(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】歯肉組織及びその調製の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230802BHJP
A61K 35/37 20150101ALI20230802BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/37
A61P1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503002
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 SG2021050418
(87)【国際公開番号】W WO2022015247
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】10202006843S
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スリラム・ゴプ
(72)【発明者】
【氏名】ギリダラン・ムニラジ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB06
4B065BB19
4B065BB23
4B065BC50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB49
4C087NA14
4C087ZA67
(57)【要約】
本発明は、3次元(3D)細胞組成物を調製する方法であって、a)フィブリノーゲン、調節剤及び口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞を含む支持マトリックスを形成する工程、b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程、並びにc)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程を含む、方法に関する。本発明の特定の実施形態では、該方法は、4アームの、末端をグルタル酸スクシンイミジルで修飾されたポリエチレンオキシドが調節剤として使用される、人工の歯肉組織の生成のために例示される。歯周病又は歯肉の状態の処置、再生治療及びin vitro試験を含む3D細胞組成物の使用もまた、開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元細胞組成物を調製する方法であって、
a)フィブリノーゲン、調節剤及び口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞を含む支持マトリックスを形成する工程;
b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程;並びに
c)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
3次元細胞組成物が人工の歯肉組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3次元細胞組成物の第1の層が粘膜固有層相当物層である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
3次元細胞組成物が人工の口腔粘膜組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
口腔線維芽細胞が歯肉、歯根膜、頬粘膜、口蓋粘膜、口唇粘膜、舌粘膜又は他の口腔粘膜表面由来である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
フィブリノーゲン及び調節剤がトロンビンの存在下で架橋される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
口腔線維芽細胞の濃度が1×10
4~1×10
6個の細胞/mlである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
支持マトリックスが内皮細胞を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
内皮細胞の濃度が1×10
5~4×10
6個の細胞/mlである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
フィブリノーゲンがヒトフィブリノーゲンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
フィブリノーゲンの濃度が1.25~20mg/mlである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
調節剤の濃度が0.3~2.5mg/mlである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
フィブリノーゲンの調節剤に対する質量比が約4:1である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
調節剤が2アーム、4アーム又は8アームのPEGである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
PEGが、4アームの、末端をグルタル酸スクシンイミジルで修飾されたポリエチレンオキシドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
トロンビンが、3.125IU/ml~12.5IU/mlの濃度である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
トロンビンがヒトトロンビンである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
支持マトリックスを形成する工程が、型の中で支持マトリックスを形成する工程を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程b)が、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば1~20ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足した培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程b)が、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、VEGF(例えば5~50ng/ml)及びEGF(例えば1~10ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば1~20ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)並びにアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足した培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
支持マトリックスを2~6日間インキュベートして3次元細胞組成物の第1の層を形成する工程を含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
第2の層が歯肉上皮相当物層である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
第2の層が口腔粘膜上皮相当物層である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
口腔ケラチノサイトの濃度が1×10
5~5×10
5個の細胞/cm
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
口腔ケラチノサイトが歯肉、頬粘膜、口蓋粘膜、口唇粘膜、舌粘膜又は他の口腔粘膜表面由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
3次元細胞組成物を気相液相界面で培養する工程を更に含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
3次元細胞組成物を気相液相界面で10~21日間又は3~8日間培養する工程を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に規定の方法に従って得られる、3次元細胞組成物。
【請求項29】
a)支持マトリックス内に懸濁させた口腔線維芽細胞を含むPEG-フィブリン支持マトリックスを含み、該支持マトリックスがフィブリン、調節剤及び口腔線維芽細胞を含む、第1の層;並びにb)口腔ケラチノサイトを含む第2の層を含む、3次元細胞組成物。
