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特表2023-534293脆弱X症候群の治療のための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】脆弱X症候群の治療のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230801BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230801BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N7/01
A61K35/76
A61K9/08
A61K48/00
A61K31/7088
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503074
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 US2021041975
(87)【国際公開番号】W WO2022016055
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】63/053,461
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.プルロニック
3.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】500469235
【氏名又は名称】チルドレンズ ホスピタル メディカル センター
(71)【出願人】
【識別番号】523015611
【氏名又は名称】フォージ バイオロジクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ペダパティ,アーネスト
(72)【発明者】
【氏名】グロス,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】ディスミューク,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】デ シルバ,エランディ カンチャナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA11
4C076BB11
4C076BB13
4C076CC01
4C076FF11
4C076FF68
4C084AA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA01
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
(57)【要約】
野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(ヒトFMRP)をコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)9ウイルス粒子を使用して脆弱X症候群(FXS)患者の症状を緩和するための方法。また、本明細書では、FXSに関連する少なくとも1つの症状を緩和するためのFXS患者のためのAAV9ウイルス粒子の好適な用量を決定する方法、並びに治療効果をモニタリングするための方法も提供される。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱X症候群(FXS)を治療するための方法であって、FXSを有するヒト患者に有効量の複数のアデノ随伴ウイルス(AAV)9ウイルス粒子を投与することを含み、前記AAV9ウイルス粒子が、一本鎖AAV DNAベクターを含み、前記一本鎖AAV DNAベクターが、野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(ヒトFMRP)をコードするヌクレオチド配列を含み、前記ヌクレオチド配列が、プロモーターに作動可能に連結されており、前記AAV DNAベクターが、前記AAV9ウイルス粒子による感染後の前記ヒト患者の脳において前記野生型ヒトFMR1を発現させる、方法。
【請求項2】
前記AAV DNAベクターが、自己相補的AAVベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記AAV DNAベクターが、標準的なAAVベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロモーターが、ニワトリβアクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プロモーターが、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記AAV DNAベクターが、ヒトFMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメントを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の調節エレメントが、ヒトβグロビンイントロン配列、1つ以上のポリAシグナル伝達配列、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上のポリAシグナル伝達配列が、ヒトβグロビンポリAシグナル伝達配列、SV40ポリAシグナル伝達配列、又はそれらの組み合わせを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記AAV DNAベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドと、WPREと、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記AAV DNAベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドと、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターであって、前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記AAV DNAベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターと、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の上流にあるヒトβグロビンイントロン配列と、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列及びヒトβ-グロビンポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターであって、前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記AAV DNAベクターが、非脳組織における前記野生型FMRPの発現を抑制するための、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上のMTSが、miR-122のMTS、miR-208aのMTS、miR-208b-3pのMTS、miR-499a-3pのMTS、又はそれらの組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記野生型ヒトFMRPが、ヒトFMRPアイソフォーム1である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒトFMRPが、N末端1~297アミノ酸残基を含む野生型ヒトFMRPのフラグメントである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記AAV9ウイルス粒子が、静脈内注射、脳室内注射、大槽内注射、実質内注射、又はそれらの組み合わせによって前記ヒト患者に投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記AAV9ウイルス粒子が、少なくとも2つの投与経路を介して前記ヒト患者に投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも2つの投与経路が、
(a)脳室内注射及び静脈内注射、
(b)髄腔内注射及び静脈内注射、
(c)大槽内注射及び静脈内注射、並びに
(d)実質内注射及び静脈内注射からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記投与の前に、前記ヒト患者が、疾患の表現型重症度を決定するために、脳波図(EEG)、行動及び/若しくは認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせに供される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、前記投与ステップの前に、前記ヒト患者を脳波図(EEG)、行動及び/若しくは認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせに供するステップを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記EEG分析、前記行動及び/若しくは認知評価、又は前記それらの組み合わせに基づいて、前記AAV9ウイルス粒子の投与量及び/又は送達経路を決定することを更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ヒト患者が、GABA受容体アゴニスト、PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤、MMP9アンタゴニスト、又はそれらの組み合わせを含む治療を受けてきている、又は受けている、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
有効量のGABA受容体アゴニスト、PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤、MMP9アンタゴニスト、又はそれらの組み合わせを前記ヒト患者に投与することを更に含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
治療効果をモニタリングするために、前記AAV9ウイルス粒子の投与後に前記ヒト患者をEEGに供することを更に含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒト患者を行動及び/又は認知神経リハビリテーションに供することを更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記神経リハビリテーションが、前記AAV9ウイルス粒子の投与後に行われる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ヒト患者が、ヒトの子供である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(i)5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含むAAV骨格、
(ii)野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質をコードするヌクレオチド配列、
(iii)(ii)に作動可能に連結されたプロモーター、並びに
(iv)非脳組織における前記野生型FMRPの発現を抑制するための、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を含む、AAVベクター。
【請求項30】
自己相補的AAVベクターである、請求項29に記載のAAVベクター。
【請求項31】
前記プロモーターが、ニワトリβアクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドである、請求項29又は30に記載のAAVベクター。
【請求項32】
前記1つ以上のMTSが、miR-122のMTS、miR-208aのMTS、miR-208b-3pのMTS、miR-499a-3pのMTS、又はそれらの組み合わせを含む、請求項29~31のいずれか一項に記載のAAVベクター。
【請求項33】
前記野生型ヒトFMRPがヒトFMRPアイソフォーム1である、請求項29~32のいずれか一項に記載のAAVベクター。
【請求項34】
自己相補的アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(v)5’逆方向末端反復(ITR)及び切断された3’ITR(それらの一方又はそれらの両方のいずれかが切断されている)を含む、AAV骨格、
(vi)野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(ヒトFMRP)をコードするヌクレオチド配列であって、前記野生型FMRPが、FMRPアイソフォーム1である、ヌクレオチド配列、並びに
(vii)(ii)に作動可能に連結されたプロモーターを含む、自己相補的AAVベクター。
【請求項35】
非脳組織における前記野生型FMRPの発現を抑制するために、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を更に含む、請求項34に記載の自己相補的AAVベクター。
【請求項36】
前記プロモーターが、ニワトリb-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドである、請求項34又は35に記載の自己相補的AAVベクター。
【請求項37】
前記1つ以上のMTSが、miR-122のMTS、miR-208aのMTS、miR-208b-3pのMTS、miR-499a-3pのMTS、又はそれらの組み合わせを含む、請求項34~36のいずれか一項に記載の自己相補的AAVベクター。
【請求項38】
標準的なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(i)5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含むAAV骨格、
(ii)野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質をコードするヌクレオチド配列、
(iii)(ii)に作動可能に連結されたプロモーター、並びに
(iv)前記FMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメントを含む、標準的なAAVベクター。
【請求項39】
前記プロモーターが、ニワトリβアクチンプロモーターとCMVプロモーター又はヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターとのハイブリッドである、請求項38に記載のAAVベクター。
【請求項40】
前記1つ以上の調節エレメントが、ヒトβグロビンイントロン配列、1つ以上のポリAシグナル伝達配列、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項38又は39に記載のAAVベクター。
【請求項41】
前記1つ以上のポリAシグナル伝達配列が、ヒトβグロビンポリAシグナル伝達配列、SV40ポリAシグナル伝達配列、又はそれらの組み合わせを含む、請求項40に記載のAAVベクター。
【請求項42】
前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項38~41のいずれか一項に記載のAAVベクター。
【請求項43】
前記AAVベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッド、WPRE、及び前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列を含む、請求項38に記載のAAVベクター。
【請求項44】
前記AAVベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッド、及び前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列を含み、前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項38に記載のAAVベクター。
【請求項45】
前記AAVベクターが、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーター、前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の上流にあるヒトβグロビンイントロン配列、及び前記ヒトFMRPをコードする前記ヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列及びヒトβ-グロビンポリAシグナル伝達配列を含み、前記AAV DNAベクターが、WPREを含まない、請求項38に記載のAAVベクター。
【請求項46】
一本鎖AAV DNAベクターを封入するAAV9カプシドを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)9ウイルス粒子であって、前記AAV DNAベクターが、請求項29~45のいずれか一項に記載される、ウイルス粒子。
【請求項47】
前記AAV9ウイルス粒子及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月17日に出願された米国仮出願第63/053,461号の出願日の利益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
脆弱X症候群(FXS)は、脆弱X精神遅滞タンパク質(FMR1)遺伝子のCGGリピートの拡大によって引き起こされる単遺伝性症候群であり、その結果、遺伝子産物である脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)が失われ、遺伝性知的障害の主な原因となる。FXS患者はIQが低く、発達が遅れており、言語的及び非言語的コミュニケーションに障害があり(多くの場合ASDの基準を満たしている)、音及び光に対する過敏症並びにてんかん発作で明らかになる神経細胞の過興奮性に苦しんでいる。
【0003】
FXS患者は生涯にわたるケアを必要とし、自立した生活を送ることができず、患者及びその介護者の生活の質が低下する。FXSの治療のための新しい治療法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、少なくとも部分的に、FMRPのインビボ発現の成功につながるAAVベクターの開発、及びAAV9ウイルス粒子によって媒介される低レベルのFMRP発現がマウスモデルにおける脆弱X症候群(FXS)の一次行動症状の改善に成功した、という予想外の発見に基づく。また、脳波図(EEG)、行動評価、認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせが、個々のFXS患者の症状の緩和及び/又は治療効果の評価の際に、診断及び/又は予後バイオマーカーとして、例えば、FMR1担持AAV9ウイルス粒子の好適な用量(個別化された用量)を決定するために使用できることも発見された。
【0005】
したがって、本開示の一態様は、FXSを有するヒト患者に有効量の複数のアデノ随伴ウイルス(AAV)9ウイルス粒子を投与することによって、ヒト患者においてFXSを治療するための治療方法を提供する。AAV9ウイルス粒子は、一本鎖AAV DNAベクターを含むことができ、これは、プロモーターに作動可能に連結された野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(ヒトFMRP)をコードするヌクレオチド配列を包含し得る。AAV DNAベクターは、標準的なAAVベクターであり得る。代替的に、AAV DNAベクターは、自己相補的AAV(scAAV)ベクターであってもよい。AAV DNAベクターは、本明細書に開示されるAAV9ウイルス粒子の感染後、ヒト患者の脳において野生型ヒトFMRPを発現し得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、野生型ヒトFMRPは、ヒトFMRPアイソフォーム1であり得る。他の実施形態では、ヒトFMRPは、1~297個のアミノ酸残基のN末端フラグメントを含み得るか、又はそれからなり得る、野生型ヒトFMRP(例えば、アイソフォーム1)のフラグメントであり得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、ニワトリb-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドであり得る。他の実施形態では、プロモーターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターであり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、AAV DNAベクターは、ヒトFMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメントを更に含み得る。例えば、1つ以上の調節エレメントは、ヒトβグロビンイントロン配列、1つ以上のポリAシグナル伝達配列、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの例では、1つ以上のポリAシグナル伝達配列は、ヒトβグロビンポリAシグナル伝達配列、SV40ポリAシグナル伝達配列、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの例では、AAV DNAベクターはWPREを含まない。
