(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】組成物および組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20230803BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20230803BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230803BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230803BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P3/08
A61K9/06
A61K47/12
A61K47/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022560481
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 NL2021050218
(87)【国際公開番号】W WO2021201685
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522389999
【氏名又は名称】バイオプロネオ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スパーンス エドウィン
(72)【発明者】
【氏名】ハウ マーティン ハン クーワン エアウィン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ブレデロード フロリス ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ノーウェン ミレーナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076CC21
4C076DD43Z
4C076EE32G
4C076FF39
4C076GG43
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA27
4C086NA10
4C086ZC35
4C086ZC51
(57)【要約】
本発明は、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルの製造方法に関する。本方法は、グルコース水溶液を供給する工程と、酸の少なくとも1分画の第1分画を添加する工程と、ゲル化剤の分画を添加し、溶液とゲル化剤とを混合して組成物を得る工程と、を含む。容器は、組成物により実質的に充填されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル組成物、特にグルコースゲルの製造方法であって、
a)グルコース水溶液を供給する工程と、
b)酸の少なくとも1分画の第1分画を添加し、前記溶液を3.5から4.1の範囲内のpH値に到達させる工程と、
c)少なくとも1種のゲル化剤の少なくとも1分画を添加し、前記溶液とゲル化剤を混合して、所定の粘度範囲内の粘度を有するゲル組成物を得る工程と、
d)少なくとも1個の容器を準備し、前記ゲル組成物の少なくとも1分画を前記容器に充填する工程と、
e)前記充填後の容器に対して少なくとも1回の熱滅菌工程を実施する工程と、
を備え、
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏100℃である、方法。
【請求項2】
前記工程は、連続した工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏120℃である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記滅菌工程は、1.05から5barの圧力で実施される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記熱滅菌工程は、第1圧力で実施される第1段階と、第1段階に続いて第2圧力で実施される第2段階と、を少なくとも有し、前記第2圧力は前記第1圧力よりも高い、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1回の熱滅菌工程の後に冷却工程が続き、前記冷却工程の間、少なくとも一時的に支持圧力が加えられ、溶液が充填された医療用容器内の圧力が相殺される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記容器は、1回使いきり用の容器である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記グルコース水溶液は、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも60重量%のグルコースを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記グルコース水溶液は、防腐剤、特に抗菌防腐剤を実質的に含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記酸の第1分画は、クエン酸を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記溶液のpH値が、3.6から4.0、好ましくは3.7から3.9に到達するように、前記酸の第1分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記酸の第1分画は、0.1から3重量%、好ましくは0.7から1.5重量%、より好ましくは0.8から1.3重量%である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
