(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ペロブスカイト太陽電池モジュールのための高速ハイブリッドCVD
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230803BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20230803BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20230803BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20230803BHJP
H10K 71/40 20230101ALI20230803BHJP
H10K 71/10 20230101ALI20230803BHJP
H10K 71/12 20230101ALI20230803BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20230803BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20230803BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H01L31/04 420
H10K85/50
H10K71/40
H10K71/10
H10K71/12
H10K71/16
C23C16/448
C23C16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575675
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 IB2021054618
(87)【国際公開番号】W WO2021250499
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】チー ヤビン
(72)【発明者】
【氏名】チュウ ロンビン
(72)【発明者】
【氏名】ホォ スースー
(72)【発明者】
【氏名】大野 ルイス 勝也
【テーマコード(参考)】
3K107
4K030
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107EE68
4K030BA01
4K030BA16
4K030BA42
4K030BA45
4K030BA61
4K030CA12
4K030LA04
4K030LA16
5F251AA20
5F251BA11
5F251BA14
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5F251DA04
5F251FA04
5F251FA06
5F251XA01
5F251XA61
(57)【要約】
本明細書では、急速ハイブリッド化学気相成長を行うためのシステムおよび方法を説明する。一実施形態では、第1の前駆体材料が、基板上に堆積される。基板は、加熱装置の保持部に配置され、加熱装置は保持部の少なくとも一部を加熱する。第2の前駆体材料は、有機化合物が基板よりも加熱装置のガス源に近くなるように、加熱装置の保持部に配置される。ガス流が、加熱装置の保持部を通じて生成される。加熱部は、基板と第2の前駆体材料とを含む保持部の一部を加熱するために用いられる。加熱プロセスの間、第2の前駆体材料の少なくとも一部が、第1の前駆体材料の少なくとも一部の上に堆積する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
a)基板上に第1の前駆体材料を堆積させる工程と、
b)前記基板を加熱装置の保持部へ配置する工程であって、前記加熱装置は前記保持部の少なくとも一部を加熱する加熱部を備える工程と、
c)第2の前駆体材料を、前記第2の前駆体材料が前記基板よりも前記加熱装置のガス源に近くなるように、前記加熱装置の前記保持部に配置する工程と、
d)前記加熱装置の前記保持部を介してガス流を発生させる工程と、
e)前記加熱部を用いて、前記基板と前記第2の前駆体材料とを含む前記保持部の一部を加熱する工程と、
を含み、
前記工程e)では、前記第2の前駆体材料の少なくとも一部が、前記基板上の前記第1の前駆体材料の少なくとも一部の上に堆積する、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記加熱装置は、冷却部を備え、
f)前記工程e)の後に、前記冷却部を用いて、前記基板を含む前記保持部の一部を冷却する工程を含む、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記冷却部は、1つ以上のファン、ドライアイス、または冷却された乾燥空気の供給手段を含む、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記冷却部は、前記保持部に対して機械的に移動可能であり、