【0009】
特定の例において、AAV DNAベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドと、WPREと、ヒトFMR1をコードするヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターである。
【0010】
他の特定の例では、AAV DNAベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドと、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターである。場合によっては、AAV DNAベクターはWPREを含まない。
【0011】
更に他の特定の例では、AAV DNAベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターと、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の上流にあるヒトβグロビンイントロン配列と、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列及びヒトβ-グロビンポリAシグナル伝達配列と、を含む、標準的なAAVベクターである。場合によっては、AAV DNAベクターはWPREを含まない。
【0012】
いくつかの実施形態では、AAV DNAベクターは、非脳組織における野生型FMRPの発現を抑制するための、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を更に含む。いくつかの例では、1つ以上のMTSは、miR-122のMTS、miR-208aのMTS、miR-208b-3pのMTS、miR-499a-3pのMTS、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAV9ウイルス粒子は、静脈内注射、脳室内注射、大槽内注射、実質内注射、又はそれらの組み合わせによってヒト患者に投与することができる。いくつかの例では、AAV9ウイルス粒子は、少なくとも2つの投与経路を介してヒト患者に投与することができる。いくつかの例では、少なくとも2つの投与経路は、脳室内注射及び静脈内注射、すなわち髄腔内注射及び静脈内注射、大槽内注射及び静脈内注射、又は実質内注射及び静脈内注射であり得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAV9ウイルス粒子の投与の前に、ヒト患者は、疾患の表現型重症度を決定するために、脳波図(EEG)、行動及び/若しくは認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせを受けてもよい。いくつかの例では、方法は、投与するステップの前に、ヒト患者を脳波図(EEG)、行動及び/若しくは認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせに供することを更に含むことができる。いくつかの例では、方法は、EEG分析、行動及び/若しくは認知評価、又はそれらの組み合わせに基づいて、AAV9ウイルス粒子の投与量及び/若しくは送達経路を決定することを更に含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、GABA受容体アゴニスト、PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤、MMP9アンタゴニスト、又はそれらの組み合わせを含む治療を受けてきている、又は受けているヒト患者に使用することができる。いくつかの例では、本明細書に開示される方法は、有効量のGABA受容体アゴニスト、PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤、MMP9アンタゴニスト、又はそれらの組み合わせをヒト患者に投与することを更に含むことができる。
【0016】
本開示の別の態様は、ヒトFXS患者などの対象においてFMRPを発現するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、及びそのようなベクターを一本鎖形態で含むAAV粒子、並びにそのようなAAVウイルス粒子を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含むAAV骨格;野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(FMRP)をコードするヌクレオチド配列;野生型ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター;非脳組織における野生型FMRPの発現を抑制するための、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を含み得る。いくつかの例において、本明細書に開示されるAAVベクターは、自己相補的AAVベクターであり得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示は、(i)5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含むAAV骨格、(ii)野生型ヒト脆弱X精神遅滞1タンパク質(FMRP)をコードするヌクレオチド配列、(iii)(ii)に作動可能に連結されたプロモーター、(iv)FMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメントを含む標準的なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを特徴とする。
【0019】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、ニワトリβアクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッドである。他の実施形態では、プロモーターはヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーターである。代替的に、又は加えて、1つ以上の調節エレメントは、ヒトβグロビンイントロン配列、1つ以上のポリAシグナル伝達配列、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、又はそれらの組み合わせを含む。場合によっては、1つ以上のポリAシグナル伝達配列は、ヒトβグロビンポリAシグナル伝達配列、SV40ポリAシグナル伝達配列、又はそれらの組み合わせを含む。場合によっては、AAV DNAベクターは、WPREを含まない。
【0020】
いくつかの例では、AAVベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーターとCMVプロモーターとのハイブリッド、WPRE、及びヒトFMRPをコードするヌクレオチドの下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列を含む。
【0021】
他の例では、AAVベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVプロモーターとのハイブリッド、及びヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列を含み、AAV DNAベクターがWPREを含まない。
【0022】
更に他の例では、AAVベクターは、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(hPGK)プロモーター、ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の上流にあるヒトβグロビンイントロン配列、及びヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列の下流にあるSV40ポリAシグナル伝達配列及びヒトβ-グロビンポリAシグナル伝達配列を含み、AAV DNAベクターがWPREを含まない。
【0023】
また、本開示の範囲内には、ヒト患者におけるFXSの治療に使用するための本明細書に開示されるAAV9粒子、及びFXSの治療に使用するための医薬品を製造するためのAAV9粒子の使用が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて図面を参照することによってよりよく理解できる、本開示の特定の態様を更に実証するために含まれる。
【0025】
図1A-1B】ヒトFMRP産生が可能な自己相補的AAV(scAAV)ベクターを示す図を含む。図1A:図は、ハイブリッドCMVエンハンサー/ベータアクチンプロモーターCBの制御下にあるヒトFMR1コード配列を含むscAAV骨格に基づく構築物である、scAAV9-CB-FMR1のscAAVプラスミド構造を示している。図1B:画像は、完全長ヒトFMRP、フラグタグ付き完全長ヒトFMRP、又はGFPのいずれかを含むscAAVウイルスゲノムの濃度を増加させて形質導入した初代培養マウス皮質ニューロンにおけるタンパク質発現のウエスタンブロット分析を示している。上のパネルはFMRPタンパク質の発現、中央のパネルはflagタンパク質の発現、下のパネルはGFPタンパク質の発現を示している。
図2A-2C】ヒトFMRP産生が可能なAAV(AAV)ベクターを示す図を含む。図2A:図は、AAV-CAG-FMR1のAAVプラスミド構造を示し、これは、CAGプロモーターの制御下にあるヒトFMR1コード配列を含むAAV骨格に基づく構築物である。図2B:画像は、完全長ヒトFMRP又はGFPのいずれかを含むAAVウイルスゲノムの濃度を増加させて形質導入した初代培養マウス海馬ニューロンにおけるタンパク質発現のウエスタンブロット分析を示している。上部のパネルはFMRPタンパク質の発現を示し、中央のパネルはGFPタンパク質の発現を示し、下部のパネルはβ-アクチンタンパク質の発現(ローディングコントロール)を示している。図2C:グラフは、完全長ヒトFMRP又はGFPのいずれかを含むAAVウイルスゲノムの濃度を増加させて形質導入した初代培養マウス海馬ニューロンにおけるmRNA発現のRT-PCR分析を示している。左のパネルはFMRP mRNA発現を示し、右のパネルはGFP mRNA発現を示している。
図3A-3C】マウスの皮質及び海馬ニューロンにおけるウイルス発現FMRP又はGFPを示す図を含む。図3A:画像は、scAAV9-CB-GFPウイルスゲノムの脳室内(ICV)注射の2週間後のマウス脳におけるGFP発現を示している。図3B及び3C:画像は、50μm(図3B)及び100μm(図3C)のAAV-CAG-FMRPウイルスゲノムのICV注射の2週間後のマウス脳におけるFMRP発現を示している。NeuNは、神経細胞の免疫組織化学マーカーとして使用された。
図4A-4B】マウスをAAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFPウイルスゲノムのICV注射に供した後10週間後に、野生型マウス及びFmr1ノックアウト(KO)マウスから採取した脳スライスにおけるAAV-CAG-FMR1及びAAV-CAG-GFPの総タンパク質発現のウエスタンブロット解析の画像を含む。図4A:GFP。図4B:hFMRP。
図5】AAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後のFmr1 KO及び野生型マウスにおける行動及び機能評価の研究のための10週間のタイムラインを示す画像を含む。
図6A-6C】ICV注射によるAAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後に、Fmr1 KO及び野生型マウスにおいて実施されたネスティングアッセイを示す図を含む。図6A:画像は、野生型のAAV-CAG-GFP注射マウス(左パネル)及びFmr1 KO、AAV-CAG-GFP注射マウス(右パネル)に新鮮な巣箱を提供してから2時間後の細断された巣箱を示している)。図6B:グラフは、AAV注射後4週間ごとに1回ネスティングアッセイを行ったAAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後のFmr1 KO及び野生型マウスによって細断された巣箱の割合を示している。図6C:グラフは、Fmr1 KO及びAAV-CAG-GFPを注射した野生型マウスと比較した、Fmr1 KO及びAAV-CAG-FMRPを注射した野生型マウスにおけるAAV注射の2週間後及び4週間後のネスティング(営巣)行動の改善率を示している。
図7A-7C】ICV注射によるAAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後にFmr1 KO及び野生型マウスにおいて実施された大理石埋没アッセイを示す図を含む。図7A:画像は、野生型、AAV-CAG-GFP注射マウス、及びFmr1 KO、AAV-CAG-GF注射マウスにおける大理石埋没行動の例を示している。図7B:グラフは、AAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後のFmr1 KO及び野生型マウスにおける大理石を埋め始めるまでの潜時を示す。図7C:グラフは、AAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後のFmr1 KO及び野生型マウスによって15分後に埋められた大理石の量を示す。
図8A-8C】ICV注射によるAAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与の6~8週間後に、Fmr1 KO及び野生型マウスに対して実施されたモリス水迷路アッセイを示す図を含む。図8A:画像は、本明細書に開示されるように実施されたモリス水迷路アッセイの図を示している。図8B:グラフは、隠れたプラットフォームを正式に含んでいた象限へのエントリの数を示している。図8C:グラフは、AAV-CAG-FMRP又はAAV-CAG-GFP投与後のFmr1 KO及び野生型マウスにおける前のプラットフォーム位置に入るまでの潜時を示す。
図9】AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KO及び野生型マウスが、多動性及び/又は不安を測定するオープンフィールド活動アッセイ中にオープンセンタにいた合計時間を示すグラフを含む。
図10】AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KOマウス及び野生型マウスの間の新規オブジェクトの嗜好の違いを示すグラフを含む。ここで嗜好は、新規オブジェクトとのインタラクションに費やした時間を、新規オブジェクト及びなじみのあるオブジェクトの両方を探索する時間で割ることにより計算した。
図11A-11B】ICV注射によるAAV投与の10週間後に、AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KO及び野生型マウスの脳から調製した海馬切片における長期増強の電気生理学的測定を示す図を含む。図11A:グラフは、60分間にわたって測定されたシータバースト刺激によって誘発された長期増強を示している。図11Bグラフは、70分間にわたって測定されたシータバースト刺激によって誘発された長期増強を示している。
図12A-12B】ICV注射によるAAV投与の10週間後に、AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFMR1 KO及び野生型マウスから採取した脳から調製した皮質切片におけるタンパク質合成率を示す図を含む。図12A:画像は、ビヒクル(対照)又はピューロマイシンによる皮質切片の処理後の新生ペプチド鎖へのピューロマイシンの取り込みを調べるウエスタンブロット分析を示す画像。図12B:グラフは、ウエスタンブロット分析によって評価されたピューロマイシン存在量のベータ-チューブリン正規化デンシトメトリーを示している。
図13】野生型(WT)マウスと比較したFmrl KOのガンマパワーの増加を示すグラフを含む。ここで連続EEGによって測定されたガンマパワーは、6日間にわたり5分間で計算された(n=3、RM2-way ANOVA、*p<0.05)。
図14A-14D】脆弱X症候群(FXS)におけるガンマ(y)パワー関連異常のヒトデータの評価を示す図を含む。図14A:FXSの過剰なyパワー。有意なグループの違いを含む、相対的なyパワーのトポグラフィープロット(p<0.05補正)。図14B:聴覚皮質のyパワーは、行動と高度に相関している。高いyは、FXSの聴覚注意タスクのパフォーマンスの低下と関連している。図14C:シータ及びアルファパワーとのyの関係は、FXS(グレー)とHC(黒)を高度に区別する。図14D:マウスEEG分析のためのカスタム分析ソフトウェアからのEEGパワー分析出力。
図15】CAGWPREベクターのプラスミドマップを示す図である。
図16】CAGdelWPREベクターのプラスミドマップを示す図である。
図17】hPGKベクターのプラスミドマップを示す図である。
図18A-18B】ベクターCAGWPRE(図18A)及びCAGdelWPRE(図18B)によるFMRPの発現を示す写真を含む。
図19】CAGWPREベクター、CAGdelWPREベクター、hPGKベクターによるFMRPの発現を示す写真である。
図20A-20G】AAV-CAG-FMR1ベクターを担持するAAV粒子を投与した後の様々な組織におけるGAPDHに対して正規化されたFMRP及びeGFPの発現を示す図を含む。結果は、RT-PCTアッセイによって得られた。図20A:皮質。図20B:海馬。図20C:中脳。図20D:小脳。図20E:心臓。図20F:肝臓。図20G:腎臓。
【発明を実施するための形態】
【0026】
脆弱X症候群(FXS)は、Martin-Bell症候群又はエスカランテ症候群としても知られ、X染色体上のFMR1遺伝子のCGGトリヌクレオチドリピートの拡大に起因する遺伝性疾患である。FXSの原因となる拡張されたCGGトリヌクレオチドリピートは、正常な神経発達に必要な脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)をコードするFMR1遺伝子の5’非翻訳領域(UTR)にある。5’UTRのトリヌクレオチドリピート(CGG)は、通常6~53コピーで見られる。ただし、FXSに罹患している個人は、一般にCGGコドンの55~230回のリピートを持ち、FMR1プロモーターのメチル化、遺伝子のサイレンシング、及びFMRPの生成の失敗をもたらす。
【0027】
FMRPは、その翻訳及び安定性を調節する数百のmRNAと関連しており、シナプスでイオンチャネルを結合することによって神経細胞の興奮性に直接影響を与えることもできる。その結果、FMRPの欠損は、不可能ではないにしても、ヒトの単剤戦略で修正することが困難である分子、細胞、及び構造上の欠陥の過多につながる。FMRPが存在しない場合に生じる欠陥は、認知障害、コミュニケーション障害、社会的スキル障害、感覚過敏、不注意、適応行動障害、不安、自律神経系の調節不全、及び発作を引き起こす可能性がある。
【0028】
本開示は、機能的(例えば、野生型)ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(FMRP)を発現するための核酸を含有するAAV9ウイルス粒子によるFXSの治療を開発して、FXSに関連する行動及び機能的症状を改善することを目的とする。
【0029】
