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特表2023-534253創傷治癒のためのDOPA修飾ゼラチンおよびその製造方法
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  • 特表-創傷治癒のためのDOPA修飾ゼラチンおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】創傷治癒のためのDOPA修飾ゼラチンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20230801BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 47/42 20170101ALN20230801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20230801BHJP
   A61K 38/39 20060101ALN20230801BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20230801BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
C07K14/78
A61L26/00
A61P17/02
A61K47/42
A61P43/00 121
A61K38/39
A61K45/00
A61K9/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502719
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 US2021040710
(87)【国際公開番号】W WO2022015550
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】63/051,781
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】カデムホッセイニ、アリレザ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ハンジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、イー
(72)【発明者】
【氏名】ジャバルザデ、エフサン
(72)【発明者】
【氏名】オクル、ラフミ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC19
4C076EE42
4C076EE42A
4C076FF02
4C081AA07
4C081AA12
4C081BA11
4C081BA12
4C081BB04
4C081BB08
4C081CD151
4C081CE01
4C081CE02
4C081DA12
4C081EA02
4C081EA05
4C081EA16
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA17
4C084AA19
4C084BA44
4C084CA21
4C084DA40
4C084MA02
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA532
4C084ZA891
4C084ZB112
4C084ZB312
4C084ZB352
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA50
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA70
(57)【要約】
ブタゼラチン中の顕著なアミノ酸であるチロシンのモノフェノール基が、酵素ベースのDOPA修飾技術を用いてカテコール基に変換されたDOPA-ゼラチンが開示されている。得られたDOPA-ゼラチンは、良好な機械的強度および接着力を示すことが見出された。さらに、in vitro研究により、DOPA-ゼラチンが、典型的に皮膚創傷治癒プロセスに関与する2つの細胞であるHDF細胞およびHaCaT細胞に対して細胞傷害性を有さないことが示される。さらなるRT-PCRおよび血管新生調査により、DOPA-ゼラチンが創傷関連遺伝子の発現を促進し、新血管形成を容易にすることが示された。マウスの全層背側欠損モデルにおいて、DOPA-ゼラチン処置群は、創傷閉鎖時間を減少させ、毛包成長を増強した。これらの結果は、本明細書に開示されるDOPA-ゼラチンヒドロゲル組成物が、創傷治癒プロセスを増強することができる有効な機能性生体物質であることを実証する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを作製する方法であって、
ブタゼラチンを含有する溶液を提供するステップと、
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共にインキュベートして3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-を作製するステップと、を含む、(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項2】
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共にインキュベートして、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを形成する方法であって、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示し、且つ
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示すように選択された、請求項1に記載の(DOPA)-を作製する方法。
【請求項3】
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共に30分超または60分超インキュベートする、請求項2に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項4】
チロシナーゼの濃度が100~200U/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項5】
前記溶液を加熱して前記チロシナーゼを不活性化することをさらに含む、請求項1に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項6】
3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンが一段階合成反応で作製される、請求項1に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法によって作製された3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチン組成物。
【請求項8】
実質的に全てのチロシン残基が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されたブタゼラチンを含む、治療用組成物。
【請求項9】
前記組成物は、実質的に金属イオンを含まない、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記組成物は無菌であり、且つ薬学的に許容される担体を含む、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項11】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項12】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも700Paの貯蔵弾性率を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項16】
抗生物質、抗炎症剤、止血剤、塞栓剤、および化学療法剤から選択される少なくとも1つの追加の治療剤をさらに含む、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項17】
前記ブタゼラチンの前記チロシン残基のうち少なくとも90%が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されており、
前記組成物は無菌であり、且つ薬学的に許容される担体を含み、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示し、且つ
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項18】
請求項8に記載の組成物を予め選択された部位に送達する方法であって、
前記組成物を、開口部を含む第1の端部および第2の端部を有する管内に配置するステップと、
