(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】高い可視光透過率の光電池デバイスのためのUV吸収ドナー種
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230802BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20230802BHJP
C07C 211/61 20060101ALI20230802BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230802BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20230802BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/30
C07C211/61 CSP
H10K85/60
H10K101:30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581515
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 US2021039896
(87)【国際公開番号】W WO2022006275
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518148685
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ボール、 メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】バーリンゲーム、 クィン
(72)【発明者】
【氏名】ルー、 リン
【テーマコード(参考)】
3K107
4H006
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107EE68
3K107FF04
3K107FF06
3K107FF15
3K107FF19
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB92
5F251AA11
5F251CB14
5F251CB27
5F251XA01
5F251XA43
(57)【要約】
いくつかの実施形態において、種々の光電池アーキテクチャにおいて有機電子ドナーとして使用した場合に向上した光電子特性をもたらす、近紫外(NUV)吸収化合物が本明細書に記載されている。このようなNUV吸収化合物を活性層中に含む光電池デバイスも記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
A
1及びA
2は、独立して、アリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立して、フルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物。
【請求項2】
Lが、縮合芳香族環構造である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記縮合芳香族環構造が、ナフタレンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記縮合芳香族環構造が、アセンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
前記縮合芳香族環構造が、1つ又は複数のヘテロアリーレン単位を含む、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
前記ヘテロアリーレン単位が、チオフェン、ピロール、アゾール、又はそれらの組合せを含む、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
A
1とA
2が、それぞれアリールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
Fl
1及びFl
2の少なくとも1つが、1つ又は複数のアルキル又はアルケニル置換基で置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
Fl
1及びFl
2の少なくとも1つが、式:
【化2】
(式中、R及びRは、独立してアルキル及びアルケニルからなる群から選択される)
のものである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
440nm未満のピーク吸収を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差が、少なくとも2.5eVである、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
前記HOMOとLUMOとの差が、少なくとも2.8eVである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
アノード;
カソード;及び
前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層
を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、式(I):
【化3】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物を含む、有機光電池デバイス。
【請求項14】
Lが、縮合芳香族環構造である、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項15】
前記縮合芳香族環構造が、ナフタレンである、請求項14に記載の有機光電池デバイス。
【請求項16】
前記縮合芳香族環構造が、アセンである、請求項14に記載の有機光電池デバイス。
【請求項17】
前記縮合芳香族構造が、1つ又は複数のヘテロアリーレン単位を含む、請求項14に記載の有機光電池デバイス。
【請求項18】
前記式(I)の化合物の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差が、少なくとも2.5eVである、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項19】
前記活性層による電磁放射のピーク吸光度が、250nm~440nmの範囲内である、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項20】
前記デバイスが、単接合デバイスである、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項21】
前記有機電子ドナー及び前記有機電子アクセプターが、前記活性層におけるバルクヘテロ接合アーキテクチャを形成する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項22】
前記活性層が、50~300nmの厚さを有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項23】
前記デバイスが、逆型アーキテクチャを示す、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項24】
前記アノードの上に有機光アウトカップリング層をさらに含む、請求項23に記載の有機光電池デバイス。
【請求項25】
少なくとも1.5Vの開路電圧(V
OC)を有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項26】
1.5V~3Vの開路電圧(V
OC)を有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項27】
少なくとも75%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項28】
少なくとも80%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項29】
少なくとも90.0の演色評価数を有する、請求項13に記載の光電池デバイス。
【請求項30】
少なくとも95.0の演色評価数を有する、請求項13に記載の光電池デバイス。
【請求項31】
アノード;
カソード;及び
前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層
を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、縮合芳香族環構造又はオリゴアリーレンによって連結されたジアミン部分を含み、
少なくとも75%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する、有機光電池デバイス。
【請求項32】
少なくとも80%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する、請求項13に記載の有機光電池デバイス。
【請求項33】
前記活性層による電磁放射のピーク吸光度が、250nm~440nmの範囲内である、請求項31に記載の有機光電池デバイス。
【請求項34】
前記有機電子ドナーの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差が、少なくとも2.5eVである、請求項31に記載の有機光電池デバイス。
【請求項35】
前記HOMOとLUMOとの差が、少なくとも2.8eV~4eVである、請求項34に記載の有機光電池デバイス。
【請求項36】
少なくとも1.5Vの開路電圧(V
OC)を有する、請求項31に記載の有機光電池デバイス。
【請求項37】
前記有機電子ドナーが、式(I):
【化4】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも2つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物を含む、請求項31に記載の有機光電池デバイス。
【請求項38】
前記縮合芳香族環構造が、ナフタレンである、請求項37に記載の有機光電池デバイス。
【請求項39】
前記縮合芳香族環構造が、アセンである、請求項37に記載の有機光電池デバイス。
