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特表2023-534012ペプシノーゲンIIの水準を測定する製剤を含む初期びまん型胃がんの予測又は診断用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ペプシノーゲンIIの水準を測定する製剤を含む初期びまん型胃がんの予測又は診断用組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501817
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 KR2020012575
(87)【国際公開番号】W WO2022014776
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】10-2020-0086191
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0115244
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ナヨン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA01
2G045DA36
(57)【要約】
本発明は、初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーとしてペプシノーゲンIIを発掘し、被験者から測定された前記ペプシノーゲンIIの水準によって初期びまん型胃がんを予測又は診断することができる組成物、キット、及び情報提供方法に関し、本発明の一側面に係る組成物、キット、及び情報提供方法は、血清ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であると、高い感度及び特異度で初期びまん型胃がんを予測又は診断することができ、さらには、血清ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるか否かとヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であるか否かによって被験者の初期びまん型胃がんに対する危険度を分類することができるところ、血清ペプシノーゲンIIの水準を測定することができる製剤、又はこれと共にヘリコバクター・ピロリ(HP)状態を検出することができる製剤を含む組成物、及びキット、並びにこれを用いた情報提供方法は、内視鏡検査の前に行い得る非侵襲的な手段として有用に活用することができるという優れた効果を奏する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する製剤を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用組成物。
【請求項2】
前記被験者は女性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記サンプルは、血清、血漿、全血、小便、唾液、及び涙からなる群より選択された一つ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記サンプルは血清である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
当該組成物は、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
40歳未満の女性の血清からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する製剤及びヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物を含む、初期びまん型(diffuse-type) 胃がんの予測又は診断用キット。
【請求項8】
当該キットは被験者の血清に適用されるものである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
当該キットは、被験者のサンプルから得られたペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上である場合に初期びまん型胃がんと予測又は診断するものである、請求項7に記載のキット。
【請求項10】
当該キットは、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤を含む組成物を含み、
前記ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤は、組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上の検査のための製剤であり、
前記組織学的試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対する染色試験であり、
前記培養試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対するヘリコバクター・ピロリ菌培養試験であり、
前記血清検査は、前記被験者の血清からヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体である兔疫グロブリンG(immunoglobulin G、IgG)を測定することである、請求項7に記載のキット。
【請求項11】
前記血清検査は、細菌凝集反応(bacterial agglutination)、補体結合(complement fixation)、間接免疫蛍光(indirect immunofluorescence test)、及び免疫測定法(immunoassay)からなる群より選択された一つ以上である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記免疫測定法は、酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunesorbent assay、ELISA)、化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay)、及び放射免疫測定法(radioimmunoassay)からなる群より選択された一つ以上である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
当該キットは、被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態の陽性又は陰性の分類基準が下記の通りである、請求項10に記載のキット。
i)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;
ii)前記組織学的試験、培養試験、及び迅速ウレアーゼ試験がいずれも陰性であり、且つ前記血清検査が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;
iii)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴有りであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;及び
iv)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴無しであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陰性。
【請求項14】
当該キットは、初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群、及び低危険群の分類基準が下記の通りである、請求項13に記載のキット。
a)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であると、初期びまん型胃がんの高危険群;
b)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上及びヘリコバクター・ピロリ状態が陽性のいずれか一つだけに該当すると、初期びまん型胃がんの中危険群;及び
c)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L未満であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陰性であると、初期びまん型胃がんの低危険群。
【請求項15】
40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)水準を測定する段階;を含む、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断のための情報提供方法。
【請求項16】
前記被験者は女性である、請求項15に記載の情報提供方法。
【請求項17】
前記サンプルは血清である、請求項15に記載の情報提供方法。
【請求項18】
当該情報提供方法は、前記ペプシノーゲンII水準が20μg/Lであると、初期びまん型胃がんと予測又は診断する、請求項15に記載の情報提供方法。
【請求項19】
当該情報提供方法は、前記被験者のヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori、HP)感染の有無を測定する段階;をさらに含む、請求項15に記載の情報提供方法。
【請求項20】
前記ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無の測定は、組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上を含み、
前記組織学的試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対する染色試験であり、
前記培養試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対するヘリコバクター・ピロリ菌培養試験であり、
前記血清検査は、前記被験者の血清からヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体である兔疫グロブリンG(immunoglobulin G、IgG)を測定することである、請求項19に記載の情報提供方法。
【請求項21】
当該情報提供方法は、被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態を下記のような基準に従い陽性又は陰性と分類し:
i)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;
ii)前記組織学的試験、培養試験、及び迅速ウレアーゼ試験がいずれも陰性であり、且つ前記血清検査が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;
iii)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴有りであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;及び
iv)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴無しであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陰性、
前記被験者のペプシノーゲンIIの水準及びヘリコバクター・ピロリ状態に応じて被験者が初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群、及び低危険群のいずれか一つであると予測又は診断する、請求項20に記載の情報提供方法。
a)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であると、初期びまん型胃がんの高危険群;
b)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上及びヘリコバクター・ピロリ状態が陽性のいずれか一つだけに該当すると、初期びまん型胃がんの中危険群;及び
c)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L未満であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陰性であると、初期びまん型胃がんの低危険群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年7月13日に出願された大韓民国特許出願第10-2020-0086191号に基づく優先権を主張し、この出願内容全体が本出願に参照として組み込まれる。また、本出願は、2020年9月9日に出願された大韓民国特許出願第10-2020-0115244号に基づく優先権を主張し、この出願内容全体が本出願に参照として組み込まれる。
【0002】