本開示は、マウスモデルにおけるFMRPの発現の成功につながった様々なAAVベクターの開発を報告する。驚くべきことに、FMRPをコードするAAV9ウイルス粒子をFXSの動物モデルのCNSに送達することによる低レベルのFMRP発現は、FXSマウスモデルで観察されたように、FXSに関連する症状を首尾よく緩和した。更に、本開示は、例えば、個々のFXS患者についてFMRPをコードするAAV9ウイルス粒子の適切な投与量を評価するために、脳波図(EEG)、行動、認知神経リハビリテーション評価、又はそれらの組み合わせを、診断及び/又は予後バイオマーカーとして使用できることを報告する。加えて、そのようなバイオマーカーは、治療の有効性を評価するために使用できる。
【0030】
本開示は、年齢及び性別が一致した対照を有するFXSの強力なサンプルにおける皮質興奮性の増大の証拠を確立した。高密度アレイEEGデータをソースローカライズすることにより、興味深い3つの主要な発見が特定された:(i)機能的な安静状態のネットワーク及び皮質領域における局所的なガンマ振動の増加;(ii)低周波のパワー及び結合関係の顕著な変化;(iii)ケースコントロールのコントラストとは無関係に、デフォルトモードネットワークからのソース推定ガンマパワーは、疾患固有の知的障害を高度に予測する。これらの発見は、FXS内の不均一性を「ネットワークの疾患」及び皮質過興奮性として解析する効果的な方法を支持し、これらの変化及びFXSにおける知的障害との臨床的関連性を測定する実行可能な方法を提供し、これは治療及び/又は治療効果のモニタリングに好適な患者を特定するためのバイオマーカーとして使用され得る。
【0031】
したがって、FMRPを発現するためのAAV9ウイルスベクター及び粒子、並びにFXS患者におけるFXS症状の緩和におけるそれらの使用が、本明細書において提供される。また、開示されたAAV9ウイルス粒子を作製し、本明細書に開示された行動特徴の1つ以上をバイオマーカーとして使用して、個々のFXS患者のためのAAV9ウイルス粒子の好適な用量(個別化された用量)を決定するための方法も本明細書に提供される。
【0032】
I.FMR1タンパク質を発現するためのAAVウイルス粒子
一態様では、本開示は、FXSの治療を必要とする対象にFMRPを送達するためのビヒクルとして使用するためのAAVウイルス粒子(例えば、AAV9ウイルス粒子)を提供する。
【0033】
パルボウイルスファミリーのメンバーであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、エンベロープを持たない小さなウイルスである。ここでのAAV粒子は、カプシドタンパク質サブユニット、VP1、VP2及びVP3から構成されるAAVカプシドを含み得、一本鎖DNAゲノムを取り囲む。非病原性、非分裂細胞を含む幅広い感染力の宿主範囲、及び統合の欠如の特性により、AAVは魅力的な遺伝子送達媒体になる。
【0034】
本明細書で使用される場合、AAVウイルス粒子は、ウイルスカプシドタンパク質によってカプセル化されたAAV DNAベクターを含有する。AAVウイルス粒子は、その血清型に応じて、特定の組織及び細胞に感染することができる。以下の説明を参照されたい。AAV DNAベクター(又はAAVベクター)は、野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質(FMRP)をコードするヌクレオチド配列、及び任意でFMRPの発現を制御するための調節エレメントを含む、ウイルス粒子中に担持されるDNA分子を指す。FMRPの発現レベルを調節するため、及び/又は安全性を改善するために、調節エレメントを選択することができる。例えば、FMR1コード配列は、FMRPの発現を駆動する好適なプロモーターに作動可能に連結することができる。場合によっては、AAV DNAベクターは、FMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメント、例えば、1つ以上のmiRNA結合部位、エンハンサー、転写因子結合部位、ポリAシグナル伝達要素、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0035】
(A)FMRPタンパク質
AAV9ウイルス粒子などの本明細書に開示されるAAVウイルス粒子は、機能的FMRPを発現するためのAAVベクターを担持する。FMR1は、脳で高度に発現されるmRNA結合タンパク質であり、核から神経シナプスに特定のmRNAを輸送する。FMRPが存在しないと、シナプスが適切に形成されず、FXSに関連する認知能力の低下と発達障害につながる。
【0036】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるFMRPは、天然に存在するFMRPであり得る。天然に存在するFMRP又はサブユニットは、好適な種、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、非ヒト霊長類、又はヒトなどの哺乳動物に由来し得る。いくつかの例において、FMRPは野生型ヒトタンパク質である。様々な種に由来する天然に存在するFMRPは、当技術分野で周知であり、それらの配列は、GenBankなどの公的遺伝子データベースから検索することができる。
【0037】
天然に存在するヒトFMRPの構造には、複数の保存された機能ドメインが含まれている。例えば、FMRPの機能ドメインは、2つのチューダードメイン、核局在化シグナル(NLS)、3つのKホモロジードメイン(KH0、KH1、KH2)、核外輸送シグナル(NES)、及びN末端からC末端までのアルギニン-グリシン-グリシンドメイン(RGG)からなる。チューダー、KH、及びRGGドメインは、主にRNA結合に関与しているが、タンパク質相互作用パートナーも有している。
【0038】
FMR1遺伝子は高度に保存された遺伝子で、約38kbのゲノムDNAにまたがる17個のエクソンからなる。FMR1遺伝子は、様々なFMR1転写アイソフォームを生成する広範な選択的スプライシングを受け、その結果、いくつかのFMRPアイソフォームが生じる。FMR1転写アイソフォームは、以下の表1に示すように、そのエクソン構造によってグループに分類できる。
【表1】
【0039】
ヒトFMR1遺伝子は、選択的スプライシングの結果、合計11のFMRPアイソフォームを生成できる。これらのFMRPアイソフォームは、約400残基の高度に保存されたN末端フラグメント、及び様々なmRNA結合親和性を持つ可変C末端配列を共有している。FMR1のスプライスアイソフォームのいずれも、本開示において使用することができる。いくつかの例では、本明細書で使用されるヒトFRMPはFRMPアイソフォーム1である。ヒトFMRPアイソフォーム1のアミノ酸配列を以下に提供する(配列番号:1)
【化1】
【0040】
FMRPのコード配列の例は、GenBankアクセッション番号NM_002024の下にある。
【0041】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAV粒子によって生成されるFMRPは、天然に存在するヒトFMRPの機能的フラグメントであり得る。そのような機能的フラグメントは、本明細書に開示されるFMRP機能ドメインのうちの1つ以上を含み得る。場合によっては、機能的フラグメントは、野生型FMRPの約400アミノ酸長のN末端保存ドメインを含む。いくつかの例では、FMRPのフラグメントは、N末端の1~297個のアミノ酸残基を含む(例えば、からなる)ことができる。代替的に、又は加えて、機能的フラグメントは、少なくとも1つのチューダードメイン、少なくとも1つのNLS、少なくとも1つのKH、少なくとも1つのNES、少なくとも1つのRGG、又はそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、機能的フラグメントは、野生型の対応物と比較して、N末端で切断されている場合がある。他の例では、機能的フラグメントは、野生型の対応物と比較して、C末端で切断されている場合がある。場合によっては、機能的フラグメントは、野生型の対応物と比較して、N末端及びC末端の両方で切断されている場合がある。
【0042】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAV粒子によって産生されるFMRPは、天然に存在するFMR1の機能的変異体(例えば、ヒトFMR1アイソフォーム1の機能的変異体)であり得る。そのような機能的変異体は、天然に存在するFMR1対応物(例えば、配列番号1)とともに、高い配列相同性(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又はそれ以上)を共有し、天然に存在するFMR1対応物と実質的に類似の生物活性(例えば、野生型の対応物と比較して生物活性の少なくとも80%)を有している。
【0043】
2つのアミノ酸配列の「パーセント同一性」は、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990,modified as in Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993のアルゴリズムを使用して決定される。このようなアルゴリズムは、Altschul,et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、語長=3で実施して、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Gapped BLASTは、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されているように利用できる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLAST及びNBLAST)を使用することができる。
【0044】
本明細書に開示される任意の機能的変異体は、本明細書に記載されるものなどの野生型FMRPの機能的ドメインのうちの1つ以上、例えば、N末端保存ドメイン、チューダードメイン、KHドメイン、及び/又はRGGドメインを含み得、1つ以上の非機能ドメインに1つ以上のバリエーションを含み得る。代替的に、機能的変異体は、野生型の対応物と比べて、例えば、1つ以上の機能ドメイン及び/又は1つ以上の非機能ドメインに保存的アミノ酸残基置換を含み得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換が行われるタンパク質の相対的電荷又はサイズ特性を変更しないアミノ酸置換を指す。変異体は、当業者に知られているポリペプチド配列を改変するための方法、例えば、そのような方法をまとめた参考文献、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、J.Sambrook,et al.,eds.,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見られる方法に従って調製することができる。アミノ酸の保存的置換には、次のグループ内のアミノ酸間で行われる置換が含まれる:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;及び(g)E、D。
【0046】
いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターのいずれかにおける導入遺伝子によってコードされるFMRPは、宿主細胞からFMRPを分泌するシグナルペプチドをN末端に含み得る。そのようなシグナルペプチドの例には、アルブミン、β-グルクロニダーゼ、アルカリプロテアーゼ又はフィブロネクチン由来のシグナルペプチドが含まれる。
【0047】
他の例では、本明細書に開示されるFMRPは、本明細書に開示されるベクターを含む融合タンパク質であり得、FMRPの分泌を改善するタンパク質モチーフ、例えば、タンパク質伝達ドメイン(PTD)、例えば、Tat又はVP22からのPTDであり得る。
【0048】
(B)AAVベクター
AAVベクターは、ウイルスの野生型ゲノムに由来する必要な遺伝要素(ウイルス骨格要素)を含み、ベクターをウイルス粒子にパッケージ化され、宿主細胞内で担持される導入遺伝子を発現させることができる。更に、本明細書に開示されるAAVベクターは、本明細書に開示されるFMRPのコード配列、及びコード配列に作動可能に連結された好適なプロモーターを含む。いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、コードされたFMRPの発現及び/又は分泌を調節する1つ以上の調節配列を更に含み得る。例としては、エンハンサー、イントロン配列、ポリアデニル化シグナル部位、内部リボソーム侵入部位(IRES)、マイクロRNA標的部位、転写後調節エレメント(PRE、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE))、又はそれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。安全上の懸念を引き起こす可能性のある要素は除外される場合がある。
【0049】
いくつかの例では、AAVベクターは、一本鎖核酸を含む通常の(標準)AAVベクターであり得る。例えば、例として図2A及び図15~17を参照されたい。他の例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、その中に二本鎖部分を含むことができる自己相補的AAVベクターであり得る。例えば、例として図1Aを参照されたい。
【0050】
(1)ウイルス骨格要素
本明細書に開示されるAAVベクターは、AAVベクターの生物活性に必要な最小のAAVゲノム要素を指す、1つ以上のAAVゲノム由来骨格要素を含む。例えば、AAVゲノム由来骨格要素は、AAVウイルス粒子に組み立てられるAAVベクターのパッケージング部位、宿主細胞におけるベクター複製及び/又はそこに含まれる導入遺伝子の発現に必要な要素を含み得る。いくつかの例では、市販のAAVベクター(例えば、Addgeneから)をここで使用することができる。例えば、Addgeneによって提供されるAAVベクター(例えば、Addgeneプラスミド#28014)を使用することができ、そこに含まれるGFP遺伝子をFMR1のコード配列で置換することができる。
【0051】
AAVベクターで使用するためのウイルス由来エレメントは、当技術分野で周知である。典型的には、AAVベクターは、野生型AAVゲノムに由来する逆方向末端反復(ITR)配列の一方又は両方を含む。いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクター中のITR配列は野生型であり得る。他の例では、AAVベクターで使用されるITR配列は、野生型ITRの修飾バージョン(例えば、短縮バージョン)であり得る。野生型又は修飾バージョンを含む、AAVベクターの構築に使用するためのITRも、当技術分野で周知である。例えば、Dayaら、Clinical Microbiology Reviews、21(4):583-593(2008)を参照されたい。その関連開示は、本明細書で参照される主題及び目的のために参照により組み込まれる。いくつかの例では、AAV2 ITRを使用することができる。
【0052】
いくつかの例では、本明細書に開示されるウイルス骨格要素は、少なくとも1つの逆方向末端反復(ITR)配列、例えば2つのITR配列を含み得る。いくつかの例において、1つのITR配列は、FMRPのコード配列の5’である。他の例において、1つのITR配列はコード配列の3’である。いくつかの例では、FMRPをコードするポリヌクレオチド配列は、本明細書に開示されるAAVベクターにおいて2つのITR配列に隣接する。いくつかの例では、FMRPをコードするポリヌクレオチド配列は、本明細書に開示されるAAVベクター内の2つのスタッファー配列に隣接することができる。
【0053】
(2)自己相補的AAVウイルスベクター
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、自己相補的AAV(scAAV)ベクターである。自己相補的AAV(scAAV)ベクターには、感染細胞に入ったときに自発的にアニーリング(折り畳まれて二本鎖ゲノムを形成する)できる相補配列が含まれているため、細胞のDNA複製機構を使用して一本鎖のDNAベクターを変換する必要性を回避する。自己補完AAVベクターは、当技術分野で知られている。例えば、米国特許第6,596,535号;同第7,125,717号;同第7,765,583号;同第7,785,888号;同第7,790,154号;同第7,846,729号;同第8,093,054号;同第8,361,457号;及びWang Z.ら(2003)Gene Ther 10:2105-2111を参照されたい。これらのそれぞれの関連する開示は、本明細書で参照される目的及び主題のために参照により本明細書に組み込まれる。自己補完ゲノムを含むAAVは、その部分的相補配列(例えば、導入遺伝子のコード鎖及び非コード鎖を補完する)によって二本鎖DNA分子を迅速に形成することができ、それによってコードされたタンパク質を迅速に産生する。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるscAAVウイルスベクターは、鎖内塩基対を形成する第1の異種ポリヌクレオチド配列(例えば、FMR1コード鎖)及び第2の異種ポリヌクレオチド配列(例えば、FMR1非コード鎖又はアンチセンス鎖)を含み得る。いくつかの例では、第1の異種ポリヌクレオチド配列及び第2の異種ポリヌクレオチド配列は、鎖内塩基対形成を促進する配列によって連結され、例えば、ヘアピンDNA構造を形成する。
【0055】
いくつかの例では、細胞に入る際のscAAVベクターの二量体構造は、2つの末端分解部位(trs)のうちの1つの変異又は欠失によって安定化され得る。trsは各ITR内に含まれるRep結合部位であるため、そのようなtrsの変異又は欠失は、AAV Repタンパク質によるscAAVベクターの二量体構造の切断を妨げて単量体を形成し得る。
【0056】
いくつかの例では、本明細書に開示されるscAAVウイルスベクターは、切断された5’逆方向末端反復(ITR)、切断された3’ITR、又はその両方を含み得る。いくつかの例において、本明細書に開示されるscAAVベクターは、D領域又はその一部(例えば、その中の末端分解配列)が欠失され得る切断された3’ITRを含み得る。そのような切断された3’ITRは、上記の第1の異種ポリヌクレオチド配列と第2の異種ポリヌクレオチド配列との間に位置し得る。
【0057】
(3)プロモーター
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、ヒト脳細胞などの好適な宿主細胞におけるコード化されたFMRPの発現を制御するために、FMR1コード配列に作動可能に連結された1つ以上の好適なプロモーターを含むことができる。そのようなプロモーターは、宿主細胞におけるタンパク質の効率的かつ好適な産生を可能にするために、遍在し、組織特異的、強い、弱い、調節された、キメラなどであり得る。プロモーターは、コードされたタンパク質と同種であってもよいし、細胞、ウイルス、真菌、植物、又は合成プロモーターを含む異種であってもよい。いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターのいずれかで使用されるプロモーターは、ヒト細胞において機能的であり、例えば、脳細胞において機能的である。ユビキタスプロモーターの非限定的な例には、ウイルスプロモーター、特にCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなど、及びPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーター(例えば、ヒトPGKプロモーター)などの細胞プロモーターが含まれる。
【0058】
いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、その中のFMR1導入遺伝子の発現を制御するための脳特異的プロモーターを含み得る。そのような脳特異的プロモーターは、非脳細胞よりも少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍又は100倍高い脳組織における導入遺伝子の発現を駆動し得る。他の例では、プロモーターは、VE-カドヘリンプロモーターなどの内皮細胞特異的プロモーターであり得る。更に他の例では、プロモーターはステロイドプロモーター又はメタロチオネインプロモーターであり得る。好ましくは、このプロモーターはヒトプロモーターである。
【0059】
いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、FMRPのコード配列に作動可能に連結されたサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含み得る。場合によっては、CMVプロモーターは野生型CMVプロモーターである。他の例では、AAVベクターは、ニワトリのベータアクチン遺伝子プロモーターを含み得る。特定の例において、AAVベクターは、ハイブリッドCMV/ニワトリベータアクチンプロモーターを含み得る。例えば、AAVベクターは、CMV初期エンハンサーエレメント、プロモーター、ニワトリベータアクチン遺伝子の第1エクソン及び第1イントロン、並びにウサギベータグロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む合成CAGプロモーターを含み得る。CAGプロモーターのヌクレオチド配列を以下に提供する:
修飾CAG配列(配列番号:2):
【化2】
【0060】
他の例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、ヒトPGKプロモーターなどのPGKプロモーターを含み得る。一例を以下に示す。
hPGKプロモーター配列(配列番号:3)
【化3】
【0061】
(4)マイクロRNAの標的部位
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、少なくとも1つのmiRNA標的部位(MTS)を含み得る。本明細書で使用される場合、「miRNA標的部位」又は「miRNA標的配列」は、miRNAが特異的に結合する核酸配列を指す。1つ以上のmiRNA結合部位を含むAAVベクターから転写されたmRNAの翻訳は、通常、対応するmiRNAがmiRNA標的部位に結合するとブロック(サイレンシング)され、mRNAの不安定化につながる可能性がある。miRNA標的部位は、miRNAがmiRNA標的部位で塩基対を形成できるように、対応するmiRNAに(完全に又は部分的に)相補的なヌクレオチド配列を含み得る。いくつかの例では、1つ以上のmiRNA標的部位は、FMR1コード配列の3’下流に位置する。その場合、結果として得られるmRNAは、3’非翻訳領域(3’UTR)にmiRNA標的配列を含むことになる。
【0062】
いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、非脳組織におけるFMRPの発現を抑制するための、1つ以上の組織選択的マイクロRNAに特異的な1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を含み得る。いくつかの例では、少なくとも1つのMTSは、MTSを欠くベクターと比較して、非脳組織においてFMRPを少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍又は100倍抑制することができる。いくつかの例では、AAVベクターは、肝臓、肺、膵臓、腎臓、心臓などの非脳器官に特異的なmiRNAが結合して、そのような器官におけるFMR1の発現を遮断することができる少なくとも1つのMTSを含み得る。
【0063】
いくつかの例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、miR122に特異的なMTSを含み得る。miR122は肝臓に豊富に存在し、甲状腺、脾臓、肺にも発現している。miR122の低レベルの発現は、膵臓、腎臓、及び動脈で観察された。他の例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、miR-208a又はmiR-208b-3pに特異的なMTSを含み得、これらは、心筋、筋肉において濃縮され、甲状腺においても低レベルで発現される。更に他の例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、miR-499a-3pに特異的なMTSを含み得、これは、心筋、筋肉、甲状腺、前立腺、及び骨にも富む。本明細書に開示されるAAVベクターで使用するための追加の好適なMTSは、当技術分野で知られており、例えば、Luwigら、Nucleic Acid Res.44(8):3865-3877(2016)に提供されており、その関連する開示は、本明細書に参照される主題及び目的について参照により組み込まれている。特定の例では、本明細書に開示されるAAVベクターは、本明細書に開示されるものなどの組織特異的miRNA標的部位の組み合わせを含み得る。
【0064】
(5)その他の遺伝子発現調節エレメント
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、脳細胞におけるFMRPの発現を調節するために導入遺伝子(FMRPをコードする)に作動可能に連結され得る、1つ以上の調節エレメントを更に含み得る。例示的な調節エレメントには、転写開始部位及び/又は終結部位、エンハンサー配列、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNA処理シグナル、細胞質のmRNAを安定させる配列、翻訳効率を高める配列(すなわち、コザックコンセンサス配列)、タンパク質の安定性を高める配列;必要に応じて、コード化された産物の分泌を促進する配列が含まれるが、これらに限定されない。天然、構成的、誘導性及び/又は組織特異的を含む多数の発現制御配列が当技術分野で知られており、本開示で利用することができる。
【0065】
例えば、AAVベクターは、SV40ポリアデニル化配列又はウシ成長ホルモンのポリアデニル化配列などのポリアデニル化配列を含み得る。場合によっては、AAVベクターは、1つ以上のイントロン配列、1つ以上のポリAシグナル伝達配列、及び/又は1つ以上の転写後調節エレメントを含み得る。場合によっては、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)など、安全性の懸念を引き起こす可能性のあるエレメントが除外されることがある。
【0066】
(6)AAVベクターの代表的な例
いくつかの例において、本明細書に開示されるAAVベクターは、(a)5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含み得るAAVウイルス骨格;(a)機能的なヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)(例えば、ヒトFMR1アイソフォーム1)タンパク質(FMRP)をコードするヌクレオチド配列;(c)FMRPコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、及び(d)1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を含み得る。場合によっては、プロモーターはニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVプロモーター(例えば、CAGプロモーター)のハイブリッドであってもよい。代替的に、又は加えて、1つ以上の組織選択的miRNA標的部位は、非脳組織に存在するが脳細胞には存在しない(又はFMRPの発現が大きく影響を受けないような非常に低いレベルでのみ)1つ以上のmiRNAに特異的であり得る。例示的なMTSには、miR-122、miR-208a、miR-208b-3p、miR-499a-3p、又はそれらの組み合わせに特異的なものが含まれる。そのようなAAVベクターは、本明細書に開示される調節エレメントのうちの1つ以上を更に含み得る。
【0067】
他の例では、本明細書で提供されるAAVベクターは、(a)5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITR(それらの一方又はそれらの両方のいずれかが切断されている);(b)野生型ヒトFMR1アイソフォーム1タンパク質をコードするヌクレオチド配列;(c)FMRPをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む、自己相補的AAV(scAAV)ベクターである。場合によっては、プロモーターはニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVプロモーター(例えば、CAGプロモーター)のハイブリッドである。場合によっては、scAAVは、非脳組織に存在するが脳細胞には存在しない(又はFMRPの発現が大きく影響を受けないような非常に低いレベルでのみ)1つ以上のmiRNAに特異的であり得る、1つ以上のマイクロRNA標的部位(MTS)を更に含み得る。例示的なMTSには、miR-122、miR-208a、miR-208b-3p、miR-499a-3p、又はそれらの組み合わせに特異的なものが含まれる。そのようなscAAVベクターは、本明細書に開示される調節エレメントのうち1つ以上を更に含み得る。
【0068】
scAAVベクターは、一般に挿入容量が限られていることが知られている。そのため、このタイプのAAVベクターは、一般的に大きな導入遺伝子には適していないとみなされている。ここでは、scAAVベクターを使用して、完全長ヒトFMR1アイソフォーム1のコード配列のクローンを作成し、エンコードされたFMR1アイソフォーム1タンパク質(FMRPアイソフォーム1)を発現させた。このデータは、scAAVベクターが、遺伝子治療目的で大きな完全長FMR1アイソフォーム1タンパク質(FMRPアイソフォーム1)を送達する際の使用に適していることを示唆している。
【0069】
いくつかの例では、本明細書で提供されるAAVベクターは、5’逆方向末端反復(ITR)及び3’ITRを含むAAV骨格:(ii)野生型ヒト脆弱X精神遅滞1(FMR1)タンパク質をコードするヌクレオチド配列;(iii)(ii)に作動可能に連結されたプロモーター;(iv)FMRPの発現を調節する1つ以上の調節エレメントを含む、標準的な(通常の)AAVベクターであり得る。プロモーターは、本明細書に開示されるCAGプロモーターであり得る。代替的に、プロモーターは、本明細書にも開示されているように、PGKプロモーターであり得る。場合によっては、AAVベクターは、1つ以上のイントロン配列(例えば、ヒトβグロビンイントロン配列)、1つ以上のポリAシグナル伝達配列(例えば、SV40ポリAシグナル伝達配列、ヒトβグロビンポリAシグナル伝達配列、又はそれらの組み合わせ)であり得る1つ以上の調節エレメント、1つ以上の転写後調節エレメント(例えば、WRPE)、又はそれらの組み合わせを含む。他の例では、本明細書で提供されるAAVベクターは、安全性を改善するためにWRPEなどを含まなくてもよい。
【0070】
本明細書に開示されるAAVベクターの特定の例は、以下の実施例1に提供される。
【0071】
(C)AAVウイルス粒子の血清型
AAVウイルス粒子は、脳細胞に感染できる好適な血清型のものであり得る。これまでに確認されたAAVウイルスの血清型は11種類ある。これらの血清型は、感染する細胞の種類が異なる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVウイルス粒子は、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、又はAAV9であり得、これらは全て脳細胞に感染することができる。いくつかの例では、AAVウイルス粒子はAAV9である。
【0072】
いくつかの例では、AAVウイルス粒子は、1つの血清型からのゲノムエレメント及び少なくとも別の血清型からのカプシドを含むハイブリッドAAVであり得る。例えば、AAVベクターは、AAV2由来のゲノムエレメント(例えば、AAV2 ITR、野生型又は修飾バージョン)及び脳細胞に感染可能な血清型の1つ由来のカプシド(例えば、AAV9)を含み得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVウイルス粒子は、例えば、非ウイルスタンパク質又はペプチドによって、又は構造修飾によって修飾されたカプシドを含み、AAVウイルス粒子の向性を変化させて脳細胞に感染できるようにすることができる。例えば、カプシドは、脳細胞受容体(例えば、脳細胞特異的受容体)のリガンドを含んでもよく、それを含むAAVウイルス粒子が脳細胞を標的にしてこれに感染し得る。
【0074】
(D)AAV粒子の作製方法
本明細書に開示されるAAV DNAベクター構築物は、既知の技術、例えば組換え技術を使用して調製され得る。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel.,F.et al.,eds,Wiley and Sons,New York1995)を参照されたい。場合によっては、導入遺伝子及び調節エレメントのサイズは、AAV粒子のパッケージング容量を満たすように設計することができる。必要に応じて、「スタッファー」DNA配列をコンストラクトに追加して、比較目的で標準的なAAVゲノムサイズを維持することができる。このようなフラグメントは、当業者に知られており、利用可能な非ウイルス源に由来し得る。
【0075】
AAV DNAベクターは、ウイルス粒子にパッケージ化され得、発現のために導入遺伝子を宿主細胞に送達するために使用され得る。例えば、本明細書に開示されるAAVベクターは、AAVビリオンパッケージに必要なカプシドタンパク質などのウイルスタンパク質を産生できるプロデューサー細胞株(パッケージング細胞)にトランスフェクトすることができる。
【0076】
パッケージング細胞株は、AAV粒子産生に必要な全ての成分、例えばAAV rep及びcap遺伝子、及び任意選択でネオマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーで安定にトランスフェクトされた細胞株を確立することによって生成され得る。例えば、Samulskiら、1982年、Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081を参照されたい。場合によっては、パッケージング細胞株は、AAVウイルス粒子の産生において、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染する可能性がある。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模生産に好適である。好適な方法の他の例は、rAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するために、プラスミドではなくアデノウイルス又はバキュロウイルスを使用する。rAAV産生の一般原則は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;and Muzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial. and Immunol.,158:97-129)で考察されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号;WO95/13365号及び対応する米国特許第5,658.776号;WO95/13392;WO96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO97/08298(PCT/US96/13872);WO97/21825(PCT/US96/20777);WO97/06243(PCT/FR96/01064);WO99/11764;Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号;及び米国特許第6,258,595号に記載されている。
【0077】
II.医薬組成物
本明細書に開示されるAAVウイルス粒子(例えば、AAV9ウイルス粒子)のいずれかを処方して、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を更に含み得る医薬組成物を形成し得る。本方法で使用される医薬組成物のいずれも、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤を含むことができる。
【0078】
医薬組成物中の担体は、組成物の活性成分と適合性があり、好ましくは活性成分を安定化でき、治療対象に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。例えば、「薬学的に許容される」とは、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与された場合に生理学的に許容され、典型的に有害な反応を引き起こさないものを含む組成物の分子実体及び他の成分を指し得る。いくつかの例では、本明細書に開示される医薬組成物に使用される「薬学的に許容される」担体は、連邦又は州政府の規制機関によって承認されたもの、又はU.S.Pharmacopeia又はその他の一般に認められた哺乳動物、特にヒトでの使用のための薬局方にリストされたものであり得る。
【0079】
緩衝剤を含む薬学的に許容される担体は、当技術分野で周知であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化物質;防腐剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;アミノ酸;疎水性ポリマー;単糖;二糖類;及び他の炭水化物;金属錯体;及び/又は非イオン性界面活性剤を含み得る。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hoover.を参照されたい。
【0080】
いくつかの実施形態では、医薬組成物又は製剤は、静脈内、脳室内注射、大槽内注射、実質内注射、又はそれらの組み合わせなどの非経口投与用である。そのような薬学的に許容される担体は、水及び油などの無菌液体であり得、石油、動物、植物又は合成起源のものを含み、例例えばピーナッツ油、大豆油、鉱物油がある。生理食塩水及び水性デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)及びグリセロール溶液も、特に注射用溶液の液体担体として使用できる。本明細書に開示される医薬組成物は、追加の成分、例えば防腐剤、緩衝剤、等張化剤、抗酸化剤及び安定剤、非イオン性湿潤剤又は清澄剤、増粘剤などを更に含んでもよい。本明細書に記載の医薬組成物は、単一の単位用量又は多用量形態で包装することができる。
【0081】
非経口投与に好適な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含み得る水性及び非水性の滅菌注射液、並びに懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。水溶液は、適切に緩衝化され得る(好ましくは、pH3~9)。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に達成される。
【0082】
インビボ投与に使用される医薬組成物は無菌でなければならない。これは、例えば、無菌濾過膜による濾過によって容易に達成される。滅菌注射溶液は、一般に、必要に応じて、上記に列挙した様々な他の成分を含む適切な溶媒に必要量のAAV粒子を組み込み、続いてフィルター滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、滅菌活性成分を、基本的な分散媒体及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、事前に滅菌濾過されたその溶液から、有効成分に加えて任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0083】
本明細書に開示される医薬組成物はまた、希釈剤及びアジュバントなどの他の成分を含み得る。許容される担体、希釈剤、及びアジュバントは、レシピエントに対して非毒性であり、使用される用量及び濃度で不活性であることが好ましく、リン酸、クエン酸、又は他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸などの抗酸化物質;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リシンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween、プルロニック又はポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤を含む。
【0084】
III.FMRPを生成するAAV粒子によるFXSの処理
