(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ERG信号を取得するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230801BHJP
A61B 3/12 20060101ALI20230801BHJP
A61B 3/13 20060101ALI20230801BHJP
A61B 3/15 20060101ALI20230801BHJP
A61F 9/007 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61B3/10 800
A61B3/12
A61B3/13
A61B3/15
A61F9/007 190A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503208
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 FI2021050498
(87)【国際公開番号】W WO2022013483
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521523763
【氏名又は名称】マキュレイザー オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイッコネン、オッシ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン、テーム
(72)【発明者】
【氏名】コスケライネン、アリ
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB08
4C316AB12
4C316AB13
4C316AB16
4C316AB20
4C316FA10
4C316FC12
4C316FY02
4C316FY03
4C316FY04
4C316FY05
4C316FY08
4C316FY09
(57)【要約】
網膜の対象領域から網膜ERG信号を取得するための装置であって、この装置は、対象領域から電気応答信号を取得する手段と、ERG信号を誘発するために対象領域を照明するように構成された刺激ビームと、対象領域の外側の領域を明順応させて外側の領域からのERG信号を抑制するために、少なくとも対象領域の外の領域で網膜を照明するように構成された明順応用の背景ビームと、を少なくとも提供するように構成された少なくとも1つの光源と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜の対象領域から網膜ERG信号を取得するための装置であって、
前記対象領域から電気応答信号を取得する手段と、
ERG信号を誘発するために前記対象領域を照明するように構成された刺激ビームと、前記対象領域の外側の領域を明順応させて前記外側の領域からのERG信号を抑制するために、少なくとも前記対象領域の外側の領域において前記網膜を照明するように構成された明順応用の背景ビームと、を提供するように構成された少なくとも1つの光源と、
を備える装置。
【請求項2】
前記明順応用の背景ビームは、前記対象領域の本質的に外周又は外周の近傍から、眼球の赤道まで又は前記眼球の赤道を超えて、眼底上の領域を照明するように適合されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記明順応用の背景ビームは、眼底撮像システムに到達することを阻止される、請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記明順応用の背景ビームは、光学ノッチフィルタを用いて眼底撮像から遮断される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記明順応用の背景ビームが偏光を含み、前記明順応用の背景ビームは、偏光子を用いて眼底撮像から遮断される、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記明順応用の背景ビームがオン/オフ波形で変調され、撮像モジュールのカメラセンサは、実質的に前記明順応用の背景ビームがオフであるときにのみ、同期して露光される、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記明順応用の背景ビームは、前記刺激ビームに対応する照明が少ない又は照明がない領域を含み、前記刺激ビーム及び前記明順応用の背景ビームが眼球に対する最終位置に照射されたときに、前記照明が少ない又は照明がない領域が前記刺激ビームと本質的に重なるようにする、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
少なくとも前記対象領域を加熱する加熱システムをさらに備え、任意選択で、前記加熱システムは、少なくとも前記対象領域を加熱するための加熱ビームを提供する加熱光源を備え、前記加熱ビームは、本質的に円形で実質的に均一な放射照度プロファイルを有し、かつ眼底において1mm~6mmの直径を有する、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記刺激ビームは、少なくとも前記対象領域を加熱するために使用される前記加熱ビームと同じサイズか又は前記加熱ビームより小さいサイズである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記加熱光源は、前記加熱ビームと本質的に同等のビームサイズ及び放射照度プロファイルを有する照準ビームを提供するように構成され、さらに任意選択で、前記照準ビームのパワーは、前記加熱ビームがオンにされたときに低下して、前記対象領域における本質的に安定した照度を維持するように構成される、請求項8又は請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記対象領域のレベルの明順応を維持するために、前記網膜の少なくとも前記対象領域を照明するように構成された中心背景光ビームを提供するようにさらに適合され、任意選択で、前記中心背景光ビームの明るさは、前記対象領域における安定した照度を維持するために、加熱システムがオンにされると低下するように構成されている、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記中心背景光ビームは、50ルクスを超える明るさ、有利には100ルクスを超える明るさを有する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
