(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-04
(54)【発明の名称】連続繊維フィラメントの製造方法、連続繊維フィラメント及びその使用
(51)【国際特許分類】
B29B 15/14 20060101AFI20230728BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230728BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230728BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230728BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
B29B15/14
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y10/00
B29K105:08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503112
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2021067678
(87)【国際公開番号】W WO2022012908
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハモンズ, ライアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ナン
【テーマコード(参考)】
4F072
4F213
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AC08
4F072AD42
4F072AH03
4F072AH18
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4F072AJ04
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4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL22
4F213WL27
(57)【要約】
本開示は、a)繊維トウの開繊、b)ポリ(アリールエーテルケトン)を含む特定のサイズのポリマー粉末粒子と、水性溶媒と、アルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤とを含む液体媒体中への繊維トウの含浸、c)ポリマーの溶融温度よりも上への含浸した繊維の加熱、及びd)円筒形状のダイを使用してフィラメントをカレンダー加工することからなる工程、に基づく連続繊維フィラメントの製造方法に関する。本発明は、そのような方法から得られる連続繊維フィラメント、及び三次元物体を製造するためのフィラメントの使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ポリマー成分と、任意選択的な補強剤と、任意選択的な着色剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、造核剤、流動促進剤、及び安定剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤とを含むポリマーマトリックスであって、前記ポリマー成分が、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー又はコポリマーを含むポリマーマトリックス、並びに
- ポリマーマトリックスに埋め込まれた少なくとも1つの繊維トウ、
を含む連続繊維フィラメントの製造方法であって、
本方法は、
a)前記繊維トウを開繊する工程、
b)前記繊維トウを液体媒体に含浸させる工程であって、前記液体媒体が、ポリマー粉末粒子の形状のポリマー成分と、少なくとも水性溶媒と、前記液体媒体の総重量を基準として0.01~3重量%の少なくとも1種のアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤とを含み、前記ポリマー粉末粒子がイソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される1~20μmで変化するd50を有する工程、
c)前記含浸された繊維を前記ポリマー成分の融解温度よりも上まで加熱する工程、並びに
d)円筒形状の少なくとも1つのダイを使用して、前記フィラメントをカレンダー加工する工程、
を含む方法。
【請求項2】
- 前記水性溶媒が水である、及び/又は
- 前記界面活性剤がオクチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスが、前記ポリマーマトリックスの総重量を基準として少なくとも50重量%の少なくとも1種のポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマーを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維トウが、前記連続繊維フィラメントの総体積を基準として20~80体積%の範囲の量で前記連続繊維フィラメント中に存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー粉末粒子が、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される30μm未満のd90を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維トウが、炭素繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、ナイロン繊維フィラメント、又はガラス繊維フィラメントを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維トウ中の前記繊維フィラメントの数が、1,000(1K)~50,000(50K)繊維で変化する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維トウが、好ましくはポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)と芳香族ポリアミドイミド(PAI)とからなる群から選択される熱可塑性樹脂でサイジングされる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーマトリックスが、前記ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の式(J-A):
【化1】
(式中、
- R’は、各位置において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- J’は、各R’について、独立して、ゼロ又は1~4の範囲の整数(例えば、1、2、3、又は4)である)の繰り返し単位(R
PEEK)を含む少なくとも1種のポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記含浸された繊維を加熱する工程が少なくとも320℃の温度で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法により得られる連続繊維フィラメントであって、前記フィラメントが円筒形状を有し、
- 少なくとも50個のフィラメント試験片の断面の顕微鏡観察により測定される平均直径が300μm~1,500μmで変化する、
- 直径が以下の式(1):
【数1】
(式中、
- 「面積」は、直径断面の面積(μm
