(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】表面改質および乾燥ミクロフィブリル化セルロース強化熱可塑性バイオコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20230802BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230802BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230802BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20230802BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20230802BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEP
C08J3/20 CES
C08J3/20 CFD
C08L1/00
C08L67/00
C08L23/02
C08L67/04
C08L67/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574172
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 US2021041039
(87)【国際公開番号】W WO2022015588
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510036296
【氏名又は名称】ユーティー-バテル, エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】516341914
【氏名又は名称】ファイバーリーン テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】オズカン,ソイダン
(72)【発明者】
【氏名】リ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】テキナルプ,ハリル
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,シエンフイ
(72)【発明者】
【氏名】フィップス,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アイルランド,ショーン
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA12
4F070AA47
4F070AB11
4F070AC72
4F070AD02
4F070AE01
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4J002AB01X
4J002BB03W
4J002BB12W
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4J002CF03W
4J002CF06W
4J002CF08W
4J002CF18W
4J002CF19W
4J002FA04X
4J002FB24X
(57)【要約】
改善された機械的特性およびミクロフィブリル構造を有する、乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを生成するためのプロセス、および、乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを利用した、改善された機械強度特性を有する、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィン複合材料を生成するためのプロセス。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善された機械強度特性を有する、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジット材料を生成するためのプロセスであって、
(a)乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを調製する、または得る工程;
(b)熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンを約175℃まで加熱および混合する工程;
(c)前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを前記加熱した熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンと混合装置内で合わせる工程;ならびに
(d)前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットを回収する工程;
を含み
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットは、無添加熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットと比べて、改善された引張強さおよびヤング率を示す、プロセス。
【請求項2】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約5wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約10wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約15wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約20wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約25wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約30wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約40wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約50wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約30wt%~約50wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約20wt%~約50wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース含量は約20wt%~約40wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記カルボン酸ビニルはラウリン酸ビニルである、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリエステルはポリ乳酸である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記熱可塑性ポリエステルは、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリエチレンアジペート(PEA)、およびポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸(PLGA)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ-L-リジン(PLGA-PLL)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記熱可塑性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記熱可塑性ポリエステルは、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸の重縮合コポリマー(LCP)またはビスフェノールAおよびフタル酸のポリエステル(PAR)である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記熱可塑性ポリエステルは、ポリブチレンスクシネート、またはポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記熱可塑性ポリエステルは、脂肪族ポリエステル、脂肪族および半芳香族コポリマー、または芳香族コポリマーである、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記熱可塑性ポリオレフィンは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、およびポリブテン-1(PB-1)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記熱可塑性ポリオレフィンは、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、およびエチレンプロピレンジエンモノマー(M-クラス)ゴム(EPDMゴム)からなる群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記カルボン酸ビニルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、吉草酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、または桂皮酸ビニル、さらにより好ましくは酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、吉草酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、またはオクチル酸ビニル、最も好ましくは酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、または酪酸ブチルの群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
改善された機械的特性およびミクロフィブリル構造を有する、オーブン-乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを生成するためのプロセスであって、
(a)ミクロフィブリル化セルロースを水性媒質中に高せん断混合により分散させる工程;
(b)K
2CO
3溶液およびカルボン酸ビニルを、工程(a)の前記ミクロフィブリル化セルロース分散物に添加し、K
2CO
3溶液、カルボン酸ビニルおよびミクロフィブリル化セルロースの混合物を、水相でのエステル交換プロセスによりカルボン酸ビニルおよびミクロフィブリル化セルロースを反応させるのに十分な温度で、加熱および混合し、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを形成させる工程;
(c)未反応カルボン酸ビニルおよびK
2CO
3を、前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを室温まで冷却し、濾過することにより除去する工程;ならびに
(d)前記表面改質ミクロフィブリル化セルロースを乾燥させる工程
を含む、プロセス。
【請求項24】
工程(b)における前記温度は約80℃である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項25】
前記未反応カルボン酸ビニルおよびK
2CO
3を除去することは、前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを室温まで冷却して濾過することにより、さらに、前記冷却、濾過されたカルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを水およびメタノール混合物で洗浄することを含む、請求項23または請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
請求項23に記載のプロセスに従い調製された、改善された機械的特性を有する、乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース。
【請求項27】
請求項1-22のいずれか一項に従い調製された、乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-ポリ乳酸複合物。
【請求項28】
前記カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースは、請求項23または24に従い調製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項29】
前記表面改質ミクロフィブリル化セルロースを粉砕する工程をさらに含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項30】
前記乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを粉砕する工程をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究開発に関する記載
この発明は、USエネルギー省(DOE)、省エネルギー・再生可能エネルギー局(Office of Energy Efficiency and Renewable Energy)、高度製造局(Advanced Manufacturing Office)により、UT-Battelle LLCとの契約DE-AC05-00OR22725の下、米国政府支援でなされた。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月14日に出願された米国仮特許出願第63/051,614号(その全内容は参照により本明細書に組み込まれる)の恩典を主張する。
【0003】
発明の分野
表面改質および乾燥ミクロフィブリル化セルロース強化熱可塑性バイオコンポジットに関する。
【背景技術】
【0004】
ナノセルロース、例えば、ナノおよびミクロフィブリル化セルロースはバイオコンポジットのための強化フィラーとして広く、かつ、望ましく使用される。ポリマー樹脂を強化するためにナノおよびミクロフィブリル化セルロースを使用することへの急速な関心の高まりは、高い比強度および比弾性率、高アスペクト比、軽量、低コスト、生分解性、および再生可能性のその特有の性質に起因する。Miao, C.; Hamad, W. Y., Cellulose reinforced polymer composites and nanocomposites: a critical review. Cellulose 2013, 20, 2221-2262; Raquez, J.-M.; Habibi, Y.; Murariu, M.; Dubois, P., Polylactide (PLA)-based nanocomposites. Prog. Polym. Sci. 2013, 38, 1504-1542; Li, K.; Skolrood, L.; Aytug, T.; Tekinalp, H.; Ozcan, S., Strong and tough cellulose nanofibrils composite films: Mechanism of synergetic effect of hydrogen bonds and ionic interactions. ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 14341-14346; Lu, Y.; Tekinalp, H. L.; Eberle, C. C.; Peter, W.; Naskar, A. K.; Ozcan, S., Nanocellulose in polymer composites and biomedical applications. Tappi J. 2014, 13, 47-54;およびLu, Y.; Armentrout, A. A.; Li, J.; Tekinalp, H. L.; Nanda, J.; Ozcan, S., A cellulose nanocrystal-based composite electrolyte with superior dimensional stability for alkaline fuel cell membranes. J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 13350-13356。しかしながら、ナノおよびミクロフィブリル化セルロースを複合物強化材として使用すると、当技術分野においていくつかの問題が引き起こされ、乾燥の問題、親水性ミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)と疎水性ポリマー樹脂の不適合性、およびポリマーにおけるミクロフィブリル化セルロースの強凝集が挙げられる。しかしながら、MFC材料を乾燥させるという課題およびMFCとポリマーマトリクスの間の不適合性は依然として、MFC-強化バイオコンポジットの性能を制限する。典型的には、乾燥MFCを生成するために採用される乾燥プロセスでは、フィブリル弱凝集体という結果になる。というのも、フィブリル間の水素結合が、複合物調製プロセス中のポリマー中でのそれらの再分散を防止するからである。この現象は不十分な複合物機械的性能につながる。
