(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-08
(54)【発明の名称】混合ポリビニルアルコール薬物送達システム
(51)【国際特許分類】
A61K 47/32 20060101AFI20230801BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230801BHJP
A61K 33/38 20060101ALI20230801BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230801BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20230801BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230801BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230801BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20230801BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230801BHJP
D01F 6/14 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K45/00
A61K33/38
A61P17/02
A61P31/02
A61P31/04
A61K9/06
A61L15/24 100
C08L29/04
D01F6/14 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504365
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 CA2021051004
(87)【国際公開番号】W WO2022016268
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン、ジョン ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】プラケット、デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チェンユ
(72)【発明者】
【氏名】プアマスジェデメイボド、メリヘサダット
(72)【発明者】
【氏名】バート、ヘレン エム.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA94
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4L035AA04
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(57)【要約】
本発明は、異なって加水分解されたPVAの混合物で構成される生体適合性のポリビニルアルコール(PVA)マトリックスを提供する。PVAマトリックスは、例えば局所的薬物送達のための制御放出製剤の中に形成することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ポリマーマトリックスを形成する方法。
第1のポリビニルアルコール(PVA)ポリマーを第2のPVAポリマーと混合する工程であって、第1のPVAポリマーが80%~100%の第1の加水分解度まで加水分解されており、第2のPVAポリマーが75%~96%の第2の加水分解度まで加水分解されており、第1の加水分解度が第2の加水分解度よりも少なくとも4%高く、第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ5:95~95:5の混合PVA重量比で存在する工程、及び
混合PVAが前記ポリマーマトリックスを形成する工程であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも部分的に水溶性であり、前記ポリマーマトリックスの所望の水溶解度を提供するように混合PVA重量比が選択される工程を含む方法。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスが、適切に水和された時、ヒドロゲルを形成するヒドロゲル形成ポリマーマトリックスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
実質的に架橋剤が非存在下で混合される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれらの間の共有架橋を実質的に含まない、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
混合が電界紡糸を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
混合がキャスティング及び乾燥を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーマトリックスがポリエチレングリコール(PEG)を実質的に含まない、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーマトリックス中のポリマーが実質的に第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーからなる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1のPVAポリマー及び/又は第2のPVAポリマーが、9,000~150,000の間の分子量を有する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第1の加水分解度が、90%~99%、94%~99%、又は約99%である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第2の加水分解度が、99%未満、80%~96%、88%~96%、又は約88%である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第1の加水分解度が少なくとも97%であり、第2の加水分解度が90%~97%であるか、又は
第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は
第1の加水分解度が90~97%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は
第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90~97%である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第1の加水分解度が90%~99%であり、第2の加水分解度が90%未満である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ10:90~50:50の混合PVA重量比で存在する、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーマトリックスが1つ以上の追加の異なるPVAポリマーを更に含み、前記の追加の異なるPVAポリマーが第1の加水分解度及び第2の加水分解度と異なる加水分解度を有する、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーマトリックスが生体適合性である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーマトリックスが、治療剤、化粧剤又は生理活性剤を更に含む、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記治療剤が、抗菌剤、麻酔剤、抗炎症剤、抗増殖剤、又は創傷調節剤のうちの1つ以上である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記治療剤が銀塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記銀塩が、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、酢酸銀又はスルファジアジン銀である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマーマトリックスが、治療剤、化粧剤又は生理活性剤のための制御放出マトリックスである、請求項17~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
