(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-04
(54)【発明の名称】低酸素AlSc合金粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230728BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230728BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20230728BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20230728BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230728BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20230728BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
B22F1/00 N
C22C21/00 N
C22C21/06
B22F1/05
B22F9/24 Z
C22C1/04 C
C22C28/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502681
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2021067311
(87)【国際公開番号】W WO2022012896
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】102020208782.2
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ハース
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BB12
4K017CA07
4K017DA09
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB10
4K018BA08
4K018BB04
4K018KA29
4K018KA32
(57)【要約】
本発明は、高い純度および低い酸素含有率を特徴とするAlSc合金粉末、並びにその製造方法、およびエレクトロニクス産業におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不純物に対して99質量%以上の純度を有し、組成Al
xSc
y[前記式中、0.1≦y≦0.9且つx=1-y]の合金粉末であって、キャリアガス熱抽出を用いて測定して、前記粉末の総質量に対して0.7質量%未満の酸素含有率を有する前記合金粉末。
【請求項2】
前記合金粉末が、イオンクロマトグラフィーを用いて測定して1000ppm未満、好ましくは400ppm未満、特に好ましくは200ppm未満の塩素含有率を有することを特徴とする、請求項1に記載の合金粉末。
【請求項3】
前記粉末のX線回折パターンが、Sc
2O
3、ScOCl、ScCl
3、Sc、Al
2O
3、X
3ScF
6、XScF
4、ScF
3、および他の酸化物異相およびフッ化物異相[前記式中、Xはナトリウムイオンまたはカリウムイオンを表す]からなる群から選択される化合物の反射を有さないことを特徴とする、請求項1または2に記載の合金粉末。
【請求項4】
前記合金粉末が、ICP-OESを用いて測定して5000ppm未満、有利には2500ppm未満、特に好ましくは500ppm未満、特に100ppm未満のマグネシウム含有率を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合金粉末。
【請求項5】
前記合金粉末が、ASTM B822-10に準拠して測定して2mm未満、有利には100μm~1mmの粒子径分布D90を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金粉末。
【請求項6】
前記合金粉末が、イオンクロマトグラフィーを用いて測定して1000ppm未満、好ましくは400ppm未満、特に好ましくは200ppm未満のフッ化物含有率を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合金粉末。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金粉末の製造方法であって、スカンジウム源と、アルミニウム金属またはアルミニウム塩とを、還元剤の存在下でAl
xSc
y[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]へと反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項8】