2)であり、
- 「周長」は、フィラメント断面の外側の境界の長さ(μm)である)に従って、少なくとも50個のフィラメント試験片の断面の顕微鏡観察により測定される、少なくとも0.70、好ましくは少なくとも0.72、より好ましくは少なくとも0.74の真円度を有する、
- 2,025μm
2の少なくとも50個のフィラメントの正方形の断面フィラメントスライスの顕微鏡観察により測定される、20%~60%繊維/2,025μm
2で変化する平均繊維含有率、及び12%繊維/2,025μm
2未満の標準偏差を有する、
フィラメント。
【請求項12】
最小繊維含有率が少なくとも4%繊維/2,025μm
2、好ましくは少なくとも4.5%繊維/2,025μm
2である、請求項11に記載のフィラメント。
【請求項13】
最大繊維含有率が100%繊維/2,025μm
2未満、好ましくは95%繊維/2,025μm
2未満である、請求項11又は12に記載のフィラメント。
【請求項14】
押出ベースの付加製造システムを使用して三次元物体を製造するための、請求項11~13のいずれか1項に記載の連続繊維フィラメントの使用。
【請求項15】
請求項11~13のいずれか1項に記載の連続繊維フィラメントを押し出して3D物体の層を印刷することを含む、3次元(3D)物体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年7月17日出願の米国仮特許出願第63/053,561号及び2020年9月14日出願の欧州特許出願公開第20196081.2号の優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、a)繊維トウの開繊、b)特定のサイズのポリマー粉末粒子と、水性溶媒と、アルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤とを含む液体媒体中への繊維トウの含浸、c)ポリマーの溶融温度よりも上への含浸した繊維の加熱、及びd)円筒形状のダイを使用してフィラメントをカレンダー加工することからなる工程、に基づく連続繊維フィラメントの製造方法に関する。本発明は、そのような方法から得られる連続繊維フィラメント、及び三次元物体を製造するためのフィラメントの使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性マトリックスによって強化繊維を被覆することからなる半製品の製造は、マトリックスのポリマー材料が使用される形式に応じて、異なる方法によって実施することができる。これらの方法の1つは分散による方法であり、熱可塑性マトリックスを形成することが意図されているポリマーが、溶媒中に粉末形態で分散される。より正確には、分散による方法は、a)溶媒中に分散された熱可塑性ポリマーを含む含浸浴中に強化繊維を循環させること、b)繊維を乾燥させることによって溶媒を除去すること、c)繊維をポリマーの溶融温度よりも上に加熱することで繊維上の前記ポリマーの付着を有利にして材料に凝集力を与えること、及びd)それによってポリマーで被覆された繊維をカレンダー加工して製品に望まれる形状と寸法を付与すること、からなる。
【0004】
環境上の理由だけでなく、健康上及び安全上の理由からも、含浸浴に使用される溶媒は好ましくは水である。ほとんどのポリマーが疎水性であることを考慮すると、含浸浴に表面活性剤(又は界面活性剤)を通常は少量で添加する必要があり、その役割は、水相中の熱可塑性ポリマーの分散を安定化することである。
【0005】
国際公開第2018/185440号パンフレット(Arkema)には、PAEKに基づく樹脂と強化繊維とを含む半製品を製造するための方法であって、a.界面活性剤を含む水相に分散された粉末形態のPAEKに基づく樹脂を含む分散液を調製する工程、b.強化繊維を前記水性分散液と接触させる工程、c.分散液を含浸させた繊維を乾燥する工程、及びd.含浸させた繊維を樹脂が溶融するのに十分な温度まで加熱して半製品を形成する工程、を含み、界面活性剤がリン酸、リン酸塩又はスルホン酸塩部位を含む熱的に安定な界面活性剤であることを特徴とする方法が記載されている。
【0006】
国際公開第2019/053379A1号パンフレット(Arkema)は、PAEKに基づく樹脂と強化繊維とを含む半製品を製造するための方法であって、a)少なくとも1種の揮発性有機化合物と任意選択的な界面活性剤とを含む水相に分散された粉末形態のPAEKに基づく樹脂を含む分散液を製造する工程、b)強化繊維を前記水性分散液と接触させる工程、c)分散液を含浸させた繊維を乾燥する工程、及びd)含浸した繊維を樹脂が溶融するのに十分な高い温度まで、半製品を形成するような形式で加熱する工程、を含む方法に関する。より正確には、この文献は、界面活性剤及び/又は増粘剤の量のために、水との混和性を有する揮発性有機化合物を使用することを記載している。しかしながら、このプロセスで製造される半製品は、揮発性物質成分を多く含むという大きな欠点を有している。印刷プロセスではフィラメント材料を溶かすために高温を使用するため、これは、例えば連続繊維フィラメントの使用に基づく3D物体の製造など特定の用途では望ましくない。実際、プロセス中のこれらの揮発性物質のオフガスは、プリンターの使用者を有毒な揮発性物質にさらすのみならず、印刷された部品に欠陥が形成されることにもつながる。
【0007】
本発明の1つの目的は、良好な品質の3D印刷された物体を得るのに十分な真円度及び繊維分布を有する、押出ベースの製造システムで使用される連続繊維フィラメントを製造することである。押出ベースの付加製造システムにおいて、3D部品は、部品材料のストリップを押し出して隣接させることによって層毎の方法で3D部品のデジタル表現から印刷され得る。部品材料は、システムの印刷ヘッドにより運ばれる押出先端部を介して押し出され、圧盤上のx-y面に一連の道として堆積される。押し出された部品材料は、前に堆積された部品材料に融合し、温度の降下時に固化する。そのとき、基材に対する印刷ヘッドの位置は、(x-y面に垂直の)z軸に沿って増分され、次いで、このプロセスは、デジタル表現に類似する3D部品を形成するために繰り返される。フィラメントから出発する押出ベースの付加製造システムの例は、溶融フィラメント製造(FFF)と呼ばれる。真円度は、印刷プロセス中に堆積される製品の量を一貫して確実に知るための重要な製品の特徴である。
【0008】
米国特許第5,395,477号明細書(Sandusky)は、均一な、コンソリデーションされた、一方向の連続的なフィラメント強化ポリマー材料を提供するための装置及び方法に関する。この文献によれば、半製品がフィラメントの形態である場合、炭素繊維とダイ内表面との接触及び摩擦により炭素繊維の損傷が生じることに起因してフィラメントの裂け又はベイリング(bailing)が生じるため、ダイの使用は避けるべきであるとされている。
【0009】
出願人は、付加製造(AM)プロセス、例えば溶融フィラメント製造(FFF)における原料として使用される、円形断面形状を有するフィラメントの形態の半製品を製造するプロセスを特定した。そのようなフィラメントは、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー又はコポリマーから製造され、市販のフィラメントと比較して、向上した真円度と、フィラメント全体に十分に分散した繊維分布を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】10.9μmのd50を有するPEEKポリマー粉末を用いる本発明による方法から得られたフィラメントの断面の光学顕微鏡画像である。
【
図2】20μmを超えるd50を有するポリマー粉末を用いて得られた比較のPEEKフィラメントの断面の光学顕微鏡画像である。
【
