスフェアに関する。特に、本発明は、有効量のプロスタグランジンアナログおよび親水性分解性マイクロスフェアを含む組成物に関する。本発明はまた、高眼圧症または緑内障の予防および/または処置に使用するための前記組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、目の視神経を損傷し、進行性で不可逆的な視野欠損につながる疾患である。緑内障は通常、眼球の前部に液体が溜まることで起こる。この余分な液体が眼圧を上昇させ、網膜神経節細胞ニューロンおよびそれらの軸索の細胞死を誘発し、時間の経過とともに視神経に損傷を与える。生じた損傷は不可逆性であり、緑内障は、世界第2位の失明の原因である。実際に、世界で約6000万人が罹患しており、2040年には1億人が罹患すると予測されている(Yadav 2019, Materials Science & Engineering C: 103)。緑内障の経済的負担は重大であり、2009年のメディケアへの全体的費用は7億4800万ドルであった(Lambert 2015, Transl Vis Sci Technol. 4(1))。視野欠損のない緑内障患者の年間眼科医療関連費用は8157ドル(2007年、米ドル)であり;これは中程度から重度の視野欠損では14,237ドルに増加し、疾患による失明患者では18,670ドルに達した。
【0003】
緑内障の主な2つのタイプは、原発性開放隅角緑内障および閉塞隅角緑内障である。原発性開放隅角緑内障は、疾患の最も一般的な形態である。角膜および虹彩により形成される隅角は開いたままであるが、海綿体網膜は部分的に閉塞される。これにより眼内の圧力が徐々に上昇する。この圧力により視神経が損傷し、徴候または症状を伴わない視野欠損をもたらし得る。
【0004】
閉塞隅角緑内障は閉塞角緑内障とも称され、虹彩が前方に膨らみ、角膜と虹彩で形成される隅角を狭めるか塞ぐときに発症する。結果として、眼内の液体が循環できず、圧力が上昇する。閉塞隅角緑内障は、突然(急性閉塞隅角緑内障)または徐々に(慢性閉塞隅角緑内障)起こり得る。
【0005】
早期に処置すれば、緑内障の進行は薬物治療、レーザー治療、手術などで進行を遅らせるか、停止させることができる。視神経を修復することは不可能であるため、これらの処置の目的は眼内圧を低下させることである。点眼薬は、原発性開放隅角緑内障の処置のために選択される。したがって、房水の排出を増大する、その生産を減少させる、またはその両方を目的として処置が行われる。房水の生成の低減は、炭酸脱水酵素阻害剤(ブリンゾラミド、ドルゾラミド)およびβ-ブロッカー(チモロール、レボブノロール、ベタキソロール、カルテオロール)を用いて達成される治療目標である。プロスタグランジンアナログ(ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト)などの他の薬剤も、房水の排泄を促進する。
【0006】
しかしながら、外用薬の患者アドヒアランスの問題が、点眼薬による緑内障処置の障害となる。眼内圧が1mmHg下がると緑内障の進行が10%低減され得ると考えられるため、定期的な点眼が必須である。6か月後の処置中断が患者の50%で報告され(Nordstrom et al; 2005, Am J Ophthalmol, 140:598-606)、最初の処方から1年後の患者の継続率は22.5%、そして3年後の継続率は11.5%に低下する(Quek et al; 2011. Arch Ophthalmol. 129:643-8)。さらに、多くの患者(13%)が点眼薬を正しく使用できない(Brown et al; 1984. Can J Ophthalmol. 19:2-5)。処置のアドヒアランスが悪いと、患者の50%で緑内障の進行が誘発される(Lambert 2015, Transl Vis Sci Technol. 4(1))。
【0007】
点眼薬による緑内障処置のノンアドヒアランスは、処置失敗の主な原因であり得る。抗緑内障薬を毎日適用することを可能にするために、新たな治療法を開発する必要がある。その一つが、持続的な局所投与のための薬物送達系(DDS)の結膜下注射である。シンガポールでのある研究では、緑内障患者の74%が3か月に1回の結膜下注射による緑内障処置の代替形態を許容する意思があることが分かった(Song et al; 2013. J Glaucoma. 22:190-4)。
【0008】
ヒトにおける結膜下注射は、多様な適応症に一般的に使用される技術である:眼内圧を低下させるためのマイトマイシンCの注射(Gandolfi et al; 1995. Arch Ophthalmol. 113:582-5)、前部強膜炎(Sen et al; 2005. Br J Ophthalmol. 89: 917-8)または黄斑浮腫(Carbonniere et al; 2017. J Fr Ophtalmol. 40:177-86)の処置のためのコルチコステロイド注射。結膜には、前部強膜を覆う眼球結膜と瞼の内側を覆う眼瞼結膜がある。結膜は上皮層および実質層から成る、薄く透明な膜である。ヒト眼球結膜の平均的な全体の厚さは約240μmであり、約50μmの上皮厚と約190μmの間質厚を有する(Zhang et al; 2011. Invest Ophthalmol Vis Sci. 52:7787-91)。結膜下注射は、眼球結膜と強膜の間で実施される。注入体積は通常、0.1~0.5mLである(Subrizi et al; 2019, Drug Discovery Today, 24:1446-57)。
【0009】
単回結膜下注射後の持続的な薬物送達のために種々の組成物が試験された。それらの送達パフォーマンスを、インビトロおよびウサギまたはサルにおいてインビボで評価した。いくつかのDDSは、チモロールマレイン酸塩(β-ブロッカー)を用いて調製した。チモロールマレイン酸塩は、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)のコポリマーから成る40μmの薄さを有するマイクロフィルムインプラント(4×6mm)に含まれた。その後、限定的に結膜を剥離したサルにおいて、チモロールを充填したマイクロフィルムを1枚挿入した後、結膜を縫合した。持続的な眼圧(IOP)の低下が5か月間観測された(Ng et al; 2015. Drug Deliv. and Transl. Res. 5:469-79)。チモロールマレイン酸塩の封入もまた、PLGA分解性マイクロスフェア(平均直径14μm)で実施された。チモロールの持続的な送達がインビトロで3か月間起こり、眼圧正常のウサギに結膜下注入後、持続的なIOP低下作用が3か月間測定された(Lavik et al; 2016. J Ocul Pharmacol Ther. 32:642-49)。Huangら(J Ocul Pharmacol Ther. 21:445-53; 2005)は、高眼圧のウサギの目袋に留置した後1週間のみIOPを低下させる、PLGAから成るチモロールマレイン酸塩ディスクを製造した。他のβ-ブロッカーである、ブリモニジン酒石酸塩は、PLGAマイクロスフェア(平均直径7.4μm)に含まれた。ウサギでの単回結膜下注射(150μLのMS懸濁液)後1か月間、眼圧低下効果を測定した(Fedorchak et al; 2014. Exp Eye Res. 2014 Aug; 125: 210-6)。
【0010】
房水の分泌を減少させる炭酸脱水酵素阻害剤であるブリンゾラミドは、PLGAのナノ粒子に封入された。正常眼圧のウサギへのそれらの結膜下注射は、10日間眼圧低下をもたらした(Salama et al; 2017. AAPS PharmSciTech. 18:2517-28)。
【0011】
結膜下注射用のプロスタグランジンアナログの持続送達のための注射用DDSが記載された。Giarmoukakisら(Exp Eye Res. 112:29-36; 2013)は、ラタノプロストを含むPLA-PEGナノ粒子(80nmサイズ)の製造を報告した。インビトロでは1週間の放出が達成され、低侵襲結膜下注射後のインビボでは、最大8日間の有意な眼圧低下効果が正常眼圧のウサギで得られた。ラタノプロストはまた、100nmのリポソームに封入された。インビトロでは、薬物放出は1か月間持続し、非ヒト霊長類への単回結膜下注射後、持続的IOP低下効果が4か月間観測された(Natarajan et al; 2014. ACS Nano. 8:419-29)。
【0012】
前臨床試験では、分解性マイクロフィルム、マイクロスフェア、リポソームまたはナノ粒子などの種々のDDSの単回結膜下留置は、数週間または数か月間眼圧を低下させるのに有効であることが示されている。このようにDSSに包含された降圧薬物の投与経路は効率的であると考えられる。上記のDDSのいくつかは、PLGAの固体インプラントのように、留置のために結膜を切開する必要があるなど、臨床的使用には不適切である。他のDDS(リポソーム、ナノスフェア、マイクロスフェア)は注入により最小限の侵襲性で留置され得る。それらの多くは、眼球結膜に存在する血管の直径(16~22μm)より小さなサイズを有する(Shu et al. 2019. Eye and Vision. 6:15)。結膜下注射の間は、網膜および脈絡膜の血管を誤って塞栓するリスクが排除できない。1μm~1000μmの結晶を含むステロイドの肋骨周囲注射後に、網膜中心動脈閉塞の例が記載されている(Li et al; 2018. Medicine 97:17; Benzon et al; 2007. Anesthesiology. 106:331-8)。そのメカニズムは、コルチコイドの不注意な動脈内注入に基づくものであり、顔面動脈系のびまん性吻合のため、眼または網膜中心動脈にグルココルチコイド結晶による逆行性塞栓を引き起こし、視力低下をもたらす可能性がある。結膜下注射後のこのような出来事を回避するために、結膜下注入後、抗緑内障薬を含むDDSのサイズおよび形状が重要なパラメーターであると考えられる。理想的には、それらの大きさは、結膜組織の血管の直径よりも大きくあるべきであるが、細い針で注入するのに十分な柔軟性を有するべきである。
【0013】
緑内障を局所的に処置するために、本発明者らは、局所分解性送達系に注目した。
【0014】
第一の態様において、本発明は、注入により投与するための、有効量のプロスタグランジンアナログ、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5~90mol%の、0.50~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);または
