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特表2023-533655MWCNTを製造するための改善された触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-04
(54)【発明の名称】MWCNTを製造するための改善された触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/847 20060101AFI20230728BHJP
   B01J 23/887 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20230728BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20230728BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20230728BHJP
【FI】
B01J23/847 M
B01J23/887 M
B01J37/08
B01J37/00 F
C01B32/162
C01B32/158
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022573674
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2021064253
(87)【国際公開番号】W WO2021239903
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20177383.5
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522464492
【氏名又は名称】ナノシル・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン-ユエ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・ウール
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・ジョリス
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB01
4G146AC17A
4G146AD24
4G146BA12
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC26
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC42
4G146BC44
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA21C
4G169BB01C
4G169BB12C
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BD01C
4G169BD06C
4G169BE08C
4G169CB81
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EC25
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB57
4G169FB63
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
本発明は、炭化水素のカーボンナノチューブへの選択的変換のための鉄を含まない担持触媒であって、前記触媒が、水酸化酸化アルミニウムを含む触媒担体上に、任意の酸化状態で活性触媒金属としてコバルト及びバナジウムを含み、-バナジウムに対するコバルトの質量比が2~15、-アルミニウムに対するコバルトの質量比が5.8 10-2~5.8 10-1及び-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2である触媒に関する。本発明は、さらに前記鉄を含まない担持触媒を製造する方法及び前記鉄を含まない担持触媒を使用したカーボンナノチューブを製造する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素のカーボンナノチューブへの選択的変換のための鉄を含まない担持触媒であって、
前記触媒が水酸化酸化アルミニウムを含む触媒担体上に、任意の酸化状態で活性触媒金属としてコバルト及びバナジウムを含み、
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、2~15、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、5.8 10-2~5.8 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2である、
触媒。
【請求項2】
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、3.0~11、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、1.2 10-1~4.3 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、1.2 10-2~5.8 10-2である、
請求項1に記載の鉄を含まない担持触媒。
【請求項3】
追加の活性触媒として、モリブデンを含み、
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.2 10-3~2.3 10-2、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、2~15である、
請求項1又は2に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項4】
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.7 10-3~1.7 10-2
-水酸化酸化アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、7.8 10-4~7.8 10-3、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、3~11である、
請求項3に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項5】
10°~80°の2θ角度で記録されたXRDパターンで、35°~38°の2θ角度で、最大回折ピークを有し、
-17°~22°の2θ角度での最大回折ピークの強度及び回折ピークの強度をそれぞれ「a」及び「b」と定義した場合、比b/aが0.10~0.7の範囲であり、及び、
-63°~67°の2θ角度での回折ピークの強度を「c」と定義した場合、比c/aが0.51~0.7の範囲である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項6】
触媒担体が、水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウムの合計に基づいて、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄を含まない担持触媒を製造する方法であって、以下の工程:
-1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はポリカルボン酸の塩を含む水性溶液を、1つ又は複数のバナジウムベースの前駆体及び任意選択的に1つ又は複数のモリブデンベースの前駆体と接触させる工程、
-1つ又は複数のコバルトベースの前駆体を、前記バナジウムベースの前駆体及び任意選択的な追加の前記モリブデンベースの前駆体を含む水性溶液と接触させて、触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-3~18m2/gの間に含まれるBETを有する水酸化アルミニウムを、前記触媒前駆体を含む前記水ベースの混合物と接触させて、水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の前記水ベースの混合物を乾燥させて、乾燥混合物を形成させる工程、
-少なくとも200℃の温度で前記乾燥混合物を焼成させて、焼成品を形成させる工程、
-前記焼成品を粉末に粉砕する工程
を含む、方法。
