IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナフィゴ プロテインズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2023-533531セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質
<>
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図1
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図2
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図3
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図4
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図5
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図6
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図7
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図8
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図9
  • 特表-セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(54)【発明の名称】セラノスティック適用のための血清に安定なヒトHER2結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230727BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 15/14 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230727BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230727BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230727BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230727BHJP
   C07K 14/765 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230727BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/14
C12N15/63 Z
C07K14/47
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/765
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N1/15
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501054
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2021069801
(87)【国際公開番号】W WO2022013376
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】20186113.5
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21155334.2
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】513311653
【氏名又は名称】ナフィゴ プロテインズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Navigo Proteins GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ボッセ-ドゥエネッケ,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】グローサー-ブレーニヒ,マンヤ
(72)【発明者】
【氏名】ハウプト,ウルリッヒ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG24
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】

本発明は、膜結合型受容体型チロシンキナーゼ(Her2)に対する特異性が高いユビキチンスキャフォールドに基づく新規で血清に安定な非免疫グロブリン結合タンパク質に関する。本発明は、Her2が過剰発現している癌の診断又は治療のための医療適用に使用するための、特に放射性医薬品適用のための高温安定性及びHer2に対する高親和性と本質的に組み合わされた高い血清安定性を有する新規で特異的な組換えHer2結合タンパク質を提供する。
【選択図】図8


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトHer2結合タンパク質であって、前記Her2結合タンパク質は、ELISAによって決定され、血清中24時間インキュベーション後0.5nM未満のHer2に対する結合親和性を有し、少なくとも64℃の温度で安定である、前記ヒトHer2結合タンパク質。
【請求項2】
配列番号1~14のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のヒトHer2結合タンパク質。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載のヒトHer2結合タンパク質を含む融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、血清アルブミン、アルブミン結合タンパク質、免疫グロブリン結合タンパク質、又は免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン断片、多糖、アミノ酸アラニン、グリシン、セリン、プロリンを含む構造不定のアミノ酸配列又はポリエチレングリコールから任意で選択される少なくとも1つの薬物動態調節分子をさらに含む、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記融合タンパク質は、放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素、又は放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素の任意の組合せから任意に選択される、少なくとも1つの診断活性部分をさらに含む、請求項3又は4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、モノクローナル抗体、若しくはモノクローナル抗体の断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体、又はモノクローナル抗体、若しくはモノクローナル抗体の断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体の任意の組合せから任意に選択される、少なくとも1つの治療活性部分をさらに含む、請求項3又は4に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
癌の診断又は治療に使用するための、請求項1若しくは2に記載のHer2結合タンパク質、又は請求項3~5のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に定義されるヒトHer2結合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項10】
請求項1若しくは2に定義されるヒトHer2結合タンパク質、請求項8に定義される核酸、及び/又は請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞又は非ヒト宿主。
【請求項11】
請求項1若しくは2に定義されるヒトHer2結合タンパク質、請求項8に定義される核酸分子、請求項9に定義されるベクター、及び/又は請求項10に定義される宿主細胞を含む組成物。
【請求項12】
前記Her2結合タンパク質を取得するために適した条件下請求項10に記載の宿主細胞を培養すること、及び前記Her2結合タンパク質を任意で分離することを含む、請求項1又は2に記載のヒトHer2結合タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜結合型受容体型チロシンキナーゼ(Her2)に対する特異性が高いユビキチンスキャフォールドに基づく新規で血清に安定な非免疫グロブリン結合タンパク質に関する。本発明は、Her2が過剰発現している癌の診断又は治療のための医療適用に使用するための、特に放射性医薬品適用のための高温安定性及びHer2に対する高親和性と本質的に組み合わされた高い血清安定性を有する新規で特異的な組換えHer2結合タンパク質を提供する。
【背景技術】
【0002】
膜結合型受容体型チロシンキナーゼHer2の発現量の増加は、多くの乳癌の発生及び進行に重要な役割を果たすが、特に侵襲性の形態の癌を有する、卵巣、胃、及び子宮癌にも重要な役割を果たす。この癌遺伝子の過剰発現は、悪性腫瘍、主に上皮由来由来の悪性腫瘍について報告され、癌の再発及び予後不良と関連する。3ドメインのタンパク質(細胞外、膜貫通、細胞内チロシンキナーゼドメイン)は、細胞増殖を媒介しており、アポトーシスを阻害している。Her2は、Her2の細胞内ドメインが活性化される二量体を形成し、Her2は、増殖、分化、遊走、又はアポトーシスなどの細胞プロセスを媒介する。したがって、Her2機能の調節は、癌治療、特にHer2の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体に基づくものの開発にとって重要な手法である。トラスツズマブ又はペルツズマブなどの治療用抗Her2モノクローナル抗体は、癌、特に乳がんの治療に利用できる。