前記管の前記第2の端部に力を加えるステップであって、前記力は、前記開口部を介して前記管から前記組成物を移動させるのに十分である、ステップと、
前記開口部を介して前記管から前記予め選択された部位に前記組成物を送達するステップと、を含む、方法。
【請求項19】
前記部位は、in vivo部位である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記部位は、個体が外傷または損傷を経験したin vivo位置にある、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術分野は、一般に、生物医学的用途のための3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)修飾ポリマーに関する。より具体的には、本技術分野は、DOPA-ゼラチン組成物、およびチロシナーゼを使用してそれを作製するための一段階プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
新規で独特な創傷被覆材の開発は、過去数十年にわたって広範に追求されてきた。再生医療および組織工学が進歩するにつれて、創傷被覆材もまた、単に創傷をガーゼで覆うのではなく、創傷治癒を促進する最先端技術に進化してきた[1、2]。作製された様々な創傷被覆材の中で、生物活性/生体適合性ヒドロゲルは、創傷領域の周囲に水分を保持するための高含水量[3~5]、壊死組織を除去し、創傷滲出液を吸収する能力[6、7]、ならびに、酸素、二酸化炭素、および水蒸気などの必須気体の拡散のための透過性構造[8、9]などのそれらの固有の利点により、多くの注目を集めている。しかしながら、いくつかの創傷被覆ヒドロゲルはまた、不十分な機械的強度および接着特性に悩まされている[10]
【0003】
これらの障害を克服し、且つヒドロゲルの接着能力を改善する必要性により、研究者らは、湿潤条件下であっても様々な表面に対して強い接着力を示すイガイを調査するように駆り立てられた[11]。研究により、イガイの接着能力は、イガイの足器官によって分泌されるタンパク質中の特殊アミノ酸である、豊富な3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)の結果であることが実証されている[12]。多くの天然ポリマーは、DOPAで修飾されてそれらの接着力を改善しており、DOPA-キトサン[13]、DOPA-PEG[14]、DOPA-HA[15]、およびDOPA-アルギン酸塩[16]が挙げられるが、これらに限定されない。これらの研究において、DOPA修飾ヒドロゲルは、接着特性を増加させるだけでなく、生物活性も改善する。例えば、カテコール修飾ヒアルロン酸は、細胞生存率を増加させ、アポトーシスを減少させ、2つのタイプの細胞(ヒト脂肪由来幹細胞および肝細胞)の機能を増強する。ドーパミン修飾アルギン酸ヒドロゲルは、薬物吸着および放出についてより良好な特性を有する。
【0004】
従来のDOPA含有ヒドロゲルを作製するためのプロセスは、多段階の調製および精製の方法を必要とし、これは時間がかかり、且つ複雑である。さらに、ほとんどのDOPA関連ヒドロゲルは、DOPA構造の供給源として化合物ドーパミン(DA)を組み込んでいた。しかしながら、残念なことに、合成プロセスにおける外因性DAは、通常、ポリドーパミンに容易に重合され、これにより最終物質の接着特性が低下する[17]。したがって、DOPA構造をポリマーに導入するより迅速且つより直接的な方法が非常に望ましい。加えて、当該技術分野において、様々な治療状況、例えば、創傷治癒において使用することができる新しいDOPA-ゼラチンヒドロゲルが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施形態は、修飾ブタゼラチン組成物からDOPA-ゼラチンヒドロゲルを形成するための方法および物質を含む。本発明の実施形態は、本明細書に開示される方法によって作製されるDOPA-ゼラチン接着性ヒドロゲルをさらに含む。本明細書に開示される方法によって形成されるヒドロゲルは、増強されたin vivo接着性プロファイルおよびin vivo活性プロファイルを含む多数の望ましい物質特性を有する。例えば、本発明のヒドロゲルは、生物学的応答を増大させて、例えば、創傷治癒を増強する能力を有することが発見されている。
【0006】
以下に説明されるように、外因性DA化合物を使用せずにゼラチンなどのチロシン含有ポリマー上にDOPA部分を形成する1つの方法は、酵素チロシナーゼを使用することによるものである。ポリフェノールオキシダーゼとしてよく知られているチロシナーゼは、チロシン中のフェノール基を、DOPA上に見出される主要な化学基であるカテコール基に直接触媒することができる。本明細書に開示されるようなチロシナーゼを使用する修飾ブタゼラチンの一段階合成は、DOPA修飾ヒドロゲルを作製するためのより効率的で環境に優しいアプローチである。合成には数時間しか必要とせず、この手順により、化合物を使用する合成と比較して毒性の低い物質が得られる。さらに、他の物質と比較して、ゼラチンは容易に入手可能であり、好ましい生体適合性を示す。加えて、本明細書に開示されるDOPA-ゼラチン組成物は、創傷治癒プロセスの重要な側面である止血能力を示すことが発見された。
【0007】
本明細書に開示される発明は、多数の実施形態を有する。1つの方法論的実施形態では、ブタゼラチンを使用する一段階反応によるチロシン残基のDOPAへの変換を触媒するために、チロシナーゼが使用された。次いで、in vivo接着力、ならびに創傷治癒の促進におけるこのようなDOPA-ゼラチン組成物の効力を(例えば、細胞および遺伝子発現レベルで)評価した。我々の研究の結果は、チロシナーゼを使用する我々の一段階法が、DOPAのカテコール基を含有し、且つ創傷被覆材に必要とされるその接着性および耐力特性を維持するブタゼラチンヒドロゲルを生成することを示した。我々のDOPA-ゼラチン組成物はまた、創傷治癒プロセスに関与する2つの重要な細胞である線維芽細胞およびケラチノサイトの両方のin vitroでの増殖および遊走を改善する。DOPA-ゼラチンをマウスの皮膚創傷領域に適用したとき、治癒速度および毛の成長の両方が、対照群および未処置ゼラチン群と比較して加速された。
【0008】
本発明の1つの例示的な実施形態では、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを作製する方法は、(1)ブタゼラチンを含有する溶液を提供することと、(2)ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼとともにインキュベートして3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを作製することとを含む。ブタゼラチンを含有する溶液は、好ましくはチロシナーゼとともに少なくとも1時間(例えば、37℃で数時間、好ましくは約3時間)インキュベートされる。一実施形態では、使用されるチロシナーゼの濃度は、100~200U/mLである。
【0009】
本発明の別の実施形態は、実質的に全てのチロシン残基が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されているブタゼラチンを含む治療用組成物である。本発明のいくつかの実施形態では、組成物は無菌であり、薬学的に許容される担体を含む。任意選択で、組成物は、抗生物質、抗炎症剤、止血剤、塞栓剤、化学療法剤などの少なくとも1つの追加の治療剤をさらに含む。治療用組成物は、多くの状況で使用され、例えば、組成物を創傷部位(例えば、皮膚または非皮膚)に送達し、創傷治癒を促進し得る。
【0010】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体例は、本発明のいくつかの実施形態を示すが、限定ではなく例示として与えられることを理解されたい。本発明の主旨から逸脱することなく、本発明の範囲内で多くの変更および修正を行うことができ、本発明はそのような修正をすべて含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、DOPA修飾反応を概略的に示す。図1Bは、DOPA-ゼラチンのチロシナーゼ濃度依存性修飾を示す写真を示す。図1Cは、酵素的DOPA修飾のUV-VIS測定を示す。図1Dは、DOPA-ゼラチンのFTIR分析を示す。図1Eは、Arnow法によるDOPA含量の定量化を示すグラフを示す。
図2図2Aは、DOPA修飾ゼラチンの、ラップせん断試験(左)、最大負荷(中央)および引張応力(右)のグラフを示す。図2Bは、破裂試験(左)および最大破裂圧力(右)のグラフを示す。図2Cは、DOPA修飾ゼラチンのレオロジー試験結果を示す。
図3図3Aは、DOPA-ゼラチンのin vitro細胞毒性を示すために使用されたHDF細胞の生/死アッセイの代表的な画像を示す。図3Bは、HDF細胞生存率およびDOPA-ゼラチンの増殖効果の定量分析を示す。図3Cは、HaCaT細胞の生/死アッセイの代表的な画像を示す。図3Dは、HaCaT細胞生存率およびDOPAゼラチンの増殖効果の定量分析を示す。
