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特表2023-534452神経筋障害及び神経運動障害のための遺伝子療法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】神経筋障害及び神経運動障害のための遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20230802BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230802BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230802BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230802BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230802BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C12N15/35
C12N7/01 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K35/76
A61K48/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501900
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2021069854
(87)【国際公開番号】W WO2022013396
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】2010981.5
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505367464
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラウンストーン,ロバート モーリス
(72)【発明者】
【氏名】マレー,アンドリュー ジョン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4C084AA13
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA941
4C084ZB211
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞に由来するニューロンを含む被験体のニューロン又はそのサブコンパートメントに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法を提供する。本発明は、神経筋障害又は神経運動障害(例えば痙縮)を処置する方法において使用するための、AAVキャプシド、キャプシドをコードするヌクレオチド配列、発現ベクタ、ウイルス粒子、細胞及びキットも提供する。それらの方法によって作製された配列は、筋肉細胞を神経支配する運動ニューロンなどの選ばれたニューロン集団に標的化されるがゆえに被験体に対して個別化され得る高い特異性を提供する、新しい遺伝子療法につながる可能性がある。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法であって、
(i)ニューロンの集団を提供する工程であって、前記ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来する、工程、
(ii)前記集団を第1の複数の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iii)前記ニューロンに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(iv)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
被験体内のニューロンの特定のサブコンパートメントに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法であって、
(i)ニューロンの集団を提供する工程であって、前記ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来する、工程、
(ii)前記集団を第1の複数の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iii)前記ニューロンの前記特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(iv)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む、方法。
【請求項3】
被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法であって、
(i)ニューロンを含む集団を提供する工程であって、
前記ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来し、
前記ニューロンは、それぞれ、第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントを有する、工程、
(ii)前記第1の特定のサブコンパートメントと第2の特定のサブコンパートメントとが互いから遠く離れるように、前記ニューロンを配置する工程、
(iii)前記第1の特定のサブコンパートメントを、第1の複数の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iv)前記第2の特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(v)ニューロンの前記第2の特定のサブコンパートメントに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む、方法。
【請求項4】
(a)工程(ii)において、前記第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントが、1つ以上の容器の異なる物理的領域においてグループ化されており、且つ/又は
(b)前記第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントが、マイクロ流体チャンバ内の1つ以上の容器の異なる物理的領域においてグループ化されており、且つ/又は
(c)前記第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントが、軸索によって接続されており、且つ/又は
(d)前記1つ以上の容器が、骨格筋細胞及び/又は筋細胞及び/又は感覚ニューロンをさらに含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ニューロンが、運動ニューロンである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記決定工程の後に、
(i)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列を使用して、第2の複数の試験AAV粒子を作製する工程、
(ii)前記ニューロンに感染した第2の複数のAAV粒子を単離するために、前記第2の複数の試験AAVキャプシドを用いて工程(i)から(iii)を繰り返す工程、及び
(iii)前記ニューロンに感染した前記第2の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
をさらに含み、
前記第2の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列は、前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列よりも前記ニューロンに感染するのに有効である、
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第2の複数の試験AAV粒子が、
(i)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列のランダム突然変異誘発、
ii)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列のシャッフリング、及び
iii)前記ニューロンに感染した前記第1の複数のAAV粒子の前記キャプシドをコードするヌクレオチド配列のVP1、VP2又はVP3の中の様々な領域における、最大25アミノ酸長の標的化ペプチド配列又はランダムペプチド配列の挿入
のうちの1つ以上によって作製される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記iPSC又はESCが、i)前記被験体、必要に応じて、ヒト被験体、及び/又はii)前記被験体の皮膚サンプル、及び/又はiii)前記被験体の線維芽細胞に由来する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(i)が、iPSC又はESCからニューロンを誘導する工程を含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、筋肉内注射により被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のスクリーニング方法によって特定される、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)のキャプシドをコードするヌクレオチド。
【請求項12】
配列番号11に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)のキャプシドをコードするヌクレオチド配列。
【請求項13】
配列番号1又は配列番号2に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)のキャプシドをコードするヌクレオチド配列。
【請求項14】
請求項11から13のいずれかに記載のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(「AAV」)発現ベクタ。
【請求項15】
前記発現ベクタが、導入遺伝子産物をコードする導入遺伝子をさらに含み、前記導入遺伝子産物は、前記発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンの興奮性を変化させることができ、必要に応じて、前記導入遺伝子産物は、前記発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンの過剰興奮性を低下させることができる、請求項14に記載の発現ベクタ。
【請求項16】
前記導入遺伝子産物が、
(a)前記発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンの興奮性を弱めることができるか、
(b)前記発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンのシナプス伝達を遮断することができるか、
(c)合成リガンドによってのみ活性化されるレセプタ(RASSL)であるか、又は
(d)もっぱらデザイナードラッグによって活性化されるデザイナーレセプタ(DREADD)である、
請求項15に記載の発現ベクタ。
【請求項17】
前記導入遺伝子又は導入遺伝子産物が、
(a)KCC2導入遺伝子もしくはKCC2導入遺伝子産物であって、必要に応じて、
(i)前記KCC2導入遺伝子は、配列番号3に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又は
(ii)前記KCC2導入遺伝子産物は、配列番号4に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、
KCC2導入遺伝子もしくはKCC2導入遺伝子産物、又は
(b)Kv1導入遺伝子もしくはKv1導入遺伝子産物であって、必要に応じて、
(i)前記Kv1導入遺伝子は、配列番号5に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又は
(ii)前記Kv1導入遺伝子産物は、配列番号6に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、
Kv1導入遺伝子もしくはKv1導入遺伝子産物、又は
(c)破傷風毒素軽鎖導入遺伝子もしくは破傷風毒素軽鎖導入遺伝子産物であって、必要に応じて、
(i)前記破傷風毒素軽鎖導入遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又は
(ii)前記破傷風毒素軽鎖導入遺伝子産物は、配列番号8に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、
破傷風毒素軽鎖導入遺伝子もしくは破傷風毒素軽鎖導入遺伝子産物、又は
(d)hM4Di導入遺伝子もしくはhM4Di導入遺伝子産物であって、必要に応じて、
(i)前記hM4Di導入遺伝子は、配列番号9に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又は
(ii)前記hM4Di導入遺伝子産物は、配列番号10に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する、
hM4Di導入遺伝子もしくはhM4Di導入遺伝子産物
である、請求項14から16のいずれかに記載の発現ベクタ。
【請求項18】
前記発現ベクタが、AAV2発現ベクタ又はAAV6発現ベクタである、請求項14から17のいずれかに記載の発現ベクタ。
【請求項19】
前記発現ベクタが、
(a)前記導入遺伝子に作動可能に連結されたニューロン特異的プロモーター遺伝子、並びに/又は
(b)rep遺伝子であって、必要に応じて、前記rep遺伝子は、AAV2rep遺伝子である、rep遺伝子、並びに/又は
(c)cap遺伝子であって、必要に応じて、前記cap遺伝子は、AAV2cap遺伝子である、cap遺伝子、並びに/又は
(d)末端逆位配列であって、必要に応じて、前記末端逆位配列は、AAV2末端逆位配列である、末端逆位配列、並びに/又は
(e)ウイルスのパッケージングタンパク質及び/もしくはエンベロープタンパク質をコードする遺伝子
をさらに含む、請求項14から18のいずれかに記載の発現ベクタ。
【請求項20】
前記発現ベクタが、必要に応じて筋肉内注射により、被験体内の標的化ニューロンの活動を変化させることができる、請求項14から19のいずれかに記載の発現ベクタ。
【請求項21】
ウイルス粒子を作製するインビトロ方法であって、
(i)請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタを哺乳動物細胞に形質導入し、粒子形成に必要なウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質を前記細胞において発現させる工程、及び
(ii)前記形質導入された細胞を培養液中で培養し、前記細胞が、前記培地中に放出されるウイルス粒子を産生する、工程
を含む、方法。
【請求項22】
請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタを含む、ウイルス粒子。
【請求項23】
被験体の神経筋障害又は神経運動障害を回復させるか又は処置する方法であって、治療的に活性な量の、請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタ又は請求項22に記載のウイルス粒子を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項24】