ERG信号を取得するための方法であって、
少なくとも、
網膜の対象領域に刺激光ビームを照射することと、
少なくとも前記対象領域の外側の領域で前記網膜を明順応させることによって、前記対象領域の外側の前記網膜の領域からのERG信号を抑制するために、少なくとも前記対象領域の外側の前記網膜の領域に明順応用の背景ビームを照射することと、
前記網膜のERG信号に関連する少なくとも1つの信号を取得することと、
を含む、方法。
【請求項14】
網膜の少なくとも対象領域を加熱するための装置であって、
少なくとも前記対象領域を加熱するための加熱ビームを提供する加熱光源を少なくとも備え、前記加熱ビームは、本質的に加熱スポットの中心部に低放射照度の領域を含む加熱スポットを提供する放射照度プロファイルを備え、前記低放射照度の領域の放射照度は、前記加熱スポットの縁部の高放射照度の領域の放射照度よりも低い、
装置。
【請求項15】
前記放射照度が、前記加熱スポットの中心部における低放射照度の第1の値と、前記加熱スポットの縁部における高放射照度の第2値との間で、本質的に直線状又は放物線状に増加する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記放射照度が、前記加熱スポットの中心部における放射照度と比較して、前記加熱スポットの縁部において5%~100%高く、有利には20%~50%高い、請求項14又は請求項15に記載の装置。
【請求項17】
照明が少ない領域は、前記加熱スポットの少なくとも1つの第2の点における放射照度よりも、少なくとも50%低い、有利には少なくとも70%低い、より有利には少なくとも90%低い放射照度を含む少なくとも第1の点を含む、請求項14から請求項16までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記低放射照度の領域は、直径0.1mm~1mmの円によって実質的に画定される、請求項14から請求項17までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記放射照度プロファイルは、前記対象領域における網膜組織の決定された温度上昇に基づいて選択され、任意選択で、前記対象領域の前記縁部における温度上昇と前記対象領域の前記中心部における温度上昇との間の差を決定することによって選択される、請求項14から請求項18までのいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に網膜電図検査(ERG:electroretinography)に関する。より具体的には、本発明は、強化された焦点ERG信号を得ることに関する。
【背景技術】
【0002】
網膜電図検査(ERG)は、網膜にフラッシュ光などの刺激を与えた際に、網膜の電気信号(電気応答)を記録する方法であり、これは網膜疾患の診断等の様々な場合に有用であり得る。
【0003】
焦点ERG信号を取得するための従来技術の装置では、得られる焦点ERG信号は、多くの場合、網膜の刺激された領域である対象領域からの応答信号と、対象領域の外側の網膜の近傍領域への刺激光の散乱に起因する、刺激された領域の外側の領域からの妨害応答信号とを含む、複合信号である。
【0004】
ERG信号を取得するための既知の装置は、得られたERG信号が、対象領域における網膜ニューロンの信号伝達の状態を十分に表していないという欠点を有する。
【0005】
ERGはそれ単独で使用することもできるが、網膜の電気信号の温度依存性により、網膜加熱(例えば、光熱網膜療法)中に得られるERG信号を使用して、網膜の温度を決定できることも判明している。したがって、網膜加熱中に得られるERG信号は、加熱、例えばレーザ加熱によって網膜に生じる温度(又は少なくとも温度差)を示すことができる。加熱に関連する温度決定は、その後、例えば、網膜の温度が所望のレベルに維持されるように、網膜加熱を制御するために使用され得る。
【0006】
ERG信号は、網膜の局所的な信号発生(signaling)や、治療レーザによって引き起こされる明順応(light adaptation)を十分に示すものではないために、ERG信号から決定される網膜温度もまた、不正確である可能性がある。
【0007】
網膜加熱用途では、レーザスポットを使用して網膜組織を加熱することができる。従来技術では、トップハットプロファイルを含むレーザスポットを使用することが知られており、レーザスポットの放射照度(irradiance)は、円形の対象領域内では略一定であり、その外側ではゼロに低下する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、従来技術における問題の少なくともいくつかを軽減することである。本発明の一態様によれば、網膜の対象領域から網膜ERG信号を取得するための装置が提供される。この装置は、対象領域から電気応答信号を取得するための手段と、ERG信号を誘発するために対象領域を照明するように構成された少なくとも1つの刺激ビームと、対象領域の外側の領域を明順応させてそこからのERG信号を抑制するために、少なくとも対象領域の外側の領域において網膜を照明するように構成された明順応用の背景ビーム(light adapting background beam)とを、少なくとも提供するように構成された少なくとも1つの光源とを備える。
