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特表2023-5343791,4-ジメチルナフタレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】1,4-ジメチルナフタレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/367 20060101AFI20230802BHJP
   C07C 15/24 20060101ALI20230802BHJP
   C07C 5/31 20060101ALI20230802BHJP
   C07C 13/48 20060101ALI20230802BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230802BHJP
【FI】
C07C5/367
C07C15/24
C07C5/31
C07C13/48
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574268
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2021111655
(87)【国際公開番号】W WO2022257260
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110633219.5
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522450772
【氏名又は名称】河北中化▲フ▼恒股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】318006376
【氏名又は名称】有限会社佐藤企画
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】任 建坡
(72)【発明者】
【氏名】▲紀▼ 烈▲義▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲軍▼生
(72)【発明者】
【氏名】蒋 志▲強▼
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC12
4H006AC28
4H006BA09
4H006BA30
4H006BA33
4H006BC10
4H006BC37
4H006DA15
4H039CA40
4H039CH40
(57)【要約】
5-フェニル-2-ヘキセンを酸触媒の存在下で環化して、粗製1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンとし、これを脱水素して得られる粗製1,4-ジメチルナフタレンを蒸留精製する1,4-ジメチルナフタレンの製造方法において、1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン中の1,3-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン濃度を1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンに対して1.0%以下とする、1,4-ジメチルナフタレンの製造方法
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-フェニル-2-ヘキセンを酸触媒の存在下で環化して、粗製1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンとし、これを脱水素して得られる粗製1,4-ジメチルナフタレンを蒸留精製する1,4-ジメチルナフタレンの製造方法において、1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン中の1,3-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン濃度を1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンに対して1.0%以下とする、1,4-ジメチルナフタレンの製造方法。
【請求項2】
前記酸触媒が非結晶性シリカアルミナ触媒である、請求項1記載の1,4-ジメチルナフタレンの製造方法。
【請求項3】
液相での環化反応温度が200℃以下である、請求項2記載の1,4-ジメチルナフタレンの製造方法。
【請求項4】
1,4-ジメチルナフタレン中の1,4-ジメチルナフタレンに対する1,3-ジメチルナフタレンの割合が1.0%以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の1,4-ジメチルナフタレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性体含有量、特に1,3-ジメチルナフタレン(以下、「1,3-DMN」ともいう)含有量の少ない1,4-ジメチルナフタレン(以下、「1,4-DMN」ともいう)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-DMNは樹脂や染料の原料である1,4-ナフタレンジカルボン酸の中間原料として工業上重要である。
