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特表2023-534091炎症の治療における使用のための3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンカルボン酸およびその誘導体
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  • 特表-炎症の治療における使用のための3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンカルボン酸およびその誘導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】炎症の治療における使用のための3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンカルボン酸およびその誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/08 20060101AFI20230801BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 31/553 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C07D498/08 CSP
A61P29/00
A61K31/553
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562053
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 IB2021053062
(87)【国際公開番号】W WO2021209910
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】102020000008125
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522395886
【氏名又は名称】ミネルヴァ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
(71)【出願人】
【識別番号】504463925
【氏名又は名称】ミメテック ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】グアルナ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】カストロノヴォ ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】タントゥッリ ミケーレ
【テーマコード(参考)】
4C072
4C086
【Fターム(参考)】
4C072AA03
4C072BB02
4C072CC01
4C072CC12
4C072EE09
4C072FF11
4C072GG07
4C072GG09
4C072HH02
4C072JJ09
4C072UU01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB22
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZC19
(57)【要約】
本発明は、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする、感染性または非感染性の、急性または慢性の炎症に関連する疾患の治療における、ADAR1の活性化剤としての使用のための、一般式(I)の3-アザビシクロ[3. 2. 1]オクタン酸、それらの塩およびエステルを記載する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする炎症性疾患の治療における、RNA1に作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR1)の活性化剤としての使用のための、薬学的に許容される塩を含む、式(I)の化合物。
【化1】
式中
R1は、アリール、C1-8アルキルアリールからなる群から選択され;
R2は、C1-8アルキルアリールからなる群から選択され;
R3は、H、-C1-8アルキル、C1-8アルキルアリールからなる群から選択される。
【請求項2】
請求項1に記載の使用のための化合物であって、
R1が、CH2Phであるか;または
R2が、CH2Phであるか;または
R3が、HもしくはCH3であり;かつ
任意に、フェニル基は1以上の置換基で置換されていてよく、好ましくは、置換基はX、CN、NO2、NH2、OH、COOH、(C=O)Alk1-6からなる群から選択される1または2の基であり;ここで、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択される。
【請求項3】
請求項1-2のいずれか1項に記載の使用のための化合物であって、
R1が、CH2Phであり;かつ
R2が、CH2Phであり;かつ
R3は、HもしくはCH3であり;かつ
ここでフェニル基は1以上の置換基で任意に置換されていてよく、好ましくは、置換基はX、CN、NO2、NH2、OH、COOH、(C=O)Alk1-6からなる群より選択される1または2の基であり;ここで、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される。
【請求項4】
請求項1-3のいずれか1項に記載の使用のための化合物であって、式(IA)または(IB)の化合物。
【化2】
【請求項5】
