(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(54)【発明の名称】微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードル
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
A61M37/00 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581638
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 KR2021007700
(87)【国際公開番号】W WO2022005071
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080091
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0055845
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514112488
【氏名又は名称】エルジー ハウスホールド アンド ヘルスケア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ-ウン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】スン-ヒョン・ジュン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
4C267BB04
4C267BB23
4C267CC01
4C267FF10
4C267GG02
4C267GG45
4C267GG50
4C267HH30
(57)【要約】
本発明は、微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルに関し、より詳しくは、溶解性マイクロニードルベースに不溶性微細繊維ネットワーク構造体を含有させることで、ニードルに薬物を含ませなくても、パッチ背面の薬物注入孔を通して薬物水溶液を多量で、且つ、薬物の種類に関係なく皮膚へと伝達することができるマイクロニードルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含む、マイクロニードル。
【請求項2】
前記ネットワーク構造体を形成する微細繊維が、セルロース繊維、アクリル繊維、キトサン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリイミド繊維及びポリアミド繊維からなる群より選択される一つ以上である、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項3】
前記マイクロニードルは、複数個の針が形成されたニードル部、及び前記複数個の針が取り付けられている基板部を含み、
前記微細繊維ネットワーク構造体は、前記基板部内に含まれている、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項4】
前記微細繊維ネットワーク構造体が前記ニードル部内には含まれていない、請求項3に記載のマイクロニードル。
【請求項5】
前記マイクロニードル形成物質が皮膚内で膨潤または溶解される、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項6】
前記マイクロニードル形成物質が水溶解性高分子を含む、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項7】
前記マイクロニードル形成物質がヒアルロン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ビニルピロリドン-ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び糖類からなる群より選択される一つ以上を含む、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項8】
前記マイクロニードル内に含まれた微細繊維ネットワーク構造体の含量が、マイクロニードルの全体重量に対して0.01重量%以上~13.6重量%未満である、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項9】
前記マイクロニードルの基板部に薬物注入孔が形成されている、請求項3に記載のマイクロニードル。
【請求項10】
前記薬物注入孔を通して薬物を注入する場合、前記基板部内に含まれている微細繊維ネットワーク構造体によって薬物がマイクロニードルパッチの全体面積へと広がる、請求項9に記載のマイクロニードル。
【請求項11】
前記微細繊維ネットワーク構造体が、酸化されたバイオセルロース微細繊維ネットワーク水分散体である、請求項1に記載のマイクロニードル。
【請求項12】