図3】ポリアミドに基づく製品であるMarkforged Carbon Fiber CFF Spoolsから市販されているフィラメントの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、連続繊維フィラメントは、湿式含浸の繊維ラインを使用して製造される。このプロセスでは、繊維トウは、ポリマー粉末粒子を含む水性ポリマースラリーに含浸される。ポリマー粒子は繊維トウに付着する。その後、ポリマー粒子はトウの上で溶融する。溶融オーブンの直後に位置するダイは、過剰なポリマーを除去し、複合材料フィラメントに滑らかな外観を与え、フィラメントの直径を制御するために使用される。
【0012】
「フィラメント」という表現は、ポリマーマトリックスと少なくとも1つの繊維トウとから形成される糸状の物体を指す。本発明のフィラメントは、優れた真円度を持つ円筒形状を有する。
【0013】
本発明の方法に従って製造される連続繊維フィラメントは、
- ポリマー成分と、補強フィラーと、任意選択的な着色剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、造核剤、流動促進剤、及び安定剤からなる群から選択される任意選択的な少なくとも1種の添加剤とを含むポリマーマトリックスであって、
ポリマー成分が、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー又はコポリマーと、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)、ポリエーテルイミド(PEI)、芳香族ポリアミドイミド(PAI)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(フェニルエーテル)(PPE)、半芳香族ポリエステル及び芳香族ポリエステル(PE)、並びにこれらのポリマーのコポリマー及び混合物からなる群から選択される任意選択的な少なくとも1種の追加のポリマーとを含むポリマーマトリックス、並びに
- ポリマーマトリックスに埋め込まれた少なくとも1つの繊維トウ、
を含む。
【0014】
本発明の方法は、より正確には、以下の少なくとも4つの工程に基づく:
a)繊維トウを開繊する工程、
b)繊維トウを液体媒体に含浸させる工程であって、液体媒体が、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子の形状のポリマー成分と、少なくとも水性溶媒と、液体媒体の総重量を基準として0.01~3重量%の少なくとも1種のアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤とを含み、(コ)ポリマー粉末粒子が、Microtrac S3500レーザー散乱分析器でイソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される1~20μmで変化するd50を有し、界面活性剤が、好ましくはアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤からなる群から選択される工程、
c)工程b)の含浸された繊維をポリマー成分の融解温度よりも上まで加熱する工程、並びに
d)円筒形状の少なくとも1つのダイを使用して、工程c)のフィラメントをカレンダー加工する工程。
【0015】
出願人は、上述したこれら3つの工程の組み合わせ、並びに特定の界面活性剤と繊維トウを含浸するために使用される特定の粒子サイズのPAEK(コ)ポリマー粉末との組み合わせの選択が、市販の連続繊維フィラメントと比較して、改善された真円度を有しており繊維がフィラメント断面にわたって十分に分散されている連続繊維フィラメントの製造を可能とすることを見出した。
【0016】
本出願では、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
- 要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態において、要素又は成分は、個々の列挙された要素又は成分のいずれか1つでもあり得るか、又は明示的に列挙された要素又は成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分もこのようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、及び
- 本明細書での端点による数値範囲のいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0017】
含浸液体媒体
したがって、本発明は、繊維トウが液体媒体(「浴」とも呼ばれる)に含浸される連続繊維フィラメントの製造方法であって、液体媒体が、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子の形状のポリマー成分と、少なくとも水性溶媒と、液体媒体の総重量を基準として0.01~3重量%の、アルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤からなる群から選択されることを特徴とする少なくとも1種の界面活性剤と、を含む方法に関する。
【0018】
本発明の方法で使用されるアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤は、好ましくは約10~15のHLB(親水性親油性バランス)を有し得る。適切な界面活性剤としては、例えば、GAF Corporationから商品名Igepalとして販売されている500及び600シリーズの化合物、例えばIgepal RC-520、RC-620、RC-630、CO-520、CO-530、CO-610、CO-630、CO-660、CO-720、CA-520、CA-620、及びCA-630が挙げられる。本発明で使用するためのアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール界面活性剤は、更に好ましくは、例えばIgepal RC-620、RC-630、CO-610、CO-630、CO-660、CA-620、及びCA-630など、約12~約13のHLBを有するものである。
【0019】
本発明によれば、界面活性剤は、好ましくは、含浸液体媒体中に、液体媒体の総重量を基準として0.25重量%~3重量%、更に好ましくは0.50重量%~2.5重量%の範囲の重量割合で存在する。
【0020】
水性溶媒は好ましくは水である。水には、消泡剤(例えばEvonikのSurfinol(登録商標)MD-20)及び/又は粘度調整剤(例えば、アクリレート、ポリプロピレングリコール、及びポリプロピレンオキシド)が補われてもよい。
【0021】
ポリマー成分
ポリマーマトリックスは、少なくともポリマー成分を含み、それ自体は少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー又はコポリマー(以降「(コ)ポリマー」)を含むことができる。ポリマー成分は、更に異なるポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)、ポリエーテルイミド(PEI)、芳香族ポリアミドイミド(PAI)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(フェニルエーテル)(PPE)、半芳香族ポリエステル、及び芳香族ポリエステル(PE)からなる群から選択される1種以上のポリマーも含み得る。ポリマーマトリックスは、これらの(コ)ポリマーのうちの複数、例えばリストの中の2種、3種、又は4種の異なるポリマー又はコポリマーを含み得る。ポリマーマトリックスは、2種、3種、又は4種の異なるPAEK(コ)ポリマーを含み得る。
【0022】
