(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】改善された接着性薬物担体
(51)【国際特許分類】
A61L 31/14 20060101AFI20230803BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20230803BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230803BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230803BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20230803BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230803BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20230803BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20230803BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230803BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20230803BHJP
【FI】
A61L31/14 300
A61L31/16
A61L31/04 120
A61K47/62
A61K31/445
A61P25/04
A61P29/02
A61K31/192
A61P7/04
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022576154
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2021065707
(87)【国際公開番号】W WO2021250205
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514116305
【氏名又は名称】ユーエムセー・ユトレヒト・ホールディング・ベー・フェー
(71)【出願人】
【識別番号】521542764
【氏名又は名称】セントリクス・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スザンナ・ピルソ
(72)【発明者】
【氏名】ヤスパー・ヘーラルト・ステフェリンク
(72)【発明者】
【氏名】フローリス・ルドルフ・ファン・トル
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド・ミシェル・シファレルス
(72)【発明者】
【氏名】バス・イェルン・オーステルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨアンネス・ヤコーブス・フェルラーン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4C076BB32
4C076CC03
4C076CC41
4C076EE59
4C081AC04
4C081BB09
4C081CD111
4C081CD121
4C081CD151
4C081CE01
4C081CE02
4C081DA12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA67
4C086NA10
4C086ZA08
4C087BC83
4C087CA12
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA19
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206NA06
4C206ZA08
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の薬剤を含む注射用ヒドロゲルを含む接着性薬物担体であって、ヒドロゲルが、(i)酸化βシクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる官能化剤で官能化されたタンパク質ベースポリマーであり、マトリックスとして(ii)酸化βシクロデキストリン(oβ-CD)で架橋されたタンパク質ベースポリマー、及び少なくとも1種の薬剤(iii)を含み、ヒドロゲルが(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを更に含む、接着性薬物担体に関する。本発明はその調製のための方法及び処置のための方法に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の薬剤を含む注射用ヒドロゲルを含む接着性薬物担体であって、ヒドロゲルが、(i)酸化βシクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる官能化剤で官能化されたタンパク質ベースポリマーであり、マトリックスとして(ii)酸化βシクロデキストリン(oβ-CD)で架橋されたタンパク質ベースポリマー、及び少なくとも1種の薬剤(iii)を含み、ヒドロゲルが(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを更に含む、接着性薬物担体。
【請求項2】
ヒドロゲルが、(iv)キノン基を保持するタンパク質ベースポリマー及びカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを含む、請求項1に記載の接着性薬物担体。
【請求項3】
ヒドロゲルが、(i)、(iv)及び(ii)の架橋した混合物を含み、(i)及び(iv)の質量比が9:1~1:9、好ましくは7:3~3:7、より好ましくは3:2~2:3、最も好ましくは約1:1である、請求項2に記載の接着性薬物担体。
【請求項4】
タンパク質ベースポリマー(i)及びタンパク質ベースのポリマー(iii)が同一であり、好ましくは絹、フィブリン、コラーゲン又はゼラチン、より好ましくはゼラチンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項5】
