(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】1,4-ジメチルテトラリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/31 20060101AFI20230802BHJP
C07C 15/44 20060101ALI20230802BHJP
C07C 2/72 20060101ALI20230802BHJP
C07C 13/48 20060101ALI20230802BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
C07C5/31
C07C15/44
C07C2/72
C07C13/48
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570585
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 CN2021111656
(87)【国際公開番号】W WO2022257261
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110633215.7
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522450772
【氏名又は名称】河北中化▲フ▼恒股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】318006376
【氏名又は名称】有限会社佐藤企画
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】任 建坡
(72)【発明者】
【氏名】▲紀▼ 烈▲義▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲軍▼生
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 兵兵
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC21
4H006AC28
4H006BA02
4H006BA09
4H006BA30
4H006BA33
4H006BB11
4H039CA29
4H039CA40
4H039CF10
4H039CH40
(57)【要約】
5-フェニル-2-ヘキセンの環化を所定の温度で制御することにより、1,4-ジメチルテトラリンを効率よく製造することができる。本発明は、5-フェニル-2-ヘキセンを、酸触媒の存在下、溶媒の還流下に環化する工程を含む、1,4-ジメチルテトラリンの製造方法等を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-フェニル-2-ヘキセンを、酸触媒の存在下、溶媒の還流下に環化する工程を含む、1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
【請求項2】
前記酸触媒が固体酸触媒である、請求項1に記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
【請求項3】
エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとを反応させて、5-フェニル-2-ヘキセンを製造する工程を含み、反応液中の過剰のエチルベンゼンを前記溶媒として使用する、請求項1又は2に記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
【請求項4】
前記環化する工程が、回分法、連続法又は半連続法で行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-フェニル-2-ヘキセン(5-phenyl-2-hexene、以下、PHと略す場合がある)の環化による1,4-ジメチルテトラリン(1,4-dimethyltetralin)(以下、1,4-DMTと略す場合がある)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の化学式に示すように、1,4-DMT(2)は、1,4-ナフタレンジカルボン酸(1,4-naphthalenedicarboxylic acid)(4)の中間原料である1,4-ジメチルナフタレン(1,4-dimethylnaphthalene)(3)の原料として有用である。1,4-ナフタレンジカルボン酸(4)については染料又は樹脂原料等の幅広い用途があることが知られている。
【0003】
【化1】
