IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イノテスト ビーブイの特許一覧

特表2023-534652コバラミン化合物の経鼻投与のための医薬組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】コバラミン化合物の経鼻投与のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/714 20060101AFI20230803BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230803BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
A61K31/714
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/10
A61K9/08
A61P3/02 104
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023501254
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2021073796
(87)【国際公開番号】W WO2022043526
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2013645.3
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523006147
【氏名又は名称】イノテスト ビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】メルクス,フランシスクス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB25
4C076CC22
4C076DD38
4C076DD41R
4C076EE23
4C076FF16
4C076FF39
4C076FF43
4C076FF61
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA39
4C086HA28
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA59
4C086NA10
4C086ZC24
(57)【要約】
本発明は、水に溶解したヒドロキソコバラミン及び/又はヒドロキソコバラミン塩を含有し、主な賦形剤としてマンニトールを含有し、場合により、任意選択的に、他のいくつかの賦形剤を含有する、スプレー又は滴下又はゲルとしての鼻腔内投与(intranasal administration)に適した組成物及び形態の医薬製剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3%(w/v)であって約12%未満のマンニトール(w/v)を含有する水中において、0.1%(w/v)を超える濃度に溶解した、ヒドロキソコバラミン及び/又は任意の他の薬学的に許容されるヒドロキソコバラミン塩、並びに任意選択的に、いくつかの他の賦形剤、を含む、鼻腔内投与(intranasal administration)に適した液体水性医薬組成物。
【請求項2】
3%、4%, 5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15% v/vのプロピレングリコールを溶媒として、水中のマンニトール3%~12% w/vと組み合わせて、さらに含有する、請求項1に記載の液体水性医薬組成物。
【請求項3】
任意選択的に、ソルビン酸カリウム又はソルビン酸若しくはソルビン酸誘導体を防腐剤として含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
グリセロール、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコールから選択される1種以上の溶媒、及び/又は緩衝液、抗酸化剤、pH調整剤、界面活性剤、錯化剤、安定剤及び可溶化剤から選択される1種以上の賦形剤を、任意選択的に、含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶液中のヒドロキソコバラミンの総濃度が、0.1%~2%(w/v)の範囲である、請求項1、2、3及び4に記載の経鼻投与に適した組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキソコバラミン(及び/又はその塩)の鼻腔内投与組成物、及びそのような鼻腔内投与組成物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキソコバラミンは、ビタミンB12の天然型である。それは、化合物のコバラミンファミリーのメンバーである。ビタミンB12は、血液細胞の形成、神経系及び重要なタンパク質の産生に必要な必須ビタミンである。動物製品(卵、肉、乳など)は、ヒトの食事におけるビタミンB12の唯一の供給源である。ビタミンB12欠乏症は、消化器系がビタミンを吸収できない場合に起こる。これは、悪性貧血(この貧血ではいわゆる内因性因子によってビタミンB12を吸収する機序がない)を有する人々において、又、胃又は腸の手術後の患者において、ビーガン食及び菜食主義者において、並びにスプルー(熱帯性下痢:セリアック病とも呼ばれる)、クローン病、膵不全、エイズ及びアルコール依存症の患者においても起こる。