(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキソ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸メチル(MT2)、酸(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキソ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸(MT6)およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項4に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
酸(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキサ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸L-リシン塩である、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
前記急性または慢性の炎症性病状が、感染に起因する、請求項1-6のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記急性または慢性の炎症性病状が、ウイルス因子によって誘導される感染に起因する、請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
感染に起因する前記急性もしくは慢性の炎症性病状が、以下からなる群から選択されるウイルス因子によって誘導される感染に起因する、請求項8に記載の使用のための化合物:
ヘルペスウイルス、
エプスタイン・バーウイルス、
サイトメガロウイルス、
アデノウイルス、
HPV、
コロナウイルス、
エンテロウイルス、
ロタウイルス、
パルボウイルス、
インフルエンザAウイルス、
エボラウイルス、
マーブルグウイルス属のメンバー、
デングウイルス種のメンバー、
A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)感染、
麻疹ウイルス感染における全脳炎(SSPE)、
出血熱ウイルス(アレナウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ファルビウイルス(Falvivilidae)科、およびトガウイルス科)、
麻疹ウイルス、
ムンプスウイルス、
風疹ウイルス、
パレコウイルス、
ヒトTリンパ向性ウイルス、ならびに
インフルエンザウイルスおよびパラインフルエンザウイルス。
【請求項10】
炎症性病状が以下の起源による重篤なものである、請求項7に記載の使用のための化合物:
i)以下からなる群から選択される細菌起源
エロモナス・ハイドロフィラ、
ブルセラ属、
クラミジア属、
クロストリジウム属、
大腸菌、
レジオネラ属、
マイコバクテリア、結核菌、
サルモネラ、
黄色ブドウ球菌、および
アシネトバクター・バウマニ;
ii)以下からなる群から選択される寄生虫および真菌からの起源:
マラリア原虫属、
リーシュマニア属、
トキソプラズマ・ゴンディ、
赤痢アメーバ、
バベシア属、
ヒト回虫、
蠕虫、
カンジダ・アルビカンス、
ヒストプラズマ、
クリプトコックス・ネオフォルマンス、
ニューモシスチス属、および
ペニシリウム・マルネッフェイ。
iii)以下からなる群から選択される人獣共通感染症からの起源:
ブルセラ、
リケッチア、
エーリキア、
コクシエラ・バーネッティイ、
マイコバクテリウム・アビウム、
クロストリジウム、および
レプトスピラ。
【請求項11】
炎症性病状が、重症であり、以下からなる群から選択される自己免疫および/または変性起源のものである、請求項1-6のいずれか1項に記載の使用のための化合物:
血球貪食性リンパ組織球症、
リンパ増殖症候群、
NGF欠損によらない、原発性免疫不全症および後天性免疫不全症、
遺伝性体側性色素異常症(DSH)、
IFN介在性疾患、
NF-κB/ユビキチン介在性疾患
マックルウェルズ症候群、
高IgD症候群、
小児肉芽腫性関節炎、
ADA2欠損症、
敗血症、
関節炎/変形性関節症、
若年性特発性関節炎、
エリテマトーデス、
川崎病。
【請求項12】
炎症性疾患が、以下からなる群から選択される気道の重篤な炎症性疾患である、請求項1-6のいずれか1項に記載の使用のための化合物:
コロナウイルスまたは他のウイルスによって誘導される重症急性呼吸器症候群(SARS)、
喘息、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、
気管支拡張症、
間質性肺疾患または肺疾患、
細気管支炎、
未熟児の気管支肺異形成(BPD)、
結核、
百日咳、
有害かつ有毒な物質への暴露による急性吸入損傷、
以下からなる群から選択される職業性の気道感染症
・レジオネラ症、
・Q熱;
以下からなる群から選択される職務上の活動によって誘発される間質性肺疾患:
・塵肺、
・金属曝露による肺疾患、
・外因性アレルギー性肺胞炎、
・Ardystil症候群;
以下からなる群から選択される希少な肺疾患:
・肺血管炎、
・特発性好酸球性肺炎、
・肺胞蛋白症、
・リンパ脈管筋腫症(LAM)、
・肺ランゲルハンス細胞組織球症、
・バート・ホッグ・デュベ症候群。
血球貪食性リンパ組織球症。
【請求項13】
