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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(54)【発明の名称】信号処理方法および信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/4865 20200101AFI20230802BHJP
【FI】
G01S7/4865
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504011
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 CN2020103124
(87)【国際公開番号】W WO2022016341
(87)【国際公開日】2022-01-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フアン、ロン
(72)【発明者】
【氏名】シ、シアンリン
(72)【発明者】
【氏名】チン、ボヤ
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA49
5J084CA49
5J084CA75
(57)【要約】
本願の実施形態は、信号処理方法および信号処理装置を提供し、レーザ検出技術の分野に関し、自動運転または支援運転に適用され得る。本願の実施形態では、受信パルス信号のピーク点信号強度およびピーク点受信時間の精度を改善することができる。本方法は、レーザレーダが、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定する段階;予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定する段階;第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定する段階;第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定する段階;および第1の予め設定された波形に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する段階を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理方法であって、
受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得する段階、ここで前記N個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータには前記サンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれ、前記N個のサンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPが全て1より大きいまたは1と等しい整数である;
予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定する段階、ここで前記予め設定された波形セットには少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる;
前記P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、前記受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および前記受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定する段階;
前記受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定する段階;
前記第2確率分布、前記第3確率分布、および前記第4確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットの各波形が前記受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定する段階;
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記受信パルス信号が前記予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定する段階;
前記第6確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定する段階;および
前記第1の予め設定された波形に基づいて、前記受信パルス信号の前記ピーク点受信時間および前記ピーク点信号強度を決定する段階
を備える方法。
【請求項2】
前記P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、前記受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および前記受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を前記決定する段階が、
前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値に基づいて、前記ピーク点受信時間の値範囲の最小値を決定する段階;および前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する前記受信時間の最大値に基づいて、前記ピーク点受信時間の前記値範囲の最大値を決定する段階;
前記ピーク点受信時間の前記値範囲に基づいて前記第2確率分布を決定する段階;
前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、前記ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定する段階;および
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を決定する段階
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ピーク点受信時間の前記値範囲に基づいて前記第2確率分布を前記決定する段階が、
前記ピーク点受信時間が前記ピーク点受信時間の前記値範囲内で均等分布を満たす場合の前記ピーク点受信時間の確率分布を決定して、前記第2確率分布を取得する段階
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を前記決定する段階が、
前記ピーク点信号強度が前記ピーク点信号強度の前記値範囲内で均等分布を満たす場合の前記ピーク点信号強度の確率分布を決定して、前記第3確率分布を取得する段階
を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を前記決定する段階が、
前記受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、前記ピーク点信号強度の前記値範囲内の前記ピーク点信号強度の確率分布を決定して、前記第3確率分布を取得する段階
を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を前記決定する段階が、
前記パルス幅が前記パルス幅の値範囲内で均等分布を満たす場合の前記パルス幅の確率分布を決定して、前記第4確率分布を取得する段階
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を前記決定する段階が、
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する段階;および
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの前記確率分布に基づいて前記第1確率分布を決定する段階
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を前記決定する段階が、
目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度の確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記目標サンプリング点の確率分布を決定する段階、ここで前記目標サンプリング点には前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のいずれか1つが含まれる、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記目標サンプリング点の前記確率分布が、次の式1を満たす、
【数14】
ここでpが、前記予め設定された波形セットの目標波形上にある前記目標サンプリング点の分布確率を表し、yが、前記目標サンプリング点に対応する信号強度を表し、sが、前記目標サンプリング点を収集する際の前記目標波形の信号強度を表す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記受信パルス信号が前記予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を前記決定する段階が、
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築して、前記マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得する段階、ここで前記サンプル列における各サンプルが1つの波形を表すのに用いられ、前記サンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}が前記第6確率分布を表すのに用いられる、
を含む;および
前記第6確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を前記決定する段階が、
前記最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}の期待値を計算して、前記第1の予め設定された波形を取得する段階
を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を前記構築する段階が、
Metropolis-Hastingsアルゴリズムを用いて、受理分布α(z,z′)が次の式2を満たす前記マルコフ連鎖を構築する段階を含む、
【数15】
ここでzが前記マルコフ連鎖の前記サンプル列における1つのサンプルであり、z′が前記マルコフ連鎖の前記サンプル列におけるzに続くサンプルであり、p(y|z′)が前記第1確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(y|z)が前記第1確率分布におけるzに対応する確率であり、p(z′)が前記第5確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(z)が前記第5確率分布におけるzに対応する確率であり、q(z′,z)およびq(z,z′)が前記マルコフ連鎖の提案分布である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
信号処理装置であって、
受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得するように構成されたサンプリングユニット、ここで前記N個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータには前記サンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれ、前記N個のサンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPが全て1より大きいまたは1と等しい整数である;
予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定するように構成された第1の確率決定ユニット、ここで前記予め設定された波形セットには少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる;