【請求項8】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、少なくとも100℃の所定の温度で、少なくとも1時間、少なくとも0.1m3/hの空気流で乾燥される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、100~150℃の間に含まれる所定の温度で、1時間~10時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気流で乾燥される、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、噴霧乾燥によって乾燥される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥混合物が、200~600℃の間に含まれる温度で、1~24時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気で焼成される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記焼成品が、450μm未満の体積メジアン粒子径(D50)を有する粉末に粉砕される、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水酸化アルミニウムが、5~16 m2/gの間に含まれる比表面積(BET)によって特徴づけられる、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記水酸化アルミニウムが、ギブサイト又はバイヤライトから選択される、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記コバルトベースの前駆体、前記バナジウムベースの前駆体、前記モリブデンベースの前駆体及び担体前駆体が、少なくとも95%の純度を有する、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記コバルトベースの前駆体が、酢酸コバルト(II)四水和物及び/又は硝酸コバルト(II)四水和物であり、
前記バナジウムベースの前駆体が、メタバナジン酸アンモニウムであり、及び、
前記モリブデンベースの前駆体が、へプタモリブデン酸アンモニウム四水和物である、
請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリカルボン酸が、クエン酸及びリンゴ酸の混合物であり、リンゴ酸/クエン酸のモル比が、0.5~5である、請求項7~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項7~17のいずれか一項に記載の方法によって得られた、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄を含まない担持触媒からの多層カーボンナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
-前記触媒を反応器に充填する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度まで、前記触媒を加熱する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度を保持しながら、前記反応器に炭素源を供給する工程、
-前記触媒を前記炭素源に、少なくとも1分間、接触させる工程、
を含む方法。
【請求項19】
触媒及び炭素源の空間時間(space time)が、0.1~0.8g.h/モルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炭素源が、メタン、エチレン、アセチレン、メタノール、エタノール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
0.1~13質量%、好ましくは1~10質量%の請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒を含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法によって得られる、多層カーボンナノチューブ。
【請求項22】
請求項21に記載の多層カーボンナノチューブを含む、ポリマーマトリックス。
【請求項23】
請求項21に記載の多層カーボンナノチューブの電池での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素のカーボンナノチューブへの変換のための担持触媒系、特に、改善された選択性及び収率での多層カーボンナノチューブの製造方法のための鉄を含まない担持触媒系に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ構造(CNSs)は、ナノチューブ、ナノヘア、フラーレン、ナノコーン、ナノホーン及びナノロッド等の様々な形状を有するウナノサイズの炭素構造の総称である。カーボンナノ構造は、それらが非常に優れた特性を有するために、様々な技術用途で幅広く使用されている。
【0003】
カーボンナノチューブ(CNTs)は、六角形に配列した炭素原子からなる筒状の材料であり、おおよそ1~100nmの直径を有する。カーボンナノチューブは、それらの固有のキラリティに応じて、絶縁特性、導電特性又は半導電特性を示す。カーボンナノチューブは、炭素原子が互いに強く共有結合した構造を有する。この構造により、カーボンナノチューブは、鋼のそれのおおよそ100倍の引張強度を有し、高い柔軟性及び弾性であり並びに化学的に安定である。
【0004】
カーボンナノチューブは3つのタイプ、1枚のシートからなり及び約1nmの直径を有する単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、2枚のシートからなり及び約1.4~約3nmの直径を有する二層カーボンナノチューブ(DWCNTs)並びに3枚以上のシートからなり及び約5~約100nmの直径を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)に分類される。
【0005】
カーボンナノチューブは、それらの高い化学的安定性、柔軟性及び弾性により、たとえば、航空宇宙、燃料電池、複合材料、生命工学、医薬品、電気/電子及び半導体産業といった様々な産業分野での商用化及び適用が検討されている。
【0006】
カーボンナノチューブは、一般的に、アーク放電、レーザー切断及び化学蒸着等の様々な手法によって製造される。しかしながら、アーク放電及びレーザー切断は、カーボンナノチューブの大量製造に対して適切ではなく、高いアーク製造コスト又は高価なレーザー装置を必要とする。金属触媒上での炭化水素の触媒化学蒸着(CCVD)は、その他の方法に関して、より高い収率及び質を提供して、かつ、工業スケールで製造工程を簡素化する。
【0007】
CCVD技術について実施された大半の研究は、現在、カーボンナノチューブのタイプ(単層、二層又は多層)、直径、長さ及び純度を制御するための新しい触媒並びに新しい反応条件の開発に集中している。カーボンナノチューブの構造、物理的特性及び化学的特性は、それらの導電容量、機械的強度並びに熱的、光学的及び磁気的特性に関連する。
【0008】
国際公開第2003/004410号は、単層及び多層カーボンナノチューブの製造のための多種多様金属酸化物系(Co、Fe、Ni、V、Mo及びCu等)及び触媒担体(Al(OH)3、Ca(OH)2、Mg(OH)2、Ti(OH)4、Ce(OH)4及びLa(OH)3等)を開示する。当該文献では、様々な金属及び金属の混合物が、それらの選択性特性、すなわち、単層、二層又は多層カーボンナノチューブを、反応中に同時に形成されるアモルファス炭素又は繊維の特定の割合に関して、選択的に製造する触媒の能力について試験されている。
【0009】
欧州特許公開第2883609号は、含浸された担持触媒及び含浸された担持触媒を含むカーボンナノチューブ凝集体であって、前記含浸された担持触媒は、多価カルボン酸並びに第一(Co)及び第二(Fe、Ni)触媒成分の前駆体を、第一(Mo)及び第二(V)活性成分の前駆体に連続的に加えて、透明な水性金属溶液を得て、アルミニウムベースの粒状担体を透明な水性金属溶液を用いて含浸させて、続く乾燥及び焼成によって調製され、担持触媒は0.8~1.5g/cm3のバルク密度を有することを開示する。
【0010】
米国特許第9956546号は、カーボンナノチューブを製造するための触媒であって、担体及び担体上に担持された黒鉛化金属触媒を含み、黒鉛化金属触媒は、主触媒及び補助触媒を含む多成分金属触媒であって、主触媒がCo、Fe及びそれらの混合物から選択され、かつ、補助触媒がVであり、触媒は、250℃~500℃の第一焼成温度で水酸化アルミニウムを焼成させて担体を形成させ、担体上に触媒金属前駆体を担持させて、450℃~800℃の第二焼成温度で担体上に担持された触媒金属前駆体を焼成することによって得られた担持触媒であることを開示する。