【0003】
本発明の根底にある技術的問題
抗体の知られている欠点は、複雑な分子構造、サイズの大きさ、及び難易度の高い製造方法である。このような分子のサイズは大きいので、複雑で高密度な組織構造を有する腫瘍への透過性が制限される。さらに、現在利用可能なHer2結合分子での疾患の治療は、全ての患者に効果があるわけではなく、重度の副作用を有してよい。したがって、このような抗体を用いる治療は、腫瘍をHer2陽性腫瘍と診断した後でのみ可能となる。組織診によって得られた物質に対する試験は、むらがあり、正確ではない。
【0004】
言うまでもないことだが、診断及び治療の両方(セラノスティック)で用いることができ、現在利用できる分子の欠点を克服できる新規な薬剤を見つけることには、強力な医療ニーズがある。
【0005】
したがって、Her2が過剰発現している癌の治療及び診断における新しく改良された手法のための、特に放射性医薬品適用のためのユビキチンスキャフォールドに基づく新規のHer2結合非免疫グロブリン分子を提供することが、本発明の目的である。目的は、診断及び治療の両方に用いることができる特定の腫瘍の徴候のための特異的な組換え結合タンパク質を提供することである。特に、血清中及び高温での高い構造的安定性と組み合わされた、Her2に対する高い親和性及び特異性を有する新規な結合タンパク質を提供することが目的である。
【0006】
解決策は、本明細書に開示される血清に安定なHer2結合タンパク質(アフィリン(登録商標)分子としても知られる)によって、本発明において提供される。本発明のHer2特異的アフィリン分子は、血清中での非常に高い安定性及び65℃を超える高温での安定性によって特徴づけられ、新規な診断及び治療の選択肢を提供する。本出願の候補は、1)高温での反応を必要とする効率的で特異的な同位体標識;2)持続的な循環を可能にする血清中での安定性、及び3)最適な標的化のための高い親和性を保証する証明の組合せを満たす必要がある。
【0007】
本発明は、Her2関連癌に対する新規で改善されたセラノスティック手法のための新規で最適化されたHer2結合分子を提供する。
【0008】
上述した目的及び利点は、同封の特許請求の範囲の主題によって実現される。本発明は、Her2結合タンパク質の例を提供することにより上に示したニーズを満たす。上の概要は必ずしも、本発明によって解決される全ての問題を記載しているわけではない。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、以下の項目[1]~[14]を提供するが、特にこれらの限定されるわけではない。
1.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6から成る群から選択される、好ましくは配列番号1~14から成る群から選択される、いずれか1つと少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列から成るアミノ酸配列を含むヒトHer2結合タンパク質であって、このヒトHer2結合タンパク質は、血清中でのインキュベーション前の結合親和性(KD)と比べてHer2に対する結合親和性が多くて3倍減少し、任意で、血清中での少なくとも24時間のインキュベーション後、ヒトHer2結合タンパク質は、Her2に対する最大結合(Bmax)の少なくとも85%を有し、そして好ましくはヒトHer2結合タンパク質は、少なくとも64°Cの温度で安定である、このヒトHer2結合タンパク質。好ましくはヒトHer2結合タンパク質は、配列番号1と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいて、このHer2結合タンパク質は、ELISAによって決定して、血清中での24時間のインキュベーション後0.5nM未満のHer2に対する結合親和性を有する。
2.この結合タンパク質は、好ましくは項目1及び2に記載される特徴と組み合わせて、少なくとも64℃、好ましくは64℃~70℃の範囲の温度で安定である、項目1に記載のヒトHer2結合タンパク質。
3.配列番号1~14のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む項目1~2に記載のヒトHer2結合タンパク質。
4.項目1~3のいずれかに記載のヒトHer2の結合タンパク質を含む融合タンパク質。
5.この融合タンパク質は、血清アルブミン、アルブミン結合タンパク質、免疫グロブリン結合タンパク質、又は免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン断片、多糖、アミノ酸アラニン、グリシン、セリン、プロリンを含む構造不定のアミノ酸配列又はポリエチレングリコールから任意で選択される少なくとも1つの薬物動態調節分子をさらに含む、項目4に記載の融合タンパク質。
6.この融合タンパク質は、放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素、又は放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素の任意の組合せから任意に選択される、少なくとも1つの診断活性部分をさらに含む、項目4~5のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
7.この融合タンパク質は、モノクローナル抗体、若しくはその断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体、又はモノクローナル抗体、若しくはその断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体の任意の組合せから任意で選択される、少なくとも1つの治療活性部分をさらに含む、項目4~5のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
8.診断薬又は医薬に使用するための、好ましくは癌の診断又は治療に使用するための、項目1~3に記載のヒトHer2結合タンパク質、又は項目4~7に記載の融合タンパク質。
9.項目1~8のいずれか1つに定義されるヒトHer2結合タンパク質をコードする核酸分子。
10.請求項9に記載の核酸分子を含むベクター。
11.項目1~3のいずれか1つに定義されるヒトHer2結合タンパク質、請求項9に定義される核酸、及び/又は請求項10に記載のベクターを含む宿主細胞又は非ヒト宿主。
12.項目1~3のいずれか1つに定義されるヒトHer2結合タンパク質、請求項9に定義される核酸分子、請求項10に定義されるベクター、及び/又は請求項11に定義される宿主細胞を含む組成物。
13.このHer2結合タンパク質を取得するために適した条件下請求項11に記載の宿主細胞を培養すること、及びこのヒトHer2結合タンパク質を任意で分離することを含む、項目1~3のいずれかに記載のヒトHer2結合タンパク質の製造方法。
【0010】
この要約は、本発明の全ての特徴を必ずしも記載するわけではない。他の実施形態は、続く詳細な説明の総説から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面は、以下を示す。
図1図1は、血清中での安定性が高いHer2結合アフィリン(登録商標)分子を示す。
図2図2~7は、血清中でのHer2結合タンパク質の安定性を示す。血清安定性は、実施例6に記載されるようにELISAにより決定した。図2は、アフィリン-206479(配列番号2)の血清安定性を示す。
図3図3は、アフィリン-206499(配列番号13)の血清安定性を示す。
図4図4は、アフィリン-206494(配列番号4)の血清安定性を示す。
図5図5は、アフィリン-206495(配列番号10)の血清安定性を示す。
図6図6は、アフィリン-206486(配列番号5)の血清安定性を示す。
図7図7は、アフィリン-206497(配列番号14)の血清安定性を示す。
図8図8は、アフィリン-206478(配列番号1)の血清安定性を示す。
図9図9は、図9AにおいてはマウスIgG-Fcと融合した、図9Bにおいてはインビボ試験のためにDOTA-Feと結合した、融合タンパク質アフィリン-206479の血清安定性を示す。
図10図10は、7日間のアフィリン206479の取り込み率を腫瘍組織のグラムあたりの注射された用量パーセントで示す。ユビキチン二量体コントロール(配列番号16)と比較して、アフィリン-206479を未修飾の形態で、及びマウスIgG-Fcとの融合物として適用した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、新規なHer2結合タンパク質を提供することにより、癌の診断及び治療の医療選択肢を広げることに対する当技術分野における持続的な強いニーズを満たすための解決法を作り出した。本明細書において定義されるHer2特異的タンパク質は、Her2に対する高い特異的親和性によって機能的に特徴づけられる。特に、本発明は、ユビキチンムテイン(アフィリン(登録商標)分子としても公知)に基づくHer2結合タンパク質を提供する。本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、好ましい物理化学的特性を有する分子形態、細菌における高レベルの発現を提供し、容易な作製方法を可能にする。新規なHer2結合タンパク質は、Her2関連癌の診断及び治療法のためのこれまでに対処されていない医療戦略を広げることができる。特に、Her2結合タンパク質は、例えばHer2を発現する腫瘍細胞の存在などの、診断又は画像化目的、及びHer2を発現する腫瘍の放射線治療のために用いられてよい。新規なタンパク質は、良好な医療用途のための全ての関連するステップを可能にするよう操作される。