【請求項30】
医薬としての使用のための、請求項28又は29に記載の3次元細胞組成物。
【請求項31】
歯周病又は歯肉の状態を処置するための医薬の製造における、請求項28又は29に規定の3次元細胞組成物の使用。
【請求項32】
再生治療のための医薬の製造における、請求項28又は29に規定の3次元細胞組成物の使用。
【請求項33】
in vitro試験のための、請求項28又は29に規定の3次元細胞組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、組織工学の分野に関する。特に、本開示は、3次元(3D)細胞組成物を調製する方法、及び3D細胞組成物の使用を教示する。
【背景技術】
【0002】
歯肉組織又は一般に「歯茎」と呼ばれるものは、歯を覆い、また機械的、化学的及び微生物性の因子に対するバリア等の種々の機能を有する組織であり、それゆえにその下の組織を保護する。歯肉組織は、粘膜固有層と呼ばれる粘膜結合組織、及びその上にある上皮で構成される。粘膜固有層は、細胞(主に線維芽細胞)、及びコラーゲンマトリックス内に埋め込まれた血管で構成される。歯肉上皮は、最も外側に角質層又は角化層を有する、細胞の重層として配置されたケラチノサイトで主に構成される。歯肉上皮の重層には、基底層、表皮有棘層、顆粒層及び角質層が含まれる。歯肉上皮及び粘膜固有層は、基底膜の層によって膠着している。基底膜は、主にIV型コラーゲン(Collagen)、ラミニン(Laminin)、インテグリン(integrin)及びフィブロネクチン(Fibronectin)からなる薄い膜である。
【0003】
3次元器官型培養等の組織工学の進歩によって、実験室においてヒト組織を再構築する機会が提供される。3次元培養技術を使用して、歯肉組織をin vitroで再構築することが可能である。歯肉組織相当物(gingival tissue equivalent)は、損傷したヒト歯肉補填するのに役立ち得る、実験室で作製された組織であり、歯科用製品及びオーラルケア製品の安全性、毒性及び効能の試験、薬物スクリーニング並びに宿主-マイクロバイオームの相互作用の調査の実験モデルとしての重要な用途も有する。それゆえに、天然のヒト歯肉の構造及び生理機能を模倣するヒト歯肉組織相当物の開発及び製作が、そのような用途のために必要である。EUは(オーラルケア製品を含む)化粧料を試験するための動物モデルの使用を禁止しているので、種々の会社が、EpiGingival(商標)(MatTek社)及びSkinEthic HGE(商標)(Episkin社)等の再構築されたヒト歯肉上皮(RHGE)モデルを開発している。しかしながら、これらのモデルは歯肉上皮の再構築にのみ基づいており、その下の結合組織(粘膜固有層)を欠いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、一般に、上述の難点の1つ以上を克服又は改善することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
3次元細胞組成物を調製する方法であって、a)フィブリノーゲン、調節剤及び口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞を含む支持マトリックスを形成する工程;b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程;並びにc)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程を含む、方法が、本明細書で開示される。
【0006】
本明細書で定義される方法に従って得られる3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0007】
a)支持マトリックス内に懸濁させた口腔線維芽細胞を含むPEG-フィブリン支持マトリックスを含み、該支持マトリックスがフィブリン、調節剤及び口腔線維芽細胞を含む、第1の層;並びにb)口腔ケラチノサイトを含む第2の層を含む、3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0008】
医薬としての使用のための、本明細書で定義される3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0009】
歯周病又は歯肉の状態(gum disease or condition)を処置するための医薬の製造における、本明細書で定義される3次元細胞組成物の使用が、本明細書で開示される。
【0010】
再生治療のための医薬の製造における、本明細書で定義される3次元細胞組成物の使用が、本明細書で開示される。
【0011】
in vitro試験のための、本明細書で定義される3次元細胞組成物の使用が、本明細書で開示される。
【0012】
本明細書の実施形態を、添付の図面を参照しながら、非限定的な例のみによって以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】6ウェル(左)及び12ウェル(右)インサートフォーマット内の歯肉組織相当物を示す写真である。点線の円は、フィブリンベースのマトリックスを使用して製作された(且つ約3週間培養された)歯肉組織相当物が、いかなる収縮もなしにインサートの全面積を占めることを示す。
【
図2】歯肉線維芽細胞が密集した粘膜固有層マトリックス上の基底層、表皮有棘層、顆粒層及び角質層からなる角化重層扁平上皮の存在を示す、ヘマトキシリン-エオジン染色された歯肉相当物(歯肉-FT)の顕微鏡写真である。
【
図3】サイトケラチン(CK-5及びCK-10)の発現を示す、歯肉相当物(歯肉-FT)の顕微鏡写真である。
【
図4】歯肉上皮分化マーカー(ロリクリン(Loricrin)、フィラグリン(Filaggrin)及びCK-10)の発現を示す、歯肉相当物(歯肉-FT)の顕微鏡写真である。
【
図5】粘膜固有層の細胞外マトリックスタンパク質(1型コラーゲン及びフィブロネクチン)の発現を示す、歯肉相当物(歯肉-FT)の顕微鏡写真である。
【
図6】基底膜タンパク質(IV型コラーゲン及びラミニン5)の発現を示す、歯肉相当物(歯肉-FT)の顕微鏡写真である。
【
図7】異なる濃度のフィブリノーゲン(Fbrgn:5mg/ml、7.5mg/ml、10mg/ml)及びトロンビン(Thr:12UN/ml、6UN/ml、3UN/ml、1.5UN/ml)を使用して製作された血管柄付粘膜固有層相当物(vascularized lamina propria equivalent)における微小血管網の形成を示す図である。
【
図8】8日間の培養にわたる、異なる濃度の内皮細胞(1.5×10
6及び0.75×10
6個の細胞)及び歯肉線維芽細胞(5×10
4及び10×10
4個の細胞)を使用して製作された血管柄付粘膜固有層相当物内の微小血管網の形成の動態を示す図である。
【
図9】血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の、ヘマトキシリン-エオジン染色された顕微鏡写真である。
【
図10】サイトケラチン(CK-5及びCK-10)の発現を示す、血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の顕微鏡写真である。
【
図11】歯肉上皮分化マーカー(ロリクリン、フィラグリン及びCK-10)の発現を示す、血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の顕微鏡写真である。
【
図12】粘膜固有層の細胞外マトリックスタンパク質(1型コラーゲン及びフィブロネクチン)の発現を示す、血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の顕微鏡写真である。
【
図13】基底膜タンパク質(IV型コラーゲン及びラミニン5)及び内皮細胞マーカー(CD31及びvWF)の発現を示す、血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の顕微鏡写真である。4つ全てのマーカーはまた、粘膜固有層中の血管の存在を示す。
【
図14】マウスウォッシュの粘膜への刺激性及びバリア崩壊の可能性を調べるための、インタクトな歯肉-FT組織構築物の使用を示す図である。
【
図15】口腔潰瘍に対するマウスウォッシュの粘膜への刺激の可能性を調べるための、潰瘍化した口腔粘膜を表す粘膜固有層相当物の使用を示す図である。
【
図16】3及び60分間にわたるマウスウォッシュ曝露の粘膜腐食の可能性を調べるための、歯肉-FT組織構築物の使用を示す図である。
【
図17】インタクトな組織構築物及びSLS処理された組織構築物を通した歯科用麻酔薬の透過を調べるための、歯肉-FT組織構築物の使用を示す図である。
【
図18】歯科用コンポジットの生物的適合性(急性毒性)を調べるための、歯肉-FT組織構築物の使用を示す図である。