上記分野では、1,4-DMN中の異性体含有量は1.0%以下、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.4%以下が望まれている。
【0003】
環化反応によるジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン類の製造は、主に5-(o-トリル)-2-ペンテン(5-(o-tolyl)-2-pentene,以下「OTP」ともいう)の環化による1,5-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(以下「1,5-DMT」ともいう)について多く検討されている。1,5-DMTは脱水素工程、異性化工程、酸化工程による2,6-ナフタレンジカルボン酸(以下「2,6-NDCA」ともいう)製造の中間体として重要である。
【0004】
【化1】
【0005】
OTPの環化触媒は液相、気相反応共に主に結晶性シリカアルミナ触媒(crystalline silica-alumina catalyst)、すなわちゼオライト(zeolite)触媒を使う例が多い(例えば、特許文献1~4参照)。
ゼオライト触媒は強い酸性度があるため、アルカリ金属で処理して酸性度を調整し、120℃から250℃で環化する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、特許文献5に記載されているような方法は酸性度調整が難しいという欠点がある。
【0006】
環化反応は激しい発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応である。環化反応と脱水素反応とを組み合わせる技術が公開されている。1,5-DMTの1,5-ジメチルナフタレン(以下、「1,5-DMN」ともいう)への脱水素反応は、OTPの環化反応より高温で進行する。従って、環化と脱水素反応を1段で行うために、触媒をアルカリ金属等で処理して、200℃から500℃で一工程で環化、脱水素する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。特許文献6に記載されているような方法の場合、反応温度が高く、重合や異性化などの副反応が避け難いという問題がある。
【0007】
一方、OTPの2量化を抑制する目的で、環化反応に希釈剤や溶媒を使用する例が知られている(例えば、特許文献1、特許文献7及び特許文献8参照)。
1,5-DMTの脱水素反応による1,5-DMN製造は、液相脱水素反応ではパラジウム、白金、レニウムなどを単体で、または担持触媒として使用する例が多い。一方、気相脱水素反応では、上記触媒や、クロミア-アルミナ(chromia-alumina)触媒などが使用されている(例えば、特許文献9~12参照)。
このように、OTPから1,5-DMTあるいは1,5-DMNを製造する技術は多く検討されている。
【0008】
これに対して、5-フェニル-2-ヘキセン(以下、PHともいう)の環化による1,4-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(以下「1,4-DMT」ともいう)や1,4-DMN製造についても検討がなされている。
例えば、PHをリン酸類及び/又は固体リン酸触媒で環化する方法が知られている(例えば、特許文献7及び特許文献13参照)。
また、水素存在下で連続的に気相環化と気相脱水素を行い、PHから1,4-DMTを経由して1,4-DMNを1工程で製造する方法も知られている。(例えば、特許文献14参照)。特許文献14の方法では、気相環化触媒として固体リン酸触媒が記載されている。
【0009】
しかし、OTPの場合と同様に、PHの環化反応も、ゼオライトを触媒として用いる方法が圧倒的に多い(例えば、特許文献4、特許文献15、特許文献16、特許文献17参照)。文献記載の方法で製造した1,4-DMTを脱水素すると、1,4-DMN中の1,3-DMN濃度が1.0%を超える濃度となる問題があった。
【0010】
1,4-DMTの脱水素は文献公知の脱水素触媒が使用できる。勿論、1,5-DMTの方法を適用できる。
一方、気相脱水素触媒として担持白金触媒を使用する方法(例えば、特許文献14参照)や特定の不純物を制御して1,4-DMTを脱水素する方法(例えば、特許文献18参照)などが開示されている。
【0011】
1,4-DMNの精製方法としては、1,4-DMNと2,3-ジメチルナフタレン(以下、「2,3-DMN」ともいう)の混合物から1,3-DMNを吸着分離する方法が知られている(例えば、特許文献19参照)。しかしながら、特許文献19の方法では、1,4-DMNと2,3-DMNの混合物が得られだけで、しかも1,3-DMNの除去率が低い欠点がある。
【0012】
ジメチルナフタレン混合物から吸着剤で異性体を除去して1,4-DMNを分離する方法が提案されている(例えば、特許文献20参照)。しかし、吸着剤をジメチルナフタレンの3倍以上使用するなど、効率が悪く工業的とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】韓国特許出願公開第2007-0099241号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0232842号明細書
【特許文献3】特開平7-61941
【特許文献4】特表平3-500052
【特許文献5】米国特許第5034561号明細書
【特許文献6】特開平5-213782