【0005】
ミクロフィブリル化セルロースは典型的には水中で生成され;よって、溶融物に基づく工業プロセスにおいてそれを使用するには、とりわけ、生体高分子のために、ポリマーマトリクスの分解を防止するために水を除去することが必要とされる。Van den Oever, M.; Beck, B.; Mussig, J., Agrofibre reinforced poly (lactic acid) composites: Effect of moisture on degradation and mechanical properties. Compos. Part A Appl. Sci. Manuf. 2010, 41, 1628-1635;およびLi, K.; Wang, Y.; Rowe, M.; Zhao, X.; Li, T.; Tekinalp, H.; Ozcan, S., Poly(lactic acid) toughening through chain end engineering. ACS Appl. Polym. Mater. 2020, 2, 411-417。
【0006】
現在のところ、オーブン乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、および超臨界CO2乾燥(scCO2)が使用される方法の一つである。Zimmermann, M. V. G.; Borsoi, C.; Lavoratti, A.; Zanini, M.; Zattera, A. J.; Santana, R. M. C., Drying techniques applied to cellulose nanofibers. J. Reinf. Plast. Compos. 2016, 35, 628-643。しかしながら、オーブン乾燥は、高密度ミクロフィブリル化セルロースフィルムという結果になり、噴霧乾燥は、粒子という結果になり、両方の方法でMFCフィブリル構造が失われる。凍結乾燥およびscCO2乾燥は、フィブリル構造を保存し、繊維弱凝集を低減させることができる。凍結乾燥ナノセルロースが、ポリ(乳酸)(PLA)を強化するために使用されてきており、引張強さの80%増加およびヤング率の200%増加を達成した。Tekinalp, H. L.; Meng, X.; Lu, Y.; Kunc, V.; Love, L. J.; Peter, W. H.; Ozcan, S., High modulus biocomposites via additive manufacturing: Cellulose nanofibril networks as “microsponges”. Compos. B. Eng. 2019, 173, 106817。しかしながら、凍結乾燥およびscCO2乾燥はコストがかかり、産業用途まで規模拡大するのが困難である。ナノおよびミクロフィブリル化セルロースを効果的により弱凝集を少なく、低コストで乾燥させることが、複合物におけるナノセルロース適用のための主要課題である。Alliance, A. T. Cellulose nanomaterials research roadmap; 2016。
【0007】
当技術分野において同定された問題は、ミクロフィブリルの弱凝集は個々の繊維と水の間の強い水素結合によることである。豊富なOH基により、セルロース繊維は、互いと容易に堅く結合する。ミクロフィブリルが乾燥するにつれ、繊維と水の間の水素結合が壊れ、結合水を放出し;ミクロフィブリル間で水素結合が形成すると、弱凝集という結果になる。水素結合強度を低減させることが、弱凝集を低減させる1つの方法である。表面処理、例えば疎水性表面機能化が、当技術分野におけるこの問題を解決するために本明細書で示される。
【0008】
当技術分野で知られている別の問題は、親水性ナノセルロースと疎水性ポリマーマトリクスの間の不適合性が有効な分散を阻止することである。多くの努力が、例えば、疎水基Lin, N.; Huang, J.; Chang, P. R.; Feng, J.; Yu, J., Surface acetylation of cellulose nanocrystal and its reinforcing function in poly(lactic acid). Carbohydr. Polym. 2011, 83, 1834-1842および溶液系流延Sung, S. H.; Chang, Y.; Han, J., Development of polylactic acid nanocomposite films reinforced with cellulose nanocrystals derived from coffee silverskin. Carbohydr. Polym. 2017, 169, 495-503を用いたミクロフィブリル化セルロースの表面改質を使用して、この問題を解決することに向けられてきた。溶液流延は大量適用のためにスケールアップすることが困難であり、そのため、表面改質が中心となってきた。しかしながら、現在のところ適用される表面改質アプローチのほとんどは有機溶媒を使用し、これは複雑な溶媒交換を必要とし、環境への懸念が発生する。Habibi, Y., Key advances in the chemical modification of microfibrillated celluloses. Chem. Soc. Rev. 2014, 43, 1519-1542。ミクロフィブリル化セルロースは、典型的には水中で、ゲル様懸濁液として生成され、水中でそれを機能化することはその用途に有益である。
【0009】
水に基づくナノおよびミクロフィブリル化セルロース改質のいくつかの方法が開発された。Huらは、タンニン酸およびデシルアミンを使用した水中でのセルロースナノ結晶(CNC)のワンポット疎水性表面改質を開発した。(Hu, Z.; Berry, R. M.; Pelton, R.; Cranston, E. D., One-pot water-based hydrophobic surface modification of cellulose nanocrystals using plant polyphenols. ACS Sustainable Chem. Eng. 2017, 5, 5018-5026)。Yooらは、乳酸を用いた表面グラフティング、続いて、長鎖炭化水素の反応により疎水性表面が得られたことを報告した(Yoo, Y.; Youngblood, J. P., Green one-pot synthesis of surface hydrophobized cellulose nanocrystals in aqueous medium. ACS Sustainable Chem. Eng. 2016, 4, 3927-3938)。これら2つの方法により得られた改質CNCは、非極性有機溶媒中でよく分散させることができる。最近、Dhuiegeらは、水中でCNCを機能化するための酢酸ビニルを用いたエステル交換反応を報告し、改質後親水性が減少することを見出した(Dhuiege, B.; Pecastaings, G.; Sebe, G. ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 187-196)。Palangeらは、Huらの方法を採用し、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を改質し、ポリプロピレン-ポリエチレン(PP-co-PE)コポリマー中で改質MFCの分散を調査した。Palange, C.; Johns, M. A.; Scurr, D. J.; Phipps, J. S.; Eichhorn, S. J., The effect of the dispersion of microfibrillated cellulose on the mechanical properties of melt-compounded polypropylene-polyethylene copolymer. Cellulose 2019, 26, 9645-9659。彼等は、改質MFCは未改質MFCと比べて、PP-co-PE中で改善された分散、および、より少ない弱凝集を示すことを見出した。全体として、ミクロフィブリル化セルロースの水に基づく表面改質は困難なままであり、どのように改質がミクロフィブリル化セルロース乾燥に影響するかは不明である。その上、溶融プロセスにおいて水に基づく化学により得られた改質ミクロフィブリル化セルロースの強化効果を評価するための努力は欠いている。
【0010】
上記進歩にもかかわらず、依然として、熱可塑性ポリエステルバイオコンポジットにおいてMFCを強化フィラーとして使用することと関連する前記問題を解決する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
本明細書の説明、図面、実施例および特許請求の範囲によれば、発明者らは、ミクロフィブリル化セルロースを機能化し、その後、表面改質MFCを乾燥させるために水に基づくエステル交換反応を使用するプロセスを発見した。よって、そのプロセスは、表面改質MFCの、熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットのための強化フィラーとしての特性を増強させる。
【0012】
本発明において有用な熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族および半芳香族熱可塑性コポリマー、および熱可塑性芳香族コポリマー、ならびに、熱可塑性ポリオレフィンおよびポリオレフィンエラストマーが挙げられる。
【0013】
本発明において有用な熱可塑性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリエチレンアジペート(PEA)、およびポリヒドロキシブチレート(PHB)が挙げられる。熱可塑性脂肪族ポリエステルはまた、コポリマー、例えばポリ(乳酸-co-グリコール酸(PLGA)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ-L-リジン(PLGA-PLL)を含み得る。
【0014】
脂肪族ポリエステルコポリマーとしては、例えば、ポリブチレンスクシネート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)が挙げられる。
【0015】
本発明において有用な熱可塑性半芳香族コポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)が挙げられる。
【0016】
本発明において有用な熱可塑性芳香族ポリエステルとしては、例えば、商標Vectran(商標)で知られている、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸の重縮合コポリマー(LCP)、およびビスフェノールAおよびフタル酸のポリエステル(PAR)が挙げられる。
【0017】
本発明において有用な熱可塑性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブテン-1(PB-1)が挙げられる。
【0018】
本発明において有用なポリオレフィンエラストマー(POE)としては、例えば、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(M-クラス)ゴム(EPDMゴム)が挙げられる。
【0019】
本発明のMFCとのエステル交換反応における有用な作用物質は、カルボン酸ビニルを含み、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、吉草酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、または桂皮酸ビニル、さらにより好ましくは酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、吉草酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、またはオクチル酸ビニル、最も好ましくは酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、または酪酸ブチルが挙げられる。
【0020】
驚いたことに、乾燥させた、ラウリン酸ビニル-改質MFC(VL-MFC)は、無添加PLAと比較して、PLAを含むバイオコンポジットにおいて引張強さを38%だけ、ヤング率を71%だけ改善させた。
【0021】
この明細書で記載される結果により、熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジット、例えば、PLA中での、表面改質後の、ミクロフィブリル化セルロースの改善された適合性および分散が証明される。
【0022】
理論に縛られないが、本発明のミクロフィブリル化セルロースネットワーク形成および強化メカニズムは当技術分野で知られている問題を克服する。本明細書における開示内容および実施例により、MFCのスケーラブルな水に基づく表面改質および表面改質MFCのその後の乾燥を介する強化が証明される。方法は、熱可塑性ポリエステルおよびポリオレフィンバイオコンポジットにおいて、著しくフィブリルの分散を支援し、ミクロフィブリルセルロース-強化熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットの機械的性能を改善する。
【0023】
MFCは水相改質プロセスで機能化され、その後、乾燥され、熱可塑性ポリエステルおよびポリオレフィンバイオコンポジット、例えばポリ乳酸(PLA)の強化のために利用される。MFCの表面処理は、乾燥後であっても、その親水性を低減させ、そのフィブリル構造を保存するのを助けることができる(粉砕後)。ラウリン酸ビニル-ミクロフィブリル化セルロース(「VL-MFC」)は無添加PLAと比較して、引張強さおよびヤング率を、それぞれ、38%および71%だけ、効果的に改善させた。
【0024】
形態結果は、発明のプロセスに従いMFCが表面改質された後の、PLAにおけるMFCの改善された適合性および分散を示唆する。VL-MFC含量が20%超まで増加された時にセルロースネットワークが形成され、理論に縛られないが、セルロースネットワーク強化メカニズムが提案される。その上、VL-MFCとPLAの間の強い界面相互作用、水素結合、および可能な疎水性相互作用が起こると考えられる。そのため、本発明は、水中でミクロフィブリル化セルロースを改質する有用な環境に優しいプロセス、ミクロフィブリル化セルロースの乾燥の最適化、ならびに、熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジット適用でのそのような乾燥させた、表面改質MFCの使用である。
【0025】
以下の本開示および下記実施例において、水に基づく化学が、MFCの表面を改質するために利用された。熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットのための強化フィラーとして機能する乾燥させたMFCの能力もまた証明された。Dhuiegeらにより報告されたエステル交換反応が適合され、MFCを、ラウリン酸ビニルを用いて水中で改質するために利用され(VL-MFC)、続いてオーブン乾燥され、VL-MFCがPLA強化材として使用された(Dhuiege, B.; Pecastaings, G.; Sebe, G., Sustainable approach for the direct functionalization of cellulose nanocrystals dispersed in water by transesterification of vinyl acetate. ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 187-196)。
【0026】
驚いたことに、乾燥させた、表面改質VL-MFCは、無添加PLAと比較して、PLAを含むバイオコンポジットの引張強さを38%だけおよびヤング率を71%だけ改善させた。セルロースネットワーク強化メカニズムが強化効果を説明するために提案される。以下で報告される実施例により、表面改質と組み合わされた乾燥は、複合材料中で使用するために、セルロースナノ材料を効果的に乾燥させる容易な方法であることが証明される。
【0027】
第一の態様では、改善された機械強度特性を有する、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジット材料を生成するための方法が提供され、方法は、下記工程を含み:
(a)乾燥させたカルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを調製する、または得る工程;
(b)ポリ乳酸を約175℃まで加熱する工程;
(c)カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを加熱した熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンと混合装置内で合わせる工程;ならびに
(d)カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルバイオコンポジットを回収する工程;
カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットは、無添加熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットと比べて、改善された引張強さおよびヤング率を示す、方法。
【0028】
第一の態様の一実施形態では、第一の態様によるプロセスは、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルバイオコンポジットにおいて、約5wt%、または約10wt%、または約15wt%、または約20wt%、または約25wt%、または約30wt%以上のカルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを含む。第一の態様の好ましい実施形態では、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルバイオコンポジットにおけるカルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースは約20wt%以上、約30wt%以上、約40wt%以上、または約50wt%以上であり、または、約20wt%~約50wt%または約20wt%~約40wt%、または約30wt%~約50wt%の範囲で存在する。
【0029】
第一の態様の一実施形態または前記実施形態では、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットはラウリン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-ポリ乳酸バイオコンポジットである。
【0030】
第二の態様では、改善された機械的特性およびミクロフィブリル構造を有する乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを生成するための方法が提供され、方法は下記工程を含む:
(a)ミクロフィブリル化セルロースを水性媒質中に高せん断混合により分散させる工程;
(b)K2CO3溶液およびカルボン酸ビニルを工程(a)のミクロフィブリル化セルロース分散物に添加し、K2CO3溶液、カルボン酸ビニルおよびミクロフィブリル化セルロースの混合物を、水相でのエステル交換プロセスによりカルボン酸ビニルおよびミクロフィブリル化セルロースを反応させるのに十分な温度で、加熱および混合し、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを形成させる工程;
(c)未反応カルボン酸ビニルおよびK2CO3を、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを室温まで冷却し、濾過することにより除去する工程;ならびに
(d)表面改質ミクロフィブリル化セルロースを乾燥させる工程。
【0031】
第二の態様の一実施形態または前記実施形態では、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースはラウリン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースである。
【0032】
第二の態様の一実施形態または前記実施形態では、未反応カルボン酸ビニルおよびK2CO3は、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを水およびメタノール混合物で洗浄することにより、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースから除去される。
【0033】
第二の態様の一実施形態または前記実施形態では、未反応ラウリン酸ビニルおよびK2CO3は、ラウリン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースを水およびメタノール混合物で洗浄することにより、ラウリン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースから除去される。
【0034】
第二の態様の一実施形態または前記実施形態では、工程(b)における温度は、エネルギー消費を低減するためには、約80℃、または好ましくは約60℃である。
【0035】
第三の態様では、第二の態様のプロセスに従い調製された、改善された機械的特性を有する乾燥させた、カルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロースが提供される。
【0036】
第四の態様では、第一の態様に従い調製された、乾燥させたカルボン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性ポリオレフィンバイオコンポジットが提供される。
【0037】
第四の態様の一実施形態では、第一の態様に従い調製された、乾燥させた、ラウリン酸ビニル表面改質ミクロフィブリル化セルロース-熱可塑性ポリエステルバイオコンポジットが提供される。
【0038】
発明の態様の一実施形態では、プロセスは、表面改質ミクロフィブリル化セルロースを粉砕する工程をさらに含む。
【0039】
本明細書で記載されるある一定の特徴(それらは、明確にするために、本開示の異なる態様との関連で、および/または別の実施形態で記載される)はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供することができることが、さらに認識されている。反対に、様々な特徴(それらは、簡単のために、本開示の単一の態様との関連で、および/または、単一の実施形態において記載される)はまた、別々にまたは任意の好適な部分的組み合わせで提供することができる。
【0040】
本明細書で開示される原理およびその利点のより完全な理解のために、添付の図面と併用してなされた下記説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】MFC表面改質およびキャラクタリゼーションを示す。
図1Aは、VL-MFCを調製するための可能な反応スキームを示し;
図1BはMFCおよびVL-MFCのATR-IRを示し;
図1CはMFCのSEM画像の写真を示し;
図1DはVL-MFCの写真を示し;
図1EはMFCおよびVL-MFCにおけるC1sのXPSスペクトルであり;ならびに
図1FはMFCおよびVL-MFCにおけるO1sのXPSスペクトルである。
【
図2】
図2AではMFC、および、
図2BではVL-MFCの接触角を示す。
図2Cは乾燥させた、未処理MFCを示す。
図2Dおよび2Eは1g粉砕MFCのSEM画像である。
図2Fは乾燥させた、ラウリン酸ビニル処理MFCを示す。
図2Gおよび2HはVL-MFCのSEM画像である。
【
図3】PLA複合物の機械的特性のプロットである。
図3Aは異なる繊維含量を有するPLA複合物の引張強さをプロットし、
図3Bはヤング率をプロットする。
【
図4】引張試験後の断面のSEM画像を示す。
図4Aおよび4BはPLAを示し;
図4Cおよび4DはPLA+5%MFCを示し;
図4Eおよび4FはPLA+10%MFCを示し;
図4Gおよび4HはPLA+20%MFCを示し;ならびに
図4Iおよび4JはPLA+30%MFCを示す。
【
図5】引張試験後の断面のSEM画像を示す。
図5A、5Bおよび5CはPLA+5%VL-MFCを示し;
図5D、5Eおよび5FはPLA+10%VL-MFCを示し;
図5G、5Hおよび5IはPLA+20%VL-MFCを示し;ならびに
図5J、5Kおよび5LはPLA+30%VL-MFCを示す。
【
図6】VL-MFC-強化PLA複合物のエッチング表面のSEM画像を示す。
図6AはPLA+5%VL-MFCであり;
図6BはPLA+10%VL-MFCであり;
図6CはPLA+20%VL-MFCであり、ならびに
図6DはPLA+30%VL-MFCである。
【
図7】複合物のDMA結果およびレオロジー特性を示す。
図7AはPLA+VL-MFC複合物についてのDMA結果を提示する。
図7Bは、PLA+MFC複合物についてのDMA結果を提示する。
図7CはPLA+VL-MFC複合物についてのレオロジー特性を示し;ならびに
図7DはPLA+MFC(d)複合物についてのレオロジー特性を示す。
【
図8】
図8Aでは、VL-MFC、PLA、およびPLA+VL-MFC複合物におけるC1sのXPSスペクトルを示し;
図8BはPLAおよびPLA+VL-MFC複合物のFTIRスペクトルを示す。
【
図9】(a)PLA+VL-MFC、(b)PLA+MFCの可能性のある強化メカニズムを示す。
【
図10】MFCおよびVL-MFCのTGプロットである。
【
図11】PLA+VL-MFC(a)およびPLA+MFC(b)複合物ならびに無添加PLAのTanδのプロットである。
【
図13】MFCおよびVL-MFC強化PLA複合物ならびに無添加PLAのTGA結果のプロットである。
【
図14】MFCおよびVL-MFC強化PLA複合物ならびに無添加PLAのDSC結果のプロットである。(
図15A)第1の加熱サークル、および(
図15B)冷却サークル。
【
図15】MFC、PLA、およびPLA+MFC複合物におけるC1sのXPSスペクトル(
図15A);ならびにPLAおよびPLA+MFC複合物のFT-IR(
図15B)のプロットである。
【
図16】MFC(
図16A)およびVL-MFC(
図16B)強化PLA複合物のFT-IRスペクトルのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本明細書で提供される表題、見出しおよび小見出しは、本開示の様々な態様を制限するものとして解釈されるべきではない。したがって、以下で規定される用語は、明細書をその全体として参照することにより、より詳しく規定される。本明細書で引用される全ての参考文献はそれらの全体として参照により組み込まれる。
【0043】
別に規定されない限り、本明細書で使用される科学および技術用語は、当業者により普通に理解される意味を有する。さらに、文脈により別段要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。
【0044】
本出願では、「または」の使用は別記されない限り「および/または」を意味する。多数項従属クレームとの関連で、「または」の使用は、選択的にのみ1を超える前記独立または従属クレームに戻って参照する。
【0045】
「1つの(aまたはan)」という単語の使用は、「含む(comprising)」という用語と共に使用される場合、「1つ」を意味する可能性があるが、それはまた、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1つまたはそれ以上」の意味と一致する。「または」という用語の使用は、代替案が相互排他的である場合にのみ代替案を示すことが明確に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替案のみ、および、「および/または」を示す定義を支持する。本出願を通して、「約」という用語は、ある値が、定量装置についての誤差の特有の変動を含む(この方法がその値を決定するために採用される)こと、または、研究対象間に存在する変動を示すために使用される。例えば、制限することは目的としないが、「約」という用語が使用される場合、指定された値は、±12パーセント、または11パーセント、または10パーセント、または9パーセント、または8パーセント、または7パーセント、または6パーセント、または5パーセント、または4パーセント、または3パーセント、または2パーセント、または1パーセントだけ変動する可能性がある。「少なくとも1つ」という用語の使用は、1、ならびに1を超える任意の量、例えば、限定はされないが、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100、などを含むと理解されるであろう。「少なくとも1つ」という用語は、それが添えられた用語によって、100または1000またはそれ以上まで拡張することができる。加えて、100/1000の量は、下限または上限がまた、満足のいく結果を生成させることができると制限するものと考えるべきではない。加えて、「X、Y、およびZの少なくとも1つ」という用語の使用は、Xのみ、Yのみ、およびZのみ、ならびにX、Y、およびZの任意の組み合わせを含むと理解されるであろう。序数専門用語(すなわち、「第1」、「第2」、「第3」、「第4」、など)の使用は、2以上のアイテム間で区別する目的のためだけであり、別記されない限り、いずれかの連続または順序あるいは1つのアイテムに対する別のアイテムを超える重要性、または、いずれかの付加順序を暗示することは意味されない。
【0046】
本明細書では、「含む(comprising)」(および、含むの任意の形態、例えば「comprise」、「comprises」、および「comprised」)、「有する(having)」(および、有するの任意の形態、例えば「have」および「has」)、「包含する(including)」(および、包含するの任意の形態、例えば「includes」および「include」)、または「含有する(containing)」(および、含有するの任意の形態、例えば「contains」および「contain」)という用語は包括的で、または、制約がなく、追加の、列挙されていない要素または方法工程を排除しない。加えて、「含む」という用語と共に使用される用語はまた、「から構成される」または「から本質的に構成される」という用語と共に使用することができることが理解される。
【0047】
本明細書では、「包含する(include)」という用語およびその文法的変形は、非限定的であることが意図され、そのため、リストにおけるアイテムの列挙は、列挙されたアイテムと置換することができ、または、これに付加することができる他の同様のアイテムを排除しない。
【0048】
本明細書では、「コポリマー」という用語は、2以上の異なるモノマー単位を含むポリマー組成物として規定される。
【0049】
誘導体化セルロース(または誘導体化ミクロフィブリル化セルロース)の機能化の程度は置換度、または「DS」と呼ばれ、これは、セルロース鎖のβ-アンヒドログルコース単位あたりの機能化の平均数である。言い換えれば、機能化の程度は、本明細書では、セルロース上に存在するアニオン性および/またはカチオン性置換基の量であり、置換度は、セルロース鎖のβ-アンヒドログルコース単位あたりのアニオン性および/またはカチオン性置換基の平均数である。誘導体化セルロースおよび/または誘導体化ミクロフィブリル化セルロースのDSを決定する方法は米国特許第6,602,992号(これにより、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において開示される。
【0050】
セルロースを含む繊維性基材(本明細書では、「セルロースを含む繊維性基材」、「セルロース繊維」、「繊維性セルロース供給原料」、「セルロース供給原料」および「セルロース含有繊維または繊維性」、などと様々に呼ばれる)は未使用または再生パルプから誘導され得る。
【0051】
本明細書では、「実質的に」という用語は、その後に記載されるイベントまたは状況が完全に起こる、または、その後に記載されるイベントまたは状況が大体、または、大部分起こることを意味する。例えば、特定のイベントまたは状況と関連する場合、「実質的に」という用語は、その後に記載されるイベントまたは状況が、少なくとも80%の確率で、または少なくとも85%の確率で、または少なくとも90%の確率で、または少なくとも95%の確率で起こることを意味する。
【0052】
本明細書では、「XからYの整数」という句は、終点を含む任意の整数を意味する。例えば、「1~5の整数」という句は1、2、3、4、または5を意味する。
【0053】
ミクロフィブリル化セルロース
MFCは、当技術分野においてよく知られており、記載されているが、現在開示されるおよび/または特許請求される発明概念(複数可)の目的のために、単離されたセルロースミクロフィブリルおよび/またはセルロースのミクロフィブリル束のいずれかの形態のミクロフィブリルから構成されるセルロースとして規定され、そのどちらも、セルロース原料に由来する。よって、ミクロフィブリル化セルロースは、部分的に、または、完全にフィブリル化セルロースまたはリグノセルロース繊維を含むと理解され、これは、当技術分野で知られている様々なプロセスにより達成され得る。
【0054】