【0003】
高齢者集団の大部分は、ビタミンB12欠乏症を有し、血液学的及び神経学的障害を引き起こす。又、ビタミンB12欠乏症は、アルツハイマー病のリスク増加及び認知機能の低下と関係している。それは、又、パーキンソン病における共存症として頻繁に言及される。メチルコバラミンは、ADHD及び自閉症のような神経学的症状及び行動障害を有する様々な患者において有効であることが報告されている。
【0004】
ビタミンB12は、注射剤として使用される。経口ビタミンB12錠剤は健康関連店で広く入手可能であるが、ビタミンB12の吸収不足の患者では、経口摂取での生物学的利用性はほとんどない。
【0005】
ビタミンB12は、ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミン、及びアデノシルコバラミンとして人体に存在する。合成的に製造された最初の生成物は、シアノコバラミン(シアン化物を含む)である。歴史的な理由から、米国で治療的に使用される主な形態は、シアノコバラミンである。多くの他の国(例えば、ヨーロッパ)では、ヒドロキソコバラミンが選択される薬物であり、それは例えば、現代の薬理学の教科書及びWHO Model List of Essential Medicinesにおいて好適な化合物である。
【0006】
ヒドロキソコバラミンは、ヒトの体内でより長い排出半減期を有するので、シアノコバラミンよりも長く作用する。それは、血漿タンパク質に、より広範囲に結合する。次に、ヒドロキソコバラミンは、CN(シアン化物)を含有しない。したがって、シアノコバラミンは、比較的CNレベルの高い人(喫煙及び熱帯地方の弱視者、及び視神経症者)には禁忌である。メチルコバラミンは、世界中で広く利用可能ではなく、薬局方及び教科書において選択される薬物ではない。
【0007】
ビタミンB12の立ち位置は、典型的には血清又は血漿ビタミンB12レベルを介して評価される。正常レベルは、約200~900pg/mlである。200pg/ml未満の値は、ビタミンB12欠乏の徴候とみなされる。ビタミンB12濃度が、200~500pg/mLの高齢者でも、B12欠乏症の症状がみられることがある。値は通常、pg/ml(= ng/l)で表される(ビタミンB12変換係数:1pg/ml= 0.738pmol/l、及び1pmol/l = 1.355pg/ml)。
【0008】
医学的標準治療は、ビタミンB12の月1回の筋肉内注射であり、生涯にわたって継続しなければならない。これらの筋肉内注射は、深刻な欠点を有する。第1に、それらは、不便で痛みを伴い、第2に、それらは医療専門家の支援を必要とし、治療全体を非常に高価にする。より患者に優しく、より費用効果の高い治療に対する実質的な必要性が存在する。そのため、鼻への適用(経鼻投与)が開発されている。
【0009】
US 4724231は、ビタミンB12、約4~6のpHを提供する等張水性緩衝液、及び組成物の粘度が、約2500~1万Cpsであるような増粘剤を含む、経鼻投与のための治療用組成物を教示している。当該発明の組成物のpHは、約4~6である。pHは、緩衝組成物、適切には酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、ホウ酸塩、又は他の緩衝液で維持される。酢酸塩及びクエン酸緩衝液は、便宜上及び経済性のために好ましい。組成物の等張性は、塩化ナトリウム、又はデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム若しくは他の無機若しくは有機賦形剤などの他の薬学的に許容される薬剤を添加することによって達成される。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオン含有バッファーで特に好ましい。組成物の粘度は、メチルセルロース又はキサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどで維持される。US 4724231の好ましい組成物は、粘膜の乾燥を阻害し、刺激を防ぐために、湿潤剤、例えばソルビトール、プロピレングリコール又はグリセロールを含有する。濃度は、選択された薬剤によって変化する。US 4724231には、これらの薬剤の有無、又はそれらの濃度は、必須の特徴ではない、と記載される(カラム3、行15~17)。
