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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】固体複合電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20230801BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230801BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230801BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M4/62 Z
H01M10/0568
H01M10/0565
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502909
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2021067275
(87)【国際公開番号】W WO2022012889
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】20186444.4
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フィンシー, ヴァンセント
(72)【発明者】
【氏名】メルロ, ルカ
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CA23
5G301CA26
5G301CD01
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA18
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、i)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩とを含む固体複合電解質であって、i)少なくとも1種のポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択され、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%(wt%)、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である、固体複合電解質に関する。本発明は、i)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩と、iv)少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒とを含む、固体複合電解質を製造するためのスラリー、固体複合電解質を含む固体電池並びにイオン伝導率及び機械的特性を改善するための、固体電池の電解質又は電極における固体複合電解質の使用にも関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)少なくとも1種のポリマーと、
ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、
iii)少なくとも1種のリチウム塩と
を含む固体複合電解質であって、前記i)少なくとも1種のポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択され、前記ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、前記固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%(wt%)、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である、固体複合電解質。
【請求項2】
前記ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、式(LiS)-(P(式中、x+y=1及び0≦x≦1である)、Li11、LiPS、Li、Li9.612及びLiPSのもののガラス、結晶又はガラスセラミック;LiCuPS、Li1+2xZn1-xPS(式中、0≦x≦1である)、Li3.33Mg0.33及びLi4-3xSc(式中、0≦x≦1である);LiO(式中、0.33≦x≦0.67、0.07≦y≦0.2、0.4≦z≦0.55である);Li10SnP12、Li10GeP12、Li10SiP12及びLiS-P-SnS;Si、Ge、Sn、As又はAlであるXを含むリチウムリン硫化物酸素(「LXPSO」);LiSiS、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3及びLiS-SiS-Al;LiBS及びLiS-B-LiI;Li0.8Sn0.8、LiSnS、Li3.833Sn0.833As0.166、LiAsS-LiSnS及びGeで置換されたLiAsS;LiPSCl、Li1516Cl、LiCl及びLiI;アルジロダイト型LiPSY(Y=Cl、Br又はI);LiS-GeS-ZnS、LiSbS、NaPS、Na10SnP1212及びNa11SnPS12;並びにそれらのブレンドを含む、請求項1に記載の固体複合電解質。
【請求項3】
前記ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、アルジロダイト型LiPSY(Y=Cl、Br又はI)及びLi10SnP12を含む、請求項2に記載の固体複合電解質。
【請求項4】
前記i)少なくとも1種のポリマーは、
(a)少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位と、
(b)任意選択により、0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位と
を含み、全ての前述のモル%は、前記ポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項5】
(a)85モル%未満の、VDFに由来する繰り返し単位、
(b)少なくとも15モル%の、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位
であり、全ての前述のモル%は、前記ポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項6】
前記i)少なくとも1種のポリマーは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート、ビスフェノールA、B及びFカーボネート又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項7】
前記i)少なくとも1種のポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位と、スチレン、ブタジエン、アクリレート、メチルアクリレート、ビニルアセテート又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項8】
前記i)少なくとも1種のポリマーは、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項9】
前記i)少なくとも1種のポリマーは、アクリレート、メタクリレート、シアノアクリレート、カプロラクトン又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項10】
iii)少なくとも1種のリチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSON(LiFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)、LiBF、LiB(C、LiAsF、LiClO、LiNO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiCFSO、LiN(SOCF(LiTFSI)、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiCSO、LiCF93SO、LiAlCl、LiSbF、LiF、LiBr、LiCl、LiOH、LiPFSi及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項11】
前記i)少なくとも1種のポリマー中の前記ii)少なくとも1種のLi塩の重量%は、10~80重量%、好ましくは15~60重量%、より好ましくは20~40重量%で変化する、請求項1~10のいずれか一項に記載の固体複合電解質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のi)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩と、iv)少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒とを含む、固体複合電解質を製造するためのスラリー。