工程b)の間またはその後に、少なくとも1種の緩衝液が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記緩衝液は、クエン酸三ナトリウムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲル化剤は、ヒドロキシエチルセルロースを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記組成物、特にゲル組成物が、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内の粘度に到達するように、ゲル化剤の少なくとも1分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程c)の間に、0.5から5重量%、好ましくは1から3重量%、より好ましくは1.5から2.5重量%のゲル化剤の分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
先行する請求項のいずれかに記載の方法により得られる組成物であって、新生児低血糖症の治療に用いられる、組成物。
【請求項19】
ゲル組成物、特にグルコースゲルを含む容器であって、
前記ゲル組成物は、グルコースと酸の第1分画と、ゲル化剤の分画と、を少なくとも含み、
前記ゲル組成物のpH値は、3.5から4.1の範囲内であり、
前記組成物が充填された前記容器には、少なくとも1回の熱滅菌工程が実施され、
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏100℃である、容器。
【請求項20】
前記組成物は、実質的に防腐剤を含まない、請求項19に記載の容器。
【請求項21】
前記組成物のpH値は、3.6から4.0、好ましくは3.7から3.9の範囲内である、請求項19または20に記載の容器。
【請求項22】
前記組成物の粘度は、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内である、請求項19から21のいずれかに記載の容器。
【請求項23】
前記組成物は、緩衝液の少なくとも1分画をさらに含む、請求項19から22のいずれかに記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルの製造方法に関する。本発明は、そのような組成物を含む容器にも関する。
【0002】
高濃度のグルコースを含む経口使用のためのゲル組成物は、一般的に知られており、典型的には使用者の血中グルコース濃度を上昇させるために使用される。糖尿病患者においては、患者の適応代謝機構では対処できないほど低い数値まで血中グルコース濃度が低下した場合に、グルコースゲルの経口摂取により、危険な数値まで低下した血中グルコース濃度を上昇させることが可能である。経口グルコースゲルは、他にも、低血糖症、特に新生児低血糖症に対して使用できる。新生児低血糖症は、一般的には新生児において発症する。低血糖は、発達段階の子供、特にその脳において即座にエネルギー不足を引き起こし、対処せずにいると脳損傷や神経発達障害につながる。さらに、早産の発生件数の増加や、乳児が低血糖症となる素因となり得る糖尿病や肥満などの母体要因の増加により、低血糖症の罹患数は増加している。低血糖症は、合併症を防ぐために例えばグルコースゲルを経口投与してデキストロースを補充することより、迅速に回復し得る。
【0003】
本発明の目的は、少なくとも、既知のグルコースゲルの代替品および/またはそのようなグルコースゲルを製造するための代替方法を提供することである。
【0004】
本発明は、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルの製造方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
【0005】
a)グルコース水溶液を供給する工程、
b)酸の少なくとも1分画(fraction)の第1分画を添加し、前述の溶液を所定のpH範囲内のpH値に到達させる工程、
c)少なくとも1種のゲル化剤の分画を添加し、前述の(水)溶液とゲル化剤を混合して、所定の粘度範囲内の粘度を有する組成物、特にゲル組成物を得る工程、
d)少なくとも1個の容器を準備し、前述の組成物、特にゲル組成物の少なくとも1分画を前述の容器に充填する工程、および
e)前述の充填後の容器に対して少なくとも1回の滅菌工程、好ましくは熱滅菌工程を実施する工程。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明に係る方法は、既知の製造方法に対していくつかの利点がある。本方法の主な利点は、組成物、特にゲル組成物の製造において、防腐剤の使用を省略できることである。従って、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルを含み、防腐剤、特に抗菌防腐剤を実質的に含まない容器が得られる。グルコースゲルなどの同様の組成物の現在知られている製造方法において、防腐剤、特に抗菌防腐剤の使用は、細菌の増殖を阻害するために不可欠である。一般的に使用される防腐剤の例は、E番号でE202、E215、E217および/またはE219などであるが、これらに限定されない。防腐剤は、頭痛、動悸、アレルギーおよび/または発疹などの形で、使用者に有害な影響を及ぼす可能性があることが知られている。