【0010】
US 5801161は、ヒドロキソコバラミンが大量に経鼻内に吸収されるためには濃度が1%(w/v)を超えなければならないことを教示している。
【0011】
US 5925625は、ヒドロキソコバラミンの経鼻吸収効率が経鼻製剤中のヒドロキソコバラミンの濃度の増加に伴って増加すること、したがって、血管性頭痛の治療又は予防において経鼻的に吸収されるヒドロキソコバラミンの総濃度は、1.1~10%(w/w)の範囲でなければならないことを教示している。US 5925625では、経鼻投与用ヒドロキソコバラミン組成物中の賦形剤としてのマンニトール使用については言及されていない。
【0012】
US 7229636は、pH4~6を有する鼻腔内送達のためのシアノコバラミンの低粘度水溶性製剤を開示し、高粘度経鼻内ゲルの問題に対処し、より許容可能な低粘度鼻腔内用シアノコバラミン経鼻投与製剤を提供する。
【0013】
US 2008/039422は、「少なくとも1つのアルコール」を含有する、少なくとも20mg/ml(2% w/v)の濃度の注射目的(i.m、i.v.及びs.c.)のためのビタミンB12化合物の溶液を開示している。ここで該アルコールは、「エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール又はそれらの組み合わせ」であり得る。
【0014】
しかしながら、ソルビトール及びマンニトールは、糖アルコールとも呼ばれ、白色粉末であり、溶媒として有効とは知られていない。より重要なことには、当該発明の組成物において、US 2006/039422に記載されたアルコールは、ヒドロキソコバラミンを可溶化するために必要がない、というのは(シアノコバラミンとは対照的に)硫酸塩として、酢酸塩として、及び塩酸塩としてのヒドロキソコバラミンは、水に1:10w/wまで可溶性であるからである(供給源: Martindale: The Complete Drug Reference 35th Edition, S. Sweetman,Pharmaceutical Press, 2007, page 1817 Vitamin B12 substances。
【0015】
国際公開第2012/056299号パンフレットは、500mcg/0.1ml~1500mcg/0.1mlの濃度のメチルコバラミン又はシアノコバラミン、水中での共溶媒/可溶化剤又はそれらの混合物、及び、特に経鼻吸収を増強するための浸透促進剤、及び場合により保存剤、粘膜付着剤、キレート剤、保湿剤、抗酸化剤、又はそれらの組み合わせを含む経鼻投与用水性組成物を開示し、組成物のpHは5~7であり、粘度は1~200Cpsである。
【0016】
多種多様な補助物質が、全身性薬物送達のための経鼻薬物製剤において使用されることが文献において提案されている。鼻上皮細胞に対するいくつかの賦形剤の細胞毒性に関する研究において、研究者らは、1%濃度のマンニトールは、細胞損傷を引き起こさないと結論付け、その研究の結論において、マンニトール0.3%は、鼻ビヒクル(nasal vehicles)において使用されることが示唆される (Horvath T. etal. Molecules 2016, 21, 658)。
【0017】
ビタミンB12治療、特に注射治療は、顕著な効果と関連している。注射は、20,000~30,000pg/mlの間の極度に高いレベルを有する、非生理学的に高いコバラミン血中レベルを引き起こし、同時に、コバラミンの注射後に、炎症性ざ瘡及び毛包炎の増悪又は発症が報告されている。ビタミンB12誘導性座瘡のメカニズムは、Kang et al(Science Translational Medicine 2015, vol 7, issue 293, 293ra103)に記載されている。
【0018】
存在する場合、ざ瘡様発疹は、通常、1回目又は2回目の注射後に顔面領域に生じ、典型的には、治療を中止した後8~10日以内に消失する。オランダでは、ビタミンB12注射(主にヒドロキソコバラミン)後のざ瘡様皮膚炎の約45の発生事例が報告されている(B. Lokhorst and K. Grootheest, Pharmaceutisch Weekblad, 5 April 2013, 16-17)。又、高用量ヒドロキソコバラミン注射(Cyanokit(登録商標))に関する薬物情報は、患者が1~4週間以内にざ瘡様皮膚発疹を発症し得ることを教示する。
【0019】
ざ瘡様発疹は、通常、1回目又は2回目の注射後に起こり、注射療法が中止されると消失するので、高血中濃度と炎症性ざ瘡の発症との間に明らかな関係がある。したがって、注射療法と併用される高血中濃度を回避するビタミンB12療法が必要とされている。
【0020】
患者は、好ましくは、200~900pg/mlの生理学的血中レベル、及び約2000pg/ml、好ましくは1500pg/mlを超えない最大レベルをもたらすビタミンB12補充療法を必要とする。問題は、経鼻投与用ヒドロキソコバラミン治療がそのような治療を提供することができるかどうかである。
