(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】摩擦発光材料、摩擦発光材料としてのCu錯体の使用、力学的刺激応答性センサー、及び応力の検出方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20230803BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20230803BHJP
C07D 471/08 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
C09K11/06
C09K11/06 660
C07F1/08 A
C07F1/08 C
C07D471/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501818
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2021026068
(87)【国際公開番号】W WO2022014514
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2020120094
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】クスヌディノワ ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】狩俣 歩
(72)【発明者】
【氏名】パティル プラドニア フクムチャンド
【テーマコード(参考)】
4C065
4H048
【Fターム(参考)】
4C065AA07
4C065BB09
4C065CC10
4C065DD04
4C065EE03
4C065HH06
4C065JJ01
4C065KK09
4C065LL01
4C065PP01
4C065QQ09
4H048AA03
4H048AB92
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】力学的刺激に応答して発光を生ずる摩擦発光材料は、「スマートマテリアル」及び損傷センサーの開発におけるそれらの応用のために、大いに注目されている。金属錯体の中でも、希土類ユーロピウム及びテルビウム錯体が最も広く利用されている一方、より容易に入手可能で安価なCu錯体における摩擦発光についての体系的なデータは、文献において報告されている散発的な数例を除いては存在しない。
【解決手段】我々は、結晶状態において、結晶性試料をすり砕く又は押し砕く際に空気下で周囲光の中でも視認できる明るい摩擦発光(TL)を示す、発光性のCu-NHC錯体の新規のファミリーを報告する。さらに、これらの錯体を非晶質ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム中に分散させると、低濃度でも、TLが容易に観測される。Cu含有ポリマー膜中では、明発光性のCu-NHC錯体の励起に周囲の気体放電が関与している可能性がある。ポリマー膜中におけるTLの観察は、力学的刺激応答に対する結晶相の使用の制限を克服し、Cuのような安価な金属をベースとする力学的刺激応答性のコーティング及び材料の開発についての可能性を開く。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体を含む摩擦発光材料。
【請求項2】
前記Cu錯体は下記式(1)で表され、
【化1】
式中、R
1及びR
2はそれぞれ、水素原子又は炭素数50以下の置換基を表し、R
3~R
6はそれぞれ、水素原子又は置換基を表し、R
3~R
6のいずれかの対は一緒になって環を形成していてもよく、2つのピリジン環のうち少なくとも1つは置換されていてもよく、X
-は対アニオンを表す、
請求項1に記載の摩擦発光材料。
【請求項3】
R
1及びR
2は互いに異なる、請求項2に記載の摩擦発光材料。
【請求項4】
R
1及びR
2はそれぞれ、炭素数1~50の炭化水素基を表す、請求項2又は3に記載の摩擦発光材料。
【請求項5】
R
4及びR
5が一緒になって環を形成する、請求項2~4のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
【請求項6】
ポリマーを含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
【請求項7】
ポリマーを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
【請求項8】
前記Cu錯体が前記ポリマーに共有結合により組み込まれていない、請求項7に記載の摩擦発光材料。
【請求項9】
前記Cu錯体が前記ポリマーに共有結合により組み込まれている、請求項7に記載の摩擦発光材料。
【請求項10】
前記Cu錯体の結晶性断片を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
【請求項11】
フィルムの形態である、請求項7~10のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
【請求項12】
N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体の摩擦発光材料としての使用。
【請求項13】
ポリマーとN-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体とを含む組成物の摩擦発光材料としての使用。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の摩擦発光材料を含む力学的刺激応答性センサー。
【請求項15】
応力又は物理的損傷の検出方法であって、
請求項1~11のいずれか1項に記載の摩擦発光材料の、前記応力に対する力学的刺激応答を判定することを含む、方法。
【請求項16】
請求項7~11のいずれか1項に記載の摩擦発光材料の調製方法であって、
前記Cu錯体及び前記ポリマーを溶媒中に溶解して溶液を調製することと、
当該溶液を乾燥することと、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法によって調製される摩擦発光材料。
【請求項18】
Cu錯体の設計方法であって、
1)N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体の摩擦発光を評価することと、
2)前記N-複素環式カルベン配位子、前記ピリジノファン配位子、及び前記対アニオンの少なくとも1つを修飾して、摩擦発光特性を改善するように新規のCu錯体を設計することと、
3)任意で、2)を少なくとも1回繰り返すことと、
を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法を行う、Cu錯体の設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶状態における及びポリマー膜におけるN-複素環式カルベン配位子を有するCu錯体(Cu-NHC錯体)の摩擦発光に関する。詳細には、本発明は、摩擦発光材料、Cu錯体の使用、力学的刺激応答性センサー、応力の検出方法、Cu錯体の設計方法、及びCu錯体の設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦発光(TL)は、メカノルミネッセンス(ML)又はフラクトロルミネッセンス(FL)とも称され、押し砕き、こすり、又はすり砕きといった力学的刺激によって引き起こされる有機又は無機材料からの発光の発生として知られている。この現象は、1605年に、固体の砂糖を引っ掻くことによる発光を報告したフランシス・ベーコン(Francis Bacon)によって初めて記録された(非特許文献1)[1]。TLは現在、材料における損傷センサーの開発への応用のために大いに注目されている(非特許文献2)[2]。既知のTL配位化合物の中でも、希土類金属であるEuIII及びTbIIIの錯体が最も広く知られている(非特許文献3)[3]。しかしながら、TL特性を示す遷移金属(TM)錯体についてはその報告数は限られており、MnII[4]、RuII[5]、PtII[6]、及びCuI[7]錯体(非特許文献4~6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】N. I. Korotkikh, V. S. Saberov, A. V. Kiselev, N. V. Glinyanaya, K. A. Marichev, T. M. Pekhtereva, G. V. Dudarenko, N. A. Bumagin, O. P. Shvaika, Chem. Heterocycl. Compd. (N. Y.) 2012, 47, 1551-1560.
【非特許文献2】F. Bottino, M. Di Grazia, P. Finocchiaro, F. R. Fronczek, A. Mamo, S. Pappalardo, J. Org. Chem. 1988, 53, 3521-3529.
【非特許文献3】C.-M. Che, Z.-Y. Li, K.-Y. Wong, C.-K. Poon, T. C. W. Mak, S.-M. Peng, Polyhedron 1994, 13, 771-776.
【非特許文献4】F. A. Cotton, D. M. L. Goodgame, M. Goodgame, J. Am. Chem. Soc. 1962, 84, 167-172;
【非特許文献5】S. Balsamy, P. Natarajan, R. Vedalakshmi, S. Muralidharan, Inorg. Chem. 2014, 53, 6054-6059;
【非特許文献6】J. Chen, Q. Zhang, F.-K. Zheng, Z.-F. Liu, S.-H. Wang, A. Q. Wu, G.-C. Guo, Dalton Trans. 2015, 44, 3289-3294.
【非特許文献7】G. L. Sharipov, A. A. Tukhbatullin, J. Lumin. 2019, 215, 116691.