前記P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、前記受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および前記受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定するように構成された第2の確率決定ユニット、
ここで前記第2の確率決定ユニットがさらに、前記受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定するように構成されている;
前記第2確率分布、前記第3確率分布、および前記第4確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットの各波形が前記受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定するように構成された第3の確率決定ユニット;
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記受信パルス信号が前記予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定するように構成された第4の確率決定ユニット;
前記第6確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定するように構成された波形決定ユニット;および
前記第1の予め設定された波形に基づいて、前記受信パルス信号の前記ピーク点受信時間および前記ピーク点信号強度を決定するように構成されたパラメータ決定ユニット
を備える装置。
【請求項13】
前記第2の確率決定ユニットが具体的には、
前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値に基づいて、前記ピーク点受信時間の値範囲の最小値を決定する;および前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する前記受信時間の最大値に基づいて、前記ピーク点受信時間の前記値範囲の最大値を決定する;
前記ピーク点受信時間の前記値範囲に基づいて前記第2確率分布を決定する;
前記P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、前記ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定する;および
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を決定する
ように構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記ピーク点受信時間の前記値範囲に基づいて前記第2確率分布を前記決定することが、
前記ピーク点受信時間が前記ピーク点受信時間の前記値範囲内で均等分布を満たす場合の前記ピーク点受信時間の確率分布を決定して、前記第2確率分布を取得すること
を含む、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を前記決定することが、
前記ピーク点信号強度が前記ピーク点信号強度の前記値範囲内で均等分布を満たす場合の前記ピーク点信号強度の確率分布を決定して、前記第3確率分布を取得すること
を含む、請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記ピーク点信号強度の前記値範囲に基づいて前記第3確率分布を前記決定することが、
前記受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、前記ピーク点信号強度の前記値範囲内の前記ピーク点信号強度の確率分布を決定して、前記第3確率分布を取得すること
を含む、請求項13または14に記載の装置。
【請求項17】
前記第2の確率決定ユニットが具体的には、前記パルス幅が前記パルス幅の値範囲内で均等分布を満たす場合の前記パルス幅の確率分布を決定して、前記第4確率分布を取得するように構成されている、請求項12から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記第1の確率決定ユニットが具体的には、
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する;および
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの前記確率分布に基づいて前記第1確率分布を決定する
ように構成されている、請求項12から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を前記決定することが、
目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度の確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記目標サンプリング点の確率分布を決定すること、ここで前記目標サンプリング点には前記M個の立ち上がりエッジサンプリング点のいずれか1つが含まれる、
を含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた前記目標サンプリング点の前記確率分布が、次の式1を満たす、
【数16】
ここでpが、前記予め設定された波形セットの目標波形上にある前記目標サンプリング点の分布確率を表し、yが、前記目標サンプリング点に対応する信号強度を表し、sが、前記目標サンプリング点を収集する際の前記目標波形の信号強度を表す、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記第4の確率決定ユニットが具体的には、前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築して、前記マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得するように構成されており、ここで前記サンプル列の各サンプルが1つの波形を表すのに用いられ、前記サンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}が前記第6確率分布を表すのに用いられる;および
前記波形決定ユニットが具体的には、前記最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}の期待値を計算して、前記第1の予め設定された波形を取得するように構成されている、
請求項12から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記第1確率分布および前記第5確率分布に基づいて、前記予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を前記構築することが、
Metropolis-Hastingsアルゴリズムを用いて、受理分布α(z,z′)が次の式2を満たす前記マルコフ連鎖を構築することを含む、
【数17】
ここでzが前記マルコフ連鎖の前記サンプル列における1つのサンプルであり、z′が前記マルコフ連鎖の前記サンプル列におけるzに続くサンプルであり、p(y|z′)が前記第1確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(y|z)が前記第1確率分布におけるzに対応する確率であり、p(z′)が前記第5確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(z)が前記第5確率分布におけるzに対応する確率であり、q(z′,z)およびq(z,z′)が前記マルコフ連鎖の提案分布である、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
信号処理装置であって、ここで前記信号処理装置が1つまたは複数のプロセッサを備え、前記1つまたは複数のプロセッサが1つまたは複数のメモリに結合されており、前記1つまたは複数のメモリがコンピュータ命令を格納している;および
前記1つまたは複数のプロセッサが前記コンピュータ命令を実行すると、前記信号処理装置が、請求項1から11のいずれか一項に記載の信号処理方法を行うことが可能になる、信号処理装置。
【請求項24】
チップであって、ここで前記チップが処理回路およびインタフェースを備え、前記処理回路が、コンピュータプログラムを記憶媒体から呼び出し、前記記憶媒体に格納された前記コンピュータプログラムを実行して、請求項1から11のいずれか一項に記載の信号処理方法を行うように構成されている、チップ。
【請求項25】
レーザレーダであって、ここで前記レーザレーダが請求項12から23のいずれか一項に記載の信号処理装置を備える、または前記レーザレーダが請求項24に記載のチップを備える、レーザレーダ。
【請求項26】
プロセッサに、請求項1から11のいずれか一項に記載の信号処理方法を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の実施形態は、レーザ検出技術の分野に関し、詳細には、信号処理方法および信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レーザレーダでは、レーザパルス信号を目標対象物に送信し、目標対象物による反射によって発生し且つレーザレーダが受信する受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度などの情報を記録し、これらの情報に基づいて目標対象物を検出することができる。例えば、レーザレーダがレーザパルス信号を送信した送信時間T1および受信パルス信号のピーク点受信時間T2に基づいて、レーザ光の飛行時間(time of flight、ToF)、すなわち、τ=T2-T1が、計算され得る。さらに、飛行時間τおよび光の速度に基づいて、目標対象物からレーザレーダまでの距離が計算され得る。別の例では、レーザレーダにより送信されるレーザパルス信号の信号強度および受信パルス信号のピーク点信号強度の関係に基づいて、目標対象物の材料などの情報を決定するために、目標対象物の表面反射率がさらに決定され得る。
【0003】
受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定するために、通常は、受信パルス信号に対してサンプリングを行い、各サンプリング点に対応する受信時間および信号強度を取得する必要がある。次いで、複数のサンプリング点に基づいて受信パルス信号の波形を決定し、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する。
【0004】
例えば、図1(a)は受信パルス信号のフィッティング波形の概略図である。受信パルス信号に対してサンプリングを行い、各サンプリング点に対応する受信時間および信号強度を取得する。図1(a)~図1(d)における各丸は、1つのサンプリングを表している。次いで、各サンプリング点に対応する受信時間および信号強度に基づいてフィッティングすることにより、図1(a)に示すように、受信パルス信号の波形が取得され得る。フィッティングした受信パルス信号に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度が決定されてよく、ピーク点受信時間がtであり、ピーク点信号強度がPである。
【0005】
しかしながら、実際の応用では、レーザレーダが受信パルス信号に対してサンプリングを行うプロセスにおいて、受信パルス信号の信号強度がレーザレーダのダイナミックレンジ(dynamic range)を超えるため、またはレーザレーダ内の電子素子の非線形メモリ効果などで、収集されたサンプリング点のサンプリングパラメータの歪みが引き起こされるため、検出結果の精度が影響を受けることがある。
【0006】
例えば、受信パルス信号の信号強度がレーザレーダのダイナミックレンジを超える場合、図1(b)に示すように、収集されたサンプリング点に基づいてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形にクリッピング現象が生じる。図1(b)を参照して、時点t1および時点t2の間の領域における受信パルス信号の信号強度がレーザレーダのダイナミックレンジを超えると仮定すると、この領域のサンプリング点に対応する信号強度が、受信パルス信号の実際の信号強度ではなく、レーザレーダのダイナミックレンジの最大信号強度になる。結果として、これらのサンプリング点に基づいてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形に、クリッピング現象が生じる。