前記酸化されたバイオセルロースは、酸化前バイオセルロースに含まれた全体アルコール基のうちの0.8mmol/gセルロース以上がカルボキシル基に置換されている、請求項11に記載のマイクロニードル。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロニードル、及び別途に備えられる薬物を含む、マイクロニードルキット。
【請求項14】
請求項9に記載のマイクロニードルを用意する段階と、
前記マイクロニードルの基板部に形成された薬物注入孔を通して有効成分を注入する段階と、を含む、美容目的で皮膚に効率的に有効成分を注入する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月30日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0080091号及び2021年4月29日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0055845号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
本発明は、微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルパッチに関する。
【背景技術】
【0002】
経皮薬物伝達システムにおいて、10~15μm厚さの皮膚の最外郭層である角質は最も重要な障壁として機能する。数百μm以内の長さを有するマイクロニードル(microneedle)は、最小限の侵入で皮膚を物理的に貫通可能であり、簡便であって痛みなく皮膚に薬物を効果的に伝達できることから、化粧品及び生体臨床医学のような多様な分野で広く研究されている。1998年、ジョージア工科大学(米国)のプラウスニツ(Prausnitz)グループによって半導体工程技術で製造されたシリコーンマイクロニードルを始めとして、金属、セラミックスまたはガラスから製造された多様なソリッド(solid)マイクロニードルは、皮膚に一時的な微細チャネルを生成して、針にコーティングされた薬物または皮膚に局所的に塗布した薬物を伝達する。しかし、針が皮膚内で折れるかまたは小粒子のようなものが体内に残る場合、炎症(inflammation)反応を誘発するおそれがある。一方、水溶性高分子から製造される溶解性(dissolving)マイクロニードルは、薬物を含有させて製造され、皮膚に浸透した後ニードルが溶解されながら薬物が放出される。ソリッドマイクロニードルに比べて製造が容易であって皮膚に残余物が残らないなどの多様な長所があるものの、担持可能な活性化合物が親水性物質に制限される。また、マイクロニードルは大きさが数百μmであるため、内部に担持可能な薬物の量が制限されて少量の薬物しか伝達できず、効能を得るには不十分である。さらに、マイクロニードルの製造工程において、不安定な活性物質の変性が起きるという問題がある。
【0003】
そこで、溶解性マイクロニードルの薬物ローディング量を改善するための幾つかの研究が報告されている。溶解性マイクロニードル及び局所製剤のそれぞれに同じ薬物をローディングし、局所製剤を塗布した後ニードルを適用することで、ニードル単独使用に比べて薬物伝達の効率を高めた研究が報告されている(非特許文献1、2を参照)。また、親水性薬物を含む溶解性マイクロニードルパッチの端部に馬油を塗布し、薬物及び馬油の二つの相を同時に伝達するシステムが報告されている。しかし、これら方法も薬物の伝達量を大きく改善することはできず、皮膚に塗布した製剤が適切に乾燥してからニードルを適用しなければならないか、または、オイル相をニードルに塗布してから皮膚に適用しなければならないなどの使用上の多大な不便が存在する。
【0004】
本明細書には多数の文献が参照されてその引用が示されている。引用された文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として組み込まれ、本発明が属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許公開第10-2017-0103698号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Molecular pharmaceutics 14(2017)2024-2031
【非特許文献2】Journal of cosmetic dermatology 18(2019)1083-1091