【請求項13】
前記iv)極性非プロトン性溶媒は、アセトニトリルなどのニトリル含有溶媒及びテトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-THF、2,5-ジメチル-THF、1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル及び1,2-ジメトキシエーテルなどのエーテル並びにブチルブチレートなどのエステルを含む、請求項12に記載のスラリー。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の固体複合電解質を含む固体電池。
【請求項15】
イオン伝導率及び機械的特性を改善するための、固体電池の電解質又は電極における、請求項1~11のいずれか一項に記載の固体複合電解質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月17日出願の欧州特許出願公開第20186444.4号に対する優先権を主張し、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、i)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩とを含む固体複合電解質であって、i)少なくとも1種のポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択され、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%(wt%)、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である、固体複合電解質に関する。本発明は、i)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩と、iv)少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒とを含む、固体複合電解質を製造するためのスラリー、固体複合電解質を含む固体電池並びにイオン伝導率及び機械的特性を改善するための、固体電池の電解質又は電極における固体複合電解質の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
近年、Liイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することなどの多くの利点のため、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現在のLiイオン電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、グリッドエネルギー貯蔵などの高電力用途で要求されるエネルギー密度に関して、安全性が低く、エネルギー密度が比較的低いという問題を依然として抱えている。そのような欠点の基になるのは、液体電解質の存在である。
【0004】
従来のLiイオン電池では、有機カーボネート系の液体電解質が主に使用されているため、Liイオン電池は、本質的に漏れを起こして可燃性の揮発性ガス種を生成する傾向がある。
【0005】
そのため、固体電池(SSB)は、液体電解質システムを備えた従来のLiイオン電池よりも高いエネルギー密度を提供し、安全であることから、次世代のエネルギー貯蔵デバイスであると考えられている。SSBでは、引火性の高い液体電解質が固体電解質に置き換えられるため、発火及び/又は爆発のあらゆるリスクが実質的に排除される。固体状態電解質として、有機ポリマー、無機物及び複合材料(ポリマー中に分散される無機電解質)は、活発に研究されている。
【0006】
無機電解質は、高いイオン伝導性を示すものの、機械的特性が不十分であるために脆い。特に、ガーネット型のLiイオン伝導性材料、例えばLiLaZr12(LLZO)などの酸化物ベースの無機電解質は、粒界伝導性が低いという問題を有する。これは、Liイオン輸送が酸化物無機粒子間の粒界及び固体電解質と電極との間の界面で大きく妨げられるためである。したがって、これらの材料は、粒子を融合させて、その後、導電経路を構築するために焼結プロセスに依存する。ホットプレスのみが焼結時間の短縮に成功したものの、これには、特殊であり且つ費用がかかる装置を要し、これは、商業スケールでの大量生産の大きい障害になる。更に、ホットプレスによる薄膜成形の可能性は、依然として実証されていない。逆に、硫化物ベースの無機電解質は、室温で10-4Scm-1を超える高い導電率を示し、硫化物粒子の粒子間接触抵抗は、従来のコールドプレスによって簡単に除去することができる。焼結は、比較的低い圧縮及び温度で加圧することによって得ることができる。それにもかかわらず、このように得られた膜の脆性は、低減された厚さを得る可能性及び特定の範囲の適用におけるその使用を妨げる。
【0007】
固体ポリマー電解質は、良好な機械的特性、高い可撓性及び加工性を示すが、その低いイオン伝導率は、その大規模利用を極度に制限する。様々な種類のLi塩をポリマーと組み合わせることにより、固体ポリマー電解質に対して多くの取り組みがなされている。ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)及びポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)ベースの固体ポリマー電解質が主に研究されている。特に、エーテル酸素の存在によって様々なLi塩を溶媒和するその優れた能力のため、PEOベースの固体ポリマー電解質に対して多くの取り組みがなされている。しかしながら、PEOベースの固体ポリマー電解質は、2つの主な欠点のため、商用Liイオン電池において広範囲に使用されていない。第1に、ポリマーの結晶性のため、十分な導電性は、溶融温度を超える温度でのみ得られ、そのため、その利用可能性は、高温用途のみに限定される。第2に、PEOベースのポリマー電解質は、より低電圧のバッテリーへのその適用性を制限する不十分な酸化耐性を示す。
【0008】
そのため、PEOベースの固体ポリマー電解質の欠点を克服するために複数の試みが行われてきた。例えば、米国特許第8,431,266B2号明細書(Blue Solutions)は、異なる層における2つの異なるポリマー(すなわちPEO及びPVDF)の使用を開示している。更に、国際公開第2019/053388A1号パンフレット(Blue Solutions)は、PEOベースの固体ポリマー電解質の機械的特性を改良するために特定のPVDFコポリマーを使用する別の構想を開示している。
【0009】
別の手法として、複合電解質、例えばポリマーマトリックス中に分散された硫化物粒子を含むものは、硫化物ベースの固体電解質の高いイオン伝導率をポリマーの良好な機械的特性及び加工性と組み合わせることができる可能性があるため、工業規模において最も有望な解決策であると考えられている。
【0010】
硫化物ベースの複合電解質は、興味深いイオン伝導率及び機械的特性により、他の固体電解質の欠点を解決する可能性を提供するものの、しかしながら、高い溶媒反応性などのいくつかの欠点は、克服されていないままである。硫化物材料の溶媒との不十分な相容性は、電解質を製造するために使用できるポリマーの選択を一般に制限する。最先端の複合硫化物電解質は、主に、直鎖炭化水素又は芳香族炭化水素などの非プロトン性無極性溶媒中に溶解された疎水性ポリマーをベースとする。これらのバインダーは、イオン非伝導性であり、そのままで異なる固体電解質粒子上及び/又はその間に絶縁層を形成し、低いバインダー含有量でもイオン伝導率の著しい低下をもたらす。
【0011】
Riphausらは、Journal of The Electrochemical Society,165(16)A3993-A3999(2018)(“Slurry-Based Processing of Solid Electrolytes:A Comparative Binder Study”)において、広範囲の非導電性バインダー(例えば、PIB(ポリイソブテン)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、PEVA(ポリ(エチレンビニルアセテート)及びHNBR(水素化ニトリルブタジエンゴム))を有するLSPS複合材料を製造した。それらは、わずか2.5重量%の水素化バインダー(HNBR)を有する複合電解質について、約1桁のイオン伝導率の低下が得られたことを示した。複合電解質は、25℃において約0.3mS/cmの導電率を示した(補足情報を参照されたい)。圧縮粉末のイオン伝導率は、約3mS/cmであると推定された。
【0012】