【0007】
したがって、サンプリングパラメータの歪みによってもたらされる不正確な検出結果を回避することが、レーザレーダの正常動作を保証する上で重要な要素の1つになる。
【発明の概要】
【0008】
本願の実施形態が信号処理方法および信号処理装置を提供し、受信パルス信号のサンプリング点のサンプリングパラメータが歪んでいるために、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を正確に取得できず、さらに、不正確な検出結果がもたらされるという問題を解決する。
【0009】
第1態様によれば、信号処理方法が提供され、本方法は、受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得する段階、ここでN個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータにはサンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれ、N個のサンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPは全て1より大きいまたは1と等しい整数である;予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定する段階、ここで予め設定された波形セットには少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる;P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定する段階;受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定する段階;第2確率分布、第3確率分布、および第4確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定する段階;第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定する段階;第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定する段階;および第1の予め設定された波形に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する段階を含む。
【0010】
この実施形態で提供される技術的解決手段によれば、受信パルス信号の波形を決定するプロセスにおいて、受信パルス信号の波形の尤度関数(すなわち、第1確率分布)が、サンプリングによって取得された立ち上がりエッジサンプリング点に基づいて最初に決定される。次いで、受信パルス信号の波形の事前分布(すなわち、第5確率分布)が受信パルス信号の事前情報に基づいて決定される。事前情報には、受信パルス信号の波形に影響を及ぼす様々なパラメータの確率分布が含まれ、具体的には、受信パルス信号のピーク点受信時間の確率分布(すなわち、第2確率分布)、受信パルス信号のピーク点信号強度の確率分布(すなわち、第3確率分布)、および受信パルス信号のパルス幅の確率分布(すなわち、第4確率分布)が含まれる。さらに、受信パルス信号の波形の事後分布(すなわち、第6確率分布)が計算され得る。その後、受信パルス信号の可能性がある波形(すなわち、第1の予め設定された波形)が、第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから決定され得る。次に、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度が、第1の予め設定された波形に基づいて決定され得る。ピーク点信号強度およびピーク点受信時間は、前述した方法を用いて、より正確に決定され得る。
【0011】
実現可能な設計において、P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定する段階は、P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値に基づいて、ピーク点受信時間の値範囲の最小値を決定する段階;P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最大値に基づいて、ピーク点受信時間の値範囲の最大値を決定する段階;ピーク点受信時間の値範囲に基づいて第2確率分布を決定する段階;P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定する段階;およびピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する段階を含む。この設計において、ピーク点受信時間の値範囲およびピーク点信号強度の値範囲は、クリッピングサンプリング点に基づいて決定することができ、さらに、第2確率分布および第3確率分布は、決定された値範囲に基づいてより正確に決定することができる。
【0012】
実現可能な設計において、ピーク点受信時間の値範囲に基づいて第2確率分布を決定する段階は、ピーク点受信時間がピーク点受信時間の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点受信時間の確率分布を決定して、第2確率分布を取得する段階を含む。この設計では計算プロセスを簡略化することができ、本願では第2確率分布を迅速に取得することができる。
【0013】
実現可能な設計において、ピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する段階は、ピーク点信号強度がピーク点信号強度の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得する段階を含む。この設計では計算プロセスを簡略化することができ、本願では第3確率分布を迅速に取得することができる。
【0014】
実現可能な設計において、ピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する段階は、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、ピーク点信号強度の値範囲内のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得する段階を含む。この設計では、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布に基づいて第3確率分布を取得できるため、第3確率分布がより正確に取得される。
【0015】
実現可能な設計において、受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定する段階は、パルス幅がパルス幅の値範囲内で均等分布を満たす場合のパルス幅の確率分布を決定して、第4確率分布を取得する段階を含む。この設計では、計算プロセスを簡略化することができ、本願では第4確率分布を迅速に取得することができる。
【0016】
実現可能な設計において、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定する段階は、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する段階;および予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布に基づいて第1確率分布を決定する段階を含む。この設計では、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布に基づいて、第1確率分布を決定することができる。
【0017】
実現可能な設計において、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する段階は、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度の確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布を決定する段階を含み、ここで目標サンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点のいずれか1つが含まれる。この設計では、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個のサンプリング点のそれぞれの確率分布を、サンプリング結果に対するノイズの影響を用いることで決定するため、確率分布結果をより正確に決定することができる。
【0018】
実現可能な設計において、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布は、次の式1を満たす。
【数1】
【0019】
は、予め設定された波形セットの目標波形上にある目標サンプリング点kの分布確率を表し、yは、目標サンプリング点kに対応する信号強度を表し、sは、目標サンプリング点kを収集する際の目標波形の信号強度を表す。この設計では、サンプリングする際のノイズ強度の確率分布がガウス分布を用いて反映され、次いで、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたサンプリング点の確率分布が式1を用いて計算される。予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた各サンプリング点の確率分布が、式1を用いて迅速に計算され得る。
【0020】
実現可能な設計において、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定する段階は、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築し、マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得する段階、ここでサンプル列の各サンプルは1つの波形を表すのに用いられ、サンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}は第6確率分布を表すのに用いられる、を含む;および第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定する段階は、最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}の期待値を計算して第1の予め設定された波形を取得する段階を含む。この設計では、マルコフ連鎖を構築することにより、第6確率分布を迅速且つ簡便に決定して第1の予め設定された波形を取得することができる。
【0021】
実現可能な設計において、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築する段階は、Metropolis-Hastingsアルゴリズムを用いて、受理(acceptance)分布α(z,z′)が次の式2を満たすマルコフ連鎖を構築する段階を含む。
【数2】
【0022】
zはマルコフ連鎖のサンプル列における1つのサンプルであり、z′はマルコフ連鎖のサンプル列におけるzに続くサンプルであり、p(y|z′)は第1確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(y|z)は第1確率分布におけるzに対応する確率であり、p(z′)は第5確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(z)は第5確率分布におけるzに対応する確率であり、q(z′,z)およびq(z,z′)はマルコフ連鎖の提案分布である。
【0023】