タンパク質ベースポリマー(i)が第1級アミノアルキルフェノール、好ましくはチラミンで官能化されており、より好ましくはタンパク質ベースポリマー(i)がチラミン(GTA)で官能化されたゼラチンであるか、又はタンパク質ベースポリマー(i)が、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸で官能化されており、より好ましくはタンパク質ベースポリマー(i)がデスアミノチロシンで官能化されたゼラチンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項6】
タンパク質ベースポリマー(iv)が、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩(ドーパミン)、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(DOPA)、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-2-プロペン酸(CA、カフェ酸)、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン酸(DHC、ジヒドロカフェ酸)、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、(R)-4-(1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル)-1,2-ベンゼンジオール(エピネフリン)、又は(R)-4-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-1,2-ベンゼエンジオール(ノルエピネフリン)での修飾により作製される、請求項1から5のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項7】
薬剤(iii)が、1000ダルトン未満の分子量を有する小さな薬物分子、好ましくは鎮痛作用のある医薬、より好ましくは局所麻酔剤、更により好ましくはブピバカインである、請求項1から6のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項8】
ヒドロゲルが、キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーによりそれ自体、骨、組織又は外科用金属に接着される、医学的障害、好ましくは筋骨格障害の処置における、より好ましくは感染症、炎症、自己免疫性疾患、悪性及び良性新生物、成長障害、外傷、変性的障害の処置又はこれらの障害から生じる疼痛の処置(外科的処置)のための使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項9】
ヒドロゲルが、キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーによりそれ自体、骨、組織又は外科用金属に接着される、止血剤としての、又は抗原、核酸をコードする剤若しくは抗原をコードするウイルスベクターの送達のための使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項10】
キットオブパーツとしての、好ましくはデュアルバレルシリンジにおける使用のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体を調製するための方法であって、(iv)が架橋したヒドロゲルの一部であり、
- (i)官能化剤で官能化されたタンパク質ベースポリマー、(ii)oβ-CD、(iii)薬剤、(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーの混合溶液を調製するステップ、並びに
- ヒドロゲルを架橋するステップ
を含む、方法。
【請求項12】
(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の混合溶液が、架橋前に注射により患者に導入されるか、又は架橋前に患者に適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医学的障害、好ましくは筋骨格障害の処置、より好ましくは、感染症、炎症、自己免疫性疾患、悪性及び良性新生物、成長障害、外傷、変性的障害の処置又はこれらの障害(の外科的処置)から生じる疼痛の処置のための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体の局所的適用を含む、方法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体の局所的適用を含む、止血剤として、又は抗原若しくは抗原をコーディングするウイルスベクターの送達のための使用のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は改善された接着性薬物担体(adhesive drug carrier)に関する。より明確には、本発明は小分子、特に麻酔剤に適した改善された接着性薬物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
組織接着剤疎水性薬物送達のための新規プラットフォームとしての、酸化βシクロデキストリン官能化注射用ゼラチンヒドロゲルは、RSC Adv 2017, u、34053~34064頁、Thi及びLeeらから公知である。著者らは、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)媒介性及びシッフ塩基反応物を組み合わせて、速いゲル化、調節可能な材料特性、改善された接着性、優れた生体適合性、及び使いやすさを有するin situで形成する生体接着性ヒドロゲルを開発した。ヒドロゲルの親水性の性質は通常疎水性薬物の充填を限定してしまうが、このヒドロゲル組成物は、疎水性薬物担体としての使用を可能にする溶液を含有した。βシクロデキストリンの部分的酸化後、(oβ-CD)生成したアルデヒド基はゼラチン上のアミン基と自然に反応して、シッフ塩基を形成する。続いて、βシクロデキストリンの空洞は疎水性薬物を受け入れるために使用された。HRP/H2O2による酸化の下でGTAとoβ-CDを単にブレンドするだけで、数秒から数分以内に、GTA-oβ-CDヒドロゲルの速い形成がもたらされた。著者らは、(i)これらの接着強度及び機械的強度は、フェノール-フェノールを含み、シッフ塩基反応を介した二重架橋により補強され、(ii)これらの疎水性薬物充填有効性は純粋なGTAヒドロゲルと比較してより高いことを見出した。しかし、接着性は依然として改善の余地がある。例えば、ゼラチンヒドロゲルは骨若しくは金属への接着のためには、又は予め形成されたゼラチンヒドロゲルを接着するためには使用することができない。
【0003】