ところで、環化反応によるジメチルテトラリン類の製造については、以下の化学式に示すように、5-(o-トリル)-2-ペンテン(5-(o-tolyl)-2-pentene)(5)(以下、OTPと略す場合がある)の環化による1,5-ジメチルテトラリン(1,5-dimethyltetralin)(6)(以下、1,5-DMTと略す場合がある)について多く検討されている。1,5-DMTは2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-naphthalenedicarboxylic acid)(7)を製造するための中間体として有用である。
【0004】
【化2】
OTPの環化については次のような方法が開示されている。特許文献1~5では、OTPの環化触媒として、主に結晶性のシリカアルミナ(例えば、ゼオライトZeolite)系を用いられることが開示されている。その他の触媒としては、特許文献6に、固体リン酸等が用いられることが開示されている。
【0005】
上記環化反応において、副反応を抑制するために希釈剤を用いることが知られており、前記希釈剤として溶媒を用いる例が開示されている。特許文献6には、OTPの反応塔式連続環化反応において、必要に応じて使用される希釈剤の例として、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ジメチルオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、又はジメチルテトラリン等の溶媒が記載されている。しかしながら、実施例等で前記希釈剤を用いた具体的な態様は開示されていない。特許文献7には、副反応の防止を目的に脂肪族炭化水素の存在下に環化反応を行う方法が開示されている。
特許文献1には、上記環化反応において、ゼオライト触媒を反応物に対して10~60%使用し、希釈剤としてo-キシレンを用いる方法が開示されている。また、OTPの環化反応が激しい発熱反応によって(22kcal/mol)、反応中の温度制御の問題を引き起こすことが開示されている。
OTPの環化反応における発熱の対策として、固定床触媒を用いてOTPの環化反応を行い、前記固定床触媒を有する反応区域から取り出した反応生成物の一部を、外部に設けた冷却器に循環させながら環化する方法が知られている(特許文献8、特許文献9)。また、別法として、触媒としてゼオライトを使用し、減圧下でOTPを還流させながら環化する方法が知られている(特許文献10、特許文献11)。その他の例として、特許文献5には、ゼオライトを使用して環化反応を行い、270℃以上で沸騰する溶媒を用いることが好ましいことが開示されている。一方、1,5-DMTの脱水素反応は吸熱反応(約30Kcal/mol)であるので、前記環化反応と脱水素反応とを1段で同時に行うことが検討されている(特許文献12、特許文献13、特許文献14)。以上のように、OTPの環化反応による1,5-DMTの製造技術については多くの検討例が知られている。
しかしながら、OTPの環化反応の反応熱を効率よく除去して反応温度を制御する方法として、反応塔の外に冷却器を用いる方法は、反応塔内の熱偏在の制御が困難である。反応物(OTP,沸点227℃)それ自体の蒸発熱を利用する方法は、所定の反応温度に保持するために、反応系の減圧度を常に調整する必要がある。また、反応の終点付近では1,5-DMT(沸点、245-249℃)が高濃度となり温度制御しながら反応させることは困難である。環化反応と脱水素反応とを1段で同時に行う方法においては、脱水素反応の条件に環化反応の条件を合わせる必要があり、副反応等が生じやすいという問題がある。一方、溶媒を用いる方法は、希釈による副反応の抑制手段として検討されているにすぎない。以上のように、従来技術では温度を制御しながら環化反応を行うことは困難である。
【0006】
これに対して、PHの環化による1,4-DMT合成に関する知見は少ない。例えば、PHをリン酸類及び/又は固体リン酸を触媒として、100-450℃において環化する方法が知られている(特許文献15)。特許文献5、特許文献10又は特許文献16には、ゼオライト(結晶性シリカアルミナ)を触媒として使用し、PHを環化する方法が例示されている。また、特許文献17には、水素存在下において、連続的に気相環化と気相脱水素を行い、PHから1,4-DMTを経由して1,4-ジメチルナフタレン(以下、1,4-DMNと略す場合がある)を製造する方法が開示されている。この方法においては、環化触媒として非結晶性シリカアルミナ触媒が使用されている。
OTPの環化反応と同様に、PHの環化反応は激しい発熱反応であるので、その発熱対策が必要となる。しかしながら、PHの環化反応の発熱対策について、十分に検討がなされているとは言えず、なお改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許公開20070099241号公報