前記スカンジウム源がSc
2O
3、ScOCl、ScCl
3、ScCl
3・6H
2O、ScF
3、X
3ScF
6およびXScF
4、およびこれらの化合物の混合物[前記式中、Xはカリウムイオンまたはナトリウムイオンを表す]からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤が、マグネシウム、カルシウム、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
アルミニウム金属とマグネシウムとをAl/Mg合金の形態で、前記スカンジウム源と、Al
xSc
y[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]へと反応させることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルミニウム金属および/または前記Al/Mg合金が粉末の形態で存在し、前記粉末は有利には、ASTM B822-10によって測定して40μmを上回る、好ましくは100μm~600μmの平均粒子径D50を有し、且つ300μmを上回る、好ましくは500μm~2mmのD90を有することを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
スカンジウムフッ化物塩と、アルミニウム金属またはアルミニウム塩とを、ナトリウムまたはカリウムの存在下で、組成Al
xSc
y[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]の合金粉末へと反応させることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応を、400~1050℃、有利には400~850℃の温度で行うことを特徴とする、請求項7から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項7から13までのいずれか1項に記載の方法によって得られる、組成Al
xSc
y[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]の合金粉末。
【請求項15】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金粉末、または請求項14に記載の合金粉末の、エレクトロニクス産業における、電子部品における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い純度および低い酸素含有率を特徴とするAlSc合金粉末、並びにその製造方法、およびエレクトロニクス産業における、および電子部品におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは希土類金属に分類され、殊に移動体通信技術、電気自動車および特別な機械的特性を有する高価値のアルミニウム合金の分野において進展する開発の範囲において需要が増加し続けている。合金成分として、スカンジウムはアルミニウムと共に、例えばAlScN誘電体層としてBAW(バルク音響波)フィルタにおいて、エレクトロニクス産業における電子部品において、および無線伝送、例えばWLANおよび移動体通信のために使用される。このために、AlSc合金粉末またはその元素からまずAlScスパッタターゲットが作製され、次いで誘電体層の製造のために使用される。
【0003】
AlSc合金粉末が用いられる用途分野は、合金粉末が高い純度を有さなければならないことを共通の要件として有し、そのことは、空気中で自然酸化膜を形成するスカンジウムを取り扱う場合に困難になる。さらに、スカンジウムは、その非常に卑な特性および酸素に対する高い親和性に基づき、金属または合金の形態で製造することが困難である。相応して、高い純度のAlSc合金粉末並びにその製造方法が必要とされている。
【0004】
通常、AlSc合金は2つの金属を互いに反応させることによって得られ、ここでスカンジウムは予め、ScF3とカルシウムとの反応によって製造され得る。しかしながらこの方法は、同時に生じるCaF2のスラグ生成の後、スカンジウムを高温で昇華により精製しなければならず、それにもかかわらず、通常、著しい量の不純物が生成物中に残留し、且つスカンジウムは必要な高温に基づきさらにるつぼ材料によって汚染されるという欠点を有する。
【0005】
さらに、従来技術からいくつかの製造方法が公知であり、ここで塩化スカンジウムとアルミニウムとが以下の反応式に従ってAl3Scへと反応する:
ScCl3+4Al → Al3Sc+AlCl3。
【0006】