(コ)ポリマーは、ポリマーマトリックスの総重量を基準として、30重量%超、35重量%超、40重量%超、又は45重量%超の総量でポリマーマトリックス中に存在し得る。
【0023】
本開示の方法は、好ましくは、ポリマー成分をポリマーマトリックスの主成分として使用する。
【0024】
PAEK(コ)ポリマーは、ポリマーマトリックスの総重量を基準として、99.95重量%未満、99重量%未満、95重量%未満、90重量%未満、80重量%未満、70重量%未満又は60重量%未満の総量でポリマーマトリックス中に存在し得る。
【0025】
PAEK(コ)ポリマーは、例えば、ポリマーマトリックスの総重量を基準として、20~98重量%、例えば25~90重量%、30~40重量%の範囲の量で組成物(C)中に存在し得る。
【0026】
ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)
本明細書で使用される場合、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)は、Ar’-C(=O)-Ar*基(式中、Ar’及びAr*は、互いに同じであるか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)を含む任意のポリマーを示し、モル%は、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に基づく。繰り返し単位(RPAEK)は、以下の式(J-A)~式(J-D):
【化1】
(式中、
R’は、各位置において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
j’は、独立して、ゼロ又は1~4の範囲の整数である)の単位からなる群から選択される。
【0027】
繰り返し単位(RPAEK)において、それぞれのフェニレン部分は、独立して、繰り返し単位(RPAEK)においてR’とは異なる他の部位への1,2、1,4又は1,3結合を有し得る。好ましくは、フェニレン部分は、1,3又は1,4結合を有し、より好ましくは、それらは、1,4結合を有する。
【0028】
繰り返し単位(RPAEK)において、フェニレン部分がポリマーの主鎖を連結するもの以外の他の置換基を有さないように、j’は、好ましくは、各位置においてゼロである。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、PAEKポリマー又はコポリマーはポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマー又はコポリマーである。
【0030】
本明細書で使用される場合、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)は、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に基づいて、式(J-A):
【化2】
(式中、
R’は、各位置において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
j’は、各R’について、独立して、ゼロ又は1~4の範囲の整数(例えば、1、2、3、又は4)である)の繰り返し単位(R
PEEK)を含む任意のポリマーを示す。
【0031】
式(J-A)によれば、繰り返し単位(RPEEK)の各芳香環は、1~4のラジカル基R’を含み得る。j’が0である場合、対応する芳香環は、いかなるラジカル基R’も含まない。
【0032】
繰り返し単位(RPEEK)の各フェニレン部分は、互いに独立して、他のフェニレン部分への1,2、1,3又は1,4結合を有し得る。ある実施形態によれば、繰り返し単位(RPEEK)の各フェニレン部分は、互いに独立して、他のフェニレン部分への1,3又は1,4結合を有する。更に別の実施形態によれば、繰り返し単位(RPEEK)の各フェニレン部分は、他のフェニレン部分への1,4結合を有する。
【0033】
一実施形態によれば、R’は、上の式(J-A)中での各位置において、1つ以上のヘテロ原子を任意選択で含む、C1~C12部位、スルホン酸及びスルホネート基、ホスホン酸及びホスホネート基、アミン並びに四級アンモニウム基からなる群から独立して選択される。
【0034】
一実施形態によれば、j’は、各R’についてゼロである。換言すれば、この実施形態によれば、繰り返し単位(R
PEEK)は、式(J’-A):
【化3】
に従う。
【0035】
本開示の別の実施形態によれば、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)は、繰り返し単位の少なくとも10モル%が式(J-A’’):
【化4】
の繰り返し単位(R
PEEK)(モル%は、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に基づく)である任意のポリマーを示す。
【0036】
本開示の一実施形態によれば、PEKK中の繰り返し単位の少なくとも10モル%(ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に基づく)、少なくとも20モル%、少なくとも30モル%、少なくとも40モル%、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%又は全てが、式(J-A)、(J’-A)及び/又は(J’’-A)の繰り返し単位(RPEEK)である。
【0037】
PEEKポリマーは、そのため、ホモポリマー又はコポリマーであり得る。PEEKポリマーがコポリマーである場合、それは、ランダム、交互又はブロックコポリマーであり得る。
【0038】
PEEKがコポリマーである場合、式(J-D):
【化5】
(式中、
R’は、各位置において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
j’は、各R’について、独立して、ゼロ又は1~4の範囲の整数である)
の繰り返し単位などの、繰り返し単位(R
PEEK)とは異なり、且つこの繰り返し単位に加えて、繰り返し単位(R*
PEEK)からなり得る。
【0039】
式(J-D)によれば、繰り返し単位(R*PEEK)の各芳香環は、1~4のラジカル基R’を含み得る。j’が0である場合、対応する芳香環は、いかなるラジカル基R’も含まない。
【0040】
一実施形態によれば、R’は、上の式(J-D)中での各位置において、1つ以上のヘテロ原子、スルホン酸及びスルホネート基、ホスホン酸及びホスホネート基、アミン並びに四級アンモニウム基を任意選択的に含む、C1~C12部位からなる群から独立して選択される。
【0041】
一実施形態によれば、j’は、各R’についてゼロである。言い換えれば、この実施形態によれば、繰り返し単位(R*
PEEK)は、式(J’-D):
【化6】
に従う。
【0042】
本開示の別の実施形態によれば、繰り返し単位(R*
PEEK)は、式(J’’-D):
【化7】
に従う。
【0043】
本開示の一実施形態によれば、PEEK中の繰り返し単位の90モル%(ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に基づく)未満、80モル%未満、70モル%未満、60モル%未満、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、10モル%未満、5モル%未満、1モル%未満、又は全てが、式(J-D)、(J’-D)、及び/又は(J’’-D)の繰り返し単位(R*PEEK)である。
【0044】