前記工程f)では、前記基板を含む前記保持部の一部を前記冷却部が冷却する位置に、前記冷却部を移動させる、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記加熱部は、赤外線加熱部を含む、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項5に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記加熱部は、前記保持部に対して移動可能であり、
前記工程e)では、前記基板と前記第2の前駆体材料とを含む前記保持部の一部を前記加熱部が加熱する位置に、前記加熱部を移動させる、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記第2の前駆体材料は、ヨウ化ホルムアミジニウム、ヨウ化メチルアンモニウム、臭化メチルアンモニウム、または臭化ホルムアミジニウムを含む、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記第1の前駆体材料は、CsI層、PbI
2層、PbBr
2層、またはCsBr層のうち1つ以上を有する、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記第1の前駆体材料は、CsIとPbI
2とを含む層を有し、
前記CsIとPbI
2とを含む層は、共蒸着、スプレーコーティング、ドクターブレード法、またはスピンコートにより堆積される、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池製造方法であって、
前記加熱装置は、
真空ポンプと、
真空計と、
をさらに備え、
前記工程e)では、前記真空ポンプと前記真空計とを用いて、前記保持部の真空度を制御する、ペロブスカイト太陽電池製造方法。
【請求項11】
加熱装置であって、
基板上の無機前駆体材料と、有機化合物と、を保持する保持部と、
前記基板と前記有機化合物とを含む前記保持部の少なくとも一部を加熱することにより、前記基板上にペロブスカイト層を形成させる加熱部と、
前記保持部の真空度を計測する真空計と、
前記保持部の少なくとも一部に真空を形成させる真空ポンプと、
を備える、加熱装置。
【請求項12】
請求項11に記載の加熱装置であって、
前記加熱部は、赤外線加熱部を備える、加熱装置。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の加熱装置であって、
前記加熱部は、前記保持部に対して機械的に移動可能である、加熱装置。
【請求項14】
請求項11に記載の加熱装置であって、
前記基板上に前記ペロブスカイト層が形成された前記基板を含む前記保持部の一部を冷却する冷却部をさらに備える、加熱装置。
【請求項15】
請求項14に記載の加熱装置であって、
前記冷却部は、1つ以上のファン、ドライアイス、または冷却された乾燥空気流を供給する器具を備える、加熱装置。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載の加熱装置であって、
前記冷却部は、前記保持部に対して移動可能である、加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペロブスカイト太陽電池モジュールを作製するためのCVD(化学気相成長)技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本項に記載されるアプローチは、追求することが可能なアプローチではあるが、必ずしも、既に着想されたまたは追求されたアプローチではない。したがって、特に断りのない限り、本項に記載されるアプローチのいずれもが、単に本項に含まれるという理由で、先行技術として適切であると見なすべきではない。さらに、本項に記載されるアプローチのいずれもが、単に本項に含まれるという理由で、よく理解され、日常的であり、または従来的であると見なすべきではない。
【0003】
低コスト材料であるペロブスカイトは、小面積(0.09cm2)の単接合太陽電池の性能を最大25.2%まで向上させ、効率20%で寿命15年以上の1m2のモジュールを仮定した場合に予想される均等化発電原価(LCOE)は、3.5USセント/kWhと低い(比較として、系統電力のLCOEは7.04~11.90USセント/kWhであり、c-Si太陽電池のLCOEは9.78~19.33USセント/kWhである)。これは、住宅用太陽光発電における米国エネルギー省の2030年目標である5USセント/kWhに勝る。近年、所望の性能で小面積のセルから大面積のモジュールへ移行するために、ペロブスカイト太陽電池モジュール(PSMs)のスケーラブルな製造方法に焦点を合わせた研究が増えている。しかしながら、小面積のセルと大面積のモジュールとの間には、未だに大きな隔たりがある。
【0004】