【請求項40】
前記縮合芳香族構造が、1つ又は複数のヘテロアリーレン単位を含む、請求項37に記載の有機光電池デバイス。
【請求項41】
少なくとも90.0の演色評価数を有する、請求項37に記載の光電池デバイス。
【請求項42】
少なくとも95.0の演色評価数を有する、請求項37に記載の光電池デバイス。
【請求項43】
2つのジアミン部分を架橋するオリゴアリーレン又は縮合芳香族環構造の長さを変化させることによって、有機電子ドナーのUV吸収を調整すること
を含む、方法。
【請求項44】
前記縮合芳香族芳香族環構造が、アセンである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記有機電子ドナーの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差が、少なくとも2.8eVである、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
有機電子ドナーが、式(I):
【化5】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択される)
の化合物である、請求項43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する陳述
本発明は、米国国立科学財団によって授与された助成金第1843743号及び第1420541号に基づく政府の援助によってなされたものである。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願データ
本出願は、2020年6月30日に出願された米国仮特許出願第63/046,315号(これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)に対し、米国特許法第119条(e)による優先権を主張する。
【0003】
技術分野
本発明は、紫外(UV)吸収スペクトルを有する化合物、及び、特に、高い可視光透過率を有する光電池デバイスの生産における、そのような化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
透明(transparent)光電池(TPV)は、有機光電池(OPV)及びペロブスカイト太陽電池(PSC)分野の人々から、TPVの利用上の要件と、それらのデバイスを構成する光活性材料の調節可能な光学特性との間の優れた適合性のために、近時、研究上非常に注目されている。最も一般的には、TPVは、大きな光電流と高い電力変換効率(PCE)を実現するために、太陽スペクトルの光子に富む近赤外(NIR)部分を選択的に取り入れる吸収体を使用することによって、部分的な透明性を保っている。そのような太陽電池における活性材料のデバイス構造、活性層厚さ、及び吸収プロファイルは、電力出力と審美性のトレードオフを最適化するように設計することができるものの、NIR吸収体による低エネルギーの可視光の寄生吸収によって、その光学特性は本質的に制限される。
【0005】
対照的に、近紫外(NUV)波長を標的とする吸収体を有する太陽電池は、発電は犠牲になるものの、この寄生可視光吸収を回避して透明性及び無彩色性を最大化することができ、これによって、低電力の窓統合型電子機器、例えば電気的に調光できるスマートウィンドウ、ヘッドアップディスプレイ、リモートセンサー、及びIoT(モノのインターネット)デバイスなどを駆動するための魅力的な選択肢となる。
【0006】
いくつかの透明なNUV-PSCが実際に示されている一方で、透明なNUV-OPVは、NUV吸収活性層と不透過性(opaque)金属電極を有するOPVの例が最近いくつかあるにもかかわらず、報告されていない。この欠点は、部分的には、TPVへの統合のための厳しい光学的及び電子工学的要求を満たすNUV吸収有機材料が欠けているためである。例えば、反射金属上部電極が存在しない場合、光学的シミュレーションによって、1に近い光吸収を実現するために、高い吸収係数(>2×105cm-1)を有する厚い活性層(>100nm)が必要であることが示される。しかしながら、このような厚い活性層で効率的な電荷引き抜きを維持するためには、吸収体が、高い電荷担体移動度を示すと同時に、優れた電荷移動状態解離効率でヘテロ接合(HJ)を形成し、その結果、非対再結合が最小化されることが必要である。
【発明の概要】
【0007】
これらの不利益に鑑み、いくつかの実施形態において、種々の光電池アーキテクチャにおいて有機電子ドナーとして使用した場合に向上した光電子特性をもたらす、NUV吸収化合物が本明細書に記載されている。いくつかの実施形態において、化合物は、式(I):
【化1】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
のものである。本明細書にさらに記載されているように、式(I)の化合物は、電磁スペクトルの可視領域において最小の吸光度を維持しながら、NUVにピーク吸収を示し得る。
【0008】
別の態様において、有機光電池デバイスが本明細書に記載されている。有機光電池デバイスは、いくつかの実施形態において、アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、式(I):
【化2】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物を含む。
【0009】
光電池は、ピーク吸光度が250nm~440nmの範囲内であり得、可視領域において最小の吸光度であり得る。いくつかの実施形態において、例えば、本明細書に記載されている光電池デバイスは、少なくとも75%又は少なくとも80%の平均明所視応答重み付け可視光透過率(average photopic-response-weighted visible transmittance)を有し得る。さらに、光電池デバイスは、また、少なくとも90.0%の演色評価数(color rendering index)を示し得る。
【0010】
このような吸光度及び透過率プロファイルによって、光電池デバイスは、エレクトロクロミックデバイスを含む、いくつかのユニークな分野における利用に適したものになる。光電池デバイスは、例えば、エレクトロクロミックアセンブリと垂直に統合され得る。いくつかの実施形態において、光電池デバイスは、エレクトロクロミックアセンブリと、同じ設置区域上に垂直に統合され得る。あるいは、光電池デバイスは、エレクトロクロミックアセンブリと空間的に離れている。
【0011】
本明細書に記載されている光電池デバイスは、また、UVのフィルタリング及び/又は取り入れにも利用され得る。いくつかの実施形態において、UV吸収光電池デバイスは、シリコン電池技術及び/又は他の光電池技術の既存のUV保護コーティングを置き換え得る。太陽放射のUV部分における吸収によって、本明細書に記載されている光電池デバイスは、シリコン及び/又は他の光電池デバイスによる発電のための可視光及び赤外光は透過する一方で、シリコン電池技術及び/又は他の光電池技術(UV劣化を受けやすい有機活性層光電池が含まれる)のためのUV保護体として機能し得る。本明細書に記載されている垂直統合化(vertically-integrated)UV吸収光電池は、また、そうでなければ発電に使用されないUV光を取り入れるために、外部的にシリコン光電池デバイス及び/又は他の光電池デバイスとも接続され得る。
【0012】
光電池デバイスは、また、エネルギー貯蔵アーキテクチャにも利用され得る。いくつかの実施形態において、電池アーキテクチャは、電気化学アセンブリと、前記電気化学アセンブリと電気通信する本明細書に記載されているNUV吸収光電池デバイスとを含む。
【0013】
別の態様において、有機光電池デバイスは、アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、縮合芳香族環構造又はオリゴアリーレンによって連結されたジアミン部分を含み、ここで、前記有機光電池デバイスは、少なくとも75%又は少なくとも80%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する。いくつかの実施形態において、活性層の電子ドナーは、本明細書に記載されている式(I)の化合物である。
【0014】
さらなる態様において、有機電子ドナーのUV吸収を調整する方法が記載されている。いくつかの実施形態において、方法は、2つのジアミン部分を架橋するオリゴアリーレン又は縮合芳香族環構造の長さを変化させることによって、有機電子ドナーのUV吸収を調整することを含む。いくつかの実施形態において、例えば、オリゴアリーレン架橋又は縮合芳香環架橋の長さは、有機電子ドナーの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差を少なくとも2.8eV又は少なくとも3eVにするように変化させる。
【0015】
これらの及び他の実施形態が、以下の詳細な説明にさらに記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、オリゴアリーレン架橋又は縮合芳香環架橋の長さの変更、及びそれによって得られる、いくつかの実施形態による式(I)の化合物のHOMO/LUMOエネルギー準位に対する効果を示す。
【
図2】
図2は、本明細書に記載されているいくつかの実施形態による式(I)の5つのドナー分子の化学構造を示す。
【
図3】
図3Aは、本明細書に記載されているいくつかの実施形態による電子ドナー化学種のエネルギー準位を示す。
図3Bは、DFTによって作成されたBF-DPNのHOMO及びLUMOを示す。
図3Cは、本明細書に記載されているいくつかの実施形態による5つの電子ドナー及び1つの電子アクセプターについての薄膜吸収係数を示す。
【
図4】
図4A及び4Bは、それぞれ、いくつかの実施形態による、
図4Cに示す従来型のデバイス構造を有する5つの有機電子ドナーを使用した不透過性OPVのJ-V特性及びEQEスペクトルを示す。
図4Cは、いくつかの実施形態による、本明細書に記載されている電子ドナー化学種を使用した従来型光電池アーキテクチャ及び逆型光電池アーキテクチャを示す。
図4D及び4Eは、それぞれ、
図4Cに示す逆型デバイス構造中にドナーBF-DPB、ドナーBF-DPT、及びドナーBF-DPNを含む透明光電池デバイスのJ-V特性及びEQEスペクトルを示す。