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
各R11は互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLであり;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
zはPEG分子のアーム数を表し;
zは3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物に関する。
【0015】
第二の態様において、本発明は、高眼圧症または緑内障の予防または処置に使用するための、本発明の組成物に関する。
【0016】
第三の態様において、本発明は、必要とする対象への有効量のプロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロストの送達に使用するための、本発明の親水性分解性マイクロスフェアに関する。
【0017】
第四の態様において、本発明は、
i)薬学的に許容される担体を含む少なくとも1つの本発明の親水性分解性マイクロスフェア;
ii)有効量のプロスタグランジンアナログ、有利にはトラボプロスト;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよびトラボプロストが別個に包装された、医薬キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】水中で室温で1時間のトラボプロスト充填に対するマイクロスフェア組成の影響。ノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を用いて、1mg/mL(*)または2mg/mL(#)の充填物について、5%のクロスリンカー(PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PCL)でのマイクロスフェアに対して比較を実施した。有意差はp<0.05に設定した。データは平均値である。
図2】乾燥マイクロスフェアを室温で10分間、生理食塩水中で膨潤させたときの2つの薬物ペイロードについてのトラボプロスト放出に対するMS組成の影響。凍結乾燥後、2つの薬物ペイロードについて、MSを生理食塩水中、室温で10分間インキュベートした。ノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を用いて、各群の比較を実施した。検定の有意差はp<0.05に設定した。NS:有意差なし。
図3】1mg/mLまたは2mg/mLで充填されたマイクロスフェアを生理食塩水中で膨潤させたときのトラボプロストの溶出。A:ノンパラメトリックのマン・ホイットニー(MW)検定を用いて、1mg/mLのペイロードについて5%のクロスリンカー(PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PCL)でのマイクロスフェアに対して比較を実施した(#)。薬物放出に対する5mol%または30mol%でのクロスリンカー組成の影響をノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を用いて分析した(*)。B:2mg/mLのペイロードについての30mol%でのクロスリンカーのトラボプロスト溶出に対する影響を、ノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を用いて分析した。30mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLのマイクロスフェア(MS2)に対して比較を実施した。ペイロードについて、クラスカル・ウォリス(KW)ノンパラメトリック検定を用いてトラボプロスト放出に対するPEG13-PCLクロスリンカー含量の影響を比較した。検定の有意差はp<0.05に設定した。NS:有意差なし。データは平均値である。
図4】1mg/mLまたは2mg/mLで充填されたマイクロスフェアのPBS中でのインキュベート2時間後のトラボプロストの溶出。ノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を用いて、30mol%のクロスリンカーPEG13-PLA-PCLのマイクロスフェア(MS2)に対して比較を実施した(*)。検定の有意差はp<0.05に設定した。NS:有意差なし。データは平均値である。
図5】1mg/mLでの、分解性マイクロスフェアからのインビトロトラボプロスト放出に対するクロスリンカー濃度および組成の影響。
図6】2mg/mLでの、分解性マイクロスフェアからのインビトロトラボプロスト放出に対するクロスリンカー濃度および組成の影響。
図7】即時充填(室温で5分間)後の、60日間のMS5からのトラボプロストのインビトロ放出。
図8】MS5上での即時充填に使用されるプロスタグランジンアナログ。
図9】無菌MS5上での即時充填後の、5週間のラタノプロストおよびラタノプロステンブノドのPBS中でのインビトロ放出。
図10】分解性マイクロスフェアMS1(A)およびMS3(B)のサイズ分布。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、トラボプロストなどのプロスタグランジンアナログと、架橋ヒドロゲルから成る親水性分解性マイクロスフェア、特に50~100μmの範囲のサイズのマイクロスフェアとの強い相互作用を発見した。
【0020】
プロスタグランジンアナログは、プロスタグランジン受容体に結合する薬物のクラスでである。プロスタグランジンアナログは、大部分の形態の緑内障の処置に使用される。処置が必須である正常眼圧緑内障または原発性開放隅角緑内障(POAG)ならびに高眼圧症(OHT)患者の両者で低い目標圧が要求されるときは常に、その化合物を使用すべきである。最も一般的に知られるプロスタグランジンアナログは、トラボプロスト、ラタノプロスト、ビマトプロストおよびタフルプロストである。
【0021】
他の薬剤では不十分であるとき、プロスタグランジンアナログであるトラボプロストが開放隅角緑内障を処置するために使用される。トラボプロストは、眼からの房水の流出を増加させることにより作用するプロスタグランジンF2αの合成アナログである。点眼薬中のトラボプロスト濃度は40μg/mLであり、そのため目の結膜嚢に1日1回、投与量は1滴(約50μL)であり、約2μgのトラボプロストが毎日、角膜に適用される。トラボプロストの局所DDSは、この量を毎日、数か月間放出することが可能でなければならない。
【0022】
本発明は、充填されたトラボプロスト(市販の局所トラボプロストより25~50倍高い)などのプロスタグランジンアナログの量およびある期間中のトラボプロスト放出などのプロスタグランジンアナログの流速を調節する可能性を提供する。さらに、先行技術と比較して相対的に大きな直径のマイクロスフェアは、結膜下注射中の網膜および脈絡膜血管の逆流障害の危険性を最小限にする。
【0023】
本発明者らは、眼球周囲の薬物送達のための生物的適合性の薬物担体として使用され得て、かつトラボプロスト、ラタノプロスト、ビマトプロスト、ラタノプロステンブノドおよびタフルプロストなどの有効成分であるプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストとの親和性を示す親水性分解性マイクロスフェアを発見した。
【0024】
このように、本発明者らは、有機溶媒を含まず、1日から数か月での調整可能な分解時間を示し、充填が容易(室温で水中)であり、長期間の薬物放出を可能にし、かつ激しい炎症性反応を回避するプロスタグランジンアナログ送達系を発見した。
【0025】
定義
本明細書で使用される表現「に基づくマトリックス(matrix based on)」は、少なくとも成分(a)~(c)の混合物を含むマトリックスおよび/または反応、特に少なくとも成分(a)~(c)間の重合により生じたマトリックスを意味する。したがって、成分(a)~(c)は、マトリックスの重合(例えば、不均一な媒体重合)に使用される出発成分として理解され得る。
【0026】
本明細書で使用される表現「反応混合物」は、重合に関与するいずれかの成分を含む重合媒体を示す。反応混合物は、典型的に、少なくとも、特許請求の範囲および本明細書で定義される成分a)、b)、c)、場合により重合開始剤、例えば、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)とも称される)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、または場合により、1以上の光開始剤、例えば、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)、および少なくとも1種の溶媒、好ましくは、水性溶媒と非極性非プロトン性溶媒などの有機溶媒を含む溶媒混合物、例えば、水/トルエン混合物および場合により本明細書に記載の任意の適切な成分(例えば、ポリビニルアルコールなどの)安定化剤を含む。
【0027】
したがって、本明細書において、「[出発成分X]をYY%~YYYY%の量で反応混合物に添加する」および「架橋マトリックスは、YY%~YYYY%の量の[出発成分X]に基づく」などの表現は、同様に理解される。同様に、「反応混合物は少なくとも[出発成分X]を含む」および「架橋マトリックスは、少なくとも[出発成分X]に基づく」などの表現も、同様に理解される。
【0028】
本発明の内容において、反応混合物の「有機相」は、有機溶媒および前記有機溶媒に可溶な化合物、特にモノマー、および重合開始剤を含む相を意味する。
【0029】