【特許文献7】特開昭49-9348
【特許文献8】特開2000-239194
【特許文献9】特開平6-72910
【特許文献10】特開昭60-27694
【特許文献11】特開昭48-67261
【特許文献12】米国特許第3781375号明細書
【特許文献13】特開昭48-75557
【特許文献14】米国特許第3775497号明細書
【特許文献15】米国特許第5284987号明細書
【特許文献16】米国特許第4950825号明細書
【特許文献17】米国特許第5401892号明細書
【特許文献18】特開平7-69942
【特許文献19】特開2006-199689
【特許文献20】特開昭62-240632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、異性体、特に1,3-DMN含有量の少ない1,4-DMNの工業的製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが検討した結果、PHの環化脱水素により製造した1,4-DMNには、異性体として1,3-DMNを多く含んでいることが分かった。しかし、1,4-DMNと1,3-DMNは沸点差が小さいため、1,4-DMN中の1,3-DMNの蒸留分離は極めて困難である(下記表1参照)。
【0016】
【表1】
【0017】
1,4-DMNは酸触媒によって1,3-DMN、2,3-DMNに容易に異性化することが知られている(例えば米国特許第5118892号明細書参照)。従って、1,3-DMNの生成原因として、1,4-DMNの異性化と考えられてきた。しかし、本発明者らの実験では、異性化活性がない触媒を使用して1,4-DMTを脱水素しても、1,4 -DMN中の1,3-DMNを低減することが出来なかった。
【0018】
本発明者らが更に検討した結果、PHの環化反応で製造した1,4-DMT中には微量の1,3-DMNの他に相当量の1,3-DMTが存在することが分かった。1,4-DMT中の1,3-DMNは微量(1,4-DMTに対して0.01%以下)であり、1,4-DMN中の1,3-DMNの原因物質とは言えない。1,3-DMTは脱水素により1,3-DMNに転化するので、1,4-DMN中の1,3-DMNは1,4-DMT中の1,3-DMTが原因であることを見いだした。
【0019】
【化2】
【0020】
すなわち、本発明者らは、1,4-DMT中の1,3-DMTはPHの環化工程で生成し、1,4-DMN中の1,3-DMNの原因物質であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明の一の態様は、PHを酸触媒の存在下で環化して、粗製1,4-DMTとし、これを脱水素して得られる粗製1,4-DMNを蒸留精製する1,4-DMNの製造方法において、1,4-DMT中の1,3-DMT濃度を1,4-DMTに対して1.0%以下とする、1,4-DMNの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、異性体、特に1,3-DMN含有量の少ない1,4-DMNの工業的製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態において、PHはどの様な方法で製造したものでも良いが、通常は塩基性触媒(例えば金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属)の存在下、エチルベンゼン(1)と1,3-ブタジエン(2)の反応で得られる。このPHは純粋である必要はなく、異性体である5-フェニル-1-ヘキセン(5-Phenyl-1-hexene)やエチルベンゼンなどの溶媒を含んでもよく、水を含んでも良い。
【0024】
【化3】
【0025】
反応液から塩基性触媒を除去した後、そのまま、あるいは蒸留してPH濃度を高めた後、酸触媒で環化して1,4-DMTを合成する。環化反応は酸触媒の存在下、気相または液相の条件で回分、連続または半連続で行ってよい。反応は減圧、常圧または加圧下の条件で進めてよい。
【0026】
環化触媒は文献公知の異性化触媒が使用できる。例えば塩化水素、硫酸、リン酸、フッ化水素やp-トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、その他シリカアルミナなどの固体酸類などが挙げられる。液相反応の場合、環化反応液からの分離が容易なことから、触媒は固体酸触媒が好ましい。
固体酸触媒としては、酸性白土、固体リン酸塩、ゼオライト(結晶性シリカアルミナ)、非結晶性シリカアルミナ、シリカマグネシア(silica-magnesia)、シリカカルシア(silica-calcia)など公知の異性化触媒を環化触媒として使用できる。
【0027】
本発明者らが検討した結果、環化触媒の酸性度が高いほど、また、同じ触媒では反応温度が高いほど環化反応は進みやすいが、目的物質である1,4-DMT以外に、1,3-DMTやその他の副生物も生成しやすいことが分かった。
環化反応で多用されているゼオライト触媒は良好な環化触媒であるが、酸性度が高いため上記副生物が生成しやすい欠点がある。ゼオライトをアルカリなどで処理して酸性度を調整することも出来るが、酸性度の調整が難しい。すなわち、1,3-DMTなどの副生物を抑制するためには、反応を温和に進めることが好ましい。触媒の酸性度によって触媒量や反応温度、反応時間などを調整することで1,3-DMTなどの副生物を抑制できる。