本明細書に開示されるように、FMRPをコードするウイルスベクターを担持するAAV粒子のいずれかを使用して、FMRP発現のために脳細胞にFMRPをコードする導入遺伝子を送達して、FXSに関連する1つ以上の症状を緩和することができる。したがって、いくつかの態様において、本開示は、本明細書に開示されるAAV9粒子などの複数のAAV粒子の治療を必要とする対象において、1つ以上の症状を軽減するための、及び/又はFXSを治療するための方法、並びに以下を含む医薬組成物を提供する。本明細書に開示される方法を実施するために、有効量のAAV粒子又はそれを含む医薬組成物を、適切な経路(例えば、静脈内、脳室内注射、大槽内注射、又は実質内注射)を介して本明細書に開示される好適な量で、治療を必要とする対象に投与することができる。
【0085】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、治療を必要とする、例えば、標的疾患又は障害、疾患/障害の症状、又は疾患/障害に対する素因を有する対象に対し、障害、疾患の症状、疾患又は障害に対する素因を治す、癒す、緩和する、軽減する、変更する、治療する、改良する、改善する、又は影響を与えることを目的として、1つ以上の活性剤を含む組成物を適用又は投与することを指す。
【0086】
標的疾患/障害の緩和には、疾患の発症又は進行を遅らせること、又は疾患の重症度を軽減することが含まれる。疾患を緩和するために、必ずしも治療結果が必要なわけではない。本明細書で使用される場合、標的疾患又は障害の発症を「遅らせる」とは、疾患の進行を遅らせ、妨げ、遅くし、遅らせ、安定させ、及び/又は延期することを意味する。この遅延は、病歴及び/又は治療を受けている個人に応じて、様々な長さになる可能性がある。疾患の発症を「遅らせる」又は緩和する方法、又は疾患の発病を遅らせる方法は、方法を使用しない場合と比較して、特定の時間枠内で疾患の1つ以上の症状を発症する可能性を減らし、及び/又は症状の程度を減らす方法である。このような比較は、通常、統計的に有意な結果を得るのに十分な数の対象を使用した臨床研究に基づいている。
【0087】
疾患の「発症」又は「進行」は、疾患の初期症状及び/又はその後の進行を意味する。疾患の発症は、当技術分野で周知の標準的な臨床技術を使用して検出及び評価することができる。ただし、発症は、検出できない可能性のある進行も指す。本開示の目的上、発症又は進行は、症状の生物学的経過を指す。「発症」には、発生、再発、及び発病が含まれる。本明細書で使用される場合、標的疾患又は障害の「発病」又は「発生」には、最初の発症及び/又は再発が含まれる。
【0088】
本明細書に開示される方法のいずれかによって治療される対象は、FXSを有するヒト患者であり得、この者は、例えば臨床検査、器官機能検査、行動検査、CTスキャン、脳波図、及び/又は共鳴画像法(MRI)などの定期的な健康診断によって特定され得る。FXS患者は通常、FMR1遺伝子に1つ以上の遺伝子変異があり、通常、FMRPとも呼ばれる脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)と呼ばれるタンパク質を生成する。脆弱X症候群のほぼ全ての症例は、CGGトリプレットリピートとして知られるDNAセグメントがFMR1遺伝子内で拡張される変異によって引き起こされる。通常、このDNAセグメントは5回から約40回繰り返される。FXS患者では、CGGセグメントが200回以上繰り返される。異常に拡大したCGGセグメントは、FMR1遺伝子をオフ(サイレンス)にし、遺伝子がFMRPを生成するのを防ぐ。CGGセグメントが55~200回繰り返される男性及び女性は、FMR1遺伝子の前変異があると言われている。この前変異を持つほとんどのヒトは、知的に正常である。ただし、場合によっては、前変異を持つ個人のFMRPの量が通常よりも少ないことがある。その結果、FXSに見られる物理的特徴の軽度のバージョンが含まれている可能性がある。FXSは、X連鎖優性パターンで継承される。各細胞の変化した遺伝子の1つのコピーが状態を引き起こすのに十分である場合、遺伝は優性である。X連鎖優性とは、女性(2つのX染色体を持つ)では、各細胞の遺伝子の2つのコピーのうちの1つの変異が障害を引き起こすのに十分であることを意味する。男性(X染色体を1つしか持っていない)では、各細胞にある遺伝子の唯一のコピーの変異がこの障害を引き起こす。ほとんどの場合、男性は女性よりも障害のより深刻な症状を経験する。
【0089】
いくつかの実施形態では、対象は、ヒト小児FXS患者であってもよい。いくつかの実施形態では、対象は、男性のヒト小児FXS患者であってもよい。このような小児患者は、16歳未満の場合がある。いくつかの例では、小児患者は、12歳未満、例えば、10歳、8歳、6歳、4歳、又は2歳未満の年齢を有し得る。いくつかの例では、小児患者は乳児であり、例えば12ヶ月未満、例えば6ヶ月以下である。代替的に、対象は、青年期のヒト患者(例えば、16~20歳)又はFXSを有する成人のヒト患者であってもよい。
【0090】
代替的に、又は加えて、本明細書に開示される方法で治療されるFXS患者は、FMR1遺伝子内に拡張されたCGGセグメントを担持し得る。いくつかの例では、FXS患者は、FMR1遺伝子内で200回を超えて繰り返される拡張されたCGGセグメントを担持し得る。いくつかの例では、FXS患者は、FMR1遺伝子にX連鎖変異を有する男性患者であり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのFMR1遺伝子順列変異を有するFXSを有する疑いがある、又は有するリスクがある患者は、本明細書に開示される方法で治療され得る。次世代シーケンシング、ピロシーケンシング、サンガーシーケンシング、全エクソームシーケンシング、全ゲノムシーケンシングなどを含むがこれらに限定されないルーチンの世代シーケンシング法を使用して、候補対象に対して遺伝子検査を行うことができる。
【0091】
代替的に、又は加えて、本明細書に開示されるバイオマーカー(例えば、EEG)のうちの1つ以上を、本明細書に開示される治療に好適なFXS患者を特定するために使用することができる。
【0092】
本明細書に開示される方法のいずれにおいても、FXSに関連する1つ以上の症状を緩和するために、有効量のAAVウイルス粒子をFXS患者に投与することができる。場合によっては、FXSに関連する症状は、行動、認知神経リハビリテーション、又はそれらの組み合わせである可能性がある。いくつかの例では、FXSの症状は、不安に関連した固執的な行動、社会的行動、学習、記憶、又はそれらの組み合わせである可能性がある。
【0093】
もちろん、そのような量は、治療される特定の状態、状態の重症度、年齢、身体状態、体格、性別及び体重を含む個々の患者パラメータ、治療期間、同時治療の性質(もしあれば)、特定の投与経路、及び医療従事者の知識と専門知識の範囲内の同様の要因に依存する。有効量は、FXSを有する対象間の表現型の多様性、及び/又は関与する遺伝子変異によっても異なる。本明細書におけるAAVウイルス粒子の力価は、約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013~約1×1014又はそれ以上のDNase耐性粒子(DRP)/mlの範囲であり得る。投与量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表すこともできる。投与量は、FXSのヒトへの投与のタイミングによっても異なる。AAVベクターのこれらの投与量は、成人の体重1kg当たり、約1×1011vg/kg、約1×1012、約1×1013、約1×1014、約1×1015、約1×1016、又はそれ以上のウイルスゲノムの範囲であり得る。新生児の場合、AAVベクターの投与量は、1kg体重当たり、約1×1011、約1×1012、約3×1012、約1×1013、約3×1013、約1×1014、約3×1014、約1×1015、約3×1015、約1×1016、約3×1016、又はそれ以上のウイルスゲノムの範囲であり得る。このような量は、例えば、投与後の複数の時点でウイルスの血中レベルを調べて、投与量が適切かどうかを決定するなど、日常的な実践に従い、当業者によって決定することができる。
【0094】
場合によっては、AAVウイルス粒子は、複数回投与によって対象に投与され得る。いくつかの例では、複数回投与は、同じ経路又は異なる経路を介して結果として対象に投与することができる。他の例では、複数回投与は、異なる経路、例えば本明細書に開示されている経路を介して、対象に同時に投与することができる。
【0095】
医学分野の当業者に知られている従来の方法を使用して、AAV9粒子含有医薬組成物をFXS対象に投与することができる。例えば、静脈内注射、脳室内注射、大槽内注射、実質内注射、又はそれらの組み合わせなどにより、この医薬組成物を非経口的に投与することもできる。いくつかの実施形態では、AAV粒子含有医薬組成物を少なくとも2つの投与経路を介してヒト患者に投与することができる。いくつかの例では、投与経路の組み合わせは、脳室内注射及び静脈内注射であり得る。いくつかの例では、投与経路の組み合わせは、髄腔内注射及び静脈内注射であり得る。いくつかの例では、投与経路の組み合わせは、大槽内注射及び静脈内注射であり得る。いくつかの例では、投与経路の組み合わせは、実質内注射及び静脈内注射であり得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法によって治療される対象は、別の抗FXS療法を受けたか、又は受けているヒト患者であり得る。以前の抗SFXS療法が完了している場合がある。代替的に、抗FXS療法がまだ進行中の場合もある。他の実施形態では、FXS患者は、本明細書に開示されるAAV9粒子療法及び第2の抗FXS療法を含む併用療法を受けることができる。抗FXS治療には、行動異常、発作の治療、言語療法、理学療法などが含まれるが、これらに限定されない。例示的な抗FXS治療には、GABA受容体アゴニスト、PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤、MMP9アンタゴニスト、又はそれらの組み合わせを含む治療が含まれるが、これらに限定されない。追加の有用な薬剤及び療法は、Physician’s Desk Reference,59.sup.th edition,(2005),Thomson P D R,Montvale N.J.;Gennaro et al.,Eds. Remington’s The Science and Practice of Pharmacy 20.sup.th edition,(2000),Lippincott Williams and Wilkins,Baltimore Md.;Braunwald et al.,Eds.Harrison’s Principles of Internal Medicine,15.sup.th edition,(2001),McGraw Hill,NY;Berkow et al.,Eds.The Merck Manual of Diagnosis and Therapy,(1992),Merck Research Laboratories,Rahway N.J.に見ることができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、AAV9粒子などのAAV粒子又はその薬理学的組成物の投与量は、治療に対するFXS患者の応答に基づいて調整され得る。例えば、FXS患者が1つ以上の行動特徴(例えば、行動及び/又は認知活動)の悪化を示す場合、AAV粒子の用量を減らすことができる。代替的に、FXS患者がFXS症状の明確な改善を示さない場合、AAV粒子の投与量を増やしてもよい。個々のFXS患者におけるAAV9粒子の好適な用量及び/又は治療効果を評価するためのバイオマーカーとして行動特徴の使用については、以下の説明を参照されたい。
【0098】
IV.個々のFXS患者に対するAAV9粒子の個別化された用量の決定のためのEEG及び行動特徴バイオマーカーの使用
本明細書に開示される治療方法のいずれかにおいて、本明細書に開示される1つ以上のバイオマーカーは、好適な患者を特定するため、個別化されたAAV粒子投与量を決定するため、及び/又は治療効果を評価するために使用され得る。本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、FXS患者の臨床的特徴、例えば、疾患の表現型の重症度、治療に対する患者の応答性などに関する情報を提供する指標(1つの因子又は因子の組み合わせ)を指す。バイオマーカーには、EEG(例えば、長期増強、すなわちLTP)、1つ以上の行動特徴(例えば、動揺、又は記憶障害)、又はそれらの組み合わせが含まれる。FMRPはシナプスタンパク質であり、そのレベル及び/又は分布は脳内の神経活動のレベルと相関している。FMRPが失われると、LTPのしきい値が増加し、EEGを使用して測定及び記録できる異常な神経活動が発生する。したがって、EEGを使用してFMRPのレベル及び/又は分布を監視することができ、それによってFXS患者の診断及び治療効果の評価に利益をもたらす。
【0099】
いくつかの実施形態では、脳波図(EEG)によって評価される長期増強(LTP)パターンは、FXSを治療する方法で使用するための本明細書に開示されるAAV9粒子などのAAV粒子の好適な用量を評価及び決定するためのバイオマーカーとして使用することができる。いくつかの例では、AAV粒子の初期用量の投与後、EEGを使用してFXS患者のLTPパターンを監視することができる。AAV9粒子の初期用量がFXS患者のLTPパターンに影響を示さない場合、AAV9粒子の用量を維持又は増加させることができる。
【0100】
他の実施形態では、動揺は、本明細書に開示される方法で使用する、又は治療効果を評価するためのAAV9粒子の好適な用量を評価及び決定するバイオマーカーとして使用することができる。動揺とは、不安に関連した固執的な行動として示される不安又は神経興奮の状態を指す。AAV粒子の初期用量の投与後、FXS患者における動揺の発症及び/又は進行は、日常的な実践又は本明細書で提供される方法に従って監視され得る。FXS患者が動揺を発症するか、動揺が進行しているか、不安感が強まる場合、AAV粒子の投与量を減らすことができる。代替的に、AAV粒子の初期用量がFXS患者の動揺の発症をもたらさないか、又は動揺を緩和/軽減する場合、これは初期用量のAAV9粒子が有効であることを示す。AAV粒子の用量は、維持又は増加され得る。
【0101】
他の実施形態では、記憶障害は、本明細書に開示される方法で使用するため、又は治療効果を評価するためのAAV9粒子の好適な用量を評価及び決定するバイオマーカーとして使用することができる。記憶障害は、短期記憶によって示されるように、FXS患者の学習能力の欠如を指す。AAV粒子の初期用量の投与後、FXS患者における記憶障害の発症及び/又は進行は、日常的な実践又は本明細書に提供される方法に従って監視され得る。FXS患者が記憶障害を発症するか、又は記憶障害が進行している場合、AAV粒子の投与量を減らすことができる。代替的に、AAV粒子の初期用量がFXS患者の記憶障害の発症をもたらさないか、又は記憶障害を改善しない場合、これは初期用量のAAV9粒子が有効であることを示す。AAV粒子の用量は、維持又は増加され得る。
【0102】
本明細書に開示されるEEG及び/又は行動特徴バイオマーカーのうちの1つ以上を使用して、個々のFXS患者についてAAV粒子の好適な用量を決定することができる。
【0103】
本明細書に開示される1つ以上のEEG及び/又は行動特徴バイオマーカーは、本明細書に開示されるAAV粒子が関与する治療の治療効果を評価するためにも使用することができる。このような評価は、更なる治療戦略の決定に役立つ可能性がある。例えば、AAVを介したFMR1遺伝子治療を継続する、AAVを介したFMR1遺伝子治療を変更する(用量の変更、投与間隔など)、AAVを介したFMR1遺伝子治療を別の抗FXS療法と組み合わせる、又はAAVを介したFMR1遺伝子治療を終了するなどである。
【0104】
V.FXS治療に使用するキット
本開示は、本明細書に記載のFXSの治療に使用するためのキットも提供する。本明細書に記載の治療用キットは、医薬組成物に製剤化された、本明細書に記載のAAV9粒子などのAAV粒子を含む1つ以上の容器を含み得る。
【0105】
いくつかの実施形態では、キットは、追加的に、本明細書に記載の方法のいずれかにおけるAAV粒子の使用説明書を含むことができる。含まれる説明書は、対象において意図された活性を達成するための対象へのAAV粒子又はそれを含む医薬組成物の投与の説明を含み得る。キットは、対象が治療を必要としているかどうかの識別に基づいて、治療に好適な対象を選択する説明を更に含んでもよい。いくつかの実施形態では、使用説明書は、FXSを有するか又は有する疑いのある対象にラパマイシン化合物又はそれを含む医薬組成物を投与することの説明を含む。
【0106】
本明細書に記載のAAV粒子の使用に関する使用説明書は、一般に、意図する治療のための投与量、投与スケジュール、及び投与経路に関する情報を含む。いくつかの実施形態では、使用説明書は、FXSを有する対象におけるラパマイシンの投与量をバイオマーカーとして1つ以上の行動特徴、例えば本明細書に記載のものを使用して最適化することの説明を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば複数用量パッケージ)又はサブユニット用量であり得る。本開示のキットで提供される使用説明書は、典型的には、ラベル又は添付文書に記載された使用説明書である。ラベル又は添付文書は、医薬組成物が、対象の疾患又は障害を治療する、発病を遅らせる、及び/又は緩和するために使用されることを示す。
【0107】
本明細書で提供されるキットは、好適なパッケージに入っている。好適なパッケージには、バイアル、ボトル、ジャー、柔軟なパッケージなどが含まれるが、これらに限定されない。吸入器、経鼻投与装置、又は注入装置などの特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージも企図される。キットは、無菌のアクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針が突き刺すことができるストッパーを有するバイアルであってもよい)。容器は無菌アクセスポートを有してもよい。
【0108】
キットは、任意に緩衝剤や解釈情報などの追加コンポーネントを提供する場合がある。通常、キットは、容器、及び容器上若しくは容器に付随するラベル又は添付文書を含む。いくつかの実施形態では、本開示は、上記のキットの内容物を含む製品を提供する。
【0109】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に開示される1以上のAAVベクターを含む。いくつかの例では、キットは、追加的に、本明細書に開示されるAAVベクターと組み合わせて使用される1つ以上のヘルパーベクターを含むことができる。いくつかの例では、キットは、本明細書に開示されるAAVベクターとの使用に好適な宿主細胞を含み得る。キットは、本明細書に記載の方法に従ってAAVベクターを使用するための使用説明書を更に含むことができる。
【0110】
一般的なテクニック
本開示の実施は、別段の指示がない限り、当業者の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来の技術を使用する。このような技術は、例えば以下の文献に十分に説明されている:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1989)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.):Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practice approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.Harwood Academic Publishers,1995);DNA Cloning:A practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.(1985>>;Transcription and Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins,eds.(1984>>;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1986>>;Immobilized Cells and Enzymes(lRL Press,(1986>>;and B.Perbal,A practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.).