本明細書で使用される用語「(C-C)アルキル基」は、X~Y個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和一価炭化水素鎖を意味し、ここでXおよびYは、1~36、好ましくは1~18、特に1~6の整数である。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルまたはヘキシル基が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用される用語「アリール基」および「(C-C)アリール」は、好ましくはX~Y個の炭素原子を有する芳香族炭化水素を意味し、ここでXおよびYは、6~36、好ましくは6~18、特に6~10の整数である。アリール基は、単環式または多環式(縮合環)であり得る。例としては、フェニル基またはナフチル基が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用される用語「分配係数P」は、平衡状態における2つの非混和溶媒:水および1-オクタノールの混合物中の化合物の濃度比を意味する。したがって、この比は、これらの2つの液体における溶質の溶解度を比較したものである。したがって、オクタノール/水分配係数は、化合物がどの程度親水性(オクタノール/水比<1)または疎水性(オクタノール/水>1)であるかを測定するものである。分配係数Pは、水中および1-オクタノール中の化合物の溶解度を測定することにより、オクタノールにおける溶解度/水における溶解度の比を計算することにより決定され得る。分配係数Pはまた、ChemAxonにより提供されるChemicalizeを用いて、イン・シリコで計算され得る。
【0032】
本明細書で使用される解性クロスリンカーの疎水性/親水性平衡Rは、次の式:
【数1】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
に従って、疎水性単位の数と親水性単位の数の比により数値化され得る。
【0033】
例えば、本発明において使用され得るクロスリンカーについて、Rは:
【数2】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
である。
【0034】
本明細書で使用される用語「分解性マイクロスフェア」は、マイクロスフェアが、腎臓ろ過の50kg・mol-1の閾値を下回る分子量を有する低分子量の化合物および水溶性ポリマー鎖から成る分解生成物の混合物中で加水分解により分解または開裂することを意味する。
【0035】
本明細書で使用される表現「親水性分解性マイクロスフェア」は、水性媒体との良好な適合性および固体表面(シリンジ、針、カテーテル)への低付着性を可能にする親水性モノマーを10%~90%含む分解性マイクロスフェアを意味する。
【0036】
本明細書で使用される表現「X~Y」(XおよびYは数値である)は、XおよびYを限定する数値範囲が含まれる。
【0037】
本明細書で使用される、有効成分の「即時放出(IR)」という表現は、製剤が投与されてすぐに、製剤から送達箇所へ有効成分が迅速に放出されることを意味する。
【0038】
本明細書で使用される、有効成分の「延長放出」という表現は、製剤から送達箇所まで所定の速度で長期間にわたって有効成分を「持続放出(SR)」または「制御放出(CR)」し、最小限の副作用で一定の有効成分レベルを維持することを意味する。制御放出(CR)は、CRが一定の速度で持続的な期間にわたって薬物放出を維持し、持続放出(SR)が薬物放出を一定の速度ではなく持続的に放出する点で、SRと相違する。
【0039】
本明細書で使用される、有効成分の「持続放出」という表現は、初回用量部分により、目的の組織中の薬物を治療濃度で特定の予め決定された時間維持するための、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0040】
本明細書で使用される表現、有効成分の「制御放出(CR)」という表現は、時間的もしくは空間的な性質またはその両方を一部制御することを提供する、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0041】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の製造に有用なもの、および医薬用途について一般に安全であり、非毒性のものを意味することが意図される。
【0042】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、上記で定義されるとおり薬学的に許容され、かつ対応する化合物の薬理学的活性を有する化合物の塩を意味する。このような塩は、下記のものを含む:
(1)水和物および溶媒和物、
(2)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸などの無機酸を用いて形成される;または酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフト酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機酸を用いて形成される酸付加塩、および
(3)化合物中に存在する酸プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアルミニウムイオンなどの金属イオンで置換されたとき;または有機または無機塩基と配位したときに形成される塩。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどを含む。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含む。
【0043】
モルパーセントは、本明細書においてmol%と略記される。
【0044】
マイクロスフェア
本発明によれば、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも次の成分:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、-(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化2】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の1個の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11が互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり、かつ前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが9-3~11.2、典型的には、0.50~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づくものであり、好ましくは、少なくともこれらの成分の重合により生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0045】
分配係数Pは、ChemAxonにより提供された成分a)~c)のmol%を用いて、イン・シリコで決定される。
【0046】
親水性分解性マイクロスフェアがさらなるモノマー(下記モノマーe)を参照)に基づくものであるとき、成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して表される。
【0047】
用語「親水性モノマー」は、水に対して高い親和性を有する、すなわち、水に溶解しやすい、水と混合しやすい、水により湿潤しやすい、または重合後に水中で膨張することが可能なポリマーを生じさせるモノマーを意味する。
【0048】
ブロックコポリマークロスリンカーは、分解性ブロックコポリマークロスリンカー、すなわち、共有結合により結合した種々のブロックの直鎖状(または放射状)配置を有するポリマーである。分解性ブロックコポリマーにおいて、共有結合は、エステル結合、アミド結合、無水物結合、尿素結合またはポリサッカライド結合などの分解性のものであり、ここでは特にエステル結合である。
【0049】
Xが単結合であるとき、R、R、RおよびR10基を有する炭素原子は、単結合を介して直接結合することを意味する。
【0050】
親水性分解性マイクロスフェアは、生理食塩水溶液(すなわち、通常の食塩水溶液)中で膨潤後に20μm~1200μmの範囲の直径を有する、球状粒子の形態の膨潤分解性(すなわち、加水分解性)架橋ポリマーである。特に、本発明のポリマーは、少なくとも1つの上記で定義される重合化モノマーa)、b)およびc)の鎖で構成される。
【0051】
本発明の内容において、ポリマーは、液体、特に水を吸収する能力を有するならば、膨潤性である。したがって、「膨潤後のサイズ」という表現は、マイクロスフェアの大きさが、それらの製造中に生じる重合および滅菌の工程後に考慮されることを意味する。
【0052】
有利には、有利には、本発明のマイクロスフェアは、光学顕微鏡により決定して、生理食塩水溶液(すなわち、生理食塩水)中での膨潤後に20μm~100μm、40μm~150μm、100μm~300μm、300μm~500μm、500μm~700μm、700μm~900μmまたは900μm~1200μm、有利には20μm~100μm、40μm~150μm、100μm~300μm、300μm~500μm、500μm~700μmの直径を有する。マイクロスフェアは、有利には、数百マイクロメートル~一ミリメートル以上の範囲の内径を有する針、カテーテルまたはマイクロカテーテルにより注入するために十分小さな直径である。
【0053】
親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR)-CH、-(CH-CH-O)-H、(CH-CH-O)-CH、-(CR)-OHまたは-(CH)-NRであり、ここでmは1~30の整数であり;
、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
のものである。
【0054】
有利には、親水性モノマーa)は、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル(メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート;有利には、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される。
【0055】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-CHまたは-(CR)-OHであるとき、mは好ましくは、1~6の整数である。
【0056】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-CHであるとき、Zは好ましくは、C-C-アルキル基である。
【0057】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR)-OHであるとき、RおよびRは好ましくは水素であり、mは1~6の整数である。
【0058】
いくつかの実施態様において、親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH-CH-O)-Hまたは-(CH-CH-O)-CHであり、ここでmは1~30の整数であり;