ムール貝は、例えば足糸を介した船体へのこれらの強い接着が公知である。ムール貝の足糸の中のこれらの足のタンパク質は高い3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(DOPA)含有量を有する。DOPAは、チタニウム、更には湿った骨及び組織に強く及び可逆的に結合できることが研究で示されている。したがって、DOPA及びカテコール化合物(例えば3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)は、接着の目的のためにバイオマテリアルに含めるのに興味深い部分である。
【0004】
Acta Biomaterialia 33 (2016) 51~63頁、Fanらから公知のように、in situでの使用のための、医療用接着剤は、患者へのアレルギー反応を回避するため非常に厳しい条件を満たす必要がある。フィブリングルー(例えば、Tisseel)、アルブミン-グルタルアルデヒド接着剤(例えば、BioGlue)、及びシアノアクリレート(例えば、Dermabond)が周知であり、現在多くの外科手術に使用されている。しかし、フィブリングルーの利用は、患者への血液感染性疾患の伝達及びアレルギー反応の危険性を含む。アルデヒド含有製品の高い毒性は、関連する接着剤製品のin vivo用途を激しく限定する。したがって、Fanらは、ゲニピン架橋組織接着剤の製作のために使用されるゼラチン-ドーパミンコンジュゲートを開発した。
【0005】
WO2019117715において、処置すべき骨の外面の骨膜上のその骨接触表面で圧縮されることを意図した麻酔剤保持体である変形体が開示される。麻酔剤保持体を手術用インプラントに接着することができることは興味深いと考えられる。麻酔剤保持体の手術用インプラント(例えば、プレート、ねじ、人工関節、ロッド、ネイル等)への接着性は、インプランテーション中の麻酔剤保持体の正しい初期配置を容易にする。更に、麻酔剤保持体の固定のためのねじ及び他の手術用インプラントを必要とすることなく麻酔剤保持体を骨に接着することができることは興味深いと考えられる。同様に、麻酔剤保持体を軟組織に接着して、局所的ドラッグデリバリープラットフォームを提供することができることは興味深いと考えられる。更に、麻酔剤保持体をそれ自体に接着して、例えば(例えば、馬蹄形の)スナップオン全人工股関節置換術ドラッグデリバリーリングを閉じることを可能にすることができることは興味深いと考えられる。
【0006】
Journal of Controlled Release、95 (2004)、391~402頁から、制御された薬物放出のための新規のヒドロゲルベースの知能システムの設計が公知である。この論文は、多機能、例えば、薬物の保護、自己制御性振動放出、及び2層状自己折りたたみゲート及び単純な表面粘膜付着による標的設定した一方向性送達を提供するために、組立て型ドラッグデリバリーシステム(DDS)の設計に焦点を合わせている。小さな薬物分子の制御放出性は十分に可能ではない。
【0007】
追加的臨床的関連性及び関心は、軟組織を軟組織に、軟組織を手術用インプラントに、軟組織を骨に、及び骨を骨に結合させるために使用することができる接着性薬物担体にあると考えられ、その主要な機能は医療用グルー又はキット/シーラントとしての機能であり、更なる利点として薬剤(medication)の制御放出性を有する。
【0008】
Biomater. Sci.、2016、4、1726~1730頁、「Preserving the adhesion of catechol-conjugated hydrogels by thiourea-quinone coupling」は、カテコール官能化ゼラチン及びそれをベースとするヒドロゲルについて記載している。この論文の教示は特定のカテコール-コンジュゲートヒドロゲルに限定されており、無機表面への接着性は酸性pHでの架橋化学反応により維持される。この論文は薬剤の制御放出性については記載していない。更に、酸性pHでの架橋化学反応についての本教示が、他のヒドロゲルの接着性を改善するために、このような他のヒドロゲルに悪影響を及ぼすことなく使用される可能性及び使用方法については示唆されていない。
【0009】
小分子薬物の制御放出性については、このプロセスは主に受動拡散に依存するため依然として困難である。ほとんどの場合、薬物分子のサイズはヒドロゲルのメッシュサイズより小さい。
【0010】
Biomaterials、39 (2015)、173~181頁、「Adhesive barrier/directional controlled release for cartilage repair by endogenous progenitor cell recruitment」から、接着剤層の使用が公知である。この参考文献は、その中に封入された治療用タンパク質の方向性のある放出のためのヒドロゲルデポー剤について記載している。この参考文献はフィブリンゲル上面の接着剤ゲルパッチ(キトサン-カテコール)について記載している。しかし、接着剤層はバリアとして作用する。したがって、結合表面における制御放出性に影響を与えない接着剤層の発見は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】RSC Adv 2017, u、34053~34064頁、Thi及びLeeら
【非特許文献2】Acta Biomaterialia 33 (2016) 51~63頁、Fanら
【非特許文献3】Journal of Controlled Release、95 (2004)、391~402頁
【非特許文献4】Biomater.Sci.、2016、4、1726~1730頁、「Preserving the adhesion of catechol-conjugated hydrogels by thiourea-quinone coupling」
【非特許文献5】Biomaterials、39 (2015)、173~181頁、「Adhesive barrier/directional controlled release for cartilage repair by endogenous progenitor cell recruitment」
【非特許文献6】Belin, Michael W.ら. Cornea 2018、37、1218~1225頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、ドラッグデリバリーのためのプラットフォームとして使用することができる、改善された接着性を有するヒドロゲルが依然として必要とされる。更に、軟組織、骨及び金属への(改善された)接着性を有し、安全性規制基準を満たすこの医療用接着剤は、in vivoでの用途に適切であるべきである。更に、この接着性薬物担体は、この担体が、例えば軟組織又は骨等に結合している結合表面においても、その薬剤放出が制限を受けてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の概要