【非特許文献8】C.-W. Hsu, K. T. Ly, W.-K. Lee, C.-C. Wu, L.-C. Wu, J.-J. Lee, T.-C. Lin, S.-H. Liu, P.-T. Chou, G.-H. Lee, Y. Chi, ACS Appl. Mater. Interfaces 2016, 8, 33888-33898.
【非特許文献9】L. J. Farrugia, J. Appl. Crystallogr. 2012, 45, 849-854.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの例の中でも、Cuは最も豊富に存在する安価な金属の1つであるということを考慮すると、CuをベースとするTL材料は、現在利用されているEu系及びTb系の材料に代わる実用的な代替物を提供する。銅のような安価な金属を使用することは、高価で入手が限られた希土類金属系材料の問題を克服する手助けとなり得、摩擦発光性損傷センサーの分野に意義深い技術発展をもたらす可能性がある。これまでに、TL-Cu錯体の散発的な数例のみが報告されている[7]が、一例[8]を除きほとんどの場合において、摩擦発光性スペクトルやその他の体系的な実験データは報告されていない。その配位子及び錯体構造の変化がどのようにTL特性に影響を及ぼすのかについての検討を可能にするようなTL特性を示す銅錯体類についての先例は、今のところ存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願は以下の発明を含む。
[1] N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体を含む摩擦発光材料。
本出願において、用語「摩擦発光材料」は、力学的刺激に応答して発光を生ずる材料として定義される。力学的刺激としては、応力、ひずみ、及び変形が挙げられ、それらは圧縮、張力、引張強さ、衝撃、せん断、屈曲、摩滅、ねじれ、引っ掻き、押し砕き、こすり、すり砕き、及び超音波等の力学的負荷に由来する。摩擦発光材料は、発光するためにUV光等の励起光の照射を必要としない。
[2] 前記Cu錯体は下記式(1)により表され、
【化1】
式中、R
1及びR
2はそれぞれ、水素原子又は炭素数50以下、好ましくは炭素数10以下の置換基を表し、R
3~R
6はそれぞれ、水素原子又は置換基を表し、R
3~R
6のいずれかの対は、一緒になって環を形成していてもよく、2つのピリジン環のうち少なくとも1つは置換されていてもよく、X
-は対アニオンを表す、
[1]に記載の摩擦発光材料。
基R
1~R
6の置換基の例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1~50)、アルケニル基(好ましくは炭素数1~50)、アルキニル基(好ましくは炭素数1~50)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~50)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アシル基(好ましくは炭素数1~50)、シリル基(好ましくは炭素数1~50)、アミノ基、アルデヒド基、イソシアネート基、トリアゾリル基、アリール基(好ましくは炭素数6~50)、ヘテロシクロアルキル基(好ましくは炭素数3~50)、及びヘテロアリール基(好ましくは炭素数3~50)が挙げられる。これらの例示された基は、更に置換されていてもよい。こうした更に置換された基としては、例えば、アラルキル基、ハロアルキル基、アルコキシシリル基が挙げられる。R
1~R
6の置換基は、カルボキシル結合、カルボキシアミド結合、エステル結合、アミド結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合等を有してもよい。
[3] R
1及びR
2は互いに異なる、[2]に記載の摩擦発光材料。
[4] R
1及びR
2はそれぞれ、炭素数1~50、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基を表す、[2]又は[3]に記載の摩擦発光材料。
本出願の好ましい実施形態では、R
1は炭素数1~50の非置換のアルキル基であり、R
2は炭素数6~50の置換又は非置換のアリール基あるいは炭素数7~50の置換又は非置換のアラルキル基等の芳香環を有する基である。
[5] R
4及びR
5が一緒になって環を形成する、[2]~[4]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
本出願の好ましい実施形態では、R
4及びR
5は一緒になって芳香環を形成する。
[6] ポリマーを含まない、[1]~[5]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
本出願における用語「ポリマー」は、少なくとも3回繰り返す単位を有する化合物として定義される。
[7] ポリマーを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
前記ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、及びビニルポリマーであってよい。
[8] 前記Cu錯体は前記ポリマー中に共有結合により組み込まれていない、[7]に記載の摩擦発光材料。
前記Cu錯体は前記ポリマー中に架橋剤として組み込まれていない。
[9] 前記Cu錯体が前記ポリマー中に共有結合により組み込まれている、[7]に記載の摩擦発光材料。
その全体が参照により本明細書に援用される、ケミカルコミュニケーションズ(Chemical Communications)2020年,56巻,50~53頁に開示されたCu錯体を、本発明の摩擦発光材料において使用することができる。
[10] 前記Cu錯体の結晶性断片を含む、[7]~[9]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。
[11] フィルムの形態である、[7]~[11]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料。前記材料は、コーティング、粒子、タブレット、ビーズ、又は繊維の形態であってよい。
[12] N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体の摩擦発光材料としての使用。
[13] ポリマーとN-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体とを含む組成物の摩擦発光材料としての使用。
[14] [1]~[11]のいずれか1項の摩擦発光材料を含む、力学的刺激応答性センサー。
本出願において、用語「力学的刺激応答性センサー」は、力学的刺激または物理的損傷を検出し、及びそれに応答する装置として定義される。
[15] 応力の検出方法であって、
[1]~[11]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料の、前記応力に対する力学的刺激応答を判定することを含む、方法。
本発明では、力学的刺激応答は、空気中で判定することができる。好ましい実施形態では、力学的刺激応答は可視光の発光である。別の好ましい実施形態では、力学的刺激応答は発光色の変化である。
[16] [7]~[11]のいずれか1項に記載の摩擦発光材料を調製する方法であって、
前記Cu錯体及び前記ポリマーを溶媒中に溶解して溶液を調製することと、当該溶液を乾燥することと、を含む、方法。
[17] [16]に記載の方法によって調製された、摩擦発光材料。
[18] Cu錯体の設計方法であって、
1)N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体の摩擦発光を評価することと、
2)前記N-複素環式カルベン配位子、前記ピリジノファン配位子、及び前記対アニオンの少なくとも1つを修飾して、摩擦発光特性を改善するように新規のCu錯体を設計することと、
3)任意で、2)を少なくとも1回繰り返すことと、
を含む、方法。
当該方法によって、発光色、発光ピーク、最大強度、及び/又は空気安定性を最適化できる。
