(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】生産性、溶接性、及び成形性に優れた熱間プレス成形部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20230801BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20230801BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230801BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230801BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20230801BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20230801BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
B21D22/20 H
B21D24/00 M
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C22C21/02
C22C38/38
C22C38/00 301Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501479
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2020011662
(87)【国際公開番号】W WO2022010030
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0085533
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0101357
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ホン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ヒュン-ソン
【テーマコード(参考)】
4E137
4K042
【Fターム(参考)】
4E137AA11
4E137AA15
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC07
4E137CA09
4E137DA03
4E137EA01
4E137EA26
4E137FA10
4E137FA25
4E137FA27
4E137GB01
4K042AA24
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA05
4K042BA11
4K042BA13
4K042CA02
4K042CA06
4K042DA01
4K042DB07
4K042DC01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
4K042DF01
4K042EA01
4K042EA03
(57)【要約】
熱間プレス成形部材の製造方法であって、アルミニウム系めっき鋼板のブランクを加熱炉で加熱する段階と、加熱されたブランクを加熱炉から取り出し、プレスに取り付けられた金型の上型と下型の間に移送して載置する段階と、上記金型の上型が上記載置されたブランクに接触した後、成形が行われる成形段階と、を含み、上記加熱炉は、ブランクの移送方向に順に備えられたA区間、B区間、及びC区間を含む連続式加熱炉であり、上記A、B及びC区間での加熱は、特定条件を満たし、最高雰囲気温度は上記B区間の最高雰囲気温度より低く、 上記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間が2秒以下である、熱間プレス成形部材の製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成形部材の製造方法であって、
アルミニウム系めっき鋼板のブランクを加熱炉で加熱する段階と、
加熱されたブランクを加熱炉から取り出し、プレスに取り付けられた金型の上型と下型の間に移送して載置する段階と、
前記金型の上型が前記載置されたブランクに接触した後、成形が行われる成形段階と、を含み、
前記加熱炉は、ブランクの移送方向に順に備えられたA区間、B区間、及びC区間を含む連続式加熱炉であり、
前記A区間での加熱は、約a(0.2分、750℃)、b(1.0分、750℃)、c(1.0分、800℃)、d(1.5分、900℃)、e(0.2分、900℃)の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形abcdeにより規定される条件を満たし、
前記B区間での加熱は、
【数1】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形fghiにより規定される条件を満たし、
前記C区間での加熱は、
【数2】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形jklmにより規定される条件を満たし、最高雰囲気温度は前記B区間の最高雰囲気温度より低く、
下記関係式1を満たし、
前記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間が2秒以下である、熱間プレス成形部材の製造方法。
[関係式1]
T≦8.2×t+(temp-900)/30
(前記Tは、移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和を表し、単位はs(秒)である。前記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。前記tempは、加熱炉の取り出し温度を表し、単位は℃である。)
【請求項2】
前記C区間での加熱は、930℃以下の雰囲気温度で行われる、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項3】
前記C区間の最高雰囲気温度は、前記B区間の最高雰囲気温度(Tb)を基準としてTb-20℃以下である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項4】
前記tが1.5mm以下であり、前記B区間の雰囲気温度が930℃超過940℃未満である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項5】
前記tは1.5mm以下であり、前記C区間の雰囲気温度が870℃以上880℃未満である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項6】
前記tが1.5mm超過であり、前記C区間の雰囲気温度が870℃以上900℃未満である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項7】
前記tが1.5mm超過であり、前記B区間の雰囲気温度が940℃超過960℃以下である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項8】
前記移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和が10秒超過である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項9】
前記ブランクのめっき層の厚さが25μm以上である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項10】
前記成形段階の後に、前記金型の上型がプレスの下死点に到達してから維持することで、成形された素材を急冷する金型内冷却段階と、
冷却された成形部材を取り出す成形部材の取り出し段階と、をさらに含み、
前記成形部材の拡散層の厚さが15μm以下であり、
前記成形部材の合金層の厚さが35~50μmである、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項11】
前記成形段階の後に、前記金型の上型がプレスの下死点に到達してから維持することで、成形された素材を急冷する金型内冷却段階と、
冷却された成形部材を取り出す成形部材の取り出し段階と、をさらに含み、
前記成形部材の合金層の厚さに対する前記成形部材の拡散層の厚さの比(拡散層の厚さ/合金層の厚さ)が0.33以下である、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項12】
前記加熱する段階は、下記関係式2の値が2以上を満たすように行われる、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【数3】
(前記関係式2中、前記T
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉雰囲気温度を表し、単位は℃である。前記t
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉維持時間を表し、単位は分である。前記t