第2態様によれば、本願は信号処理装置を提供する。信号処理装置は、第1態様または第1態様の実現可能な設計における諸機能を実現できる。これらの機能は、ハードウェアを用いて実現されてもよく、対応するソフトウェアをハードウェアが実行することにより実現されてもよい。ハードウェアまたはソフトウェアには、前述した機能に対応する1つまたは複数のモジュールが含まれる。例えば、信号処理装置は、受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得するように構成されたサンプリングユニット、ここでN個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータにはサンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれ、N個のサンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPは全て1より大きいまたは1と等しい整数である;予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定するように構成された第1の確率決定ユニット、ここで予め設定された波形セットには少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる;P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定するように構成された第2の確率決定ユニット、ここで第2の確率決定ユニットはさらに、受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定するように構成されている;第2確率分布、第3確率分布、および第4確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定するように構成された第3の確率決定ユニット;第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定するように構成された第4の確率決定ユニット;第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定するように構成された波形決定ユニット;および第1の予め設定された波形に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定するように構成されたパラメータ決定ユニットを含んでよい。もちろん、信号処理装置は代替的に、他の機能を実現するように構成されたより多くのユニットを含んでも、より少ないユニットを含んでもよい。
【0024】
第3態様によれば、信号処理装置が提供される。信号処理装置は1つまたは複数のプロセッサを含み、1つまたは複数のプロセッサは1つまたは複数のメモリに結合されており、1つまたは複数のメモリはコンピュータ命令を格納している。1つまたは複数のプロセッサがコンピュータ命令を実行すると、信号処理装置は、第1態様で提供された信号処理方法を行うことが可能になる。
【0025】
第4態様によれば、チップが提供される。チップは処理回路およびインタフェースを含み、処理回路は、コンピュータプログラムを記憶媒体から呼び出して記憶媒体に格納されたコンピュータプログラムを実行し、第1態様で提供された信号処理方法を行うように構成されている。
【0026】
第5態様によれば、第2態様または第3態様で提供された信号処理装置を含む、または第4態様で提供されたチップを含む、レーザレーダが提供される。
【0027】
第6態様によれば、コンピュータ可読記憶媒体が提供される。コンピュータ可読記憶媒体は命令を格納し、この命令が実行されると、第1態様または第1態様の実現可能な設計における信号処理方法が行われる。
【0028】
第7態様によれば、命令を含むコンピュータプログラム製品が提供される。コンピュータプログラム製品がコンピュータで動作すると、コンピュータは、第1態様または第1態様の実現可能な設計における信号処理方法を行うことが可能になる。
【0029】
第2態様~第7態様の任意の設計方式によりもたらされる技術的効果については、第1態様における別の設計方式によりもたらされる技術的効果を参照してもよい。ここでは、詳細について改めて説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1(a)】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図1である。
図1(b)】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図1である。
図1(c)】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図1である。
図1(d)】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図1である。
【0031】
図2】本願の一実施形態によるレーザレーダの構造の概略図である。
【0032】
図3】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図2である。
【0033】
図4】本願の一実施形態による、受信パルス信号のフィッティング波形の概略図3である。
【0034】
図5】本願の一実施形態による信号処理方法の概略フローチャート1である。
【0035】
図6A】本願の一実施形態による信号処理方法の概略フローチャート2である。
図6B】本願の一実施形態による信号処理方法の概略フローチャート2である。
【0036】
図7】本願の一実施形態に従って受信パルス信号に対してサンプリングを行うことで取得されたサンプリング点の概略図である。
【0037】
図8】従来技術を用いてフィッティングすることにより取得された、受信パルス信号の波形の概略図である。
【0038】
図9】本願の一実施形態による信号処理方法を用いてフィッティングすることにより取得された、受信パルス信号の波形の概略図である。
【0039】
図10】本願の一実施形態による信号処理装置の構造の概略図1である。
【0040】
図11】本願の一実施形態による信号処理装置の構造の概略図2である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下では、本願の実施形態についての添付図面を参照して、本願の実施形態での技術的解決手段を説明する。本願の実施形態での技術的解決手段を明確に説明するために、本願の実施形態では「第1」および「第2」などの用語を用いて、同じ項目同士または基本的に同じ機能または目的を持つ類似項目同士を区別する。当業者であれば、「第1」および「第2」などの用語が数量または実行順序を限定することはなく、「第1」および「第2」などの用語が明確な違いを示すものではないことを理解するであろう。さらに、本願の実施形態では、「例」または「例えば」などの用語を用いて、一例、実例、または説明を与えることを表す。本願の実施形態において「例」または「例えば」と説明される実施形態または設計手法はいずれも、別の実施形態または設計手法より好ましい、またはより多くの利点があると解釈されるべきではない。まさに、「例」または「例えば」などの用語の使用は、関連概念を具体的な方式で提示することを意図したものであり、これによって理解が容易になる。
【0042】
本願の実施形態で用いられる関連技術を最初に説明する。
【0043】
レーザレーダとは、レーザビームを送信して、目標対象物の位置および速度などの特徴量を検出するレーダシステムである。レーザレーダの動作原理とは、レーザパルス信号を目標対象物に送信し、目標対象物から反射され且つレーザレーダにより受信される信号(以下では、受信パルス信号と呼ばれる)のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を記録することである。次いで、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度、および送信されたレーザパルス信号に関する情報に基づいて、目標対象物の関連情報が取得され得る。例えば、関連情報には、目標対象物からレーザレーダまでの距離、目標対象物の表面反射率、および別のパラメータが含まれる。
【0044】
図2は、レーザレーダの構造の概略図である。レーザレーダ10では、波形発生器(waveform generator)101が、送信機(transmitter)102を制御して、予め設定された波形のレーザパルス信号を送信するように構成されている。これに加えて、波形発生器101および送信機102はさらに、送信されたレーザパルス信号の信号パラメータ(例えば、送信時間および信号強度)を信号処理モジュール108に送る。精密ステアリング(fine steering)ミラー103が、レーザパルス信号の方向を制御するように構成されていることにより、レーザパルス信号は送信側レンズ104を通って検出予定の目標対象物に送信される。次いで、レーザレーダ10が、受信側レンズ105を通じて、目標対象物から反射された受信パルス信号を受信し、精密ステアリングミラー106を用いて受信パルス信号の方向を調整することにより、検出モジュール107が受信パルス信号を受信する。その後、検出モジュール107は、受信パルス信号に対して検出およびサンプリングを行い、複数のサンプリング点を取得する。各サンプリング点のサンプリングパラメータには、サンプリング点に対応している受信時間および信号強度などが含まれ得る。検出モジュール107は、各サンプリング点のサンプリングパラメータを信号処理モジュール108に送る。信号処理モジュール108は、検出モジュール107からのサンプリング点、および波形発生器101および送信機102からの信号パラメータに基づいて、目標対象物の関連情報を決定する。例えば、信号処理モジュール108は、サンプリング点に基づいてフィッティングすることにより受信パルス信号の波形を取得して、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定し、次いで、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度、および波形発生器101および送信機102からの信号パラメータに基づいて、目標対象物からレーザレーダまでの距離といった関連情報を計算する。
【0045】
この実施形態では、サンプリング点に対応する受信時間が、受信パルス信号の、サンプリング点でのサンプリングによって取得される受信時間であってよく、サンプリング点に対応する信号強度が、受信パルス信号の、サンプリング点でのサンプリングによって取得される信号強度であってよいことに留意されたい。
【0046】
図2に示すレーザレーダ10は、読者による本願の技術的解決手段の理解を容易にするためのものでしかなく、レーザレーダの例示的な原理構造が提供されている。レーザレーダ10の各機能モジュールは、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせを用いて実現され得ることが、容易に理解される。例えば、送信機102はレーザダイオード(laser diode)であってよく、検出モジュール107は、アバランシェフォトダイオード(Avalanche Photon Diode、APD)、アナログ/デジタル変換器(analog to digital converter、ADC)、および検出器(detector)を含んでよい。
【0047】
現在、レーザレーダが受信パルス信号に対してサンプリングを行うプロセスにおいて、レーザレーダにより送信されたレーザパルス信号の強度が高い場合、目標対象物の表面反射率が高い場合、または目標対象物およびレーザレーダの間の距離が短い場合、受信パルス信号の強度が高くなる可能性がある。受信パルス信号の信号強度がレーザレーダのダイナミックレンジを超える場合、例えば、受信パルス信号の強度が図2に示すレーザレーダ10に含まれる検出ユニット107の正常動作範囲を超える場合、検出ユニット107は、正常動作範囲より大きい信号強度をサンプリングによって取得できない。結果として、サンプリング点に基づいてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形に、クリッピング現象が生じる。
【0048】
本願のこの実施形態で説明されるレーザレーダのダイナミックレンジは、レーザレーダに含まれる、受信パルス信号を検出するように構成された機能ユニット(例えば、図2の検出ユニット107)の線形動作範囲として理解され得ることに留意されたい。受信パルス信号の信号強度が線形動作範囲を超えない場合、サンプリング点に対応する信号強度は受信パルス信号の現在の信号強度を反映することができる。具体的には、受信パルス信号の信号強度が増加すると、これに応じて、収集されたサンプリング点に対応する信号強度も増加する。受信パルス信号の信号強度が線形動作範囲内の最大信号強度を超える場合、サンプリング点でレーザレーダにより収集される信号強度が飽和する。具体的には、この場合に収集されるサンプリング点に対応する信号強度は、受信パルス信号の強度とともに増加することはなく、線形動作範囲内の最大信号強度にとどまる。