対象に適用された時、前記制御放出マトリックスが、少なくとも5、10又は15日間の徐放期間にわたって、治療剤、化粧剤、又は生理活性剤を放出する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記制御放出マトリックスが対象に局所的に適用される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリマーマトリックスが皮膚コーティング又は創傷被覆材の中に形成される、請求項1~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
第2のポリビニルアルコール(PVA)ポリマーと混合された第1のPVAポリマーを含むポリマーマトリックスであって、
第1のPVAポリマーが80%~100%の第1の加水分解度まで加水分解されており、第2のPVAポリマーが75%~96%の第2の加水分解度まで加水分解されており、第1の加水分解度が第2の加水分解度よりも少なくとも4%高く、第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ5:95~95:5の混合PVA重量比で存在し、
混合PVAが前記ポリマーマトリックスを形成し、前記ポリマーマトリックスが少なくとも部分的に水溶性であり、混合PVA重量比が前記ポリマーマトリックスの所望の水溶解度を調節する、ポリマーマトリックス。
【請求項26】
適切に水和された時、ヒドロゲルを形成するヒドロゲル形成ポリマーマトリックスである、請求項25に記載のポリマーマトリックス。
【請求項27】
実質的に架橋剤を含まない、請求項25又は26に記載のポリマーマトリックス。
【請求項28】
第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーの間の共有架橋を実質的に含まない、請求項25~27のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項29】
電界紡糸ポリマーマトリックスである、請求項25~28のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項30】
キャストされ乾燥されたポリマーマトリックスである、請求項25~28のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項31】
ポリエチレングリコール(PEG)を実質的に含まない、請求項25~30のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項32】
前記ポリマーマトリックス中のポリマーが実質的に第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーからなる、請求項25~31のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項33】
第1のPVAポリマー及び/又は第2のPVAポリマーが9,000~150,000の間の分子量を有する、請求項25~32のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項34】
第1の加水分解度が、90%~99%、94%~99%、又は約99%である、請求項25~33のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項35】
第2の加水分解度が、99%未満、80%~96%、88%~96%、又は約88%である、請求項25~34のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項36】
第1の加水分解度が少なくとも97%であり、第2の加水分解度が90%~97%であるか、又は
第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は
第1の加水分解度が90~97%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は
第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90~97%である、請求項25~33のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項37】
第1の加水分解度が90%~99%であり、第2の加水分解度が90%未満である、請求項25~33のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項38】
第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ10:90~50:50の混合PVA重量比で存在する、請求項25~37のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項39】
前記ポリマーマトリックスが1つ以上の追加の異なるPVAポリマーを更に含み、前記の追加の異なるPVAポリマーが第1の加水分解度及び第2の加水分解度と異なる加水分解度を有する、請求項25~38のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項40】
前記ポリマーマトリックスが生体適合性である、請求項25~39のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項41】
前記ポリマーマトリックスが、治療剤、化粧剤又は生理活性剤を更に含む、請求項25~40のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項42】
前記治療剤が、抗菌剤、麻酔剤、抗炎症剤、抗増殖剤、又は創傷調節剤のうちの1つ以上である、請求項41に記載のポリマーマトリックス。
【請求項43】
前記治療剤が銀塩である、請求項41に記載のポリマーマトリックス。
【請求項44】
前記銀塩が、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、酢酸銀又はスルファジアジン銀である、請求項43に記載のポリマーマトリックス。
【請求項45】
前記ポリマーマトリックスが、治療剤、化粧剤又は生理活性剤のための制御放出マトリックスである、請求項41~44のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項46】
対象に適用された時、前記制御放出マトリックスが、少なくとも5、10又は15日間の徐放期間にわたって、治療剤、化粧剤、又は生理活性剤を放出する、請求項45に記載のポリマーマトリックス。
【請求項47】
前記制御放出マトリックスが対象に局所的に適用される、請求項46に記載のポリマーマトリックス。
【請求項48】
前記ポリマーマトリックスが皮膚コーティング又は創傷被覆材の中に形成される、請求項25~47のいずれかに記載のポリマーマトリックス。
【請求項49】
医薬の制御放出のための、請求項25~48のいずれかに記載のポリマーマトリックスの使用。
【請求項50】
前記制御放出が局所的である、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