前記障害が、痙縮、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、又は他の運動障害、例えばジストニーである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記AAV発現ベクタ又はウイルス粒子が、筋肉内、静脈内、頭蓋内又は脊髄内に送達される、請求項23から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
被験体の神経筋障害又は神経運動障害を回復させるか又は処置する方法であって、治療的に活性な量の、請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタ又は請求項22に記載のウイルス粒子を前記被験体に投与する工程を含み、前記AAV発現ベクタ又はウイルス粒子は、請求項1から10のいずれかに記載のスクリーニング方法によって特定されたAAVキャプシドのキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含み、前記スクリーニング方法において使用されるiPSC又はESCは、前記被験体に由来する、方法。
【請求項27】
前記方法において使用されるiPSC又はESCが、前記被験体の皮膚サンプルに由来する、請求項23から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
被験体のニューロンのニューロンに逆行感染し、被験体内のニューロンの活動を変化させるために、前記AAV発現ベクタ又はウイルス粒子を筋肉内に送達する、請求項23から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
請求項23から28のいずれか1項に記載の方法において使用するための、請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタ又は請求項22に記載のウイルス粒子。
【請求項30】
請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタ、並びに細胞内で発現されたとき、粒子形成に必要なウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質をコードする1つ以上のウイルスパッケージング発現ベクタ及びウイルスエンベロープ発現ベクタを含む、キット。
【請求項31】
請求項14から20のいずれかに記載のAAV発現ベクタを含む細胞であって、必要に応じて、前記細胞は、哺乳動物細胞であり、さらに必要に応じて、前記哺乳動物細胞は、HEK293細胞である、細胞。
【請求項32】
配列番号12、15又は16に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、キャプシド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、規定のニューロン集団(例えば運動ニューロン)を標的化するアデノ随伴ウイルス(「AAV」)キャプシドをスクリーニングするための方法に関し、この方法は、神経筋疾患及び神経運動疾患(例えば痙縮)を処置するための遺伝子療法を開発するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
神経障害及び神経疾患の症状は、脳及び脊髄のニューロン及び回路の異常な機能に起因する。現行の処置は、この機能不全を標的化することを目的としており、それらには、例えば、脳深部刺激、脊髄刺激、又は局所的な薬物送達のためのデバイス(例えばポンプ)の埋め込みを用いた、機能的脳神経外科の比較的新しい分野が含まれる。これらの処置の成功の鍵は、神経機能不全の領域に埋め込まれるデバイスの位置である。換言すれば、機能不全のニューロンを処置することが極めて重要である。
【0003】
デバイスの埋め込みに代わるものとして、遺伝子を挿入してニューロンの機能を改変すること、すなわち「遺伝子療法」がある。しかし、デバイスの埋め込みであっても、遺伝物質の挿入であっても、特異性の問題がまだある。つまり、デバイスが埋め込まれる場所には多くの種々のタイプのニューロンが存在し、そのすべてに影響が及ぶ可能性がある。
【0004】
回路の機能不全に関与するニューロンを特異的に対象とする遺伝子療法を用いることも選択肢であり得る。これは、3つの因子、(a)ニューロンのタイプに特異的なプロモーター遺伝子、(b)回路内の異なる位置、すなわち、目的のニューロンが突出する位置に遺伝物質を挿入して、その遺伝物質が神経細胞体に送り返されてその機能を改変すること、及び(c)特定のニューロンタイプに対するウイルスの向性を高めること、を組み合わせることによってなされ得る。
【0005】
組換えアデノ随伴ベクタ(「rAAV」)は、細胞に遺伝物質を移入するための重要なベクタであり、特に、遺伝子療法の用途に用いられる主たるウイルスベクタである(Li and Sumulski,2020)。脊髄性筋萎縮症を処置するためのZolgensma及びサブタイプif網膜ジストロフィーを処置するためのLuxternなどのいくつかのrAAVベースの遺伝子療法が、現在使用されており、多くのものが、現在、臨床試験で試験中である。
【0006】
AAVは、最大約4.9Kbの一本鎖DNAを含むdependoparvovirus属に属する小型ウイルスである。AAVのゲノムは、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3を含み、これらはすべて、1つのmRNAから翻訳される。野生型では、複数の血清型のAAVが特定されており、各々がユニークなキャプシド遺伝子配列を有し、ゆえに異なる向性を有するが、野生型の血清型は、複数の組織及び細胞型に感染することができる傾向がある。これらの血清型は、番号で示される。AAV1、AAV2など。
【0007】
DNA組換え法によってキャプシド配列を改変することにより、特定の細胞又は組織に(又はそれに対して)向けられ、適応された特性及び向性であって免疫系を免れる特性及び向性を有する非天然の配列を生成することができる(Vandenberghe et al.,2009)。一般に、キャプシドの改変は、2つの様式、つまり、既存のキャプシドDNA配列のランダム突然変異誘発、又はキャプシドシャッフリング(すなわち、複数のキャプシドからDNA配列を取り出し、その配列の一部をランダムにシャッフルして新しいキャプシドを作製すること;Buning et al.,2015)によって達成され得る。これらの方法により、潜在的に価値ある特性を有する高度に多様な多数のキャプシドが生成される。それらは、機能的なビリオンにパッケージングされたら、特定の組織又は細胞に対して標的化されたキャプシドを選択するために、動物組織又は細胞培養物においてスクリーニングされ得る。次いで、これらのキャプシド配列を新規に作製し、遺伝子療法での治療可能性を有する遺伝子と組み合わせることができる。
【0008】
キャプシドライブラリをスクリーニングして新規の遺伝子治療ベクタを作製するこのシステムは、全身注射後に血液脳関門を通過し、ニューロンに感染することができるAAV9の誘導体への動物での応用に成功している。PhP.eBなどのrAAV(Bedbrook et al.,2018に概説されている)は、このように作製された。このシステムにおいて、rAAVキャプシドライブラリを実験動物に注射し、次いで、標的細胞集団(この場合、ニューロン)を収集し、配列決定(PCR又はディープシーケンシング法によるもの)に供して、それらの細胞に感染したAAVキャプシドの配列を特定する。次いで、これらの配列を新規に合成(デノボ合成)し、さらなる実験に使用するか、又は定向進化として知られるプロセスにおいてさらなる回の突然変異誘発及びスクリーニングに供する(進化的圧力を高めるために)ことができる(Li and Sumulski,2020を参照のこと)。このタイプのアプローチは、ドーパミン作動性ニューロン(Davidsson et al.,2019)、横紋筋(Yang et al.,2009)及び網膜の一部(Dalkara et al.,2013)に対して標的化されたrAAVを作製するために用いられている。rAAVキャプシドは、肝臓などの重要臓器への感染を低減させるように進化させることもできる(Pulicherla et al.,2011)。最後に、rAAVキャプシドの定向進化は、個々の細胞型のサブコンパートメントを標的化するためにも使用することができる。例えば、rAAV2-Retroは、マウス皮質ニューロンのシナプス末端を標的化するように進化された(Tervo et al,2016)。
【0009】
インビボ研究は、AAVキャプシドの定向進化により、血液脳関門を通過する能力及び高い神経向性(Deverman et al.,2016及びEP3044318B1)又はとりわけドーパミン作動性ニューロン(Daviddson et al.,2019)もしくは心筋細胞(Yang et al.,2009)に対する神経向性などの有用な特性を有するベクタをもたらすことができることを示した(総説として、Li and Sumulski,2020を参照のこと)。定向進化は、エラープローンPCR、キャプシドシャッフリング又はその両方によって作製されたランダムなキャプシド配列によってキャプシド形成されたAAVベクタの混合物であるキャプシドライブラリの作製を含む。次いで、このライブラリが、細胞株(例えば、Maheshri et al.,2006)、未分化な幹細胞(Asuri et al.,2012)又は最も一般的には、実験動物(例えば、Devermann et al.,2016;Li and Sumulski,2020;特許US8632764B2;US20170166926A1;US9701984B2)に適用される。さらに、心筋細胞に分化したiPSCを用いて心臓作用性のAAVを作製した1つのグループからの予備的な報告もある。
【0010】
AAVキャプシドライブラリの作製は、数多くの様式で達成され得るが、これらのライブラリのスクリーニングは、主に実験動物の使用に頼っている。有効な遺伝子治療ベクタであるrAAVを作製するこの方法の大きな欠点の1つは、特定されたキャプシドが動物の種又はさらには系統に特異的であることが多いことである。したがって、スクリーニング宿主(すなわち、マウス)において開発されたキャプシドの改善された特徴及び機能の多くは、非ヒト霊長類及びヒトに容易に移行しない(Hordeaux et al.,2018)。これは、臨床研究及び前臨床研究において、操作されたキャプシドがまだ広く野生型バリアントに取って代わっていない主な理由であり得る(Davidsson et al.,2019)。
【0011】
上に記載されたように処置することができる神経障害又は神経学的状態の一例は、痙縮である。痙縮は、多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷及び脳性麻痺を含むがこれらに限定されない種々の神経障害を有する人々が苦しむ神経症状である。痙縮は、世界中で約1200万人が罹患していると推定され、患者の約22%がこの状態のせいで働くことができず、ほぼすべての患者が生活の質に影響を受けていると報告しており、患者の約50%が生活の質に大きな影響を受けていると報告している。痙縮は、この疾患のせいで「過興奮性」になっている運動ニューロンによる筋肉の過剰な興奮に起因する。
【0012】
現行の痙縮の処置には、経口薬(例えばバクロフェン)、麻痺剤(ボツリヌス毒素)の筋肉内注射、又は薬剤(例えばバクロフェン)を髄液に直接送達するポンプの外科的挿入がある。経口薬は、不十分であることが多いか、又は著しい有害作用をもたらす。ボトックスは、生涯にわたって1年に数回の反復投与が必要である。ボトックスは、限られた数の筋肉にしか注射されないことが多く、長期有害作用を有し得る。バクロフェンポンプは、症状の軽減に非常に有効であり得るが、しかしながら、このポンプは、埋め込み及び1年に2~4回行われる補充のために外科的介入が必要であるので、侵襲性が高く、また、6~7年ごとに交換しなければならない。そのうえ、ポンプの寿命の6~7年で、患者の1/3~1/2が、問題点を修正するために追加の手術が必要になり得る。また、それぞれの操作には、規定の合併症の発生率がある。
【0013】
したがって、痙縮などの神経筋障害及び神経運動障害を処置するために特定のニューロンに特異的であり、ヒト被験体などの被験体において使用することができる、新規の遺伝子治療ベクタの提供が急務となっている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、標的化されるニューロンの活動を変化させるようにデザインされた遺伝子療法を含む。この処置の成功には、時折、筋肉内注射後の、ニューロンへの効率的な感染(又は「形質導入」)が必要である。本発明者らの知る限り、これは従前の処置/発明では不可能であった。いくつかの好ましい実施形態において、ニューロンは、運動ニューロンである。他の好ましい実施形態において、ニューロンは、感覚ニューロン、介在ニューロン又は投射ニューロンである。
【0015】
これを達成するために、本発明は、運動ニューロンなどの特定のクラスのニューロンに効率的に感染する能力に基づいて新規のアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドを特定する技術プラットフォームを含む。このプラットフォームは、これらの細胞型に分化した幹細胞を用いて、AAVキャプシドライブラリをスクリーニングし、これらのスクリーニングから得られた配列を用いて、ニューロン又は他のヒト細胞もしくヒト組織の選ばれた集団に標的化される新しい遺伝子療法を開発する。ニューロンは、解剖学的に、機能的に、もしくは遺伝子発現を介して、又は疾患状態への関与によって、定義され得る(例えば、パーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロン)。
【0016】
本発明は、新規のAAVキャプシドを含むAAVを被験体の患部筋肉に注射することを含む処置方法も含み、その後、これらのAAVは、運動ニューロンの末端に感染することができ、その細胞体に輸送されて、その筋肉を神経支配する運動ニューロンにおいて特異的に外来導入遺伝子が発現されることにより、高い特異性が提供される(図1を参照のこと)。
【0017】
ゆえに、本発明は、運動ニューロンに影響を及ぼす疾患を有する患者の治癒、症状の緩和及び/又は生活の質の改善を目的として、筋肉内注射後に運動ニューロンにアクセスし、その後、運動ニューロンにおける遺伝子発現を改変するウイルスの作製を可能にすることができる。
【0018】
本発明は、新規のAAVキャプシドを含むAAVを被験体の脳又は脊髄に注射することを含む処置方法も含み、その後、これらのAAVは、被験体の運動ニューロン、感覚ニューロン、介在ニューロン又は投射ニューロンの末端に感染することができる。
【0019】
ゆえに、本発明は、これらのニューロンに影響を及ぼす疾患を有する患者の治癒、症状の緩和及び/又は生活の質の改善を目的として、頭蓋内又は脊髄内の筋肉内注射後にこれらのニューロンにアクセスし、その後、これらのニューロンにおける遺伝子発現を改変するウイルスの作製を可能にすることができる。
【0020】
上で論じたように、AAVキャプシドは、絶妙なレベルの細胞向性及び種向性の可能性を有するが、現在利用可能なスクリーニング技術では、この選択性を利用できず、治療効果に役立てることができない。
【0021】
