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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(54)【発明の名称】脳卒中の治療における組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4152 20060101AFI20230727BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230727BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230727BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61P9/00
A61K31/045
A61P43/00 121
A61K47/02
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578863
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2021104933
(87)【国際公開番号】W WO2022007832
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】202010653987.2
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522447565
【氏名又は名称】シムサー ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517405493
【氏名又は名称】チャンスー シムサー ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォン、シアオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チュー、シュンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ツンツン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、フォン
(72)【発明者】
【氏名】レン、チンション
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC11
4C076DD24
4C076DD38
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA14
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZC75
(57)【要約】
患者の脳卒中を治療する薬剤の製造における組成物の使用であって、前記組成物はエダラボンとデクスボルネオールとを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳卒中を治療する薬剤の製造における組成物の使用であって、前記組成物はエダラボンとデクスボルネオールとを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、ことを特徴とする患者の脳卒中を治療する薬剤の製造における組成物の使用。
【請求項2】
前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は、1:1~8:1、1:1~7:1、1:1~6:1、1:1~5:1、1:1~4:1、1:1~3:1、1:1~2:1又は1:1~1.5:1であり、好ましくは1:1~5:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は4:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物を、一日に1~3回投与し、3~21日間連続して投与する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物を、12時間おきに一回投与し、一日2回投与し、14日間連続して投与する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物におけるエダラボンの投与量は10~30ミリグラム/回である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記組成物におけるエダラボンの投与量は10ミリグラム/回、20ミリグラム/回又は30ミリグラム/回である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物は薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記薬学的に許容される賦形剤は、ピロ亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコールと注射用水から選択される、ことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記脳卒中は虚血性脳卒中である、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記脳卒中は急性虚血性脳卒中である、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
脳卒中を治療する方法であって、前記方法は、これを必要とする患者に、エダラボンとデクスボルネオールとを含む組成物を投与することを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、脳卒中を治療する方法。
【請求項13】
前記組成物を投与した後、前記患者体内のエダラボンとデクスボルネオールとの血漿曝露量比は、1:1~8:1、1:1~7:1、1:1~6:1、1:1~5:1、1:1~4:1、1:1~3:1、1:1~2:1又は1:1~1.5:1であり、好ましくは1:1~5:1であり、より好ましくは4:1である、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物の使用に関し、さらに、本発明は患者の脳卒中を治療する薬剤の製造における組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去の15年間、脳卒中は、世界中で第二位、中国で第一位の、死亡及び長期的且つ重篤な神経系疾患を引き起こす原因である。脳卒中の危険因子は多くあり、一般的な危険因子は、主に血圧、血糖、コレステロールレベル、体格指数、喫煙、身体活動と飲食を含み、これらの危険因子はいずれも脳卒中と強く関連している。そのため、基礎疾患の病歴を有する脳卒中患者は、より高い罹患率、死亡率、再発率及び障害率を有するおそれがある。臨床では脳卒中の治療に多くの薬剤が使用されているが、脳虚血の急性期及び亜急性期に使用されることが実際に確認された治療薬剤は、まだ臨床応用の需要を完全に満たすことができず、特に複数の疾患又は病歴(例えば、高血圧歴、高脂血症歴、糖尿病歴、心臓病歴など)を伴う虚血性脳卒中患者の臨床需要を満たすことができない。