【
図19】幼若及び老化口腔粘膜表現型を製作するためのバイオファブリケーション方法の使用並びに口腔粘膜老化研究のためのそれらの用途を示す図である。
【
図20】幼若及び老化歯肉組織の表現型を製作するための、歯肉-FT組織構築物の使用、並びに歯肉の老化の研究のためのそれらの用途を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、3次元細胞組成物を調製する方法を教示する。該方法は、a)フィブリノーゲン、調節剤及び口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞を含む支持マトリックスを形成する工程を含んでもよい。該方法は、次いで、b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程を含んでもよい。該方法は、c)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程を更に含んでもよい。支持マトリックスは、例えば、フィブリンベースのマトリックスであってもよい。
【0015】
3次元細胞組成物を調製する方法であって、a)フィブリノーゲン、調節剤及び口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞を含む支持マトリックスを形成する工程;b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程;並びにc)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程を含む、方法が、本明細書で開示される。
【0016】
3次元細胞組成物は、3次元細胞培養物であってもよい。一実施形態では、3次元細胞組成物は、3次元組織相当物である。3次元細胞組成物は、2つの層、即ち第1及び第2の層を含んでもよい。
【0017】
3次元組織組成物はまた、第1の層としての粘膜固有層相当物層(lamina propria equivalent layer)及び第2の層としての歯肉上皮相当物層を含む、全層歯肉相当物とも呼ばれ得る。一実施形態では、第1の層は粘膜固有層相当物である。一実施形態では、第2の層は歯肉上皮相当物層である。理論に束縛されることなく、最終的に全層歯肉組織相当物の生成を可能にするのは、口腔線維芽細胞と口腔ケラチノサイトとの間の複雑な相互作用である。
【0018】
一実施形態では、3次元細胞組成物は、人工の歯肉組織である。
【0019】
一実施形態では、3次元細胞組成物は、人工の血管柄付歯肉組織である。
【0020】
3次元相当物はまた、全層口腔粘膜相当物とも呼ばれ得る。一実施形態では、3次元細胞組成物は、人工の口腔粘膜組織である。理論に束縛されることなく、最終的に全層口腔粘膜相当物の生成を可能にするのは、口腔線維芽細胞と口腔ケラチノサイトとの間の複雑な相互作用である。
【0021】
一実施形態では、口腔線維芽細胞が歯肉、歯根膜、頬粘膜、口蓋粘膜、口唇粘膜、舌粘膜又は他の口腔粘膜表面由来である。
【0022】
用語「支持マトリックス」は、本明細書で使用される場合、任意の材料で作製され、3次元構造内で細胞が1層より多く増殖することを可能にする任意の形状及び内部構造を有する、任意の3次元構造をいう。
【0023】
支持マトリックスは、任意の適切な材料又は材料の組合せから形成され得る。支持マトリックスを形成するのに適切な材料の例としては、フィブリン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナン、硫酸コンドロイチン、アルジネート、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレングリコール(PEG)乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ-L-リジン、Matrigel(登録商標)組成物、ポリ乳酸(PLA)、任意の適切な合成生体材料、並びにそれらの変形及び組合せが挙げられる。例示的な実施形態では、支持マトリックスは、in vivo細胞外マトリックスの構造を模倣する。
【0024】
一実施形態では、細胞は、支持マトリックス中に均質に懸濁されている。
【0025】
一実施形態では、支持マトリックスは、フィブリノーゲン、調節剤、口腔線維芽細胞をトロンビンと混合することによって形成される。
【0026】
一実施形態では、フィブリノーゲンは、トロンビンの存在下で架橋される。一実施形態では、フィブリノーゲン及び調節剤がトロンビンの存在下で架橋される。架橋によって、調節剤/フィブリンベースの支持マトリックスが形成され得る。フィブリンベースの支持マトリックスは、口腔線維芽細胞及び他の細胞が構造と共に増殖するための、多孔性の3次元構造を有してもよい。
【0027】
一実施形態では、口腔線維芽細胞の濃度は1×104~1×106個の細胞/mlである(例えば、1mlの支持マトリックスあたりの細胞の数に関して)。一実施形態では、線維芽細胞の濃度は3×104~7×105個の細胞/mlである。より多い数の線維芽細胞はマトリックスの迅速な分解を引き起こし得るので、この濃度の線維芽細胞は、このレベルで維持される。一部の実施形態では、線維芽細胞の濃度は、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、1.5×105、2×105、2.5×105、3×105、3.5×105、4×105、4.5×105、5×105、5.5×105、6×105、6.5×105、7×105、8×105、9×105又は1×106個の細胞/mlである。線維芽細胞は、ヒト起源であってもよい。
【0028】
支持マトリックスは、血管柄付であってもよい。一実施形態では、支持マトリックスは内皮細胞を更に含む。内皮細胞は、1×105~4×106個の細胞/mlの濃度であってもよい(例えば、1mlの支持マトリックスあたりの細胞の数に関して)。内皮細胞は、1.8×105~3.75×106個の細胞/mlの濃度であってもよい。一部の実施形態では、内皮細胞の濃度は、1×105、1.5×105、2×105、2.5×105、3×105、3.5×105、4×105、4.5×105、5×105、5.5×105、6×105、6.5×105、7×105、7.5×105、8×105、8.5×105、9×105、9.5×105、1×106、1.5×106、2×106、2.5×106、3×106、3.5×106、3.75×106又は4×106個の細胞/mlである。内皮細胞は、動脈、静脈又は微小血管起源であってもよい。内皮細胞はヒト起源であってもよい。
【0029】
一実施形態では、3次元細胞組成物を調製する方法であって、a)フィブリノーゲン、調節剤、口腔線維芽細胞及び内皮細胞をトロンビンと混合することによって、支持マトリックス内に懸濁された口腔線維芽細胞及び内皮細胞を含む支持マトリックスを形成する工程;b)3次元細胞組成物の第1の層の展開を可能にするのに十分な時間、細胞培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程;並びにc)第1の層の表面上に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して3次元細胞組成物の第2の層を形成する工程を含む、方法が、提供される。
【0030】
一実施形態では、フィブリノーゲンはヒトフィブリノーゲンである。
【0031】
一実施形態では、フィブリノーゲンの濃度は1.25~20mg/mlである。フィブリノーゲンの濃度は、例えば、1.25、1.5、1.75、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5又は20mg/mlであってもよい。
【0032】
一実施形態では、調節剤は0.3~2.5mg/mlである。調節剤の濃度は、例えば、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4又は2.5mg/mlであってもよい。有利なことに、調節剤は、得られるゲルの架橋密度を増大させ得、これによって機械的強度、多孔性が改善され得、マトリックス中のフィブリンの分解の速度が低下し得る。
【0033】
一実施形態では、フィブリノーゲンの濃度が1.25~10mg/mlであり、調節剤の濃度は0.3~2.5mg/mlである。
【0034】
フィブリノーゲンの調節剤に対する質量比は、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1又は約6:1であってもよい。一実施形態では、フィブリノーゲンの調節剤に対する質量比は約4:1である。このフィブリノーゲンの調節剤に対する比は、細胞増殖に有意に影響を及ぼすことなく、機械的特性、多孔性を改善し得、マトリックスの分解の速度を低下させ得る。
【0035】