本明細書には、初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーとしてペプシノーゲンIIを発掘し、被験者から測定された前記ペプシノーゲンIIの水準によって初期びまん型胃がんを予測又は診断することができる組成物、キット、及び情報提供方法が開示される。
【背景技術】
【0003】
胃がん(gastric cancer、GC)は、その有病率が全世界で過去40年の間実質的に減少したものの、依然として5番目に最も頻繁に診断された悪性腫瘍であって世界的にがん死亡の3番目の主な原因である。とりわけ、韓国を含む東アジアでは発生率が顕著に高いのに対し、北米と北欧では発生率が一般的に低い[Bray F, Ferlay J, Soerjomataram I, Siegel RL, Torre LA, Jemal A. Global cancer statistics 2018:GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA Cancer J Clin 2018;68:394-424]。非特異的症状のため進行期(advanced stage)で胃がんと診断されることが多いので、胃がんを治療可能なより早期に発見するための検診戦略が重要な問題として台頭された。内視鏡を中心とした胃がんに対する韓国がん検診プログラム(Korean National Cancer Screening Program)は20世紀後半に始まり、がん関連死亡率を大きく減少させた[Jun JK, Choi KS, Lee HY, et al. Effectiveness of the Korean National Cancer Screening Program in reducing gastric cancer mortality. Gastroenterology 2017;152:1319-1328]。
【0004】
代案的な方法として、血清ペプシノーゲン(serum pepsinogen、sPG)を用いた非侵襲的な質量スクリーニング方法が日本で注目を集めている。血清ペプシノーゲンI(sPGI)と血清ペプシノーゲンII(sPGII)は胃粘膜の異なる部分で生成される[Samloff IM. Pepsinogens, pepsins, and pepsin inhibitors. Gastroenterology 1971;60:586-604]。すなわち、血清ペプシノーゲンIは胃底腺(fundic glands)で主細胞(chief cell)のみから分泌されるのに対し、血清ペプシノーゲンIIは胃底腺だけでなく前庭部(antrum)の幽門腺(pyloric glands)及び十二指膓(duodenal)粘膜からも分泌される。従来の研究によれば、低いsPGI(<70μg/L)と低いsPGI/IIの比率(<3)は進行萎縮性胃炎(advanced atrophic gastritis)の指標であって、これは胃がんの高い危険度と関連がある[Samloff IM. Pepsinogens, pepsins, and pepsin inhibitors. Gastroenterology 1971;60:586-604][Kodoi A, Yoshihara M, Sumii K, Haruma K, Kajiyama G. Serum pepsinogen in screening for gastric cancer. J Gastroenterol 1995;30:452-460]。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)感染によって胃粘膜に炎症が生じると、血清ペプシノーゲンIの生成は萎縮性粘膜で減少し血清ペプシノーゲンIIが増加する。したがって、sPGI/II比率は、進行性萎縮性胃炎において低いsPGI及びsPGIIの増加に伴いさらに減少する[Samloff IM, Varis K, Ihamaki T, Siurala M, Rotter JI. Relationships among serum pepsinogen I、serum pepsinogen II、and gastric mucosal histology:a study in relatives of patients with pernicious anemia. Gastroenterology 1982;83:204-209]。しかし、かかる基準は、Correa連鎖反応(cascasde)を伴う腸型胃がん(intestinal type GC、IGC)に適用することができるが、発がん機転の異なるびまん型胃がん(diffuse type GC、DGC)に適用することができるかについては疑問が残っている[Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, et al. Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer. N Engl J Med 2001;345:784-789]。また、萎縮性胃炎の場合、血清ペプシノーゲンI及び血清ペプシノーゲンIとIIの比率(sPGI/II)が低く、日本では胃がんの検診に効果的なバイオマーカーとして活用されているが、このような日本の標準カットオフ値を韓国又は韓国を含む各国における胃がんの検診に適用するには血清ペプシノーゲンの役割に論難の余地があった。すなわち、血清ペプシノーゲンIの低い特異度は従来の研究で予測したことよりも低い予測能力を示すという問題があった[Kang JM, Kim N, Yoo JY, et al. The role of serum pepsinogen and gastrin test for the detection of gastric cancer in Korea. Helicobacter 2008;13:146-156]。本発明の発明者は、高危険度のOLGA(operative link on gastric atrophy)及びOLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia)段階が腸型胃がんだけではなく、びまん型胃がんの胃がんに対する重要な予測マーカーであると報告したことがある[Yun CY, Kim N, Lee J, et al. Usefulness of OLGA and OLGIM system not only for intestinal type but also for diffuse type of gastric cancer, and no interaction among the gastric cancer risk factors. Helicobacter 2018;23:e12542]。韓国においてびまん型胃がんは胃がん全体で相対的に高い比率(42.1%)を占めており、日本における研究とは相当な差異がある[Kang JM, Kim N, Yoo JY, et al. The role of serum pepsinogen and gastrin test for the detection of gastric cancer in Korea. Helicobacter 2008;13:146-156]。したがって、びまん型胃がんに有用なバイオマーカーがあれば、韓国で非常に有用であるといえる。これまで、血清ペプシノーゲンIIの高い力価とびまん型胃がんとの連関性を提案した研究があった[Kikuchi S, Wada O, Miki K, et al. Serum pepsinogen as a new marker for gastric carcinoma among young adults. Research Group on Prevention of Gastric Carcinoma among Young Adults. Cancer 1994;73:2695-2702][Yanaoka K, Oka M, Yoshimura N, et al. Risk of gastric cancer in asymptomatic, middle-aged Japanese subjects based on serum pepsinogen and Helicobacter pylori antibody levels. Int J Cancer 2008;123:917-926][Ito M, Yoshihara M, Takata S, et al. Serum screening for detection of high-risk group for early-stage diffuse type gastric cancer in Japanese. J Gastroenterol Hepatol 2012;27:598-602]。
【0005】
血清ペプシノーゲンIIの水準は、胃粘膜においてヘリコバクター・ピロリ感染による炎症の程度を反映する組織学的変化と関連があると知られている。すなわち、血清ペプシノーゲンIIは、ヘリコバクター・ピロリ(HP)に関連する非萎縮性胃炎においてその水準がより高く、萎縮性胃炎においてより低く、ヘリコバクター・ピロリ(HP)を除菌することで血清ペプシノーゲンIIの水準を逆転させることができた[Plebani M, Basso D, Cassaro M, et al. Helicobacter pylori serology in patients with chronic gastritis. Am J Gastroenterol 1996;91:954-958.][Mεrdh E, Mεrdh S, Mεrdh B, Borch K. Diagnosis of gastritis by means of a combination of serological analyses. Clin Chim Acta 2002;320:17-27.][Pilotto A, Di Mario F, Franceschi M, et al. Cure of Helicobacter pylori infection in the elderly:effects of eradication on gastritis and serological markers. Aliment Pharmacol Ther 1996;10:1021-1027.][Kawai T, Miki K, Ichinose M, et al. Changes in evaluation of the pepsinogen test result following Helicobacter pylori eradication therapy in Japan. Inflammopharmacology 2007;15:31-35.]。従来の研究でもペプシノーゲンIIの発現水準が胃粘膜の悪性である場合に顕著に減少し、ヘリコバクター・ピロリ感染によってペプシノーゲンII発現の陽性率が調節されることが明らかになった[Ning PF, Liu HJ, Yuan Y. Dynamic expression of pepsinogen C in gastric cancer, precancerous lesions and Helicobacter pylori associated gastric diseases. World J Gastroenterol 2005;11:2545-2548.]。
【0006】
したがって、胃がんの発病、特に、内視鏡検査を受けなければならない患者を階層化するためのびまん型胃がんのバイオマーカーとしての有用性に関連して、血清ペプシノーゲンの役割についてあらためて定義する必要がある。これは中国や韓国を含む東アジアの胃がん関連死亡率をさらに減少させるのに寄与するはずである。このような背景の下で、本発明者は、これまでは胃がんに対する魅力的なバイオマーカーが確立されていないという点に注目して、あまりよく報告されていない血清ペプシノーゲンIIの曖昧な役割に重点をおいて胃がんの発病に係る血清ペプシノーゲンの役割を研究し、その結果、血清ペプシノーゲンIIの水準が≧20μg/Lであることが、びまん型胃がん、特に大きなコホートで高齢ではない被験者における初期びまん型胃がんの発病と関連があることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、胃異形成症群、胃がん群、及び対照群として合計約3,000名の被験者を対象に研究を行い、胃がん、具体的にびまん型胃がんのバイオマーカーとして血清ペプシノーゲンIIを発掘し、また被験者のサンプルから測定されたペプシノーゲンIIの水準に基づいて初期びまん型胃がんの危険度を高い感度及び特異度で予測又は診断することができ、且つ前記ペプシノーゲンIIの水準を外れた場合でも被験者のヘリコバクター・ピロリ感染履歴に基づいて被験者のびまん型胃がんの危険度を分類することができることを検証した。
【0008】
したがって、一側面において、本発明の目的は、初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーを提供することである。
【0009】
他の側面において、本発明の目的は、40歳未満の被験者から初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーを提供することである。
【0010】
