(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-07
(54)【発明の名称】迅速に溶解する細胞培養培地粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501815
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 US2021040099
(87)【国際公開番号】W WO2022015518
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】フリーランド,アンジェラ コリーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャロッシュ,カイ トッド ポール
(72)【発明者】
【氏名】ルッチ,タイラー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】セヴム,マシュー アンドリューズ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BC01
(57)【要約】
所望の細胞培養培地の乾燥原料を提供すること;乾燥原料を水溶液と混合してペーストを形成すること;ペーストを乾燥させて脱水された培地製品を形成すること;及び、脱水された培地製品を粉砕して所望の粒度の乾燥細胞培養培地粉末を達成することを含む、乾燥細胞培養培地粉末を製造する方法が提供される。迅速に溶解し、pHが事前に調整され、かつ事前に緩衝された乾燥細胞培養培地粉末も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥細胞培養培地粉末を製造する方法であって、
所望の細胞培養培地の乾燥原料を提供すること、
前記乾燥原料を水溶液と混合してペーストを形成すること、
前記ペーストを乾燥させて脱水された培地製品を形成すること、及び
前記脱水された培地製品を粉砕して所望の粒度の前記乾燥細胞培養培地粉末を達成すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記乾燥することが、前記ペーストを真空に曝露することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥することが、水のエバポレーションによる前記ペーストの重量の減少が停止するまで、前記ペーストを真空に曝露することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥することが前記ペーストを加熱することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合することが、前記ペーストが均質になるまで前記乾燥原料を混合することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液が酸及び塩基の少なくとも一方を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記水溶液の組成を調整して前記乾燥細胞培養培地粉末のpHを事前調整することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶液がHCl及びNaOHの少なくとも一方を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脱水された培地製品に緩衝液を加えることをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記緩衝液が重炭酸ナトリウムを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って製造された乾燥細胞培養培地粉末。
【請求項12】
脱水された細胞培養培地粉末から液体細胞培養培地を調製する方法であって、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って製造された前記乾燥細胞培養培地粉末を提供すること、
前記乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に加えること、及び
前記乾燥細胞培養培地粉末を前記溶媒に溶解させて前記液体細胞培養培地を提供すること
を含む、方法。
【請求項13】
溶媒に前記乾燥細胞培養培地粉末を溶解しつつ前記溶媒を撹拌することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記乾燥細胞培養培地の溶解が、約2.5分以内、約2分以内、約1.5分以内、約1分以内、約50秒以内、約45秒以内、約40秒以内、約35秒以内、約30秒以内、約25秒以内、約20秒以内、約15秒以内、又は約10秒以内に完了する、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶解中、乾燥細胞培養培地粉末と前記溶媒との混合物の導電率の最大変化速度が、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
溶解後、前記液体細胞培養培地が約7.0から約7.4のpHを有する、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
約7.0から約7.4のpHが、前記溶解した乾燥細胞培養培地粉末及び前記溶媒に酸又は塩基を加えることなく達成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
液体細胞培養培地を調製するための乾燥細胞培養培地粉末であって、
細胞培養培地材料を含む均質な粒子
を含み、ここで、
前記均質な粒子が、水と前記均質な粒子との溶液の保磁力の変化速度で測定した水中の溶解速度を含み、前記保磁力の変化速度の最大値が、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である、
乾燥細胞培養培地粉末。
【請求項19】
前記均質な粒子のpHが事前に調整される、請求項18に記載の乾燥細胞培養培地粉末。
【請求項20】