治療されるべき病態に従って選択される、少なくとも1の他の有効成分または補助剤との組み合わせにおける、請求項1-12のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする、感染性または非感染性の急性または慢性の炎症の治療における使用のための3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンカルボン酸化合物およびその誘導体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、病原体(ウイルス、細菌、真菌)、有毒な化学的生物学的物質、細胞壊死(心筋梗塞、組織創傷)および放射線等の有害な刺激に対する免疫系の応答である。これは、有害な刺激を除去し、同時に治癒過程を促進することにより作用する防御機構を表す。通常、炎症反応の間、細胞や分子の事象は、厳密に制御され、傷害を最小限に抑えようとする。この緩和プロセスは組織恒常性の回復および炎症の迅速な消散に寄与し、この場合、炎症は急性炎症と定義される。しかしながら、炎症プロセスの制御が損なわれると、炎症は制御不能となり、慢性化し、いくつかの重篤な炎症性疾患、またはいわゆる「サイトカインストーム」(サイトカインストーム症候群もしくはCSS)等の非常に危険な症候群をきたし得る(Behrens and Koretzky, arthritis & rheumogy 2017)。病因にかかわらず、有害な刺激の排除および損傷組織の治癒に必要な生化学的シグナルのカスケードは、炎症の最中に活性化される。特に、炎症性サイトカインを産生する白血球は、全身循環から損傷部位に呼び戻される。一般に、炎症反応は、常在組織細胞および血液から呼び戻される細胞の両方を含む一連の協調的な事象からなる。炎症中に誘発される事象のタイプは有害な刺激の性質や関与する組織/器官のタイプに因るが、それらはすべて、次の共通のステップおよび機構を共有する:1)細胞表面受容体が有害な刺激を認識する;2)炎症経路の活性化;3)炎症マーカーの放出;4)炎症細胞の動員;5)炎症プロセスの消散。この最後のパートは、初期の病原性刺激によって引き起こされるものに加えて、さらなる損傷をもたらし得る長期かつ制御不能な応答を妨げ、急性から慢性の炎症段階への進行を妨げるため、基本的に重要である。当然に、慢性炎症は、初期の有害な刺激が除去されない場合にいつでも起こり得る。通常、急性または慢性の炎症は局所的であるが、場合によっては全身性かつ制御不能となり、CSSを引き起こし得る(Gilroy and De Maeyer, Seminars in Immunology 2015)。CSSは発熱、血球減少、凝固障害、多臓器不全、高フェリチン血症を伴う全身性炎症の臨床的枠組みを特徴とする症候群であり、治療しない場合、死に至る。この状態は、制御不能な免疫系活性化に起因するサイトカインおよび他の炎症性分子の異常な産生によって引き起こされる。CSSトリガーは、いくつかの起源を有し得る:リウマチ性、腫瘍性、および感染性等。これらの中で、CSSの最もよく知られている形態は敗血症、すなわち、しばしば二次性血球貪食症候群(sHLH)に関連する広範な感染、高サイトカイン血症を特徴とする高炎症性症候群、および多臓器不全によって引き起こされる状態である。成人では、sHLHはウイルス感染によって最も誘発され、敗血症症例の3.7~4.3%に起こる。sHLHの主要な特徴としては、持続性発熱(>38.5℃)、血球減少、および高フェリチン血症が挙げられ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む肺病変は患者の約50%に起こる。しかしながら、敗血症およびCSSは、一般に、病原体(または別のタイプの初期侵害刺激)の直接的な影響ではなく、むしろ、その病原体に対する制御不能な免疫応答の結果である。CSSの顕著な特徴は、サイトカインストームを引き起こす大量のサイトカインを分泌するリンパ球およびマクロファージの両方の連続的な活性化や増殖を伴う、制御不能かつ機能不全の免疫反応である。CSSの多くの臨床的特徴は、炎症誘発性サイトカイン、例えば、インターフェロン(INF)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1、IL-6およびIL-18等の作用によって説明される。これらの炎症誘発性サイトカインは、CSSを有するほとんどの患者において上昇することが分かっている。このような炎症の状況において、ADAR1は、炎症の活性化および炎症誘発性サイトカインの放出に関与する特定のタンパク質を調節することで重要な役割を果たす。例えば、ウイルス感染の間、または化学的物理的ストレス(UV照射および酸化ストレス)もしくは他の病原体の存在下においても、PKRタンパク質(タンパク質キナーゼR)およびRIG-I(レチノイン酸誘導性遺伝子I)が活性化される。これらのタンパク質は、それらの活性形態において、1型インターフェロン(IFN-1)およびその他の炎症誘発性サイトカインの発現を誘導し得る。IFN-1はその抗ウイルス活性が知られているが、過剰な産生はCSSをもたらす可能性があり、この理由から、組織ホメオスタシスを維持するためにその発現を制御することが可能ないくつかの酵素が存在する。これらのうちの1つは、ウイルスRNAおよびマイクロRNA(miRNA)に結合し、修飾することが可能な二本鎖RNA特異的アデノシンデアミナーゼである、ADAR1(RNA 1に作用するアデノシンデアミナーゼ)である(Song C. et al. Genes 2016)。感染の間、ADAR1はウイルスRNAに結合し、PKRおよびRIG-Iセンサーによるその認識を妨げ、もはやIFN産生に関与する遺伝子を活性化することはできない。さらに、ADAR1はそのアデノシンデアミナーゼ活性によりウイルスゲノムのヌクレオチド配列を修飾し、その複製を妨げ得る。最後に、ADAR1のさらなる抗炎症特性は、抗炎症機能を有するタンパク質(例えば、miR-101およびmiR-30a等)を標的とするマイクロRNAの発現レベルを低下させるその能力にある。実際、miR-101レベルの減少の結果の1つは、p38 MAPKを停止させることが可能なタンパク質であるMKP-1レベルの増加であり、これにより、CSSに関与する炎症性メディエーターの産生を妨げる。p38 MAPKの炎症誘発活性は、ウイルス性のものを含む、制御不能なサイトカインの放出により、いくつかの病態において広く実証されている。これは炎症反応において中心的な役割を果たすが、p38 MAPKは炎症誘発性サイトカインカスケードの活性化に関与する多くのタンパク質のうちの1つでしかない。選択的p38 MAPK阻害剤はADAR1を活性化することはできず、その結果、このような阻害剤は特にCSSが感染から生じる場合に、CSSを特徴付ける複雑な機構を部分的にしか打ち消すことができないことに留意されたい。