は水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチルである〕
のものである。
【0059】
より有利には、親水性モノマーa)は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル メタクリレート(m-PEGMA)である。
【0060】
親水性モノマーa)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)10mol%~90mol%、好ましくは30mol%~85mol%、より好ましくは30mol%~80mol%の範囲である。
【0061】
親水性モノマーa)は有利には、反応混合物中に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して10mol%~90mol%、好ましくは30mol%~85mol%、より好ましくは30mol%~80mol%の量で存在する。
【0062】
成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子、(C-C)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0063】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0064】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
、R、RおよびR10が、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0065】
有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよびその誘導体、特にベンゾ誘導体およびフェニル置換誘導体から成る群から、有利には、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から、より有利には、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンおよび2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンから成る群から選択される。より有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキセパンまたは2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンである。
【0066】
成分b)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に1mol%~10mol%の範囲である。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0067】
一般式(II)の環状モノマーb)は、有利には、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に5mol%~15mol%または1mol%~10mol%の範囲で、反応混合物中に存在する。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0068】
成分c)は分解性ブロックコポリマークロスリンカーであり、ここで前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である。
【0069】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、0.5~11.20、有利には3.00~9.00の分配係数Pを有する。または、分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、1~20、有利には3~15の疎水性/親水性平衡Rを有する。
【0070】
本明細書で使用されるとおり、「コポリマークロスリンカー」という表現は、コポリマーが、複数のポリマー鎖を一緒に連結するためにその末端の少なくとも2つに二重結合を含む官能基を含むことを意味するために意図される。
【0071】
上記で定義されるクロスリンカーc)は、直鎖状または星型(有利には、3~8アーム)であり、その全ての末端に(すなわち、直鎖状の時はその2つの末端に、および星形の時は各アームの末端に)(CH=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、クロスリンカーc)は、その全ての末端に(CH=(CR11))-CO-を示し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、全てのR11は同一であり、水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチル基である。
【0072】
クロスリンカーc)は、下記の一般式(IIIa)または(IIIc):
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa);
W-(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
各R11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLを表し;
n、kおよびpは各々、XおよびPEGの重合度を表し、nおよびkは独立して、1~150の整数であり、pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C-C-アルキル基(好ましくはC-C-アルキル基)、または1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含むエーテル基であり;
zは3~8の整数である〕
のものである。
【0073】
式(IIIc)のクロスリンカーc)は、星型ポリマー、すなわち、中核部分に結合したいくつかの直鎖(アームとも称される)から成るポリマーである。式(IIIc)のクロスリンカーにおいて、Wは、星型ポリマーの中核であり、-(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)は、星型ポリマーであり、ここでzはアームの数である。
【0074】
有利には、クロスリンカーc)が一般式(IIIc)のものであるとき、nは、PEGの各アームにおいて同一でも異なってもよい。
【0075】
本発明の内容において、本明細書で使用される略語は、次の意味を有する:
【表1】
【0076】
上の表において、n、pおよびkは本明細書に記載の値を有する。
【0077】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPLAPCLまたはPCLを表す。より有利には、クロスリンカーc)は、一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPCLを表す。
【0078】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでnおよびkは独立して、1~150、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは4~7の整数である。好ましくは、n+kは5~15または8~14の範囲であり、pは1~100、好ましくは1~20の整数である。
【0079】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでR11は同一であり、Hまたは(C-C)アルキル基である。
【0080】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に式(IIIa)の化合物から成る群から選択され、ここで:
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCLであり、R11はメチルである);
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12であり、R11はメチルである);
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG-PCL10であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0081】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0082】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIc)の化合物であり、ここでpは7であり、X=PLAPCLであり、n=10であり、zは3であり、ここでR11は、好ましくは水素またはメチルである(例えば、PEG3アーム-PLA-PCLであり、R11はメチルである)。
【0083】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)の化合物から成る群から選択され、ここで:
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0084】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0085】
上記クロスリンカーc)の定義の範囲内で、ポリエチレングリコール(PEG)は、100~10000g/mol、好ましくは100~2000g/mol、より好ましくは100~1000g/molの高い平均分子量(Mn)を有する。
【0086】
クロスリンカーc)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%、より好ましくは15mol%~60mol%の量である。
【0087】
クロスリンカーc)は、有利には、反応混合物中に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%、より好ましくは15mol%~60mol%の範囲の量で存在する。
【0088】
架橋剤の量を増加させる、そうして得られるマイクロスフェアのメッシュサイズを減少させると、トラボプロストなどのプロスタグランジンアナログのマイクロスフェアへの充填、そしてトラボプロストなどのプロスタグランジンアナログの放出に影響する。15mol%を超える量については、特にトラボプロストの大部分が直ちに放出されるのを妨げるため、トラボプロストの最適な放出が達成される。