totalは、加熱炉での総維持時間を表し、単位は分である。xは、加熱炉で特定雰囲気温度に維持される区間の個数を表す。前記kは、B区間のうち最終区間である場合に3の整数であり、B区間後の区間である場合に-1の整数であり、その他の場合に1の整数である。前記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性、溶接性、及び成形性に優れた熱間プレス成形部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の軽量化及び安全性向上の要求により、熱間プレス成形方法を活用した高強度鋼の適用が活発に進められている。熱間プレス成形工程では、素材の加熱及び急速冷却工程が必須である。高温におけるスケールの発生を抑えるために、アルミニウムめっき鋼材もしくはアルミニウム合金めっき鋼材が用いられている。アルミニウムめっき鋼材もしくはアルミニウム合金めっき鋼材には、急速加熱した時にめっき層が溶融するという問題があるため、一般に、雰囲気加熱炉で遅い速度で加熱されている。
【0003】
かかる雰囲気加熱炉での加熱方法としては、同一の雰囲気温度に設定された加熱炉で加熱するか、多数の加熱ゾーンを有するローラーハース炉(roller hearth furnace)のような連続式加熱炉で雰囲気温度を順に上昇させるパターンで加熱する場合がある。しかし、このような方式では、遅い速度で加熱されることにより、目標温度に到達する時間を確保するために加熱炉内で一定時間加熱される必要があり、加熱炉内での維持時間が増加するため、生産性が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、加熱炉内での維持時間を短縮させるために加熱温度を上昇させる方案が適用されることもあるが、この場合、加熱温度の上昇によるめっき層内の拡散層の厚さの増加により、溶接性が不利になるという問題が引き起こされる。
【0005】
したがって、生産性を向上させるためには、加熱速度をより速くして炉内での維持時間を短縮する方案が求められており、生産された成形品の溶接性を確保するためには、ブランクの加熱温度を高く維持しないようにして拡散層の厚さを最小化する方案が求められる。
【0006】
しかしながら、通常の方法では、炉内での維持時間の短縮と、加熱温度の下降とは互いに逆の効果を与えるため、それらを同時に適用することが不可能であるという技術的な問題が存在する。
【0007】
一方、前述の問題に加えて、溶接性の向上のために加熱炉の温度を下げ続けると、成形性がさらに不良になるという問題がある。そのため、優れた生産性、溶接性、及び成形性を何れも確保可能な技術は未だに開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第2006-0054479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためのものであって、生産性、溶接性、及び成形性が何れも改善された熱間プレス成形部材の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の課題は上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書全体にわたって記載された内容から本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、熱間プレス成形部材の製造方法であって、
アルミニウム系めっき鋼板のブランクを加熱炉で加熱する段階と、
加熱されたブランクを加熱炉から取り出し、プレスに取り付けられた金型の上型と下型の間に移送して載置する段階と、
上記金型の上型が上記載置されたブランクに接触した後、成形が行われる成形段階と、を含み、
上記加熱炉は、ブランクの移送方向に順に備えられたA区間、B区間、及びC区間を含む連続式加熱炉であり、
上記A区間での加熱は、約a(0.2分、750℃)、b(1.0分、750℃)、c(1.0分、800℃)、d(1.5分、900℃)、e(0.2分、900℃)の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形abcdeにより規定される条件を満たし、
上記B区間での加熱は、
【数1】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形fghiにより規定される条件を満たし、
上記C区間での加熱は、
【数2】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形jklmにより規定される条件を満たし、最高雰囲気温度は上記B区間の最高雰囲気温度より低く、
下記関係式1を満たし、
上記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間が2秒以下である、熱間プレス成形部材の製造方法を提供する。
【0012】
[関係式1]
T≦8.2×t+(temp-900)/30
(上記Tは、移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和を表し、単位はs(秒)である。上記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。上記tempは、加熱炉の取り出し温度を表し、単位は℃である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によると、生産性、溶接性、及び成形性が改善された熱間プレス成形部材の製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の多様で且つ有益な利点と効果は、上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材に対する加熱パターンを示したグラフである。
【
図2】厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材に対する、多様な炉雰囲気温度条件での昇温解釈の実験値と解釈値の比較を示すグラフである。
【
図3】厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材の加熱における、本発明の好ましい累積炉内維持時間に対する雰囲気温度条件を示したグラフである。
【
図4】厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材に対して、いくつかの加熱条件で加熱を行った実験例のめっき層の観察結果を示した写真である。
【
図5a】素材の厚さ変化も考慮したアルミニウムめっき材の加熱条件を示したものである。
【
図5b】素材の厚さ変化も考慮したアルミニウムめっき材の加熱条件を示したものである。
【
図5c】素材の厚さ変化も考慮したアルミニウムめっき材の加熱条件を示したものである。
【
図6】素材の厚さ0.9及び1.8mmのアルミニウムめっき材を加熱炉から取り出した後、空気中で冷却される時間による温度変化に関する実験値と解釈値の比較を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0017】
以下、本発明の熱間プレス成形部材の製造方法について詳細に説明する。本明細書で別に定義しない限り、当該技術分野において通常用いられる全ての用語及び方法は本発明でも適用可能である。
【0018】
本発明の一側面による熱間プレス成形部材の製造方法は、アルミニウム系めっき鋼板のブランクを加熱炉で加熱する段階と、加熱されたブランクを加熱炉から取り出し、プレスに取り付けられた金型の上型と下型の間に移送して載置する段階と、上記金型の上型が上記載置されたブランクに接触した後、成形が行われる成形段階と、を含むことができる。
【0019】
また、上記熱間プレス成形部材の製造方法は、上記成形段階の後に、上記金型の上型がプレスの下死点に到達してから維持することで、成形された素材を急冷する金型内冷却段階と、冷却された成形部材を取り出す成形部材の取り出し段階と、をさらに含むことができる。
【0020】
本発明の一側面によると、上記アルミニウム系めっき鋼板は、アルミニウムめっき鋼板またはアルミニウム合金めっき鋼板であってもよい。この際、特に限定されるものではないが、一例として、めっき層の組成は、重量%で、Si:5~11%、Fe:4.5%以下、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。また、素地鋼板の組成は、重量%で、C:0.1~0.5%、Si:0.1~2%、Mn:0.5~3%、Cr:0.01~0.5%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、B:0.002~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0021】
本発明の一側面によると、上記加熱炉は、ブランクの移送方向に順に備えられたA区間、B区間、及びC区間を含む連続式加熱炉であってもよい。この際、上記A区間、B区間、及びC区間は、ブランクの移送方向に必ずしも隣接して備えられる必要はなく、ブランクの移送方向に沿って前述の順序を満たせばよい。すなわち、上記A区間、B区間、及びC区間は、各区間が1つの加熱ゾーンから構成されてもよく、各区間内で多数の加熱ゾーンから構成されてもよい。また、各区間の間に(すなわち、A区間とB区間の間、またはB区間とC区間の間)、前後段階の温度範囲の間の温度に設定された追加区間をさらに含んでもよい。
【0022】
従来の雰囲気加熱方法では、同一の雰囲気温度に設定された加熱炉で加熱するか、多数の加熱ゾーンを有するローラーハース炉(roller hearth furnace)のような連続式加熱炉で雰囲気温度を順に上昇させるパターンで加熱する場合があった。
【0023】
ところが、このような方式では遅い速度で加熱が進行するため、目標温度に到達する時間を確保するためには、加熱炉内で一定時間加熱することが必須であり、加熱炉内での維持時間の増加により生産性が不良になるという問題があった。
【0024】