請求項25~50のいずれかに記載のポリマーマトリックスを対象に適用することを含む、疾患又は障害のために対象を治療する方法。
【請求項52】
前記ポリマーマトリックスが対象に局所的に適用される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ポリマーマトリックスが医薬を含む、請求項51又は52に記載の方法。
【請求項54】
対象がヒト患者である、請求項51~53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
疾患又は障害が創傷又は皮膚病変である、請求項51~54のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたる局所薬物送達の分野に関する。より具体的には、本発明は、特に創傷及び皮膚疾患の治療として、薬物を皮膚に送達するための組成物に関する。更に、本発明は、創傷治癒及び局所薬物送達に使用するための組成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理学的活性物質の局所投与及び制御放出は、最適な創傷治癒及び乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ又は湿疹等の皮膚疾患又は状態の治療において重要である。制御された方法で薬物を送達することが必要な場合がある。その適用は、ポリマーが定義された期間にわたって薬物を放出するが、その後分解して再吸収される長持ちするヒドロゲルを形成する、1つ以上の薬物のポリマー製剤によって最適に提供され得る。疾患ごとに、この分解と薬物放出に必要な時間枠が異なり得る。従って、適切なプラットフォームは、その必要性に合わせてポリマーの分解速度が調整されるプラットフォームであり得る。この技術の最も関連する適用は、皮膚、特に創傷部位へ薬物を送達することである。しかし、この技術は、広範囲の薬物を用いて体内の他の多くの疾患部位で利用することができる。創傷被覆材の目的は、ヒトの皮膚の機能を再現し、その再生を促進することである。ヒトの皮膚はヒトを保護し、体液交換を通じて体温を調節し、感覚の供与を促進する。創傷被覆材は、抗菌性、生体適合性、非粘着性、無痛性であるべきである[1]。
【0003】
[ポリビニルアルコール(PVA)]
PVAは水溶性の合成ポリマーであり、高い引張強度と柔軟性と共に生体適合性がある。PVAは水中で膨潤して、最適な創傷治癒を促進する良好なガス交換特性を備えた湿性の環境を作り出すヒドロゲル膜を形成する[2]。PVAは、塩基の存在下でアルコール中でポリビニルアセテートを加水分解することによって調製される。
【化1】
【0004】
PVAは、エチレン単位が除去されてヒドロキシル置換基に置き換えられた程度を表す加水分解度が限定された種類で市販されている。最も一般的に入手可能な形態は、99%加水分解されたもの (水に不溶)及び88%加水分解されたもの(水に部分的に溶解)である。部分的に加水分解されたPVAは、PVAと未反応のポリビニルアセテート(すなわちアセチル基を含むもの)の両方を含む。興味深いことに、PVAの溶解度は加水分解度に反比例する。99%加水分解されたPVAから作られたキャストフィルムは膨潤するが、水にはほとんど溶けない。80%~90%加水分解されたPVAフィルムは膨潤するが、すぐに溶解する[3]。水溶媒キャスト薄フィルムとしての、又は電界紡糸膜としての皮膚への適用のためのPVAの使用に関して、多数の報告がなされている。
【0005】
[PVA及びキャストフィルムの架橋]
PVA(例えば10w/w%で)を沸騰水に溶解させて、得られた冷たい粘稠溶液をペトリ皿に注ぐことによって、透明フィルムを作製することができる。しかし、これらのフィルムは水中で急速に溶解又は崩壊するため、創傷上での短い滞留時間のみを提供することができる。この困難を克服するために、PVAを架橋してフィルムの耐久性を高め、水中で非分解性の架橋PVAフィルムを提供する様々な方法が記載されている。架橋は、クエン酸[4]及びグルタルアルデヒド[5,6]等の化学物質の使用を含むことができる。しかし、創傷被覆材の用途では、これらの方法は、すべての未使用の化学物質を使用前に確実に除去する必要がある。他の方法は、電子ビーム[7]又はガンマ線[8]の照射を含み、これらはフィルムの滅菌及び凍結融解[8,9]にも役立つ。凍結融解によって、単純にPVA内に結晶が形成され、ポリマー鎖が固定され得る。研究された他の架橋方法は、熱、ホウ酸塩、メタノール、紫外線照射又は凍結融解を含む。Galeskaと同僚は、凍結融解を使用してPVAを効果的に架橋し、それによってフィルムが水中で2週間を超えて持続してデキサメタゾンを放出し、繰り返された凍結融解で誘導された架橋度に薬物放出速度が反比例することを示した[10]。デキサメタゾンの放出を更に制限するために、著者らは凍結融解架橋フィルムに埋め込まれたPLGAマイクロスフェアに薬物をカプセル化した。これによって、延長された期間の間、長期間継続するキャリアーとしてのこの形態の架橋PVAが構成される。Rahmani-Neishaboorと同僚は、タンパク質ストラティフィンの放出のために同様の戦略を採用した[11]。グルタルアルデヒドを介した架橋を用いて、異なる加水分解度を有するPVAからPVAキャストフィルムを製造した[12]。他の研究者は、PVAを他の薬剤と混合して、改善された性能特性を有する膜の製造を試みた。薬剤には、アルギン酸塩[13,14]、ポリビニルピロリドン[3]、セルロース誘導体[4,13,15]、コラーゲン[16]、ポリエチレングリコール[9,17]、キトサン[18]、及びラテックス[19]が含まれる。Jodarら[2]は、PEG4000と98%加水分解PVA及び88%加水分解PVAとの混合物を作成し、続いてグルタルアルデヒド架橋を行った。これらのPEG混合フィルムは、組成に応じて1~24時間かけて分解し、分解をある程度制御できたが、100分間以内にほぼ全てのスルファジアジン銀抗感染剤がこれらのフィルムから放出された。
【0006】
PVAの熱架橋が文献に広く記載されている。薬物送達に化学的又は熱的架橋システムを使用する欠点は、薬物がそのような架橋剤と化学的に反応し得る、又は熱が薬物を分解し得ることである。
【0007】
[混合PVAシステム]
多くの研究者が、フィルムをキャストするためにPVAとの混合方法を使用した。PVAは、キトサン[20]、デンプン[21]と混合され、ポリビニルピロリドン[22]、ゼラチン[23]、セルロース[24]、及びアルギン酸塩[25]と50:50で混合された。例えば、Limpanと同僚は、異なる加水分解度又は異なるPVA分子量を有するPVAを使用して、PVAを魚タンパク質と1:1の比率で混合し、混合されたフィルムの物理的特性について報告した[26]。
【0008】
[電界紡糸及び創傷被覆材]
PVAを単純に溶媒キャストし、乾燥させて薄フィルムを形成することができ、創傷被覆材に適した不織布膜を電界紡糸する際にその薄フィルムが広く使用されている[27]。これらの膜は非常に柔軟でありながら強度があり、配置と取り扱いの優れた制御を可能にする。これらのナノファイバーの生物学的利点の1つは、これらが生体分子と同じ大きさであること、及びそれによって細胞との複雑な相互作用が可能であるということである[28]。実際、ナノファイバーの構造は細胞外マトリックス(ECM)の構造に非常に似ている[29]。不織布ナノファイバー膜の多孔性の性質は、ガス交換を可能にしながら創傷滲出液の排出を可能にする[30]。不織布ナノファイバー膜は、優れた潜在的な薬物送達システムである。PVAを電界紡糸する際に発生する問題の1つは、体積に対する表面積の高い比率によって、水中での急速かつ広範な水和が起こり、重量が1000%増加し、その後急速に溶解することである。従って、有利な電界紡糸されたPVA膜は、ゆっくりと分解され、そのような急速な溶解を防ぎ得るものである。一般に、PVAナノファイバーを使用した薬物送達は、初期バースト放出プロファイルのために困難であり、水の取り込みと薬物放出の阻害のためにポリマーを架橋する必要性が認識された[31]。