【0021】
米国では、2つのシアノコバラミン経鼻投与製品が開発されている(Nascobal(登録商標)、Calomist(登録商標))。Nascobalは、鼻粘膜へのスプレーとしての投与のためのシアノコバラミン、USP(ビタミンB12)の溶液である。Nascobalの各単位用量の経鼻スプレーは、クエン酸ナトリウム、クエン酸、グリセリン及び保存剤である塩化ベンザルコニウムを含むシアノコバラミンの精製水中の500mcg /0.1mL溶液を送達する(delivers)。噴霧溶液は、4.5~5.5のpHを有する。推奨用量は、1週間につき1回鼻孔で500mcg/0.1mlである。もう1つの製品は、鼻孔粘膜への定量噴霧剤としての投与のためのシアノコバラミンの溶液であるカルミストである。各ボトルは、シアノコバラミンの25mcg/0.1mL溶液の10.7mLを含有する。噴霧溶液は、6.5~7.5のpHを有する。さらに、塩化ナトリウム、塩基性リン酸ナトリウム (sodium phosphate monobasic)、保存剤ベンジルアルコール、水酸化ナトリウム、及び保存剤ベンザルコニウム塩化物を精製水中に含有し、スプレーポンプユニットと共に提供される。推奨初回投与量は、各鼻孔に1回/日(25mcg/鼻孔、1日総投与量50mcg)噴霧する。1日1回の投与に反応が不十分な患者には、各鼻孔に1回のスプレーを1日2回(1日総量100mcg)に増量する。Nascobal及びCalomistの両方の製品は、シアノコバラミンを含有し、これは、上記で説明した理由から、最良の生理学的ビタミンB12化合物ではない。第2に、これらの経鼻製品は保存剤として塩化ベンザルコニウムを含有し、これは、鼻における正常な粘膜毛様体クリアランスに負の効果を有する。
【0022】
ヒドロキソコバラミン経鼻スプレーを研究するいくつかの研究が文献に記載されている。6人のクローン病患者を対象とした1つの研究では、3つの異なる日に1500μgの経鼻投与用ヒドロキソコバラミンを投与した(Bruins Slot W et al. Gastroenterology 1997;113:430~433)。第0日、第14日、第21日のビタミンB12レベル(pg/ml単位)の増加は、患者A: 900、810、2080;患者B: 520、520、530;患者C : 1340、2260、2080;患者D: 2230、2030、1850;患者E: 2320、1880、1860;患者F: 1580、1040、1530であった。これは、1520pg/ml〔SD 645pg/ml、又は変動係数(CV)として表されるCV=42.5%〕の平均増加である。
【0023】
10人の高齢患者を対象とした第2の研究では、750μg投与後と1500μg投与後の平均Cmaxレベルがいくつかの症例ではかなり高く、より重要なことに、個体間変動は大きかった。経鼻投与後のCmaxレベル(± SD)は、2700±1200pg/ml(750μg投与後)及び4700±3400pg/ml(1500mg投与後)であった。CV (変動係数)として表される両方のCmaxレベルのSDは、750μgの用量の後で44%であり、1500mgの用量の後で72%であった(Van Asselt D. et al, Br. J. Clin. Pharmacol. 1998; 45:83-86)。
【0024】
これらの経鼻投与用ヒドロキソコバラミン研究において得られたCmaxレベルの標準偏差は、72%、44%及び42.5の変動係数として表され、大きい。これは、可変の、一貫しない、経鼻吸収プロセスを実証する。したがって、はるかに確実な吸収及びより小さい変動係数を提供し、Cmaxレベルが2000pg/mlを超えず、好ましくは1500pg/mlを超えない、経鼻投与用ヒドロキソコバラミン治療が必要とされている。言い換えれば、経鼻投与用ヒドロキソコバラミン製剤は、与えられた用量当たり約500~1000pg/mlのコバラミンレベルの最大増加を引き起こし、それによって、平均Cmaxは、約2000pg/mlの最大を超えず、好ましくは1500pg/mlを超えず、72%未満、44%未満、及び42.5%未満の変動係数を有するビタミンB12レベルの平均最大増加を提供することを必要とする。
【0025】
コバラミンビタミンは、全て強い暗赤色を有する。シアノコバラミン又はヒドロキソコバラミンスプレーの定期的な経鼻送達後、コバラミン化合物とその強い着色剤及び鼻中の粘液との相互作用は、鼻中に暗赤着色剤のクラスト(クラステ)を引き起こし得、鼻中の血液の存在を示唆する。又、経鼻コバラミンを投与してから数時間後に、紙ティッシュ又はハンカチで鼻を清浄すると、赤色になり、鼻出血が示唆される。赤色の非吸収コバラミンの粘膜毛様体クリアランスが適切に機能しなかったことを示している。したがって、吸収又は正常な粘膜毛様体クリアランスのいずれかによって、鼻から速やかに除去される経鼻製品組成物を提供する経鼻治療が必要とされている。