記載される製造方式は、ScCl3の空気感受性および加水分解感受性が高いことの他に、W.W.Wendlandt、「The thermal decomposition of Yttrium, Scandium, and some rare-earth chloride hydrates」, veroeffentlicht in J.Inorg.Nucl.Chem.,1957, Vol.5, 118~122に記載されるとおり、目標の化合物Al3Scに加えて、いくつかの副生成物、例えば出発材料の分解に起因する酸化スカンジウム(Sc2O3)またはオキシ塩化スカンジウム(ScOCl)が形成されるという欠点を有する。従って、ScCl3・6H2Oの分解は、ScOClおよびSc2O3の形成をみちびく。この欠点に対処するために、できるだけ純粋な無水のScCl3の製造に関するいくつかの方法が公知である。
【0007】
国際公開第1997/07057号(WO97/07057)は、本質的に純粋且つ無水の希土類金属ハロゲン化物を、それらの水和塩の脱水によって製造する方法であって、水和された希土類金属ハロゲン化物を、1つの反応器または複数の結合された反応器を有する流動床系に導入し、ガス状の乾燥剤を高められた温度で添加して、酸素不純物不含である特定の最大含水率を有する希土類ハロゲン化物が得られる前記方法を記載しているが、ここではオキシ塩化物での汚染については記載されていない。
【0008】
欧州特許出願公開第0395472号明細書(EP0395472)は、含水率0.01~1.5質量%およびオキシハロゲン化物含有率3質量%未満を特徴とする、脱水された希土類ハロゲン化物に関する。その脱水は、少なくとも1つの脱水されたハロゲン化化合物を含有するガス流を150~350℃の温度で、脱水されるべき化合物の床に通すことによって達成される。脱水されたハロゲン化化合物として、ハロゲン水素、ハロゲン、アンモニウムハロゲン化物、四塩化炭素、S2Cl2、SOCl2、COCl2およびこれらの混合物が挙げられる。しかしながらこの文献は、記載される方法がスカンジウムの製造も適しているという示唆は含まない。
【0009】
米国特許出願公開第2011/0014107号明細書(US2011/0014107)も、無水の希土類金属ハロゲン化物の製造方法であって、希土類ハロゲン化物水和物および有機溶剤からスラリーを形成し、前記スラリーを還流下で加熱し、最後にスラリーから水を留去する、前記方法を開示している。
【0010】
中国特許出願公開第110540227号明細書(CN110540227)は、高品質な無水の希土類金属塩化物および臭化物の製造方法であって、まず希土類金属ハロゲン化物の水和物REX3・xH2Oを予め乾燥させてREX3を得る、前記方法を記載している。その予め乾燥された生成物を、水隔離且つ酸素隔離条件下で、真空中で処理し、徐々に1500℃まで加熱して、REX3を、同時に生じる酸化物副生成物から昇華により分離する。そのように得られた希土類ハロゲン化物では、99.99%の純度が証明されている。ただし、前記方法はScCl3の製造については特に、収率が低いという欠点を有し、なぜなら、乾燥の際にいくつかの酸化物副生成物、例えば酸化スカンジウム(Sc2O3)またはオキシ塩化スカンジウム(ScOCl)が形成されるからである。
【0011】
AlSc合金を製造するための高純度の出発化合物の製造方法が従来技術において公知である場合でも、高い純度を保持しながらこれらをどのように工業規模において所望のAlSc合金へと反応させられるのかについては今のところまだ解決されていない。
【0012】
これに関し、国際公開第2014/138813号(WO2014/138813)は、アルミニウムおよび塩化スカンジウムから出発するアルミニウム・スカンジウム合金の製造方法であって、塩化スカンジウムをアルミニウムと混合し、次いで温度600~900℃に加熱し、生じるAlCl
3が昇華によって除去される、前記方法を開示している。目的の化合物Al
3Sc以外に、その生成物のXRDパターン(
図8)はスカンジウム金属および若干の不純物Sc
2O
3の形成を示し、明示的には記載されていないのだが、2θ角31.5°(Cu)および2θ角33°(Cu)での特徴付けられていない反射によって識別され得る。
【0013】
従来技術の方法は、これらは通常、比較的高い酸素含有率およびハロゲン化物の塩素および/またはフッ素の含有率を有するAl3Scを産出することが共通しており、それによってこの粉末の用途の可能性が非常に制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第1997/07057号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0395472号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/0014107号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第110540227号明細書
