(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ブプレノルフィンを送達するための親水性分解性マイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
A61K 31/485 20060101AFI20230728BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230728BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230728BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230728BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230728BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A61K31/485
A61P29/00
A61P25/04
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501636
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2021025249
(87)【国際公開番号】W WO2022008100
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523010018
【氏名又は名称】オクルジェル
【氏名又は名称原語表記】OCCLUGEL
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ベイユヴェール,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】コリュ,エメリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブドゥエ,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】モワンヌ,ロランス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA94
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC04
4C076DD44
4C076DD52
4C076DD59
4C076EE13
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB23
4C086GA13
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA12
4C086ZA08
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明は、有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび注入投与のための薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも、a)10mol%~90mol%の一般式(I)の親水性モノマー;b)0.1~30mol%の式(II)の環状モノマー;およびc)5mol%~90mol%の1つの分解性ブロックコポリマークロスリンカーを含む組成物であって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH2=(CR11))-基を有し、かつ前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが-3~11.20の分配係数Pを有するものである、組成物に関する。本発明はまた、中程度から重度の疼痛、術後疼痛および/またはオピオイド使用障害を予防および/または処置するための、このような組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入により投与するための、有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも次の成分:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH
2=CR
1)-CO-D(I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR
2R
3)
m-CH
3、-(CH
2-CH
2-O)
m-H、-(CH
2-CH
2-O)
m-CH
3、-(CR
2R
3)
m-OHまたは-(CH
2)
m-NR
5R
6であり、ここでmは1~30の整数であり;
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、互いに独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
R
7、R
8、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、(C
1-C
6)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の、3~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH
2=CR
11)-CO-X
n-PEG
p-X
k-CO-(CR
11=CH
2) (IIIa);または
W(PEG
p-X
n-O-CO-(CR
11=CH
2))
z (IIIc);
〔式中、
R
11は独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCL;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C
1-C
6-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
zは3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物。
【請求項2】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が、一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に、
X=PLA、n+k=12およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13;または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13;または
X=PCL;n+k=8およびp=13;または
X=PLGA;n+k=12およびp=13;または
X=PCL、n+k=10およびp=4;または
X=PCL、n+k=12およびp=2
である、一般式(IIIa)の化合物から成る群から選択されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)が一般式(IIIa)または(IIIc)のものであり、ここでXがPCLまたはPLAPCLを表す、有利にはXがPCLを表すものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーc)の量が、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して5mol%~60mol%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
環状モノマーb)が、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
親水性モノマーa)が、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド)メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスが、さらに鎖転移剤d)に基づくものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
0.1~50mg/mlのブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ブロックコポリマークロスリンカーc)が、pが7であり、X=PLAPCL、n=10であり、zが3である一般式(IIIc)の化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
中程度から重度の疼痛の予防および/または処置に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
術後疼痛の予防および/または処置、有利には術後疼痛の局所処置に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
オピオイド使用障害の予防および/または処置に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
1日~30日、有利には1~7日の期間の間、ブプレノルフィンが一定の速度で放出されるものである、請求項10~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
処置を必要とする対象への有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の送達に使用するための親水性分解性マイクロスフェアであって、前記親水性分解性マイクロスフェアが請求項1~9のいずれか一項で定義されるとおりのものである、親水性分解性マイクロスフェア。
【請求項15】
i)少なくとも1つの請求項1~9のいずれか一項で定義される親水性分解性マイクロスフェアとともに、注入による投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、
ここで、前記親水性分解性マイクロスフェアおよびブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は別個に包装されているものである、医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を送達するための親水性分解性マイクロスフェアに関する。特に、本発明は、有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩および親水性分解性マイクロスフェアを含む組成物に関する。本発明はまた、中程度から重度の疼痛、特に術後疼痛の予防および/または処置に使用するための前記組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛、特に急性疼痛がブプレノルフィンなどのオピオイドで処置され得ることは、当分野で周知である。ブプレノルフィンは、モルヒネより20~40倍高い効能を有する。ブプレノルフィンの受容体からの解離が遅いため、作用時間が長くなる。ブプレノルフィンは、特に術後の患者における、中等度から重度の疼痛の処置のために鎮痛剤として長年使用されてきた。このようにブプレノルフィンは、強い鎮痛作用を促進することがよく知られている。ブプレノルフィンはまた、長年にわたり、アヘン中毒の処置に使用されてきた。
【0003】
経口または舌下ブプレノルフィン製剤は、当業者に周知である。これらの製剤は1日1回または2回の投与について承認され、場合により、1日3回の投与が承認されることがある。しかしながら、これらの製剤のコンプライアンスの欠如および誤用の可能性は、ブプレノルフィン投与の新たな方法の必要性につながる。
【0004】
さらに、ブプレノルフィンの経口製剤は、消化器吸収が乏しく、全身への利用可能性が低いため、鎮痛効果が不十分であるなど、いくつかの不利益を有する。経口摂取後、ブプレノルフィンは腸壁および肝代謝を介して広範な初回通過を行うため、全身曝露量は少なく、また変動する。舌下や経皮の薬物投与方法は、消化管を迂回するため初回通過代謝が回避され、これによりバイオアベイラビリティが改善する。
【0005】
舌下製剤は迅速な吸収により経口投与よりもバイオアベイラビリティが改善し得て、全身への曝露量が高く、血漿レベルへの到達が速くなる。しかしながら、舌下用量の一部を誤って飲み込むと、全身前初回通過排泄が起こり、血漿濃度の変動や薬物吸収の大きな対象間変動が誘発され得る(Kapil et al; 2013. J Pain Symptom Manage. 46:65-75)。
【0006】
ブプレノルフィン経皮パッチ剤は、術後を含む癌に関連するおよび関連しない中程度から重度の疼痛、および骨関節症などの筋骨格疼痛の処置のためのブプレノルフィンの持続的投与について承認されている。ブプレノルフィンの経皮パッチ剤は、より安定な血漿濃度、制御送達および持続送達を提供する。7日用経皮パッチ剤は、一週間一定の処置速度で送達することが可能である。経皮パッチ剤の送達毒度は5~10または20μg/時間である。これらのデバイスは、高レベルの患者満足度を伴う治療閾値内でのブプレノルフィン血漿濃度をもたらす。例えば、20μg/時間でのButrans(登録商標)パッチ剤は、次のパッチ剤への交換までに、迅速に4日後の200pg/mLの血漿濃度に達し、その後の7日までゆっくりと減少することを可能する(Kapil et al; 2013. J Pain Symptom Manage. 46:65-75)。パッチ剤を用いて、安定なブプレノルフィンレベルが初回適用で達成され得て、毎週の繰り返し適用により維持される。しかしながら、たとえ血漿濃度が低くても(50~70pg/mL)、経皮パッチ剤の使用は二次的作用を誘発し、最も一般的なものは悪心、便秘、疲労、めまいおよび頭痛である(Al-Tawil et al; 2013. Eur J Clin Pharmacol. 69:143-149)。