バインダーがイオン伝導率に及ぼす好ましくない影響を低減するために、導電性バインダーを使用する様々な試みがなされている。したがって、上記の欠点のない最適な解決策を見つけるために、PEOベースのポリマーと、硫化物ベースの固体電解質とを組み合わせる初期の構想が考えられた。それにもかかわらず、ポリマーと硫化物材料との間の表面化学を操作/設計することは、予想したよりもはるかに複雑であることが見出された。
【0013】
Riphausらは、Journal of The Electrochemical Society,166(6)A975-A983(2019)(“Understanding Chemical Stability Issues between Different Solid Electrolytes in All-Solid-State Batteries”)において、無機固体電解質Li10SnP12(LSPS)と、PEOベースのポリマー電解質との相溶性を研究しており、LSPSとPEOとの間の界面は、純粋なLSPS上の表面不純物及びPEO中のヒドロキシル末端基のために化学的に不安定であると結論しており、それらは、LSPSの分解に影響を与えると考えられている。
【0014】
その後、硫化物粒子と、PEOと異なるポリマーとを含む複合電解質を得る別の手法が考えられた。PVDFベースのポリマー、とりわけPVDF-HFPは、その広い電気化学窓、高い機械的強度、熱安定性及び高い誘電率のため、固体状態電解質の調製において試されている。
【0015】
Congらは、最近出版されたJournal of Power Sources,Volume 446(2020)227365において、LGPS、PVDF-HFP及びLiTFSIを含む複合電解質を開示している。Congらは、ポリマーマトリックスを溶解するために通常使用される、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、アセトン及びエーテルの大部分などの極性溶媒中に分散させるときに直ちに生じる硫化物の劣化を克服するために、LGPS粒子を分散させるための適した溶媒として2つの異なるタイプのパーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用することを提案している。したがって、界面安定剤として機能化されるPFPEは、複合電解質とLiアノードとの界面の有害な反応を避け、且つLiデンドライトの成長を抑えることにおいて重要な役割を果たし、それは、金属Liアノードを使用するSSBの繰り返し性能を改良することが実証された。しかしながら、Congらは、複合膜の適切なイオン伝導率を確実にするために、液体電解質(0.7M LiTFSIを有するジメチルカーボネート末端PFPE)を複合電解質膜中に浸透させなければならなかった。更に、Congらは、低い配合量の硫化物(無機充填剤として10、20及び30重量%のLGPS)を試したのみであり、比較的低い配合量、すなわち20重量%のLGPSが最良の電気化学挙動を示すと結論した。導電率は、おそらく、ゲルポリマー電解質相によって媒介されると推論することができる。
【0016】
更に、米国特許出願公開第2020/0058940 A1号明細書(Hyundai Motor Company)は、液体電解質をLPSCl-NBRベースの複合電解質中に導入し、ゲルポリマー電解質複合材料を形成する必要があると記載している。有望なイオン伝導率を得ることができるが、複合電解質の主な有機部分は、液相(70%)であり、それは、固体電解質のイオン伝導率を(完全に)利用するために液体電解質相が必要であることを意味する。
【0017】
したがって、互いに相溶性である、より容易な加工性及びより良好な性能を有する、より高い配合量でポリマーと硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子とを含む新規な固体複合電解質がこの分野で継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0018】
本発明の第1の目的は、
i)少なくとも1種のポリマーと、
ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、
iii)少なくとも1種のリチウム塩と
を含む固体複合電解質であって、i)少なくとも1種のポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択され、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%(wt%)、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である、固体複合電解質である。
【0019】
本発明の第2の目的は、i)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩と、iv)少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒とを含む、固体複合電解質を製造するためのスラリーである。
【0020】
本発明の第3の目的は、上述した固体複合電解質を含む固体電池である。
【0021】
本発明の第4の目的は、イオン伝導率及び機械的特性を改善するための、固体電池の電解質及び/又は電極における、上述した固体複合電解質の使用である。
【0022】
驚くべきことに、i)VDF、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーと、ii)固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%の量の少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩とを含む、本発明による固体複合電解質は、特性の特に有利な組合せ、例えばより容易な加工性及びイオン伝導率及び機械的特性などのより良好な性能を提供することが本発明者らによって見出された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】膜のイオン伝導性を測定するためにSolvay内で開発されたACインピーダンス分光法の圧力セルの断面図である。圧力セルにおいて、インピーダンス測定中に膜が2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。
図2】複合電解質の導電率の挙動をモデル化するために用いられる等価回路である。R1及びR2は、それぞれバルク抵抗及び粒界抵抗を表し、Q2及びQ3は、それぞれ粒界寄与及び電極寄与を表す。
図3】第2の半円を有する複合電解質の導電率の挙動をモデル化するために用いられる等価回路である。
図4】LSPS固体電解質及び11重量%のPVDF/LiTFSIポリマー電解質(破線は、実施例2に対応する)又は10重量%のPEO/LiTFSIポリマー電解質(実線は、比較例2に対応する)から構成される複合膜から得られるインピーダンス曲線であり、5000Ohmまでのx軸を有する。
図5図4と同じインピーダンス曲線であるが、300Ohmまでのx軸を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による固体複合電解質の以下の構成要素について、以下で詳細に説明する。前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。更に、明確且つ簡潔にするために、周知の機能及び構造の説明は、省略されている場合がある。
【0025】
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる」、「包含する(includes)」、「包含している」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解される。好ましい実施形態によれば、語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0026】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組合せを全て包含する。
【0027】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0028】
本明細書で使用される「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」、若しくは「脂環式」、若しくは「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基を含む、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素挙げられる。
【0029】
本発明において、用語「スラリー」は、液体中に懸濁される水よりも高密度の固形分の混合物を意味する。
【0030】