[19] [18]に記載の方法を実行する、Cu錯体の設計プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】錯体1、2、及び3a~dの合成スキームである。
【
図2】(a)結晶状態における、及び(b)PMMAフィルムにおける、錯体1、2、及び3a~dの正規化されたPL発光スペクトルである。380nmにて励起。
【
図3】空気下での1(a)、2(b)及び3a(c)の結晶中における、及びAr下での10重量%の1(d)、2(e)、及び3a(f)を含有するPMMAフィルム中における、TLの代表画像である。
【
図4】窒素ガス下での(a)結晶状態における及び(b)PMMAフィルム(1重量%)における、錯体1、2、及び3a~dの正規化されたTL発光スペクトルである。
【
図5】1気圧のN
2、Ar、He、CO
2、及びSF
6下で記録された、1重量%の錯体(a)1;(b)2;及び(c)3aを含有するPMMAフィルムのTLスペクトルである。
【
図6】空気に暴露後の、PMMA中1重量%の1、2、及び3aのPLQYを示すグラフである。
【
図7】25℃におけるジクロロメタン中の1、2、及び3a~dのUV-可視吸収スペクトルである。
【
図9】窒素ガス雰囲気下での1、2、及び3a~dの結晶の全TLスペクトルである。
【
図10】窒素ガス雰囲気下での、1重量%の1、2、及び3a~dを含有するPMMAフィルムの全TLスペクトルである。
【
図11】アルゴンガス雰囲気下での、1、2、及び3a~dの結晶性試料のTLスペクトルである。
【
図12】アルゴンガス雰囲気下での、1重量%の1、2、及び3a~dを含有するPMMAフィルムのTLスペクトルである。
【
図13】アルゴンガス雰囲気下での、1重量%の1、2、及び3aを含有するポリスチレンフィルムのTLスペクトルである。
【
図14】アルゴンガス雰囲気下での、1重量%の1、2、及び3aを含有するポリ塩化ビニルフィルムのTLスペクトルである。
【
図15】様々なガス雰囲気下での、(a)1、(b)2、及び(c)3aの結晶性試料のTLスペクトルである。
【
図16】アルゴン下での、異なる重量比率を有するPMMAフィルム中の3aのTLスペクトルであって、(a)1重量%、(b)10重量%、(c)50重量%、(d)80重量%の錯体3a、(e)正規化したTLスペクトルを重ねたものである。
【
図17】1重量%の(a)1;(b)2;及び(c)3aを有する、0.5トールの真空下でのPMMAフィルムのTLスペクトルである。
【
図18】周囲光中の空気下での、(a)1、(b)2、(c)3a、(d)3b、(e)3c、及び(f)3dの結晶の摩擦発光の写真である。
【
図19】摩擦発光実験に使用された10重量%の1(左)、2(中央)、及び3a(右)を含有するPMMAフィルムの写真である。
【
図20】単結晶X線回折データによる化合物1についての非水素原子の50%確率の異方性変位楕円体を示すORTEP図である。
【
図21】単結晶X線回折データによる化合物2についての非水素原子の50%確率の異方性変位楕円体を示すORTEP図である。
【
図22】単結晶X線回折データによる化合物3bについての非水素原子の50%確率の異方性変位楕円体を示すORTEP図である。第2ディスオーダー成分(the second disordered component)は点線で示されている。
【
図23】単結晶X線回折データによる化合物3cについての非水素原子の50%確率の異方性変位楕円体を示すORTEP図である。第2ディスオーダー成分は点線で示されている。
【
図24】単結晶X線回折データによる化合物3dについての非水素原子の50%確率の異方性変位楕円体を示すORTEP図である。第2ディスオーダー成分は点線で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「X~Y」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値X,Yを下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明は2020年7月13日に出願された特願2020-120094に関係するものであり、この出願全体は本願の一部としてここに引用される。
【0008】
摩擦発光材料
本発明の摩擦発光材料は、N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、および対アニオンを有するCu錯体を含むものである。
【0009】
Cu錯体
摩擦発光材料のCu錯体は、錯イオンと対アニオンを含む。錯イオンでは、N-複素環式カルベン配位子とピリジノファン配位子がCuに配位している。
N-複素環式カルベン配位子は、カルベン炭素と、カルベン炭素に結合した2つの複素原子を含む複素環を有していて、カルベン炭素でCuに配位している。そして、カルベン炭素に結合している2つの複素原子の少なくとも1つは窒素原子である。2つの複素原子の一方のみが窒素原子であるとき、他方の複素原子は硫黄原子であって酸素原子であってもよい。複素環は、カルベン炭素に結合する2つの複素原子に加えて、別の複素原子を環員として含んでいてもよい。
N-複素環式カルベン配位子の例として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0010】
【0011】
式(2)において、Zは、>N-R6a、-O-(酸素原子)または-S-(硫黄原子)を表し、R3aおよびR6aは、それぞれ水素または置換基を表す。R3aおよびR6aにおける置換基の好ましい範囲と具体例については、下記式(1)のR3およびR6についての記載を参照することができる。
式(2)において、カルベン炭素、N、Zおよび破線によって形成された環は複素環である。複素環は、式(2)に示すNおよびZ以外の複素原子を含んでいてもよい。複素環は、単環であってもよいし、カルベン炭素、NおよびZを含む複素環が1つ以上の環と縮合した縮合環であってもよい。複素環と縮合する環は、芳香環であっても脂肪族環であってもよく、環員として複素原子を含むものであってもよい。複素環が単環であるとき、複素環の環員数は、好ましくは4~8、より好ましくは4~6、特に好ましくは5である。複素環が単環であるとき、複素環の炭素原子(カルベン炭素を除く炭素原子)の数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、特に好ましくは2である。複素環が縮合環であるとき、カルベン炭素、NおよびZを含む成分環の環員数は、好ましくは5~8、より好ましくは5または6、特に好ましくは5である。縮合環全体の炭素原子(カルベン炭素を除く炭素原子)の数は、好ましくは2~14、より好ましくは2~10、さらに好ましくは2~7である。式(2)中の破線が少なくとも1個の水素原子を含むとき、1個以上の水素原子が置換されていてもよい。
【0012】
ピリジノファン配位子は、2つの橋架け構造によって連結された2つのピリジン環を有し、2つのピリジン環のそれぞれが窒素原子でCuに配位している。橋架け構造は、一方のピリジン環の炭素原子と他方のピリジン環の炭素原子とを連結する2価の連結基である。橋架け構造は、2価の原子であっても2価の原子団であってもよい。橋架け構造の好ましい例は、2つの置換もしくは無置換のアルキレン基がイミノ基(NR:Rは水素原子または置換基を表す)を介して連結した構造を有する連結基である。2つのピリジン環の2つの橋架け構造への結合位置は、各ピリジン環の2位または3位と、5位または6位であることが好ましく、各ピリジン環の2位と6位であることがより好ましい。2つのピリジン環において、橋架け構造に結合していない位置の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。以下、ピリジノファン配位子のピリジン環を構成する窒素原子を「ピリジン窒素」といい、ピリジノファン配位子の橋架け構造を構成する窒素原子を「橋架け窒素」という。
ピリジノファン配位子の例として、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0013】
【0014】
式(3)において、R1aおよびR2aは、それぞれ水素原子または炭素数50以下の置換基を表す。炭素数50以下の置換基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記式(1)のR1およびR2がとりうる炭素数50以下の置換基についての記載を参照することができる。