【0013】
本発明を以下により詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコール及び試薬が変わることができるので、本明細書に記載される特定の方法、プロトコール及び試薬に限定されないことを理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、特定の態様及び実施形態を記載するためだけのものであり、添付の請求項により反映される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。別段の定めがない限り、本明細書において用いられる全ての技術及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。これは、タンパク質の操作および精製の分野で働く当業者を含むが、技術的応用並びに治療法及び診断法において使用するための新規な標的特異的な結合分子を開発する分野で働く当業者もまた含む。
【0014】
好ましくは、本明細書において用いられる用語は、A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”,Leuenberger,H.G.W,Nagel,B.and Kolbl,H.eds.(1995),Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland)に記載されるように定義される。
【0015】
本明細書及び本明細書に続く特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、単語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含むこと(comprising)」などの変形は、記載した整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群を包含するが、他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群のいずれも除外しないことを意味するものと理解された。用語「含む(comprise(s))」又は「含む(comprising)」は、「成る(consists)」又は「から成る(consisting of)」に対する限定を、このような限定が何らかの理由により何らかの程度まで必要とされる場合には、包含することができる。
【0016】
いくつかの文献(例えば、特許、特許出願、科学論文、製造業者の仕様書、取扱説明書、GenBankアクセッション番号配列提出など)が、本明細書の全体を通して引用されてよい。本明細書において、本発明が先行発明によりこのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきでない。本明細書に引用される文献の一部は、「参照により援用される」と特徴付けられてよい。このような援用された参照文献の定義又は教示及び本明細書において挙げられる定義又は教示の間に矛盾が生じた場合、本明細書の本文が優先される。
【0017】
本明細書において言及されるすべての配列は、添付の配列表において開示され、この配列表は、その内容全体及び開示と共に、本明細書の開示内容の一部分を形成する。
【0018】
一般的定義
用語「Her2」とは、ヒト上皮成長因子受容体2を指し、同義語名称は、ErbB-2,Neu,CD340又はp185)である。ヒトHer2は、NCBIアクセッション番号NP_004439により表され、Her2の細胞外ドメイン(残基1~652)は、uniprotアクセッション番号p04626により表される。用語「Her2」は、NP_004439と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%若しくは97%以上、又は100%の配列同一性を示し、Her2の機能性を有する全てのポリペプチドを含む。
【0019】
用語「Her2結合タンパク質」又は「ヒトHer2結合タンパク質」は、本明細書において互換的に用いられてよく、Her2に対する結合親和性を有するタンパク質を指す。
【0020】
用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」とは、ペプチド結合により連結された2個以上のアミノ酸からなる任意の鎖を指し、特定の長さの産物を指さない。したがって、2個以上のアミノ酸からなる鎖を指すために用いられるペプチド、タンパク質、アミノ酸鎖、又は任意の他の用語は、ポリペプチドの定義に含まれ、用語ポリペプチドは、これらの用語のいずれかの代わりに、又は互換的に用いられてよい。用語ポリペプチドはまた、当該技術分野において周知であるポリペプチドの翻訳語修飾産物を指すことも意図される。
【0021】
用語「修飾」又は「アミノ酸修飾」とは、親ポリペプチド配列の特定の位置での、別のアミノ酸による参照アミノ酸の置換、欠失、又は挿入を指す。公知の遺伝コード並びに組換え及び合成DNA技術が与えられると、熟練した科学者は、アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0022】
用語「アフィリン」又は「アフィリン(登録商標)」(Navigo Proteins GmbHの登録商標)とは、免疫グロブリンに由来しない結合タンパク質を指す。
【0023】
用語「置換」は、あるアミノ酸を別のアミノ酸によって交換することと理解される。
【0024】
用語結合「親和性」及び「結合活性」は、本明細書において互換的に用いられてよく、「親和性」及び「結合活性」は、あるポリペプチドが別のタンパク質、ペプチド、又は別のタンパク質、ペプチドの断片若しくはドメインに結合する能力を指す。結合親和性は典型的には、平衡解離定数(KD)によって測定及び報告され、平衡解離定数は、2分子の相互作用の強さを評価し順位を付けるために用いられる。
【0025】
用語「最大結合」は、Bmaxと表され、結合現象の平衡状態での最大結合能力の実験推定値を定義するものである。
【0026】
用語「融合タンパク質」は、少なくとも第2のタンパク質と遺伝的に連結された少なくとも第1のタンパク質を含むタンパク質に関する。融合タンパク質は、本来別々のタンパク質をコードした2個以上の遺伝子の結合により作製される。融合タンパク質は、標的の結合に関与しない付加的なドメイン、例えば、限定されないが、多量体化部分、ポリペプチドタグ、ポリペプチドリンカー、又はHer2とは異なる標的に結合する部分をさらに含んでよい。
【0027】
用語「アミノ酸配列同一性」とは、2個以上のタンパク質のアミノ酸配列の同一性(又は差異)の定量的比較を指す。参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、必要に応じて、最大の配列同一性パーセントを達成するよう配列を位置合わせし、ギャップを導入した後の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である配列中のアミノ酸残基の比率と定義される。配列同一性を決定するために、問い合わせタンパク質の配列を、参照タンパク質又はポリペプチドの配列に対して位置合わせする。配列アラインメントのための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、アミノ酸配列と比べた任意のポリペプチドのアミノ酸配列同一性の程度を決定するには、当該技術分野において公知のSIM Local類似性プログラムが好ましくは使用される。マルチプルアラインメント解析の場合、当業者に公知であるように、Clustal Omegaが好ましくは用いられる。
【0028】
本発明の実施形態の詳細な説明
本発明をさらに説明する。以下の一節において、本発明の別の実施形態をさらに詳細に定義する。以下に定義する各実施形態は、別段の明確な定めがない限り、他の任意の実施形態と組み合わされてよい。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましい又は有利であると示される任意の他の特徴と組み合わされてよい。
構造的特徴付け
本発明のHer2結合タンパク質は、152個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み(配列番号15)、
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTTENVKAKIQDKEGIPPDQQTLAFVGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLWLYLTXAAMRIFVXTHTGKTITLDVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIWAGKQLEDGRTLSDYNIXEWXILHLVLRLRAA Xは、L又はWから選択され、Xは、R又はYから選択され、Xは、K又はTから選択され、Xは、Q又はSから選択され、Xは、A又はSから選択される。
【0029】
1つの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1(アフィリン-206478)、配列番号2(アフィリン-206479)、配列番号3(アフィリン-206480)、配列番号4(アフィリン-206494)、配列番号5(アフィリン-206486)、又は配列番号6(アフィリン-206482)からなる群から選択されるいずれか1つと少なくとも97%のアミノ酸配列同一性又は少なくとも98%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列のあるアミノ酸配列を含んでいる。1つの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1(アフィリン-206478)と少なくとも97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列のあるアミノ酸配列を含んでいる。1つの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号2(アフィリン-206479)と少なくとも97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列のあるアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1~14に示されるアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。本発明では驚くべきことに、本発明のHer2結合タンパク質は、配列番号16(ジユビキチン)の野生型位置L73、R74、K82、Q138、又はS141の2、3、4、又は5個のアミノ酸残基を維持することが示される。