【0011】
欧州特許公開第3053877号は、カーボンナノチューブを製造する方法であって、1m2/g以下のBET比表面積を有する担体前駆体を、100~450℃の温度で第一焼成させて担体を形成させる工程、担体上に黒鉛化金属触媒を担持させる工程、担体上に担持された触媒を、100~500℃の温度で第二焼成させて担持触媒を調製する工程及び担持触媒をガス相で炭素源と接触させてカーボンナノチューブを形成させる工程を含み、担体前駆体が三水酸化アルミニウムであり、かつ、黒鉛化金属触媒が、Co/Mo、Co/V、Fe/Mo及びFe/Vから選択される二元金属触媒であることを開示する。
【0012】
米国特許公開2008213160号は、多層カーボンナノチューブの製造を目的とした担持触媒を合成する方法であって、以下の工程:約80μm未満の粒子サイズを有するAl(OH)3粉末を、鉄及びコバルト塩の水性溶液と混合する工程、全体でペーストを形成する工程、約5質量%未満の水分濃度の粉末が得られるまで、前記ペーストを乾燥させる工程、約63μm未満の前記担持触媒の粒径分画を選択する工程及び約63μm未満の粒子サイズを有する担持触媒を使用してナノチューブを製造する工程を含むことを開示する。
【0013】
韓国特許第101781252号は、カーボンナノチューブ凝集体を製造する方法であって、層状金属水酸化物及び非層状金属水酸化物を含む担体前駆体を熱処理して多孔質担体を形成させる工程、触媒金属又は触媒金属前駆体を担体上に担持させて担持触媒を形成させる工程及び加熱領域下で、担持触媒及び炭素含有化合物を互いに接触させて束及びもつれたカーボンナノチューブ凝集体を形成させる、カーボンナノチューブ凝集体を形成させる工程を含むことを開示する。触媒金属は、鉄、コバルト及びニッケルから選択される元素、チタン、バナジウム及びクロムから選択される元素、並びにモリブデン(Mo)及びタングステン(W)から選択される元素を組み合わせる。
【0014】
欧州特許公開第3156125号は、カーボンナノチューブ凝集体を製造する方法であって、
-担体を、黒鉛化金属触媒前駆体の水性溶液と混合してペーストを形成させる工程
-ペーストを乾燥させて水を除去し、続く焼成によって担持触媒を得る工程、及び、
-加熱下で、担持触媒を炭素含有化合物と接触させて、互いに反応させる工程、
を含み、
-カーボンナノチューブのバルク密度を制御するために、ペーストからの水の除去率が5~30質量%に調整されることを開示する。
黒鉛化触媒は、鉄(Fe)のみを含む触媒又はコバルト(Co)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)から選択される1つ又は複数の金属を含む、二元若しくは多成分触媒である。
【0015】
欧州特許公開第3053880号は、カーボンナノチューブ凝集体を製造する方法であって、100℃~500℃の第一焼成温度で水酸化アルミニウムを焼成して担体を形成させる工程、担体上に触媒金属前駆体を担持させる工程、100℃~800℃の第二焼成温度で触媒含有担体を焼成して担持触媒を得る工程及び加熱下で、担持触媒を炭素含有化合物と接触させて互いに反応させる工程を含み、カーボンナノチューブ凝集体が10kg/m3以上のバルク密度を有するように、第一焼成温度、第二焼成温度、担持触媒の量又は反応時間が、制御されることを開示する。触媒金属は、Fe、Co、Mo、V又はそれらの2以上の組み合わせを含む。黒鉛化金属触媒は、主触媒及び補助触媒からなる複合触媒であってもよい。この場合、主触媒には鉄(Fe)又はコバルト(Co)が含まれ得、補助触媒はモリブデン(Mo)、バナジウム(V)又はそれらの組み合わせであり得る。担持触媒を調製するために、触媒金属に対して5:1~30:1のモル比で、有機酸が加えられる。
【0016】
カーボンナノチューブは、リチウム電池の潜在的な電極材料として注目されている。
【0017】
典型的なリチウムイオン電池は、炭素アノード(負極)及び微多孔質ポリマーセパレーターの反対側に配置されたリチウム化遷移金属酸化物カソード(正極)を利用する。
【0018】
リチウムイオン電池は、全てのリチウムがカソードにある状態から始まり、充電されると、このリチウムの一部がアノードに移動して、炭素アノード内に取り込まれる。
【0019】
リチウムイオン電池の故障は、電池内でのデンドライトの形成の結果である。デンドライトは、電池内に形成され得る微細な金属沈着物である。デンドライトの形成は一般的にアノードで始まり、セパレーターを通り抜けカソードに伸びる場合には内部短絡を形成する。
【0020】
任意の電極からの鉄不純物が電解液に溶解した場合、これらの不純物がアノード側に移動して、沈着によってデンドライトの成長が開始するという重大なリスクがある。このため、電極材料として、鉄を含まない材料が要求されている。
【0021】
電極材料としてMWCNT’sを使用した場合、これらのデンドライトによって引き起こされる電池故障のリスクが生じる。
【0022】
結果的に、鉄ベースの黒鉛化触媒を含む触媒系を使用する方法によって得られる格子状(interstitial)の鉄成分を含むMWCNT’sを避けるべきである。
【0023】
したがって、改善された選択性及び生産性を有する、鉄を含まない金属触媒上での炭化水素のCCVD-プロセスによって製造される、MWCNTに対する需要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】国際公開第2003/004410号
【特許文献2】欧州特許公開第2883609号
【特許文献3】米国特許第9956546号
【特許文献4】欧州特許公開第3053877号
【特許文献5】米国特許公開2008213160号
【特許文献6】韓国特許第101781252号
【特許文献7】欧州特許公開第3156125号
【特許文献8】欧州特許公開第3053880号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、MWCNTの製造のための鉄を含まない触媒及びその調製方法並びにこれらのカーボンナノチューブを電池に使用することを開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、炭化水素のカーボンナノチューブへの選択的変換のための鉄を含まない担持触媒であって、前記触媒が水酸化酸化アルミニウムを含む触媒担体上に、任意の酸化状態で活性触媒金属としてコバルト及びバナジウムを含み、
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、2~15、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、5.8 10-2~5.8 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2である、
触媒を開示する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態は、1つ又は複数の以下の特徴:
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、3.0~11、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、1.2 10-1~4.3 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、1.2 10-2~5.8 10-2であり、
-本発明の鉄を含まない触媒が、活性触媒として、さらにモリブデンを含み、
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.2 10-3~2.3 10-2、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、2~15であり、
-本発明の触媒を含む鉄を含まないモリブデンであって、
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.7 10-3~1.7 10-2、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、3~11であり、
-本発明の触媒担体が、水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウムの合計に基づいて、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含み、
-鉄を含まない触媒が、10°~80°の2θ角度で記録されたXRDパターンで、35°~38°の2θ角度で、最大回折ピークを有し、