本発明は、これらの欠点を克服し、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)由来のヒト細胞におけるAAVキャプシドライブラリのスクリーニングを可能にする。多くのサブタイプのニューロンをはじめとしたヒト細胞は、iPSC又はESCからインビトロで誘導することができる(Little et al.,2019)。これらのニューロンの遺伝子構成は、動物のニューロンに見られる同じ細胞よりもヒト患者のものに似ている可能性があるので、それらは、実験動物よりもAAVライブラリのスクリーニングにはるかに適した基質を提供すると考えられる。いくつかの実施形態において、ニューロンは、運動ニューロンである。運動ニューロンは、ヒト胚のニューロンに由来し得るが、そのようなニューロンは、供給量が限られており、個別化されていない。対照的に、本発明のいくつかの態様によって教示されるように、iPSCからニューロンを誘導すると、個別化も可能な運動ニューロンをより多く供給することが可能になる。
【0022】
本発明は、誘導されたiPSC及びESC由来のニューロンとインビトロスクリーニングとの組み合わせを用いて、AAVキャプシドが注射を介してより効率的にニューロンに感染できるようにするAAVキャプシドをコードするヌクレオチド配列を特定する、ウイルス進化アプローチも含む。いくつかの実施形態において、このアプローチは、AAVキャプシドが筋肉内注射を介してより効率的に運動ニューロンに感染できるようにするAAVキャプシドをコードするヌクレオチド配列の特定を可能にする。
【0023】
本発明は、iPSC/ESC由来の細胞培養物とマイクロ流体チャンバの使用とを組み合わせることによって、ニューロンの個々のコンパートメント(又はサブコンパートメント)を標的化する能力に基づいて新規のアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドを特定する技術プラットフォームも含む。運動ニューロンの末端に効率的に感染する能力についてAAVキャプシドライブラリをスクリーニングできるその使用例を本明細書中で説明するが、同じシステムを用いて、多くのニューロンタイプに標的化されたキャプシドを特定してもよい。
【0024】
さらに、ニューロンに効率的に感染するキャプシド配列は、被験体によって異なり得るので、本発明は、個々の被験体から皮膚サンプルを採取し、その皮膚サンプルを幹細胞、次いでニューロンに転換させ、患者からのこれらのニューロンを用いて有効なAAVベクタをスクリーニングして、遺伝子療法に個別化アプローチをもたらすプロセスをさらに含む(図2を参照のこと)。
【0025】
本発明は、1回の処置だけで済む可能性があるので、他の処置よりも有益である。このスクリーニング方法により、新規のキャプシドを発見することが可能になるため、患者は、それらを含むウイルス粒子に対して免疫がない。運動ニューロンの場合、rAAVは、任意の筋肉(すなわち、手術室の麻酔下でアクセスするのが難しい筋肉でも)に送達され得ると考えられる。注射は、特定の症候性の筋肉にのみ適用され得るので、キャプシドは、低いオフターゲット効果及び合併症を有し得る。同時に、免疫介在性の拒絶を起こすことなく、必要であれば(例えば異なる筋肉に)別のキャプシドを繰り返し患者に送達することも可能である。
【0026】
本発明は、有効な治療法が現在ほとんど又は全くない他の運動ニューロン障害、並びに神経障害の根底にある他のタイプのニューロンにも適用され得る。
【0027】
本明細書中に記載される方法を用いて開発されたrAAVベクタは、特に、痙縮、筋萎縮性側索硬化症、ジストニアなどの神経筋/神経運動障害の処置に適用でき、ウイルスベクタの筋肉内注射による運動ニューロンへの遺伝物質の導入を可能にする。例えば、本明細書中に記載される方法が、痙縮の症状の緩和を目的とする遺伝子療法の基礎をどのように形成できるのかの実証が本明細書中に開示される。
【0028】
しかしながら、本明細書中で定義されるスクリーニング方法は、処置される疾患にとらわれず、多くのニューロンタイプを効果的に標的化するキャプシド配列のスクリーニングに使用することができ、そのため、ニューロン障害(neuron disorders)(又は「ニューロン障害(neuronal disorders)」)を問わず遺伝子療法アプローチにおいて有効であり得る。本発明者らの知る限り、幹細胞由来の細胞においてAAVライブラリをスクリーニングすること、又は遺伝子療法用の個別化されたAAVベクタを作製することを示唆する方法/発明は、現在、文献に記載されていない。
【0029】
次に、本発明のいくつかの特定の態様をより詳細に論じる。
【0030】
被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法
1つの態様において、本発明は、被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、
(i)ニューロンの集団を提供する工程であって、ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来する、工程、
(ii)その集団を第1の複数(又は「ライブラリ」)の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iii)それらのニューロンに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(iv)それらのニューロンに感染した第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む。
【0031】
別の態様において、本発明は、被験体内のニューロンの特定のサブコンパートメントに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、
(i)ニューロンの集団を提供する工程であって、ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来する、工程;
(ii)その集団を第1の複数(又は「ライブラリ」)の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iii)それらのニューロンの特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(iv)それらのニューロンに感染した第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、
(i)ニューロンを含む集団を提供する工程であって、ニューロンは、人工多能性幹細胞(「iPSC」)又は胚性幹細胞(「ESC」)に由来し、ニューロンは、それぞれ、第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントを有する、工程、
(ii)第1の特定のサブコンパートメントと第2の特定のサブコンパートメントとが互いから遠く離れるように、ニューロンを配置する工程、
(iii)第1の特定のサブコンパートメントを、第1の複数(又は「ライブラリ」)の試験AAV粒子と接触させる工程、
(iv)第2の特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子を単離する工程、及び
(v)ニューロンの第2の特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
を含む。
【0033】
この方法において、第2の特定のサブコンパートメントは、「標的」サブコンパートメントであり、いくつかの好ましい実施形態では、ニューロンの細胞体である。いくつかの実施形態において、ニューロンの集団は、ニューロンの濃縮集団であり、それによって、その集団内の全細胞の80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%超、又は100%が、ニューロンである。いくつかの実施形態において、本明細書中に開示されるスクリーニング方法において決定された、キャプシドをコードするヌクレオチド配列は、進化的圧力を高めるためにさらなる回数の定向進化(ウイルス進化アプローチ)に使用されてもよい。したがって、いくつかの実施形態において、スクリーニング方法は、ニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染した第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定した後に、
(i)第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を使用して、第2の複数(又は「ライブラリ」)の試験AAV粒子を作製する工程、
(ii)ニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染した第2の複数のAAV粒子を単離するために、スクリーニング方法の工程を繰り返す工程、及び
(iii)ニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染した第2の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列を決定する工程
をさらに含み、
第2の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列は、第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列よりもニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染するのに有効である。
【0034】
ニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染するAAV粒子の有効性は、ウイルスDNAを発現するニューロンの数を数えることによって決定することができる。場合によっては、複数の運動ニューロンが、同じ標的、例えば、運動ニューロンの場合は筋肉を神経支配し、AAV粒子によって形質導入されたこれらのニューロンの比率をカウントすることができる。ニューロン又はニューロンの特定のサブコンパートメントに感染するAAV粒子の有効性は、神経細胞に存在するウイルスDNAの「コピー数」を調べるためのDNA配列決定又はRT-PCRによっても判断することができる。これにより、同じ細胞がAAV粒子に何回感染したかを推定することができるであろう。
【0035】
いくつかの実施形態において、第2の複数の試験AAV粒子は、
i)第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列のランダム変異誘発、
ii)第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列のシャッフリング、及び
iii)第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列のVP1、VP2又はVP3における様々な領域への、最大25アミノ酸長の標的化ペプチド配列又はランダムペプチド配列の挿入
のうちの1つ以上によって作製される。
【0036】
いくつかの場合において、ニューロンのサブコンパートメントは、神経細胞体、神経突起、軸索又は樹状突起である。場合によっては、ニューロンのサブコンパートメントは、軸索末端(又は「シナプス末端」)である。いくつかの場合において、第2のサブコンパートメントは、神経細胞体である。上記の工程(iii)におけるいくつかの場合において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25アミノ酸の標的化ペプチド配列又はランダムペプチド配列が、第1の複数のAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列のVP1、VP2又はVP3の様々な領域に挿入される。場合によっては、これらの追加の工程を1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10回繰り返してもよい。
【0037】
ニューロンのサブコンパートメントが互いから遠く離れている本発明の態様において、ニューロンは、rAAVライブラリが一方に適用され、他方に適用されなくできるように、神経細胞体と神経突起とを離すことができるような様式で培養される(例えば、ライブラリをスクリーニングする目的で、ニューロンの細胞体と軸索突起及びシナプス末端を離すマイクロ流体チャンバの使用によって)。
【0038】
ニューロンのサブコンパートメントが互いから遠く離れている本発明の態様において、第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントは、1つ以上の容器の異なる物理的領域においてグループ化され得る。第1の特定のサブコンパートメントと第2の特定のサブコンパートメントとが、軸索によって接続されていてもよい。いくつかの場合において、第1の特定のサブコンパートメントは、神経のシナプス末端であり、第2の特定のサブコンパートメントは、神経系細胞体である。
【0039】
ニューロンのサブコンパートメントが互いから遠く離れている本発明の態様において、第1の特定のサブコンパートメント及び第2の特定のサブコンパートメントは、マイクロ流体チャンバ内の1つ以上の容器の異なる物理的領域においてグループ化され得る。その1つ以上の容器は、マイクロ流体チャネルによってさらに隔てられ得る。ニューロンは、マイクロ流体チャンバに加えられたら、さらに生育され得る。マイクロ流体チャンバは、AXIS(商標)Axon Isolation Deviceであり得る。
【0040】
AAVキャプシドライブラリをニューロンの1つの構成要素(例えば、軸索、樹状突起、神経突起又は軸索末端(又は「シナプス末端」))に適用し、細胞の別の領域(例えば細胞体)から遺伝物質を収集することにより、その特定の経路を介してそれらの細胞に首尾良く感染したAAVキャプシド配列を特定し、決定することが可能になる。
【0041】
出発点として使用され得るライブラリには、いくつかのバリエーションがあり、それらは、AAVから遺伝子配列を決定し、それらを異なるライブラリのAAVと比較することによって評価され得る。さらに、i)ニューロンをAAVのライブラリに曝露することと、ii)ニューロンに感染したAAVを単離するためにニューロンを収集することとの間の時間(「インキュベーション時間」)を最適化することができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、それらの細胞型の1つ以上の感染に向かって又はそれに対してAAVキャプシドを進化させるために、iPSC又はESCに由来する複数のタイプの細胞が、ニューロンの集団に追加され得る。これらの細胞の全部又は一部から個別に(例えば、運動ニューロンのみ)又は組み合わせて(例えば、運動ニューロン及び感覚ニューロン)遺伝物質を収集することにより、これらの細胞に首尾良く感染したキャプシド配列を決定することが可能になる。
【0043】
いくつかの実施形態において、そのような追加の細胞は、骨格筋細胞、筋細胞又は感覚ニューロンであり得る。追加の細胞は、筋管であり得る。追加の細胞は、筋芽細胞又は筋繊維でもあり得る。追加の細胞は、C2C12細胞であり得る。
【0044】
いくつかの場合において、iPS細胞又はESCは、被験体に由来する。いくつかの場合において、iPSC又はESCは、被験体の皮膚サンプルに由来する。いくつかの場合において、iPSC又はESCは、被験体の線維芽細胞に由来する。いくつかの場合において、被験体は、ヒト被験体である。iPSC及びECSは、動物、ヒト被験体/患者又は細胞バンクから入手してもよい。ヒト被験体又はヒト患者のiPS細胞を用いてAAVキャプシドライブラリをスクリーニングすることにより、その被験体又は患者のニューロン又は他の細胞に感染するキャプシド配列を特定することが可能になる。したがって、この方法を用いて、キャプシド配列を個別化ベースで作製することができる。
【0045】
いくつかの態様において、工程(i)は、i)iPSC又はii)ESCからニューロンを誘導する工程を含む。
【0046】
いくつかの場合において、上記方法は、筋肉内注射を介して被験体内のニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングする方法である。