また他の側面において、本発明の目的は、被験者の初期びまん型胃がんの危険度を予測又は診断するためのバイオマーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一側面において、本発明は、40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する製剤を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用組成物を提供する。
【0012】
他の一側面において、本発明は、40歳未満の被験者の血清からペプシノーゲンIIの水準を測定する製剤及びヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤を含む初期びまん型胃がんの予測又は診断用組成物を提供する。
【0013】
また他の一側面において、本発明は、前記組成物を含む初期びまん型胃がんの予測又は診断用キットを提供する。
【0014】
また他の一側面において、本発明は、40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンIIの水準を測定する段階;を含む、初期びまん型胃がんの予測又は診断のための情報提供方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面において、血清ペプシノーゲンIIの水準が、対照群に比べて、初期びまん型胃がんの被験者、特に40歳未満の初期びまん型胃がんの被験者のほうが高く、且つ初期びまん型胃がんの被験者は現在ヘリコバクター・ピロリに感染されている又は過去にヘリコバクター・ピロリに感染された履歴がある(HP状態陽性)ことを確認したところ、血清ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であると、高い感度及び特異度で初期びまん型胃がんを予測又は診断することができ、さらには、血清ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるか否かとHP状態が陽性であるか否かは被験者の初期びまん型胃がんに対する危険度を分類することができる基準になることを確認した。これにより、血清ペプシノーゲンIIの水準を測定することができる製剤、又はこれと共にヘリコバクター・ピロリ(HP)状態を検出することができる製剤を含む組成物、及びこれを含むキットは、内視鏡検査の前に行うことができる非侵襲的な手段として有用に活用することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一側面に係る登録された胃がん群、胃異形成症群、及び対照群の分類を示した図である。図1中の略語は次の通りである:MALT(粘膜-関連リンパ組織;mucosa-associated lymphoid tissue)、GIST(消化管間質腫瘍;gastrointestinal stromal tumor)。
図2a-2d】本発明の一側面に係る被験者の血清ペプシノーゲン(sPGs)の水準とOLGA/OLGIM段階におけるヘリコバクター・ピロリ(HP)状態との関係を示したグラフである。図2a及び図2bは、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態に関連する血清ペプシノーゲン(sPGs)の水準と組織学的特徴とを比較した結果であって、HP状態が陽性である被験者はHP状態が陰性である被験者に比べて、血清ペプシノーゲンI(sPGI)(図2a)及び血清ペプシノーゲンII(sPGII)(図2b)の水準が高く、sPGI/II比率は低かった(図2c)(いずれもp<0.001)。また、図2dは、OLGA段階及びOLGIM段階との関係を示し、HP状態が陽性である被験者が、HP状態が陰性である被験者に比べてOLGA段階及びOLGIM段階が高かった(図2d)。図2a~図2d中、データは数字(%)又は中央値±標準誤差で表され、略語は次の通りである:OLGA(operative link on gastritis atrophy、OLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia)。
図3a-3d】及び
図4】本発明の一実施例に係る初期びまん型胃がんの予測又は診断のためのバイオマーカーとしての血清ペプシノーゲンII(sPGII)の有用性を確認するためのAUC(Area under the curve)を計算した結果に関するものであって、胃がん(GC)の診断のための血清ペプシノーゲンII(sPGII)のROC曲線(receiver operating characteristic curve)及び対応するAUCを示したグラフである。図3a及び図3bによれば、血清ペプシノーゲンII(sPGII)に対するAUCは胃がん全体(GC)(図3a)及びびまん型胃がん全体(DGC)(図3b)に対して有意な感度及び特異度を示さなかった。一方、図3c及び図3dによれば、初期びまん型胃がんの被験者を40歳を基準に分類したとき、血清ペプシノーゲンII(sPGII)は、40歳以上の初期びまん型胃がんの被験者(図3c)よりも40歳未満の初期びまん型胃がんの被験者に対して有意に高い診断力を示した(AUC 0.766、感度75.0%、特異度74.2%)(図3d)。また、図4によれば、被験者が40歳未満の女性であるとき、より高い感度及び特異度で初期びまん型胃がんを診断することができることを示した(AUC 0.824、感度81.3%、特異度78.1%)(図4)。図3a~図3d及び図4で略語は次の通りである:AUC(曲線下面積;Area under the curve)、sPG(血清ペプシノーゲン;serum pepsinogen)、DGC(びまん型胃がん;diffuse gastric cancer)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の一側面において、「初期びまん型胃がんの予測」とは、被験者に対して初期びまん型胃がんが発病する可能性があるか、初期びまん型胃がんが発病する可能性が相対的に高いか、初期びまん型胃がんの原因因子が何か、又は初期びまん型胃がんが既に発病したか否かを予測又は診断することを意味することであってよい。また、本発明の一側面において、「初期びまん型胃がんの診断」とは、被験者に対して病理状態の存在又は特徴を確認することを意味し、本発明の一側面に係る目的上、診断は、初期びまん型胃がんの発病の有無を確認することを意味することであってよい。本発明の一側面に係る組成物、キット、又は方法は、任意の特定の患者を初期びまん型胃がんの発病の危険度の高い患者として特別且つ適切な管理を行うことで発病の時期を遅らせるか発病しないようにするのに用いることができる。また、本発明の一側面に係る組成物、キット、又は方法は、初期びまん型胃がんを早期に診断して最も適切な治療方式を選択できるようにすることから治療を決定するために臨床的に用いることができる。
【0019】
本発明の一側面において、初期びまん型胃がんを予測又は診断するための「ペプシノーゲンIIの水準」又は「ペプシノーゲンIIの検出量」の単位又は基準は、ペプシノーゲンII、具体的に血清ペプシノーゲンIIの水準を測定する方法に応じて単位が異なってよい。より具体的に、ラテックス増強免疫比濁法(latex-enhanced turbidimetric immunoassay)(L-TIA;HBi Corp, Seoul, Korea, imported from Shima Laboratories, Tokyo, Japan)によってペプシノーゲンIIの水準を測定又は検出する場合、ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるときに初期びまん型胃がんと予測又は診断することができるが、他の測定方法によって測定されたペプシノーゲンIIの水準が前記ラテックス増強免疫比濁法によって測定された20μg/L以上のペプシノーゲンIIに相当する水準であれば、初期びまん型胃がんと予測又は診断することができるので、前記数値に限定されるものではない。
【0020】
一側面において、本発明は、40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する製剤を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用組成物を提供する。
【0021】
本発明の一側面に係る組成物は、ペプシノーゲンIIの水準を測定する製剤を含んでよく、具体的に、血清ペプシノーゲンII(serum pepsinogen II、sPGII)の水準を測定する製剤を含んでよい。血清ペプシノーゲンIIの水準は、胃粘膜においてヘリコバクター・ピロリ感染による炎症の程度を反映する組織学的変化と関連があり、血清ペプシノーゲンIIの水準は、ヘリコバクター・ピロリ(HP)に関連する非萎縮性胃炎では高く、萎縮性胃炎では低く、ヘリコバクター・ピロリ(HP)の除菌によって血清ペプシノーゲンIIの水準は逆転され得る[Plebani M, Basso D, Cassaro M, et al. Helicobacter pylori serology in patients with chronic gastritis. Am J Gastroenterol 1996;91:954-958.][Mεrdh E, Mεrdh S, Mεrdh B, Borch K. Diagnosis of gastritis by means of a combination of serological analyses. Clin Chim Acta 2002;320:17-27.][Pilotto A, Di Mario F, Franceschi M, et al. Cure of Helicobacter pylori infection in the elderly:effects of eradication on gastritis and serological markers. Aliment Pharmacol Ther 1996;10:1021-1027.][Kawai T, Miki K, Ichinose M, et al. Changes in evaluation of the pepsinogen test result following Helicobacter pylori eradication therapy in Japan. Inflammopharmacology 2007;15:31-35.]。本発明の一実施例によれば、初期びまん型胃がんの被験者で血清ペプシノーゲンIIの水準が高かく(実施例4及び表2)、被験者の血清ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上である場合に初期びまん型胃がんを高い感度及び特異度で予測又は診断することができることを確認した(実施例6及び7、表3及び図3)。
【0022】
本発明の一側面に係るペプシノーゲンIIの水準の測定製剤は、細菌凝集反応(bacterial agglutination)、補体結合(complement fixation)、間接免疫蛍光テスト(indirect immunofluorescence test)及び免疫測定法(immunoassay)からなる群より選択された一つ以上の検査で用いられる製剤であってよく、具体的に、前記免疫測定法は、酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunesorbent assay、ELISA)、化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay)、及び放射免疫測定法(radioimmunoassay)からなる群より選択された一つ以上であってよく、より具体的に、前記酵素結合免疫吸着測定法は、ラテックス増強免疫比濁法(latex-enhanced turbidimetric immunoassay)であってよいが、被験者からペプシノーゲンIIの水準を測定することができる製剤であれば、その種類は制限されない。ただし、検査毎にその単位が異なることがあり、ラテックス増強免疫比濁法(latex-enhanced turbidimetric immunoassay)(L-TIA;HBi Corp, Seoul, Korea, imported from Shima Laboratories, Tokyo, Japan)による血清ペプシノーゲンIIの検査では20μg/Lが基準であり、他の検査の場合はその基準が異なってよい。
【0023】
本発明の一側面に係る被験者は40歳未満であってよい。胃がんの発生率は40歳未満の患者では非常に低く、胃がんに対する韓国がん検診プログラムでは40歳以上に限り無料内視鏡検査を提供しており、40歳未満のびまん型胃がん患者の大半は疾病の初期段階では症状を示さなくて早期診断に困難がある。本発明の一実施例によれば、40歳未満の被験者からの血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は40歳以上の被験者からのそれよりも遥かに高い感度及び特異度を示したところ(AUC 0.766、感度75.0%、特異度74.2%)(実施例7、及び図3のC及びD)、これにより、本発明の一側面に係る組成物は、40歳未満の被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができるという優れた効果を奏することが分かった。