【0007】
非経腸製剤もまた当業者に周知であるが、特定の適応症の患者には耐容性が低く、または禁止さえされており、中枢性の副作用を引き起こし得る。全身適用されるオピオイドの二次的作用を回避し、末梢鎮痛作用を得るために、それらの局所注射が提案される。例えば、ブプレノルフィンは、術後疼痛の管理において、手術後の術創に直接注射された(Metha et al, 2011, J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 27:211-4)。20名の患者において、腎摘出術後の創部にブピバカインに加えてブプレノルフィン(2μg/kg)を注射した。術後初日のレスキュー鎮痛剤の使用は、ブピバカインのみで局所処置した患者と比較して、有意に減少した。関節鏡手術後、関節腔内にオピオイドを直接注射すると、術後疼痛が軽減される(Kalso et al; 2002; Pain. 98; 269-75)。例えば、膝関節鏡手術後にブプレノルフィン(100μg)を関節内注射すると、術後6時間まで術後疼痛が軽減される。疼痛スコアは、6時間の時点でブプレノルフィンの筋肉内注射で処置した対照群と比較して低かった(Varrassi et al; 1999. Acta Anaesthesiol Scand. 43: 51-5)。
【0008】
疼痛組織におけるオピオイド(モルヒネ、ブプレノルフィン)の局所注射の論理的根拠は、求心性ニューロンの末梢神経末端である、侵害受容器上のオピオイド受容体が近年発見されたことに基づく。オピオイド受容体は、最初に、猫の膝関節の神経線維上に観察され(Russell 1987, Neurosci Lett. 23:107-12)、Steinら(1991; N Engl J Med. 325:1123-6)の観察によりヒト膝関節においてオピオイド受容体が機能することが示された。モルヒネ(1mg)の関節内注射は、モルヒネの静脈内注射よりも効率的に、関節鏡手術後の患者における疼痛を軽減する。その結果、全身オピオイド処置で見られる中枢作用を伴わない効率的鎮痛のために、皮膚、関節、内臓に位置する末梢オピオイド受容体が標的とされ得る。創傷組織へのオピオイドの局所投与は、疼痛をその発生源で抑制するための解決策である(Machelska & Celik. 2018. Frontiers in Pharmacology. Vol 9)。
【0009】
末梢オピオイド系は、鎮痛作用と不要な中枢性副作用を切り離すことにより、疼痛処置の新たな戦略の開発を可能にする。脳内での拡散が少ない新たなオピオイド薬または末梢組織におけるオピオイドの局所的な送達のための薬物送達系(DDS)の開発などの末梢鎮痛のための種々の解決策が()研究されている(Machelska & Celik.2018. Frontiers in Pharmacology. Vol 9)。しかしながら、メタ分析(26件の臨床試験、1531名の患者、13の異なる外科的介入)により、急性術後疼痛に対する末梢適用オピオイドは効果がないことが明らかになった(Nielsen et al; 2015. Acta Anaesthesiol Scand. 59:830-45)。末梢適用されたオピオイドの鎮痛効果は、術前の炎症の有無に依存すると考えられる。末梢オピオイドの鎮痛効果は、動物試験において炎症の6~24時間の間に直線的に増加すると報告されており(Zhou et al; 1998. J Pharmacol Exp Ther. 286:1000-6)、これは末梢オピオイド受容体の上方制御が外科手術により引き起こされる炎症の誘導から遅れ得ることを示している。外科手術前に既存の炎症が報告されているとき、例えば、痔核切除術を受けた患者などでは、局所適用したオピオイドの有意な鎮痛効果が報告されている(Tegon et al; 2009, Tech. Coloproctol, 13: 219-24)。局所適用したオピオイドは恐らく、受容体の発現が起こる前に、排泄により組織から除去されると推定される。解決策は、術後数時間以内に感覚ニューロン上のオピオイド受容体が発現する間に、オピオイドを徐々に溶出させる注射用DDSをに局所術後注射することである。
【0010】
当分野において、ブプレノルフィンについてのいくつかの注射用送達系(DDS)が報告されている。患者のオピオイド依存症管理のためのいくつかのDDSが設計された(Rosenthal and Goradia; 2017. Drug Des Devel Ther. 11: 2493-2505にレビュー)。Simonら;2006(Addiction. 101:420-32)は、ブプレノルフィンの持続放出により、ポリ(L-ラクチド-コ-グリコリド)マイクロスフェアから成る長期作用型生分解性マイクロスフェアを開発した。皮下留置後、ブプレノルフィンは2~3日後に血漿でピークとなり、6週間後には検出不可能なレベルに達する。棒状留置(26mm×2.5mm)ブプレノルフィン(80mgまたは90mg)(Probuphine(登録商標))は、エチレン酢酸ビニルから成るポリマーマトリックス中に製造された。皮下留置後、ブプレノルフィンは一定の速度で6か月間送達された(White et al; 2009. Drug Alcohol Depend. 2009. 103:37-43)。より最近では、オピオイド依存症を制御するための、RBP-6000と称される新規な長期ブプレノルフィン送達系が合成された。ブプレノルフィン(300mg)はN-メチル-ピロリドン(NMP)に溶解したPLGA中に混合される。皮下注射後、NMPがポリマーの外へ拡散してポリマーが沈殿し、ブプレノルフィンが内部に捕捉され、イン・サイチュで固体沈着物が形成される。この沈着物は、ポリマーの分解に伴って拡散により1か月間ブプレノルフィンを放出する(Nasser et al; 2014. Clin Pharmacokinet. 53:813-24)。国際公開第2017/147285において、ブプレノルフィンは、分解性ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)の分子量に応じて、数週間から数か月の範囲での血漿持続放出のためにポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)マイクロスフェア(20~40μm)にカプセル化される。ブプレノルフィンを送達するための別の送達戦略は、水性媒体と接触した脂質が逆相の「油中水型」非層状液晶ナノ粒子ゲル(FluidCrystal(登録商標);Camurus AB、ルンド、スウェーデン)に自己集合するCAM2038技術に基づくものである。小さな23ゲージ針により注射後、間質房水と接触したデポーは、デポーが分解する際にブプレノルフィンを溶出する粘性の液晶ゲル相に変化する。放出は1週間から1か月まで持続する(Frost et al; 2019. Addiction. 114: 1416-26)。さらに、皮下注射後の実験用小動物の疼痛管理のための、1つの組成物(ブプレノルフィンSRTM)が記載されている。送達系は、ブプレノルフィンを3日間放出するための、生物的に適合性の有機溶媒に溶解されたDL-ラクチドおよびε-カプロラクトンの生分解性コポリマー(50:50のモル比)である。注射後、ブプレノルフィンはポリマー沈殿の際に捕捉され、拡散により薬物放出が起こる(Foley et al; 2011. J Am Assoc Lab Anim Sci. 50:198-204)。
【0011】
本発明者らは、ブプレノルフィンの持続放出のためのブプレノルフィン送達系に関心が示されていることに注目した。当分野によれば、容易に注射可能で、迅速に分解し、その組成に有機溶媒を含まない、ブプレノルフィンの新規送達系への必要性が存在すると考えられる。
【発明の概要】
【0012】
第一の態様において、本発明は、注入により投与するための、有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩、架橋マトリックスを含む少なくとも1つの親水性分解性マイクロスフェアおよび薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記架橋マトリックスが、少なくとも次の成分:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH
2=CR
1)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR
2R
3)
m-CH
3、-(CH
2-CH
2-O)
m-H、-(CH
2-CH
2-O)
m-CH
3、-(CR
2R
3)
m-OHまたは-(CH
2)
m-NR
5R
6であり、ここでmは1~30の整数であり;
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、互いに独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化1】
〔式中、
R
7、R
8、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、(C
1-C
6)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の、3~11.20の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する直鎖状または星型の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、式:
(CH
2=CR
11)-CO-X
n-PEG
p-X
k-CO-(CR
11=CH
2) (IIIa);または
W(PEG
p-X
n-O-CO-(CR
11=CH
2))
z (IIIc);
〔式中、
R
11は独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基であり;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLであり;
nおよびkは独立して、1~150の整数であり;
pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C
1-C
6-アルキル基または1~6個の炭素原子を含む基であり;
zは3~8の整数である〕
を有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づく架橋マトリックスであり、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表されるものである、組成物に関する。
【0013】
第二の態様において、本発明は中程度から重度の疼痛;術後疼痛(有利には、術後疼痛の局所的処置);またはオピオイド使用障害の予防および/または処置に使用するための、本発明の組成物に関する。
【0014】
第三の態様において、本発明は、必要とする対象への有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の送達に使用するための、本発明の親水性分解性マイクロスフェアに関する。
【0015】
第四の態様において、本発明は、
i)薬学的に許容される担体を含む少なくとも1つの本発明の親水性分解性マイクロスフェア;
ii)有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩;および
iii)場合により、注入デバイス
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよびブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩が別個に包装された、医薬キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】水中で2時間の分解性MSへのブプレノルフィン充填(1mg/mLの標的充填)に対する、5mol%のクロスリンカー組成の影響。ノンパラメトリックなマン・ホイットニー(MW)検定を用いて、クロスリンカーPEG
13-PLA
12に対する比較を実施した。有意差はp<0.05で設定した。データは平均値である。
【
図2】水中で2時間の分解性MSへのブプレノルフィン充填(1mg/mLの標的充填)に対する、2つのクロスリンカー(PEG
13-PLA
7-PCL
3およびPEG
13-PCL
8)についての3つの濃度(5-15-30mol%)の影響。クロスリンカーの各群について、ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定を用いて、5mol%の群と15mol%または30mol%の群との比較を実施した。PEG
13-PLA
7-PCL
3クロスリンカー(*)およびPEG