前記均質な粒子が事前に緩衝される、請求項18又は請求項19に記載の乾燥細胞培養培地粉末。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2020年7月14日出願の米国仮特許出願第63/051,419号の米国法典第35編特許法119条に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、細胞の培養に用いられる細胞培養培地、並びにそのような培地の製造方法に関する。特に、本開示は、迅速に溶解する細胞培養培地粉末及びそのような培地粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ライフサイエンス業界では、細胞増殖に必要な栄養素及び環境を提供するために、細胞培養培地が広く使用されている。治療薬を生成するための細胞の培養には、炭水化物、アミノ酸、脂質、ビタミン類、及び無機塩を含みうる、栄養素の定義された混合物である、細胞培養培地の使用が必要である。一般に、細胞は、細胞株を拡大するため、又は精製及び販売される1つ以上の細胞副生成物又は化合物を生成するために、細胞培養液中で増殖される。細胞培養培地の特性及び組成は、特定の細胞要件に応じて変動する。重要なパラメータには、浸透圧、pH、及び栄養素配合物が含まれる。望ましいパフォーマンスのために、細胞培養培地は、適切な濃度で細胞増殖に適切な栄養素を提供し、適切なpH及び適切なpHを維持するための機構(緩衝液など)を有し、適切な浸透圧を有し、かつ有機、無機、生物学的、又は非生物学的汚染物質を含めた、最小限の量の汚染物質を含む必要がある。
【0004】
培地配合物は、動物、植物、酵母、及び細菌細胞を含めた原核細胞を含む多くの細胞型を培養するために使用されてきた。培養培地で培養された細胞は、利用可能な栄養素を異化し、モノクローナル抗体、ホルモン、成長因子、ウイルスなどの有用な生物学的物質を生成する。このような製品は治療用途を有しており、組換えDNA技術の出現により、これらの製品を大量に生産するように細胞を操作することができる。したがって、細胞を培養する能力は、細胞生理学の研究にとって重要であるだけでなく、費用対効果の高い手段では得られないであろう有用な物質の生産にも必要である。
【0005】
細胞培養培地製品は、粉末と液体の両方の形式で製造及び販売されており、市場調査によれば、粉末細胞培養培地は、世界中の細胞培養培地の売上において、液体細胞培養培地よりも大きい部分を構成することが示唆されている。これらの各形式は、特定の長所と短所を有している。液体細胞培養培地は、一般にすぐに使用できる製品として販売されており、これは、液体細胞培養液が、細胞を接種する前に化学物質の添加によって調製する必要がないことを意味する。しかしながら、液体培地は、細胞培養において最適なパフォーマンスのために、しばしばサプリメント(例えば、L-グルタミン、血清、抽出物、サイトカイン、脂質、ビタミン類、栄養素(アミノ酸、ヌクレオシド及び/又はヌクレオチド、炭素源、1つ以上の糖、アルコール、又は他の炭素含有化合物を含む)など)の追加が必要になるという欠点を有する。さらには、液体培地は、多くの成分が熱に不安定であり(したがって、例えばオートクレーブの使用を除去する)、バルク液体はガンマ線又は紫外線の照射などの浸透滅菌法に特に適していないことから経済的に滅菌するのが難しいことがよくある;したがって、液体培養培地はほとんどの場合、濾過によって滅菌されるが、これは時間と費用がかかるプロセスになりうる。さらには、液体培養培地の大きいバッチサイズ(例えば、1000リットル以上)の生産及び保管は非現実的であり、液体培養培地の成分は比較的短い貯蔵寿命を有していることが多い。
【0006】
一方、粉末細胞培養培地製品は、すぐに使用できる製品ではなく、使用する前に幾つかの調製が必要である。ほとんどの場合、粉末細胞培養培地製品から液体細胞培養培地を調製する手順には、粉末細胞培養培地製品を適切な量の水に溶解し、緩衝液を溶解し、得られる溶液のpHを酸又は塩基の添加により調整することが含まれる。
【0007】
粉末培地は同等量の液体培地よりも安価であるが、粉末化された培地フォーマットを使用することにはよく知られている欠点がある。例えば、原料を添加粉砕して粉末を形成することによって調製される粉末細胞培地製品は、多くの場合、溶解時間が遅く、水面に凝集及び/又は浮遊する傾向を示す。さらに、原料を添加粉砕して粉末を形成することによって調製される粉末細胞培地製品は、多くの場合、高い粉塵含有量を含み、不十分な流動特性も示しうる。最後に、原料を追加粉砕して粉末を形成することによって調製される粉末細胞培養培地製品は、よく研究されている多くの粉末偏析機構のうちの1つ以上によって偏析する傾向があろう。
【0008】
粉末細胞培養培地製品の使用に伴うこれらの問題を緩和する試みにおいて、粉末細胞培養培地のさまざまな製造方法が開発されてきた。これらの製造方法の多くは、最終的な粉末細胞培養培地製品を構成する未加工の粉末材料を凝集させて、より速く溶解し、より簡単に流れ、粉塵の少ない最終製品を実現することに焦点を当てている。凝集は、通常、流動床凝集、又は圧力を使用して材料を圧縮する乾式凝集によって行われる。
【0009】
流動床凝集は、概して、凝集容器に必要な原材料を充填して製品を配合し、原材料を容器内で流動化又は懸濁し、前記原材料に溶媒を噴霧して、固体架橋などの機構を介して懸濁粒子間の接着及び/又は凝集を促進することからなる。溶媒は、水、及び代替溶媒、又は溶媒と(一又は複数の)溶質との溶液でありうる。凝集生成物は、乾燥後、凝集容器から排出される。凝集生成物は、必要に応じて、包装するか、又はさらに粉砕して、より小さい粒度を達成することができる。凝集された製品は、原材料を追加粉砕することによって製造された製品と比較して、より優れた溶解性、流動性、及び粉塵特性を有することが意図されている。乾式凝集は概して、乾燥原材料を凝集体/ペレットへと圧縮することからなる。次に、凝集した材料を粉砕して、より小さい粒度を実現することができる。しかしながら、これらの方法は、粉末細胞培養培地の取り扱い及び使用のすべての問題を克服するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、溶解時間の遅さ、凝集、浮遊、ダスティング、不十分な流動性、及び偏析を含めた、粉末化された培地の使用者が直面する困難さを軽減する粉末細胞培養培地製品が必要とされている。培地の使用者が粉末製品を溶解し、適切な量の緩衝液を投与した後に溶液のpHを手動で調整する必要のない粉末細胞培養培地もまた必要とされている。したがって、pHが事前に調整され、事前に緩衝され、かつ均質な迅速に溶解する完全な培地粉末が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施態様によれば、乾燥細胞培養培地粉末を製造する方法が提供される。該方法は、所望の細胞培養培地の乾燥原料を提供すること;乾燥原料を水溶液と混合してペーストを形成すること;ペーストを乾燥させて脱水された培地製品を形成すること;及び、脱水された培地製品を粉砕して所望の粒度の乾燥細胞培養培地粉末を達成することを含む。
【0012】