【0024】
又は、具体的に、本発明の一側面に係る被験者は40歳未満の女性であってよい。従来知られたびまん型胃がんの力学的特徴と同様に[Bedikian AY, Khankhanian N, Heilbrun LK, Bodey GP, Stroehlein JR, Valdivieso M. Gastric carcinoma in young adults. South Med J 1979;72:654-656.][Isobe T, Hashimoto K, Kizaki J, et al. Characteristics and prognosis of gastric cancer in young patients. Oncol Rep 2013;30:43-49.41]、40歳以上の女性よりも40歳未満の女性がびまん型胃がんの危険度が高く、びまん型胃がんの比率は女性が男性よりも高い。本発明の一実施例によれば、40歳未満の女性被験者からの血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は40歳以上の被験者、及び40歳未満の男性及び女性をいずれも含む被験者からのそれよりも遥かに高い感度及び特異度を示したところ(AUC 0.824、感度81.3%、特異度78.1%)(実施例7、及び図4)、これにより、本発明の一側面に係る組成物は、40歳未満の女性被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができるという優れた効果を奏することが分かった。また、血清ペプシノーゲンIIの数値が20μg/L以上であるか否かは、40歳未満の女性の被験者が初期びまん型胃がんであるか否かを判断することができる有意なバイオマーカーであることを確認した(実施例8及び表4)。これにより、本発明の一側面に係る組成物は、40歳未満の女性の被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができ、内視鏡検査の前に前記組成物を用いた検査により初期びまん型胃がんと予測又は診断された被験者はそれ以降慎重な内視鏡追跡観察を行うことができるという優れた効果を奏する。
【0025】
本発明の一側面に係る組成物は、初期びまん型胃がんを予測又は診断するための組成物であってよい。びまん型胃がんは、胃がん全体の約40%を占めるが、比較的若い年齢層で発生し、予後が肺がんよりも良くなく、その大半は進行した状態で診断されるため手術時期を逃して治療が相当難しい場合が多い。したがって、初期段階のびまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーを発掘する必要がある。従来、胃がんバイオマーカーとしてのペプシノーゲンは血清ペプシノーゲンI及び血清ペプシノーゲンIとIIの比率(sPGI/II)が主に用いられたが、本発明の一実施例によれば、血清ペプシノーゲンIの水準及び血清ペプシノーゲンIとIIの比率(sPGI/II)は、びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーとして適切ではない(実施例6及び表3)。一方、本発明の一実施例によれば、腸型胃がんの被験者のうち初期胃がんの被験者が73.9%であることを考慮すると、びまん型胃がんの被験者のうち初期胃がん(early gastric cancer、EGC)の被験者は45.5%であって、びまん型胃がんのうち初期びまん型胃がんの比率が相当低い。びまん型胃がんの発病が可能な機転はヘリコバクター・ピロリによって誘導された炎症が胃粘膜において幾つかの遺伝的変化を起こすことと考えられ[Nardone G, Rocco A, Malfertheiner P. Review article:Helicobacter pylori and molecular events in precancerous gastric lesions. Aliment Pharmacol Ther 2004;20:261-270][Correa P. Does Helicobacter pylori cause gastric cancer via oxidative stress? Biol Chem 2006;387:361-364]、例えば、ヘリコバクター・ピロリ感染はDNAメチル化によるCpG島メチル化及びE-カドヘリン遺伝子不活性化を誘導する[Kang GH, Lee S, Kim JS、 Jung HY. Profile of aberrant CpG island methylation along the multistep Pathway of gastric carcinogenesis. Lab Invest 2003;83:635-641][Chan AO, Lam SK, Wong BC, et al. Promoter methylation of E-cadherin gene in gastric mucosa associated with Helicobacter pylori infection and in gastric cancer. Gut 2003;52:502-506.][Maekita T, Nakazawa K, Mihara M, et al. High levels of aberrant DNA methylation in Helicobacter pylori-infected gastric mucosae and its possible association with gastric cancer risk. Clin Cancer Res 2006;12:989-995.][Tamura G, Yin J, Wang S, et al. E-cadherin gene promoter hypermethylation in primary human gastric carcinomas. J Natl Cancer Inst 2000;92:569-573]。また、ヘリコバクター・ピロリによって誘導された細胞毒素(cytotoxin)が酸素フリーラジカル及び過酸化物のような発がん物質を生成してペプシノーゲン遺伝子で突然変異を誘発することがあり、このような突然変異が細胞増殖、分化及びアポトーシス(apoptosis)間の均衡に影響を及ぼし、結果として、びまん型胃がんにつながることがある[Kuwahara Y, Kono S, Eguchi H, Hamada H, Shinchi K, Imanishi K. Relationship between serologically diagnosed chronic atrophic gastritis, Helicobacter pylori、and environmental factors in Japanese men. Scand J Gastroenterol 2000;35:476-481.][Backert S, Schwarz T, Miehlke S, et al. Functional analysis of the cag pathogenicity island in Helicobacter pylori isolates from patients with gastritis, peptic ulcer, and gastric cancer. Infect Immun 2004;72:1043-1056.][Kuniyasu H, Kitadai Y, Mieno H, Yasui W. Helicobactor pylori infection is closely associated with telomere reduction in gastric mucosa. Oncology 2003;65:275-282]。本発明の一実施例によれば、血清ペプシノーゲンIIの数値が胃がん全体、又はびまん型胃がん全体よりは初期びまん型胃がんであるか否かを判断することができる有意なバイオマーカーであることを確認した(実施例7及び図3)。これにより、本発明の一側面に係る組成物は、被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができ、内視鏡検査の前に前記組成物を用いた検査により初期びまん型胃がんと予測又は診断された被験者は、それ以降慎重な内視鏡追跡観察を行うことができるという優れた効果を奏する。
【0026】
本発明の一側面に係るサンプルは、血清、血漿、全血、小便、唾液、及び涙からなる群より選択された一つ以上であってよく、具体的に血清であってよい。
【0027】
本発明の一側面に係る組成物は、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤をさらに含んでよく、前記ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤は、組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上の検査のための製剤であってよい。具体的に、前記組織学的試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対する染色試験であってよく、前記培養試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対するヘリコバクター・ピロリ菌培養試験であってよく、前記血清検査は、前記被験者の血清からヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体である兔疫グロブリンG(immunoglobulin G、IgG)を測定することであってよい。
【0028】
より具体的に、前記免疫測定法は、酵素結合免疫吸着測定法(enzymelinked immunesorbent assay、ELISA)、化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay)、及び放射免疫測定法(radioimmunoassay)からなる群より選択された一つ以上であってよいが、これらに制限されない。ヘリコバクター・ピロリは、胃粘膜で慢性炎症を誘発して、慢性活性胃炎、萎縮、腸内転移、異形成症、及び胃がんの順につながると知られている。このような連鎖反応は、胃発がん、特に腸型胃がんの主な過程と見なされる[Nardone G, Rocco A, Malfertheiner P. Review article:Helicobacter pylori and molecular events in precancerous gastric lesions. Aliment Pharmacol Ther 2004;20:261-270.][Correa P. Human gastric carcinogenesis:a multistep and multifactorial process--First American Cancer Society Award Lecture on Cancer Epidemiology and Prevention. Cancer Res 1992;52:6735-6740.][Correa P, Houghton J. Carcinogenesis of Helicobacter pylori. Gastroenterology 2007;133:659-672.]。しかし、西洋の国家では胃がん全体の20%~30%が非萎縮性粘膜で発生し、背景胃粘膜(background gastric mucosa)は、日本における研究で胃がん事例の20%~40%で広範囲な萎縮を見せない結果を示した[Nardone G, Rocco A, Malfertheiner P. Review article:Helicobacter pylori and molecular events in precancerous gastric lesions. Aliment Pharmacol Ther 2004;20:261-270.][Vauhkonen M, Vauhkonen H, Sipponen P. Pathology and molecular biology of gastric cancer. Best Pract Res Clin Gastroenterol 2006;20:651-674.][Yanaoka K, Oka M, Mukoubayashi C, et al. Cancer high-risk subjects identified by serum pepsinogen tests:outcomes after 10-year follow-up in asymptomatic middle-aged males. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2008;17:838-845.][Ohata H, Oka M, Yanaoka K, et al. Gastric cancer screening of a high-risk population in Japan using serum pepsinogen and barium digital radiography. Cancer Sci 2005;96:713-720.]。
【0029】