【0111】
更に詳しく説明しなくても、当業者は、上記の説明に基づいて、本発明を最大限に利用できると考えられる。したがって、以下の特定の実施形態は、単なる例示として解釈されるべきであり、決して本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用される全ての刊行物は、本明細書で参照される目的又は主題のために参照により組み込まれる。
【実施例
【0112】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明されてきたが、本開示の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、均等物を代用することができることを当業者は理解すべきである。加えて、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセスステップを、本開示の目的、趣旨、及び範囲に適合させるために、多くの修正を行うことができる。そのような修正は全て、本開示の範囲内にあることを意図している。
【0113】
実施例1.FMRPを発現するAAVベクターの開発
脆弱X症候群(FXS)は、脆弱X精神遅滞タンパク質(FMR1)遺伝子のCGGリピートの拡大によって引き起こされる単遺伝性症候群であり、その結果、遺伝子産物である脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)が失われ、遺伝性知的障害の主な原因となる。単一遺伝子疾患は、理論的には単一遺伝子の修正が生物全体を救う可能性がある遺伝子治療の特に魅力的な標的であるため、FXS患者のFMRP発現を回復するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)の開発は、有用な治療戦略となる可能性がある。
【0114】
ヒトFMRP(アイソフォーム1)を産生できるCNS標的AAVベクターを設計し、クローニングした。具体的には、FMRP又はGFP(対照としての緑色蛍光タンパク質)を発現する2つの異なるウイルスベクターが開発された:(1)自己相補的AAVベクター(scAAV;DNA合成の必要性を回避)(図1A)及び(2)通常のAAVベクター(図2A)である。scAAVベクター、scAAV9-CB-FMR1は、scAAV骨格に基づいており、ハイブリッドCMVエンハンサー/ベータ-アクチンプロモーターCBの制御下にあるヒトFMR1コード配列を含んでいた(図1A)。通常のAAVベクターであるAAV-CAGFMR1は、CBプロモーター(別名CAGプロモーター)の制御下にあるヒトFMR1コード配列を含む(図2A)。ウイルスは、前脳ニューロンの最適な形質導入のためにAAV9向性を付与するために生成され、FMR1挿入フラグメントのサイズは約3キロベース(kb)であった。
【0115】
両方のベクターは、一次海馬及び/又は皮質マウスニューロンでテストされ、用量依存的に完全長FMRPタンパク質を発現することが示された。具体的には、初代培養マウス皮質ニューロンを、8回目の細胞分裂で、1、2、5、又は10μlのscAAV9-CB-FMR1、scAAV9-CB-GFP、又はscAAV9-CBflag-FMR1ウイルス粒子で形質導入した。13回目の細胞分裂の後、細胞を回収し、ウエスタンブロット分析に供した。図1Bは、フラグタグ付きFMR1及びタグなしFMRPの両方の用量依存的発現を示している。追加的に、初代培養マウス海馬ニューロンに、1ml当たり3、1.5、0.8、又は0.4のウイルスゲノム(vg/ml)のAAV-CAGFMR1又はAAV-CAG-GFPを形質導入し、続いてウエスタンブロット分析を行った。図2Bは、それぞれAAV-CAGFMR1及びAAV-CAG-GFP形質導入細胞におけるFMRP及び対照GFPタンパク質の両方の用量依存的発現を示す。
【0116】
FMR1及びGFPのmRNA発現は、AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPの1ml当たり3、1.5、又は0.3ウイルスゲノム(vg/ml)で形質導入された初代培養マウス海馬ニューロンでも測定された。図2Cは、それぞれAAV-CB-FMR1及びAAV-CB-GFP形質導入細胞におけるFMR1 mRNA及び対照GFPmRNAの両方の用量依存的発現を示す。
【0117】
FMR1の発現及び安全性を最適化するために、3つの追加のベクターが開発された。これらの追加のベクターを構築するために、FMR1導入遺伝子を、カナマイシン耐性遺伝子を担持するベクター骨格中にクローニングした。追加的に、導入遺伝子はスタッファー配列に隣接しており、そうでなければパッケージ化される可能性のある細菌配列によるプラスミド骨格のパッケージングを減らす。このベクターを使用して生成された構築物は以下の通りである:(1)pTR130-mCAG-huFMRP-WPRE-SV40pA(以下、「CAGWPRE」ベクター)(図15参照)(配列番号4)であって、上記のベクター骨格内のAAV-CAGFMR1と同一の導入遺伝子を含むもの;(2)pTR130-mCAG-huFMRP-SV40pA(以下、「CAGdelWPREベクター」)(図16参照)(配列番号5)であって、上記のベクター骨格において、CAGWPRE構築物と比べてWPREを欠いているもの;(3)pTR130-hPGK-hBGin-huFMRP-hBGpA+SV40pA-3’sCHIMin(以下、「hPGKベクター」)(図17参照)(配列番号6)であって、FMRPの発現を駆動するためのhPGKプロモーター、並びに上記のベクター骨格における、mRNA転写物安定化要素(図17を参照)及び小さなキメライントロン配列として作用する3’hβ-グロビンポリ(A)シグナルを含むもの。これらの変更は、インビボでの導入遺伝子の最適な発現を容易にし、また構築物の安全性を改善するために選択された。
【0118】
CAGWPRE及びCAGdelWPREベクターのFMRP発現効率を比較するために、CHO-Lec2細胞にベクターを形質導入し、発現をウエスタンブロットで評価した。CAGdelWPREベクターで形質導入された細胞はFMRPを発現したが、観察された発現はCAGWPREベクターで形質導入された細胞で観察されたものよりも少なかった。図18A及び18B。
【0119】
hPGKベクターの発現効率を神経細胞におけるCAGWPRE及びCAGdelWPREベクターの発現効率と比較するために、E17培養マウス皮質ニューロンにDIV14でベクターを形質導入し、DIV19で収穫する前に5日間ベクターを発現させた。採取されたニューロンは、その後ウエスタンブロット分析にかけられた。hPGKベクターでhPGKプロモーターを使用すると、CAG駆動ベクターで形質導入されたニューロンで観察されたものと比較して、ニューロンでFRMPの発現が減少した。図19
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【0120】
実施例2.FMRP発現AAVベクターの投与、タイミング、及び送達経路の最適化
FMRP発現AAVベクターの最適な送達経路、及びFMRPのCNS特異的発現に最適化された投薬及びタイミングを決定するために、scAAV9-CB-FMR1及びAAV-CAG-FMR1を使用したインビボ研究がマウスモデルで実施された。
【0121】
scAAVを使用した形質導入及び組換え遺伝子発現のタイミングを評価するために、約2,000万vgのscAAV-GFPを6週齢の野生型マウスに脳室内(ICV)注射した。ICV送達は、全身性免疫応答及び副作用を最小限に抑えながら、脳内での広範な投与を保証する。ウイルス注射の投与の2週間後、マウスを経心臓的に灌流(4%パラホルムアルデヒド)し、脳を一晩後固定し、30%スクロースで凍結保護し、急速冷凍した。脳スライスは、処理のために顕微鏡スライドに取り付けられ、共焦点顕微鏡を使用して画像化された。図3Aは、scAAV-GFPを注射した野生型マウス脳の皮質及び海馬領域におけるscAAV-GFP発現を示す。
【0122】
追加的に、約2,000万vgのAAV-CAG-FMR1を6週齢の野生型マウスにICV注射した。ウイルス注射の2週間後、マウスを経心臓的に灌流(4%パラホルムアルデヒド)し、脳を一晩後固定し、30%スクロースで凍結保護し、急速冷凍した。処理のために脳スライスを顕微鏡スライドにマウントし、Gross et al.,Cell Rep.2015;11(5):681-688に記載されている方法と同様に蛍光免疫染色を実施し、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。図3B及び3Cは、2週間後にFMRPタンパク質発現が増加した皮質ニューロン及び海馬ニューロン(免疫蛍光マーカーNeuNでマーク)を示している。AAV-CAG-FMR1及びAAV-CAG-GFPの総タンパク質発現も、ICV注射マウスから採取した皮質、海馬、中脳、及び小脳を含む脳スライスで評価した。簡単に説明すると、約4,000万vgのAAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを6~7週齢の野生型マウス及び6~7週齢のFmr1ノックアウト(KO)マウスにICV注射した。ウイルス注射の10週間後、脳を採取し、脳スライドを収集してウエスタンブロット分析用に処理した。図4は、GFPが皮質及び海馬でウエスタンブロットによって明確に検出可能であったのに対し、CAGプロモーター下でFMRP又はGFPを含む通常のAAVを注射されたマウスではFMRPが検出限界未満であったことを示している。脳スライスのウエスタンブロッティング及び免疫組織化学分析は、注射されたマウスの細胞死及びグリオーシスも評価し、細胞死又はグリオーシスの徴候のない中等度のFMRP発現(70-110%)につながる用量の特定に役立つ。
【0123】
実施例3:FMRP発現AAVベクターの投与、タイミング、及び送達経路の最適化
FMRP発現AAVベクターの投与、タイミング、及び送達経路を更に最適化するために、当該ベクターをFmr1ノックアウト(KO)マウスに投与し、機能的及び生理学的結果を評価する。
【0124】
マウスは、静脈内(IV)又は併用(IV+ICV)投与経路を介して、P21で、ベクター、例えば、CAGWPRE、CAGdelWPRE、又はhPGKを投与される。対照群は、併用投与によりビヒクルを投与されたWT及びKOマウスを含む。実験群のマウスは、低用量(例えば、1E13-5E13vg/kg)又は高用量(例えば、8E13-2E14vg/kg)のいずれかの投与ベクターを受ける。全てのグループのマウスは、投与後60日目に行動試験を受ける。行動試験には、ネスティング(営巣)行動の評価、モリス水迷路タスクでのパフォーマンスの評価、及び脳波(EEG)を使用した機能的神経生理学的評価が含まれる。全てのグループのマウスは、生体内分布の最終評価を受ける。各実験群及び対照群は約10匹のマウスで構成されている。
【0125】
別の研究では、P21(「小児」)又はP42(「高齢」)で、静脈内(IV)又は併用(IV+ICV)投与経路を介して、マウスにベクター、例えばCAGWPRE、CAGdelWPRE、又はhPGKを投与する。対照群は、P21又はP42のいずれかにIV又はIV+ICV投与を介してビヒクルを投与されたWT及びKOマウスを含む。実験群のマウスは、投与されたベクターの用量範囲(例えば、1E13~2E14vg/kg)のうちの1つを受ける。全てのグループのマウスは、投与後90日目に行動試験を受ける。行動試験には、ネスティング(営巣)行動の評価、モリス水迷路タスクでのパフォーマンスの評価、及び脳波(EEG)を使用した機能的神経生理学的評価が含まれる。全てのグループのマウスは、生体内分布の最終評価を受ける。各実験群及び対照群は約10匹のマウスで構成されている。
【0126】
上記の実験の結果を分析して、どの投薬レジメン、タイミング、及び投与経路が、Fmr1 KOマウスの脳及び身体の全ての部分への導入遺伝子の優れた送達、並びに機能及び行動障害の優れた救助を提供するかを決定する。FMR1遺伝子が組織で遍在的に発現することを考えると、試験した投与条件のうちの1つ以上によって達成可能な修正導入遺伝子の広範な分布は、脆弱X症候群の治療に有益であると予想される。
【0127】
実施例4.FMRP発現AAVベクターの投与後のFXSのマウスモデルにおける行動分析
Fmr1ノックアウト(KO)マウスはFMRPを発現せず、脳の過興奮性及び行動障害及び認知障害など、FXSに関連するヒトの表現型を複製する。これは、Fmr1 KOマウスがFXSの優れたモデルであるだけでなく、Fmr1 KOマウスの前頭前皮質機能をテストする行動パラダイムを使用して、AAV遺伝子治療によるFXSの認知障害を救う治療戦略の可能性を評価できることを示唆した。
【0128】
Fmr1 KOマウスは、Gross et al.,Cell Rep.2015;11(5):681-688(その開示はその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるのと同様の方法で生成された。手短に言えば、Fmr1 KOマウスは、メスのFmr1HETマウスとオスのPik3cbヘテロ接合マウスを交配することによって生成され、PCRによって遺伝子型が特定された。ノックアウトマウス系統は、少なくとも4回(Pik3cbHET)又は10回超(Fmr1HET)C57BL/6Jのバックグラウンドに戻し交配された。
【0129】
Fmr1 KOマウス及び野生型対照マウスは、図5に示すタイムラインに従って、AAV投与後の行動及び機能評価を受けた。簡単に言えば、Fmr1 KOマウス及び野生型マウスに、AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPのいずれかのマウス当たり4000万~6000万のウイルスゲノムをICV注射した。マウスは、注射の時点で生後6~7週であった。マウスは、ウイルス注射後約10週間生き続け、その間に複数の行動アッセイ(ネスティング、大理石埋没、オープンフィールド活動、新規オブジェクト認識、モリス水迷路)にかけられた。
【0130】
巣作りは、ウイルス注射の1週間後~4週間毎週評価された。簡単に言えば、実験の開始時に、3グラムの新鮮な巣箱を補充した標準的な寝床を備えた新鮮なケージにマウスを入れた。Gross et al.,Cell Rep.2015;11(5):681-688に記載されているスコアリングシステムを使用して、巣を2時間後に評価し、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。図6Aは、野生型マウス及びFmr1 KOマウスが新鮮な巣箱を受け取ってから2時間後に巣箱の材料を細断している例を示す。より多くの細断は、人間の「社会的行動」に変換される「ホームケージ行動」を示している。図6Bは、全体として、Fmr1 KOマウスが細断した巣が少ないことを示している。AAV-CAG-FMR1を注射したFmr1 KOマウスは、2週間~4週間の間に巣箱の量を増やしながら裁断したが、AAV-CAG-GFPを注射したマウスは改善されず、FMRP発現の正の効果が示唆された(図6C)。これらのテストでは、全てのマウスが巣作りに従事していることも示され、全体的な健康状態がウイルスベクターの影響を受けていないことが確認された。
【0131】
過度の大理石の埋没は、マウスの固執又は不安関連の行動を示唆しており、Fmr1 KOマウスで変更された。AAV投与の4週間後、Fmr1 KO及び野生型マウスを大理石埋没アッセイにかけた。簡単に言えば、マウスをケージに入れ、20個の青い小さなガラスビーズを新鮮な寝床(深さ約8cm)に5×4のグリッドに配置した。15分後、マウスを取り出し、50%以上覆われた大理石を「埋没」と採点しました。大理石を埋めるために掘り始めるまでの待ち時間も15分間測定された。マウスは午後12時~午後3時の間にテストされ、大理石を埋める前にネスティング(営巣)行動がテストされた。図7Aは、マウスの大理石を埋める行動の例を示している。左のパネルはマウスを入れる前の大理石の配置を示し、右のパネルはマウスを入れた後の大理石の位置を示している。GFPを注射したFmr1 KOマウス(GFPはFmr1 KOマウスに影響を与えないため、Fmr1 KOマウスを表す)は平均して、野生型マウスよりも埋没を開始するまでの待ち時間が短縮され、より多くの大理石を埋没させた。FMRP発現AAVベクターの注射により、待ち時間の短縮が回復した(図7B及び7C)。
【0132】
AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KO及び野生型マウスを、AAV注射の6~8週間後にモリス水迷路アッセイに供した。モリス水迷路は、海馬が空間学習においてどの程度の役割を果たしているかを判断するために一般的に使用される。図8Aは、本明細書に開示されるように実施されたモリス水迷路アッセイの図を示す。モリス水迷路のトレーニング(取得)試行中、マウスは、図8Aの茶色のマークで示される6つの開始点の1つで、壁に面して水中に置かれた。マウスは、最大60秒間、又はプラットフォームが見つかるまで泳ぐことが許容された。プラットフォームに到達するまでの時間(待ち時間)は秒単位で測定された。プローブ試行では、マウスを、取り外したプラットフォームの反対側の象限(OP)のプールに入れた。プローブ試行では、各象限とプラットフォームとの交差に費やされた時間が測定された。Quadrant TQは、プラットフォームが配置されたプールの領域であるターゲット象限であった。OPはTQの反対の象限であった。AR及びALは、プールを見下ろしたときに、ターゲット象限の隣接する左右の象限であった。全てのグループが同様の割合でタスクを達成し、トレーニングの最後に隠されたプラットフォームを見つけることができた。逆転課題において、隠されたプラットフォームの位置が迷路の反対側の象限に移動すると、GFPを注射されたFmr1 KOマウスは前の象限へのエントリが少なくなり(図8B)、以前のプラットフォームの位置への待ち時間が増加し(図8C)、GFPを注射されたFmr1 KOマウスがプラットフォームの位置をあまり正確に記憶していないことを示唆しており、これは記憶障害と一致している。FMRP10を注射したFmr1 KOマウスは、野生型マウスと区別がつかず(図8B及び8C)、この記憶障害が改善されたことを示唆している。
【0133】
AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KO及び野生型マウスも、AAV注射の6~8週間後にオープンフィールド活動アッセイに供した。オープンフィールド活動アッセイは、多動性及び/又は不安を測定する。簡潔に言えば、試験開始の30分前に、マウスを実験室に慣らした。マウスを、透明なプレキシガラス(40×40×30)cmのオープンフィールドアリーナの中心に置き、15分間探索させた。照明はアリーナ内のオーバーヘッドライト(約800ルクス)によって提供され、実験は55デシベル(dB)のホワイトノイズの存在下で行われた。Digiscan光学動物活動性システムによって制御された2分間隔でデータを収集した。データは、コンピューター指定の周辺及び中央セクターについてプールされ、遺伝子型ごとの平均として表された。これらの研究は、GFPを注射したFmr1 KOマウスが、オープンフィールドアリーナの中央でより多くの時間を費やしたことを示した(2方向ANOVA、遺伝子型の効果p=0.02)。しかしながら、GFPを注射した野生型とFmr1 KOマウスとの間に違いは観察されなかった(図9)。全体として、ウイルス発現hFMRPは、変更されたオープンフィールド活動に大幅に影響しない。