【0009】
ERG信号を取得するための方法も、独立請求項13に従って提供される。
【0010】
他の1つの態様において、独立請求項14は、網膜の少なくとも対象領域を加熱するための装置を提供し、この装置は、少なくとも対象領域を加熱するための加熱ビームを提供する加熱光源を少なくとも備えており、加熱ビームは、低放射照度の領域(area of lower irradiance)を含む放射照度プロファイルを備えており、加熱スポットの低放射照度の領域での明るさ(brightness)は、高放射照度の領域の明るさよりも低い。
【0011】
本発明の実施形態の有用性を考慮すると、ERG信号を取得するための装置及び方法が提供され、得られたERG信号は、得られた信号が刺激された/対象の組織(かつ、周囲組織ではない)の応答をより正確に示し得るという意味で、強化され得る。
【0012】
本発明は、ERG法が単独で使用される場合、又は網膜加熱中にERGが利用される場合に、得られたERG信号の精度を向上させることができ、得られたERG信号は、網膜温度を決定するためにより有効に使用され得る。
【0013】
本発明者らは、網膜加熱中にERG信号を記録することを試みた従来技術の装置において、得られたERG信号の発生源に起因して、得られる結果にも誤りがあることを発見した。得られた信号は、網膜の治療領域/対象領域/加熱領域のERG信号を示すだけでなく、得られた信号には、対象領域の外側の網膜の近傍領域への刺激光の散乱に起因して網膜の周辺領域から生じるERG信号も含まれていた。このため、このERG信号に基づいて行われる解析(例えば、決定された網膜温度)は正確ではなかった。
【0014】
また、本発明者らは、網膜加熱が利用される従来の方法では、眼底の照明が不十分であり、加熱レーザが、明順応及び網膜温度の上昇の両方を通じて、得られるERG信号に影響を及ぼし、これらの効果が互いに区別できないことに気づいた。また、ここでも、ERG信号に基づいて行われるさらなる解析は正確ではなかった。
【0015】
本発明の実施形態では、得られたERG信号は、刺激ビームによる刺激に対する網膜の対象領域の応答をより正確に表すことができる。なぜなら、明順応用の背景ビームが、少なくとも対象領域の外側の網膜の領域を照明する(かつ、それによって明順応させる)ことによって、対象領域の外側の網膜の領域からのERG信号の発生を抑制して、散乱刺激光によって誘発されるERG応答を低減することができるからである。したがって、ERG信号を伴う任意のさらなる解析は、より正確であり得る。
【0016】
本発明の一実施形態では、中心背景ビーム(central background beam)は十分に明るいので、加熱レーザの明順応効果は本質的に重要ではない。したがって、得られる信号は、加熱レーザによる温度上昇にのみ影響され、変化する明順応状態には影響されない。一実施形態では、中心背景ビームは、加熱ビームが対象領域の著しい明順応を引き起こさないように、眼底において50ルクスを超える明るさ、有利には100ルクスを超える明るさを有する。
【0017】
網膜加熱の間、眼底は通常、例えば、網膜加熱を行う医師が眼球を監視し、及び/又は、通常、網膜の小部分に向けられる加熱を適切に集中させることができるようにして、撮像される。明順応用の背景ビームを提供する本発明の実施形態は、強化されたERG信号を提供することができるが、明順応用の背景ビームは、後方反射アーチファクトを介して眼底の撮像を妨害することがあることに、本発明者らは気づいた。したがって、本発明の一実施形態は、例えば、明順応用の背景ビームを撮像から遮断する光学ノッチフィルタを用いて、眼底撮像から本質的に遮断される明順応用の背景ビームを提供する。ここで、眼底の撮像は、外乱反射(disturbing reflections)が撮像システムに到達するのを阻止されることにより、明順応用の背景ビームに邪魔されることなく効果的に実施され得る。これらの外乱反射は、例えば眼底レンズの表面からの明順応用の背景ビームの反射、眼球の表面からの明順応用の背景ビームの反射、及び/又は眼球の内部から散乱される明順応用の背景ビームの反射である。
【0018】
一実施形態では、明順応用の背景ビームが偏光を含み、明順応用の背景ビームは、偏光子を用いて眼底撮像から遮断される。
【0019】
もう1つの実施形態では、明順応用の背景ビームはオン/オフ波形で変調され、撮像モジュールのカメラセンサは、明順応用の背景ビームが撮像システムに到達しないように、実質的に明順応用の背景ビームがオフであるときにのみ、同期して露光される。
【0020】
網膜加熱を伴う一実施形態では、刺激ビームは、網膜に関する最終位置に向けられたときに、少なくとも対象領域に対応する加熱領域を加熱するために使用される加熱ビームと同じサイズ又は加熱ビームより小さいサイズでもよい。任意選択で、刺激ビームは、網膜に関する最終位置に向けられたときに、刺激ビーム領域が、加熱ビーム領域の約50%~90%、好ましくは約70%~80%(例えば、加熱ビーム/スポットに対して直径及び同心)であるようなビーム面積を有していてもよい。加熱ビームによる網膜組織の温度上昇は、加熱ビーム領域の中心部で最も高く、加熱ビーム領域の縁部に向かって低下してもよい。刺激ビームによる網膜応答のERG信号を、特に加熱ビームの中心部(したがって、対象領域の中心部)において、誘発し、ERG信号が最も高い温度上昇を受ける対象領域の温度を示すようにすることが有益である。
【0021】
一実施形態では、刺激ビームは、インパルス状のフラッシュ光で変調されてもよい。別の実施形態では、刺激ビームは、矩形波であってもよい。第3の実施形態では、刺激ビームは、白色ノイズで変調されてもよい。
【0022】