R7a~R10aは、それぞれ置換もしくは無置換のアルキレン基を表す。アルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。アルキレン基は、炭素数1~3であることが好ましく、炭素数1または2であることがより好ましく、炭素数1であることがさらに好ましい。アルキレン基の具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。アルキレン基に置換してもよい置換基の好ましい範囲と具体例については、下記式(1)のR1およびR2がとりうる炭素数50以下の置換基についての記載を参照することができる。
式(3)において、2つのピリジン環の水素原子は置換されてもよい。2つのピリジン環に置換してもよい置換基の好ましい範囲と具体例については、下記式(1)のR1およびR2がとりうる炭素数50以下の置換基についての記載を参照することができる。
【0015】
Cu錯体の対アニオンは一価のアニオンである。対アニオンの具体例については、下記式(1)のX-の具体例を参照することができる。
【0016】
Cu錯体は、下記式(1)で表されることが好ましい。
【0017】
【0018】
式(1)において、R1およびR2は、それぞれ水素原子または炭素数50以下の置換基を表す。R1とR2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。炭素数50以下の置換基は、炭素数1~50の炭化水素基であってもよいし、1つ以上のヘテロ原子を含み、炭素数が50以下の置換基であってもよい。R1およびR2の好ましい置換基は、炭素数1~10の炭化水素基である。
R3~R6は、それぞれ水素原子または置換基を表す。R3~R6は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R1~R6がとりうる置換基の例として、アルキル基(好ましくは炭素数1~50)、アルケニル基(好ましくは炭素数1~50)、アルキニル基(好ましくは炭素数1~50)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~50)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アシル基(好ましくは炭素数1~50)、シリル基(好ましくは炭素数1~50)、アミノ基、アルデヒド基、イソシアナート基、トリアゾリル基、アリール基(好ましくは炭素数6~50)、ヘテロシクロアルキル基(好ましくは炭素数3~50)、およびヘテロアリール基(好ましくは炭素数3~50)が挙げられる。これらの例示した基はさらに置換されていてもよい。このようなさらなる置換可能な基として、例えば、アラルキル基、ハロアルキル基、アルコキシシリル基が挙げられる。R1~R6の置換基は、カルボキシル結合、カルボキシアミド結合、エステル結合、アミド結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合などを有していてもよい。R1およびR2の各置換基に含まれる炭素原子の数は50個以下である。
【0019】
これらの置換基のうち、R1およびR2における置換基は、置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましく、無置換のアルキル基であることがより好ましい。「置換もしくは無置換のアルキル基」および「無置換のアルキル基」のアルキル基は、直鎖状、分枝状または環状であってもよい。アルキル基の炭素数は1~50であり、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることがさらに好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基(Me)、エチル基、n-プロピル基(n-Pr)、イソプロピル基(i-Pr)、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基(t-Bu)が挙げられる。
【0020】
R3およびR6における置換基は、置換もしくは無置換のアリール基、および置換もしくは無置換のアラルキル基などの芳香環を有する基であることが好ましい。「置換もしくは無置換のアリール基」のアリール基および「置換もしくは無置換のアラルキル基」を構成するアリール基は、単環であっても縮合環であってもよい。アリール基およびアラルキル基を構成するアリール基は、炭素数6~50であることが好ましく、炭素数6~22であることが好ましく、炭素数6~18であることがさらに好ましく、炭素数6~10であることがなおさらに好ましい。アラルキル基を構成するアルキル基は、炭素数1~10であることが好ましく、炭素数1~6であることがより好ましく、炭素数1~3であることがさらに好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基およびナフチル基が挙げられる。アラルキル基の具体例として、ベンジル基およびナフチルメチル基が挙げられる。アリール基およびアラルキル基の置換基の好ましい例として、アルキル基が挙げられる。アルキル基についての説明と好ましい範囲、具体例については、上記のR1およびR2がとりうるアルキル基についての記載を参照することができる。これらの中で、分枝状のアルキル基が好ましい。
【0021】
R3からR6のいずれかの組は、一緒になって環を形成していてもよい。例えば、R3とR4、R4とR5、およびR5とR6は、互いに結合して、イミダゾール環の一辺とともに環を形成してもよい。環は、芳香環であっても脂肪族環であってもよく、複素原子を含むものであってもよい。ここで、ヘテロ原子は、好ましくは、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される。形成される環の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環が挙げられる。本発明の好ましい態様では、R4とR5が互いに結合して環を形成し、より好ましくは芳香環を形成し、さらに好ましくはベンゼン環を形成する。
【0022】
式(1)において、2つのピリジン環の少なくとも1つの水素原子は置換されてもよい。2つのピリジン環に置換してもよい置換基の好ましい範囲と具体例については、式(1)のR1およびR2がとりうる炭素数50以下の置換基についての記載を参照することができる。
【0023】
本発明の好ましい態様では、R1およびR2が、無置換の炭素数1~50のアルキル基であり、R3およびR6が、置換もしくは無置換の炭素数6~50のアリール基または置換もしくは無置換の炭素数7~50のアラルキル基等の芳香環を有する基である。
本発明の好ましい態様では、R1~R6の少なくとも1つが分枝状アルキル基を含む。本発明のより好ましい態様では、R1およびR2の両方が分枝状アルキル基であるか、R3およびR6の両方が1つ以上の分枝状アルキル基で置換されたアリール基を含む。R1およびR2の両方が分枝状アルキル基であるとき、これらの分枝状アルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。R3とR6の両方が1つ以上の分枝状アルキル基で置換されたアリール基を含むとき、これらの分枝状アルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
式(1)において、X
-は対アニオンを表す。対アニオンは1価のアニオンである。対アニオンの具体例として、下記のアニオンが挙げられる。
【化5】
【0025】
式(1)で表されるCu錯体の具体例を以下に示す。ただし、本発明で使用することができるCu錯体は、これらの具体例に限定して解釈されるものではない。
【0026】
【0027】