【0028】
本発明者らが検討した結果、非結晶性シリカアルミナ触媒が、1,3-DMTの生成量を低く抑えながら反応速度を高く維持する観点から好ましいことが分かった。
非結晶性シリカアルミナ触媒としては例えば組成が質量比で、SiO/Al=8~2の触媒である。例として日揮触媒化成株式会社製のN631L、N631HN、N632L、N632HN、N633L、N633HNなどが挙げられる。
【0029】
既述のように、PHの環化生成物である1,4-DMTには、環化条件による濃度の差はあるが、微量の1,3-DMNと相当量の1,3-DMTが不純物として含まれる。
これらの不純物の中で、1,3-DMNは微量で、1,4-DMN中の1,3-DMNの主な原因ではない。しかも、1,3-DMNは1,4-DMTと沸点が離れており、必要に応じて蒸溜分離できる。しかし、1,3-DMTは1,4-DMTと沸点差がないため、蒸留分離が極めて困難である(前記表1参照)。上述のように1,4-DMNと1,3-DMNも沸点差がないので、脱水素反応後にも蒸留分離し難い。すなわち、1,4-DMN中の1,3-DMNを削減するためには、1,4-DMT中の1,3-DMTを減らすことが望ましい。
【0030】
液相環化反応で非結晶性シリカアルミナ触媒を使用した場合、添加量(質量)はPHに対して好ましくは0.02%から10%、より好ましくは0.1%から5%、反応温度は好ましくは50℃から220℃、より好ましくは100℃から200℃、反応時間は好ましくは1時間から72時間、より好ましくは2時間から48時間が良い。触媒量は多くても良いがコスト高となる。反応温度が200℃を超えると副生物が生成しやすい。
液相反応で、均一系触媒として例えばp-トルエンスルホン酸を使用した場合、添加量(質量)はPHに対して0.05%から10%,好ましくは0.3%から5%で、反応温度は100℃から200℃、好ましくは120℃から180℃、反応時間は0.5時間から24時間、好ましくは1時間から12時間である。反応温度が200℃以下であると、副生物が生成しにくい。
【0031】
気相環化反応の場合、酸性度の低い固体酸触媒、例えば非結晶性シリカアルミナ触媒を使用して希釈剤の存在下または不存在下で一般的に常圧換算220℃から260℃、好ましくは220℃から250℃で反応を行ってもよい。1,3-DMTの1,4-DMTに対する濃度を減らすためには、触媒の酸性度が低いほど、反応温度が低いほど良いが、反応が進みにくい欠点がある。また、触媒層での滞留時間が短いほど、PHの環化率が低いほど1,3-DMT濃度は低くなる。
【0032】
このようにして得られる1,4-DMTは、1,3-DMT濃度を1,4-DMTに対して1.0%以下、好ましくは0.4%以下に抑えることが出来る。従ってそのまま脱水素しても1,4-DMN中の1,3-DMN濃度を1,4-DMNに対して1.0%以下にすることが出来る。粗製1,4-DMTは蒸留精製することが望ましい。蒸留で得られる1,4-DMT留分はPHの環化過程で生じた重合物などの触媒毒が少ないので、脱水素触媒の使用量を削減しやすい効果もある。もちろん、蒸留工程で1,4-DMT中に微量に存在する1,3-DMNも除去しやすい。
【0033】
1,4-DMTの蒸留条件は不純物含有量によって異なるが、一般的には理論5段から120段、好ましくは10段から80段の蒸留塔で還流比0.1から30、好ましくは還流比0.5から10で、減圧、常圧、または加圧下、回分、連続または半連続で行うことができる。蒸留段数が高いほど、または還流比が高いほど分離効率が向上するが、設備費用やエネルギー費用が高くなる欠点がある。
【0034】
1,4-DMTの脱水素触媒として、ラネーニッケル触媒や安定化ニッケル触媒(stabilized nickel catalyst)に代表されるニッケル系の触媒、コバルト系の触媒、貴金属触媒など文献公知の脱水素触媒が使用できる。しかし、活性度の点から貴金属担持触媒、特に活性炭に担持したパラジウム触媒や白金触媒が好適である。
前述のように、1,4-DMNは異性化しやすいので、脱水素過程で生成した1,4-DMNが異性化を生じない脱水素触媒を選ぶことが望ましい。
【0035】
本発明では脱水素反応液相で、減圧、常圧または加圧下で回分、連続、半連続のいずれで行っても良い。また脱水素反応を進めるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを吹き込みながら反応させても良く、ニトロ化合物などの還元性物質を投入して脱水素反応を進めても良い。
1,4-DMTや1,4-DMNの沸騰下または溶剤を加えて溶剤の沸騰下で脱水素しても良い。
例えば、パラジウムを活性炭に10%担持した触媒を使用して常圧下で脱水素する場合、触媒添加量(質量)は1,4-DMTに対して好ましくは0.05%から10%、より好ましくは0.1%から5%、反応温度は80℃から270℃、より好ましくは120℃から270℃、反応時間は0.5時間から72時間、より好ましくは1時間から48時間である。反応温度や反応時間は触媒の活性度や不活性物質、還元性物質添加、低沸点溶媒の有無などに依って大幅に変化する。
【0036】