図4図4Aは、DOPA-ゼラチンのHDF細胞遊走アッセイの代表的な画像を示す。図4Bは、DOPA-ゼラチンのHDF細胞遊走効果の定量分析を示す。図4Cは、DOPA-ゼラチンのHaCaT細胞遊走アッセイの代表的な画像を示す。図4Dは、DOPA-ゼラチンのHaCaT細胞遊走効果の定量分析を示す。図4Eは、DOPA-ゼラチンのHDF細胞遊走サンプルの遺伝子発現分析結果を示す。図4Fは、DOPAゼラチンのHaCaT細胞遊走サンプルの遺伝子発現分析結果を示す。
図5図5A~5Dは、血管新生アッセイの結果を示す。図5Aは、直接的方法についての血管新生の代表的な画像を示す。図5Bは、直接的方法についての血管新生アッセイの定量分析である。図5Cは、間接的方法についての血管新生の代表的な画像を示す。図5Dは、間接的方法についての血管新生アッセイの定量分析である。
図6図6A~6Dは、DOPA-ゼラチンのin vivo研究を示す。図6Aは、マウス皮膚モデル上の創傷治癒画像を示す。図6Bは、創傷治癒領域の定量分析を示す。図6Cは、組織構造の画像を示す。
図7】皮膚組織に位置する創傷部位に送達されるDOPA-ゼラチンを示す。
図8】Arnow法による吸光度およびDOPA濃度の検量線を示す。
図9】直接的方法による血管新生の代表的な画像を示す。
図10】直接的方法の分岐点および管の数の定量結果を示す。
図11】ゼラチンおよびDOPA-ゼラチンのin vivo分解試験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態の説明において、本明細書の一部を形成し、本発明を実施することができる特定の実施形態を例示として示す添付の図面を参照することができる。他の実施形態が利用されてもよく、本発明の範囲から逸脱することなく構造的な変更がなされてもよいことが理解されたい。別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記法、および他の科学用語または専門用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合において、一般的に理解される意味を有する用語は、明確にするために、および/または容易に参照するために本明細書において定義されるが、本明細書におけるそのような定義の包含は、必ずしも、当技術分野において通常理解されるものに対する実質的な差異を表すと解釈されるべきではない。本明細書に記載または参照される技術および手順の態様の多くは、当業者によってよく理解され、通常、使用される。以下の文章は、本発明の様々な実施形態を説明する。
【0013】
本発明の実施形態は、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを作製する方法を含む。典型的には、これらの方法は、ブタゼラチン(その商業的入手可能性のためにヒトゼラチンよりも望ましい)を含有する溶液を提供するステップと、次いで、ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共に、30分超または少なくとも1時間などの特定の期間(例えば、室温または37℃で)インキュベートするステップとを含み、これによって3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-が作製される。特定の方法論的実施形態において、ブタゼラチンを含有する溶液は、室温または37℃で少なくとも2時間または少なくとも3時間、チロシナーゼと共にインキュベートされる。典型的には、チロシナーゼの濃度は、300U/mLまたは200U/mL以下、例えば、100~200U/mLである。典型的には、これらの方法は、溶液を加熱してチロシナーゼを不活性化することを含む(例えば、適切な3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)が作製される時点で)。本発明の特定の実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、一段階合成反応で作製される。
【0014】
本発明の実施形態は、本明細書に開示される方法によって作製される3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチン組成物を含む。本発明の実施形態は、実質的に全て(例えば、少なくとも80%、85%、90%または95%)のチロシン残基が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されたブタゼラチンを含む治療用組成物を含む。本発明の特定の実施形態では、組成物は、実質的に金属イオンを含まない(例えば、Y.Chan Choi、J.S.Choi、Y.J.Jung、Y.W.Cho、Journal of Materials Chemistry B 2014、2、201を参照されたく、その内容は参照により組み込まれる)。本発明のいくつかの実施形態では、組成物は無菌であり、薬学的に許容される担体を含む。任意選択で、組成物は、抗生物質、抗炎症剤、止血剤、塞栓剤、および化学療法剤から選択される少なくとも1つの追加の治療剤をさらに含む。
【0015】
Choiらは、チロシナーゼを使用して、ヒト脂肪組織から抽出されるゼラチンのチロシン残基中のフェノールを変換し、形成されたDOPA-ゼラチン中のDOPA含量を定量した[21]。ブタ皮膚ゼラチン中の平均チロシン含量は、ヒトゼラチン中の10/1000残基と比較して、26/1000残基であり[33]、この有意な構造的差異(例えば、チロシン残基がほぼ3倍の含量)により、本明細書に開示される方法に従って修飾されたブタ皮膚ゼラチンの物質特性が予測不能となる(すなわち、ヒトゼラチンと比較して)。驚くべきことに、本明細書に開示される方法により、予想外の非常に望ましい物質特性を有する修飾ブタゼラチン組成物が生成された。本発明の特定の実施形態において、これらの組成物を作製する方法は、選択された物質特性を有する組成物を形成するように適合される。本発明のいくつかの実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示す。本発明の特定の実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示す。本発明の特定の実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力(load force)を示す。本発明の特定の実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示す。本発明の特定の実施形態において、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも700Paの貯蔵弾性率を示す。本発明の例示的な一実施形態では、ブタゼラチンのチロシン残基の少なくとも90%が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されており、組成物は無菌であり、薬学的に許容される担体を含み、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは少なくとも2MPaのせん断強度を示し、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは少なくとも6kPaの破裂圧力を示し、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは少なくとも60Nの負荷力を示し、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは少なくとも3MPaの引張応力を示す。
【0016】
本発明の実施形態は、本発明を使用する方法、例えば、組成物を創傷部位に送達することを含む、本明細書に開示される治療用組成物を使用する方法を含む。本発明のある特定の実施形態は、本明細書に開示される組成物を予め選択された部位に送達する方法であって、開口部を含む第1の端部および第2の端部を有する管内に組成物を配置するステップと、管の第2の端部に力を印加するステップであって、その力は、開口部を介して管から組成物を移動させるのに十分であるステップと、次いで、開口部を介して管から予め選択された部位、例えば、in vivo部位(例えば、個体が皮膚創傷等の外傷または損傷を経験したin vivo位置)に組成物を送達するステップとを含む方法を含む。
【0017】
本発明の組成物のある特定の実施形態は、例えば、保存剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖およびpH調整剤からなる群より選択されるものなどの薬学的賦形剤を含む。ヒトへの投与に適した組成物について、「賦形剤」という用語は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams&Wilkins,21st ed.(2006)(この内容は、本明細書中で参考によって組み込まれる)に記載される成分を含むことを意味するが、これらに限定されない。
【0018】
任意選択で、本発明の組成物は、塞栓剤、抗炎症剤、凝固を調節する薬剤、抗生物質、化学療法剤などの1つ以上の治療剤を含む。