本明細書では、「ミクロフィブリル化セルロース」は、「ミクロフィブリルセルロース」、「ナノフィブリル化セルロース」、「ナノセルロース」、「ナノフィブリルセルロース」、「セルロースのナノファイバー」、「ナノスケールフィブリル化セルロース」、「セルロースのミクロフィブリル」と同じ意味で、および/または単純に「MFC」として使用することができる。加えて、本明細書では、「ミクロフィブリル化セルロース」と同じ意味で使用され得る、以上で列挙される用語は、完全にミクロフィブリル化されたセルロース、または、実質的にミクロフィブリル化されているが、本明細書で記載されるおよび/または特許請求されるミクロフィブリル化セルロースの利益を妨害しないレベルで、ある量の非ミクロフィブリル化セルロースを依然として含むセルロースを示すことができる。
【0055】
「ミクロフィブリル化」により、ミクロフィブリル化前のパルプの繊維と比べて、セルロースのミクロフィブリルが個々の種として、または、小さな強凝集体として遊離されまたは部分的に遊離されるプロセスが意味される。製紙において使用するのに好適な典型的なセルロース繊維(すなわち、ミクロフィブリル化前のパルプ)は数百または数千の個々のセルロースフィブリルのより大きな強凝集体を含む。
【0056】
ミクロフィブリル化セルロースはセルロースを含み、それは反復グルコース単位を含む天然起源のポリマーである。「ミクロフィブリル化セルロース」という用語はまた、MFCと示され、この明細書において使用されるように、ミクロフィブリル化/ミクロフィブリルセルロースおよびナノフィブリル化/ナノフィブリルセルロース(NFC)を含み、この材料はナノセルロースとも呼ばれる。
【0057】
ミクロフィブリル化セルロースは、事前の酵素または化学的処理あり、または、なしでの機械的せん断により曝露されている可能性があるセルロース繊維の外層をはぎ取ることにより調製される。当技術分野で知られている、ミクロフィブリル化セルロースを調製する多くの方法が存在する。
【0058】
非限定的例では、ミクロフィブリル化セルロースという用語は、しばしば、100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールセルロース粒子繊維またはフィブリルを含むフィブリル化セルロースを記載するために使用される。セルロース繊維から遊離されると、フィブリルは典型的には、100nm未満の直径を有する。セルロースフィブリルの実際の直径は起源および製造方法に依存する。
【0059】
フィブリル化セルロース繊維に付着された、または、遊離ミクロフィブリルとしてのセルロースミクロフィブリルの粒子サイズ分布および/またはアスペクト比(長さ/幅)は、起源およびミクロフィブリル化プロセスにおいて採用される製造方法に依存する。
【0060】
非限定的例では、ミクロフィブリルのアスペクト比は典型的には高く、個々のミクロフィブリルの長さは1マイクロメートルを超える可能性があり、直径は約5~60nmの範囲内にある可能性があり、数平均直径は典型的には20nm未満である。ミクロフィブリル束の直径は1ミクロンより大きくてもよいが、しかしながら、それは通常1未満である。
【0061】
非限定的例では、最小フィブリルは従来、基本フィブリルと呼ばれ、それは一般におよそ2-4nmの直径である。基本フィブリルが強凝集するのも一般的であり、これはまた、ミクロフィブリルと考えることができる。
【0062】
非限定的例では、ミクロフィブリル化セルロースは、少なくとも部分的に、ナノセルロースを含み得る。ナノセルロースは、100nm未満の直径、および、ミクロン範囲またはそれ以下であり得る長さを有する、主にナノサイズのフィブリルを含み得る。最小ミクロフィブリルはいわゆる基本フィブリルに類似し、その直径は典型的には2~4nmである。当然、ミクロフィブリルおよびミクロフィブリル束の寸法および構造は、ミクロフィブリル化セルロースを生成する方法に加えて使用される原料に依存する。それにもかかわらず、当業者であれば、現在開示されるおよび/または特許請求される発明概念(複数可)との関連で「ミクロフィブリル化セルロース」の意味を理解するであろうことが予測される。
【0063】
セルロース繊維の起源、および、セルロース繊維をミクロフィブリル化するために採用される製造プロセスによって、フィブリルの長さは、しばしば、約1から10マイクロメートル超まで変動する可能性がある。
【0064】
粗MFCグレードは、かなりの割合のフィブリル化繊維、すなわち、仮道管(セルロース繊維)からの突出フィブリルを含み、仮道管(セルロース繊維)から遊離された一定量のフィブリルを有する。
【0065】
一実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースはまた、再生パルプまたは紙工場損紙および/または産業廃棄物、または、紙工場からの鉱物フィラーおよびセルロース材料に富む紙ストリームから調製され得る。
【0066】
セルロースを含む繊維性基材は、乾燥状態の、セルロースを含む粉砕容器繊維性基材に添加することができる。例えば、乾燥損紙は、グラインダー容器に直接添加することができる。次いで、グラインダー容器内の水性環境がパルプの形成を促進する。
【0067】
ミクロフィブリル化セルロースおよび無機微粒子材料の水性懸濁液の調製
ある一定の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースを含む組成物は、セルロースを含む繊維性基材を粉砕媒体の存在下でミクロフィブリル化することを含むプロセスにより得ることができる。プロセスは水性環境で便宜的に実施される。
【0068】
微粒子粉砕媒体は、存在する場合、天然または合成材料であってもよい。粉砕媒体は、例えば、任意の硬い鉱物、セラミックまたは金属材料のボール、ビーズまたはペレットを含み得る。そのような材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウムまたはムライトリッチ材料(カオリン質粘土を約1300℃~約1800℃の範囲の温度でか焼することにより生成される)が挙げられ得る。例えば、いくつかの実施形態では、Carbolite(登録商標)粉砕媒体が好ましい。あるいは、好適な粒子サイズの天然砂の粒子が使用され得る。
【0069】
粉砕は1つ以上の段階で実施され得る。例えば、粗無機微粒子材料はグラインダー容器内であらかじめ決められた粒子サイズ分布まで粉砕され得、その後、セルロースを含む繊維性材料が添加され、粉砕が所望のレベルのミクロフィブリル化が達成されるまで続けられる。この発明の第一の態様にしたがい使用される粗無機微粒子材料は最初に、ある粒子サイズ分布を有し得、この場合、約20重量%未満の粒子が2μm未満の球相当径(e.s.d.)を有する、例えば、約15重量%未満、または約10重量%未満の粒子が2μm未満のe.s.d.を有する。別の実施形態では、この発明の第一の態様にしたがい使用される粗無機微粒子材料は最初に、Malvern Insitecまたは相当する装置を使用して測定されるある粒子サイズ分布を有し得、この場合、約20体積%未満の粒子が2μm未満のe.s.dを有し、例えば、約15体積%未満、または約10体積%未満の粒子が2μm未満のe.s.d.を有する。別の実施形態では、セルロースを含む繊維性材料は以下で記載されるように、粉砕媒体の存在下、無機微粒子状物質なしで粉砕され得る。
【0070】
粗無機微粒子材料は粉砕媒体なしまたはありで湿式または乾式粉砕されてもよい。湿式粉砕段階の場合、粗無機微粒子材料は好ましくは、水性懸濁液中、粉砕媒体の存在下で粉砕される。そのような懸濁液中では、粗無機微粒子材料は好ましくは、懸濁液の約5重量%~約85重量%の量で;より好ましくは、懸濁液の約20重量%~約80重量%の量で存在し得る。最も好ましくは、粗無機微粒子材料は懸濁液の約30重量%~約75重量%の量で存在し得る。以上で記載される通り、粗無機微粒子材料は、少なくとも約10重量%の粒子が2μm未満のe.s.dを有する、例えば、少なくとも約20重量%、または少なくとも約30重量%、または少なくとも約40重量%、または少なくとも約50重量%、または少なくとも約60重量%、または少なくとも約70重量%、または少なくとも約80重量%、または少なくとも約90重量%、または少なくとも約95重量%、または約100重量%の粒子が2μm未満のe.s.dを有するような粒子サイズ分布まで粉砕され得、その後、セルロースパルプが添加され、2つの成分が共粉砕され、セルロースパルプの繊維がミクロフィブリル化される。別の実施形態では、粗無機微粒子材料は、Malvern Innsitec装置(または相当物)を用いて測定される、少なくとも約10体積%の粒子が2μm未満のe.s.dを有する、例えば、少なくとも約20体積%、または少なくとも約30体積%または少なくとも約40体積%、または少なくとも約50体積%、または少なくとも約60体積%、または少なくとも約70体積%、または少なくとも約80体積%、または少なくとも約90体積%、または少なくとも約95体積%、または約100体積%の粒子が2μm未満のe.s.dを有するような粒子サイズ分布まで粉砕され、その後、セルロースパルプが添加され、2つの成分が共粉砕され、セルロースパルプの繊維がミクロフィブリル化される。
【0071】
一般に、発明において使用するために選択される粉砕媒体の型および粒子サイズは、特性、例えば、粉砕される材料の供給懸濁液の粒子サイズおよび化学組成に依存し得る。好ましくは、微粒子粉砕媒体は、約0.1mm~約6.0mmの範囲、より好ましくは、約0.2mm~約4.0mmの範囲にある平均直径を有する粒子を含む。粉砕媒体(または、複数)は、充填量の約70体積%までの量で存在することができる。粉砕媒体は、充填量の少なくとも約10体積%、例えば、充填量の少なくとも約20体積%、または充填量の少なくとも約30体積%、または充填量の少なくとも約40体積%、または充填量の少なくとも約50体積%、または充填量の少なくとも約60体積%の量で存在することができる。
【0072】
別記されない限り、ミクロフィブリル化セルロース材料の粒子サイズ特性は、レーザー光散乱の技術分野において採用されるよく知られた従来の方法により、Malvern Instruments Ltdにより供給されるMalvern Insitec装置(または相当物)を使用して(または本質的に同じ結果を提供する他の方法により)測定される。
【0073】
セルロースを含む繊維性基材は、パルプ(すなわち、セルロース繊維の水中での懸濁液)の形態であってもよく、それは任意の好適な化学または機械的処理、またはその組み合わせにより調製され得る。
【0074】
Malvem Insitec装置(または相当物)を使用して無機粒子材料およびミクロフィブリル化セルロースの混合物の粒子サイズ分布を特徴付けるために使用される手順の詳細が以下で提供される。
【0075】
セルロースを含む繊維性基材は無機微粒子材料の存在下でミクロフィブリル化することができ、レーザー光散乱により測定すると約5μm~約500μmの範囲のd50を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。セルロースを含む繊維性基材は無機微粒子材料の存在下でミクロフィブリル化することができ、約400μm以下、例えば約300μm以下、または約200μm以下、または約150μm以下、または約125μm以下、または約100μm以下、または約90μm以下、または約80μm以下、または約70μm以下、または約60μm以下、または約50μm以下、または約40μm以下、または約30μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下のd50を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。
【0076】
セルロースを含む繊維性基材は無機微粒子材料の存在下でミクロフィブリル化することができ、約0.1-500μmの範囲のモード繊維粒子サイズおよび0.25-20μmの範囲のモード無機微粒子材料粒子サイズを有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。セルロースを含む繊維性基材は無機微粒子材料の存在下でミクロフィブリル化することができ、少なくとも約0.5μm、例えば少なくとも約10μm、または少なくとも約50μm、または少なくとも約100μm、または少なくとも約150μm、または少なくとも約200μm、または少なくとも約300μm、または少なくとも約400μmのモード繊維粒子サイズを有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。
【0077】
セルロースを含む繊維性基材は無機微粒子材料の存在下でミクロフィブリル化することができ、Malvernにより測定すると、約10以上の繊維峻度を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。繊維峻度、すなわち、繊維の粒子サイズ分布の峻度は下記式により決定される:
峻度=100×(d30/d70)。
【0078】
ミクロフィブリル化セルロースは約100以下の繊維峻度を有し得る。ミクロフィブリル化セルロースは約75以下、または約50以下、または約40以下、または約30以下の繊維峻度を有し得る。ミクロフィブリル化セルロースは約20~約50、または約25~約40、または約25~約35、または約30~約40の繊維峻度を有し得る。
【0079】
より微細な鉱物ピークは測定したデータ点にフィッティングさせることができ、数学的には分布から減算させることができ、繊維ピークが残り、これは累積分布に変換させることができる。同様に、繊維ピークは、数学的には原分布から減算することができ、鉱物ピークが残り、これもまた、累積分布に変換することができる。次いで、これらの積算曲線はどちらも、平均粒子サイズ(d50)および分布の峻度(d30/d70×100)を計算するために使用することができる。次いで、微分曲線を使用して、鉱物および繊維部分の両方に対するモード粒子サイズを見出すことができる。
【0080】
無機微粒子材料
無機微粒子材料は、存在する場合、例えば、アルカリ土類金属炭酸塩または硫酸塩、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、セッコウ、含水カンダイト粘土(kandite day)例えばカオリン、ハロイサイトまたはボールクレー、無水(か焼)カンダイト粘土、例えばメタカオリンまたは完全か焼カオリン、タルク、雲母、パーライトまたは珪藻土、または水酸化マグネシウム、またはアルミニウム三水和物、またはそれらの組み合わせとすることができる。
【0081】
方法において使用するための好ましい無機微粒子材料は炭酸カルシウムである。以降、発明は炭酸カルシウムの観点から、炭酸カルシウムが加工され、および/または処理される態様に関連して、議論される傾向があり得る。発明はそのような実施形態に制限されると解釈されるべきではない。
【0082】
本発明で使用される微粒子炭酸カルシウムは粉砕により天然源から得ることができる。重質炭酸カルシウム(GCC)は、典型的には、鉱物源、例えば白亜、大理石または石灰石を圧壊し、次いで粉砕することにより得られ、これに続いて、所望の粉末度を有する生成物が得られるように粒子サイズ分類工程が実施され得る。漂白、浮選および磁気分離などの他の技術もまた、所望の粉末度および/または色を有する生成物を得るために使用され得る。微粒子固体材料は、自己生成的に、すなわち、固体材料自体の粒子間のアトリションにより、または、その代わりに、粉砕される炭酸カルシウムとは異なる材料の粒子を含む微粒子粉砕媒体の存在下で、粉砕され得る。これらのプロセスは、分散剤および殺生物剤(プロセスの任意の段階で添加され得る)の存在あり、または、なしで実施され得る。
【0083】
沈降炭酸カルシウム(PCC)は本発明において微粒子炭酸カルシウムの起源として使用することができ、当技術分野で使用可能な公知の方法のいずれかにより生成され得る。TAPPI Monograph Series No 30, “Paper Coating Pigments”,34-35ページは、製紙業において使用するための製品を調製する際に使用するのに好適であるが、本発明の実施においても使用され得る、沈降炭酸カルシウムを調製するための3つの主な商業プロセスを記載する。3つ全てのプロセスにおいて、石灰石などの炭酸カルシウム供給材料は最初にか焼され、生石灰が生成され、次いで、生石灰が水中で消和され、水酸化カルシウムまたは石灰乳が得られる。第1のプロセスで、石灰乳は二酸化炭素ガスで直接炭酸化される。このプロセスは、副産物が形成されないという利点を有し、炭酸カルシウム生成物の特性および純度を制御することが比較的容易である。第2のプロセスでは石灰乳はソーダ灰と接触させられ、複分解により、炭酸カルシウムの沈殿物および水酸化ナトリウムの溶液が生成される。水酸化ナトリウムは、このプロセスが商業的に使用される場合、炭酸カルシウムから実質的に完全に分離され得る。第3の主商業プロセスでは、石灰乳が最初に塩化アンモニウムと接触させられ、塩化カルシウム溶液およびアンモニアガスが得られる。次いで、塩化カルシウム溶液はソーダ灰と接触させられ、複分解により沈降炭酸カルシウムおよび塩化ナトリウムの溶液が、生成される。結晶は、使用される特定の反応プロセスによって、様々な異なる形状およびサイズで生成させることができる。PCC結晶の3つの主な形態はアラゴナイト、菱面体および偏三角面体であり、これらは全て、それらの混合物を含めて、本発明で使用するのに好適である。