明順応用の背景ビームは、眼球上の領域を、本質的に対象領域の境界又はその近傍から、眼球の赤道まで又はそれを超えるところまで照明するように調整されてもよい。本質的に対象領域の境界又はその近傍から、眼球の赤道まで又はそれを超えるところまで到達する、網膜の領域を本質的に照明する明順応用の背景ビームは、対象領域の境界(境界は、加熱領域の外周によって画定される境界である)又はその近傍から、眼球の赤道まで又はそれを超えるところまで到達する、網膜の領域を本質的に照明する明順応用の背景ビームは、対象領域の外側の眼球の領域から生じ得るERG信号の発生をより効果的に抑制/防止することができる。
【0023】
明順応用の背景ビームは、刺激ビーム及び明順応用の背景ビームが眼球に関する最終位置に向けられるとき、照明が少ないか又は照明が無い領域が刺激ビームと本質的に重なり合うように、刺激ビームに対応する、照明/放射照度が少ないか、又は照明/放射照度が無い領域を備えてもよい。したがって、照明が少ないか又は照明が無い領域は、本質的に対象領域に対応してもよい。照明が少ない領域は、例えば、他の領域における明順応用の背景ビームの放射照度よりも少なくとも50%低い放射照度を含んでいてもよく、放射照度は、例えば少なくとも70%低いことが好ましく、少なくとも90%低いことがより好ましい。例えば、明順応用の背景ビームの中心部におけるこのような「ダークスポット」は、対象領域が周辺部に対してより低い明順応レベルにあることを可能にし、したがって、対象領域が周辺部よりも光に対してより敏感になっているので、得られたERG信号における光散乱アーチファクトが低減され得る。
【0024】
さらに1つのさらなる態様において、本発明はまた、網膜の加熱領域又は対象領域を加熱するための装置に関し、この装置は、加熱ビームを提供するように構成された加熱光源を備え、加熱ビームは、実質的に加熱スポットの中心部にある低放射照度の領域を含む加熱スポットを提供する放射照度プロファイルを含み、加熱スポットの中心部の放射照度は、加熱スポットの縁部の高放射照度の領域の放射照度よりも低くなる。
【0025】
放射照度の低い(例えば、放射照度が無い)領域は、好ましくは加熱ビーム(又は、少なくとも、中心スポットより高い照度を有する加熱ビームの部分)が環状に整形されるように、加熱ビームの中心部に設けられてもよい。
【0026】
本発明者らは、トップハットプロファイルを有する従来技術のレーザスポットは、網膜の温度上昇が加熱ビームの中心部で最も高く、対象領域の縁部に向かって低下するため、少なくともロングパルスの網膜レーザ治療に関して不利になり得ると考えている。加熱ビームによって提供されるより均一な熱分布は、対象領域内での均一な治療、すなわち網膜組織の均一な温度上昇が望ましい場合に有利であり得ることが分かった。
【0027】
照明の少ない領域は、例えば、他の領域における加熱ビームの放射照度よりも、少なくとも50%低い放射照度を含んでもよく、放射照度は、例えば、少なくとも70%低いことが好ましく、少なくとも90%低いことがより好ましい。このタイプの加熱ビームでは、加熱ビームの温度プロファイルがより均一であり得る、及び/又は加熱領域の中心部においてより低い温度上昇が提供され得る。また、環状に整形された加熱スポットは、網膜加熱中にERG信号を取得する装置、また、本出願の他の箇所に記載される装置等、明順応用の背景ビームも提供する装置において利用され得る。しかしながら、環状に整形された加熱スポットは、任意の網膜加熱用途において利用され得る。
【0028】
放射照度は、例えば、加熱スポットの中心部における低放射照度の第1の値と、加熱スポットの縁部における高放射照度の第2の値との間で、本質的に直線状又は放物線状に増加し得る。
【0029】
放射照度は、加熱スポットの中心部における放射照度と比較して、加熱スポットの縁部において5%~100%高くてもよく、有利には20%~50%高くてもよい。
【0030】
低放射照度を有する領域は、直径0.1mm~1mmの円によって実質的に画定され得、本質的に加熱スポットの中心部に設けられ得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、放射照度プロファイルは、対象領域における網膜組織の決定された温度上昇に基づいて選択され得、任意選択で、対象領域の縁部における温度上昇と対象領域の中心部における温度上昇との間の差を決定することによって、選択され得る。
【0032】
本明細書において、対象領域の加熱とは、網膜加熱及びERG刺激の両方を含む実施形態において、刺激ビームによって照明される少なくとも対象領域の加熱を指す。また、加熱は、例えば、刺激ビームによって照明される対象領域よりも大きい領域にも提供され得る。
【0033】
本明細書中に提示される例示的な実施形態は、添付の特許請求の範囲の適用可能性を制限するものと解釈されるべきではない。「備える(to comprise)」という動詞は、本明細書において、記載されていない特徴の存在を排除しないオープンな限定として使用される。従属請求項に記載された特徴は、特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0034】
本発明の特徴と考えられる新規な特徴は、特に添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、本発明自体は、その構造及びその動作方法の両方に関して、そのさらなる目的及び利点とともに、添付の図面と関連して読まれる場合、特定の例示的な実施形態の以下の説明から最も良く理解されるであろう。
【0035】