【0026】
現在市販されている経鼻製品の大部分(Nascobal及びCalomistを含む)は、保存剤として塩化ベンザルコニウムを含有する。カロミスト(Calomist)は、第2の保存剤としてベンジルアルコールを含有する。文献から、これらの防腐剤は、正常な鼻粘膜毛様体クリアランスの重度の減少を伴って、鼻毛様体拍動頻度を強く減少させ得ることが知られている。したがって、これらの防腐剤を使用しない経鼻ビタミンB12治療が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】US 4724231
【特許文献2】US 5925625
【特許文献3】US 5801161
【特許文献4】US 7229636
【特許文献5】US 2008/039422
【特許文献6】WO 2012/056299
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Horvath T. et al. Molecules 2016, 21, 658
【非特許文献2】Science Translational Medicine 2015, vol 7, issue 293, 293ra103
【非特許文献3】VanAsselt D. et al, Br. J. Clin. Pharmacol. 1998; 45:83-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の主な目的は、特定の組成物において鼻経路(nasal route)によってヒドロキソコバラミンを投与するための改善された経鼻投与用(nasal dosage)製剤を提供することである。
本発明の目的は、コバラミン化合物が経鼻内の粘膜を介して血流中に迅速かつ確実に吸収される、経鼻スプレー又は点鼻剤又は経鼻ゲルとして投与される水溶性経鼻投与用(aqueous nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供すること、並びにそのような製品を製造する方法及び/又はそのような経鼻投与用製剤(nasal product)を投与するための方法及び/又は装置を提供することである。
本発明の目的は、好ましくは与えられる用量当たり約500~1000pg/mlのコバラミンレベル(Cmax)の最大増加を引き起こす、経鼻スプレー(nasal spray)又は点鼻薬(nasal drops)又は経鼻ゲル(nasal gel)として投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供することである。
【0030】
本発明の別の目的は、Cmaxが最大約2000pg/ml、好ましくは約1500pg/mlを超えない、経鼻スプレー又は点鼻薬又は経鼻ゲルとして投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供することである。又、72%未満、44%未満、及び42.5%未満の変動係数を有する平均最大ビタミンB12レベルを提供する経鼻投与用製剤(nasal product)が必要とされている。
【0031】
本発明のさらなる目的は、塩化ベンザルコニウム及び/又はベンジルアルコールのような防腐剤を含有しない組成物を用いて、経鼻スプレー又は点鼻剤又は経鼻ゲルとして投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供することである。
【0032】
本発明の別の目的は、安全な保存剤の使用を達成する組成物を使い、経鼻スプレー又は点鼻薬又は鼻ゲルとして投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供することである。
【0033】
本発明のさらなる目的は、任意選択的に、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコールから、選択される1つ以上の溶媒、及びpHを4~8に保つための緩衝液、抗酸化剤、pH調整剤、界面活性剤、錯化剤、安定剤、及び可溶化剤から選択される1つ以上の他の賦形剤、を含有する、経鼻投与用(nasal)水溶性(aqueous)ヒドロキソコバラミン組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の組成物は、活性薬物としてヒドロキソコバラミン及び/又は、例えば、塩化ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン硫酸塩及びヒドロキソコバラミン酢酸塩及び類似の誘導体のような、ヒドロキソコバラミンの薬学的に許容される塩の1つ、を含有する、鼻腔内投与用(intranasal administration)の水溶性製剤(aqueous formulation)を提供する
【0035】