【特許文献5】国際公開第2014/138813号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】W.W.Wendlandt、「The thermal decomposition of Yttrium, Scandium, and some rare-earth chloride hydrates」, veroeffentlicht in J.Inorg.Nucl.Chem.,1957, Vol.5, 118~122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、エレクトロニクス産業および移動体通信技術における使用のために適している高純度のアルミニウム・スカンジウム合金(AlSc合金)、並びにその製造方法が依然として必要とされている。これに鑑み、本発明の課題は、上記の用途のために適している相応のAlSc合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
意外なことに、この課題は、酸素および他の不純物の含有率が低く、殊に塩化物含有率および/またはフッ化物含有率が低いことを特徴とするAlSc合金によって解決されることが判明した。
【0018】
従って、本発明の第1の対象は、金属不純物に対して99質量%以上の純度を有し、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定して、組成AlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9且つx=1-y]の合金粉末であって、キャリアガス熱抽出を用いて測定して、粉末の総質量に対して0.7質量%未満の酸素含有率を有する前記合金粉末である。
【0019】
特定の実施態様において、本発明による合金粉末は、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定して、組成AlxScy[前記式中、0.2≦y≦0.8、有利には0.24≦y≦0.7、各々x=1-y]を有する。さらに、前記合金粉末は異なる組成のAlxScyの混合物も有し得る。特に好ましくは、本発明による合金粉末は組成Al3Sc[前記式中、x=0.75、y=0.25]、またはAl2Sc[前記式中、x=2/3、y=1/3]、およびこれらの化合物の任意の混合物を有する。
【0020】
さらに好ましい実施態様において、本発明による合金粉末は、それぞれ金属不純物に対して純度99.5質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上を有する。
【0021】
本発明による粉末は殊に、その低い酸素含有率を特徴とする。従って、合金粉末が、それぞれ粉末の総質量に対して0.5質量%未満、有利には0.1質量%未満、特に好ましくは0.05質量%未満の酸素含有率を有する実施態様が好ましい。その際、粉末の酸素含有率は、キャリアガス熱抽出を用いて測定できる。
【0022】
意外なことに、本発明による粉末は殊に高純度が必要とされる用途に適していることが示された。低い酸素含有率以外に、意外なことに、前記粉末はエレクトロニクス産業のために必須の低い塩化物含有率を有することが判明した。従って、本発明による合金粉末が、イオンクロマトグラフィーを用いて測定して1000ppm未満、有利には400ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、殊に50ppm未満の塩素含有率を有する実施態様が好ましい。
【0023】
本発明の範囲において、「ppm」との記載はそれぞれ粉末の総質量に対する百万分率を示す。
【0024】
実際に、殊に金属スカンジウム、および酸化物およびハロゲン含有不純物はさらなる処理に際して困難をもたらすことが示されており、その際、これらの不純物は通常、X線回折で検出され得る。これらの不純物は、スカンジウムの酸化物不純物、例えばSc2O3およびScOClだけではなく、用いられる反応相手によって導入される酸化物不純物でもある。従って、本発明による合金粉末のX線回折パターンが、Sc2O3、ScOCl、ScCl3、Sc、X3ScF6、XScF4、ScF3、および他の酸化物不純物およびフッ化物異相[前記式中、Xはカリウムイオンまたはナトリウムイオンを表す]からなる群から選択される化合物の反射を有さない、本発明の実施態様が好ましい。他の酸化物不純物は、例えばMgO、Al2O3、CaO、および/またはMgAl2O4であり得る。
【0025】
さらに、本発明による合金粉末が、ICP-OESを用いて測定して5000ppm未満、有利には2500ppm未満、特に好ましくは500ppm未満、殊に100ppm未満のマグネシウム含有率を有する実施態様が好ましい。さらに好ましい実施態様において、本発明による合金粉末は、ICP-OESを用いて測定して5000ppm未満、有利には2500ppm未満、特に好ましくは500ppm未満、殊に100ppm未満のカルシウム含有率を有する。さらに好ましい実施態様において、本発明による合金粉末は、ICP-OESを用いて測定して5000ppm未満、有利には2500ppm未満、特に好ましくは500ppm未満、殊に100ppm未満のナトリウム含有率を有する。本発明の範囲において、「マグネシウム含有率」、「ナトリウム含有率」もしくは「カルシウム含有率」との用語は、元素化合物もイオンも含む。