【0049】
さらに、レーザレーダに含まれる電子素子の非線形メモリ効果に起因して、図1(c)に示すように、受信パルス信号の立ち下がりエッジ部分のサンプリング点では、収集される信号強度が受信パルス信号の実際の信号強度より大きくなり、その上、受信パルス信号のフィッティング波形に裾引き現象が生じることが分かる。さらに、立ち下がりエッジ部分のサンプリング点では、収集される信号強度が大きく変動し、その上、受信パルス信号のフィッティング波形にリンギング現象が生じる。
【0050】
さらに、レーザレーダが各サンプリング点でサンプリングパラメータを収集するときに、クリッピング現象、裾引き現象、およびリンギング現象が同時に存在する場合、収集されるサンプリング点の信号強度が図1(d)に示されている。この場合、立ち上がりエッジのいくつかのサンプリング点だけの信号強度が受信パルス信号の強度を反映することができ、他のサンプリング点の信号強度が歪んでいることが分かる。
【0051】
さらに、レーザパルス信号を連続的に2度送信する場合、レーザパルス信号を2度送信する時間間隔が短いと、受信パルス信号の立ち下がりエッジに対して行われるサンプリングが、次の受信パルス信号に干渉される可能性がある。
【0052】
レーザレーダが各サンプリング点でサンプリングパラメータを収集するときに、クリッピング現象、裾引き現象、リンギング現象、および別の受信パルス信号による干渉などが生じた場合、受信パルス信号の後半で行われるサンプリングの際に、サンプリング点の信号強度が歪んでいる可能性があることが分かる。サンプリング点で収集される信号強度が歪んでいる場合、受信パルス信号の波形をフィッティングによって正確に取得できず、受信パルス信号のピーク点信号強度およびピーク点受信時間を決定することはできない。最終的に、レーザレーダの検出結果の精度が影響を受ける。したがって、サンプリングパラメータの歪みによってもたらされる不正確な検出結果を回避することが、レーザレーダの正常動作を保証する上で重要な要素の1つになる。
【0053】
前述した技術的問題を解決するために、クリッピング現象が生じる前のn個の立ち上がりエッジサンプリング点で、サンプリングパラメータを収集してよい。例えば、図3の(a)に示すように、5つのサンプリング点a、b、c、d、およびeで、サンプリングパラメータを収集する。次いで、n個のサンプリング点に基づいて波形フィッティングを行い、フィッティングによって受信パルス信号の波形を取得する。例えば、最小二乗法を用いてフィッティングすることにより、受信パルス信号の波形を取得してよい。その後、フィッティングした受信パルス信号に基づいて、受信パルス信号のピーク点信号強度およびピーク点受信時間を決定して、検出結果を取得する。しかしながら、この方法では、立ち上がりエッジにしか有効なフィッティング点を提供できないため、フィッティング波形には大きい誤差が生じる。例えば、5つのサンプリング点a、b、c、d、およびeに基づき、最小二乗法を用いてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形を、図3の(b)に点線波形で示すことができる。受信パルス信号のフィッティング波形および実際の波形の間には、大きい誤差があることが分かる。したがって、この方法を用いて正確な検出結果を取得することはできない。
【0054】
あるいは、受信パルス信号に対して最初にサンプリングを行い、次いで、スライディングウィンドウを設定して、スライディングウィンドウ内のサンプリング点で収集された信号強度を取得してよい。スライディングウィンドウ内の信号強度が予め設定された閾値より連続的に大きい場合、受信パルス信号がスライディングウィンドウに存在すると判定される。次いで、判定された受信パルス信号における波形重心を見つけて、波形重心の受信時間を受信パルス信号のピーク点受信時間として用いる。図4に示すように、(図に点線ボックスで示された)スライディングウィンドウ内で収集された信号強度は、連続的に最大信号強度Pにとどまり、スライディングウィンドウに受信パルス信号が存在すると判定され、次いで、スライディングウィンドウの中間点を受信パルス信号のピーク点として用いる。この方法はスライディングウィンドウの幅に要件を課していることが分かる。図4では、スライディングウィンドウの幅が小さい場合、受信パルス信号の、スライディングウィンドウの中間点に基づいて決定されるピーク点受信時間はXcであるが、実際のピーク点受信時間はXc′であり、その結果、誤差が生じる。さらに、この方式では、ピーク点受信時間だけが推定可能であり、ピーク点信号強度を決定することができないという問題がある。
【0055】
前述した問題を解決するために、本願の一実施形態が信号処理方法を提供する。受信パルス信号の波形を決定するプロセスでは、受信パルス信号の事前情報が用いられる。事前情報には、受信パルス信号のピーク点受信時間の確率分布、受信パルス信号のピーク点信号強度の確率分布、および受信パルス信号のパルス幅の確率分布が含まれる。次いで、受信パルス信号の波形は、受信パルス信号の波形に関するこれらの事前情報により課される制限によってより正確に決定され、ピーク点信号強度およびピーク点受信時間をより正確に決定する。
【0056】
本願のこの実施形態で提供される信号処理方法を、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する必要があるレーザレーダまたは別のデバイスに適用できるので、こうしたデバイスは受信パルス信号をより正確に決定できるようになる。以下では、本方法を説明する一例として、レーザレーダを用いる。図5に示すように、本方法は、以下のようにS201~S207を含む。
【0057】
S201:レーザレーダが、受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得する。
【0058】
例えば、図2に示すレーザレーダ10では、レーザパルス信号を目標対象物に送信した後に、レーザパルス信号は目標対象物に遭遇し、反射によって受信パルス信号を生成する。次いで、受信パルス信号は、受信側レンズ105、精密ステアリングミラー106、および検出モジュール107を通る。検出モジュール107は、受信パルス信号を受信した後に、受信パルス信号に対してサンプリングを行い、サンプリング点を取得してよい。
【0059】
N個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータには、各サンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれる。例えば、N個のサンプリング点には、3つのサンプリング点a、b、およびcが含まれる。サンプリング点aのサンプリングパラメータには、サンプリング点aに対応する受信時間および信号強度が含まれ、サンプリング点bのサンプリングパラメータには、サンプリング点bに対応する受信時間および信号強度が含まれ、サンプリング点cのサンプリングパラメータには、サンプリング点cに対応する受信時間および信号強度が含まれる。
【0060】
さらに、N個のサンプリング点には、M個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPは全て、1より大きいまたは1と等しい正の整数である。
【0061】
実際の実装プロセスでは、サンプリング点に対応する信号強度が、サンプリング点における受信パルス信号の光信号強度(例えば、屈折力)を反映するパラメータであってもよく、受信パルス信号の光信号強度に応答して、サンプリング点で発生する電圧値または電流値であってもよい。信号強度に用いられる実際の物理量が、本願において限定されなくてもよい。
【0062】
本願のこの実施形態では,立ち上がりエッジサンプリング点は、受信パルス信号の立ち上がりエッジにおけるサンプリング点であることに留意されたい。例えば、図1(d)には、4つの立ち上がりエッジサンプリング点a、b、c、およびdが含まれる。クリッピングサンプリング点は、クリッピング現象が生じた部分のサンプリング点である。例えば、図1(d)には、4つのクリッピングサンプリング点e、f、g、およびhが含まれる。
【0063】
S202:レーザレーダが、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定する。
【0064】
予め設定された波形セットには、少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる。
【0065】
レーザレーダが受信パルス信号の立ち上がりエッジに対してサンプリングを行う場合に低確率の歪みがあることが、前述したレーザレーダの説明から分かる。したがって、立ち上がりエッジサンプリング点のサンプリングパラメータを用いて、予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号の波形である確率分布を決定してよい、すなわち、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定してよい。
【0066】
例えば、受信パルス信号は通常、ガウスパルスである。具体的には、受信パルス信号の現在の信号強度sおよび現時点xが次の式(1)を満たす。
【数3】
【0067】
波形パラメータA、t、およびσがそれぞれ別の値を有する場合、対応する波形が異なる。以下では、説明しやすくするために、A、t、およびσの一式をθで示す、すなわち、θ=(A,t,σ)である。
【0068】
式(1)を満たした波形は受信パルス信号の波形でよいとみなされ得る。したがって、予め設定された波形セットは、式(1)を満たした波形を用いて構築され得る。言い換えると、予め設定された波形セットには、式(1)を満たした少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる。
【0069】
もちろん、本願のこの実施形態で提供される技術的解決手段の実装プロセスでは、予め設定された波形セットの波形が代替的に別の方式で決定されてよいと理解することができる。言い換えると、当業者であれば、実際の要件に応じて、適切な予め設定された波形セットを選択することができる。予め設定された波形セットに含まれる具体的な波形が、本願において限定されなくてもよい。
【0070】
一実装例では、M個のイベントが同時に生じる確率が、M個のイベントが別々に生じる確率に基づいて決定されてよい。例えば、M個のイベントが同時に生じる確率は、M個のイベントが別々に生じる確率を掛け合わせることで取得されてよい。したがって、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布も、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布に基づいて決定されてよい。図6Aおよび図6Bに示すように、本願のS202は具体的には、以下のようにS2021およびS2022を含んでよい。
【0071】
S2021:レーザレーダが、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する。
【0072】
例えば、M個の立ち上がりエッジサンプリング点には、合計5つのサンプリング点、つまり、サンプリング点1、サンプリング点2、サンプリング点3、サンプリング点4、およびサンプリング点5が含まれる。この5つのサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータには、各サンプリング点に対応する受信時間および信号強度が含まれる。さらに、予め設定された波形セットには式(1)を満たした波形が含まれると仮定する。次いで、各サンプリング点では、予め設定された波形セットの各波形上のサンプリング点の分布確率が、そのサンプリング点の受信時間および信号強度に基づいて計算されてよい。
【0073】