【0047】
いくつかの場合において、ニューロンは、iPS細胞から誘導される。いくつかの場合において、ニューロンは、ESCから誘導される。いくつかの場合において、ヒトiPSCは、ESCよりも回収が容易であり得る。
【0048】
本明細書中で使用されるとき、用語「ニューロン」は、ニューロン及びその一部(例えば、ニューロン細胞体、軸索又は樹状突起)を含む。本明細書中で使用される用語「ニューロン」は、中心の細胞体(cell body)又は細胞体(soma)、及び2つのタイプの伸長部又は突起、すなわち、一般にニューロン信号の大部分を細胞体に伝える樹状突起、及び一般にニューロン信号の大部分を細胞体からエフェクタ細胞(例えば、標的ニューロン又は筋肉)に伝える軸索を含む神経系細胞を表す。ニューロンは、組織及び器官から中枢神経系に情報を伝えることができ(求心性ニューロン又は感覚性ニューロン)、中枢神経系からエフェクタ細胞に信号を伝達することができる(遠心性ニューロン又は運動性ニューロン)。介在ニューロンと呼ばれる他のニューロンは、中枢神経系(脳及び脊髄)内のニューロンをつないでいる。投射(project)(又は「投射(projection)」)ニューロンと呼ばれる他のニューロンは、神経系のある領域から別の領域に軸索を伸ばしている。本明細書中に開示されるスクリーニング方法は、そのようなニューロンに感染できるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングするために使用され得る。いくつかの好ましい実施形態において、ニューロンは、運動ニューロンである。他の好ましい実施形態において、ニューロンは、感覚ニューロン、介在ニューロン又は投射ニューロンである。
【0049】
さらに、上で述べたように、上に記載されたスクリーニング方法は、他の細胞型(例えば、感覚ニューロン、基底核投射ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン及び筋組織)に感染できるAAV粒子のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をスクリーニングするために適用され得ると考えられる。
【0050】
いくつかの場合において、本明細書中に記載されるスクリーニング方法は、例えば、直接の筋肉内注射によって、筋肉細胞への感染能力について追加的にスクリーニングされた複数の試験AAV粒子を提供する工程を含む。追加のスクリーニングは、ニューロンへの感染能力についてそれらの粒子をスクリーニングする前、スクリーニングした後又はスクリーニングと同時に行われ得る。
【0051】
本明細書中に記載される方法は、インビボであってもインビトロであってもよい。
【0052】
ヒト皮膚生検材料からの線維芽細胞の培養
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載されるスクリーニング方法において使用されるiPSCは、ヒト試験被験体に由来する。いくつかの実施形態において、iPSCは、被験体の皮膚生検材料からの線維芽細胞の培養物に由来する。
【0053】
皮膚生検材料からの線維芽細胞の培養を可能にするいくつかの方法が、以前に報告されている(Vangipuram M,Ting D,Kim S,Diaz R,Schule B.Skin punch biopsy explant culture for derivation of primary human fibroblasts.J Vis Exp.2013;(77):e3779.2013年7月7日発表doi:10.3791/3779)。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態において、上記方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含む。
-滅菌条件下において、20%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)が入った、ゼラチンでコーティングされた培養皿に皮膚生検材料を入れる。
-手術用顕微鏡下において、その生検材料をおよそ200~500μmサイズの片に切断する。2~3片の生検材料を、DMEM/20%FBSを含む、ゼラチンでコーティングされた新しい培養皿に移す。
-線維芽細胞がコンフルエントになるまで、2日おきに培地を交換する。次いで、細胞をトリプシン処理し、拡大に向けて新しい培養容器に移し得る。細胞は、液体窒素中で凍結され得るか、又はIPSCへの誘導に使用され得る。
【0055】
線維芽細胞からのIPSCの作製
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載されるスクリーニング方法において使用されるiPSCは、ヒト試験被験体に由来する。いくつかの実施形態において、iPSCは、被験体の皮膚生検材料からの線維芽細胞の培養物に由来する。
【0056】
ヒト線維芽細胞からIPSCへの誘導は、ThermoFisher製のCytoTune-IPS Sendai初期化キットなどの市販のキットを用いて達成され得る。さらなる詳細は、https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/A16517#/A16517及びhttps://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/LSG/manuals/cytotune_ips_2_0_sendai_reprog_kit_man.pdfで見ることができる。
【0057】
これは、センダイウイルスを使用して、山中因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を体細胞型に導入する。これらの因子は、胚性幹細胞において高発現され、過剰発現により、ヒト及びマウスの体細胞において多能性を誘導する(Takahashi,K,Yamanaka,S.)A decade of transcription factor-mediated reprogramming to pluripotency.Nat Rev Mol Cell Biol 17,183-193(2016).https://doi.org/10.1038/nrm.2016.8を参照のこと)。線維芽細胞からのIPSCの作製を可能にするいくつかの方法が利用可能であり、それらの方法は、これらの因子の何らかの組み合わせを線維芽細胞に導入することに依存し得る。
【0058】
いくつかの好ましい実施形態において、線維芽細胞からIPSCを作製するための方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含む。
-線維芽細胞をプレーティングして、30~60%コンフルエントになるようにする。
-以下の感染倍率(MOI)で各因子の導入を完了する。KOS MOI=5、hc-Myc MOI=5、hKlf4 MOI=3)。
-適切な体積の各センダイウイルスを線維芽細胞に適用し(0日目)、細胞を37℃/5%CO2で一晩インキュベートする。
-翌日(1日目)に培地を交換し、その後、7日目まで2日おきに交換する。
-7日目に、細胞をトリプシン処理し、計数し、ビトロネクチンでコーティングされた6ウェルプレート上に1ウェルあたり約2×10^5細胞の密度で再プレーティングする。
-8日目に、培地をEssential 8培地に変更し、その後毎日交換する。最初の形質導入の3~4週間後には、IPSCのコロニーが、適切なサイズに成長しているはずである。
-IPSCコロニーを、手作業又は化学的解離を用いて収集し、液体窒素中に保存するか、又は初代細胞型への誘導に直接使用する。
-iPSCを、Essential 8 Medium培地(Life Technologies)を用いてGeltrex(Life Technologies)上で維持し、EDTA(Life Technologies、0.5mM)を用いて37℃、5%二酸化炭素において継代する。いくつかの場合において、Geltrexの使用により、他の基材と比べて細胞生存率が上昇することがある。いくつかの場合において、EDTA及びEssential 8培地の使用が、ヒトIPSCを作製するために特に有用であり、EDTAは、他の解離方法と比べて細胞生存を約20%上昇させる。
【0059】
肢を神経支配する運動ニューロンへのiPSCの分化
いくつかの実施形態において、上記方法において用いられるiPSC及びESCは、体細胞性運動ニューロンに分化される。
【0060】
体細胞性運動ニューロンへのiPSC又はESCの分化を可能にするいくつかの方法が、以前に以下で説明されている。
Wichterle,H.and Peljto,M.(2008),Differentiation of Mouse Embryonic Stem Cells to Spinal Motor Neurons.Current Protocols in Stem Cell Biology,5:1H.1.1-1H.1.9.doi:10.1002/9780470151808.sc01h01s5;
Journal of Neuroscience 8 September 2004,24(36)7848-7858;DOI:10.1523/JNEUROSCI.1972-04.2004;及び
Amoroso MW,Croft GF,Williams DJ,et al.Accelerated high-yield generation of limb-innervating motor neurons from human stem cells.J Neurosci.2013;33(2):574-586.doi:10.1523/JNEUROSCI.0906-12.2013。
【0061】
いくつかの好ましい実施形態において、肢を神経支配する運動ニューロンへのiPSCの分化を可能にする方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含む。
-IPSCを、20% Knockout Serum Replacer(Invitrogen)、110μM β-メルカプトエタノール()、l-グルタミン及び非必須アミノ酸(NEAA;Invitrogen)及び20ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF.Invitrogen)を含み、単一細胞の生存率を高めるための10μM Rho関連キナーゼ阻害剤Y27632(Ascent Scientific)、成長を増強するための20ng/ml bFGF(Invitrogen)、並びに神経化のための10μm SB435142(SB;Sigma)及び0.2μM LDN193189(LDN;Stemgent)、Neurobasal、N2サプリメント、B27サプリメント及びインスリンが補充された、DMEM:栄養混合物F-12(DMEM/F:12;Invitrogen)からなる培地中において浮遊状態で維持する。ディスパーゼを用いて細胞を継代する。場合によっては、Neurobasal、N2サプリメント、B27サプリメント、インスリン及び/又はジパーゼを使用することにより、細胞生存率が改善する。
-0日目に、胚様体(EB)を神経誘導培地(l-グルタミン;NEAA;ペニシリン/ストレプトマイシン;ヘパリン、2μg/ml;N2サプリメントを含むDMEM/F:12;Invitrogen)及び1μMドルソモルフィン(Millipore)、2μM SB431542(Tocris Bioscience)及び3μM CHIR99021(Miltenyi Biotec)に切り替える。2日後に、オールトランスレチノイン酸(RA;1μm;Sigma)、アスコルビン酸(0.4μg/ml;Sigma)及び脳由来神経栄養因子(10ng/ml;R&D)を加える。場合によっては、1μMドルソモルフィン、2μM SB431542及び/又は3μM CHIR99021を使用することにより、細胞生存率が改善する。
-8日目に、培養物を、ディスパーゼ(GIBCO、1mg/ml)を用いて酵素的に解離し、ラミニンでコーティングされたプレート上にプレーティングし、次に、1μMレチノイン酸(Sigma)、アスコルビン酸(0.4μg/ml;Sigma)及び脳由来神経栄養因子(10ng/ml;R&D)で7日間パターニングした。場合によっては、この工程により、細胞生存率が改善する。
-14日目に、脊髄MN前駆体を0.1μMパルモルファミンでさらに4日間処置した。場合によっては、この工程により、細胞生存率が改善する。
-18日目に、基本培地を、以前のすべての因子を含み、且つそれぞれ10ng/mlのインスリン様成長因子1(IGF-1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)及び毛様体神経栄養因子(CNTF)(R&D)、並びにB27(Invitrogen)及び0.1μM化合物E(Enzo Life Sciences)を加えた、Neurobasal(Invitrogen)に変更する。場合によっては、0.1μMの化合物Eを使用することにより、細胞生存率が改善する。
-さらに約5日後、EBを0.05%トリプシン(Invitrogen)で解離し、ポリリジン/ラミニンでコーティングされたカバーガラス上にプレーティングするか、又はAAVスクリーニングにおいて使用するためのマイクロ流体チャンバの運動ニューロンコンパートメント(図3を参照のこと)に直接プレーティングする。
【0062】
骨格筋線維へのiPSCの分化
いくつかの好ましい実施形態において、iPSCは、骨格筋細胞(又は「骨格筋線維」)にも誘導され、それらは、本明細書中に記載されるスクリーニング方法において使用される運動ニューロンの集団に加えられ得る。
【0063】
iPSCを筋線維に分化させることができるいくつかの方法が、以前に以下で説明されている。
Maffioletti,S.,Gerli,M.,Ragazzi,M.et al.Efficient derivation and inducible differentiation of expandable skeletal myogenic cells from human ES and patient-specific iPS cells.Nat Protoc 10,941-958(2015).https://doi.org/10.1038/nprot.2015.057.
【0064】
いくつかの好ましい実施形態において、iPSCを筋繊維に分化させることができる方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含む。
-解離されたIPSCコロニーを、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、0.1mM 2-メルカプトエタノールを含むMEM-α(Minimal Essential Media alpha)培地中において、マトリゲルでコーティングされたディッシュ上で培養する。
-培地を、1週間にわたって毎日交換する。
-100%コンフルエントになったら、トリプシンを用いて細胞をマトリゲルから剥離し、1.2×10^4細胞/cmの密度でプラスチック上に再プレーティングする。
-細胞を、拡大して、将来使用するために凍結保存することができるか、又は筋分化のために使用することができる。
-誘導のために、細胞を、5%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、1%可欠アミノ酸、50μM 2-メルカプトエタノール、5ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子を含むMegaCell DMEMを含む培地中、約1×10^5の密度で35mmディッシュにプレーティングする。
-筋芽細胞決定タンパク質1(MDP1)を発現するレンチウイルスを、ポリブレンの存在下において、1、10及び50の感染効率で培養物に感染させる。