【非特許文献3】Journal of cosmetic dermatology 18(2019)936-943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題点を解決するため、本発明は、溶解性マイクロニードルに不溶性微細繊維ネットワーク構造体を添加してマイクロニードルパッチを製造する場合、マイクロニードルパッチによる皮膚穿孔の後、追加的に供給される多様な種類の薬物を、前記微細繊維構造体が形成したネットワーク構造体に沿って素早く拡散できるだけでなく、パッチの全体領域において皮膚へと深く且つ多量で伝達可能なことを確認し、本発明の完成に至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルに関し、より詳しくは、溶解性マイクロニードルベースに不溶性微細繊維ネットワーク構造体を含有させることで、パッチの背面を通じて薬物水溶液を多量で、且つ、薬物の種類に関係なく皮膚へと伝達することができるマイクロニードルを提供することである。
【0009】
より詳しくは、本発明の目的は、下記の具現例を提供することである。
具現例1.微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含む、マイクロニードル。
【0010】
具現例2.具現例1において、前記ネットワーク構造体を形成する微細繊維がセルロース繊維、アクリル繊維、キトサン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリイミド繊維及びポリアミド繊維からなる群より選択される一つ以上である、マイクロニードル。
【0011】
具現例3.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードルが複数個の針が形成されたニードル部、及び前記複数個の針が取り付けられている基板部(substrate)を含み、前記微細繊維ネットワーク構造体が前記基板部内に含まれている、マイクロニードル。
【0012】
具現例4.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記微細繊維ネットワーク構造体が前記ニードル部内には含まれていない、マイクロニードル。
【0013】
具現例5.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードル形成物質が皮膚内で膨潤または溶解される、マイクロニードル。
【0014】
具現例6.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードル形成物質が水溶解性高分子を含む、マイクロニードル。
【0015】
具現例7.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードル形成物質がヒアルロン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ビニルピロリドン-ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び糖類からなる群より選択される一つ以上を含む、マイクロニードル。
【0016】
具現例8.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードル内に含まれた微細繊維ネットワーク構造体の含量が、マイクロニードルの全体重量に対して0.01重量%以上~13.6重量%未満である、マイクロニードル。
【0017】
具現例9.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記マイクロニードルの基板部に薬物注入孔が形成されている、マイクロニードル。
【0018】
具現例10.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記薬物注入孔を通して薬物を注入する場合、前記基板部内に含まれている微細繊維ネットワーク構造体によって薬物がマイクロニードルパッチの全体面積へと広がる、マイクロニードル。
【0019】
具現例11.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記微細繊維ネットワーク構造体が、酸化されたバイオセルロース微細繊維ネットワーク水分散体である、マイクロニードル。
【0020】
具現例12.先行する具現例のうちのいずれか一つにおいて、前記酸化されたバイオセルロースは、酸化前バイオセルロースに含まれた全体アルコール基のうちの0.8mmol/gセルロース以上がカルボキシル基に置換されている、マイクロニードル。
【0021】
具現例13.先行する具現例のうちのいずれか一つによるマイクロニードル、及び別途に備えられる薬物を含む、マイクロニードルキット。
【0022】
具現例14.先行する具現例のうちのいずれか一つによるマイクロニードルを用意する段階と、前記マイクロニードルの基板部に形成された薬物注入孔を通して有効成分を注入する段階と、を含む、美容目的で皮膚に効率的に有効成分を注入する方法。
【0023】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一態様は、微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含むマイクロニードルを提供する。
【0025】