【0009】
[PVAと電界紡糸]
上述のように、PVAは電界紡糸されて柔軟な膜を形成することができる。一般に、これらの膜の溶解性と分解特性は、キャストフィルムと同様であるべきである。ただし、体積に対する表面積のより高い比率を有する電界紡糸膜はより速く溶解し得る。しかし、機械的特性はキャストフィルムとは全く異なるべきである(不織布膜とモノリシックキャストフィルムの比較)。個々の繊維の厚さと物理的特性、及び繊維の密度がこれらの膜の機械的性能に影響を与え得るため、多くの研究者がPVAをこれらの特性に影響を与える他の薬剤と混合することを研究した。コラーゲンとキトサンで混合された電界紡糸PVAは、その細胞接着特性で特徴付けられる[32,33]。同様に、Chenと同僚は、電界紡糸された膜の中でアルギン酸塩とPVAを混合した[34]。3つのグループは、繊維の形態的及び機械的特性を改変するために異なる分子量のポリマーを使用して電界紡糸されたPVA混合物を有する[35,36]。他のグループは、99%加水分解PVA又は88%加水分解PVAから個別的に作成された電界紡糸膜を比較した[37]。Park J-Cと同僚は、PVAとポリアクリル酸(PAA)の様々な混合物と、その後の熱処理によって電界紡糸膜の水溶性が低下することを報告した[38]。同様に、Jannesari Mらは、PVAとポリビニルアセテート(PVAc)との50:50比率の電界紡糸された混合物であって、PVAcが98%加水分解PVAと混合するために選択された混合物を報告した[39]。これらの膜が、抗生物質(シプロフロキサシン)を送達し、水性浸出液でゆっくりと膨潤する不溶性膜が設計され、創傷の治療のために使用された。
【0010】
[PVA創傷被覆材における抗感染剤としての銀の役割]
銀は、効果的な抗菌剤であり、PVAと相互作用することが示されているため、創傷治癒の分野で特に注目されている薬剤である。更に、硝酸銀と熱の組合せによって、臨床医に好まれる銀の形態であるPVAフィルム中の銀ナノ粒子が生成されることが示されている。PVAは時々高熱処理によって不溶性になることがあり、そのようなPVA架橋中の銀の追加の役割は不明である。PVA中の硝酸銀に熱を使用して、非分解性フィルム中に銀ナノ粒子又はナノケーブルをインサイチュで製造したことを記載する多くの報告がある[40~42]。Luoと同僚は、熱を使用してPVAナノケーブルを架橋し、製剤中に少量の銀を含めることがナノケーブルを安定化することを示した[43]。
【0011】
Jaeghereと同僚は、2時間でほぼ完全に溶解する薬物放出プラットフォームとして熱押出された低い百分率の加水分解PVAを使用した[44]。Moritaと同僚は、96~98%加水分解PVAの塩を含めることで、膨潤の百分率の量を減少させ、PVAからの薬物放出を遅延させることができることを示した[45]。Cozzoliniは、99%PVAが88%PVAよりも水中でゆっくりと膨潤し、薬物を放出することを示した[46]。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
異なる加水分解度(例えば、80~99%の範囲)を有するPVAを様々な割合で用いて製造された混合PVA組成物であって、何日にもわたって制御可能な分解を可能にする混合PVA組成物が提供される。加熱は必要ない。(i)効果的な抗菌組成物の可能性を与える銀薬物の代替塩、又は(ii)制御された薬物放出の可能性を与える他の治療剤が含まれる。
【0013】
本発明の1つの側面において、異なる加水分解度を特徴とする混合PVAポリマーから構成される皮膚又は創傷ケア被覆材組成物が提供される。
【0014】
本発明の他の側面において、皮膚又は創傷ケア被覆材組成物は、1つ以上の追加の薬物又は治療剤を更に含む。
【0015】
本発明の他の側面において、薬物は、抗菌剤、麻酔剤、抗炎症剤、抗増殖剤、又は創傷調節剤の1つ以上から選択することができる。
【0016】
本発明のいくつかの側面において、抗菌剤は、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、酢酸銀又はスルファジアジン銀から選択される銀塩である。
【0017】
本発明の1つの側面において、混合PVAポリマーは、部分的に加水分解されたPVA(90%未満が加水分解)及び完全に加水分解されたPVA(99%が加水分解)の混合物から製造される。
【0018】
本発明の他の側面において、混合PVAポリマーは、部分的に加水分解されたPVA(90%未満が加水分解)及び中間的に加水分解されたPVA(90~97%が加水分解)の混合物から製造される。
【0019】
本発明の他の側面において、混合PVAポリマーは、中間的に加水分解されたPVA(90~97%が加水分解)及び完全に加水分解されたPVA(99%が加水分解)の混合物から製造される。
【0020】
本発明のいくつかの側面において、混合PVAポリマーは、5日間又は10日間にわたって分解する遅い分解プロファイルを提供する。
【0021】
本発明の他の側面において、混合PVAポリマーは、5日間、10日間又は15日間の期間にわたってポリマーから1つ以上の薬物を連続的放出を提供する。
【0022】
本発明の他の側面において、混合PVAポリマーをベースとする皮膚又は創傷ケア被覆材の製造方法が提供される。
【0023】
本発明のいくつかの側面において、皮膚又は創傷ケア被覆材は、混合PVAポリマーを、1つ以上の治療剤を含むフィルムとしてキャスティングすることで作製される。
【0024】
本発明の他の側面において、混合PVAポリマーは、薬物の経皮送達のために使用され得る。
【0025】
本発明のいくつかの側面において、皮膚又は創傷ケア被覆材は、電界紡糸プロセスを使用してPVAポリマー及び1つ以上の治療剤を組合せて膜を形成することで作製される。
【0026】
従って、第1のポリビニルアルコール(PVA)ポリマーを第2のPVAポリマーと混合する工程であって、第1のPVAポリマーが80%~100%の第1の加水分解度まで加水分解されており、第2のPVAポリマーが75%~96%の第2の加水分解度まで加水分解されており、第1の加水分解度が第2の加水分解度よりも少なくとも4%高い工程を含む、ポリマーマトリックスを形成する方法が提供される。第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ5:95~95:5の混合PVA重量比で存在することができる。この方法は、混合PVAが前記ポリマーマトリックス、例えば生体適合性ヒドロゲル形成ポリマーマトリックスを形成する工程であって、前記ポリマーマトリックスが少なくとも部分的に水溶性であり、混合PVA重量比が前記ポリマーマトリックスの所望の水溶解度を提供するように選択される工程をも含むことができる。従って、対応するポリマーマトリックスが、例えば医薬を送達するためにポリマーマトリックスを使用する方法と共に提供される。
【0027】