実現可能な設計において、受信パルス信号の立ち上がりエッジ部分におけるサンプリング点のサンプリングパラメータは主に、ノイズによる干渉を受ける。言い換えると、サンプリング点で収集される信号強度が実際に反映するのは、受信パルス信号の現在の信号強度および現在のノイズ強度の和である。したがって、予め設定された波形セットの各波形上の目標サンプリング点の分布確率を計算する際に、S2021は、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度の確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布を決定する段階を含んでよく、ここで目標サンプリング点はM個の立ち上がりエッジサンプリング点のいずれか1つであってよい。
【0074】
例えば、目標サンプリング点で収集された信号強度がyであり、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度がwであり、予め設定された波形セットの波形(例えば、目標波形と呼ばれる)の目標サンプリング点における信号強度がsであると仮定する。この場合、受信パルス信号が目標波形であるならば、w=y-sが当てはまる必要がある。さらに、yが既知であるため、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度wの確率分布に基づいて、w=y-sの確率、すなわち、目標波形上の目標サンプリング点の分布確率を計算することができる。例えば、目標サンプリング点で収集された信号強度が5(信号強度の物理量ユニットが実際の状況に応じて決定されてよく、屈折力、電圧、または電流などであってもよい)、目標サンプリング点での目標波形の信号強度が4、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度が1である確率が20%と仮定する。この場合、目標波形上の目標サンプリング点の分布確率は20%であると判定されてよい。
【0075】
さらに、実現可能な設計において、ノイズ強度の確率分布は概して、平均値が0で分散がNのガウス分布に従い、ここでNはノイズ電力である、すなわち、ノイズ強度の確率分布p(w)が次の式(3)を満たす。
【数4】
【0076】
したがって、本願のこの実施形態で提供される技術的解決手段では、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する場合、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布は、次の式(4)を用いて決定されてよい。言い換えると、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布は、次の式(4)を満たす。
【数5】
【0077】
は、予め設定された波形セットの目標波形上にある目標サンプリング点kの分布確率を表し、yは、目標サンプリング点kに対応する信号強度を表し、sは、目標サンプリング点kを収集する際の目標波形の信号強度を表す。Nの値が、実際の要件に応じて設定されてよい。
【0078】
S2022:レーザレーダが、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布に基づいて、第1確率分布を決定する。
【0079】
例えば、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布が決定された後に、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の確率分布に対して乗算演算を行い、第1確率分布を決定してよい。
【0080】
例えば、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布が式(4)を満たし、予め設定された波形セットに式(1)を満たす少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる場合、第1確率分布が次の式(5)を満たすと判定することができる。
【数6】
【0081】
(y|θ)は、波形パラメータA、t、およびσがθである目標波形上のM個の立ち上がりエッジサンプリング点の分布確率を表し、yは、目標サンプリング点kに対応する信号強度を表し、s(θ)は、目標サンプリング点kを収集する際の、波形パラメータA、t、およびσがθである目標波形の信号強度を表す。
【0082】
S203:レーザレーダが、受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を、P個のクリッピングサンプリング点に基づいて決定する。
【0083】
クリッピング現象が存在する場合、それは、受信パルス信号のピーク点受信時間がクリッピング部分に対応する時間範囲内にあること、および受信パルス信号のピーク点信号強度がクリッピング部分でのサンプリングによって取得された信号強度より大きいことを示している。例えば、図1(b)では、受信パルス信号のピーク点受信時間がt1およびt2の間にあり、受信パルス信号のピーク点信号強度が信号強度Pより大きいと判断することができる。この場合、P個のクリッピングサンプリング点で収集されたサンプリングパラメータを用いて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度の値範囲を決定し、ピーク点受信時間およびピーク点信号強度の確率分布(すなわち、第2確率分布および第3確率分布)を決定してよい。
【0084】
一実装例では、図6Aおよび図6Bに示すように、P個のクリッピングサンプリング点に基づいて第2確率分布を決定する段階が、以下の段階を含んでよい。
【0085】
S2031:レーザレーダが、P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値および最大値に基づいて、ピーク点受信時間の値範囲を決定する。
【0086】
ピーク点受信時間の値範囲の最小値が、P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値に基づいて決定されてよい。さらに、ピーク点受信時間の値範囲の最大値が、P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最大値に基づいて決定されてよい。
【0087】
例えば、図1(b)では、サンプリング点1およびサンプリング点2に対応する受信時間がそれぞれ、クリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値および最大値であることが分かる。この場合、ピーク点受信時間の値範囲の最大値および最小値は、サンプリング点1およびサンプリング点2に対応する受信時間に基づいて決定されてよい。
【0088】
S2032:レーザレーダが、ピーク点受信時間の値範囲に基づいて第2確率分布を決定する。
【0089】
具体的には、ピーク点受信時間の値範囲が決定された後に、この値範囲内のピーク点受信時間の確率分布(すなわち、第2確率分布)を、レーザレーダの特性などの事前情報に基づいて決定することができる。
【0090】
実現可能な設計では、計算しやすくするために、値範囲内のピーク点受信時間の確率分布が均等分布であるとみなされてよい。次いで、ピーク点受信時間がピーク点受信時間の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点受信時間の確率分布を決定して、第2確率分布を取得する。
【0091】
例えば、受信パルス信号の波形が式(1)を満たす場合、第2確率分布は、波形パラメータtの確率分布p(t)として反映されてよく、以下のように表現される。
【数7】
【0092】
は、ピーク点受信時間の値範囲の最小値を表し、tは、ピーク点受信時間の値範囲の最大値を表す。
【0093】
ピーク点受信時間の第2確率分布は代替的に、別の方式で決定されてよいことに留意されたい。例えば、レーザレーダが何度もテストを行い、テストから取得された受信パルス信号のピーク点受信時間に関して統計が収集され、次いで、統計結果に基づいてピーク点受信時間の第2確率分布が決定されてよい。本願では、こうしたことが限定されなくてもよい。
【0094】
さらに、一実装例では、図6Aおよび図6Bに示すように、P個のクリッピングサンプリング点に基づいて第3確率分布を決定する段階が、以下の段階を含んでよい。
【0095】
S2033:レーザレーダが、P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、ピーク点信号強度の値範囲を決定する。
【0096】
例えば、図1(b)において、クリッピングサンプリング点の信号強度は概して、クリッピング現象の存在に起因して信号強度Pの近くにあることが分かる。さらに、ピーク点信号強度の最小値はクリッピングサンプリング点の信号強度より大きいと判断できるため、P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定することができる。例えば、P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度の最大信号強度を、ピーク点信号強度の値範囲の最小値として用いてよい。
【0097】
次いで、ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定した後に、ピーク点信号強度の値範囲をさらに決定することができる。例えば、レーザレーダにより送信されるレーザパルス信号のピーク点信号強度を、ピーク点信号強度の最大値として用いてよい。このように、ピーク点信号強度の最大値および最小値が既知である場合に、ピーク点信号強度の値範囲を決定することができる。
【0098】
S2034:レーザレーダが、ピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する。
【0099】
S2032と同様に、ピーク点信号強度の値範囲を決定した後に、この値範囲内のピーク点信号強度の第3確率分布を、レーザレーダの特性などの事前情報に基づいて決定することができる。
【0100】
実現可能な設計では、計算しやすくするために、値範囲内のピーク点信号強度の確率分布が均等分布であるとみなされてよい。次いで、ピーク点信号強度がピーク点信号強度の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得することができる。
【0101】
例えば、受信パルス信号の波形が式(1)を満たす場合、第3確率分布は、波形パラメータAの確率分布p(A)として反映されてよく、以下のように表現される。
【数8】
【0102】
は、ピーク点信号強度の値範囲の最小値を表し、Aは、ピーク点信号強度の値範囲の最大値を表す。
【0103】
別の実現可能な設計では、受信パルス信号の信号強度および受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の間に対応関係がある。例えば、対象物の表面反射率が高いほど、通常、対応する受信パルス信号の信号強度が高いことを示す。さらに、レーザレーダは様々な対象物を検出するため、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率は、均等分布とみなされてよい。さらに、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、ピーク点信号強度の値範囲内のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得することができる。
【0104】
第3確率分布は代替的に、別の方式で決定されてもよい。例えば、レーザレーダが何度もテストを行い、テストから取得された受信パルス信号のピーク点信号強度に関して統計が収集され、次いで、統計結果に基づいてピーク点信号強度の第3確率分布が決定されてよい。本願では、こうしたことが限定されなくてもよい。
【0105】
S204:レーザレーダが、受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定する。
【0106】
例えば、別の使用シナリオでは、レーザレーダにより送信されるレーザパルス信号をテストすることによって、受信パルス信号のパルス幅の値範囲、およびその値範囲内のパルス幅の第4確率分布を取得することができる。
【0107】
実現可能な設計では、計算しやすくするために、値範囲内のパルス幅の確率分布が均等分布であるとみなされてよい。さらに、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、ピーク点信号強度の値範囲内のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第4確率分布を取得することができる。