【0003】
さらに、ウイルス感染において、ADAR1の活性は、ウイルスRNAの合成を阻害することによってその構造を修飾することにある。最後に、ADAR1の活性化はPKRおよびRIG-Iなどの細胞センサーの不活性化を可能にし、INFの過剰な産生を回避し、それにより、炎症誘発性サイトカインの制御不能な放出を妨げる。
【0004】
ADAR1の活性化は、RNAウイルスのゲノムの編集を介したRNAウイルスの中和に有効な自然免疫機構の1つであることが周知である(Chung et al., H, Cell 2018)。
【0005】
急性および慢性炎症の治療のための様々な薬物が存在するにもかかわらず、現在、CSSに関連する疾患の治療に対する未達成の医学的ニーズが存在する。これらの疾患の治療は主に、感染を有する患者のための抗生物質または抗ウイルス剤の使用と共に、基礎疾患の制御によって補完される免疫抑制からなる(Behrens and Koretzky, arthritis & rheumatology 2017)。ほとんどの炎症性疾患と同様に、CSSは、副腎皮質ステロイド、またはより最近では、抗IL-1、抗IFN、抗IL-6療法のような特異的サイトカインを遮断することを目的とする療法で治療することができる。しかしながら、現在利用可能な抗炎症治療は、特定のサイトカインのみを制御することを目的とし、または副腎皮質ステロイドの場合のように、治療自体に対する抵抗性を有するため、いくつかの制限を有する。それにもかかわらず、現在の治療は、制御不能な炎症によって損傷を受けた組織および臓器に栄養的サポートを与えないため、炎症自体が制限され得るとしても、全身的損傷はしばしば持続する。これらの損傷は、肺(特に気道感染症の場合)等の重要な器官に加えて、腎臓、肝臓および心臓(後者では大量のアポトーシスによる心不全が起こり得る)、血管内皮にもまた関与し、これらは適切に修復されなければならない。現在の治療法のいずれも、栄養活性および抗アポトーシス活性を欠くため、CSSによって誘導される多臓器損傷を制限することができない。
【0006】
US2019/0359692およびWO2019/122909は、重度の気道合併症を有するインフルエンザの治療に使用するためのp38 MAPK阻害剤を記載している。
【0007】
Zhou Shangxunら(Mediators of Inflammation, 2020; DOI: 10.1155/2020/9607535)は、ADAR1が敗血症のマウスモデルにおいて炎症を軽減することを実証している。
【0008】
同じ特許出願人によるWO2004000324は、3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンの誘導体は、ヒトニューロトロフィンのアゴニストとして、ニューロトロフィンの機能、特にNGF機能が欠損している以下のような疾患の治療のための使用において有用であることを記載している:アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、神経障害、低酸素症、虚血または外傷によって引き起こされる神経損傷等の神経細胞のアポトーシスを含む中枢神経系の神経変性障害;加齢性免疫不全等のNGFのバイオアベイラビリティの低下に関連する後天性免疫不全疾患;心筋梗塞、脳卒中、または末梢血管疾患等の新生血管形成の刺激が優位な疾患;様々な病因の角膜炎、緑内障、または網膜炎症状態等の特定の眼疾患。WO2004000324は、特に好ましい化合物として、(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキソ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸メチル(MT2)を記載している。
【0009】
再び同じ出願人によるWO2013140348には、3-アザビシクロ[3.2.1]オクタンのいくつかのカルボン酸誘導体、およびそれらの医学的使用であって、特に、血流の減少もしくは閉塞によって生じる虚血状態がその後、組織への酸素/栄養素の供給を回復に続く虚血・再潅流に関連する全ての病状の治療、または虚血・再潅流を伴う医学的処置のための使用が記載されている。WO2013140348は、具体的には酸(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキサン-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸(MT6)およびその薬学的に許容される塩ならびに酸(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキサ-3-アザビクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸リシン塩(MT8)を記載している。
【0010】
【化1】
【0011】
本出願人はまた、適切な非臨床および臨床試験によって、保存剤および賦形剤の非存在下または存在下で、リン酸緩衝液、生理食塩水緩衝液または任意の他の薬学的に許容される緩衝液に溶解した、リシン塩(MT8という)、ナトリウム、カリウム、または任意の他の薬学的に許容される塩の形態のMT6酸が、ニューロトロフィンの機能、特にNGFおよびBDNFの機能が欠損している疾患の治療に使用され得ることを実証した。
【0012】
2014年12月16日、MT8は、神経栄養性角膜炎8EU/3/14/1400の治療のために、欧州医薬品庁(EMA)からオーファン医薬品指定を取得した。
【0013】
急性および慢性の炎症に起因する損傷を低減するために使用される多くの薬物が存在するにもかかわらず、これらの疾患の治療のための未達成な医学的ミーズが依然として存在する。したがって、本発明の目的は、いわゆるCSSサイトカインストーム症候群が起こるような急性または慢性の炎症の治療に使用するための、少なくとも代替的な化合物を提供することである。