【0089】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスは、有利には、鎖転移剤d)に皿に基づくものであり、好ましくは、鎖転移剤d)の存在下、成分a)、b)およびc)の重合から生じる。
【0090】
本発明の目的のために、「転移剤」は、少なくとも1つの弱い化学結合を有する化学的化合物を意味する。この薬剤は、伸長するポリマー鎖のラジカル部位と反応し、鎖の伸長を妨げる。鎖転移過程において、ラジカルが一時的に転移剤へ移動し、別のポリマーまたはモノマーへラジカルを移動させることにより、伸長が再開する。
【0091】
有利には、鎖転移剤d)は、一官能性または多官能性チオール、ハロゲン化アルキル、遷移金属塩または錯体、および2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンなどの、フリーラジカル鎖転移過程で活性であることが知られている他の化合物から成る群から選択される。より有利には、鎖転移剤は、好ましくは2~24個の炭素原子、より好ましくは2~12個の炭素原子を有し、かつアミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基から選択されるさらなる官能基を有するまたは有さないシクロ脂肪族または脂肪族、チオールである。有利には、鎖転移剤d)は、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、ドデカンチオールおよびヘキサンチオールから成る群から選択される。
【0092】
鎖転移剤d)の量は、典型的に、モノマーa)のモル数に対して0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の範囲である。
【0093】
鎖転移剤d)は、有利には、モノマーa)のモル数に対して、例えば0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の量で反応混合物中に存在する。
【0094】
本発明の特定の態様において、架橋マトリックスは上記で定義される成分a)、b)、c)および場合によりd)からの開始にのみ基づき、上記の内容において、反応媒体に他の出発成分は添加されない。したがって、モノマー(成分(a)、(b)および(c))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0095】
いくつかの実施態様において、架橋マトリックスは、有利には、少なくとも1つのイオン化したまたはイオン化可能な一般式(V):
(CH=CR12)-M-E (V)、
〔式中、
12は水素原子または(C-C)アルキル基であり;
Mは単結合または1~20個の炭素原子を有する二価ラジカル、有利には単結合であり;
Eはイオン化したまたはイオン化可能な基であり、有利には、-COOH、-COO、-SOH、-SO 、-PO、-PO、-PO 2-、-NR1314および-NR151617 から成る群から選択され;R13、R14、R15、R16およびR17は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基である〕
のモノマーe)にさらに基づくものである。
【0096】
本発明の内容において、イオン化したまたはイオン化可能な基は、荷電したまたは荷電し得る形態(イオン形態)である、すなわち媒体のpHに応じて少なくとも1つの正電荷または負電荷を有する基であると理解される。例えば、COOH基は、COOの形態にイオン化され得て、NH基は、NH の形態の形態にイオン化され得る。
【0097】
イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの反応媒体への導入は、得られたマイクロスフェアの親水性の増大を可能にし、それにより前記マイクロスフェアの膨潤率を増大させ、さらにカテーテルおよびマイクロカテーテルによるそれらの注入を容易にする。さらに、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの存在により、活性物質のマイクロスフェアへの充填が改善される。
【0098】
有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はカチオン性モノマーであり、有利には、2-(メタクリロイルオキシ)エチル ホスホリルコリン、2-(ジメチルアミノ)エチル (メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル (メタ)アクリレートおよび2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化アンモニウムから成る群から選択され、より有利には、前記カチオン性モノマーはジエチルアミノエチル (メタ)アクリレートである。有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~15モル%の量で反応混合物に存在する。したがって、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0099】
別の有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチル アクリレート、2-カルボキシエチル アクリレートオリゴマー、3-スルホプロピル (メタ)アクリレートカリウム塩および2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウムから成る群から有利に選択されるアニオン性モノマーであり、より有利には、前記アニオン性モノマーはアクリル酸である。イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)の量は、典型的に、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0または0.1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~15モル%の範囲の量である。このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は、100%でなければならないことが明らかである。有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には1モル%~30モル%好ましくは10モル%~15モル%の範囲の量で、反応混合物中に存在する。
【0100】
有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はアクリル酸であり、有利には、モノマーの総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には0モル%~30モル%、好ましくは10モル%~15モル%の量で、反応混合物中に存在する。
【0101】
いくつかの実施態様において、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも下記成分:
10~90mol%の一般式(I):
(CH=CR)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH-CH-O)-Hまたは-(CH-CH-O)-CHであり、ここでmは1~30の整数であり;
は水素原子または(C-C)アルキル基、好ましくはメチルである〕
の親水性モノマー、好ましくはm-PEGMA;
0.1~30mol%の式(II):
【化3】
〔式中、
、R、RおよびR10は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー、好ましくは2-メチレン-1,3-ジオキセパン;および
5~90mol%の式:
(CH=CR11)-CO-X-PEG-X-CO-(CR11=CH) (IIIa)または
W(PEG-X-O-CO-(CR11=CH)) (IIIc);
〔式中、
11、X、W、n、p、k、zは本明細書に記載されるとおりであり、
好ましくはここで、
11は、互いに独立して、水素原子または(C-C)アルキル基であり;
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PLA-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12でありR11はメチルである);または
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCLであり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG-PCL10であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG-PCL12であり、R11はメチルである)である〕
の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、0.5~11.2の分配係数Pまたは1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する分解性ブロックコポリマークロスリンカーの重合に基づくか、これらの重合から生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0102】
親水性分解性マイクロスフェアがさらなるモノマー(下記モノマーe)を参照)に基づく架橋マトリックスを含むとき、成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して表される。
【0103】
成分a)、b)およびc)の量は、本明細書に記載されるとおりであり得る。
【0104】
本発明のマイクロスフェアは、当分野で既知の多くの方法により容易に製造され得る。例として、本発明のマイクロスフェアは、下記および実施例において記載するとおり、直接または逆懸濁重合により、またはマイクロ流体により得られ得る。
【0105】
直接懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部の水溶液に対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;
(iv)100重量部の水溶液に対して、約10重量部を超えない、好ましくは約5重量部を超えない、および最も好ましくは1~4重量部の範囲の量の塩;および