【0108】
例えば、受信パルス信号の波形が式(1)を満たす場合、第4確率分布は、波形パラメータσの確率分布p(σ)として反映されてよく、以下のように表現される。
【数9】
【0109】
σは、パルス幅の値範囲の最小値を表し、σはパルス幅の値範囲の最大値を表す。
【0110】
S205:レーザレーダが、第2確率分布、第3確率分布、および第4確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定する。
【0111】
例えば、予め設定された波形セットのある波形(例えば、目標波形)が受信パルス信号である確率が、以下の3つの項目を同時に満たす確率であってよい。
【0112】
(1)目標波形のピーク点受信時間が、受信パルス信号のピーク点受信時間である。
【0113】
(2)目標波形のピーク点信号強度が、受信パルス信号のピーク点信号強度である。
【0114】
(3)目標波形のパルス幅が、受信パルス信号のパルス幅である。
【0115】
具体的には、予め設定された波形セットのある波形が受信パルス信号である確率は、前述した3つの項目のそれぞれの確率の積、すなわち、p(θ)=p(t)(A)(σ)として表現されてよい。ここでp(θ)は、予め設定された波形セットにおいて波形パラメータA、t、およびσがθである波形が受信パルス信号である確率を表す。言い換えると、第5確率分布は、第2確率分布、第3確率分布、および第4確率分布の積と表現することができる。
【0116】
S206:レーザレーダが、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定する。
【0117】
例えばベイズ式によれば、第1確率分布は、M個の立ち上がりエッジサンプリング点(すなわち、受信パルス信号の波形上に割り当てられたM個のサンプリング点)が与えられたときの受信パルス信号の波形の確率分布p(y|θ)とみなされてよい。言い換えると、第1確率分布は受信パルス信号の波形の尤度関数L(θ|y)である。さらに第5確率分布は、受信パルス信号の波形の事前分布、すなわちp(θ)とみなされてよい。この場合、L(θ|y)およびp(θ)が既知であるときに、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布P(θ|y)、すなわち受信パルス信号の波形の事後分布は、ベイズ式P(θ|y)=L(θ|y)(θ)/P(y)を用いて計算することができる。P(y)は実際の要件に応じて設定されることもあり、P(y)は計算の際に関連アルゴリズムを用いて消去されることもある。
【0118】
一実装例において、第6確率分布は、マルコフ連鎖モンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo、MCMC)アルゴリズムを用いて決定されてよい。具体的には、S206は、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築し、マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得する段階を含んでよい。
【0119】
マルコフ連鎖のサンプル列における各サンプルは、1つの波形を表すのに用いられる。さらに、マルコフ連鎖のサンプル列におけるサンプル値の確率が第6確率分布に徐々に収束することが、MCMCアルゴリズムから分かる。したがって、サンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}は、第6確率分布を表すのに用いられる。
【0120】
実現可能な設計において、マルコフ連鎖は、MCMCアルゴリズムにおけるMetropolis-Hastingsアルゴリズムを用いることで構築されてよい。Metropolis-Hastingsアルゴリズムにおける受理分布α(z,z′)が次の式(6)を満たす。
【数10】
【0121】
zはマルコフ連鎖のサンプル列における1つのサンプルであり、z′はマルコフ連鎖のサンプル列におけるzに続くサンプルであり、マルコフ連鎖のサンプル列における各サンプルは1つの波形を表すのに用いられ、p(y|z′)は第1確率分布における波形z′に対応する確率であり、p(y|z)は第1確率分布における波形zに対応する確率であり、p(z′)は第5確率分布における波形z′に対応する確率であり、p(z)は第5確率分布における波形zに対応する確率であり、q(z′,z)およびq(z,z′)はマルコフ連鎖の提案分布である。
【0122】
受信パルス信号がガウスパルスであり、受信パルス信号の現在の信号強度sおよび現時点xが式(1)、すなわち、
【数11】
を満たすことが、Metropolis-Hastingsアルゴリズムを用いてマルコフ連鎖を構築するプロセスを説明するのに一例として用いられる。このプロセスは、以下の段階1~段階4を含んでよい。
【0123】
段階1:初期波形、すなわち、マルコフ連鎖の最初のサンプルZをランダムに設定する。
【0124】
具体的には、受信パルス信号が式(1)を満たすため、波形パラメータθが1つの波形を表すのに用いられてよい。この場合、初期波形Zはθ=(A,t,σ)と表現されてよい。
【0125】
段階2:Metropolis-Hastingsアルゴリズムの提案分布を設定する。
【0126】
実際の実装プロセスにおいて、提案分布は、従来技術の関連内容を参照して設定されてよい。提案分布が異なると、収束率も異なる。本願では、用いられる具体的な提案分布が限定されなくてもよい。
【0127】
段階3:提案分布に基づいてθ=(A,t,σ)を抽出し、受理分布α(z,z′)に基づいてα(θ,θ)を計算する。
【0128】
段階4:範囲(0,1)からランダムに数字uを抽出し、u<α(θ,θ)が当てはまる場合、マルコフ連鎖の第2のサンプルZがθであると決定し、そうでない場合、マルコフ連鎖の第2のサンプルZが決定されるまで段階3を繰り返す。
【0129】
段階3および段階4を反復することにより、マルコフ連鎖のサンプルを順次決定し、マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得する。
【0130】
S207:第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定し、第1の予め設定された波形に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する。
【0131】
受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布が決定された後に、受信パルス信号の可能性がある波形(すなわち、第1の予め設定された波形)が、第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから決定されてよい。例えば、第6確率分布の期待値を計算して第1の予め設定された波形を取得してもよく、第6確率分布において最大確率を有する波形が第1の予め設定された波形として選択されてもよい。次に、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度が、第1の予め設定された波形に基づいて決定され得る。
【0132】
実現可能な設計において、第6確率分布がMCMCアルゴリズムを用いて決定される場合、第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定する段階は、マルコフ連鎖のサンプル列における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}の期待値を計算して、第1の予め設定された波形を取得する段階を含んでよい。
【0133】
この実施形態で提供される信号処理方法によれば、受信パルス信号の波形を決定するプロセスにおいて、受信パルス信号の波形の尤度関数(すなわち、第1確率分布)が、サンプリングによって取得された立ち上がりエッジサンプリング点に基づいて最初に決定される。次いで、受信パルス信号の波形の事前分布(すなわち、第5確率分布)が受信パルス信号の事前情報に基づいて決定される。事前情報には、受信パルス信号の波形に影響を及ぼす様々なパラメータの確率分布が含まれ、具体的には、受信パルス信号のピーク点受信時間の確率分布(すなわち、第2確率分布)、受信パルス信号のピーク点信号強度の確率分布(すなわち、第3確率分布)、および受信パルス信号のパルス幅の確率分布(すなわち、第4確率分布)が含まれる。さらに、受信パルス信号の波形の事後分布(すなわち、第6確率分布)が計算され得る。その後、受信パルス信号の可能性がある波形(すなわち、第1の予め設定された波形)が、第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから決定され得る。次に、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度が、第1の予め設定された波形に基づいて決定され得る。ピーク点信号強度およびピーク点受信時間は、前述した方法を用いて、より正確に決定され得る。
【0134】
以下では、この実施形態で提供される信号処理方法の有益な効果を、実際のシミュレーション結果に基づいて説明する。図7は、受信パルス信号、およびサンプリング点を用いてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形(図のサンプリング点を順次接続することにより取得された波形)に対して、レーザレーダがサンプリングを行うことにより取得されたサンプリング点(図には丸で示されている)を示している。この図では、フィッティングした受信パルス信号の、破線で円を描いた部分に、クリッピング現象が存在することが分かる。したがって、図7のフィッティングされた受信パルス信号に基づいて、受信パルス信号のピーク点信号強度およびピーク点受信時間を正確に決定することはできない。
【0135】
次いで、受信パルス信号の波形は、2つの方法を用いて別々にフィッティングすることにより取得される。第1の方法では、受信パルス信号の波形は、複数の立ち上がりエッジサンプリング点に基づき、最小二乗法を用いてフィッティングすることにより取得され、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度は、フィッティング波形に基づいて決定される。第2の方法では、受信パルス信号の波形は、この実施形態で提供される信号処理方法を用いて決定され、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度は、フィッティング波形に基づいて決定される。2つの方法の一方に用いられる、受信パルス信号の立ち上がりエッジ部分のサンプリング点が、他方の方法に用いられるものと同じであり、それらは、図7の4つのサンプリング点a、b、c、およびdである。
【0136】
2つの方法を用いて100回ずつ別々にモンテカルロシミュレーションを行うプロセスにおいて、第1の方法を用いてフィッティングすることにより受信パルス信号の波形が取得された場合、受信パルス信号のフィッティング波形は通常、図8に示す波形になる。受信パルス信号のフィッティング波形および受信パルス信号の間には、大きい誤差があることが分かる。図9は、この実施形態で提供される信号処理方法(すなわち、第2の方法)を用いてフィッティングすることにより取得された受信パルス信号の波形を示している。この実施形態で提供される信号処理方法を用いて実現されるフィッティング性能が望ましいことが分かる。
【0137】
さらに、以下の表1には、モンテカルロシミュレーションを2つの方法を用いて100回ずつ別々に行った後に取得されたシミュレーション結果に基づいて計算されたToFの統計結果が記載されており、以下の表2には、モンテカルロシミュレーションを2つの方法を用いて100回ずつ別々に行った後に取得されたシミュレーション結果に基づいて計算された受信パルス信号の振幅(すなわち、ピーク点信号強度)の統計結果が記載されている。
【表1】
【表2】
【0138】
表1および表2から、本願で提供される方法(すなわち、各表における第2の方法)を用いたレーザレーダは、検出結果の精度を大きく改善できることが分かる。
【0139】