本発明は、少なくとも1種の薬剤を含む注射用ヒドロゲルを含む接着性薬物担体であって、ヒドロゲルが、(i)酸化βシクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる官能化剤で官能化されたタンパク質ベースポリマーであり、マトリックスとして(ii)酸化βシクロデキストリン(oβ-CD)で架橋されたタンパク質ベースポリマー、及び少なくとも1種の薬剤(iii)を含み、ヒドロゲルが(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを更に含む、接着性薬物担体を提供する。
【0015】
接着性薬物担体は、医薬(medicament)、好ましくは、1000ダルトン未満の分子量を有する小さな薬物分子、好ましくは鎮痛作用のある医薬、より好ましくは局所麻酔剤、更により好ましくはブピバカインを含み得る。本発明は、構成要素の組織への注射、又は組織、骨若しくは手術用インプラントへの適用、次いで架橋結合を可能にするその調製のための方法に更に関する。
【0016】
本発明の接着性薬物担体に使用されている構成要素の1種は、新規として考えられており、それ自体医療用接着剤として使用することができる。したがって、本発明はまたこの医療用接着剤、並びにその使用に関する。
図面
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】外科プレートにグルーで接着された又はこれに隣接する本発明の接着性薬物担体の概略図である。
【
図2】高位脛骨骨切り術(high tibial osteotomy procedure)における適用の概略図である。
【
図3】軟組織にグルーで接着された本発明の接着性薬物担体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上の図は、例示目的のためだけのものであり、必ずしも一定の縮尺ではない。
【0019】
本発明の詳細な説明
ヒドロゲルは水溶性架橋ポリマーにより合成することができる。本発明は、タンパク質ベースポリマーに基づく医療用ヒドロゲルに注目する。これらヒドロゲルは生体適合性であり、移植又は注射することができ、in-vivoで使用することができる。更に、これらは生分解性、すなわちヒトの体内で自然に分解され得る。好ましくは、タンパク質ベースポリマーは、アミノ及びカルボキシル基を含む市販の生体適合性ポリマー、例えば、絹、フィブリン、コラーゲン又はゼラチンから選択される。より好ましくは、本発明に使用されているヒドロゲルはゼラチンに基づく。ヒドロゲルはまた、他の生体適合性の水溶性合成ポリマー又は天然ポリマーを含んでもよい。他のポリマーは、全ポリマー含有量の50質量%まで構成することができる。その入手の可能性、生体適合性及びコストを考慮すると、唯一のポリマー構成要素としてのゼラチンの使用が好ましい。
【0020】
タンパク質ベースのポリマー(i)、好ましくは、ゼラチンは、好ましくは官能化剤としてのチラミン、4-(2-アミノ-エチル)フェノールにより官能化されている。チラミンに加えて又はその代わりに、式NH2-R-PhOHの他の第1級アミノアルキルフェノール及びその置換バージョンを使用することができる。チラミンは、ゼラチンカルボン酸基による官能化を介して、ゼラチン骨格上にフェノール系ヒドロキシル基を導入するために最も一般的に使用されている化合物である。代わりに、フェノール系ヒドロキシル基は、官能化剤、例えば、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、例えば、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(デスアミノチロシンとしても公知)を使用したゼラチンアミノ基との反応を介して導入することもできる。重要なのは、官能化剤の生体適合性及び酸化βシクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成するその可能性である。その入手の可能性、生体適合性及びコストを考慮すると、タンパク質ベースポリマーを官能化するための唯一の剤としてのチラミンを使用するのが好ましい。
【0021】
タンパク質ベースポリマー(iv)、好ましくはゼラチンは、タンパク質ベースポリマーを、カテコール若しくはキノン基又はその誘導体を保持するその反応物質と反応させることにより好ましくは作り出される。例えば、タンパク質ベースポリマーは、カテコール含有化合物又は簡単に酸化してキノン基を提供することができる化合物、例えば、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩(ドーパミン)、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(DOPA)、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-2-プロペン酸(CA、カフェ酸(caffeic acid))、又は3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン酸(DHC、ジヒドロカフェ酸)、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、(R)-4-(1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル)-1,2-ベンゼンジオール(エピネフリン)、又は(R)-4-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-1,2-ベンゼエンジオール(ノルエピネフリン)で修飾されてもよい。更に、カテコール含有化合物はキノン基へと部分的に酸化することもでき、又はキノン基がカテコール基へと部分的に還元されて、二重官能基を作り出すこともできる。手術用インプラント(カテコール)に使用されている金属及び他の材料への接着性と共に、例えば、軟組織(キノン)への接着性を達成するためにこのことは興味深くもある。官能基が一時的に保護されている、例えば、ドーパミン、DOPA、CA又はDHCの誘導体もまた使用することができる。いかなる毒性問題をも回避するための反応物質の生体適合性が重要である。その入手の可能性、生体適合性及びコストを考慮すると、DOPA、CA、DHCA又はその保護された誘導体の使用が好ましい。