【0030】
いくつかの実施形態において、安定なHer2結合タンパク質の例は、図1に示される配列番号1~14のいずれかから選択されるアミノ酸配列、若しくは配列番号1~14のいずれかと少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列を含む又はから成る。いくつかの実施形態において、安定なHer2結合タンパク質の例は、図1に示される配列番号1~14のいずれかから選択されるアミノ酸配列若しくは配列番号1~14のいずれかと少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む又はから成る。様々な実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1若しくは配列番号2から選択されるアミノ酸配列又は配列番号1若しくは配列番号2のいずれかと少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。様々な実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1若しくは配列番号2から選択されるアミノ酸配列又は配列番号1若しくは配列番号2のいずれかと少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1~14のアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、Her2結合タンパク質は、配列番号1又は配列番号2と少なくとも97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する。少なくとも97%の配列同一性を指す本明細書に記載される他の様々な実施形態において、配列同一性は好ましくは、それぞれの参照配列と少なくとも97%、98%、99%、又は100%の同一性のいずれかであってよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される安定なHer2結合タンパク質は、ビスユビキチン(配列番号16)のアミノ酸配列と少なくとも90.5%の同一性の任意のアミノ酸同一性を有してよい。
【0033】
機能的特徴
本発明のHer2結合タンパク質は、血清中でさえも安定性が高いことによって機能的に特徴づけられる。血清中での長期のインキュベーション後でさえ、この結合タンパク質は、血清中でのインキュベーション前の結合親和性と比較して、Her2に対する結合親和性が多くて3倍又は2倍の減少しか有さない(実施例を参照する)。好ましくは、血清中での長期のインキュベーション後でさえ、この結合タンパク質は、Bmaxとして表されるHer2に対する最大結合の少なくとも85%を有し、血清中でのインキュベーション前の結合親和性と比較して、Her2に対する結合親和性が多くて3倍又は2倍の減少しか有さない(実施例を参照する)。血清中24時間後でさえ結合親和性は、好ましくはELISAによって測定され、0.5nM以下である。血清中での非常に高い安定性と組み合わせ、最大結合及びHer2に対する高い親和性を反映すると、Her2結合タンパク質は、少なくとも64℃、好ましくは64℃~最大70℃の範囲の温度で安定である。いくつかの機能的特徴、すなわち血清中での非常に高い安定性、高温安定性及び血清中でさえ高いHer2に対する親和性の驚くべき組み合わせがあるので、本発明のタンパク質は診断及び治療応用の両方の医療応用に使用するために適している。
【0034】
本明細書に開示されるヒトHer2結合タンパク質は、配列番号1~14のいずれかの群から選択されるアミノ酸配列を含み、このヒトHer2結合タンパク質は、
(i)血清中での少なくとも24時間のインキュベーション後に、血清中でのインキュベーション前の結合親和性と比べて、Her2に対する結合親和性(KD)が多くて3倍しか減少せず、
(ii)血清中で少なくとも24時間インキュベーション後Her2に対する最大結合(Bmax)の少なくとも85%を有し、
(iii)血清中で24時間インキュベーション後、ELISAにより測定して、0.5nM未満のHer2に対する結合親和性を有し、及び
(iv)少なくとも64℃の温度で安定である。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、細胞上に発現したHer2と結合し、及び/又は例えばマウス血清中などの、血清中で24時間インキュベーションした後でさえも5nM以下、好ましくは0.1~2nM、好ましくは0.5nM未満のHer2結合親和性を有する。
【0036】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、血清中で24時間インキュベーション後に測定して、5nM未満のHer2に対する結合親和性(K)を有する。Her2結合タンパク質は、マウス血清中で24時間インキュベーション後に測定して5nM未満、3nM未満、及び2nM未満、並びに0.5nM未満の測定可能な結合親和性で、Her2と結合する。適切な方法は、当業者に公知であるか又は文献に記載されている。結合親和性の測定方法は、それ自体公知であり、例えば当技術分野において公知の以下の方法より選択することができる:酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴(SPR)、動力学的除外解析(KinExAアッセイ法)、バイオレイヤー干渉法(BLI)、フローサイトメトリー、蛍光分光学技術、等温滴定熱量測定(ITC)、解析的超遠心分離、ラジオイムノアッセイ法(RIA又はIRMA)、及び高感度ケミルミネッセンス法(ECL)。これらの方法の一部を、下記の実施例で説明する。典型的には、解離定数KDは、例えば20℃、25℃、又は30℃などの、20℃~30℃の温度で測定される。KD値が小さいほど、結合相手に対する生体分子の結合親和性は大きい。KD値が大きいほど、結合相手が互いに結合する力は弱い。本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、表面プラズモン共鳴アッセイ法によって測定され、Her2には結合するが、ヒト免疫グロブリンIgG1のFcドメインには検出可能な程度に結合しない。5nM未満、好ましくは0.5nM未満のKでHer2と結合することは、Her2関連癌のための標的医療応用にとって重要であってよい。さらに、5nM未満、好ましくは0.5nM未満のKDでHer2結合を有するタンパク質は、潜在的有害副作用を低減したかもしれない。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、64℃超、好ましくは65℃超、好ましくは最大70℃又はずっと高い、高温で安定である。Her2結合タンパク質のこのような高温安定性は、例えば放射化学応用などの、いくつかの応用にとって重要である。安定性解析については、例えば、化学的又は物理的アンフォールディングに関連する分光学的又は蛍光を利用する方法が、当業者に公知である。例えば、分子の安定性を、標準的方法を用いて、熱融点(Tm)、分子の半量がアンフォールディングする摂氏温度(℃)を測定することにより決定することができる。通常、Tmが高いほど、分子はより安定である。温度安定性を、実施例にさらに詳細に記載されている示差走査蛍光定量法(DSF)によって決定した。
【0038】
半減期が長い分子
診断的及び治療的応用については、半減期が長い分子を有することが非常に重要であってよい。いくつかの実施形態は、Her2結合タンパク質の半減期を伸ばす分子と融合した、配列番号1~14、又は配列番号1~14と少なくとも97%若しくは少なくとも98%同一なタンパク質、好ましくは配列番号1若しくは配列番号2と少なくとも97%の同一性を有するタンパク質から選択された、いずれか1つのHer2結合タンパク質に関する。いくつかの実施形態は、本明細書に記載される、配列番号1~6の安定なHer2結合タンパク質又は例えば本明細書に記載されるような、配列番号1~14などの、配列番号1~6と少なくとも97%同一なタンパク質を含む融合タンパク質に関する。様々な実施形態において、配列番号1若しくは配列番号2から選択されるアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは配列番号2のいずれかと少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列のアミノ酸配列を含むHer2結合タンパク質は、Her2結合タンパク質の半減期を伸ばす分子と融合される。様々な実施形態において、配列番号1又は配列番号2のいずれかと少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHer2結合タンパク質は、Her2結合タンパク質の半減期を伸ばす分子と融合される。いくつかの実施形態は、配列番号1若しくは配列番号2の安定なHer2結合タンパク質又は配列番号1若しくは配列番号2と少なくとも97%、98%、又は99%同一なタンパク質を含む融合タンパク質に関する。
【0039】