幾つかの実施態様の一態様として、乾燥することは、ペーストを真空に曝露することを含みうる。乾燥することは、水のエバポレーションによるペーストの重量の減少が停止するまでペーストを真空に曝露することをさらに含みうる。乾燥することは、ペーストを加熱することも含みうる。
【0013】
幾つかの実施態様のさらなる態様として、混合することは、ペーストが均質になるまで乾燥原料を混合することを含む。水溶液は酸及び塩基の少なくとも一方を含む。該方法は、水溶液の組成を調整して乾燥細胞培養培地粉末のpHを事前調整することをさらに含みうる。水溶液はHCl及びNaOHの少なくとも一方を含みうる。さらなる態様として、該方法は、脱水された培地製品に緩衝液を加えることを含みうる。緩衝液は重炭酸ナトリウムを含みうる。
【0014】
本開示の追加的な実施態様によれば、上記態様及び実施態様の方法に従って製造される乾燥細胞培養培地粉末が提供される。
【0015】
さらなる実施態様によれば、脱水された細胞培養培地粉末から液体細胞培養培地を調製する方法が提供される。該方法は、上記方法に従って製造された乾燥細胞培養培地粉末を提供することを含む。該方法は、乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に加えること;及び、乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に溶解させて液体細胞培養培地を提供することをさらに含む。実施態様のさらなる態様として、該方法は、溶媒に乾燥細胞培養培地粉末を溶解しつつ溶媒を撹拌することを含む。
【0016】
幾つかの実施態様の態様によれば、乾燥細胞培養培地の溶解は、約2.5分以内、約2分以内、約1.5分以内、約1分以内、約50秒以内、約45秒以内、約40秒以内、約35秒以内、約30秒以内、約25秒以内、約20秒以内、約15秒以内、又は約10秒以内に完了する。
【0017】
幾つかの実施態様のさらなる態様によれば、溶解中、乾燥細胞培養培地粉末と溶媒との混合物の導電率の最大変化速度は、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である。
【0018】
溶解後、液体細胞培養培地は約7.0から約7.4のpHを有しうる。約7.0から約7.4のpHは、溶解した乾燥細胞培養培地粉末及び溶媒に酸又は塩基を加えることなく達成される。
【0019】
本開示のさらなる実施態様によれば、液体細胞培養培地を調製するための乾燥細胞培養培地粉末が提供される。乾燥細胞培養培地粉末は、細胞培養培地材料を含む均質な粒子を含む。均質な粒子は、水と均質な粒子との溶液の保磁力の変化速度で測定した水中の溶解速度を示し、保磁力の変化速度の最大値は、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である。
【0020】
幾つかの実施態様の一態様として、乾燥細胞培養培地粉末は、pHが事前に調整された均質な粒子を有する。加えて、均質な粒子は、事前に緩衝される。
【0021】
本開示の実施態様のさらなる態様及び詳細は、以下で論じられる図及び実施例を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】水に加えられた既知の細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム(時間t=0)
【
図1B】時間t=8秒における、溶解する
図1Aの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図1C】溶解した時点t=2.75分における、
図1A及び1Bの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図1D】重炭酸塩が溶解した時点t=4分における、
図1Aの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図2A】本開示の実施態様による、水に加えられた細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム(時間t=0)
【
図2B】時間t=8秒における、溶解する
図2Aの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図2C】溶解した時点t=30秒での
図2A及び2Bの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図2D】重炭酸塩が溶解した時点t=2.7分における、
図2Aの細胞培養培地粉末を示すビデオの静止フレーム
【
図3】従来の細胞培養液及び本開示の一実施態様による細胞培養液の溶解中の時間に対する導電率のプロット
【
図4】
図3の細胞培養液についての経時による溶解した細胞培養培地のグラムのプロット
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示のさまざまな実施形態は、もしあれば、図面を参照して詳細に説明される。さまざまな実施形態への言及は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。加えて、本明細書に記載された例は限定的ではなく、特許請求された発明の多くの可能な実施形態のうちの幾つかを単に記載するものである。
【0024】
本開示の実施態様は、粉末細胞培養培地、及びそのような粉末細胞培養培地の製造方法に関する。特に、完全な、pHが事前に調整され、事前に緩衝された、迅速に溶解する均質な粉末が提供される。細胞培養培地粉末は、特定の条件下(例えば、粉末材料の指定された量の材料が水に溶解されるとき、2つは同じ濃度で溶解される)で既存の粉末培地製品に必要な時間よりも大幅に短い時間で溶解することができることから、「迅速に溶解する」と見なされる。本開示の培地粉末は、粉末が水に溶解すると、使用者による溶解以外のステップなしに、細胞増殖に好ましい環境を維持するために必要なすべての栄養素及び化学物質を提供することから、「完全」と呼ばれる。完全な細胞培養培地粉末であることにより、顧客による化学物質の追加又は補足の必要性が軽減され、時間が節約され、バッチの汚染又は材料追加のエラーの可能性が減少する。
【0025】