調節剤は、異なるフィブリノーゲン分子を架橋し得る。一実施形態では、調節剤は2アーム、4アーム又は8アームのポリエチレングリコール(2-arm, 4-arm or 8-arm polyethylene glycol)(PEG)である。一実施形態では、調節剤は4アームのPEGである。各4アームのPEGは、4つまでのフィブリノーゲン分子を架橋し得る。4アームのPEGは、4アームの、末端をグルタル酸スクシンイミジルで修飾されたポリエチレンオキシド(poly(ethylene oxide), 4-arm, succinimidyl glutarate terminated)であってもよい。
【0036】
トロンビンは、1IU/ml~15IU/mlの濃度で提供され得る。トロンビンは、3.125IU/ml~12.5IU/mlの濃度で提供され得る。トロンビンは、例えば、1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、3.125、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5、5.25、5.5、5.75、6、6.25、6.5、6.75、7、7.25、7.5、7.75、8、8.25、8.5、8.75、9、9.25、9.5、9.75、10、10.25、10.5、10.75、11、11.25、11.5、11.75、12、12.25、12.5、12.75、13、13.25、13.5、13.75又は14IU/mlの濃度で提供され得る。
【0037】
一実施形態では、トロンビンはヒトトロンビンである。
【0038】
一実施形態では、支持マトリックスを形成する工程は、型の中で支持マトリックスを形成する工程を含む。
【0039】
一実施形態では、工程c)は、ウシ胎仔血清(例えば0.5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば1~20ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足した培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程を含む(例えば、培地-GE1参照)。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)及びEGF(例えば1~10ng/ml)を更に含んでもよい。
【0040】
一実施形態では、工程c)は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば1~20ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足した培地中で支持マトリックスをインキュベートする工程を含む(例えば、培地-GE1参照)。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)及びEGF(例えば1~10ng/ml)を更に含んでもよい(例えば、培地-VGE1参照)。
【0041】
一実施形態では、該方法は、支持マトリックスを2~6日間インキュベートして3次元細胞組成物の第1の層を形成する工程を含む。支持マトリックス中の口腔線維芽細胞は、最終的に粘膜固有層相当物を生じる、種々のECMタンパク質を分泌し得る。
【0042】
一実施形態では、該方法は、第1の層の表面上(即ち、第1の層の上部の上)に口腔ケラチノサイトを播種し、口腔ケラチノサイトを培養して第2の層を形成する工程を更に含む。
【0043】
一実施形態では、口腔ケラチノサイトの播種密度は、1×105~5×105個の細胞/ml(例えば、3D細胞組成物の第1の層1平方cm当たりの細胞の数)である。口腔ケラチノサイトの播種密度は、約1×105、1.5×105、2×105、2.5×105、3×105、3.5×105、4×105、4.5×105又は5×105個の細胞/cm2であってもよい。一実施形態では、口腔ケラチノサイトの播種密度は、2.5×105~3.5×105個の細胞/cm2である。
【0044】
一実施形態では、口腔ケラチノサイトは、歯肉、歯根膜、頬粘膜、口蓋粘膜、口唇粘膜、舌粘膜又は他の口腔粘膜表面由来であってもよい。ケラチノサイトは、ヒト起源であってもよい。
【0045】
口腔ケラチノサイトは、内皮細胞無血清培地(ESFM)及びケラチノサイト無血清培地(KSFM)の1:1混合物を含む培地中で培養してもよい。培地は、0.5%ウシ胎仔血清(FBS)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、EGF(例えば1~10ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足され得る。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)を更に含んでもよい。
【0046】
口腔ケラチノサイトは、内皮細胞無血清培地(ESFM)及びケラチノサイト無血清培地(KSFM)の1:1混合物を含む培地中で培養してもよい。培地は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、EGF(例えば1~10ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足され得る(例えば、培地-GE2参照)。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)を更に含んでもよい(例えば、培地-VGE2参照)。
【0047】
一実施形態では、第2の層は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれより多い口腔ケラチノサイトを含む。
【0048】
一実施形態では、該方法は、3次元細胞組成物を気相液相界面で培養する工程を更に含む。これは、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために、1~35日の間(例えば3~8日間又は10~21日間)、ディープウェルプレート中で行ってもよい。培地は、0.5%ウシ胎仔血清(FBS)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足されたESFM及びKSFMの1:1混合物を含んでもよい。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)を更に含んでもよい。
【0049】
一実施形態では、該方法は、3次元細胞組成物を気相液相界面で培養する工程を更に含む。これは、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために、1~35日の間(例えば3~8日間又は10~21日間)、ディープウェルプレート中で行ってもよい。培地は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(例えば10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば50~500ng/ml)、セレン(例えば1~10ng/ml)、エタノールアミン(例えば1~10ug/ml)、インスリン(例えば1~20ug/ml)、トランスフェリン(例えば1~10ug/ml)及びアプロチニン(例えば10~100KIU/ml)を補足されたESFM及びKSFMの1:1混合物を含んでもよい(例えば、培地-GE3参照)。培地は、VEGF(例えば5~50ng/ml)を更に含んでもよい(例えば、培地VGE3参照)。
【0050】
用語、気相液相界面(ALI)は、細胞の基底膜が液体に接触するか、又は覆い隠されており、且つ頂端膜が空気に接触している、細胞の培養をいう。有利なことに、口腔ケラチノサイトは、結果として、in vivoで見られるような機能的な角化表面の発生をもたらすその分化において、頂端-基底の極性を示す。ALI培養の期間は、1日~35日間の範囲であってもよい。ALI培養の期間は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34又は35日間の範囲であってもよい。一実施形態では、ALI培養の期間は約10~21日間である。別の実施形態では、ALI培養の期間は約3~8日間である。興味深いことに、ALI培養の期間は、生じる組織の種類に影響を及ぼし得る。例えば、10~21日間のALI培養期間は、歯肉上皮相当物層の形成をもたらすことが見出されたが、3~8日間のALI培養期間は口腔粘膜上皮相当物層の形成をもたらすことが見出された。
【0051】
一実施形態では、3次元細胞組成物の第2の層(即ち、歯肉上皮相当物層)は、表面の角質層に覆われた、口腔ケラチノサイトの少なくとも3つの層を含む。
【0052】
一実施形態では、3次元細胞組成物の第2の層(即ち、口腔粘膜上皮相当物層)は、表面の角質層がない、口腔ケラチノサイトの少なくとも3つの層を含む。
【0053】