そこで、本発明者らは、B区間の昇温過程中に雰囲気温度を高く設定すると、通常の加熱炉の設定方法に比べて加熱が速く行われ、炉内維持時間は短縮させ、生産性を向上させることができることに着目した。また、同時に、後続過程のC区間の温度を、前述の昇温過程であるB区間の温度よりも低く設定すると、最終加熱温度が低く設定され、溶接性が不良になる問題も解消可能である点に着目した。
【0025】
一方、前述の生産性を決定する要因として、900℃に到達する時間の最小化、加熱炉から取り出される区間での素材の温度が、加熱炉の取り出し温度に到達する時間の最小化、もしくは、加熱炉から素材が取り出される時までの加熱炉での総累積維持時間が、拡散層の厚さが15μmになる時間以下であるか否かなどが挙げられる。前述の時間を最小化することで、最終製品である成形部材の目的物性を確保可能なサイクルタイムを最小化することができ、これにより、生産性を向上させることができる。
【0026】
しかし、上述のような高い温度に設定されたB区間が広すぎると、高い温度に加熱されて維持される時間が過度に長くなることにより拡散層の厚さが増加し、溶接性が不良になるという問題が発生する恐れがある。これに対し、高い温度に設定されたB区間が狭すぎると、加熱が速く行われることによる生産性向上効果が得られなくなる。一方、加熱炉の初期区間であるA区間を高い温度に維持するには、エネルギー消費が多くなるという問題があり、昇温初期には不要に高い雰囲気温度に設定する必要がない。また、素材の装入部の開口された構造による熱気の排出及び冷たい素材の投入により、最初から高い雰囲気温度に設定することができないという問題も存在する。
【0027】
また、一度十分な温度まで加熱された素材は既にオーステナイトへの変態が終わっているため、めっき層の合金化が十分に得られる温度及び時間のみを維持すればよい。この段階でも高い雰囲気温度を維持する場合、拡散層の厚さの過度な増加による溶接性低下の問題が発生するため、相対的に低い温度に設定してもよい。
【0028】
このような点を考慮して、本発明では、一例として、素材厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材に対して、
図1のような加熱パターンの加熱を行った。すなわち、加熱初期であるA区間では、エネルギー節約及び高い雰囲気温度に設定不可能な点を考慮して相対的に低く設定した。その後、B区間では、素材を速く加熱するために最も高い温度に設定し、素材が十分な温度に到達するように設定した。次いで、素材が十分な温度に到達した後のC区間では、さらにB段階よりは低い温度に設定した。
図1のように加熱炉の温度を区間毎に異ならせて設定した場合、1.2mmの素材は、取り出される時までの累積加熱炉維持時間が4.5分である時点で900℃を維持している。このような結果は、加熱炉雰囲気での輻射及び対流熱伝達に対する加熱解釈結果から導出されたものである。以下では、各区間での加熱条件についてより詳細に説明する。
【0029】
一方、本明細書において、後述の各区間での雰囲気温度は、多数の加熱ゾーンを含み、各加熱ゾーンで互いに区別して雰囲気温度制御が可能な加熱炉において、各加熱ゾーンでの雰囲気維持温度(すなわち、1つの加熱ゾーンで実際の雰囲気温度が維持される領域の温度)を意味し得る。例えば、1つの加熱ゾーンでの雰囲気維持温度は、実際の雰囲気温度が維持される領域の代表地点で測定した温度であってもよい。特に限定されるものではないが、前述の代表地点の一例として、1つの加熱ゾーンにおいて長さ方向に中央(1/2)で、幅方向に1/4であり、且つ、高さ方向にブランク位置箇所から250mm離れた地点などが挙げられる。この際、各区間での雰囲気温度は、各区間に対応する各加熱ゾーンでの前述の雰囲気維持温度に維持されるものとみなす。
【0030】
また、各区間での累積炉内維持時間は、前述の多数の加熱ゾーンを含み、各加熱ゾーンで互いに区別して雰囲気温度制御が可能な加熱炉において、加熱炉に素材であるブランクが投入される時点から、前述の各区間に対応する加熱ゾーンのうち最後の加熱ゾーンから素材であるブランクが取り出される時点までの維持時間を意味し得る。
【0031】
一方、前述の加熱炉において、各加熱ゾーンは隔壁などにより区分されていてもよく、隔壁などなしに区分されていてもよい。したがって、各加熱ゾーンが隔壁などにより区分されている場合には、前述の方法をそのまま適用する。
【0032】
これに対し、前述の加熱炉において、隔壁などがない場合には、全加熱炉をブランクの移送方向にn個の区域(例えば、5個以上)に等分し、それぞれの等分された区域を1つの区間とみなすことができる。本発明の一実現例では、全加熱炉を20個の区域に等分し、それぞれの等分された区域を1つの区間とみなすことができる。この際、1つの区域では、前述のように、各区域において長さ方向に中央(1/2)で、幅方向に1/4であり、且つ高さ方向にブランク位置個所から250mm離れた地点で測定した温度を、各区間での雰囲気維持温度とみなすことができる。
【0033】
一例として、本発明の一側面によると、上記A区間での加熱は約750~900℃の雰囲気温度に設定し、上記B区間は約930~960℃の雰囲気温度に設定し、上記C区間は約870℃以上であり、かつ上記B区間で選択された雰囲気温度より低い雰囲気温度に設定することができる。このような方法を活用する場合、最終温度の単一温度に設定した場合に比べて速く昇温され、炉内維持時間を短縮させることができる。また、同時に、めっき層の合金化のみが十分に得られる温度及び時間の適正範囲に制御することで、拡散層の過度な生成による溶接性不良の問題を防止することができる。これにより、優れた生産性及び溶接性が両立可能な熱間プレス成形方法を効果的に提供することができる。
【0034】
一方、
図2は、上述の加熱解釈技術の妥当性を示すものであって、素材厚さ1.2mmのアルミニウムめっき材に対する、多様な炉雰囲気温度条件での加熱解釈の実験値と解釈値の比較を示すグラフである。実験値は、素材に熱電対(thermocouple)を付けたものを加熱炉内で維持させた後、1秒当たり1個ずつの温度データを確保した。解釈値は、このような条件に対して上述の解釈技術により予測した結果であり、
図2に示されたように、解釈値が実験値をよく表現していることが分かる。
【0035】
本発明者らは、多様な条件での昇温の様子を分析することで、素材の昇温パターンは、素材の厚さ、雰囲気温度、及び各温度領域毎の維持時間などに依存することを追加的に見出した。上述のように、高い雰囲気温度領域で留まる時間が過度になることを防ぐとともに、逆に高い雰囲気温度領域で留まる時間が短すぎて速い加熱効果が得られなくなることも防ぐためには、素材の厚さと雰囲気温度、及び各雰囲気温度で留まる時間が重要であることを見出した。そこで、本発明者らは、素材の厚さと雰囲気温度によって適切な維持時間を選定することが必要であるという点に着目し、本発明を完成するに至った。以下で詳細に説明する。
【0036】
具体的に、累積炉内維持時間をX軸とし、加熱炉内の雰囲気温度をY軸とするグラフを基準として、上記A区間での加熱は、約a(0.2分、750℃)、b(1.0分、750℃)、c(1.0分、800℃)、d(1.5分、900℃)、e(0.2分、900℃)の累積炉内維持時間及び加熱炉内雰囲気温度の座標を有する図形abcdeにより規定される条件を満たすようにすることができる。
【0037】
先ず、A区間での加熱は、加熱炉の前部の温度設定領域であり、初期の昇温速度に影響を与える。そのため、上記A区間での加熱炉内の雰囲気温度は、約750~900℃の範囲内に設定することが好ましい。上記A区間での加熱炉内の雰囲気温度を約750℃未満に設定すると、初期の昇温速度が過度に遅くなるため生産性が悪くなるという問題がある。これに対し、上記A区間での加熱炉内の雰囲気温度を約900℃を超えて設定すると、加熱炉の初期領域を高い温度に維持することにより、エネルギー消費が多くなるという問題がある。
【0038】
一方、A区間での加熱は、雰囲気温度だけでなく、維持時間も昇温速度に影響を与える。この際、加熱速度を増加させるために、A区間での雰囲気温度が低い場合にはA区間での維持時間を短くし、A区間の雰囲気温度が高い場合にはA区間での維持時間を長くしてもよい。そこで、本発明者らは、A区間での加熱における好ましい加熱炉内の雰囲気温度及び維持時間について鋭意検討した結果、
図3に示されたようにA区間の条件を設定することが好ましいことを見出した。すなわち、上記A区間の雰囲気温度が約750℃の低い温度である場合には、A区間の維持時間を約1分以下に短くし、A区間の雰囲気温度が約900℃の高い温度である場合には、A区間の維持時間を約1.5分以下にすることが好ましい。一方、上記A区間は、加熱炉の入側の通過時間を考慮して、A区間の維持時間は約0.2分以上にすることができる。
【0039】
前述の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の他に、素材の厚さも影響を与える可能性がある。しかし、厚さによる影響は後述のB区間とC区間での加熱に反映され、また、A区間での影響はやや少ないため、実用的な観点から、A区間では素材の厚さにかかわらず設定することができる(
図5a参照)。
【0040】
次に、上記B区間での加熱は、
【数3】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形fghiにより規定される条件を満たすことができる。この際、上記fghiの座標の単位は、f(1.3[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×0.5[分]、930[℃])、g(3.8[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×0.5[分]、930[℃])、h(3.3[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×0.5[分]、960[℃])、i(0.8[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×0.5[分]、960[℃])である。