スケーラブルな製造を実現するためには、アップスケール時の性能劣化率が重要なポイントとなる。成熟した太陽光発電技術(例えば、結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、CdTe太陽電池)では、絶対性能劣化率は10年ごとに面積換算で約0.8%増加する。ペロブスカイト太陽電池技術で同じ劣化率を実現できれば、先行技術の小面積セル(セル面積0.0937cm2で25.2%PCE)からスケールアップした場合、約1000cm2の約22%のエネルギー変換効率(PCE)が期待される。現在、このような大型PSMにおいて最も高いPCEは、802cm2の指定領域において16.1%であると報告されている。小面積のセルと大面積のモジュールとのPCEの差を減らすためには、ペロブスカイトおよびその他の機能層(例えば、電子輸送層(ETL)、正孔輸送層(HTL)、電極、および表面改質)のスケーラブルな製造方法が必要となる。ペロブスカイト太陽電池(PSC)のスケーラブルな製造のために、ドクターブレード法、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、熱蒸着、およびハイブリッド化学気相成長(HCVD)などの、溶液ベースと蒸気ベースとの両方のプロセスが報告されている。
【0005】
HCVDは、大面積にわたって均一な成膜が可能である点、低コストである点、無溶媒である点、他の薄膜太陽電池技術(例えば、薄膜シリコン太陽電池)と組み合わせてタンデム型太陽電池を形成できるといった利点から、溶液ベースの方法よりも有望な方法である。現在、小面積のセルと大面積のモジュールとの間の劣化率の面積増加は1.3%/10年であり、他の成熟した太陽光発電技術に近づいている。HCVDは2ステップの成膜プロセスである。第1ステップでは、無機前駆体材料(例えば、PbI2、PbCl2、CsIなど)を、熱蒸着、スプレーコーティング、またはスピンコーティングにより成膜する。第2ステップでは、有機前駆体材料(例えば、FAI、MAI、MABrなど。ここで、FAとはホルムアミジニウムであり、MAとはメチルアンモニウムである)をCVD管状炉の第1加熱ゾーンで昇華させ、続いて、ガス流(例えば、N2、Ar、または乾燥空気)により第2加熱ゾーンへ移動させる。ここでは、有機前駆体蒸気が、基板に予め成膜された無機前駆体と反応することで、ペロブスカイト膜が成長する。ペロブスカイト膜の作製のために、圧力とゾーンの温度とに基づいて、大気圧HCVD、低圧HCVD、シングルゾーンHCVD、およびダブルゾーンHCVDなどの様々なHCVD技術が開発されている。しかしながら、どのHCVDプロセスも、通常は比較的長い処理時間(2~3時間)を要するため、大面積の太陽電池を製造するための量産能力は大きく制限される。成膜時間をいかに短縮するかが、HCVDをさらに発展させるための課題の一つである。さらに、成膜時間が長くなると、SnO2やTiO2などのETLに悪影響を及ぼし、太陽電池モジュールの性能が低下することがわかっている。また、ETL層とペロブスカイト層との界面が最適化されていないために、ヒステリシス挙動が観察された。C60のような追加のバッファ層を使用することにより、真空アニールがETLに与える悪影響を低減し、HCVD処理された太陽電池の性能を向上させることができる。しかしながら、この追加層は、成膜プロセスのコストおよび複雑性を増大させる。
【発明の概要】
【0006】
添付の特許請求の範囲は、本開示の概要として機能しうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、平面型ペロブスカイト太陽電池の例を示す図である。
【0008】
【
図2】
図2は、ペロブスカイト膜を生成するための装置の例を示す図である。
【0009】
【
図3】
図3は、急速ハイブリッドCVDプロセスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明では、説明のために、本発明を完全に理解するための多数の具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本発明の実施には、これらの具体的な詳細は不要であることは明らかである。また、他の例では、本発明を不必要に不明瞭にしないために、周知の構造および装置はブロック図で示されている。
【0011】
<概説>
【0012】
一実施形態は、ペロブスカイト太陽電池製造方法であって、a)基板上に第1の前駆体材料を堆積させる工程と、b)前記基板を加熱装置の保持部に配置する工程であって、前記加熱装置は前記保持部の少なくとも一部を加熱する加熱部を備える工程と、c)第2の前駆体材料を、前記第2の前駆体材料が前記基板よりも前記加熱装置のガス源に近くなるように、前記加熱装置の前記保持部に配置する工程と、d)前記加熱装置の前記保持部を介してガス流を発生させる工程と、e)前記加熱部を用いて、前記基板と前記第2の前駆体材料とを含む前記保持部の一部を加熱する工程と、を含み、前記工程e)では、前記第2の前駆体材料の少なくとも一部が、前記基板上の前記第1の前駆体材料の少なくとも一部に堆積する。
【0013】