【0022】
タンパク質ベースポリマー(iv)のかなりの量のアミノ基が官能化される。好ましくはタンパク質ベースポリマー(iv)、好ましくは、ゼラチンは、総計15%~70%のゼラチンアミノ基、好ましくは分子1個当たり、カテコール及び/又はキノン基の組合せの20~50%を保持する。15%未満のゼラチンアミノ基では、普通の量のポリマー(iv)を使用する場合、接着性能が低すぎる。70%を超えるゼラチンアミノ基では、均質な注射用ヒドロゲルを達成するのが難しくなる。タンパク質ベースポリマーは、好ましくは50~200kDa、好ましくは90~150kDaの範囲の分子量を有する。50kDa未満では、ヒドロゲルとの相互作用(接着性)が不十分である。200kDaより上では、均質な注射用ヒドロゲルを達成するのが難しくなる。
【0023】
上に示されている通り、接着性薬物担体は、タンパク質ベースポリマー(i)と(iv)の組合せを使用して、ヒドロゲルを形成することにより作り出すことができる。
【0024】
酸化βシクロデキストリンと、タンパク質ベースポリマー(i)及び(iv)、好ましくはゼラチンの組合せとの量の比は、広い範囲内で変動し得る。好ましくは、oβ-CDの量は、ヒドロゲルの0.1質量%~10質量%、好ましくはヒドロゲルの2質量%~6%質量の範囲であってよい。より多量の酸化βシクロデキストリンの使用は、チラミン官能基と酸化βシクロデキストリン空洞との間の相互作用の増加により、タンパク質ベースポリマーの化学的架橋を妨げる可能性がある。
【0025】
タンパク質ベースポリマー(i)と(iv)の組合せは非常に広範囲に使用することができる。例えば、これらは、9:1~1:9、好ましくは7:3~3:7、より好ましくは3:2~2:3、最も好ましくは約1:1の質量比で使用することができる。より高い量の(i)の使用は接着性薬物担体の接着特性に悪影響を及ぼし得る。より多量の(iv)の使用は、架橋密度に悪影響を及ぼし、したがってヒドロゲルの結合力(cohesive strength)に悪影響を及ぼし得る。
【0026】
ヒドロゲルにおけるβシクロデキストリンの使用は公知である。本発明では、βシクロデキストリンは酸化される。βシクロデキストリンの酸化は、タンパク質ベースポリマーへのグラフトを可能にするために必要とされる。酸化度は5~40%、好ましくは20~30%の第2級ヒドロキシル基まで変動し得る。酸化は分子中の第2級ヒドロキシル基のアルデヒド基への変換の結果として生じる。好ましい酸化度は、任意の未反応のアルデヒド基から生じ得る細胞毒性作用を制限し、oβ-CDの水への十分な溶解度を確実にしながら、ゼラチン骨格上でのoβ-CDの最大のグラフトを可能にする。
【0027】
理想的であるのは、接着性薬物担体は制御された方式で薬剤を放出することができることである。1000ダルトン未満の分子量を有する小さなサイズの分子、例えばブピバカイン等に対して、これは特に困難となる。したがって、特定の架橋結合密度が達成されて、膨張した質量(平衡膨潤において)-乾燥質量/乾燥質量として計算した、2~20の範囲、好ましくは2~6の範囲の膨潤度をもたらすことが好ましい。膨潤質量とはin vivoでのヒドロゲルの平衡質量である。膨潤質量は、シミュレートした体液、例えばPBS中で、体温、例えば、37℃での24時間後の膨潤(又はそれが平衡に到達した時点)からin vitroで実験的に決定することができる。架橋結合密度は以下の架橋型:
(a)第1級アミノアルキルフェノール又は類似の官能化剤で官能化されたタンパク質ベースポリマー(i)におけるフェノール-フェノール架橋、及びカテコール又はキノン基を保持するタンパク質ベースポリマー(iv)におけるフェノール-フェノール架橋、
(b)官能化したタンパク質ベースポリマー上に存在するアミノ基とoβ-CDのアルデヒド基との間のシッフ塩基架橋、並びに
(c)タンパク質ベースポリマー上にグラフトした官能化剤のフェノール部分と、oβ-CDの空洞との間のゲスト-ホスト相互作用、
を使用することにより達成される。
【0028】
本発明は特にフェノール-フェノール架橋の形成の優れた制御及び調整機能を提供する。その結果、ヒドロゲルは、架橋型(a)、(b)及び(c)の間での多種多様な比率を用いて生成することができる。更に、架橋密度を適合させることにより、弾性も変化させることができる。この関連性は本明細書の以下で論じられており、本発明のヒドロゲルの様々な実施形態が論じられている。
【0029】
ヒドロゲルの調製において、架橋剤又は(光)開始剤を使用することができるが、架橋を形成するために使用する必要はない。上述された架橋の一部は構成要素を適切な温度で混合することにより自然に生じ得るため、架橋剤又は(光)開始剤の使用はヒドロゲルを形成するために必要不可欠ではない。
【0030】
(a)型の架橋結合に対する架橋系は当技術分野で公知である。例えば、これらはHRP/H2O2又は類似の系に基づくことができる。架橋はまた、光開始剤の使用により、例えば、リボフラビン、過硫酸ナトリウム(SPS)及び可視光の組合せの使用により作り出すことができる。ビタミンB2としても公知のリボフラビンは体内で自然に反復し、生体適合性があり、現在角膜コラーゲンの架橋のための臨床応用に使用されている(Belin, Michael W.ら. Cornea 2018、37、1218~1225頁)。SPSの存在下でのリボフラビンの可視光への曝露は、反応性中間体を生成する。可視光とは、ヒト眼に可視の電磁スペクトルの部分を意味する。典型的なヒトの眼は約380~約740又は780ナノメートルまでもの波長に応答する。特に、本発明は400~700ナノメートルの間の波長で試験している。他の使用可能な光開始剤はフェロセン、及びアントラキノンである。
【0031】
使用される場合、光誘発性架橋の使用は、従来の技術から公知のHRP/H2O2系よりも良い制御及び調整機能を提供する。したがって、光開始剤の使用は好ましい。例えば、リボフラビン及びSPSは、1:5~20、好ましくは約1:10のモル比(リボフラビン:SPS)で使用することができる。例えば、リボフラビン及びSPSはリボフラビンに対して0.1~10mM及びSPSに対して1~100mMで使用することができる。好ましくは、リボフラビンは、使用される場合、フラビンモノヌクレオチドであり、これはリボフラビンの水溶性形態である。
【0032】