本明細書で使用される有機基に関する用語「(C~C)」(式中、n及びmは、それぞれ整数である)は、この基が、1つの基当たりn個の炭素原子~m個の炭素原子を含有し得ることを示す。
【0031】
本発明に関連して、「重量%」(wt%)という用語は、成分の重量と混合物の総重量との間の比として計算される、混合物における特定成分の含有量を示す。ポリマー/コポリマーにおける特定のモノマーに由来する繰り返し単位を意味する場合、重量%(wt%)は、ポリマー/コポリマーの総重量に対するこのようなモノマーの繰り返し単位の重量の比を示す。
【0032】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられることと、範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることとが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに例えば122.2℃、140.6℃及び141.3℃など、明記された範囲内の小数量などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0033】
本発明は、
i)少なくとも1種のポリマーと、
ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、
iii)少なくとも1種のリチウム塩と
を含む固体複合電解質であって、i)少なくとも1種のポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、アルキレンカーボネート、アクリロニトリル、シラン、フルオロシラン、アクリレート、カプロラクトン及びそれらのブレンドに由来する繰り返し単位を有する(コ)ポリマーからなる群から選択され、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%(wt%)、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である、固体複合電解質を提供する。
【0034】
VDF(コ)ポリマー
フッ化ビニリデンポリマー(PVDF又はVDFポリマー)は、その高いカソードの安定性、結合強度並びに集電体との接着性のため、電池の構成要素において最も広く使用されているフルオロポリマーの1つである。
【0035】
一実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、VDFに由来する繰り返し単位、すなわちVDF(コ)ポリマーを含む。
【0036】
一実施形態において、VDF(コ)ポリマーは、少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位を含む。
【0037】
好ましい実施形態において、VDF(コ)ポリマーは、
(a)少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位と、
(b)0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、VDFと異なる第2のモノマーに由来する繰り返し単位と
を含むポリマーであり、前述のモル%の全ては、VDF(コ)ポリマーの繰り返し単位の総モルを基準とする。
【0038】
別の実施形態において、VDF(コ)ポリマーは、85モル%未満の、VDFに由来する繰り返し単位を含む。
【0039】
別の好ましい実施形態において、VDF(コ)ポリマーは、
(a)85モル%未満の、VDFに由来する第1の繰り返し単位と、
(b)少なくとも15モル%の、VDFと異なる第2のモノマーに由来する第2の繰り返し単位と
を含むポリマーであり、前述のモル%の全ては、VDF(コ)ポリマーの繰り返し単位の総モルを基準とする。
【0040】
好ましい実施形態において、第2のモノマーは、フッ素化モノマーである。
【0041】
VDFと異なる適切な第2のモノマーの非限定的な例としては、特に以下のものが挙げられる:
- テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン(TrFE)などのC~C水素化フルオロオレフィン;
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキルである)のパーフルオロアルキルエチレン、
- クロロトリフルオロエチレンなどのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン、
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えばCF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF=CFOX(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、C~C12アルキル基、C~C12オキシアルキル基又はパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの1つ以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である)、
- 式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えばCF、C、C又は-C-O-CFなど、1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOY、(式中、Yは、C~C12アルキル基又は(パー)フルオロアルキル基、C~C12オキシアルキル基又は1つ以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、Yは、その酸、酸ハライド又は塩の形態でカルボン酸又はスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- フルオロジオキソール、好ましくはパーフルオロジオキソール、
- (アルキル)アクリル酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチルメタクリル酸、ブチルアクリル酸;及び
- スチレン及びp-メチルスチレンなど、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和モノマー、例えばエチレン、プロピレン、ビニルアセテートなどのビニルモノマーを意味する水素化モノマー。
【0042】
好ましい実施形態において、前記フッ素化モノマーは、有利には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2-ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキル)ビニルエーテル、例えばパーフルオロ(メチル)ビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチル)ビニルエーテル(PEVE)及びパーフルオロ(プロピル)ビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロ(1,3-ジオキソール)、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)からなる群から選択される。
【0043】
別の好ましい実施形態において、VDF(コ)ポリマーは、(c)VDFと異なり、且つ第2のモノマーとも異なる第3のモノマーに由来する第3の繰り返し単位を含む。
【0044】
性能を更に改良するために、様々なVDFコポリマーが研究されており、本発明において有用なVDF(コ)ポリマーの非限定的な例としては、とりわけ、VDFのホモポリマー、VDF/TFEコポリマー、VDF/TFE/HFPコポリマー、VDF/TFE/CTFEコポリマー、VDF/TFE/TrFEコポリマー、VDF/CTFEコポリマー、VDF/HFPコポリマー、VDF/TFE/HFP/CTFEコポリマーなどを挙げることができる。
【0045】
より好ましい実施形態において、本発明によるポリマーは、
(a)少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位、
(b)0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位
を含み、全ての前述のモル%は、ポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする。
【0046】
特定の一実施形態において、本発明によるポリマーは、
(a)少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位と、
(b)0.1~15モル%の、HFPに由来する繰り返し単位と
を含み、全ての前述のモル%は、ポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする。
【0047】
別のより好ましい実施形態において、本発明によるポリマーは、