脱水素後、触媒を分離した反応液には1,4-DMNの他に、未反応の1,4-DMTや1,4-DMTの異性体である5,8-ジメチル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(以下、「5,8-DMT」ともいう)などを含んでいる。これらを分離するため蒸留精製する。蒸留は一般的に、理論段数10段から120段、好ましくは20段から80段の蒸留塔で還流比1から60、好ましくは還流比1から30、減圧、常圧、または加圧下、回分、連続または半連続で行う。蒸留段数は多ければ多いほど、または還流比が大きいほど分離効率は良くなるが、設備建設費用やエネルギー費用が大きくなる欠点がある。
蒸留精製によって、不純物含有量の少ない高純度の1,4-DMNを得ることが出来る。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、組成%は全て質量%である。
【0038】
[実施例1]
(ブタジエン付加)
容量10リットルの反応容器にエチルベンゼン5.75kg,触媒として金属ナトリウム25gを加えて撹拌下、110℃で1,3-ブタジエン735gを10時間で添加した。添加終了後水を加えて金属ナトリウムを除去した。この操作を4回繰り返してPH20.4%,エチルベンゼン55.8%の反応液26kg得た。
この反応液19.5kgを理論段数20段、還流比1~10で蒸留してPH35%,エチルベンゼン60%の留出液(PH溶液)10.6kg得た。
【0039】
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量5リットルのフラスコに、上記留出液(35%PH溶液)2.8kgと、非結晶性シリカアルミナ触媒(SiO:83%、Al:13%)12gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を170℃に上げ、この温度で6時間保持した。
反応液から触媒を濾別し、以下の組成を有する、未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT2.06kgを得た。
エチルベンゼン:47%
1,4-DMT:45%
1,3-DMT:0.16%
【0040】
(脱水素)
攪拌機と還流冷却器付き容量2リットルのフラスコに粗製1,4-DMT1.0kgと10%Pd/C5.8gを加えて、還流冷却器からエチルベンゼンを留去しながら4時間で250℃まで昇温し、この温度で8時間保持した。反応液から触媒を濾別し、下記組成の粗製1,4-DMN442gを得た。
1,4-DMN:93.3%
1,4-DMT:0.9%
5,8-DMT:2.3%
1,3-DMN:0.34%
【0041】
(DMN蒸留)
この粗製1,4-DMN440gを理論段数40段の蒸留塔で、100mmHgで還流比1~10で蒸留して下記組成の精製1,4-DMN382gを得た。
1,4-DMN:98.3%
1,4-DMT:0.4%
5,8-DMT:0.6%
1,3-DMN:0.35%
【0042】
[実施例2]
(DMT蒸留)
実施例1の粗製1,4-DMT1.0kgを理論段数30段の蒸留塔で120mmHg、還流比5~20で蒸留して下記組成の精製1,4-DMT426gを得た。
1,4-DMT:98.2%
1,3-DMT:0.35%
【0043】
(脱水素)
攪拌機と還流冷却器付き容量500mlのフラスコに精製1,4-DMT400gと10%Pd/C2.4gを加えて、還流しながら4時間で250℃まで昇温し、この温度で8時間保持した。反応液から触媒を濾別し、下記組成の粗製1,4-DMN382gを得た。
1,4-DMN:97.4%
1,4-DMT:0.9%
5,8-DMT:1.9%
1,3-DMN:0.35%
【0044】
(DMN蒸留)
粗製1,4-DMN370gを実施例1と同様の方法で蒸留し、下記組成の精製1,4-DMN342gを得た。
1,4-DMN:98.1%
1,4-DMT:0.4%
5,8-DMT:0.6%
1,3-DMN:0.35%
【0045】
[実施例3]
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量2リットルのフラスコに、実施例1の35%PH溶液(留出液)1.4kgと、実施例1と同じ非結晶性シリカアルミナ触媒6gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を200℃に上げ、この温度で6時間保持した。
反応液から触媒を濾別し未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT714gを得た。
エチルベンゼン:17%
1,4-DMT:63%
1,3-DMT:0.46%
【0046】
(DMT蒸留)
粗製1,4-DMT700gを理論段数30段の蒸留塔で120mmHg、還流比5~20で蒸留して下記組成の精製1,4-DMT410gを得た。
1,4-DMT:97.8%
1,3-DMT:0.71%
【0047】
(脱水素)
攪拌機と還流冷却器付き容量500mlのフラスコに精製1,4-DMT400gと10%Pd/C3.0gを加えて、還流冷却器から低沸点成分を留去しながら3時間で250℃まで昇温し、この温度で8時間保持した。反応液から触媒を濾別し、下記組成の粗製1,4-DMNを380g得た。
1,4-DMN:96.3%
1,4-DMT:0.5%
5,8-DMT:1.3%
1,3-DMN:0.70%
【0048】
(DMN蒸留)
この粗製1,4-DMN370gを理論段数40段の蒸留塔で、100mmHgで還流比1~10で蒸留して下記組成の精製1,4-DMNを322g得た。
1,4-DMN:97.7%
1,4-DMT:0.2%
5,8-DMT:0.4%
1,3-DMN:0.71%