一実施形態によれば、PEEKポリマーは、PEEK-PEDEKコポリマーである。本明細書で使用される場合、PEEK-PEDEKコポリマーは、式(J-A)、(J’-A)、及び/又は(J’’-A)の繰り返し単位(RPEEK)と、式(J-D)、(J’-D)、又は(J’’-D)の繰り返し単位(R*PEEK)(本明細書では繰り返し単位(RPEDEK)とも呼ばれる)とを含むポリマーを示す。PEEK-PEDEKコポリマーは、95/5~5/95、90/10~10/90、又は85/15~15/85の範囲の繰り返し単位の相対モル比(RPEEK/RPEDEK)を含み得る。繰り返し単位(RPEEK)と(RPEDEK)の合計は、例えば、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%のPEEKコポリマー中の繰り返し単位を表すことができる。また、繰り返し単位(RPEEK)と(RPEDEK)の合計は、100モル%のPEEKコポリマー中の繰り返し単位を表すこともできる。
【0045】
PEEKは、Solvay Specialty Polymers USA,LLCからKetaSpire(登録商標)PEEKとして市販されている。
【0046】
PEEKは、当技術分野において公知の任意の方法によって調製することができる。それは、例えば、塩基の存在下での4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンとの縮合から生じることができる。モノマー単位の反応は、求核性芳香族置換によって起こる。分子量(例えば、重量平均分子量Mw)は、モノマーのモル比を調節して、重合の収率を測定すること(例えば、反応混合物を撹拌するインペラのトルクの測定)によって制御することができる。
【0047】
本開示の一実施形態によれば、PEEKポリマーは、(ポリスチレン標準を使って、160℃でフェノール及びトリクロロベンゼン(1:1)を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される)65,000~105,000g/モル、例えば77,000~98,000g/モル、79,000~96,000g/モル、81,000~95,000g/モル、又は85,000~94,500g/モルの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、PAEKポリマー又はコポリマーはポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)コポリマーである。
【0049】
PEKKコポリマーは、少なくとも1つの繰り返し単位(R
M)及び少なくとも1つの繰り返し単位(R
P)を含み、繰り返し単位(R
M)は、式(M):
【化8】
によって表され、及び繰り返し単位(R
P)は、式(P):
【化9】
で表され、
式中、
- 各R
1及びR
2は、それぞれの場合において、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各i及びjは、それぞれの場合において、0~4の範囲の独立して選択される整数である。
【0050】
一実施形態によれば、R1及びR2は、上記の式(M)及び(P)の各々の位置において、1つ以上のヘテロ原子、スルホン酸及びスルホネート基、ホスホン酸及びホスホネート基、アミン及び四級アンモニウム基を任意選択的に含むC1~C12部位からなる群から独立して選択される。
【0051】
別の実施形態によれば、i及びjは、各R
1及びR
2基についてゼロである。換言すれば、繰り返し単位(R
P)及び(R
M)は、両方とも置換されていない。本実施形態によれば、繰り返し単位(R
M)及び(R
P)は、それぞれ式(M’)及び(P’):
【化10】
によって表される。
【0052】
別の実施形態によれば、PEKKポリマーは、少なくとも1つの繰り返し単位(RM)、少なくとも1つの繰り返し単位(RP)、並びに少なくとも50モル%の式(M)、(P)、(M’)及び/又は(P’)の繰り返し単位(RP)及び(RM)を含み、モル%は、ポリマー中の総モル数に基づく。
【0053】
本開示の一実施形態によれば、PEKK中の繰り返し単位の少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%又は全ては、式(M)、(P)、(M’)及び/又は(P’)の繰り返し単位(RP)及び(RM)であり、モル%は、ポリマー中の総モル数に基づく。
【0054】
PEKKは、好ましくは、50/50~70/30、より好ましくは53/47~67/33又は55/45~65/35の範囲の繰り返し単位の比(RP)/(RM)を有する。
【0055】
PEKKは、1つ又は2つの溶融温度Tm(℃)を有し得る。溶融温度は、ASTM D3418による示差走査熱量測定(DSC)による第1の加熱走査で測定される。明瞭にするために、本出願において、PEKKポリマーの融解温度を参照するとき、PEKKが2つのTm温度を有する場合、実際には最も高いTmを参照する。
【0056】
PEKKポリマーの合成は、文献に記載されており、典型的には、PEKKポリマーを得るために溶媒中でモノマーを重縮合する工程及び溶媒及び塩を抽出する工程を含む。モノマーの重縮合は、ルイス酸の存在下(求電子性PEKK)で、又はルイス酸の不存在下(求核性PEKK)で行うことができ、或いはモノマーの総重量を基準として2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の量のルイス酸の存在下で行うことができる。
【0057】
本発明によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される1μm~20μm、好ましくは2μm~19μm、又は3μm~18μm、又は5μm~16μmに含まれるd50値を有する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される30μm未満のd90値を有する。一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される25μm未満、好ましくは20μm未満、又は19μm未満のd90値を有する。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される0.5μmよりも高いd10値を有する。一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される1μmを超える、好ましくは2μmを超える、又は3μmを超えるd10値を有する。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される50μm未満のd99値を有する。一実施形態によれば、PAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される45μm未満、好ましくは40μm未満、又は35μm未満のd99値を有する。
【0061】
そのような粒度分布を有するPAEK(コ)ポリマー粉末粒子は、摩砕することによって粗い粉末から調製することができる。粗い粒子は、例えば、ピン付きディスクミル、分級機付きジェットミル/流動化ジェットミル、インパクトミルと分級機、ピン/ピン-ビーターミル又は湿式摩砕ミル、或いはこうした装置の組み合わせで摩砕することができる。粗い粉末は、材料が脆くなる温度より低い温度、例えば、摩砕する前に25℃より低い温度に冷却できる。冷却は、例えば液体窒素又はドライアイスによって行うことができる。摩砕された粉末は、好ましくは、空気セパレーター又は分級器で分離して、所定の分画スペクトルを得ることができる。
【0062】
補強剤