【0041】
B区間での加熱は、加熱炉内において最も雰囲気温度が高い領域であって、高温領域での素材の昇温速度及び最高温度に影響を与える。上記B区間の雰囲気温度が低い場合、最高温度は低くなり、昇温速度も低くなるのに対し、上記B区間の雰囲気温度が高い場合、最高温度が高くなり、昇温速度も高くなる。したがって、B区間の雰囲気温度はできる限り高く設定することが好ましい。但し、B区間の雰囲気温度が過度に高い場合には、素材が過度に高い温度まで加熱され、溶接性が不良になる恐れがあるため、好ましい範囲に設定する必要がある。
【0042】
一方、本明細書において、約930℃以上の雰囲気温度を有する区間から、最高雰囲気温度(すなわち、最高雰囲気維持温度)を有する区間までをB区間とみなす。また、上記最高雰囲気温度を有する区間後に後続する、上記最高雰囲気温度より低い雰囲気温度を有する区間からを、上記B区間とは区別される区間とみなす。例えば、上記B区間が、約930℃の雰囲気温度を有する第1のB区間と、約950℃の雰囲気温度を有する第2のB区間とからなり、その後に後続して約935℃の雰囲気温度を有する区間を含む場合、上記最高雰囲気温度である約950℃より低い雰囲気温度条件である約935℃の雰囲気温度を有する区間からをC区間とみなすことができる。
【0043】
そこで、本発明では、上記B区間の雰囲気温度を約930~960℃の範囲に設定することができる。上記B区間の雰囲気温度が約960℃を超える場合、加熱炉装備の限界もあるが、めっき層の合金化の点から高すぎる温度に設定されるため、溶接性が低下するという問題がある。また、上記B区間の雰囲気温度が約930℃未満である場合、昇温速度が低すぎるため、目標温度への到達時間が長くなり、サイクルタイムの増加により生産性が悪くなるという問題がある。
【0044】
上記B区間において、前述の雰囲気温度だけでなく、B区間の維持時間も素材の昇温速度及び素材の最高加熱温度に影響を与える。すなわち、B段階の維持時間が短すぎると十分な昇温効果が得られず、B段階の維持時間が長すぎると、素材が高い温度で過度に長時間維持されて合金化が過度に進行し、これにより、拡散層の厚さが増加して溶接性が不良になるという問題が発生する恐れがある。
【0045】
したがって、特に限定されるものではないが、上記B区間での維持時間の下限は、速い昇温による生産性向上の効果を発揮するために、約0.5分以上にすることができる。もしくは、合金化が過度に進行して溶接性が不良になることを防止するために、維持時間の上限は約4.8分にすることができる。この際、上記B区間の維持時間は、B区間のみで素材が維持される時間を意味し、後述の炉内累積維持時間とは区別される概念であることに留意する必要がある。
【0046】
一方、上記B区間までの炉内累積維持時間も、高温領域での素材の昇温速度及び素材の最高加熱温度に影響を与える。十分な温度まで昇温されるためには、B区間の雰囲気温度が低い場合にはB区間が終わるまでの炉内累積維持時間を長くする必要があり、B区間の雰囲気温度が高い場合にはB区間が終わるまでの炉内累積維持時間を短くしてもよい。
【0047】
ここで、上記炉内累積維持時間は、B区間自体での維持時間ではなく、B区間が終わるまでの炉内累積維持時間を意味する。すなわち、B区間の前に先行する全炉内加熱維持時間も含んで、上記B区間が終わるまでの炉内で加熱された累積維持時間を意味する(例えば、B区間の前にA区間のみがある場合には、A区間及びB区間での炉内維持時間を意味し、A区間とB区間の間に追加区間が存在する場合には、A区間、B区間、及び追加区間も全て含む炉内累積時間を意味する)。このように累積維持時間が重要であることは、次のような理由からである。例えば、A区間の維持時間が短い場合には、十分な温度まで昇温されるために、B区間自体の維持時間をやや長くする必要があり、逆にA区間の維持時間が長い場合には、B区間の維持時間をやや短くしてもよいという点を考慮する必要がある。すなわち、本発明で目的とする加熱時間の短縮による生産性の向上のためには、B区間自体の維持時間だけでなく、B区間前の時間もともに考慮する必要がある。
【0048】
一方、上記B区間の目的は速い昇温にあり、B区間の維持時間を不要に長くし、高い温度であるB段階の温度で長時間留まることを防ぐことが、同一の昇温効果を得ながらも、溶接性の点から好ましい。したがって、このような結果に基づいて、素材の厚さの影響を考慮しなかった場合(すなわち、素材の厚さ1.2mmの場合を基準)に、B区間までの累積炉内維持時間は、B区間の温度が約930℃であるときに、最大約3.8分以下に維持することができる。
【0049】
ところが、さらに、素材の昇温パターンは素材の厚さにも依存する。そこで、本発明者らは、多様な厚さに対する昇温分析を行うことで、
図5bのように、B区間までの累積炉内維持時間を厚さによって調整する必要があることを見出した。すなわち、B区間までの累積炉内維持時間は、
図3の1.2mm素材の図形fghiにより規定される範囲で、素材の厚さが0.6mm増加するにつれて約0.5分ずつ比例して増加する範囲内で行ってよい。逆に、素材の厚さが薄くなる場合には、0.6mm減少するにつれて約0.5分ずつ比例して減少する範囲内で行ってよい。
【0050】
また、本発明者らは、生産性と溶接性をより向上させようとする見地でさらに鋭意検討した結果、素材の厚さによる影響を考慮し、素材の厚さtが1.5mmである時を基準としてB区間での加熱雰囲気温度を最適化条件に設定することができることをさらに見出した。
【0051】
具体的に、本発明の一側面によると、上記tが1.5mm以下である場合、上記B区間の雰囲気温度は約930℃超過940℃未満であってもよい。素材の速い昇温のために、上記B区間は高い雰囲気温度にする必要があるが、実操業における作業異常措置などにより加熱炉内での維持時間はやや変動され得るという点を考慮すると、過度に高くない雰囲気温度に加熱することが好ましい。したがって、素材の厚さが1.5mm以下である場合には、上記B区間の雰囲気温度を前述の範囲に制御することが、溶接性不良の可能性を最小化する点から最も有利である。一方、上記tが1.5mm以下である場合、上記B区間の雰囲気温度は、より好ましくは約930℃超過935℃未満であってもよく、最も好ましくは約931~934℃であってもよい。これにより、溶接性不良を最小化する効果をより向上させることができる。
【0052】
もしくは、本発明の一側面によると、上記tが1.5mmを超える場合、上記B区間の雰囲気温度は約930℃超過950℃未満であってもよい。素材の速い昇温のために、上記B区間は高い雰囲気温度にする必要があるが、実操業における作業異常措置などにより加熱炉内での維持時間はやや変動され得るという点を考慮すると、過度に高くない雰囲気温度に加熱することが好ましい。したがって、素材の厚さが1.5mmを超える場合には、上記B区間の雰囲気温度を前述の範囲に制御することが、溶接性不良可能性を最小化する点から最も有利である。これは、素材の厚さが厚くなる場合、B区間の温度は、薄い厚さの素材に比べて少し高くする必要があるという点を考慮したものである。もしくは、上記tが1.5mmを超える場合、上記B区間の雰囲気温度は、より好ましくは約930℃超過945℃未満であり、最も好ましくは約931~940℃であってもよい。これにより、溶接性をより向上させることができる。
【0053】
一方、本発明の他の側面によると、上記tが1.5mmを超える場合、速い昇温による生産性及び曲げ性の向上の点から、上記B区間の雰囲気温度は約940℃超過960℃以下に制御されてもよい。安定した曲げ性を確保するためには、全炉内累積維持時間が過度に短くならないように、すなわち、できる限り長く確保することが好ましい。しかし、生産性の観点からは全炉内維持時間を短くすることが好ましいため、生産性と曲げ性をともに満たすためには、上記B区間の温度を高くして速い昇温を確保することで、全炉内累積維持時間を増加させずに、加熱工程でより安定したオーステナイト組織を確保し、結果として、より優れた曲げ性を確保することができる。
【0054】
また、本発明の一側面によると、上記B区間の最高雰囲気温度(Tb)(すなわち、最高雰囲気維持温度)は、約938℃以下であり、より好ましくは約935℃以下、最も好ましくは約934℃以下であってもよい。これにより、優れた生産性及び溶接性の両立を図ることができる。
【0055】
上記C区間での加熱は、
【数4】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形jklmにより規定される条件を満たし、C区間の最高雰囲気温度(すなわち、C区間の最高雰囲気維持温度)は、上記B区間の最高雰囲気温度(すなわち、B区間の最高雰囲気維持温度)より低いことができる。すなわち、前述のB区間に後続して、素材の厚さの影響も反映し、上記C区間での加熱時の雰囲気温度及び累積炉内維持時間を図形jklmにより規定される条件を満たすようにすることで、優れた生産性及び溶接性の両立が可能になる。この際、上記jklmの座標の単位は、j(3.7[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}[分]、870[℃])、k(11.7[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×2[分]、870[℃])、l(7.03[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}×2[分]、940[℃])、m(2.53[分]+{(t[mm]-1.2[mm])/0.6[mm]}[分]、940[℃])である。