本発明の好ましい態様では、摩擦発光材料がCu錯体の結晶片を含む。Cu錯体が結晶を形成していることは、X線回折分析によって確認することができる。本発明の他の好ましい態様では、Cu錯体は、マトリックス材料中に分散している。マトリックス材料の具体例については、下記の「摩擦発光材料の他の成分」の欄のポリマーの具体例を参照することができる。本発明で使用されるCu錯体は、共有結合によってポリマーに組み込まれないことが好ましく、特に、架橋剤としてポリマーに組み込まれないことが好ましい。例えば、式(1)で表されるCu錯体は、R1~R6にポリマー構造を含まないことが好ましく、R1およびR2にポリマー構造を含まないことがより好ましい。
【0028】
摩擦発光材料の他の成分
本発明の摩擦発光材料は、Cu錯体のみを含んでいてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例として、ポリマーが挙げられる。本願における「ポリマー」は、少なくとも3個の繰り返し単位を有する化合物として定義され、本願における「ポリマー構造」は、少なくとも3個の繰り返し単位を有する構造として定義される。ここでいう繰り返し単位とは、ポリマーの合成原料としてのモノマーに由来する構造である。摩擦発光材料がポリマーを含むと、材料の成形性が改善され、摩擦発光材料を様々な形状に成形することが可能になる。材料の好ましい形状として、フィルム状および被膜状が挙げられる。
ポリマーの例として、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、およびビニルポリマーが挙げられる。ポリアクリレートは好ましくはポリアルキルアクリレートであり、より好ましくはポリアルキルメタクリレートである。ポリアルキルアクリレートおよびポリアルキルメタクリレートのアルキル基の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。ポリマーの分子量は特に制限されず、例えば1000~100000の範囲から選択することができる。これらのポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
摩擦発光材料がポリマーを含む場合、摩擦発光材料中のCu錯体の量は、ポリマーの総重量に対して好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上であり、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0029】
Cu錯体およびCu錯体を含有する組成物の有用性
本発明のN-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子および対アニオンを有するCu錯体は、UV光などの励起光を照射することなく、力学的刺激に応答して発光するため、摩擦発光材料として有用である。Cu錯体とポリマーを含む組成物は、力学的刺激が加えられたときにCu錯体が力学的刺激に応答して発光するため、摩擦発光材料として有用である。力学的刺激としては、応力、ひずみ、変形が挙げられ、これらの力学的刺激は、圧縮、引張、引張強度、衝撃、共有、曲げ、摩耗、ねじれ、引っかき傷、押しつぶし、摩擦、研削、超音波などの力学的負荷に由来する。摩擦発光材料を発光させるための環境は、特に限定されない。摩擦発光材料は、大気中または不活性ガス雰囲気中で使用することができる。
【0030】
摩擦発光材料の形態
摩擦発光材料の形態は用途に応じて適宜選択することができる。摩擦発光材料の形態の例として、フィルム、シート、被膜、粒子、錠剤、ビーズ、または繊維が挙げられる。摩擦発光材料の大きさは、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、フィルム状およびシート状の摩擦発光材料の厚さは、0.1μm~10cmの範囲から選択してもよい。
【0031】
力学的刺激応答性センサー
本発明の力学的刺激応答性センサーは、本発明の摩擦発光材料を含む。
本発明の力学的刺激応答性センサーにおける摩擦発光材料の説明については、上記の摩擦発光材料についての説明を参照することができる。
本発明の力学的刺激応答性センサーが力学的刺激または物理的損傷を受けると、センサーに含まれる摩擦発光材料がその刺激に応答して発光する。したがって、その発光または発光の色変化を検出することにより、センサーが受けた力学的刺激または物理的損傷を容易に検出することができる。
本発明のセンサーは、本発明の摩擦発光材料を含む感受部と、感受部で生成された光を検出し、それをアナログ電圧またはデジタル信号に変換する受光部を有していてもよい。
【0032】
応力の検出方法
本発明の応力の検出方法は、本発明の摩擦発光材料の応力に対する応答を判定する工程を含む。
本発明において、応力は大気中で検出することができる。本発明の方法における摩擦発光材料の説明については、上記の摩擦発光材料についての説明を参照することができる。
摩擦発光材料の応力に対する力学的刺激応答の例として、発光や光の変化(例えば、強度、波長または両方の変化)が挙げられる。好ましい態様では、力学的刺激応答は可視光の放射である。本願において、「可視光」とは、波長380~780光を意味する。他の好ましい態様では、力学的刺激応答は、発光の色変化(発光波長変化)である。色の変化は、長波長光から短波長光への変化であってもよく、短波長光から長波長光への変化であってもよい。発光色の変化の例として、赤(640~780nm)と緑(490~550nm)の間の変化、赤と青(380~490nm)の間の変化、および緑と青の間の変化が挙げられる。
【0033】
摩擦発光材料の調製方法
本発明の摩擦発光材料の調製方法は、Cu錯体とポリマーとを溶媒に溶解して溶液を調製し、その溶液を乾燥する工程を含む。
本発明の方法における摩擦発光材料の説明については、上記の摩擦発光材料についての説明を参照することができる。溶液中のポリマーに対するCu錯体の比率については、上記の「摩擦発光材料の他の成分」の欄の対応する記載を参照することができる。
溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒および水が挙げられる。これらの溶媒またはこれらの混合溶媒から適宜選択して溶液の調製に用いることができる。
溶液の乾燥温度は特に限定されない。溶液は大気中または減圧下で乾燥させてもよく、空気中で実質的に乾燥させた後、さらに、減圧下で乾燥させてもよい。
また、本発明の方法は、調製した溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する工程を含んでいてもよい。塗布した溶液を乾燥することにより、フィルムや被膜の形態の摩擦発光材料が得られる。塗布方法は特に制限されず、キャスティング法やスピンコート法など、公知のウェットプロセスを適宜選択して用いることができる。
【0034】
Cu錯体の設計方法
本発明のCu錯体の設計方法は下記の工程1)~3)を含む。
1)N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、および対アニオンを有するCu錯体の摩擦発光を評価する工程
2)N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子および対アニオンの少なくとも1つを修飾して、摩擦発光特性を改善するように新しいCu錯体を設計する工程
3)必要に応じて、2)を少なくとも1回繰り返す工程
この方法により、発光色、発光ピーク、最大強度および/または空気安定性を最適化することができる。
工程1)では、摩擦発光特性の少なくとも1つが評価される。例えば、発光色、発光ピーク、最大強度および/または空気安定性を評価することができる。
工程2)において、修飾は、N-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子および対アニオンのいずれか1つ、それらのいずれか2つ、またはそれらの全てに対して行ってもよい。N-複素環式カルベン配位子への修飾の例として、置換基の炭素数の変更、置換基の種類の変更、および別の置換基の導入が挙げられる。ピリジノファン配位子への修飾の例として、置換基または架橋構造の炭素数の変更、置換基の種類の変更、および別の置換基の導入が挙げられる。対アニオンへの修飾の例として、アニオンを構成する元素を同族元素群内の元素に変更すること、アニオンの種類を変更することが挙げられる。置換基の炭素数および種類、架橋構造の炭素数および種類、並びにアニオンの種類の選択肢については、上記式(1)のR1~R6およびX-についての記載、並びに上記式(3)のR7a~R10aについての記載を参照することができる。