【特許文献2】米国特許公開2007/0232842号公報
【特許文献3】米国特許5,401,892号公報
【特許文献4】特開平7-61941号公報
【特許文献5】特開平3-500052号公報
【特許文献6】特開昭49-93348号公報
【特許文献7】特開2000-239194号公報
【特許文献8】特開昭51-101963号公報
【特許文献9】米国特許3,843,737号公報
【特許文献10】米国特許5,284,987号公報
【特許文献11】特開平4-230226号公報
【特許文献12】米国特許6,472,576号公報
【特許文献13】米国特許6,127,589号公報
【特許文献14】特開平5-213786号公報
【特許文献15】特開昭48-75557号公報
【特許文献16】米国特許4,950,825号公報
【特許文献17】米国特許3,775,497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、PHの環化を所定の温度に制御しながら進行させ、1,4-DMTを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、PHを、酸触媒の存在下、溶媒の還流下に環化させることにより、反応の暴走を防ぎ、反応温度を制御しながら環化反応を進めることができ、環化収率よく1,4-DMTを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)5-フェニル-2-ヘキセン(PHと略す場合がある)を、酸触媒の存在下、溶媒の還流下に環化する工程を含む、1,4-ジメチルテトラリン(1,4-DMTと略す場合がある)の製造方法。
(2)前記酸触媒が固体酸触媒である、(1)に記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
(3)エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとを反応させて、5-フェニル-2-ヘキセンを製造する工程を含み、反応液中の過剰のエチルベンゼンを前記溶媒として使用する、(1)又は(2)に記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
(4)前記環化する工程が、回分法、連続法又は半連続法で行われる、(1)~(3)のいずれか1つに記載の1,4-ジメチルテトラリンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶媒の還流下にPHを環化することによって、反応の暴走を防ぎ、反応温度を制御しながら環化反応を進めることができる。また、反応温度を制御することにより、環化収率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<5-フェニル-2-ヘキセン(PH)>
原料であるPHはどの様な方法で製造されたものでもよく、それ自体公知の方法によって製造することができる。また、市販品を入手してもよい。PHには、ヘキセンの2位の二重結合に基づく幾何異性体が存在するが、本発明においては、シス体及びトランス体のいずれであってもよい。前記原料には、PHの構造異性体である、5-フェニル-1-ヘキセン(5-phenyl-1-hexene)を含有していてもよい。前記原料の総質量に対するPHの含有率は、5質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0012】
PH(1)の合成方法の1つの側面は、例えば、金属ナトリウム及び/又は金属カリウム等の塩基性触媒の存在下、エチルベンゼン(8)と1,3-ブタジエン(9)とを反応させることにより、PH(1)を得る方法である。
PH(1)の合成方法の別の側面は、例えば、金属ナトリウム及び/又は金属カリウム等の塩基性触媒の存在下、過剰のエチルベンゼン(8)と1,3-ブタジエン(9)とを反応させた後、前記触媒を分離し、PHをエチルベンゼン溶液として得る方法である。当該PHのエチルベンゼン溶液を蒸留することにより、PHを高濃度で含む留分として得た後、環化反応に供することができる。ここで、PHを高濃度で含む留分としては、前記留分の総質量に対し、PHを、5-100質量%、好ましくは10-100質量%、より好ましくは80-98質量%、典型的には95質量%含む留分が好ましい。前記留分のPH以外の成分は、主としてエチルベンゼンであり得る。
前記蒸留は、それ自体公知の方法を適用することができ、減圧蒸留又は常圧蒸留又は加圧蒸留が適用できる。
【0013】
【0014】
エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとの反応に用いる塩基触媒は、多く使用しても良いが、反応後の後処理が面倒である。したがって、前記塩基触媒が、例えば、金属ナトリウムの場合、1,3-ブタジエンの1モルに対し、0.005-0.7モル、好ましくは0.02-0.4モルであり得る。
エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとの反応において、化学量論によれば、これらは等モルで反応するが、実際の反応では、エチルベンゼンを過剰量存在させることが好ましい。本発明の1つの側面としては、1,3-ブタジエンの1モルに対して、エチルベンゼンを1.0-10モル、好ましくは1.1-8モル用いて行うことができる。
上記反応は、無溶媒又は溶媒の存在下に行うことができる。反応に使用できる溶媒としては、テトラヒドロフラン等が好ましい。
また、この反応では助触媒として、例えばナフタレンやビフェニルなどを使用することもできる。このような助触媒を使用する場合、その使用量は、例えば金属ナトリウムや金属カリウムの1モルに対して、0.01-5モル、好ましくは0.05-2モルであり得る。
本発明の別の側面として、エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとの反応において、エチルベンゼンを過剰に用いる場合、エチルベンゼンは、当該反応の溶媒兼反応物であり得る。この場合、エチルベンゼンの使用量は、例えば、1,3-ブタジエンの1モルに対し、1.1-20モルとすることができ、1.2-10モルが好ましい。
エチルベンゼンを溶媒兼反応物として使用する場合、その他の溶媒と併用することができる。その他の溶媒としては、下記の溶媒が挙げられる。
反応は減圧、常圧、加圧下で実施できるが、常圧ないしは若干の加圧下で行うのが望ましい。
エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとの反応の反応温度は、通常、50-150℃とすることができ、90-130℃がより好ましい。反応時間は、通常、30分間-72時間、好ましくは1時間-36時間である。
上記反応で得られたPHを含む反応液は、それ自体公知の方法で後処理し、PHを、蒸留塔を使用する蒸留法により、単離及び/又は精製するか、又は単離及び/又は精製することなく、次の環化反応に供することができる。
【0015】
<1,4-ジメチルテトラリン(1,4-DMT)の製造>
本発明の1つの実施態様として、5-フェニル-2-ヘキセン(PH)を、酸触媒の存在下、溶媒の還流下に環化することにより、1,4-ジメチルテトラリン(1,4-DMT)を製造することができる。
PHの環化反応で使用される酸触媒としては、種々の酸触媒を例示することができる。例えば、それ自体異性化触媒として知られている種々の酸触媒を使用することができる。PHの環化反応においては、酸触媒の酸性度が高すぎると副反応が起こりやすく、酸性度が低すぎると反応が進みにくい傾向がある。したがって、酸性度が低い酸触媒を使用する場合、反応温度を高温にして反応させる必要がある。一方、固体酸触媒は、環化反応後の分離が容易であるので好ましい。
本発明の1つの実施態様であるPHの環化反応で使用される酸触媒としては、例えば、硫酸、塩化水素、リン酸、フッ化水素やp-トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、その他シリカアルミナ類、シリカマグネシア(silica-magnesia),シリカカルシア(Silica-calcia)などの固体酸類などが挙げられ、中でも、シリカアルミナ類が好ましく、非結晶性のシリカアルミナがより好ましい。
【0016】
PHの環化反応に用いる酸触媒の使用量は、例えば、PHに対し、非結晶性シリカアルミナが0.02-10質量%、好ましくは0.1-5質量%であり得る。
PHの環化反応に用いる溶媒は、PHの沸点(約210℃)より低く、環化反応に悪影響を及ぼさない溶媒が好ましい。具体的には沸点が80℃から200℃、好ましくは100℃から150℃程度のものが好ましい。
前記溶媒として、例えば、トルエン(toluene)、ジメチルベンゼン類(dimethylbenzenes)、エチルベンゼン(ethylbenzene)、イソプロピルベンゼン(isopropylbenzene)、プロピルベンゼン(propylbenzene)、トリメチルベンゼン類(trimethylbenzenes)、又はメチルエチルベンゼン類(methylethylbenzenes)等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン(cyclohexane),エチルシクロヘキサン(ethylcyclohexane)、ジメチルシクロヘキサン類(dimethylcyclohexanes)、又はトリメチルシクロヘキサン類(trimethylcyclohexanes)等の環式脂肪族炭化水素類が挙げられ、これらを単独で、又は混合して用いることができる。