コバラミン化合物は大きな親水性分子(約1350ダルトン)であり、鼻上皮膜を横切るそれらの輸送は傍細胞性(傍細胞細胞輸送)である。そのような輸送は、鼻上皮細胞間のタイトジャンクションを開く経鼻製剤(nasal formulation)中の賦形剤によって達成され得る。
【0036】
本発明者らは、驚くべきことに、3%~12%マンニトール(w/v)、好ましくは5%~10%(w/v)の濃度で、経鼻投与用組成物(nasal composition)中にマンニトールを含めると、コバラミン化合物の確実な吸収が促進されることを見出した。マンニトール5%は、血清と等浸透圧である(Rowe et al, eds, Handbook of Pharmaceutical Excipients, 7th Edn, London: Pharmaceutical Press, 2012)。マンニトール5%(w/v)より高いレベルは、高浸透圧性である。
【0037】
驚くべきことに、本発明の組成物中のマンニトールは、ヒドロキソコバラミンの経鼻吸収(nasal absorption)のための非常に効率的な促進剤である。約1350の分子量を有する親水性分子ヒドロキソコバラミンは、傍細胞経路を介してのみ上皮膜を通過することができ、この手段は、細胞間の間隙を介してのみ通過する。本発明の製剤中のマンニトールの高浸透圧濃度は、組成物を鼻上皮細胞に対して高浸透圧にさせる。浸透平衡を作り出すために、水は鼻上皮細胞を離れ、鼻内の粘液層の流動性を改善し、鼻上皮細胞を収縮させ、同時に、細胞間のタイトジャンクション(密着結合)を引き伸ばす。この引き伸ばしは、新たに形成された間隙が、短時間にわたって開いたままであり、これにより、経鼻細胞間の間隙を介したヒドロキソコバラミンの全身血液循環への拡散を可能にする、ことを意味する。驚くべきことに、このことが、マンニトールを、ヒドロキソコバラミンの確実な経鼻吸収を促進するために不可欠な薬剤にする。
【0038】
本発明の組成物において、マンニトールは、ヒドロキソコバラミンの確実な吸収を提供するだけでなく、鼻粘液の流動性を増加させ、正常な粘膜毛様体クリアランスも回復させる。これは、赤い痂皮の形成を低減又は防止することができる。これらの特徴は、驚くべきことに、マンニトールを、ヒドロキソコバラミンの有効な経鼻吸収を促進するための好ましい賦形剤とする。
【0039】
本発明は、2000pg/mlを超えない、好ましくは1500pg/mlを超えない最大レベルまでのコバラミン血中レベルの上昇を達成するために最適化された吸収プロファイルを有する、マンニトール及び水を主賦形剤として含有する、経鼻投与のためのヒドロキソコバラミン(及び/又はその薬学的に許容される塩の1つ)の新規製剤を提供する。このような組成物により、生理学的な最大血中濃度を達成することが可能であり、同時に、非常に高い血中濃度及びざ瘡様皮膚炎の固有のリスクを回避することが可能であり、確実な吸収(吸収能におけるわずかな変動しかない)も提供し、副作用の低減、例えば、より少ない赤色の痂皮及び正常な鼻粘膜毛様体クリアランスへの迅速な復帰も提供する。
【0040】
本発明は、水に溶解した0.1%(w/v)を超える濃度のヒドロキソコバラミン(及び/又はその薬学的に許容される塩の1つ)を含み、3%~12%のマンニトール、好ましくは5~10%のマンニトール(全てw/v)を含む、経鼻投与(nasal administration)用組成物を提供する。
【0041】
本発明の実施形態は、例えば、0.5%、又は1%、又は1.5%(w/v)のヒドロキソコバラミン(ヒドロキソコバラミン又はその塩の1つとして)を含有する水中0.1%(w/v)を超える濃度に溶解された、ヒドロキソコバラミン及び/又は任意の他の薬学的に許容されるヒドロキソコバラミン塩、並びに任意選択で1つ又は複数の薬学的賦形剤を含む、経鼻投与のための組成物を提供する。
【0042】
さらなる実施形態では、本発明は、少なくとも3%(w/v)のマンニトール及び約12%未満のマンニトール(w/v)を含有する水中で0.1%(w/v)~2%(w/v)の濃度で溶解される、ヒドロキソコバラミン及び/又は任意の他の薬学的に許容される塩を含み、及び、任意選択的に、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコールから選択される1つ以上の溶媒、及び、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、界面活性剤、錯化剤、安定剤及び可溶化剤から選択される1つ以上の他の賦形剤、を含む、経鼻投与のための組成物を提供する。
【0043】
本発明者らは、驚くべきことに、プロピレングリコールが、本発明の製剤において重要な賦形剤であることを見出した。プロピレングリコールは、2%の濃度において、血清と等浸透圧性である(Rowe et al, eds,Handbook of Pharmaceutical Excipients, 7th Edn,London: Pharmaceutical Press, 2012)。高濃度のプロピレングリコールは、高浸透圧性であり、マンニトールを含有する本発明の製剤の「高浸透圧効果」を増大させている。