融合タンパク質は、安定なHer2結合タンパク質に加えて、薬物動態を調節する、少なくとも1つの追加の分子をさらに含んでよい。本明細書に記載される安定なHer2結合タンパク質及び薬物動態調節分子を含む融合タンパク質は、長い半減期を有してもよかった。半減期の延長に適した分子は、血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン若しくはマウス血清アルブミン)、アルブミン結合タンパク質、免疫グロブリン結合タンパク質、又は免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン断片、多糖(例えばヒドロキシエチルデンプン)、アミノ酸アラニン、グリシン、セリン、プロリンを含む多量体などの、水力学的半径を増加させる構造不定のアミノ酸配列、又はポリエチレングリコールから選択されることができる。免疫グロブリンと融合した上述の安定なHer2結合タンパク質を含む融合タンパク質の例を、配列番号18に示し、このような融合タンパク質の血清安定性を図9に示す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、融合タンパク質のN末端に本明細書に記載されるHer2結合タンパク質、及びC末端に免疫グロブリン結合タンパク質(単量体、二量体、三量体、又は四量体として)を含んでいる。
【0040】
半減期が長いHer2結合タンパク質を作製するためのいくつかの技術は当該技術分野において公知であり、例えば薬物動態調節部分の上述したHer2結合タンパク質との直接融合又は化学的カップリング方法がある。いくつかの実施形態において、薬物動態調節部分を、例えば直接又はペプチドリンカー配列により若しくは上述したカップリング部位によりHer2結合タンパク質の1つ若しくはいくつかの部位に結合することができる。
【0041】
追加部分。いくつかの実施形態において、Her2結合タンパク質へのタンパク質性又は非タンパク質性部分の結合を、当技術分野において周知の化学的方法を適用して実施することができる。いくつかの実施形態において、システイン又はリジン残基の誘導体化に特異的なカップリング化学反応を適用できてよい。化学的カップリングは、限定されないが、置換、付加若しくは環状付加、又は酸化化学反応(例えばジスルフィド形成)を含む、当業者に周知の化学反応によって実行されることができる。
【0042】
いくつかの実施形態は、融合タンパク質に関し、この融合タンパク質は、少なくとも1つの診断活性部分をさらに含む。このような診断活性部分は、放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素、又は放射性核種、蛍光タンパク質、感光剤、染料、若しくは酵素の任意の組合せから選択されてよい。様々な実施形態において、Her2結合タンパク質はさらに、診断部分を含む。他の実施形態において、Her2結合タンパク質はさらに、1つより多い診断部分を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの診断部分を含むHer2結合タンパク質を、例えば腫瘍細胞若しくは転移の存在、腫瘍分布、及び/又は腫瘍の再発を評価するために、例えば造影剤として使用することができる。癌細胞を検出又は監視するための方法は、画像化方法を含む。このような方法は、例えば、放射線画像化又は光ルミネセンス若しくは蛍光によってHer2に関連する癌細胞を画像化することを含む。いくつかの実施形態は、対象に組成物を投与することを含むこの対象の少なくとも一部を画像化する方法であって、この組成物は、配列番号1~14の、好ましくは配列番号1若しくは配列番号2と少なくとも97%、98%、99%、又は100%の同一性さえ有するタンパク質の単離されたポリペプチド、及び造影剤を含む、方法に関する。いくつかの実施形態において、方法はさらに、Her2発現癌、例えば乳がんのこの対象を診断するステップを含んでいる。いくつかの実施形態において、この方法はさらに、この組成物のこの対象への送達を監視するステップを含んでいる。
【0043】
いくつかの実施形態は、融合タンパク質に関し、この融合タンパク質は、上述したHer2特異的タンパク質に加えて、少なくとも1つの治療活性部分を含む。このような治療活性部分は、モノクローナル抗体若しくはその断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体、又はモノクローナル抗体、若しくはその断片、結合タンパク質、受容体若しくは受容体ドメイン、放射性核種、細胞傷害性化合物、サイトカイン、ケモカイン、酵素、若しくは酵素の誘導体の任意の組合せから選択されることができる。いくつかの実施形態において、治療活性要素を含むHer2結合タンパク質は、上記に挙げた要素のいずれかのHer2発現腫瘍細胞への標的化送達に用いられてよく、Her2発現腫瘍細胞内に蓄積し、これにより正常細胞への毒性を低レベルにする。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される安定なHer2結合タンパク質及びモノクローナル抗体を含む融合タンパク質は、Mabfilin(商標)と呼ばれる。
【0044】
インビボ若しくはインビトロでの画像化への応用又は放射線療法に適した放射性核種としては、限定されないが、γ放射同位体の群、ポジトロン放射体の群、β放射体の群、及びα放射体の群が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態において、適切な結合相手には、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)若しくはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又は1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)若しくはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の活性化誘導体などのキレート剤、ナノ粒子及びリポソームが含まれる。実施例においてさらに詳細に説明するように、様々な実施形態において、DOTAは、放射性同位体及び画像化を目的とする他の作用物質のための錯化剤として適してよい。いくつかの実施形態は、対象に組成物を投与することを含むこの対象の少なくとも一部を画像化する方法であって、この組成物は、配列番号1~14の、好ましくは配列番号1若しくは配列番号2と少なくとも97%、98%、99%、若しくは100%の同一性さえ有するタンパク質の単離されたポリペプチド、及び、例えばDOTAなどの、適した結合相手と結合した放射性核種を含む、方法を指す。いくつかの実施形態において、方法はさらに、Her2発現癌、例えば乳がんの対象を診断するステップを含んでいる。いくつかの実施形態において、方法はさらに、この組成物のこの対象への送達を監視するステップを含んでいる。
【0045】
いくつかの実施形態において、付加的なアミノ酸が、Her2結合タンパク質のN末端若しくはC末端のいずれか又は両端から伸びてよい。付加的な配列は、例えば精製又は検出などのために導入される配列を含んでよい。1つの実施形態において、付加的なアミノ酸配列には、ある種のクロマトグラフィーカラム材料に対する親和性を与える1つ又は複数のペプチド配列が含まれる。このような配列の典型的な例には、非限定的に、Strepタグ、オリゴヒスチジンタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、インテイン、インテイン断片、又はプロテインGのアルブミン結合ドメインが含まれる。
【0046】
医薬における使用
様々な実施形態は、医薬において使用するための、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質に関する。1つの実施形態において、Her2結合タンパク質は、Her2発現に関連する癌を診断又は治療するための医薬において使用される。本明細書において開示されるHer2結合タンパク質によって、Her2関連癌細胞又は癌組織の選択的診断及び治療が可能になる。Her2は腫瘍細胞において上方制御されることが知られている。膜タンパク質Her2は、腫瘍細胞において上方制御されることが知られており、腫瘍細胞が制御不能に増殖し、転移が起こる。癌患者の新しい治療法には、例えばモノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))又はペルツズマブ(パージェタ(登録商標))などの標的化治療薬によるHer2発現細胞の増殖を阻害することが含まれる。抗体-薬物コンジュゲート、T-DM1は、Her2を過剰発現する乳癌肉腫、子宮癌肉腫、及び卵巣癌肉腫に極めて有効である。
【0047】
Her2の過剰発現は、非常に多様な癌について記載されてきた。例えば、Her2の過剰発現は、乳癌の約15%~30%及び胃癌/胃食道癌の10%~30%に発生し、卵巣、子宮内膜、膀胱、肺、結腸、頭頸部などの他の癌においても観察されてきた。したがって、本明細書に記載されるHer2結合タンパク質を含む医薬組成物を、疾患の発生にHer2が関連する、特に乳房、卵巣、胃に限定されず、肺、頭頸部、子宮頸部、前立腺、膵臓、及び他の臓器の癌の治療に用いることができる。
【0048】
1つの実施形態は、Her2関連癌を有する対象を診断する(監視することを含む)方法であって、この診断(監視)方法は、任意で放射性分子と結合した前述のHer2結合タンパク質をこの対象に投与することを含む、方法である。様々な実施形態において、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質は、Her2関連癌の診断のために用いられてよく、任意で、このHer2結合タンパク質は放射性分子に結合されている。いくつかの実施形態において、放射活性標識又は蛍光性標識などを有するHer2結合タンパク質を用いる画像化方法を用いて、特定の組織又は細胞上のHer2を可視化して、例えば、Her2に関連する腫瘍細胞の存在、Her2に関連する腫瘍の分布、Her2に関連する腫瘍の再発について評価、及び/又は治療的処置に対する患者の応答について評価することができる。
【0049】