図4Fは、いくつかの実施形態による、本明細書に記載されているフルスタックの透明なOPVの透過率スペクトルと、参照のために、明所視光度関数(V(λ))を示す。
【
図5】
図5A~5Cは、それぞれ、いくつかの実施形態による、BF-DPB、BF-DPT、及びBF-DPNを含む透明なOPVについてのPCE対APT、PCE対CRI、並びにCIEx及びy色度座標を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に記載されている実施形態は、以下の詳細な説明及び実施例、並びにその前後の記載を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本明細書に記載されている要素、装置及び方法は、詳細な説明及び実施例に示されている特定の実施形態に限定されない。これらの実施例は、本発明の原理の例証にすぎないことを認識すべきである。当業者には、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、多数の変更及び改変がきわめて明白であろう。
【0018】
定義
用語「アルキル」は、本明細書で使用される場合、単独で又は組み合わせて、1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を指す。例えば、アルキルは、C1~C30又はC1~C18であり得る。
【0019】
用語「アルケニル」は、本明細書で使用される場合、単独で又は組み合わせて、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有し、かつ1つ又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を指す。
【0020】
用語「アリール」は、本明細書で使用される場合、単独で又は組み合わせて、1つ又は複数の環置換基で置換されていてもよい芳香族単環式又は多環式環系を指す。
【0021】
用語「ヘテロアリール」は、本明細書で使用される場合、単独で又は組み合わせて、環原子の1つ又は複数が炭素以外の元素、例えば窒素、酸素及び/又は硫黄である芳香族単環式又は多環式環系を指す。
【0022】
用語「フルオレニル」は、本明細書で使用される場合、単独で又は組み合わせて、式:
【化3】
の構造を指す。
【0023】
I.UV吸収化合物
一態様において、NUV吸収化合物が本明細書に記載されている。この化合物は、光電池デバイスにおいて、光活性電子ドナー材料として利用され得る。いくつかの実施形態において、化合物は、式(I):
【化4】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
のものである。本明細書にさらに記載されているように、式(I)の化合物は、電磁スペクトルの可視領域において最小の吸光度を維持しながら、NUVにピーク吸収を示し得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、A
1とA
2は、同じアリール又はヘテロアリール基である。あるいは、A
1とA
2は、異なっている。さらに、Fl
1とFl
2は、同じであってもよく、異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、Fl
1及びFl
2の少なくとも1つは、1つ又は複数のアルキル又はアルケニル置換基で置換されている。置換は、フルオレニル構造の所望の位置で起こり得る。例えば、いくつかの実施形態において、Fl
1及びFl
2の少なくとも1つは、式:
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、独立してアルキル及びアルケニルからなる群から選択される)
のものである。
【0025】
本明細書にさらに記載されているように、縮合芳香族環構造又はオリゴアリーレンは、式(I)の化合物のUV吸収特性を調整又は変更するために使用され得る。いくつかの実施形態において、縮合芳香族環構造は、式:
【化6】
(式中、nは、0~5の整数である)のものである。n=0の場合、例えば、縮合芳香族構造はナフタレンであり、n=1の場合、縮合芳香族構造はアントラセンである。いくつかの実施形態において、縮合芳香族環構造は、1つ又は複数のヘテロアリーレン単位を含む。いくつかの実施形態において、ヘテロアリーレン単位は、チオフェン、ピロール、アゾール、又はそれらの組合せを含む。縮合芳香族環構造は、ヘテロアリーレン単位のみから構成されていてもよく、又は反復若しくは非反復配列のアリーレン単位も含んでいてもよい。縮合芳香族環構造のアリーレン及び/又はヘテロアリーレン単位は、同じ数の環原子位置を有していてもよく、又は異なる数の環原子位置を有していてもよい。いくつかの実施形態において、例えば、縮合芳香族環構造は、フェニレン単位とチオフェン単位の混合である。
【0026】
2つのジアミン部分を架橋する部分又は構造Lは、また、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含むオリゴアリーレンでもあり得る。オリゴアリーレンは、例えば、一般式:
【化7】
(式中、Arは、アリーレン、ヘテロアリーレン、又はそれらの種々の組合せであり、nは、3~10の整数である)を有し得る。本明細書に記載されているいくつかの実施形態において、nは、また、1又は2でもあり得る。オリゴアリーレンリンカー又は架橋の長さを変化させることによって、本明細書に詳述されているように、化合物のHOMO-LUMOオフセットに影響を及ぼし得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物が示す最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差は、少なくとも2.5eV、2.8eV、又は少なくとも3eVである。いくつかの実施形態において、HOMOとLUMOとの差は、少なくとも3eV~4eVである。これに対応して、いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、250nm~440nmの範囲のピーク吸収を示し得る。式(I)の化合物のピーク吸収は、また、化合物の構造及びジアミン部分を架橋するL基の特定のアイデンティティーに依存して、300nm~410nmの範囲内にも位置し得る。
【0028】
II.有機光電池デバイス
別の態様において、有機光電池デバイスが本明細書に記載されている。有機光電池デバイスは、いくつかの実施形態において、アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、式(I):
【化8】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも3つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物を含む。本明細書に記載されている光電池デバイスの活性層に使用される式(I)の化合物は、上記セクションIに示されている任意の構造及び/又は特性を有し得る。
【0029】
活性層の有機電子ドナー及び有機電子アクセプターは、本発明の目的と矛盾しない任意の電磁放射吸収プロファイルを示し得る。いくつかの実施形態において、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターは、250nm~440nm又は300nm~410nmの範囲内のピーク吸光度を示す。このような実施形態において、活性層は、可視領域及び近赤外領域の光に対してほぼ(largely)透明である。例えば、活性層は、一般に、可視光領域において、60パーセント~100パーセントの平均透過率を示す。本明細書に記載されている活性層の平均可視光透過率は、また、以下の表から選択される数値も有し得る。
【0030】
活性層の平均可視光及び/又は赤外透過率(%)
【表A】
【0031】
本明細書でさらに議論されるように、前述の値の透過率を有する活性層によって、光電池デバイスは、可視光領域及び/又は赤外光領域における透明性が重要な要件である用途、例えば、商用及び産業用建築物、家庭及び輸送用車両(車、バス、トラック、列車及び航空機が含まれる)の窓などに特に適したものになる。前述の値の透過率は、また、本明細書でさらに議論される平均明所視応答重み付け透過率について高い値を実現する全光電池構造にも寄与する。
【0032】
種々の有機電子ドナー種及び有機電子アクセプター種に加えて、活性層は、本発明の目的と矛盾しない任意のアーキテクチャを有し得る。いくつかの実施形態において、隣接する有機電子ドナーの層と有機電子アクセプターの層との間に、平面ヘテロ接合が形成される。このような実施形態において、有機電子ドナー層及び有機電子アクセプター層の厚さは、活性層による十分な光吸収及び励起子拡散経路長を含む、いくつかの考慮事項にしたがって選択され得る。有機電子ドナー層及び有機電子アクセプター層は、一般に、個々に、10~400nmの厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、有機電子ドナー層及び有機電子アクセプター層の個々の厚さは、20nm~300nmであり得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、活性層は、グラジエントヘテロ接合アーキテクチャを示す。このようなアーキテクチャにおいて、有機電子ドナーは、活性層のアノード側における100パーセントから、カソード側における0パーセントまで、次第に減少する。同様に、有機電子アクセプターは、活性層のカソード側における100パーセントから、アノード側における0パーセントまで、次第に減少する。
【0034】