本発明の組成物は、薬物、細胞、タンパク質、および生物活性分子(例えば、酵素)などの治療剤の担体または骨格として使用するために製剤化され得る。担体として、このような組成物は、種々の病理学的状態の処置のために、薬剤を組み込むことがあり、それらを体内の所望の部位に送達し得る。
【0019】
本発明のある特定の実施形態では、組成物は、抗炎症剤、塞栓剤、および化学療法剤から選択される治療剤を含む。例示的な塞栓剤としては、例えば、ステンレス鋼コイル、吸収性ゼラチン綿撒糸および粉末、ポリビニルアルコール発泡体、エタノール、接着剤などが挙げられる。例示的な止血剤としては、例えば、Celox、QuiKClotおよびHemconが挙げられる。本発明のそのような実施形態における使用に適合され得る特定の例示的な材料および方法は、例えば、Hydrogels:Design,Synthesis and Application in Drug Delivery and Regenerative Medicine 1st Edition,Singh,Laverty and Donnelly Eds、およびHydrogels in Biology and Medicine(Polymer Science and Technology)UK ed. J.Edition by J. Michalek et al.に見出される。さらに、骨格として、本発明の組成物は、組織修復および所望の組織の再生(例えば、皮膚、軟骨、骨、網膜、脳、および神経組織修復、血管再生、創傷治癒など)において使用するための細胞および他の薬剤のための柔軟な存在空間を提供することができる。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物は、ユーザが組成物の1つ以上のレオロジー特性を調節することを容易にするその能力のために選択された管(例えば、カテーテル)内に配置される(例えば、外径1.7mm(5-FR)の一般的なカテーテルまたは外径0.8mm(2.4-Fr)のマイクロカテーテルに手動で圧力を加えることによって)。本発明の実施形態における使用に適合させることができる特定の例示的な物質および方法は、例えば、Biomedical Hydrogels: Biochemistry,Manufacture and Medical Applications(Woodhead Publishing Series in Biomaterials)1st Edition;Steve Rimmer(Editor)に見出される。
【0021】
図7は、皮膚組織に位置する創傷部位に送達される、本明細書に記載されるDOPA-ゼラチン治療物質を示す。DOPA-ゼラチン治療物質は、酵素チロシナーゼを使用してゼラチン中のチロシンのモノフェノール基をDOPAのカテコール基に変換する酵素的褐変を含む一段階合成反応によって作製された。DOPA-ゼラチン治療物質は、商業的に容易に入手可能なブタゼラチンを使用する。さらに、ブタゼラチンをチロシナーゼに数時間、好ましくは約3時間曝露して、すべてのチロシン残基の完全な変換を確実にした。DOPA-ゼラチンは、1gのゼラチンを10gのMilli-Q(登録商標)水に80℃で1時間溶解することによって調製することができる10%(w/w)ゼラチン溶液(タイプA、G1890、Sigma、米国カリフォルニア州)を使用して形成される。ゼラチン溶液に添加されるチロシナーゼのストック溶液(10U/μL)は、50kUチロシナーゼ粉末(T3824、Sigma、米国ミズーリ州)を5mLダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、pH6.5、Gibco、米国カリフォルニア州)に室温で添加することによって作製される。様々な濃度のチロシナーゼを使用することができる(例えば、0、50、100、200、500U/mL)。反応は、発振周波数2000rpmのEppendorf ThermoMixer(登録商標)C(Eppendorf、米国ニューヨーク州)などのミキサー中、37℃で行うことができる。特定のインキュベーション時間(例えば、約3時間)の後、温度を65℃まで1時間の間に上昇させて酵素を不活性化してもよい。DOPA-ゼラチン最終溶液は、直ちに使用してもよく、または後の使用のために-80℃で保存してもよい。DOPA-ゼラチン溶液組成物は、Choiらにおいて使用されたものと類似の金属イオンを実質的に含まないことに留意されたい。
【0022】
所望の機械的特性および生物活性を有するDOPA-ゼラチンの生成に最適な条件が存在することが実験的に決定された。一実施形態では、チロシナーゼを約3時間インキュベートして、ブタゼラチン中のチロシン残基の全てまたは実質的に全てがDOPAに変換されたことを確実にする。さらに、約100~約200U/mLのチロシナーゼ濃度が、生物活性の観点から望ましい。さらに、ブタゼラチンの使用は、ヒトゼラチンと比較してチロシン残基のより高い出現率のために好ましい。さらに、ブタゼラチンは大量に市販されている。
【0023】
図7は、送達デバイス(例えば、シリンジ)を使用して創傷位置に送達されるDOPA-ゼラチンを示す。DOPA-ゼラチンは、組織(例えば、皮膚組織)上の適用部位に直接送達することができる。皮膚組織は、DOPA-ゼラチンを使用して治癒され得るが、他の組織型もまた、治療用DOPA-ゼラチンに曝露され得る。さらに、DOPA-ゼラチンは、外部創傷だけでなく内部創傷にも適用することができる。加えて、他の実施形態では、DOPA-ゼラチンを適用するためにシリンジなどの送達デバイスを必要としなくてもよい。DOPA-ゼラチンは、容器、パッケージなどから適用することができる。
【0024】
結果および考察
DOPA-ゼラチン合成および特徴付け
DOPA-ゼラチンを、一段階合成反応を使用して生成した(図1A)。酵素的褐変プロセスに関与するポリフェノールオキシダーゼ(PPO)酵素の1つとして、チロシナーゼは、ゼラチン中のチロシンのモノフェノール基をDOPAのカテコール基に変換する[23~25]。本明細書に開示される実験では、チロシナーゼを様々な濃度で使用して、ブタ由来DOPA-ゼラチンの合成を触媒した。ゼラチン溶液は、3時間の反応後に茶色に変化し(図1B)、これは、DOPA構造の形成を示した[21]。茶色は、酵素濃度の増加とともに深まった。280nm付近のUV吸収ピークは、カテコール化学構造を示す[21、26、27]。従って、DOPA-ゼラチン合成反応を経時的にモニターした。Choiの研究では、反応時間は30分に設定された。ここで、DOPA形成に対する反応時間の影響を調査した。反応時間の延長に伴い、280nm付近の吸収ピークが徐々に増加したことから、チロシンにおけるモノフェノールの水酸化が示唆された(図1C)。吸光度値は、3時間の反応を超えて実質的に増加せず、これは飽和を示す(図1C、折れ線グラフ)。従って、モノフェノール基をカテコール基に変換するために最適化されたDOPA-ゼラチン合成時間は、約3時間で確立された。他のポリマーを改変するために使用される類似の修飾方法と比較して、ゼラチンを改変するための方法は、より効果的である。例えば、酸化アルギネートへのDOPAの導入は、インキュベーション、透析、および凍結乾燥からなる多段階の3日間のプロセスを必要とする[28]。DOPA-キトサンヒドロゲル調製も複雑であり、撹拌、型への注型、冷却装置での一晩の貯蔵、および24時間の真空乾燥を必要とする[13]
【0025】
酵素的DOPA変換を確認するために、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を実施した。純粋なL-DOPAのFTIR吸収スペクトルは、構造中に存在する多様な官能基、すなわちアミノ酸部分およびヒドロキシル化ベンゼン環に従って、いくつかの明確なバンドを示した(図1D、表1)。DOPA-ゼラチン合成を検証するための最も重要な吸収バンドは、カテコール基由来のOH伸縮による1340cm-1およびアリール環に結合した酸素による1252cm-1である。DOPA-ゼラチン試料のスペクトルでは、o-ジフェノール環に対応する吸収の有意な増加が、OH基およびCN基から3670~3115cm-1の範囲で認められた(図1D)。さらに、1786~400cm-1から、純粋なL-DOPAの吸収帯と同様の吸収帯の増加が観察された[29、30]。これらの結果は、チロシン中のモノフェノール残基のヒドロキシル化が満足に起こったという強力な証拠を提供する。
【0026】
【表1】
【0027】
DOPA修飾を評価するために、化合物中に存在する化学基の有用な比色指標を提供するArnowアッセイを利用した[31]。具体的には、チロシンの存在下で干渉なしにDOPAの量を検出し得る[32]。Arnowのプロトコルと同じように、DOPA構造中のo-ジフェノール基は亜硝酸塩と反応して、アルカリ溶液中で明るい赤色発色団を生成する(図8)。520nmでの吸光度をモニターして、DOPAの存在を定量した。吸光度値およびDOPA濃度は、極めて直線的に関連するようであり、変数間の正の相関を示した。各試料のDOPA含量を標準曲線によって計算した(図1E)。Tyr100試料中の平均DOPA濃度は、24.12±2.40μg/mLであることが見出され、以前の研究で報告された値よりもはるかに高かった[21]。ブタ皮膚ゼラチン中の平均チロシン含量は26/1000残基[33]、およびヒトゼラチン中の10/1000残基であったので、モノフェノール基のDOPAへの変換を飽和に近づけるために3時間の反応時間を使用した。要約すると、生物医学的研究に適合する、DOPA-ゼラチンを生成するための一段階法が創出された。この方法は、他のバイオポリマーに対するゼラチン修飾およびDOPA変換のための同等の方法よりも単純であり、且つ毒性が低い。