-17°~22°の2θ角度での最大回折ピークの強度及び回折ピークの強度をそれぞれ「a」及び「b」と定義した場合、比b/aが0.10~0.7の範囲であり、及び、
-63°~67°の2θ角度での回折ピークの強度を「c」と定義した場合、比c/aが0.51~0.7の範囲である、
ことを開示する。
【0028】
本発明は、鉄を含まない担持触媒を製造する方法であって、以下の工程:
-1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はポリカルボン酸の塩を含む水性溶液を、1つ又は複数のバナジウムベースの前駆体及び任意選択的に1つ又は複数のモリブデンベースの前駆体と接触させる工程、
-1つ又は複数のコバルトベースの前駆体を、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的な追加のモリブデンベースの前駆体を含む水性溶液と接触させて、触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-3~18m2/gの間に含まれるBETを有する水酸化アルミニウムを、触媒前駆体を含む水ベースの混合物と接触させて、水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物を乾燥させて、乾燥混合物を形成させる工程、
-少なくとも200℃の温度で乾燥混合物を焼成させて、焼成品を形成させる工程、
-焼成品を粉末に粉砕する工程、
を含む方法を開示する。
【0029】
本発明の鉄を含まない担持触媒を製造する方法の好ましい実施例は、1つ又は複数の以下の特徴:
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物が、少なくとも100℃の所定の温度で、少なくとも1時間、少なくとも0.1m3/hの空気流で乾燥され、
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物が、100~150℃の間に含まれる所定の温度で、1時間~10時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気流で乾燥され、
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物が、噴霧乾燥によって乾燥され、
-乾燥混合物が、200~600℃の間に含まれる温度で、1~24時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気流で焼成され、
-焼成品が、450μm未満の体積メジアン粒子径(D50)を有する粉末に粉砕され、
-水酸化アルミニウムが、5~16 m2/gの間に含まれる比表面積(BET)によって特徴づけられ、
-水酸化アルミニウムが、ギブサイト又はバイヤライトから選択され、
-コバルトベースの前駆体、バナジウムベースの前駆体、モリブデンベースの前駆体及び担体前駆体が、少なくとも95%の純度を有し、
-コバルトベースの前駆体が、酢酸コバルト(II)四水和物及び/又は硝酸コバルト(II)四水和物であり、バナジウムベースの前駆体が、メタバナジン酸アンモニウムであり及びモリブデンベースの前駆体が、へプタモリブデン酸アンモニウム四水和物であり、
-ポリカルボン酸が、クエン酸及びリンゴ酸の混合物であり、リンゴ酸/クエン酸のモル比が、0.5~5である、
ことを開示する。
【0030】
本発明は、鉄を含まない担持触媒からの多層カーボンナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
-触媒を反応器に充填する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度まで、触媒を加熱する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度を保持しながら、反応器に炭素源を供給する工程、
-触媒を炭素源に、少なくとも1分間、接触させる工程、
を含む方法をさらに開示する。
【0031】
本発明の多層カーボンナノチューブを製造する方法の好ましい実施形態は、1つ又は複数の以下の特徴:
-触媒及び炭素源の空間時間(space time)が、0.1~0.8g.h/モルであり、
-炭素源が、メタン、エチレン、アセチレン、メタノール、エタノール及びそれらの混合物からなる群から選択される、
ことを開示する。
【0032】
本発明は、0.1~13質量%、好ましくは1~10質量%の鉄を含まない担持触媒を含み、前記鉄を含まない担持触媒が、本発明の鉄を含まない担持触媒を調製する方法によって得られる、本発明の多層カーボンナノチューブを製造する方法によって得られる多層カーボンナノチューブをさらに開示する。
【0033】
本発明は、本発明の方法によって得られる、前記多層カーボンナノチューブを含むポリマーマトリックスをさらに開示する。
【0034】
本発明は、本発明の方法によって得られる、前記多層カーボンナノチューブの電池での使用をさらに開示する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、特定の特性を有する多層ナノチューブの製造における上昇した選択性を生じさせる鉄を含まない担持触媒を開示し、前記改善された多層選択性が、触媒消費を低減させる一方で、高い収率で得られる。本発明は、前記担持触媒を得るための経済的に魅力的な方法も開示する。
【0036】
鉄を含まない触媒とは、本発明において、不可避な微量を除き、鉄の含有量を可能な限り低減させることを意味する。それにもかかわらず、全体の遷移金属含有量内の鉄の含有量は、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、より好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。
【0037】
本発明の第一の実施形態では、担持触媒は、第一にコバルトベースの触媒成分及び第二にバナジウムベースの触媒成分を含む、鉄を含まない二成分触媒であり、好ましくは両方が酸化物の形態であり、酸化アルミニウム(Al2O3)及び/又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)並びに水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))(以降、「担体要素」と呼ぶ)を含む担体上に担持されている。
【0038】
本発明の第二の実施形態では、担持触媒は、第一にコバルトベースの触媒成分、第二にバナジウムベースの触媒成分及びモリブデンベースの触媒成分を含む、鉄を含まない三成分黒鉛化触媒であり、好ましくは全てが酸化物の形態であり、酸化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウム(以降、「担体要素」と呼ぶ)を含む担体上に担持されている。
【0039】
好ましくは、担体前駆体が、水酸化アルミニウム、より好ましくはギブサイト又はバイヤライトである。
【0040】
好ましくは、担体前駆体が、70μm未満の体積メジアン粒子径(D50)及び20m2/g未満の比表面積によって特徴づけられる。
【0041】
好ましくは、担体前駆体が、3~18m2/g、好ましくは、5~16m2/gの比表面積によって特徴づけられる、ギブサイトである。
【0042】
好ましくは、黒鉛化触媒のコバルトベースの触媒前駆体が、コバルトベースの前駆体から得られ、前記前駆体が、Co(NO3)2・6H2O、Co2(CO)8及びCo(OAc)24H2O等のコバルト塩、コバルト酸化物又はコバルト化合物である。
【0043】
好ましくは、黒鉛化触媒のバナジウムベースの触媒前駆体が、バナジウムベースの前駆体から得られ、前記前駆体がNH4VO3等のバナジウム塩、バナジウム酸化物又はバナジウム化合物である。
【0044】
好ましくは、黒鉛化触媒のモリブデンベースの触媒前駆体が、モリブデンベースの前駆体から得られ、前記前駆体が、(NH4)6Mo7O24・4H2O、Mo(CO)6又は(NH4)2MoS4等のモリブデン塩、モリブデン酸化物又はモリブデン化合物である。
【0045】
本発明は、前記担持触媒を製造する方法であって、以下の工程:
-加える工程:
-第一の実施形態の方法では、特定の量の1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はそれらのポリカルボン酸の塩を含む特定の量の水を、特定の量の1つ又は複数のバナジウムベースの前駆体に加えて、透明な溶液が得られるまで混合する工程、
-第二の実施形態の方法では、特定の量の1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はそれらのポリカルボン酸の塩を含む特定の量の水を、特定の量の1つ又は複数のバナジウムベースの前駆体及び特定の量の1つ又は複数のモリブデンベースの前駆体に加えて、透明な溶液が得られるまで混合する工程、