他の実施形態において、活性層は、混合ヘテロ接合又はバルクヘテロ接合アーキテクチャを示し得、ここで、有機電子ドナーと有機電子アクセプターは、全体にわたって互いに混合又は分散し合う。いくつかの実施形態において、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターは、溶液中で混合され、堆積されて活性層を形成する。活性層は、次いで、活性層のスピノーダル分解又は相分離を誘発するようにアニーリングされ、それによって混合ヘテロ接合アーキテクチャが形成される。いくつかの実施形態において、有機ドナー及び有機電子アクセプターは、別々の溶液から、又はガス相から共堆積され、混合活性層を形成する。さらなる実施形態において、活性層は、平面ヘテロ接合、傾斜ヘテロ接合及び/又は混合ヘテロ接合アーキテクチャの任意の組合せを有し得る。加えて、活性層は、ピンホールフリーとすることができ、それによってデバイスの面積拡張性及び製造収率が改善される。有機電子ドナー及び有機電子アクセプターは、バルクヘテロ接合を提供するために、所望の任意の比率で混合することができる。混合比率は、それらに限定されないが、ドナー材料及びアクセプター材料の特定の化学的アイデンティティー、活性層の所望の吸収/透過率及び電荷移動特性、並びに光電池デバイスの全体的性能を含む、いくつかの考慮事項に依存し得る。いくつかの実施形態において、有機ドナーと有機電子アクセプターの比は、1:10~10:1にわたる。加えて、バルクヘテロ接合活性層は、所望の任意の厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、バルクヘテロジャンクション活性層は、10nm~500nm、20nm~300nm、又は50nm~300nmの厚さを有する。バルクヘテロ接合層の厚さは、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターの特定の化学的アイデンティティー並びに光電池アーキテクチャの所望の電子特性及び可視光透過率特性に応じて変えられ得る。
【0035】
活性層に加えて、本明細書に記載されている光電池デバイスは、1つ又は複数の電荷輸送層及び/又は励起子ブロッキング層を含み得る。正孔輸送層(HTL)又は励起子ブロッキング層は、いくつかの実施形態において、アノードと活性層の間に配置される。例えば、HTLは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)PEDOT:PSS、ポリアニリン-ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパン-スルホン酸)PANI-PAAMPSA及び/又は遷移金属酸化物などの1つ又は複数の有機層又は無機層を含み得る。適切な遷移金属酸化物は、酸化モリブデン、すなわちMoOx(式中、xは、MoとOの任意の比率を示す)を含み得る。さらなる遷移金属酸化物は、酸化バナジウム、酸化ニッケル又は類似の電子配置の酸化物を含む。
【0036】
電子輸送層(ETL)又は励起子ブロッキング層は、いくつかの実施形態において、カソードと活性層の間に配置される。ETLは、バソクプロイン(BCP)、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、リチウムがドープされたバソフェナントロリン(Li:BPhen)、ポリ[(9,9-ビス(3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル)-2,7-フルオレン)-alt-2,7-(9,9-ジオクチルフルオレン)]PFN、2,2’,2”-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)及び/又は遷移金属酸化物などの1つ又は複数の有機層又は無機層を含み得る。ETLのために適切な遷移金属酸化物は、酸化チタン(TiOx)及び/又は酸化亜鉛を含み得る。HTL層及び/又はETL層は、本発明の目的と矛盾しない任意の方法によって堆積させ得る。HTL層及び/又はETL層は、スパッタリング又は熱蒸着によって堆積させ得る。他の実施形態において、HTL層及び/又はETL層は、スピンコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷又はスプレーコーティングなどの溶液ベースの技術によって堆積させ得る。さらなる実施形態において、HTL層及び/又はETL層は、ラミネーションによって堆積させ得る。
【0037】
本明細書に記載されている光電池デバイスのアノード及び/又はカソードは、いくつかの実施形態において、放射線透過性材料から形成される。放射線透過性である場合、アノード及び/又はカソードは、太陽光スペクトル放射に特有の電磁スペクトルの部分について透過性又は実質的に透過性である。いくつかの実施形態において、アノード及び/又はカソードは、放射線透過性金属酸化物から形成される。適切な放射線透過性金属酸化物は、酸化スズ(ITO)、酸化ガリウムインジウムスズ(GITO)、酸化亜鉛インジウムスズ(ZITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)及び酸化銀亜鉛(AZO)、並びにフッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの金属酸化物の化学的に修飾された形態を含み得る。他の実施形態において、アノード及び/又はカソードのための放射線透過性材料は、導電性高分子種又は半導電性高分子種などの有機材料を含み得る。適切な高分子種は、ポリアニリン(PANI)及びその化学的類縁体、例えばPANI-PAAMPSAなどを含み得る。いくつかの実施形態において、3,4-ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)は、アノード及び/又はカソードのための適切な放射線透過性高分子材料であり得る。ナノワイヤ構造物もまた、アノード及び/又はカソードのための放射線透過性材料として使用され得る。いくつかの実施形態において、例えば、放射線透過性アノード及び/又はカソードは、金属-ナノワイヤメッシュ、例えば、高分子マトリクス中に分散された銀ナノワイヤなどであり得る。有意義な量の近紫外線、可視光及び/又は赤外線を透過させるのに十分な薄さの金属膜もまた、アノード及び/又はカソードとして使用することができる。いくつかの実施形態において、アノード及び/又はカソードは、可視光領域において、80パーセント~100パーセントの平均透過率を示す。他の実施形態において、アノード又はカソードは、不透過性であり得る。アノード又はカソードは、光を反射するか、又はその他の方法で光の透過をブロックするのに十分な厚さの金属、例えば、アルミニウム、銀又は銅から形成され得る。さらに、光電池デバイスの性能又は可視領域及び/又は赤外領域におけるデバイスの透明性を改善するために、酸化モリブデン又はLiFの薄膜層を、透過性又は不透過性のアノードアーキテクチャ及び/又はカソードアーキテクチャと隣接させて使用してもよく、又はそれらと混合してもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、光アウトカップリング層(light outcoupling layer)が、アノード又はカソードの上に配置される。光アウトカップリング層は、光電池アーキテクチャを通した可視光及び/又は赤外線の透過率の増大化を補助し得る。アウトカップリング層は、光電池アーキテクチャ(アノード、カソード、活性層及び任意の励起子輸送層が含まれる)からの可視光の抽出、又は光電池アーキテクチャを通した可視光の通過を増大させる任意の組成物を含み得る。いくつかの実施形態において、例えば、アウトカップリング層は、TPBiを含む。このような実施形態において、TPBiアウトカップリング層は、放射線透過性アノードに適用され得、ここで、光電池デバイスは、逆型アーキテクチャをとる。逆型アーキテクチャに加えて、本明細書に記載されている光電池デバイスは、従来型アーキテクチャをとり得る。アウトカップリング層は、光電池アーキテクチャによる可視光及び/又は赤外線の透過/通過の増大化と矛盾しない任意の所望の厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、アウトカップリング層は、10nm~500nm又は40nm~120nmの厚さを有する。本明細書に記載されている式(I)の化合物を使用した光電池デバイスは、単接合アーキテクチャ又は多接合アーキテクチャを示し得る。
【0039】
本明細書に記載されている組成及びアーキテクチャを有する光電池デバイスは、いくつかの実施形態において少なくとも1.5V又は少なくとも1.7Vの開路電圧(VOC)を有する。いくつかの実施形態において、光電池デバイスは、少なくとも1.5V~3VのVOCを有する。さらに、光電池デバイスは、いくつかの実施形態において、少なくとも75%又は少なくとも80%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を示す。光電池デバイスは、例えば、80%~85%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有し得る。加えて、本明細書に記載されている光電池デバイスは、少なくとも90.0又は少なくとも95.0の演色評価数(CRI)をもたらし得る。いくつかの実施形態において、光電池デバイスは、95.0~98.0のCRIをもたらす。
【0040】
別の態様において、本明細書に記載されている光電池デバイスは、アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に存在する少なくとも1つの活性層を含み、前記活性層は、有機電子ドナー及び有機電子アクセプターを含み、前記有機電子ドナーは、縮合芳香族環構造又はオリゴアリーレンによって連結されたジアミン部分を含み、ここで、有機光電池デバイスは、少なくとも75%の平均明所視応答重み付け可視光透過率を有する。このような光電池デバイスは、このセクションIIにおける光電池デバイスについて上に記載されている任意の構造、組成、及び/又は特性を有し得る。いくつかの実施形態において、例えば、有機電子ドナーは、式(I):
【化9】
(式中、
A
1及びA
2は、独立してアリール及びヘテロアリールからなる群から選択され;
Fl
1及びFl
2は、独立してフルオレニル及び置換フルオレニルからなる群から選択され;
Lは、縮合芳香族環構造及びオリゴアリーレンからなる群から選択され、前記オリゴアリーレンは、少なくとも2つのアリーレン又はヘテロアリーレン単位を含む)
の化合物を含む。
【0041】
III.エレクトロクロミックデバイス及び他のデバイス