【0044】
適切には、本開示の組成物が、溶媒として3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%及び15% v/vのプロピレングリコールを、水中のマンニトール3%~12%、より好ましくはマンニトール5%~10% w/vと組み合わせて含み得る。又、本発明の組成物における賦形剤としてのプロピレングリコールの使用は、15%の高浸透圧濃度のプロピレングリコールが有効な保存剤として知られているので、驚くべき利点を有する(Rowe et al, loc. cit.)。
【0045】
又、15%未満のプロピレングリコール(例えば、10%)の濃度は、高浸透圧性であり、文献において保存効果を有すると分類される。本発明の組成物において、この効果は、マンニトールの存在によって増強され、経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン組成物の成分の総濃度を高浸透圧にし、完全に保存された経鼻投与用(nasal)組成物をもたらし、ヒドロキソコバラミンの確実な傍細胞吸収をもたらし、同時に、塩化ベンザルコニウム及びベンジルアルコール等のかなり毒性の高い保存剤の使用を回避する可能性を提供する。
【0046】
さらなる実施形態では、本発明は、又、いかなる防腐剤も使用せずに組成物を使用して、経鼻スプレー又は点鼻薬又は鼻ゲルとして投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供する。この場合、経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液は、滅菌された方法で製造され、及び/又は、製造の最終段階で滅菌され、及び/又は、経鼻スプレー若しくは点鼻薬又は鼻用ゲルを送達するために、密閉された、保存剤を含まない容器で提供される。
【0047】
又、例えば、より高容量の経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミンを含む本発明製剤を使用する場合、経鼻投与用(nasal)組成物中の高濃度のプロピレングリコールが最適でないこともあり得る。そのような場合、本発明の別の実施形態は、防腐剤としてソルビン酸又はソルビン酸カリウムを使用する組成物を選択して、経鼻スプレー又は点鼻薬又は経鼻ゲルとして投与される経鼻投与用(nasal)ヒドロキソコバラミン溶液を提供する。Hofmannら2004(Arch Otolaryngol Head Neck Surgery 2004; 130: 440-445)による実験では、ソルビン酸カリウム約0.1%(w/w)が、経鼻投与用(nasal)製品において保存剤として使用される場合、塩化ベンザルコニウムよりもはるかに安全であることが証明されている。
【0048】
ソルビン酸及びその塩、例えばソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びソルビン酸カルシウムは、防腐剤としてしばしば使用される抗菌剤である。一般に、塩はより水溶性であるので酸形態よりも好ましいが、活性であるのは酸形態である(Wikipedia 2014、ソルビン酸)。抗菌活性の最適pHは、pH 6.5未満である。ソルベートは、一般に0.025%~0.10%の濃度で使用される。結果として、本発明は、さらなる実施形態において、4~7、好ましくは6未満、より好ましくは4~6のpHで保存剤としてソルビン酸を含有する溶液を提供する。そのようなpHは、又、市場でのヒドロキソコバラミン投与のpHが酸性にされることが文献から知られているので、ヒドロキソコバラミンの最適な安定性を提供する。この酸性pHは、特別な緩衝液又は酢酸を用いて得られる。例えば、注射Neo-B12は、4.6のpHを有する(www.medsafe.com)。本発明の製剤は、又、4~7のpHを有する。
【0049】
本発明は、10~150μl、好ましくは25~125μl、より好ましくは25μl、50μl、70μl、90μl、又は100μlの鼻孔当たり投与量のヒドロキソコバラミンを含み、10~1000μg、好ましくは25~750mg、より好ましくは50μg、100μg、250μg、又は500μgのヒドロキソコバラミンの量を、投与量当たり含有する、。
【0050】
ヒトボランティアにおける高浸透圧濃度のマンニトール及びプロピレングリコールを含有する溶液からのヒドロキソコバラミンの確実な吸収は、以下に記載される実験において実証される。
【実施例
【0051】
健康なボランティアが、Aptar VP7スプレーポンプを用いて、主成分としてヒドロキソコバラミン、マンニトール10% w/v、プロピレングリコール10% v/v及び水(総用量500μgヒドロキソコバラミンHCl)を含有する50μlの経鼻スプレーにより、500μgの投与量のヒドロキソコバラミン投与を受けた。