【0028】
DOPA修飾ゼラチンの接着特性の評価。
いくつかの異なる方法を用いて、DOPA-ゼラチンの接着特性を評価した。ラップせん断試験は、その単純さのために、接着性挙動を特徴付けるために最も一般的に使用される実験手順である[34、35]。重ね合わせた2枚の基材に対して軸線方向に引張負荷を加えることにより、試験片にせん断応力を加える。最大負荷および破損の開始の点(負荷の最初の低下)を図2Aに示す。純粋なゼラチンと比較して、全てのDOPA-ゼラチンは、せん断強度の有意な増加を示した。純粋なゼラチンの引張強度は0.47±0.03MPaであったが、他のDOPA-ゼラチン試料ははるかに高くなった。具体的には、さまざまなDOPA-ゼラチンの中で、Tyr100試料は、84.9±12.4Nの最も高い負荷力および4.25±0.62MPaの引張応力を示した。DOPA構造は、その強度および張力に対する抵抗を改善することによってゼラチンの接着特性を増加させ得ることが示された。興味深いことに、酵素濃度の増加とともに、最大負荷力および引張応力は減少した。酵素反応の間、チロシナーゼは、モノフェノールのヒドロキシル化だけでなく、o-ジフェノールのo-キノンへの変換にも関与した[36]。DOPAのDOPA-キノンへの酸化反応は、その後、接着剤の結合力に寄与する共有結合の形成をもたらした[37、38]。DOPAの酸化されていないカテコール形態は、主に接着力に関与し、カテコール酸化は、形成されたo-キノンが非接着性であるため、その接着能力に有害である[39、40]。DOPA-キノンは、約380nmのピークでUV-Visによってモニターされ得る。反応時間の延長とともに、380nm付近の吸光度も増加し(図1C)、これは、チロシナーゼへのより多くの曝露とともに形成されたDOPA-キノンを示した。Tyr500サンプルについては、より高いチロシナーゼ濃度のために、より多くのDOPA-キノンが形成され、これはDOPA-ゼラチンの接着力を劣化させた。100~200U/mLの濃度のチロシナーゼを用いた産生を行って、物質の接着特性を最大化した。
【0029】
破裂圧試験は、ヒドロゲルが圧力に耐え、組織に接着して密封し、漏出を防止する能力を調査する別の方法である[41]。物質の破裂圧は、2つの特性:結合力(圧力に耐える物質内の力)特性および接着(表面への付着)特性によって影響され得るが、前者はより大きな寄与を有する[42]。さらに、破裂圧はまた、DOPA含量と共に増加した。Tyr500試料については、Tyr100およびTyr200よりも低い接着力を有していたが、その強い結合力のために、11.9kPaの最大破裂圧力を示した。結合力が大きすぎると、表面に対する有意な親和性がない硬い物質となり、従って接着力が低下することがある[43]。架橋なしでは、DOPA-ゼラチンの破裂圧力は、いくつかの市販の外科用シーラントと比較して同様の性能を有していた[44]。これらの結果に基づいて、さらなる実験を、以前の研究で報告されたよりもはるかに少ない酵素を使用して、100~200U/mLのチロシナーゼ濃度によって得られた最も高い接着特性で行った[21]
【0030】
レオロジーはまた、それが迅速で、敏感であり、少量の試料しか必要としないので、ヒドロゲルの機械的特性を特徴付けるために一般的に使用される[45]。それはヒドロゲルの粘弾性を特徴付けるための強力なツールである[46]。DOPA-ゼラチンの機械的特性をさらに研究するために、レオロジー試験を使用した。ヒドロゲルとみなされるためには、物質は、そのレオロジー挙動に従っていくつかの要件を満たさなければならない。貯蔵弾性率(G’)は、変形の周波数とは比較的無関係でなければならず、G’は、損失弾性率(G”)よりも高くなければならない[47]。0.1%~10%のせん断ひずみの振幅掃引および0.1rad/s~10rad/sの周波数掃引により、すべての試料がヒドロゲル様挙動を示すことが検証された(図2C)。DOPA-ゼラチンサンプルは、純粋なゼラチンよりも有意に高い貯蔵弾性率を示した。DOPA-ゼラチン群間の差は明らかではなかったが、Tyr100およびTyr200の貯蔵弾性率はそれぞれ964Paおよび942Paであり、Tyr500の718Paよりも比較的高かった。レオロジー試験の結果は、DOPA-ゼラチンが望ましい機械的特性を有する弾性ネットワークを形成したことを明らかにした。全ての試料は、1~100s-1の対数せん断速度スケールで粘度の低下を示し、これは、物質がせん断減粘特性も有することを示す。
【0031】
インビトロでのDOPA-ゼラチンの細胞毒性および細胞適合性
DOPA-ゼラチンの細胞毒性にアクセスするために、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)およびヒトケラチノサイト(HaCaT)細胞を使用したが、これは、それらが皮膚創傷治癒と密接に関連しているからである[48]。それらの両方が、皮膚修復/再生プロセスにおける炎症期に応答する。炎症シグナルは、それらの増殖および成熟を活性化し、それらは創傷治癒に不可欠である[49]。線維芽細胞は、表皮と真皮とを分離する基底膜を構成するコラーゲンなどのマトリックス関連タンパク質を沈着させることが示されており、一方、ケラチノサイトは、病原体に対するバリアを形成する密着結合を形成し、毛包を生成する[50,51]。結果は、HDF細胞がさまざまなDOPA-ゼラチン試料上で良好に増殖したことを示した(図3A)。4つの濃度すべてのDOPA-ゼラチンは、細胞が最大7日間増殖したので細胞毒性を示さなかった。7日目に、DOPA-ゼラチン試料上のHDF細胞密度は、純粋なゼラチン上よりも有意に高く、DOPA-ゼラチン上に播種された細胞は、よりクラスター化した形態を有する豊富な細胞質を有していた。ゼラチン試料およびDOPA-ゼラチン試料の両方での細胞生存率は90%を超えたままであり、群間で統計的に有意な差を示さず、これは、DOPA-ゼラチンによって引き起こされる細胞毒性がなかったことを示す。7日後のDOPA-ゼラチン上での細胞の増殖速度は、元の細胞濃度の約13倍であり、これは、純粋なゼラチン上に播種された細胞と一致した(図1B)。結果は、チロシン上のカテコール基へのフェノールの変換が、真皮の回復において役割を果たし得るより大きな線維芽細胞増殖をもたらすという結論を支持する[52、53]
【0032】
さらに、ゼラチン試料およびDOPA-ゼラチン試料は両方とも、皮膚の表皮で見出すことができるHaCaT細胞に対して有益な効果を示した(図3C)。しかしながら、3日目までに、画像間の差は、細胞密度がチロシナーゼ濃度に依存することを示した。より高いチロシナーゼ濃度は、より高いHaCaT細胞密度を達成する物質をもたらした。図3Dに示すように、3日後の増殖速度は、チロシナーゼ濃度が0から200U/mLに上昇するにつれて、930%から2612%に増加した。7日後、DOPA-ゼラチン試料の細胞生存率は全て90%を超え、増殖率は3000%超に達し、HDF細胞の増殖率よりもはるかに高かった。
【0033】
本明細書で行った実験によれば、DOPA-ゼラチンは高い細胞適合性を有し、創傷治癒においてHaCaT細胞およびHDF細胞の両方を補助する。典型的なシーラントは、細胞がゆっくりと遊走し増殖する間、損傷部位の外部病原体への曝露を遮断し得るが、DOPA-ゼラチンは、2つの異なる細胞型の増殖を明らかに増加させるとともに2つの皮膚構成要素の治癒を加速させる生物活性的な合図を提供する。
【0034】
in vitroでの細胞遊走に対するDOPA-ゼラチンの効果
細胞遊走を評価するために、スクラッチ傷アッセイを実施した。このアッセイは、融合性細胞単層中にギャップを作製して創傷を模倣し、その後の細胞運動をモニターすることを含む。HDF細胞は、非被覆プレートまたは純粋なゼラチン被覆プレートよりも、DOPA-ゼラチン試料上でより速い遊走を示した(図4A)。24時間で、Tyr100試料およびTyr200試料における創傷収縮率はほぼ同一であり、90%超に達し、これは、約60%の率の他の群よりも有意に高かった。最も注目すべきことに、Tyr100は、97%の創傷閉鎖率を容易にした(図4B)。それは、DOPA-ゼラチンがHDF遊走を容易にし、真皮層を形成するための細胞外マトリックス(ECM)成分の沈着を促進し得ることを示した。HaCaT細胞は同様の遊走挙動を示した(図4C、4D)。Tyr100試料およびTyr200試料は6時間で最大の遊走速度を有したが、他の群は比較的低かった。しかし、24時間後、HDFとは異なり、各群間の創傷収縮率は差を示さず、全て95%を超えた。これらの結果によれば、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の両方が、未修飾ゼラチンおよび対照群と比較して、特にTyr100試料およびTyr200試料について、DOPA-ゼラチン上で良好に遊走した。