また、本発明の一実施例によれば、ヘリコバクター・ピロリによって誘導された活性炎症がCorrea’s連鎖反応を経ることなくびまん型胃がんを直接誘導するという従来の仮説と一致した[Sipponen P, Kosunen TU, Valle J, Riihelδ M, Seppδlδ K. Helicobacter pylori infection and chronic gastritis in gastric cancer. J Clin Pathol 1992;45:319-323.][Nardone G, Rocco A, Malfertheiner P. Review article:Helicobacter pylori and molecular events in precancerous gastric lesions. Aliment Pharmacol Ther 2004;20:261-270.][Correa P. Precursors of gastric and esophageal cancer. Cancer 1982;50:2554-2565.][Laurιn P. Histogenesis of intestinal and diffuse types of gastric carcinoma. Scand J Gastroenterol Suppl 1991;180:160-164.]。
【0030】
本発明の一実施例によれば、被験者の初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーとして過去又は現在のヘリコバクター・ピロリ感染の有無を活用することができ、被験者のペプシノーゲンIIの水準と共にヘリコバクター・ピロリ感染の有無をバイオマーカーとして一緒に用いると、被験者の初期びまん型胃がんに対する危険度を判断することができる。具体的に、前記ペプシノーゲンIIの水準測定製剤及びヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤は測定又は検出のためのサンプルとして被験者の血清を同一に用いることで一つのサンプルを用いて前記二つのバイオマーカーを同時に測定又は検出して過程を単純化し、単一段階を行って時間及びコスト効率よく被験者の初期びまん型胃がんを予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0031】
より具体的に、次のような基準で被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態を陽性又は陰性に分類し:i)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;ii)前記組織学的試験、培養試験、及び迅速ウレアーゼ試験がいずれも陰性であり、且つ前記血清検査が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;iii)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴有りであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;及びiv)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性。
【0032】
前記被験者のペプシノーゲンIIの水準と共にヘリコバクター・ピロリ状態に応じて、下記のような基準で被験者を初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群、及び低危険群と判断することができる:a)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であると、初期びまん型胃がんの高危険群;b)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上及びヘリコバクター・ピロリ状態が陽性のいずれか一つだけに該当すると、初期びまん型胃がんの中危険群;及びc)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L未満であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陰性であると、初期びまん型胃がんの低危険群。
【0033】
本発明の一実施例に係る被験者は、萎縮性胃炎(atrophic gastritis)ではない被験者であってよい。
【0034】
他の側面において、本発明は、40歳未満の女性の血清からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する製剤及びヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用組成物を提供する。前記被験者、40才未満、女性、血清、ペプシノーゲンIIの水準測定製剤、ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤、初期びまん型胃がんについての説明は上述した通りである。
【0035】
本発明の一側面に係る組成物は、前記ペプシノーゲンIIの水準測定製剤及びヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤は測定又は検出のためのサンプルとして被験者の血清を同一に用いることで一つのサンプルを用いて前記二つのバイオマーカーを同時に測定又は検出して過程を単純化し、単一段階を行って時間及びコスト効率よく被験者の初期びまん型胃がんを予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0036】
また他の側面において、本発明は、前記初期びまん型胃がんの予測又は診断用組成物を含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断用キットを提供する。前記被験者、40才未満、血清、ペプシノーゲンIIの水準測定製剤、ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤、初期びまん型胃がんについての説明は上述した通りである。
【0037】
本発明の一側面に係るキットは、被験者の血清に適用されるものであってよい。
【0038】
本発明の一側面に係るキットは、被験者のサンプルから得られたペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上である場合に初期びまん型胃がんと予測又は診断するものであってよい。
【0039】
例示として、本発明の一側面に係るキットは、説明書又は情報提供部をさらに含み、前記説明書又は情報提供部は、被験者のサンプルから得られたペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上である場合に初期びまん型胃がんと予測又は診断するとする記載又は情報を提供するものであってよい。
【0040】
なお、本段落及び以降の段落を含む本明細書において情報提供部の「部」という用語は、ハードウェアだけではなく、当該ハードウェアによって駆動されるソフトウェアとの組み合わせを指すことがある。例えば、ハードウェアは、CPU又は他のプロセッサ(processor)を含むデータ処理機器であってよい。また、ハードウェアによって駆動されるソフトウェアは、実行中のプロセス、客体(object)、実行ファイル(executable)、実行スレッド(thread of execution)、計算プログラム(program)などのプログラムであってよいが、これらに制限されない。
【0041】
本発明の一実施例によれば、ROC曲線(receiver operating characteristic curve、ROC curve)による感度62.9%及び特異度61.2%で初期びまん型胃がんの予測又は診断のための最適の血清ペプシノーゲンII(sPGII)水準のカットオフ値は20μg/Lであり(AUC 0.636)(実施例7及び図3)、初期びまん型胃がんの危険度は血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が20μg/L以上であるときに有意に増加したところ(OR、3.12)(実施例8及び表4)、本発明の一側面に係るキットは、被験者のペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるときに高い感度及び特異度で初期びまん型胃がんと予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0042】
本発明の一側面に係るキットは、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)検出製剤を含む組成物を含み、前記ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤は、組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上の検査のための製剤であってよく、前記組織学的試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対する染色試験であってよく、前記培養試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対するヘリコバクター・ピロリ菌培養試験であってよく、前記血清検査は、前記被験者の血清からヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体である兔疫グロブリンG(immunoglobulin G、IgG)を測定することであってよい。具体的に、前記血清検査は、細菌凝集反応(bacterial agglutination)、補体結合(complement fixation)、間接免疫蛍光テスト(indirect immunofluorescence test)、及び免疫測定法(immunoassay)からなる群より選択された一つ以上であってよく、より具体的に、前記免疫測定法は、酵素結合免疫吸着測定法(enzymelinked immunesorbent assay、ELISA)、化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay)、及び放射免疫測定法(radioimmunoassay)からなる群より選択された一つ以上であってよいが、ヘリコバクター・ピロリ菌を検出することができる製剤であればその種類に制限はない。前記ヘリコバクター・ピロリ菌検出製剤についての説明は上述した通りである。
【0043】
本発明の一側面に係るキットは、被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態の陽性又は陰性の分類を下記のような基準で行うことができる:i)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;ii)前記組織学的試験、培養試験、及び迅速ウレアーゼ試験がいずれも陰性であり、且つ前記血清検査が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;iii)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴有りであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;iv)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴無しであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陰性。
【0044】
前述した被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態の陽性又は陰性の分類の基準は、キットにおける、例えば説明書又は情報提供部によって提供されてよい。
【0045】
また、本発明の一側面に係るキットは、初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群、及び低危険群の分類を下記のような基準で行うことができる:a)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であると、初期びまん型胃がんの高危険群;b)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上及びヘリコバクター・ピロリ状態が陽性のいずれか一つだけに該当すると、初期びまん型胃がんの中危険群;及びc)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L未満であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陰性であると、初期びまん型胃がんの低危険群。
【0046】
前述した被験者の初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群、及び低危険群の分類の基準も、キットにおける、例えば説明書又は情報提供部によって提供されてよい。
【0047】