-1つ又は複数のコバルトベースの前駆体を、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的なモリブデンベースの前駆体を含む水性溶液と接触させる工程であり、前記1つ又は複数のコバルトベースの前駆体を、粉末、湿性粉末若しくは水性溶液の形態で、又は粉末及び水性溶液に含まれる水分含有量を有する任意の形態で加える工程、
-担体前駆体を加え、少なくとも1分間、混合する工程、
-適切な手段によって、好ましくは、少なくとも100℃の固定の所定の温度で、少なくとも1時間、少なくとも0.1m3/hの空気流で、混合物を乾燥させる工程、
-適切な手段によって、好ましくは、少なくとも200℃の固定の所定の温度で、少なくとも1時間、少なくとも0.1m3/hの空気流で、混合物を焼成させる工程、
-焼成品を、450μm未満の体積メジアン粒子径(D50)に粉砕する工程、
を含む、方法も開示する。
【0046】
本発明の方法で使用するポリカルボン酸は、このましくは、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸及びそれらの混合物からなる群から選択される。これらの多価カルボン酸の例には、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クエン酸、2‐ブテン‐1,2,3‐トリカルボン酸及び1,2,3,4‐ブタンテトラカルボン酸が含まれる。
【0047】
ポリカルボン酸の塩とは、本発明において、少なくとも1つのカルボン酸基がアンモニウム塩又はアルカリ金属塩に変換されているポリカルボン酸を意味する。
【0048】
このましくは、ポリカルボン酸はクエン酸又はリンゴ酸であり、このましくは、ポリカルボン酸の塩は、アンモニウム塩である。
【0049】
このましくは、1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はそれらの塩が、得られる水性溶液が0.5~25%、より好ましくは4~15%のポリカルボン酸及び/又は塩を含むように加えられる。
【0050】
このましくは、本発明の方法で使用されるポリカルボン酸は、クエン酸及びリンゴ酸の混合物であり、リンゴ酸/クエン酸のモル比が0.5~5、好ましくは1.5~2.5である。
【0051】
第一の実施形態の方法では、1000gの担体前駆体を、300~3000gの水中に5~70gのバナジウムベースの前駆体を含む水性溶液及び粉末として又は3000gまでの水を含む水性混合物としての80~850gのコバルトベースの前駆体の混合によって得られた水性混合物に加える。
【0052】
第二の実施形態の方法では、1000gの担体前駆体を、300~3000gの水中に5~70gのバナジウムベースの前駆体及び1~15gのモリブデン前駆体を含む水性溶液及び粉末として又は3000gまでの水を含む水性混合物としての80~850gのコバルトベースの前駆体の混合によって得られた水性混合物に加える。
【0053】
本発明による方法では、
-20~90℃の間に、好ましくは50~70℃の間に含まれる温度で、1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はポリカルボン酸の塩を含む水を、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的なモリブデンベースの前駆体に加えて、たとえば、パドルミキサーの手段によって、5~60分間、好ましくは10~20分間に含まれる期間、混合して、
-粉末、湿性前駆体として又は水性溶液としてのいずれかのコバルトベースの前駆体を、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的なモリブデン前駆体を含む水性溶液に加え、湿性前駆体として又は水性溶液として加える場合、水を、20~90℃の間に、好ましくは50~70℃の間に含まれる温度で、コバルトベースの前駆体に加えて、5~60分間、好ましくは10~20分間に含まれる期間、混合して、
-担体前駆体をコバルトベースの前駆体、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的なモリブデン前駆体を含む水性溶液に加え、かつ、(凝集をさけるように)混合して、
-担体前駆体の添加が完了した後、得られたペーストを、5~60分間に含まれる期間、好ましくは10~20分間に含まれる期間、さらに混合して、
-ペーストを大きな開口部を有するセラミックのるつぼに移し:
-第一工程として、100~150℃の間、好ましくは110~130℃の間に含まれる温度まで、60~600分間、好ましくは、150~330分間に含まれる期間、0.1~1.0m3/hの間、好ましくは、0.4~0.6m3/hの間の空気流で、加熱して、前記温度は、1.0~5.0℃/分の間に含まれる加熱勾配を使用して得られ、さらに続いて、
-第二工程として、200~600℃の間、好ましくは220~550℃の間、より好ましくは250~550℃に含まれる温度まで、1時間~24時間、好ましくは60~600分間、より好ましくは150~330分間に含まれる期間、0.1~1.0m3/hの間、好ましくは、0.4~0.6m3/hの間の空気流で、加熱して、前記温度は、1.0~5.0℃/分の間に含まれる加熱勾配を使用して得られ、
-焼成品は、450μm未満、好ましくは250μm未満の体積メジアン粒子径(D50)に粉砕される。
【0054】
両方の加熱サイクルの後、担体前駆体は、焼成品、すなわち、水酸化物、水酸化酸化物及び酸化物からなる群から選択される1つ又は複数の成分を含む担体に変換され、その一方で、触媒前駆体は酸化物に変換され、黒鉛化触媒は好ましくは混合酸化物として存在する。
【0055】
両方の加熱サイクルで使用される熱源のタイプは、限定されることなく、たとえば、誘導加熱、輻射加熱、レーザー、IR、マイクロ波、プラズマ、UV又は表面プラズモン加熱であってもよい。
【0056】
発明者らは、担体前駆体、Al(OH)3のBETが、高い炭素収率でMWCNTの製造を可能にする鉄を含まない担持触媒を得るために重要なパラメーターであることを観察した。
【0057】
本発明の方法では、Al(OH)3担体前駆体のBETが、3~18m2/gの間、好ましくは5~16 m2/gの間に含まれる。
【0058】
X線回折によって研究されたギブサイトのベーマイトへの変換は、たとえば、A.M.d A Cruz らのApplied Catalysis A: General 167 (1998), pp. 203-213で説明されている。
【0059】
X線回析による酸化アルミニウム(ボーキサイト)中の水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)の定性的な分析及び定量的な分析は、たとえば、G.A.B. Soares らの Rev. Esc. Minas, 2014, vol.67, n.1, pp.41-46で説明されている。
【0060】
発明者らは、鉄を含まない担持触媒中の水酸化酸化アルミニウムの存在が、X線回析によって、確実性を有して容易に識別され得るが、この定量化は不確実性の影響を受けやすく、Al2O3、Al(OH)3及びAlO(OH)の合計に対するAlO(OH)の質量%の推定に限定されるべきであることを経験した。
【0061】
ともかくとして、発明者らは、水酸化酸化アルミニウムが、Al2O3、Al(OH)3及びAlO(OH)の合計の少なくとも30質量%、好ましくは少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、最も好ましくは少なくとも60質量%及びさらに少なくとも70質量%の量で存在することを観察した。
【0062】
本発明の方法では、ペーストを乾燥させることを意図する第一の加熱サイクルは、当技術分野でよく知られた代替の乾燥方法又はそれらの組み合わせによって置換されてもよい。これらの中で、フラッシュ乾燥及び噴霧乾燥が広く使用されている。
【0063】
本発明による典型的な担持触媒は、式(CovVw)Oy.(担体)z又は(CovVwMox)Oy.(担体)zによって代表される。
【0064】
鉄を含まない二成分黒鉛化触媒は:
-水酸化酸化アルミニウム、好ましくは、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム及び水酸化酸化アルミニウムの合計に基づき、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含み、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、5.8 10-2~5.8 10-1、好ましくは1.2 10-1~4.3 10-1であり、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2、好ましくは1.2 10-2~5.8 10-2である、