【0056】
上記C区間での加熱は、素材の最終維持温度に影響を与える。上記C区間での最高雰囲気温度を上記B区間での最高雰囲気温度より低く設定する理由は、C区間での雰囲気温度がB区間の程度に高い場合、素材が高い温度で長時間加熱され、溶接性が不良になるという問題があるためである。すなわち、B区間での加熱は、素材の加熱速度を増大させる目的が大きいため高い温度に設定するものであり、C区間での加熱は、素材の最終維持温度を制御することが目的であることから、過度に高い温度または過度に低い温度に設定しないことが好ましいためである。
【0057】
一方、上記C区間での雰囲気温度を約870℃未満に設定すると、素材の取り出し温度が低すぎて、後続の移送段階及び成形前冷却段階で低すぎる温度に冷却され、成形時の温度が過度に低くなるという問題が発生し、これにより、成形性が不良になる恐れがある。
【0058】
また、本発明の一側面によると、上記C区間の雰囲気温度は、溶接性向上の点から上記B区間の雰囲気温度より低くくてもよく、もしくは、上記C区間の雰囲気温度は、上記B区間の最低雰囲気温度(すなわち、最低雰囲気維持温度)より低く設定することができる。例えば、上記B区間として、約930℃での第1のB区間と、960℃での第2のB区間とを含む場合、上記C区間は、約870℃以上であり、且つ、上記第1のB区間の約930℃より低いように(すなわち、930℃未満)雰囲気温度が設定されてもよい。
【0059】
本発明の一側面によると、上記C区間の最高雰囲気温度は、上記B区間の最高雰囲気温度(Tb)を基準として、約Tb-20℃以下に設定することができ、もしくは、約Tb-30℃以下の範囲に設定してもよい(この際、上記最高雰囲気温度は前述と同様に、最高雰囲気維持温度を意味する)。B区間とC区間の温度差が大きいほど、速い昇温と、拡散層の厚さ増加の抑制による溶接性向上の効果が大きい。しかし、このような差を大きくするためには、B区間の温度は高くなり、かつC区間の温度は低くなる必要があるため、作業条件設定の点からその範囲が縮小されすぎるという問題とともに、C区間の温度に到達するのに時間が過度にかかるという問題がある。そこで、本発明者らは、上記B区間とC区間の温度差が約20℃のレベルである場合、素材が短い時間内(例えば、約30秒以下)にC区間の温度に到達するということを確認した。したがって、上記B区間とC区間の温度差は約20℃以上にし、上記C区間は約870℃以上にすることが最も好ましい。
【0060】
一方、C区間が終わるまでの炉内累積維持時間も最終維持温度に影響を与える。C区間での雰囲気温度が低い場合には、C区間が終わるまでの炉内累積維持時間を長くする必要があり、C区間での雰囲気温度が高い場合には、C区間が終わるまでの炉内累積維持時間を短くしてもよい。ここで、上記C区間が終わるまでの炉内累積維持時間も、C区間自体の維持時間ではなく、C区間までの炉内累積維持時間を意味する。この際、上記炉内累積維持時間は、前述の説明が同様に適用可能である。
【0061】
このように累積維持時間が重要であることは、次のような理由からである。例えば、C区間の直前までの炉内維持時間が短い場合、十分な合金化のためには、C区間自体の維持時間をやや長くする必要があり、逆にC区間の直前までの炉内維持時間が長い場合には、C区間の維持時間をやや短くしてもよいという点を考慮する必要がある。すなわち、本発明で目的とする加熱時間の短縮による生産性の向上は図り、かつ十分な合金化のためには、C区間自体の維持時間だけでなく、C区間前の時間もともに考慮する必要がある。C区間が終わるまでの炉内累積維持時間は、後で詳細に説明する様々な実施例の分析により導出された。
【0062】
したがって、本発明の一側面によると、素材の厚さの影響を考慮せず、素材厚さ1.2mmを基準としたときに、C区間が終わるまでの炉内累積維持時間は、雰囲気温度が約870℃である時に約3.7~11.7分であり、雰囲気温度が約940℃である時に約2.53~7.03分であってもよい。具体的に、上記C区間での雰囲気温度が高い場合、C区間が終わるまでの累積炉内維持時間が過度に長くなると、加熱時間が過度に長くなって生産性が悪くなり、溶接性も不良になる。これに対し、C区間の雰囲気温度が低い場合には、れを補完するためにC段階までの総累積炉内維持時間を長くする必要がある。
【0063】
さらに、上記B区間と同様に、上記C区間での素材の昇温パターンは、素材の厚さにも依存する。したがって、多様な厚さに対する昇温分析を行うことで、5cのように、C区間が終わるまでの累積炉内維持時間を厚さによって調整する必要があることを確認した。
【0064】
すなわち、C区間が終わるまでの累積炉内維持時間は、
図3の1.2mm素材の図形jklmにより規定される範囲で、素材の厚さが0.6mm増加するにつれて、最小維持時間は1分ずつ比例して増加し、最大維持時間は2分ずつ比例して増加する範囲内で行うことができる。逆に、素材の厚さが薄くなる場合には、0.6mm減少するにつれて、最小維持時間は1分ずつ比例して減少し、最大維持時間は2分ずつ減少する範囲内で行うことができる。
【0065】
したがって、本発明では、前述の厚さの影響も反映した図形jklmにより規定される累積炉内維持時間及び雰囲気温度を満たすように設定することができる。
【0066】
本発明の一側面によると、上記C区間での加熱は、約935℃以下の雰囲気温度で行われるか、より好ましくは約930℃以下の雰囲気温度で行われることができる。もしくは、上記C区間の最高雰囲気温度(すなわち、最高雰囲気維持温度)は、約935℃以下であるか、より好ましくは約930℃以下であってもよく、これにより、生産性及び溶接性をより改善することができる。
【0067】
本発明の一側面によると、上記C区間での維持時間は約0.5分以上であってもよく、上記C区間での維持時間が約0.5分未満である場合には、最終維持温度に到達できない恐れがあるが、特にこれに限定されるものではない。
【0068】
一方、本発明の一側面によると、上記tが1.5mm以下である場合、上記C区間の雰囲気温度は約870℃以上880℃未満であってもよい。これは、加熱時に高温で維持するとめっき層の合金化が著しく速く進行するため、素材の厚さが1.5mm以下である場合には、最終維持温度であるC区間の温度は約870℃以上880℃未満に低く維持することが、溶接性の点から最も有利であるためである。
【0069】
もしくは、本発明の一側面によると、上記tが1.5mmを超える場合、上記C区間の雰囲気温度は約870℃以上900℃未満であってもよい。これは、加熱時に高温で維持するとめっき層の合金化が著しく速く進行するため、素材の厚さが1.5mmを超える場合には、最終維持温度であるC区間の温度は約870℃以上900℃未満に低く維持することが、溶接性の点から最も有利であるためである。これは、素材の厚さが厚くなる場合、C区間の温度は薄い厚さ素材に比べて少し高くなる必要があるという点を考慮したものである。
【0070】
すなわち、本発明の一側面によると、本発明で目的とする効果を発揮するために、各B及びC区間での維持時間はそれぞれ約0.5分以上であることが好ましい。この際、各B及びC区間での維持時間とは、累積時間を意味するのではなく、各B区間自体の維持時間及びC区間自体の維持時間を意味する。上記B区間及びC区間のうち少なくとも1つの区間での維持時間が約0.5分未満である場合、B区間での速い昇温と、C区間での低い最終維持温度到達の効果を期待しにくくなる恐れがあるが、特にこれに限定されるものではない。
【0071】
一方、本発明の一側面によると、上記加熱する段階は、下記関係式2の値が2以上を満たすように行われることができる。この際、上記関係式2の値は経験的な数値であるため、その単位を特に決めない。
【0072】
【数5】
(上記関係式2中、上記T
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉雰囲気温度を表し、単位は℃である。上記t
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉維持時間を表し、単位は分である。上記t
totalは、加熱炉での総維持時間を表し、単位は分である。xは、加熱炉で特定雰囲気温度に維持される区間の個数を表す。上記kは、B区間のうち最終区間である場合に3の整数であり、B区間後の区間である場合に-1の整数であり、その他の場合に1の整数である。上記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。)
【0073】
一方、加熱炉において、n番目の区間とは、特定雰囲気温度に維持される区間であって、ブランクの移送方向にn番目に存在する区間を意味し、ブランクの移送方向に存在する各区間は、雰囲気温度により区分することができる。この際、上記n番目の区間での加熱炉維持時間は、加熱炉での累積維持時間ではなく、各区間自体の維持時間を意味する。
【0074】
この際、加熱炉及び各区間についての説明は、後述の各区間での維持時間を除き、前述の説明を同様に適用可能である。
【0075】
また、各区間での維持時間は、前述の多数の加熱ゾーンを含み、各加熱ゾーンで互いに区別して雰囲気温度制御が可能な加熱炉において、各区間に対応する各加熱ゾーンでの維持時間を意味し得る。例えば、1つの区間に1つの加熱ゾーンが対応する場合において、上記1つの加熱ゾーンで素材が維持される時間は、素材であるブランクが投入される時点から、上記1つの加熱ゾーンからブランクが取り出される時点までを意味し得る。
【0076】
また、前述によると、上記B区間は、約930℃以上の雰囲気温度を有する区間から最高雰囲気温度を有する区間までを意味するため、上記B区間のうち最終区間は、最高雰囲気温度(すなわち、最高雰囲気維持温度)を有する区間を意味する。この際、上記B区間後とは、B区間を除いてブランクの移送方向に、B区間後から加熱炉雰囲気温度により区分されて存在する区間を意味する。