【0026】
さらに好ましい実施態様において、本発明による合金粉末は、イオンクロマトグラフィーを用いて測定して1000ppm未満、有利には400ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、殊に50ppm未満のフッ素含有率を有する。
【0027】
本発明による合金粉末は殊に、例えばスパッタターゲット並びにそこから製造される誘電体層を製造するための前段階として、エレクトロニクス産業におけるさらなる処理のために適しており、ここでは高い純度以外に相応の粒子径も重要である。従って、合金粉末が、ASTM B822-10に準拠して測定して、2mm未満、有利には100μm~1mm、特に好ましくは150μm~500μmの粒子径D90を有する実施態様が好ましい。粒子径分布のD90値は、記載された値以下である粒子径を有する粒子の90体積%を示す。
【0028】
本願のさらなる対象は、本発明による合金粉末の製造方法であって、スカンジウム源と、アルミニウム金属またはアルミニウム塩とを、還元剤の存在下でAlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]へと反応させる前記方法である。本発明によれば、還元剤はアルミニウムまたはアルミニウム塩とは異なり、アルミニウムを有さない。前記アルミニウム塩は有利にはX3AlF6、XAlF4、AlF3、AlCl3[前記式中、Xはカリウムイオンまたはナトリウムイオンを表す]からなる群から選択されるものである。意外なことに、本発明による方法によって、望ましくない酸化物不純物の形成が回避されるかもしくは明らかに低減されることができ、そのようにして高い純度と低い酸素含有率とを有するAlSc合金粉末が入手可能であることが示された。
【0029】
従来の製造方法の場合は、製造が煩雑なScCl3またはSc金属を出発材料として用いなければならないことが多い一方で、本発明による方法は、スカンジウムの酸化物およびオキシ塩化物から出発して、並びにScOClおよび/またはSc2O3で汚染されたScCl3から出発しても反応を行うことができることを特徴としており、そのことによって、従来技術に記載されているような出発物質の煩雑な脱水または精製が不要になる。従って、スカンジウム源がSc2O3、ScOCl、ScCl3、ScCl3・6H2O、ScF3、X3ScF6、XScF4、およびこれらの化合物の混合物[前記式中、Xはカリウムイオンまたはナトリウムイオンを表す]からなる群から選択される、本発明による方法の実施態様が好ましい。
【0030】
特にアルカリ金属およびアルカリ土類金属が、本発明による方法において適した還元剤として判明している。従って、好ましい実施態様において、還元剤はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選択され、ここで本発明によれば、ナトリウムおよびカリウムは殊にスカンジウムのフッ化物の反応の場合に使用され、マグネシウムおよびカルシウムはスカンジウムの塩化物の反応の場合に使用される。上記の還元剤の使用は、還元の際に生じる還元剤の酸化生成物、例えばMgO、MgCl2およびNaFが、洗浄を用いて容易に除去され得るという利点を有する。従って、得られた合金粉末を洗浄する段階をさらに含む方法の実施態様が好ましい。粉末を洗浄するために、例えば蒸留水および/または希鉱酸、例えばH2SO4およびHClを使用できる。
【0031】
意外なことに、還元剤を蒸気の形態でもたらすと、不純物が入り込むことをさらに低減できることが示された。従って、還元剤が蒸気の形態で用いられる実施態様が好ましい。
【0032】
ScCl3、ScOClおよび/またはSc2O3、またはこれらの化合物の混合物をスカンジウム源として、アルミニウム金属および還元剤としてのマグネシウムと反応させる場合、特に効果的であることが判明している。その際、意外なことに、反応に先立ちアルミニウム金属とマグネシウムとが予め合金化される場合、得られるAlSc合金粉末の純度をさらに高めることができることが示された。従って、アルミニウム金属とマグネシウムとを、Al/Mg合金の形態で、ScCl3、ScOClおよび/またはSc2O3、またはこれらの化合物の混合物と、AlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]へと反応させる、本発明による方法の実施態様が好ましい。
【0033】