【0084】
炭酸カルシウムの湿式粉砕は、炭酸カルシウムの水性懸濁液の形成を含み、次いで、これが、任意で、好適な分散剤の存在下で粉砕され得る。炭酸カルシウムの湿式粉砕に関するさらなる情報のために、例えば、EP-A-614948号(その内容はそれらの全体として参照により組み込まれる)を参照してもよい。
【0085】
いくつかの状況では、他の鉱物の微量添加を含めることができ、例えば、カオリン、か焼カオリン、ウォラストナイト、ボーキサイト、タルクまたは雲母の1つ以上もまた、存在することができる。
【0086】
本発明の無機微粒子材料が天然源から得られる場合、いくつかの鉱物不純物が粉砕材料を汚染する可能性がある。例えば、天然起源の炭酸カルシウムは、他の鉱物と結合して存在することができる。よって、いくつかの実施形態では、無機微粒子材料はある量の不純物を含む。しかしながら、一般に、発明で使用される無機微粒子材料は約5重量%未満、好ましくは約1重量%未満の他の鉱物不純物を含む。
【0087】
本発明の方法のミクロフィブリル化工程中に使用される無機微粒子材料は好ましくは、少なくとも約10重量%の粒子が2μm未満のe.s.dを有する、例えば、少なくとも約20重量%、または少なくとも約30重量%、または少なくとも約40重量%、または少なくとも約50重量%、または少なくとも約60重量%、または少なくとも約70重量%、または少なくとも約80重量%、または少なくとも約90重量%、または少なくとも約95重量%、または約100%の粒子が2μm未満のe.s.dを有する粒子サイズ分布を有する。
【0088】
別記されない限り、本明細書において、無機微粒子材料について言及される粒子サイズ特性は、本明細書では、「Micromeritics Sedigraph 5100ユニット」と呼ばれる、Micromeritics Instruments Corporation、Norcross、Ga.、USA(電話:+17706623620;ウェブサイト:www.micromeritics.com)により供給されるSedigraph 5100機を使用して、水性媒質中で、完全に分散された状態での微粒子材料の沈降により、よく知られた様式で測定される通りである。そのような機械は、測定および所定のe.s.d値未満の「球相当径」(e.s.d)と当技術分野で呼ばれるサイズを有する粒子の累積重量パーセンテージのプロットを提供する。平均粒子サイズd50は、粒子の50重量%がそのd50値未満の球相当径を有する、粒子e.s.dのこのように決定された値である。
【0089】
あるいは、明言される場合、本明細書において、無機微粒子材料について言及される粒子サイズ特性は、Malvern Instruments Ltdにより供給されるMalvern Insitec装置(または相当物)を使用して、レーザー光散乱の分野において採用されるよく知られた従来の方法により(または本質的に同じ結果を与える他の方法により)測定される通りである。レーザー光散乱技術では、粉末、懸濁液およびエマルジョンにおける粒子のサイズは、Mie理論の適用に基づき、レーザービームの回折を使用して測定され得る。そのような機械は、測定および所定のe.s.d値未満の「球相当径」(e.s.d)と当技術分野で呼ばれるサイズを有する粒子の累積体積パーセンテージのプロットを提供する。平均粒子サイズd50は、そのd50値未満の球相当径を有する50体積%の粒子が存在する粒子e.s.dのこのように決定された値である。
【0090】
別記されない限り、ミクロフィブリル化セルロース材料の粒子サイズ特性は、Malvern Instruments Ltdにより供給されるMalvern InsitecL機を使用してレーザー光散乱の分野において採用されるよく知られた従来の方法により、(または本質的に同じ結果を与える他の方法により)測定される通りである。
【0091】
Malvern Mastersizer S機を使用して無機粒子材料およびミクロフィブリル化セルロースの混合物の粒子サイズ分布を特徴づけるために使用される手順の詳細は以下で提供される。
【0092】
使用するための別の好ましい無機微粒子材料はカオリン粘土である。以降、明細書のこのセクションは、カオリンの観点から、カオリンが加工され、および/または処理される態様と関連して論じられる傾向がある可能性がある。発明は、そのような実施形態に制限されると解釈されるべきではない。よって、いくつかの実施形態では、カオリンは未処理形態で使用される。
【0093】
この発明で使用されるカオリン粘土は、天然源、すなわち未加工天然カオリン粘土鉱物由来の加工材料であってもよい。加工カオリン粘土は典型的には少なくとも約50重量%のカオリナイトを含み得る。例えば、ほとんどの商業的に加工されたカオリン粘土は約75重量%超のカオリナイトを含み、約90重量%超、場合によっては約95重量%超のカオリナイトを含み得る。
【0094】
本発明で使用されるカオリン粘土は、未加工天然カオリン粘土鉱物から、当業者によく知られている1つ以上の他のプロセスにより、例えば公知の精練または選鉱工程により調製され得る。
【0095】
例えば、粘土鉱物は、還元漂白剤、例えば亜ジチオン酸ナトリウムで漂白され得る。亜ジチオン酸ナトリウムが使用される場合、亜ジチオン酸ナトリウム漂白工程後、漂白粘土鉱物は任意で脱水され、任意で洗浄され、再び、任意で脱水され得る。
【0096】
粘土鉱物は、例えば、当技術分野でよく知られた綿状沈殿、浮選、または磁気分離技術により不純物を除去するように処理され得る。あるいは、発明の第一の態様において使用される粘土鉱物は、固体の形態でまたは水性懸濁液として未処理としてもよい。
【0097】
本発明で使用される微粒子カオリン粘土を調製するためのプロセスはまた、1つ以上の破砕工程、例えば、粉砕またはミリングを含み得る。粗カオリンの光破砕(light comminution)が、その好適な層間剥離を与えるために使用される。破砕は、プラスチック(例えばナイロン)のビーズもしくは顆粒の使用、砂もしくはセラミック粉砕またはミリング補助により実施され得る。粗カオリンは、よく知られた手順を使用して、不純物を除去し、物理的性質を改善するために精錬され得る。カオリン粘土は公知の粒子サイズ分類手順、例えば、スクリーニングおよび遠心分離(または両方)により処理することができ、所望のd50値または粒子サイズ分布を有する粒子が得られる。
【0098】
セルロースを含む繊維性基材は、任意の好適な起源、例えば木材、草(例えば、サトウキビ、竹)またはぼろ(例えば、織物くず、綿、ヘンプまたは亜麻)由来であってもよい。セルロースを含む繊維性基材は、パルプ(すなわち、セルロース繊維の水中での懸濁液)の形態であってもよく、それは任意の好適な化学または機械的処理、またはその組み合わせにより調製され得る。例えば、パルプは、化学パルプ、またはケミサーモメカニカルパルプ、または機械パルプ、または再生パルプ、または紙工場損紙、または紙工場廃液流、または紙工場からの廃棄物、またはそれらの組み合わせであってもよい。セルロースパルプは叩解することができ(例えば、Valleyビーターにおいて)および/または、そうでなければ、cm3のカナダ標準ろ水度(CSF)として当技術分野で報告される、任意のあらかじめ決められたろ水度まで、リファイニングする(例えば、円錐またはプレートリファイナにおける加工処理)ことができる。CSFは、パルプの懸濁液が濾水され得る速度により測定されたパルプのろ水度または濾水速度についての値を意味する。例えば、セルロースパルプは、ミクロフィブリル化される前に、約10cm3以上のカナダ標準ろ水度を有し得る。セルロースパルプは、約700cm3以下、例えば、約650cm3以下、または約600cm3以下、または約550cm3以下、または約500cm3以下、または約450cm3以下、または約400cm3以下、または約350cm3以下、または約300cm3以下、または約250cm3以下、または約200cm3以下、または約150cm3以下、または約100cm3以下、または約50cm3以下のCSFを有し得る。次いで、セルロースパルプは、当技術分野でよく知られた方法により脱水され得、例えば、パルプは、スクリーンを通して濾過することができ、少なくとも約10%の固体、例えば少なくとも約15%の固体、または少なくとも約20%の固体、または少なくとも約30%の固体、または少なくとも約40%の固体を含む、ウェットシートが得られる。パルプは、リファイニングされていない状態で、すなわち、叩解または脱水されることなく、または別様にリファイニングされて、利用され得る。
【0099】
セルロースパルプは叩解することができ(例えば、Valleyビーターにおいて)および/または、そうでなければ、cm3のカナダ標準ろ水度(CSF)として当技術分野で報告される、任意のあらかじめ決められたろ水度まで、リファイニングする(例えば、円錐またはプレートリファイナにおける加工処理)ことができる。CSFは、パルプの懸濁液が濾水され得る速度により測定されたパルプのろ水度または濾水速度についての値を意味し、この試験は、T227cm-09TAPPI標準に従い、実施される。例えば、セルロースパルプは、ミクロフィブリル化される前に、約10cm3以上のカナダ標準ろ水度を有し得る。セルロースパルプは、約700cm3以下、例えば、約650cm3以下、または約600cm3以下、または約550cm3以下、または約500cm3以下、または約450cm3以下、または約400cm3以下、または約350cm3以下、または約300cm3以下、または約250cm3以下、または約200cm3以下、または約150cm3以下、または約100cm3以下、または約50cm3以下のCSFを有し得る。セルロースパルプは、約20~約700のCSFを有し得る。次いで、セルロースパルプは、当技術分野でよく知られた方法により脱水され得、例えば、パルプは、スクリーンを通して濾過することができ、少なくとも約10%の固体、例えば少なくとも約15%の固体、または少なくとも約20%の固体、または少なくとも約30%の固体、または少なくとも約40%の固体を含む、ウェットシートが得られる。パルプは、リファイニングされていない状態で、すなわち、叩解または脱水されることなく、または別様にリファイニングされて、利用され得る。
【0100】
ミクロフィブリル化セルロースは、当業者に知られているであろう多糖の粒子サイズを低減させる任意の方法により生成され得る。しかしながら、多糖における高アスペクト比を保存しながら粒子サイズを低減さるための方法が好ましい。特に、少なくとも1つのミクロフィブリル化セルロースは、下記からなる群より選択される方法により生成され得る:粉砕;超音波処理;均質化;衝突混合機;熱;蒸気爆発;加圧-減圧サイクル;凍結-解凍サイクル;衝撃;粉砕(例えばディスクグラインダー);ポンピング;ミキシング;超音波;マイクロ波爆発;および/またはミリング。これらの様々な組み合わせ、例えばミリング、続いて均質化もまた使用され得る。1つの実施形態では、少なくとも1つのミクロフィブリル化セルロースが、1つ以上のセルロース含有原料を、1つ以上のセルロース含有原料中のセルロース繊維の結晶領域の一部がフィブリル化されるように、水性懸濁液中で十分な量のせん断に供することにより形成される。
【0101】
セルロースを含む繊維性基材のミクロフィブリル化は、湿潤条件下で無機微粒子材料の存在下、セルロースパルプおよび無機微粒子材料の混合物が(例えば、約500barの圧力まで)加圧され、次いで、より低い圧力のゾーンに引き継がれる方法により得ることができる。セルロース繊維のミクロフィブリル化が引き起こされるように、混合物が低圧ゾーンに引き継がれる速度は十分高く、低圧ゾーンの圧力は十分低い。例えば、圧力降下は、混合物を、狭い入口オリフィスおよびずっと大きな出口オリフィスを有する環状開口に無理に送ることにより得ることができる。混合物が加速されてより大きな体積となるのに伴う圧力の劇的な減少(すなわち、低圧ゾーン)は、空洞化を誘発し、これがミクロフィブリル化を引き起こす。一実施形態では、セルロースを含む繊維性基材のミクロフィブリル化は、ホモジナイザー中、湿潤条件下、無機微粒子材料の存在下で得ることができる。ホモジナイザー中では、セルロースパルプ-無機微粒子材料混合物が(例えば、約500barの圧力まで)加圧され、小さなノズルまたはオリフィスに無理に送られる。混合物は、約100~約1000barの圧力、例えば、300bar以上、または約500以上、または約200bar以上、または約700bar以上の圧力まで加圧され得る。均質化は、繊維を高せん断力に供し、そのため、加圧されたセルロースパルプがノズルまたはオリフィスを出て行く時に、空洞化が、パルプ中のセルロース繊維のミクロフィブリル化を引き起こす。追加の水が添加され得、ホモジナイザーを通る懸濁液の流動性が改善される。ミクロフィブリル化セルロースおよび無機微粒子材料を含む、得られた水性懸濁液は、ホモジナイザーの複数通過のためにホモジナイザーの入口に送り戻され得る。好ましい実施形態では、無機微粒子材料は自然板状鉱物、例えばカオリンである。そのようなものとして、均質化は、セルロースパルプのミクロフィブリル化を促進するだけでなく、板状微粒子材料の層間剥離を促進する。
【0102】
ミクロフィブリル化セルロースは、分散物(例えば、ゲルまたはゼラチン状形態で)、希釈分散物、および/または懸濁液中の少なくとも1つの形態であってもよい。
【0103】
無機微粒子材料の添加なしで調製されたミクロフィブリル化セルロース
好ましい実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、セルロースを含む繊維性基材を、水性環境で、粉砕の完了後に除去されることになっている粉砕媒体の存在下での粉砕により、ミクロフィブリル化する工程を含む方法にしたがい調製され、粉砕はタワーミルまたはスクリーングラインダーにおいて実施され、粉砕は粉砕可能無機微粒子材料なしで実施される。
【0104】
粉砕可能無機微粒子材料は、粉砕媒体の存在下で粉砕されるであろう材料である。
【0105】
微粒子粉砕媒体は天然または合成材料であってもよい。粉砕媒体は、例えば、任意の硬い鉱物、セラミックまたは金属材料のボール、ビーズまたはペレットを含み得る。そのような材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウムまたはムライトリッチ材料(カオリン質粘土を約1300℃~約1800℃の範囲の温度でか焼させることにより生成される)が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、Carbolite(登録商標)粉砕媒体が好ましい。あるいは、好適な粒子サイズの天然砂の粒子が使用され得る。
【0106】
一般に、発明において使用するために選択される粉砕媒体の型および粒子サイズは、特性、例えば、粉砕される材料の供給懸濁液の粒子サイズおよび化学組成に依存し得る。好ましくは、微粒子粉砕媒体は、約0.5mm~約6mmの範囲の平均直径を有する粒子を含む。1つの実施形態では、粒子は少なくとも約3mmの平均直径を有する。
【0107】
粉砕媒体は、少なくとも約2.5の比重を有する粒子を含み得る。粉砕媒体は、少なくとも約3、または少なくとも約4、または少なくとも約5、または少なくとも約6の比重を有する粒子を含み得る。
【0108】
粉砕媒体(または複数)は、充填量の約70体積%までの量で存在することができる。粉砕媒体は、充填量の少なくとも約10体積%、例えば、充填量の少なくとも約20体積%、または充填量の少なくとも約30体積%、または充填量の少なくとも約40体積%、または充填量の少なくとも約50体積%、または充填量の少なくとも約60体積%の量で存在することができる。
【0109】
セルロースを含む繊維性基材はミクロフィブリル化することができ、レーザー光散乱により測定すると、約5μm~約500μmの範囲のd∞を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。セルロースを含む繊維性基材はミクロフィブリル化することができ、約400μm以下、例えば約300μm以下、または約200μm以下、または約150μm以下、または約125μm以下、または約100μm以下、または約90μm以下、または約80μm以下、または約70μm以下、または約60μm以下、または約50μm以下、または約40μm以下、または約30μm以下、または約20μm以下、または約10μm以下のd50を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。
【0110】
セルロースを含む繊維性基材はミクロフィブリル化することができ、約0.1-500μmの範囲のモード繊維粒子サイズを有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。セルロースを含む繊維性基材は、存在下で、ミクロフィブリル化することができ、少なくとも約0.5μm、例えば、少なくとも約10μm、または少なくとも約50μm、または少なくとも約100μm、または少なくとも約150μm、または少なくとも約200μm、または少なくとも約300μm、または少なくとも約400μmのモード繊維粒子サイズを有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。