1つの実施形態は、Her2関連癌を有する対象を治療する方法であって、この治療方法は、任意で放射性分子及び/又は細胞傷害性薬物に結合された前述のHer2特異的結合タンパク質をこの対象に投与することを含む、治療方法である。様々な実施形態において、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質は、Her2関連癌の治療のために使用されてよく、任意で、このHer2結合タンパク質は細胞傷害性薬物及び/若しくは放射性分子に結合される。いくつかの実施形態は、Her2に関連する腫瘍細胞を治療するための、特に例えば悪性細胞などの、Her2に関連する腫瘍細胞を制御又は死滅させるための、適した放射性同位体若しくは細胞傷害性化合物で標識されたHer2結合タンパク質の使用に関する。1つの実施形態において、治癒線量の放射線を、Her2関連腫瘍細胞に選択的に送達するが、正常細胞に送達しない。
【0050】
組成物。様々な実施形態は、本明細書に開示されるHer2結合タンパク質を含む組成物に関する。いくつかの実施形態は、医薬において使用するための、好ましくは上述した様々なHer2関連癌腫瘍の診断又は治療において使用するための、上記に定義したHer2結合タンパク質を含む組成物に関する。上述のHer2結合タンパク質を含む組成物は、診断及び治療目的の両方の臨床応用のために用いられてよい。特に、本明細書に記載されるHer2結合タンパク質を含む組成物は、Her2を発現する病的細胞を画像化、監視、及び排除または不活性化するための臨床応用のために使用されてよい。
【0051】
様々な実施形態は、本明細書に定義されるHer2結合タンパク質並びに診断的に許容される担体及び/又は希釈剤を含む、Her2関連癌を診断するための診断的組成物に関する。これらには、例えば、安定剤、界面活性剤、塩類、緩衝剤、着色剤などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらの組成物は、液体製剤、凍結乾燥物、顆粒剤の形態、乳剤又はリポソーム製剤の形態であることができる。
【0052】
本明細書に記載されるHer2結合タンパク質を含む診断的組成物は、上述したようにHer2関連癌の診断のために用いられることができる。
【0053】
様々な実施形態は、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質並びに薬学的に(例えば治療的に)許容される担体及び/又は希釈剤を含む、疾患を治療するための医薬的(例えば治療的)組成物に関する。医薬(例えば治療的)組成物は、それ自体が公知であるさらなる補助剤及び賦形剤を任意で含んでよい。これらには、例えば安定剤、界面活性剤、塩類、緩衝剤、着色剤などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0054】
本明細書において定義されるHer2結合タンパク質を含む医薬組成物は、上述したように、疾患の治療のために用いられることができる。
【0055】
組成物は、有効量の本明細書において定義されるHer2結合タンパク質を含む。タンパク質の投与量は、生物、疾患のタイプ、患者の年齢及び体重、並びにそれ自体が公知である他の因子に依存する。ガレノス製剤に応じて、これらの組成物は、注射若しくは輸注により親として(parentally)、全身的に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、経皮的に、又は従来使用される他の適用方法によって、投与することができる。
【0056】
組成物は、液体製剤、凍結乾燥物、クリーム剤、局所適用向けのローション剤、噴霧剤の形態、散剤、顆粒剤の形態、乳濁剤又はリポソーム製剤の形態であることができる。製剤の種類は、疾患のタイプ、投与経路、疾患の重症度、患者、及び医学分野の当業者に公知である他の因子に依存する。
【0057】
組成物の様々な構成要素は、取扱説明書と共にキットとして容器に入れられてよい。
【0058】
Her2結合タンパク質の調製。本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、従来から使用され周知である多くの技術、例えば、単純な有機合成戦略、固相支援合成技術、断片連結技術のいずれかによって、又は市販の自動合成装置によって調製されてよい。他方で、これらはまた、従来の組換え技術のみによって、又は従来の合成技術と組み合わせた従来の組換え技術によって調製されてもよい。さらに、これらは、無細胞のインビトロ転写/翻訳によって調製されてもよい。
【0059】
様々な実施形態は、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する。1つの実施形態は、このポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び単離されたこのポリヌクレオチドまたはこの発現ベクターを含む宿主細胞もさらに提供する。
【0060】
様々な実施形態は、Her2結合タンパク質の発現を可能にする適した条件下で宿主細胞を培養すること、及び任意でこのHer2結合タンパク質を単離する段階を含む、本明細書において開示されるHer2結合タンパク質の作製のための方法に関する。
【0061】
例えば、Her2結合タンパク質をコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを適した宿主において発現させてよく、産生されたHer2結合タンパク質を単離することができる。宿主細胞は、この核酸分子又はベクターを含む。適した宿主細胞には原核生物又は真核生物が含まれる。ベクターとは、タンパク質のコード情報を宿主細胞中に移すために使用できる任意の分子又は実体(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ若しくはウイルス)を意味する。様々な細胞培養系、例えば、非限定的に哺乳動物、酵母、植物、又は昆虫もまた、組換えタンパク質を発現させるために使用できる。原核宿主細胞又は真核宿主細胞を培養するための適した条件は、当業者に周知である。タンパク質作製を目的とする細胞培養及びタンパク質発現は、当業者に周知の技術を適用して、容積の小さな振盪フラスコから始まって大型の発酵槽まで、任意の規模で実施することができる。
【0062】
1つの実施形態は、上で詳述した結合タンパク質を調製するための方法であって、この方法は以下のステップ:(a)本明細書において定義されるHer2結合タンパク質をコードする核酸を調製するステップ;(b)この核酸を発現ベクターに導入するステップ;(c)この発現ベクターを宿主細胞に導入するステップ;(d)この宿主細胞を培養するステップ;(e)この宿主細胞を、Her2結合タンパク質が発現される培養条件に供し、それによって本明細書において定義されるHer2結合タンパク質を産生させるステップ;(f)任意で、ステップ(e)で産生されたHer2結合タンパク質を単離するステップ、および(g)任意で、このHer2結合タンパク質を本明細書において定義される他の機能的部分と結合する段階を含む、方法を対象としている。
【0063】
概して、培養混合物からの精製されたHer2結合タンパク質の単離は、当技術分野において周知である従来の方法及び技術、例えば、遠心分離、沈殿、凝析、様々な態様のクロマトグラフィー、ろ過、透析、濃縮及び遠心分離、沈殿、凝析、様々な態様のクロマトグラフィー、ろ過、透析、濃縮の組合せなど適用して実施することができる。クロマトグラフィー方法は当技術分野において周知であり、限定されずに、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又はアフィニティクロマトグラフィーが含まれる。
【0064】
精製を簡易化するために、Her2結合タンパク質を、分離材料に対する親和性を高めた他のペプチド配列に融合することができる。好ましくは、このような融合物は、Her2結合タンパク質の機能性に不利益な影響を与えないか、又は特異的なプロテアーゼ切断部位の導入によって精製後に分離できるように選択される。このような方法もまた、当業者に公知である。
【実施例
【0065】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するために提供される。本発明は、Her2への結合をもたらす、ユビキチン二量体の最大14個の改変によって特に例証される。しかし、本発明はこれに限定されず、以下の実施例は、上記の記載に基づいて本発明の実現可能性を示すにすぎない。
【0066】
実施例1.Her2結合タンパク質
ユビキチン二量体の配列は、配列番号16に示される。
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIFAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLRLRAAMQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIWAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLRLRAA.
【0067】
Her2結合タンパク質を生成するための配列番号16に示されるアミノ酸配列中の13個の置換は、以下のとおりである。
I23T、R42T、I44A、A46V、H68W、V70Y、R72T、Q78R、L84H、E92D、K139E、E140W、及びT142I。
【0068】
生じるHer2結合タンパク質は、152個のアミノ酸から成るアミノ酸配列を有する(修飾したアミノ酸に下線を引き、配列番号16と比較して修飾されている)。
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTENVKAKIQDKEGIPPDQQGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLLRAAMIFVKTTGKTITLVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIWAGKQLEDGRTLSDYNIQEWLHLVLRLRAA(配列番号1).