一実施形態では、前記加熱装置は、冷却部を備え、f)前記工程e)の後に、前記冷却部を用いて、前記基板を含む前記保持部の一部を冷却する工程を含む。一実施形態では、前記冷却部は、1つ以上のファン、ドライアイス、または冷却された乾燥空気の供給手段を含む。一実施形態では、前記加熱部は、赤外線加熱部を備える。一実施形態では、1つ以上の前記加熱部または前記冷却部は、前記保持部に対して機械的に移動可能であり、加熱または冷却を行う位置にそれぞれ移動される。
【0014】
一実施形態では、前記第2の前駆体材料は、ヨウ化ホルムアミジニウム、ヨウ化メチルアンモニウム、臭化メチルアンモニウム、または臭化ホルムアミジニウムを含む。一実施形態では、無機前駆体材料は、CsIとPbI2とを含む層を含む。一実施形態では、前記CsIとPbI2とを含む層は、共蒸着、スプレーコーティング、ドクターブレード法、またはスピンコートにより堆積される。一実施形態では、前記加熱装置は、真空ポンプと、真空計と、をさらに備え、前記工程e)では、前記真空ポンプと前記真空計とを用いて、前記保持部の真空度を制御する。
【0015】
一実施形態は、加熱装置であって、基板上の無機前駆体材料と、有機化合物と、を保持する保持部と、前記基板と前記有機化合物とを含む前記保持部の少なくとも一部を加熱することにより、前記基板上にペロブスカイト層を形成させる加熱部と、前記保持部の真空度を計測する真空計と、前記保持部の少なくとも一部に真空を形成させる真空ポンプと、を備える。一実施形態では、前記加熱部は、赤外線加熱部を備える。一実施形態では、前記加熱部は、前記保持部に対して機械的に移動可能である。一実施形態では、加熱装置は、前記基板上に前記ペロブスカイト層が形成された前記基板を含む前記保持部の一部を冷却する冷却部をさらに備える。一実施形態では、前記冷却部は、1つ以上のファン、ドライアイス、または冷却された乾燥空気流を供給する器具を備える。一実施形態では、前記冷却部は、前記保持部に対して移動可能である。
【0016】
<ペロブスカイト太陽電池の構造>
【0017】
一実施形態では、n-i-p平面型ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、電子輸送層(ETL)と正孔輸送層(HTL)との間にペロブスカイト層が挟まれた構造を有する。一実施形態では、PSC構造はメソポーラス構造を含まない。これにより、PSC構造を生成するための高温ステップが不要となる。
【0018】
図1は、平面型ペロブスカイト太陽電池の構造の例を示す図である。一実施形態では、平面型ペロブスカイト太陽電池100は、インジウムドープ酸化スズ(ITO)基板を含む下層102を有する。ITO基板は、透明導電性酸化物(TCO)に相当する。ITO基板は、蒸留水、アセトン、イソプロパノールで順次洗浄し、N
2ガスで乾燥させてもよい。第2層104は、酸化スズ(SnO
2)ナノ結晶層を含んでいてもよい。SnO
2層は、ITO層上に3000rpmで30秒間スピンコートされ、例えば150℃で30分間乾燥されてもよい。TCOおよびETLは、それぞれITO層およびSnO
2層を含むものとして
図1に示されているが、他の実施形態では、本明細書に記載される急速ハイブリッドCVD(RHCVD)プロセスに適するいずれのTCOおよびETLを含んでいてもよい。
【0019】
ペロブスカイト層106は、本明細書に記載されるシステムおよび方法によりETL上に堆積された無機前駆体材料および有機前駆体材料を含む。一実施形態では、ペロブスカイト層106は、ヨウ化セシウム、ホルムアミジニウム(FA)、およびヨウ化鉛の組み合わせを含んでいてもよい。他の実施形態では、例えば無機材料として塩化鉛、または有機材料としてメチルアンモニウムのような、有機前駆体材料と無機前駆体材料との異なる組み合わせを含んでいてもよい。ペロブスカイト層の組成は、例えば、Cs0.1FA0.9PbI3と例示される。
【0020】
正孔輸送層108は、ペロブスカイト層106の上に配置される正孔輸送材料を含む。正孔輸送層108は、例えば回転速度300rpmで30秒間、ペロブスカイト層106上にスピンコートされてもよい。一実施形態では、正孔輸送層108は、spiro-MeOTAD、リン酸トリブチル(TBP)、およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のクロロベンゼン溶液を含む。一実施例として、溶液は、0.4mLのクロロベンゼン中に、20mgのspiro-MeOTAD、11.5μLのTBP、および7μLのLiTFSIを含むものであってもよい。上層110は、100~120nmの厚さを有する金の層などに例示される、バックコンタクト電極を含んでいてもよい。
【0021】
<急速ハイブリッド化学気相成長装置>
【0022】
図2は、ペロブスカイト太陽電池モジュールを作製するための装置の例を示す図である。一実施形態では、装置200は高温短時間アニール(RTA)管状炉を有する。装置200は、シングルゾーンまたはマルチゾーンの管202を有する。管202は、所望の温度まで加熱され、内部の物体に熱を伝達することができる任意の材料を含んでいてもよい。管202は、例えば、石英管であってもよい。
【0023】