アルミニウム金属および/またはAl/Mg合金を粗い粉末の形態で用いる場合が特に有利であることが判明しており、なぜなら、このようにして、これらの出発物質から表面酸素が入り込むことが低減され、そのことによって得られる合金粉末の酸素含有率をさらに下げることができるからである。従って、アルミニウム金属および/またはAl/Mg合金が粉末の形態で存在し、その際、前記粉末は有利には、それぞれASTM B822-10によって測定して40μmを上回る、好ましくは100μm~600μmの平均粒子径D50、および300μmを上回る、好ましくは500μm~2mmのD90を有する実施態様が好ましい。粒子径分布のD90値は、記載された値以下である粒子径を有する粒子の90体積%を示し、D50値は、記載された値以下である粒子径を有する粒子の50体積%に相応する。
【0034】
本発明による方法は、好ましい実施態様において、従来技術において慣例的である温度よりも明らかに低減された温度で実施され得ることを特徴としており、そのことによって酸化された還元剤、例えばMgCl2またはMgOが合金粉末中に包含されることを回避し、それによってこの純度をさらに高めることができる。このことは、AlとMgとからの合金形成に際してそこで観察される融点の低下に基づき、Al/Mg合金の使用について特に該当する。従って、本発明による方法の好ましい実施態様は、反応が400~1050℃、有利には400~850℃、特に好ましくは400~600℃の温度で行われることを特徴とする。その際、反応時間は有利には0.5~30時間、有利には1~24時間である。
【0035】
殊に、アルミニウム金属およびマグネシウムが、スカンジウム源としてのScCl3と共に用いられる場合において、反応物が別々に蒸発され、次いで蒸気の形態で反応室内で一緒にされる場合が有利であることが判明している。このようにして、前駆物質の酸化物不純物を反応前に分離することができる。従って、ScCl3並びにアルミニウム金属およびマグネシウムを別々に蒸発させ、次いで蒸気の状態で反応室内で一緒にして、組成AlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]の合金粉末へと反応させる実施態様が好ましい。
【0036】
意外なことに、本発明の範囲において、本発明によるAlSc合金粉末がスカンジウムのフッ化物塩から出発しても得られることが判明した。従って、スカンジウムフッ化物塩と、アルミニウム金属またはアルミニウム塩とを、ナトリウムまたはカリウムの存在下で組成AlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]の合金粉末へと反応させる、本発明による方法の選択的な実施態様が好ましい。その際、前記スカンジウムフッ化物塩は有利には、ScF3、XScF4、X3ScF6、並びにこれらの化合物の任意の混合物[前記式中、Xはカリウムまたはナトリウム、並びにこの混合物を表す]からなる群から選択される。前記アルミニウム塩は有利には、AlF3、X3AlF6およびXAlF4[前記式中、Xはカリウムイオンまたはナトリウムイオンを表す]からなる群から選択される。
【0037】
その際、還元は混合された還元剤を用いても、蒸気状の還元剤を用いても実施できる。さらに、還元を溶融物中で実施することもできる。この本発明による選択肢の利点は、スカンジウムのフッ化物は塩化物とは異なり空気中で安定であるか、もしくは吸湿性が低く、且つ水溶液からの沈殿によって得られることである。これにより、それらを空気中で取り扱うことができ、そのことによって工業プロセスにおけるそれらの使用が大幅に容易になる。
【0038】
本発明による方法は、低い酸素含有率を特徴とする、特に純粋なAlSc合金粉末の製造を可能にする。従って、本発明のさらなる対象は、蛍光X線分析(XRD)と用いて測定して、組成AlxScy[前記式中、0.1≦y≦0.9、有利には0.2≦y≦0.8、特に好ましくは0.24≦y≦0.7、それぞれx=1-y]の、本発明による方法によって得られる合金粉末である。そのように得られる粉末は、有利には、それぞれ粉末の総質量に対して且つキャリアガス熱抽出を用いて測定して0.7質量%未満、有利には0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満、および殊に0.05質量%未満の酸素含有率を有する。特に好ましくは、このようにして得られた粉末は、上述の特性を有する。
【0039】
本発明による合金粉末は、高い純度および低い酸素含有率を特徴とし、そのことによってエレクトロニクス産業における使用のために特に適している。従って、本発明のさらなる対象は、エレクトロニクス産業における、または電子部品における、殊にスパッタターゲットおよびBAWフィルタを製造するための、本発明による合金粉末の使用である。
【0040】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、これらは決して、本発明の思想を限定するとして理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ScCl