【0077】
一例として、A区間(雰囲気温度:T1、維持時間:t1)、B区間(雰囲気温度:T2、維持時間:t2)、第1のC区間(雰囲気温度:T3、維持時間:t3)、第2のC区間(雰囲気温度:T4、維持時間:t4)が存在する場合を説明する。この場合、上記関係式2は、[{(T1-870)×t1/ttotal×0.1334×1}+{(T2-870)×t2/ttotal×0.1334×3}+{(T3-870)×t3/ttotal×0.1334×(-1)}+{(T4-870)×t4/ttotal×0.1334×(-1)}]/tであってもよい。
【0078】
本発明者らは、加熱段階において、加熱炉の温度及び時間のパターンについて鋭意検討した結果、生産性、溶接性、成形性に加えて、製品の形状精度もより向上させることができる方法をさらに研究した。
【0079】
すなわち、加熱する段階において、各区間での870℃を基準とした加熱雰囲気温度の差が、全工程中に各区間が占める時間の割合と、0.1334を乗じた値(Vcal)を基準として、成形部材に与える影響を研究した。具体的に、最高雰囲気温度に維持される区間前では、生産性の点から値が大きいことが好ましいため上記Vcal値が(+)符号を有し(すなわち、kが(+1)に該当)、これらのうち最高雰囲気温度に維持される区間の影響が最も大きいため、上記Vcal値が(+3)倍の影響を受ける(すなわち、kが3の整数に該当)。また、B区間後の区間では、上記Vcal値が小さいことが、拡散層の厚さを減少させて溶接性の点から好ましいため(-)符号の値を有する。このような各区間でのVcal値の和を、厚さの影響を考慮してtで除した値が2以上を満たすことで、前述の生産性、溶接性、成形性に加えて、適正条件の加熱炉区間の組み合わせにより、製品の取り出し後に空気中で冷却される時に生じる捩じれ現象が減少し、製品の形状精度をより向上させることができることを見出した。
【0080】
また、本発明者らは、熱間プレス成形工程において、冷却工程に対する詳細な工程分析を行うことで、次のような事項を見出した。加熱されたブランクは加熱炉から取り出された後、プレスに設けられた金型に移送される。この移送過程中には、空冷により冷却される。次に、下型金型にブランクを載置させた後、ブランク供給治具がプレス作動範囲内から回避するとプレススライドが下降し始め、一定時間経過後に上型金型がブランクに接触し始める。成形は、このような上型金型がブランクに接触してから実質的に開始される。このように、上記ブランクが載置されてから成形が行われる前まで、一定時間を要する。ところが、このような時間内には、ブランクが全体的に空冷されるだけでなく、下型金型もしくは下型金型のブランクを支持するリフターのような構造物と接触し、この部分で急冷が発生するようになる。したがって、全体的に安全な成形性を確保するためには、空冷が主に起こる移送過程の所要時間だけでなく、上記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間の最小化も必要であることが分かった。一般に周知されているように、成形が完了した後、金型が完全に密着した状態での急冷が物性確保の点から重要であるということはいうまでもなく、本発明では追加的に説明しない。本発明では、移送過程中の空冷時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間の管理が、物性確保及び成形性確保の点から重要であることが分かり、次のような分析を行った。
【0081】
一方、
図6は、素材厚さ0.9及び1.8mmのアルミニウムめっき鋼板を900℃に加熱してから加熱炉から取り出した後、空気中で冷却される時間による温度変化に関する実験値と、空冷過程に対する解釈値の比較グラフである。
図6に示されたように、解釈値が、実験値をよく予測していることが分かる。
【0082】
本発明では、このような解釈技術を活用して、多様な素材の厚さ、加熱炉の取り出し温度、及び移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和の相関関係について鋭意検討した結果、下記関係式1を満たす必要があることを見出した。
【0083】
[関係式1]
T≦8.2×t+(temp-900)/30
(上記Tは、移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和を表し、単位はs(秒)である。上記tは、素材の厚さを表し、単位はmmである。上記tempは、加熱炉の取り出し温度を表し、単位は℃である。)
【0084】
この際、上記関係式1は経験的に得られる値であるため、特に単位を決めなくてもよく、Tの単位はs(秒)であり、tはmmであり、tempの単位は℃を満たせば十分である。
【0085】
本発明の一側面によると、上記Tは約10秒超過であり、より好ましくは約11秒以上であってもよい。すなわち、本発明において、上記Tが約10秒を超えても優れた成形性が確保可能であり、これにより、移送装置の速度がやや遅い設備にも適用可能であるため、不要な設備投資が求められず、経済性の確保が可能になる。
【0086】
一方、本発明の一側面によると、特に限定されるものではないが、本発明では上記素材の厚さ(t)が約0.6~2.6mmの範囲であってもよい。上記素材の厚さが約0.6mm未満である場合には、素材が過度に薄くなって連続加熱炉内で移送時に垂れの問題などが発生する恐れがあり、約2.6mmを超える場合には、素材が過度に厚くなってアルミニウムめっき材の生産が容易ではない恐れがある。
【0087】
上述のように、冷却は、移送過程中の空冷と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの下型金型による冷却の段階により行われる。ブランクが載置されてから成形が行われる前の段階では、下型金型もしくは下型金型のブランクを支持するリフターのような構造物と接触する部位は、接触されずに空冷される部位に比べてより速く冷却される。したがって、ブランクの全体的な空冷の点からは、上記関係式1-1[T≦8.2×t]のみを満たせばよいが、下型金型にブランクが載置された後、上型金型が接触して成形が行われる前までの所要時間も大きくないようにすることが重要である点が分かった。
【0088】
したがって、上記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間は2秒以下にすることができる。本発明者らは1.2mm厚さの素材を加熱して900℃で取り出した後、8秒間移送し、下型リフターに1秒間接触した条件と、7秒間移送し、下型リフターに2秒間接触した条件と、6秒間移送し、下型リフターに3秒間接触した条件で、それぞれリフターに接触した部位の温度を観察した。その結果、下型リフターに2秒を超えて接触した場合、該当部位は、接触していない部位に比べて50℃以上さらに冷却されることを確認した。したがって、成形段階の前に金型の上型に接触される前まで、金型の下型のみで冷却される時間(すなわち、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間)が2秒を超える場合、金型の下型と接触していないブランク部位は700℃のレベルになる。但し、金型の下型と接触する部位は650℃のレベルまで冷却され、通常の熱間プレス成形工程の管理において作業不可と判断される温度のレベルまで冷却される可能性がある。これにより、成形作業が行われずにスクラップになるという問題が発生する余地がある。
【0089】
したがって、最も好ましくは、加熱されたブランクが上型金型に接触して成形が開始されるまで、上記関係式1を満たすように工程が行われるとともに、前述のブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間を2秒以下に制御することができる。
【0090】
また、本発明の一側面によると、上記ブランクのめっき層の厚さは20μm以上であってもよい。上記ブランクのめっき層の厚さが20μm未満である場合には、ブランクのめっき層の厚さが薄い状態で加熱が行われ、合金化が速く進行して拡散層の増加もさらに速くなる。すなわち、めっき量が少なくなると、拡散層の厚さ増加速度が増加し、本発明の目的とする物性を期待しにくくなる恐れがあるため、ブランクのめっき層の厚さは20μm以上に制御することが好ましい。もしくは、上記ブランクのめっき層の厚さは、より好ましくは25μm以上であってもよい。これにより、拡散層の厚さ増加速度が抑えられ、溶接性をより改善することができる。一方、上記ブランクのめっき層の厚さの上限は特に限定されないが、めっき層の厚さが不要に増加する場合、めっき層の合金化速度が遅くなるという問題が発生する恐れがあるため、産業的に多く適用されている33μm以下のレベルであれば十分である。
【0091】
本発明の一側面によると、上記成形部材の拡散層の厚さは15μm以下であってもよい。上記拡散層は伝導性が良くないため、抵抗が大きい。そのため、拡散層の厚さが厚すぎると、溶接時に局所的な発熱が大きく起こることにより、スパッター(spatter)が発生するという問題をもたらす恐れがある。したがって、上記拡散層の厚さを15μm以下に制御することが好ましい。一方、上記成形部材の拡散層は、FeとAlの金属間化合物を含む層を意味し、FeとAlの金属間化合物としては、FeAl、Fe3Alなどが挙げられる。その他にも、めっき層に由来の成分の一部をさらに含むことができる。
【0092】