ことによって特徴づけられる。
【0065】
鉄を含まない二成分黒鉛化触媒は、バナジウムに対するコバルトの質量比が、2~15の間、好ましくは3.0~11の間に含まれることで、さらに特徴づけられる。
【0066】
鉄を含まない三成分黒鉛化触媒は:
-水酸化酸化アルミニウム、好ましくは、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム及び水酸化酸化アルミニウムの合計に基づき、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含み、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、5.8 10-2~5.8 10-1、好ましくは1.2 10-1~4.3 10-1であり、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2、好ましくは1.2 10-2~5.8 10-2であり、
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.2 10-3~2.3 10-2、好ましくは1.7 10-3~1.7 10-2である、
ことによって特徴づけられる。
【0067】
鉄を含まない三成分黒鉛化触媒は、バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量の比が、2~15の間、好ましくは3.0~11の間に含まれることで、さらに特徴づけられる。
【0068】
本発明の鉄を含まない担持触媒は、35°~38°の2θ角度で、「a」と定義される最大回折ピークを有する、10°~80°の2θ角度で記録されたXRDパターンによって特徴づけられ、
-最大回折ピーク「a」の強度に対する、「b」と定義される17°~22°の2θ角度での回折ピークの強度の比b/aが、0.10~0.7の範囲、好ましくは0.12~0.7の範囲、より好ましくは0.14~0.7の範囲であり、
-最大回折ピーク「a」の強度に対する、「c」と定義される63°~67°の2θ角度での回折ピークの強度の比c/aが、0.51~0.7の範囲であり、及び、
-両方の基準b/a(0.10~0.7)及びc/a(0.51~0.7)を満たす。
【0069】
MWCNTの調製のため、担持された鉄を含まない触媒を、ガス相で炭素源と接触させる。
【0070】
担持触媒を使用することで、炭素源の分解を通して化学蒸着合成によりカーボンナノチューブを成長させることができ、カーボンナノチューブ凝集体の製造することができる。
【0071】
化学蒸着合成では、鉄を含まない黒鉛化触媒が反応器内に充填され、その後、ガス相中の炭素源が、周囲圧力及び高温で、反応器に供給され、担持触媒上で成長したカーボンナノチューブ凝集体が製造される。上述のように、カーボンナノチューブは、炭素源としての炭化水素の熱分解によって成長する。熱分解された炭化水素が黒鉛化触媒に浸透及び飽和して、炭素が飽和した黒鉛化触媒から沈着して、六方環構造を形成する。
【0072】
化学蒸着合成は、担持触媒が反応器内に供給され、C1~C6飽和炭化水素、C1~C6不飽和炭化水素、C1~C2アルコール及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの炭素源が、任意選択的に還元ガス(たとえば、水素)及びキャリアガス(たとえば、窒素)とあわせて、ガス相中の炭素源の熱分解温度以上の温度から黒鉛化触媒の融点以下の温度で、たとえば、500~約900℃の間、好ましくは600~800℃の間、より好ましくは650~750℃の間に含まれる温度で、反応器内に導入されるというような手法によって実施され得る。カーボンナノチューブは、炭素源が担持触媒に導入された後、1分~5時間、好ましくは1分~30分間、成長させることができる。
【0073】
好ましくは、標準温度及び圧力条件で、モル/h単位の反応物流(reactant stream)の流れで割った担持触媒のグラム単位の質量として定義される空間時間(space time)は、10~30分間、好ましくは15~25分間に含まれる期間の間、0.1~0.8g.h/モルの間、好ましくは0.2~0.6g.h/モルの間に含まれる。
【0074】
MWCNTの調製方法中の熱処理の熱源のタイプは、限定されることなく、たとえば、誘導加熱、輻射加熱、レーザー、IR、マイクロ波、プラズマ、UV又は表面プラズモン加熱であってもよい。
【0075】
炭素を供給することができ、かつ、300℃以上の温度でガス相に存在することができる任意の炭素源が、特に限定されることなく、化学蒸着合成に使用され得る。ガス相炭素質材料は、任意の炭素含有化合物であってもよいが、好ましくは6個までの炭素原子からなる化合物、より好ましくは4個までの炭素原子からなる化合物である。これらのガス相炭素質材料の例には、限定されるものではないが、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン及びトルエンが含まれる。これらのガス相炭素質材料は、単独又はそれらの混合物として使用されてもよい。還元ガス(たとえば、水素)及びキャリアガス(たとえば、窒素)の混合ガスは、炭素源を輸送し、高温でカーボンナノチューブが燃焼することを防ぎ、かつ、炭素源の分解を助ける。
【0076】
本発明の鉄を含まない触媒は、800~2500質量%の間、好ましくは1000~2400質量%の間、より好ましくは1100~2300質量%の間に含まれる炭素収率で、MWCNTを製造することができる。
【0077】
質量%の炭素収率は、
100(mtot-mcat)/mcat
として定義され、mtotは、反応後の製品の合計質量であり、mcatは、反応に使用された触媒の質量である。
【実施例
【0078】
以下の例示的な実施例は、単に本発明の例示を意味するものであり、本発明の範囲を限定する又は定義することを意図するものではない。
【0079】
実施例1 鉄を含まない二成分黒鉛化触媒の合成
60℃で、277質量部のクエン酸及び387質量部のリンゴ酸を含む5000質量部の水を、333質量部のメタバナジン酸アンモニウムに加え、パドルミキサーを使用して15分間混合して、第一の水性溶液を得た。
【0080】
同様に、60℃で、5000質量部の水を、4109質量部の酢酸コバルト(II)四水和物に加え、パドルミキサーを使用して15分間混合して、第二の水性溶液を得た。
【0081】
第二の水性溶液を、第一の水性溶液に加え、パドルミキサーを使用して15分間混合した。
【0082】
第一及び第二の水性溶液の混合物に、15m2/gの比表面積(BET)を有する13333質量部の水酸化アルミニウム(Apyral(登録商標) 200 SM-Nabaltec)を加え、パドルミキサーを使用して15分間混合した。
【0083】
その後、このようにして得られたペーストを、大きな開口部を有するセラミックのるつぼに移し、加熱工程に付し、ペーストを、2℃/分の加熱勾配及び0.5m3/hの空気流を用いて120℃に加熱して、120℃で5時間維持した。
【0084】
120℃で5時間後、ペーストを、2℃/分の加熱勾配を用いて400℃の温度にさらに加熱して、0.5m3/hの空気流を維持しながら、400℃で5時間維持した。
【0085】
このようにして得られた固体材料を、室温まで冷却して、コニカルグラインダーを使用して、120μmの体積メジアン粒子径(D50)によって特徴づけられる粉末に粉砕した。
【0086】
実施例2 鉄を含まない三成分黒鉛化触媒の合成
60℃で、277質量部のクエン酸及び387質量部のリンゴ酸を含む5000質量部の水を、340質量部のメタバナジン酸アンモニウム及び64質量部のへプタモリブデン酸アンモニウム四水和物に加えことを除いて、実施例1を繰り返して、第一の水性溶液を得た。60℃で、5000質量部の水を、4931質量部の酢酸コバルト(II)四水和物に加えることによって、第二の水性溶液を得た。
【0087】
第一及び第二の水性溶液の混合物に、15m2/gの比表面積(BET)を有する13333質量部の水酸化アルミニウム(Apyral(登録商標) 200 SM-Nabaltec)を加え、パドルミキサーを使用して15分間混合した。
【0088】
実施例3~8
実施例3~8では、
-バナジウムベースの前駆体が、メタバナジン酸アンモニウムであり、
-モリブデンベースの前駆体が、へプタモリブデン酸アンモニウム四水和物であり、
-実施例3及び実施例5~8のコバルトベースの前駆体が、酢酸コバルト(II)四水和物であり、
-実施例4のコバルトベースの前駆体が、硝酸コバルト(II)四水和物であり、