採光/遮光の必要性を改善するため及び/又はプライバシーを確保するために建築物及び輸送用車両の中への可視光の透過を調節することに加え、本明細書に記載されている太陽光で動くエレクトロクロミックデバイスは、また、暖房/冷房の必要性を改善するために、建築物及び輸送用車両の中への赤外光の透過も調節し得る。いくつかの実施形態において、エレクトロクロミックデバイスは、エレクトロクロミックアセンブリと、光起電力を加えることによって当該エレクトロクロミックアセンブリを明状態と暗状態の間で切り替えるために当該エレクトロクロミックアセンブリと電気通信している光電池デバイスを含み、前記光電池デバイスは、上のセクションIIに記載されている組成、構造及び/又は特性を有する。
【0042】
さらに、エレクトロクロミックアセンブリは、単一のエレクトロクロミック層を含む。いくつかの実施形態において、エレクトロクロミックアセンブリは、複数のエレクトロクロミック層を含む。前記アセンブリの1つ又は複数のエレクトロクロミック層は、本明細書に記載されている光電池デバイスによってもたらされる光起電力によって明/透明状態と暗/不透明状態の間を切り替え可能な酸化還元特性を示し得る。
【0043】
本明細書に記載されているように、光電池デバイスは、可視及び/又は赤外において透明(transparent)であり得、よってエレクトロクロミックアセンブリと垂直に統合化され得る。いくつかの実施形態において、光電池デバイスは、エレクトロクロミックアセンブリと同じ設置区域上に垂直に統合化される。単接合光電池デバイスとエレクトロクロミックアセンブリの垂直的な統合化によって、商用及び産業用建築物、家庭及び輸送用車両(車、バス、トラック、列車及び航空機が含まれる)の窓を含む多様な製品へのエレクトロクロミックデバイスの適用が大幅に単純化され得る。エレクトロクロミックデバイスは、例えば、環境から遮断するために、複層の窓ガラスの間に配置され得る。光電池装置の垂直的な統合化によって、エレクトロクロミックデバイスを独立型にすることができるため、従来のエレクトロクロミック装置の設置を複雑にする電気配線を大幅に簡略化することができる。あるいは、本明細書に記載されている単接合光電池デバイスは、エレクトロクロミックアセンブリとは空間的に離れているか、又はその外部にある。
【0044】
エレクトロクロミックデバイスに加えて、本明細書に記載されている組成、アーキテクチャ、及び/又は特性を有する光電池デバイスは、可視領域における光学的透明性(optical clariy)が有利である又は望ましい用途(それらに限定されないが、ヘッドアップディスプレイ、リモートセンサー、及びIoT(モノのインターネット)デバイスが含まれる)に使用され得る。
【0045】
IV.UV吸収を調整する方法
さらなる態様において、有機電子ドナーのUV吸収を調整する方法が記載されている。いくつかの実施形態において、方法は、2つのジアミン部分を架橋するオリゴアリーレン又は縮合芳香族環構造の長さを変化させることによって、有機電子ドナーのUV吸収を調整することを含む。いくつかの実施形態において、例えば、オリゴアリーレン架橋又は縮合芳香環架橋の長さは、有機電子ドナーの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)との差を少なくとも2.8eV又は少なくとも3eVにするように変化させる。
図1は、オリゴアリーレン架橋又は縮合芳香環架橋の長さの変更、及びそれによって得られる、いくつかの実施形態による式(I)の化合物のHOMO/LUMOエネルギー準位に対する効果を示す。
【0046】
これらの及び他の実施形態は、以下の非限定的な実施例によってさらに示される。
【実施例】
【0047】
実施例1-式(I)の化合物及び関連する光電池デバイス
本実施例において、式(I)の化合物が合成され、完全な光電池アーキテクチャによって可視電磁放射線の透過率が向上した光電池デバイスに利用される。特に、標的とする吸収プロファイル及びフロンティア軌道エネルギーを有するN,N-ジアリール-ジアミンNUV吸収ドナー分子を合成し、B4PymPmとペアにして、透明性又は無彩色性を損なうことなくデバイス効率を最大化するNUV-OPVを製造した。ジアミン部分をオリゴフェニレン又はアセンのいずれかからなる分子リンカーによって電子的にカップリングして、これらのドナーをB4PymPmとペアにした時に太陽電池における高いVOCを保つようにそれらの最高被占軌道(HOMO)エネルギーを維持しながら、最低空軌道(LUMO)エネルギー及び吸収開始エネルギーを体系的に低下させた。これらのドナー吸収体は、それぞれ、ピーク吸収係数≧2.5×105cm-1を示し、これらのドナーを含有する太陽電池は、1.74V~2.03Vの大きなVOCを発生する。不透過性上部金属電極を備えるNUV-OPVは、まず、これらの各ドナーを用いて製造してその光電池性能を評価し、次いで、最も有望な3つの候補を、酸化インジウムスズ(ITO)上部電極及びTPBi(2,2’,2”-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)光アウトカップリング層と共に、完全に透明な逆型太陽電池に組み込んだ。これらの透明なNUV-OPVは、95.0~97.1のほぼ完全な演色評価数(CRI)を有する無彩色であり、AM1.5G疑似太陽照射下で、4.3~7.0W/m2の出力密度を発生すると共に、80.3~82.0%の記録的な平均明所視応答重み付け可視光透過率(APT)を示す。
【0048】
図2は、本実施例で使用される式(I)の5つの電子ドナー分子の化学構造を示す。各ドナー吸収体は、オリゴフェニレン又はアセン分子リンカーのいずれかによって連結されている2つのトリアリールアミン(これらは、フェニル及びフルオレン付加物によって対称的に置換されている)に分解され得る。これらの新たなドナー吸収体は、BF-DPL(ここで、BF=ビス-フルオレン、DP=ジフェニル、及びL=リンカー)と表記される。オリゴフェニレンドナーにおけるフェニレン単位の数は、n=1~3で変わる。したがって、これらのドナーは、BF-DPP、BF-DPB、及びBF-DPT(ここで、それぞれP=フェニル、B=ビフェニル、及びT=テルフェニルである)である。アセンリンカー系列におけるドナーとしては、BF-DPN及びBF-DPA(ここで、N=ナフタレン及びA=アントラセンである)があげられる。バックワルド・ハートウィグカップリング反応を、2-アニリノ-9,9-ジメチルフルオレンと各二臭素化リンカーの間で、前記の新たなドナー吸収体をグラムスケールかつ高収率で合成するために利用した。5つのドナー吸収体は、表1に示す熱重量測定による高い分解温度(T
d)によって証明されているように、全て、分解させずに熱による蒸発及び昇華精製をするのに適切な優れた熱的特性を有する。
【0049】
表I-吸収体の材料特性
【0050】
【0051】
図3Aは、それぞれ、紫外光電子分光法(UPS)及び逆光電子分光法(IPES)によって得られたHOMOエネルギー準位及びLUMOエネルギー準位を示す。時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)を使用して、ドナーのHOMOは、BF-DPNについて
図3Bに示すように、二窒素原子を中心とする2つの孤立電子対を含む1ペアのp軌道を含むことが見出された。窒素原子は、それぞれ3つのアリール基に結合し、よって、HOMOエネルギーは、リンカーに強くは依存しない。これは、UPS測定によって裏付けられ、この測定により、全てのドナーのHOMO端は、リンカーとは無関係に、真空準位より5.1~5.2eV低く位置づけられる。これに対して、LUMOは、ジアミン間のリンカーの選択に対して、より大きな依存性を示す。アセン系列におけるドナーについては、LUMOは、BF-DPNについて
図2Bに示すように、並びにBF-DPA(図示せず)について、リンカー部分を中心とする1セットのp軌道上に存在する。LUMOの安定化、よって材料の電子親和力は、縮合環の数の増加と共に向上する。LUMOは、オリゴフェニレン系列において、フェニレンの数がn=1~n=3に増加するにつれて次第にリンカーの中心に向かうが、アセンによる場合と比較して、非局在化及びLUMOの安定化は著しく小さく、これは、観察されたLUMOエネルギーのより低い依存性と整合性がある。
【0052】
5つのドナー分子及びB4PymPmについての吸収スペクトルを
図3Cに示す。吸収開始の傾向は、5つのドナー全体にわたってリンカーのサイズに関連する。すなわち、リンカーが大きいほど、光学ギャップが小さい。ドナーは、それぞれ、ピーク吸収係数≧2.5×10
5cm
-1を示し、吸収係数は、
図3Cに示すように、リンカーのサイズと正の相関がある。TD-DFTを使用して、アセン系ドナーの吸収スペクトルにおける最低エネルギー吸収特性は、HOMO→LUMOの遷移に帰属された。オリゴフェニレン系列におけるドナーのスペクトルにおいて、最低のエネルギー吸収特性は、窒素を中心とする分子軌道から、それを取り巻くπ空間への電子の昇位によって特徴付けられるいくつかの電子遷移を含む。フロンティア軌道エネルギー及び吸収スペクトルは、TD-DFTを使用して算出された。計算的に決定されたフロンティア軌道エネルギー及び吸収特性と、実験的に決定されたフロンティア軌道エネルギー及び吸収特性における傾向は、表1に示すように、よく一致している。
【0053】
ドナー吸収体の光電池性能を試験するために、バルクヘテロ接合(BHJ)OPVを、
図4に示すように、Al上部電極を有する通常の構造で製造した。各HJのブレンド比は、1:1のドナー:アクセプター体積比で最適化し、活性層厚さは、BF-DPN HJについて65nm、BF-DPT HJについて70nm、及びBF-DPP HJ、BF-DPB HJ、及びBF-DPA HJについて80nmで最適化した。最適化された各デバイスについてのAM1.5G疑似太陽照射下における太陽電池の電流密度対電圧(J-V)特性及び外部量子効率(EQE)スペクトルを
図4A及び4Bに示し、それらの光電池性能評価指標(J
SC、V
OC、曲線因子(fill factor)(FF)、及びPCEを含む)を表2にまとめた。予想されたように、EQEスペクトルは、各ドナーの吸収スペクトルを反映しており、Deep-UVを吸収するB4PymPmの寄与はわずかであるか、又は寄与はなかった。BF-DPP、BF-DPB、及びBF-DPNを含む不透過性(Al上部金属電極)NUV-OPVは、V=0付近で比較的平坦なJ-V曲線に基づき効率的に電荷を抽出する一方で、2つの最も大きいアリールリンカーであるBF-DPTとBF-DPAを有するドナーを使用した不透過性NUV-OPVにおける光電流は、電圧依存的であり、このため、それらのFFは、それぞれ46%と35%にとどまった。試験した全てのOPVのV