(v)水中油懸濁液を形成するための水
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0106】
このような直接懸濁重合において、界面活性剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールおよびポリソルベート20(Tween(登録商標)20)から成る群から選択され得る。
【0107】
逆懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部の油相に対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;および
(iv)油中水懸濁液を形成するための油;
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0108】
このような逆懸濁法において、界面活性剤は、ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20)、ソルビタンモノパルミテート(Span(登録商標)40)、ソルビタンモノオレート(Span(登録商標)80)およびソルビタントリオレート(Span(登録商標)85)などのソルビタンエステル、ヒドロキシエチルセルロース、グリセリルステアレートおよびPEGステアレートの混合物(Arlacel(登録商標))ならびにセルロースアセテートから成る群から選択され得る。
【0109】
上記工程において、重合開始剤は、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸としても知られる))、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)または1以上の熱開始剤、例えば2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)を含み得る。
【0110】
さらに、油は、パラフィン油、シリコーン油およびヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチルまたは酢酸ブチルなどの有機溶媒から選択され得る。
【0111】
トラボプロスト充填は、受動的吸着(薬物溶液中でのポリマーの膨潤)などの、当業者に既知の多くの方法により実施され得る。
【0112】
薬物充填量を増加させ、薬物放出速度を制御するために、非共有相互作用により薬物と相互作用することができる特定の化学部分をポリマー骨格に導入する概念が考案された。このような相互作用の例は、とりわけ、静電相互作用(以降に記載する)、疎水性相互作用、π-πスタッキングおよび水素結合を含む。
【0113】
薬物
組成物は、有効量のプロスタグランジンアナログ、例えばトラボプロスト、ラタノプロスト、ビマトプロストおよびタフルプロスト、特にトラボプロストを含む。
【0114】
有利には、プロスタグランジンアナログは、トラボプロスト、ラタノプロスト、ビマトプロストおよびタフルプロストから選択される。有利には、プロスタグランジンアナログはトラボプロストである。
【0115】
有利には、本発明の組成物において、プロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストは、非共有相互作用により、上記で定義されるマイクロスフェアに充填/吸収される。薬物またはプロドラッグを封入するこの特定の方法は、物理的封入と称される。
【0116】
本発明のマイクロスフェアへのプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの充填は、マイクロスフェア製造後にプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストを目充填するなどの当業者に既知の多くの方法により実施され得る。
【0117】
有利には、本発明の組成物は、1~6mg/mL、より有利には2~4mg/mLのプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストを含む。
【0118】
有利には、本発明の組成物は、破裂することなく、初日の間に10%未満、その後、毎日初期充填量の1%~5%の一定の送達速度で、プロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストを放出する。
【0119】
有利には、生体への移植後、本発明の組成物は、破裂することなく、結膜下移植後の最初の1時間の間にプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストを涙液中で放出する。プロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの濃度は、房水中で1~7日間、有利には1~30日間、好ましくは1~90日間で2ng/mL~3ng/mLの治療範囲に留まり得るか(Martinez-de-la-Casa et al; 2012. Eye. 26:972-75)、または好ましくは、点眼薬による局所治療(<25pg/mL)後に観測されるのと同様の低い血漿濃度で留置される。
【0120】
組成物
本発明の内容において、組成物は、有効量の(マイクロスフェアに対して0.1~0.6%の質量)のプロスタグランジンアナログ、例えばトラボプロスト、ラタノプロスト、ビマトプロストおよびタフルプロスト、特にトラボプロスト、少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および薬学的に許容される担体を含む。担体は注入による投与に適切である。
【0121】
プロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストおよび親水性分解性マイクロスフェアは、上記で定義されるとおりである。
【0122】
本発明によれば、薬学的に許容される担体は注入によるプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの投与を意図するものであり、有利には、注射用水、生理食塩水、グルコース、デンプン、ヒドロゲル、ポリビニルピロリドン、ポリサッカライド、ヒアルロン酸エステル、造影剤および血漿から成る群から選択される。
【0123】
製剤は、結膜下注射により投与され得る。親水性分解性マイクロスフェアの製剤はシリンジにより投与可能であり、マイクロスフェアのサイズおよび分布は、例えば図5に示される。これは21~34ゲージの針での投与を可能にする。
【0124】
本発明の組成物はまた、緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤またはこれらの混合物を含み得る。有利には、薬学的に許容される担体は、生理食塩水または注射用水である。
【0125】
本発明の組成物は、数時間から数か月の範囲の期間にわたるプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの持続放出を可能にする。有利には、本発明の組成物は、破裂することなく、少なくとも4週間、具体的には4週間~6か月、より具体的には4週間~3か月のプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの持続放出を可能にする。
【0126】
本発明の組成物は、例えば、モノマーa)、b)および/またはc)の性質および内容物、および充填されたプロスタグランジンアナログ、特にトラボプロストの量を調節することにより、上記で定義される持続放出の制御を可能にする。
【0127】
本発明はまた、高眼圧症または緑内障を局所送達により予防および/または処置するための、上記で定義される組成物に関する。
【0128】
本発明はまた、必要とする対象に有効量の上記で定義される組成物を投与することを含む、高眼圧症または緑内障を予防および/または処置する方法に関する。
【0129】
本発明はまた、局所送達により高眼圧症または緑内障を予防および/または処置するための薬物の製造のための、上記で定義される組成物の使用に関する。
【0130】
即座の充填
本発明の特定の実施態様において、トラボプロストは、乾燥無菌マイクロスフェアに即座に充填され得る。
【0131】
したがって、本発明はまた、
i)少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および注入投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量のトラボプロスト;および
iii)場合により、注入デバイス、
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよびトラボプロストが別個に包装されたものである、キットに関する。
【0132】
このような実施態様において、トラボプロストは、有利には、注入直前に親水性分解性マイクロスフェアに充填されることが意図される。
【0133】
本発明によれば、「注入デバイス」は、非経腸投与のためのいずれかのデバイスを意味する。有利には、注入デバイスは、予め満たされていてよい1以上のシリンジ、および/または1以上のカテーテルまたはマイクロカテーテルである。
【0134】
マイクロスフェアの使用
本発明はまた、必要とする対象への有効量のトラボプロストの局所送達、有利には持続送達のための、上記で定義される水性分解性マイクロスフェアの使用に関する。
【0135】
有利には、トラボプロストの持続送達は、破裂することなく、数週間から数か月間、有利には、少なくとも4週間、具体的には4週間~6か月間、より具体的には4週間~3か月間の範囲の期間にわたるものである。
【0136】
本発明の組成物は、数時間から数か月間の範囲にわたってトラボプロストの持続放出を可能にする。有利には、本発明の組成物は、破裂することなく、少なくとも4週間、具体的には4週間~6か月間、より具体的には4週間~3か月間、トラボプロストの持続放出を可能にする。
【0137】
本発明を説明する実施例を下記に示すが、これはいかなる場合も本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0138】
実施例1:未充填の本発明のマイクロスフェアの製造
マイクロスフェア合成のための出発成分、それらの含量および主要なパラメーターを表1aおよび1bに要約する。
【表2】

【表3】
【0139】