同時係属の出願には、リング形態での薬剤の局所的放出のためのヒドロゲルの麻酔剤保持体としての使用が記載されており(WO2019117715、参照により本明細書に組み込まれる)、麻酔剤保持体は、ねじと組み合わせて使用されている。他の実施形態では、麻酔剤保持体はプレートエレメント上にグルーで接着されている。麻酔剤保持体をプレート上にグルーで接着するのに適切な方式についての情報は提供されていない。薬剤の局所的放出のための担体として注射用ヒドロゲルを提供することにより、ねじ又は類似の形態の付属品に対する必要性は回避される。
【0033】
上で特定された用途に加えて、接着性薬物担体は粘性の形態で構成要素の混合物として注射/挿入されてもよく、その後のこの接着性薬物担体はin situで架橋結合する。このような方式で、接着性薬物担体は、形態を予め定義する必要性なしに、不規則な又は狭い解剖学的空間に適用することができる。in situでの架橋結合後、この接着性薬物担体は依然として曲げやすいので、有意な運動制限は生じない。この接着性薬物担体はまた、軟組織を軟組織に接着するために使用することもできる。例えば、この接着性薬物担体は局所的皮膚接着剤として適用することができ、この場合、それは弱塩基、例えば、水、血液又は細胞膜との接触により自然に反応して、創傷の閉鎖を援助する。この接着性薬物担体はまた、身体の内側の軟組織を接着して、例えば、組織裂傷、例えば、血管又は腸の組織裂傷を修復するために使用することもできる。この接着性薬物担体は同様に、軟組織を手術用インプラントに結合させるために使用することもできる。例えば、この接着性薬物担体は、骨折整復後、例えば、このような腱が外傷/変性のいずれかにより引き裂かれている場合、又は骨折の曝露の間外科的に解離されなければならない場合、腱を外科プレートに結合させることができる。更に、接着性薬物担体を使用して、骨折の固定を援助することができ、これによって、骨の断片は互いに又は他の外科的エレメントに結合する。接着性薬物により形成される、治癒プロセスを進行させる又は接合点を強化するための構成要素を加えることもできる。更に、これを使用して、軟組織及び/又は骨を金属に結合させることもできる。既存のヒドロゲルを類似の方式で結合させることもできる。
【0034】
接着性薬物担体は生きているヒト又は動物の身体に適用することもできる。これら実施形態のそれぞれは、医学的障害、例えば、筋骨格障害の処置に非常に適しており、特にヒドロゲルが付けられる骨、組織又は手術用インプラントの形状へのヒドロゲルの適応能力により、骨障害の処置に適している。柔軟性が欠けると、その存在が患者への妨害を引き起こしてしまう、及び/又は運動を制限してしまう他の用途においてもこの能力は重要となる。これらの障害として、感染症、炎症、自己免疫性疾患、悪性及び良性新生物、成長障害、外傷、変性的障害又はこれらの障害(の外科的処置)から生じる疼痛の処置が挙げられる。
【0035】
本発明はブピバカインの使用を参照して記載されているが、任意の(局所)麻酔剤を使用することができる。局所麻酔剤は通常アミド型とエステル型に分けられる。アミド型はより一般的に使用されている。麻酔剤は好ましくはアミノ-アミド局所麻酔剤、例えば、アーティカイン、エチドカイン、プリロカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、リドカイン、ジブカイン、又は他のアミノ-カインであるが、またエステルベースの麻酔剤、例えば、テトラカイン、プロカイン又はクロロプロカインであってもよい。麻酔剤はまた2種又はそれよりも多くの種類の麻酔剤の組合せを含むこともできる。好ましくは、麻酔剤はブピバカイン、リポソームブピバカイン若しくはレボブピバカイン、リドカイン、又はブピバカイン、リポソームブピバカイン及び/若しくはレボブピバカインを含む麻酔剤の組合せである。薬剤はまた抗生剤又は抗がん剤、成長因子、免疫調節薬物、化学療法剤、ステロイド(レチノイドを含む)、ホルモン、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症性化合物、UV吸収体を含む放射線吸収体、放射線増感剤、止血剤、ワクチン、幹細胞等であってよいし、又はこれらを含んでもよい。薬剤は更に親水性であっても、疎水性であってもよい。ヒドロゲルの親水性の性質により、親水性薬剤はヒドロゲルに簡単に組み込まれる。oβ-CDの疎水性空洞は疎水性薬物に対する封入を提供する。したがって、疎水性薬剤に関して、本発明のヒドロゲルは、oβ-CDを含まないヒドロゲルよりも利点を有する。好ましくは、薬剤は疎水性である。薬剤の疎水性に対する尺度はオクタノール-水-分配係数Pであり、これはオクタノールと水の混合物中の、平衡状態にある薬剤の濃度の比である。疎水性薬剤に対して、logP>0であり、好ましくはlogP>2である。
【0036】
ブピバカイン及び1000ダルトンよりも小さな分子量を有する類似の小さな薬物分子の制御放出性は困難であるが、本発明のヒドロゲルを用いて達成することができる。更に、方向性のある放出は、バリア層を、例えば、それが連結された表面及び薬剤を放出することになる表面と反対の接着性薬物担体の表面上に提供することにより更に改善することができる。
【0037】
ヒドロゲルは、追加的構成要素、例えば、着色剤、安定剤、共溶媒、緩衝液及び類似の共通の添加剤を含むことができる。ブピバカインが薬剤として使用されている場合及び使用されている範囲内に限り、好ましくは0.01~200mg/mL体積の量で使用される。更に薬剤は、ヒドロゲルへのその包含前に、それ自体がナノ粒子又はマイクロ粒子、例えば、50nm~200μmのサイズ範囲で封入されていてもよい。それはPLGA、PCL、ゼラチン、アルギン酸塩又はリポソームに封入することもできる。
【0038】
薬剤は、共溶媒に溶解されている間に加えてもよいし、又は結晶の形態で加えてもよい。
【0039】
薬剤に加えて、1種又は複数の追加の成分を含んでもよく、好ましくは追加の成分は併用薬剤、共溶媒、界面活性剤、着色剤、及び緩衝液から選択される。併用薬剤とは、ヒドロゲルに加えられる任意の追加の薬剤、好ましくは、ヒドロゲル中に存在する少なくとも1種の薬剤の作用を増強する及び/又は治癒プロセスを進行させる薬剤と考えることができる。共溶媒として、これらに限定されないが可塑剤が挙げられる。1種のこのような可塑剤はグリセロールである。グリセロールのヒドロゲルマトリックスへの添加はより高い弾性を結果として生じ、しかも試料の剛性に影響を与えない。他の共溶媒は、充填中の薬物溶解度を改善するこれらの能力に応じて、例えば、DMSO又はエタノールを選択することができる。
【0040】
ヒドロゲルに対する供給原料を作製するための方法は公知である。よって、ゼラチン及び関連するタンパク質ベースポリマーを、チラミン及び関連する第1級アミノアルキルフェノールで官能化することが知られている。更に、ゼラチンデスアミノチロシン(「GelDat」)は市販されている。同様に、βシクロデキストリンを酸化することが知られている。上で引用され、本明細書に参照により含まれる、Thiら、RSC Adv. 2017を参照されたい。医学的用途の分野において重要であるが一般的であるのは、すべての形態の汚染を除去することである。例としてヒドロゲルは以下の方法:
1.(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び任意選択の開始剤の溶液を調製する。
2.これらの溶液を混合し、これによって予め決定された濃度を得る。
これらの濃度は所望の機械的及び放出特性に応じて変化させることができる。
3.次いで、得た溶液を架橋結合させる。例えば、これを組織に注射して、そこで架橋結合させてもよい。
で調製することができる。
【0041】
注射用ヒドロゲルは、使用の際に構成要素を混合する工夫を用いて適用されてもよい。例えば、ミキシングチップに連結しているデュアルバレルシリンジを使用することができる。この場合、注射用ヒドロゲルは、構成要素のキットの形態で使用される。例えば、一方のシリンジは(iv)を、他方は残りの構成要素を含有することとなろう。
【0042】
この場合、注射用ヒドロゲルは、ミキシングチップから組織又は金属プレートに直接注射することができる。或いは、ミキシングチップは開かれた底部を有する型に連結することができる。この方式では、混合物は、型を介して注射されることとなり、組織上に接着し、型の形状を取り入れる。数分後、型は除去することができる。
【0043】
例として、(iv)を含有する溶液は以下の通り調製することができる:
処方1(カテコール又はキノン官能基):
第1ステップでは、120kDaのMwを有するゼラチンを2,5、5又は10質量%のDHC又はCAでそれぞれ官能化する。様々な経路が利用可能である:
- CAによる官能化の例:EDC/NHSを使用して、CAのカルボキシル基を活性化し、次いでpH約4.5~5でゼラチンのリジンアミノ基と反応させる。次いで、ゼラチン-CA(GCA)コンジュゲートを、酸性環境(例えば、HCl溶液に対する透析)で精製して、キノンへの酸化を防止する。
- DHCによる官能化の例:DHCをMES緩衝液(pH4.5~5)中のEDC/NHSで活性化し、次いでゼラチンのリジンアミノ基と反応させる。ゼラチン-DHCコンジュゲート(GDHC)の精製は先述のものと同様である。
【0044】
キノン官能基のため、GCA又はGDCHをアルカリ溶液(例えばpH8~8.5)に溶解し、カテコール基のキノンへの酸化を促進する。キノンはまた、酸化剤、例えば、SPS又はH2O2の添加により形成することもできる。
【0045】
処方2(キノン及びカテコール官能基):
二重官能基は、例えば、GCAとGDHCの混合、これに続く酸化により得ることができる。穏やかな条件を使用する場合、キノンの形成はGCAに対してのみ生じる。
【実施例1】
【0046】
注射用ヒドロゲル、接着性試験
ヒドロキシフェニルプロピオン酸を官能化剤として用いて官能化されたタンパク質ベースポリマー(i)(10質量%)を、異なる比のGCA及び/又はGDHC(iv)と、それぞれ約15%、約25%の官能化度で、水中全容積の最大10質量%まで混合し、45℃のインキュベーターに終夜静置した。
【0047】
翌日、oβ-CD(8質量%)及び酸化剤/架橋剤(例えば5mMのSPS又は0.3質量%のH2O2)を加えた。接着性試験は薬剤なしで実施したが、これはこの段階で加えてもよい。
【0048】
混合後、100μlの注射物質をチタニウムスライス(「Ti」)又はテンダーロイン小片(「組織」)上に付け、別のチタニウムスライス/組織をその上に押し付けた(±2秒の間)。接着性を評価した。注射用ヒドロゲルが接着性があるかどうかを、2つの表面を互いに引っぱることで試験した。注射用ヒドロゲル1~6を、GCAもGDHCも含有しない、よって従来の技術を例示するヒドロゲルCと比較した。結果がTable 1(表1)に要約されている。
【0049】
【0050】
示される通り、GDHC又はGCAを有さないヒドロゲルCは接着性試験で不合格であった。GDHC及び/又はGCAを含有する注射用ヒドロゲルは、Ti-Ti、Ti-組織及び組織-組織を固着させる。更に、GCAとGDHCの両方を含有する注射用ヒドロゲルは、4日間水に浸した場合、GCA又はGDHCのいずれかを含有する注射用ヒドロゲルと比較して、粘着性の増加を示した。加えて、GCAとGDHCの両方を含有するヒドロゲルは、GCA又はGDHCのみを含有するヒドロゲルよりはるかに速く接着強度を提供した。
【実施例2】
【0051】
薬剤を有する注射用ヒドロゲル
実施例1(ヒドロゲルC、1~3を有する)を繰り返したが、ここでは2,5質量%のブピバカイン(「bupi」)を添加した。接着性は影響を受けなかった。
【0052】
【0053】
一般的適応性
本発明の実施形態は、単なる例示により、添付の略図を参照してここに記載される。
【0054】
図1は、外科用ねじ(4)を介して骨(3)に結合している外科プレート(2)の上又は下にグルーで接着された本発明の接着性薬物担体(1)の概略図を示している。
【0055】
図2は高位脛骨骨切り術の概略図を示す。大腿骨(5)はくさび状に開かれ、その後、開いたくさびが、外科用ねじ(7)を介して骨(5)に結合している外科プレート(6)により支持される。開いたくさび内で、本発明の薬物担体(8)は骨(5)に結合する。
【0056】
図3は全人工膝関節置換術の概略図を示す。大腿骨の構成要素(9)は大腿骨(10)に結合しており、脛骨の構成要素(11)は患者の脛骨(12)に結合している。脛骨構成要素はライナー(13)を備える。本発明の接着性薬物担体(14)は関節包(15)の上、例えば、内側若しくは外側の溝、膝蓋下に固定されるか、又は膝蓋骨上陥凹の大腿骨の構成要素若しくは金属の構成要素の間に位置するライナーに頭側で結合していてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 本発明の接着性薬物担体
2 外科プレート
3 骨
4 外科用ねじ
5 大腿骨
6 外科プレート
7 外科用ねじ
8 本発明の薬物担体
9 大腿の構成要素
10 大腿骨
11 脛骨の構成要素
12 脛骨
13 ライナー
14 本発明の接着性薬物担体
15 関節包
【手続補正書】
【提出日】2022-07-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の薬剤を含む注射用ヒドロゲルを含む接着性薬物担体であって、
前記ヒドロゲルが、酸化βシクロデキストリンとゲスト-ホスト相互作用を形成することができる官能化剤で官能化された
(i)タンパク質ベースポリマ
ーであ