本発明の一実施例によれば、初期びまん型胃がんの危険度は、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であるとき(OR、3.03)に有意に増加し、血清ペプシノーゲンIIの水準とヘリコバクター・ピロリ状態の二つの条件が共に存在すると、オッズ比(OR)は12.76であることを確認したところ(実施例8及び表4)、本発明の一側面に係るキットは、被験者のペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるか否かとヘリコバクター・ピロリ状態が陽性又は陰性であるか否かの基準によって被験者の初期びまん型胃がんに対する危険度を予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0048】
また他の側面において、本発明は、40歳未満の被験者のサンプルからペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定する段階;を含む、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断のための情報提供方法を提供する。前記40才未満、サンプル、ペプシノーゲンII、初期びまん型胃がんについての説明は上述した通りである。
【0049】
本発明の一側面に係る被験者は女性であってよい。本発明の一実施例によれば、40歳未満の女性被験者からの血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は40歳以上の被験者、及び40歳未満の男性及び女性をいずれも含む被験者からのそれよりも遥かに高い感度及び特異度を示したところ(AUC 0.824、感度81.3%、特異度78.1%)(実施例7、及び図4)、これにより、本発明の一側面に係る組成物は、40歳未満の女性被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができるという優れた効果を奏することが分かった。また、血清ペプシノーゲンIIの数値が20μg/L以上であるか否かは、40歳未満の女性の被験者が初期びまん型胃がんであるか否かを判断することができる有意なバイオマーカーであることを確認した(実施例8及び表4)。これにより、本発明の一側面に係る情報提供方法は、40歳未満の女性の被験者のサンプルから初期びまん型胃がんを高い診断力で予測又は診断することができ、内視鏡検査の前に前記組成物を用いた検査によって初期びまん型胃がんと予測又は診断された被験者はそれ以降慎重な内視鏡追跡観察を行うことができるという優れた効果を奏する。
【0050】
本発明の一側面に係るサンプルは血清であってよい。
【0051】
本発明の一側面に係る情報提供方法は、前記ペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であると、初期びまん型胃がんと予測又は診断することであってよい。本発明の一実施例によれば、ROC曲線(receiver operating characteristic curve、ROC curve)による感度62.9%及び特異度61.2%で初期びまん型胃がんの予測又は診断のための最適の血清ペプシノーゲンII(sPGII)水準のカットオフ値は20μg/Lであり(AUC 0.636)(実施例7及び図3)、初期びまん型胃がんの危険度は、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が20μg/L以上であるときに有意に増加したところ(OR、3.12)(実施例8及び表4)、本発明の一側面に係る情報提供方法は、被験者のペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるときに高い感度及び特異度で初期びまん型胃がんと予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0052】
本発明の一側面に係る情報提供方法は、前記被験者のヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori、HP)感染の有無を測定する段階;をさらに含んでよく、前記ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無の測定は、 組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上を含んでよい。具体的に、前記組織学的試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対する染色試験であってよく、前記培養試験は、前記被験者の胃から分離された生検標本に対するヘリコバクター・ピロリ菌培養試験であってよく、前記血清検査は、前記被験者の血清からヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体である兔疫グロブリンG(immunoglobulin G、IgG)を測定することであってよい。前記ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無の測定は上述した通りである。
【0053】
本発明の一側面に係る情報提供方法は、被験者のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)状態を下記のような基準によって陽性又は陰性に分類することができる:i)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査からなる群より選択された一つ以上が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;ii)前記組織学的試験、培養試験、及び迅速ウレアーゼ試験がいずれも陰性であり、且つ前記血清検査が陽性であると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;iii)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴有りであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陽性;及びiv)前記組織学的試験、培養試験、迅速ウレアーゼ試験、及び血清検査が陰性であり、且つ被験者がヘリコバクター・ピロリ除菌履歴無しであると、ヘリコバクター・ピロリ状態は陰性。また、前記情報提供方法は、前記被験者のペプシノーゲンIIの水準及びヘリコバクター・ピロリ状態によって被験者が初期びまん型胃がんの高危険群、中危険群及び低危険群のいずれかであると予測又は診断することができる:a)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陽性であると、初期びまん型胃がんの高危険群;b)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L以上及びヘリコバクター・ピロリ状態が陽性のいずれか一つだけに該当すると、初期びまん型胃がんの中危険群;及びc)前記ペプシノーゲンIIの検出量が20μg/L未満であり且つヘリコバクター・ピロリ状態が陰性であると、初期びまん型胃がんの低危険群。本発明の一実施例によれば、ROC曲線(receiver operating characteristic curve、ROC curve)による感度62.9%及び特異度61.2%で初期びまん型胃がんの予測又は診断のための最適の血清ペプシノーゲンII(sPGII)水準のカットオフ値は20μg/Lであり(AUC 0.636)(実施例7及び図3)、初期びまん型胃がんの危険度は、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が20μg/L以上であるとき(OR、3.12)とヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であるとき(OR、3.03)に有意に増加し、血清ペプシノーゲンIIの水準とヘリコバクター・ピロリ状態の二つの条件が共に存在すると、オッズ比(OR)は12.76であることを確認したところ(実施例8及び表4)、本発明の一側面に係る情報提供方法は、被験者のペプシノーゲンIIの水準が20μg/L以上であるか否かとヘリコバクター・ピロリ状態が陽性又は陰性であるか否かの基準によって被験者の初期びまん型胃がんに対する危険度を予測又は診断することができるという優れた効果を奏する。
【0054】
本発明は、他の観点において、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断が必要な40歳未満の被験者からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定することを含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断方法に関するものであってよい。
【0055】
本発明は、また他の観点において、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断が必要な40歳未満の被験者からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定することを含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断のための非侵襲的方法に関するものであってよい。
【0056】
本発明は、また他の観点において、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断が必要な40歳未満の被験者からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定し且つヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)を検出することを含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断方法に関するものであってよい。
【0057】
本発明は、また他の観点において、初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断が必要な40歳未満の被験者からペプシノーゲンII(pepsinogen II、PGII)の水準を測定し且つヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)を検出することを含む初期びまん型(diffuse-type)胃がんの予測又は診断のための非侵襲的方法に関するものであってよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明の構成及び効果をより具体的に説明する。なお、下記の実施例は本発明についての理解を助けるための目的から例示したものであるに過ぎず、本発明の範疇及び範囲がそれらによって制限されるものではない。
【0059】
[実施例1]胃がんバイオマーカーの発掘のための被験者の登録及び検査
本発明の一側面に係る胃がんバイオマーカーを発掘するために、下記のような方法で被験者を募集し、各被験者のペプシノーゲンIIの水準及びヘリコバクター・ピロリ菌の状態を検査した。
【0060】
[実施例1-1]被験者の登録
2006年2月から2017年3月までの間に盆唐ソウル大学病院を訪問した25~80歳の2,940名を被験者として登録した。これらの被験者のうち、1,124名の患者が胃がん(GC)と診断され、353名が組織学的分析によって胃異形成症(gastric dysplasia)と診断された。全体的に、以前に胃腸手術又は他の悪性腫瘍の病歴がない1,463名の被験者は健康な対照群と登録された。手術又は内視鏡的粘膜下剥離術(endoscopic submucosal dissection)を受けた胃がん患者についての病理記録を詳細に検討した。胃がんはLauren分類法によって分類され、リンパ節転移に関係なく、粘膜下に深く浸潤していないと初期胃がんと定義された(T1、任意のN)[Lauren P. The two histological main types of gastric carcinoma:diffuse and so-called intestinal-type carcinoma. an attempt at a histo-clinical classification. Acta Pathol Microbiol Scand 1965;64:31-49]。30名の胃がんケースは腸型又はびまん型に分類し難かった。消化不良症状のあるすべての対照群の被験者は胃内視鏡検査によって胃粘膜関連リンパ組織リンパ腫(gastric mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma)、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor)、カルチノイド腫瘍(carcinoid tumor)、悪性リンパ腫(malignant lymphoma)、及び食道がん(esophageal cancer)を含む他の局所の胃疾患を排除した。また、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、HP)検査が検証された。胃底腺肥厚症(fundic gland hyperplasia)、胃の過形成性ポリープ(gastric hyperplastic polyp)、軽度胃炎(mild gastritis)、逆流性食道炎(reflux esophagitis)、又は非侵食性逆流疾患(nonerosive reflux disease)のような陽性疾患のある被験者を対照群として分類した。経験の多い進行者が患者らによるアンケート紙の作成が円滑に進むように助力し、内視鏡検査の当日に血液サンプルを採取した。研究プロトコルは盆唐ソウル大学病院臨床試験審査委員会(IRB番号:B-1610-368-106)によって承認され、Clinical trials. gov(NCT03380052)に登録された。ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)の倫理的原則に従いすべての被験者に対して書面同意を得た。