本明細書で用いられる場合、「事前に調整されたpH」とは、培地粉末が適切な量の水に溶解されるとき、得られる溶液が意図する細胞増殖に適したpH又は最も望ましいpHを有することを意味する。pHの事前調整の利点は、手動のpH調整ステップを排除することにより、使用者の時間を節約できることである。また、pHが正しく調整されていない場合に発生する可能性のあるバッチの汚染又はバッチの拒否の可能性を減らすのにも役立つ。本明細書で用いられる「事前緩衝」とは、pHが事前に調整されることに加えて、培地粉末の溶解から生じる溶液が、細胞増殖のために所望のpHを維持することが可能な緩衝システムを有することを意味する。事前に緩衝することにより、顧客が計量して適切な量の緩衝液を溶液に加える必要が軽減され、これにより、顧客の時間が節約され、材料の追加によるバッチの汚染又はエラーの可能性が減少する。以前のpHの事前調整の試みは、添加剤としてpHが反対の緩衝塩の使用に依拠していた(例えば、国際公開第02/36735号参照)。しかしながら、本開示の幾つかの実施態様では、このような添加剤は、pHの事前調整のための化学的に定義された培地の原材料を緩衝剤、酸、又は塩基に変換することによって回避することができる。
【0026】
本明細書に開示される培地及び方法は、既存の粉末細胞培養培地製品及び方法とは異なり、既存の製品及び方法よりも多くの利点を有する。従来の細胞培養培地粉末製品とは異なり、本開示の実施態様は、多くの粉末化された成分の単なる物理的混合物ではない。代わりに、本開示の細胞培養培地粉末の粉末材料は、その構成成分が化学的に均質である単一の材料である。例えば、凝集した粉末とは対照的に、本明細書の実施態様の粉末培地は、個々の原材料の凝集体ではない。むしろ、本開示の実施態様は、離散的であり、非常に類似しているか又は同じサイズの粒子を有する粉末培地を含む。凝集した粉末と比較して、本開示の実施態様は、凝集した粉末に見られる問題であるより高い均質性及び偏析に対する耐性も有することができる。本明細書で用いられる場合、「均質」とは、指定された量の粉末を適切な量の水に溶解したときに、粉末が一貫して同じ成分を同じ濃度で生成することを意味する。本質的に粉末のすべての粒子が同じ又はほぼ同じ組成を有するため、本開示の粉末培地の実施態様では、偏析の可能性が最小化又は排除されており、非常に小さいバッチであっても、均質性が大幅に改善又は保証される。均質性がより高い培地粉末が達成可能であるだけでなく、培地粉末の輸送、取り扱い、及び保管中にもその均質性を維持することができる。幾つかの代替的な方法とは異なり、本開示の実施態様は、乾燥細胞培養培地のカプセル化を使用しない。均質性のさらなる利点は、正しい割合の物理的に混合された原料が培養液に含まれていることを確実にするために、使用者が粉末製品の内容全体を使用することを強制されないことである。むしろ、培地粉末のいずれの部分も他の部分又は全体と同じ割合の原料を有している必要があるため、使用者は、粉末の一部のみを使用することができる。これにより、使用者が培地粉末の使用方法を柔軟に決定することができる。
【0027】
上で論じられたように、既存の粉末培地製品にはかなりの量の粉塵が含まれている。しかしながら、本開示の実施態様によれば、粉塵の含有量は最小限である。最小限の粉塵含有量は、揮発性の粉末に関連する健康上のリスクを軽減するために用いられる人工呼吸器及び他の安全装置の必要性を最小限に抑えるか、又は排除することによって、顧客に利点を提供する。さらには、粉塵含有量が減少すると、可燃性の粉塵の危険性が減少する。また、粉塵の含有量が最小限であることにより、製品が指定された使用場所以外の領域を汚染する可能性が低減し、より容易な取り扱いを提供する。粉塵の含有量を最小限に抑えることで、粉塵の流出による製品の損失も低減する。
【0028】
凝集した細胞培養培地粉末製品を製造する一般的な製造方法とは異なり、本開示の方法は、流動床凝集又は乾式凝集を使用しない。代わりに、本明細書に開示される方法は、細胞培養培地成分でペーストを形成し、次いでそのペーストを脱水して化学的に均質な材料を形成することを含む。本開示の粉末培地の製造方法に起因して、粉末培地の表面化学は凝集した粒子の表面化学とは異なっており、本開示の得られる粉末は、使用者によって溶媒に導入されると迅速な溶解を達成する。特に、粉末培地を製造するために幾つかの実施態様に従って用いられる脱水プロセスは、粉末粒子の水への湿潤、分散、及び溶解を促進することによって再水和プロセスを速める方式で、培地の原子、分子、又は官能基を配向させることができると考えられる。この迅速な溶解は、粉末培地を混合する段階の間に使用者の時間を節約すること;より厳密な混合を必要とせず、これにより、空気の巻き込みが少なくなり、他の混合関連の問題の可能性が減少すること;及び、機器内で固まる粉末を手動でこする、突き刺す、又は触れる必要性を減らし、したがって培地バッチの汚染のリスクを低減することを含む、幾つかの利点を有する。
【0029】
上記のように、本開示の実施態様は、既存の製品及び方法よりも優れた利点を有する細胞培養培地粉末及びそのような粉末培地を製造する方法を提供する。結果として、迅速な溶解を示し、pHが事前に調整され、事前に緩衝された、完全な培地である粉末細胞培養培地が提供される。さらには、本開示の方法は、広範囲の細胞培養培地配合物に適用することができる。場合によっては、配合物に必要な調整は、標準的な細胞培養培地の製造方法にすでに用いられている酸又は塩基を加えることだけである。したがって、本明細書の方法は、広く適用可能であり、容易にカスタマイズ可能である。
【0030】
本開示の実施態様による粉末細胞培養培地の迅速に溶解する能力を実証するために、既存の粉末細胞培養培地を水に溶解し、同じ濃度及び条件を使用した本開示の粉末細胞培養培地の水への溶解と比較した。
図1A~1Dは、以前から存在する細胞培養培地粉末製品の溶解についてビデオから得られた一連の静止フレームを示している。具体的には、以前から存在する製品は、従来の方法に従って製造された、Corning(登録商標)から販売されているダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Corningカタログ番号90-013)であった。
図1Aは、DMEMをビーカー内の250mLの水に加え、攪拌棒で溶液を攪拌した時点を示している。水へのDMEMの添加は、時間(t)が0秒であるとして測定された。
図1Bは、t=8秒での溶液を示しており、DMEMが溶解していることがわかる。DMEMが溶解するにつれて、比較的長時間にわたって溶液の上に浮かぶ塊を含めて、溶液中に凝集が目立つ。t=2.75分では、
図1Cに示されるように、培地は完全に溶解している状態に達する。t=4分では、残りの重炭酸塩が溶液に溶解する。
【0031】
図1A~1DにおけるDMEMの溶解タイムラインは、
図2A~2Dに示される、本開示の実施態様に従ってペーストから製造されたDMEM粉末培地の溶解と比較することができる。具体的には、
図2Aでは、時間(t)=0秒において、アクティブな撹拌棒を備えたビーカー内の250mLの水に培地粉末が加えられる。