以下のヒドロキソコバラミン血中レベルの増加(30分後のC t= 0からC maxへの増加)を測定した:
423, 598, 609, 562, 793, 478, 537, 389 pg/ml(= ng/l)。
ヒドロキソコバラミン500μgあたりの平均増加量: 549pg/ml(SD= 127pg/ml= CV23%)
5% w/vのマンニトール、15% v/vのプロピレングリコール、及び水を使用した場合も、同等の結果が得られた。
【0052】
いずれのボランティアも、その後、鼻の刺激又は鼻の赤色の痂皮の存在を経験しなかった。いずれのボランティアにおいても、ビタミンB12のC maxレベルは1500pg/mlを超えなかった。コバラミンレベルの平均増加は、549pg/mlであり、23%のCVは、40%をはるかに下回り、非常に確実な吸収を示した。
【0053】
結果は、(1)確実な吸収を有し、かつ非生理学的に高い血中レベル(2000pg/ml又は1500pg/mlを超えない)を引き起こすことなく、患者にビタミンB12の経鼻投与(nasal)補充療法を提供することが可能であり、(2)注射療法後の高い血中レベルによって引き起こされるざ瘡様皮膚炎のリスクを回避すること、及び(3)鼻に赤色の痂皮が発生することなく、及び(4)防腐剤としての塩化ベンザルコニウム及びベンジルアルコールの使用を回避することが可能であることを実証した。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3%(w/v)であって12%未満のマンニトール(w/v)を含有する水中において、0.1%(w/v)を超える濃度に溶解した、ヒドロキソコバラミン及び/又は任意の他の薬学的に許容されるヒドロキソコバラミン塩、並びに任意選択的に、いくつかの他の賦形剤、を含む、鼻腔内投与(intranasal administration)に適した液体水性医薬組成物。
【請求項2】
3%、4%, 5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15% v/vのプロピレングリコールを溶媒として、水中のマンニトール3%~12% w/vと組み合わせて、さらに含有する、請求項1に記載の液体水性医薬組成物。
【請求項3】
任意選択的に、ソルビン酸カリウム又はソルビン酸若しくはソルビン酸誘導体を防腐剤として含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
グリセロール、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコールから選択される1種以上の溶媒、及び/又は緩衝液、抗酸化剤、pH調整剤、界面活性剤、錯化剤、安定剤及び可溶化剤から選択される1種以上の賦形剤を、任意選択的に、含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶液中のヒドロキソコバラミンの総濃度が、0.1%~2%(w/v)の範囲である、請求項1、2、3及び4に記載の経鼻投与に適した組成物。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3%(w/v)であって12%未満のマンニトール(w/v)を含有する水中において、0.1%(w/v)を超える濃度に溶解した、ヒドロキソコバラミン及び/又は任意の他の薬学的に許容されるヒドロキソコバラミン塩、並びに任意選択的に、いくつかの他の賦形剤、を含む、鼻腔内投与(intranasal administration)に適した液体水性医薬組成物。
【請求項2】
3%、4%, 5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%又は15% v/vのプロピレングリコールを溶媒として、水中のマンニトール3%~12% w/vと組み合わせて、さらに含有する、請求項1に記載の液体水性医薬組成物。
【請求項3】
任意選択的に、ソルビン酸カリウム又はソルビン酸若しくはソルビン酸誘導体を防腐剤として含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
グリセロール、ポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコールから選択される1種以上の溶媒、及び/又は緩衝液、抗酸化剤、pH調整剤、界面活性剤、錯化剤、安定剤及び可溶化剤から選択される1種以上の賦形剤を、任意選択的に、含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶液中のヒドロキソコバラミンの総濃度が、0.1%~2%(w/v)の範囲である、請求項1、2、3及び4のいずれか1項に記載の経鼻投与に適した組成物。
【国際調査報告】