【0061】
[実施例1-2]血清ペプシノーゲンII(serum pepsinogen II、sPGII)水準の測定
前記実施例1-1の被験者から収得した空腹時血液サンプルを直ちに遠心分離機に入れて-70℃で保管した。sPGI及びsPGIIの血清水準をラテックス増強免疫比濁法(latex-enhanced turbidimetric immunoassay)(L-TIA;HBi Corp、韓国、ソウル、日本の東京所在のShima Laboratoriesから輸入)を用いて測定した。
【0062】
[実施例1-3]ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態の測定
前記実施例1-1の被験者のヘリコバクター・ピロリ状態を測定するために、先ず、各被験者毎に上部内視鏡検査の間に胃前庭部(antrum)及び胃体部(corpus)から10個の生検標本を収得した。これらのサンプルを用いて、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を確認するために3種の診断方法で診断を行った。具体的に、10個の生検標本のうちの、10%中性緩衝ホルマリンに固定されパラフィン包埋した(paraffin-embedded)4個の標本を、変形されたギムザ液(Giemsa)、ヘマトキシリン(hematoxylin)、及びエオシン(eosin)で染色してヘリコバクター・ピロリの存在を評価した。また、残りの標本のうちの4個の標本を、微好気(microaerobic)条件下、37℃で3~5日間ヘリコバクター・ピロリに対して培養した。最後の2個の標本に対しては、迅速ウレアーゼ試験(rapid urease testing)(Campylobacter-like organism test、CLO test)を行った[Dixon MF, Genta RM, Yardley JH, Correa P. Classification and grading of gastritis. The updated Sydney System. International Workshop on the Histopathology of Gastritis, Houston 1994. Am J Surg Pathol 1996;20:1161-1181][Loffeld RJ, Stobberingh E, Flendrig JA, Arends JW. Helicobacter pylori in gastric biopsy specimens:comparison of culture, modified Giemsa stain, and immunohistochemistry. A retrospective study. J Pathol 1991;165:69-73][Chey WD, Wong BC;Practice Parameters Committee of the American College of Gastroenterology. American College of Gastroenterology guideline on the management of Helicobacter pylori infection. Am J Gastroenterol 2007;102:1808-1825]。
【0063】
また、ヘリコバクター・ピロリ状態の測定のために前記実施例1-1の被験者の血清検査も行った。具体的に、前記実施例1-2の被験者から収得した血液サンプルを用いて、韓国人の人口において97.9%の感度と92.0%の特異度を有するヘリコバクター・ピロリに対する兔疫グロブリンG抗体で酵素結合免疫吸着測定法(enzyme-linked immunosorbent assay)(Genedia HP ELISA;Green Cross Medical Science Corp, ソウル、竜仁)にてヘリコバクター・ピロリ感染の有無を検査した[Lee JY, Kim N, Kim MS, et al. Factors affecting first-line triple therapy of Helicobacter pylori including CYP2C19 genotype and antibiotic resistance. Dig Dis Sci 2014;59:1235-1243.]。
【0064】
前記組織学、培養、又は迅速ウレアーゼ試験(CLO test)のいずれかに対する陽性を、現在被験者がヘリコバクター・ピロリ感染が確実であると定義した。また、特に前記組織学、培養、及び迅速ウレアーゼ試験の3件のヘリコバクター・ピロリ検査結果が陰性である場合、すべての被験者のヘリコバクター・ピロリ除菌(eradication)履歴は前記血清検査、すなわち抗HP(ヘリコバクター・ピロリ)抗体試験を定性的推定として用いた。このとき、前記ヘリコバクター・ピロリに対する血清検査が陽性であるかヘリコバクター・ピロリ除菌履歴のある被験者は過去にヘリコバクター・ピロリ感染があったことを示す。
【0065】
結論として、被験者が現在ヘリコバクター・ピロリに感染されている又は過去にヘリコバクター・ピロリへの感染履歴があると、いずれもヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であると見なし、現在と過去ともヘリコバクター・ピロリに感染されたことがないと、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陰性であると見なした。
【0066】
[実施例1-4]被験者の胃組織学的分類
前記実施例1-3で収得した10個の生検標本のうちのパラフィン包埋した標本を変形されたギムザ液(Giemsa)、ヘマトキシリン(hematoxylin)、及びエオシン(eosin)で染色して各被験者の胃組織のOLGA(operative link on gastric atrophy)及びOLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia)の段階を評価した。
【0067】
[実施例2]統計分析
前記実施例1で収得した被験者に対するデータを用いてスチューデントのT検定(Student T-test)及び1元配置分散分析(one-way analysis of variance)を用いて各グループの基準線の特徴を比較し、その結果は下記実施例3~8で具体的に説明した。曲線下面積(Area under the curve、AUC)及び受信者操作特徴曲線(receiver operating characteristic curve、ROC curve)を計算して対照群と比較して胃がん及び胃異形成症の検出のためのsPGの最適のカットオフ値(cutoff values)を見出した。AUCが0.7以上、感度及び特異度が70%以上であるときに有意なものと見なした。次いで、血清ペプシノーゲンI(serum pepsinogen I、sPGI)、血清ペプシノーゲンII(serum pepsinogen II、sPGII)及びsPGI/II比率を二つの範疇に分けた。多変量ロジスティック回帰分析(multivariate logistic regression)を用いて、95%の信頼区間(confidence intervals、Cis)のオッズ比(odds ratios、ORs)を計算した。SPSS version 22.0(IBM Corp., Armonk, ny, USA)を用いて分析を行った。p-値が0.05以下である場合、結果は有意なものと見なされた。
【0068】
[実施例3]被験者のベースライン特性(baseline characteristics)
前記実施例1から収得した被験者のベースライン特性は下記表1の通りである。
【0069】
【表1】
【0070】
前記表1は、胃異形成症(n=353)、胃がん(n=1,124)及び対照群(n=1,463)のベースライン特性を表す。対照群の平均年齢は53.4±13.0歳であり、これは胃がん(59.75±11.6歳)及び胃異形成症(62.63±9.4歳)グループよりも有意に低かった。合算された1元配置分散分析は、対照群、胃異形成症郡及び胃がん群の3つのグループ間において、性別、喫煙/飲酒履歴、塩辛い/辛い献立、家族歴、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態、sPGI、sPGII、sPGI/II比率、OLGA段階及びOLGIM段階で有意な差を示した(表1)。胃がんを組織学的に腸型又はびまん型に分類したとき、30名の胃がん患者は腸型又はびまん型に分類し難かった(図1)。よって、残りの1,094名の患者は腸型胃がん(IGC)群及びびまん型胃がん(DGC)群に分類され、648名は腸型胃がん(IGC)群(59.2%)、446名はびまん型胃がん(DGC)群(40.8%)に分類された。性別、年齢、喫煙/飲酒履歴、塩辛い献立、sPGI及びsPGII、OLGA段階、及びOLGIM段階の差が胃がん下位群で示された(表1)。
【0071】
[実施例4]胃がん病期に関連した血清学的及び組織学的特徴の比較
前記実施例3の胃がん群に属する被験者の実施例1-2~1-4の血清学的及び組織学的特徴を比較し、その結果は下記表2の通りである。
【0072】
【表2】
【0073】
先ず、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態及び血清ペプシノーゲン(sPGs)に関しては、初期胃がん群(early-stage GC)及び進行胃がん群(advanced-stage GC)間において統計的に有意な差が観察されなかった(表2)。組織学的類型によって胃がんを分類しても、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態は依然として差がなかった。しかし、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は、初期腸型胃がん群に比べて進行した腸型胃がん群の方か高く(p=0.001)、sPGI/II比率は腸型胃がん群の方か低かった(p=0.005)。びまん型胃がん(DGC)の場合、初期段階の患者は、進行段階にある患者よりも血清ペプシノーゲンI(sPGI)(p=0.003)及び血清ペプシノーゲンII(sPGII)(p=0.003)の数値が高かった。組織学的特徴に関して、進行腸型胃がん群は初期腸型胃がん群よりも萎縮性胃炎及び腸上皮化生が進行した結果を示した(表2)。
【0074】
前記表2に表されたように、血清ペプシノーゲンII(sPGII)は、びまん型胃がんとは異なり、腸型胃がんでは初期段階よりも進行段階にある被験者で高かった。Stemmermann及びNomuraの研究で[Stemmermann GN, Nomura AM. The relation of pepsinogen group II(PGII) expression to intestinal metaplasia and gastric cancer. Histopathology 2006;49:45-51]、血清ペプシノーゲンII(sPGII)は、腸上皮化生がややあるか全く腸上皮化生のない被験者よりは中間又は広範囲な腸上皮化生のある患者で発現する可能性が高かった。前記研究で、血清ペプシノーゲンII(sPGII)を発現したがんは、そうでないがんよりも高い段階であることが明らかになり、腸内分泌腺(intestinalized glands)で発生するがんが、以降で胃の表現型に戻り得ると仮定した。そこで、本発明者は、進行段階の腸型胃がんでの高い血清ペプシノーゲンII(sPGII)は腸内細胞から胃の表現型への誘導後復帰(postinduction reversion)で派生され得ると仮説を立てたが、初期腸型胃がんで、このような現象は血清ペプシノーゲンII(sPGII)があまり高くないと確認された。
【0075】
[実施例5]ヘリコバクター・ピロリ状態と血清ペプシノーゲン(sPG)及びOLGA/OLGIM段階の関係
被験者の実施例1-2~1-4の血清ペプシノーゲン(sPGs)の水準とOLGA/OLGIM段階におけるヘリコバクター・ピロリ(HP)状態との関係を確認し、その結果は図2の通りである。
【0076】