-細胞を毎日調べ、必要に応じ、培養物を拡大する。
-筋管は通常、MDP1の発現の約3日後に識別可能になる。培養物の一部を固定し、ミオシン重鎖の発現について試験することができる。
-残りの培養物を、必要に応じて筋肉コンパートメントのマイクロ流体チャンバに再プレーティングする(図3を参照のこと)。これらの筋細胞は通常、運動ニューロンを加えた約5~7日後(その時点までには、運動ニューロンの軸索が筋肉コンパートメントに入り始めているはずである)に筋肉コンパートメント内で培養される。
-培養物を、必要に応じて約1~3週間維持することにより、AAVキャプシドライブラリの添加が可能になる。
【0065】
AAVライブラリの作製及びマイクロ流体チャンバ内のニューロンへのAAVキャプシドライブラリの適用
i)天然に存在するキャプシドのランダム突然変異誘発、ii)天然に存在するキャプシドのシャッフリング、iii)AAVキャプシドのVP1、VP2もしくはVP3の様々な領域における最大25アミノ酸長の標的化ペプチド配列又はランダムペプチド配列の挿入、又はiv)上記の組み合わせのプロセスを通じて、多様なキャプシドライブラリが作製され得る。
【0066】
上記ライブラリを作製するために、ランダム化されたキャプシド配列を、AAV2末端逆位配列(ITR;パッケージングシグナル)及びAAV rep遺伝子を含むAAV骨格にクローニングする。これらのDNAプラスミドを、AAVのパッケージングを容易にする追加のアデノウイルス遺伝子の存在下においてHEK293にトランスフェクトする。HEK293細胞及び/又は培養液からAAVビリオンを収集し、標準的な方法(例えば、Potter et al.,2014 https://dx.doi.org/10.1038%2Fmtm.2014.34;McClure et al.,2011 http://dx.doi.org/10.3791/3348)に従って精製及び濃縮する。
【0067】
いくつかの実施形態において、AAVライブラリを作製するための方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含む。
-精製及び濃縮されたAAVライブラリをダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で希釈し、これをマイクロ流体デバイスの筋肉チャンバに適用する。
-適用の2~10日後に、神経細胞体を化学的方法(すなわち、トリプシン処理)又は機械的方法(細胞擦過)によって収集する。
-ニューロンを溶解し、溶解産物をディープシーケンシング(例えばRNAseq)にかけてニューロンに見られるキャプシド配列を直接検出し得るか、又は溶解産物を、AAVキャプシドの保存領域に対するプライマーを用いてPCR鋳型として使用することができる。キャプシド領域のPCRの後、DNAフラグメントをDNAベクタにクローニングし、Sangerシーケンシングにかける。
-ニューロンから収集されたキャプシド配列を、バイオインフォマティクスを用いて保存領域について解析し、高度に濃縮されたキャプシドを新規合成(デノボ合成)し、次いで、さらなる突然変異誘発又はインビトロスクリーニングの反復を行うことにより、定向進化による進化的圧力を高めることができる。
-定向進化は、数回(約2~5回)繰り返すことができる。インビトロで効率的な逆行輸送を示すキャプシド配列は、動物又はヒトにおいてインビボで使用するための機能的なビリオンを作製するために使用することができる。
【0068】
ニューロンへの感染をもたらし得るキャプシド配列を含むrAAVベクタ
1つの態様において、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって特定されたAAVキャプシドを提供する。別の態様において、本発明は、配列番号1又は配列番号2に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するAAVキャプシドをコードするヌクレオチド配列を提供する。別の態様において、本発明は、配列番号11に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するAAVキャプシドをコードするヌクレオチド配列を提供する。別の態様において、本発明は、配列番号13に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するAAVキャプシドをコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0069】
いくつかの場合において、本明細書中に開示されるヌクレオチド配列は、野生型AAVベクタと1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100塩基対異なる。
【0070】
いくつかの場合において、本明細書中に開示されるヌクレオチド配列は、配列番号13と1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100塩基対異なる。いくつかの場合において、本明細書中に開示されるヌクレオチド配列は、配列番号13と1~10、2~8又は4~6塩基対異なる。
【0071】
ヌクレオチドは、筋肉内注射後にニューロンにアクセスし、その後、ニューロンの活動及び/又は遺伝子発現を改変するウイルスを含む遺伝子療法の開発に使用され得る。ヌクレオチドは、筋肉内注射後にニューロンにアクセスし、その後、ニューロンの活動及び/又は遺伝子発現を改変するウイルスを含む遺伝子療法の開発にも使用され得る。
【0072】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって特定されたAAVキャプシドのキャプシドヌクレオチド配列を含むアデノ随伴ウイルス(「AAV」)発現ベクタを提供する。別の態様において、本発明は、配列番号1又は配列番号2に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノ随伴ウイルス(「AAV」)発現ベクタを提供する。別の態様において、本発明は、配列番号11に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノ随伴ウイルス(「AAV」)発現ベクタを提供する。別の態様において、本発明は、配列番号13に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノ随伴ウイルス(「AAV」)発現ベクタを提供する。
【0073】
いくつかの実施形態において、発現ベクタは、被験体内の標的化された運動ニューロンの活動を変化させることができる。いくつかの実施形態において、発現ベクタは、筋肉内注射を介して、被験体内の標的化された運動ニューロンの活動を変化させることができる。いくつかの場合において、発現ベクタは、被験体において免疫応答が引き起こされるのを防ぐことができる第2のキャプシドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。
【0074】
発現ベクタ
本明細書中で使用される発現ベクタは、外来遺伝物質を導入し、細胞内で発現させるために使用されるDNA分子である。このようなベクタは、発現されるタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター配列を含む。「プロモーター」は、それが作動可能に連結されているDNA配列の転写を指示するのに十分な最小限のDNA配列を意味する。「プロモーター」は、細胞型特異的発現のために制御可能なプロモーター依存性の遺伝子発現にとって十分なプロモーターエレメントを包含するとも意味されている。そのようなエレメントは、天然の遺伝子の5’領域又は3’領域に位置し得る。あるいは、発現ベクタは、逆転写酵素の結果としてDNAへの逆転写を起こすRNA分子であってもよい。
【0075】
発現ベクタは、終止コドン及び発現エンハンサを含み得る。本発明に係る発現ベクタからKv1カリウムチャネルなどの遺伝子産物を発現させるために、任意の好適なベクタ、エンハンサ及び終止コドンを使用することができる。発現ベクタには、AAVベクタなどのウイルスベクタが含まれる。
【0076】
一般的に言えば、当業者は、組換え遺伝子発現のためにベクタを構築すること及びプロトコルをデザインすることが十分に可能である。上に記載された本発明のエレメントに加えて、プロモーター配列、ターミネータフラグメント、ポリアデニル化配列、マーカー遺伝子及び他の配列をはじめとした適切な制御配列を適宜含む好適なベクタが、選択され得るか、又は構築され得る。細胞内でのポリペプチドの発現に適した分子生物学的手法は、本分野で周知である。さらなる詳細については、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:2nd edition,Sambrook et al,1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press又はCurrent Protocols in Molecular Biology,Second Edition,Ausubel et al.eds.,John Wiley & Sons(1995及び定期補遺)を参照のこと。
【0077】
本明細書中で使用される用語「作動可能に連結された」は、選択された遺伝子とプロモーターとが、遺伝子の発現(すなわち、ポリペプチドのコード)をプロモーターの影響下又は制御下に置くように共有結合的に連結されている状況を含む。したがって、プロモーターが、細胞内で遺伝子をRNAに転写することができる場合、そのプロモーターは、その遺伝子に作動可能に連結されている。必要に応じ、得られたRNA転写物は、その後、所望のタンパク質又はポリペプチドに翻訳され得る。プロモーターは、哺乳動物細胞において、作動可能に連結された遺伝子を発現させるのに適したものである。好ましくは、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。
【0078】
AAVベクタ
ベクタは、組換えAAVベクタである。AAVベクタは、それらが感染した細胞のゲノムに安定的且つ部位特異的に組み込むことができる、比較的小さいサイズのDNAウイルスである。AAVベクタは、細胞の成長、形態又は分化に対して著しい影響を誘導することなく、幅広い細胞に感染できる。AAVゲノムは、クローニングされ、配列決定され、特徴付けられている。AAVゲノムは、およそ4700塩基を含み、そのウイルスに対して複製開始点として働くおよそ145塩基の末端逆位配列(ITR)領域を各末端に含む。そのゲノムの残りの部分は、キャプシド形成機能を担う2つの必要不可欠な領域、すなわち、ウイルスの複製及びウイルス遺伝子の発現に関与するrep遺伝子を含むゲノムの左側部分と、ウイルスのキャプシドタンパク質をコードするcap遺伝子を含むゲノムの右側部分とに分けられる。
【0079】
AAVベクタは、本分野における標準的な方法を用いて調製され得る。任意の血清型のアデノ随伴ウイルスが、好適である(例えば、Blacklow,“Parvoviruses and Human Disease”J.R.Pattison,ed.(1988)のpp.165-174;Rose,Comprehensive Virology 3:1,1974;P.Tattersall“The Evolution of Parvovirus Taxonomy”in Parvoviruses(J R Kerr,S F Cotmore.M E Bloom,R M Linden,C R Parrish,Eds.)p5-14,Hudder Arnold,London,UK(2006);及びD E Bowles,J E Rabinowitz,R J Samulski“The Genus Dependovirus”(J R Kerr,S F Cotmore.M E Bloom,R M Linden,C R Parrish,Eds.)p15-23,Hudder Arnold,London,UK(2006)(これらの開示は、それらの全体が参照により本明細書に援用される)。ベクタを精製するための方法は、例えば、米国特許第6,566,118号、同第6,989,264号及び同第6995006号、並びに“Methods for Generating High Titer Helper-free Preparation of Recombinant AAV Vectors”というタイトルの国際特許出願公開番号W0/1999/011764(これらの開示は、それらの全体が参照により本明細書中に援用される)に見られることがある。
【0080】
ハイブリッドベクタの調製は、例えば、PCT出願番号PCT/US2005/027091に記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書中に援用される。インビトロ及びインビボにおいて遺伝子を移入するためにAAVに由来するベクタを使用することが記載されている(例えば、国際特許出願公開番号WO1/18088及びWO93/09239、米国特許第4,797,368号、同第6,596,535号及び同第5,139,941号、並びに欧州特許第0488528号(これらはすべて、その全体が参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)。これらの刊行物には、rep及び/又はcap遺伝子が欠失し、目的の遺伝子で置き換えられている様々なAAV由来構築物、並びに目的の遺伝子をインビトロにおいて(培養細胞内に)又はインビボにおいて(生物内に直接)移入するためのこれらの構築物の使用が記載されている。本発明に係る複製欠損組換えAAVは、2つのAAV末端逆位配列(ITR)領域に隣接している目的の核酸配列を含むプラスミド、及びAAVキャプシド形成遺伝子(rep及びcap遺伝子)を有するプラスミドを、ヒトヘルパーウイルス(例えばアデノウイルス)に感染した細胞株にコトランスフェクトすることによって調製され得る。次いで、生成されたAAV組換え体は、標準的な手法によって精製される。
【0081】
いくつかの実施態様において、本明細書中に記載されるような発現構築物にとって有用なAAVベクタとしては、キャプシドに包まれてウイルス粒子(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV14、AAV15及びAAV16を含むがこれらに限定されないAAVウイルス粒子)になるものが挙げられる。したがって、本開示は、本明細書中に記載されるベクタのいずれかを含む組換えウイルス粒子(組換えポリヌクレオチドを含むので、組換え)を含む。いくつかの好ましい実施形態において、AAVウイルス粒子は、AAV2である。いくつかの好ましい実施形態において、AAVウイルス粒子は、AAV6である。AAV6を使用することにより、筋肉内注射後の運動ニューロン感染の有効性が改善され得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクタは、蛍光タンパク質などのレポータータンパク質をコードする配列を含む。他の実施形態において、ウイルスベクタは、蛍光タンパク質などのレポータータンパク質をコードする配列を欠く。
【0083】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクタは、ウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む。
【0084】
発現ベクタは、rep遺伝子をさらに含むことがあり、必要に応じて、そのrep遺伝子は、AAV2rep遺伝子である。発現ベクタは、cap遺伝子をさらに含むことがあり、必要に応じて、そのcap遺伝子は、AAV2cap遺伝子である。発現ベクタは、末端逆位配列をさらに含むことがあり、必要に応じて、その末端逆位配列は、AAV2末端逆位配列である。発現ベクタは、ウイルスのパッケージングタンパク質及び/又はエンベロープタンパク質をコードする遺伝子をさらに含むことがある。発現ベクタは、調節遺伝子をさらに含むことがあり、必要に応じて、その調節遺伝子は、ポリAである。