OCは、1.74Vと1.93Vの間に集まっており、これは、HOMOエネルギーが全てのドナーにわたって類似していることと整合性がある。
【0054】
表2-OPVの光電池性能評価指標及び光学的性能評価指標
【0055】
【表2】
D. Liu, C. Yang, P. Chen, M. Bates, S. Han, P. Askeland, R. R. Lunt, ACS Appl. Energy Mater. 2019, 2, 3972.
Y. Li, X. Guo, Z. Peng, B. Qu, H. Yan, H. Ade, M. Zhang, S. R. Forrest, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2020, 1.
【0056】
上記の従来型NUV-OPVの性能に基づき、BF-DPAとBF-DPPは、前者においては電荷抽出が乏しいこと、後者においてはJ
SCが低いことから、透明なNUV-OPVの候補から除外した。透明なNUV-OPVを製造するために、上部電極の選択と光アウトカップリング構造は、重要な設計考慮事項である。よって、この実施例において、製造した太陽電池の無彩色性と高透過率についての可能性を完全に実現するために、スパッタリングしたITO上部電極をTPBiアウトカップリング層と共に使用した。本発明者らは、厚さ40nmのITO上部電極を有する透明なNUV-OPVを得るためには、有機材料をITOスパッタリングの間保護するためにMoO
3層が必要であることを見出した。MoO
3は、仕事関数が深い正孔輸送層を有するので、ヘテロ接合の上にMoO
3を使用するためには、
図4Cに示すように、従来型アーキテクチャから逆型アーキテクチャへの切り替えが必要であった。逆型OPVは、逆型アーキテクチャにおけるAl上部電極のITOによる置き換えの影響を評価するために、Al電極を用いて追加して製造した。酸化インジウムスズの堆積によって、まず、部分的に短絡した、又は、いくつかのケースにおいては、完全に短絡した透明なNUV-OPVが生じた。数秒間大きな逆バイアスをかけることによって、多くのケースにおいて、短絡が除去され、ダイオードの性能の回復が可能になった。逆型NUV-OPVは、著しく高い-20Vの逆バイアス(>1.2MV/cmの有効電界に相当する)に耐えることが可能であり、このため、逆型NUV-OPVは、この短絡除去処理に特に適している。
【0057】
最適化された透明なNUV-OPVのJ-V特性とEQEスペクトルを、それぞれ
図4Dと4Eに示し、その光電池性能評価指標を、比較のために逆型のAlアノードを有する不透過性NUV-OPVと共に、表2に示す。それぞれのケースにおいて、逆型NUV-OPVのために最適な活性層は、反射電極がないことを補うために、対応する不透過性な従来型のものの活性層よりも厚い。特に、BF-DPNを含有するNUV-OPVの活性層は、対応する最適化された不透過性の従来型のものにおいては厚さがわずか65nmであるのに対して、400nm~440nmで光子の吸収が弱いことを補うために、厚さが180nmである。対応する従来型のものの性能と矛盾なく、BF-DPTを含有する透明なNUV-OPVにおける電荷引き抜きは、比較的薄い100nmの活性層によってさえ、より効率が低く、それが40%というFFにつながっている。BF-DPBを含有するデバイスは、最も性能が高い透明なNUV-OPVであり、120nmの活性層厚さにおいて、FFが55%である。その0.64mA/cm
2というJ
SCは、不透過性の逆型のもの及び従来型のもの(それらの光電流には、反射金属上部電極が寄与している)の両方によって製造されたものよりも、わずかに20%だけ低い。興味深いことに、全ての逆型デバイスは、従来型アーキテクチャに構成された対応するOPVのものよりも高いV
OCを発生し、これはおそらく、Li:BPhen(バソフェナントロリン)正孔輸送層とBF-DPL:F
6-TCNNQ電子輸送層の界面において電荷蓄積と電荷再結合が低減されているためである。
【0058】
それぞれのフルスタックの機能性の透明なNUV-OPVの透過率スペクトルは、光学干渉の最小と最大に対応する、ピークと谷を有する。ITOアノード上にアウトカップリング層を成長させることによって、透明なNUV-OPVの有効な光学的厚さは、これらの干渉縞を目の明所視光度関数(
図4F、右側の軸)とよりよく整合するようにシフトさせることによって、APTが増大するように調節され得る。この目的で、TPBiアウトカップリング層の厚さは、
図3Fに示す透過率スペクトルを生じるように、各透明なNUV-OPV上で個別に調節した(BF-DPBについては100nm、BF-DPTについては90nm、及びBF-DPNについては50nm)。アウトカップリング層としてTPBiを使用することのさらなる利点は、その屈折率が、ITOと空気の屈折率の間であることであり、これによって全ての波長にわたって反射が低減される。
【0059】
各デバイスのAPTに加えて、それぞれの透明なNUV-OPVを透過したAM1.5G太陽光のCRI、相関色温度(CCT)及び国際照明委員会(CIE)色度座標を算出し、その結果を表2に示した。BF-DPBの透明なNUV-OPVの97.1というCRIは、あらゆる透明な太陽電池について報告された最大値であり、本明細書に示されている3つの透明なNUV-OPV全てのAPT及びCRIは、OPVの中で最大であり、発光型太陽光集光器、及び最も透明なNUV吸収PSCと同等である。また、CCTは、自然太陽光(これは、5500KのCCTを有する)に対して300K以内であり、各デバイスについてのCIE色度座標は、[1/3,1/3]の白色点のΔx=0.01及びΔy=0.03以内であることも見出され、このことは、透明なNUV-OPVの優れた無彩色性を示している。これらを正しく理解するために、本発明者らは、本研究におけるそれぞれの透明なNUV-OPV、並びに文献から能力が最大の透明なNUV吸収PSC及びNIR吸収TPVについて、PCE対APT、PCE対CRI、及びCIE1931色空間上の色度座標を
図5A~5Cにプロットした。現在のアプローチにおける審美的利益と性能のトレードオフが、これらのプロットから明らかである。
【0060】
この非限定的な実施例において、2つの系列のNUV吸収ドナー分子が、そのジアミン部分とオリゴフェニレン又はアセンのいずれかとの間のアリールリンカーを変化させることによって体系的に調整された吸収プロファイルで設計された。本明細書に示されている最高の性能の透明なNUV-OPVは、AM1.5G疑似照射下で6.1~7.0W/m2の出力密度を発生し、かつ80.3~81.8%のboastなAPT及び95.0~97.1のCRIを実現し、よって、これまでで最も無彩色で透明な有機電池である。これらの結果によって、低い電力と最大の光学的透明性を必要とする用途、例えば、透明状態と着色状態の間の大きな透過率コントラストが重視される電気的に調光できるスマートウィンドウのための透明なNUV-OPVの可能性が際立つ。
【0061】
【0062】
一般的手順:
各二臭素化リンカー(1~4)と2-アニリノ-9,9-ジメチルフルオレン(1.00:2.01モル等量)を、ナトリウムtert-ブトキシド(3等量)と共に、火炎乾燥した丸底フラスコに加え、これらの試薬に対して、窒素ガスと真空のサイクルを3回繰り返した。反応物を窒素ガス下に置き、無水トルエンをフラスコに加えた(100mgの二臭素化出発材料=10.0mlのトルエン)。次いで、反応物を窒素吸気口と排気口用ニードルによって30分間脱気した。フラスコにトリ-tert-ブチルホスフィンを加え(0.100mol%)、続いて反応物をさらに15分間脱気した。反応物を密封し、95℃の油浴中に終夜置いた。反応物を冷却し、濾過し、大量のジエチルエーテルで洗浄した。固形物を集め、最終精製のために昇華させた。BF-DPP固形物は反応物から崩壊せず、50%DCMから50%ヘキサンのグラジエントを用いたカラムを行った。全ての反応は、BF-DPA(これは、1.5mmol/0.500gスケールで行った)を除き、グラムスケールで行った。