図2a~図2cに示したように、被験者のヘリコバクター・ピロリ(HP)状態で血清ペプシノーゲン(sPGs)は相当な差を示し、HP状態が陽性である被験者はHP状態が陰性である被験者よりも血清ペプシノーゲンI(sPGI)及び血清ペプシノーゲンII(sPGII)の数値は高く(図2a及び図2b)、sPGI/IIの比率は低かった(図2c)(全てp<0.001)。また、萎縮性胃炎及び腸上皮化生の指標であるHP状態が陽性である被験者の方が高かった(p<0.001)(図2d)。
【0077】
[実施例6]血清ペプシノーゲン(sPGs)及びヘリコバクター・ピロリ状態と胃異形成症又は胃がんとの相関関係
被験者の実施例1-2~1-4の血清ペプシノーゲン(sPGs)の水準及びヘリコバクター・ピロリ(HP)状態と胃異形成症と胃がんの危険度の関係を表3に表した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に表されたように、sPGI//II比率が3未満のグループのオッズ比(odds ratio、OR)が胃異形成症郡は2.77、胃がん群は2.25であった。胃がんの亜型のうち、sPGI/II比率が3未満であるときの腸型胃がん群(IGC)のオッズ比はびまん型胃がん群(DGC)のオッズ比よりも高く(OR、2.50;p<0.001)、特に進行胃がん被験者で最も高かった(OR、3.40;p<0.001)。対照的に、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が20μg/L以上である場合は、びまん型胃がん群(DGC)でより高く(OR、1.78;p<0.001)、特に初期胃がん被験者でより高かったが(OR、3.12;p<0.001)、腸型胃がん群(IGC)では高くなかった。血清ペプシノーゲンI(sPGI)の水準が70μg/L未満であるときは、sPGI/II比率と比較して、胃異形成症郡(OR、2.06;p<0.001)及び腸型胃がん群(IGC)で類似した結果を示したが(OR、1.68;p<0.001)、全体のオッズ比は低かった。また、血清ペプシノーゲンI(sPGI)の水準は全体の胃がんとは関連がなかったがものの、高い血清ペプシノーゲンI(sPGI)の水準はびまん型胃がん(DGC)と関連があった。HP状態の意味を調べたとき、HP状態が陽性であることは、胃異形成症(OR、2.56;p<0.001)及び胃がん(OR、2.06;p<0.001)の危険増加と関連があった。胃がんの類型のうち、HP状態が陽性であるとき、腸型胃がん(IGC)よりもびまん型胃がん(DGC)の危険度が高かった(OR、2.54;p<0.001)。
【0080】
従来の胃がんバイオマーカーとしてのペプシノーゲンは血清ペプシノーゲンI及び血清ペプシノーゲンIとIIの比率(sPGI/II)が主に用いられた点を考慮するとき、前記結果は血清ペプシノーゲンI及び血清ペプシノーゲンIとIIの比率(sPGI/II)は初期びまん型胃がんを予測又は診断するバイオマーカーとしては不向きであることを示す。具体的に、対照群と比較した血清ペプシノーゲンI水準の胃がんに対するオッズ比(odd ratio、OR)は韓国で胃がんの検診時のバイオマーカーとして有意ではなかった(OR、1.00)。胃がんを腸型胃がんと限定してみると、オッズ比は1.68であったが(初期胃がんは1.68、進行胃がんは1.84)、従来の日本での研究と比較したときは、依然として胃がん診断のためのバイオマーカーとして用いるには十分ではない[Yoshihara M, Sumii K, Haruma K, et al. Correlation of ratio of serum pepsinogen I and II with prevalence of gastric cancer and adenoma in Japanese subjects. Am J Gastroenterol 1998;93:1090-1096.][Miki K. Gastric cancer screening using the serum pepsinogen test method. Gastric Cancer 2006;9:245-253.][Kitahara F, Kobayashi K, Sato T, Kojima Y, Araki T, Fujino MA. Accuracy of screening for gastric cancer using serum pepsinogen concentrations. Gut 1999;44:693-697.][Dinis-Ribeiro M, Yamaki G, Miki K, Costa-Pereira A, Matsukawa M, Kurihara M. Meta-analysis on the validity of pepsinogen test for gastric carcinoma, dysplasia or chronic atrophic gastritis screening. J Med Screen 2004;11:141-147.][Hattori Y, Tashiro H, Kawamoto T, Kodama Y. Sensitivity and specificity of mass screening for gastric cancer using the measurment of serum pepsinogens. Jpn J Cancer Res 1995;86:1210-1215]。このような結果は、腸型胃がんとびまん型胃がんの比率の差、ヘリコバクター・ピロリ感染率、ヘリコバクター・ピロリ除菌率及び試験装備での差のような種々の要因のためであると推定される[Oishi Y, Kiyohara Y, Kubo M, et al. The serum pepsinogen test as a predictor of gastric cancer:the Hisayama study. Am J Epidemiol 2006;163:629-637.][Ohata H, Kitauchi S, Yoshimura N, et al. Progression of chronic atrophic gastritis associated with Helicobacter pylori infection increases risk of gastric cancer. Int J Cancer 2004;109:138-143.][Watabe H, Mitsushima T, Yamaji Y, et al. Predicting the development of gastric cancer from combining Helicobacter pylori antibodies and serum pepsinogen status:a prospective endoscopic cohort study. Gut 2005;54:764-768]。また、PGI/II比率の3未満のカットオフは胃異形成症で2.77、胃がんで2.25のオッズ比を有するが、sPGI/II比率は、びまん型胃がんよりも腸型胃がんで、初期胃がんよりも進行胃がんで、バイオマーカーとしてより適合し、特に進行腸型胃がんで最も適切である結果を示した(OR、3.40)。このような結果は、組織学的類型及び段階に応じて異なる等級の萎縮性胃炎及び腸上皮化生と関連があると考えられる。また、OLGA及びOLGIM段階が実際にびまん型胃がんよりも腸型胃がんで、そして初期胃がんよりも進行胃がんでより高かったところ、sPGI/II比率は萎縮性胃炎に対する適切なバイオマーカーであり且つ腸型胃がんと密接な関連があることを確認した。
【0081】
[実施例7]胃がんの予測又は診断のための血清ペプシノーゲンII(sPGII)の検出歴確認
前記実施例6から高い水準の血清ペプシノーゲンII(sPGII)が初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーになり得ることを確認したところ、その有用性を確認するためにAUC(Area under the curve)を計算し、その結果は図3及び図4に示した。
【0082】
図3及び図4に示したように、血清ペプシノーゲンII(sPGII)は胃がん全体(図3a)及びびまん型胃がん全体(図3b)に対する感度及び特異度を有する有意なAUCを示さなかった。しかし、びまん型胃がんを初期及び進行がんに分けると、初期びまん型胃がんでAUCが増加した。ROC曲線(receiver operating characteristic curve、ROC curve)によると、感度62.9%及び特異度61.2%で初期びまん型胃がんの予測又は診断のための最適の血清ペプシノーゲンII(sPGII)水準のカットオフ値は20μg/Lであった(AUC 0.636)。初期びまん型胃がんの被験者を40歳を基準に分類したとき、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は40歳以上の被験者よりも40歳未満の被験者でより有意に高い診断力を示した(図3c及び図3d)(AUC 0.766、感度75.0%、特異度74.2%)。また、40歳未満の女性被験者での血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準は、40歳以上の被験者、及び40歳未満の男性及び女性をいずれも含む被験者よりも遥かに高い感度及び特異度を示した(AUC 0.824、感度81.3%、特異度78.1%)(図4)。
【0083】
[実施例8]びまん型胃がんの予測又は診断に対する血清ペプシノーゲンII(sPGII)とヘリコバクター・ピロリ(HP)状態の相関関係
実施例1~7までの結果を総合してびまん型胃がんの予測又は診断のための最も強力なモデルを見出すために、危険階層分析(risk stratification analysis)を行い、その結果は表4の通りである。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に表したように、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態と血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が20μg/Lであるか否かに応じて、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陰性で血清ペプシノーゲンII(sPGII)が20μg/L未満であると低危険群、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であるか又は血清ペプシノーゲンII(sPGII)が20μg/L以上であると中危険群、ヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であり且つ血清ペプシノーゲンII(sPGII)が20μg/L以上であると高危険群に分けた。低危険群に比べて高危険群のびまん型胃がんのオッズ比は3.44であった(p<0.001)。また、初期びまん型胃がん群(OR、5.20;p<0.001)は、進行びまん型胃がん群(OR、1.92;p=0.013)に比べて高危険群とより高い連関性を示した。一方、被験者の年齢と性別にて下位グループを分析したとき、高危険群で40歳以下の初期びまん型胃がんのオッズ比は12.76(p=0.001)であって、初期びまん型胃がんのオッズ比は40歳未満の女性で最も高い結果を示した(OR、21.00;p=0.006)。
【0086】
すなわち、初期びまん型胃がんの危険度は、血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準が 20μg/L以上(OR、3.12)でヘリコバクター・ピロリ(HP)状態が陽性であるとき(OR、3.03)に有意に増加し、この二つの条件が共に存在すると、オッズ比(OR)は12.76であることを確認した。
【0087】
総合的に、本発明の一実施例によれば、被験者の血清ペプシノーゲンII(sPGII)の水準を測定することができる製剤を含む組成物は、初期びまん型胃がんを予測又は診断することができ、さらには、前記血清ペプシノーゲンIIの水準と共にヘリコバクター・ピロリ(HP)に現在ヘリコバクター・ピロリに感染されている又は過去に感染された履歴があるか否かは、初期びまん型胃がんを高い感度及び特異度で予測又は診断することができることを確認した。特に、びまん型胃がんの危険度が高い40歳未満の女性では血清ペプシノーゲンIIの水準とヘリコバクター・ピロリ(HP)状態は内視鏡検査の前に行い得る非侵襲的なマーカーとして有用に活用することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の一側面において、初期びまん型胃がんを予測又は診断するためのバイオマーカーとして血清ペプシノーゲンIIを発掘したところ、内視鏡検査の前に非侵襲的な手段として血清ペプシノーゲンIIを測定することで初期びまん型胃がんの有無を高い感度及び特異度で予測又は診断することができ、さらには、同一のサンプル、例えば血清で血清ペプシノーゲンII水準とヘリコバクター・ピロリ感染履歴を同時に測定又は検出することで過程を単純化させ、単一段階の実施によって時間及びコスト効率よく被験者の初期びまん型胃がんを予測又は診断するのに用いることができる。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
【国際調査報告】