【0085】
導入遺伝子をさらに含むAAVベクタ
いくつかの実施形態において、発現ベクタは、導入遺伝子産物をコードする導入遺伝子をさらに含み、その導入遺伝子産物は、被験体内の標的化された運動ニューロンの活動を変化させることができる。いくつかの実施形態において、導入遺伝子産物は、筋肉内注射を介して被験体内の標的化された運動ニューロンの活動を変化させることができる。
【0086】
いくつかの実施形態において、遺伝子産物は、発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンの興奮性を変化させることできる。いくつかの実施形態において、遺伝子産物は、発現ベクタが被験体に投与されたとき、ニューロンの過剰興奮性を低下させることができる。発現ベクタが保持する導入遺伝子は、患者の症状に依存する。例えば、痙縮の場合、ペイロードは、運動ニューロンの過剰興奮性を緩和することを目的とし得る。いくつかの実施形態において、ウイルスによって発現される導入遺伝子は、ニューロンの電気的特性を変化させる。これには、いくつかの異なる導入遺伝子のうちの1つを最初に駆動するための特異的なプロモーター、すなわち、単にニューロンの興奮性を弱めるもの(例えば、KCC2、Kv1)、又はシナプス伝達を完全に遮断するもの(例えば破傷風毒素軽鎖)、又は用量調整によって症状を管理できるように、患者が口から摂取する低用量薬に応答するもの(例えば、uPSEM又はバレニクリンに応答性である、例えばクロザピンPSAM4-GlyRに応答性の、例えばDREADD hM4Di)の使用が含まれる場合がある。本発明者らの知る限り、痙縮を処置するために、筋肉内遺伝子送達とニューロンの興奮性を変化させることとの組み合わせを示唆する方法は現在のところ文献に記載されていない。
【0087】
DREADD hM4Diは、クロザピン-N-オキシドなどの合成リガンドに結合してニューロンの活動を静めることができる、変異したムスカリン性アセチルコリンレセプタである。KCC2は、細胞から塩素イオンを押し出すことができる、ニューロンに見られるカリウム-クロライドトランスポーターであり、ニューロンの興奮性を制御している。破傷風毒素軽鎖は、シナプス小胞上のタンパク質(VAMP2)を特異的に切断することができる、神経毒である破傷風毒素の一部である。VAMP2の切断は、シナプス小胞のドッキング及び神経伝達物質の放出を妨げる。Kv1などのカリウムチャネルは、ニューロンの興奮性を特異的に低下させることができる。いくつかの場合において、遺伝子産物が運動ニューロンの興奮性を変化させる能力は、感染した細胞における電気生理学的記録(パッチクランプ)によって測定され得る。周波数/電流(f/I)曲線の傾きとして計測される、注入された電流に対する感染したニューロンの応答(活動電位の周波数)が、その興奮性を測定するために記録され得る。これには、上に列挙されたリガンドの用量反応曲線が含まれることがある。
【0088】
発現ベクタが被験体に投与されたら、導入遺伝子産物は、ニューロンの興奮性を弱めることが可能になり得る。いくつかの実施形態において、導入遺伝子又は導入遺伝子産物は、KCC2導入遺伝子又はKCC2導入遺伝子産物である。カリウム-クロライドトランスポーターメンバー5(KCC2)は、細胞内のクロライド濃度を低く維持することによりニューロン内の塩素イオン勾配を確立することに関与する、ニューロン特異的なカリウムクロライド共輸送体である。このトランスポーターの発現が低下した動物は、重度の運動障害、てんかん様活動及び痙縮を示す。いくつかの実施形態において、KCC2導入遺伝子は、配列番号3に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又はKCC2導入遺伝子産物は、配列番号4に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する。
【0089】
いくつかの実施形態において、導入遺伝子又は導入遺伝子産物は、Kv1導入遺伝子又はKv1導入遺伝子産物である。Kv1カリウムチャネルは、ショウジョウバエのShakerチャネルと系統学的に関係する電位開口型遅延整流性カリウムチャネルである。電位依存性カリウムチャネルは、電位に応答してカリウム選択的な孔を開閉することによって興奮性を調節する。多くの場合、細胞内の粒子が孔を塞ぐと、カリウムイオンの流れは遮られ得、このプロセスは、高速不活性化として知られている。Kv1カリウムチャネルのサブユニットは、6つの推定膜貫通セグメントを有し、完全なチャネルを構成する4つのKv1サブユニットの各々の第5セグメントと第6セグメントとの間のループが、ポアを形成する。いくつかの実施形態において、Kv1導入遺伝子は、配列番号5に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又はKv1導入遺伝子産物は、配列番号6に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する。
【0090】
導入遺伝子産物は、発現ベクタを被験体に投与したとき、ニューロンのシナプス伝達を遮断することが可能であり得る。いくつかの実施形態において、導入遺伝子又は導入遺伝子産物は、破傷風毒素軽鎖導入遺伝子又は破傷風毒素軽鎖導入遺伝子産物である。いくつかの実施形態において、破傷風毒素軽鎖導入遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又は破傷風毒素軽鎖導入遺伝子産物は、配列番号8に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する。
【0091】
導入遺伝子産物は、合成リガンドによってのみ活性化されるレセプタ(RASSL)又はもっぱらデザイナードラッグによって活性化されるデザイナーレセプタ(DREADD)であり得る。RASSL及びDREADDは、インビボにおいてGタンパク質シグナル伝達の空間的及び時間的制御を可能にする、化学遺伝学的に操作されたタンパク質の1クラスである。いくつかの実施形態において、導入遺伝子又は導入遺伝子産物は、hM4Di導入遺伝子又はhM4Di導入遺伝子産物である。いくつかの実施形態において、hM4Di導入遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するか、又はhM4Di導入遺伝子産物は、配列番号8に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する。
【0092】
いくつかの好ましい実施形態において、導入遺伝子は、ニューロン特異的プロモーターに作動可能に連結されている。
【0093】
アミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメント及び同一性パーセントの計算は、例えば、ClustalW 1.82、T-coffee又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて、当業者に既知の様々な様式で達成され得る。このようなソフトウェアを使用するとき、例えば、ギャップペナルティ及び伸長ペナルティなどのデフォルトパラメータを使用することが好ましい。ClustalW 1.82のデフォルトパラメータは、タンパク質ギャップオープンペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ伸長ペナルティ=0.2、タンパク質行列=Gonnet、タンパク質/DNA ENDGAP=-1、タンパク質/DNA GAPDIST=4である。
【0094】
次いで、(N/T)100として多重アラインメントから同一性パーセントを計算することができる。ここで、Nは、2つの配列が同一の残基を共有する位置の数であり、Tは、比較されている位置の総数である。あるいは、同一性パーセントは、(N/S)100として計算することができる。ここで、Sは、比較されている短いほうの配列の長さである。アミノ酸/ポリペプチド/核酸配列は、新規に合成(デノボ合成)されたものであってもよいし、天然のアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列又はそれらの誘導体であってもよい。
【0095】
遺伝暗号の縮重に起因して、任意の核酸配列が、それによってコードされるタンパク質の配列に実質的に影響することなく変更される又は変化することにより、その機能的バリアントが生成され得ることが明らかである。好適なヌクレオチドバリアントは、その配列内で同じアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変化した配列を有するものであり、ゆえに、サイレントな変更を生じるものである。他の好適なバリアントは、相同のヌクレオチド配列を有するが、保存的変更をもたらすために、それに取って代わるアミノ酸と類似の生物物理学的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変更された配列の全部又は一部を含むものである。例えば、小さい無極性の疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン及びメチオニンが挙げられる。大きな無極性の疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。極性の中性アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。正に帯電した(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン及びヒスチジンが挙げられる。負に帯電した(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。
【0096】
ニューロンの活動を変化させるための導入遺伝子産物の追加
ニューロンの活動を変化させるために使用され得る様々なAAV導入遺伝子産物(又は「カーゴ」又は「ペイロード」)の試験のために、一般的な又は細胞型に標的化されたプロモーター及び通常の調節エレメント(例えば、ウッドチャック翻訳後調節エレメント及びポリA)とともにAAV末端逆位配列(ITR)を含むAAV骨格に遺伝子をクローニングすることができる。
【0097】
使用される遺伝子は、患者のニーズに依存し、以下の2つのクラス、(a)興奮を持続的に弱めるリガンド非依存型、又は(b)承認された薬を摂取することによってニューロンの興奮性を調節できるリガンド依存型のうちの1つに属し得る。
【0098】
各カテゴリ内において、いくつかの遺伝子を、電気生理学的手法を用いてその患者のニューロンに対して試験して、その患者にとって最善の選択を決定してもよい。
【0099】
いくつかの好ましい実施形態において、ニューロンの活動を変化させるためにカーゴを追加するための方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含み得る。
-本明細書中に記載されるスクリーニング方法において特定されたキャプシド配列を新規に合成(デノボ合成)し、AAV2 REP遺伝子を含むAAVヘルパープラスミド(Rep/Cap)に挿入する。
-そのRep/CapプラスミドをAAV骨格及びアデノウイルスヘルパー遺伝子(例えばpHelper)を含む追加のプラスミドと組み合わせ、HEK293細胞に一過性にトランスフェクトする。
-標準的な方法を用いてAAV粒子を精製し、それをインビトロ又はインビボの実験に使用することができる(例えば、Potter et al.,2014 https://dx.doi.org/10.1038%2Fmtm.2014.34;McClure et al.,2011 http://dx.doi.org/10.3791/3348)。
【0100】
ウイルス粒子
本発明は、AAVウイルス粒子を作製するインビトロ方法も含む。1つの実施形態において、この方法は、本明細書中に記載されるようなウイルスベクタ又は発現ベクタを哺乳動物細胞に形質導入し、それらの細胞内で粒子形成に必要なウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質を発現させ、形質導入された細胞を培養液中で培養して、それらの細胞が、培地に放出されるウイルス粒子を産生することを含む。好適な哺乳動物細胞の例は、ヒト胎児腎(HEK)293細胞である。
【0101】
ウイルス粒子の形成及び機能に必要なすべてのウイルス構成要素をコードする単一の発現ベクタを使用することが可能である。しかしながら、ほとんどの場合、ウイルスベクタ粒子を生成する様々な遺伝子構成要素を分離するために、宿主細胞に安定に組み込まれた複数のプラスミド発現ベクタ又は個々の発現カセットを用いる。
【0102】
いくつかの実施形態において、1つ以上のウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質をコードする発現カセットが、哺乳動物細胞に安定に組み込まれた。これらの実施形態において、本明細書中に記載されるウイルスベクタをこれらの細胞に形質導入することは、さらなる発現ベクタを加えることなくウイルス粒子を産生させるのに十分である。
【0103】
他の実施形態において、インビトロの方法は、複数の発現ベクタを使用することを含む。いくつかの実施形態において、その方法は、粒子形成に必要なウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質をコードするウイルスのパッケージングタンパク質及びエンベロープタンパク質をコードする1つ以上の発現ベクタを哺乳動物細胞に形質導入することを含む。
【0104】
ssDNA AAVゲノムは、相補DNA鎖の合成の基本となる2つの145塩基の末端逆位配列(ITR)に隣接する、Rep及びCapという2つのオープンリーディングフレームを含む。Rep及びCapは、複数のタンパク質(AAVのライフサイクルに必要なRep78、Rep68、Rep52、Rep40、及びキャプシドタンパク質であるVP1、VP2、VP3)を産生する。導入遺伝子は、ITRとRep及びCapとの間にトランスで挿入されることになる。AAV2骨格は、一般に使用されており、Srivastava et al.,J.Virol.,45:555-564(1983)に記載されている。ウイルスのDNA複製(ori)、パッケージング(pkg)及び宿主細胞の染色体への組み込み(int)を指示するシス作用配列が、ITR内に含まれている。AAVは、アデノウイルス由来の遺伝子を含むヘルパープラスミドも必要とする。これらの遺伝子(E4、E2a及びVA)は、AAVの複製を媒介する。pAAVプラスミドの例は、プラスミド番号112865又は60958としてAddgene(Cambridge,MA,USA)から入手可能である。
【0105】
ウイルス粒子の放出後、ウイルス粒子を含む培養液を回収してもよく、必要に応じてそのウイルス粒子を培養液から分離してもよい。必要に応じて、ウイルス粒子を濃縮してもよい。
【0106】
産生及び任意の濃縮の後、ウイルス粒子を、細胞に投与することによる使用及び/又は治療における使用に備えて、例えば-80℃で凍結することによって保存してもよい。
【0107】
本発明は、例えば、本明細書中に記載される方法によって産生されるウイルス粒子も提供する。本明細書中で使用されるとき、ウイルス粒子は、細胞、例えば、哺乳動物細胞に感染できる、ウイルスエンベロープ内にパッケージングされたDNA又はRNAゲノムを含む。ウイルス粒子は、インテグラーゼ欠損であってもよく、例えば、変異インテグラーゼ酵素を含み得るか、又は本明細書中に記載されるような5’及び/もしくは3’LTRに変更を含み得る。
【0108】