【発明の概要】
【0003】
上記問題を解決するために、本発明は高血圧歴を有する患者の脳卒中を治療する方法を提供する。
【0004】
本発明は、患者の脳卒中を治療する薬剤の製造における組成物の使用に関し、前記組成物はエダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)とデクスボルネオール(Dexborneol、d-ボルネオールとも呼ばれる)とを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、ことを特徴とする。
【0005】
本発明は、患者の脳卒中の治療における組成物の使用に関し、前記組成物はエダラボンとデクスボルネオールとを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、ことを特徴とする。
【0006】
本発明は、患者の脳卒中を治療する組成物に関し、前記組成物はエダラボンとデクスボルネオールとを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明は、患者の脳卒中を治療する方法に関し、該方法は治療有効量の組成物を患者に投与することを含み、前記組成物はエダラボンとデクスボルネオールとを含み、前記患者は高血圧の病歴を有する、ことを特徴とする。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は1:1~8:1、1:1~7:1、1:1~6:1、1:1~5:1、1:1~4:1、1:1~3:1、1:1~2:1又は1:1~1.5:1である。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は1:1~5:1である。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は1:1~4:1である。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンとデクスボルネオールとの重量比は4:1である。
【0012】
いくつかの実施形態において、これを必要とする患者に前記組成物を投与した後、前記患者体内のエダラボンとデクスボルネオールとの血漿曝露量比は、1:1~8:1、1:1~7:1、1:1~6:1、1:1~5:1、1:1~4:1、1:1~3:1、1:1~2:1又は1:1~1.5:1であり、好ましくは1:1~5:1であり、より好ましくは4:1である。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記組成物を、一日に1~3回投与し、3~21日間連続して投与する。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記組成物を、12時間おきに一回投与し、一日に2回投与し、14日間連続して投与する。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンの投与量は10~30ミリグラム/回である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンの投与量は10ミリグラム/回である。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンの投与量は20ミリグラム/回である。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記組成物におけるエダラボンの投与量は30ミリグラム/回である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記組成物は薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記薬学的に許容される賦形剤は、酸化防止剤、溶解補助剤又は溶媒のうちの一つ又は複数から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記薬学的に許容される賦形剤は、酸化防止剤、溶解補助剤又は溶媒から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記酸化防止剤はピロ亜硫酸ナトリウムである。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記溶解補助剤はプロピレングリコールである。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記溶媒は注射用水である。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記脳卒中は虚血性脳卒中である。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記脳卒中は急性虚血性脳卒中である。
【0027】
本発明の有益な効果は以下のとおりである:我々は、本発明のエダラボンとデクスボルネオール組成物が、高血圧の病歴を有する脳卒中患者に対して顕著な治療効果を示し、高血圧を併有する急性虚血性脳卒中患者のためにより有効な治療薬剤と治療案を提供したことを意外に発見した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の実施例は発明の技術案を詳しく説明するが、本発明の保護範囲はそれを含むが、それに限定されない。
【実施例
【0029】
本発明の実施例の方法とデータは臨床試験からのものであり、その試験目的、試験方法と試験結果は以下のとおりである。
【0030】
試験目的:エダラボンデクスボルネオール注射液の、基礎疾患の病歴を有する脳卒中患者に対するサブグループ薬効研究
多施設、ランダム二重盲検、陽性薬(エダラボン注射液)対照の第III相臨床試験を行ったところ、罹患時間≦48hの急性虚血性卒中患者を1200例選択し、エダラボンデクスボルネオール注射液グループ又はエダラボングループに約1:1割合でランダムに割り当て、薬力学及び安全性研究を行った。基礎疾患の病歴を有する急性虚血性卒中患者の治療に用いられるエダラボンデクスボルネオール注射液の治療効果について研究と分析を行った。選択された1200例の卒中患者を、下記診断標準に基づいて各サブグループに組み入れ、各サブグループの患者は、約1:1の割合でランダムに割り当てる方式で、エダラボンデクスボルネオール注射液又はエダラボン注射液による14日間の連続的な治療を受け、且つ90日目までフォローアップされる。