13-PCL
8クロスリンカー(#)についての有意差はp<0.05で設定した。データは平均値である。
【
図3】ブプレノルフィンの充填レベルに対するPEG
13-PCL
8クロスリンカー濃度(5mol%または15mol%)の影響。A:ブプレノルフィン充填(mg/mL);B:ブプレノルフィン充填効率(%)。薬物充填の各レベルについて、ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定を用いて、5mol%のクロスリンカーPEG
13-PCL
8に対して比較を実施した。有意差はp<0.05で設定した。データは平均値である。
【
図4】水中での膨潤の間(A)、PBS中で5時間後(B)、PBS中で24時間後(C)およびPBS中で48時間後(D)の分解性マイクロスフェアからのブプレノルフィンの初期放出に対する、5mol%の直鎖状クロスリンカーの影響。放出値は累積である。種々の時点でのブプレノルフィン放出に対するクロスリンカー組成の影響を比較するために、クラスカル・ウォリス(KW)ノンパラメトリック検定を使用した。有意差はp<0.05で設定した。データは平均値である。
【
図5】PBS中のブプレノルフィンのインビトロ放出に対する、5mol%のクロスリンカーの影響。ブプレノルフィン充填目標は1mg/mLであった。*それぞれ4日、7日、10日および1日のMS1、MS2、MS3およびMS14mp完全な分解、。MS4、MS5、MS6およびMS15はインビトロ試験中に分解した。
【
図6】水中での膨潤の間(A)、PBS中で5時間後(B)、PBS中で24時間後(C)およびPBS中で48時間後(D)のブプレノルフィンの初期放出に対する、2つのクロスリンカー(PEG
13-PLA
7-PCL
3およびPEG
13-PCL
8)についての3つの濃度(5-15-30mol%)の影響。放出値は累積である。クロスリンカーの各群について、ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定を用いて、5mol%の群と15mol%または30mol%の群との比較を実施した。PEG
13-PLA
7-PCL
3クロスリンカー(*)およびPEG
13-PCL
8クロスリンカー(#)についての有意差は、それぞれp<0.05で設定した。NS:有意差なし。
【
図7】PBS中でのブプレノルフィンのインビトロ持続放出に対するクロスリンカー濃度(5mol%、15mol%、30mol%)の影響。A:PEG
13-PLA
7-PCL
3クロスリンカー(標的1mg/mL)の濃度の影響。B:PEG
13-PCL
8クロスリンカー(標的1mg/mL)の濃度の影響。
*MS3は7日で完全に分解し;他のマイクロスフェアはインビトロ試験の間分解しなかった。
【
図8】5mol%または15mol%のクロスリンカーPEG
13-PCL
8を含むMS3からの薬物放出に対する、ブプレノルフィンペイロードの影響。放出は16日間観測された。マイクロスフェアは、インビトロ試験の間分解しなかった。
【
図9】マイクロスフェア分解時間に対するクロスリンカー濃度の影響。250μLの無菌マイクロスフェア(MS5、MS8、MS11およびMS12)を10mLの100mM 水酸化ナトリウム中、37℃(150rpm)でインキュベートした。MS消失の時間(分)を記録した。
【
図10】乾燥MS(50~100μm)への即座の充填後の、PBS中でのブプレノルフィンのインビトロ放出。乾燥した無菌マイクロスフェアへのブプレノルフィン急速充填工程(5分)後、マイクロスフェアが分解し、薬物放出が起こる。PBS中で10日のインキュベートで分解するMS3(充填値=0.89mg/mL)からの放出。PBS中でよりゆっくりと(>6か月)分解するMS11(充填値=2.56mg/mL)からの1か月間の放出。MS16は、PBS添加10分後のブプレノルフィン(50%)の重要なバーストの2日後に分解した。
【
図11】ブプレノルフィンで充填した分解性マイクロスフェアの単回皮下注射1か月後の、ブプレノルフィン(BPN)の血漿濃度。
【
図12】ブプレノルフィンで充填した分解性マイクロスフェアの単回皮下注射1か月後の、ブプレノルフィンの組織濃度
【
図13】5mol%のクロスリンカーPEG
13-PLA
7-PCL
3およびPEG
13-PLA
5-PCL
4をそれぞれ含む分解性マイクロスフェアMS3およびMS4のサイズ分布。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明者らは、局所送達のための生体適合性の薬物担体として使用され得て、有効成分であるブプレノルフィンまたはその塩と親和性を示す親水性分解性マイクロスフェア、およびテイコプラニンを含む、脂肪酸末端を有するグリコペプチド抗生物質を発見した。
【0018】
本発明者らは、驚くべきことに、架橋ヒドロゲルから成る分解性親水性マイクロスフェアは、ブプレノルフィンおよびその塩と高い親和性を示し、数分間での効率的な充填およびその後の持続放出を可能にすることを発見した。本発明は、外科手術後に数日間疼痛を緩和することを目的として低用量のブプレノルフィンまたはその塩を局所持続放出する、最小限の侵襲的な注入の可能性を提供する。このアプローチは、患者が自宅に戻ったとき、オピエートを含む多様な鎮痛剤の使用を低減し、処方薬の転用を避けることが可能である。
【0019】
このように、本発明者らは、有機溶媒を含まず、一日から数か月で分解時間を調整可能であり、充填が容易であり(水中で、室温で数分)、持続的かつ完全な薬物放出が可能であり、即時破裂や激しい炎症反応を回避することを可能にするブプレノルフィンまたはその塩と送達系を発見した。
【0020】
本発明のブプレノルフィンまたはその塩の送達系は、ブプレノルフィンまたはその塩の延長放出および局所放出を可能にする。例えば、本発明の組成物は、低用量のブプレノルフィンまたはその塩の局所送達により、長期術後疼痛管理を可能にする。このような送達は、中枢性の副作用を回避し、一方でオピオイドを数回投与する必要なく、末梢鎮痛の期間を延長することを可能にする。例えば、本発明の組成物は、単回注射で数日間、疼痛を緩和するのに有用であり得る。
【0021】
定義
本明細書で使用される表現「に基づくマトリックス(matrix based on)」は、少なくとも成分(a)~(c)の混合物を含むマトリックスおよび/または反応、特に少なくとも成分(a)~(c)間の重合により生じたマトリックスを意味する。したがって、成分(a)~(c)は、マトリックスの重合(例えば、不均一な媒体重合)に使用される出発成分として理解され得る。
【0022】
本明細書で使用される表現「反応混合物」は、重合に関与するいずれかの成分を含む重合媒体を示す。反応混合物は、典型的に、少なくとも、特許請求の範囲および本明細書で定義される成分a)、b)、c)、場合により重合開始剤、例えば、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)とも称される)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、または場合により、1以上の光開始剤、例えば、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)、および少なくとも1種の溶媒、好ましくは、水性溶媒と非極性非プロトン性溶媒などの有機溶媒を含む溶媒混合物、例えば、水/トルエン混合物および場合により本明細書に記載の任意の適切な成分(例えば、ポリビニルアルコールなどの)安定化剤を含む。
【0023】
したがって、本明細書において、「[出発成分X]をYY%~YYYY%の量で反応混合物に添加する」および「架橋マトリックスは、YY%~YYYY%の量の[出発成分X]に基づく」などの表現は、同様に理解される。同様に、「反応混合物は少なくとも[出発成分X]を含む」および「架橋マトリックスは、少なくとも[出発成分X]に基づく」などの表現も、同様に理解される。
【0024】
本発明の内容において、反応混合物の「有機相」は、有機溶媒および前記有機溶媒に可溶な化合物、特にモノマー、および重合開始剤を含む相を意味する。
【0025】
本明細書で使用される用語「(CX-CY)アルキル基」は、X~Y個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和一価炭化水素鎖を意味し、ここでXおよびYは、1~36、好ましくは1~18、特に1~6の整数である。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルまたはヘキシル基が挙げられる。
【0026】
本明細書で使用される用語「アリール基」および「(CX-CY)アリール」は、好ましくはX~Y個の炭素原子を有する芳香族炭化水素を意味し、ここでXおよびYは、6~36、好ましくは6~18、特に6~10の整数である。アリール基は、単環式または多環式(縮合環)であり得る。例としては、フェニル基またはナフチル基が挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される用語「分配係数P」は、平衡状態における2つの非混和溶媒:水および1-オクタノールの混合物中の化合物の濃度比を意味する。したがって、この比は、これらの2つの液体における溶質の溶解度を比較したものである。したがって、オクタノール/水分配係数は、化合物がどの程度親水性(オクタノール/水比<1)または疎水性(オクタノール/水>1)であるかを測定するものである。分配係数Pは、水中および1-オクタノール中の化合物の溶解度を測定することにより、オクタノールにおける溶解度/水における溶解度の比を計算することにより決定され得る。分配係数Pはまた、ChemAxonにより提供されるChemicalizeを用いて、イン・シリコで計算され得る。
【0028】
本明細書で使用される解性クロスリンカーの疎水性/親水性平衡Rは、次の式:
【数1】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
に従って、疎水性単位の数と親水性単位の数の比により数値化され得る。
【0029】
例えば、本発明において使用され得るクロスリンカーについて、Rは:
【数2】
〔式中、Nは整数であり、単位の数を表す〕
である。
【0030】
本明細書で使用される用語「分解性マイクロスフェア」は、マイクロスフェアが、腎臓ろ過の50kg・mol-1の閾値を下回る分子量を有する低分子量の化合物および水溶性ポリマー鎖から成る分解生成物の混合物中で加水分解により分解または開裂することを意味する。
【0031】
本明細書で使用される表現「親水性分解性マイクロスフェア」は、水性媒体との良好な適合性および固体表面(シリンジ、針、カテーテル)への低付着性を可能にする親水性モノマーを10%~90%含む分解性マイクロスフェアを意味する。
【0032】
本明細書で使用される表現「X~Y」(XおよびYは数値である)は、XおよびYを限定する数値範囲が含まれる。
【0033】
本明細書で使用される、有効成分の「即時放出(IR)」という表現は、製剤が投与されてすぐに、製剤から送達箇所へ有効成分が迅速に放出されることを意味する。
【0034】
本明細書で使用される、有効成分の「延長放出」という表現は、製剤から送達箇所まで所定の速度で長期間にわたって有効成分を「持続放出(SR)」または「制御放出(CR)」し、最小限の副作用で一定の有効成分レベルを維持することを意味する。制御放出(CR)は、CRが一定の速度で持続的な期間にわたって薬物放出を維持し、持続放出(SR)が薬物放出を一定の速度ではなく持続的に放出する点で、SRと相違する。
【0035】
本明細書で使用される、有効成分の「持続放出」という表現は、初回用量部分により、目的の組織中の薬物を治療濃度で特定の予め決定された時間維持するための、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0036】
本明細書で使用される表現、有効成分の「制御放出(CR)」という表現は、時間的もしくは空間的な性質またはその両方を一部制御することを提供する、製剤から送達箇所への有効成分の延長放出(上記で定義される)を意味する。
【0037】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の製造に有用なもの、および医薬用途について一般に安全であり、非毒性のものを意味することが意図される。
【0038】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、上記で定義されるとおり薬学的に許容され、かつ対応する化合物の薬理学的活性を有する化合物の塩を意味する。このような塩は、下記のものを含む:
(1)水和物および溶媒和物、
(2)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸などの無機酸を用いて形成される;または酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフト酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機酸を用いて形成される酸付加塩、および