工程3)は、必要に応じて行われる工程であり、行ってもよいし、行わなくてもよい。工程3)を行う場合、工程2)を繰り返す回数は1回であっても2回以上であってもよい。
この方法によれば、発光色、発光ピーク、最大強度および/または空気安定性を最適化することができる。
【0035】
プログラム
本発明のプログラムは、本発明のCu錯体の設計方法を実行してCu錯体を設計するものである。
プログラムを構成する各ステップについては、Cu錯体の設計方法の各工程についての記載を参照することができる。
【0036】
[実施例1]
本研究において我々は、結晶の状態においてだけでなくポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニルフィルム中に配合した場合にもTL特性を示す、大気下で安定性の高いCu/N-複素環式カルベン(NHC)錯体を報告する。空気下で結晶をすり砕く際に、周囲光中でも明るい発光を見ることができる。これらの化合物は、現在知られているTL銅錯体のライブラリを大いに拡大する。これらの特性によってこれらの錯体は、豊富で安価な金属としてのCuを使用した複合材又はポリマー材料における応力又は損傷センサーの開発にとって、好適となされる。
近年我々は、N4ピリジノファン配位子を含有する一連の発光性(PL)及び空気安定性の高いCu-NHC錯体を報告してきたが、これらはポリブチルアクリレートフィルム中に架橋部位として導入することができる
[9]。得られるCu含有ポリマーは、応力の高感度検出及び可視化を可能にし、UV光照射下で可撓性フィルムが延伸又は弛緩される際にPL強度に可逆的な変化がもたらされる。
これらの錯体の刺激応答性の特性の研究中に、我々は、幾つかのN4含有Cu-NHC錯体が、結晶を押し砕く又はすり砕く際に空気下で周囲光の中でも視認できる強いTLを示すことを見出した。これらの錯体のTL特性を更に調査するために、我々は、可変の対アニオンX、
RN4、及びNHC配位子を有する一連の[(
RN4)Cu(NHC)]X錯体(1、2、及び3a~d)を合成した。それらの6つのCu錯体は、結晶相及びポリマー膜中で、TL特性を示した。
錯体1、2、及び3a~dは、
RN4ピリジノファン配位子(R=
tBu又はMe)及び(NHC)CuClを混合した後、室温で対アニオン交換を行うことにより容易に調製された。全ての錯体は、49~93%の収率で単離され、NMR、X線回折(XRD)、元素解析、紫外-可視及びIR分光法により構造を評価した。単結晶X線結晶構造解析により、Cuを中心とし、NHC、
RN4配位子の2つのピリジン及び1つのアミンがCuに結合された、歪んだ四面体構造が確認された。(
図1)。
全ての錯体は、固体状態において高いフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)を示す(0.66~0.83)(表1及び
図2)。我々はまた、必要量の錯体をPMMA/CH
2Cl
2溶液に溶解し、フィルムを真空下で乾燥させることによって、各Cu錯体を1重量%含有するポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルムを調製した。Cu錯体を含有するPMMAフィルムは、良好なPLQY(0.51~0.79)を示し、また、空気中30日後にPLQYの低下を示さないという空気安定性を示した(
図6)。
【0037】
【表1】
1、2、及び3a~dの結晶は、結晶性試料をステンレススパチュラ又はガラス棒ですり砕いた際に、又は単結晶をガラス板に挟んで圧縮した際に、空気下で周囲光の中でも視認できる強い発光を生じることが分かった(
図3a~c)。TLスペクトルを得るべく、1、2、及び3a~dの結晶をガラスバイアル中に入れ、窒素ガス雰囲気中で光ファイバープローブを含有するガラス管によって粉砕した。得られたTLスペクトルを
図4に示す。
【0038】
[実施例2]
さらに我々は次に、これらの摩擦発光性Cu(NHC)錯体をポリマー膜中に物理的に配合した場合にもTL特性を観測することができるかどうかについて調査した。ポリマー膜の利用は、単純な合成法によって力学的刺激応答性のポリマー材料又はコーティング材を作製するための簡便な手法を提供し得る。ポリメチルメタクリレート(PMMA)の粉末及び1重量%のCu錯体をジクロロメタン中に溶解した後、ガラスペトリ皿又はガラスバイアル上で塗布し、その後ゆっくりと蒸発乾燥させ、さらに真空下で乾燥することによってフィルムを調製し、透明な硬質のフィルムが得られた。同様の手順を使用してポリスチレン及びポリ塩化ビニルフィルムについても調製した。
我々は、ポリマー膜において、窒素ガス雰囲気下で表面をガラス棒又は金属スパチュラでこすった際に、TLが観測されることを見出した(
図3d~f)。結晶性試料のTLと比較すると、ポリマー膜のTLは、おそらくCu含有量が低いことに起因して、強度は強くはないが、不活性雰囲気下で暗所又は周囲光中において肉眼ではっきりと視認された。したがって、これらの知見は、ポリマー膜に配合した場合にTL特性を示すCu錯体の最初の例を表すものである。
【0039】
[実施例3]
我々はまた、N
2、Ar、He、CO
2、及びSF
6等の様々な気体の雰囲気下でTLスペクトルを記録した。錯体1、2、及び3aを含有するPMMAフィルムにおけるTLは、空気下では観測されなかったが、N
2、Ar、及びHe中では観測された。興味深いことに、全ての試料のTLスペクトルにおいて観測された銅錯体のブロードな発光ピークに加えて、N
2雰囲気下でTLスペクトルを記録した場合には358、380、及び405nmに、N
2ガス放電官の発光スペクトルに特有のシャープな発光ピークがはっきりと見られた。1気圧の異なる気体の下で記録された、PMMAフィルム中に分散された錯体1、2、及び3aの代表的なTLスペクトルを
図5に示す。これによると、Ar及びHe雰囲気中では、対応する気体の放電の線スペクトルに相当する発光ピークが観測された。CO
2ガス下及び真空下(0.5トール)では、発光スペクトルはCu錯体のTLのみを示し、気体放電スペクトルを示さなかった(0.5トールにN
2放電ピークを示した錯体2を除く)。SF
6雰囲気下ではTLは観測されなかった。
要約すると、我々は、結晶相とポリマー膜中に配合又は分散された場合との両方において強い摩擦発光を示す6つの新しいCu(NHC)錯体類を報告する。これらの知見はまた、豊富に存在する安価な金属である銅の既知のTL錯体のライブラリを大いに拡大する。溶液キャストポリマー膜が利用できることで、材料中の応力及び物理的損傷の感知の可視化を可能にするTL材料の応用範囲が大いに期待される。現在我々は、様々な力学的刺激の下で、ポリマー中で視認できる摩擦発光を観測する一般的な手法を開発すべく、摩擦発光性ポリマー膜の調製に使用できる発光団及びポリマーを調査している。
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実験セクション
I.一般仕様
材料:(1,3-ジベンジルベンズイミダゾリル-2-イリデン)銅(I)クロリド
1、N,N′-ジメチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)ピリジノファン
2、N,N′-ジ-tert-ブチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)ピリジノファン
3、錯体3a
4は、前に報告した手順によって合成した。ポリメチルメタクリレート(PMMA)(Mw:350,000)、ポリスチレン(Mw:35,000)、及びポリ塩化ビニル(Mw:48,000)の粉末はアルドリッチ(Aldrich)から購入した。クロロ[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]銅(I)及びクロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]銅(I)を東京化成工業株式会社より購入した。