別の態様において、本発明は、本明細書中に記載されるようなキャプシドをコードするヌクレオチド配列によってコードされるキャプシドを提供する。いくつかの態様において、キャプシドは、配列番号12、14、15又は16に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0109】
別の態様において、本発明は、本明細書中に記載されるようなキャプシドをコードするヌクレオチド配列によってコードされるキャプシドを含むウイルス粒子を提供する。いくつかの態様において、キャプシドは、配列番号12、14、15又は16に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0110】
神経筋障害又は神経運動障害を回復させる又は処置する方法
本明細書中に記載されるスクリーニング方法によって特定されるAAVキャプシドは、様々な状態又は障害を処置するための遺伝子療法を開発するために使用され得る。
【0111】
したがって、本発明の1つの態様は、被験体の神経筋状態もしくは神経筋障害又は神経運動状態もしくは神経運動障害を回復させる又は処置する方法を提供し、その方法は、治療的に活性な量の本発明のAAV発現ベクタ又はウイルス粒子を被験体に投与することを含む。
【0112】
本発明の別の態様は、被験体の神経筋障害又は神経運動障害を回復させる又は処置する方法を提供し、その方法は、治療的に活性な量の本発明のAAV発現ベクタ又はウイルス粒子を被験体に投与することを含み、そのAAV発現ベクタ又はウイルス粒子は、本発明のスクリーニング方法によって特定されたAAVキャプシドのキャプシドをコードするヌクレオチド配列を含み、そのスクリーニング方法において使用されるiPSC又はESCは、被験体に由来している。いくつかの実施形態において、スクリーニング方法に使用されるiPSC又はESCは、被験体の皮膚サンプルに由来している。
【0113】
その結果として、いくつかの実施形態において、AAVキャプシドは、被験体に対して「個別に設定」され、処置方法は、処置される被験体に対して特異的になる(「個別化される」)。本発明のスクリーニング方法から特定されたAAVキャプシドの「個体性」を調べる様式の1つは、以下のとおりである。
(i)1系統のマウス(例えばC57/Bl6)からIPSCを採取し、これらの細胞においてAAVキャプシドのスクリーニングを行う。
(ii)これらのC57/Bl6運動ニューロンに感染できるキャプシドの遺伝子配列が特定されたら、これらの同じキャプシドを、インビボにおいて遺伝的に同一のマウス(他のC57/bl6マウス)又はインビボにおいて遺伝的に類似のマウス(例えば、BALB/c及びCD1)への感染について試験する。これらの系統の各マウスに、AAVキャプシドを筋肉注射する。
(iii)各系統において感染した運動ニューロンの数を調べる。以前の研究は、1つの系統において進化したAAVキャプシドが、他の系統において効率的な感染を示さないことを指摘している(Horeaux et al,2018)。本発明のスクリーニング方法において進化したAAVキャプシドがそうであれば、これは、個々の患者から進化したAAVキャプシドが遺伝子療法にとって最も効率的であることを示すことになる。
【0114】
いくつかの実施形態において、上記方法は、神経筋障害もしくは神経運動障害又は運動に影響する障害を処置すること、あるいは任意の治療目的のためにニューロンを標的化することを目的として、ニューロンに遺伝物質を送達する目的でAAV発現ベクタ又はウイルス粒子をニューロンに逆行感染させることを含む。
【0115】
いくつかの実施形態において、上記方法は、被験体内のニューロンの活動を変化させることを含む。
【0116】
いくつかの実施形態において、AAV発現ベクタ又はウイルス粒子は、被験体のニューロンの運動ニューロンに逆行感染し、被験体内の運動ニューロンの活動を変化させるために、筋肉内に送達される。
【0117】
本明細書中で使用されるとき、「逆行輸送」又は「逆行感染」は、軸索末端(又は「シナプス末端」)、すなわちシナプス部におけるベクタの取り込み、及び活動電位の伝播方向と反対の方向(したがって「逆行」)で軸索を通ってニューロン本体に輸送されることを意味する。続いて、ウイルス核酸は、核内に入り、そこで複製され、転写的及び翻訳的に活性になることができる。
【0118】
神経細胞体及び又は軸索自体にはアクセスできないが、遺伝子ベクタの送達のために、シナプスを含む末端の突起の領域が利用可能であるとき、このような送達は有益である。したがって、逆行輸送が可能な遺伝子ベクタをこのような末端の突起の領域に首尾良く送達できれば、脆弱な投射ニューロンへの逆行輸送及び感染がもたらされ得る。
【0119】
ウイルスが、ニューロン本体に輸送されたら、ウイルス核酸は、通常、その細胞の核に局在する。本発明のいくつかの実施形態によれば、ニューロン本体への逆行輸送を起こすアデノ随伴ウイルス粒子は、その核酸内容物を核に直接挿入することができる。
【0120】
本発明の実施形態は、遺伝子発現をもたらす神経細胞体への逆行性遺伝子送達を提供するために、目的の異種遺伝子を有する実質的に無毒性の組換えアデノ随伴ウイルスベクタの送達を含む。
【0121】
多くの異なる神経疾患が、運動に対する影響によって生活の質を損なう。神経系から筋肉への最後の共通路は、運動ニューロンのそれであり得、これらのニューロンは、多くの異なる障害において影響を受けるが、そのうちのいくつかだけが、「運動ニューロン疾患」として分類されている。いくつかの実施形態において、本発明のAAV発現ベクタは、筋肉内注射後に運動ニューロンにアクセスし、その後、運動ニューロンにおける遺伝子発現を改変することによって神経筋障害又は神経運動障害を処置することができ、運動ニューロンに影響を及ぼす疾患を有する患者の治癒、症状の緩和及び/又は生活の質の改善につながる。
【0122】
本明細書中で使用されるとき、「神経障害」とは、神経細胞又は神経細胞集団の形態学的及び/又は機能的な異常を引き起こす障害のことを指す。神経障害は、被験体において正常な神経機能を損なうもしくは無くすことがあるか、又は異常な神経機能を存在させることがある。例えば、神経障害は、疾患、損傷及び/又は加齢の結果であり得る。形態学的及び機能的な異常の非限定的な例としては、神経細胞の物理的な劣化及び/もしくは死、神経細胞の異常な成長パターン、神経細胞間の物理的接続の異常、神経細胞による物質、例えば神経伝達物質の過小産生もしくは過剰産生、通常産生する物質を神経細胞が産生しないこと、物質、例えば神経伝達物質の産生、並びに/又は異常パターンもしくは異常時点での電気インパルスの発生もしくは伝達が挙げられる。
【0123】
本明細書中で使用されるとき、「神経運動障害」は、通常、運動/総運動能力、姿勢及び微細運動能力に影響する発達障害又は後天性障害である。この障害は、中枢神経系に対する損傷によって引き起こされる。これは、皮質、基底核、視床、小脳、脳幹、脊髄又は末梢神経における発達中の運動路に対する発達に関連する問題又は損傷に起因し得る。小児期の最も一般的な神経運動障害としては、脳性麻痺、筋ジストロフィー及び二分脊椎が挙げられる。成人の最も一般的な神経運動障害としては、脳卒中、多発性硬化症、パーキンソン病及び外傷が挙げられる。この機能障害は、静的(悪化していない)か又は進行性であり得る。
【0124】
いくつかの実施形態において、神経筋障害又は神経運動障害は、痙縮である。本明細書中で使用されるとき、「痙縮」とは、ある特定の筋肉が持続的又は異常に収縮している状態のことを指す。この収縮は、筋肉の硬直又は緊張を引き起こし、顔、肢、体幹及び/又は括約筋の正常な動きを干渉して、例えば、発語、歩行並びに/又は膀胱及び腸の機能に欠陥をもたらし得る。痙縮は、例えば、脳もしくは脊髄に対する外傷、多発性硬化症、脳性麻痺、脳卒中又は他の状態をはじめとした、脳及び/又は脊髄の機能に影響するCNSの広範な障害において生じる状態である。基礎症状があるにもかかわらず、運動ニューロンの特性がその症状に応じて変化し、電気インパルスを過剰に発生させて、過剰な筋肉収縮をもたらすとき、痙縮は発症する。この損傷により、神経系と筋肉との間の信号のバランスが変化して、筋肉の興奮性が高まる。痙縮は、脳及び/もしくは脊髄が損傷されるか、又は正常に発達しない状態において見られる。これらとしては、脳性麻痺、多発性硬化症、脊髄損傷、及び脳卒中を含む後天性の脳損傷が挙げられる。
【0125】
痙縮のマウスモデルがいくつか作製されており、本発明の発現ベクタが痙縮を処置する能力は、これらのモデルを用いて検証することができる。1つの実施形態において、脊髄離断の結果としての痙縮を発現ベクタが処置する能力(例えば、Yoshizaki et al.2020を参照のこと)は、以下のように試験することができる。
(i)皮膚生検材料を、インビボ痙縮実験に用いたマウスと遺伝的に同一のマウスから採取する。
(ii)これらの生検材料を用いて、IPSCを作製し、そして本明細書中に記載されるAAVキャプシドのスクリーニング方法に使用される運動ニューロンを作製して、最適なキャプシドを選択する。
(iii)マウスの胸部において脊髄離断を行う。
(iv)痙縮の重症度を、Modified Ashworth Scaleなどの行動観察、又は筋肉へのEMG記録デバイスの埋め込みによって評価する。
(v)離断後、マウスを3つの群に分ける。群1には、スクリーニングプロセスから得られたキャプシドを使用し、運動ニューロンのシナプス発火を低減することを目的とした遺伝子のDNA配列を含むAAVを筋肉内注射する。群2には、群1と同じキャプシドを有するAAVを筋肉内注射するが、そのDNAは、GFPなどの不活性なタンパク質を発現する。群3には、群1と同じDNA配列を含む野生型キャプシドを有するAAV(AAV6)を筋肉内注射する。
(vi)AAV筋肉内注射の前及び後に、痙縮症状の変化をモニタする。
【0126】
この実験により、インビトロスクリーニングプロセスが、現在入手可能なAAVキャプシドよりも運動ニューロンへの感染がより効率的であるAAVキャプシドをもたらすか(群1と群3との比較)、及びウイルスのDNAカーゴが痙縮症状を低減するのに十分であるか(群1と群2との比較)調べることが可能になる。
【0127】
別の有望なモデル動物は、ブタである。この場合、実験に使用される動物から皮膚生検材料を得て、マウスと同様にスクリーニング及び実験が行われ得る。
【0128】
ある特定の態様において、本発明は、ヒト被験体又は動物被験体の神経筋障害又は神経運動障害を処置するための薬の製造のための本明細書中に記載されるような発現ベクタ及びウイルス粒子の使用、ヒト被験体又は動物被験体の神経筋障害又は神経運動障害の処置において使用するための本明細書中に記載されるような発現ベクタ、並びにそれを必要とする個体に本明細書中に記載されるような発現ベクタ及びウイルス粒子を投与することを含む神経筋障害又は神経運動障害の処置方法も提供する。
【0129】
投与及び投与量
本明細書中に記載されるウイルス粒子及び発現ベクタは、種々の様式(例えば、筋肉内、静脈内、頭蓋内又は脊髄内)で被験体に送達され得る。いくつかの好ましい実施形態において、本明細書中に記載される粒子及び発現ベクタは、筋肉内注射を介して被験体に送達され得る。
【0130】
特定の投与方法及び投与部位は、医師の判断であり得、その医師らは、共通の一般知識を用いて投与手法及び当業者に既知の手法を選択するであろう。
【0131】
ウイルス粒子の投与後、レシピエント個体は、処置される疾患又は障害の症状の低減を示し得る。例えば、処置されている個体の場合、レシピエント個体は、ニューロン発火、神経伝達物質のシナプス放出、ニューロンの生存、成長又は接続性の改善を示し得る。
【0132】
ある状態の処置の文脈において本明細書中で使用される用語「処置」は、一般に、何らかの所望の治療効果、例えば、その状態の進行の阻害が達成される、ヒトの処置及び治療に関係し、この用語には、進行速度の低下、進行速度の停止、状態の後退、状態の回復及び状態の治癒が含まれる。予防的措置としての処置(すなわち、予防、防止)も含まれる。
【0133】
ウイルス粒子は、治療有効量で送達され得る。
【0134】
本明細書中で使用される用語「治療有効量」は、所望の処置レジメンに従って投与されたとき、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、何らかの所望の治療効果をもたらすのに有効なウイルス粒子の量に関係する。
【0135】
同様に、用語「予防有効量」は、本明細書中で使用されるとき、所望の処置レジメンに従って投与されたとき、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、何らかの所望の予防効果をもたらすのに有効なウイルス粒子の量に関係する。
【0136】
本明細書の文脈における「予防」は、完全な成功、すなわち完全な保護又は完全な防止を説明すると理解されるべきではない。むしろ、この文脈における予防とは、症候性の状態を検出する前に、その特定の状態を遅延させる、軽減する又は回避するのを助けることによって健康を保つことを目的として施される措置のことを指す。
【0137】
ウイルス粒子を単独で使用(例えば投与)することも可能であるが、例えば、薬学的に許容され得るキャリア又は希釈剤とともに、組成物又は製剤として提供することが好ましいことが多い。いくつかの場合において、ウイルス粒子は、アデノウイルスヘルパー遺伝子を含む第2の発現ベクタと同時投与され、必要に応じてそのアデノウイルスヘルパー遺伝子は、pHelperである。
【0138】
本明細書中で使用される用語「薬学的に許容され得る」は、適正な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応又は他の問題もしくは合併症なしに、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、対象の被験体(例えばヒト)の組織と接触して使用するのに適した化合物、成分、材料、組成物、剤形などに関係する。各キャリア、希釈剤、賦形剤などは、製剤の他の成分と適合するという意味においても「許容され得る」ものでなければならない。
【0139】
いくつかの実施形態において、組成物は、本明細書中に記載されるようなウイルス粒子及び薬学的に許容され得るキャリア、希釈剤又は賦形剤を含むか又は本質的にこれらからなるか又は唯一の活性成分としてこれらからなる、薬学的組成物(例えば、製剤、調製物、薬)である。
【0140】
WO2008096268に記載されているように、ウイルス粒子の送達を用いる遺伝子療法の実施形態において、単位用量は、投与されるウイルス粒子の用量に関して計算され得る。ウイルスの用量には、特定のウイルス粒子数又はプラーク形成単位(pfu)が含まれる。アデノウイルスを含む実施形態については、特定の単位用量は、10、10、10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013又は1014pfuを含む。粒子の用量は、感染不良の粒子が存在するため、やや高くてもよい(10~100倍)。
【0141】
いくつかの実施形態において、本発明の方法又は処置は、対症療法であるか疾患修飾であるかを問わず、他の治療と併用してもよい。
【0142】
用語「処置」には、2つ以上の処置又は治療を、例えば、連続的又は同時に組み合わせる、併用処置及び併用療法が含まれる。
【0143】
例えば、本明細書中に記載されるような化合物による処置を、他の1つ以上の(例えば、1、2、3、4つの)作用物質又は治療と組み合わせることが有益であり得る。
【0144】
併用治療薬(co-therapeutics)の適切な例は、本明細書中の開示に基づいて当業者に既知であろう。典型的には、併用治療薬は、処置される個体の診断を前提として、本明細書中に記載される疾患の処置において治療効果をもたらし得ると考えられる本分野で既知の任意のものであり得る。
【0145】