【0063】
BF-DPP 黄色固体, 反応収率= 87% (2.38 gr), 昇華収率 = 34%. 1HNMR (500 MHz, 295K, DMSO) δ 7.74 (d, 2H), 7.73 (d, 2H), 7.50 (d, J=7.4 Hz, 2H), 7.33-7.21 (br, 10H), 7.07 (d, J=8.0 Hz, 4H), 7.02-6.98 (br, 8H), 1.36 (s, 12H). 13CNMR (125 MHz, 295K, DMSO) δ 158.86, 157.20, 151.50, 150.92, 146.60, 142.39, 137.58, 133.61, 131.16, 130.69, 129.39, 127.21, 126.76, 126.74, 126.64, 125.19, 123.61, 122.00, 50.50, 30.92. HRMS (MALDI +) [C48H40N2+H]+についてのm/zの計算値 644.32, 測定値 644.34。
【0064】
BF-DPT 黄色固体, 反応収率= 87% (2.19 gr), 昇華収率 = 27%. 1HNMR (500 MHz, 295K, C2D4Cl2) δ 7.67 (br s, 4H), 7.65 (d, J=7.5 Hz, 2H), 7.62 (d, J=8.1 Hz, 2H), 7.57 (d, J=8.6 Hz, 4H), 7.40 (d, J=7.4 Hz, 2H), 7.31-7.24 (br, 10H), 7.17 (dd, J=8.7, J=2.4 Hz, 8H), 7.07-7.04 (br, 4H), 1.42 (s, 12H). 13CNMR (125 MHz, 295K, C2D4Cl2) δ129.69, 129.17, 127.80, 127.39, 127.17, 127.00, 124.79, 124.14, 124.12, 123.38, 122.90, 121.04, 119.81, 119.53, 47.18, 27.27. *炭素のスペクトルは、溶解性のため、160~130 ppmでプロトンを捕捉することができなかった。HRMS (MALDI +) [C60H48N2]+についてのm/zの計算値 796.38, 測定値796.39。
【0065】
BF-DPN 黄色固体, 反応収率 = 100% (2.45 gr), 昇華収率 = 70%. 1HNMR (500 MHz, 295K, C2D4Cl2) δ 7.85 (d, J=7.4 Hz, 2H), 7.62 (d, J=8.1 Hz, 2H), 7.51 (d, J=8.7 Hz, 2H), 7.41 (d, J=6.7 Hz, 4H), 7.31-7.23 (br, 12H), 7.15 (d, J=7.9 Hz, 4H), 7.05-7.02 (br, 4H), 1.36 (s, 12H). 13CNMR (125 MHz, 295K, C2D4Cl2) δ 155.41, 153.85, 148.21, 147.51, 144.80, 140.07, 139.12, 134.40, 131.20, 129.63, 128.10, 127.29, 126.81, 125.12, 124.29, 123.68, 123.01, 122.80, 120.91, 120.39, 119.64, 119.02, 46.98, 27.13. HRMS (MALDI +) [C50H40N2+H]+についてのm/zの計算値 694.33, 測定値 694.27。
【0066】
BF-DPA 黄色固体, 反応収率= 70% (0.765 gr), 昇華収率 = 69%. 1HNMR (500 MHz, 295K, C2D4Cl2) δ 8.04 (s br, 2H), 7.78 (d, 2H), 7.65 (d, 2H), 7.63 (d, J=8.0 Hz, 2H), 7.51 (d, 2H), 7.41 (d, J=6.9 Hz, 2H), 7.32-7.26 (s br, 12H), 7.20 (d, J=7.9 Hz, 4H), 7.10-7.07 (br, 4H), 1.40 (s, 12H). *炭素のスペクトルは、溶解性のため、取得することができなかった。 HRMS (MALDI +) [C56H44N2+H]+についてのm/zの計算値 744.35, 測定値 744.13。
【0067】
密度汎関数理論
全ての量子化学的計算は、Jaguar, version 2020-4, Schrodinger, Inc., New York, NY, 2021を使用して行った。(A. D. Bochevarov, E. Harder, T. F. Hughes, J. R. Greenwood, D. A. Braden, D. M. Philipp, D. Rinaldo, M. D. Halls, J. Zhang, R. A. Friesner, "Jaguar: A High Performance Quantum Chemistry Software Program with Strengths in Life and Materials Sciences", Int. J. Quantum Chem., 2013, 113, 2110-2142を参照のこと)。全てのジオメトリーは、B3LYP-D3関数及び6-31G++**ベースのセットを使用して最適化した。補足情報は、5つのドナー吸収体のそれぞれ及びB4PymPm、疑似吸収スペクトル、TD-DFTによって決定された15個の最低エネルギーのルート、並びに分子軌道の可視化についてのxyz座標を含む
【0068】
材料
ドナー吸収体の合成のための全ての出発試薬は、Sigma Aldrich及びTCIから購入し、入手した状態のまま使用した。無水トルエンは、Sigma Aldrichから購入し、入手した状態のまま使用した。BF-DPP、BF-DPN、BF-DPA、及びBF-DPTの詳細な合成手順及び特徴付けは、補足情報中に見出される。B4PymPm、BF-DPB、TPBi、及びBPhenは、Luminescence Technology Corp.から購入し、入手した状態のまま使用した。蒸着金属であるLi及びAl、並びにMoO3は、Sigma Aldrichから購入し、入手した状態のまま使用した。
【0069】
材料の特徴付け
プロトン核磁気共鳴(1HNMR)スペクトルと炭素核磁気共鳴(13CNMR)スペクトルは、両方とも、BF-DPN、BF-DPA、及びBF-DPTについて、クライオプローブを備えたBruker 500 AVANCEで、295Kで記録した(それぞれ、500MHzと125MHz)。プロトンについての化学シフトは、NMR溶媒中の残存プロチウムを参照として(C2D4Cl2=3.72ppm又はBF-DPPについてはDMSO=2.5ppm)、百万分率(ppm)で記録した。炭素についての化学シフトは、溶媒ピークの炭素共鳴を参照として(C2D4Cl2=43.6ppm又はBF-DPPについてはDMSO=39.52ppm)、低磁場側の百万分率(ppm)で記録した。NMRの分裂パターンは次の通りである:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード。全ての結合定数(J)はヘルツ(Hz)による。高分解能マススペクトルは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)によって収集し、ジトラノールをマトリックスとして使用した。