従って、防腐剤の使用を省略できることは非常に望ましい。少なくとも1回の(例えば、熱)滅菌工程を適用することにより、細菌および/または微生物は、殺菌および/または不可逆的に不活性化されて増殖が阻害される。実際、本発明に係る方法に適用される滅菌工程は、防腐剤使用の要求と置き換えることができる。(熱)滅菌工程のさらなる利点は、(熱)滅菌工程が組成物、特にゲル組成物の安定化に寄与することである。これは、ゲル組成物の構造および経口投与に対する適合性において、特に有益である。組成物を調製する工程と、それに引き続き、あらかじめ容器内に充填された組成物を滅菌する工程と、の組み合わせからなる方法により、すぐに使用可能な製品を製造できる。すぐに使用可能な製品、すなわち、調製された組成物、特にゲル組成物の少なくとも1分画が充填された容器は、比較的簡易的かつ効率的に得られる。容器に充填された状態で組成物が提供されることのさらなる利点は、使用の簡便さにおいて有益であることである。組成物は、例えば、容器から取り出されて直接経口投与されてもよい。(ゲル)組成物は、バルク調製された後に、少なくとも1個の容器、また好ましくは複数の容器に、組成物の少なくとも1分画が充填されてもよい。従って、本方法はラージスケールでの製造に適用することができる。得られた充填済み容器は、滅菌された製品を含むだけではなく、容器自体もまた無菌である。効率的な本製造方法は、費用対効果が比較的高く、経済的な観点からも有益である。前述のとおり、容器への充填後に滅菌を行うことにより、すぐに使用可能な製品が得られる。(ゲル)組成物がバルク状態で滅菌工程を経た後に容器内に詰められる場合、安全で汚染されていない製品が得られる保証はない。例えば、典型的には、前述の組成物は、滅菌工程に悪影響を及ぼし、または滅菌工程を無意味にさえする可能性の高い、外的影響に曝されることになる。本発明に係る方法により得られる製品のさらなる例では、製品は比較的長期間保存することが可能である。製品の保存可能期間は、典型的には6ヶ月超、特には12ヶ月超である。本発明に係る方法は、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルを含む容器を提供する方法ということもできる。少なくとも1個の容器への充填は、適切な既知の容器充填工程により行われてもよい。
【0007】
組成物は、調合乳ということもできる。調合乳は、例えば栄養調合乳または医療用調合乳である。本発明に係る組成物は、特に(新生児)低血糖症および/または糖尿病のためのグルコースゲルとして、および/または、例えばアスリートのための栄養補助食品として使用されるように構成されている。グルコース水溶液は、組成物の基本成分として提供される。グルコースを含む水溶液の提供は、製造工程の簡便性において有益である。グルコース水溶液は、典型的には、少なくとも部分的に水に溶解したグルコースまたは等価物を含む。溶液のpHを低下させるために、典型的には、酸の少なくとも1分画の第1分画が添加される。酸は、酸溶液であってもよい。グルコースの分解を防ぐために、(水溶性グルコース)溶液が所定のpH範囲内のpH値に達することが望ましい。溶液の粘度を高め、特にゲル状物質が得られるように、少なくとも1種のゲル化剤の分画が添加される。ゲル化剤は、典型的にはゲルを形成するために構成されている。ゲル化剤に言及する際に、ゲル化増粘剤を意味してもよい。ゲル化剤は、例えばゲラント、すなわちゲル化を引き起こす物質である。ゲル化剤の分画と(酸分画を含む)グルコース水溶液とを混合すると、所望の組成物、特にゲル組成物が得られる。実際には組成物は工程d)の後に使用可能ではあるが、安全な経口使用を保証するために、特に保存後には、組成物を含む容器に滅菌工程を実施することが望ましい。工程d)では、工程c)で調製された組成物を使用することは明白である。典型的には、本方法の工程は、連続した工程(subsequent steps)である。典型的には、本発明に係る方法により調製された場合、実質的に半透明の生成物またはグルコースゲルが得られる。半透明の生成物またはグルコースゲルの利点は、任意の不純物または(微生物学的)汚染を肉眼で簡単に観察できることである。不純物または(微生物学的)汚染は、典型的には、組成物の不透明化および/または白濁化の原因となる。
【0008】
滅菌工程は、好ましい実施形態では熱滅菌工程である。熱滅菌は、例えば乾熱および/または湿熱の使用を含んでもよい。本方法の好ましい実施形態では、熱滅菌工程の少なくとも一部の間、温度は少なくとも摂氏100℃である。少なくとも摂氏100℃の温度を適用することにより、組成物内に存在する細菌および/または微生物を、確実に殺菌および/または不可逆的に不活性化できる。さらなる好ましい実施形態では、熱滅菌工程の少なくとも一部の間、温度は少なくとも摂氏110℃、または少なくとも摂氏120℃である。温度は、例えば摂氏110℃から130℃の範囲内であってもよい。好ましくは、熱滅菌は、蒸気、および/または、蒸気/ガス混合物を含む滅菌雰囲気下で実施される。蒸気/ガス混合物を適用する場合、混合物は、蒸気と、窒素、酸素および不活化ガスのうちの少なくとも1種と、の混合物を含んでもよい。
【0009】
熱滅菌工程中に適用される温度は、熱滅菌工程の所要時間に影響を与える。熱滅菌工程は、典型的には2から60分間実施される。熱滅菌工程は、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間適用される。熱滅菌工程は、好ましくは30分よりも短く、より好ましくは20分よりも短い。より好ましくは、少なくとも摂氏100℃の温度での熱滅菌工程が、好ましくは5から30分間、より好ましくは10から20分間適用される。熱滅菌工程の所要時間に影響を与える他の要因は、圧力である。熱滅菌工程は、典型的には大気圧よりも高い圧力で実施される。本方法の少なくとも1回の熱滅菌工程は、好ましくは1.05から5bar、より好ましくは1.1から3barの圧力で実施される。少なくとも1回の滅菌工程の前に、加熱工程を実施することが考えられる。例えば、滅菌前にグルコースを加熱して、グルコースの粘性をより高めるためである。