補強繊維又は充填剤とも呼ばれる、幅広く選択される補強剤が、本発明によるポリマーマトリックスに添加され得る。補強剤は、繊維状補強剤及び微粒子状補強剤から選択することができる。繊維状補強充填剤は、平均長さが幅及び厚さの両方よりも著しく大きい、長さ、幅及び厚さを有する材料であると本明細書では考えられる。一般に、そのような材料は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の長さと最大の幅及び厚さとの間の平均比として定義されるアスペクト比を有する。
【0063】
補強充填剤は、鉱物充填材(タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの)、ガラス繊維、炭素繊維、合成ポリマー繊維、アラミド繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、炭化ホウ素繊維、ロックウール繊維、スチール繊維及びウォラストナイトから選択され得る。
【0064】
繊維状充填剤の中ではガラス繊維が好ましく、それらには、Additives for Plastics Handbook,2nd edition,John Murphyの5.2.3章、43~48頁に記載されているような、チョップドストランドA-、E-、C-、D-、S-及びR-ガラス繊維が含まれる。好ましくは、充填剤は、繊維状充填剤から選択される。それは、より好ましくは、高温用途に耐えることができる補強繊維である。
【0065】
補強剤は、ポリマーマトリックスの総重量を基準として、0.1~30重量%、0.5~25重量%、1~20重量%、又は1.5~15重量%の範囲の量でポリマーマトリックス中に存在することができる。
【0066】
任意選択的成分
ポリマーマトリックスは、潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、染料、充填剤、ナノ充填剤、又は電磁気吸収剤などの1種以上の添加剤を更に含み得る。これらの任意選択の添加剤の例は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ又は硫化亜鉛、ガラス繊維、炭素繊維である。
【0067】
ポリマーマトリックスは、ハロゲン難燃剤及びハロゲンフリー難燃剤などの難燃剤を更に含んでいてもよい。
【0068】
添加剤は、ポリマーマトリックスの総重量を基準として0.1~30重量%、0.5~25重量%、1~20重量%、又は1.5~15重量%の範囲の量でポリマーマトリックス中に存在し得る。
【0069】
繊維トウ
本発明によれば、繊維トウの繊維は、連続繊維フィラメントの製造において強化剤として使用することができる全ての繊維から選択することができる。したがって、それらは特に、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、シリカ繊維、金属繊維、例えば鋼繊維、アルミニウム繊維、又はホウ素繊維、セラミック繊維、例えば炭化ケイ素又は炭化ホウ素繊維、合成有機繊維、例えばアラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、又はポリ(p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)(PBO)の繊維、天然有機繊維、例えば亜麻繊維、麻繊維、又は絹繊維であってよい。
【0070】
これらの繊維は、炭素繊維の場合、例えば直径6~10μmの大きさの数千の基本フィラメントを一緒にまとめた糸の形態である。前記繊維トウは、「ロービング」又は「テープ」としても知られている。いくつかの実施形態では、繊維トウ中の基本フィラメントの数は、1,000(1K)~50,000(50K)の繊維で変化する。
【0071】
いくつかの実施形態では、繊維トウは、炭素繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、ナイロン繊維フィラメント、又はガラス繊維フィラメントを含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、繊維トウは、好ましくはポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)及び芳香族ポリアミドイミド(PAI)からなる群から選択される熱可塑性樹脂でサイジングされる。繊維トウは、ウレタン及び/又はエポキシ樹脂でサイジングすることもできる。
【0073】
繊維トウは、連続繊維フィラメントの総体積を基準として20~80体積%の範囲、例えば30~70体積%又は40~60体積%の範囲の量で連続繊維フィラメント中に存在し得る。特に好ましいものは、50~55体積%又は60~65体積%の繊維トウを含む連続繊維フィラメントであり、これは、印刷用製品の柔軟性及び取り扱いの面で寄与する。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の方法に従って製造される連続繊維フィラメントは、
- ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー又はコポリマーを含むポリマーマトリックス、及び
- ポリマーマトリックスに埋め込まれた1つの繊維トウ、
を含む。
【0075】
いくつかの特定の実施形態では、繊維フィラメントは、例えば、フィラメントの総重量を基準として
- 20~80重量%のポリマーマトリックス、例えば30~70重量%、40~60重量%、50~55重量%、又は60~65重量%のポリマーマトリックス、及び
- 20~80重量%の繊維トウ、例えば30~70重量%、40~60重量%、35~40重量%、又は45~50重量%の繊維トウ、
を含む。
【0076】
いくつかの別の特定の実施形態では、繊維フィラメントは、例えば、繊維フィラメントの総重量を基準として
- 1種のPAEKポリマー又はコポリマーからなる20~80重量%のポリマーマトリックス、例えば30~70重量%、40~60重量%、50~55重量%、又は60~65重量%のポリマーマトリックス、及び
- 20~80重量%、例えば30~70重量%、40~60重量%、35~40重量%、又は45~50重量%の炭素繊維トウ、
を含む。
【0077】
本発明の方法の工程a)は、トウが含浸浴に入る前にトウを開繊することからなる。開繊は、例えば、つや消し仕上げの硬質クロムめっきなどの金属バーであることができ、表面粗さが6s~13sである開繊バーを使用して行うことができる。そのようなバーは、例えばイズミインターナショナル株式会社から購入することができる。トウは、工程b)に従って含浸媒体に入る前に、少なくとも4.0mmの幅、例えば少なくとも5.0mm、少なくとも6.0mm、少なくとも7.0mm、更には少なくとも10.0mmの幅に開繊され得る。いくつかの実施形態では、工程b)に従って含浸媒体に入る前に、1Kトウは少なくとも4.0mmの幅に開繊される。いくつかの別の実施形態では、3Kトウは、含浸媒体に入る前に少なくとも8.0mm、例えば少なくとも10.0mm、少なくとも11.0mm、又は少なくとも12.0mmの幅に開繊される。
【0078】
本発明の方法の工程b)、すなわち繊維トウの含浸は、好ましくは媒体が均一な状態に保たれるように撹拌しながら、含浸媒体液で予め満たされた槽又はタンクのタイプの受器内でトウを循環及びガイドすることによって行うことができる。
【0079】
繊維トウを含浸媒体に浸漬する工程の後、方法は、繊維トウをポリマーの溶融温度を超える温度に加熱することからなる工程c)の予備工程として、含浸された繊維トウを乾燥させる工程を含んでいてもよい。
【0080】
方法は、繊維トウをカレンダー加工することからなる工程d)も含み、これにより、円筒形状の少なくとも1つのダイを使用して、溶融ポリマーでコーティングされる。
【0081】