(3)化合物中に存在する酸プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアルミニウムイオンなどの金属イオンで置換されたとき;または有機または無機塩基と配位したときに形成される塩。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどを含む。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含む。
【0039】
モルパーセントは、本明細書においてmol%と略記される。
【0040】
マイクロスフェア
本発明によれば、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも次の成分:
a)10mol%~90mol%の一般式(I):
(CH
2=CR
1)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR
2R
3)
m-CH
3、-(CH
2-CH
2-O)
m-H、-(CH
2-CH
2-O)
m-CH
3、-(CR
2R
3)
m-OHまたは-(CH
2)
m-NR
5R
6であり、ここでmは1~30の整数であり;
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、互いに独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基である〕
の親水性モノマー;
b)0.1mol%~30mol%の式(II):
【化2】
〔式中、
R
7、R
8、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、(C
1-C
6)アルキル基またはリール基であり;
iおよびjは、互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは、単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー;および
c)5mol%~90mol%の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH
2=(CR
11))-基を有し、各R
11が互いに独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基であり、かつ前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーが9-3~11.2、典型的には、0.5~11.2の分配係数P、または1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する、分解性ブロックコポリマークロスリンカー
に基づくものであり、好ましくは、少なくともこれらの成分の重合により生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0041】
分配係数Pは、ChemAxonにより提供された成分a)~c)のmol%を用いて、イン・シリコで決定される。
【0042】
親水性分解性マイクロスフェアがさらなるモノマー(下記モノマーe)を参照)に基づくものであるとき、成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して表される。
【0043】
用語「親水性モノマー」は、水に対して高い親和性を有する、すなわち、水に溶解しやすい、水と混合しやすい、水により湿潤しやすい、または重合後に水中で膨張することが可能なポリマーを生じさせるモノマーを意味する。
【0044】
ブロックコポリマークロスリンカーは、分解性ブロックコポリマークロスリンカー、すなわち、共有結合により結合した種々のブロックの直鎖状(または放射状)配置を有するポリマーである。分解性ブロックコポリマーにおいて、共有結合は、エステル結合、アミド結合、無水物結合、尿素結合またはポリサッカライド結合などの分解性のものであり、ここでは特にエステル結合である。
【0045】
Xが単結合であるとき、R7、R8、R9およびR10基を有する炭素原子は、単結合を介して直接結合することを意味する。
【0046】
親水性分解性マイクロスフェアは、生理食塩水溶液(すなわち、通常の食塩水溶液)中で膨潤後に20μm~1200μmの範囲の直径を有する、球状粒子の形態の膨潤分解性(すなわち、加水分解性)架橋ポリマーである。特に、架橋ポリマーは、少なくとも1つの上記で定義される重合化成分a)、b)およびc)の鎖で構成される。
【0047】
本発明の内容において、ポリマーは、液体、特に水を吸収する能力を有するならば、膨潤性である。したがって、「膨潤後のサイズ」という表現は、マイクロスフェアの大きさが、それらの製造中に生じる重合および滅菌の工程後に考慮されることを意味する。
【0048】
有利には、本発明のマイクロスフェアは、光学顕微鏡により決定して、生理食塩水溶液(すなわち、生理食塩水)中での膨潤後に20μm~100μm、40μm~150μm、100μm~300μm、300μm~500μm、500μm~700μm、700μm~900μmまたは900μm~1200μmの直径を有する。マイクロスフェアは、有利には、数百マイクロメートル~一ミリメートル以上の範囲の内径を有する針、カテーテルまたはマイクロカテーテルにより注入するために十分小さな直径である。
【0049】
親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH2=CR1)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-ZまたはNH-Zであり、ここでZは-(CR2R3)m-CH3、-(CH2-CH2-O)m-H、(CH2-CH2-O)m-CH3、-(CR2R3)m-OHまたは-(CH2)m-NR5R6であり、ここでmは1~30の整数であり;
R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基である〕
のものである。
【0050】
有利には、親水性モノマーa)は、sec-ブチル アクリレート、n-ブチル アクリレート、t-ブチル アクリレート、t-ブチル メタクリレート、メチルメタクリレート、N-ジメチル-アミノエチル(メチル)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル-(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル (メチル)アクリレート、N,N-ジエチルアミノアクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メタクリレート末端ポリ(エチレンオキシド)、メトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレンオキシド) メタクリレート、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート;有利には、アクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メタクリレート末端ポリ(エチレングリコール)、メトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレート、ブトキシポリ(エチレングリコール) メタクリレートから成る群から選択される。
【0051】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR2R3)m-CH3または-(CR2R3)m-OHであるとき、mは好ましくは、1~6の整数である。
【0052】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR2R3)m-CH3であるとき、Zは好ましくは、C1-C6-アルキル基である。
【0053】
いくつかの実施態様において、式(I)において、Zが-(CR2R3)m-OHであるとき、R2およびR3は好ましくは水素であり、mは1~6の整数である。
【0054】
いくつかの実施態様において、親水性モノマーa)は、一般式(I):
(CH2=CR1)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH2-CH2-O)m-Hまたは-(CH2-CH2-O)m-CH3であり、ここでmは1~30の整数であり;
R1は水素原子または(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチルである〕
のものである。
【0055】
より有利には、親水性モノマーa)は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル メタクリレート(m-PEGMA)である。
【0056】
親水性モノマーa)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)10mol%~90mol%、好ましくは30mol%~85mol%、より好ましくは30mol%~80mol%の範囲である。
【0057】
親水性モノマーa)は有利には、反応混合物中に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(または、e)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)、10mol%~90mol%、好ましくは30mol%~85mol%、より好ましくは30mol%~80mol%の量で存在する。
【0058】
成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
R7、R8、R9およびR10が、互いに独立して、水素原子、(C1-C6)アルキル基またはアリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0059】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
R7、R8、R9およびR10が、互いに独立して、水素原子または(C5-C7)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~2から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0060】
有利には、成分b)は、上記で定義される式(II)の環状モノマーであって:
R7、R8、R9およびR10が、互いに独立して、水素原子または(C5-C7)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である
ものである、環状モノマーである。
【0061】
有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよびその誘導体、特にベンゾ誘導体およびフェニル置換誘導体から成る群から、有利には、2-メチレン-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3-ジオキサン、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、2-メチレン-4-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンおよび5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンから成る群から、より有利には、2-メチレン-1,3-ジオキセパン、5,6-ベンゾ-2-メチレン-1,3-ジオキセパンおよび2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンから成る群から選択される。より有利には、成分b)は、2-メチレン-1,3-ジオキセパンまたは2-メチレン-1,3,6-トリオキソカンである。
【0062】
成分b)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に1mol%~10mol%の範囲である。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0063】
一般式(II)の環状モノマーb)は、有利には、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して0.1mol%~30mol%、好ましくは1mol%~20mol%、および特に5mol%~15mol%または1mol%~10mol%の範囲で、反応混合物中に存在する。いくつかの実施態様において、成分b)の量は、約10mol%である。
【0064】
成分c)は分解性ブロックコポリマークロスリンカーであり、ここで前記分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、直鎖状または星型であり、その全ての末端に(CH2=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基である。
【0065】
分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、-3~11.20、典型的には0.50~11.20、有利には3~9.00の分配係数Pを有する。いくつかの態様において、分配係数Pは-2~9の範囲である。または、分解性ブロックコポリマークロスリンカーは、1~20、有利には3~15の疎水性/親水性平衡Rを有する。