計器:NMRスペクトルは、JEOL ECZ600R又はJEOL ECZ400S NMR分光計にて測定した。NMRスペクトルを記述するために下記の略語を使用する:s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、dd(ダブルダブレット)、quat(カルテット)。Thermo Scientific ETD装置にてエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)測定を行った。元素分析は、Exeter Analytical CE440計器を用いて行った。FT-IRスペクトルは、アルゴンを充填したグローブボックス中でATRモジュールを備えたAgilent Cary630を用いて測定した。FT-IRスペクトルを記述するために下記の略語を使用する:s(ストロング)、m(メディウム)、w(ウィーク)、br(ブロード)。Agilent Cary60計器を用いてUV/可視吸収スペクトルを収集した。
発光特性:発光スペクトル及び発光量子収率は、Hamamatsu Quantaurus-QY Plus分光計(励起波長:380nm)によって記録した。PLQY測定のために、石英皿に置いた固体試料を窒素ガスで30分間パージし、窒素気流を保持しながら測定を行った(励起波長:380nm)。
Ar中の摩擦発光スペクトルの測定:Arガスを充填したグローブボックス中、ガラス管又はガラスバイアル中の結晶又はPMMAフィルムを、内側に光ファイバープローブを入れたガラス管(直径:9.0mm)でこすった。Ocean Optics製のQE-Pro6200分光計を用いてTLスペクトルを収集した(積分時間:5秒)。
二酸化炭素、窒素、ヘリウム、及び六フッ化硫黄を含む異なる気体の雰囲気下での摩擦発光スペクトルの測定:結晶又はPMMAフィルムを含有するガラス管又はバイアルにセプタムで蓋をし、そのセプタムにガラス管(直径:9.0mm)を挿入し、光ファイバープローブをガラス管の内側に入れた。測定に先立ち、針を通して気体を5分間パージした。測定中は、アルミホイルで覆うことによって装置を外光から保護した。気流下で、試料をガラス管で押し砕くか又はこすった。生じた光をオーシャンオプティクス(Ocean Optics)製のQE-Pro6200分光計によって収集した(積分時間:5秒)。
高速度カメラ映像記録:105mmニコンマクロレンズを備えたPhantom v641を使用した。fストップは2.8とした。2000又は5000fpsのフレームレートを適用した。実験中、結晶を2枚の顕微鏡用スライドグラスの間で押し砕いた。フリーソフトウェアImage J(1.52a)によって発光の画像を得た。
II.Cu錯体の合成
錯体1の合成
【化7】
スキームS1:1の合成
グローブボックス中で、N,N′-ジメチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)-ピリジノファン(100mg、0.373mmol)、クロロ[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]銅(I)(150mg、0.372mmol)、KPF
6(688mg、3.74mmol)、及びドライMeCN(10mL)を20mLバイアル中に入れ、室温で2時間撹拌した。減圧下、溶媒の体積を約1mLに減少させ、ジクロロメタン(2mL)を加えて、反応混合物をろ過して不溶な白色固体を除去した。次いで、黄色の結晶性固体が得られるまで少なくとも3回のジクロロメタン溶液へのジエチルエーテル蒸気拡散を行うことによって、純粋な化合物の結晶を得た(278mg、96%)。MeCN-ジエチルエーテルを用いた蒸気拡散により、X線結晶学及び摩擦発光研究に好適な結晶が得られた。
1H NMR(600MHz,-30°C,CD
2Cl
2):δ7.24(t,
3J
HH=7.6Hz,p-H
py,2H),7.17(s,CH
Im,2H),6.90(s,CH
Mes-Ar,4H),6.72(d,
3J
HH=7.6Hz,m-H
py,2H),6.63(d,
3J
HH=7.6Hz,m-H
py,2H),3.55(d,
2J
HH=15.3,Py-CH
2-N,2H),3.48(s,Py-CH
2-N,4H),3.32(d,
2J
HH=15.3Hz,Py-CH
2-N,2H),2.34(s,N-CH
3,3H),2.30(s,N-CH
3,3H),2.25(s,C-CH
3Mes-Ar,6H),2.14(s,C-CH
3Mes-Ar,12H).
13C NMR(151MHz,-30°C,CD
2Cl
2):δ186.3(quat.C
Im),154.6(quat.C
Py),153.9(quat.C
Py),138.6(N
Im-C
Mes-Ar),136.4(p-C
Py),135.99(p-C(CH
3)
Mes-Ar),134.7(o-C(CH
3)
Mes-Ar),128.8(CH
Mes-Ar),123.7(m-C
Py),121.7(CH
Im),121.2(m-C
Py),65.8(Py-CH
2-N),64.5(Py-CH
2-N),49.8(N-CH
3),43.6(N-CH
3),20.7(C(CH
3)
Mes-Ar),18.2(-C(CH
3)
Mes-Ar).
19F NMR(376MHz,CD
2Cl
2):δ-73.5(d,J
P,F=714MHz).
ESI-HRMS:m/z[C
37H
44CuN
6]
+計算値=635.2923、実測値:635.2901、及び[PF
6]
-計算値=144.9647、実測値:144.9659
元素解析:実測値(C
37H
44N
6CuF
6Pについての計算値):C:57.16(56.88)、H:5.96(5.68)、N:10.50(10.76)
UV-可視(ジクロロメタン中):λ、nm(ε、M
-1cm
-1)228(20000)、278(8200)
錯体2の合成
【化8】
スキームS3:2の合成。
N,N′-ジメチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)-ピリジノファン(81.4mg、0.303mmol)、クロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]銅(I)(147mg、0.301mmol)、MeCN(8mL)、及びKPF
6(556mg、3.02mmol)を用い、1と同様の手順によって錯体2を調製し、黄色の結晶性固体を得た(239mg、92%)。ジクロロメタン-ジエチルエーテルを用いた蒸気拡散法によって、X線結晶学及び摩擦発光研究に好適な結晶が得られた。
1H NMR(400MHz,CD
2Cl
2):δ7.44(t,
3J
HH=7.9Hz,Ar-H
IPr,2H),7.30(s,CH
Im,2H),7.31(t,
3J
HH=7.7Hz,p-H
py,2H),7.23(d,
3J
HH=7.9Hz,Ar-H
IPr,4H),6.69(d,
3J
HH=7.7Hz,m-H
py,2H),6.68(d,
3J
HH=7.7Hz,m-H
py,2H),3.72(d,
2J
HH=14.3Hz,Py-CH
2-N,2H),3.59(d,
2J
HH=15.4Hz,Py-CH
2-N,2H),3.50(d,
2J
HH=14.3Hz,Py-CH
2-N,2H),3.38(d,
2J
HH=15.4Hz,Py-CH
2-N,2H),3.17(septet,
3J
HH=6.8Hz,CH(CH
3)
2,4H),2.24(s,N-CH
3,3H),2.14(s,N-CH
3,3H),1.13(d,
3J
HH=6.8Hz,CH(CH
3)
2,12H),1.00(d,
3J
HH=6.8Hz,CH(CH
3)
2,12H).
13C NMR(100MHz,CD
2Cl
2):δ186.3(quat.C
Im),155.0(quat.C
Py),154.2(quat.C
Py),145.8(quat.C
Ar),137.0(p-C
Py)及び(CH
Imd),130.5(p-C
Ar),124.7(m-C
Ar),123.8(m-C
Py),123.7(C
Ar-C(CH
3)
2),121.7(121.4(m-C
Py),66.3(Py-CH
2-N),63.4(Py-CH
2-N),51.9(N-CH
3),38.9(N-CH
3),29.1(CH(CH
3)
2),25.8(CH(CH
3)
2),21.8(CH(CH
3)
2).
19F NMR(376MHz,CD
2Cl
2):-73.4(d,J
P,F=714MHz).