【0111】
セルロースを含む繊維性基材はミクロフィブリル化することができ、Malvemにより測定すると、約10以上の繊維峻度を有するミクロフィブリル化セルロースが得られる。繊維峻度(すなわち、繊維の粒子サイズ分布の峻度)は下記式により決定される:
【0112】
峻度=100×(d30/d70)
【0113】
ミクロフィブリル化セルロースは約100以下の繊維峻度を有し得る。ミクロフィブリル化セルロースは約75以下、または約50以下、または約40以下、または約30以下の繊維峻度を有し得る。ミクロフィブリル化セルロースは、約20~約50、または約25~約40、または約25~約35、または約30~約40の繊維峻度を有し得る。一実施形態では、好ましい峻度範囲は約20~約50である。
【0114】
1つの実施形態では、粉砕容器はタワーミルである。タワーミルは、1つ以上の粉砕ゾーン上方に静止ゾーンを含み得る。静止ゾーンはタワーミルの内部の頂上近くに配置された領域であり、そこでは、粉砕は最小限にしか、または全く、起こらず、ミクロフィブリル化セルロースおよび無機微粒子材料を含む。静止ゾーンは、粉砕媒体の粒子が、タワーミルの1つ以上の粉砕ゾーン中に沈降する領域である。
【0115】
タワーミルは、1つ以上の粉砕ゾーン上方に分類器を含み得る。一実施形態では、分類器は上部に取り付けられており、静止ゾーンに隣接して配置される。分類器は液体サイクロンであってもよい。
【0116】
タワーミルは、1つ以上の粉砕ゾーン上方にスクリーンを含み得る。一実施形態では、スクリーンは静止ゾーンおよび/または分類器に隣接して配置される。スクリーンは、粉砕媒体を、ミクロフィブリル化セルロースを含む生成物水性懸濁液から分離する、かつ、粉砕媒体沈降を増強するようなサイズとされ得る。
【0117】
一実施形態では、粉砕はプラグ流条件下で実施される。プラグ流条件下では、タワーを通る流れは、タワーを通る粉砕材料のミキシングが制限されるようなものとされる。これは、タワーミルの長さに沿った異なる点で、水性環境の粘度が、ミクロフィブリル化セルロースの微粉度が増加すると共に変動することを意味する。よって、実際には、タワーミル内の粉砕領域は、特性粘度を有する1つ以上の粉砕ゾーンを含むと考えることができる。当業者であれば、粘度に関しては隣接する粉砕ゾーン間ではっきりした境界はないことを理解するであろう。
【0118】
一実施形態では、水が、1つ以上の粉砕ゾーン上方の静止ゾーンまたは分類器またはスクリーンに最も近いミルの頂点で添加され、ミル内のそれらのゾーンでのミクロフィブリル化セルロースを含む水性懸濁液の粘度が低減される。ミル内のこの点で生成物ミクロフィブリル化セルロースを希釈することにより、静止ゾーンおよび/または分類器および/またはスクリーンへの粉砕媒体持ち越しの防止が改善されることが見出されている。さらに、タワーを通るミキシングの制限により、タワーを下がるより高い固体での加工処理が可能となり、頂点で希釈し、希釈水のタワーに戻って1つ以上の粉砕ゾーンに入る逆流が制限される。ミクロフィブリル化セルロースを含む生成物水性懸濁液の粘度を希釈するのに有効な任意の好適な量の水が添加され得る。水は粉砕プロセス中連続して、または一定の間隔で、または不規則な間隔で添加され得る。
【0119】
別の実施形態では、水は1つ以上の粉砕ゾーンに、タワーミルの長さに沿って配置された1つ以上の水注入点を介して添加され得、その、または各水注入点は、1つ以上の粉砕ゾーンに対応する位置に配置される。便宜的に、タワーに沿った様々な点で水を添加する能力により、ミルに沿った任意のまたは全ての位置で粉砕条件のさらなる調整が可能となる。
【0120】
タワーミルは、その長さを通して一連の羽根車ローターディスクが取り付けられた垂直羽根車シャフトを含み得る。羽根車ローターディスクの動作により、ミルを通して一連の別々の粉砕ゾーンが作製される。
【0121】
別の実施形態では、粉砕は、スクリーングラインダー、好ましくは撹拌媒体デトライターにおいて実施される。スクリーングラインダーは、少なくとも約250μmの公称開口部サイズを有する1つ以上のスクリーン(複数可)を含むことができ、例えば、1つ以上のスクリーンは、少なくとも約300μm、または少なくとも約350μm、または少なくとも約400μm、または少なくとも約450μm、または少なくとも約500μm、または少なくとも約550μm、または少なくとも約600μm、または少なくとも約650μm、または少なくとも約700μm、または少なくとも約750μm、または少なくとも約800μm、または少なくとも約850μm、または少なくとも約900μm、または少なくとも約1000μmの公称開口部サイズを有し得る。
【0122】
真上で述べられたスクリーンサイズは、上記タワーミル実施形態に適用可能である。
【0123】
上述のように、粉砕は粉砕媒体の存在下で実施される。一実施形態では、粉砕媒体は、約1mm~約6mmの範囲、例えば約2mm、または約3mm、または約4mm、または約5mmの平均直径を有する粒子を含む粗媒体である。
【0124】
別の実施形態では、粉砕媒体は少なくとも約2.5、例えば、少なくとも約3、または少なくとも約3.5、または少なくとも約4.0、または少なくとも約4.5、または少なくとも約5.0、または少なくとも約5.5、または少なくとも約6.0の比重を有する。
【0125】
以上で記載される通り、粉砕媒体(または複数)は、充填量の約70体積%までの量で存在し得る。粉砕媒体は、充填量の少なくとも約10体積%、例えば、充填量の少なくとも約20体積%、または充填量の少なくとも約30体積%、または充填量の少なくとも約40体積%、または充填量の少なくとも約50体積%、または充填量の少なくとも約60体積%の量で存在することができる。
【0126】
1つの実施形態では、粉砕媒体は充填量の約50体積%の量で存在する。
【0127】
「充填量」により、グラインダー容器に送られる供給物である組成物が意味される。充填量は、水、粉砕媒体、およびセルロースを含む繊維性基材および任意の他の任意的な添加物(本明細書で記載されるもの以外)を含む。
【0128】
比較的粗いおよび/または高密度媒体の使用は、改善された(すなわち、より速い)沈降速度ならびに静止ゾーンおよび/または分類器および/またはスクリーン(複数可)を通る低減された媒体持ち越しという利点を有する。
【0129】
比較的粗いスクリーンを使用するさらなる利点は、ミクロフィブリル化工程において比較的粗いまたは高密度粉砕媒体を使用することができることである。加えて、比較的粗いスクリーン(すなわち、最小約250μmの公称開口部を有する)の使用により、比較的高い固体生成物が加工処理され、グラインダーから除去され、これにより、比較的高い固体供給物(セルロースを含む繊維性基材および無機微粒子材料を含む)が、経済的に実行可能なプロセスにおいて加工処理される。以下で論じられるように、高い初期固体含量を有する供給物がエネルギー充足度の観点から望ましいことが見出されている。さらに、(所定のエネルギーで)より低い固体で生成された生成物はより粗い粒子サイズ分布を有することもまた見出されている。
【0130】
1つの実施形態によれば、セルロースを含む繊維性基材は水性環境に少なくとも約1wt%の初期固体含量で存在する。セルロースを含む繊維性基材は水性環境に少なくとも約2wt%、例えば少なくとも約3wt%、または少なくとも約4wt%の初期固体含量で存在し得る。典型的には初期固体含量は約10wt%以下である。
【0131】
別の実施形態では、粉砕は粉砕容器のカスケードで実施され、その1つ以上が、1つ以上の粉砕ゾーンを含み得る。例えば、セルロースを含む繊維性基材は、2以上の粉砕容器のカスケード、例えば、3以上の粉砕容器のカスケード、または4以上の粉砕容器のカスケード、または5以上の粉砕容器のカスケード、または6以上の粉砕容器のカスケード、または7以上の粉砕容器のカスケード、または8以上の粉砕容器のカスケード、または9以上の粉砕容器のカスケード(直列)、または10までの粉砕容器を含むカスケードで粉砕され得る。粉砕容器のカスケードは直列で、または並列で、または直列と並列の組み合わせで動作可能にインキングされ得る。カスケード内の粉砕容器の1つ以上からのアウトプットおよび/またはそれらへのインプットは、1つ以上のスクリーニング工程および/または1つ以上の分類工程に供せられ得る。
【0132】
ミクロフィブリル化プロセスにおいて消費される総エネルギーは、カスケード内の粉砕容器の各々にわたって等しく分配され得る。あるいは、エネルギーインプットは、カスケードにおける粉砕容器のいくつかまたは全ての間で変動し得る。
【0133】
当業者であれば、容器あたりで消費されるエネルギーは、カスケードにおける容器間で、各容器におけるミクロフィブリル化される繊維性基材の量、任意で各容器における粉砕速度、各容器における粉砕期間および各容器における粉砕媒体の型によって変動し得ることを理解するであろう。粉砕条件は、ミクロフィブリル化セルロースの粒子サイズ分布を制御するために、カスケードにおける各容器において変動し得る。
【0134】
一実施形態では、粉砕は閉回路で実施される。別の実施形態では、粉砕は開回路で実施される。
【0135】
粉砕される材料の懸濁液は比較的高い粘度を有し得るので、好適な分散剤が、好ましくは、粉砕前に懸濁液に添加され得る。分散剤は、例えば、水溶性縮合リン酸塩、ポリケイ酸またはその塩、または高分子電解質、例えば、80,000以下の数平均分子量を有するポリ(アクリル酸)またはポリ(メタクリル酸)の水溶性塩であってもよい。使用される分散剤の量は、乾燥無機微粒子固体材料の重量に基づき、一般に、0.1~2.0重量%の範囲であろう。懸濁液は4℃~100℃の範囲の温度で好適に粉砕され得る。
【0136】
ミクロフィブリル化工程中に含めることができる他の添加物としては、下記が挙げられる:カルボキシメチルセルロース、両性カルボキシメチルセルロース、酸化剤、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、TEMPO誘導体、および木材分解酵素。
【0137】
粉砕される材料の懸濁液のpHは約7または約7超(すなわち、塩基性)であってもよく、例えば、懸濁液のpHは約8、または約9、または約10、または約11であってもよい。粉砕される材料の懸濁液のpHは約7未満(すなわち、酸性)であってもよく、例えば、懸濁液のpHは約6、または約5、または約4、または約3であってもよい。粉砕される材料の懸濁液のpHは、適切な量の酸または塩基の添加により調整されてもよい。好適な塩基は、アルカリ金属水酸化物、例えば、例えばNaOHを含んだ。他の好適な塩基は炭酸ナトリウムおよびアンモニアである。好適な酸は、無機酸、例えば塩酸および硫酸、または有機酸を含んだ。例示的な酸はオルトリン酸である。
【0138】
所望の水性懸濁液組成物を得るための典型的な粉砕プロセスにおける総エネルギーインプットは、典型的には、無機微粒子フィラーの総乾燥重量に基づき、約100~1500kWht-1となり得る。総エネルギーインプットは約1000kWht-1未満、例えば、約800kWht-1未満、約600kWht-1未満、約500kWht-1未満、約400kWht-1未満、約300kWht-1未満、または約200kWht-1未満であってもよい。そのようなものとして、本発明者らは、驚いたことに、セルロースパルプは、無機微粒子材料の存在下で共粉砕される場合、比較的低いエネルギーインプットでミクロフィブリル化することができることを見出した。明らかになるように、セルロースを含む繊維性基材中の乾燥繊維の1メートルトンあたりの総エネルギーインプットは、約10,000kWht-1未満、例えば、約9000kWht-1未満、または約8000kWht-1未満、または約7000kWht-1未満、または約6000kWht-1未満、または約5000kWht-1未満例えば約4000kWht-1未満、約3000kWht-1未満、約2000kWht-1未満、約1500kWht-1未満、約1200kWht-1未満、約1000kWht-1未満、または約800kWht-1未満である。総エネルギーインプットは、ミクロフィブリル化される繊維性基材中の乾燥繊維の量、任意で粉砕速度および粉砕期間によって変動する。
【0139】
ミクロフィブリル化セルロースを含むバイオコンポジット
ラウリン酸ビニル表面改質MFC(「VL-MFC」)の調製
VL-MFCを、VLによるMFCの表面機能化により、Dhuiegeらにより報告されているエステル交換プロセスに従い、改質を用いて得た。簡単に言うと、19.2gの16%MFCケーキ(3gMFC質量)を500mLの水に高せん断混合(7000rpm、3分)により分散させ、次いで、1000mLフラスコ中に添加した。K2CO3溶液(2gを含む20mL水)および4.5gのVLをMFC懸濁液に添加し、混合物を磁気撹拌下80℃で72時間加熱した。次いで、反応混合物を室温まで冷却した。混合物をBuchner漏斗に通して濾過し、水およびメタノールで洗浄し、K2CO3および未反応VLを除去した。次いで、得られたVL-MFCを60℃で一定重量までオーブン乾燥させた。完全に乾燥させた後、VL-MFCをIKA2900001Economical Analytical Millを用いて粉砕した。未改質MFCを、この明細書における実施例で明記される表面改質MFCと同様に加工処理した。
【0140】
VL-MFC/PLA複合物の調製
PLA複合物を配合するために使用する前に、全ての材料を80℃オーブンで4時間乾燥させ、試料中の水分を除去した。PLA+VL-MFC複合物を溶融ミキサ(Intelli-Torque Plasti-Corderハーフサイズミキサ、C.W. Brabender, Instruments Inc.)において、PLAを175℃で3分間60rpmで溶融させ、次いで、所望の量のVL-MFCを徐々にPLA溶融物に添加し、さらに5分間せん断混合することにより調製した。無添加PLAおよびPLA+MFC複合物を同じ条件で調製した。VL-MFCおよびMFCの含量は5~30質量%の範囲であった。配合後、1mmの厚さの薄膜試料を圧縮成形により180℃で調製した。薄膜を切断してスライスとし、次いで、180℃で圧縮成型して均一なバーとし、さらに切断してドッグボーン標本とした(ASTM D638タイプV)。ASTM標準D638-03。プラスチックの引張特性のための標準試験方法。West Conshohocken, PA: ASTM International. 2003。
【0141】
実施例
キャラクタリゼーション。
減衰全反射赤外スペクトル(ATR-IR)
MFC、VL-MFC、およびPLA複合物のATR-IRスペクトルを、ダイヤモンドATRアタッチメントを有するPerkinElmer Frontierフーリエ変換赤外(FTIR)/近赤外(NIR)分光計を用いて、2cm-1のスペクトル分解を用いて4000-600cm-1の範囲で測定した。
【0142】
接触角(CA):MFCおよびVL-MFCの表面疎水性をSCA20ソフトウェアにより制御される接触角計(OCA15EC Datapysics Instrument)を使用して評価した。ガラススライド上のMFCおよびVL-MFC懸濁液由来のキャストフィルムを測定のために使用した。各測定のために、2μLの脱イオン水を標本上に室温で0.5μLの射出速度を用いて分配した。画像取込を、IDSビデオカメラを使用して記録した。静止接触角を約20秒後、水滴が表面と接触した時に測定した。6つの試験を異なる試料上で繰り返し、平均接触角を計算した。
【0143】
機械的特性。応力ひずみ曲線を、ドッグボーン標本を室温で、サーボ-油圧試験機により2000Nローディングセルを用いて、1.5mm/分の速度で延ばすことにより取得した。各試料について少なくとも5つの標本を試験し、平均を記録した。
【0144】
レオロジー試験。PLA複合物をホットプレスし、レオロジー特性試験のためのフィルム(1mm厚)とした。測定をDiscovery Hybrid Rheometer(TA Instruments)を用いて、180℃で、線形粘弾性領域内で、ギャップを800μmとして実施した。8mm直径を有する平行板形状を周波数掃引(0.01-100rad/s)試験のために適用した。100rad/sで0.01%から20%までのひずみ掃引試験を各試料について実施し、線形粘弾性領域内のひずみの使用を確保した。
【0145】
動的機械分析(DMA):DMAを、DMAQ800(TA Instruments)機を使用して多周波数ひずみモードで実施した。圧縮成型した試料(3×10×63mm3)を試験片として使用した。試料を、デュアルカンチレバークランプを用いて固定し、測定を1Hzの一定周波数で、25~120℃の温度範囲を用いて、3℃/分の傾斜率で実施した。
【0146】
示差走査熱量測定(DSC):PLA複合物の熱特性をQ2000(TA Instruments)により研究した。最初に、試料(4-8mg)を20から200℃まで加熱し、5分間200℃で安定化させた。次いで、第2の加熱サイクルのために、試料を20℃まで冷却し、再び200℃まで加熱した。加熱および冷却速度を全て5℃/分で固定した。結晶化度(χ
c)をEq.(1)を使用して、第2の加熱曲線を用いて計算し、
【数1】
式中、ΔH
m、ΔH
c、およびΔH
100は、それぞれ、溶融、結晶化、および100%結晶PLAのエンタルピーである。計算に使用されたΔH