【0134】
AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPを注射したFmr1 KO及び野生型マウスを、AAV注射の6~8週間後に新規オブジェクト認識アッセイに供した。新規オブジェクト認識アッセイは、Fmr1 KOマウスでは損なわれていると推測されていた、なじみのあるオブジェクトに対して新規オブジェクトを探索するマウスの生来の嗜好に依存している。ここで、無生物、木製、及び中間色のオブジェクトが、この実施例で開示された新規オブジェクト認識テストで使用された。オブジェクトは最初に、別の野生型マウスの素朴なコホートを使用してニュートラルな嗜好の強さをテストされ、強い魅力又は嫌悪反応のいずれかを誘発するオブジェクトは破棄された。初日に、マウスを円形の白いアリーナ(直径30cm)に30分間慣れさせた。翌日、マウスは複数のオブジェクトが等間隔にアリーナ内に等間隔に配置されたアリーナに、15分間さらされた。各オブジェクトとの相互作用時間を各マウスについて計算し、中央値の反応を引き起こした2つのオブジェクトを次の2日間のテストで「なじみのある」オブジェクトとして使用した。3日目と4日目に、マウスは15分間、アリーナの特定の領域(オブジェクトの提示のためのカウンターバランスの取れた場所)内のなじみのあるオブジェクトを提示された。5日目に、「なじみのある」オブジェクトの1つが4番目の「新規」オブジェクトに置き換えられ、マウスの相互作用行動が15分間テストされた。マウスが4つのオブジェクト(なじみのあるオブジェクトが3つ、新規なものが1つ)にさらされた場合の15分間の相互作用時間が全て記録された。相互作用パラメータは、オブジェクトとの接触(尾のみを除く)又はオブジェクトに面する(距離<2cm)として定義された。嗜好指数(PI)は、新規オブジェクトとのインタラクションに費やされた時間を、新規オブジェクト及びなじみのあるオブジェクトの両方を探索する時間で割って計算された。全ての実験は記録され、遺伝子型及び治療群を知らされていない2人の観察者によって採点された。図10に示すように、全てのマウスが新規オブジェクトに対する嗜好を示し、グループ間で有意差はなかった。
【0135】
全体として、この実施例で実施された行動アッセイのほとんどは、FXSの行動表現型を示すGFP注射Fmr1 KOマウスと野生型マウスとの間の差異を示した。FMR1を注射したFmr1 KOマウスは、野生型マウスにより類似した行動を示した。これは、驚くべきことに、成体マウスの皮質及び海馬に少量のFMRPを再導入しても行動が改善されたことを示している。結果は、ウイルスで発現されたFMRPが、少なくともホームケージ/社会的行動(ネスティング)、不安に関連した固執的行動(大理石埋没)、及び学習及び記憶(モリス水迷路)を改善する可能性があることを示唆した。
【0136】
実施例5.FMRP発現AAVベクターの投与後のFXSのマウスモデルから採取した脳スライスの機能解析
Fmr1 KOマウス及び野生型マウスに、AAV-CAG-FMR1又はAAV-CAG-GFPのいずれかのマウス当たり4000~6000万のウイルスゲノムをICV注射した。マウスは、注射の時点で生後6~7週であった。図5に示すタイムラインに反映されているように、マウスはウイルス注射後約10週間生き続け、この期間中に複数の行動アッセイにかけられた。最後の行動アッセイから少なくとも5日後(手術後約10週間)に、全てのマウスから脳組織を採取し、切片の機能アッセイ(例えば、長期増強(LTP)を測定するために多電極アレイ(MEA)を使用、及びタンパク質合成アッセイ)に使用し、並びに発現分析(免疫組織化学及びウエスタンブロッティング)に使用した。
【0137】
(i)長期増強(LTP)
刺激に続くシナプス結合の強化の永続的な形態である長期増強は、学習と記憶の細胞相関である。簡単に説明すると、中隔側頭海馬を通る横方向の海馬スライス(300μm)を、氷冷人工CSF(ACSF)(mm:124 NaCl、3 KCl、1.25 KH2PO4、3.4 CaCl2、2.5 MgSO4、26 NaHCO3、及び10デキストロース、pH7.35)でビブラトームを使用して調製した。遺伝子型及び治療群の両方からのスライスを同時に実行した。スライスは、温かく加湿された95%O2/5%CO2にスライス表面がさらされ、60~70ml/hの速度で連続ACSFが灌流されるインターフェイス記録チャンバー内で31±1°Cに維持された。スライスは、記録が開始される前に、少なくとも1時間チャンバーに平衡化された。インキュベーション後、1つのスライスを選択し、HF全体が8×8アレイで完全に覆われるようにMED64プローブに配置した。スライスが落ち着いたら、ネットバラスト(規則的な間隔で毛髪片を配置したU字型の白金線)を慎重にスライスの上に配置して固定した。電気生理学的記録のために、スライスを固定したプローブをMED64の刺激/記録コンポーネントに接続した。スライスは、蠕動ポンプを用いて2~3ml/分の速度で、酸素化された新鮮なACSFで連続的に灌流された。スライスを20分間回復させた後、倒立顕微鏡に接続された電荷結合素子カメラを介して視覚的に観察した後、刺激用に64スイッチボックスから64の使用可能な平面微小電極の1つを選択した。指定されていない場合、データ収集ソフトウェアによって生成された単極、二相性の定電流パルス(30~199μA、持続時間0.1ms)が0.1HzでPPに適用された。残りの部位で誘発されたフィールドポテンシャルは、64チャネルのメインアンプによって増幅され、20kHzのサンプリングレートでデジタル化された。デジタル化されたデータはモニタ画面に表示され、マイコンのハードディスクに保存された。
【0138】
5つの連続した応答は、記録システムによってリアルタイムで自動的に平均化された。スライスの生存率は、適切な振幅のfEPSPを誘発するためのしきい値を測定することにより、様々なセットの記録セッションにわたって一定に保たれた。LTP誘導には、バースト間間隔が200ミリ秒の100Hzで4つのパルスをそれぞれ含む10バーストで構成されるTBSプロトコルが使用された。このようなプロトコルはインビボ条件に似ていることが広く受け入れられており、人工シナプス活動と自然シナプス活動との間のリンクを確立する方法として提案されている。加えて、そのような刺激によって誘発されたLTPは、他の手段によって誘発されたものよりも堅牢で安定しているように見える。様々な実験でテタン化強度を標準化するために、TBS強度は、fEPSPの最大の大きさのほぼ半分を想起させる強度に設定された。TBSの後、LTPの大きさと持続時間の変化を観察できるように、テスト刺激を(ベースラインと同じ強度で)10分ごとに2時間超、繰り返し送達した。
【0139】
TBS-LTPは、Fmr1 KO海馬で損なわれていることが示された。ここで、LTPは、FMRP発現AAVを注射したf5 Fmr1 KOマウス、GFP発現AAVを注射した7匹のFmr1 KOマウス、FMRP発現AAVを注射した6匹の野生型マウス、及びGFP発現AAVを注射した5匹の野生型マウスから記録された。報告されているように、各グループの2~3匹のマウスを使用したデータ分析は、GFPを注射した野生型スライスと比較してGFPを注射したFmr1 KOスライスのわずかな欠損、及びFMRP注射後の両方の遺伝子型におけるLTPの全体的な増加を示唆した(図11A)。LTPの後期を評価するために測定値を70分間収集したことを除いて、同じ条件下でアッセイを繰り返した。図11Bは、GFPを注射したFmr1 KOマウスにおいて、LTPの後期(分30~70、紫色の三角形)が損なわれたことを示す。追加的に、FMRP注射はFmr1 KOマウスでLTPを増強したが、FMRP注射野生型マウスでは増強しなかった(図11B)。これらの機能分析は、海馬依存モリス水迷路学習アッセイにおける改善を示した実施例3に開示されたデータを支持する(図8B~8C)。
【0140】
(ii)タンパク質合成
学習及び記憶などの長期的なシナプス可塑性は、刺激に反応して新しいタンパク質を合成するニューロンの能力に依存している。FXSマウスモデル及びFXS患者の細胞におけるタンパク質合成率は、増加し、刺激に敏感でないことが示されている。つまり、可塑性を誘発する刺激の後では増強されない。加えて、強化されたタンパク質合成率の調節不全は、FXS(及び一般的な自閉症)の極めて重要な特徴であり、行動及び認知の欠陥の根底にあると考えられている。したがって、FXSのタンパク質合成の欠陥を救済する場合、FXSの治療戦略は「治療的」である可能性がある。GFP又はFMRPを発現するAAVを注射した野生型及びFmr1 KOマウスのタンパク質合成率を評価するために、LTP電気生理学用に調製した皮質及び海馬のスライスを、新生ペプチド鎖へのピューロマイシンの取り込みを使用するタンパク質合成アッセイ、それに続くウエスタンブロット分析、Fmr1 KO脳におけるタンパク質合成率の増加を一貫して示した方法に使用した。ピューロマイシン化アッセイは、FMRP発現AAVを注射した2匹のFmr1 KOマウス、GFP発現AAVを注射した5匹のFmr1 KOマウス、FMRP発現AAVを注射した5匹の野生型マウス、及びGFP発現AAVを注射した4匹の野生型マウスで行った。図12A及び12Bは、GFPを注射した野生型スライスと比較して、GFPを注射したFmr1 KOスライスにおいてタンパク質合成率が5増加した皮質スライスを示す。追加的に、図12A及び12Bは、FMRPを注射したFmr1 KOスライスにおけるタンパク質合成率の低下を示す。これらの結果は、FMRP再発現がFmr1 KOマウスのタンパク質合成速度を正常化したことを示唆しており、これはシナプス可塑性、学習及び記憶の変化の根底にあると考えられている分子的欠陥である。全体として、本明細書で実施された細胞及び分子機能アッセイは、成体Fmr1 KOマウスにおける低FMRP再発現の有益な効果を示唆した。
【0141】
(iii)定量的脳波計(EGG)
本明細書で提供されるデータは、定量的脳波検査(EEG)がFXS疾患の重症度及び治療反応(安静状態及び聴覚事象関連電位)のバイオマーカーとして使用できることを示している。図14Aは、有意な群差(p<0.05補正)を含む、ヒトにおける相対的ガンマ出力の地形プロットを示し、FXS患者で観察された過度のガンマパワーを実証している。聴覚皮質のガンマパワーは行動機能と高度に相関しており、ガンマパワーが高いほど、FXS患者の聴覚注意タスクのパフォーマンスが低下していた(図14B)。シータ及びアルファ出力で観察されたガンマ関係は、FXSと健康なヒト対象とを高度に区別する(図14C)。全体として、安静時ガンマパワーの上昇は、ヒトの皮質過興奮性の堅牢な定量化可能なバイオマーカーであることがわかった。
【0142】
FXSのマウスモデルにおける同等のEEGバイオマーカーの同定は、前臨床から臨床治療へのパイプラインを促進する可能性がある。Fmr1 KOマウスが安静時ガンマ出力の上昇も示すかどうかを判断するために、30チャネルのマウス多電極アレイ(MEA)システムを使用して、野生型及びFmr1 KOマウスの安静時及び刺激誘発EEG信号を記録及び分析した。このシステムを使用して、より高い安静時EEGパワー、変更されたイベント関連電位(ERP)、及びFmr1 KOマウスにおける聴覚チャープ刺激に対する試行間位相コヒーレンスの減少を含む、FXSを持つヒトで報告された表現型と非常に類似した堅牢なMEA由来の表現型が観察された。図13は、WTマウスと比較したFmrl KOにおける増加したガンマパワーを示し、連続EEGによって測定されたガンマパワーは、6日間にわたる5分間について計算された(n=3、RM2-way ANOVA、*p<0.05)。したがって、ヒトで見られる安静時ガンマパワー増加のEEGバイオマーカーは、皮質EEG記録を使用してFmr1 KOマウスで複製された(図13)。
【0143】
マウスEEGバイオマーカーの変化をヒトEEGバイオマーカーに関連付けるために、Matlabベースの分析アプローチを使用して、マウスデータをヒトデータに対応させた。図14Dは、人間のデータを使用するFXSの異常に関連するMatlabベースの分析アプローチを使用して実行及び自動化されたガンマパワー分析を示す。マウス脳波データの追加分析により、マウスの周波数帯域固有の脳波パワーとガンマ/シータ結合を評価して、ヒト及びマウスの表現型の直接比較を可能にし、FXSで定量的及び翻訳的脳波バイオマーカーを確立できる。このようなデータは、FXSの人間のEEGバイオマーカーが、FXS治療の開発及び最適化における客観的な測定値として使用できることを示唆している可能性がある。
【0144】
実施例6.FMRP発現AAVベクターの投与後のインビボでのFXSマウスにおける発現及び生体内分布の評価
この実施例は、上記の実施例1に記載のAAV-CAGFMR1(別名、AAV-CB-FMR1)又はAAV-GFP(対照として)を使用した、Fmr1KO又はFmr1WTマウスにおけるFMR1遺伝子治療に関するパイロット前臨床試験を報告する。図2Aも参照されたい。この研究では、生後9.5~11週のオスのマウスを使用する。ウイルス粒子5×1013vg/kgを各マウスに尾静脈から注射した。30分~6時間後、マウスに両側脳室内(ICV)手術を施し、5×1010vgのウイルス粒子を各半球に送達した。12~14日後、マウスを犠牲にした。血液サンプル及び組織サンプル(例えば、脳、筋肉、心臓、肺、腎臓、肝臓、及び脊髄サンプル)を採取した。脳サンプルの半分は、免疫染色(パラホルムアルデヒド後固定)によって分析された。脳サンプルの残りの半分は、海馬、皮質、中脳、及び小脳(急速冷凍)に解剖された。FMRPの発現及び分布を評価するために、全ての脳サンプルを免疫染色によって分析した。2セットの他の組織サンプル(肝臓サンプルなど)の切片を作成した。1つはGFP発現の検出のためであり(GFP発現を確認するために、染色することなく切断後に直接画像化されている)、他の1つは免疫染色によりFMRP発現の検出のためである。免疫染色アッセイで使用される抗FMRP抗体は、WTマウスでは特異的な染色が少ないヒトFMRPに特異的である。この研究の結果は、大部分が皮質におけるヒトFMRPのニューロン発現を示している。
【0145】
更に、異なる組織サンプル中のhFMR1転写産物のレベルを検出するために、脳及び組織サンプルに対してRT-PCRを実施した。対照としてeGFPを使用した。結果をGAPDHに対して正規化し、図20A~20Gに提供した。hFMR1の発現は、脳の様々な領域(例えば、皮質)及び様々な臓器(例えば、心臓及び肝臓)で検出された。
【0146】
実施例7.FMRP発現AAVベクターの投与後のインビボでのFXSマウスにおける発現及び生体内分布の評価
この研究の目的は、Fmr1ノックアウト(KO)マウスにおけるヒトFMRP(hPGK、CAGWPRE、及びCAGdelWPRE)をコードするcDNAを含む3つの異なるウイルスベクターの分布と発現を更にテストすることである。これらの3つのベクターの詳細は、上記の実施例1に記載されている。ウイルスベクターは、脳室内(ICV)又は静脈内(IV、尾静脈)のいずれかで5~7週齢のマウスに送達される。4週間(+/-3日)後、血液と臓器を採取し、RT-qPCRによるFmr1 RNA発現、ウエスタンブロット及び/又は免疫組織化学(IHC)によるFMRP発現についてテストする。潜伏期間中、マウスの全体的な健康状態及びいずれの有害反応も監視される。
【0147】
マウスから採取した脳組織は、RT-qPCRによりFmr1 RNA発現について分析し、IHC及びウエスタンブロットによりFMRP発現について分析する。他の組織は、RT-qPCRによりFmr1 RNA発現について分析し、ウエスタンブロットによりFMRP発現について分析する。他の組織には、後根神経節(DRG)、肝臓、肺、心臓、脊髄、腎臓、生殖腺、及びふくらはぎの筋肉が含まれる。
【0148】
上記の実験の結果を分析して、どのベクターが導入遺伝子の優れた発現、並びに脳及び身体の全ての部分への送達を提供するかを決定する。FMR1遺伝子が組織で遍在的に発現していることを考えると、1つ以上のテスト済みベクターによって達成可能な修正導入遺伝子の広範な分布は、脆弱X症候群の治療に有益であると予想される。
【0149】
実施例8.FMRP発現AAVベクターのICV投与後のFXSモデルマウスにおける機能解析:発作感受性
この研究の目的は、ICV投与を介して投与されたFMRP発現AAVベクターによる治療後の脆弱X症候群モデルマウスの発作感受性の低下における3つの異なるウイルスベクターの有効性を更に評価することである。FMRP発現AAVベクターには、CAGWPRE、CAGdelWPRE、及びhPGKベクターが含まれる。
【0150】
Fmr1ノックアウト(KO)マウスに、1~3日齢(P1~3)でICV投与を介して6e9vg/心室の用量でFMRP発現AAVベクターを投与する。対照Fmr1 KOマウスには、同じ年齢でビヒクルを投与する。年齢20-23日(P20-23)で、マウスは聴覚原性発作(AGS)テストを受ける。P20-P23マウスは、2つのグループでフードホッパーのない通常の寝具を備えたケージに入れられる。A/C電源ケーブルに接続されたパーソナルアラーム(120dB)は、ケージの蓋の内側に取り付けられている。サウンドはちょうど2分間再生され、その後1分間の無音、及び更に2分間のサウンドが続く。マウスは、テストの全期間にわたって観察される。行動及び発作は、両方の音への曝露中に採点される。以下に示すように、行動は0~4のスケールで採点される。
0=変更なし
1=暴走
2=間代発作
3=強直発作
4=死
【0151】
生き残ったマウスは、性別ごとに最大4匹のケージに入れられる。8週齢で、AGSテストを生き延びたマウスを、COは又はペントバルビタールで安楽死させる。血液は、眼窩後出血によりEDTA含有チューブに採取される。マウスは、滅菌PBSで経心的に灌流される。様々な臓器及び組織がマウスから採取され、体内分布分析が行われる。脳組織は、Fmr1 RNA発現を決定するためにRT-qPCRに供され、FMRP発現をプローブするためにIHCに供される。追加的に、後根神経節(DRG)、肝臓、肺、心臓、腎臓、生殖腺、ふくらはぎの筋肉組織を処理し、RT-qPCRに供してFmr1 RNA発現レベルをアッセイする。
【0152】
上記の実験の結果を分析して、どのベクターが導入遺伝子の優れた送達及び発現、並びにFmr1 KOマウスの高い発作感受性の優れた救助を提供するかを決定する。FMR1遺伝子が組織で遍在的に発現することを考えると、試験したベクターのうちの1つ以上によって達成可能な修正導入遺伝子の広範な分布は、脆弱X症候群の治療に有益であると予想される。
【0153】
実施例9.FMRP発現AAVベクターのICV、IV、及び組み合わせ(IV+ICV)投与後のFXSモデルマウスにおける機能解析
この研究の目的は、FMRP発現AAVベクターによる治療後の脆弱X症候群モデルマウスにおける機能的神経生理学的欠損の救済を更に評価することである。FMRP発現AAVベクターには、CAGWPRE、CAGdelWPRE、及びhPGKベクターが含まれる。研究は2段階(2コホート)で行われる。コホート分布については、表3を参照されたい。