(a)85モル%未満の、VDFに由来する繰り返し単位、
(b)少なくとも15モル%の、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位
を含み、全ての前述のモル%は、ポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする。
【0048】
VDFポリマーは、アモルファス又は半結晶性であり得る。
【0049】
用語「アモルファス」は、本明細書では、ASTM D-3418-08に従って10℃/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)によって測定される、5J/g未満、好ましくは3J/g未満、より好ましくは2J/g未満の融解熱を有するポリマーを意味することが意図されている。
【0050】
用語「半結晶性」は、本明細書では、ASTM D3418-08に従って測定される10~90J/g、好ましくは30~60J/g、より好ましくは35~55J/gの融解熱を有するポリマーを意味することが意図されている。
【0051】
少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位を含む適したポリマーの非限定的な例としては、とりわけ、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商標名SOLEF(登録商標)として市販されているものが挙げられる。
【0052】
85モル%未満の、VDFに由来する繰り返し単位を含む適したポリマーの非限定的な例としては、とりわけ、フルオロエラストマー、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商標名TECNOFLON(登録商標)FKM、TECNOFLON(登録商標)PFR及びTECNOFLON(登録商標)NHとして市販されているものが挙げられる。
【0053】
これらの構成要素がVDFポリマーの挙動及び特性を実質的に改変することなく、前記繰り返し単位に加えて、欠陥、末端鎖、不純物、鎖の逆位又は分岐等がVDFポリマー中に更に存在し得る。
【0054】
アルキレンカーボネート(コ)ポリマー
本発明において、アルキレンカーボネート(コ)ポリマーは、アルキレンカーボネートに由来する繰り返し単位から本質的に製造されるポリマーを意味する。
【0055】
アルキレンカーボネートの非限定的な例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート並びにビスフェノールA、B及びFカーボネートを含む。
【0056】
一実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート、ビスフェノールカーボネート又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を有する。
【0057】
ポリアクリロニトリル(PAN)
本発明において、ポリアクリロニトリル(コ)ポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位から本質的に製造されるポリマーを意味する。
【0058】
一実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、PANである。
【0059】
別の実施形態において、i)少なくとも1種のポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位と、スチレン、ブタジエン、アクリレート、メチルアクリレート、ビニルアセテート又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位とを含む。
【0060】
PANコポリマーの非限定的な例は、スチレン-アクリロニトリル(SAN)コポリマー、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)、ポリ(アクリロニトリル-コ-メチルアクリレート)(PAN-MA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)コポリマー及びアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)を含む。
【0061】
ポリシロキサン(シリコーン樹脂としても知られる)
一実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、ポリシロキサン又はシリコーン樹脂であり、それは、シロキサンから本質的に製造されるポリマー(-RSi-O-SiR-(式中、各R基は、独立に、有機基、H-原子又はO原子である)である。ポリシロキサンは、多くの場合、メチル及びフェニルなどの側基を有する。他のアルキル側基も用いることができる。特に興味深いのは、シリコーン樹脂であり得、ここで、アルキル側基の部分は、少なくとも1つのエチレンオキシド基、ニトリル側基等の官能基を有する。
【0062】
別の実施形態において、ポリシロキサンは、フッ素化シリコーン樹脂である。
【0063】
特定の実施形態において、i)少なくとも1種のポリマーは、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を含む。
【0064】
特定の実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0065】
アクリレート(コ)ポリマー
一実施形態において、本発明によるi)少なくとも1種のポリマーは、アクリレート(コ)ポリマーである。
【0066】
別の実施形態において、i)少なくとも1種のポリマーは、アクリレート、メタクリレート、シアノアクリレート又はそれらの混合物に由来する繰り返し単位を含む。
【0067】
カプロラクトン(コ)ポリマー
本発明において、カプロラクトン(コ)ポリマーは、カプロラクトンに由来する繰り返し単位から本質的に製造されるポリマーを意味する。
【0068】
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子
本発明において、「硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子」という用語は、それが、分子構造又は組成物中に硫黄原子を含む固体電解質材料である限り、特に限定されない。
【0069】
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、好ましくは、Liイオン伝導率を増加させるために、Li、S及び13~15族の元素、例えばP、Si、Sn、Ge、Al、As、Sb又はBを含有する。
【0070】
本発明による硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、より好ましくは、以下からなる群から選択される:
- 式(LiS)-(P(式中、x+y=1及び0≦x≦1である)、Li11、LiPS、Li、Li9.612及びLiPSのもののガラス、結晶又はガラスセラミックなどのリチウムリン硫化物(「LPS」)材料;
- LiCuPS、Li1+2xZn1-xPS(式中、0≦x≦1である)、Li3.33Mg0.33及びLi4-3xSc(式中、0≦x≦1である)などのドープされたLPS;
- 式LiO(式中、0.33≦x≦0.67、0.07≦y≦0.2、0.4≦z≦0.55である)のリチウムリン硫化物酸素(「LPSO」)材料;
- Li10SnP12、Li10GeP12、Li10SiP12及びLiS-P-SnSなど、Si、Ge、Sn、As又はAlであるXを含むリチウムリン硫化物材料(「LXPS」);
- Si、Ge、Sn、As又はAlであるXを含むリチウムリン硫化物酸素(「LXPSO」);
- LiSiS、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3及びLiS-SiS-Alなど、リチウムケイ素硫化物(「LSS」)材料;
- LiBS及びLiS-B-LiIなどのリチウムホウ硫化物材料;
- Li0.8Sn0.8、LiSnS、Li3.833Sn0.833As0.166、LiAsS-LiSnS及びGeで置換されたLiAsSなど、リチウムスズ硫化物材料及びリチウムヒ化物材料;
- LiPSCl、Li1516Cl、LiCl及びLiIなど、ハロゲンであるXを含むリチウムリン硫化物材料(「LPSX」);
- 式LiPSY(式中、Yは、Cl、Br又はIである)のアルジロダイト型硫化物材料、この化合物は、硫黄、リチウム又はハロゲンが不足しているか(例えば、Li-xPS-xCl1+x(0≦x≦0.5))、又はヘテロ原子がドープされている場合がある;
- LiS-GeS-ZnS、LiSbS、NaPS、Na10SnP1212及びNa11SnPS12;並びに
- それらのブレンド。
【0071】