上記の課題を解決するための手段として、水に不溶性である微細繊維ネットワーク構造体とともに溶解性マイクロニードル形成物質を混合し、従来の溶解性マイクロニードルの製造方法であるマイクロモールディング方法でマイクロニードルパッチを製造した。
【0026】
前記微細繊維ネットワーク構造体は、3次元で互いに絡まっているネットワーク構造を有しているため、ニードル部を形成するモールドキャビディ(cavity)内には入ることができず、基板部(substrate)の背面のみに均一に分散する。それにより、(i)皮膚内の水分によって膨潤または溶解される複数のニードルが形成されているニードル部と、(ii)不溶性の微細繊維ネットワーク構造体がマイクロニードル形成物質中に含浸している基板部と、を含む二重層のマイクロニードルパッチが製造される。
【0027】
すなわち、ニードル部は水溶性成分のみから構成される一方、基板部は微細繊維ネットワーク構造体によって水に溶けないながらも、基板部の背面の溶液注入用孔から注入された薬物水溶液を即刻吸収し、マイクロニードルへと持続的に伝達できるリザーバー(reservoir)の役割を果たす。また、基板部下端のニードル部は、皮膚内の体液と薬物水溶液に同時に溶解されながら流路を形成し、その流路に沿って多量の薬物が皮膚内に素早く浸透できることを確認した。結果的に、マイクロニードルに薬物をローディングするための薬物安定性維持及び前処理工程(例えば、薬物表面改質及びコーティング)のような努力をせずとも、多量の薬物を伝達することができるシステムを開発した。
【0028】
したがって、本発明は、複数個の針が形成されたニードル部、及び前記複数個の針が取り付けられている基板部を含むマイクロニードルであって、微細繊維ネットワーク構造体は基板部内に含まれており、ニードル部内には含まれていないマイクロニードルパッチを提供する。
【0029】
望ましい具現例において、前記マイクロニードルの基板部には薬物注入孔が形成され得、前記薬物注入孔を通して薬物を注入する場合、基板部内に含まれている微細繊維ネットワーク構造体によって薬物がマイクロニードルパッチの全体面積へと広がる効果が得られる。
【0030】
本発明のマイクロニードルパッチにおいて、前記ネットワーク構造体を形成する微細繊維の直径は、1nm~100nm以下、望ましくは20nm~80nm以下であり得る。また、縦横比(aspect ratio)が4~5000である高分子繊維、炭素繊維、伝導性高分子繊維などを含むが、必ずしもこれらに制限されることはない。
【0031】
微細繊維の含量は、マイクロニードルパッチの乾燥重量の0.01wt%未満を使用すると、薬物水溶液を素早く吸収する機能が低下し、13.6%以上を添加すると、尖ったチップ(tip)を有するニードルの製造が困難であるため、微細繊維ネットワーク構造体の含量は0.01wt%以上13.6wt%未満であることが望ましい。
【0032】
前記ネットワーク構造体を形成する微細繊維は、望ましくは水分散可能であるかまたは水分散可能に改質された繊維を意味し、例えばセルロース繊維、アクリル繊維、キトサン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリイミド繊維及びポリアミド繊維からなる群より選択される一つ以上を使用し得るが、これらに制限されることはない。
【0033】
望ましくは、前記微細繊維ネットワーク構造体は、水分吸収力(water absorption capacity)及び水分保持能(water retention capacity)が高く且つ不溶性である、酸化されたバイオセルロース微細繊維ネットワーク水分散体であり得る。バイオセルロースはバクテリアから合成されたセルロース微細繊維であって、植物由来のセルロースに比べて繊維直径が小さく、高い物理的強度、高い結晶化度などの優れた特性を有するが、主にゲルやシートのような形態を有するため化粧品剤形などには適用し難い。本発明者らは、特許文献1において、バイオセルロースのアルコール基をカルボキシル基に置換することで、水分散可能なバイオセルロース微細繊維水分散体を開発した。
【0034】
したがって、前記微細繊維ネットワーク構造体を形成する微細繊維としてバイオセルロースを使用する場合は、アルコール基の一部または全部がカルボキシル基に置換された、酸化されたバイオセルロースを使用しなければならず、望ましくは前記バイオセルロースに含まれた全体アルコール基のうちの0.8mmol/gセルロース以上がカルボキシル基に置換されたものを使用し得る。
酸化されていない一般のバイオセルロースを使用する場合、繊維同士の間の強い水素結合によって、水溶解性物質(マイクロニードル形成物質)中で凝集体を形成し、ネットワーク構造体を形成することができない。すなわち、酸化されていない一般のバイオセルロースを使用する場合、ネットワーク構造体を形成できず、ニードルの形成が不可能であるか、または、ニードル部に入って皮膚に残余物を残すという問題が生じるおそれがある。
【0035】