本装置の様々な実施形態に関する提示された考察は、当業者によって理解されるように、必要な変更を加えて、本方法の実施形態に柔軟に適用することができ、逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による1つの例示的な装置を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、従来形状の加熱スポットと、加熱スポットの中心部に放射照度がより低いか又は放射照度が無い2つの異なるサイズの領域を備える環状に整形された加熱スポットとを有する加熱ビームを用いた、網膜の温度上昇を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、従来形状の加熱スポットと、加熱スポットの中心部に放射照度がより低いか又は放射照度が無い2つの異なるサイズの領域を備える環状に整形された加熱スポットとを有する加熱ビームを用いた、網膜の温度上昇を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による網膜加熱のための1つの例示的な装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明を、添付の図面による例示的な実施形態を参照してより詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態による網膜ERG信号を取得するための装置を示す。本装置は、網膜加熱システム及び撮像システムと関連して
図1に示されている。本装置は、少なくとも1つの光源を備えている。少なくとも1つの光源は、網膜の対象領域を照明するために少なくとも刺激ビームを提供し、網膜の対象領域を刺激して焦点ERG信号を誘発するように構成されている。本装置は、少なくとも対象領域の外側の領域において網膜を照明する明順応用の背景ビームを提供するように構成された、少なくとも1つの光源を備えている。本発明の好ましい実施形態では、網膜の少なくとも対象領域を照明する中心背景ビームが任意に提供されてもよい。提供されるビームは、別々の光源を用いて生成されてもよいが、例えば、一実施形態では、明順応用の背景ビームと中心背景光ビームとが、同じ光源によって提供されてもよい。光源は、別々に制御可能であることが好ましい。
【0039】
図1の実施形態では、刺激ビームは、刺激光源LED3によって提供される。刺激ビームは、網膜の少なくとも対象領域を照明するために使用される、ここで対象領域は、ERG信号が得られるべき領域であり、任意選択で、網膜加熱中に加熱される/加熱されるべき領域でもある。網膜加熱が行われない場合、刺激ビームによって刺激/照明される対象領域は、刺激ビームによって照明される領域を直接指す場合がある。一方、網膜加熱が行われる実施形態では、対象領域は加熱される領域を指す場合があり、この場合、刺激ビームによって照明される領域は、対象領域全体に対応しない可能性がある。刺激ビームは、対象領域からERG信号を引き出す/誘発する(elicit/induce)ために使用される。刺激ビーム光源LED3は、500nm~600nmの波長、例えば約555nmの波長を有する刺激ビームを提供するように構成された発光ダイオード(LED)光源であってもよい。赤色及び緑色の錐体細胞は555nmの波長で同様の感度を有するので、これに近い波長を示す刺激ビームは、両方のタイプの細胞を同様に刺激することができる。刺激ビームは、すべての網膜錐体細胞を等しく刺激することができる、白色光を含んでいてもよい。
【0040】
網膜加熱が行われる一実施形態では、刺激ビームは、少なくとも対象領域を加熱するために使用される加熱ビームと同じサイズ又は加熱ビームより小さいサイズでもよい。刺激ビームは、例えば、治療ビームの直径の50%~90%、例えば約75%などであるビーム/スポット直径を有していてもよい。
【0041】
刺激光源LED3は、変調された刺激光ビームを提供するように構成されてもよい。したがって、刺激ビームは、連続的な光ビームとして提供されない場合があるが、インパルス状のフラッシュ光、擬似ランダム波形、又は矩形波などのシーケンスを含んでいてもよい。変調は、例えば、4Hz~40Hz、有利には10Hz~25Hzの周波数で実施することができる。
【0042】
図1は、明順応用の背景光源LED1によって提供される明順応用の背景ビームを示す。明順応用の背景ビームは、少なくとも対象領域の外側の領域で網膜を照明するように構成され、少なくとも対象領域の外側の領域で網膜を明順応させることによって、対象領域の外側の網膜の領域からのERG信号の発生を抑制又は最小化するように構成されている。明順応用の背景ビームは、網膜加熱が提供される装置の実施形態において有利であるが、網膜加熱なしでERG信号を得るように構成された装置においても有利である。
【0043】
明順応用の背景ビームは、刺激ビーム及び明順応用の背景ビームが眼球に関する最終位置に向けられたときに、照明が少ない領域又は照明されない領域が刺激ビームと本質的に重なり合うように、刺激ビームに対応する照明が少ない領域又は照明されない領域を含んでいてもよい。対象領域(刺激ビームによって照明される領域及び/又は加熱ビームによって加熱される領域である)は、その後、明順応用の背景ビームによって照明されない(又は少なくとも周囲の領域よりも少なく照明される)場合がある。照明されない領域は、例えば、(例えば、刺激ビームが3mmの直径を有するシステムにおいて)直径3mmの円形領域に対応してもよい。
【0044】
明順応用の背景光源LED1はLED光源であってもよい。明順応用の背景光源LED1はバンドパスフィルタを備えていてもよい。明順応用の背景ビームの帯域幅は、例えば10nmまで狭くすることができる。
【0045】
図1の装置は、眼底撮像システムIS(いくつかの実施形態では、本装置の一部としても実現され得る)に関連して示されている。眼底撮像システムISは、例えば、生体顕微鏡、眼底カメラ、又は走査型レーザ検眼鏡であってもよい。眼底撮像システムは、第1の撮像モジュールIM1及び第2の撮像モジュールIM2と、第2のフィルタF2及び第3のフィルタF3などの1つ以上のフィルタと、を備えていてもよい。
【0046】
明順応用の背景ビームは、眼底レンズ及び眼球の表面等のビーム経路上の表面で反射されて結像光学系に戻るため、後方反射(backreflection)に起因する顕著な結像アーチファクトを引き起こす可能性がある。したがって、後方反射が、網膜撮像から本質的に除去されるか、又は少なくとも低減されるように、装置を構成することが有利であり得る。これは、明順応用の背景ビームが撮像システムに到達することを本質的に防止する多数の方法によって達成することができる。