3前駆体P2のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】ScCl
3前駆体P3のX線回折パターンを示す図である。
【
図3】比較例C5によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
【
図4】本発明による例E7によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
【
図5】本発明による例E13によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
【実施例】
【0042】
1. 使用されたスカンジウム源ScCl3およびScOClの製造(前駆体P1~P5)
ScCl3を、表1に要約された従来技術と同様に製造した。その際、それぞれ、親和物産株式会社から入手可能なScCl3・6H2O(純度Sc2O3/TREO 99.9%)が出発材料として使用された。
【0043】
P1: P1の場合、反応はアルゴン流中、720℃でNH4Clを添加せずに2時間行われた。
【0044】
P2: P2は欧州特許出願公開第0395472号明細書(EP0395472 A1)の例2に基づいており、そこに記載されるNdCl3・6H2Oの代わりに、相応のSc化合物、ScCl3・6H2Oが使用された。
【0045】
P3: P3は中国特許出願公開第110540117号明細書(CN110540117A)の例5に基づいており、そこに記載されるLaCl3・7H2O/CeCl3・7H2Oの混合物の代わりに、相応の水和物ScCl3・6H2Oが使用された。
【0046】
P4: P4として、石英管内でHClガス流中でScCl3・6H2Oを900℃で2時間、NH4Clを添加せずに、熱処理することによって製造された純粋相のScOClが用いられた。
【0047】
P5: P5として、親和物産株式会社から入手可能なSc2O3(純度Sc2O3/TREO 99.9%)が使用された。
【0048】
それぞれの生成物についてX線回折(XRD)から調べられた相の組成、並びに酸素含有率およびH2Oの残留含有率も表1に示す。
【0049】
2. 比較実験C1~C7
比較実験C1~C6については、スカンジウム含有前駆体P1~P5を表2に示されるようにアルミニウム粉末もしくはマグネシウム粉末と混合し、セラミック製のるつぼに充填した。用いられたアルミニウム粉末の平均粒子径D50は520μmであり、用いられたマグネシウム粉末の平均粒子径D50は350μmであった。引き続き、アルゴン雰囲気中で熱反応を表2に示されるように行った。引き続き、それぞれの反応生成物を希硫酸で洗浄し、対流乾燥キャビネット内で少なくとも10時間乾燥させ、引き続き化学分析およびX線回折検査に供した。その結果も表2に示す。
【0050】
比較実験C7については、前駆体P3(ScCl3)と、14μmの平均粒子径D50を有するアルミニウム粉末とを用いて、国際公開第2014/138813号(WO2014/138813 A1)の例2を再現した。そこに開示される条件と同様の反応の後、以下の特性を有する粉末が得られた:
X線回折(XRD): Al3Sc
化学分析: 酸素0.81質量%、Cl 15000ppm、F<50 ppm、Mg<10ppm、Na<10ppm、Ca<10ppm
蛍光X線分析(XRF): Al:Scの比=0.77:0.23
粒子径D50: 25μm
全ての金属不純物の合計(Mg、CaおよびNaを含む)は、全ての実験について<500ppmと測定された。
【0051】
3. 本発明による実験
a) E1~E8
比較実験C1~C7と同様に、実験E1~E8に際し、スカンジウム含有前駆体P1~P5を表3に示されるように粉末のAlおよびMg、またはAl/Mg合金(69質量%のAl、31質量%のMg)と混合し、セラミック製のるつぼに充填した。用いられたアルミニウム粉末の平均粒子径D50は520μmであり、マグネシウム粉末の平均粒子径D50は350μmであり、Al/Mg合金の平均粒子径D50は380μmであった。熱反応を、表3に示されるように、反応時間全体の間、アルゴンが流通されたスチールレトルト内で行った。引き続き、それぞれの反応生成物を希硫酸で洗浄し、対流乾燥キャビネット内で少なくとも10時間乾燥させ、引き続き化学分析およびX線回折検査に供した。その結果も表3に示す。全ての実験について、ナトリウム含有率およびカルシウム含有率はそれぞれ<10ppmであった。全ての金属不純物の合計(Mg、CaおよびNaを含む)は、全ての実験について<400ppmと測定された。
【0052】
b) 実験E9~E34