【0010】
本方法の可能な実施形態では、熱滅菌工程は、第1圧力で実施される第1段階と、第1段階に続いて第2圧力で実施される第2段階と、を少なくとも有し、好ましくは、第2圧力は第1圧力よりも高い。例えば、第2圧力が第1圧力よりも少なくとも0.1bar、好ましくは少なくとも0.5bar高くてもよい。第1段階と第2段階との間の圧力上昇は、例えば(密閉)滅菌装置内に空気を導入することによってなされてもよい。滅菌工程は、複数の工程、好ましくは連続した複数の工程を含むことも考えられる。
【0011】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1回の熱滅菌工程の後に冷却工程が続く。冷却工程の間、少なくとも一時的に支持圧力が加えられ、少なくとも部分的に溶液が充填された医療用容器内の圧力が相殺される。熱滅菌工程は、典型的には、例えばオートクレーブ装置などの密閉滅菌装置内で実施される。本方法のさらなる可能な実施形態では、熱滅菌の代わりに他の形態の滅菌を適用することも考えられる。
【0012】
本発明に係る方法のさらなる可能な実施形態では、少なくとも1回の滅菌工程は、膜ろ過および無菌操作、電離放射線滅菌(例えば、ガンマおよび/または電子線照射)、および/または、ガス滅菌(例えば、エチレンオキサイド滅菌)のうちの少なくとも1種であることが考えられる。
【0013】
準備される容器は、好ましい実施形態では、1回使いきり用の容器である。容器は、例えば、意図する用途に応じた容量に構成されてもよい。本発明に使用可能な容器の例は、シリンジ、アンプル、カートリッジ、バイアル、チューブおよび/または医療器具であるが、これらに限定されない。容器の少なくとも一部は、例えば、ガラスおよび/またはプラスチックにより構成されてもよい。容器は、使い捨て容器であることが考えられる。容器は、例えばブリスターパッケージにて提供されてもよい。
【0014】
本発明に係る方法に適用されるグルコース水溶液は、好ましくは防腐剤、特に抗菌防腐剤を実質的に含まない。典型的には、グルコース水溶液は、少なくとも20重量%、好ましくは30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも60重量%のグルコースを含む。この重量%は、工程a)で供給される溶液に関するものである。しかし、この重量%は最終組成物にも適用可能である。グルコースについては、例えばd-グルコースまたはデキストロースでもよいが、経口摂取に適した任意の単糖類でもよい。従って、本発明は、グルコース以外の糖を含むゲル組成物にも関する。ゲル組成物は、少なくとも1種の(単)糖類を含むことが考えられる。(単)糖類の例は、デキストロース、フルクトースおよび/またはサッカロースなどであるが、これらに限定されない。本発明概念に含まれるグルコースを置換し得るさらなる例は、D-グルコース、D-アロース、D-アルトロース、D-マンノース、D-グロース、D-イドース、D-ガラクトースおよび/またはD-タロースなどのアルドヘキソース、アラビノース、リキソース、リボースおよび/またはキシロースなどのアルドペントース、フルクトース、プシコース、ソルボースおよび/またはタガトースなどのケトヘキソース、および/または、トレハロースであるが、これらに限定されない。
【0015】
組成物の体積および/またはpH範囲および粘度範囲と同様に、原料の分画も、意図する用途に適合されてもよい。上記のとおり、組成物は、(新生児)低血糖症および/または糖尿病のためのグルコースゲルとして、および/または、例えばアスリートのための栄養補助食品として使用できる。従って、意図する用途によって、変量はわずかに異なってもよい。
【0016】
工程b)で供給される酸の第1分画は、好ましい実施形態ではクエン酸を含む。クエン酸は、溶液を確実に所定のpH範囲内のpH値に到達させるために適していることが認められている。さらに、クエン酸は、組成物の風味に対して良好な効果をもたらすことが認められている。従って、リン酸もまた適しているかもしれないが、風味に対する効果を考慮すると、リン酸はクエン酸よりも適してはいない。本発明に係る方法において使用可能な酸の例は、酢酸またはエタン酸であるが、これらに限定されない。酸の第1分画は、例えばこれら成分の組み合わせを含んでもよい。
【0017】
溶液が4未満のpH値に到達するように、酸の少なくとも1分画の第1分画が添加されることが好ましい。グルコースの分解を防ぐために、pHは比較的低いことが好ましい。さらに好ましい実施形態では、(水性グルコース)溶液が、2から6、好ましくは3.1から4.3、またより好ましくは3.5から4.1のpH値に到達するように、酸の少なくとも1分画の第1分画が添加される。溶液は、2から6、好ましくは3.1から4.3、またより好ましくは3.5から4.1のpH値を有することが好ましい。(水性グルコース)溶液が3.7から3.9のpH値に到達するように、酸の少なくとも1分画の第1分画が添加されることも考えられる。到達したpHが実質的に3.8であることも考えられる。このpH範囲は、グルコースの分解を妨げる。特に、製造工程中にグルコースがカラメル化することを妨げる。このpH範囲により、ゲル化剤の安定性も維持することができる。さらに好ましい実施形態では、溶液が、3.1から4.3、また好ましくは3.5から4.1または3.4から4.2のpH値に到達するように、または到達するまで、酸の分画が添加される。酸の第1分画の量は、例えば0.1から3重量%、好ましくは0.7から1.5重量%、より好ましくは0.8から1.3重量%と考えられる。