本明細書で定義される方法に従って得られる3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0054】
a)支持マトリックス内に懸濁させた口腔線維芽細胞を含むPEG-フィブリン支持マトリックスを含み、該支持マトリックスがフィブリン、調節剤及び口腔線維芽細胞を含む、第1の層並びにb)口腔ケラチノサイトを含む第2の層を含む、3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。第2の層は、第1の層の表面に配置され得る。
【0055】
本明細書で定義される3次元細胞組成物は、歯肉、歯周、口腔粘膜、皮膚、食道、膣及び尿道再生用途を含むがこれらに限定されない、組織工学又は組織再生用途において使用してもよい。細胞組成物は、欠損組織の組織再生又は組織補填のために、動物又はヒトに、インプラント、移植、又は注射してもよい。
【0056】
本明細書で定義される3次元細胞組成物を含む組織移植片が、本明細書で提供される。
【0057】
医薬としての使用のための、本明細書で定義される3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0058】
歯周病又は歯肉の状態を処置する方法であって、対象に本明細書で定義される3次元細胞組成物を投与する工程を含む、方法が、本明細書で開示される。
【0059】
歯周病又は歯肉の状態の処置における使用のための、本明細書で定義される3次元細胞組成物が、本明細書で開示される。
【0060】
歯周病又は歯肉の状態を処置するための医薬の製造における、本明細書で定義される3次元細胞組成物の使用が、本明細書で開示される。
【0061】
用語「処置する」、「処置」等は、本明細書で互換可能に使用されて、状態の1つ以上の症状を含む、状態を軽減、減少、緩和、改善又はそうでなければ阻害することを意味する。
【0062】
3次元細胞組成物は、対象を処置するために使用してもよい。用語「患者」、「対象」、「宿主」又は「個体」は、本明細書で互換可能に使用されて、治療又は予防することが望ましい、任意の対象、特に脊椎動物の対象、更に特に哺乳動物の対象をいう。本発明の範囲内にある適切な脊椎動物としては、制限されないが、霊長類(例えば、ヒト、サル及び類人猿)を含む脊索動物門の任意の一員が挙げられ、マカク属(例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)等のカニクイザル)及び/又はアカゲザル(アカゲザル(Macaca mulatta))のサルの種並びにヒヒ(チャクマヒヒ(Papio ursinus)、並びにマーモセット(真正マーモセット属の種)、リスザル(リスザル属の種)及びタマリン(タマリン属の種)、並びにチンパンジー(チンパンジー(Pan triglodytes))等の類人猿の種、齧歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット)、ウサギ(lagomorph)(例えば、ウサギ(rabbit)、ノウサギ)、ウシ(bovine)(例えば、ウシ(cattle))、ヒツジ(ovine)(例えば、ヒツジ(sheep))、ヤギ(caprine)(例えば、ヤギ(goat))、ブタ(porcine)(例えば、ブタ(pig))、ウマ(equine)(例えば、ウマ(horse))、イヌ(canine)(例えば、イヌ(dog))、ネコ(feline)(例えば、ネコ(cat))、海生哺乳類(例えば、イルカ、クジラ)、爬虫類(ヘビ、カエル、トカゲ等)、並びに魚類が挙げられる。一実施形態では、対象はヒトである。
【0063】
in vitro試験のための、本明細書で定義される3次元細胞組成物の使用が、本明細書で開示される。3次元細胞組成物は、化合物のin vitro試験に使用してもよい。3次元細胞組成物はまた、例えば、in vitroの薬物試験、消費者ケア製品(consumer-care product)試験、経粘膜的浸透、薬物送達、老化、宿主-マイクロバイオーム相互作用、宿主-生体材料相互作用、宿主-インプラント相互作用又は薬効に関する試験、及び安全性、毒性又は生物的適合性に関するアッセイのために使用してもよい。
【0064】
3次元細胞組成物は、例えば、マウスウォッシュ、練り歯磨き、漂白剤、口中清涼剤、経口用イルリガートル、歯垢顕示錠又は歯垢顕示液、経口ゲル、口腔スプレー、歯科用セメント、歯科用接着剤、エッチング剤及び義歯固定液を含むがこれらに限定されない消費者ケア製品の活性物質及び製剤の粘膜への刺激性、粘膜腐食及びバリア崩壊の可能性を試験するために使用してもよい。3次元細胞組成物は、歯科用セメント、歯科用コンポジット、歯科用接着剤、義歯接着剤、エッチング剤、漂白剤を含むがこれらに限定されない歯科用治療法及び生体材料の生物的適合性(急性毒性)を調べるために使用してもよい。
【0065】
一実施形態では、3次元細胞組成物は、(塩酸リドカイン又は塩酸アルチカイン等の)歯科用麻酔薬の経粘膜送達のために使用される。
【0066】
一実施形態では、3次元細胞組成物は、老化研究のために使用される。
【0067】
特に述べられるか、又は文脈から明らかでなければ、本明細書で使用される場合、用語「約」は、当該分野の一般公差の範囲内、例えば平均の2標準偏差内と理解される。約は、述べられた値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%内と理解され得る。文脈から他に明らかでなければ、本明細書で提供される全ての数値は、約という用語によって修飾してもよい。
【0068】
本明細書及びそれに続く記述を通して、文脈が他に必要としなければ、用語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形は、述べられた整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むことを含蓄するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群の排除を含蓄しないことが理解されよう。
【0069】
本明細書における、任意の先行する文献(又はそれに由来する情報)、又は公知である任意の事柄の参照は、その先行する文献(又はそれに由来する情報)又は公知の事柄が、本明細書の関する努力分野の技術常識の一部を形成するという認識若しくは自認又はいかなる形態の示唆としても捉えられず、また、捉えられるべきではない。
【0070】
当業者は、本明細書に記載される発明が、具体的に記載されているもの以外の変形及び変更を許すことを認めるであろう。本発明は精神及び範囲の内の全ての変形及び変更を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書で個々に、又は集合的に、参照されるか、又は示される、工程、特徴、組成物及び化合物の全て、並びに該工程又は特徴の任意の2つ以上のあらゆる全ての組合せを含む。
【0071】
本発明のある実施形態が、説明のみの目的を意図し、上述の一般性の範囲を限定することを意図しない、以下の実施例を参照して記載される。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
方法論
1.粘膜マトリックス(粘膜固有層相当物)の製作:
粘膜固有層相当物を製作するために、歯肉又は口腔線維芽細胞を、フィブリンベースのマトリックス内に包埋する。フィブリンベースのマトリックスは、3つの成分からなる:
- 溶液A:(5部)
〇ヒト血漿フィブリノーゲン(10~80mg/ml):4部
〇4アームの、末端をグルタル酸スクシンイミジルで修飾されたポリエチレンオキシド(10mg/ml):1部
- 溶液B:(16部)
〇ヒトトロンビン(100~400UN/ml):1部
〇塩化カルシウム(40mM):8部
〇蒸留水:7部
- 溶液C:(11部)
〇線維芽細胞懸濁液(1~20×106個の細胞/ml):1部
〇Opti-MEM:10部
【0073】
各成分の総容積は、組織相当物の数、及び調製されるフィブリンベースのマトリックスの総容積に依存する。
【0074】
最初に、溶液Aの成分を共に混合し、37℃で30分間インキュベートする。2番目に、溶液Bの成分を共に混合し、氷上に置く。3番目に、歯肉又は口腔線維芽細胞を培養フラスコから分離し、所望の終濃度まで再懸濁する。線維芽細胞-細胞懸濁液を使用して、溶液Cを調製する。30分間のインキュベーション時間の後、溶液A及び溶液Cを共に混合する。次いで、溶液Bを溶液A+C混合物に加え、速やかにセルカルチャーインサートにピペッティングする。15~30分のゲル化期間の後、培地(培地-GE1)を各インサートに加え、プレートをインキュベーターに入れる。
【0075】
培地-GE1は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、1~20ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足した内皮細胞無血清培地(ESFM、GIBCO)で構成される。