【0031】
被験者選択標準:
被験者選択の主な標準は、年齢が35~80歳であり、男性又は女性であり、第四回全国脳血管疾患学術会議『各類脳血管疾患の診断要点』に基づいて虚血性卒中(脳梗塞)であると診断され、明確な神経系位置特定サインがあり、神経機能障害スコアが4≦NIHSS≦24であるとともに、NIHSS第五項目の上肢と第六項目の下肢のスコアの和≧2であり、すでに静脈内血栓溶解、動脈内血栓溶解及び神経保護薬剤による治療を受けた被験者を除外する。
【0032】
上記選択された被験者のうち、以下の条件のうちの一つを満たせば高血圧の病歴を有すると認められる:グループに組み入れられる前又はグループに組み入れられた期間に、降圧薬剤を使用していない場合、診察室血圧を異なる日に3回測定し、収縮期血圧(SBP)≧140mmHg(1mmHg=0.133kPa)及び/又は拡張期血圧(DBP)≧90mmHgである。SBP≧140mmHgとDBP<90mmHgであり、又は収縮期血圧と拡張期血圧がそれぞれ140mmHgと90mmHgより低いが、現在降圧薬剤を使用している被験者である。
【0033】
上記選択された被験者のうち、以下の条件を満たせば高脂血症の病歴を有すると認められる:グループに組み入れられる前又はグループに組み入れられた期間に、被験者の空腹時血清中の総コレステロールは5.72mmol/Lを超え、トリグリセリドは1.70mmol/Lを超えるもの、又は血清中の総コレステロールとトリグリセリドが上記標準を超えていない(総コレステロールが5.72mmol/Lを超えておらず、トリグリセリドが1.70mmol/Lを超えていない)が、現在脂質低下薬剤を使用している被験者、及び『中国成人脂質異常症予防治療ガイドライン』(2016年改訂版)の診断標準に合致したもの。
【0034】
薬剤仕様と由来:
1) 試験薬品名称:エダラボンデクスボルネオール注射液、
仕様:5mL:12.5mg(エダラボン10mg、(+)-2-ボルネオール2.5mg)、賦形剤の成分はピロ亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコールと注射用水であり、ここで、デクスボルネオールの構造は
【0035】
【化1】
【0036】
である。
【0037】
保存条件:光を避け、密封し、日陰(20℃以下)で保存し、
メーカー:南京先声東元製薬有限会社
2) 陽性対照薬品名称:エダラボン注射液;
仕様:5mL:10mg(エダラボン10mg)、
保存条件:光を避け、密封し、日陰(20℃以下)で保存し、
メーカー:南京先声東元製薬有限会社
【0038】
試験薬と陽性対照薬は、色、形状の面で完全に同じであり、盲検法を確保するために、二つのグループの薬剤は、包装、ロット番号がいずれも完全に同じであり、包装ロット番号が統一して表記された。グループにランダムに組み入れられた各例の被験者に1つの大きな薬剤カセットを割り当て、一つの治療期間14日間の投薬のための14個の小さなカセットがその中に収容され、一日に1個の小さなカセットを使用し、各小さなカセットに6瓶の薬剤があり、一回に1個の小さなカセット内の3瓶の薬剤を使用し、12hおきに1回、一日に2回投与し、具体的な薬剤仕分け仕様及び数は以下の表のとおりである:
【0039】
【表1】
【0040】
試験方法:
被験者をランダムにグループに分け、試験グループの被験者はエダラボンデクスボルネオール注射液37.5mgを受け、静脈注射し、一日に2回で、14日間連続し、対照グループの被験者はエダラボン注射液30mgを受け、静脈注射し、一日に2回で、14日連続する。研究中に、投与量調整は認められず、投与遅延累積時間は2日を超えてはならない。研究中に、『中国急性虚血性卒中診断治療ガイドライン』2010年版に列挙された神経保護薬と血栓溶解薬剤の使用は禁止される。
【0041】
さらに具体的には、本臨床試験の二つのグループの投与案は以下のとおりである:
エダラボンデクスボルネオール注射液グループ:使用前に、1つの小さなカセット内の3瓶の薬剤を、100mLの0.9%塩化ナトリウム注射液に加えて希釈した後に静脈点滴し、30分内で点滴を完了し、一日に12時間おきに二回投与し、14日連続する。
【0042】
エダラボングループ:投与方法は試験薬エダラボンデクスボルネオール注射液と同じである。使用前に、1つの小さなカセット内の3瓶の薬剤を、100mLの0.9%塩化ナトリウム注射液に加えて希釈した後に静脈点滴し、30分内で点滴を完了し、一日に12時間おきに二回投与し、14日連続する。
【0043】
評価指標:
主要有効性エンドポイントは治療90日目にmRSスコア≦1の患者の割合である。
【0044】
全体的アウトカムスケール評価は、障害に対する全体的な評価の改善されたRankinスケール(ModifiedRankinScale、mRS)を用い、この研究エンドポイントは、中国食品薬品監督管理総局により発表された『急性虚血性脳卒中治療薬剤の臨床試験技術指導原則』に推薦された主要エンドポイント指標でもある。mRSスコアは、現在の脳卒中臨床試験で最も多く採用されている機能アウトカム評価スケールであり、スコア0の無症状からスコア5の重度障害までの等級に分けられ、いくつかの試験において、死亡を示すスコア6を追加する場合がある。臨床試験において、一般的には、mRSスコア0~1を被験者に脳卒中が発生した後に障害が残されないと判定する標準として選択し、mRSスコア0~2を判定標準として選択する一部の臨床試験もある。本出願の試験はmRSスコア0~1を判定標準として選択する。試験結果は表1を参照されたい。
【0045】
【表2】
【0046】
表1の結果に示すように、エダラボン注射液は、高血圧の病歴を有する脳卒中患者に対する治療効果が、高血圧の病歴のない脳卒中患者に対する治療効果ほど優れておらず、90日目のmRSスコアがそれぞれ52.8%と66.1%である。それに対して、エダラボンデクスボルネオール注射液を使用すると、高血圧の病歴を有する脳卒中患者に対する治療効果を著しく向上させることができ、52.8%から64.6%に向上させ、エダラボン注射液に比べて、22%(100%*(64.6-52.8)/52.8=22%)向上させた。高脂血症の病歴を有する脳卒中患者に対して、エダラボンデクスボルネオール注射液とエダラボン注射液は効果が類似している。以上の結果から、エダラボンデクスボルネオールが高血圧の病歴を有する脳卒中患者に対して良好な治療効果を有し、且つその効果がエダラボンより優れていることが分かった。
【国際調査報告】