100値は93J/gであった。wは試料中のPLAの重量分率である。
【0147】
熱重量分析(TGA):TGAを室温から700℃まで、4-8mgの試料サイズを用いて、TA Instruments Q500において窒素流下で実施した。試料を70℃まで加熱し、30分間の等温プロセスにおいて水分を除去し、次いで、700℃まで5℃/分の加熱速度で傾斜させた。
【0148】
走査型電子顕微鏡(SEM):引張試験後のPLA複合物の断面にイリジウムをスパッタリングし、次いで、Zeiss Merlin VP SEM/0を用い、1keVの低電圧を用いて撮像した。MFCおよびVL-MFC繊維のSEMでは、それらの水性懸濁液をシリコンウエハ上に滴下し、空気乾燥させ、次いでイリジウムをスパッタリングし、SEMにより撮像した。エッチング表面を観察するために、VL-MFC-強化PLAを液体窒素中で破壊させ、ジクロロメタン浴中でエッチングし、次いで、イリジウムでコートした後SEMにより撮像した。
【0149】
X線光電子分光法(XPS):XPSをThermo Scientific Model K-Alpha XPS機器上で実施した。これには、30~400ミクロンのスポットサイズの範囲に焦点が合わせられたマイクロフォーカス、単色Al Kα X線(1486.6eV)が備えられた。広域エネルギー調査スペクトル(0-1350eV)を定性および定量分析のために獲得した(パスエネルギー=200eV;ステップサイズ=1.0eV)。同定した元素の化学結合を、コアレベルスペクトルを狭いエネルギー範囲にわたって収集することにより評価した(パスエネルギー=50eV;ステップサイズ=0.1eV)。Thermo Scientific Avantage XPSソフトウェアパッケージ(v.4.61)をデータ収集および処理のために使用した。必要とあれば、スペクトルを、284.6eVに設定されたC1sコアレベルピークを使用して電荷補正した。スペクトルのカーブフィッティング(デコンボリューション)を、OriginPro 2018を用いて分析した。
【0150】
VL-MFCの合成およびキャラクタリゼーション
MFCのVLによる化学修飾を、
図1Aに示されるように、水相におけるエステル交換反応により実施した。反応後、生成物を分離し、オーブン乾燥させ、水を除去した。反応をATR-IRスペクトルにより確認し(
図1B)、C=O基に属する1730cm
-1のピークが改質後に現れる。VL-MFCの熱安定性はまた、TGA(a)により特徴付けられ、これにより、VL-MFCについて同様の熱安定性が示唆され、T
5%(TGAにおける5%重量減少温度)がわずかに減少する。SEM画像(
図1Cおよび
図1D)もまた、化学修飾後の形態変化を特徴づけるために記録された。結果により、VL-MFCは改質後にそのフィブリル構造を保持することが示される。反応をさらに確認するために、MFCおよびVL-MFCのXPSを実施し、表面元素種を同定した。
図1Eに示されるように、MFCのC1sスペクトルは、284.8、286.5、および287.8eVの3つのピークでフィッティングされ、それらは、それぞれ、C-C、C-OH、およびO-C-Oに割り当てられる。VL-MFCのC1sスペクトルは284.7、286.5、287.9、および288.9eVの4つのピークでフィッティングされ;ならびに、C=O(288.9eV)に割り当てられた新しいピークが同定され、エステル基の導入の成功が示唆される。その一方、VL-MFCにおけるC-Cのピーク強度は、セルロースバックボーンに結合された長いアルキル鎖の結果として、MFCと比較して増強される。VL-MFCにおけるC-OHのピーク強度は、改質後の表面OH基の低減のために、改質後減少する。同様に、C=OピークがまたVL-MFCのO1sスペクトルにおいて見られる(
図1F)。これらの結果により、MFCは改質後、VLによりうまく機能化され、フィブリル構造は保存されたことが示唆される。
【0151】
反応後、VL-MFC表面は、疎水基の導入のために、MFC表面よりも親水性が低いと予想された。
図2Aおよび2Bに示されるように、MFCの接触角は、改質後、25°(MFC)から50°(VL-MFC)まで増加し、エステル交換反応はMFCの親水性をうまく低減させることが示される。同じ条件下での粉砕後、MFCは粉末となり(
図2C)、一方、VL-MFCは綿毛状の、多孔性フィブリル材料となる(
図2F)。粉砕MFC(
図2Dおよび2E)およびVL-MFC(
図2Gおよび2H)のSEM画像によっても、粉砕MFCは粒子となり、そのフィブリル構造を失うが、一方、VL-MFCはフィブリル構造を保持し、いくらかの弱凝集を有することが確認される。これらの結果により、VL-MFCはオーブン乾燥後に、強く結合されず、粉砕により容易に分離することができることが示唆される。この結果は、化学修飾後の水素結合強度の低減により説明できるであろう。
【0152】
複合物の機械的特性
VL-MFCおよびMFCをPLAのための強化フィラーとして使用した。複合物をPLAと、5~30wt%の範囲の繊維含量で、175℃で、直接配合させ、次いで圧縮成型させ、試験のための標準試料とした。引張試験結果を
図3Aに示す。MFC-強化PLAについては、引張強さはMFC含量が増加するにつれ減少し、無添加PLAと比較して(60MPa)、MFC含量が30%(45MPa)となった時に25%だけ減少する。MFC-強化PLAのヤング率は無添加PLAと比較して、およそ12%だけ、わずかに増加する。これらの結果により、乾燥させたMFCは、MFC弱凝集、および、親水性MFCと疎水性PLAマトリクスの間の不適合性のために、PLA強化材として不適切であることが示唆される。その上、
図2Cおよび2Fに示されるように、オーブン-乾燥させたMFCは、粉砕後、崩壊して粒子となり、そのフィブリル構造を喪失するので、繊維の高アスペクト比の利点が失われ、これにより、MFCはポリマー強化のためのよくない候補となる。
【0153】
他方、VL-MFCでは、改質後親水性が減少し、そのため、VL+MFCとPLAの適合性が改善される。
図3Aに示されるように、引張強さは、5%VL-MFCが添加された後、60から70MPaまで増加する。PLA複合物の引張強さはVL-MFC含量と共に増加し、30%VL-MFCの添加後、82MPaに達する-無添加PLAと比較して38%、および、PLA+30%MFCと比較して82%の増加。VL-MFC複合物のヤング率は無添加PLAと比較して71%だけ増加し、オーブン-乾燥されたVL-MFCは優れた強化効果を提供することが示唆される。この結果は、表面改質後の、VL-MFCとPLAマトリクスの間の改善された適合性およびVL-MFCの良好な分散により説明することができる。
【0154】
複合物の形態
複合物の形態をSEMにより調査した。
図4A~4Jにより示唆されるように、無添加PLAは滑らかな断面を有し、およびPLA+MFC複合物は大量のMFC弱凝集を有する。MFC含量が低い、例えば、5%および10%(
図4Cおよび4F)場合、MFCとPLAの間で明確な相分離が観察され、MFCとPLAの間の不適合性が示唆される。MFC粒子は複合物中で欠陥として作用し、複合物特性を低下させる。MFC含量が増加すると、より多くの弱凝集が観察される。これらの結果により、MFCの不十分な分散およびMFCとPLAマトリクスの間の不適合性が示唆され、これにより、PLA+MFC複合物の不十分な機械的特性が説明できるであろう。
【0155】
PLA+VL-MFC複合物については、
図5に示されるように、より高い分散度が観察された。PLA+5%VL-MFCおよびPLA+10%VL-MFC複合物について、2つの異なるセル状構造形態(
図5Bおよび5E)および比較的均質な構造が観察された。PLA+5%VL-MFCについては、セル状構造において相分離が観察された(
図5A)。VL-MFC含量の10%への増加に伴い(
図5D)、VL-MFCネットワークのフィブリル構造のPLA浸透がセル状領域において観察された。最終的には、繊維含量が増加し続けるにつれ、セル状構造が消失する。代わりに、20%および30%VL-MFC含量では、均質形態が観察される。低い繊維含量を有する試料中のセル状構造の観察は局所繊維弱凝集のために可能である。改質後、疎水性は、
図2に示されるように減少するが;しかしながら、繊維は依然として親水性であり、強凝集する傾向を有する。その上、VL-MFC含量が低い場合、VL-MFCはセルロースネットワーク-セル状構造形成のための別の可能性のある理由、を形成することができない。
【0156】
セル状形態にも関わらず、PLA+5%VL-MFCおよびPL+10%VL-MFCにおける比較的均質な相もまた観察される(
図5Cおよび5D)。これらの相では、繊維をはっきりと見ることができ、相分離はなく、改善された適合性が示唆される。VL-MFC含量の増加に伴い(
図5F)、フィブリル構造が現れる。PLA+20%VL-MFCおよびPLA+30%VL-MFCでは、繊維ネットワークもまた形成し得る。空隙、圧縮成型した試料についての一般的な現象が同様に観察される。PLAマトリクス中でのVL-MFCの均質分散は、優れた機械的強化という結果になる。その上、VL-MFC含量の増加、とりわけ10%から20%に伴う形態変化は、
図3Bにおいて、ヤング率の3.9GPa(PLA+10%VL-MFC)から5.2GPa(PLA+20%VL-MFC)への変化の証拠を提供する。それは、VL-MFC含量の増加に伴う浸透ネットワークの形成の可能性を示す。
【0157】
複合物におけるセルロースネットワークの形成を確認するために、VL-MFC-強化複合物の破面をジクロロメタン中でエッチングしてPLAを除去し、次いで、SEMにより観察した(
図6)。いくつかのフィブリル構造がPLA+5%VL-MFC(
図6A)およびPLA+10%VL-MFC(
図6B)において観察されるが;しかしながら、優位相はPLAであり、エッチングプロセス中に、いくらかのVL-MFCがPLAと共に除去されたことが示唆される。VL-MFCが20%まで増加すると(
図6C)、VL-MFC繊維は絡まり、セルロースネットワークを形成する。PLA+30%VL-MFC複合物では、明確なVL-MFCネットワークおよび多くのVL-MFC繊維束が観察される。これらの結果により、VL-MFC含量が増加するにつれ、VL-MFCはネットワークを形成し、その強化特性が改善されることが確認される。同様のセルロースネットワークがQiらにより、MFC-強化ポリ(炭酸プロピレンにおいて)観察された。Qi, X.; Yang, G.; Jing, M.; Fu, Q.; Chiu, F.-C., Microfibrillated cellulose-reinforced bio-based poly(propylene carbonate) with dual shape memory and self-healing properties. J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 20393-20401。
【0158】
動的機械分析
改質および未改質MFCの複合物の粘弾性への影響を調査するためにDMA(
図7)を実施した。貯蔵弾性率(E’)対温度の対数曲線(
図7Aおよび7B)により、温度変化に伴い複合物において明確な3つの領域が示される:ガラス状領域(56℃未満)、ガラス転移(T
g)(約56-80℃)、及びゴム状態(約80-100℃)。ガラス状領域では、E’は、PLA+VL-MFC複合物において、VL-MFC含量と共に増加し(表1)、VL-MFC含量に比例し、PLA複合物中でのVL-MFCの良好な分散が示される。この所見により、PLAにおけるVL-MFCの強い強化効果は、浸透セルロースネットワークの形成によることが示唆される。PLA+MFCでは、E’は、無添加PLAと比較して、MFCの添加後わずかに増加する;が、値は、同じ繊維含量のPLA+VL-MFCよりずっと低い。ガラス転移温度(T
g)領域では、全ての複合物のE’が降下するが、VL-MFC-強化PLAのE’値(表1)は、無添加PLAおよびPLA+MFCよりも著しく高い。PLA+VL-MFCおよびPLA+MFC複合物のE’の増加およびtanδ値の減少(
図11、表1)により、VL-MFCおよびMFCは複合物におけるPLA鎖移動度を制限することが示唆される。その上、PLAのT
gは繊維の添加に伴いわずかに増加する。ゴム状領域では、E’値の増加を反映する強化効果(表1)がVL-MFCの添加後、同様に、観察され、フィラー含量が増加するにつれ、効果はより顕著になる。MFC-強化PLAではまた、ゴム状領域のE’が増加するが、効果は最小であり、表1において詳述される。これらの結果により、改質後、VL-MFCとPLAマトリクスの適合性が改善し、PLA+VL-MFC複合物において著しい強化効果が観察されたことが示唆される。
【表1】
【0159】
レオロジー特性
VL-MFCおよびMFCの複合物のレオロジー特性への影響を調査した。
図7Cに示されるように、VL-MFCをPLAに導入すると、PLA+VL-MFC複合物の貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が劇的に増加し、効果は低周波数領域においてより顕著である。これらの結果は、VL-MFC繊維は変形を制限するという事実により説明することができるであろう。PLA+VL-MFCのG’およびG”のどちらも、VL-MFC含量が増加するにつれ増加する。無添加PLAでは、G”値は、G’値より高く;ならびにG’とG”の間にクロスポイントは存在せず、無添加PLAは0.1-100rad/sの周波数範囲において液体のように挙動することが示される。PLA+5%VL-MFCおよびPLA+10%VL-MFCのG’およびG”は低角周波数領域(約1rad/s)においてクロスポイントを示し、それらは、より高いせん断領域では液体、および、低せん断周波数領域では固体のように挙動することが示唆される。VL-MFC含量が20および30%まで増加するにつれ、クロスポイントは消え、全周波数領域においてG’>G”となり、PLA+20%VL-MFCおよびPLA+30%VL-MFCは、液体ではなく固体として挙動することが示唆される。対照的に、MFC-強化PLA複合物(
図7D)では、G’は、PLA+30%MFC(これはMFCの剛性のために、他の試料よりも高いG’を有する)を除き、低周波数領域(0.1-1rad/s)および高周波数領域でMFC含量と共に増加する。加えて、PLA+MFC複合物については全周波数領域において、G”>G’が観察され、これらのMFC-強化複合物は、液体のように挙動することが示唆される。PLA+VL-MFC複合物と比べて、PLA+MFC複合物のG’値はずっと低く、より有効でない強化が示される。
【0160】
VL-MFC-強化複合物の複素粘度(η
*、
図12)は5%VL-MFCの添加で劇的に変化し、VL-MFC含量に比例して増加した(
図12、インサート)。η
*の変化は、VL-MFCによるPLA鎖の動きの制限によるものであった。PLA複合物全てのη
*は周波数が増加するにつれ減少し、非ニュートン挙動を示した。ずり減粘挙動が観察され、流れ方向でのVL-MFCおよびPLA鎖の解きほぐしによる粘性抵抗の低減に起因する可能性がある。PLA+MFC複合物では(
図12B)、η
*はMFC含量に対して明確な関係を有さず、それらのη
*値は、PLA+10%MFCを除き、PLA値よりも高かった。
【0161】
PLA+VL-MFC複合物のη*および貯蔵弾性率の劇的変化は、VL-MFC含量の増加に伴う液体-固体転移を明確に示す。この転移はポリマー鎖およびナノフィラー(この場合VL-MFC)の相互接続ネットワークの形成により引き起こされた。同様の効果がリグニンコートCNC-強化PLA複合物において観察された。24VL-MFC繊維が物理的架橋点として作用し;ならびに、レオロジー浸透限界濃度を上回ると、VL-MFCネットワークが形成し、よってせん断力下でのPLA鎖の移動度を防止した。
【0162】
熱特性
複合物の熱特性をTGA(
図13)およびDSC(
図14)により研究し、詳細な結果が表2に示される。熱安定性がMFCおよびVL-MFCの添加に伴い減少し、T
5%値は、繊維含量の増加に伴い減少し、というのも、セルロース繊維は、PLAよりも熱的に安定ではないからである。DSC結果により、PLA+MFCおよびPLA+VL-MFC複合物のT
gおよび融解温度は同様であり、わずかな変化を有することが示唆される。結晶化ピーク(低温結晶化)は、PLA+VL-MFC複合物についてはVL-MFC含量の増加と共に減少し、PLA+VL-MFC複合物の結晶化がより容易になっていることが示唆される。計算した結晶化度は、PLA+VL-MFC複合物についてのVL-MFC含量と共に著しく増加し、PLA+30%VL-MFCについては16%に到達し、VL-MFCはPLAの結晶化を誘導することができることが示唆される。これはまた、冷却サークルにおいて証明されており(
図14B)、この場合、結晶化ピーク(85℃)がPLA+20%VL-MFCおよびPLA+30%VL-MFC複合物において冷却中に現れる。無添加PLAおよびPLA/MFC複合物については冷却中、結晶化はない(