【0070】
熱転移は、PerkinElmer DSC-8500示差走査熱量計で測定した。別段の記載がない限り、昇温速度は10℃/分であった。熱重量測定は、ガスクロマトグラフィー(GC)及び質量分析能を備えたPerkin Elmer TGA-8000で行った。分解温度は、窒素中で10℃/分で昇温している間に、5%の重量減少が観察された温度とみなした。ドナー吸収体は、377℃~397℃のTdを有する。表1は、各化合物についてのTd及びTmを含む。
【0071】
薄膜の堆積及びデバイスの製造
全ての基板(substrate)は、膜の堆積の前に、脱イオン水、アセトン、及びイソプロピルアルコール中で順次超音波処理して洗浄した後、N2ガス流中で急速に乾燥させた。デバイス製造のために予めパターンが付けられたITOコート基板を、Luminescence Technology Corp.から商業的に購入し、溶媒洗浄後、UVオゾンで10分間処理した。全ての有機層、金属(Li及びAl)、及びMoO3は、Angstrom Engineeringの熱蒸発装置内で、チャンバーベース圧力<5×10-7Torr及び成長速度0.1Å/秒~2.5Å/秒で堆積させた。膜の厚さは、堆積の間、水晶振動子微量天秤を使用してモニターした。厚さは、別々にキャリブレーションするか、又はWoollam M-2000分光エリプソメーターによって、若しくは金属層の場合にはBruker NanoMan原子間力顕微鏡によって直接的に測定した。太陽電池の9mm2の活性面積は、予めパターンが付けられた基板上のITOの3mm幅のストリップと、シャドウマスクで限定された3mm幅の上部電極(Al又はITOのいずれか)の重なりとして規定した。
【0072】
透明なデバイスのための上部ITO電極は、Angstrom Engineeringの誘電体スパッタリングチャンバー内で、3インチ径のIn2O3/SnO2(90/10重量%)スパッタリング標的の高周波スパッタリングによって、45Wで堆積させ、成長速度は0.22Å/秒であった。スパッタリングガスは、流速15sccmの純粋なArであり、ポンピング速度は、スパッタリングの間、プロセス圧力が3mTorrになるように設定した。基板は、スパッタリングの間、標的からできるだけ遠く離して配置し(約25cm)、成長速度は、Alpha-Stepプロフィロメーターで厚さ校正した水晶振動子微量天秤でモニターした。128±3Ω/□のシート抵抗を、40nm厚のITO膜について、四探針測定装置を使用して測定した。ITO上部電極を堆積させた後、ほとんどのOPVは、部分的に短絡しているか、又は完全に短絡しているかのいずれかであった。これらの短絡を除去し、ダイオードのJ-V特性を回復させるために、-10V~-20Vで5秒~30秒間の逆バイアス処理を使用した。
【0073】
光電池の測定
デバイス製造に続いて、全ての太陽電池についてEQEスペクトルを取得した。まず、チョッピング(200Hz)した単色光を、広帯域光ファイバーの中にカップリングし、この光ファイバーによって、「限定モード」配置で太陽電池を照射した。スペクトル応答性が既知であるSi参照電池の光電流応答を、まず、Stanford InstrumentsのSR810ロックイン電流増幅器で波長の関数として測定し、各波長における光子束入射をキャリブレーションした。この照射に応答してNUV-OPVが発生させる波長依存的な光電流を測定し、それをキャリブレーションした光子束で除算すると、EQEが得られる。JSCを算出するために(NUV-OPVはAM1.5G太陽照射下で発生させるであろう)、このAM1.5G太陽フラックスとEQEスペクトルの積を、全ての波長にわたって積分した。この積分の結果を、表2にJSC,EQEとして示す。さらに、光電池性能を評価するために、本研究の全ての太陽電池のJ-V特性を、Xeアークランプ照射下で、Keithley2365ソース測定ユニットによって測定した。NUV-OPVと標準的な参照光電池(例えば、Siなど)の間に大きなスペクトル的なミスマッチがあるため、疑似太陽光源の初期強度は、BF-DPBを有する従来型OPVにおいて、EQE測定値から計算されたJSC,EQEと同等のJSC,J-Vが生じるように調整した。その結果、EQE測定値とJ-V測定値からの光電流は、表2に示すように、BF-DPB太陽電池及び他の類似のスペクトル応答性範囲を有する太陽電池についてはよく一致しているが、BF-DPN電池及びBF-DPA電池(これらはより多くの可視光子を吸収する)については数パーセントのずれがあった。
【0074】
透過率スペクトルの測定及び吸収係数の決定
透過率スペクトルを、Agilent Technologies UV-Vis Cary 5000分光光度計で収集した。5つのドナー吸収体のそれぞれ及びB4PymPmの厚さ20nmの膜の透過率スペクトルを石英で収集し、バックグラウンドをブランクの石英スライドで補正した。吸収係数は、バックグラウンド補正した透過率スペクトルから、以下のようにして算出した:
【数1】
(式中、xは、cm単位の膜厚である)。
【0075】
フルスタックOPVにおける透過率スペクトルは、直径1mmの絞りを通して測定した。透過率スペクトルが、ガラス基板を含むデバイススタックにおける全ての層の吸収/反射を含むように、空のサンプル光線をバックグラウンドスペクトルとして使用した。
【0076】
紫外及び逆光電子分光法
7~20nmの薄膜は、ベース圧力が5×10-10Torrの超高真空(UHV)チャンバー内で、紫外光電子分光法(UPS)及び逆光電子分光法(IPES)を使用して測定した。各サンプルを、空気に曝露させずに、N2グローブボックスからUHVに移した。被占状態は、UPSのヘリウム放電ランプ光のHe I線(hν=21.22eV)を使用して測定した。空状態は、IPESを単色モードで使用して、他の箇所に記載した設定で測定した。UPSとIPESのエネルギー分解能は、それぞれ、150meVと450meVである。
【0077】
光度計算
平均明所視応答重み付け透過率の値は、
図3fに示す透過率スペクトルから、以下の様にして算出した:
【数2】
(式中、T(λ)は、OPVの透過率であり、V(λ)は、明所視光度関数であり、積分の上下界は、380nm~740nmの全ての可視波長にわたる)。さらなる光度計算(CRI、CCT、及びCIE[x,y]色度座標)のために、各透過スペクトルについての有効な分光分布を、AM1.5Gスペクトルに各波長における透過率を乗じることによって作成した。次いで、CRI、CCT、及びCIE[x,y]色度座標を、これらの有効な発光体について算出した。演色評価数は、R. Lunt(2012)によって概説されている方法を使用して計算した。
[13]本発明者らは、窓用途に対するより良好な適用可能性のために、これらの計算のための参照スペクトルとして、CIE D65標準光源ではなく、AM1.5Gを使用した(すなわち、AM1.5G照射のCRIを100と規定した)。三刺激値は、各NUV-OPVの分光分布と3つのCIE等色関数の積を積分することによって算出した。次いで、この三刺激値を、x=X/(X+Y+Z)及びy=Y/(X+Y+Z)によってCIE1931色空間上にマッピングして、CIE(x,y)座標を同定した。各OPVのCCTは、その三刺激値を、u=4X/(X+15Y+3Z)及びv=6Y/(X+15Y+3z)によってCIE1960均等色空間上にマッピングして、プランク軌跡上の最も近い点の黒体温度を同定することによって算出した。
【国際調査報告】