本発明の一側面によると、上記成形部材の合金層の厚さは27~50μmであってもよい。成形部材の合金層の厚さが27μm未満である場合には、耐食性が不足するという問題があり、合金層の厚さが50μmを超える場合には、成形時に金型へのめっき層の焼着問題が激しくなる余地がある。前述の効果をより向上させるという見地から、上記成形部材の合金層の厚さは、より好ましくは35~50μmであってもよい。一方、上記成形部材の合金層の厚さは、拡散層を含むコーティングの総厚さを意味する。
【0093】
本発明の一側面によると、上記成形部材の合金層の厚さに対する上記成形部材の拡散層の厚さの比(拡散層の厚さ/合金層の厚さ)は0.5以下であり、より好ましくは0.33以下であってもよい。前述の条件を満たすことで、成形部材の合金層の厚さに比べて拡散層の厚さが過度に厚くなることによるスパッターの発生により、溶接性が不良になるという問題を防止することができる。
【実施例】
【0094】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決定される。
【0095】
(実験例1)
重量%で、C:0.22%、Si:0.3%、Mn:1.2%、Cr:0.2%、Al:0.03%、P:0.01%、S:0.001%、N:0.003%、B:0.003%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有する素地鋼板を、めっき浴Al-Si9%-Fe3%に浸漬してめっき鋼板を得た。このように得られた厚さ1.2mmのアルミニウムめっき鋼板に対して、下記表1、2に記載の条件を満たすようにブランクを加熱炉で加熱し、金型の上型と下型の間に移送した後、下型金型への載置による冷却、成形、及び取り出し段階を経て熱間プレス成形部材を製造した。この際、多数の加熱ゾーンを含み、各加熱ゾーンで互いに区別して雰囲気温度が制御される加熱炉において、各加熱ゾーンでの雰囲気維持温度を熱電対(thermocouple)により測定し、下記表1の各区間での雰囲気維持温度として示した。また、各区間での維持時間は、上記各区間に対応する各加熱ゾーンを基準として、素材であるブランクの投入時点から取り出し時点までを測定し、下記表1に示した。また、各区間での累積維持時間は、加熱炉に素材であるブランクが投入される時点から、各加熱炉に対応する各加熱ゾーンから素材であるブランクが取り出される時点までの時間を測定し、下記表1に示した。
【0096】
一方、下記表1、2に記載の各発明例及び比較例に対して、下記の基準で特性を評価した。
【0097】
<900℃に到達する時間>
加熱炉に投入された素材の温度を上述の解釈的方法により計算した結果を活用して、900℃に最初に到達する時間によって下記のように分類し、これに基づいて生産性を判断した。
【0098】
○:900℃に到達する時間が180秒以下である場合
×:900℃に到達する時間が180秒を超える場合
【0099】
<溶接性>
溶接性は、抵抗溶接時における溶接電流範囲値(最小ナゲット径が確保できる最小電流値と、スパッターが発生する最大電流値との間の範囲値)によって下記のように分類した。この際、溶接電流範囲は、拡散層の厚さと溶接電流範囲との相関関係式を活用した。
【0100】
AA:溶接電流範囲が2.3KA以上である場合
A:溶接電流範囲が2.0KA以上2.3KA未満である場合
A-:溶接電流範囲が1.5KA以上2.0KA未満である場合
B:溶接電流範囲が1.0KA以上1.5KA未満である場合
C:溶接電流範囲が1.0KA未満である場合
【0101】
<成形性>
成形性は、製品の不良率の発生を抑えるための管理基準になる成形前のブランク温度650℃を基準として、下記のように分類した。
【0102】
○:成形直前のブランク温度が650℃以上である場合
×:成形直前のブランク温度が650℃未満である場合
【0103】
【0104】
【0105】
上記表1、2に示されたように、加熱炉の全体を900℃の単一雰囲気温度に設定した比較例1に比べて、発明例1及び発明例2は、最終維持温度に到達する時間をより短縮させることができ、これにより、全体的なサイクルタイムの短縮が可能であることを確認した。このことから、生産性がより改善されることを確認した。
【0106】
また、本願発明による加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1を全て満たす発明例3~6は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも優れていることを確認した。
【0107】
また、B区間の雰囲気温度が930℃超過940℃未満を満たす発明例6は、他の発明例に比べて溶接性がより向上することを確認した。
【0108】
これに対し、加熱炉の全体を940℃の単一温度に設定した比較例2は、より速い昇温効果が得られるものの、最終維持温度が940℃と高い温度に維持され、溶接性に劣っていた。
【0109】
また、他の方法として、最も高い温度である940℃を最も後段に配置する方法の比較例3は、最終維持温度に到達する時間が長くかかって生産性に劣るだけでなく、最終温度も940℃になり、溶接性に劣っていた。
【0110】
また、A区間の雰囲気温度のみを700℃に変更した比較例4は、900℃に到達する時間が200秒になり、B段階が終わる時までに昇温が完了されず、生産性に劣るという問題があった。
【0111】
一方、加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1のうち1つ以上の条件を満たさない比較例5~8は、生産性、溶接性、及び成形性のうち1つ以上の条件に劣っていることを確認した。
【0112】
(実験例2)
下記表3、4の条件に変更したことを除き、前述の実験例1と同様の方法により熱間プレス成形部材を製造した。また、生産性に関連して下記の方法により評価したことを除き、前述の実験例1と同様の基準で特性を評価した。
【0113】
<追加加熱過程が必要であるか否か>
加熱炉に投入された素材の温度を上述の解釈的方法により計算した結果を活用し、下記のように分類して生産性を判断した。
【0114】
○:素材の取り出し時に、素材の温度が設定されたC区間の雰囲気温度に到達した場合
×:素材の取り出し時に、素材の温度が設定されたC区間の雰囲気温度に到達しなかった場合であって、目標とする物性を確保するために追加加熱過程が必要である場合
【0115】
【0116】
【0117】
上記表3、4に示されたように、本願発明の加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1を全て満たす発明例7~13は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも優れていることを確認した。
【0118】
特に、C区間の最高雰囲気温度が、B区間の最高雰囲気温度(Tb)を基準としてTb-20℃以下を満たす発明例8~13は、それを満たさない発明例7に比べて溶接性がより向上することを確認した。
【0119】
また、C区間の雰囲気温度が870℃以上880℃未満を満たす発明例10は、他の発明例に比べて溶接性がより向上することを確認した。
【0120】
これに対し、前述の加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1のうち1つ以上の条件を満たさない比較例9~17は、生産性、溶接性、及び成形性のうち1つ以上の条件に劣っていることを確認した。
【0121】
特に、比較例18~20は、前述の関係式1の条件を満たさないことにより、発明例に比べて成形性に劣っていることを確認した。
【0122】
(実験例3)
下記表5、6の条件に変更したことを除き、前述の実験例1と同様の方法により熱間プレス成形部材を製造した。また、生産性に関連して下記方法により評価したことを除き、前述の実験例1と同様の基準で特性を評価した。
【0123】
<B区間で素材の温度が維持される区間が存在するか否か>
ブランク素材がB区間の設定された最高雰囲気温度まで加熱された後、その温度に維持される時間がB区間に存在するか否かによって下記のように分類し、これに基づいて生産性を評価した。これは、B区間では昇温速度を増加させる効果のみを達成すればよいため、不要に高い温度領域で長時間維持しないことが好ましいためである。
【0124】
○:追加的に維持する時間が存在しない場合
×:追加的に維持する時間が存在する場合
【0125】
【0126】
【0127】
上記表5、6に示されたように、本願発明の加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1を全て満たす発明例14及び15は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも優れていることを確認した。
【0128】
これに対し、前述の加熱炉での加熱条件を満たさない比較例21及び22は、生産性に劣っていることを確認した。
【0129】
(実験例4)
下記表7、8の条件に変更したことを除き、前述の実験例1と同様の方法により熱間プレス成形部材を製造した。また、生産性に関連して下記方法により評価したことを除き、前述の実験例1と同様の基準で特性を評価した。
【0130】
<拡散層の厚さが15μmになる時間に到達するか否か>
通常、自動車社が物性確保のために規制する拡散層の厚さが15μmになる地点の時間を基準として、下記のように分類して生産性を評価した。
【0131】
○:加熱炉から素材が取り出される時までの総累積維持時間が、上記拡散層の厚さが15μmになる時間以下である場合
×:加熱炉から素材が取り出される時までの総累積維持時間が、上記拡散層の厚さが15μmになる時間を超える場合
【0132】
【0133】
【0134】
上記表7、8に示されたように、本願発明の加熱炉での加熱条件、下型金型載置冷却条件、関係式1を全て満たす発明例16及び17は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも優れていることを確認した。