好ましくは、本発明による硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、残留LiSを含有しない。
【0072】
より好ましくは、本発明による硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、P 4-構成要素を含まず、且つ/又は独自にPS 3-構成要素から構成される。
【0073】
特に好ましい硫化物ベースの固体イオン伝導性粒子は、リチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料(例えば、Li10SnP12)及びアルジロダイト型硫化物材料(例えば、LiPSCl)である。
【0074】
本発明において、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子の量は、固体複合電解質の総重量を基準として40.0~98.0重量%、好ましくは60.0~97.0重量%、より好ましくは70.0~96.0重量%である。
【0075】
リチウム塩
リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、クロロホウ酸リチウム(Li10Cl10)、フルオロホウ酸リチウム(Li1010)、Li1212-x(x=0~12);LiPF(R6-x及びLiBF(R4-y(式中、Rは、パーフルオロ化C~C20アルキル基又はパーフルオロ化芳香族基を表し、x=0~5であり、及びy=0~3である)、LiBF[OC(CXCO]、LiPF[OC(CXCO、LiPF[OC(CXCO](式中、Xは、H、F、Cl、C~Cアルキル基及びフッ素化アルキル基からなる群から選択され、及びn=0~4である)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCFSO)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSON(LiFSI)、LiN(SO2m+1)(SO2n+1)及びLiC(SO2k+1)(SO2m+1)(SO2n+1)(式中、k=1~10であり、m=1~10であり、及びn=1~10である)、LiN(SO2pSO)及びLiC(SO2pSO)(SO2q+1)(式中、p=1~10であり、及びq=1~10である)、キレート化されたオルトボレート及びキレート化されたオルトホスフェートのリチウム塩、例えばリチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C]、リチウムビス(マロナト)ボレート[LiB(OCCHCO]、リチウムビス(ジフルオロマロナト)ボレート[LiB(OCCFCO]、リチウム(マロナトオキサラト)ボレート[LiB(C)(OCCHCO)]、リチウム(ジフルオロマロナトオキサラト)ボレート[LiB(C)(OCCFCO)]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C]、リチウムトリス(ジフルオロマロナト)ホスフェート[LiP(OCCFCO]、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)並びに前述したものの混合物などのリチウムイオン錯体として説明される。
【0076】
好ましいリチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSON(LiFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)、LiBF、LiB(C、LiAsF、LiClO、LiNO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiCFSO、LiN(SOCF(LiTFSI)、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiCSO、LiCF93SO、LiAlCl、LiSbF、LiF、LiBr、LiCl、LiOH、LiPFSi及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウムである。
【0077】
より好ましいリチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLiN(SOCF(LiTFSI)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSON(LiFSI)であり、これらは、単独で使用され得るか又は組み合わせて使用され得る。
【0078】
当業者は、使用されるポリマー及びLi塩の性質に応じて一般に変化する、イオン伝導率及び機械的特性を最大にするために有機(ポリマー)相中の正確なLi塩含有量を容易に画定することができる。一実施形態において、i)少なくとも1種のポリマー中のii)少なくとも1種のLi塩の重量%は、固体ポリマー電解質の総重量に対して10~80重量%、好ましくは15~60重量%及びより好ましくは20~40重量%で変化する。
【0079】
本発明では、固体複合電解質中に添加剤が追加的に存在し得る。他の添加剤の例としては、カソード保護剤、LiPF塩安定剤、安全保護剤、分散剤、Li堆積改良剤、イオン溶媒和促進剤、Al腐蝕抑制剤、湿潤剤、粘度希釈剤、膨潤防止剤、低温又は高温性能向上剤が挙げられるが、それらに限定されない。
【0080】
一実施形態によれば、本発明による固体複合電解質は、固体複合電解質の総重量を基準として、
- 1.5~50.0重量%のi)少なくとも1種のポリマーと、
- 40.0~98.0重量%のii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、
- 0.5~35重量%のiii)少なくとも1種のリチウム塩と
を含む。
【0081】
一実施形態によれば、固体複合電解質は、固体複合電解質の総重量を基準として、
- 1.5~39.0重量%のVDF/HFPコポリマーと、
- 60.0~97.0重量%のLSPS又はLPSClと、
- 0.75~20重量%のLiTFSIと
を含む。
【0082】
一実施形態によれば、固体複合電解質は、固体複合電解質の総重量を基準として、
- 1.5~50重量%のPEC(ポリエチレンカーボネート)と、
- 40.0~98.0重量%のLSPS又はLPSClと、
- 0.5~40重量%のLiTFSIと
を含む。
【0083】
一実施形態によれば、固体複合電解質は、固体複合電解質の総重量を基準として、
- 1.5~39.0重量%のPAN(ポリアクリロニトリル)と、
- 60.0~97.0重量%のLSPS又はLPSClと、
- 0.75to20重量%のLiTFSIと
を含む。
【0084】
本発明の第2の目的は、上記のi)少なくとも1種のポリマーと、ii)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、iii)少なくとも1種のリチウム塩と、iv)少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒とを含む、固体複合電解質を製造するためのスラリーである。
【0085】
i)溶媒がLi塩とポリマーとの両方を溶解することができ、ii)溶媒が固体電解質/硫化物粒子と相溶性である限り、極性非プロトン性溶媒に課される特定の制限はなく、これは、溶媒が固体電解質のイオン伝導率に好ましくない影響を与えないことを意味する。好ましくは高い誘電率を有する溶媒の高い極性がLi塩とポリマーとの両方を溶解するために求められるが、硫化物粒子との相互作用を制限して、それらの劣化を避けるために求電子性部分がないことが好ましい。
【0086】
一実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、ニトリル含有溶媒、エーテル、エステル、チオール及びチオエーテル、ケトン、第三アミン等を含む。
【0087】
好ましい一実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、R-CN(式中、Rは、アルキル基を表す)の一般式を有するニトリル含有溶媒を含む。ニトリル含有溶媒の非限定的な例は、アセトニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、イソブチルニトリル等である。
【0088】
別の好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、R-O-R(式中、R及びRは、独立に、アルキル基を表す)の一般式を有するエーテルである。エーテル溶媒中に含まれるのは、3、5又は6員環をベースとした環状エーテルである。環状エーテルは、アルキル基で置換され得、不飽和を有し得、窒素又は酸素原子などの付加的な機能性元素を環内に有し得る。(環状)エーテル溶媒の非限定的な例は、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等である。
【0089】