前記溶媒の使用量は、少なくとも反応開始時において、例えば、PHに対し、容積比で0.05―20倍とすることができ、0.2-5倍がより好ましい。
【0017】
本発明の1つの実施態様として、PHの環化反応は、前記酸触媒の存在下、還流冷却器の付いた反応器で、使用する溶媒の一部を抜き出しながら、還流下に行うことができる。
PHの環化反応の反応温度は、使用する酸触媒によって異なるが、通常、50℃から250℃、好ましくは50℃から220℃、より好ましくは100℃から200℃の範囲で行うことができる。目的とする反応温度に応じて、最適な溶媒を選択することにより、反応温度を制御することができる。
PHの環化反応は、使用する溶媒の種類によって、減圧下、常圧下、又は加圧下のいずれかにおいて実施できる。ここで、「常圧」とは、典型的には、1atmを表すが、これに限定されない。すなわち、本明細書において、「常圧」とは、減圧又は加圧のための操作が行われず、開放系の反応系における圧力を意味する。本発明の1つの実施態様としては、常圧下でPHの環化反応を行うことが操作上好ましく、常圧下で有効な溶媒を使用することが好ましい。
【0018】
本発明の1つの実施態様として、PHの環化反応における発熱の一部又は全部を、使用する溶媒の蒸発熱で吸収し、蒸発した溶媒を還流冷却器で冷却して反応系に還流させることを特徴としている。反応容器のジャケットなどによる液体と液体の熱交換に比べて、還流冷却器は蒸気と液体(冷却水)の熱交換であり、熱貫流率(Thermal transmittance)が極めて高い。したがって小さな設備で効率的な冷却ができる利点もある。
PHの環化反応における反応溶液の沸点(すなわち、前記環化反応の反応温度)は、反応液中の溶媒の種類と濃度(比率)によって決まるので、前記溶媒を還流させながら、一部の溶媒を抜き出すことによって反応系中の溶媒濃度を減少させることにより、反応温度を高くすることができる。すなわち、還流冷却器における前記溶媒の抜き出し量の調整によって、反応温度を制御することができる。
本発明の1つの実施態様として、PHの環化反応を行う反応器は、前記還流冷却器に加えて、ジャケット付きの反応槽であってもよく、外部に冷却器の付いた反応槽であってもよい。また、これらの冷却器と蒸発熱による反応熱の除去を併用してもよい。
本発明の1つの実施態様として、PHの環化反応の反応時間は、使用する触媒によって異なるが、液相反応の場合、通常、1時間-78時間、好ましくは2時間-48時間である。
PHの環化反応の終了後、それ自体公知の後処理を行い、目的の1,4-DMTを得ることができる。後処理の方法としては、触媒を分離後、蒸留や晶析などの方法が採用できるが、蒸留が望ましい。
【0019】
上述のように、エチルベンゼンと1,3-ブタジエンとを反応させてPHを製造する場合、PHのエチルベンゼン溶液を得ることができる。PHのエチルベンゼン溶液は、そのまま、又は蒸留してエチルベンゼン及びPHの濃度を調整した後、還流冷却器の付いた反応器において、エチルベンゼンの一部を留出させながら還流下に環化反応を行うことができる。上述のように、エチルベンゼンの一部を留出させることにより、エチルベンゼン濃度を調整することにより、反応温度を制御することができる。
【0020】
本発明の1つの実施態様として、1,4-DMTの製造、特にPHの環化工程は、回分法、連続法又は半連続法で行われる。本発明の1つの実施態様として、1,4-DMTの製造、特にPHの環化工程は、液相反応で進めることができる。
回分法の場合、還流状態を維持し、還流液から溶媒を抜き出しながら、最初に低温領域でPHの大部分を環化させ、徐々に反応液の温度を上げて、環化反応を完結させることができる。連続法の場合、PHの溶媒溶液と環化反応のための酸触媒とを反応器に連続投入し、所定の反応温度となるように、還流冷却器から溶媒の一部を留出させながら溶媒を還流させることによって行われる。すなわち、目的の反応温度に相当する反応液中の溶媒濃度を保つように、溶媒の留出を調整しながら反応液を連続的に抜き出すことによって行うことができる。連続法は1段で行ってもよく、2段以上とすることもできる。半連続法は、PH、溶媒及び/又は環化反応のための酸触媒の反応器への投入を断続的に行う方法と、反応器からの反応液の抜き出しを断続的に行う方法があり得る。そして、これらを組み合わせることにより、未反応のPHの残留を低減することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、組成(%)は全て質量%である。
(実施例1)
容量10リットルの反応容器にエチルベンゼン5.75kg,触媒として金属ナトリウム25gを加えて撹拌下、110℃で1,3-ブタジエン735gを10時間で添加した。