【0018】
工程b)の間またはその後に、少なくとも1種の緩衝液が添加されるとさらに有益である。そのような緩衝液は、溶液のpHを所定のpH範囲内で安定させるように構成される。緩衝液は、特に、工程c)の酸分画の添加により到達したpH値を実質的に維持するよう構成される。緩衝液は、例えばクエン酸三ナトリウムを含んでもよい。使用可能な緩衝液の例は、クエン酸二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび/または酢酸(ナトリウム)緩衝液であるが、これらに限定されない。例えば、本発明の酸として、クエン酸-リン酸緩衝液の分画を使用することができる。
【0019】
ステップc)に適用されるゲル化剤は、好ましくはヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含む。ゲル化剤は、好ましくは(比較的)短い鎖長を有するヒドロキシエチルセルロースを含む。ヒドロキシエチルセルロースは、90,000から1,300,000Daの範囲内、好ましくは300,000から1,000,000Daの範囲内、また最も好ましくは700,000から750,000Daの範囲内の(重量)平均分子量を有する。ヒドロキシエチルセルロースの重合度は、適用するとすれば、好ましくは300から4,800の範囲内、好ましくは2,400から2,900の範囲内、より好ましくは実質的に2,600である。ゲル化剤としてのヒドロキシエチルセルロースは、(熱)滅菌工程中に適用される比較的高い温度のみならず、比較的低い好ましいpH範囲にも耐え得ることが実験的に認められている。さらに、ヒドロキシエチルセルロースは、滅菌工程中に安定であることも認められている。ゲル化剤は、好ましくは比較的短い鎖長を有するゲラントである。使用可能なゲル化剤のさらなる例は、カルボキシメチルセルロース(CMC)である。使用可能な他のセルロース系ゲル化剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース(EC)、CMHP、MC、アルギン酸塩、コラーゲンおよび/またはケイ酸塩である。これらのゲル化剤の組み合わせも考えられる。
【0020】
工程c)の間、組成物、特にゲル組成物が、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、またより好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内の粘度に到達するように、好ましくはゲル化剤が添加される。この粘度範囲は、アントンパール社のレオメータ、特にMCR102を用いて実施した測定に基づく。この粘度範囲により、組成物、特にゲル組成物に、所望の硬さおよび/または展延性を確実にもたせることができる。粘度が高すぎたり低すぎたりすると、窒息の危険性のために、例えば乳児の経口投与に対する組成物の適性に影響を与える可能性がある。
【0021】
ステップc)の間に、0.5から5重量%、好ましくは1から3重量%、より好ましくは1.5から2.5重量%のゲル化剤の分画を添加することが考えられる。例えば、1.8から2.3重量%のゲル化剤を添加することが可能である。そのような比較的少量のゲル化剤により、組成物のpH値またはpH範囲に悪影響を与えずに、組成物の粘度を確実に所定の粘度範囲内に収められることが実験的に認められている。
【0022】
本発明はまた、本発明に係る方法により得られる、新生児低血糖症の治療に使用するための組成物にも関する。
【0023】
本発明はさらに、組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルを含む容器に関する。組成物は、グルコースと、酸の第1分画と、ゲル化剤の分画と、を少なくとも含み、組成物が充填された容器には、少なくとも1回の(熱)滅菌工程が実施され、好ましくは、熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は少なくとも摂氏100℃である。ゲル化剤は、好ましくはヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含む。組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルは、好ましくは防腐剤、特に抗菌防腐剤を実質的に含まない。典型的には、組成物は水の分画をさらに含む。本発明に係る方法の例示的な実施形態はいずれも、本発明に係る容器においても適用される。従って、容器は、典型的には、上記の利点を享受した、すぐに使用可能な製品である。
【0024】
容器は、例えば1回使いきり用の容器である。本発明に使用可能な容器の例は、シリンジ、アンプル、カートリッジ、バイアル、チューブおよび/または医療器具であるが、これらに限定されない。容器の少なくとも一部は、例えばガラスおよび/またはプラスチックにより構成されてもよい。容器は、使い捨て容器であることが考えられる。容器は、例えばブリスターパッケージにて提供されてもよい。滅菌工程は、例えば熱滅菌工程である。例えば、少なくとも1回の滅菌工程は、膜ろ過および無菌操作、電離放射線滅菌、ガンマおよび/または電子線照射、および/または、ガス滅菌(例えば、エチレンオキサイド滅菌)のうちの少なくとも1種であることも考えられる。
【0025】