本発明のマイクロニードルにおいて、前記マイクロニードル形成物質は、皮膚内で膨潤または溶解されるものであり、例えばヒアルロン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ビニルピロリドン-ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子;キシロース、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースなどの糖類;またはこれらの混合物を含むものであり得るが、これらに制限されない。
【0036】
より具体的には、前記マイクロニードル形成物質は、皮膚内でよく膨潤または溶解可能な水溶性物質であり、ヒアルロン酸またはその塩、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、糖類、またはこれらの混合物を含み得る。
【0037】
また、前記マイクロニードル形成物質は、マイクロニードルの皮膚透過強度、皮膚内における溶解速度などを総合的に考慮して可塑剤、界面活性剤、保存剤などをさらに含み得る。
【0038】
前記可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどのポリオールを単独でまたは混合して使用し得る。
【0039】
また、微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含む本発明のマイクロニードルは、内部に薬物をさらに含んでもよい。すなわち、本発明は、従来のように溶解性マイクロニードルの内部に薬物を含む場合を排除しない。
【0040】
本発明のマイクロニードルの構造や形態は、根元部から先端部まで見たとき、広幅の根元から先細になる形態で四角形のピラミッド状、三角形のピラミッド状、段差付けピラミッド状、マイクロブレード状、弾状など如何なる形態であっても可能であり、長さは20μm~2mm範囲内であることが望ましいが、これらに制限されない。
【0041】
本発明の他の態様は、前記マイクロニードル、及び別途に備えられる液相の薬物を含むマイクロニードルキットを提供する。
【0042】
本発明のさらに他の態様は、微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含み、マイクロニードルの基板部に薬物注入孔が形成されているマイクロニードルを用意する段階と、前記マイクロニードルの基板部に形成された薬物注入孔を通して美容薬物を注入する段階と、を含む、美容目的で皮膚に効率的に美容薬物を注入する方法を提供する。
【0043】
本発明が提供する微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルパッチによれば、パッチ背面の薬物注入孔を通して薬物(望ましくは、薬物水溶液)を注入する場合、微細繊維が注入された薬物溶液を素早く吸収し、持続的にマイクロニードル部に伝達するリザーバーの役割を果たして、体液と薬物溶液によって溶けたマイクロニードルから形成されたマイクロチャネルを通じて多量の薬物を皮膚に伝達することができる。また、ニードル内に薬物を担持しないことから、ニードルの製造過程で生じる薬物の変性や担持量の制限がないため、化粧品や医薬産業に有用に適用することができる。
【0044】
本発明に記載されたすべての成分は、望ましくは、韓国、中国、米国、欧州、日本などの関連法規、規範(例えば、化粧品安全基準などに関する規定(韓国)、化粧品安全技術規範(中国))などにおいて規定している最大使用量を超過しない。すなわち、望ましくは、本発明によるマイクロニードル、本発明で使用される薬物、及び前記薬物を含むマイクロニードルキットは、各国の関連法規、規範において許容される含量限度で本発明による成分を含む。
【発明の効果】
【0045】
微細繊維ネットワーク構造体を水溶性マイクロニードル形成物質に添加してマイクロニードルを製造すると、微細繊維構造体が3次元で互いに絡まっているネットワーク構造を有しているため、ニードルを形成するモールドキャビディ内には入ることができず、基板部の背面のみに均一に分散するようになる。それにより、従来のマイクロニードル製造方法であるモールディング技術を用いた一回のキャスティング(casting)によっても、水溶性ニードル部及び不溶性基板部の二重構造を有するマイクロニードルパッチを提供することができる。
【0046】
一方、本発明によるマイクロニードルの基板部の背面に薬物注入孔を形成し、それを通して薬物を注入する場合は、薬物を微細繊維が素早く吸収し、持続的にマイクロニードル部に伝達するリザーバーの役割を果たして、皮膚内の水分によって膨潤または溶解されたマイクロニードルから形成されたマイクロチャネルを通じて多量の薬物を皮膚に伝達することができる。
【0047】
また、基板部の背面に薬物注入孔を形成し、それを通して薬物を注入する場合、必ずしもニードル内に薬物を含ませる必要がないため、マイクロニードルの製造過程で薬物が変性するか、または、マイクロニードルの大きさによって薬物ローディング量が制限される問題を解決する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルパッチの製造過程を示した模式図である。