スカンジウムおよびアルミニウム含有前駆体を、表3および表4に示される比と同様に混合し、微細な孔の開いたニオブ薄板上に分配した。これは、化学量論組成比に基づき反応のために必要な量+50%の過剰量のナトリウムで満たされたスチールの還元容器内にあった。ニオブ薄板はナトリウムと直接接触せずに上に配置された。反応を、反応時間全体の間、アルゴンが流通されたスチールレトルト内で行った。ナトリウムを蒸発させ、そのことによって前駆体を元素のScおよびAlへと還元し、目的の合金へとin situで反応させた。
【0053】
反応後、前記レトルトを空気で慎重に不動態化し、その後、鋼の還元容器を取り外した。反応の間に生じるフッ化ナトリウムを水で反応生成物から洗い落とし、その後、生成物を低温で乾燥させた。カルシウム含有率は全ての実験についてそれぞれ<10ppmであり、ナトリウム含有率は<50ppmであった。全ての金属不純物の合計(Mg、CaおよびNaを含む)は、全ての実験について<400ppmと測定された。
【0054】
c) 実験E35~E42
スカンジウムおよびアルミニウム含有前駆体を混合し(表4参照)、化学量論組成に基づき反応のために必要な量+5%の過剰量のナトリウムと共にニオブ容器に入れた。反応を、反応時間全体の間、アルゴンが流通されたスチールレトルト内で行った。前記前駆体をナトリウムによって元素のScおよびAlへと還元し、目的の合金へとin situで反応させた。
【0055】
反応後、前記レトルトを空気で慎重に不動態化し、その後、鋼の還元容器を取り外した。過剰なナトリウムをエタノールとの反応によって溶解し、残留する固形物を水で洗浄した。その際、フッ化ナトリウムおよび/または塩化ナトリウムを反応生成物から洗い落とし、その後、生成物を低温で乾燥させた。カルシウム含有率は全ての実験についてそれぞれ<10ppmであり、ナトリウム含有率は<50ppmであった。全ての金属不純物の合計(Mg、CaおよびNaを含む)は、全ての実験について<400ppmと測定された。
【0056】
粉末の酸素含有率を、キャリアガス熱抽出(Leco TCH600)を用いて、および粒子径D50およびD90をそれぞれレーザー回折を用いて(ASTM B822-10、MasterSizer S、水およびDaxad 11中の分散液、5分、超音波処理)測定した。金属不純物の微量分析を、ICP-OES (誘導結合プラズマを用いた発光分光法)を用いて、以下の分析装置PQ 9000(Analytik Jena) またはUltima 2(Horiba)で行い、結晶相の組成の測定を粉末試料で、X線回折(XRD、X Ray Diffraction)を用いてMalvern-PANalytical社の装置(半導体検出器、X線管 Cu LFF(40KV/40mA)、Niフィルタを備えたX’Pert-MPD Pro)で行った。ハロゲン化物のFおよびClの測定は、イオンクロマトグラフィー(ICS 2100)に基づいた。AlおよびScの蛍光X線分析(XRF、X Ray Fluorescence Spectroscopy)のためには、Malvern-PANalytical社の装置AxiosおよびPW2400を使用した。
【0057】
化学元素の%での各々の含有率の記載は質量%であり、且つそれぞれ粉末の総質量に対するものである。それぞれ金属不純物に対する質量%での純度は、100%の理想値から、質量%での調べられた全ての金属不純物を減算したものと理解される。Al:Scの比は、XRFを用いて測定されたAlおよびScの含有率から計算により得られる。
【0058】
略称TREOは、希土類元素の酸化物の合計を表す。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
表3および4のデータから明らかなとおり、本発明による合金粉末は低い酸素含有率だけでなく、低い塩素含有率およびフッ素含有率も特徴とし、それは従来技術から公知の方法では達成されない。さらに、提示された実験は、本発明による方法は、スカンジウムの酸化物、フッ化物および塩化物から出発しても、高純度のAlSc合金粉末の製造を可能にすることを示し、従って出発物質の煩雑な後処理を省略できる。
【0066】
図1はScCl
3前駆体P2のX線回折パターンを示す。
【0067】
図2はScCl
3前駆体P3のX線回折パターンを示す。
【0068】
図3は比較例C5によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す。
【0069】
図4は本発明による例E7によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す。
【0070】
図5は本発明による例E13によるAlSc合金粉末のX線回折パターンを示す。
【0071】
2つの示された本発明によるAlSc合金粉末のX線回折パターンは、全ての記載された本発明による実験E1~E42を代表している。提供されたパターンの比較から明らかなとおり、本発明による粉末のパターンは所望のAlScの目的の化合物以外のさらなる反射は示さない。
【国際調査報告】