【0076】
2.全層歯肉相当物(歯肉-FT)の製作:
粘膜固有層相当物の2~6日間の培養の後、歯肉又は口腔ケラチノサイトをマトリックスの上部に播種し、培地-GE2を使用して1~3日間培養する。次いで、3D培養物をディープウェルプレートに移し、気相液相界面で、培地-GE3を使用して10~21日間、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために培養する。
【0077】
培地-GE2は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、EGF(1~10ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びケラチノサイト無血清培地(KSFM、GIBCO)の1:1混合物で構成される。
【0078】
培地-GE3は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びKSFMの1:1混合物で構成される。
【0079】
3.血管柄付粘膜マトリックス(血管柄付粘膜固有層相当物)の製作:
血管柄付粘膜固有層相当物を製作するために、歯肉又は口腔線維芽細胞及び内皮細胞を、フィブリンベースのマトリックス内に包埋する。フィブリンベースのマトリックスは、3つの成分からなる:
- 溶液A:(5部)
〇ヒト血漿フィブリノーゲン(10~80mg/ml):4部
〇4アームの、末端をグルタル酸スクシンイミジルで修飾されたポリエチレンオキシド(10mg/ml):1部
- 溶液B:(16部)
〇ヒトトロンビン(100~400UN/ml):1部
〇塩化カルシウム(40mM):8部
〇蒸留水:7部
- 溶液C:(11部)
〇線維芽細胞懸濁液(1~20×106個の細胞/ml):1部
〇内皮細胞懸濁液(1~20×106個の細胞/ml):6部
〇ESFM:5部
【0080】
各成分の総容積は、組織相当物の数、及び調製されるフィブリンベースのマトリックスの総容積に依存する。
【0081】
最初に、溶液Aの成分を共に混合し、37℃で30分間インキュベートする。2番目に、溶液Bの成分を共に混合し、氷上に置く。3番目に、歯肉又は口腔線維芽細胞及び内皮細胞を培養フラスコから分離し、所望の終濃度まで再懸濁する。線維芽細胞-細胞懸濁液を使用して、溶液Cを調製する。30分間のインキュベーション時間の後、溶液A及び溶液Cを共に混合する。溶液Bを溶液A+B混合物に加え、速やかにセルカルチャーインサートにピペッティングする。15~30分のゲル化期間の後、培地(培地-VGE1)を各インサートに加え、プレートをインキュベーターに入れる。
【0082】
培地-VGE1は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、血管内皮増殖因子(VEGF、5~50ng/ml)、上皮増殖因子(EGF、1~10ng/ml)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、1~20ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFMで構成される。
【0083】
4.全層血管柄付歯肉相当物(歯肉-FT-V)の製作:
血管柄付粘膜固有層相当物の2~8日間の培養の後、歯肉又は口腔ケラチノサイトをマトリックスの上部に播種し、培地-VGE2を使用して1~3日間培養する。次いで、3D培養物をディープウェルプレートに移し、気相液相界面で、培地-VGE3を使用して10~21日間、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために培養する。
【0084】
培地-VGE2は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、VEGF(5~50ng/ml)、EGF(1~10ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びケラチノサイト無血清培地(KSFM、GIBCO)の1:1混合物で構成される。
【0085】
培地-VGE3は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、VEGF(5~50ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びKSFMの1:1混合物で構成される。
【0086】
5.全層口腔粘膜相当物(口腔粘膜-FT)の製作:
粘膜固有層相当物の2~6日間の培養の後、口腔ケラチノサイトをマトリックスの上部に播種し、培地-OME2を使用して1~3日間培養する。次いで、3D培養物をディープウェルプレートに移し、気相液相界面で、培地-OME3を使用して3~8日間、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために培養する。
【0087】
培地-OME2は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、EGF(1~10ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びケラチノサイト無血清培地(KSFM、GIBCO)の1:1混合物で構成される。
【0088】
培地-OME3は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びKSFMの1:1混合物で構成される。
【0089】
6.全層血管柄付口腔粘膜相当物(口腔粘膜-FT-V)の製作:
血管柄付粘膜固有層相当物の2~8日間の培養の後、口腔ケラチノサイトをマトリックスの上部に播種し、培地-VOME2を使用して1~3日間培養する。次いで、3D培養物をディープウェルプレートに移し、気相液相界面で、培地-VOME3を使用して3~8日間、ケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために培養する。
【0090】
培地-VOME2は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、VEGF(5~50ng/ml)、EGF(1~21ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びケラチノサイト無血清培地(KSFM、GIBCO)の1:1混合物で構成される。
【0091】
培地-VOME3は、ヒト血清(0.5~5%)、ヒト血漿溶解物(0.5~5%)、ヒト血清アルブミン(0.5~5%)、L-アスコルビン酸(10~100ug/ml)、ヒドロコルチゾン(50~500ng/ml)、VEGF(5~50ng/ml)、セレン(1~10ng/ml)、エタノールアミン(1~10ug/ml)、インスリン(1~20ug/ml)、トランスフェリン(1~10ug/ml)及びアプロチニン(10~100KIU/ml)を補足したESFM及びKSFMの1:1混合物で構成される。
【0092】
結果
1.肉眼所見
フィブリンベースのマトリックスによって、無収縮歯肉組織相当物(contraction-free gingival tissue equivalent)の製作が可能になった。
図1は、6ウェル及び12ウェルインサートフォーマット内で製作された歯肉組織相当物を示す。6ウェルインサートフォーマットによって、直径22mm且つ面積3.8cm
2の歯肉組織相当物が提供される。同様に、12ウェルインサートフォーマットによって、直径10mm且つ面積0.78cm
2の歯肉組織相当物が提供される。
【0093】
2.歯肉-FTの特徴付け
全層歯肉組織相当物(歯肉-FT)は、形態学的及び機能的特徴に関して、天然の歯肉に対する類似性を示す。ヘマトキシリン-エオジン染色画像によって、天然のヒト歯肉組織と同様に、歯肉線維芽細胞が密集した粘膜固有層マトリックス上の基底層、表皮有棘層、顆粒層及び角質層からなる角化重層扁平上皮の存在が示される(
図2)。更に、歯肉-FT組織の重層によって、基底層及び基底層上の層の至る所でのサイトケラチン5(CK-5)の発現、並びに基底層上の層(表皮有棘層、顆粒層及び角質層)におけるCK-10発現が示される(
図3)。上皮分化マーカーの発現:基底層上の層におけるCK-10発現によって、歯肉-FTの成熟が示されるが、ロリクリン及びフィラグリンは、顆粒層-角質層において強く発現される(
図4)。更に、1型コラーゲン及びフィブロネクチンのような細胞外マトリックスタンパク質は、粘膜固有層マトリックスにおいて強く発現される(
図5)。基底膜タンパク質(IV型コラーゲン及びラミニン5)の発現によって、歯肉上皮とその下の粘膜固有層との間の連結が示される(
図6)。全体的には、これらの組織学的特徴によって、天然のヒト歯肉組織と同様の、in vitroでの全層歯肉組織の形成が確認される。
【0094】
3.歯肉FT-Vの特徴付け:
全層血管柄付歯肉組織相当物(歯肉-FT-V)の製作のために、微小血管網の集合の条件を最初に血管柄付粘膜固有層相当物の構築に最適化した。
図7、
図8は、異なる濃度のフィブリノーゲン、トロンビン及び細胞パラメータ(単位容積のマトリックスあたりの内皮細胞の数及び内皮細胞の線維芽細胞に対する比)を使用して製作された血管柄付粘膜固有層相当物における微小血管網の形成を示す。更に、
図8は、8日間の培養期間にわたる、微小血管網形成の動態を示す。微小血管網は、早くも3日目に形成され、長期の培養にわたって安定である。
【0095】
全層血管柄付歯肉組織相当物(歯肉-FT-V)は、脈管構造の存在及び形態学的特徴に関して、天然の歯肉との類似性を示す。ヘマトキシリン-エオジン染色画像によって、天然のヒト歯肉組織と同様に、血管柄付粘膜固有層マトリックス上の基底層、表皮有棘層、顆粒層及び角質層からなる角化重層扁平上皮の存在が示される(
図9)。更に、歯肉-FT-V組織の重層によって、基底層及び基底層上の層の至る所でのサイトケラチン5(CK-5)の発現、並びに基底層上の層(表皮有棘層、顆粒層及び角質層)におけるCK-10発現が示される(
図10)。上皮分化マーカーの発現:基底層上の層におけるCK-10発現によって、歯肉-FT-Vの成熟が示されるが、ロリクリン及びフィラグリンは、顆粒層-角質層において強く発現される(
図11)。更に、1型コラーゲン及びフィブロネクチンのような細胞外マトリックスタンパク質は、粘膜固有層マトリックスにおいて発現される(
図12)。基底膜タンパク質(IV型コラーゲン及びラミニン5)の発現によって、歯肉上皮とその下の粘膜固有層との間の連結が示される(
図13)。重要なことに、粘膜固有層内の管腔化血管(lumenized blood vessel)の存在は、CD31、vWF、IV型コラーゲン及びラミニン5の発現によって示される(
図13)。これらのマーカーは、管腔を有する、円構造から細長い構造として見ることができる血管を標識する。全体的には、これらの組織学的特徴によって、天然のヒト歯肉組織と同様の、in vitroでの全層血管柄付歯肉組織の形成が確認される。
【0096】
(実施例2)
下流の用途のための、歯肉組織構築物の確認
オーラルケア製品及びデンタルケア製品は、パーソナルケアのため及び治療の理由で、毎日一般に使用されている。これらの製品が市場に到達する前に、これらは、粘膜への刺激性及び腐食の試験等、その安全性、毒性及び生物的適合性について試験される。同様に、製品開発段階の間に、新規の活性物質、賦形剤及び薬物/製品の製剤の、粘膜への毒性、生物的適合性及び効能を認定することが必須である。本発明の、3D培養された歯肉組織相当物は、歯肉組織と口腔内細菌との間の相互作用を研究する宿主-マイクロバイオーム試験における薬物透過試験における、オーラルケア及びデンタルケア製品の毒性及び効能試験における動物実験の代替として、並びに歯周又は口腔粘膜再生に関連した用途のための組織工学移植片として、広く使用され得る。種々の下流の用途のための確認試験の一部が、事例研究例として以下に提供される。これらの全層歯肉組織相当物は、生物的適合性試験、薬物透過試験、毒性試験、宿主-マイクロバイオーム試験及び歯周再生に関する用途のために使用されている。
【0097】
A.粘膜への刺激性、腐食及びバリアの完全性の試験
粘膜への刺激性は、被験物質の適用の後に引き起こされる、粘膜組織に対する可逆的な損傷をいう。一方、粘膜腐食は、被験物質の適用の際の、不可逆的な組織損傷をいう。化学物質誘発性の刺激及び腐食の可能性は、ヒトの使用を意図したオーラルケア、デンタルケア及び医薬製品の安全性評価において、重要な考慮すべき事柄である。それゆえに、粘膜への刺激性及び腐食についての、オーラルケア及びデンタルケア製品、活性物質並びに賦形剤の可能性を理解することは、危険性の認定のために重要であり、潜在的なリスクを減少させる。
【0098】
1)インタクトな粘膜組織における粘膜への刺激性についてのマウスウォッシュの可能性を調べるための歯肉-FTの使用
粘膜組織に対する刺激性について、本発明の3次元培養された歯肉組織相当物を評価するために、本発明者らは、2つの市販のマウスウォッシュの影響を調べた。実際の使用のケースシナリオを模倣するために、歯肉組織相当物(表面積0.78cm
2)を130μlのアルコールフリー(Listerine(登録商標)ハグキケアゼロ)又はアルコールベース(Listerine(登録商標)クールミント)のマウスウォッシュに30秒間曝露し、洗浄し、培養した。10時間後、組織をそれぞれのマウスウォッシュに再曝露し、洗浄し、24時間培養した。リン酸緩衝食塩水(PBS)及び1%ラウリル硫酸ナトリウムを、それぞれ負及び正の対照として使用した。OECD TG439ガイドラインに基づいて、50%細胞生存率を、粘膜刺激物質の分類の閾値として設定した。負の対照と比較して、正の対照に曝露された歯肉相当物は、有意な組織破壊、TUNEL陽性(アポトーシス/細胞死)、細胞生存率の減少(<50%)及び細胞毒性の顕著な増大を示した(
図14)。一方、両方の種類のマウスウォッシュは、上皮の破壊及びバリアの完全性の最小限の証拠を示した(
図14A)。TUNEL染色から、負の対照と同様に、マウスウォッシュで処理した試料中にTUNEL陽性細胞がないことが示された(
図14B)。MTT及びLDHアッセイに基づいて、両方のマウスウォッシュは、細胞生存率及び細胞毒性に対して最小限の影響を示した(
図14C、
図14D)。これらの結果から、このケーススタディで使用されたアルコールフリー及びアルコールベースのマウスウォッシュの両方は、正の対照と比較して、最小限の粘膜への刺激の可能性を有したことが示される。しかしながら、経上皮電気抵抗(TEER)を使用したバリアの完全性の評価から、アルコールフリーのマウスウォッシュに曝露された試料において、TEERの有意な減少が示された(
図14E)。これは、この試験で使用されるアルコールフリーのマウスウォッシュ中のラウリル硫酸ナトリウムの使用により得る。よって、歯肉-FT組織構築物によって、オーラルケア及びデンタルケア製品中で使用される活性物質及び賦形剤の粘膜への刺激性及びバリアの完全性を試験する機会が提供される。
【0099】
2)潰瘍化した粘膜組織における粘膜への刺激性についてのマウスウォッシュの可能性を調べるための、粘膜固有層相当物の使用
口腔潰瘍は、口腔における最も一般的な障害の一つである。口腔潰瘍は、その上の上皮がないので、上皮によって提供されるバリア機能が失われている。それゆえに、口腔潰瘍は、外用剤に対して敏感であり得る。口腔潰瘍のモデルとしての、3D培養された粘膜固有層相当物の使用を評価するために、本発明者らは、粘膜への刺激性について3次元培養された粘膜固有層相当物を評価するために、本発明者らは、2つの市販のマウスウォッシュの影響を調べた。実際の使用のケースシナリオを模倣するために、歯肉組織相当物(表面積0.78cm
2)を130μlのアルコールフリー(Listerine(登録商標)ハグキケアゼロ)又はアルコールベース(Listerine(登録商標)クールミント)のマウスウォッシュに30秒間曝露し、洗浄し、培養した。10時間後、組織をそれぞれのマウスウォッシュに再曝露し、洗浄し、24時間培養した。リン酸緩衝食塩水(PBS)及び1%ラウリル硫酸ナトリウムを、それぞれ負及び正の対照として使用した。OECD TG439ガイドラインに基づいて、50%細胞生存率を、粘膜刺激物質の分類の閾値として設定した。負の対照と比較して、正の対照に曝露された歯肉相当物は、有意な組織破壊、TUNEL陽性(アポトーシス/細胞死)、細胞生存率の減少(<50%)及び細胞毒性の顕著な増大を示した(
図15)。一方、両方の種類のマウスウォッシュは、上皮の破壊及びバリアの完全性のいくらかの証拠を示した(
図15)。マウスウォッシュ処理された試料のLIVE/DEAD染色から、生細胞及び少数の死細胞の存在が示された。しかしながら、TUNEL染色から、マウスウォッシュ処理された試料中のTUNEL陽性細胞の存在の増大が示され、早期の損傷又は細胞死の誘導が示唆された(
図15B、
図15C)。MTT及びLDHアッセイに基づいて、両方のマウスウォッシュは、細胞生存率の有意な減少及びLDH細胞毒性の増大を示した。しかしながら、これらの生存レベルの減少は、許容限度内であり(OECD TG439ガイドラインに基づいて>50%)、マウスウォッシュは短時間(30秒)の曝露の際に粘膜への刺激の可能性を欠くことが示唆された(
図15D、
図15E)。よって、歯肉-FT及び歯肉-FT-V組織構築物を製作するためのベースマトリックスとして使用される粘膜固有層相当物は、口腔粘膜潰瘍モデルとして使用され得る。これによって、口腔潰瘍に関して、オーラルケア及びデンタルケア製品中で使用される活性物質及び賦形剤の粘膜への刺激の可能性を理解する機会が提供される。
【0100】
3)粘膜腐食についてのマウスウォッシュの可能性を調べるための歯肉-FTの使用