1wt% ポリビニルアルコール(Mw=13000~23000g/mol)、3wt% NaCl脱イオン水溶液を含む水相溶液(917mL)を1dmの反応器に入れ、50℃に加熱した。
【0140】
有機相を三角フラスコに調製した。簡潔には、トルエン(36.9g)および2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(0.28wt%/有機相重量)を計量した。AIBNを別のバイアルへ入れ、一定体積分率(約30%)の計量したトルエンに溶解した。
【0141】
その後、分解性クロスリンカーを三角フラスコに計量した。ポリエチレングリコールメチルエーテル メタクリレート(Mn=300g/mol)またはtert-ブチル メタクリレート(Mn=142.2g/mol)、メタクリル酸および2-メチレン-1,3-ジオキセパン(MDO)を計量し、三角フラスコに添加した。その後、トルエンの残量を添加し、モノマーを溶解した。マイクロピペットを用いて、ヘキサンチオール(3mol%/m-PEGMAまたはtert-ブチル メタクリレートのモル)を三角フラスコに添加した。AIBNのトルエン溶液を、モノマーを含む三角フラスコに添加した。最後に、激しく撹拌することなく有機相を透明にし(モノマーおよび開始剤は完全に可溶化されなければならない)、その後、水相へ導入した。
【0142】
50℃で、有機相を水相へ注いだ。その後、撹拌翼を用いて撹拌(240rpm)した。4分後、温度を80℃に昇温させた。8時間後、撹拌を停止し、40μmのふるい上でろ過することによりマイクロスフェアを回収し、アセトンおよび水で徹底的に洗浄した。その後マイクロスフェアをふるいのサイズを減少させながら、ふるいにかけた(125μm、100μm、50μm)。50~100μmのサイズ範囲のMSを、薬物回収試験のために回収した。
【0143】
実施例2:トラボプロストを用いた実施例1によるマイクロスフェアへの充填(MS合成後の前充填)
ふるい分け工程後、実施例1で得られたマイクロスフェア(サイズ範囲50~100μm)250μLを15mLのポリプロピレンバイアルに添加した。その後水(500μLまたは1mL)を加えた後、500μLまたは1mLのトラボプロスト溶液(Sigma、PHR1622-3ML、#LRAA5292(水/アセトニトリル(70/30)中に0.499μg/mL)をそれぞれ添加した。
【0144】
チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら、室温で1時間、充填工程を実施した。
【0145】
その後、蛍光測定(λex 220nm、λEm 310nm)による結合していないトラボプロストの測定のために、上清を除去した。上清中のトラボプロストの量は、標準曲線(0.6~20μg/mL)からの外挿により得られ、初期量から最終的なラタノプロストの量を減算することで、充填量を計算した。1mLのビーズに対するラタノプロスト充填量は、250μLのMSに充填される量を4倍することにより得られた。減算により充填量を計算した。初期量から最終的なトラボプロストの量を減算することで、充填量を計算した。1mLのビーズに対するトラボプロスト充填量は、0.25mLのMSに充填される量を4倍することにより得られた。充填効率は、次の式に従って計算した:充填効率=((フィード中のトラボプロスト-上清中のトラボプロスト)/フィード中のトラボプロスト)×100。ペレットを2mLのグルコース(水に2.5%)で洗浄した後、凍結乾燥させた。
【0146】
試験された各MS製剤についてのトラボプロスト充填を表2および図1に要約する。
【表4】
【0147】
実施例1に従って合成された予め形成されたマイクロスフェアで、90%を超える量でトラボプロストの充填量の増加を達成した。マイクロスフェア中のクロスリンカーが5%を超えるとき、充填効率は有意に改善した(表2および図1)。
【0148】
分解性クロスリンカーPEG13-PLA-PCLを含むMSについて、各ペイロードに対する充填量はクロスリンカー含量とともに増加する(MS1およびMS2)(図1)。直鎖状クロスリンカーの代わりに分解性3アームクロスリンカーをMS組成物に導入しても、トラボプロスト充填を妨げなかった(MS7)。
【0149】
親水性モノマーであるm-PEGMA他のモノマー、例えばtert-ブチル メタクリレートに置き換えたとき、トラボプロスト充填は90%を超える高い効率で可能であった(MS8)。
【0150】
より疎水性の高いクロスリンカー、PEG13-PCLについて、トラボプロスト充填の効率はクロスリンカー含量とともに、5%(MS3)から50%まで増加した(MS6) (図1)。トラボプロストの効率的な充填はまた、より疎水性が高いクロスリンカー、PEG-PCL12の含量が30%の時に得られた(MS9)。ポリマー架橋度が高いと、分解性マイクロスフェアへの効率的な薬物充填が妨げられなかった。
【0151】
緑内障処置に40μg/mLで使用される点眼溶液(Travartan(登録商標))中のトラボプロスト濃度と比較して、25倍または50倍の点眼薬濃度に相当する顕著な量のトラボプロスト(約1または約2mg/mL)が、簡易な混合工程により合成された後の分解性マイクロスフェアへ充填された。実施例1のマイクロスフェアは、トラボプロスト分子を効率的に濃縮する。
【0152】
実施例3.実施例2によるマイクロスフェア充填からのトラボプロストのインビトロ放出試験
実施例2に記載の薬物充填および凍結乾燥後、10mLの0.9% NaCl食塩水溶液中で10分間、マイクロスフェアの膨潤工程を実施した。生理食塩水を除去した後、50mLのPBS(Sigma P-5368;10mM リン酸緩衝化食塩水;NaCl 0.136M;KCl 0.0027M;pH 7.4)を添加した。薬物溶出は振盪(150rpm)下、37℃で起こり、チューブをオーブン内に水平に置いた。サンプル(1mL)を2時間、24時間および25については3日または4日ごとに採取した。各サンプリング時に、培地を新鮮PBSで完全に入れ替えた。生理食塩水およびPBS上清中の遊離のトラボプロストの量を、C18カラム(46×150mm)上でアセトニトリル/0.1% TFAを含む水(60:40、v/v)から成る移動相を用いて、定組成モードで、25℃、流速1mL/分で、222nmでRP-HPLCにより決定した。
【0153】
生理食塩水中でのトラボプロストを充填したMSの水和中のトラボプロスト溶出に対するMS組成の影響を、図2および3に記載する。
【0154】
2つのトラボプロストペイロードについて充填されたマイクロスフェアが膨潤する間の、クロスリンカーの疎水性は、5%のクロスリンカーのMSについての薬物放出に影響を与えなかった(MS1対MS3)。有意ではあるが僅かなクロスリンカー組成が、30%のクロスリンカーのマイクロスフェアについて観測された(MS2対MS5)。トラボプロストが充填されたMSの水和中の薬物放出を制御する主要なパラメーターは、2つの薬物ペイロードについての各クロスリンカーの濃度である。生理食塩水中でのトラボプロスト放出は、5%を超えるクロスリンカー濃度で有意に減少した。高いクロスリンカー濃度(15-30-50mol%)のマイクロスフェアについて、水和工程の間に溶出したトラボプロストの量は、約2%で同様であった。
【0155】
各ペイロードについて、トラボプロスト放出に対するクロスリンカー組成および濃度の影響を図3に示す。2つのペイロードについて、15-30-50mol%のクロスリンカーの高度に架橋したMSでは薬物放出が減少した。トラボプロスト充填レベルは、生理食塩水中でのMS膨潤の間、トラボプロスト放出にほとんど影響を与えなかった。F2mg/mLでのペイロードについて、生理食塩水中での薬物溶出は、30mol%の各クロスリンカー(PEG13-PLA-PCL、PEG13-PCLおよびPEG-PCL12)のMSについてのクロスリンカーの疎水性とともに、有意に減少した。
【0156】
その後、生理食塩水中での膨潤段階の後、37℃でのトラボプロスト放出のために、マイクロスフェアをPBS中に移した。pH 7.4の生理食塩水緩衝培地中で充填されたマイクロスフェアを2時間インキュベートした後の薬物溶出を図4に示した。
【0157】
トラボプロストを充填したMSがPBSでを通過することにより、5mol%のクロスリンカーのMS(MS1およびMS3)について重要な薬物放出:2時間で約35%の薬物放出をもたらした。30mol%の各分解性クロスリンカー、すなわちPEG13-PLA-PCL、PEG13-PCLおよびPEG-PCL12の高度に架橋したマイクロスフェアについて、PBS中でのトラボプロスト溶出は約10%に減少した。30%のクロスリンカーのマイクロスフェア(MS2、MS5、MS9)からのトラボプロスト溶出は、ほぼ同量であった(図4)。50mol%のクロスリンカーPEG13-PCLのMS6では、より低い放出量が得られた。先に生理食塩水中での膨潤の間に観測されたように、MSの架橋度はPBS中でのインキュベートの最初の時間のトラボプロスト放出を制御する。
【0158】
PBS中でのインキュベートの間のトラボプロスト放出の結果を、1mg/mLでの薬物充填について表3に要約し、2mg/mLでのペイロードについて表4に要約する。
【表5】
【0159】
1mg/mLでのトラボプロストペイロードについて、5mol%のクロスリンカー組成(PEG13-PLA-PCLまたはPEG13-PCL)は、PBS中でのトラボプロスト溶出に影響を与えなかった(表3)。対照的に、MS中の2つのクロスリンカーの濃度を増加させると、種々の時点でのPBS中でのトラボプロスト放出が有意に減少した。15mol%、30mol%および50mol%のクロスリンカーでは、PBS中でのトラボプロストの流速は、5mol%のクロスリンカーのMSと比較して低下した。親水性m-PEGMAをtert-ブチル メタクリレートモノマーに置き換えることにより(MS8)、PBS中でのトラボプロスト放出の低下がもたらされた。
【0160】
2mg/mLでのトラボプロストペイロードについて、MS4、MS5およびMS6においてクロスリンカーPEG13-PCL含量が増加すると(15mol%、30mol%、50mol%)、1日後、1週間後および18日後のPBS中でのトラボプロストの放出は有意に減少した。他方で、5mol%の3アームクロスリンカーPEG13-PLA-PCLのMS7は、5mol%の直鎖状クロスリンカーのMS1について観測されたように、迅速にトラボプロスト分子を放出した(表4)。
【表6】
【0161】
30mol%のクロスリンカーでは、PBS中でのトラボプロスト放出は、3バッチのマイクロスフェアMS2、MS5およびMS9の間で有意な差異がなかった。これらの結果により、マイクロスフェアの架橋度とは異なり、クロスリンカーの疎水性は、トラボプロストの放出の制御に与える影響が低いことが確認された。