別の実施形態において、図10は、本願の一実施形態による信号処理装置の構成の概略図である。信号処理装置30は、前述した方法の実施形態におけるレーザレーダの一部であってよい。信号処理装置30が動作すると、レーザレーダは、前述した実施形態で提供された信号処理方法を行うことが可能になる。例えば、特定の実装において、信号処理装置30は具体的には、図2に示すレーザレーダの信号処理モジュール108であってよい。信号処理装置30は代替的に、レーザレーダ内のチップまたはシステムオンチップでもよい。もちろん、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定する必要がある別のデバイスにも信号処理装置30を適用できるので、こうしたデバイスは受信パルス信号をより正確に決定できるようになる。
【0140】
一実装例では、図10に示すように、信号処理装置30は、受信パルス信号に対してN回のサンプリングを行い、N個のサンプリング点を取得するように構成されたサンプリングユニット301、ここでN個のサンプリング点のそれぞれのサンプリングパラメータにはサンプリング点に対応している受信時間および信号強度が含まれ、N個のサンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点およびP個のクリッピングサンプリング点が含まれ、N、M、およびPは全て1より大きいまたは1と等しい整数である;予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点の第1確率分布を決定するように構成された第1の確率決定ユニット302、ここで予め設定された波形セットには少なくとも1つの予め設定された波形が含まれる;P個のクリッピングサンプリング点に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間の第2確率分布および受信パルス信号のピーク点信号強度の第3確率分布を決定するように構成された第2の確率決定ユニット303、ここで第2の確率決定ユニット303はさらに、受信パルス信号のパルス幅の第4確率分布を決定するように構成されている;第2確率分布、第3確率分布、および第4確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形が受信パルス信号であることを示す第5確率分布を決定するように構成された第3の確率決定ユニット304;第1確率分布および第5確率分布に基づいて、受信パルス信号が予め設定された波形セットの各波形であることを示す第6確率分布を決定するように構成された第4の確率決定ユニット305;第6確率分布に基づいて、予め設定された波形セットから第1の予め設定された波形を決定するように構成された波形決定ユニット306;および第1の予め設定された波形に基づいて、受信パルス信号のピーク点受信時間およびピーク点信号強度を決定するように構成されたパラメータ決定ユニット307を含んでよい。
【0141】
実現可能な設計において、第2の確率決定ユニット303は具体的には、P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最小値に基づいて、ピーク点受信時間の値範囲の最小値を決定する;P個のクリッピングサンプリング点に対応する受信時間の最大値に基づいて、ピーク点受信時間の値範囲の最大値を決定する;ピーク点受信時間の値範囲に基づいて第2確率分布を決定する;P個のクリッピングサンプリング点に対応する信号強度に基づいて、ピーク点信号強度の値範囲の最小値を決定する;およびピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定するように構成されている。
【0142】
実現可能な設計において、ピーク点受信時間の値範囲に基づいて第2確率分布を決定する段階は、ピーク点受信時間がピーク点受信時間の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点受信時間の確率分布を決定して、第2確率分布を取得する段階を含む。
【0143】
実現可能な設計において、ピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する段階は、ピーク点信号強度がピーク点信号強度の値範囲内で均等分布を満たす場合のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得する段階を含む。
【0144】
実現可能な設計において、ピーク点信号強度の値範囲に基づいて第3確率分布を決定する段階は、受信パルス信号を反射する対象物の表面反射率の確率分布が均等分布である場合の、ピーク点信号強度の値範囲内のピーク点信号強度の確率分布を決定して、第3確率分布を取得する段階を含む。
【0145】
実現可能な設計において、第2の確率決定ユニット303は具体的には、パルス幅がパルス幅の値範囲内で均等分布を満たす場合のパルス幅の確率分布を決定して、第4確率分布を取得するように構成されている。
【0146】
実現可能な設計において、第1の確率決定ユニット302は具体的には、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定する;および予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布に基づいて第1確率分布を決定するように構成されている。
【0147】
実現可能な設計において、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられたM個の立ち上がりエッジサンプリング点のそれぞれの確率分布を決定することは、目標サンプリング点をサンプリングする際のノイズ強度の確率分布に基づいて、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布を決定することを含み、ここで目標サンプリング点にはM個の立ち上がりエッジサンプリング点のいずれか1つが含まれる。
【0148】
実現可能な設計において、予め設定された波形セットの各波形上に割り当てられた目標サンプリング点の確率分布は、次の式1を満たす。
【数12】
【0149】
は、予め設定された波形セットの目標波形上にある目標サンプリング点kの分布確率を表し、yは、目標サンプリング点kに対応する信号強度を表し、sは、目標サンプリング点kを収集する際の目標波形の信号強度を表す。
【0150】
実現可能な設計において、第4の確率決定ユニット305は具体的には、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築して、マルコフ連鎖のサンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}を取得するように構成されており、ここでサンプル列の各サンプルは1つの波形を表すのに用いられ、サンプル列{z,z,…,z,zm+1,…,zm+n-1,zm+n}における最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}は第6確率分布を表すのに用いられる。波形決定ユニット306は具体的には、最後のn個のサンプル{zm+1,…,zm+n-1,zm+n}の期待値を計算して、第1の予め設定された波形を取得するように構成されている。
【0151】
実現可能な設計において、第1確率分布および第5確率分布に基づいて、予め設定された波形セットを状態空間として用いることによりマルコフ連鎖を構築することは、Metropolis-Hastingsアルゴリズムを用いて、受理分布が次の式2を満たすマルコフ連鎖を構築することを含む。
【数13】
【0152】
zはマルコフ連鎖のサンプル列における1つのサンプルであり、z′はマルコフ連鎖のサンプル列におけるzに続くサンプルであり、p(y|z′)は第1確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(y|z)は第1確率分布におけるzに対応する確率であり、p(z′)は第5確率分布におけるz′に対応する確率であり、p(z)は第5確率分布におけるzに対応する確率であり、q(z′,z)およびq(z,z′)はマルコフ連鎖の提案分布である。
【0153】
別の実施形態において、図11は、データ伝送装置の構成の別の概略図である。データ伝送装置40は、1つまたは複数のプロセッサ401および1つまたは複数のメモリ402を含む。1つまたは複数のプロセッサ401は1つまたは複数のメモリ402に結合されており、メモリ402はコンピュータ実行可能命令を格納するように構成されている。例えば、いくつかの実施形態では、プロセッサ401がメモリ402に格納された命令を実行すると、データ伝送装置40は、図5に示すS201~S207およびレーザレーダが行う必要がある他のオペレーションを行うことが可能になる。
【0154】
本願の一実施形態はさらに、コンピュータ可読記憶媒体を提供する。コンピュータ可読記憶媒体は命令を格納している。命令が実行されると、本願の実施形態で提供された方法が行われる。
【0155】
本願の一実施形態がさらに、命令を含むコンピュータプログラム製品を提供する。コンピュータプログラム製品がコンピュータで動作すると、コンピュータは、本願の実施形態で提供された方法を行うことが可能になる。
【0156】
これに加えて、本願の一実施形態がさらにチップを提供する。チップはプロセッサを含む。プロセッサがコンピュータプログラム命令を実行すると、チップは、本願の実施形態で提供された方法を行うことが可能になる。命令は、チップ内部のメモリから供給してもよく、チップ外部のメモリから供給してもよい。任意選択で、チップはさらに、通信インタフェースとして用いられる入力/出力回路を含む。
【0157】
前述した実施形態における機能、動作、オペレーション、または段階などの全部または一部が、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、またはこのあらゆる組み合わせを用いて実現されてよい。前述した実施形態を実現するのにソフトウェアプログラムを用いる場合、前述した実施形態の全部または一部がコンピュータプログラム製品の形態で実現されてよい。コンピュータプログラム製品は1つまたは複数のコンピュータ命令を含む。コンピュータプログラム命令をコンピュータに読み込んで実行すると、本願の実施形態による手順または機能が完全にまたは部分的に発生する。コンピュータは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、コンピュータネットワーク、または別のプログラム可能型装置であってよい。コンピュータ命令は、コンピュータ可読記憶媒体に格納されてもよく、あるコンピュータ可読記憶媒体から別のコンピュータ可読記憶媒体に送信されてもよい。例えば、コンピュータ命令は、あるウェブサイト、コンピュータ、サーバ、またはデータセンタから、別のウェブサイト、コンピュータ、サーバ、またはデータセンタに有線(例えば、同軸ケーブル、光ファイバ、またはデジタル加入者線(digital subscriber line、DSL))方式、または無線(例えば、赤外線、電波、またはマイクロ波)方式で送信されてよい。コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータ、または、1つまたは複数の使用可能な媒体を統合したサーバまたはデータセンタなどのデータストレージデバイスがアクセス可能な、任意の使用可能な媒体であってよい。使用可能な媒体は、磁気媒体(例えば、フロッピディスク、ハードディスク、または磁気テープ)、光媒体(例えば、DVD)、または半導体媒体(例えば、ソリッドステートドライブ(solid state disk、SSD))などであってもよい。
【0158】
本願が具体的な特徴およびその実施形態を参照して説明されているが、それらに対して、本願の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な修正および組み合わせが行われてよいことは明らかである。これに対応して、本明細書および添付図面は、添付した特許請求の範囲によって定められる本願の単なる例示的な説明に過ぎず、本願の範囲内の修正例、変形例、組み合わせ例、または均等例のいずれかまたは全部を包含するものとみなされる。当業者であれば、本願の趣旨および範囲から逸脱することなく、本願に様々な修正および変形を加えることができるのは明らかである。本願は、本願のこれらの修正および変形が本願の特許請求の範囲およびその均等な技術の範囲内に含まれる限り、こうした修正および変形を包含することが意図されている。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】