入口204は、ガスを管202内へ注入することができる開口を有する。入口204は、管202内の圧力を測定するための真空計(図示せず)を配置できる場所を有していてもよい。出口206は、管202内の圧力を下げるための真空ポンプ(図示せず)を取付可能な開口を有する。出口206は、ガスが管202から流出可能な開口をさらに有していてもよい。
【0024】
加熱システム208は、管202の一区画に熱を加えるように構成された1または複数の加熱装置を有する。一実施形態では、加熱システム208は赤外線加熱システムを有する。加熱システム208は、管202に対して機械的に自由に動くことができてもよい。加熱システム208は、加熱システム208が管202の水平軸に沿って自由に動くことができるような1または複数のレールに取り付けられていてもよい。加熱システム208の移動は、機械的に制御されてもよいし、コンピューティングデバイスにより自動的に制御されてもよい。
【0025】
冷却システム210は、管202の一部を冷却する、1つ以上の冷却装置を有する。一実施形態では、冷却システム210は、1つ以上のファンを有する。冷却システム210は、管202に対して機械的に自由に動くことができてもよい。冷却システム210は、冷却システム210が管202の水平軸に沿って自由に動くことができるような、1つ以上のレールに取り付けられていてもよい。冷却システム210の移動は、機械的に制御されてもよいし、コンピューティングデバイスにより自動的に制御されてもよい。一実施形態では、冷却システム210および加熱システム208は、加熱システム208が移動することにより冷却システム210が移動するように取り付けられている。
【0026】
基板212は、1つ以上の太陽電池モジュールを備える。この太陽電池モジュールには、本明細書に記載される方法により、ペロブスカイト膜が成膜される。一実施形態では、基板212は、装置200のプラットフォーム内に配置される。一実施形態では、このプラットフォームは制御可能である。これにより、本明細書に記載される方法の実行中に、基板を装置200内において移動させることができる。一実施形態では、基板212は、CsIとPbI2との混合物などの無機前駆体材料でプレコートされる。
【0027】
蒸着材料214は、装置200に配置された昇華用の有機前駆体材料を含む。有機前駆体材料は、ヨウ化ホルムアミジニウム、ヨウ化メチルアンモニウム、臭化メチルアンモニウム、または他の適切な有機前駆体材料を含んでいてもよい。有機前駆体材料は、装置200を通過するガスの流れに対して、基板212の上流側に配置してもよい。一実施形態では、蒸着材料214は、装置200内のプラットフォーム上に配置される。一実施形態では、このプラットフォームは制御可能である。これにより、本明細書に記載される方法の実行中に、蒸着材料を装置200内において移動させることができる。
【0028】
<急速ハイブリッド化学気相成長>
【0029】
図3は、急速ハイブリッド化学気相成長プロセスの例を示す図である。
図3の例には、本明細書に記載される急速ハイブリッド化学気相成長における1つの実装形態が含まれている。その他の例では、異なる材料、異なる種類の加熱装置または冷却装置、異なる種類の移動機構、マルチゾーン管、および/または他の変形を含んでいてもよい。
【0030】
ステップ302では、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料を、チャンバに配置する。チャンバは、本明細書に記載された真空圧力および加熱方法に適した任意の材料のチャンバを含んでいてもよい。
図3では、円筒管のチャンバが示されているが、チャンバは、立方体や六角柱などの他の形状を有していてもよい。さらに、円筒管は石英製であると記載されているが、他の材料を用いてもよい。
【0031】
太陽電池基板モジュールは、SnO2層で被覆されたインジウムドープ酸化スズを含んでいてもよい。蒸着材料は、粉末状態の有機前駆体材料、例えば5cm×5cmの基板モジュールに対して0.1gのヨウ化ホルムアミジニウムを含んでいてもよい。蒸着材料は、太陽電池基板モジュールよりもガス流の上流側に位置するように配置されていてもよい。例えば、真空ポンプを用いて装置内にガスを引き込む場合、蒸着材料を太陽電池基板モジュールよりもガス源に近い位置に配置してもよい。これにより、ガス流を太陽電池基板モジュールより先に蒸着材料へ到達させることができる。
【0032】
ステップ304では、キャリアガス流がチャンバ内に発生する。キャリアガスとしては、N2、Ar、O2などの、エアフローを発生させるのに適した任意の気体を用いることができる。ガス流を発生させるのに適切な任意の手段により、キャリアガス流を発生させることができる。一例として、真空ポンプを用いて真空度を調整し、10Torr付近に維持することができる。
【0033】