【
図2】微細繊維ネットワーク構造体を含むマイクロニードルパッチの薬物伝達原理を示した模式図である。
【0049】
【
図3】本発明の一具現例による微細繊維ネットワーク構造体及び実施例1で製造されたマイクロニードルパッチの微細構造を示した写真である。
【
図4】比較例1で製造されたマイクロニードルパッチの形状である。
【0050】
【
図5】実施例1及び比較例2の水に対する溶解及び構造的特性の相違を示した写真である。
【
図6】実施例1及び比較例2をブタ皮膚に適用してマイクロニードルの皮膚穿孔率を確認した結果である。
【0051】
【
図7】実施例1及び比較例2をブタ皮膚に付着してモデル薬物水溶液を適用したとき、薬物の水平的/垂直的伝達を確認した結果である。
【
図8】実施例1及び比較例2をブタ皮膚に付着してモデル薬物水溶液を適用したとき、薬物の皮膚透過量を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。後述する実施例は本発明をより具体的に説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されないことは当業者にとって自明であろう。
【0053】
実施例
実験例1.微細繊維水分散体ネットワークを含むマイクロニードルパッチの製造
合成時のマイクロニードルパッチ用混合物の構成は、ザガーデンオブナチュラルソリューション(The Garden of Natural Solution)提供の水不溶性物質であるAqua Cellulose Solution(登録商標、バイオセルロースのアルコール基がカルボキシル基に置換されて水分散可能なバイオセルロース微細繊維水分散体1.5%、蒸留水95.5%、ヘキサンジオール3%)、水溶性物質であるヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、トレハロース、グリセリン、蒸留水であった(表1を参照)。該混合物をシリコーンモールドに塗布して30分間真空を維持した後、50℃で3時間乾燥した。乾燥したパッチをモールドから分離し、パッチ中央に直径6mmの薬物注入孔を打ち抜いた(
図1を参照)。
【0054】
【0055】
表1において、実施例1は、微細繊維水分散体ネットワーク(乾燥重量基準7.5%)を含むマイクロニードルパッチである。
【0056】
比較例1は、微細繊維水分散体ネットワーク(乾燥重量基準13.6%)を含むマイクロニードルパッチである。
【0057】
比較例2は、微細繊維水分散体ネットワークを含まない溶解性マイクロニードルパッチである。
実施例1及び比較例1において使用されたバイオセルロース微細繊維の構造を示す走査電子顕微鏡写真、及び実施例1で製造されたマイクロニードルパッチの走査電子顕微鏡写真を
図3に示した。
図3から、実施例1で製造されたマイクロニードルパッチの微細構造を測定したとき、ニードルの表面とパッチの前面では微細繊維が殆ど観察されなかったが、パッチの背面では全体領域において微細繊維が均一に分布した二重構造を有することが確認できた(
図3を参照)。
【0058】
また、マイクロニードルパッチを製造可能な(マイクロニードルのチップがよく形成可能な)バイオセルロース微細繊維水分散体の重量は13.6%未満であり、それ以上を添加すると、ニードルの尖ったチップが生成されず、使用できないことが確認された(表1の比較例1及び
図4を参照)。
【0059】
実験例2.微細繊維含有マイクロニードルパッチの構造的特性の確認
実験例1で製造した微細繊維を含むマイクロニードルパッチ(実施例1)と、微細繊維を含まないマイクロニードルパッチ(比較例2)との構造及び溶解特性を比較するため、薬物注入孔を形成する前のそれぞれのパッチに水を少量(0.1mL)落として形状の変化を観察した。その結果、比較例2の場合、ニードルを含むパッチ全体が水に溶けて形態が消える一方(
図5のC及びDを参照)、実施例1は、ニードル部分のみが溶け、パッチ基板部の形態は維持されることを確認した(
図5のA及びBを参照)。
【0060】
実験例3.微細繊維を含むマイクロニードルパッチと含まないマイクロニードルパッチとの皮膚穿孔率の比較
実験例1で製造した微細繊維を含むマイクロニードルパッチ(実施例1)と微細繊維を含まないマイクロニードルパッチ(比較例2)とをブタ皮膚にそれぞれ付着し、20Nの力で10秒間適用させた後、パッチを除去し、トリパンブルー水溶液で皮膚に生成されたマイクロチャネルを染色して皮膚穿孔率を比較した。その結果、微細繊維を含むか否かに関係なく、皮膚穿孔率は90%以上を示した(
図6を参照)。
【0061】
実験例4.微細繊維を含むマイクロニードルパッチの薬物伝達能力の可視化(visualization)
実験例1で製造した微細繊維を含むマイクロニードルパッチ(実施例1)と微細繊維を含まないマイクロニードルパッチ(比較例2)とをブタ皮膚にそれぞれ付着し、モデル薬物であるローダミンB(Rhodamine B)水溶液(300μg/mL、100μL)をパッチの孔構造に注入して薬物水溶液の水平的分布を比較した。比較例2(