【0069】
本明細書に記載されるHer2結合タンパク質は、配列番号15又は配列番号1と少なくとも97%の同一性を有する。
【0070】
任意で、追加の置換は、ユビキチン二量体の(配列番号16)のアミノ酸L73W又はR74Y又はK82T又はQ138S又はS141Aの少なくとも1つを含む。生じるHer2結合タンパク質は、配列番号16のユビキチン二量体と90.5%のアミノ酸配列同一性~92%のアミノ酸配列同一性を有してよい。以下に示すように、ユビキチン二量体とのアミノ酸同一性が高いほど、新規な結合タンパク質の安定性は高くなる。
【0071】
驚くほど安定性が高い新規なHer2結合タンパク質の例を、配列番号1~14に示す。
【0072】
実施例2.Her2結合タンパク質の発現及び精製
アフィリン(登録商標)分子を、当業者に公知の標準的な方法を用いて発現ベクターにクローニングし、以下に記載するように精製し、分析した。全てのアフィリンタンパク質を大腸菌(E.coli)で発現し、アフィニティークロマトグラフィー及びゲルろ過によって高純度に精製した。
【0073】
BL21(DE3)コンピテント細胞をそれぞれのアフィリンタンパク質をコードする発現プラスミドで形質転換した。細胞を選択寒天板(カナマイシン)に広げ、21℃で2日間又は37℃で一晩のいずれかでインキュベーションした。予備培養を、50μg/mlカナマイシンを補充した3ml 2xYT培地中の単一コロニーから播種し、14mL培養管中210rpmの従来のオービタルシェーカーで37℃、6時間培養した。主培養液については、350mL ZYM-5052培地に(Studier 2005を参照する)予備培養全体を播種し、2.5L Ultra Yield(商標)フラスコ中230rpmのオービタルシェーカーで30℃で培養した。培地には50μg/mlカナマイシン及び消泡剤SE15を補充した。組換えタンパク質の発現は、グルコース代謝を代謝し、続けてラクトースを細胞内に入れさせることにより誘導した。細胞を約18時間一晩増殖させて約10~20の最終OD600を実現した。収集前に、OD600を測定し、0.6/OD600に調整されたサンプルを取り出し、ペレット化し、そして-20℃で凍結した。生物由来資源を収集するために、細胞を20℃で20分間、12000xgで遠心分離した。ペレットを秤量し(湿重量)、処理前に-20℃で保存した。
【0074】
親和性タグを有するタンパク質を、アフィニティクロマトグラフィー及びサイズ排除により精製した。Strep-Tactin Superflow大容量カートリッジ(IBA Lifesciences)を用いるアフィニティクロマトグラフィー精製の後、AKTAシステム及びSuperdex(商標)75HiLoad16/600カラム(GE Healthcare)を用いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実行した。精製したリガンド全ての同種の化学種を取得した。SDS-PAGE解析後、ポジティブフラクションをプールし、ポジティブフラクションのタンパク質濃度を測定した。
【0075】
追加の解析には、SDS-PAGE、SE-HPLC及びRP-HPLCが含まれた。タンパク質濃度を、モル吸光係数を用いて280nmの吸光度を測定することにより決定した。Dionex HPLCシステム及びVydac 214MS54 C4(4.6x250mm,5μm,300A)カラム(GE Healthcare)を用いてRPクロマトグラフィー(RP HPLC)を実行した。
【0076】
Her2-mIgG-Fc-融合タンパク質の哺乳類発現。Expi293-F細胞を、37℃、8%CO2及び95%湿度で135rpmの振盪フラスコ中で、0.5~1Mio細胞/mlのExpi293-F発現培地(Fisher scientific,13489756)で培養した。遺伝子導入の1日前に、細胞を密度2.0Mio/細胞/mlで播種した。遺伝子導入の日に、細胞を密度2.5Mio/mlで播種した。培地容積mlあたり1μgのプラスミドー融合タンパク質(マウスIgG-Fcと融合したアフィリン-206479;配列番号18)のDNAを用いて、Opti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Life Technologies,31985-062)に希釈した。製造業者の情報に従ってExpiFectamine(商標)をOpti-MEM(登録商標)I Reduced Serum Mediumに希釈し、室温で5分間インキュベーションした。その後、DNA溶液をExpiFectamine混合物に加え、細胞に加える前に室温で20分間インキュベーションした。16時間後、細胞にエンハンサーを加えた。96~120時間後、上清を収集し、遠心分離し、0.45μmの膜を通してろ過した。
【0077】
実施例3 Her2結合タンパク質の溶解性解析
サンプルを90μlの抽出緩衝液(0.5x BugBuster、6mM MgSO、6mM MgCl、15U/mL Benzonaseを補充したPBS)に再懸濁し、室温、15分間、850rpm、その後-80℃、15分間thermomixer中で撹拌することにより可溶化した。解凍後、可溶性タンパク質を不溶性タンパク質から遠心分離により分離した(16000x g、2分間、室温)。上清を取り出し(可溶性フラクション)、ペレット(不溶性フラクション)を等量の尿素緩衝液(8M尿素、0.2M Tris,20mM EDTA,pH7.0)に再懸濁した。可溶性及び不溶性フラクションの両方から35μlを取り、10μl 5xサンプル緩衝液及び5μl 0.5MDTTを加えた。サンプルを95℃で5分間煮沸した。最後に、これらのサンプルの5μlをNuPage Novex 4-12%Bis-Tris SDSゲルにアプライし、このゲルを製造業者の推奨に従って実行し、クーマシーで染色した。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
実施例4.Her2結合タンパク質は、高温で安定である。
本発明の結合タンパク質の熱安定性を示差走査蛍光定量法(DSF)により測定した。濃度0.1μg/μLの各プローブをMicroAmp Optical384-ウェルプレートウェルプレートに移し、SYPRO橙色染料を適切に希釈して添加した。25~95℃の温度勾配を1℃/分の加熱速度でプログラムした(ViiA-7 Applied Biosystems)。励起波長520nm及び発光波長623nmで、蛍光を常に測定した(ViiA-7, Applied Biosystems)。結果:熱的アンフォールディングへの転移の中間点(Tm、融点)を、表2に選択された変異体について示す。本発明のHer2結合タンパク質は、64℃より高い同様の融点を有する。
【0080】
実施例5.Her2結合タンパク質の分析(表面プラズモン共鳴、SPR)
CM5センサーチップ(GE Healthcare)をSPRランニング緩衝液を用いて平衡化した。EDC及びNHSの混合物を通過させることにより、表面に露出したカルボキシル基を活性化して反応性エステル基を生じさせた。700~1500RUのHer2-Fc(リガンド結合)をフローセルに固定し、IgG-Fc(リガンドなし)を標的に対して1:3(hIgG-Fc:標的)の比率で別のフローセルに固定した。リガンド固定化後のエタノールアミンの注入を用いて、未反応のNHS基をブロックした。リガンドが結合すると、タンパク質分析物が表面に蓄積されて屈折率が大きくなった。この屈折率変化をリアルタイムに測定し、時間に対する応答又はレゾナンスユニット(RU)としてプロットした。分析物を、30μl/分の流速で段階希釈してチップに適用した。会合を30秒間、解離を60秒間行った。各実行の後、チップ表面を30μlの再生緩衝液を用いて再生し、ランニング緩衝液を用いて平衡化した。トラスツズマブの希釈系列はポジティブコントロールの役割をしたが、未修飾ユビキチンの希釈系列はネガティブコントロールである。コントロールサンプルを30μl/分の流速でマトリックスに適用したが、これらは60秒間で会合し、120秒間で解離した。再生及び再平衡を前述のように実行した。結合試験は、Biacore 3000(GE Healthcare)を用いて行い、データ評価は、ラングミュア1:1モデルを用いて(RI=0)、製造業者によって提供されるソフトウェアBIAevaluation 3.0によって処理した。Her2に対する結合の結果を表2に示す。評価された解離定数(KD)をオフターゲットに対して標準化し、示した。列「アミノ酸」とは、示された位置(例えば、73、74、82、138、141)の対応するアミノ酸を指す。位置73、74、82、138、141の配列番号1のアミノ酸は、L、R、K、Q、Sであり、ユビキチン(二量体)(配列番号16)と同一である。配列番号2~6においては、配列番号1の位置73、74、82、138、141から選択される1つの位置は、表2に下線によって示されるように、別のアミノ酸によって置換される。配列番号7~10においては、配列番号1の位置73、74、82、138、141から選択される2個の位置は、表2に下線によって示されるように、別のアミノ酸によって置換される。配列番号12~14においては、配列番号1の位置73、74、82、138、141から選択される3個の位置は、表2に下線によって示されるように、別のアミノ酸によって置換される。
【0081】
【0082】
実施例6.Her2結合タンパク質の血清安定性(細胞結合アッセイ)