図2Bでは、t=8秒において、培地粉末が溶解しているのを見ることができる。
図2Cは、培地粉末が、t=30秒までに完全に溶解することを示している。さらには、
図2Dにおいて、重炭酸塩がt=2.7分で溶解する。
図1A~1Dで用いられる従来のDMEMと比較して、
図2A~2Dで用いられる粉末培地は、はるかに優れた湿潤性、分散性、及び溶解速度を示している。例えば、凝集又は浮遊は見られない。
図2A~2Dの例では、多くの小さい気泡が溶液中に放出されており、特に
図2B及び2Cにおいて知覚される曇りをもたらすことが明らかである。しかしながら、
図2Cのt=30秒までに、粉末培地は完全に溶解し(以下で説明する導電率プロットによって証明される)、曇りは気泡のみに起因するものである。
【0032】
図1A~2Dの例において、水に加えられる乾燥粉末培地の量は、提供される水の量(すなわち、250mL)で細胞を培養するのに適した液体細胞培養培地を再構成するのに適した量である。本開示の実施態様は、
図2A~2Dに示される溶解タイムラインの例に限定されないことに留意されたい。例えば、粉末培地を粉砕することにより、溶解時間をさらに短縮することができる。重炭酸ナトリウムはまた、脱水された培地に混合する前に粉砕して、その溶解時間を短縮することもできる。
図1A~1Dで用いられるDMEMは、3時間ボールミル粉砕されたが、さらに粉砕しても溶解時間に影響はないであろう。
【0033】
図3は、
図1A~1D及び2A~2Dの溶液の測定された導電率(ミリシーメンス単位で測定)を経時的にプロットしたものである。
図3は、本開示の粉末培地を含む溶液(「実施例培地」と表示)の導電率が、粉末を水に加えた後の最初の数秒で劇的に速く増加し、比較のDMEM試料(「従来の培地」と表示)よりもはるかに早くプラトーに達することを示している。溶液の導電率は粉末培地の水への溶解度を効果的に測定するため、より多くの粉末が溶解するにつれて、溶液の導電率が増加する。導電率の変化速度と横ばい又はプラトーに達するまでの時間は、培地粉末の溶解速度と、培地粉末がいかに迅速に溶解するかを反映している。
【0034】
溶液の導電率が溶解した質量に比例すると仮定して、
図3の導電率データを
図4での溶解した質量(グラム単位)に変換した。
図3及び4では、プロットのx軸の1分に相当する時点で粉末培地を添加した。しかしながら、この時間(
図3及び4のx軸の1分)は、
図1A及び2Aでは時間t=0秒として扱われ、
図1A~2Dの溶解時間はその時間から測定される。
【0035】
Nova Biomedical社製のBioProfile(登録商標)Flex(商標)II機器を使用して、
図1A~4に関して上で論じた、得られた培養液を分析して、さまざまな成分の濃度を決定した。これらの成分濃度が表1に示されている。表1には、各成分の仕様値も記載されている。本開示の実施態様による実施例の培地を、濾過の前後の両方で分析した。表1に示されるように、実施例の培養液の値は、pHを含めて、すべての測定成分の仕様の範囲内である。しかしながら、従来の培養液は、pHの仕様外である。したがって、使用者は、指定範囲に到達するようにpHをさらに調整する必要があろう。対照的に、実施例の培地はpHが事前に調整されており、培地粉末を溶解した後にpH調整を必要としない。
【0036】
【0037】
上記で示されるように、本開示の実施態様は、迅速に溶解する粉末細胞培養培地を提供する。1つ以上の実施態様によれば、水に加えられた際の培地粉末の完全な溶解のための時間は、約2.5分以下、約2分以下、約1.5分以下、約1分以下、約50秒以下、約45秒以下、約40秒以下、約35秒以下、約30秒以下、約25秒以下、約20秒以下、約15秒以下、又は約10秒以下である。上に示されるように、培地粉末の溶解速度は、粉末と水の混合物の導電率の変化速度で表すことができる。1つ以上の実施態様では、水中での粉末培地の溶解中、乾燥細胞培養培地粉末と溶媒との混合物の導電率の最大変化速度は、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である。
【0038】
上で論じられたように、本開示の1つ以上の実施態様は、DMEMの形態での細胞培養培地粉末、及びそのような粉末の製造方法を提供する。しかしながら、本開示の実施態様は、任意のさまざまな培地配合物に適用することができる。
【0039】
本開示の実施態様に従って調製することができる動物細胞培養培地の例には、DMEM、RPMI-1640、MCDB 131、MCDB 153、MDEM、IMDM、MEM、M199、マッコイの5A、ウィリアムのE培地、ライボビッツL-15培地、グレースの昆虫培地、IPL-41昆虫培地、TC-100昆虫培地、シュナイダーのショウジョウバエ培地、Wolf&Quimbyの両生類培養培地、F10栄養混合物、F12栄養混合物、及び細胞特異的無血清培地(SFM)、例えば、ケラチノサイト、内皮細胞、肝細胞、メラノサイト、CHO細胞、293細胞、PerC6、ハイブリドーマ、造血細胞、胚細胞、神経細胞などの培養を支援するように設計されたものが含まれるが、これらに限定されない。本開示の実施態様による調製に適した他の培地、培地添加物、及び培地サブグループは、商業的に入手可能である(例えば、米国メリーランド州ロックビル所在のLife Technologies,Inc.社;及び、米国ミズーリ州セントルイス所在のSigma社)。これらの培地、培地添加物、及び培地サブグループ、並びに他の多くの一般的に用いられる細胞培養培地、培地添加物、及び培地サブグループのための配合は、当技術分野でよく知られており、例えば、GIBCO/BRLカタログ及び参照ガイド(米国メリーランド州ロックビル所在のLife Technologies,Inc.社)及びSigma動物細胞カタログ(米国ミズーリ州セントルイス所在のSigma社)に見出すことができる。
【0040】
本開示の実施態様に従って調製することができる植物細胞培養培地の例には、アンダーソンの植物培養培地、CLC基礎培地、ガンボーグの培地、ギラードの海洋植物培養培地、プロヴァソリの海洋培地、Kao及びMichaylukの培地、ムラシゲ-スクーグ培地、McCownの木本植物培地、ノドソン-オーキッド培地、リンデマン-オーキッド培地、並びにVacin及びWent培地が含まれるが、これらに限定されない。市販されているこれらの培地、並びに他の多くの一般的に用いられる植物細胞培養培地の配合は、当技術分野でよく知られており、例えばSigma植物細胞培養カタログ(米国ミズーリ州セントルイス所在のSigma社)に見出すことができる。
【0041】