【0047】
一実施形態では、明順応用の背景ビームは、明順応用の背景ビームを眼底撮像システムによる撮像から遮断する光学フィルタを用いて、眼底撮像から遮断されてもよい。光学フィルタは、光学ノッチフィルタ(バンドストップフィルタ)であってもよく、
図1の第2のフィルタF2であってもよい。
【0048】
一実施形態では、偏光を用いて明順応用の背景ビームを生成し、偏光子を用いて明順応用の背景ビームを撮像から遮断することにより、明順応用の背景ビームが眼底撮像から遮断されてもよい。光偏光子は、
図1に示される第2のフィルタF2であってもよい。
【0049】
さらに別の一実施形態では、明順応用の背景ビームを高速オン/オフ波形で変調すると共に、明順応用の背景ビームがオフ位置にあるときにだけカメラセンサを露光するように撮像モジュールのカメラ露光を同期させることによって、後方反射が撮像から除去されてもよい。
【0050】
図1の装置では、中心背景光源LED2によって中心背景光ビームが提供される。中心背景光ビームは、網膜の少なくとも対象領域を照明し、対象領域の明順応レベルを維持するように構成されている。中心背景光ビームは、対象領域と同心であってもよく、実質的に対象領域のみを照明することに限定されてもよい。中心背景光源LED2は、LED光源であってもよい。中心背景光ビームは、白色光を含んでいてもよく、及び/又は眼底において100ルクスを超える明るさを有していてもよい。
【0051】
他の実施形態では、中心背景光ビームは、明順応用の背景ビームを提供するために使用されるのと同じ光源によって提供されてもよいし、又は中心背景光ビームは、刺激光ビームを提供するために使用されるのと同じ光源によって提供されてもよい。例えば、刺激光源LED3は、連続する刺激光パルス間で光ビームがより低い強度で維持される刺激光ビームを提供し、刺激パルス間で中心背景光ビームを提供するように構成されてもよい。
【0052】
網膜加熱に関連して使用される場合、中心背景光ビームの明るさ(brightness)は、加熱レーザ又は他の加熱手段がオンにされると低下し、対象領域における安定した照度を維持するように構成されてもよい。
【0053】
例えば、眼底撮像に赤外線撮像が使用される本発明の実施形態では、中心背景光ビームは必要とされない場合がある。
【0054】
また、装置は、ERG信号を取得するための手段、すなわち、刺激ビームによって与えられる刺激に対する対象領域からの応答信号を取得するための手段を備えていてもよい。ERG信号は、1つ以上のERG電極によって記録/収集、又は取得され得る電気応答であってもよい。電極は、1つ以上の眼球電極(ocular electrodes)と、1つ以上の参照電極とを備えていてもよい。ERG信号は、少なくとも2つの電極間の経時的な電圧変化として取得されてもよい。
【0055】
装置は、眼底レンズL6を備えていてもよいし、又は眼底レンズL6に関連して使用可能であってもよい。眼底レンズL6は、提供された光ビームを眼底に導くことができる。眼底レンズL6は、例えば、120度を超える視野を有する倒立型眼底レンズ(inverting fundus lens)であってもよい。
【0056】
一実施形態では、眼底レンズは装置に組み込まれていてもよく、その結果、レンズが角膜上に配置される必要がない。
【0057】
一実施形態では、装置は眼底レンズを備え、眼球電極は眼底レンズに一体化されてもよい。
【0058】
装置と共に使用可能であり得るか、又は装置の一部であり得る加熱システムは、眼底上の対象領域の温度を上昇させるように構成された加熱レーザLFなどの熱源を少なくとも備えていてもよい。加熱光源LFは、対象領域に向けられる加熱ビームを提供するように構成されてもよい。
【0059】
加熱ビームは、近赤外線領域の波長を含んでいてもよい。加熱ビームに含まれる光の波長は、700nm~1000nmであってよく、加熱ビームは、ファイバ結合ダイオードレーザである加熱光源LFによって提供されてもよい。
【0060】
一実施形態では、加熱ビームは、眼底上において、均一な放射照度プロファイル(irradiance profile)を有し、かつ1mm~6mmのスポット直径を有する。
【0061】
また、本発明の一実施形態は、加熱光源を備える網膜加熱のための装置を提供する。ここで、加熱光源は、加熱ビーム(又は、中心スポットよりも高い照度を有する加熱ビームの少なくとも一部分)が環状に整形されるように、加熱ビームの中心部に低放射照度の(例えば、放射照度が無い)領域を含む加熱ビームを提供するように構成される。環状に整形された加熱スポットは、網膜加熱中にERG信号を取得する装置に有利であるが、ERG刺激が提供されない場合にも、改善された網膜加熱を提供するために使用することができる。環状に整形された加熱スポットは、
図2に関連してより詳細に説明される。
【0062】
一実施形態では、加熱ビームは、加熱ビームと本質的に同等のビーム/スポットサイズ及び放射照度プロファイルを有する照準ビーム(aiming beam)を含むか、又は照準ビームと関連付けられてもよい。任意選択で、加熱ビームがオンにされたときに、対象領域における本質的に安定した照度を維持するために、照準ビームのパワーが低下するように構成されてもよい。
【0063】
また、網膜加熱に関連する装置に関連して、他の加熱システム又は加熱手段が利用されてもよい。例えば、加熱システムは、超音波によって実装されてもよい。
【0064】
図1に示す装置及び関連する他の部品の機能を考慮して、次に1つの使用例シナリオを説明する。上述の4つのビームは、同じ光路上にもたらされ、共役平面CP1上に投影されてもよい。したがって、刺激ビーム、明順応用の背景ビーム、中心背景光ビーム、及び加熱ビームに対応する4つの光路が関与する可能性がある。加熱ビームは、第1のレンズL1によって第1のマスクM1上に導かれてもよい。明順応用の背景ビームは、第2のレンズL2によって第2のマスクM2上に導かれてもよい。中心背景光ビームは、第3のレンズL3によって第3のマスクM3上に導かれてもよい。刺激ビームは、第4のレンズL4によって第4のマスクM4上に導かれてもよい。