【0014】
したがって、本発明のさらなる目的は、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする、感染性または非感染性の重度の炎症性疾患の治療における使用のためのADAR1活性化化合物を提供することである。
【発明の概要】
【0015】
本発明の主題は、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする、急性または慢性の、感染性または非感染性の炎症性疾患の治療において、RNA 1に作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR1)の活性化剤として使用するための、薬学的に許容される塩を含む、式(I)の化合物であり、前記式(I)の化合物は:
【0016】
【化2】
式中
R1は、アリール、C1-8アルキルアリールからなる群から選択され;
R2は、C1-8アルキルアリールからなる群から選択され;
R3は、H、-C1-8アルキル、C1-8アルキルアリールからなる群から選択される。
【0017】
一連のin vitro実験を通して、本特許によってカバーされる化合物が以下を誘導し得ることが予想外にも発見された:
i.ADAR1の高活性化(ホモ二量体化)により、miR-101の発現が有意に減少し、その結果、炎症誘発性サイトカインの放出が減少する;
ii.機能上のカスケードにおけるIL-6の上流のサイトカインの体系的な産生の減少、および、それにより「サイトカインストーム」もしくはCSSに由来する効果の減少に作用する。
【0018】
これらの作用は、以下のアクティビティと結び付けられる:
iii.虚血・再潅流プロセスによって誘発される損傷の低減を介した全身レベルでの低酸素組織への栄養サポート;
iv.炎症プロセスまたはCSSによって誘発される損傷の低減を介した全身レベルでの組織への栄養サポート。
【0019】
したがって、ADAR1の活性化剤としての本特許の主題である式(I)の化合物、抗炎症剤および抗ウイルス剤を含有する医薬製剤の投与は、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする急性または慢性の炎症に関連する疾患の治療に有用である。さらに、本特許の主題である式(I)の化合物を含有する医薬製剤の投与は、限定されるものではないが、好ましくは呼吸器疾患の治療に有用であり、また、限定されるものではないが、特に、コロナウイルスまたは他のウイルスによって引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)等のウイルス因子によって誘発される呼吸器疾患の治療に有用であり、多くの場合、既存のまたは併発する病状によってすでに障害されている、重度に損傷した肺内皮、ならびに様々な器官(脳、腎臓、肝臓等)の低酸素組織における生化学的および機能的な損傷を制限する。
【発明の詳細な説明】
【0020】
本発明において、特に指定しない限り、アルキル、アリール、アルキルアリールという用語は、以下のように理解される:
C1-8アルキル(Alk1-8)は、単結合C-Cを有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を指す。本発明によるアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、細長いもの、ヘプチル、オクチルが挙げられるが、これらに限定されない。
用語「アリール」は1以上の不飽和環を含有する基を示し、各環は、5~8員環、好ましくは5または6員環である。アリール基の例としてはフェニル、ビフェニルおよびナフチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明によれば、前記アリール基は1以上の基で置換されていてもよく、好ましくはハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシ、カルボン酸、カルボニル、およびC1-6アルキル(Alk1-6)からなる群から選択される1又は2の基で置換されていてもよい。「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を指す。
【0022】
本発明の化合物において、好ましくは、R1は、CH2Phである。
好ましくは、R2は、CH2Phである。
好ましくは、R3は、HまたはCH3である。
任意に、フェニル基は1以上の基、好ましくはX、CN、NO2、NH2、OH、COOH、(C=O)Alk1-6からなる群から選択される1または2の基で置換することができ;ここで、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択される。
【0023】
式(I)の化合物の中でも、以下のものが好ましい:
R1が、CH2Phであり;R2が、CH2Phであり;R3が、HまたはCH3であり;ここで、フェニル基は任意に1以上の基、好ましくはX、CN、NO2、NH2、OH、COOH、(C=O)Alk1-6からなる群から選択される1または2の基で置換されていてもよく;ここで、XはF、Cl、BrおよびIからなる群から選択される。
【0024】
本発明の目的のためには、式(IA)および(IB)の化合物がより好ましい:
【0025】
【化3】
【0026】
このような化合物は、種々の立体化学的配置で明らかに生じ得る
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