本開示の実施態様に従って調製することができる細菌細胞培養培地の例には、トリプチケースソイ培地、ブレインハートインフュージョン培地、酵母エキス培地、ペプトン-酵母エキス培地、ビーフインフュージョン培地、チオグリコール酸培地、インドール-硝酸塩培地、MR-VP培地、シモンズクエン酸培地、CTA培地、胆汁エスクリン培地、ボルデー-ジャング培地、チャコール酵母エキス(CYE)培地、マンニット食塩培地、マッコンキーの培地、エオシン-メチレンブルー(EMB)培地、セアー-マーチン培地、サルモネラ-シゲラ培地、及びウレアーゼ培地が含まれるが、これらに限定されない。市販されているこれらの培地、並びに他の多くの一般的に用いられる細菌細胞培養培地の配合は、当技術分野でよく知られており、例えば、DIFCOマニュアル(DIFCO社、米国マサチューセッツ州ノーウッド所在)及び臨床微生物学マニュアル(アメリカ微生物学会/American Society for Microbiology、米国ワシントンD.C.所在)に見出すことができる。
【0042】
本開示の実施態様に従って調製することができる真菌細胞培養培地、特に酵母細胞培養培地の例には、サブロー培地及び酵母モルフォロジー培地(YMA)が含まれるが、これらに限定されない。市販されているこれらの培地、並びに他の多くの一般的に用いられる酵母細胞培養培地の配合は、当技術分野でよく知られており、例えば、DIFCOマニュアル(DIFCO社、米国マサチューセッツ州ノーウッド所在)及びin the 臨床微生物学マニュアル(アメリカ微生物学会/American Society for Microbiology、米国ワシントンD.C.所在)に見出すことができる。
【0043】
当業者が認識するように、上記の培地のいずれも、指示剤又は選択剤(例えば、染料、抗生物質、アミノ酸、酵素、基質など)、フィルタ(例えば、木炭)、塩、多糖類、イオン、界面活性剤、安定剤などの1つ以上の追加成分を含むことができる。
【0044】
1つ以上の実施態様によれば、粉末培地は、1つ以上のアミノ酸、ビタミン類、無機塩、及び他の成分を含むことができる。例えば、粉末培地には、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アルギニン塩酸塩、L-アスパラギン-H2O、L-アスパラギン酸、L-システイン塩酸塩-H2O、L-シスチン2HCl、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩-H2O、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、L-バリン、アスコルビン酸、ビオチン、塩化コリン、D-パントテン酸カルシウム、葉酸、ナイアシンアミド、ピリドキサール塩酸塩、リボフラビン、ビタミンB12、チアミン塩酸塩、i-イノシトール、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、塩化カリウム(KCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、塩化ナトリウム(NaCl)、一塩基性リン酸ナトリウム(NaH2PO4-H2O)、D-グルコース(デキストロース)、リポ酸、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、及びフェノールレッドが含まれうる。
【0045】
これより、本開示の実施態様による粉末の製造方法について説明する。1つ以上の実施態様によれば、該方法は、任意選択的に開放容器内に、未加工の粉末原料を提供すること、及びある量の溶媒を粉末に加えることを含む。原材料は、アミノ酸、タンパク質、及び細胞培養培地に用いられる多くの成分のいずれかを含みうる。上で論じられたように、成分は、特定の細胞培養培地(例えば、DMEM粉末)をもたらすように、必要に応じて変化させることができる。溶媒は、水、酸(例えば、HCl)、塩基(例えば、NaOH)、又は水溶性物質の別の溶液でありうる。次に、粉末と溶媒の組合せを混合して、均質性を達成する。得られる混合物が液体ではなくペーストを形成するように、加えられる溶媒の量は比較的少量であることが好ましい。次に、均質な混合物を減圧下の環境に曝露する。例えば、混合物を含む容器を真空チャンバ内に入れることができる。混合物は真空によって脱水される。任意選択的に、脱水された粉末製品に緩衝液を加える。次いで、得られた脱水生成物を粉砕して、所望の粒度を達成する。
【0046】
幾つかの実施態様の一態様として、混合物は、減圧中に温度制御される。例えば、混合物を真空チャンバ内の熱源上に置くことができる。幾つかの実施態様によれば、混合物は減圧下では凍結されない。言い換えれば、凍結乾燥(すなわち、フリーズドライ)は使用しない。幾つかの実施態様では、負の水銀柱28インチ(約71.12cm)で真空引きされる。混合物の脱水の量は変動しうるが、幾つかの実施態様では水のエバポレーションに起因する重量損失がもはや観察されなくなるまで、生成物を脱水する。
【0047】
例示的な実装形態
以下は、開示された主題の実装形態のさまざまな態様の説明である。各態様は、開示された主題のさまざまな特徴、特性、又は利点のうちの1つ以上を含みうる。実装形態は、開示された主題の幾つかの態様を説明することを意図しており、すべての可能な実装形態の包括的又は網羅的な説明と見なされるべきではない。
【0048】
態様1は、所望の細胞培養培地の乾燥原料を提供すること;乾燥原料を水溶液と混合してペーストを形成すること;ペーストを乾燥させて脱水された培地製品を形成すること;及び、脱水された培地製品を粉砕して所望の粒度の乾燥細胞培養培地粉末を達成することの各ステップを含む、乾燥細胞培養培地粉末を製造する方法に関する。
【0049】
態様2は、乾燥することが、ペーストを真空に曝露することを含む、態様1に記載の方法に関する。
【0050】
態様3は、乾燥することが、水のエバポレーションによるペーストの重量の減少が停止するまで、ペーストを真空に曝露することを含む、態様2に記載の方法に関する。
【0051】
態様4は、乾燥することが、ペーストを加熱することを含む、態様1から3のいずれかに記載の方法に関する。
【0052】
態様5は、混合することが、ペーストが均質になるまで乾燥原料を混合することを含む、態様1から4のいずれかに記載の方法に関する。
【0053】
態様6は、水溶液が酸及び塩基の少なくとも一方を含む、態様1から5のいずれかに記載の方法に関する。
【0054】
態様7は、方法が、水溶液の組成を調整して乾燥細胞培養培地粉末のpHを事前調整することをさらに含む、態様6に記載の方法に関する。
【0055】
態様8は、水溶液がHCl及びNaOHの少なくとも一方を含む、態様1から7のいずれかに記載の方法に関する。
【0056】