組成物は、好ましくは防腐剤を実質的に含まない。さらに、組成物は、2から6、好ましくは3.1から4.3、またより好ましくは3.5から4.1の範囲内のpH値を有してもよい。組成物は、3.7から3.9のpH範囲内のpH値を有することも考えられる。より好ましくは、組成物のpHは、実質的に3.8である。組成物は、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内の粘度を有してもよい。組成物は、緩衝液の少なくとも1分画をさらに含むことも考えられる。本方法には、前述したすべての可能な例およびその組み合わせが用いられることが考えられる。組成物の意図した用途のためには、エタノールおよび/または他のアルコールの使用は避けるべきである。
【0026】
本発明は、以下の非限定的な項目に基づき、さらに説明される。
【0027】
1.組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルの製造方法であって、
a)グルコース水溶液を提供する工程と、
b)酸の少なくとも1分画の第1分画を添加し、前述の溶液を所定のpH範囲内のpH値に到達させる工程と、
c)少なくとも1種のゲル化剤の少なくとも1分画を添加し、前述の溶液とゲル化剤を混合して、所定の粘度範囲内の粘度を有する組成物、特にゲル組成物を得る工程と、
d)少なくとも1個の容器を準備し、前述の組成物、特にゲル組成物の少なくとも1分画を前述の容器に充填する工程と、
e)前述の充填後の容器に対して少なくとも1回の滅菌工程を実施する工程と、を備える方法。
【0028】
2.前述の工程は連続した工程である、項目1に記載の方法。
【0029】
3.前述の滅菌工程は熱滅菌工程であり、前述の熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、好ましくは少なくとも摂氏100℃である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0030】
4.前述の滅菌工程は1.05から5barの圧力で実施される、項目3に記載の方法。
【0031】
5.前述の熱滅菌工程は、第1圧力で実施される第1段階と、第1段階に続いて第2圧力で実施される第2段階と、を少なくとも有し、前述の第2圧力は前述の第1圧力よりも高い、項目3または項目4に記載の方法。
【0032】
6.少なくとも1回の熱滅菌工程の後に冷却工程が続き、前述の冷却工程の間、少なくとも一時的に支持圧力が加えられ、溶液が充填された医療用容器内の圧力が相殺される、項目3から5のいずれかに記載の方法。
【0033】
7.前述の容器は1回使いきり用の容器である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0034】
8.前述のグルコース水溶液は、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも60重量%のグルコースを含む、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0035】
9.前述の酸の第1分画はクエン酸を含む、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0036】
10.前述の溶液のpH値が、2から6、好ましくは3.1から4.3、より好ましくは3.5から4.1に達するように、前述の酸の第1分画が添加される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0037】
11.前述の酸の第1分画は、0.1から3重量%、好ましくは0.7から1.5重量%、より好ましくは0.8から1.3重量%である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0038】
12.工程b)の間またはその後に、少なくとも1種の緩衝液が添加される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0039】
13.前述の緩衝液はクエン酸三ナトリウムを含む、項目12に記載の方法。
【0040】
14.前述のゲル化剤はヒドロキシエチルセルロースを含む、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0041】
15.前述の組成物、特にゲル組成物が、1000から5000mPa・s、好ましくは15000から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内の粘度に達するように、ゲル化剤が添加される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0042】
16.工程c)の間に、0.5から5重量%、好ましくは1から3重量%、より好ましくは1.5から2.5重量%のゲル化剤の分画が添加される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0043】
17.先行する項目のいずれかに記載の方法により得られる組成物であって、新生児低血糖症の治療に用いられる、組成物。
【0044】
18.組成物、特にゲル組成物、より詳細にはグルコースゲルを含む容器であって、前述の組成物は、グルコースと、酸の第1分画と、ゲル化剤の分画と、を少なくとも含み、前述の組成物が充填された前述の容器には、少なくとも1回の熱滅菌工程が実施される、容器。
【0045】
19.前述の組成物は実質的に防腐剤を含まない、項目18に記載の容器。
【0046】
20.前述の組成物のpH値は、2から6、好ましくは3.1から4.3、より好ましくは3.5から4.1の範囲内である、項目18または19に記載の容器。
【0047】