添加終了後水を加えて金属ナトリウムを除去した。この操作を2回繰り返して、反応液の質量に対し、PH20.4質量%、エチルベンゼン55.8質量%の反応液を、合計13kg得た。
攪拌機と還流冷却器が付いた容量1000mlのフラスコに、上記反応液700gと、非結晶性のシリカアルミナ触媒(SiO2 83%,Al2O3 13%)3gを投入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液の温度を178℃に上げ、この温度で4時間保持した。反応液を冷却後、触媒を濾別し、未反応のPH0.5質量%以下の1,4-DMTの溶液302gを得た。組成を下記に示す。
エチルベンゼン:41質量%
1,4-DMT:43質量%(収率90%)
【0022】
(実施例2)
実施例1のPH20.4%の反応液を蒸留して得たPH30%,エチルベンゼン65%の留出液を使用して下記実験を行った。
攪拌機と還流冷却器が付いた容量1000mlのフラスコに、上記PH30%の留出液700gと、p-トルエンスルホン酸(p-Toluenensulfonic Acid)7.0gを投入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を160℃に上げ、この温度で3時間保持した。
反応後触媒を濾別し未反応PH0.5%以下の1,4-DMTの溶液540gを得た。組成を下記に示す。
エチルベンゼン:57質量%
1,4-DMT:35質量%(収率90%)
(実施例3)
実施例1のPH20.4質量%の反応液を蒸留して得た、PH35質量%,エチルベンゼン60質量%を含む留出液を使用して下記実験を行った。攪拌機と還流冷却器が付いた容量1000mlのフラスコに、上記PH35質量%の留出液700gと、実施例1と同じシリカアルミナ触媒3gを投入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液の温度を170℃に上げ、この温度で6時間保持した。反応液を冷却後、触媒を濾別し、未反応のPH0.5質量%以下の1,4-DMTの溶液516gを得た。組成を下記に示す。
エチルベンゼン:47質量%
1,4-DMT:45質量%(収率94%)
【0023】
(実施例4)
実施例1のPH20.4質量%の反応液を蒸留して得た、PH95質量%,エチルベンゼン1質量%の留出液を使用して次の実験を行った。
攪拌機と還流冷却器が付いた容量1000mlのフラスコに、上記留出液350gとエチルシクロヘキサン(ethylcyclohexane)400g、実施例1と同じシリカアルミナ4gを投入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液の温度を170℃に上げ、この温度で6時間保持した。反応液を冷却後、触媒を濾別し、未反応PH0.5質量%以下の1,4-DMTの溶液486gを得た。組成を下記に示す。
エチルシクロヘキサン:31質量%
1,4-DMT:65質量%(収率94%)
【0024】
(実施例5)
実施例3で得られたPH35質量%,エチルベンゼン60質量%の留出液を用いて連続反応を行った。攪拌機と還流冷却器が付いた容量1000mlのフラスコに、上記PH溶液を1時間当たり200g、実施例1と同じシリカアルミナ触媒を1時間当たり2gの速度で連続投入した。液面が800mlとなるようにフラスコから反応液を抜き出した。還流冷却器からエチルベンゼンなどを留出させながら、反応液の温度を180℃に保持した。還流冷却器からのエチルベンゼンなどの留出量は1時間当たり69g、反応液の流量は1時間当たり133gであった。24時間後の反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応液の組成は下記であった。
エチルベンゼン:39質量%
1,4-DMT:49質量%(収率92%)
PH:3%
【0025】
(比較例)
攪拌機付き容量1000mlのフラスコに、実施例4の95質量%PH350gと実施例1と同じシリカアルミナ3gを加えて反応を行った。常温から徐々に反応温度を上げたところ、130℃付近からコントロールができないほどの急激な温度上昇があり、最終温度は210℃に達した。反応液をこの温度で4時間保持後、冷却して反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応液(343g)の組成は下記であった。
1,4-DMT:86質量%(収率88%)
PH:0.5質量%以下
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、溶媒の還流下にPHを環化することによって、反応の暴走を防ぎ、反応温度を制御しながら環化反応を進めることができる。また、反応温度を制御することにより、環化収率を向上させることができる。
【国際調査報告】