態様9は、脱水された培地製品に緩衝液を加えることをさらに含む、態様1から8のいずれかに記載の方法に関する。
【0057】
態様10は、緩衝液が重炭酸ナトリウムを含む、態様9に記載の方法に関する。
【0058】
態様11は、態様1から10のいずれかに記載の方法に従って製造された乾燥細胞培養培地粉末に関する。
【0059】
態様12は、脱水された細胞培養培地粉末から液体細胞培養培地を調製する方法に関し、該方法は、態様1から10のいずれかに記載の方法に従って製造された乾燥細胞培養培地粉末を提供すること;乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に加えること;及び、乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に溶解させて液体細胞培養培地を提供することを含む。
【0060】
態様13は、溶媒に乾燥細胞培養培地粉末を溶解しつつ溶媒を撹拌することをさらに含む、態様12に記載の方法に関する。
【0061】
態様14は、乾燥細胞培養培地の溶解が、約2.5分以内、約2分以内、約1.5分以内、約1分以内、約50秒以内、約45秒以内、約40秒以内、約35秒以内、約30秒以内、約25秒以内、約20秒以内、約15秒以内、又は約10秒以内に完了する、態様12又は態様13に記載の方法に関する。
【0062】
態様15は、溶解中、乾燥細胞培養培地粉末と溶媒との混合物の導電率の最大変化速度が、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である、態様12から14のいずれかに記載の方法に関する。
【0063】
態様16は、溶解後、液体細胞培養培地が約7.0から約7.4のpHを有する、態様12から15のいずれかに記載の方法に関する。
【0064】
態様17は、約7.0から約7.4のpHが、溶解した乾燥細胞培養培地粉末及び溶媒に酸又は塩基を加えることなく達成される、態様16に記載の方法に関する。
【0065】
態様18は、細胞培養培地材料を含む均質な粒子を含む、液体細胞培養培地を調製するための乾燥細胞培養培地粉末に関し、ここで、均質な粒子は、水と均質な粒子との溶液の保磁力の変化速度で測定した水中の溶解速度を含み、保磁力の変化速度の最大値は、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である。
【0066】
態様19は、均質な粒子のpHが事前に調整される、態様18に記載の乾燥細胞培養培地粉末に関する。
【0067】
態様20は、均質な粒子が事前に緩衝される、態様18又は態様19に記載の乾燥細胞培養培地粉末に関する。
【0068】
定義
本明細書で用いられる場合、「細胞培養培地」及び「培地」は交換可能に用いられ、細胞が必要とする環境及び/又は栄養素を提供するために細胞の培養中に用いられる物質を指す。細胞培養培地は、完全な配合物、すなわち、培養細胞への補足を必要としない細胞培養培地であってよく、不完全な配合物、すなわち、補足を必要とする細胞培養培地であってよく、又は不完全な配合物を補足することができる培地であってよく、又は完全な配合物の場合には、培養若しくは培養結果を改善することができる。「細胞培養培地」、「培養培地」、又は「培地」(及び各場合における複数の培地)という用語は、文脈から別段の指示がない限り、細胞とともにインキュベートされていない未馴化の細胞培養培地を指す。このように、「細胞培養培地」、「培養培地」、又は「培地」(及び各場合における複数の培地)という用語は、培地の元の成分の多く、並びにさまざまな細胞代謝産物及び分泌タンパク質を含みうる、「使用済み」培地又は「馴化」培地とは区別される。しかしながら、「細胞培養」という用語は、一般的な用語であり、個々の原核細胞(例えば、細菌)又は真核細胞(例えば、動物、植物、及び真菌)の培養だけでなく、組織、器官、器官系、又は生物全体の培養をも包含するために用いらる場合があり、「組織培養」、「器官培養」、「器官系培養」、又は「器官型培養」という用語は、「細胞培養」という用語と互換的に用いられる場合があるものと理解されたい。
【0069】
本出願で用いられる「培養」という用語は、細胞の活性状態又は静止状態での増殖、分化、又は継続的な生存に有利な条件下での人工環境における細胞の維持を指す。したがって、「培養」は、「細胞培養」又は上記の同義語のいずれかと交換可能に使用することができる。
【0070】
本出願で用いられる「粉末」又は「粉末化された」という用語は、顆粒形態で存在する組成物を指し、水又は血清などの溶媒と錯化又は凝集していてもいなくてもよい。「乾燥粉末」という用語は、「粉末」という用語と交換可能に使用することができる。しかしながら、本明細書で用いられる「乾燥粉末」は、単に造粒された材料の全体的な外観を指すのであって、別段の指示がない限り、材料が複合化又は凝集した溶媒を完全に含まないことを意味することは意図されていない。「粉末細胞培養培地」と「細胞培養培地粉末」は交換可能に用いられ、粉末化された形態の細胞培養培地を指す。
【0071】
「含む(Include,includes)」、又は同様の用語は、網羅的であるが限定的ではない、すなわち包括的であって排他的ではないことを意味する。
【0072】
「ユーザ」とは、本明細書に開示されているシステム、方法、物品、又はキットを使用する人々を指し、細胞又は細胞産生物を採取するために細胞を培養している人々、又は本明細書の実施形態従って培養及び/又は採取された細胞又は細胞産生物を使用している人々を含む。
【0073】
本開示の実施形態を説明する際に採用される、例えば、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流量、圧力、粘度などの値、及びそれらの範囲、又は構成要素の寸法及び同様の値並びにそれらの範囲を変更する「約」 は、例えば、材料、組成物、複合材料、濃縮物、構成部品、製造品、又は使用製剤の調製に使用される一般的な測定及び取り扱い手順を通じて;これらの手順における不注意によるエラーを通じて;方法を実行するために使用される出発材料又は原料の製造、供給源、又は純度の違いを通じて;及び同様の考慮事項を通じて発生する可能性のある数量の変動を指す。「約」という用語は、特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の劣化に起因して異なる量、及び特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の混合又は加工に起因して異なる量も包含する。
【0074】
「任意選択の」又は「任意選択的に」とは、その後に記載される事象又状況が発生してもしなくてもよいこと、及び、その記載が、当該事象又状況が発生する場合と発生しない場合を含むことを意味する。