ポリマーマトリックス及びそれを製造する方法は、例えば、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。ポリマーマトリックスが、適切に水和された時、ヒドロゲルを形成するヒドロゲル形成ポリマーマトリックスである。ポリマーマトリックスは、例えば、選択された水和条件下でヒドロゲルを形成することができるが、それにも関わらず、ヒドロゲルが実際には形成されない条件で使用することができる。この種のマトリックスは、ヒドロゲルを形成できるという意味でヒドロゲル形成マトリックスである。例えば、実質的に架橋剤が非存在下で混合され得る。第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーは、それらの間の共有架橋を実質的に含まなくてもよい。混合は、電界紡糸によるか、あるいはキャスティング及び乾燥によってなされてよい。ポリマーマトリックスは、ポリエチレングリコール(PEG)を実質的に含まなくてもよい。ポリマーマトリックス中のポリマーは、実質的に第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーからなることができる。すなわち、ポリマーマトリックスは、追加又は代替のポリマーを実質的に欠いてもよい。ただし、代替ポリマー以外の化合物がこれらの実施態様に存在してもよい。第1のPVAポリマー及び/又は第2のPVAポリマーは、例えば9,000~150,000の間の分子量を有することができる。第1の加水分解度は、90%~99%、94%~99%、又は約99%であり得る。第2の加水分解度は、99%未満、80%~96%、88%~96%、又は約88%であり得る。第1の加水分解度が少なくとも97%であり、第2の加水分解度が90%~97%であることができ、又は第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は第1の加水分解度が90~97%であり、第2の加水分解度が90%未満であるか、又は第1の加水分解度が99%であり、第2の加水分解度が90~97%である。あるいは、第1の加水分解度が90%~99%であり、第2の加水分解度が90%未満であり得る。第1のPVAポリマー及び第2のPVAポリマーがそれぞれ10:90~50:50の混合PVA重量比で存在することができる。ポリマーマトリックスは任意に1つ以上の追加の異なるPVAポリマーを更に含むことができ、前記の追加の異なるPVAポリマーが第1の加水分解度及び第2の加水分解度と異なる加水分解度を有する。
【0028】
ポリマーマトリックスは、生体適合性であることができ、更に治療剤、化粧剤又は生理活性剤(生物学的活性を有する任意の薬剤)を含むことができる。治療剤は、例えば、抗菌剤、麻酔剤、抗炎症剤、抗増殖剤、又は創傷調節剤のうちの1つ以上であり得る。治療剤は、銀塩、例えば硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、酢酸銀又はスルファジアジン銀であり得る。ポリマーマトリックスは、例えば治療剤、化粧剤又は生理活性剤のための制御放出マトリックスであり得る。制御放出マトリックスは、対象に適用された時、例えば少なくとも5、10又は15日間の徐放期間にわたって、治療剤、化粧剤又は生理活性剤を放出するように適合させることができる。制御放出マトリックスは、例えば皮膚コーティング又は創傷被覆材の中に形成される時、対象に局所的に適用することができる。従って、ポリマーマトリックスは、制御された局所放出を含む、医薬の制御された放出のための使用に適応することができる。同様に、例えばポリマーマトリックスが医薬を含む場合、例えば局所的にポリマーマトリックスを対象に適用することによって、疾患又は障害のために対象を治療する方法が提供される。例えば疾患又は障害が創傷又は皮膚病変である場合、治療対象はヒト患者又は動物の患者であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】フィルム中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%のスルファジアジン銀を含む、32:68(99%:88%加水分解)~46:54(99%:88%加水分解)の比の範囲の混合PVAキャストフィルム(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図2】フィルム中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の炭酸銀を含む、混合PVAキャストフィルム(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図3】フィルム中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の硫酸銀を含む、混合PVAキャストフィルム(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図4】フィルム中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の酢酸銀を含む、混合PVAキャストフィルム(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図5】40:60(重量比)の99%加水分解PVA:88%加水分解PVAから作製され、1w/w%の様々な銀塩が充填された混合PVAキャストフィルムからの銀の放出を示す。
【
図6】膜中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%のスルファジアジン銀を含む混合電界紡糸PVA膜(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図7】膜中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の炭酸銀を含む混合電界紡糸PVA膜(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図8】膜中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の硫酸銀を含む混合電界紡糸PVA膜(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図9】膜中で88%加水分解PVAのw/w%含有量として示された、1w/w%の酢酸銀を含む混合電界紡糸PVA膜(99%:88%加水分解)の分解プロファイルを示す。
【
図10】10:90(重量比)の99%加水分解PVA:88%加水分解PVAから作製され、1w/w%の様々な銀塩が充填されたPVA電界紡糸膜からの銀の放出を示す。
【
図11】40:60(重量比)の99%加水分解PVA:88%加水分解PVAから作製され、1w/w%の様々な銀塩が充填された銀担持PVAフィルム、又は10:90(重量比)の99%加水分解PVA:88%加水分解PVAから作製され、1w/w%の様々な銀塩が充填された電界紡糸膜の抗菌(MRSA)活性を示す。すべての4つのフィルム及びすべての4つの膜(すべての4つの塩:スルファジアジン銀、炭酸銀、硫酸銀及酢酸銀)は、すべてのMRSA細菌を死滅させたが、PVAコントロールフィルム(銀を含まない)は細菌の増殖に影響を与えなかった。
【
図12】電界紡糸装置と膜を示す。(A)は、ナノファイバー電界紡糸ユニット(カトーテック株式会社)を示す。(B)は、電界紡糸PVA膜(10%PVA(99%):90%PVA(88%),炭酸銀(1%)を含む)を示す。挿入図は、最終的な厚さ50μmのわずかに茶色の膜と、ナノファイバーネットワークを示す高倍率の写真を示す。
【
図13】混合PVAの電界紡糸膜からのドセタキセルの放出を示す。混合PVA膜は、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%ドセタキセルを含むPVA混合物を電界紡糸することによって製造された。薬物放出のレベルが7日間にわたって測定された。
【
図14】混合PVAのキャストフィルムからのゲンタマイシンの放出を示す。キャストフィルムは、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%ゲンタマイシンを含むPVA混合物で製造された。薬物放出のレベルが7日間にわたって測定された。
【
図15】混合PVAの電界紡糸膜からのゲンタマイシンの放出を示す。電界紡糸膜は、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%ゲンタマイシンを含むPVA混合物で製造された。薬物放出のレベルが6日間にわたって測定された。
【
図16】混合PVAの電界紡糸膜からのドキシサイクリンの放出を示す。電界紡糸膜は、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%ドキシサイクリンを含むPVA混合物で製造された。薬物放出のレベルが10日間にわたって測定された。
【
図17】混合PVA電界紡糸膜からのBSAタンパク質の放出を示す。電界紡糸膜は、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%BSAを含むPVA混合物で製造された。BSA放出のレベルが6日間にわたって測定された。