【0066】
クロスリンカーの疎水性、およびクロスリンカーの分配係数Pまたは疎水性/親水性平衡Rは、ブプレノルフィンまたはその塩のマイクロスフェア充填およびその後のブプレノルフィンまたはその塩の放出に影響を与える。1.90を超える分配係数Pまたは2を超える疎水性/親水性平衡Rを有するクロスリンカーは、特に、ブプレノルフィンまたはその塩の大部分の即時放出を妨げるため、ブプレノルフィンまたはその塩の最適な放出をもたらす。
【0067】
本明細書で使用される「コポリマークロスリンカー」という表現は、コポリマーが、複数のポリマー鎖を一緒に連結するためにその末端の少なくとも2つに二重結合を含む官能基を含むことを意味するために意図される。
【0068】
上記で定義されるクロスリンカーc)は、直鎖状または星型(有利には、3~8アーム)であり、その全ての末端に(すなわち、直鎖状の時はその2つの末端に、および星形の時は各アームの末端に)(CH2=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、クロスリンカーc)は、その全ての末端に(CH2=(CR11))-CO-を示し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、全てのR11は同一であり、水素原子または(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチル基である。
【0069】
いくつかの実施態様において、上記で定義されるクロスリンカーc)は直鎖状であり、その両端に(CH2=(CR11))-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基である。有利には、クロスリンカーc)はその両端に(CH2=(CR11))-CO-基を有し、各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチル基である。有利には、R11は同一であり、Hまたは(C1-C6)アルキル基、好ましくはメチル基である。
【0070】
クロスリンカーc)は、下記の一般式(IIIa)または(IIIc):
(CH2=CR11)-CO-Xn-PEGp-Xk-CO-(CR11=CH2) (IIIa);
W-(PEGp-Xn-O-CO-(CR11=CH2))z (IIIc);
〔式中、
各R11は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基であり;
Xは独立して、PLA、PGA、PLGA、PCLまたはPLAPCLを表し;
n、kおよびpは各々、XおよびPEGの重合度を表し、nおよびkは独立して、1~150の整数であり、pは1~100の整数であり;
Wは炭素原子、C1-C6-アルキル基(好ましくはC1-C3-アルキル基)、または1~6個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子を含むエーテル基であり;
zは3~8の整数である〕
のものである。
【0071】
式(IIIc)のクロスリンカーc)は、星型ポリマー、すなわち、中核部分に結合したいくつかの直鎖(アームとも称される)から成るポリマーである。式(IIIc)のクロスリンカーにおいて、Wは、星型ポリマーの中核であり、-(PEGp-Xn-O-CO-(CR11=CH2)は、星型ポリマーであり、ここでzはアームの数である。
【0072】
有利には、クロスリンカーc)が一般式(IIIc)のものであるとき、nは、PEGの各アームにおいて同一でも異なってもよい。
【0073】
本発明の内容において、本明細書で使用される略語は、次の意味を有する:
【表1】
【0074】
上の表において、n、pおよびkは本明細書に記載の値を有する。
【0075】
上記式(IIIa)において、pは、好ましくは1~25、好ましくは2~15の整数である。
【0076】
上記式(IIIc)において、pは、好ましくは1~16の整数である。
【0077】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPLAPCLまたはPCLを表す。より有利には、クロスリンカーc)は、一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでXはPCLを表す。
【0078】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでnおよびkは独立して、1~150、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは4~7の整数である。好ましくは、n+kは5~15または8~14の範囲であり、pは1~100、好ましくは1~20の整数である。
【0079】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)、特に式(IIIa)のものであり、ここでR11は同一であり、Hまたは(C1-C6)アルキル基である。
【0080】
有利には、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に式(IIIa)の化合物から成る群から選択され、ここで:
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA8-PCL2またはPEG13-PLA7-PCL3であり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA4-PCL5であり、R11はメチルである);
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PLA2-PCL6であり、R11はメチルである);
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCL8であり、R11はメチルである);
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12であり、R11はメチルである);
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG4-PCL10であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG2-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0081】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0082】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIc)の化合物であり、ここでpは7であり、X=PLAPCLであり、n=10であり、zは3であり、ここでR11は、好ましくは水素またはメチルである(例えば、PEG3アーム-PLA7-PCL3であり、R11はメチルである)。
【0083】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)または(IIIc)の化合物、特に式(IIIa)のから成る群から選択され、ここで:
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLA12であり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA8-PCL2またはPEG13-PLA7-PCL3であり、R11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA4-PCL5であり、R11はメチルである);
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG13-PLGA12であり、R11はメチルである);
X=PCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG13-PCL8であり、R11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG2-PCL12であり、R11はメチルである)
である。
【0084】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0085】
いくつかの実施態様において、クロスリンカーc)は、上記で定義される一般式(IIIa)から成る群から選択され、ここで:
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG13-PLA7-PCL3であり、R11はメチルである);
PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG13-PLA4-PCL5であり、R11はメチルである);
である
【0086】
これらの実施態様において、R11は、好ましくは水素またはメチルである。
【0087】
上記クロスリンカーc)の定義の範囲内で、ポリエチレングリコール(PEG)は、典型的に、100~10000g/mol、好ましくは100~2000g/mol、より好ましくは100~1000g/molの高い平均分子量(Mn)を有する。
【0088】
クロスリンカーc)の量は、典型的に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して(またはe)-下記参照-が存在するとき、成分a)、b)、c)およびe)の総モル数に対して、下記参照)5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%の量である。
【0089】
クロスリンカーc)は、有利には、反応混合物中に、成分a)、b)およびc)の総モル数に対して5mol%~90mol%、好ましくは5mol%~60mol%の範囲の量で存在する。
【0090】
親水性分解性マイクロスフェアの架橋マトリックスは、有利には、鎖転移剤d)に皿に基づくものであり、好ましくは、鎖転移剤d)の存在下、成分a)、b)およびc)の重合から生じる。
【0091】
本発明の目的のために、「転移剤」は、少なくとも1つの弱い化学結合を有する化学的化合物を意味する。この薬剤は、伸長するポリマー鎖のラジカル部位と反応し、鎖の伸長を妨げる。鎖転移過程において、ラジカルが一時的に転移剤へ移動し、別のポリマーまたはモノマーへラジカルを移動させることにより、伸長が再開する。
【0092】
有利には、鎖転移剤d)は、一官能性または多官能性チオール、ハロゲン化アルキル、遷移金属塩または錯体、および2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンなどの、フリーラジカル鎖転移過程で活性であることが知られている他の化合物から成る群から選択される。より有利には、鎖転移剤は、好ましくは2~24個の炭素原子、より好ましくは2~12個の炭素原子を有し、かつアミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基から選択されるさらなる官能基を有するまたは有さないシクロ脂肪族または脂肪族、チオールである。有利には、鎖転移剤d)は、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、ドデカンチオールおよびヘキサンチオールから成る群から選択される。
【0093】
鎖転移剤d)の量は、典型的に、親水性モノマーa)のモル数に対して0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の範囲である。
【0094】
鎖転移剤d)は、有利には、親水性モノマーa)のモル数に対して、例えば0.1~10mol%、好ましくは2~5mol%の量で反応混合物中に存在する。
【0095】
本発明の特定の態様において、架橋マトリックスは上記で定義される成分a)、b)、c)および場合によりd)からの開始にのみ基づき、上記の内容において、反応媒体に他の出発成分は添加されない。したがって、このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0096】
いくつかの実施態様において、架橋マトリックスは、有利には、少なくともさらなるイオン化したまたはイオン化可能な一般式(V):
(CH2=CR12)-M-E (V)、
〔式中、
R12は水素原子または(C1-C6)アルキル基であり;
Mは単結合または1~20個の炭素原子を有する二価ラジカル、有利には単結合であり;
Eはイオン化したまたはイオン化可能な基であり、有利には、-COOH、-COO-、-SO3H、-SO3
-、-PO4H2、-PO4H-、-PO4
2-、-NR13R14および-NR15R16R17
+から成る群から選択され;R13、R14、R15、R16およびR17は、互いに独立して、水素原子または(C1-C6)アルキル基である〕
のモノマーe)の重合にさらに基づくものであり、好ましくはその重合から生じる。
【0097】
本発明の内容において、イオン化したまたはイオン化可能な基は、荷電したまたは荷電し得る形態(イオン形態)である、すなわち媒体のpHに応じて少なくとも1つの正電荷または負電荷を有する基であると理解される。例えば、COOH基は、COO-の形態にイオン化され得て、NH2基は、NH3
+の形態の形態にイオン化され得る。
【0098】
イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの反応媒体への導入は、得られたマイクロスフェアの親水性の増大を可能にし、それにより前記マイクロスフェアの膨潤率を増大させ、さらにカテーテルおよびマイクロカテーテルによるそれらの注入を容易にする。さらに、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーの存在により、活性物質のマイクロスフェアへの充填が改善される。
【0099】
有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はカチオン性モノマーであり、有利には、2-(メタクリロイルオキシ)エチル ホスホリルコリン、2-(ジメチルアミノ)エチル (メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル (メタ)アクリレートおよび2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化アンモニウムから成る群から選択され、より有利には、前記カチオン性モノマーはジエチルアミノエチル (メタ)アクリレートである。有利には、イオン化したまたはイオン化可能なe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~20モル%または15モル%の量で反応混合物に存在する。したがって、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は100%でなければならないことが明らかである。
【0100】
別の有利な実施態様において、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチル アクリレート、2-カルボキシエチル アクリレートオリゴマー、3-スルホプロピル (メタ)アクリレートカリウム塩および2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウムから成る群から有利に選択されるアニオン性モノマーであり、より有利には、前記アニオン性モノマーはアクリル酸またはメタクリル酸である。イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)の量は、典型的に、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0.1モル%~30モル%、または1モル%~25モル%、または1モル%~10モル%、好ましくは2モル%~5モル%の範囲の量である。このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は、100%でなければならないことが明らかである。
【0101】
有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)は、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して0モル%~30モル%、有利には1モル%~30モル%好ましくは10モル%~15モル%の範囲の量で、反応混合物中に存在する。
【0102】
有利には、イオン化したまたはイオン化可能なモノマーe)はアクリル酸であり、有利には、モノマー(成分a)+b)+c)+e))の総モル数に対して1モル%~30モル%、好ましくは10モル%~15モル%の範囲の量で、反応混合物中に存在する。このような場合、モノマー(成分(a)、(b)および(c)および(e))の上記内容物の合計は、100%でなければならないことが明らかである。
【0103】
いくつかの実施態様において、親水性分解性マイクロスフェアは、少なくとも下記成分:
10~90mol%の一般式(I):
(CH
2=CR
1)-CO-D (I)
〔式中、
DはO-Zであり、ここでZは-(CH
2-CH
2-O)
m-Hまたは-(CH
2-CH
2-O)
m-CH
3であり、ここでmは1~30の整数であり;
R
1は水素原子または(C
1-C
6)アルキル基、好ましくはメチルである〕
の親水性モノマー、好ましくはm-PEGMA;
0.1~30mol%の式(II):
【化3】
〔式中、
R
7、R
8、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子または(C
5-C
7)アリール基であり;
iおよびjは互いに独立して、0~1から選択される整数であり;
Xは単結合または酸素原子である〕
の環状モノマー、好ましくは2-メチレン-1,3-ジオキセパン;および
5~90mol%の式:
(CH
2=CR
11)-CO-X
n-PEG
p-X
k-CO-(CR
11=CH
2) (IIIa)または
W(PEG
p-X
n-O-CO-(CR
11=CH
2))
z (IIIc);
〔式中、
R
11、X、W、n、p、k、zは本明細書に記載されるとおりであり、
好ましくはここで、
R
11は、互いに独立して、水素原子または(C
1-C
6)アルキル基であり;
X=PLA、n+k=12およびp=13(例えば、PEG
13-PLA
12であり、R
11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=10およびp=13(例えば、PEG
13-PLA
8-PCL
2またはPEG
13-PLA
7-PCL
3であり、R
11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=9およびp=13(例えば、PEG
13-PLA
4-PCL
5であり、R
11はメチルである);または
X=PLAPCL、n+k=8およびp=13(例えば、PEG
13-PLA
2-PCL
6であり、R
11はメチルである);または
X=PLGA;n+k=12およびp=13(例えば、PEG
13-PLGA
12でありR
11はメチルである);または
X=PCL;n+k=8およびp=13(例えば、PEG
13-PCL
8であり、R
11はメチルである);または
X=PCL、n+k=10およびp=4(例えば、PEG
4-PCL
10であり、R
11はメチルである);または
X=PCL、n+k=12およびp=2(例えば、PEG
2-PCL
12であり、R
11はメチルである)である〕
の分解性ブロックコポリマークロスリンカーであって、-3~11.2、典型的には0.5~11.2の分配係数Pまたは1~20の疎水性/親水性平衡Rを有する分解性ブロックコポリマークロスリンカーの重合に基づくか、これらの重合から生じる架橋マトリックスを含み、ここで成分a)~c)のmol%は、化合物a)、b)およびc)の総モル数に対して表される。
【0104】
成分a)、b)およびc)の量は、本明細書に記載されるとおりであり得る。
【0105】
本発明のマイクロスフェアは、当分野で既知の多くの方法により容易に製造され得る。例として、本発明のマイクロスフェアは、下記および実施例において記載するとおり、直接または逆懸濁重合により、またはマイクロ流体により得られ得る。
【0106】
直接懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部の水溶液に対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;
(iv)100重量部の水溶液に対して、約10重量部を超えない、好ましくは約5重量部を超えない、および最も好ましくは1~4重量部の範囲の量の塩;および
(iv)水中油懸濁液を形成するための水
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0107】
このような直接懸濁重合において、界面活性剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールおよびポリソルベート20(Tween(登録商標)20)から成る群から選択され得る。
【0108】
逆懸濁は、次のとおり進行し得る:
(1)(i)少なくとも、上記で定義される成分a)、b)およびc);
(ii)100重量部のモノマーに対して0.1~約2重量部の範囲の量で存在する重合開始剤;
(iii)100重量部の油相に対して約5重量部を超えない、好ましくは約3重量部を超えない、および最も好ましくは0.5~1.5重量部の範囲の量の界面活性剤;および
(iv)油中水懸濁液を形成するための油;
を含む混合物を撹拌または激しく撹拌し;
(2)出発成分を重合させる。
【0109】
このような逆懸濁法において、界面活性剤は、ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20)、ソルビタンモノパルミテート(Span(登録商標)40)、ソルビタンモノオレート(Span(登録商標)80)およびソルビタントリオレート(Span(登録商標)85)などのソルビタンエステル、ヒドロキシエチルセルロース、グリセリルステアレートおよびPEGステアレートの混合物(Arlacel(登録商標))ならびにセルロースアセテートから成る群から選択され得る。
【0110】
上記工程において、重合開始剤は、t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスシアノ吉草酸(4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸としても知られる))、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、または1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)または1以上の光開始剤、例えば2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(106797-53-9);2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur(登録商標)1173、7473-98-5);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(24650-42-8);2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(登録商標)、24650-42-8)または2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(登録商標)、71868-10-5)を含み得る。
【0111】
さらに、油は、パラフィン油、シリコーン油およびヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチルまたは酢酸ブチルなどの有機溶媒から選択され得る。
【0112】
充填は、受動的吸着(薬物溶液中でのポリマーの膨潤)またはイオン相互作用などの、当業者に既知の多くの方法により実施され得る。
【0113】
薬物充填量を増加させ、薬物放出速度を制御するために、非共有相互作用により薬物と相互作用することができる特定の化学部分をポリマー骨格に導入する概念が考案された。このような相互作用の例は、とりわけ、静電相互作用(以降に記載する)、疎水性相互作用、π-πスタッキングおよび水素結合を含む。
【0114】
薬物
組成物は有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0115】
有利には、ブプレノルフィン遊離塩基またはブプレノルフィン塩酸塩などのその薬学的に許容される塩の形態である。有利には、ブプレノルフィンは塩酸塩の形態である。
【0116】
有利には、本発明の組成物において、ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、非共有相互作用により、上記で定義されるマイクロスフェアに充填/吸収される。薬物またはプロドラッグを封入するこの特定の方法は、物理的封入と称される。
【0117】
本発明のマイクロスフェアへのブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、マイクロスフェア製造後のブプレノルフィン前充填などの当業者に既知の多くの方法により実施され得る。溶液中のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を予め決定された時間分解性マイクロスフェアと混合し、その後混合物を凍結乾燥する。
【0118】
有利には、本発明の組成物は、0.1~50mg/mL、より有利には、0.5~10mg/mLのブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0119】
有利には、本発明の組成物は、初日に20wt%未満の初期充填量で、破裂することなくブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を放出し、その後1~30日間毎日、初期充填量の5wt%~15wt%の一定の送達速度で放出する。
【0120】
有利には、生物体内に留置した後、本発明の組成物は、留置(皮膚、関節、臓器、筋肉)後の最初の時間に破裂することなく、血漿中でブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を放出する。ブプレノルフィン濃度は1~7日間、有利には1~15日間、好ましくは1~30日間、1ng/mL~8ng/mLの治療範囲内で維持することが可能であり、または好ましくは、ブプレノルフィン充填値が、血漿での破裂なしに末梢鎮痛を得るための局所送達に対して低い(<1mg/mL)ときは、血漿中で検出されない。