活性物質を取り込むため並びにオーラル/デンタルケア製品及び医薬品を製剤化するために使用される一部の賦形剤は、酸及び塩基のような腐食性の物質と同様の、粘膜腐食を引き起こす可能性を有する。粘膜腐食について、本発明の3D培養された歯肉組織相当物を評価するために、本発明者らは、OECD TG431ガイドラインを採用して、2つの市販のマウスウォッシュの粘膜腐食の可能性を調べた。OECD TG431ガイドラインに基づいて、歯肉組織相当物(表面積0.78cm
2)を65μlのアルコールフリー(Listerine(登録商標)ハグキケアゼロ)又はアルコールベース(Listerine(登録商標)クールミント)のマウスウォッシュに3分間及び60分間曝露し、洗浄し、細胞生存率について評価した。リン酸緩衝食塩水(PBS)及び37%リン酸を、それぞれ負及び正の対照として使用した。OECD TG431ガイドラインに基づいて、50%及び15%細胞生存率を、それぞれ3分間及び60分間の曝露の閾値として設定した。負の対照と比較して、37%リン酸に曝露された歯肉相当物は、3分間の曝露の後に組織破壊を示し、60分間の曝露の後に組織の殆ど完全な溶解を示した(
図16A)。組織は、3分間及び60分間の曝露で5%未満の細胞生存率を示し、腐食性としての分類を示唆した(カテゴリー1A)(
図16A、
図16B)。アルコールフリー及びアルコールベースのマウスウォッシュは共に、3分間及び60分間の曝露の後に、相対的細胞生存率の有意な減少を示した(
図16A、
図16B)。しかしながら、細胞生存率は閾値レベルより高く、両方のマウスウォッシュの非腐食性としての分類を示唆した。よって、歯肉-FT組織構築物によって、オーラルケア及びデンタルケア製品並びに医薬品中で使用される活性物質及び賦形剤の粘膜腐食の可能性を試験する機会が提供される。
【0101】
B.薬物透過及び薬物送達用途
口腔組織は全身的送達と比較して種々の利点を提供するので、口腔組織を通した薬物送達は、研究者ら及び製薬会社(pharmaceuticals)によってますます調べられている。例えば、薬物の吸収は、腸又は皮膚組織と比較して、口腔組織を通した方が早く;腸の消化酵素による影響を受けず;血流に直接到達することができ;それゆえに、必要な有効薬量が少ない。
【0102】
1)経粘膜薬物透過/送達用途のための歯肉-FTの使用
経粘膜薬物送達用途のための歯肉-FT及び歯肉-FT-V組織の使用を確認するために、歯科用麻酔薬等のモデル薬物の透過を評価した。歯科用麻酔薬塩酸リドカイン及び塩酸アルチカインを、モデル薬物として使用した。無限用量(infinite dose)を表す塩酸リドカイン(1.66mg/ml)又は塩酸アルチカイン(3.32mg/ml)の液体懸濁液150μlを組織の上皮表面上にロードし、経時的な、組織を通した透過の動態を評価した。バリア崩壊を有する患部組織及び/又は透過促進剤を有する製剤をシミュレートするために、組織構築物の一部を1%ラウリル硫酸ナトリウムで60分間処理し、歯科用麻酔薬をロードする前に穏やかに洗浄した。5時間にわたる薬物透過の解析から、インタクトな組織及びSLS処理された組織を通した、リドカイン及びアルチカインの透過の動態が示された(
図17)。リドカイン及びアルチカインの両方は、インタクトな組織及びSLS処理された組織を通して透過した。しかしながら、SLS処理された組織を通したリドカイン及びアルチカイン透過は、透過した累積量、定常状態流動及び透過係数のような透過パラメータで示されるように、インタクトな組織と比較して、有意に高かった(
図17)。これらの結果から、歯肉組織構築物の透過動態を調節する可能性並びに薬物透過及び薬物送達用途のためのそれらの使用が示された。
【0103】
C.歯科用材料の生物的適合性評価に関する用途
歯科用セメント、総義歯等の歯科用材料は、口腔組織と中期~長期に接触する。それゆえに、歯科用材料が口腔組織への有害反応を引き起こさずに機能する能力が重要である。
【0104】
1)歯科用コンポジットの生物的適合性(急性毒性)
歯科用材料生物的適合性試験のために歯肉-FT及び歯肉-FT-V組織の使用を確認するために、歯科用コンポジットのディスク(Filtek Z350 XT、C1ボディシェード、3M社ESPE)を歯肉構築物の上部に置き、48時間培養した。厚さ1mmのポリエチレンプラスチックディスクを負の対照として使用した。製造業者の推奨に基づくと、複合充填剤のより深い部分での未硬化樹脂を避けるために、理想的な硬化深度は2mmである。それゆえに、厚さ2mm及び4mmのコンポジットのディスク(同様の照明条件で10秒間にわたって硬化された)を使用して、未硬化樹脂の急性毒性の可能性を評価した(
図18A)。使用した組織構築物は直径10mmであったが、コンポジットのディスクは直径5mmであった。これは、直接接触した組織に対する、及び周囲の曝露されていない組織に対する、コンポジットレジンの影響を評価する能力を独自に可能にした(
図18B)。組織学的切片は、コンポジット試料の曝露領域において、角質層の崩壊を示した(
図18C)。MTTアッセイを使用した組織生存率の評価は、細胞生存率の減少を示したが、減少は統計的に有意ではなかった(
図18D)。同様に、粘膜への刺激性の試験において代替マーカーとして使用されるIL-1α、サイトカイン放出に差はなかった(
図18E)。しかしながら、急性毒性を表す別の代替マーカーIL-1βは、負の対照と比較して、両方のコンポジット曝露された組織において有意に増加した(
図18F)。これらの結果から、歯科用材料及び他の生体材料の生物的適合性評価のための歯肉及び口腔粘膜組織構築物の潜在的な使用が示される。
【0105】
D.老化研究
口腔粘膜老化は、歯肉及び歯周組織における、萎縮性上皮及び損なわれた創傷治癒と関連付けられている。歯肉線維芽細胞は、上皮形態形成、傷跡のない治癒、及び歯周外科手術の後の治癒において中心的な役割を担う。しかしながら、歯肉上皮形態形成に対する口腔線維芽細胞の細胞老化の役割は、十分理解されていない。殆どの研究は、ヒトの生理機能を十分表さないin vitro単層培養及び動物モデルの使用に依存している。歯肉-FT及び歯肉-FT-V組織構築物のヒトへの高い類似性によって、口腔粘膜老化及び歯肉老化を研究する機会が提供される。
【0106】
1)口腔粘膜老化研究のための組織構築物の使用
口腔粘膜に対する細胞老化の影響を研究するために、全層口腔粘膜相当物(OME)のバイオファブリケーションのための培養プロトコルを、歯肉-FT製作のために使用したプロトコルから採用した。全層OMEは、以下のように製作した:最初に、培地-GE1中でフィブリンマトリックス(上述)に包埋された口腔粘膜線維芽細胞を使用して、粘膜固有層相当物を製作した。粘膜固有層相当物の2~6日間の培養の後、口腔ケラチノサイトをマトリックスの上部に播種し、培地-OME2を使用して1~3日間培養した。次いで、3D培養物をディープウェルプレートに移し、培地-OME3を使用して、頬粘膜のような裏打ちしている口腔粘膜組織の非角化重層扁平上皮に類似したケラチノサイト層形成、分化及び成熟のために、3~8日間気相液相界面で培養した。幼若及び老化OMEのOME組織構築物を製作するために、早期(3~8継代)及び後期(15~25継代)の継代の口腔線維芽細胞をそれぞれ使用した。
【0107】
上皮の厚さの組織学的評価及び解析から、幼若及び老化口腔粘膜表現型の間で、口腔粘膜上皮の形態及び厚さに顕著な差は示されなかった(
図19A、
図19B)。これは、老年者における頬粘膜組織にいかなる観察可能な差もないことを示す、多くの臨床研究と同様である。しかしながら、サイトカイン放出プロファイルの評価から、自然免疫応答及び創傷治癒に関与する重要なサイトカインであるIL-6及びIL-8の有意に低い生成が示された(
図19C)。これらの結果から、老化口腔粘膜組織における潜在的に損なわれた免疫応答及び創傷治癒が示唆される。これらの研究から、バイオファブリケーション方法を調節して、幼若及び老化口腔粘膜を含む異なる表現型を表す組織を生成する可能性が示される。
【0108】
2)歯肉老化研究のための歯肉-FT組織構築物の使用
歯肉に対する細胞老化の影響を研究するために、それぞれ早期(3~8継代)及び後期(15~25継代)の継代の歯肉線維芽細胞を有する歯肉-FTのバイオファブリケーションのための培養プロトコルを使用して、幼若及び老化歯肉構築物をバイオファブリケーションした。上皮の厚さの組織学的評価及び解析から、老化歯肉組織における上皮萎縮が示された。これは、老化歯肉組織における上皮の厚さの有意な減少によって更に支持された(
図20A、
図20B)。更に、サイトカイン放出プロファイルの評価から、自然免疫応答及び創傷治癒に関与する重要なサイトカインであるIL-6及びIL-8の有意に低い生成が示された(
図20C)。これらの結果から、老化歯肉組織における潜在的に損なわれたバリア機能、免疫応答及び創傷治癒が示唆される。これらの研究から、バイオファブリケーション方法を調節して、幼若及び老化歯肉を含む異なる表現型を表す組織を生成する可能性並びに歯肉老化の理解及び介入におけるそれらの使用が示される。
【国際調査報告】