【0049】
[実施例4]
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量2リットルのフラスコに、実施例1の35%PH溶液(留出液)1kgとエチルベンゼン300g、p-トルエンスルホン酸10gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を154℃に上げ、この温度で3時間保持した。
反応液から触媒を濾別し未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT950gを得た。
エチルベンゼン:57%
1,4-DMT:32%
1,3-DMT:0.16%
【0050】
(DMT蒸留)
粗製1,4-DMT700gを理論段数30段の蒸留塔で120mmHg、還流比5~20で蒸留して下記組成の精製1,4-DMT225gを得た。
1,4-DMT:97.1%
1,3-DMT:0.49%
【0051】
(脱水素)
攪拌機と還流冷却器付き容量500mlのフラスコに精製1,4-DMT200gと10%Pd/C1.5gを加えて、還流冷却器から低沸点成分を留去しながら3時間で250℃まで昇温し、この温度で8時間保持した。反応液から触媒を濾別し、下記組成の粗製1,4-DMNを190g得た。
1,4-DMN:96.5%
1,4-DMT:0.4%
5,8-DMT:1.2%
1,3-DMN:0.49%
【0052】
(DMN蒸留)
この粗製1,4-DMN180gを理論段数10段の蒸留塔で、100mmHgで還流比1~10で蒸留して下記組成の精製1,4-DMNを171g得た。
1,4-DMN:97.6%
1,4-DMT:0.2%
5,8-DMT:0.9%
1,3-DMN:0.49%
【0053】
[比較例1]
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量2リットルのフラスコに、実施例1の35%PH溶液(留出液)1.4kgと、実施例1と同じ非結晶性シリカアルミナ触媒6gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、2時間で反応液温度を210℃に上げ、更に徐々に昇温して2時間で220℃とした。この温度で6時間保持した。
反応液から触媒を濾別し、以下の組成を有する、未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT539gを得た。
エチルベンゼン:<1%
1,4-DMT:79%
1,3-DMT:1.27%
【0054】
(DMT蒸留)
粗製1,4-DMT520gを理論段数30段の蒸留塔で120mmHg、還流比5~20で蒸留して下記組成の精製1,4-DMT381gを得た。
1,4-DMT:96.6%
1,3-DMT:1.55%
【0055】
(脱水素)
攪拌機と還流冷却器付き容量500mlのフラスコに精製1,4-DMT350gと10%Pd/C3.0gを加えて、還流冷却器から低沸点成分を留去しながら3時間で250℃まで昇温し、この温度で8時間保持した。反応液から触媒を濾別し、下記組成の粗製1,4-DMNを324g得た。
1,4-DMN:92.1%
1,4-DMT:0.7%
5,8-DMT:2.3%
1,3-DMN:1.48%
【0056】
(DMN蒸留)
この粗製1,4-DMN300gを理論段数40段の蒸留塔で、100mmHgで還流比1~10で蒸留して下記組成の精製1,4-DMNを251g得た。
1,4-DMN:96.5%
1,4-DMT:0.3%
5,8-DMT:0.6%
1,3-DMN:1.55%
【0057】
[比較例2]
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量2リットルのフラスコに、実施例1の35%PH溶液(留出液)1.4kgと、Y型ゼオライト触媒(日揮触媒化成,H-Y型)6gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を170℃に上げ、この温度で6時間保持した。
反応液から触媒を濾別し未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT1.03kgを得た。
エチルベンゼン:45%
1,4-DMT:43%
1,3-DMT:0.61%
【0058】
[比較例3]
(環化)
攪拌機と還流冷却器が付いた容量2リットルのフラスコに、実施例1の35%PH溶液(留出液)1kgとエチルベンゼン300g、p-トルエンスルホン酸10gを挿入した。撹拌下、留分(溶媒)の一部を抜き出しながら還流を続け、4時間で反応液温度を210℃に上げ、この温度で3時間保持した。
反応液から触媒を濾別し未反応PH0.5%以下の粗製1,4-DMT355gを得た。
エチルベンゼン: 5%
1,4-DMT:77%
1,3-DMT: 1.37%
【0059】
実施例で明らかなように、1,4-DMNに対する1,3-DMNの割合は、1,4-DMNの原料である1,4-DMT中の1,4-DMTに対する1,3-DMTの割合によって決まる。1,3-DMTはPHの環化工程で生成し、環化条件が厳しいほど1,3-DMTは生成しやすい。
従って、精製1,4-DMN中の1,3-DMN濃度を減らすためには、PHを温和な条件(触媒の酸性度や、触媒量、温度、時間など)で環化して1,4-DMTに対する1,3-DMTの割合を減らすことが重要である。
【国際調査報告】