【0035】
細胞遊走は、創傷治癒および組織リモデリングに必須である。創傷治癒の過程において、ケラチノサイトは、創縁の周囲の基礎集団から遊走して、病変を覆い、皮膚のバリア機能を回復させる[55]。真皮線維芽細胞はまた、創傷部位に遊走し得、そこで、それらは、皮膚創傷収縮に必要とされる仮のECMを合成する[56,57]。DOPA-ゼラチンは、表皮および真皮層治癒ならびにin vivo創傷閉鎖実験におけるその潜在的治癒効果のための良好な候補であることが実証された。
【0036】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ
細胞遊走とは別に、遺伝子発現は、修復応答を調整して創傷部位への持続的な損傷を防止するために絶えず変化している。創傷治癒は、細胞遊走、増殖、分化、血管新生、上皮形成、マトリックス沈着、およびリモデリングを含む、さまざまなプロセス、細胞とそれらの周囲の微小環境との間の相互作用を含む[58]。したがって、これらのプロセスに寄与する遺伝子発現を分析した。結果は、血管内皮増殖因子(VEGF)および上皮成長因子(EGF)の両方が、DOPA-ゼラチン群において最も高い発現レベルを有していたことを示した。HDFは、他の群と比較して、DOPA-ゼラチン上でより多くのMMP2の発現を示した(図4E)。VEGFが、コラーゲン沈着、血管新生、および上皮形成を含む複数の機構を介して創傷治癒を刺激することは周知である[59]。別の十分に特徴付けられた成長因子であるEGFは、再上皮形成を刺激し、皮膚切開の引張強度を増加させることができるケラチノサイトによって合成される[60、61]。さらに、ビメンチンは、線維芽細胞増殖、コラーゲン蓄積、ケラチノサイト分化転換、および創傷治癒における再上皮形成を直接調整する。これは、細胞固定ならびに上皮間葉遊走プロセスに関与する中間径フィラメントである。ビメンチンの喪失は、線維芽細胞増殖における重度の欠乏に寄与することも知られている[62]。マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)は、間質のリモデリングおよび基底膜の再形成に関与することが報告された[63、64]。毛の成長の成長期の間、成熟メラノサイトはチロシンからメラニンを合成し、これはチロシナーゼ関連タンパク質1(TRP1)によって制御される[65]。結果は、DOPA-ゼラチン群がTRP1の最大発現を有し、創傷治癒中に毛の成長を促進し得ることを示した。要約すると、DOPA-ゼラチンは、創傷治癒の多くの重要なプロセスを促進することが証明され、生物学的活性化の可能性を示した。
【0037】
血管新生アッセイ
遺伝子発現分析に基づいて、血管新生に対するDOPA-ゼラチンの効果も調査した。ゼラチン試料またはDOPA-ゼラチン試料をヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の皿に添加することによって、管形成に対するDOPA-ゼラチンの効果を直接モニターした。HUVEC増殖培地では、血管形成が、播種後4時間で早くも観察され、6時間で確認された(図9)。具体的には、DOPA-ゼラチン群における管形成は、対照群およびゼラチン群よりも2時間早く現れた。さらに、定量化により、DOPA-ゼラチン群は、分岐点および管の数の両方においてより高い結果を有することが示された(図10)。6時間で、DOPA-ゼラチン群における管の数は、他の2つの群の約1.7倍であった。これらの結果は、DOPA修飾が血管内皮細胞の生物活性特性に影響を及ぼし、血管の再内皮化を助け、従って創傷治癒を促進することを示す[68]。あるいは、間接的方法は、HUVECを培養するために、HDF細胞およびHaCaT細胞の皿から収集された馴化培地の適用を含む。この方法を用いて、HDF群およびHaCaT群の両方について同様の傾向が観察された。6時間の時点で、DOPA-ゼラチンは、対照群およびゼラチン群と比較して、各パラメータについて有意に良好な結果を示した(図5)。対照群とゼラチン群の間の差は劇的ではなかったが、それらはこれらの2つの細胞インキュベーション系におけるVEGF発現に対応した。図4Eに示されるように、HDF細胞およびHaCaT細胞の両方は、DOPA-ゼラチン群においてVEGFの最大の相対的発現を示したが、ゼラチン群は、対照群において見られたものに近かった。DOPAによって誘導されたVEGFの分泌の増大が血管新生を容易にすることが証明された[69]。対照群と比較して、VEGF発現は、HDFよりもHaCaTにおいてより大きかった。図5Bおよび5Dに示される結果から、6時間で、HaCaT培養上清を用いて培養したDOPA-ゼラチン群の管の数がより多かったことが分かる。
【0038】
新しい血管のリモデリングおよび確立は、血管が創傷部位の細胞に栄養および酸素を供給するので、創傷治癒における重要な因子の1つであり、これらの血管新生活性は、修復プロセスのすべての段階の間に同時に進行する[66、67]。ここでの管形成画像および定量化結果の両方は、血管新生プロセスにおけるDOPA-ゼラチンの優位性を実証する。この物質は、血管形成を加速させ、全体的な創傷治癒期間を短縮することができる。
【0039】
in vivo研究
in vivo分解性試験
in vivoでの分解を評価するために、純粋なゼラチンおよびDOPA-ゼラチンを、両方ともフルオレセインイソチオシアネート(FITC)によって標識してマウスの背部皮下組織に移植し、それらを14日間にわたってモニターした。図11の蛍光画像に示されるように、ゼラチンおよびDOPA-ゼラチンの両方が14日間皮下に残った。しかし、時間が経過するにつれて、蛍光強度は分解により減少した。14日目に、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色により、ゼラチンおよびDOPA-ゼラチン移植の両方が分解中に軽微な炎症を引き起こしたことが示されたが、感染、特異的細胞浸潤(好中球およびリンパ球)、または慢性炎症への進行の徴候はなかった。
【0040】
in vivo皮膚創傷治癒研究
マウスの背側皮膚に全層創傷を作製した。純粋なゼラチンおよびDOPA-ゼラチンを創傷に適用し、肉眼的形態を0日目、7日目、および14日目に評価した(図6A)。14日目に、損傷群は背部に中心瘡蓋を示したが、DOPA-ゼラチン群ではほとんどの創傷が治癒した。特に、損傷群では創傷周辺に毛の再生が観察されなかったが、全ての処置群(ゼラチン、DOPA-ゼラチン)では、創傷領域周辺に毛の再生が見られた。興味深いことに、DOPA-ゼラチン群は、他の群よりも毛の再生を増加させることが見出された。図6Bの総創傷収縮の定量的データは、7日目に損傷群が71.79±12.25%の最大創傷領域を有したことを示した。処置群の中で、DOPA-ゼラチン群は最も速い創傷収縮速度を示し、創傷領域は41.69±11.78%であった。
【0041】
組織学的分析
また、組織学的研究を利用して、皮膚創傷治癒プロセスに対するDOPA-ゼラチンの効力をさらに調べた。ケラチノサイトの増殖および遊走は、創傷治癒中の再上皮形成の重要な特徴である[54]。in vivoでの同じ構造を有する上皮形成は、脈管形成、コラーゲン沈着、および顆粒化組織形成を伴い、これらは、組織成長および治癒を大いに促進する。損傷後7日目のH&E染色(図6C)は、再上皮形成が、開放性損傷およびゼラチン群と比較して、DOPA-ゼラチンで処置された創傷においてより顕著であったことを示す。対照群、ゼラチン群およびDOPA-ゼラチン群における再上皮形成率は、それぞれ25.6±7.2%、41.0±5.9%および55.4±13.7%であった(図6D)。14日目に、全ての群が治癒した創傷を有した一方で、DOPA-ゼラチン群はまた、毛の成長を増加させた。損傷後14日目の切片のマッソントリクローム染色は、DOPA-ゼラチン処置マウスにおけるコラーゲン沈着の増強を示し、対照と比較してコラーゲンの成熟レベルが高いことを明らかにした。これは、DOPA-ゼラチン処置群におけるより優れた線維芽細胞浸潤および増殖の結果であると推測される。
【0042】
組織学的研究により、増加した創傷収縮、増強されたコラーゲン合成、より多くの毛包、およびより高い再上皮形成に関して、DOPA-ゼラチンで処置された創傷部位におけるより速い創傷治癒が明らかとなった。これらの結果は、皮膚治癒機能性物質として使用されるDOPA-ゼラチン治療物質の能力を支持する。
【0043】
結論
イガイから想起されたDOPA-ゼラチンヒドロゲルは、チロシナーゼ触媒一段階反応によって合成される。DOPA-ゼラチンの所望の機械的強度および接着力は、皮膚創傷治癒におけるその適用の基礎をなす。in vitro研究により、DOPA-ゼラチンが所望の生体適合性を有し、細胞増殖、遊走、血管新生、および創傷治癒関連遺伝子のアップレギュレーションなどの再生活性を増強したことが証明された。in vivo実験により、DOPA-ゼラチンがより迅速な皮膚治癒を容易にし得ることが証明された。これらの知見は、皮膚創傷の修復プロセスの促進における、イガイから想起されたDOPA-ゼラチンの役割を特徴付ける。顕著な機能性DOPA-ゼラチンヒドロゲルは、組織修復および再生を促進する機構として、他の組織においてさらに調査および研究されるべきである。