本発明の目的のために、化合物(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキソ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸メチル(MT2)、(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキソ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸(MT6)およびその薬学的に許容される塩のうち、MT6塩の中で、以下の塩が特に関係する:カリウム塩、ナトリウム塩、リシン塩、有機および無機第四級アンモニウム塩。したがって、特に好ましい化合物は、(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキサ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸L-リシン塩(MT8)である。
【0030】
上記の式(I)の化合物は、LPS活性化ヒト単球/マクロファージおよびLPS活性化ヒト樹状細胞によって産生される炎症性サイトカインを減少させることが可能であることが認められている(図1参照)。
【0031】
特に、炎症誘発性状態において、本発明の化合物はADAR1を活性化することが可能であり、ADAR1とは、そのRNA編集活性を通して、炎症誘発性応答に関与するマイクロRNA(miRNA)であるmiR-101の発現を減少させることができる酵素である。本発明の化合物によるADAR1の活性化は、HEK-293 TrkA細胞株において認められた(図2参照)。実際、化合物による処理は、非処理の細胞に比べて、ホモ二量体ADAR1/ADAR1の顕著な増加を誘発し、タンパク質の活性型の形成を促進し、編集過程を有利にすることが示されている。miR-101の発現を減少させるADAR1の活性は、ADAR1ノックダウンの存在下または非存在下で本発明の化合物で処理された細胞において認められた(図3および図4)。
【0032】
ADAR1の活性が細胞レベルで高まれば、ウイルス感染や炎症によるダメージから細胞を守ることができ、必ずしも感染性のものでなくても効果が期待できる。
【0033】
ADAR1の活性は実際には二元的である:
-非感染性炎症プロセスにおいて、ADAR1はmiRNAに結合し、編集することが可能であり、これは一旦修飾されると、それらの標的配列を認識することができず、したがって分解される;特に、これはmiR-101について起こるが、miR-30aについても起こり、その発現がTNF-αおよびIL-6等の炎症誘発性サイトカインの増加を決定するmiRNAである。
-さらに、ウイルス感染において、ADAR1の活性は、ウイルスRNAの合成を阻害することによるその構造的な修飾にある。
【0034】
最後に、ADAR1の活性化はPKRおよびRIG-I等の細胞センサーの不活性化を可能にし、INFの過剰産生を回避し、したがって、炎症誘発性サイトカインの制御不能な放出を防止する。
【0035】
結論として、本発明の化合物は、以下を決定することができるような強力な抗炎症および抗ウイルス活性を有する:
i)RNAウイルスのゲノムにダメージを与える酵素であるADAR1の細胞質レベルの増加によるウイルス量の減少とその結果として起こる感染の減少;
ii)ADAR1の活性化および結果として起こるmiR-101の減少を介した、患者におけるいわゆる「サイトカインストーム」に由来するサイトカインの全身産生の減少および結果として起こる効果の減少;
iii)低酸素組織への代謝的サポートを介した、重度の炎症状態で起こる虚血・再潅流プロセスによって誘発される損傷の減少。
【0036】
したがって、ADAR1の活性化剤としての本発明による使用のための化合物は有効な抗炎症剤および抗ウイルス剤であり、したがって、サイトカインストームおよび/または制御不能な免疫応答を特徴とする急性または慢性の炎症に関連する疾患の治療に有用である。
【0037】
具体的には、ADAR1の活性化剤としての本発明による使用のための化合物が以下のようなウイルス起源の感染性疾患の治療に有用であり得る:
ヘルペスウイルス、
エプスタイン・バーウイルス、
サイトメガロウイルス、
アデノウイルス、
HPV、
コロナウイルス、
エンテロウイルス、
ロタウイルス、
パルボウイルス、
インフルエンザAウイルス、
エボラウイルス、
マールブルグウイルス属のメンバー、
デングウイルス種のメンバー、
A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)感染、
麻疹ウイルス感染における全脳炎(SSPE)、
出血熱ウイルス(アレナウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ファルビウイルス(Falviviridae)科、およびトガウイルス科)、
麻疹ウイルス、
ムンプスウイルス、
風疹ウイルス、
パレコウイルス、
ヒトTリンパ向性ウイルス。
【0038】
ADAR1の活性化剤、したがって抗炎症剤としての本発明による使用のための化合物はまた、サイトカインストームを特徴とする以下の感染性疾患の治療に有用であり得る;
i)以下のような細菌起源:
エロモナス・ハイドロフィラ、
ブルセラ属、
クラミジア属、
クロストリジウム属、
大腸菌、
レジオネラ属、
マイコバクテリア、
サルモネラ、
黄色ブドウ球菌、
アシネトバクター・バウマニ;
結核菌
マイコプラズマ・ニューモニア
ii)以下のような寄生虫および真菌からの起源:
マラリア原虫属、
リーシュマニア属、
トキソプラズマ・ゴンディ、
赤痢アメーバ、
バベシア属、
ヒト回虫、
蠕虫、
カンジダ・アルビカンス、
ヒストプラズマ、
クリプトコックス・ネオフォルマンス、
ニューモシスチス属、
ペニシリウム・マルネッフェイ。
iii)以下のような人獣共通感染症からの起源:
ブルセラ、
リケッチア、
エーリキア、
コクシエラ・バーネッティイ、
マイコバクテリウム・アビウム、
クロストリジウム、
レプトスピラ。
【0039】
本発明による使用のための化合物は、ADAR1の活性化剤として、以下のような急性および慢性の炎症の状態の減少を引き起こす非感染性起源の疾患にも有用であり得る:
敗血症、
血球貪食性リンパ組織球症、
成人発症スティル病(AOSD)、
慢性肝炎、
肥満症、
アテローム性動脈硬化、