【0121】
組成物
本発明の組成物は、有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩、少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および薬学的に許容される担体を含む。担体は注入による投与に適切である。
【0122】
ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩および親水性分解性マイクロスフェアは、上記で定義されるとおりである。
【0123】
本発明によれば、薬学的に許容される担体は注入によるブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の投与を意図するものであり、有利には、注射用水、デンプン、ヒドロゲル、ポリビニルピロリドン、ポリサッカライド、ヒアルロン酸エステル、造影剤および血漿から成る群から選択される。
【0124】
製剤は、筋肉内、皮下または関節内注射により投与され得る。分解性マイクロスフェア製剤はシリンジによる投与が可能であり、例えば、マイクロスフェアのサイズおよび分布を実施例7に示す。これは21~34ゲージの針での投与を可能にする。
【0125】
本発明の組成物はまた、緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤またはこれらの混合物を含み得る。有利には、薬学的に許容される担体は、生理食塩水または注射用水である。
【0126】
本発明の組成物は、数時間から数か月の範囲の期間にわたるブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の延長放出、特に制御放出を可能にする。有利には、本発明の組成物は1日~7日間、有利には1~15日間、より有利には1~30日間のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の制御放出を可能にする。
【0127】
本発明の組成物は、例えば、成分a)および/またはc)の性質または含量を調節することにより、上記で定義される一時的な制御および持続放出を可能にする。
【0128】
本発明はまた、中程度から重度の疼痛の予防および/または処置に使用するための、上記で定義される組成物に関する。
【0129】
本発明はまた、術後疼痛の予防および/または処置、特に局所的な術後疼痛の処置に使用するための、上記で定義される組成物に関する。
【0130】
本発明はまた、オピオイド依存症、オピオイド耐容性およびオピオイド離脱症状などのオピオイド使用障害の予防および/または処置に使用するための、上記で定義される組成物に関する。
【0131】
本発明はまた、必要とする対象に有効量の上記で定義される組成物を投与することを含む、中程度から重度の疼痛を予防および/または処置する方法に関する。
【0132】
本発明はまた、必要とする対象に有効量の上記で定義される組成物を投与、有利には局所投与することを含む、術後疼痛を予防および/または処置する、特に術後疼痛を局所的に処置する方法に関する。
【0133】
本発明はまた、必要とする対象に有効量の上記で定義される組成物を投与することを含む、オピオイド依存症、オピオイド耐容性およびオピオイド離脱症状などのオピオイド使用障害を予防および/または処置する方法に関する。
【0134】
本発明はまた、中程度から重度の疼痛を予防および/または処置する医薬のための、上記で定義される組成物の使用に関する。
【0135】
本発明はまた、術後疼痛を予防および/または処置する、特に術後疼痛を局所的に処置する薬剤の製造のための、上記で定義される組成物の使用に関する。
【0136】
本発明はまた、オピオイド依存症、オピオイド耐容性およびオピオイド離脱症状などのオピオイド使用障害を予防および/または処置する薬剤の製造のための、上記で定義される組成物の使用に関する。
【0137】
即座の充填
本発明の特定の実施態様において、ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、乾燥無菌マイクロスフェアに即座に充填され得る。
【0138】
したがって、本発明はまた、
i)少なくとも1つの上記で定義される親水性分解性マイクロスフェア、および注入投与のための薬学的に許容される担体;
ii)有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩;および
iii)場合により、注入デバイス、
を含む医薬キットであって、親水性分解性マイクロスフェアおよびブプレノルフィンが別個に包装されたものである、キットに関する。
【0139】
このような実施態様において、ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、有利には、注入直前に親水性分解性マイクロスフェアに充填されることが意図される。
【0140】
有利には、ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩は、上記で定義されるとおりである。
【0141】
本発明によれば、「注入デバイス」は、非経腸投与のためのいずれかのデバイスを意味する。有利には、注入デバイスは、予め満たされていてよい1以上のシリンジ、および/または1以上のカテーテルまたはマイクロカテーテルである。
【0142】
マイクロスフェアの使用
本発明はまた、必要とする対象への有効量の抗微生物ペプチドの局所送達、遊離には制御および局所送達のための、上記で定義される水性分解性マイクロスフェアの使用に関する。
【0143】
ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩および親水性分解性マイクロスフェアは、上記で定義されるとおりである。
【0144】
有利には、ブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩の持続送達は、破裂することなく、数時間から数か月間、有利には、本発明の組成物は1日~7日間、有利には1~15日間、より有利には1~30日間の範囲の期間にわたるものである。
【0145】
本発明はまた、注入投与のための薬学的に許容される担体とともに本明細書に記載の親水性分解性マイクロスフェアを投与することを含む、それを必要とする対象に有効量のブプレノルフィンまたはその薬学的に許容される塩を、有利には破裂することなく、数時間から数か月間、有利には1日~7日間、有利には1~15日間、より有利には1~30日間の範囲の期間にわたって送達するための方法に関する。
【0146】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、いかなる場合であっても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0147】
以下で使用される「BPN」とは、ブプレノルフィン塩酸塩をいう。
【0148】
以下で使用される「MS」とは、マイクロスフェアをいう。
【0149】
実施例1:充填されていない本発明によるマイクロスフェアの製造
出発成分およびそれらの含量を表1a、表1bおよび表1cに要約する。表1aおよび1bはまた、マイクロスフェア合成に使用される主要なパラメーターを要約する。
【表2】
【表3】
【表4】
【0150】
1wt% ポリビニルアルコール(Mw=13000~23000g/mol)、3wt% NaCl脱イオン水溶液を含む水相溶液(917mL)を1dm3の反応器に入れ、50℃に加熱した。
【0151】
有機相を三角フラスコに調製した。簡潔には、トルエン(36.9g)および2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(0.28重量%/有機相重量)を計量した。AIBNを別のバイアルへ入れ、一定体積分率(約30%)の計量したトルエンに溶解した。
【0152】
その後、分解性クロスリンカーを三角フラスコに計量した。ポリエチレングリコールメチルエーテル メタクリレート(Mn=300g/mol)またはtert-ブチル メタクリレート(Mn=142.2g/mol)および2-メチレン-1,3-ジオキセパン(MDO)を計量し、三角フラスコに添加した。その後、トルエンの残量を添加し、モノマーを溶解した。ヘキサンチオール(3mol%/m-PEGMAまたはtert-ブチル メタクリレートのモル)を三角フラスコに添加した。AIBNのトルエン溶液を、モノマーを含む三角フラスコに添加した。最後に、激しく撹拌することなく有機相を透明にし(モノマーおよび開始剤は完全に可溶化されなければならない)、その後、水相へ導入した。
【0153】
50℃で、有機相を水相へ注いだ。その後、撹拌翼を用いて撹拌(240rpm)した。4分後、温度を80℃に昇温させた。8時間後、撹拌を停止し、40μmのふるい上でろ過することによりマイクロスフェアを回収し、アセトンおよび水で徹底的に洗浄した。その後マイクロスフェアをふるいのサイズを減少させながら、ふるいにかけた(125μm、100μm、50μm)。50~100μmのサイズ範囲のMSを、薬物回収試験のために回収した。
【0154】
実施例2:ブプレノルフィン塩酸塩を用いた実施例1に従ったマイクロスフェアの充填(MS合成後の前充填)
ふるい分け工程の後、実施例1で得られた1mLのマイクロスフェア(サイズ範囲50~100μm)を15mLポリプロピレンバイアルに入れ、重炭酸ナトリウム水溶液(4mM)を3mL添加した。組成に応じたMSバッチの番号付けを表2に示す。室温でマイクロスフェアと5分間混合した後、10mg/mLのブプレノルフィン塩酸塩(Sigma、PHR1729-50MG)の水溶液添加した(1mg~50mg)。ブプレノルフィン塩酸塩の充填および持続送達を試験するために使用したMS製剤を表2に要約する。
【表5】
【0155】
充填工程はチューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら室温で2時間実施した。
【0156】
その後、蛍光分析法(λ
em 280nm、λ
Em 354nm)により結合していないブプレノルフィン塩酸塩を測定するため、上清を除去した。上清中のブプレノルフィン塩酸塩の量は、標準曲線(0.6~25μg/mL)からの外挿により得られた。初期量から最終的なブプレノルフィン塩酸塩の量を減算することで、充填量を算出した。充填効率は次の式で計算した:充填効率=((フィード中のブプレノルフィン塩酸塩-上清中のブプレノルフィン塩酸塩/フィード中の)×100。ペレットを10mLの水で洗浄し、マイクロスフェアペレットを凍結乾燥した後、電子ビーム滅菌(15~25キログレイ)した。5%の架橋剤を含む試験された各MS製剤についてのブプレノルフィン装填を表3に要約する
【表6】
【0157】
ブプレノルフィン塩酸塩の添加量を増加させたると、予め形成されたマイクロスフェアに良好な収率で充填を達成することが可能であった。1mg/mLのブプレノルフィン充填目標に対して、種々の組成のマイクロスフェアの薬物充填量は85%であり、架橋剤の組成による変動は小さかった(表3および
図1)。充填効果は、最も疎水性の高いクロスリンカー、PEG
13-PCL
8およびPEG
2-PCL
12を含むミクロスフェアでそれぞれ94%および97%と顕著に高く、疎水性の低いクロスリンカー含むMSでは充填量が低かった(<90%)(表3および
図1)。直鎖状のクロスリンカーの代わりに分解性3アームクロスリンカーPLA
7-PCL
3が存在しても、ブプレノルフィン充填に支障はなかった(MS15)。
【0158】
分解性マイクロスフェアに組み込まれたクロスリンカー濃度の増加の影響を分析した。5-15-30または50mol%の分解性クロスリンカーを含むMS製剤についてのブプレノルフィン塩酸塩の充填を表4に要約する。クロスリンカーPEG
13-PLA
7-PCL
3またはPEG
13-PCL
8の濃度が(5%~30mol%まで)増加したとき、ブプレノルフィン塩酸塩の量は顕著に改善した(
図2)。
【0159】
マイクロスフェアが15%、30%または50mol%の分解性クロスリンカー(PEG
13-PLA
7-PCL
3、PEG
13-PCL
8<-,><- >PEG
2-PCL
12)を含んだとき、薬物充填はほぼ完了し、充填目標1または4mg/mLに対して95%超の量であった(表4)。より疎水性の高いクロスリンカー、PEG
13-PCL
8およびPEG
2-PCL
12へを含むマイクロスフェアへのブプレノルフィン塩酸塩については明白な差異は存在せず、4mg/mLの充填目標に対して95%を超えた。より疎水性の高いtert-ブチル メタクリレートモノマーを親水性モノマーであるm-PEGMAに置き換えたとき、ブプレノルフィン充填は高い効果を達成した(MS17)。
【表7】
【0160】
5%または15mol%のクロスリンカーPEG
13-PCL
8を含むマイクロスフェアへの50mg/mLでの高いブプレノルフィン塩酸塩の充填目標について、充填効率は目標の1mg/mL(>95%)より低かった(85%)(
図3)。約40mgのブプレノルフィンが、5%または15mol%の分解性クロスリンカーを含む分解性マイクロスフェアに充填可能である。クロスリンカー含量はブプレノルフィン充填効率に影響を与えなかった。