【0044】
実験セクション
DOPA-ゼラチンの酵素媒介合成:1gのゼラチンを10gのMilli-Q(登録商標)水に80℃で1時間溶解することによって、10%(w/w)ゼラチン溶液(タイプA、G1890、Sigma、米国カリフォルニア州)を調製した。50kUチロシナーゼ粉末(T3824、Sigma、米国ミズーリ州)を5mLダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、pH6.5、Gibco、米国カリフォルニア州)に室温で添加することによって、チロシナーゼのストック溶液(10U/μL)を作製した。0、5、10、20、および50μLの量のチロシナーゼストック溶液をそれぞれ1mLのゼラチン溶液に添加して、さまざまなチロシナーゼ濃度(0、50、100、200、500U/mL)を有するゼラチン溶液を作製した。対応する試料をTyr0、Tyr50、Tyr100、Tyr200、Tyr500と名付けた。振動周波数2000rpmのEppendorf ThermoMixer(登録商標)C(Eppendorf、米国ニューヨーク州)において、37℃で反応を行った。特定のインキュベーション時間の後、温度を65℃まで1時間の間に上昇させて酵素を不活性化した。DOPA-ゼラチン溶液を直ちに使用するか、または後の使用のために-80℃で保存した。
【0045】
UV-可視分光法:チロシナーゼによって触媒されたゼラチン溶液を、分光光度計DeNovix(登録商標)DS11-FX(DeNovix、米国デラウェア州)によってモニターした。2マイクロリットルの反応混合物を収集し、220nm~500nmの波長でスキャンした。DOPA含量を280nmの波長で分析した[21]
【0046】
FTIR分析:Tyr0からTyr500の試料および純粋なL-ドーパミンを、フーリエ変換赤外分光法(JASCO、FT/IR-420、米国メリーランド州)によって、400~4000cm-1の範囲にわたって、1cm-1分解能で128スキャンにより特徴付けた。全ての試料を凍結乾燥し、乳鉢および乳棒で粉砕して微粉末にした。臭化カリウム(KBr)ペレットを、1%の試料重量含量で作製した。
【0047】
DOPA含量の定量化:Arnow法を使用して、DOPAおよびそのさらなる酸化誘導体の含量を決定した[31]。3つの試薬を調製して、DOPA含量を定量した。試薬A:0.5M HCl溶液、試薬B:亜硝酸-モリブデン酸溶液(10gのNaNOおよび10gのNaMoOを100mLの水に溶解)、および試薬C:1M NaOH溶液(4gの水酸化ナトリウムを100mLの水に溶解)。純粋なDOPAを使用して、0.02mg/mL、0.04mg/mL、0.06mg/mL、0.08mg/mLおよび0.1mg/mLのさまざまな濃度を有する標準溶液を作製した。1mLの水をブランク対照として使用した。1ミリリットルの各標準溶液および各測定試料をチューブに入れ、続いて1mLの試薬Aを添加し、続いてボルテックスした。次いで、試薬BおよびC(各1mL)を室温で迅速に連続して添加し、各チューブをボルテクサーで短時間混合した。各試料を分光光度計(DeNovix(登録商標)DS11-FX)で直ちに分析して、520nmでの吸光度を特徴付けた。
【0048】
ラップせん断試験および破裂圧力試験:1mm/分のクロスヘッド速度で、100-Nロードセルを備えたInstron(登録商標)5943機械試験機(米国マサチューセッツ州)を使用したラップせん断において破損するまで試料をひずませた。20μLの試料を1つのガラススライドの10mm×20mmの領域に適用し、その後、別のガラススライドをこの領域の上に置き、次いで4℃で1時間置いた。各試料を少なくとも3回試験した。DOPA修飾ゼラチンの破裂圧力を調査するために、前述のように、破裂圧力に関する修正ASTM規格F2392-04に従って封止能力を測定した[70、71]。簡潔には、直径30mmの円形コラーゲンシートを、試料調製前にDPBSに浸漬した。コラーゲンシートの中央に直径3mmの円形欠損領域を打ち抜いた。20μLの試料を欠損領域上にピペットで移し、試験前に4℃で5分間置いた。次いで、サンプルを載せたコラーゲンシートを、上部環が直径10mmの穴を含む特注の破裂圧力装置を使用して、2つのステンレス鋼環の中央に固定した。次いで、空気を、シリンジ(50mL)ポンプによって20mm/分の速度でシステムに適用した。最大破裂圧力を、SPARKvue(商標)(PASCO Scientific、米国カリフォルニア州)ソフトウェアによって記録した(n≧3)。
【0049】
レオロジー分析:DOPA-ゼラチンヒドロゲルのレオロジー特性を、レオメータ(AR-G2、TA instrumentsプロトコル)によって評価した。貯蔵弾性率、損失弾性率および粘度を、直径25mmの平行ステンレス金属プレート構造を用いて測定した。試験前に、全ての試料を37℃で1時間平衡化した。水の蒸発を防ぐために、試料をロードした後、プレートの周りに鉱油を添加した。貯蔵弾性率、損失弾性率および粘度を、Anton Paar Rheocompass(商標)ソフトウェアによって記録した。
【0050】
生/死アッセイ:HDF細胞およびHaCaT細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco、米国カリフォルニア州)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、米国カリフォルニア州)が添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco、米国カリフォルニア州)を用いて加湿インキュベータ(37℃、5%CO)で培養した。細胞生存率を、生/死生存率キット(LIVE/DEAD(商標)生存率/細胞毒性キット、Invitrogen、米国)を使用して評価した。試料をチャンバーの底部にコーティングした。次いで、細胞(チャンバー当たり10個、第4継代)を、コーティングした試料上に播種し、37℃で1日、3日、および7日間インキュベートした。染色された細胞を蛍光顕微鏡(Zeiss Axio Observer;Carl Zeiss、ドイツ、イェナ)によって画像化した。各時点について、試料を三重に分析した。Image Jソフトウェア(NIH、米国メリーランド州)を使用して、生細胞および死細胞の数を計数した。細胞生存率(%)は、平均±SD(標準偏差)における全細胞数に対する生細胞の比として表した。増殖(%)を、平均±SDにおける最初の播種濃度に対する1、3、7日目の細胞濃度の比によって計算した。
【0051】
細胞遊走アッセイ:試料を直径150mmのペトリ皿上に均一にコーティングし、10個のHDF細胞およびHaCaT細胞を播種し、続いてインキュベートした(37℃、5%CO)。細胞が皿上で完全なコンフルエンスまで増殖したとき、細胞をスクラッチチップでスクラッチした。スクラッチを行った後、皿を穏やかに洗浄して、剥離した細胞を取り除いた。次いで、培地に、血清を含まない新鮮な培地を補充して、細胞増殖を抑制した。皿をインキュベータ中に0時間、6時間、12時間および24時間置いた。RT-PCR遺伝子発現分析のために回収する前に、倒立顕微鏡(Zeiss Axio Observer;Carl Zeiss、ドイツ、イェナ)を用いて細胞を画像化した。創傷収縮を式1のように定義した。
【0052】
【数1】
【0053】
式中、Aはスクラッチ後すぐ(0時間)に測定された創傷の領域であり、Aはスクラッチ後の時間t(t=6、12、24時間)に測定された創傷の領域である。画像中の無細胞領域を手動で追跡することによって創傷領域を計算し、Image Jソフトウェア(NIH、米国メリーランド州)によって計数した。
【0054】
RT-PCRアッセイ:Qiazol溶解試薬(Qiagen、米国カリフォルニア州)を製造業者の指示に従って使用して、HDF細胞およびHaCaT細胞から全RNAを単離した。全RNAのうちの1マイクログラムを、QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen)を用いてcDNAに転写した。Rotor-Gene SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を使用して、リアルタイムPCR(95℃で5分間の初期変性、95℃で5秒間の変性および60℃で10秒間の増幅を45サイクル)を行った。
【0055】
血管新生アッセイ:直接的方法では、250μLのマトリゲル(Corning Inc、米国ニューヨーク州)を各ウェル(24ウェルプレート)に入れた。次いで、プレートを湿潤チャンバー中で30分間インキュベートして、ゲル構造を形成させた。HUVEC(継代数4~6)を播種した(約1.5×10細胞/ウェル)。60μLのゼラチンまたはDOPA-ゼラチンを含む100μLの馴化培地(Promocell、ドイツ、ハイデルベルク)を各条件で補充した。アッセイは加湿チャンバー内で6時間行った。HUVECの血管新生を、倒立蛍光顕微鏡(Zeiss Axio Observer;Carl Zeiss、ドイツ、イェナ)によって画像化した。間接的方法では、250μLのマトリゲルおよび100μLの細胞培養上清+HUVEC細胞をウェルに添加した。他の条件は直接的方法と同じであった。