-実施例3のAl(OH)3が、5.4m2/gのBETによって特徴づけられるALOLT 59 AF (Inotal)であり、
-実施例4のAl(OH)3が、4m2/gのBETによって特徴づけられるHydral 710 (Huber)であり、
-実施例5及び実施例6のAl(OH)3が、3.5m2/gのBETによって特徴づけられるApyral 40 CD (Nabaltec)であり、
-実施例7及び実施例8のAl(OH)3が、10~12m2/gのBETによって特徴づけられるMartinal OL-111 LE (Huber)である。
【0089】
実施例3~7を、実施例1の工程条件、すなわち、混合の温度及び時間、乾燥及び焼成条件(温度、加熱勾配、時間、空気流)並びに約120μmのD50を得るための粉砕条件を使用して、粉末としてコバルトベースの前駆体を、バナジウムベースの前駆体及び任意選択的なモリブデンベースの前駆体を含む水性溶液であって、5000質量部の水を含む前記水性溶液に加えたことを除いて、調製した。
【0090】
実施例8は、比較例であり、コバルトベースの前駆体、バナジウムベースの前駆体及びモリブデンベースの前駆体を含む水性混合物に加えて、混合する前に、担体前駆体を焼成した。最初に、担体前駆体に水を含侵させて、60℃及び100mbarで乾燥させる前に、60℃で12時間撹拌した。続いて、乾燥した担体前駆体を、窒素雰囲気下、400℃の温度で5時間焼成して、その後、焼成した担体を触媒前駆体の水性混合物に加えた。コバルトベースの前駆体、バナジウムベースの前駆体及びモリブデンベースの前駆体を含む水性混合物を、粉末としてコバルトベースの前駆体を、バナジウムベースの前駆体、モリブデンベース及び5000質量部の水を含む水性溶液に加えることで得た。得られたペーストを、2℃/分の加熱勾配及び0.5m3/hの空気流を用いて120℃に加熱して、120℃で5時間維持した。続いて、ペーストを、2℃/分の加熱勾配を用いて400℃の温度にさらに加熱して、0.5m3/hの空気流を維持しながら、400℃で5時間維持した。ベーマイト、AlO(OH)に対応する回析ピークは検出されなかった。
【0091】
表1に実施例3~8の触媒前駆体、担体前駆体並びにポリカルボン酸及び/又はそれらの塩の量を、5000質量部の水に対する部数で報告する。
【0092】
【表1】
【0093】
MWCNTの合成
実施例1~8の1.0gの鉄を含まない黒鉛化担持触媒を石英容器に広げ、その後、入口及び出口を有する石英管型反応器の中心に置いた。
【0094】
触媒を含む容器が設置された石英管反応器の中心を700℃の温度に加熱した。
【0095】
続いて、エチレンガス、窒素及び水素を1.744 l/分(C2H4)、0.857 l/分(N2)及び0.286 l/分(H2)の流速で、20分間、石英管反応器中に流した。
【0096】
表2に、実施例1~8(カラム2)の触媒を使用して調製したMWCNT(実施例A~H)(カラム1)の炭素収率(カラム8)を示す。
【0097】
表2は、さらに、
-担持触媒のアルミニウムに対するコバルトの比(カラム3)、
-担持触媒のアルミニウムに対するバナジウムの比(カラム4)、
-担持触媒のアルミニウムに対するモリブデンの比(カラム5)、
-鉄を含まない二成分黒鉛化担持触媒のバナジウムに対するコバルトの比及び鉄を含まない三成分黒鉛化担持触媒のバナジウム及びモリブデンに対するコバルトの比(カラム6)、
-それぞれのAl(OH)3担体前駆体のBET(m2/g)(カラム7)を示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2から明らかなように、担体前駆体を触媒前駆体で含侵する前に焼成する、鉄を含まない担持触媒(実施例8)を使用する方法により得られたMWCNTに反して、本発明の鉄を含まない担持触媒(実施例1~7)は、MWCNT(実施例A~G)を、少なくとも800%の炭素収率で与える。最も高い炭素収率を有するMWCNTは、10~15m2/gの間に含まれるBETによって特徴づけられるAl(OH)3担体前駆体から調製された鉄を含まない担持触媒から得られる。実施例8(=比較例)の鉄を含まない担持触媒は、前記担持触媒が10~12m2/gのBETを有するAl(OH)3担体前駆体から調製されるにも関わらず、MWCNT(実施例H)を554%の炭素収率で与える。実施例8(=比較例)の鉄を含まない担持触媒では、ベーマイト、AlO(OH)に対応する回析ピークは検出されなかった。
【0100】
発明者らは驚くべきことに、600℃超の温度で焼成された同一の乾燥混合物から得られた担持触媒により得られた多層カーボンナノチューブに反して、200℃~600℃の間に含まれる水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の乾燥混合物の焼成温度が、多層カーボンナノチューブを高い炭素収率で与えることを観察した。
【0101】
発明者らは、乾燥方法も最終的な多層カーボンナノチューブの炭素収率に対して、より小さい程度ではあるが、影響を与えることを同様に観察した。
【0102】
焼成温度の影響は、10°~80°の2θ範囲で記録された、担持触媒のXRDパターンの回折ピークの強度の比によって反映される。
【0103】
XRDパターンでは、35°~38°の2θ角度での最大強度を有する回析ピークを「a」と定義する。17°~22°の2θ角度での回折ピークの強度を「b」と定義し、かつ、63°~67°の2θ角度での回折ピークの強度を「c」と定義した場合、高い炭素収率を有する多層カーボンナノチューブは、比b/aが0.10~0.7の間に含まれ、かつ、比c/aが0.51~0.7の間に含まれる、強度比(b/a及びc/a)の両方の条件を満たす鉄を含まない担持触媒を使用した場合に、調製される。
【0104】
表3では、異なる乾燥方法及び焼成温度から得られた、2θ角度の値、前記2θ角度での正味の強度及び担持触媒の強度比b/a及びc/aを報告する。
【0105】
表4では、実施例2の鉄を含まない担持触媒から得られた実施例BのMWCNTの質量%での炭素収率を、以下の触媒前駆体の乾燥について報告している:
-前駆体ペーストを、2℃/分の加熱勾配及び0.5m3/hの空気流を用いて120℃に加熱して、120℃で5時間乾燥して;
-前駆体ペーストを希釈して、10000部の前駆体ペーストが25000部の前駆体分散液に変換され、以下の設定でYamato Scientific社の噴霧乾燥装置GB-210Aに、流体を十分に蠕動ポンピングする:
-送風機:0.5m3/h(=乾燥のための熱空気流))
-噴霧器:0.1MPa(=噴霧を発生させる空気圧)
-乾燥温度:150℃(=乾燥カラムの入口での空気温度)
-ポンプ:7(=ポンプの速度及び液体の粘度、したがってその希釈度に依存する、ポンプされた液体の流速。本実験では、流速は17g/分で+/‐に等しい。)
【0106】
発明者らは、700℃の温度での水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の乾燥混合物の焼成は、より低い炭素収率を有する多層カーボンナノチューブを与え、700℃の焼成温度では、強度比(b/a)が満たされないことを観察した。ベーマイト、AlO(OH)に対応する回析ピークは検出されなかった。
【0107】
実施例B(炭素収率=2076%)のMWCNTの、質量%での炭素収率に対する、質量%での減少した炭素収率は、実施例2の鉄を含まない三成分黒鉛化触媒を使用する実施例Bを、550℃及び700℃でそれぞれ5時間焼成して、繰り返す場合に得られた。したがって、実施例Bの炭素収率に対して約14%の炭素収率の減少が、550℃で5時間の焼成の実施例2の触媒(炭素収率=1781%)について観察され、その一方で実施例Bの炭素収率に対して42%の炭素収率の減少が、700℃で5時間の焼成の実施例2の触媒(炭素収率=1211%)について観察された。
【0108】
600℃で1時間焼成した実施例2の噴霧乾燥の鉄を含まない三成分黒鉛化触媒は、MWCNTを1840%の炭素収率で与えた。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【手続補正書】
【提出日】2022-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素のカーボンナノチューブへの選択的変換のための鉄を含まない担持触媒であって、
前記触媒が、X線回析によって決定される水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウムの合計に基づいて、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含む触媒担体上に、任意の酸化状態で活性触媒金属としてコバルト及びバナジウムを含み、