アフィリン206478、アフィリン206479、アフィリン206494、アフィリン206486、アフィリン206495、アフィリン206499、アフィリン206497(配列番号1、2、4、5、10、13、14)の100%マウス血清中1μM~6pMの希釈系列を37℃で24時間インキュベーションした。Her2発現SK-BR-3細胞をトリプシン処理し(trypsinyzed)、FACSブロッキング緩衝液(PBS、0.1%酸ナトリウムSodiumAcite,3%FCS)で洗浄し、密度0.1Mio細胞/100μlで96ウェル丸底プレートに播種した。アフィリンタンパク質の希釈系列を血清存在下24時間及び0時間(コントロール)後、SK-BR-3細胞と共にインキュベーションした。45分後、上清を除去し、FACSブロッキング緩衝液で1:300に希釈した、100μl/ウェルウサギ抗Strep-タグ抗体(GenScriptから入手した;A00626)を添加した。一次抗体を除去した後、ヤギ抗ウサギIgG Alexa Fluor 488抗体(Invitrogenから入手した;A11008)を希釈率1:1000で添加した。Merck-MilliporeのGuava easyCyte 5HT装置を用いて、励起波長488nmおよび発光波長525/30nmでフローサイトメトリーを行った。結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
実施例7.Her2結合タンパク質の血清安定性(ELISA)
高結合能プレート(Greiner、781061)を1.2μg/mlヒト組換えErbB2/Her2 Fcキメラ(R&DSystems;Cat.-Nr.:1129-ER-050)によって4℃で一晩固定した。50nM~1.5pMのアフィリン206479、アフィリン206494、アフィリン206486、アフィリン206495、アフィリン206499、アフィリン206497(配列番号2、4、5、10、13、14)及び37nM~1.8pMのアフィリン206478(配列番号1)の希釈系列を37℃で24時間、100%マウス血清中でインキュベーションした。ELISAプレートをPBST(PBS+0.1% Tween)で3回洗浄し、室温で2時間、3%BSA/0.5%Tween/PBSによってブロックした。血清存在下での0時間及び24時間のインキュベーション後の希釈系列を、室温で1時間、ELISAプレート上でインキュベーションした。PBSTで洗浄後、室温で1時間、ビオチン標識抗ユビキチン抗体(1:1000)と共にウェルをインキュベーションした。ストレプトアビジン-HRP(1:5,000)を用いて結合を可視化した。Her2結合タンパク質は、24時間の血清中インキュベーション後でもKの変化を示さない(表3及び図2~8)。例えば、ELISA分析により、アフィリン206479の血清中での安定性が確認された。アフィリン206479(配列番号2)のHer2-Fcへの結合は、マウス血清中での24時間インキュベーションでさえも、K0.19nM+/-0.01nMであり、マウス血清中での0時間インキュベーションでのK0.22+/-0.01nMに匹敵する(図2)。他のHer2結合タンパク質についても同様の結果が得られた(図3~8)。
【0085】
実施例8.Her2-mIgGFc-Fusion(209438)の細胞結合及び血清安定性
融合タンパク質209438(IgG-Fcと融合したアフィリン-206479)の血清安定性を、マウス血清中でELISAにより分析した(実施例7を参照)。0時間血清インキュベーションのKDは0.125nMで、24時間血清インキュベーションのKDは、0.167nMであり(図9A)、融合タンパク質の安定性は、IgG-Fcと融合していないアフィリン206479に匹敵する。
【0086】
DOTA-Feに結合した融合タンパク質209438のマウス血清中での安定性をSK-BR-3細胞上で分析した。Dota-Fe-結合融合タンパク質209438の1μM~0.07nMの希釈系列を、37℃で24時間、100%マウス血清と共にインキュベーションした。トリプシン処理したSK-BR-3細胞を洗浄し、ブロッキング緩衝液(上の実施例を参照)でブロックし、24時間血清インキュベーション後及びコントロールとして0時間血清インキュベーション時の融合タンパク質の希釈系列と共にインキュベーションした。融合タンパク質の結合は、StrepTactin-DY488(IBA;Cat.-Nr.:2-1562-050)でのフローサイトメトリーにより分析した。
【0087】
コントロールのKDは4.8nMであり、24時間血清インキュベーション後のものは、6.0nMだった(図9)。
【0088】
両融合タンパク質は、24時間血清中で安定だった。マウス血清中24時間の209438-Dota-Feの血清安定性も、ELISAによって確認した(データ示さず)。
【0089】
実施例9.mIgG-Fcと融合したアフィリン206479(配列番号2)でのインビボ試験
インビボ試験用の融合タンパク質の調製及び分析
融合タンパク質を2段階精製により精製した。HiTrap Protein A HP columns(緩衝液:20mM NaH2PO4 pH7.0、100mM クエン酸pH4.0での段階溶離)でのアフィニティクロマトグラフィーを用いた後、Superdex 200pg 26/600カラムでのSECを実行した(緩衝液:20mM クエン酸,150mM NaCl,1mM EDTA)。
【0090】
精製したタンパク質を、室温で1時間、還元剤としての150μM TCEPと共にインキュベーションし、その後、HiTrap Desalting カラム(GE Healthcare/Cytiva)を用いてカップリング緩衝液(50mM HEPES,150mM NaCl,5mM EDTA pH7.0)中で脱塩した。室温で3時間、20倍モル濃度過剰のマレイミド-DOTA(CheMatec)で標識した後、サンプルを陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(Resource Q,GE Healthcare/Cytiva)に添加した。したがって、添加液として20mM Bis-Tris pH7.0を用いた。勾配溶出を0%から30%緩衝液B(20mM Bis-Tris,1M NaCl pH7.0)まで30CVにわたって実行した。最終精製ステップを、Superdex 200pg 26/600カラム(GE Healthcare/Cytiva,緩衝液:100mM 酢酸ナトリウムpH5.8)を用いて実行した。
【0091】
全てのカラムクロマトグラフィー処理ステップは、エンドトキシン負荷を軽減するための1M NaOHで、及び金属イオン混入を低減するための100mM EDTAで予めインキュベーションしたAKTA avantシステム(GE Healthcare/Cytiva)で実行した。可能な場合、全てのステップでエンドトキシン量が少ない塩及び物質を用いた。
【0092】
DOTA結合した及び精製したタンパク質の同種の化学種を取得し、凝集は検出されなかった。SDS-PAGE解析の後、ポジティブフラクションをプールし、ポジティブフラクションのタンパク質濃度を測定した。追加の解析には、SE-HPLC及びRP-HPLCが含まれた。タンパク質濃度を、モル吸収係数を用いて280nmの吸光度を測定することにより決定した。逆相カラムクロマトグラフィー(RP-HPLC)を、Dionex HPLCシステム及びPLRP-S(5μm,300A)カラム(Agilent)を用いて実行した。分析サイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)を、Dionex HPLCシステム及びSuperdex200 increase5/150GL(GE Healthcare)を用いて実行した。
【0093】
熱転移点を、LightCycler 480(Roche)を用いる示差走査蛍光定量法により決定した。エンドトキシン濃度を、製造業者のマニュアルに従ってEndosafe nexgen-PTS(Charles River)を用いて測定した。
【0094】
結合分析を、それぞれCM5センサーチップを用いるBiacore 3000 SPR(GE Healthcare)及びHigh Capacity Amineセンサーチップを用いるSPR-32(Bruker)を用いて実行した。Her2-His及び組換えタンパク質Aを、センサーチップの面に固定し、SPRランニング緩衝液(SPR runny buffer)(PBST 0.05%)で平衡化した。結合すると、タンパク質分析物は面に蓄積され、屈折率が大きくなる。この屈折率の変化をリアルタイムに測定し、時間に対する応答又はレゾナンスユニット(RU)としてプロットした。分析物を、30μl/分の流速で段階希釈してチップに適用した。会合を120秒間、解離を120~180秒間行った。各実行の後、チップ表面を30μlの再生緩衝液(10mM グリシンpH2.0)を用いて再生し、ランニング緩衝液を用いて平衡化した。結果を表4に示す。
【0095】
【0096】
DOTA化合物のLu-177による放射標識
DOTA化合物を、比放射能約1MBq/nmolである一方、95%以上の放射化学純度(RCP)を示す177LuClで標識した。標識手順は、以下の通りである。約20nmolのDOTA化合物を約20MBqの177LuCl溶液と混合した。反応混合物を50℃で15分間インキュベーションし、その後放射標識したコンジュゲートに最終濃度1mM DTPAを曝露した。キレート化効率を0.1M pH5クエン酸緩衝液で溶出するiTLCにより決定した。各放射標識した溶液(約16~18MBq)の一部を対応する非標識のDOTAタンパク質に添加して追加のステップに要求される比放射能約0.50MBq/nmol及び濃度約20nmol/mLを得た。
【0097】
mIgG-Fcとの融合によるHER2結合タンパク質の半減期の延長(インビボ試験―薬物動態及び組織分布)
150~300mmのSK-OV-3異種移植腫瘍を有する麻酔マウスに放射能50MBq/kgの100nmol/kg試験物を含有する5ml/kgの溶液を注射した。組織分布を、30分、6時間、24時間、72時間、及び168時間で実行した。動物をケタミン及びキシラジンの混合物の腹腔内(IP)過剰投与により安楽死させ、その後心腔穿刺により大量失血させた。腫瘍、腎臓及び肝臓を予め秤量したチューブに回収し、ガンマカウンターでカウントした。図10は、7日間にわたる腫瘍組織のグラムあたりの注射されたアフィリン206479の取り込みパーセントを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023533531000001.app
【国際調査報告】