【
図18】混合PVAキャストフィルムからのBSAタンパク質の放出を示す。キャストフィルムは、35:65(ひし形)、45:55(四角形)又は55:45(三角形)のいずれかの比の99%加水分解PVA:88%加水分解PVA及び1%BSAを含むPVA混合物で製造された。BSA放出のレベルが6日間にわたって測定された。
【発明を実施するための形態】
【0030】
薬物の放出を制御する能力は、効果的な皮膚又は創傷ケア被覆材に重要である。更に、PVA被覆材の分解時間を制御する能力は、被覆材を繰り返し交換する必要性を相殺し、患者の疾病率を低下させ、薬物放出を制御するための更なるメカニズムになることができる。従って、PVAベースのフィルム又は膜の分解速度を制御し、それによって、例えばキャストフィルム又はPVA電界紡糸膜の形態のPVAマトリックスからの物質の放出を調節する方法が提供される。
【0031】
高い加水分解PVA(例えば約99%)及び低い加水分解PVA(例えば約88%)の溶液を混合し、乾燥時に様々な溶解度を有するフィルムをキャストする方法が提供される。選択された実施態様において、そのようなフィルムの分解速度は、より溶解しにくい形態のPVA(例えば99%)中のより溶解しやすい形態のPVA(例えば88%)の百分率を調整することによって、精密に制御することができる。これらの方法は、銀の存在又は架橋のための熱の使用を必要としない。これらの混合フィルムは、例えば、多くの薬物(銀を含むがこれに限定されない)の制御放出に使用することができる。本明細書の実施例は、88%加水分解PVA及び99%加水分解PVAを混合することによって分解速度を制御する能力を示す。本明細書の実施例はまた、水溶性を低下させる薬物と共に多数の銀塩を含む、様々な薬物の制御放出を実証する。タンパク質生物学的製剤、ゲンタマイシン(抗生物質)、ドキシサイクリン(抗生物質)及びドセタキセル(抗増殖剤)が含まれる。
【0032】
電界紡糸膜の製造において、異なって加水分解されたPVAを混合する方法も提供される。そのような膜は、キャストフィルムと同様の特性を示す。ただし、遅い分解を仲介するために必要な、高い、例えば99%加水分解PVAの取り込みの量は、キャスト乾燥フィルムに使用するために必要とされる量よりも非常に少ない。電界紡糸膜は、キャストフィルムで見られるものとは異なる膨潤、分解、及び薬物放出プロファイルを示す。
【0033】
例示的な実施態様において、キャストフィルム及び電界紡糸膜の両方における、49%を超える99%加水分解PVAと、51%未満の88%加水分解PVAとを含む組成物は、非常にゆっくりと分解した。従って、選択された実施態様において、49%未満の99%加水分解PVAを含む、99%加水分解PVA及び88%加水分解PVAのPVA混合物が提供される。PVAの加水分解度は、本明細書中、参考として次のように定義することができる。90%未満の加水分解:「部分的(partial)」。90~97%の加水分解:「中間的(intermediate)」。97%を超える加水分解:「完全加水分解(fully hydrolyzed)」。99%加水分解PVA及び88%加水分解PVAは、PVAの最も一般的に入手可能な市販形態であるが、他の形態も入手可能である。いくつかの側面において、中間的加水分解PVA(例えば、92%、94%又は96%)を部分的加水分解PVA又は完全加水分解PVAのいずれかと組合せた混合物でも、分解速度の制御が可能であることが示される。
【実施例】
【0034】
[方法]
ポリビニルアルコール(Selvol(商標)540:88モル%加水分解,分子量150,000、Selvol(商標)125:99モル%加水分解,分子量125,000、Selvol(商標)425:96モル%加水分解、Selvol(商標)418:92モル%加水分解,分子量50,000、及びSelvol(商標)443:94モル%加水分解、分子量150,000)は、Sekisui Specialty Chemical Company(ダラス,テキサス州,アメリカ合衆国)から入手した。銀塩、ドセタキセル、ドキシサイクリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゲンタマイシン、80%加水分解ポリビニルアルコール(分子量8,000)は、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。すべての化学物質は、供給されたまま、更に精製せずに使用した。脱イオン水が、すべての実験のPVA-銀配合物の調製に使用された。
【0035】
[フィルム(溶媒キャストPVA)の調製]
PVA粉末を、85~90℃に予熱され急速攪拌された適量の水にゆっくりと加え、約60分間攪拌及び加熱を続けることで、PVAを10w/w%保存溶液として調製した。透明な溶液が形成された時、容器を加熱から外し、室温まで冷却した。銀塩保存溶液を水中で調製し、必要になるまで暗い戸棚にアルミホイルで覆って保管した。PVAの溶液を5w/w%まで希釈し、適切な比率で一緒に混合した。最後に、少量の濃縮銀塩溶液を十分な量で加え、60×15mmの使い捨てポリスチレンペトリ皿に100μmの最終厚さでフィルムをキャストした(Sarstedt Inc.,モントリオール,ケベック州,カナダ)。一般に、PVAに対する銀イオンの百分率(塩の総重量ではない)は1%であった。ペトリ皿中のPVA-銀溶液をアルミホイルでゆるく覆い、水を蒸発させるために37℃のオーブンに一晩放置した。すべての乾燥フィルムは、評価まで暗い戸棚に保管した。
【0036】
[電界紡糸膜の製造]
カトーテック株式会社(日本)のナノファイバー電界紡糸ユニットを使用し、銀塩を含む水(グリセロールなし)中の10%PVAポリマー溶液10mlを使用して、PVA電界紡糸膜が製造された。混合物の比率は、88%加水分解PVAの百分率に対する99%加水分解PVAの百分率によって表される。いくつかの膜において、2つのPVAポリマーは、96:88、94:88又は99:94(%加水分解)であった。フィルムを一晩電界紡糸(30KV,範囲15cm,シリンジ流速0.1mm/分)し、アルミニウムホイル上に集め、暗所で室温で保存した。
【0037】
[フィルムの膨潤と分解の研究]
PVAフィルム又は電界紡糸膜を、上記のように調製した。これらのフィルムを、使用まで暗所で1週間保管した。次に、フィルムの小さな切片(直径約2cm)を湿った0.2μmのフィルターディスク(Millipore,ビレリカ,マサチューセッツ州,米国)の上に置き、秤量した。フィルムとフィルターを脱イオン水の薄層で覆い、適切な時間放置した。設定した時間の後、フィルターディスクと付着したPVA-銀ゲルをMillipore真空装置に移し、約15秒間にわたってフィルターからすべての余分な水を除去した。合わせたPVAゲルとフィルターを再秤量し、過剰な水の新鮮な層で再び覆った。次いで、重量増加(膨潤)及び重量損失(溶解)を、最初の乾燥フィルム重量の百分率として計算した。
【0038】
[銀の放出研究と特徴付け]
銀を含むフィルム又は電界紡糸膜を、脱イオン水中に置き、誘導結合プラズマ分析による銀分析のために定期的に媒体をサンプリングした。銀キャリブレーション標準は10サンプルごとに行なわれた。100回の連続銀分析にわたって、この装置は検出限界が約10ng/mlの再現性のある標準曲線を保持した。各放出研究は、少なくとも2週間、トリプリケートで行なわれた。その結果は、時間の関数として放出された銀の計算された百分率としてプロットされた。
【0039】
[銀担持PVAフィルムの抗菌効果]
PVA-銀製剤の抗菌活性を説明するために、すべてのキャストフィルム及び電界紡糸膜を20mg±0.5mgで秤量した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)のメチシリン耐性株(MRSA株USA300)を冷凍庫保存(20mLのLuria Bertani(LB)ブロス中の20μLの細菌サンプル)から一晩培養した。その後、λ=600nmで約0.3~0.5の光学密度(Eppendorf Bio Photometer(Eppendorf,ミシサガ,オンタリオ州,カナダ)を使用して測定)に達するまで2回目の継代培養(20mLのLBブロス中の200μL)を行った。その時点で、以下に概説するように細菌を使用した。