別の好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、R-COOR(式中、R及びRは、独立に、アルキル基を表す)の一般式を有するエステルである。エステル溶媒の非限定的な例は、ブチルブチレート、エチルベンゾエート等である。
【0090】
別の好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、RCO(式中、R及びRは、独立に、アルキル基を表す)の一般式を有するケトンである。ケトン溶媒の非限定的な例は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等である。
【0091】
別の好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、チオール(R=S-H)又はR-S-R(式中、R及びRは、独立に、アルキル基である)の一般式を有するチオエーテルである。チオエーテル溶媒に含まれるのは、3、5又は6員環をベースとした環状チオエーテルである。環状チオエーテルは、アルキル基で置換され得、不飽和を有し得、窒素又は酸素原子などの付加的な機能性元素を環内に有し得る。チオール溶媒の非限定的な例は、エタンチオール、tert-ドデシルメルカプタン、チオフェノール、t-ブチルメルカプタン、オクタンチオール、ジメチルスルフィド、エチルメチルスルフィド、メチルベンジルスルフィド等である。
【0092】
別の好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、R101112Nの一般式(式中、R10、R11及びR12は、独立に、アルキル基を表す)を有する第三アミンである。第三アミンのN原子を3、5又は6員環中に有することができる。第三アミン溶媒の非限定的な例は、トリエチルアミン、ジメチルブチルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、N-エチルピペリジン等である。
【0093】
本発明において、R~R12のアルキル基は、それぞれメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」、若しくは「脂環式」、若しくは「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基など、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素などのアルキル基を意味する。更に、アルキル基には、1つ以上の不飽和、エーテル、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオ、チオール、チオキシ、スルホ、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、アゾ、アミド、イミド、アミノ、イミノ又はハロゲンなどの官能基が含まれ得る。
【0094】
好ましい実施形態において、iv)極性非プロトン性溶媒は、アセトニトリルなどのニトリル含有溶媒及びテトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-THF、2,5-ジメチル-THF、1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル及び1,2-ジメトキシエーテルなどのエーテル並びにブチルブチレートなどのエステルを含む。
【0095】
一実施形態において、スラリーは、第2の溶媒として無極性非プロトン性溶媒を更に含むことができる。典型的な無極性非プロトン性溶媒は、直鎖及び分岐アルカン(例えば、へプタン)、環状アルカン(例えば、シクロヘキサン)並びに芳香族化合物(例えば、キシレン及びトルエン)などであるが、それらに限定されない飽和炭化水素及び芳香族炭化水素である。
【0096】
本発明の第3の目的は、上述した固体複合電解質を含む固体電池である。
【0097】
本発明の第4の目的は、イオン伝導性及び機械的特性を改善するための、固体電池の電解質及び/又は電極における、上述した固体複合電解質の使用である。
【0098】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本願明細書の記載と矛盾する場合、本願明細書の記載が優先するものとする。
【0099】
ここで、本発明が以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、その目的は、単に例証的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0100】
原材料
硫化物材料:
- LSPS(NEI Corporationから入手可能なNANOMYTE(登録商標)SSE-10)
- LPSCl(MSE suppliesから入手可能な、細粉としてAmpceraTMアルジロダイトLiPSCl(D50:約10μm))
ポリマー
- PVDF A:Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から入手可能なSOLEF(登録商標)21216
- PVDF B:Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から入手可能なTECNOFLON(登録商標)NH
- PEOホモポリマー(Sigma Aldrichから入手可能な600kDa)
- PEC(Empower Materialsから入手可能なQPAC(登録商標)25)
- PAN:(ポリ(スチレン-コ-アクリロニトリル)(アクリロニトリル30重量%)、Sigma Aldrichから入手可能)
- SEBS(Asahi Kasei Chemicals Corp.から入手可能なTuftec(商標)N504)
Li塩:
- LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、Solvayから入手可能)
【0101】
イオン伝導率
膜のイオン伝導率は、社内で開発された圧力セルを用いたACインピーダンス分光法によって測定した。その際、膜は、インピーダンス測定中に2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。圧力セルの断面図を図1に示す。
【0102】
本発明の実施例1による固体複合電解質のインピーダンススペクトルは、83MPaの圧力及び20℃の温度で決定した。
【0103】
複合電解質膜のナイキストプロットは、高い周波数領域及び低い周波数領域に半円及びワールブルグインピーダンスをそれぞれ有する固体電解質(無機、ポリマー又は複合材料)の典型的な挙動を有した。複合電解質の導電率の挙動を、Rが抵抗でありQが定位相要素である等価回路R1(R2/Q2)Q3に従ってモデル化した(図2を参照されたい)。R1及びR2は、それぞれバルク抵抗及び粒界抵抗を表し、Q2及びQ3は、それぞれ粒界寄与及び電極寄与を表す。
【0104】
高周波における実軸との半円の切片はバルク抵抗(R1)に帰せられ、より低い周波数における実軸との切片は、膜の全抵抗(R1+R2)に帰せられた。この全抵抗Rは、固体電解質の導電率を計算するために慣例的に使用される。これに基づいて、イオン伝導率σは、σ=d/(R×A)の式を使用して得た。ここで、dは、膜の厚さであり、Aは、ステンレス鋼電極の面積である。
【0105】
PEOと硫化物との間の化学的不相溶性のために、ナイキストプロットは、固体電解質粒子とPEOベースのポリマー電解質バインダーとの間に形成される抵抗界面層に帰せられる、第2の半円を示す。PEO/LiTFSIベースのポリマー電解質を有する複合電解質の導電率の挙動を、Rが抵抗でありQが定位相要素である等価回路R1+(R2/Q2)+(R3/Q3)+Q4に従ってモデル化した(図3を参照されたい)。全抵抗(R1+R2+R3)を用い、σ=d/(R×A)の同じ式を使用してイオン伝導率を計算した。ここで、dは膜の厚さであり、Aはステンレス鋼電極の面積である。
【0106】
異なる固体電解質、ポリマー電解質及び非導電性バインダーを有する複合電解質膜のイオン伝導率を以下の表1に記載する。
【0107】
イオン伝導率をイオン抵抗/伝導率によって特性決定することができる。イオン抵抗のSI単位は、オームメートル(Ω・m)であり、イオン伝導率のSI単位は、1メートル当たりのジーメンス(S/m)であり、Sは、オーム-1である。
【0108】
発明の実施例1(Ex1):
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子(LSPS、NANOMYTE(登録商標)SSE-10;NEI Corporation)及びポリマー電解質(LiTFSI及びSolef(登録商標)21216)から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0109】