歯周炎、
肝硬変。
【0040】
本発明による使用のための化合物は、ADAR1の活性化剤、したがって抗炎症剤として、以下のような自己免疫疾患ならびに変性疾患の治療にも有用であり得る:
血球貪食性リンパ組織球症、
リンパ増殖症候群、
NGF欠損によらない、原発性免疫不全症および後天性免疫不全症、
遺伝性体側性色素異常症(DSH)、
エカルディ・グティエール症候群(AGS)、
IL-1/インフラマソーム障害に関連する希少遺伝性疾患、
IFN介在性疾患、
NF-κB/ユビキチン介在性疾患
マックルウェルズ症候群、
高IgD症候群、
小児肉芽腫性関節炎、
ADA2欠損症、
敗血症、
関節炎/変形性関節症、
若年性特発性関節炎、
エリテマトーデス、
川崎病。
【0041】
本発明による使用のための化合物は、ADAR1の活性化剤、したがって抗炎症剤および抗ウイルス剤として、以下のような気道の炎症性疾患の治療にも特に有用である:
コロナウイルスまたは他のウイルスによって誘導される重症急性呼吸器症候群(SARS)、
喘息、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、
気管支拡張症、
間質性肺疾患または肺疾患、
細気管支炎、
未熟児の気管支肺異形成(BPD)、
結核、
百日咳;
有害かつ有毒な物質への暴露による急性吸入損傷、
次のような職業性の気道感染症
・レジオネラ症、
・Q熱、
次のような職務上の活動によって誘発される間質性肺疾患
・塵肺、
・金属曝露による肺疾患、
・外因性アレルギー性肺胞炎、
・Ardystil症候群;
次のような希少な肺疾患:
・肺血管炎、
・特発性好酸球性肺炎、
・肺胞蛋白症、
・リンパ脈管筋腫症(LAM)、
・肺ランゲルハンス細胞組織球症、
・バート・ホッグ・デュベ症候群。
【0042】
本発明による使用のための化合物は、1以上の薬学的に許容される賦形剤および/または希釈剤を含み得る従来の医薬組成物において製剤化することができる。
【0043】
これらの組成物の投与は任意の従来の投与経路、例えば、注射液または懸濁液の形態で非経口的に、経口的に、局所的に、経鼻的に、皮下に、結膜下等に実施することができる。
【0044】
上記の組成物は、錠剤、カプセル、溶液、分散液、懸濁液、リポソーム製剤、マイクロスフェア、ナノスフェア、フォーム剤、クリームおよび軟膏、エマルジョン、マイクロエマルジョンおよびナノエマルジョン、ならびにエアロゾルの形態であってもよく、活性成分の放出制御または放出遅延をし得るような方法で調製することもできる。
【0045】
上記の全ての医薬組成物は、式(I)の本化合物の少なくとも1を有効成分として含むことができ、任意に、治療される病理学的状態に従って選択される他の有効成分もしくは補助剤と組み合わせて含むことができる。
【0046】
本発明は、以下の実施例に照らしてより理解される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】グラフは、MT8化合物の存在下または非存在下での、LPSで刺激したヒト単球およびヒト樹状細胞におけるIL-1β、TNF-αおよびIL-6の産生を示す。炎症誘発性サイトカインの産生レベルは、MT8化合物で処理した単球および樹状細胞の両方において、未処理細胞と比較して有意に低いことが明らかである。
図2】ADAR1のホモ二量体複合体(タンパク質の活性体)の活性化に対するMT8の効果。ゲルは、MT8化合物で処理したHEK-293 TrkA細胞におけるADAR1/ADAR1ホモ二量体複合体の誘導を示す。グラフはゲルバンドのデンシトメトリーによる定量を示し、ホモ二量体複合体ADAR1/ADAR1と単量体ADAR1のバンド密度の比として表される。MT8化合物によって誘導されるADAR1/ADAR1ホモ二量体のレベルは、対照よりも有意に高い。
図3】炎症のin vitroモデルにおけるmiR-101減少に対するMT8の効果。このグラフは、細胞内miR-101の発現を減少させるMT8の効果を示す。この事象は、最も高い炎症促進活性を有する化合物の1つであるLPSの存在下で培養されたヒト単球および樹状細胞で観察された。5sリボソームRNAを用いたリアルタイムPCRにより、miR-101のレベルを定量し、2-ΔCt方法を用いて算出した。
図4】ADAR1ノックダウン後のmiR-101発現レベルに対するMT8の効果。グラフは、MT8化合物の、スクランブル(コントロール)siRNAでトランスフェクトされたHEK-293 TrkA細胞におけるmiR-101の発現を減少させる効果を示すが、ADAR1に特異的なsiRNAでトランスフェクトされた細胞では減少しない。5sリボソームRNAを用いたリアルタイムPCRにより、miR-101のレベルを定量し、2-ΔCt方法を用いて算出した。
【実施例
【0048】
材料
酸(1S, 4R, 5R, 7S)-3,4-ジベンジル-2-オキソ-6,8-ジオキサ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-カルボン酸L-リシン塩(MT8)は、WO2013140348に記載されているように調製した。
【0049】
実施例1-LPSで刺激したヒト単球およびヒト樹状細胞におけるIL-1β、TNF-αおよびIL-6の産生に対するMT8の効果。
【0050】