【0065】
眼底レンズL6は、CP1の光プロファイルを眼底に投影することができる。第1の撮像モジュールIM1は、CP1がカメラセンサ上に投影されるか、又は治療する医師の眼が生体顕微鏡の接眼レンズ(eyepieces)を介してCP1上に焦点を合わせることができるように構成される。第5のレンズL5を通過したビームは、第1のミラーM1によって眼球の方向に導かれる。第1のミラーM1は、第1の光学モジュールIM1(生体顕微鏡など)の真正面に配置されてもよく、その結果、左眼が第1ミラーM1の左側で眼底を見ることができ、右眼が第1ミラーM1の右側で眼底を見ることができるようにする。第5レンズL5は、マスクM1、M2、M3、及びM4からの像を共役平面CP1上に投影することができ、これは、マスクを通して放出された光プロファイルがCP1上に結像されることを意味する。ビームスプリッタBS1、BS2、及びBS3は、加熱レーザファイバ出力LFから生じるビームと、光源LED1、LED2、及びLED3から生じるビームとを合波してもよい。
【0066】
図1において、マスクM1、M2、M3、M4は孔であり、孔を透過した光プロファイルは、共役面CP1に向かって投影される。また、マスクは、整形ミラー(shaped mirrors)又はデジタルマイクロミラーデバイスであってもよく、この場合、光は、マスクを通過する代わりに、マスクから反射されるように生成される。マスクは、いくつかの実施形態では、明順応用の背景ビーム及び/又は加熱ビームにおいて、任意のダークスポット又は低放射照度の領域又は放射照度が無い領域を実現するために使用され得る。
【0067】
第1のフィルタF1は、明順応用の背景光源LED1によって提供される明順応用の背景ビームのスペクトルをより狭くするために使用されてもよい。第1のフィルタF1の通過帯域は10nmであってもよい。第2のフィルタF2は、530nmを中心とする25nmの阻止帯域を有する光学ノッチフィルタであってもよく、明順応用の背景ビームが第2の撮像モジュールIM2に入射するのを阻止するために使用されてもよい。第3のフィルタF3は、赤外線カットフィルタであってもよく、撮像モジュールIM2に導かれるレーザ光を遮断する。第2の撮像モジュールIM2は、撮像光を2つの光路に分割するビームスプリッタを備え、光路の一方にはカメラシステムが配置され、光路の他方には眼球(eye pieces)が配置されてもよい。
【0068】
網膜加熱を伴ういくつかの実施形態では、処理領域の一部が周辺部に対してより低い温度であることが有益である場合がある。これは、網膜の特定の領域、例えば中心窩(fovea)に、より低い熱量(thermal dose)を供給することが望ましい場合であろう。これらの実施形態では、放射照度プロファイルは、中心部において、周辺部と比較してより低い温度上昇をもたらすように設計されてもよい。これは、より少ない熱量が供給されるべき網膜の対象領域の位置に対応する加熱スポットの位置に、低放射照度の領域を有することによって達成され得る。低放射照度の領域は、例えば、眼底におけるレーザスポットの中心部において、放射照度が実質的にゼロである直径0.5mmの円形の領域であってもよい。
【0069】
図2は、従来形状のトップハット型の加熱スポット(実線トレース、ダークスポット又は低照度の領域の直径0mm)と、加熱スポットの中心部に低放射照度であるか又は放射照度が無い2つの異なるサイズの領域を備え、環状に整形された加熱スポット(破線)と、を有する加熱ビームを用いた網膜の温度上昇を「℃」で示したものである。温度上昇は、加熱スポットの中心部からの距離に応じて示されている。
【0070】
図2Aのスポット直径は3. 3mmであり、直径0.5mmと直径1mmの実質的に放射照度がない領域(ダークスポット)を有する環状スポットがある。
図2Bは、直径4mmの加熱スポットと、中心部に直径0.5mmの放射照度がゼロの領域がある(急激な照度変化を伴う)放射照度プロファイルを有する加熱スポットと、スポットの中心部からスポットの端部に向かうとレーザパワーの相対値が0.7から1まで直線的に上昇するような放射照度プロファイルを有する1つの加熱スポットと、を示している。中心からの距離が2mmを超えると、すなわちスポットの直径が4mmになると、放射照度はゼロまで低下する。
【0071】
図2から、環状に整形された加熱スポットを用いると、網膜の加熱されている領域での温度上昇がより均一となることが分かる。環状に整形された加熱スポットを用いることで、円形の加熱スポットを有する加熱ビームに見られる、加熱スポット(又は加熱領域)の中心部における高い温度ピークを回避することができる。次に、網膜における放射照度プロファイルは、1つ以上の低放射照度の領域を有する加熱スポットを用いて、より均一なものとなり得る。低照明の領域を含む加熱スポットを用いて提供され得るより均一な熱分布は、治療領域、すなわち網膜の対象領域の様々な部分に、より均一な熱量を供給するのに有益であり得る。
図2Bは、加熱スポットの中心部から縁部に向かって、放射照度を徐々に、例えば直線的に増加させると、組織における温度上昇は、本発明による他の環状に整形された加熱スポットを用いる場合よりもさらに均一になり得ることを示している。いくつかの場合には、より均一な温度プロファイルが望ましいが、他の場合には加熱領域の中心部の温度が縁部の温度よりも低い網膜の温度プロファイルを得ることが有利であり得る。これは、例えば、加熱処理を中心窩に集中させ、中心窩の内部が過度に高い温度になることで損傷を受けないことを確実にする場合に利用され得る。
【0072】
特定の使用事例において所望の温度プロファイルを得るために、低照度または無照度の領域を画定する小さい円の様々なサイズを使用することができる。例えば、小さい円は、加熱スポットの直径の約5%~50%、好ましくは10%~20%である直径を有していてもよい。低放射照度を有する領域は、例えば、直径0.1mm~1mmの円によって実質的に画定され得る。