上記作用物質(すなわち、ウイルス粒子及び1つ以上の他の作用物質)は、同時に投与されてもよいし、連続的に投与されてもよく、個々に異なる投与スケジュールで、異なる経路を介して投与されてもよい。例えば、連続的に投与されるとき、それらの作用物質は、近い間隔で(例えば、5~10分の時間)、又はより長い間隔で(例えば、1、2、3、4時間又はそれを超えて離して、又は必要に応じ、さらに長い時間離して)投与することができ、正確な投与レジメンは、治療薬の特性に見合ったものである。
【0146】
キット
本発明は、本明細書中に記載されるようなAAVベクタ、並びに同じく本明細書中に記載される1つ以上のウイルスパッケージング発現ベクタ及びエンベロープ発現ベクタを含むキットも提供する。いくつかの実施形態において、ウイルスパッケージング発現ベクタは、インテグラーゼ欠損型ウイルスパッケージング発現ベクタである。
【0147】
細胞
本発明は、本明細書中に記載されるようなAAVベクタを含む細胞も提供する。いくつかの実施形態において、この細胞は、ヒト細胞などの哺乳動物細胞である。
【0148】
本明細書中のいずれの小見出しも、便宜上含められているだけであり、決して本開示を限定すると解釈されるべきでない。次に、以下の非限定的な図面及び実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらに照らせば、本発明の他の実施形態が当業者に想到されるであろう。本明細書中に引用されるすべての参考文献の開示は、それを当業者が本発明を実施するために使用し得るので、相互参照により本明細書中に明確に援用される。本願は、2020年7月16日出願の独国特許出願2010981.5に対する優先権を主張する。この出願の内容は、その全体が本明細書中に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0149】
図1】痙縮の処置の治療的アプローチ。操作されたAAVベクタを筋肉に注射することにより、その筋肉を制御している運動ニューロンの末端に感染させる(1)。ウイルスは、脊髄の運動ニューロンの細胞体に運搬され、そこで遺伝子が発現されて、症状が緩和する(2)。
図2】AAVキャプシドスクリーニングの「個別化アプローチ」例の模式図。痙縮を処置するための遺伝子療法の有望なパイプラインを示している模式図。(i)患者から皮膚サンプルを採取し、(ii)そのサンプルを用いて、iPS細胞を作製し、(iii)運動ニューロンを作製する。(iv)AAVライブラリをインビトロでこれらの運動ニューロンの末端においてスクリーニングし、(v)有効な逆行性キャプシド配列を運動ニューロンの細胞体から抽出する。(vi)この合成キャプシド配列を用いて、運動ニューロンの活動を変化させる遺伝子を含むAAVをGMP施設において作製し、(vii)それを患者での筋肉内注射に使用する。
図3】運動ニューロン及び筋肉細胞のマイクロ流体培養の模式図。
図4】(A)幹細胞由来ニューロンに対してAAVキャプシドライブラリをアッセイするための一般的なスキーム。(B)AAVライブラリによるパイロット感染に使用された培養中の胚性幹細胞由来運動ニューロン(Hb9プロモーターの制御下でGFPを発現する)。(C)2.2Kbにキャプシドバンドを示すDNAアガロースゲル。DNAを運動ニューロンから収集し、PCRによって増幅した。
図5】(A)運動ニューロン及び筋肉から神経筋接合部をインビトロで再現するためのプロトコルの例。(B)マイクロ流体チャンバ内の中央のマイクロチャネルを通過する神経突起の蛍光像。(C)神経突起が伸びて枝分かれし、筋繊維に接触している様子を示している蛍光像。パネルA~Cは、Mills et al.,2018 Molecular Metabolism 7:12-22より抜粋したものである。D)幹細胞由来運動ニューロン及び神経筋接合部のインビトロモデルにおいてAAVキャプシドライブラリをスクリーニングするためのストラテジーの例。
図6】マイクロ流体デバイスの仕組み。
図7】軸索コンパートメントへの非逆行性AAVの制限。
図8】マイクロ流体チャンバの軸索コンパートメントへのAAVキャプシドライブラリの適用、及び得られたキャプシド配列の収集/バイオインフォマティクス。
図9】マイクロ流体デバイスにおいて成長中の運動ニューロンにおけるAAVSeqA-tdTomato。
【発明を実施するための形態】
【0150】
実施例
実施例1-運動ニューロンに感染するキャプシド配列の特定
幹細胞由来ニューロンにおいてAAVキャプシドライブラリをアッセイするための一般的なスキームを図4Aに示す。
【0151】
本開示の方法を用いて、Hb9プロモーターの制御下においてGFPを発現するマウス胚性幹細胞由来運動ニューロンにAAVライブラリを適用した(図4B)。
【0152】
図4Cに示されているように、DNAアガロースゲルは、2.2kbにキャプシドバンドの存在を示した。このDNAは、運動ニューロンから収集された。
【0153】
それらの運動ニューロンに感染したキャプシド配列を配列番号1及び配列番号2として特定するためのPCRとSangerシーケンシングとの組み合わせ。
【0154】
仮想実施例2-運動ニューロンのサブコンパートメントに感染するキャプシド配列の特定
ニューロンのサブコンパートメント(例えば、シナプス末端又は軸索)に感染する能力についてAAVを特定できるように、本開示の方法を用いて、このプロセスを拡張及び適合することができる。例えば、運動ニューロンを、ニューロンの軸索と細胞体を分離するマイクロ流体チャンバにおいて生育することができる。さらに、種々の細胞型をこのシステムに加えることにより、インビボの状況、例えば、神経筋接合部をより厳密に再現することができる(プロトコルの例を図5Aに示す)。Mills et al.,2018 Molecular Metabolism 7:12-22に記載されているように、神経突起は、マイクロ流体チャンバ内の中央のマイクロチャネルを通過することができる(図5B及び図5C)。
【0155】
神経筋接合部のインビトロモデルにおいて幹細胞由来運動ニューロンに対してAAVキャプシドライブラリをスクリーニングするための一般的なストラテジーを図5Dに示す。
【0156】
スクリーニング方法は、以下の工程を含み得る。
i)iPSC又はESC(総称して「幹細胞」)を動物、ヒト被験体/患者又は細胞バンクから入手する。培養液中で、これらの幹細胞を特定のクラスのニューロン又は他の細胞(例えば、運動ニューロン、感覚ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、筋組織)に誘導する。
ii)神経細胞体と他の細胞コンパートメント(すなわち、神経突起、軸索)とを物理的に離す培養システム(すなわち、マイクロ流体チャンバ)においてこれらのニューロンを生育する。
iii)さらなる細胞型(例えば、感覚ニューロン及び筋細胞)をその培養システムに加えて、そのシステムをより厳密にインビボ環境に一致させることができる。
iv)AAVライブラリを培養システムの1つのコンパートメント(すなわち、軸索を含むが細胞体を含まないコンパートメント)に適用する。
v)(例えば)シナプス末端を介してこれらの細胞に首尾よく感染したキャプシド配列を特定する目的で、別個のコンパートメント、例えば、神経細胞体を含むコンパートメントから遺伝物質を収集する。
【0157】
得られた遺伝子配列をさらに使用して、その配列を用いるキャプシドタンパク質用のrAAVベクタを作製し得る。これらのベクタは、進化的圧力を高めるためにさらなる回数の定向進化に使用され得るか、又は遺伝子療法の開発に使用され得る。
【0158】
実施例3-マイクロ流体デバイスにおける運動ニューロンと筋肉細胞との共培養
マイクロ流体デバイスにおいて培養された運動ニューロンは、マイクロ流体溝を通って大量の軸索を伸ばし、筋管(筋肉細胞)に接触する。これらの運動ニューロンは、1週間超、培養液中で維持され得る(図6)。
【0159】
マイクロデバイスをエタノールで滅菌し、洗浄し、ユーザーマニュアルの指示(Xona Microfluidics SND150)に従ってガラス基材に取り付けた。各デバイスを、運動ニューロン(MN)培養コンパートメントと筋管培養コンパートメントと命名した。最初に、両方の細胞培養コンパートメントを、37℃で少なくとも2時間、希釈されたマトリゲルでコーティングした。
【0160】
まず、不死化マウス筋芽細胞株であるC2C12細胞(ATCCから入手可能)を収集し、播種した。筋芽細胞を12×10細胞/mlの密度で再懸濁し、筋肉培養コンパートメント(12ml)にピペットで移し、1デバイスあたり144,000個の筋芽細胞を得た。24時間後に、筋芽細胞分化培地(5%ウマ血清を含むDMEM)を加えることによって、筋芽細胞の分化を惹起した。筋芽細胞を48時間分化させて、多核線維を形成させた。筋芽細胞分化後、運動ニューロンを収集し、15×10細胞/mlの密度で再懸濁した。次いで、運動ニューロンをMNコンパートメント(12ml)にピペットで移し、1デバイスあたり180,000個のMNを得た。デバイスを37℃で2時間インキュベートして細胞接着を促進した後、それぞれの培地を加えて、デバイスを満たした。20ng/mlのGDNF及びBDNFを筋肉コンパートメントに加えたところ、コンパートメント間の20μlという体積差を用いて筋肉コンパートメントから運動ニューロンコンパートメントへの流体の流れと相まって、神経突起のリクルートメントがもたらされた。
【0161】
図6は、マトリゲルでコーティングされたコンパートメントにおいて成長中のHb9-mESC由来運動ニューロン(左側)、及び微細溝を通って伸び、枝分かれして、分化した筋管に接触している軸索(右側)の蛍光像と明視野像とのマージ画像を示している。
【0162】
実施例4-軸索チャンバへのAAV粒子の制限
筋肉コンパートメントに非逆行性AAV(配列番号13/14)を適用することにより、筋肉コンパートメントのみにおいてAAV感染が生じることから、AAV粒子は、マイクロ流体溝を通過しないことが実証される(図7)。
【0163】
図7は、同じ運動ニューロン-マイクロ流体培養物の明視野像(図7A)及び蛍光像(図7B)を示している。赤色蛍光タンパク質tdTomatoをコードするAAV6を軸索コンパートメントに加えた。軸索コンパートメント内の非神経細胞は、tdTomatoを発現したことから、それらがAAVに感染していたことが示された。運動ニューロンコンパートメント内の細胞は、tdTomatoを発現しなかったことから、AAV自体がマイクロ流体バリアを通過しないことが実証された。
【0164】
実施例5-AAVキャプシドライブラリ適用後の運動ニューロン及び筋肉細胞からのキャプシド配列の収集
AAVキャプシドライブラリをマイクロ流体チャンバの軸索側に適用した後、変異したキャプシド配列を、PCRを介して運動ニューロン(逆行輸送による)と筋管(直接感染による)の両方から収集することができる。
【0165】
AAV6ライブラリをマイクロ流体デバイスの筋肉チャンバに適用した(図8A)。適用の7日後に、神経細胞体をトリプシン処理によって収集した。ニューロンを溶解し、AAV6キャプシドの保存領域に対するプライマーを用いてPCR鋳型として使用した。キャプシド領域のPCRの後(図8B)、DNAフラグメントを骨格ベクタにクローニングし、進化的圧力を高めるためにプロセス全体を3回繰り返した。キャプシド領域の最終PCR産物をDNAベクタにクローニングし、Sangerシーケンシングにかけた。結果を、バイオインフォマティクスを用いて、高度に濃縮されたキャプシドについて解析した。筋肉細胞も、最後の回で溶解し、筋肉細胞にも感染する運動ニューロン濃縮キャプシドを見つける目的で、同じ特異的プライマーを用いてPCR鋳型として使用した(図8C及び8D)。バイオインフォマティクス解析は、運動ニューロンへの感染と筋肉への感染を比べたとき、濃縮キャプシドにおけるいくつかの差異を示した。
【0166】
図8は、マイクロ流体チャンバの軸索コンパートメントへのAAVキャプシドライブラリの適用、及び得られたキャプシド配列の収集/バイオインフォマティクスを示している。(図8A)実験計画。(図8B)運動ニューロン又は筋肉細胞から収集されたDNAに対するAAVキャプシドの代表的なPCR。キャプシドは、約2Kbのバンドに示される。(図8C)運動ニューロンから収集された配列のバイオインフォマティクス解析。各列は、別個の配列であり、カラム内の黒線は、親AAV6キャプシド配列との差異を示している。(図8D)筋肉細胞から収集されたDNA以外は(図8C)と同様である。
【0167】
実施例6-運動ニューロン濃縮キャプシド配列のインビトロ試験 マイクロ流体デバイスにおける運動ニューロンと筋肉細胞との共培養
バイオインフォマティクス解析の後、配列A(配列番号11/12)と名付けられた、より高頻度で出現したキャプシド(配列の8%)を選択した。
【0168】
配列AのキャプシドをITR2-REP2ベクタにクローニングし直し、td-Tomato蛍光マーカーを発現するAAVにパッケージングした。AAVSeqA-tdTomatoをマイクロ流体デバイスの筋肉チャンバに適用した。7日後、ライブイメージング(図9)及び蛍光イメージング(図9)を行ったところ、tdTomato蛍光マーカーを発現する新しい配列AキャプシドAAVウイルスによる運動ニューロンの逆行感染が示された。
【0169】
図9は、マイクロ流体デバイスにおいて成長中の運動ニューロンにおけるAAVSeqA-tdTomatoを示している。AAVSeqA-tdTomatoウイルスに逆行感染したHb9-mESC由来運動ニューロンの蛍光像。図9Aは、すべての蛍光チャネルをマージしたマージ画像を示している。図9Bは、tdTomatoシグナルを示しており、図9Cは、H9-GFP運動ニューロンを示しており、図9Dは、DAPI染色された核を示している。
【0170】
参考文献
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【0171】
配列別表
ES/iPSC由来の運動ニューロンから収集されたキャプシド配列のヌクレオチド配列(配列番号1)
【0172】
【表1】
【0173】
ES/iPSC由来運動ニューロンから収集されたキャプシド配列のヌクレオチド配列(配列番号2)
【0174】
【表2】
【0175】
KCC2遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号3)
【0176】
【表3】
【0177】
KCC2遺伝子産物のアミノ酸配列(配列番号4)
【0178】
【表4】
【0179】
Kv1遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号5)
【0180】
【表5】
【0181】
Kv1遺伝子産物のアミノ酸配列(配列番号6)
【0182】
【表6】
【0183】
破傷風毒素軽鎖遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号7)
【0184】
【表7】
【0185】
破傷風毒素軽鎖遺伝子産物のアミノ酸配列(配列番号8)
【0186】
【表8】
【0187】
hM4Di遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号9)
【0188】
【表9】
【0189】
hM4Di遺伝子産物のアミノ酸配列(配列番号10)
【0190】
【表10】
【0191】
配列Aのヌクレオチド配列(配列番号11)
【0192】
【表11】
【0193】
配列Aのアミノ酸配列(配列番号12)
【0194】
【表12】
【0195】
AAV6キャプシドDNA配列(配列番号13)
【0196】
【表13】
【0197】
AAV6アミノ酸配列(配列番号14)
【0198】
【表14】
【0199】
配列番号1によってコードされるキャプシドのアミノ酸配列(配列番号15)
【0200】
【表15】
【0201】
配列番号2によってコードされるキャプシドのアミノ酸配列(配列番号16)
【0202】
【表16】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023534452000001.app
【国際調査報告】