【0162】
トラボプロスト放出に対するMS中のクロスリンカーPEG13-PCL含量を図5および図6に示す。
【0163】
トラボプロストを迅速に放出する5mol%のクロスリンカーのマイクロスフェアと比較して、高度に架橋したマイクロスフェア(15mol%、30mol%、50mol%)については薬物放出の重要性は低く、これは1mg/mLの薬物充填目標についての薬物放出に対するヒドロゲルのメッシュサイズの影響を示す(図5)。
【0164】
2mg/mLでのペイロードについて、15または30mol%のクロスリンカー(PEG13-PLA-PCL、PEG13-PCL、PEG-PCL12)のMSは、PBS中で1か月間、同程度の流速でトラボプロストを放出する(図6)。50mol%のクロスリンカーPEG13-PCLのMS6は、15mol%または30mol%のクロスリンカーのMSと比較して、低用量のトラボプロスト送達を提供した。結論として、15mol%~50mol%のクロスリンカー濃度によって、マイクロスフェアの水和後の破裂およびその後のトラボプロストの経時的な溶出速度を制御し、制御および持続放出を達成することが可能となる。
【0165】
実施例4.実施例1に従った無菌マイクロスフェアへのトラボプロストの即座の充填
ふるい分け工程後、250μLのマイクロスフェアの2.5%(w/v)のマンニトールを含む溶液15mLの懸濁液を調製した。均一化後、マイクロスフェアを回収し、凍結乾燥させ、電子ビーム照射(15~25キログレイ)により滅菌した。
【0166】
その後500μLまたは1mLの水を添加した後に、500μLまたは1mLのトラボプロスト溶液(Sigma、PHR 1622-3mL ロットLRAA5292(水/アセトニトリル(70/30)中に0.499μg/mL)をそれぞれ添加した。
【0167】
チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら、室温で5分間、充填工程を実施した。その後、蛍光測定(λex 220nm、λEm 310nm)による結合していないトラボプロストの測定のために、上清を除去した。トラボプロストの量は、標準曲線(0.6~20μg/mL)からの外挿により得られた。
【0168】
試験された種々の製剤の乾燥無菌MSへの即座のトラボプロスト充填を表5に要約する。
【表7】
【0169】
その後、インビトロ薬物放出試験のために、トラボプロストを充填したマイクロスフェアにPBS(50mL)を添加した(37℃、150rpm)。各サンプル回収の後、培地を新鮮PBSで完全に入れ替えた。PBS上清中のトラボプロストの量を、C18カラム(46×150mm)上でアセトニトリル/0.1% TFAを含む水(60:40、v/v)から成る移動相を用いて、定組成モードで、25℃、流速1mL/分で、222nmでRP-HPLCにより決定した。MS5からのインビトロ放出を図7に示す。
【0170】
乾燥無菌MSへの充填後、初期のトラボプロストの破裂放出は遅く(3.5%)、少なくとも2か月間持続した(図7)。
【0171】
実施例5.実施例1による無菌マイクロスフェアへの他のプロスタグランジンアナログの即座の充填
MS5のふるい分け工程後、100μLまたは250μLのペレットを、2.5%(w/v)のマンニトールを含む溶液5mLに懸濁した。均一化後、マイクロスフェアを回収し、凍結乾燥させ、電子ビーム照射(25キログレイ)により滅菌した。薬物充填試験のために使用されるプロスタグランジンアナログの構造を図8に示す。
【0172】
ラタノプロスト充填
マイクロスフェアの乾燥無菌ペレット(250μL)に、アセトニトリル/水混合物(70/30)に2mg/mLのラタノプロスト溶液(TRC-L177280-10MG)を500μL添加した。チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら室温で5分間混合した後、C18カラム(46×150mm)上でアセトニトリル/0.1% TFAを含む水(60:40、v/v)から成る移動相を用いて、定組成モードで、25℃、流速1mL/分で、210nmでRP-HPLCにより結合していないラタノプロストを測定するために、上清を除去した。上清中のラタノプロストの量は、標準曲線(0.5~20μg/mL)からの外挿により得られた。初期量から最終的なラタノプロストの量を減算することで、充填量を計算した。1mLのビーズに対するラタノプロスト充填量は、250μLのMSに充填される量を4倍することにより得られた。
【0173】
ラタノプロステンブノド充填
ラタノプロステンブノドは、開放隅角緑内障または高眼圧症を有する患者における眼圧の低減に対して承認された一酸化窒素(NO)供与性プロスタグランジンF2αアナログである。マイクロスフェアの乾燥無菌ペレット(100μL)に、アセトニトリル/水混合物(70/30%)中1mg/mLのラタノプロステンブノド(TRC-L177335-2.5MG)溶液を700μL添加した。チューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら室温で5分間混合した後、C18カラム(46×150mm)上でアセトニトリル/0.1% TFAを含む水(60:40、v/v)から成る移動相を用いて、定組成モードで、25℃、流速1mL/分で、210nmでRP-HPLCにより結合していない薬物を測定するために、上清を除去した。上清中のラタノプロステンブノドの量は、標準曲線(0.25~25μg/mL)からの外挿により得られた。初期量から最終的なラタノプロステンブノドの量を減算することで、充填量を計算した。1mLのビーズに対するラタノプロステンブノド充填量は、100μLのMSに充填される量を10倍することにより得られた。
【0174】
MS5の乾燥無菌ペレットへのラタノプロストおよびラタノプロステンブノドの充填値を表6に要約する。ラタノプロストおよびトラボプロストは低用量で(40~50μg/mL)効果的な、強力な抗緑内障薬物である。対照的に、ラタノプロステンブノドは高濃度(240μg/mL)で有効であり、これは単回結膜下注射後数週間、治療用量を持続放出するための高い薬物ペイロードを得ることを示唆する。
【表8】
【0175】
短時間(室温で5分間)混合した後の無菌MS5バッチへの各プロスタグランジンアナログの充填は効率的であった(収量>90%)。少なくとも6.5mgのラタノプロステンブノドが分解性マイクロスフェアに充填されるため、プロスタグランジンアナログを含むMS5のペイロードは重要である。この迅速な充填は、実施例1のマイクロスフェアに製剤化された分解性ポリマー1と緑内障処置のために使用されるいくつかのプロスタグランジンアナログとの間に存在する親和性を確認するものである。
【0176】
そして、充填工程の直後、インビトロ薬物放出のために、ラタノプロストまたはラタノプロステンブノドを充填したマイクロスフェアに、50mLのPBS(Sigma P-5368;10mM リン酸緩衝化食塩水;NaCl 0.136M;KCl 0.0027M;pH 7.4)を添加した(37℃、150rpm)。各サンプルの回収(10分、2時間、24時間および5週間については3~4日毎)後、培地を新鮮PBSで完全に入れ替えた。PBS上清中のプロスタグランジンアナログは、C18カラム(46×150mm)上で、アセトニトリル/0.1% TFAを含む水(60:40、v/v)から成る移動相を用いて、定組成モードで、25℃、流速1mL/分で、ラタノプロストおよびラタノプロステンブノドについて210nmで、RP-HPLCにより決定した。各薬物についての結果を表7および図9に要約する。
【表9】
【0177】
インビトロ溶出試験は、無菌MS5への迅速な即座の充填後に、インビトロで5週間プロスタグランジンアナログの送達を達成することが可能であり、薬物放出の程度はプロスタグランジンアナログに依存することを示す。PBS中での最初の10分間のインキュベートの間、2つの薬物の放出は同様であったが(表7)、PBS中で24時間後には、薬物放出値は2つの薬物間で異なり、ラタノプロストの溶出がラタノプロステンブノドの溶出より早かった。ラタノプロストおよびラタノプロステンブノドの溶出は実際には、インキュベート5週間後に完了するが(図9)、トラボプロストの溶出は低い流速で起こる(図7)。
【0178】
プロスタグランジンアナログと分解性マイクロスフェアの間の相互作用は、薬物の構造に応じて変化する。緑内障処置のためのプロスタグランジンアナログの制御された持続的な薬物送達には、マイクロスフェアの架橋度のみがパラメーターとして関与しているわけではない。薬物の分子量や、トラボプロストのフッ素やラタノプロステンブノドの窒素のような特定の原子の存在は、分子の架橋ポリマーへの親和性に影響を与える可能性がある。薬物の分子量またはトラボプロストのフッ素もしくはラタノプロステンブノドの窒素などの特定の原子の存在が、架橋ポリマーへの分子の親和性に影響を与え得る。
【0179】
インビトロでは、DDSからのプロスタグランジンアナログの放出は、先に示されるインビボ条件と比較して加速され得る(Natarajan et al., 2014. ACS Nano. 8: 419-29)。
ラタノプロストを含むリポソームでは、PBS中30日で60%の薬物放出でプラトーが得られたが、非ヒト霊長類におけるリポソームの単回結膜下注射後、眼内圧の低下が120日間測定された。主な説明として、著者らは、リポソームからのラタノプロストの放出が眼内ではより遅く、これは、結膜下腔の液体の体積が少なく、シンク条件が適用できなくなり、薬物の放出が遅くなったためであると考えている。もう一つの仮説において、著者はリポソームから放出されたラタノプロストが眼球から速やかに排出されず、眼球滞留時間が長いと考えている。
【0180】
これらの観測は、実施例1のマイクロスフェアに充填されたプロスタグランジンアナログは、単回結膜下注射後に、インビボで十分に長く溶出し、数か月間眼内圧を低減し得ることを示唆する。
【0181】
実施例6:生理食塩水中での膨潤後の無菌親水性マイクロスフェア(MS3およびMS4)のサイズ分布
種々の疎水性を有するクロスリンカーを用いた2つのバッチからの無菌マイクロスフェアは、同様のサイズ分布を有する。マン・ホイットニー・ノンパラメトリック検定によれば、サイズによる差異は見られなかった(p=0.2493)。(図10Aおよび10Bを参照)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
【国際調査報告】