図14B)。セルロース繊維はPLA結晶化を誘導することができることが報告されている。これにより、結晶化度の増加が説明できるであろう。Yu, H. Y.; Zhang, H.; Song, M. L.; Zhou, Y.; Yao, J.; Ni, Q. Q., From cellulose nanospheres, nanorods to nanofibers: Various aspect ratio induced nucleation/reinforcing effects on polylactic acid for robust-barrier food packaging. ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 43920-43938; Ding, W.; Jahani, D.; Chang, E.; Alemdar, A.; Park, C. B.; Sain, M., Development of PLA/cellulosic fiber composite foams using injection molding: Crystallization and foaming behaviors. Compos. Part A Appl. Sci. Manuf. 2016, 83, 130-139。Suryanegaraらは、PLA機械的特性に対する結晶化度の効果を、核形成剤(nucleant)フェニルホスホン酸亜鉛(PPA-Zn)を添加することにより調査し、増加した結晶化度はPLAの引張強さを改善しなかったことを見出した。Suryanegara, L.; Okumura, H.; Nakagaito, A. N.; Yano, H., The synergetic effect of phenylphosphonic acid zinc and microfibrillated cellulose on the injection molding cycle time of PLA composites. Cellulose 2011, 18, 689-698。そのため、PLA+VL-MFC複合物の改善された機械的特性は繊維強化効果によるものである。
【表2】
【0163】
複合物のXPSおよびFTIRスペクトルを記録し、VL-MFCとPLAマトリクスの間の可能性のある界面相互作用を同定した。
図8Aに示されるように、PLAのC1sスペクトルは284.9、287.0、および289.1eVを中心とする3つのピークを含み、それらは、それぞれ、C-C、O-C-O、およびC=Oに属する。VL-MFCをPLAマトリクスに導入した後、289.1および287.0eVのピークは、それぞれ、288.8および286.7eVにシフトした。このピークシフトは、新しい炭素環境がVL-MFCの添加の結果として現れたことを示す。これらの新しいピークはVL-MFCの炭素信号から生成せず、VL-MFCとPLAの間の強い界面相互作用-おそらく水素結合および疎水性相互作用が示唆される。PLA+MFC複合物におけるピーク(284.9、287.0、および289.1eV)はMFCがPLAマトリクスに添加された後同じままであり(
図15)、親水性MFCと疎水性PLAの間の弱い界面相互作用が示唆される。
【0164】
その上、FTIRスペクトル(
図8、および
図16)はMFCおよびPLAと比べてVL-MFCとPLAの間の改善された界面相互作用の証拠を示す。PLAにおける1748cm
-1のピーク(C=O)はVL-MFC含量の増加に伴いより高い波数にシフトし(
図8b)、PLA鎖とVL-MFCの間の水素結合形成の可能性が示唆される。
25しかしながら、PLA+MFC複合物においてはそのようなシフトは存在しない(
図15B)。そのため、セルロース繊維とPLAの間の界面相互作用は改質後に増強され、強い強化効果につながった。
【0165】
前に論じられたように、VLによる改質後、依然としていくらかの強凝集体が存在したにもかかわらず、MFCの親水性は減少し、フィブリル構造は保存された。VL-MFCがPLAマトリクスに組み入れられた後、それはよく分散し、セルロースネットワークを形成した(
図9)。これらのネットワークは複合物において強化役割を果たす。ナノセルロース、例えば、CNFフィルム(引張強さ約100MPa)はPLAより強い材料である。Li, K.; Skolrood, L.; Aytug, T.; Tekinalp, H.; Ozcan, S., Strong and tough cellulose nanofibrils composite films: Mechanism of synergetic effect of hydrogen bonds and ionic interactions. ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 14341-14346。外力が複合物に適用されると、これらのセルロースネットワークは、エネルギーを放散させるのを助け、複合物を無添加PLAよりも強くする。加えて、VL-MFCとPLAの間の水素結合または疎水性相互作用による界面接着が確認された。セルロースネットワークおよび界面接着によりフィラー(VL-MFC)とPLAマトリクスの間の有効なローディング移動が可能になり、よってPLAが強化された。他方、MFCについては、オーブン乾燥後に得られた粒子は、個々のセルロース粒子間の強い水素結合のために、ポリマーマトリクス中で強凝集する傾向があった。その上、界面接着が弱く-MFC粒子は欠陥として作用し、外力下で容易に壊れる傾向があり、
図3で観察されるように、複合物の不十分な機械的特性という結果になった。
【0166】
セルロース繊維-強化PLAとの比較
VL-MFCの強化性能を比較するために、多くの報告からのセルロース繊維-強化PLA複合物の機械的特性を下記表3にまとめて示す。ミクロフィブリル化セルロースの良好な分散を達成するために、溶液混合または溶液流延を使用して、MFC/CNF-強化PLAを調製し;引張強さは77MPaに到達し、およそ5GPaの合理的なヤング率を有した。Iwatake, A.; Nogi, M.; Yano, H., Cellulose nanofiber-reinforced polylactic acid. Compos. Sci. Technol. 2008, 68, 2103-2106; onoobi, M.; Harun, J.; Mathew, A. P.; Oksman, K., Mechanical properties of cellulose nanofiber (CNF) reinforced polylactic acid (PLA) prepared by twin screw extrusion. Compos. Sci. Technol. 2010, 70, 1742-1747; Suryanegara, L.; Nakagaito, A. N.; Yano, H., Thermo-mechanical properties of microfibrillated cellulose-reinforced partially crystallized PLA composites. Cellulose 2010, 17, 771-778; Okubo, K.; Fujii, T.; Thostenson, E. T., Multi-scale hybrid biocomposite: Processing and mechanical characterization of bamboo fiber reinforced PLA with microfibrillated cellulose. Compos. Part A Appl. Sci. Manuf. 2009, 40, 469-475;およびSuryanegara, L.; Nakagaito, A. N.; Yano, H., The effect of crystallization of PLA on the thermal and mechanical properties of microfibrillated cellulose-reinforced PLA composites. Compos. Sci. Technol. 2009, 69, 1187-1192。しかしながら、溶液に基づくプロセスはコストがかかり、大規模付加製造などの大量複合物適用のためにスケールアップするのが困難である。化学修飾されたセルロース繊維、または結晶-例えば無水マレイン酸-改質CNC(Pandey, J. K.; Lee, C. S.; Ahn, S.-H., Preparation and properties of bio-nanoreinforced composites from biodegradable polymer matrix and cellulose whiskers. J. Appl. Polym. Sci. 2010, 115, 2493-2501)、アセチル化CNF/CNC(Lin, N.; Huang, J.; Chang, P. R.; Feng, J.; Yu, J., Surface acetylation of cellulose nanocrystal and its reinforcing function in poly(lactic acid). Carbohydr. Polym. 2011, 83, 1834-1842; Jonoobi, M.; Mathew, A. P.; Abdi, M. M.; Makinejad, M. D.; Oksman, K., A comparison of modified and unmodified cellulose nanofiber reinforced polylactic acid (pla) prepared by twin screw extrusion. J. Polym. Environ. 2012, 20, 991-997;およびLee, J. H.; Park, S. H.; Kim, S. H., Surface modification of cellulose nanowhiskers and their reinforcing effect in polylactide. Macromol. Res. 2014, 22, 424-430)3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン-改質CNF(Qu, P.; Zhou, Y.; Zhang, X.; Yao, S.; Zhang, L., Surface modification of cellulose nanofibrils for poly(lactic acid) composite application. J. Appl. Polym. Sci. 2012, 125, 3084-3091)など(Suryanegara, L.; Okumura, H.; Nakagaito, A. N.; Yano, H., The synergetic effect of phenylphosphonic acid zinc and microfibrillated cellulose on the injection molding cycle time of PLA composites. Cellulose 2011, 18, 689-698; Xiao, L.; Mai, Y.; He, F.; Yu, L.; Zhang, L.; Tang, H.; Yang, G., Bio-based green composites with high performance from poly(lactic acid) and surface-modified microcrystalline cellulose. J. Mater. Chem. 2012, 22, 15732-15739; Tanpichai, S.; Sampson, W. W.; Eichhorn, S. J., Stress-transfer in microfibrillated cellulose reinforced poly(lactic acid) composites using Raman spectroscopy. Compos. Part A Appl. Sci. Manuf. 2012, 43, 1145-1152; Arias, A.; Heuzey, M.-C.; Huneault, M. A.; Ausias, G.; Bendahou, A., Enhanced dispersion of cellulose nanocrystals in melt-processed polylactide-based nanocomposites. Cellulose 2014, 22, 483-498;およびRobles, E.; Urruzola, I.; Labidi, J.; Serrano, L., Surface-modified nano-cellulose as reinforcement in poly(lactic acid) to conform new composites. Ind. Crop. Prod. 2015, 71, 44-53)もまた報告されているが;しかしながら、それらの引張強さは増加し、ヤング率は改善せず、または、減少すらした。溶液プロセスはまた、これらの試みにおいて使用される主な方法であった。凍結乾燥CNF(40%繊維含量)の、PLAとの溶融配合による直接混合では、それぞれ、100MPaおよび9GPaまでの引張強さおよびヤング率を有する複合物が生成され得る。しかしながら、凍結乾燥はまた、費用がかかり、スケールアップして、乾燥CNFを生成させるのが困難である。対照的に、オーブン-乾燥させたVL-MFCは、PLAと直接配合することができ、複合物が製造され、それらの機械的性能はこれまでに報告された最高値の1つであり-30%の凍結乾燥CNFで強化されたPLA複合物についての値に近い(90MPa引張強さおよび6.7GPaヤング率)。これらの結果により、表面改質とオーブン-乾燥させたセルロース繊維を組み合わせることは、高性能バイオコンポジット用途のために乾燥ミクロフィブリル化セルロースを作製するための有望な戦略であることが示唆される。
【表3】
【0167】
略語
ATR-IRは、減衰全反射赤外スペクトルを意味する。
【0168】
DSCは、示差走査熱量測定を意味する。
【0169】
DMAは、動的機械分析を意味する。
【0170】
e.s.d.は、球相当径を意味する。
【0171】
eVは、電子ボルトを意味する。
【0172】
MFCは、ミクロフィブリル化セルロースを意味する。
【0173】
PLAは、ポリ乳酸を意味する。
【0174】
SEMは、走査型電子顕微鏡を意味する。
【0175】
TGAは、熱重量分析を意味する。
【0176】
VL-MFCは、ラウリン酸ビニル-改質MFCを意味する。
【0177】
XPSは、X線光電子分光法を意味する。
【0178】
Tgは、ガラス転移温度を意味する。
【0179】
参考文献
【0180】
【0181】
本出願において論じられる参照文献は、それらの全体として参照により組み込まれる。
【0182】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願および刊行物はこれにより全体として参照により組み込まれる。これらの刊行物の開示内容は全体として、これにより、参照により本出願に組み込まれる。
【0183】
本明細書で引用される各および全ての特許、特許出願、刊行物、および受入番号の開示はこれにより、全体として、参照により本明細書に組み込まれる。
【0184】
発明について、その詳細な説明と共に記載してきたが、前記記載は本発明を説明するものであり、その範囲を制限するものではないことが意図され、本発明は、添付の特許請求の範囲により規定されることが理解されるべきである。他の態様、利点、および改変は下記特許請求の範囲内にある。
【0185】
前記実施形態および利点は、例示にすぎず、本発明を制限するものと解釈されるべきではない。本開示は他の型の方法に容易に適用することができる。また、本発明の実施形態の記載は例示であり、特許請求の範囲を制限するものではないことが意図される。多くの代替、改変、及び変更が当業者には明らかであろう。
【0186】
この明細書で記載される様々な実施形態は組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。実施形態の態様は、様々な特許、出願および刊行物の概念を採用するように、必要に応じて改変することができ、さらに別の実施形態が提供される。
【0187】
本開示内容は、様々な実施形態を参照して開示されているが、他の実施形態およびこれらの変更は、当業者により、本開示の真の精神および範囲から逸脱せずに考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような実施形態および等価な変更を含むと解釈されるべきであることが意図される。
【0188】
前記明細書は、当業者が実施形態を実施できるようにするのに十分であると考えられる。前記説明および実施例はある一定の実施形態を詳述し、発明者らにより企図される最良の形態を記載する。しかしながら、どんなに詳細に、前記がテキスト内で出現しようと、実施形態は多くの様式で実施することができ、添付の特許請求の範囲および任意のその等価物にしたがい解釈されるべきであることが認識されるであろう。
【国際調査報告】