って、マトリックスとして(ii)酸化βシクロデキストリン(oβ-CD)で架橋された
、(i)タンパク質ベースポリマー、及び
前記少なくとも1種の薬剤(iii)を含み、
前記ヒドロゲルが
、(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを更に含み、
- 前記タンパク質ベースポリマー(iv)が、50~200kDaの範囲の分子量を有し、分子1個当たり、カテコール及び/又はキノン基の組合せの全アミノ基の15%~70%を保持し、
- 前記タンパク質ベースポリマー(i)及び前記タンパク質ベースポリマー(iv)が、絹、フィブリン、コラーゲン又はゼラチンから選択され、
- oβ-CDの量が、前記ヒドロゲルの0.1~10質量%であり、
- 前記少なくとも1種の薬剤(iii)が、1000ダルトン未満の分子量を有する小さな薬物分子である、
接着性薬物担体。
【請求項2】
前記ヒドロゲルが、(iv)キノン基を保持するタンパク質ベースポリマー及びカテコール基を保持するタンパク質ベースポリマーを含む、請求項1に記載の接着性薬物担体。
【請求項3】
前記ヒドロゲルが、(i)、(iv)及び(ii)の架橋した混合物を含み、(i)及び(iv)の質量比が
、9:1~1:9、好ましくは7:3~3:7、より好ましくは3:2~2:3、最も好ましくは約1:1である、請求項2に記載の接着性薬物担体。
【請求項4】
前記タンパク質ベースポリマー(i)及び
前記タンパク質ベー
スポリマー(
iv)が
、同一であり
、より好ましくはゼラチンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項5】
前記タンパク質ベースポリマー(i)が
、第1級アミノアルキルフェノール、好ましくはチラミンで官能化されており、より好ましくは
、前記タンパク質ベースポリマー(i)が
、チラミン(GTA)で官能化されたゼラチンであるか、又は
前記タンパク質ベースポリマー(i)が、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸で官能化されており、より好ましくは
、前記タンパク質ベースポリマー(i)が
、デスアミノチロシンで官能化されたゼラチンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項6】
前記タンパク質ベースポリマー(iv)が、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩(ドーパミン)、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(DOPA)、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-2-プロペン酸(CA、カフェ酸)、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン酸(DHC、ジヒドロカフェ酸)、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、(R)-4-(1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル)-1,2-ベンゼンジオール(エピネフリン)、又は(R)-4-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-1,2-ベンゼエンジオール(ノルエピネフリン)での修飾により作製される、請求項1から5のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項7】
前記薬剤(iii)が、
疎水性薬剤、好ましくは鎮痛作用のある医薬、より好ましくは局所麻酔剤、更により好ましくはブピバカインである、請求項1から6のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項8】
前記ヒドロゲルが、キノン及び/又はカテコール基を保持する
前記タンパク質ベースポリマーによりそれ自体、骨、組織又は外科用金属に接着される、医学的障害、好ましくは筋骨格障害の処置における、より好ましくは感染症、炎症、自己免疫性疾患、悪性及び良性新生物、成長障害、外傷、変性的障害の処置又はこれらの障害(の外科的処置)から生じる疼痛の処置のための使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項9】
前記ヒドロゲルが、キノン及び/又はカテコール基を保持する
前記タンパク質ベースポリマーによりそれ自体、骨、組織又は外科用金属に接着される、止血剤としての、又は抗原、核酸をコードする剤若しくは抗原をコードするウイルスベクターの送達のための使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項10】
キットオブパーツとしての、好ましくはデュアルバレルシリンジにおける使用のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の接着性薬物担体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体を調製するための方法であって、(iv)が
、架橋したヒドロゲルの一部であり、
前記方法が、
- (i)官能化剤で官能化された
前記タンパク質ベースポリマー、(ii)oβ-CD、(iii)
前記薬剤、(iv)キノン及び/又はカテコール基を保持する
前記タンパク質ベースポリマーの混合溶液を調製するステップ、並びに
-
前記ヒドロゲルを架橋するステップ
を含む、方法。
【請求項12】
(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の
前記混合溶液が、架橋前に
、注射により患者に導入される
か又は患者に適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医学的障害、好ましくは筋骨格障害の処置
のための、より好ましくは、感染症、炎症、自己免疫性疾患、悪性及び良性新生物、成長障害、外傷、変性的障害の処置又はこれらの障害(の外科的処置)から生じる疼痛の処置のための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体の局所的適用を含む、方法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の接着性薬物担体の局所的適用を含む、止血剤として
の、又は抗原若しくは抗原をコーディングするウイルスベクターの送達のための使用のための方法。
【国際調査報告】