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、2~15、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、5.8 10-2~5.8 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、5.8 10-3~8.7 10-2である、
触媒。
【請求項2】
-バナジウムに対するコバルトの質量比が、3.0~11、
-アルミニウムに対するコバルトの質量比が、1.2 10-1~4.3 10-1、及び、
-アルミニウムに対するバナジウムの質量比が、1.2 10-2~5.8 10-2である、
請求項1に記載の鉄を含まない担持触媒。
【請求項3】
追加の活性触媒として、モリブデンを含み、
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.2 10-3~2.3 10-2、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、2~15である、
請求項1又は2に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項4】
-アルミニウムに対するモリブデンの質量比が、1.7 10-3~1.7 10-2 、及び、
-バナジウム及びモリブデンを組み合わせた質量に対するコバルトの質量比が、3~11である、
請求項3に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項5】
10°~80°の2θ角度で記録されたXRDパターンで、35°~38°の2θ角度で、最大回折ピークを有し、
-17°~22°の2θ角度での最大回折ピークの強度及び回折ピークの強度をそれぞれ「a」及び「b」と定義した場合、比b/aが0.10~0.7であり、及び、
-63°~67°の2θ角度での回折ピークの強度を「c」と定義した場合、比c/aが0.51~0.7の範囲である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項6】
前記触媒担体が、X線回析によって決定される水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウムの合計に基づいて、少なくとも40質量%の水酸化酸化アルミニウムを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の鉄を含まない触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄を含まない担持触媒を製造する方法であって、以下の工程:
-1つ又は複数のポリカルボン酸及び/又はポリカルボン酸の塩を含む水性溶液を、1つ又は複数のバナジウムベースの前駆体及び任意選択的に1つ又は複数のモリブデンベースの前駆体と接触させる工程、
-1つ又は複数のコバルトベースの前駆体を、前記バナジウムベースの前駆体及び任意選択的な追加の前記モリブデンベースの前駆体を含む水性溶液と接触させて、触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-3~18m2/gの間に含まれるBETを有する水酸化アルミニウムを、前記触媒前駆体を含む前記水ベースの混合物と接触させて、水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の水ベースの混合物を形成させる工程、
-水酸化アルミニウム及び触媒前駆体の前記水ベースの混合物を乾燥させて、乾燥混合物を形成させる工程、
-200℃~600℃の間に含まれる温度で前記乾燥混合物を焼成させて、X線回析によって決定される水酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム並びに水酸化酸化アルミニウムの合計に基づいて、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含む焼成品を形成させる工程、
-前記焼成品を粉末に粉砕する工程
を含む、方法。
【請求項8】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、少なくとも100℃の所定の温度で、少なくとも1時間、少なくとも0.1m3/hの空気流で乾燥される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、100~150℃の間に含まれる所定で、1時間~10時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気流で乾燥される、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
水酸化アルミニウム及び前記触媒前駆体の前記水ベースの混合物が、噴霧乾燥によって乾燥される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥混合物が、220~550℃の間に含まれる温度で、1~24時間に含まれる期間、0.1m3/h~1m3/hの間に含まれる空気で焼成される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記焼成品が、450μm未満の体積メジアン粒子径(D50)を有する粉末に粉砕される、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水酸化アルミニウムが、5~16 m2/gの間に含まれる比表面積(BET)によって特徴づけられる、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記水酸化アルミニウムが、ギブサイト又はバイヤライトから選択される、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記コバルトベースの前駆体、前記バナジウムベースの前駆体、前記モリブデンベースの前駆体及び担体前駆体が、少なくとも95%の純度を有する、請求項7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記コバルトベースの前駆体が、酢酸コバルト(II)四水和物及び/又は硝酸コバルト(II)四水和物であり、
前記バナジウムベースの前駆体が、メタバナジン酸アンモニウムであり、及び、
前記モリブデンベースの前駆体が、へプタモリブデン酸アンモニウム四水和物である、
請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリカルボン酸が、クエン酸及びリンゴ酸の混合物であり、リンゴ酸/クエン酸のモル比が、0.5~5である、請求項7~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項7~17のいずれか一項に記載の方法によって得られた、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄を含まない担持触媒からの多層カーボンナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
-前記触媒を反応器に充填する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度まで、前記触媒を加熱する工程、
-500℃~900℃の間に含まれる温度を保持しながら、前記反応器に炭素源を供給する工程、
-前記触媒を前記炭素源に、少なくとも1分間、接触させる工程、
を含む方法。
【請求項19】
触媒及び炭素源の空間時間(space time)が、0.1~0.8g.h/モルであり、標準温度及び圧力条件で、モル/h単位の反応物流(reactant stream)の流れで割った担持触媒のグラム単位の質量として定義される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炭素源が、メタン、エチレン、アセチレン、メタノール、エタノール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
0.1~13質量%、好ましくは1~10質量%の請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒を含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法によって得られる、多層カーボンナノチューブ。
【請求項22】
請求項21に記載の多層カーボンナノチューブを含む、ポリマーマトリックス。
【請求項23】
請求項21に記載の多層カーボンナノチューブの電池での使用。
【国際調査報告】