ステップ306において、加熱システムは太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料の加熱を開始する。例えば、移動可能な赤外線加熱機構は、熱が基板モジュールと蒸着材料との両方に直接加わるように、移動させることができる。さらに、またはその代わりに、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料を加熱する位置に配置された加熱システムを起動して、加熱プロセスを開始してもよい。さらに、またはその代わりに、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料は、例えばチャンバ内の移動プラットフォームを通じて、加熱システムにより加熱される位置に移動されてもよい。
図3では、加熱機構として赤外線加熱機構を示しているが、他の機構を使用して、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料を加熱してもよい。
【0034】
一実施形態では、加熱機構および冷却機構は、共に移動するように構成されている。例えば、加熱機構及び冷却機構は、2つの機構がチャンバの水平軸に沿って移動することができるように、レールに沿って互いに取り付けられていてもよい。他の実施形態では、加熱機構及び冷却機構は止まっており、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料がチャンバの水平軸に沿って移動してもよい。
【0035】
一実施形態では、ステップ306における加熱は、1~20分間の間で、任意に行うことができる。温度が低いほど、ペロブスカイトの変化時間は長くなる。一例として、温度が160℃の場合は6分間の加熱を行う一方、170℃では2~3分間の加熱を行う。
【0036】
ステップ308では、加熱機構は、太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料の加熱を停止し、冷却機構は、太陽電池基板モジュールの冷却を開始する。例えば、加熱機構は停止してもよく、冷却機構は、少なくとも太陽電池基板モジュールを冷却することができる位置に移動してもよい。さらに、またはその代わりに、太陽電池基板モジュールは、移動可能なプラットフォームを介するなどして、冷却機構が太陽電池基板モジュールを冷却することができる位置に移動してもよい。冷却機構は、1つ以上のファンまたは任意の冷却機構を備えていてもよい。
【0037】
実施形態では、移動可能な加熱機構および冷却機構、および/または太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料のための移動可能なプラットフォームについて説明してきたが、他の実施形態では、チャンバは、静止する構成要素を有していてもよい。例えば、冷却機構および加熱機構は、両方ともチャンバの同じ部分を対象とするように構成されていてもよい。ステップ306では、加熱機構を作動させ、それによって太陽電池基板モジュールおよび蒸着材料を加熱してもよい。そして、ステップ308では、加熱機構を停止させ、冷却機構を起動させてもよい。
【0038】
図3に示すような急速ハイブリッド化学気相成長プロセスを実行した後、残留したヨウ化ホルムアミジニウムを除去するために、ペロブスカイト膜を洗浄または加熱してもよい。正孔輸送材料は、ペロブスカイト層の上にスピンコートされてもよい。正孔輸送層がペロブスカイトの上に堆積した後、例えば120nmの金の層のような、バックコンタクト電極を正孔輸送層の上に追加してもよい。
【0039】
<一実施形態の利点>
【0040】
本明細書に記載される機構および方法により、ペロブスカイト太陽電池を製造するためのハイブリッド化学気相成長プロセスを改善することができる。急速ハイブリッド化学気相成長プロセスを用いることにより、ペロブスカイト層の成膜時間は、数時間から10分以内まで短縮される。さらに、本プロセスは、大幅に効率を低下させることなく、また最小限のヒステリシスで、一度に多数のペロブスカイト太陽電池モジュールを製造できるように規模を拡大することができる。さらに、赤外線加熱機構を用いることにより、従来の方法でポストアニールされたペロブスカイト膜と比較して、より優れた品質のペロブスカイト膜を製造することができる。これは、ペロブスカイト膜の形成の促進、およびペロブスカイト膜が均一に加熱されることによるペロブスカイト膜の結晶性の向上という赤外線加熱の2つの効果によるものである。
【0041】
さらに、CVD管状炉内における処理時間が短いため、ガラス/ITO/SnO2電子輸送層基板の、真空中における曝露時間が短くなる。これにより、SnO2電子輸送層をギャップ状態の密度が低い状態で高品質に保つことができる。PSMは、22.4cm2の所定領域において、12.3%の効率を有することが実証された。また、800時間以上にわたる連続光照射下における定常状態の出力動作後も、本PSMの性能は、初期値の90%の値が維持される。
【0042】
ETLとHTLとの間にペロブスカイト層が存在するn-i-p平面型PSC構造は、メソポーラス構造を有しない。そのため、本構造を用いることにより、高温加熱プロセスが不要となる。また、少量のCsカチオンを用いることにより、ペロブスカイト膜の安定性は向上する。
【国際調査報告】