【0040】
PVA-銀フィルムの抗菌活性は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(5.00×105CFU/mL)及び10mLのボトル当たり100%の培地を含む栄養培地に、1w/w%銀担持の酢酸銀、スルファジアジン銀、炭酸銀又は硫酸銀のいずれかを含む、事前に秤量した(20mg)フィルム又は電界紡糸膜サンプルを配置することによって評価した。サンプルボトルを、100rpmで振盪しながら37℃で48時間インキュベートした。接種の0、6、24及び48時間後にアリコートを採取し、細菌数を各時点でのmL当たりのコロニー形成単位(CFU)として決定した。
【0041】
[PVAキャストフィルム又は電界紡糸膜への他の治療剤のカプセル化]
上記のようにして、ドセタキセル、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン又はウシ血清アルブミン(BSA;抗体等の任意の「生物学的」ベースの薬物のためのタンパク質モデルとして)のいずれかを含むフィルム又は電界紡糸膜を製造した。混合されたフィルムは、35%、45%又は55%のいずれかの99%加水分解PVAの含有量を含んだ。薬物放出研究のために、HPLC(232nm、C18、58/37/5のアセトニトリル/水/メタノール移動相、20μL注入、1mL/分)を用いて、ドセタキセルを分析した。同様にHPLC(360nmの吸光度,70%の10Mリン酸緩衝液pH2.8を含む30%のアセトニトリル移動相)を用いて、ドキシサイクリンを分析した。Fluoraldehyde(商標)(Thermo Fisher)を用いて蛍光タグアッセイを用いてゲンタマイシンを分析した。BSAタンパク質分析キットを用いて、BSAタンパク質放出を分析した。
【0042】
実施例1 混合PVAキャストフィルムの分解
[フィルムのキャスティング]
2.5%グリセロールを含む水中の5%PVAポリマー溶液の使用によって、フィルムが均一に薄く(約100μm)、割れることなく柔軟であるような製造方法が提供されることが分かった。炭酸銀フィルムはわずかに褐色(これは銀塩自体の色である)であることを除けば、一般にフィルムは半不透明な白色であった。スルファジアジン銀は水に不溶である。そこで、これらのフィルムは観察可能な小さな粒子がフィルムに埋め込まれていたが、最終的な乾燥フィルムには依然として均一な分散が存在した。
【0043】
[PVAキャストフィルムの分解]
異なる加水分解度を有するPVAから作られたキャストフィルムは、異なる速度で崩壊又は溶解した。そこで、純粋な80%、88%、92%及び更には94%の加水分解PVAから作られたフィルムは水中で4時間までに溶解し、94%加水分解PVAが最も遅く溶解した。96%加水分解PVAから作られたフィルムは1日間を超えて溶解し、それより高い加水分解度を有するフィルムは本質的に不溶性であった(データは示さず)。従って、これらの研究では、32:68~46:54のPVA混合比(99%:88%)の範囲が用いられた。最初に、一般的な混合物の分解特性を評価するために、銀塩を使用せずにフィルムをキャストした。50%以上の99%加水分解PVAを含むフィルムは1週間で完全には溶解しなかった。しかし、ちょうど30%含むフィルムは溶解した。一般に、すべての4種類の銀塩について、フィルムは約400%まで急速に膨潤し、2時間以内に150%未満まで低下した。その後、膨潤のレベルは安定する傾向があり、次の数時間でゆっくりとしか低下しなかった。スルファジアジン銀、炭酸銀、硫酸銀及び酢酸銀を含むキャストフィルムのデータを
図1~
図4に示す。更に、40%を超える含有量の99%加水分解PVAを含むフィルムは、完全には分解せず、膨潤は0%を超えたままであった。
【0044】
0%の膨潤とはフィルムの重量が乾燥重量と同じであることを意味するため、残りのフィルムに水分が存在する分、一部の材料が失われていることに注意下さい。完全に溶解するには、-100%重量の値を達成しなければならず、13日後に完全に溶解したフィルムは無かった。しかし、-50重量%のフィルムはもはや完全ではなく、非常に断片化した。
【0045】
膨潤研究を10日を超えて続け、1、2、6及び13日目に秤量した。ほとんどの値は6時間後の値と同じままであった。そこで、x軸のグラフを圧縮しないように、このデータは示していない。
【0046】
異なる銀塩を含むPVAフィルムの間の膨潤には、いくつかの顕著な違いがあった。より低い99%加水分解PVA及びより高い88%加水分解PVAの含有量で、酢酸銀又はスルファジアジン銀のいずれかを含むフィルムは、硫酸銀又は炭酸銀で作られたフィルムよりも1時間でより強固であり、溶解性がより低かった。例えば、44%、42%及び40%の含有量の99%加水分解PVAを有する酢酸銀含有フィルムはすべて、6時間後(及び13日後まで、データは示さず)で0%の又はほぼ0%の膨潤を維持した。硫酸銀の場合、48%及び46%の含有量の99%加水分解PVAのフィルムのみ、0%の膨潤点を超えたままであった。
【0047】
より低い部分的加水分解PVA(80%加水分解PVA)を88%加水分解PVAに置き換えた場合、30%の含有量の99%加水分解PVAを含むフィルムのみ200%まで膨潤し、30分後に分解し始め(データは示さず)、4時間後に150%の膨潤が残った(表1)。40%又は50%の含有量の99%加水分解PVAを含有するフィルムは、それぞれ300%及び360%に膨潤し、4時間後に分解されないままであった(表1)。
【0048】
96%の中間的加水分解PVAを完全加水分解PVA(99%加水分解)に置き換えた他の研究では、混合比に依存する分解の制御が観察された。ほんの30%の含有量の96%加水分解PVAを含有するフィルムは、1時間で分解し始め、4時間後にほぼすべてのフィルムが溶解した。40%又は50%の含有量の99%加水分解PVAを含有するフィルムは、かなりの膨潤を示し、9日間にわたってゆっくりと分解した(表1)。
【0049】
完全加水分解PVA(99%加水分解)を中間的加水分解PVA(94%又は92%加水分解)と混合した研究では、混合比による分解の制御が観察された。すなわち、10%(図示せず)又は20%の含有量レベルの99%加水分解PVAでは、すべてのフィルムが急速に分解及び溶解したが、30%及び40%の含有量レベルでは、72時間にわたってより遅い分解又はほとんど無い分解が観察された(表1)。
【0050】
【0051】
これらの全体のデータから、2つの異なるPVA組成物(例えば完全加水分解PVAと部分的加水分解PVA、中間的加水分解PVAと部分的加水分解PVA、及び完全加水分解PVAと中間的加水分解PVA)の混合比を調整することによって、フィルム分解の制御を達成することができることが示される。更に、これらのデータから、4つの銀塩の各々を含有するフィルムでは、99%加水分解PVAの含有量が88%加水分解PVAの重量に対して30%~50%の範囲である場合、PVA(99%:88%加水分解)の配合百分率を変えることによって、フィルム分解の精密な制御を達成できることが示される。
【0052】
実施例2 混合電界紡糸PVA膜の分解
[膜の電界紡糸]
記載された電界紡糸法を用いて、1%の銀塩を含有するPVA混合物から、直径約700nmのナノファイバーから構成される強力なティッシュ様の薄い膜が製造された。炭酸銀フィルムが(キャストフィルムのように)わずかに褐色であることを除いて、銀塩のタイプは膜の特性にほとんど影響を与えなかった。これらのティッシュ様の膜は、台所で使用されるプラスティックラップとティッシュペーパーの間の強度を有し、強固で扱いやすいものであった。膜は静的に自己粘着性ではなかったが、薄くて非常に柔軟性があった。膜をボールに押し込むことは勧めることができず、又は再び滑らかにするのが困難であった。固有の柔軟性のために、調製物中にグリセロールは含まれなかった。全体として、裏紙の上で包装する(又は厚くする)と、これらの膜は創傷の上に簡単に貼り付けたり伸ばしたりすることができた。膜は非常に強力であり、極薄の材料でも裂けたり自己接着しなかった(