リポ多糖(LPS)は強力な免疫応答を誘発するエンドトキシンである。LPSの存在下で、単球および樹状細胞等の免疫系細胞は、IL-1β、TNFαおよびIL-6等の大量の炎症性サイトカインを産生することによって反応する。これらのサイトカインの産生を調節するMT8の効果を試験するために、ヒト単球(抗CD14抗体を用いてバフィーコートから単離した)およびヒト単球由来樹状細胞(MDC)を、106細胞/mlで完全培地中で培養し、10μΜもしくは30μΜのMT8の存在下または非存在下で、50ng/mlのLPSで刺激した。18時間のインキュベーション後、両方の細胞の上清を回収し、IL-1β、TNF-α、およびIL-6の産生をLuminexマルチプレックスアッセイ技術によって評価した。得られた結果(図1)は上記の実験条件において、LPSが予想通り、IL-1β、TNF-αおよびIL-6の産生を誘導可能であり、そのような産生が、MT8での処置によって低減されることを示した。特に、MT8は、単球および樹状細胞の両方において用量依存的にIL-1βの量を減少させることができた。後者では記録された減少は50%を超え(図1B)、一方、単球では減少は約17%であった(図1A)。いずれの場合も、この減少は統計的に有意である。MT8の存在下で、TNF-αの産生に関して、単球において約17%(図1C)、樹状細胞において19%減少する(図1D)という同様の結果が得られた。MT8の存在下で観察される減少は、統計的に有意である。最後に、IL-6の産生もまた、MT8の存在下で、単球において約70%(図1E)、樹状細胞において約65%(図1F)と著しく減少する。また、後者の場合、減少は統計的に有意である。
【0051】
まとめると、これらの実験は、全ての場合において、3つのサイトカインの産生レベルは、MT8化合物で処理した単球および樹状細胞の両方において、未処理細胞と比較して有意に低いことを示す。
【0052】
実施例2-ADAR1のホモ二量体複合体の活性化に対するMT8の効果。
【0053】
ADAR1酵素に対するMT8化合物の効果を研究するために、HEK-293 TrkA細胞を無血清培地中で18時間培養し、10μMのMT8の存在下または非存在下でさらに60分間インキュベートした。次いで、細胞をRIPAバッファー(50mM Tris-HCl、pH 7.4;150mM NaCl;2mM EDTA;1mM NaF;1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1% NP-40)中で溶解し、タンパク質を抗ADAR1抗体で免疫沈降させ、ウェスタンブロットによる生化学分析に供した。簡潔にいうと、特異的なAnti-ADAR1抗体を用いて500μgの全タンパク質を免疫沈降させた。免疫沈降させた生成物をポリアクリルアミドゲル上にロードし、PVDF膜上に移した。次いで、シグナル検出のために、その膜を特異的抗ADAR1抗体と共にインキュベートした。分析により、ホモ二量体複合体ADAR1/ADAR1、ならびにADAR1p150およびp110の単量体の存在が強調された。デンシトメトリーにより実施したADAR1のホモ二量体複合体の定量は、ホモ二量体ADAR1/ADAR1のバンドの密度と単量体ADAR1p110のバンドの密度との比として表した。得られたデータは、MT8化合物の処理により、未処理細胞と比較してADAR1のホモ二量体(活性)の大きな増加を誘導し、その編集プロセスを促進することを示した(図2)。
【0054】
実施例3-炎症のin vitroモデルにおけるmiR-101の発現に対するMT8の効果。
【0055】
LPS等の炎症誘発性刺激によって誘発されるIL-1β、TNFαおよびIL-6の産生は、特定の経路の活性化によって決定され、その中でmiR-101の発現が関与する。
【0056】
炎症誘発性環境におけるmiR-101の活性に対するMT8の効果を研究するために、バフィーコートから単離したヒト単球を、最終濃度10μMのMT8の存在下または非存在下で、1μg/mlのLPSで刺激した。60分後、細胞をTRIzol中で溶解して全RNAを抽出し、その後、リアルタイムPCRによるmiR-101の定量に使用した。リアルタイムPCRによって得られた結果は、MT8化合物の処理により、LPS単独で処理された単球と比較してmiR-101発現レベルの強力な減少が誘導されたことを示した。ハウスキーピングとして5sリボソームRNA遺伝子を用いて定量し、2-ΔCt法を用いて相対的上昇を算出した。
【0057】
グラフは、細胞内のmiR-101の発現を減少させるMT8化合物の作用を示す。この事象は、最も高い炎症誘発活性を有する化合物の1つであるLPSの存在下で培養されたヒト単球にて認められた。
【0058】
したがって、驚くべきことに、細胞系および組織系において、本特許の目的の化合物の1つであるMT8への曝露により、1時間以内にmiR-101の減少を決定し、これが、MT8による処理直後における炎症誘発性サイトカインの急速な減少を説明することが見出された。要約すると、得られたデータは、炎症誘発性条件において、化合物MT8がmiR-101の発現を減少させることによって、細胞炎症条件の減少を決定することができることを示す(図3)。
【0059】
実施例4-ADAR1ノックダウン後のmiR-101発現レベルに対するMT8の効果。
【0060】
代謝ストレス条件下でのmiR-101調節機構に対するMT8の効果を研究するために、HEK-293 TrkA細胞に、50nMの最終濃度でADAR1特異的siRNAまたは対照siRNA(スクランブル)をトランスフェクトした。48時間後、細胞を無血清培地中で18時間インキュベートし、10μMの濃度のMT8でさらに60分間刺激した。細胞をTRIzolで溶解して全RNAを抽出し、リアルタイムPCRによるmiR-101のアッセイに使用した。5sリボソームRNA遺伝子をハウスキーピング遺伝子として用いて、miR-101の定量を行い、2-ΔCt法を用いて相対的上昇を算出した。得られた結果から、MT8化合物の処理がADAR1特異的siRNAトランスフェクト細胞と比較して、スクランブルsiRNAトランスフェクト細胞におけるmiR-101発現レベルの顕著な減少が誘導され、miR-101レベルの減少がADAR1活性によって調節されることを示すことが実証された。
【0061】
まとめると、これらのデータは、上記の実験条件において、MT8での処理によりADAR1の活性化を介してmiR-101のレベルを低下させることが可能であり、したがって炎症誘発性サイトカインの産生を遮断可能であることを示す(図4)。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】