図7のBを参照)において、ローダミンBがマイクロニードルパッチの一部領域のみに分布したことと異なり、実施例1(
図7のAを参照)では、パッチ領域の全体にローダミンBが均一に広がっていることが確認できた。また、実施例1を適用したブタ皮膚と何も付着していないブタ皮膚とにそれぞれフルオレセイン(Fluorescein)水溶液(50μg/mL、2mL)塗布した後、パッチと残留溶媒を除去し、皮膚を切片にして薬物の垂直的分布を確認した。マイクロニードルパッチなしに薬物を塗布した場合、ブタ皮膚の表面のみでフルオレセインの弱い蛍光が観察された一方(
図7のE及びFを参照)、実施例1の場合、皮膚深くまで強い蛍光が観察された(
図7のC及びDを参照)。その結果、微細繊維を含むマイクロニードルパッチはパッチの全体領域において皮膚深く薬物を伝達できることが確認された。
【0062】
実験例5.微細繊維を含むマイクロニードルパッチを活用した薬物の皮膚透過量の評価
実験例1で製造した実施例1と比較例2をブタ皮膚に付着してレセプターがリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、Gibco)で満たされたプランツセルに取り付けた。各パッチの孔構造にモデル薬物であるローダミンB水溶液(300μg/mL、100μL)を注入し、37℃及び相対湿度50%で17時間薬物を透過させた後、パッチ及び吸収されていない溶液を除去して皮膚及びレセプターへの薬物透過量を分析した(
図8のAを参照)。また、実施例1を適用したブタ皮膚と何も付着していないブタ皮膚とにそれぞれフルオレセイン水溶液(50μg/mL、2mL)を塗布した後、上記と同様の過程を経て薬物透過量を分析した(
図8のBを参照)。その結果、ニードルに薬物を担持しなくても、パッチを付着せずにモデル薬物水溶液のみを塗布した場合と比較して、遥かに多い量の薬物が皮膚内に伝達された。さらに、比較例2に比べてもさらに多量の薬物が伝達可能であることが確認できた。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維ネットワーク構造体及びマイクロニードル形成物質を含
むマイクロニードル
の製造方法であって、
i)バイオセルロース微細繊維とマイクロニードル形成物質とを混合する段階と、
ii)前記混合物をモールドに塗布してマイクロニードルを形成する段階と、
iii)前記モールドから形成されたマイクロニードルを分離する段階と、を含み、
前記マイクロニードルは、複数個の針が形成されたニードル部、及び前記複数個の針が取り付けられている基板部を含み、前記微細繊維ネットワーク構造体は、前記基板部内に含まれており、前記ニードル部内には含まれていない、マイクロニードルの製造方法。
【請求項2】
前記マイクロニードル形成物質が皮膚内で膨潤または溶解される、請求項1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロニードル形成物質が水溶解性高分子を含む、請求項1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロニードル形成物質がヒアルロン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ビニルピロリドン-ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び糖類からなる群より選択される一つ以上を含む、請求項1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロニードル内に含まれた微細繊維ネットワーク構造体の含量が、マイクロニードルの全体重量に対して0.01重量%以上~13.6重量%未満である、請求項1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロニードルの基板部に薬物注入孔が形成されている、請求項
1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項7】
前記薬物注入孔を通して薬物を注入する場合、前記基板部内に含まれている微細繊維ネットワーク構造体によって薬物がマイクロニードルパッチの全体面積へと広がる、請求項
6に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項8】
前記
バイオセルロース微細繊維が、酸化されたバイオセルロース微細繊
維である、請求項1に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【請求項9】
前記酸化されたバイオセルロースは、酸化前バイオセルロースに含まれた全体アルコール基のうちの0.8mmol/gセルロース以上がカルボキシル基に置換されている、請求項
8に記載のマイクロニードル
の製造方法。
【国際調査報告】