本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる連続繊維フィラメントにも関し、フィラメントは、円筒形状を有し、少なくとも50個のフィラメント試験片の断面の顕微鏡により測定される平均直径が300μm~1,500μmで変化し、例えば平均直径は400μm~1,300μm、又は500μm~1,000μmで変化する。
【0082】
本発明の方法から得られる連続繊維フィラメントは、改善された真円度を示す。更に、トウの個々の繊維は、ポリマーマトリックス内のフィラメント全体によく分布している。これらの特性は、関与する製造プロセスと材料との組み合わせ、特にPAEK(コ)ポリマーを含むマトリックス成分のポリマー材料によく適した界面活性剤の分類を本発明者らが特定したこと、並びに繊維トウを被覆する含浸液体媒体に採用される特定のポリマー粒子サイズ(特にd50)を特定したことの結果であると考えられる。
【0083】
本発明の連続繊維フィラメントは、特に、以下の式(1):
【数1】
(式中、
- 「面積」は、直径断面の面積(μm
2)であり、
- 「周長」は、フィラメント断面の外側の境界の長さ(μm)である)に従って、少なくとも50個のフィラメント試験片の断面の顕微鏡観察により測定される、少なくとも0.70、好ましくは少なくとも0.72、より好ましくは少なくとも0.74の真円度を有することを特徴とする。
【0084】
本発明の連続繊維フィラメントは、2,025μm2の少なくとも50個のフィラメントの正方形の断面フィラメントスライスの顕微鏡観察により測定される、20%~60%繊維/2,025μm2で変化する平均繊維含有率、及び12%繊維/2,025μm2未満の標準偏差を有することも特徴とする。いくつかの実施形態では、平均繊維含有率は、20%~60%、22~58%、24~56%、又は26~54%の繊維/2,025μm2で変化する。いくつかの実施形態では、標準偏差は、11.5%未満、11.0%未満、又は10.5%未満の繊維/2,025μm2である。
【0085】
いくつかの実施形態では、最小繊維含有率は、2,025μm2の少なくとも50個のフィラメントの正方形の断面フィラメントスライスの顕微鏡観察により測定される、少なくとも4%繊維/2,025μm2、好ましくは少なくとも4.5%繊維/2,025μm2である。いくつかの実施形態では、最大繊維含有率は、2,025μm2の少なくとも50個のフィラメントの正方形の断面フィラメントスライスの顕微鏡観察により測定される、少なくとも99体積%繊維/2,025μm2未満、好ましくは少なくとも95%繊維/2,025μm2未満である。
【0086】
本発明は、押出ベースの付加製造システムを使用して三次元物体を製造するための、本発明の連続繊維フィラメントの使用にも関する。
【0087】
最後に、本発明は、本発明の連続繊維フィラメントを押し出して3次元(3D)物体の層を印刷することを含む、3D物体の製造方法にも関する。この工程は、例えば部品材料のストリップ又は層を印刷する又は堆積させるときに生じ得る。押出ベースの付加製造システムを使用する3D物体の製造方法は、特に溶融フィラメント製造技術(FFF)としても知られている。FFF 3Dプリンターは、例えば、Indmatechから、Hyrelから、Robozeから又はStratasys,Inc.から(商品名Fortus(登録商標)で)市販されている。CCFプリンターは、例えばMarkforgedから、Desktop Metalから、Moi compositesから市販されている。
【0088】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本明細書の記載が優先するものとする。
【実施例】
【0089】
原材料
KetaSpire(登録商標)PEEK KT 880 UFP、KT 820 UFP、KT 890、及びKT 890 UFP、Solvay Specialty Polymers USA,LLCから市販
Igepal(登録商標)CA630(No.CAS 9002-93-1)、オクチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(M=603g/mol)、Sigma-Aldrichから市販
【化11】
Thornel(登録商標)1K T300 NT CF及び3K T650 NT CF、Solvayから市販。
【0090】
フィラメントの特性評価
直径、粒度分布(PSD)
PSD(体積分布)は、湿式モード(128チャネル、0.0215~1408μm)でレーザー散乱Microtrac S3500分析器を使用して、平均3回実行して決定した。溶媒は、屈折率1.38のイソプロパノールであり、粒子は、屈折率1.59を有すると想定された。超音波モードが可能にされ(25W/60秒)、流量は、55%に設定された。
【0091】
真円度及び繊維分布に関してフィラメントの特性評価を行うために、フィラメント試験片をEmsDiasumのエポキシ樹脂Epofix(登録商標)に埋め込んだ。ダイヤモンド懸濁液で研磨する前に、樹脂を室温で少なくとも24時間硬化させた。研磨された試験片は、顕微鏡Keyence VH-Z100Rを使用して検査した。
【0092】
真円度
真円度は、式(1):
【数2】
(式中、
- 「面積」は、直径断面の面積(μm
2)であり、
- 「周長」は、フィラメント断面の外側の境界の長さ(μm)である)に従って、少なくとも50個のフィラメント試験片の断面を顕微鏡で測定した。
【0093】
繊維分布
平均の繊維の含有率と標準偏差は、少なくとも50個の正方形のフィラメントの断面を顕微鏡で測定した。より正確には、ImageJソフトウェアを、45μm×45μm(行×列)の正方形に分割されたフィラメントの断面スライスを分析することによるフィラメント形態の処理において使用した。繊維含有率は、フィラメント断面の画像に基づいて分析し、断面フィラメントスライスの少なくとも50個の正方形について計算するため、面積パーセント割合(%)で表される。本出願によれば繊維フィラメントは連続的であるため、面積パーセント割合は体積パーセント割合(体積%)をよく表す。各正方形について、繊維を表す暗いスポットと、ポリマーマトリックスを表す明るい領域とが存在する。ソフトウェアは暗いスポットの面積を計算する。例えば、繊維含有率25%の正方形は、この正方形では繊維含有率が25%であることを意味する。その後、少なくとも50個の正方形のフィラメントの分析に基づいて平均繊維含有率が計算される。
【0094】
繊維含有率の標準偏差は、繊維分布の均一性を定義するために生成される。標準偏差が小さいほど、繊維分布がフィラメントの断面にわたってより均一である。標準偏差が小さいことは、樹脂が豊富な領域と繊維が豊富な領域が少ないフィラメントを表す。
【0095】
フィラメント製造プロセス
複合材料のフィラメントは、湿式含浸の繊維ラインを使用して製造した。このプロセスによれば、丸い炭素繊維トウがスラリー懸濁液に入る前に丸い炭素繊維トウをリボンに変換するために、開繊バーを使用することができる(開繊-工程a))。含浸容器は、実験中に確実に均一に混合するために撹拌状態で維持される水性ポリマースラリーで満たされる。炭素繊維トウは、ポリマー粉末で被覆されてスラリー懸濁液から出る。その後、数個のローラーによってオーブンユニットに導かれる。溶媒を乾燥し、上記ポリマー粉末をその融解温度(Tm)より上で溶融するために、複数の(例えば3台)のオーブンが使用される。フィラメントの直径を制御するために溶融オーブンの直後に位置する漏斗状の開口部を有する円筒形状の加熱されたダイ(全長3mm、ダイチャネル長1.5mm、チャネル径0.4mmのダイを1Kの実施例に使用し、チャネル径0.6mmを3Kの実施例に使用した)を使用し、適宜選択される。最後に、フィラメントはスプールに巻き取られる。
【0096】
媒体の調製プロセス