【0075】
本明細書で用いられる不定冠詞「a」又は「an」及びその対応する定冠詞「the」は、別段の指定がない限り、少なくとも1つ又は1つ以上を意味する。
【0076】
当業者によく知られている略語が用いられることがある(例えば、時間を「h」又は「hrs」、グラムを「g」又は「gm」、ミリリットルを「mL」、 室温を「rt」、ナノメートルを「nm」、及び同様の略語)。
【0077】
成分、原料、添加剤、寸法、条件、及び同様の特徴、並びにそれらの範囲について開示されている特定の好ましい値は、例示のみを目的としており、他の定義された値又は定義された範囲内の他の値を除外しない。本開示のシステム、キット、及び方法は、本明細書に記載されるいずれかの値、特定の値、さらに具体的な値、及び好ましい値のうちの任意の値又は任意の組合せを含みうる。
【0078】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、その工程が特定の順序で実行されることを必要とすると解釈されることは、決して意図していない。したがって、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していないか、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが特許請求の範囲又は明細書に具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序も、推測されることは、決して意図していない。
【0079】
開示される実施形態の精神又は範囲から逸脱することなく、さまざまな修正及び変更を加えることができることは、当業者にとって明白であろう。実施形態の精神及び本質を組み込んだ開示された実施形態の修正、組合せ、部分組合せ、及び変形が当業者に想起されうることから、本開示の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内のあらゆるものを含むと解釈されるべきである。
【0080】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0081】
実施形態1
乾燥細胞培養培地粉末を製造する方法であって、
所望の細胞培養培地の乾燥原料を提供すること、
前記乾燥原料を水溶液と混合してペーストを形成すること、
前記ペーストを乾燥させて脱水された培地製品を形成すること、及び
前記脱水された培地製品を粉砕して所望の粒度の前記乾燥細胞培養培地粉末を達成すること
を含む、方法。
【0082】
実施形態2
前記乾燥することが、前記ペーストを真空に曝露することを含む、実施形態1に記載の方法。
【0083】
実施形態3
前記乾燥することが、水のエバポレーションによる前記ペーストの重量の減少が停止するまで、前記ペーストを真空に曝露することを含む、実施形態2に記載の方法。
【0084】
実施形態4
前記乾燥することが、前記ペーストを加熱することを含む、実施形態1から3のいずれかに記載の方法。
【0085】
実施形態5
前記混合することが、前記ペーストが均質になるまで前記乾燥原料を混合することを含む、実施形態1から4のいずれかに記載の方法。
【0086】
実施形態6
前記水溶液が酸及び塩基の少なくとも一方を含む、実施形態1から5のいずれかに記載の方法。
【0087】
実施形態7
前記方法が、前記水溶液の組成を調整して前記乾燥細胞培養培地粉末のpHを事前調整することをさらに含む、実施形態6に記載の方法。
【0088】
実施形態8
前記水溶液がHCl及びNaOHの少なくとも一方を含む、実施形態1から7のいずれかに記載の方法。
【0089】
実施形態9
前記脱水された培地製品に緩衝液を加えることをさらに含む、実施形態1から8のいずれかに記載の方法。
【0090】
実施形態10
前記緩衝液が重炭酸ナトリウムを含む、実施形態9に記載の方法。
【0091】
実施形態11
実施形態1から10のいずれかに記載の方法に従って製造された乾燥細胞培養培地粉末。
【0092】
実施形態12
脱水された細胞培養培地粉末から液体細胞培養培地を調製する方法であって、
実施形態1から10のいずれかに記載の方法に従って製造された前記乾燥細胞培養培地粉末を提供すること、
前記乾燥細胞培養培地粉末を溶媒に加えること、及び
前記乾燥細胞培養培地粉末を前記溶媒に溶解させて前記液体細胞培養培地を提供すること
を含む、方法。
【0093】
実施形態13
溶媒に前記乾燥細胞培養培地粉末を溶解しつつ前記溶媒を撹拌することをさらに含む、実施形態12に記載の方法。
【0094】
実施形態14
前記乾燥細胞培養培地の溶解が、約2.5分以内、約2分以内、約1.5分以内、約1分以内、約50秒以内、約45秒以内、約40秒以内、約35秒以内、約30秒以内、約25秒以内、約20秒以内、約15秒以内、又は約10秒以内に完了する、実施形態12又は実施形態13に記載の方法。
【0095】
実施形態15
前記溶解中、乾燥細胞培養培地粉末と前記溶媒との混合物の導電率の最大変化速度が、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である、実施形態12から14のいずれかに記載の方法。
【0096】
実施形態16
溶解後、前記液体細胞培養培地が約7.0から約7.4のpHを有する、実施形態12から15のいずれかに記載の方法。
【0097】
実施形態17
約7.0から約7.4のpHが、前記溶解した乾燥細胞培養培地粉末及び前記溶媒に酸又は塩基を加えることなく達成される、実施形態16に記載の方法。
【0098】
実施形態18
液体細胞培養培地を調製するための乾燥細胞培養培地粉末であって、
細胞培養培地材料を含む均質な粒子
を含み、ここで、
前記均質な粒子が、水と前記均質な粒子との溶液の保磁力の変化速度で測定した水中の溶解速度を含み、前記保磁力の変化速度の最大値が、約2mS/秒から約40mS/秒、約4mS/秒から約38mS/秒、約6mS/秒から約36mS/秒、約8mS/秒から約34mS/秒、約10mS/秒から約34mS/秒、約12mS/秒から約34mS/秒、約15mS/秒から約34mS/秒、約18mS/秒から約34mS/秒、約20mS/秒から約30mS/秒、少なくとも約10mS/秒、少なくとも約15mS/秒、少なくとも約20mS/秒、少なくとも約25mS/秒、又は少なくとも約30mS/秒である、
乾燥細胞培養培地粉末。
【0099】
実施形態19
前記均質な粒子のpHが事前に調整される、実施形態18に記載の乾燥細胞培養培地粉末。
【0100】
実施形態20
前記均質な粒子が事前に緩衝される、実施形態18又は実施形態19に記載の乾燥細胞培養培地粉末。
【国際調査報告】