【表3】
【0154】
グループ1から6のマウスは、5週齢で試験AAVベクター候補の注射を受ける。様々な投与経路(IV、ICV、及びIV+ICVの組み合わせ)がテストされ、比較される。全ての治療群のマウスは、9週齢で自発運動及び聴覚原性発作感受性(AGS)についてテストされる。
【0155】
コホートごとに、40匹のマウスからなる7つの試験グループがあり(表1を参照)、2日間連続して試験される(AGS試験時間12:00-4:45)。追加的に、各テストグループのケージ変更スケジュールは標準化され、時差がある。具体的には、各テストグループは、テストの前日に変更されたケージを持っている。
【0156】
試験日に、自発運動(LMA)試験におけるオープンフィールドチャンバーでの評価の15分前に、グループ1~7のマウスに生理食塩水(IP)を投与する。30分のLMAテストの直後に、マウスをAGSテストにかける。その後、マウスをきれいなケージに移し、個別にAGS試験室に運ぶ。
【0157】
(i)自発運動(LMA)テスト
LMAチャンバーに入れる15分前に、マウスに生理食塩水(IP、10mL/kg)を投与する。マウスは、自動化された活動監視システム(MedAssociates)を使用して、30分間のオープンフィールド分析(OFA)で評価される。マウスは、LMAテストの開始の30分前に部屋に順応させる。次のパラメータがキャプチャされる。
●水平移動距離、総歩行時間、歩行回数
●垂直アクティビティ(時間及び回数)
【0158】
(ii)聴覚原性発作(AGS)テスト
LMA手順の後、マウスをAGS試験室に1分間順応させる。次に、マウスを高強度の音を発するスピーカーを備えた吸音チャンバーに入れる。マウスは、吸音チャンバー内に入れられる透明な円筒形のプレキシグラスチャンバーに(一度に1匹ずつ)入れる。アラームはプレキシグラスチャンバーの上部に取り付けられている。マウスの行動は、遺伝子型の状態及び薬物治療を知らされていない実験者によってリアルタイムで採点され(以下の採点を参照)、更に分析するためにビデオに録画される。
【0159】
発作誘発は次のように行われる。
LMAテストの後、マウスをアラーム付きのテストチャンバーに入れる。1分間の順応の後、アラームが開始され、2分間のアラームチャレンジ中に動物の行動が記録される。動物は、その行動に基づいて採点される。スコアは次の通りである。
0=応答なし
1=暴走
2=間代発作(横臥、けいれん)
3=強直発作(横臥、じっとしている)
4=呼吸停止/死亡。
【0160】
t=3分。アラームをオフにし、動物を1分間回復させる。この回復後、アラームを再開し、マウスを記録し、上記のように更に2分間(t=4~t=6分)採点する。記録後、マウスはすぐにチャンバーから取り除かれる。
【0161】
データは、上記のスケールに従って発作イベントの大きさとして表される。発作重症度スコア-グループごとの各マウスの最高発作スコアの平均が計算され、分析される。また、2分間で2以上の発作スコアとして定義される発作で発作するマウスのパーセントを計算する(発作発生率)。
【0162】
AGSアッセイの直後に、動物をイソフルランで麻酔し、K2EDTAでコーティングされたチューブに血液を採取する。血漿サンプルは、冷蔵遠心分離機(13,000rpm、4℃で3分間)で血液を回転させることによって調製される。採血直後、該当する場合は脳を摘出し、様々な領域を解剖する(前頭皮質、線条体、海馬、小脳、脳幹など)。血漿を別の1.5mLエッペンドルフチューブに移し、凍結し、生物分析にかける。脳は急速冷凍するか、固定液に浸して固定することができる。動物は、追加の負荷で脳を除去する前に、生理食塩水及び固定液で灌流することもできる。任意で、追加の臓器(例えば、心臓、肝臓、生殖腺など)を収集し、分析のために急速冷凍することができる。
【0163】
上記の実験の結果を分析して、Fmr1 KOマウスの脳及び身体の全ての部分への導入遺伝子の優れた送達、並びに行動障害の優れた救助及び高い発作感受性を提供する投与経路を決定する。FMR1遺伝子が組織で遍在的に発現することを考えると、1回以上の投与によって達成可能な修正導入遺伝子の広範な分布は、疾患の治療に有益であると予想される。
【0164】
その他の実施形態
本明細書に開示された全ての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書で開示された各特徴は、同一、同等、又は同様の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられる場合がある。したがって、別段の明示的な記載がない限り、開示された各機能は、一般的な一連の同等又は類似の機能の例にすぎない。
【0165】
上記の説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更及び修正を行って、様々な用途及び条件に本発明を適合させることができる。したがって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
【0166】
同等物
本明細書ではいくつかの発明の実施形態を説明及び図示してきたが、当業者は、本明細書で説明した機能を実行し、及び/又は結果及び/又は利点のうちの1つ以上を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想像するであろう。そのような変形及び/又は修正のそれぞれは、本明細書に記載された本発明の実施形態の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載された全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が特定の用途(複数可)に依存することを容易に理解するであろう。そのために本発明の教示(複数可)が使用される。当業者は、本明細書に記載された特定の本発明の実施形態に対する多くの同等物を、通常の実験のみを使用して認識し、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は例としてのみ提示されており、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内で、本発明の実施形態は、具体的に説明及び請求された以外の方法で実施できることを理解されたい。本開示の発明の実施形態は、本明細書に記載の個々の特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法を対象とする。加えて、そのような機能、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾していない場合、そのような機能、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の2つ以上の任意の組み合わせは、本開示の発明範囲内に含まれる。
【0167】
本明細書で定義及び使用される全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書の定義、及び/又は定義された用語の通常の意味を制御するものと理解されるべきである。
【0168】
本明細書に開示される全ての参考文献、特許、及び特許出願は、場合によっては文書全体を包含する、それぞれが引用される主題に関して参照により組み込まれる。
【0169】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0170】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「及び/又は」という語句は、そのように結合された要素の「いずれか又は両方」、すなわち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」で列挙された複数の要素は、同じように解釈されるべきである。つまり、そのように結合された要素の「1つ以上」である。「及び/又は」句によって具体的に識別される要素以外の他の要素は、それらの具体的に識別される要素に関連するか、又は関連しないかにかかわらず、任意に存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などの非限定的な文言と併せて使用される場合、一実施形態では、Aのみを指すことができ(任意にB以外の要素を含む);別の実施形態では、Bのみを指すことができ(任意にA以外の要素を含む);更に別の実施形態では、A及びBの両方を指すことができる(任意に他の要素を含む)。
【0171】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「又は」は、上記で定義した「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離する場合、「又は」又は「及び/又は」は包括的であると解釈されるものとする。すなわち、要素の数うち少なくとも1つを含むが、2つ以上も含み、任意でリストに載っていない追加の項目も含むものと解釈される。反対に明確に示されている用語のみ、例えば「~のうち1つだけ」又は「正確に~のうち1つだけ」、又は特許請求の範囲で使用されている場合は「~からなる」など、「~からなる」は、数又は要素のリストのうち正確に1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書で使用される「又は」という用語は、「いずれか」「~のうちの1つ」「~のうちの1つのみ」又は「~のうちの正確に1つ」など、排他的な文言が先行する場合は、排他的な選択肢(すなわち、「どちらか一方しかない」)を示すものとしてのみ解釈される。「~からなる」「実質的に~からなる」は特許請求の範囲で使用される場合、特許法の分野でしようされる通常の意味を有するものとする。
【0172】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、すなわち、測定系の限界に部分的に依存するものとする。例えば、「約」は、当技術分野の慣行に従って、許容可能な標準偏差の範囲内を意味することができる。代替的に、「約」は、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、更により好ましくは最大1%の範囲を意味することができる。代替的に、特に生物学的な系又はプロセスに関して、本用語は、値の1桁以内、好ましくは2倍以内を意味することができる。特定の値が本出願及び特許請求の範囲に記載される場合、特記しない限り、「約」の用語は暗示的であり、この文脈では特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味する。
【0173】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「少なくとも1つの」という語句は、1つ以上の要素のリストを参照して、要素のリスト内の要素のうちいずれか1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきである。ただし、要素のリスト内に具体的にリストされている全ての要素のうち少なくとも1つを含む必要はなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外するものではない。この定義により、それらの具体的に識別される要素に関連するか、又は関連しないかにかかわらず、「少なくとも1つ」という語句が指す要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が任意に存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及びBのうちの少なくとも1つ」(又は同等に「A又はBのうちの少なくとも1つ」、又は同等に「A及び/又はBのうちの少なくとも1つ」)は、以下を指すことができる。一実施形態では、Bが存在しない少なくとも1つ、任意に2つ以上含むA(及び任意にB以外の要素を含む)を指し;別の実施形態では、Aが存在しない少なくとも1つ、任意に2つ以上含むB(及び任意にA以外の要素を含む)を指す。更に別の実施形態では、少なくとも1つ、任意に2つ以上含むA、及び少なくとも1つ、任意に2つ以上含むB(任意に他の要素を含む)等を指すことができる。
【0174】
また、反対に明確に示されない限り、本明細書で特許請求される、複数のステップ又は行為を含む任意の方法において、方法のステップ又は行為の順序は、方法のステップ又は行為が記載される順序に必ずしも限定されないことも理解されるべきである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20A
図20B
図20C
図20D
図20E
図20F
図20G
【配列表】
2023534293000001.app
【誤訳訂正書】
【提出日】2023-03-24
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0098
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0098】
IV.個々のFXS患者に対するAAV9粒子の個別化された用量の決定のためのEEG及び行動特徴バイオマーカーの使用
本明細書に開示される治療方法のいずれかにおいて、本明細書に開示される1つ以上のバイオマーカーは、好適な患者を特定するため、個別化されたAAV粒子投与量を決定するため、及び/又は治療効果を評価するために使用され得る。本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、FXS患者の臨床的特徴、例えば、疾患の表現型の重症度、治療に対する患者の応答性などに関する情報を提供する指標(1つの因子又は因子の組み合わせ)を指す。バイオマーカーには、EEG(例えば、長期増強、すなわちLTP)、1つ以上の行動特徴(例えば、動揺、又は記憶障害)、又はそれらの組み合わせが含まれる。FMRPはシナプスタンパク質であり、そのレベル及び/又は分布は脳内の神経活動のレベルと相関している。FMRPが失われると、LTPのしきい値が増加し、EEGを使用して測定及び記録できる異常な神経活動が発生する。したがって、EEGを使用してFMRPのレベル及び/又は分布をモニタリングすることができ、それによってFXS患者の診断及び治療効果の評価に利益をもたらす。
【誤訳訂正2】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0099
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0099】
いくつかの実施形態では、脳波図(EEG)によって評価される長期増強(LTP)パターンは、FXSを治療する方法で使用するための本明細書に開示されるAAV9粒子などのAAV粒子の好適な用量を評価及び決定するためのバイオマーカーとして使用することができる。いくつかの例では、AAV粒子の初期用量の投与後、EEGを使用してFXS患者のLTPパターンをモニタリングすることができる。AAV9粒子の初期用量がFXS患者のLTPパターンに影響を示さない場合、AAV9粒子の用量を維持又は増加させることができる。
【誤訳訂正3】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0100
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0100】
他の実施形態では、動揺は、本明細書に開示される方法で使用する、又は治療効果を評価するためのAAV9粒子の好適な用量を評価及び決定するバイオマーカーとして使用することができる。動揺とは、不安に関連した固執的な行動として示される不安又は神経興奮の状態を指す。AAV粒子の初期用量の投与後、FXS患者における動揺の発症及び/又は進行は、日常的な実践又は本明細書で提供される方法に従ってモニタリングされ得る。FXS患者が動揺を発症するか、動揺が進行しているか、不安感が強まる場合、AAV粒子の投与量を減らすことができる。代替的に、AAV粒子の初期用量がFXS患者の動揺の発症をもたらさないか、又は動揺を緩和/軽減する場合、これは初期用量のAAV9粒子が有効であることを示す。AAV粒子の用量は、維持又は増加され得る。
【誤訳訂正4】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0101
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0101】
他の実施形態では、記憶障害は、本明細書に開示される方法で使用するため、又は治療効果を評価するためのAAV9粒子の好適な用量を評価及び決定するバイオマーカーとして使用することができる。記憶障害は、短期記憶によって示されるように、FXS患者の学習能力の欠如を指す。AAV粒子の初期用量の投与後、FXS患者における記憶障害の発症及び/又は進行は、日常的な実践又は本明細書に提供される方法に従ってモニタリングされ得る。FXS患者が記憶障害を発症するか、又は記憶障害が進行している場合、AAV粒子の投与量を減らすことができる。代替的に、AAV粒子の初期用量がFXS患者の記憶障害の発症をもたらさないか、又は記憶障害を改善しない場合、これは初期用量のAAV9粒子が有効であることを示す。AAV粒子の用量は、維持又は増加され得る。
【誤訳訂正5】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0146
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0146】
実施例7.FMRP発現AAVベクターの投与後のインビボでのFXSマウスにおける発現及び生体内分布の評価
この研究の目的は、Fmr1ノックアウト(KO)マウスにおけるヒトFMRP(hPGK、CAGWPRE、及びCAGdelWPRE)をコードするcDNAを含む3つの異なるウイルスベクターの分布と発現を更にテストすることである。これらの3つのベクターの詳細は、上記の実施例1に記載されている。ウイルスベクターは、脳室内(ICV)又は静脈内(IV、尾静脈)のいずれかで5~7週齢のマウスに送達される。4週間(+/-3日)後、血液と臓器を採取し、RT-qPCRによるFmr1 RNA発現、ウエスタンブロット及び/又は免疫組織化学(IHC)によるFMRP発現についてテストする。潜伏期間中、マウスの全体的な健康状態及びいずれの有害反応もモニタリングされる。
【誤訳訂正6】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0157
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0157】
(i)自発運動(LMA)テスト
LMAチャンバーに入れる15分前に、マウスに生理食塩水(IP、10mL/kg)を投与する。マウスは、自動化された活動モニタリングシステム(MedAssociates)を使用して、30分間のオープンフィールド分析(OFA)で評価される。マウスは、LMAテストの開始の30分前に部屋に順応させる。次のパラメータがキャプチャされる。
●水平移動距離、総歩行時間、歩行回数
●垂直アクティビティ(時間及び回数)
【国際調査報告】