界面活性剤は最初に水に加えられ、電気又は圧縮空気によって粉末化された磁気撹拌子を使用して一緒に混合する。界面活性剤がよく混ざるまで混合物を撹拌する。その後、ポリマー粉末を水性浴の中に徐々に添加する。全てのポリマー粉末が最終的に取り込まれて均一な溶液が得られた後、撹拌を少なくとも1時間継続する。
【0097】
ポリマー粒子のサイズ
2つの異なるポリマー粒度分布を使用して、上述した製造プロセスに従ってフィラメントを製造した。スラリー懸濁液は、含浸媒体の総重量を基準として1重量%のIgepal(登録商標)CA360と21重量%のPEEKポリマー粉末とを含んでいた。含浸浴に入る前に、3Kトウを開繊した。次いで、ポリマーで被覆されたトウをオーブン内で490℃の温度で加熱した。
【0098】
【0099】
図1及び
図2は、異なるd50を有するPEEKポリマー粉末、より正確には20μmより大きいd50を有するPEEKポリマー粉末(
図2-比較)又は10.9μmのd50を有するPEEKポリマー粉末(
図1-本発明)を含むスラリーを使用するが同じプロセスで得られたフィラメントの断面上の繊維分布を示している。
図2に示すフィラメント上の繊維分布は均一ではなく、フィラメントの周囲に繊維の重なりや、繊維が全くない領域が存在する。
図1に示すフィラメントの繊維分布は、フィラメント全体にわたって均一であり、よく分散している。
【0100】
フィラメントの真円度の調査
このセクションの全ての実施例は、総含浸媒体濃度に対する重量パーセントを用いて、KetaSpire(登録商標)KT880UFP(D50=11.9μm)とIgepal(登録商標)CA360を使用して生成した。使用したトウ繊維は、Thornel(登録商標)連続炭素繊維であり、以下の表bに示されているように開繊するか、そのままにした。
【0101】
実施例1~5の全てのフィラメントは、実施例2、3、及び4のフィラメントをカレンダー加工するためにダイを使用しなかったことを除いて、同じプロセスに従って製造した。結果を表bに示す。
【0102】
【0103】
これらの結果は、真円度が改善されたフィラメントを得るためには、少なくとも1つのダイでフィラメントをカレンダー加工することが必要であることを示している。これは、1つ又は2つのダイが使用された実施例E1及びE5で首尾よく達成される。適切なカレンダー加工(ダイを使用しない)なしでは、比較例2、3、及び4で示されるように、プロセスは十分な真円度を達成することができなかった。
【0104】
フィラメント繊維分布の調査
このセクションの比較例6は、総スラリー濃度に対する重量パーセンテージを用いて、KetaSpire(登録商標)KT880UFP(D50=11.9μm)及びIgepal(登録商標)CA360を使用して生成した。使用した繊維はThornel(登録商標)連続炭素繊維であり、以下の表cに示されているように開繊するか、そのままにした。
【0105】
実施例6のフィラメントは、トウを含浸浴に入れる前に開繊しなかったことを除いて、実施例1と同じプロセスに従って製造した。結果を表cに示す。
【0106】
【0107】
これらの結果は、含浸浴に入れる前に繊維トウを開繊する必要があることを示している。これは、開繊を利用した実施例E1で首尾よく達成される。比較例2及び6で示されるように、開繊なしではプロセスは均一な繊維分布を達成することができなかった。
【0108】
真円度が機械的性能に与える影響
フィラメントの真円度と繊維分布の均一性が成形したサンプルの機械的性能に及ぼす影響を調べるために、成形サンプルを製造した。成形温度は371.1℃(700°F)に設定し、成形時間は全ての実験で30分であった。使用した成形圧力は448~689kPa(65~100psi)であった。成形したサンプルに対して、“Interlaminar shear strength of continuous carbon fiber reinforced thermoplastic composites manufactured by 3D printing”Conference paper from Jan 2017 from 24th ABCM International Congress of Mechanical Engineering-Dutra et al.に記載されているショートビーム応力(SBS)試験を行った。この試験は、試験片に引張力と圧縮力の両方をかけ、層間せん断特性を測定することができる。試験はASTM2344に従ってInstron 5569を使用して行った。試験速度は1.0mm/分であった。
【0109】
成形サンプルA及びBは、真円度0.84、繊維分布5.7%/正方形標準偏差の3層のフィラメントを使用して製造した。フィラメントは、60重量%の樹脂含有率のフィラメントである。サンプルAとサンプルBは、同じ重量のフィラメントを使用して製造したが、異なる圧力で成形した。サンプルAの厚さは1.23mmであり、成形サンプルBの厚さの1.28mmと比較して薄い。
【0110】
成形サンプルC及びDは、真円度0.59の3層のフィラメントを使用して製造した。
【0111】
成形サンプルEは、平均真円度0.72の3層のトウフィラメントを使用して製造した。
【0112】
結果
【0113】
【0114】
成形サンプルA及びBの形態は非常に類似しており、特に繊維分布は均一である。これは、寸法と形態が圧力変化の影響を受けなかったことを意味する。結果は、サンプルAとBに使用されたフィラメントが、様々な印刷プロセス条件下であっても寸法制御が良好な印刷された部品を与えることができることを示している。
【0115】
個々のフィラメント間のサンプルCの境界線は、成形サンプルBと比較して大きい(結果は示されていない)。サンプルBとサンプルCは同じ条件で成形されたものの、サンプルCの厚さはわずか1.10mmであり、サンプルBよりも大幅に薄い。これは、真円度が低く、フィラメントストローの配列が不十分になるためである。3Dプリンターでフィラメントを印刷ベッド上に押し出す際、真円度が低いとラスター幅が一定ではない部品になり、ボイド欠陥の可能性が高くなる。
【0116】
成形された部品Dは、サンプルの厚さを約1.3mmに保つようにスペーサーを使用したため、成形サンプルBと同様の厚さを有する。より大きな境界領域が観察される。CCFフィラメント印刷を含むほとんどのFFFプロセスでは、層が完成した後、ビルドプラットフォームは、印刷ソフトウェアでプログラムされた1つの層の厚さ/パスの高さ分、z軸方向に下に移動する。したがって、圧密化後の押出物の厚さをよく制御することが、印刷された部品の品質を高める上で重要である。成形部品Dの結果は、真円度の低いフィラメントが、寸法制御が不十分な印刷された部品と、印刷された部品の機械的性能を脅かす欠陥(成形部品Bのものよりも大幅に低いSBS強度)とをもたらすことも示している。
【0117】
成形サンプルA及び成形サンプルBは、フィラメントの品質が良好(良好な真円度及び均一な分布)でありその結果圧密化が優れていることから、わずかな偏差で同じ高いSBS強度を有している。サンプルC、D、及びEでは、SBS強度が低下し、ばらつきが増加した(標準偏差の増加によって示される)。サンプルCはフィラメントの真円度が低いことに起因してフィラメントの圧密化が不十分であったため、強度が弱く報告できなかった。成形サンプルDのSBS強度は、フィラメントの真円度が不十分なことに起因してフィラメント間の境界領域が生じるため、約11%低い。成形サンプルEのSBS強度は、最初の2つのサンプルと比較して約9%低い。成形サンプルEの内部には、境界線も領域も存在しない(結果は図示せず)。このサンプルは、全体の繊維と樹脂の組成は同じであるが、サンプルE全体にわたって局所的なばらつきが大きい。繊維の分布が不十分なため、炭素繊維の含有率が比較的少ない樹脂の豊富な領域で、試験荷重下での開始に失敗しやすくなる。このことは、SBS強度の標準偏差がより大きい理由も説明している。
【国際調査報告】