3.6重量%のポリマー及びポリマーに対して20重量%のLiTFSIが添加される溶液を得るためにLiTFSI及びPVDF AをACN(アセトニトリル)中に溶解した。5.9gの粉末の固体電解質を7gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをAl支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0110】
ナイキストプロットは、ポリマーによる固体電解質の分解の徴候を全く示さなかった。
【0111】
発明の実施例2~4(Ex2~4):
実施例2~4は、LSPS及び導電性バインダーとしてポリマー電解質(PVDF A-LiTFSI)を使用して実施例1と同様に製造したが、ただし、ポリマー電解質中の塩濃度は、異なり、THF(テトラヒドロフラン)をACNの代わりに使用した。ポリマー電解質は、実施例2~4についてそれぞれ20重量%、40重量%及び60重量%のLiTFSIを含有した。実施例の全体にわたり、スラリーの固形分は、キャスティングプロセスのためにそれらの粘度を最適にするために適合された。
【0112】
PVDF Aベースのポリマー電解質を有するLSPS複合材料は、優れたイオン伝導率及び硫化物との化学的適合性を示した。
【0113】
発明の実施例5(Ex5):
実施例4の場合と同じ手順に従ったが、ただし、硫化物ベースの固体イオン伝導性粒子としてLSPSの代わりにLPSClを使用し、且つアセトニトリルを溶媒としてテトラヒドロフランの代わりに使用した。
【0114】
発明の実施例6(Ex6):
実施例5の場合と同じ手順に従ったが、異なるPVDF A及びLiTFSI濃度を使用した。
【0115】
発明の実施例7(Ex7):
5重量%のポリマー及びポリマーに対して20重量%のLiTFSIを添加する溶液を得るためにLiTFSI及びPVDF Bをブチルブチレートに溶解した。5.8gのLPSCl粉末の固体電解質を5gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをAl支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0116】
発明の実施例8(Ex8):
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子(LSPS)及びポリマー電解質(LiTFSI及びPEC)から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0117】
3重量%のポリマー及びポリマーに対して80重量%のLiTFSIを添加する溶液を得るためにLiTFSI及びPECをACNに溶解した。3gの粉末の固体電解質を2gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをポリイミド支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0118】
ナイキストプロットは、ポリマーによる固体電解質の分解の徴候を全く示さなかった。
【0119】
発明の実施例9~13(Ex9~13):
実施例9~13は、LSPS及び導電性バインダーとしてポリマー電解質(PEC-LiTFSI)を使用して実施例8と同様に製造したが、ただし、複合電解質中のポリマー及び/又は塩濃度は、異なっていた。
【0120】
発明の実施例14(Ex14):
硫化物ベースの固体イオン伝導性粒子としてLSPSの代わりにLPSClを使用したこと以外、実施例9~13の場合と同じ手順に従った。
【0121】
発明の実施例15(Ex15):
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子(LPSCl)及びポリマー電解質(LiTFSI及びPAN)から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0122】
5重量%のポリマー及びポリマーに対して30重量%のLiTFSIを添加する溶液を得るためにLiTFSI及びPANをACNに溶解した。3.3gの粉末の固体電解質を2.5gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをAl支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0123】
実施例1~15の得られた複合材料の全ての組成は、イオン伝導率と共に以下の表1に記載されている。
【0124】
【表1】
【0125】
比較例1(CE1)
LSPS及びLiTFSI/PEOポリマー電解質から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0126】
ポリマー電解質溶液を得るために0.054gのLiTFSI及び0.154gのPEOを9.846gのACNに溶解した。2.923gのLSPSを溶液に添加し、混合した。得られたスラリーをテフロンカップ内に注ぎ、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0127】
比較例2~5(CE2~CE5)
比較例2~比較例5は、異なる量のPEO/LiTFSIポリマー電解質を有する複合電解質膜を得るためにLSPS、PEO及びLiTFSIの量を合わせたこと以外、比較例1と同様に製造した。
【0128】
PEO/LiTFSIポリマー電解質バインダーを有するLSPS複合膜(比較例1~比較例5に対応する)のナイキストプロットは、第2の半円を示し、それは、PEOポリマーによる固体電解質の分解に帰することができる(Riphausらによって証明されている)。結果として、固体電解質粒子とPEO/LiTFSIポリマー電解質との間に絶縁層が形成され、同様な量のVDFベースのポリマー電解質バインダーを有する複合電解質(実施例1~実施例5に対応する)と比べて複合電解質のイオン伝導率全体に劇的な低下をもたらすと解釈することができる。
【0129】
比較例6(CE6)
LSPS及びLiTFSI/VDF-HFPポリマー電解質から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0130】
5重量%のポリマー及びポリマーに対して20重量%のLiTFSIを添加する溶液を得るために、実施例1と同様に、LiTFSI及びPVDFをTHFに溶解した。0.1gの粉末の固体電解質を6gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをAl支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0131】
得られた複合電解質膜は非常に抵抗性であったため、イオン伝導率を決定することができなかった。
【0132】
代わりに、10μlの液体電解質(TEGDME[テトラメチレングリコールジメチルエーテル]/ジオキソラン50:50並びに1M LiTFSI)を複合膜のいずれかの面、すなわち圧力セルの複合電解質とブロッキング電極との間に加えた。液体電解質の添加により、複合電解質膜の抵抗率は劇的に変化した。実際の得られた「ゲル」複合膜のイオン伝導率は5*10-3mS/cmであった。
【0133】
このデータは、測定されたイオン伝導率が無機電解質(すなわち硫化物)からではなく、有機相(すなわちゲル相中のVDFベースのポリマー電解質)から得られたことを示す。
【0134】
比較例7~9(CE7~CE9)
LSPS及びPVDFから構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0135】
Li塩を含有せずにTHF中の5重量%ポリマー溶液を製造した。粉末中の3gのLSPSを6gのポリマー溶液に添加し、ローターステーターで混合した。得られたスラリーをAl支持体上にキャストし、周囲温度で乾燥させ、その後、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0136】
比較例10(CE10)
LSPS及び水素化熱可塑性スチレンエラストマー(SEBS)から構成される固体複合電解質を以下のように製造した。
【0137】
0.1gのSEBSを2.5gのキシレン中に溶解した。1.9gのLSPSをこのポリマー溶液に添加し、テフロン支持体上にキャストし、50℃で乾燥させた。80℃での真空乾燥により、完全な溶媒除去を確実に行った。自立膜が得られた。
【0138】
比較例11(CE11)
比較例13は、硫化物及びSEBSの量が異なる以外は比較例1と同じ方法で調製された。
【0139】
比較例10及び比較例11によって実証されたように、非導電性バインダーの存在はイオン伝導率の急速な減少をもたらした。水素化バインダーを有するLSPS複合材料は、同様な量のポリマー電解質を有する複合電解質(実施例1~実施例14に対応する)と比べてずっと低いイオン伝導率を示した。
【0140】
比較例1~11の得られた複合材料の全ての組成は、イオン伝導率と共に以下の表2に記載されている。
【0141】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】