図12)。
【0053】
[電界紡糸PVA膜の分解]
銀を含まない電界紡糸膜を使用した初期の研究で、(キャストフィルムと比較して)非常に高いレベルの88%PVAを、膨潤/分解レベルが0%以下に低下することなく、PVA膜に含めることができることが明らかにされた。従って、50%~0%の含有量の99%加水分解PVAを用いて(すなわち、50%~100%の88%加水分解PVAを用いて)、銀塩担持膜が電界紡糸された。
【0054】
一般に、99%加水分解PVA及び88%加水分解PVAの混合物で構成される電界紡糸膜は、溶媒キャストフィルムよりも膨潤した。すべての組成物(100w/w%の88%PVAを含むものを除く)は、最初に500%と800%の間まで膨潤し、次の6時間にわたって膨潤がわずかにゆっくりと減少した(
図6~
図9)。すべての銀塩について、20%以上の含有量の99%加水分解PVAを含む膜は、11日間以上にわたって100%を超えるレベルで膨潤したままであった。そこで、12時間を超えてデータポイントがほとんど変化しなかったため、x軸のグラフを圧縮しないように、1、2、4、7及び11日のデータポイントは示していない。
【0055】
96%加水分解PVA及び88%加水分解PVAの混合物から紡糸された電界紡糸膜は、混合比に依存した分解の制御を示した(表2)。5%又は10%の96%加水分解PVAを含む膜は急速に分解したが、20%又は30%の含有量の96%加水分解PVAを含む膜は、5時間で約1100%の膨潤レベル(図示せず)から約400%の膨潤レベルで分解した(表2)。88%加水分解PVAと混合された中間的94%加水分解PVAから紡糸された膜で、同様の結果が得られた。10%又は20%のレベルの94%加水分解PVAでは、24時間でほぼ完全な分解が伴われた。一方、30%の94%加水分解PVAを含む膜では、24時間で依然200%膨潤していた(表2)。中間的94%加水分解PVAが99%加水分解PVAと共に電界紡糸された場合、混合比による分解の制御が観察され、30%のレベルの99%加水分解PVAでは、膜は24時間(表2)及び50時間(データは示さず)で分解されなかった。一方、5%又は10%の含有量レベルの99%加水分解PVAを用いて紡糸された膜は、24時間までに著しく分解された(表2)。
【0056】
【0057】
実施例3 混合PVA電界紡糸膜からの銀塩の放出
[銀放出研究]
図5に、溶媒キャストフィルムからの銀塩の放出を示す。薬物放出レベルの順序は、炭酸銀>硫酸銀>酢酸銀>スルファジアジン銀であった。すべての銀塩は、電界紡糸膜から15%~25%の範囲(スルファジアジン銀の場合はわずか3%)の放出のバースト段階で放出され、その後、3日間にわたって定常的で持続的な放出速度が続き、続いて22日間にわたってより遅いが長時間、銀が放出された。
【0058】
図10に、電界紡糸膜からの銀塩の放出を示す。放出プロファイルは、溶媒キャストフィルムで観察されたものと類似した。約15%~35%の間の放出のバースト段階があり、その後、3日目まで放出の定常段階(27%~75%)が続き、その後、11日目までより遅い長期の放出が続いた。キャストフィルムに関しては、炭酸銀含有膜が硫酸銀と共に最も多くの薬物を放出し、酢酸銀の放出速度はそれ以下で続いた。フィルムとは異なって、スルファジアジン銀を含む電界紡糸膜は、(炭酸銀膜からの銀と同じ反応速度で)非常に急速に銀を放出した。炭酸銀及びスルファジアジン銀の膜では、11日目までにほぼ100%の銀放出が達成されたが、硫酸銀(75%)又は酢酸銀(45%)では同時期に放出される銀は少なかった。
【0059】
[抗生物質活性]
図11に示すように、すべてのキャストフィルム及び電界紡糸膜は殺菌性(100%細菌死滅)であった。抗菌活性は、すべてのスルファジアジン銀、炭酸銀、硫酸銀及び酢酸銀に共通であった。銀を含まないPVAフィルムは、細菌の急速な増殖に効果を有さなかった。
【0060】
実施例4 混合PVAキャストフィルム又は電界紡糸膜からの他の薬物の放出
まとめて
図13~
図18の結果から、99%加水分解PVA及び88%加水分解PVAのPVA混合物から作られたキャストフィルムと電界紡糸フィルムの両方が、多くの日数にわたって持続的な薬物放出を提供することができることが示される。ドセタキセルの放出は、電界紡糸PVA膜からの全薬物の約5~8%に達した(
図13)。ゲンタマイシンの約50~70%がキャストPVAフィルムから放出された(
図14)。ゲンタマイシンの40%が電界紡糸PVAフィルムから放出された(
図15)。電界紡糸PVAフィルムからの12~16%の範囲のより低いレベルのドキシサイクリン放出が明らかであった(
図16)。BSAタンパク質は、混合PVAの電界紡糸膜からゆっくりと放出され(6日間で10%放出)、キャストフィルムから急速に放出された(6日間で100%放出)(
図17~
図18)。
【0061】
要約すると、本実施例から、硝酸銀及びBSA(易溶性)からゲンタマイシン(50mg/ml)、酢酸銀(11mg/ml)、硫酸銀(約2mg/ml)、ドキシサイクリン(500μg/ml)、炭酸銀(40μg/ml)、スルファジアジン銀(5μg/ml)及びドセタキセル(4μg/ml)までの水溶解度の範囲の様々な薬物の制御放出システムとしてPVAの混合膜を使用することができることが示される。電界紡糸混合PVA膜は、キャストフィルムと同様に分解プロファイルを制御する能力を提供する。しかし、潜在的に軽量であり、大幅な重量損失無しに長期間にわたって滲出液を吸収する大きな容量を持つ膜を適用しやすいとの明らかな利点がある。更に、4つの銀塩すべての銀の放出プロファイルは、ほぼ2週間のほぼ完全な持続放出を示した。
【0062】
定義と参考文献
本発明の様々な実施態様が本明細書中に開示されているが、当業者の技術常識に従って、本発明の範囲内で多くの適合及び改変を行うことができる。このような改変には、実質的に同じ方法で同じ結果を達成するために、本発明の任意の側面を公知の均等物で置き換えることが含まれる。本明細書中で用いられる「例示的な」又は「例示された」等の用語は、「例、実例又は実例として提供する」を意味する。従って、本明細書中で「例示的」又は「例示された」として説明される任意の実施形態は、他の実施形態よりも必ずしも好ましい又は有利であると解釈されるべきではなく、そのような実施形態はすべて独立した実施形態である。特に明記しない限り、数値範囲はその範囲を定義する数値を含み、数値は必然的に指定された小数の近似値である。本明細書中において、用語「含む(comprising)」は、用語「含むが、これらに限定されない」と実質的に同等のオープンエンドの用語として用いられる。用語「含む(comprises)」は、対応する意味を有する。本明細書中で用いられる単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数形を含む。従って、例えば、「1つのもの」の言及は、複数のものを含む。
【0063】
本明細書中の参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明に対する先行技術であることを認めるものではない。本明細書中で引用される特許及び特許出願を含むがこれらに限定されない優先権書類及びすべての刊行物、並びにそれらの書類及び刊行物の中で引用されるすべての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。それは、あたかも個々の刊行物が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に記載され、本明細書に完全に記載されているかのように組み込まれる。本発明は、実施例及び図面を参照して実質的に前述されたすべての実施態様及び改変を含む。
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【国際調査報告】