【0073】
環状形状の小さい円を画定すると考えられる領域の周辺で放射照度の勾配が生じるように、放射照度の変化が徐々に起きるような形で実現される可能性がある。有利には、放射照度は、加熱スポットの中心部における低放射照度の第1の値と、加熱スポットの縁部における高放射照度の第2の値との間で、実質的に直線状に増加し得る。
【0074】
放射照度は、スポットの中心部における最小値又は第1の値から、周辺部/縁部におけるより高い、好ましくは最も高い第2の値まで、直線的に上昇してもよい。これにより、均一な放射照度プロファイルと比較して、眼底においてより均一な温度プロファイルが得られる可能性がある。有利には、放射照度は、中心部と比較して周辺部で5%~100%高く、より有利には中心部と比較して周辺部で20%~50%高くなるように構成されてもよい。
【0075】
加熱スポットの直径は、治療される病態に基づいて選択されてもよく、例えば4mmであってもよい。直径4mmの加熱(レーザ)スポットの放射照度の値は、加熱スポットの中心部で1W/cm2~10W/cm2であってもよい。
【0076】
レーザ露光などの加熱により生じる網膜組織の温度上昇は、患者間で大きく異なる可能性があるため、各患者に対して個別化された加熱レーザの出力較正を実行することが有益であり得る。この場合、治療量以下の(subtherapeutic)加熱露光が適用され、その結果、対象領域における網膜組織の温度上昇が(例えば、ERG法によって)決定される。治療で使用される加熱パワーは、治療量以下の加熱露光で使用される温度上昇及びレーザパワーに基づいて、網膜組織の所望の温度上昇を生じるように最適化されてもよい。
【0077】
中心部と比較して縁部でより明るくなるように加熱スポットをカスタマイズすることは、例えば、最適化方法によって実現されてもよい。一実施形態では、放射照度プロファイルは、有限要素法の熱モデリングを使用して最適化されて、所与の放射照度プロファイルによって実現される加熱スポットの熱分布を決定することができる。
【0078】
様々な放射照度プロファイルのセットがテストされて、対象領域において所望の熱分布を提供する放射照度プロファイルが選択されてもよい。対象領域/加熱領域における横方向の温度プロファイルは、脈絡膜の灌流速度(rate of choroidal perfusion)などの生理学的パラメータの影響を受ける。放射照度プロファイルは、自然に発生する範囲の生理学的パラメータを有する計算モデルにおいて、最適に均一な温度プロファイルを生成するように選択されてもよい。
【0079】
選択された又は所望の放射照度プロファイルを提供する方法は、例えば、上述の有限要素法の熱モデリング等のコンピュータ実装のシミュレーション又は計算を行い、加熱スポットの加熱プロファイルの選択された均一性を提供する等、所定の基準を満たす加熱ビームの最適化された又は選択された放射照度プロファイルを決定してもよい。
【0080】
一実施形態では、較正手順を使用して、治療レベルでの網膜加熱に使用されるべき加熱のパワーを決定し、放射照度プロファイルの形状を患者間で一定に維持することができる。さらに、いくつかの実施形態では、加熱スポットの放射照度プロファイルを最適化するための較正プロトコルに基づいて、加熱パワー及び/又は放射照度プロファイルの形状が、治療される患者及び網膜領域に対して最適化されてもよい。
【0081】
較正プロトコルは、対象領域の中心部と、対象領域の周辺部をカバーする環状リングとであり得る、2つの網膜領域から網膜温度を決定することを含んでいてもよい。中心部と周辺部との間での加熱パワーの増加は、治療領域の中心部と治療領域の環状縁部とにおいて決定された温度に基づいて決定されてもよい。
【0082】
例示的な実施形態では、所望の放射照度プロファイルは、デジタルマイクロミラーデバイスに均一なレーザスポットを照射し、デジタルマイクロミラーデバイスの画像を、眼底レンズを通して網膜に投影することによって達成されてもよい。放射照度プロファイルは、各マイクロミラーがオフ状態及びオン状態で費やす相対時間を調整することによって、デジタルマイクロミラーデバイス上に符号化されてもよい。
【0083】
図3は、眼球302の網膜の対象領域を加熱するための1つの例示的な装置300を示す。装置300は、少なくとも対象領域を加熱する加熱ビームを提供するための少なくとも加熱光源LFを備えており、加熱ビームは、低放射照度の領域を含む加熱スポットを提供する放射照度プロファイルを備えている。
【0084】
また、装置300は、刺激ビームを提供するように構成された刺激光源LED3を備えていてもよい。刺激ビームは、少なくともERG信号が取得される領域を照射するために使用されてもよく、この領域は、網膜加熱中に加熱される/加熱されるべき対象領域と等価であってもよい。また、装置は、本明細書の他の箇所に記載される光学要素に対応し得る光学要素304を備えていてもよい。
【0085】
一実施形態では、加熱スポットの放射照度プロファイルは、例えば、
図1のM1に対応するマスクによって制御されてもよく、M1は、所望の放射照度プロファイルを通過させるグレーデッドNDフィルタ(graded neutral density filter)、又は所望の放射照度プロファイルを反射するデジタルマイクロミラーデバイスであってもよい
【0086】
本発明は、上述の実施形態を参照して上記で説明され、本発明のいくつかの利点が実証された。本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、発明思想の精神及び範囲、及び以下の特許請求の範囲内のすべての可能な実施形態を含むことが明らかである。
【0087】
従属請求項に記載された特徴は、特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【国際調査報告】