【0056】
in vivo生分解および創傷治癒研究:全ての動物実験は、UCLA動物研究委員会によって承認された。動物実験は、関連するガイドラインに沿って行った。体重約20グラムの7週齢の雄マウスをJackson Laboratory(カリフォルニア州サクラメント)から購入し、給餌し、25℃に維持した清潔なケージで飼育した。実験の開始時に、マウスにイソフルラン(100%O中1.5%)の吸入によって麻酔をかけた。生存手術の間中、麻酔を維持した。背側皮膚を剃毛し、ヨードフォア(0.2%w/v)で洗浄した。次いで、背側皮膚を外科的に切除して、全層の円形皮膚欠損創領域(約1cm径)を作製した。無処理(損傷)、純粋なゼラチン(ゼラチン)、およびTyr100 DOPA修飾ゼラチン(DOPA-ゼラチン)を含む3つの群を調製した。治療群の各創傷を、200μLの対応する試料で均一に覆った。創傷治癒は、デジタルキャリパによって創傷領域サイズを測定し、特定の日(0日目、7日目、および14日目)に写真を撮ることによって評価した。創傷領域を式2に従って計算した。
【0057】
【数2】
【0058】
式中、AおよびAは、それぞれ0日目の創傷領域およびt日目の創傷領域である。分解性試験のために、フルオレセインイソチオシアネート(FTIC、Sigma)によって標識した純粋なゼラチンおよびDOPA-ゼラチンを創傷部位に0日、7日、および14日間適用し、蛍光顕微鏡(Zeiss Axio Observer;Carl Zeiss、ドイツ、イェナ)によって蛍光画像を撮影した。
【0059】
組織学的分析:特定の日(0日、7日、および14日)にCOを用いてマウスを屠殺した。皮膚組織に適用した試料を直ちに回収し、10%中性緩衝ホルマリン(Leica Biosystems、米国イリノイ州)中で固定した。固定された組織を、標準的な方法を用いて処理し、パラフィンブロックに包埋した。ブロックを4μmの厚さに切断し、切片をヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色およびマッソントリクローム(MT)染色によって染色した。組織学画像をニコン倒立顕微鏡で取得した。
【0060】
統計的分析:データは、平均±標準偏差(SD)として表示する。全ての統計分析およびグラフは、SPSS Statisticsソフトウェア(IBM、米国イリノイ州)およびGraphPad Prism8.0(GraphPad Software、米国カリフォルニア州)によって実施された。多重比較は、3群以上のデータセットについて、チューキー事後検定とともに一元配置ANOVAを使用して分析した。P<0.05を有意とみなす。
【0061】
本発明の実施形態を示し、説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正を行うことができる。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲およびその均等物以外に、限定されるべきではない。
【0062】
参考文献
【0063】
【表2-1】
【0064】
【表2-2】
【0065】
【表2-3】
【0066】
【表2-4】
【0067】
本明細書中に言及される全ての出版物(例えば、数字として上記される参考文献)は、参照によって本明細書に組み込まれ、引用する出版物と関連する態様、方法、および/又は物質を開示および説明する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを作製する方法であって、
ブタゼラチンを含有する溶液を提供するステップと、
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共にインキュベートして3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-を作製するステップと、を含む、(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項2】
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共にインキュベートして、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンを形成する方法であって、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示し、且つ
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示すように選択された、請求項1に記載の(DOPA)-を作製する方法。
【請求項3】
前記ブタゼラチンを含有する溶液をチロシナーゼと共に30分超または60分超インキュベートする、請求項2に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項4】
チロシナーゼの濃度が100~200U/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項5】
前記溶液を加熱して前記チロシナーゼを不活性化することをさらに含む、請求項1に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項6】
3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンが一段階合成反応で作製される、請求項1に記載の(DOPA)-ゼラチンを作製する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法によって作製された3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチン組成物。
【請求項8】
実質的に全てのチロシン残基が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されたブタゼラチンを含む、治療用組成物。
【請求項9】
前記組成物は、実質的に金属イオンを含まない、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記組成物は無菌であり、且つ薬学的に許容される担体を含む、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項11】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項12】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも700Paの貯蔵弾性率を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項16】
抗生物質、抗炎症剤、止血剤、塞栓剤、および化学療法剤から選択される少なくとも1つの追加の治療剤をさらに含む、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項17】
前記ブタゼラチンの前記チロシン残基のうち少なくとも90%が3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)に変換されており、
前記組成物は無菌であり、且つ薬学的に許容される担体を含み、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも2MPaのせん断強度を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも6kPaの破裂圧力を示し、
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも60Nの負荷力を示し、且つ
前記3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)-ゼラチンは、少なくとも3MPaの引張応力を示す、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項18】
請求項8に記載の組成物を予め選択された部位に送達する方法であって、
前記組成物を、開口部を含む第1の端部および第2の端部を有する管内に配置するステップと、
前記管の前記第2の端部に力を加えるステップであって、前記力は、前記開口部を介して前記管から前記組成物を移動させるのに十分である、ステップと、
前記開口部を介して前記管から前記予め選択された部位に前記組成物を送達するステップと、を含む、方法。
【請求項19】
前記部位は、in vivo部位である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記部位は、個体が外傷または損傷を経験したin vivo位置にある、請求項18に記載の方法。
【国際調査報告】