21.前述の組成物の粘度は、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内である、項目18から20のいずれかに記載の容器。
【0048】
22.前述の組成物は緩衝液の少なくとも1分画をさらに含む、項目18から21のいずれかに記載の容器。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル組成物、特にグルコースゲルの製造方法であって、
連続した工程として、
a)グルコース水溶液を供給する工程と、
b)酸の少なくとも1分画の第1分画を添加し、前記溶液を3.5から4.1の範囲内のpH値に到達させる工程と、
c)少なくとも1種のゲル化剤の少なくとも1分画を添加し、前記溶液とゲル化剤を混合して、所定の粘度範囲内の粘度を有するゲル組成物を得る工程と、
d)少なくとも1個の容器を準備し、前記ゲル組成物の少なくとも1分画を前記容器に充填する工程と、
e)前記充填後の容器に対して少なくとも1回の熱滅菌工程を実施する工程と、
を備え、
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏100℃である、方法。
【請求項2】
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏120℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記滅菌工程は、1.05から5barの圧力で実施される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記熱滅菌工程は、第1圧力で実施される第1段階と、第1段階に続いて第2圧力で実施される第2段階と、を少なくとも有し、前記第2圧力は前記第1圧力よりも高い、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1回の熱滅菌工程の後に冷却工程が続き、前記冷却工程の間、少なくとも一時的に支持圧力が加えられ、溶液が充填された医療用容器内の圧力が相殺される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記容器は、1回使いきり用の容器である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記グルコース水溶液は、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも60重量%のグルコースを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記グルコース水溶液は、防腐剤、特に抗菌防腐剤を実質的に含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記酸の第1分画は、クエン酸を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記溶液のpH値が、3.6から4.0、好ましくは3.7から3.9に到達するように、前記酸の第1分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記酸の第1分画は、0.1から3重量%、好ましくは0.7から1.5重量%、より好ましくは0.8から1.3重量%である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程b)の間またはその後に、少なくとも1種の緩衝液が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記緩衝液は、クエン酸三ナトリウムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ゲル化剤は、ヒドロキシエチルセルロースを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記組成物、特にゲル組成物が、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内の粘度に到達するように、ゲル化剤の少なくとも1分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
工程c)の間に、0.5から5重量%、好ましくは1から3重量%、より好ましくは1.5から2.5重量%のゲル化剤の分画が添加される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
先行する請求項のいずれかに記載の方法により得られる組成物であって、新生児低血糖症の治療に用いられる、組成物。
【請求項18】
ゲル組成物、特にグルコースゲルを含む容器であって、
前記ゲル組成物は、グルコースと酸の第1分画と、ゲル化剤の分画と、を少なくとも含み、
前記ゲル組成物のpH値は、3.5から4.1の範囲内であり、
前記組成物が充填された前記容器には、少なくとも1回の熱滅菌工程が実施され、
前記熱滅菌工程の少なくとも一部の間における温度は、少なくとも摂氏100℃であり、
前記組成物は、実質的に防腐剤を含まない、容器。
【請求項19】
前記組成物のpH値は、3.6から4.0、好ましくは3.7から3.9の範囲内である、請求項18に記載の容器。
【請求項20】
前記組成物の粘度は、1000から5000mPa・s、好ましくは1500から3500mPa・s、より好ましくは1800から3000mPa・sの範囲内である、請求項18または19のいずれかに記載の容器。
【請求項21】
前記組成物は、緩衝液の少なくとも1分画をさらに含む、請求項18から20のいずれかに記載の容器。
【国際調査報告】