【0135】
これに対し、前述の加熱炉での加熱条件を満たさない比較例23は、生産性及び溶接性に劣っていることを確認した。
【0136】
また、前述の加熱炉での加熱条件及び下型金型載置冷却条件を満たさない比較例24は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも劣っていた。
【0137】
一方、前述の実験例に対して、そのめっき層の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図4に示した。
【0138】
(実験例5)
下記表9、10の条件に変更したことを除き、前述の実験例4と同様の方法により熱間プレス成形部材を製造し、実験例4と同様の基準で特性を評価した。
【0139】
【0140】
【0141】
上記表9、10に示されたように、ブランクのめっき層の厚さ20μm以上、成形部材の拡散層の厚さ15μm以下、成形部材の合金層の厚さ27~50μm、及び部材のめっき層の厚さに対する上記成形部材の拡散層の厚さの比(拡散層の厚さ/合金層の厚さ)0.33以下を全て満たす本願発明例18は、前述の条件のうち1つ以上を満たさない発明例19に比べて溶接性がより改善されることを確認した。
【0142】
(実験例6)
下記表11~13の条件を満たすように熱間プレス成形部材を製造したことを除き、前述の実験例1と同様の方法によりめっき鋼板のブランクを成形した。また、溶接性及び成形性の効果は、前述の実験例1と評価方法を同様に適用し、追加的に成形部材の形状精度を測定した。
【0143】
<加熱炉からの取り出し時に、素材の温度が加熱炉の取り出し温度に到達したか否か>
また、加熱炉から取り出す時に、素材の温度が加熱炉の取り出し温度に到達したか否かによって、下記基準で生産性を評価した。
【0144】
○:加熱炉から取り出す時に、素材の温度が加熱炉の取り出し温度に到達した場合
×:加熱炉から取り出す時に、素材の温度が加熱炉の取り出し温度に到達しなかった場合
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
上記表11~13に示されたように、本願発明例20~23は、本願の関係式2を満たさない比較例25及び26と比べて、生産性及び溶接性のうち1つ以上の特性がより優れていた。
【0149】
さらに、各発明例及び比較例から得られる成形部材に対して、同一の測定部位10個の地点で、チェッキングフィクスチャー(checking fixture)を用いて形状精度を測定し、通常の形状精度要求範囲である+/-0.5mmより過酷な条件である+/-0.4mm内を満たす測定地点の個数を測定した。その結果、比較例25を基準として相対的な形状精度の改善効果を評価したときに、発明例20~22は、比較例25に比べて形状精度が25%改善されることを確認した。一方、比較例26は、比較例25を基準として同一のレベルであることを確認した。
【0150】
(実験例7)
下記表14の条件に変更したことを除き、前述の実験例3と同様の方法により熱間プレス成形部材を製造した。また、曲げ性に関連して下記方法により評価したことを除き、前述の実験例3と同様の基準で特性を評価した。
【0151】
<曲げ性>
曲げ性は、3点曲げ試験により測定し、最大荷重が発生した時の曲げ角を測定し、下記のような基準で分類した。
【0152】
AA:最大荷重時の曲げ角が50度を超える場合
A:最大荷重時の曲げ角が45~50度である場合
【0153】
【0154】
【0155】
上記表14及び15に示されたように、本発明による熱間プレス成形部材の製造条件を満たす発明例24、25は、生産性、溶接性、及び成形性が何れも優れていた。特に、ブランクの厚さが1.5mmを超える場合であって、上記B区間の温度が940℃超過960℃以下を満たす発明例24は、それを満たさない発明例25に比べて、前述の生産性、溶接性、及び成形性に加えて、曲げ性がより優れていることを確認した。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成形部材の製造方法であって、
アルミニウム系めっき鋼板のブランクを加熱炉で加熱する段階と、
加熱されたブランクを加熱炉から取り出し、プレスに取り付けられた金型の上型と下型の間に移送して載置する段階と、
前記金型の上型が前記載置されたブランクに接触した後、成形が行われる成形段階と、を含み、
前記加熱炉は、ブランクの移送方向に順に備えられたA区間、B区間、及びC区間を含む連続式加熱炉であり、
前記A区間での加熱は、約a(0.2分、750℃)、b(1.0分、750℃)、c(1.0分、800℃)、d(1.5分、900℃)、e(0.2分、900℃)の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形abcdeにより規定される条件を満たし、
前記B区間での加熱は、
【数1】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形fghiにより規定される条件を満たし、
前記C区間での加熱は、
【数2】
の累積炉内維持時間及び雰囲気温度の座標を有する図形jklmにより規定される条件を満たし、最高雰囲気温度は前記B区間の最高雰囲気温度より低く、
下記関係式1を満たし、
前記ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間が2秒以下である、熱間プレス成形部材の製造方法。
[関係式1]
T≦8.2×t+(temp-900)/30
(前記Tは、移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和を表し、単位はs(秒)である。前記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。前記tempは、加熱炉の取り出し温度を表し、単位は℃である。)
【請求項2】
前記C区間での加熱は、930℃以下の雰囲気温度で行われる、請求項1に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項3】
前記C区間の最高雰囲気温度は、前記B区間の最高雰囲気温度(Tb)を基準としてTb-20℃以下である、請求項1
又は請求項2に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項4】
前記tが1.5mm以下であり、前記B区間の雰囲気温度が930℃超過940℃未満である、請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項5】
前記tは1.5mm以下であり、前記C区間の雰囲気温度が870℃以上880℃未満である、請求項1
から請求項4のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項6】
前記tが1.5mm超過であり、前記C区間の雰囲気温度が870℃以上900℃未満である、請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項7】
前記tが1.5mm超過であり、前記B区間の雰囲気温度が940℃超過960℃以下である、請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項8】
前記移送して載置する段階の所要時間と、ブランクが載置されてから成形が行われる前までの所要時間との和が10秒超過である、請求項1
から請求項7のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項9】
前記ブランクのめっき層の厚さが25μm以上である、請求項1
から請求項8のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項10】
前記成形段階の後に、前記金型の上型がプレスの下死点に到達してから維持することで、成形された素材を急冷する金型内冷却段階と、
冷却された成形部材を取り出す成形部材の取り出し段階と、をさらに含み、
前記成形部材の拡散層の厚さが15μm以下であり、
前記成形部材の合金層の厚さが35~50μmである、請求項1
から請求項9のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項11】
前記成形段階の後に、前記金型の上型がプレスの下死点に到達してから維持することで、成形された素材を急冷する金型内冷却段階と、
冷却された成形部材を取り出す成形部材の取り出し段階と、をさらに含み、
前記成形部材の合金層の厚さに対する前記成形部材の拡散層の厚さの比(拡散層の厚さ/合金層の厚さ)が0.33以下である、請求項1
から請求項10のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【請求項12】
前記加熱する段階は、下記関係式2の値が2以上を満たすように行われる、請求項1
から請求項11のいずれか一項に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
【数3】
(前記関係式2中、前記T
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉雰囲気温度を表し、単位は℃である。前記t
nは、ブランクの移送方向にn番目の区間での加熱炉維持時間を表し、単位は分である。前記t
totalは、加熱炉での総維持時間を表し、単位は分である。xは、加熱炉で特定雰囲気温度に維持される区間の個数を表す。前記kは、B区間のうち最終区間である場合に3の整数であり、B区間後の区間である場合に-1の整数であり、その他の場合に1の整数である。前記tは、ブランクの厚さを表し、単位はmmである。)
【国際調査報告】