【0161】
ブプレノルフィンのペイロードは、予め形成された分解性マイクロスフェアで調整可能である。低い薬物ペイロードは、例えば末梢鎮痛のために少量のブプレノルフィンの局所放出に適しており、高い薬物充填量は、例えばオピオイド依存症の患者の治癒のために数週間一定の血漿中ブプレノルフィン濃度を得るのに有用であると思われる。
【0162】
実施例3:実施例2に従って充填されたマイクロスフェアからのブプレノルフィンのインビトロ放出の試験
ブプレノルフィン塩酸塩を充填した無菌乾燥マイクロスフェアについて、マイクロスフェアの膨潤工程を10mLの水(Sigma W-3500)中で10分間実施した。水を除去した後、25mLのPBS(Sigma P-5368;10mM リン酸緩衝化食塩水;0.136M NaCl;0.0027M KCl;pH7.4)を添加した。
【0163】
薬物の溶出は振盪下(150rpm)、37℃で起こり、チューブをオーブン内に水平に置いた。チューブをオーブン中に水平に置いた。サンプル(2mL)を5時間後および毎日採取した。サンプリング時間に培地を新鮮PBSで完全に入れ替えた。水中およびPBS上清中の遊離ブプレノルフィンの量を蛍光分析法((λex 280nm、λEm 354nm)により決定した。
【0164】
結果を表5ならびに
図4、5、6、7および8に示す。
【0165】
ブプレノルフィンを充填した無菌乾燥マイクロスフェアの水和を水中で10分間実施し、その後PBS中に移した。マイクロスフェアの水和中のブプレノルフィン量を表5および
図4に示す。17%のペイロードが水和工程中に除去されたMS14を除いて、クロスリンカーの疎水性の顕著な効果を伴うブプレノルフィンの制御放出(<10%)が水中で観測された。水和したマイクロスフェアをPBSに移すと、放出されるブプレノルフィンの量が増加し、薬物の溶出は分解性クロスリンカーの疎水性に応じて減少した。
【0166】
初期の薬物放出は、より疎水性の高いクロスリンカー(PEG
13-PCL
8およびPEG
2-PCL
12)の存在下では低く、すなわち疎水性の低いクロスリンカーを含んだMS2およびMS3の35%と比較して、MS6では48時間で10%であった(
図4D)。水中でのMS水和後のPBS中でのブプレノルフィンのインビトロ放出は、分解性クロスリンカーの疎水性に依存する。
【表8】
【0167】
PBS中での放出の初期段階(
図4)の後、種々のマイクロスフェアからの放出プロファイルは、クロスリンカー組成に依存するその分解時間に応じて可変的であった(
図5)。クロスリンカー組成(
図5)。PBS中で、MS14、MS1、MS2、MS3では、それぞれ1日、4日、7日および10日に分解し、より疎水性の高いクロスリンカー(PEG
13-PLA
4-PCL
5、PEG
13-PCL
8およびPEG
2-PCL
12)を含むMSについては、MSの分解は遅く、14日で達成されなった。ブプレノルフィンの長期かつ持続的な送達はMS6を用いて達成できた。
【0168】
クロスリンカーの疎水性は、水中での膨潤工程後のMSからのブプレノルフィンの初期流速を制御し、MS分解時間を制御することによって放出のさらなる段階を制御する。実施例1の分解性マイクロスフェアからのブプレノルフィンの流速は、MS分解時間に依存し、その結果、クロスリンカーの疎水性に依存する。
【0169】
PBS中でのブプレノルフィン放出期間は、MS分解時間、すなわち分解性クロスリンカーの分配係数Pにしたがって増加する。放出実験中のMSの分解順序は、クロスリンカーの疎水性に従うため、MS14は24時間、MS1は4日、MS2は7日、MS3は10日で分解した。より疎水性の高いクロスリンカーを5mol%含む他のMS(MS4、MS5およびMS6)は、PBSでの2週間のインキュベート期間中に分解しなかった。5mol%の3アームクロスリンカーのMS15は5mol%の直鎖状クロスリンカーのMS3より分解が遅く、ブプレノルフィン放出は2つのマイクロスフェアで異なった。クロスリンカーの構造(直鎖または分岐)は、分解性MSからのブプレノルフィン放出を制御する因子であると考えられる。
【0170】
ブプレノルフィン放出に対する分解性MS中のクロスリンカー濃度の影響を
図6および
図7に示す。クロスリンカーPEG
13-PLA
7-PCL
3またはPEG
13-PCL
8を5mol%含むマイクロスフェアと比較して、マイクロスフェアがクロスリンカー15%または30mol%含むとき、水中での膨潤工程およびPBS中でのインキュベート初期(5時間、24時間および48時間)のブプレノルフィン放出が顕著に減少した(
図6)。PBS中で48時間後、疎水性が増加する分解性クロスリンカーを5mol%含むMS3およびMS5について、それぞれ40%または20%であったのに対し、高度に架橋したマイクロスフェア(MS7、MS10、MS8、MS11)からは約10%のブプレノルフィンが溶出した。
【0171】
高濃度のクロスリンカーでは、5mol%のクロスリンカーのマイクロスフェアと比較して、ブプレノルフィンの溶出が顕著に減少した。15mol%または30mol%のクロスリンカーでは、ブプレノルフィンの溶出プロファイルについて、2つのグループ間でほとんど差異がなかった(
図6および
図7)。分解性MSからのブプレノルフィン溶出はマイクロスフェアの架橋度によって制御でき、ハイドロゲルのメッシュサイズが薬物放出に大きく影響することが示された。
【0172】
高度に架橋したマイクロスフェアからのブプレノルフィン放出(>5%)は、PBS中で少なくとも2週間持続した。クロスリンカー濃度の増加はブプレノルフィン放出期間を延長し、ブプレノルフィンの流速を低減した(
図7)。
【0173】
インビトロ放出プロファイルへのブプレノルフィンペイロードの影響を、同一のクロスリンカーで2つの濃度について試験した(
図8)。分解性MS5およびMS8マイクロスフェアからのブプレノルフィン放出は、ペイロード:1mg/mLまたは43mg/mLにより大きく変化しなかった(
図8)。
【0174】
以前の観測(
図7)に従って、各ペイロードについての放出はクロスリンカー含量に依存し、5mol%のクロスリンカーを含むMS(MS5)と比較して、15mol%のクロスリンカーを含むMS(MS8)は、各ペイロードについて放出量が少なかった。これらの結果により、クロスリンカーの疎水性に加えて、ヒドロゲルのメッシュサイズがブプレノルフィン溶出に重要なパラメーターであることが確認される。
【0175】
ブプレノルフィン放出期間の延長は、希水酸化ナトリウム溶液中でのマイクロスフェアの迅速な分解中に観測されたマイクロスフェア分解時間の延長により説明され得る(
図9)。
【0176】
実施例4.実施例1に従った、無菌マイクロスフェアへのブプレノルフィン塩酸塩即座の充填
ふるい分け工程の後、実施例1で得られた1mLのマイクロスフェア(サイズ範囲50~100μm)の、2.5%(w/v)マンニトールおよび4mM 重炭酸ナトリウムを含む15mLの溶液との懸濁液を調製した。均一化後、マイクロスフェアのペレットを回収し、凍結乾燥し、電子ビーム照射(15~25キログレイ)により滅菌した。その後、3mLの水に溶解したブプレノルフィン塩酸塩(1mgから4mgまで)を、滅菌乾燥マイクロスフェアに添加した。
【0177】
充填工程はチューブ回転機(約30rpm)で撹拌しながら室温で5分間実施した。その後、蛍光分析法(λ
em 280nm、λ
Em 354nm)により結合していないブプレノルフィン塩酸塩を測定するため、上清を除去した。ブプレノルフィン塩酸塩の量は、標準曲線(0.6~25μg/mL)からの外挿により得られた。乾燥無菌MSへの即座のブプレノルフィン充填を表6に要約する。その後、インビトロ薬物放出試験(37℃、150rpm)のために、ブプレノルフィン塩酸塩を充填したマイクロスフェアにPBS(25mL)を添加した。ブプレノルフィン塩酸塩の放出を蛍光分析法(λ
ex 280nm、λ
Em 354nm)により分析した(
図10)。
【表9】
【0178】
乾燥無菌マイクロスフェアへのブプレノルフィンは、平均収率71%で実施可能であった。充填後、マイクロスフェアをPBS中に直ちに移すことにより、メタクリル酸を含むマイクロスフェア(MS16)について顕著な薬物放出が誘発された(
図10)。対照的に、メタクリル酸を含まないマイクロスフェア(MS3およびMS11)については、放出はより持続的であった。放出はMS分解時間に依存し、5mol%の低疎水性クロスリンカー(PEG
13-PLA
7-PCL
3;LogP=3.2)のMS3では、完全なMS分解まで薬物放出が10日間持続した。30mol%のより疎水性の高いクロスリンカー(PEG
13-PCL
8;LogP=6.5)のMS11では、ブプレノルフィンの流速がより遅く、薬物放出はPBS中で1か月後でも達成されなった。無菌乾燥マイクロスフェアへのブプレノルフィンの即座の充填は、MS分解時間により制御される持続的な薬物放出を可能にする。
【0179】
実施例5:実施例2に従った、ブプレノルフィンを充填した分解性マイクロスフェアをウサギに皮下注射した後の期間中の血漿ブプレノルフィン濃度試験
ブプレノルフィン(目標充填量2または4mg/mL)を充填した分解性マイクロスフェア(MS3およびMS4、ブプレノルフィンはそれぞれ10日および30日)を、鎮静作用の発現をよりよく観察するために、ニュージーランドウサギ(n=5)の背中の皮下に麻酔なしで埋め込んだ。注射用ブプレノルフィン(Bupaq(登録商標)、複数回用量0.3mg/mL 注射用溶液、Virbac)を、参照として60μg/kg/日の用量で投与した。次の時点:注射前(T0)、15分、30分、1時間、3時間、5時間、24時間、2日、4日、7日、14日、21日、28日でブプレノルフィンの全身濃度を評価するために、耳介動脈で血液サンプル(約2.5mL)を回収した。ブプレノルフィンの定量は、組み合わせたHPLC-MS/MS(LOD=0.1ng/mL、LOQ=0.3ng/mL)で実施した。注入されたブプレノルフィンの用量は、分解性マイクロスフェアからのブプレノルフィン溶出期間にわたって注射用ブプレノルフィンを繰り返し注射するのと同等の用量、すなわち10日間の送達については、注射用ブプレノルフィンの総注入量は、注射1回あたり30または60μg/kg×10注入と決定された(表7)。
【表10】
【0180】
ウサギに投与された種々の用量は、MS分解時間と注射されたブプレノルフィンの量に応じて2匹の動物間で変化する1つのパラメーターを用いて、一組で動物を比較することを可能にするために選択した。動物1および2は3mg/mLで充填されたMS4を受けたが、動物1は動物2と比較して3倍のMSを受け、それぞれ30日および10日の処置期間に相当する。動物2および3は、同濃度で充填された同量のMSを受けたが、動物2はMS4を受け、動物3はMS3を受けた。動物3および4は同一の処置を受けた。動物4と5は共にMS3を受けたが、動物4は3mg/mLのMSを受け、動物5は1.5mg/mLで充填されたMSを受けた。MSの分解時間とブプレノルフィンの投与量に応じて、血漿レベルを分析した(
図11)。対照として、注射用ブプレノルフィン(Bupac、0.3mg/mL)を60μg/Kgで1回投与した。
【0181】
インビボで、ブプレノルフィン充填MSをウサギに皮下留置した後、ブプレノルフィンの血漿通過はバーストすることなく起こり、MS3およびMS4でそれぞれ4日間または7日間持続し、これはインビボブプレノルフィン溶出へのマイクロスフェア分解時間への影響を示す(表8)。
【0182】
MS3およびMS4については、留置されたブプレノルフィン量を増加させても血漿中に存在する期間は延長されず、ブプレノルフィンの血漿濃度が上昇するのみであった(
図11)。インビトロ試験と比較してブプレノルフィンの放出はインビボで加速された(
図5)、ブプレノルフィンはMS3からは10日でPBSから溶出し、MS4での溶出はPBS中で2週間後でも完了しなかった。ウサギへの皮下留置後、血漿中でのブプレノルフィン放出は遅延し、これは実施例1の分解性MSが数日間効率的なブプレノルフィン送達プラットフォームであることを示す。より長い分解時間を有するMS(MS5またはMS6)の留置は、血漿中でより長期間のブプレノルフィン放出を可能にする。
【0183】
実施例6:ブプレノルフィン充填マイクロスフェアの注入1か月後の埋め込み部分におけるブプレノルフィンの組織濃度
MS3およびMS4の移植から1ヶ月後、すべての動物について移植部位の残留ブプレノルフィンを測定した。組織では、1gあたりのブプレノルフィンのngを濃度(nM)で二次的に表現した(
図12)
【0184】
ブプレノルフィンは注入後1か月で注入部位の皮膚で検出された。組織内の残留濃度は、,マイクロスフェアの分解時間と注入された薬物の量に依存する。そうでなければ、1.2~54nMの局所残存濃度は、まだ活性であり、ブプレノルフィンのミュー受容体を局所的に阻害する可能性がある(ミュー受容体に対する刺激濃度のEC50値は1nM程度)(Lutfy K, Cowan A.. Curr Neuropharmacol 2004; 2: 395-402)。
【0185】
実施例7:生理食塩水中での膨潤後の無菌親水性マイクロスフェア(MS3およびMS4)のサイズ分布
薬物動態試験に使用された2つのバッチからの無菌マイクロスフェアは、同様のサイズ分布を有する(50~120μm)(
図13)。
【国際調査報告】