ESI-HRMS:m/z[C
43H
56CuN
6]
+計算値=719.3862、実測値:719.3833、及び[PF
6]
-計算値=144.9647、実測値:144.9665
元素解析:実測値(C
43H
56N
6CuPF
6についての計算値):C:59.51(59.68)、H:6.80(6.52)、N:9.40(9.71)
UV-可視(ジクロロメタン中):λ、nm(ε、M
-1cm
-1)228(15000)、287(6700)
錯体3bの合成
【化9】
スキームS4:3bの合成。
(1,3-ジベンジルベンズイミダゾイル-2-イリデン)銅(I)クロリド(57.6mg、0.145mmol)、N,N′-ジ-t-ブチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)-ピリジノファン(50.1mg、0.142mmol)、ドライMeCN(1mL)、ドライTHF(1mL)、及びトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(76.3mg、0.443mmol)を用いて、1と同様の手順によって錯体3bを調製し、黄色の結晶性固体を得た(60.1mg、49%)。ジクロロメタン-ベンゼンを用いた溶媒拡散法によって、X線結晶学及び摩擦発光研究に好適な結晶が得られた。
1H NMR(400MHz,CD
2Cl
2):δ7.32-7.25(m,p-H
py及びAr-H
benz,12H),7.06-7.03(m,Ar-H
benz,4H),6.81(d,
3J
HH=7.8Hz,m-H
py,2H),6.77(d,
3J
HH=7.5Hz,m-H
py,2H),6.08(d,
2J
HH=16.1Hz,CH
2benz,2H),5.65(d,
2J
HH=16.1Hz,CH
2benz,2H),4.73(d,
2J
HH=15.1Hz,Py-CH
2-N,2H),3.76(d,
2J
HH=12.8Hz,Py-CH
2-N,2H),3.60(d,
2J
HH=15.1Hz,Py-CH
2-N,2H),3.50(d,
2J
HH=12.8Hz,Py-CH
2-N,2H),1.36(s,N-C(CH
3)
3,9H),1.02(s,N-C(CH
3)
3,9H).
13C NMR(100MHz,CD
2Cl
2):δ192.7(quat.C
Imd),160.0(quat.C
Py),155.4(quat.C
Py),137.6(p-C
Py),136.2(Ar-C-
benz),134.6(Ar-C-
benz),129.0(Ar-CH-
benz),127.9(Ar-C-
benz),126.3(Ar-CH
benz),124.3(m-C
Py),123.8(Ar-CH-
benz),121.7(m-C
Py),112.2(Ar-CH-
benz),59.7(Py-CH
2-N),59.2(Py-CH
2-N),59.1(Py-CH
2-N),56.3(N-C(CH
3)
2),52.3(CH
2benz),27.5(N-C(CH
3)
3).
19F NMR(376MHz,CD
2Cl
2):δ-88.3(s).
ESI-HRMS:m/z[C
43H
50CuN
6]
+計算値=713.3393、実測値:713.3371、及び[CF
3SO
3]
-計算値=148.9526、実測値:148.9548
元素解析:実測値(C
44H
50N
6CuO
3SF
3についての計算値):C:61.05(61.20)、H:5.58(5.84)、N:9.62(9.73)
UV-可視(ジクロロメタン中):λ、nm(ε、M
-1cm
-1)230(20000)、305(17000)
錯体3cの合成
【化10】
スキームS5:3cの合成。
グローブボックス中で、(1,3-ジベンジルベンズイミダゾイル-2-イリデン)銅(I)クロリド(56.8mg、0.143mmol)、N,N′-ジ-t-ブチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)-ピリジノファン(50.1mg、0.142mmol)、ドライMeCN(1mL)、及びドライTHF(1mL)を室温で2時間撹拌した。トリフルオロ酢酸カリウム(46.1mg、0.303mmol)をドライMeOH(3mL)中に溶解して混合物に加えた。10分間撹拌した後、減圧下で反応混合物を濃縮した。得られた固体をドライジクロロメタン(2mL)中に懸濁させた後、ろ過して不溶な白色固体を除去し、減圧下で濃縮した。ジクロロメタン溶液中へのジエチルエーテル蒸気拡散により、黄色の結晶性固体を得た。結晶をジエチルエーテルで洗浄した。得られた黄色の結晶を、少なくとも3回のジクロロメタン-ジエチルエーテルを用いた蒸気拡散法による結晶化によって更に精製し、X線結晶学及び摩擦発光研究に好適な黄色の結晶を得た(90.5mg、77%)。
1H NMR(400MHz,CD
2Cl
2):δ7.33-7.28(m,p-H
py及びAr-H
benz,12H),7.06-7.03(m,Ar-H
benz,4H),6.82(d,
3J
HH=7.8Hz,m-H
py,2H),6.77(d,
3J
HH=7.5Hz,m-H
py,2H),6.08(d,
2J
HH=16.1Hz,CH
2benz,2H),5.66(d,
2J
HH=16.1Hz,CH
2benz,2H),4.73(d,
2J
HH=15.1Hz,-Py-CH
2-N-,2H),3.76(d,
2J
HH=13.0Hz,Py-CH
2-N,2H),3.61(d,
2J
HH=15.1Hz,Py-CH
2-N,2H),3.50(d,
2J
HH=13.0Hz,Py-CH
2-N,2H),1.36(s,N-C(CH
3)
3,9H),1.02(s,N-C(CH
3)
3,9H).
13C NMR(100MHz,CD
2Cl
2):δ192.7(quat.C
Imd),160.0(quat.C
Py),155.5(quat.C
Py),137.6(p-C
Py),136.2(Ar-C-
benz),134.6(Ar-C-
benz),129.0(Ar-CH-
benz),127.9(Ar-C-
benz),126.3(Ar-CH
benz),124.2(m-C
Py),123.8(Ar-CH-
benz),121.7(m-C
Py),112.2(Ar-CH-
benz),59.7(Py-CH
2-N),59.1(Py-CH
2-N),56.3(N-C(CH
3)
2),52.3(CH
2benz),27.5(N-C(CH
3)
3).
19F NMR(376MHz,CD
2Cl
2):δ-74.7(s).
ESI-HRMS:m/z[C
43H
50CuN
6]
+計算値=713.3393、実測値:713.3371、及び[CF
3CO
2]
-計算値=112.9856、実測値:112.9876
元素解析:実測値(C
45H
50N
6CuO
2F
3についての計算値):C:65.05(65.32)、H:6.20(6.09)、N:10.08(10.16)
UV-可視(ジクロロメタン中):λ、nm(ε、M
-1cm
-1)230(20000)、305(17000)
3dの合成
【化11】
スキームS6:3dの合成
グローブボックス中で、(1,3-ジベンジルベンズイミダゾイル-2-イリデン)銅(I)クロリド(57.1mg、0.144mmol)、N,N′-ジ-t-ブチル-2,11-ジアザ[3,3](2,6)-ピリジノファン(50.5mg、0.143mmol)、ドライMeCN(1mL)、及びドライTHF(1mL)を室温で2時間撹拌した。NaBPh
4(98.8mg、0.289mmol)をドライMeOH(3mL)中に溶解し、混合物に加えた。10分間撹拌した後、減圧下で反応混合物を濃縮し、その後ドライジクロロメタン(1mL)とドライMeCN(1mL)との混合物中に懸濁し、次いでろ過して白色固体を除去した。得られた溶液中へのジエチルエーテル拡散によって黄色の結晶性固体を得た。得られた結晶性固体を収集し、アセトン溶液へのジエチルエーテル拡散を3回行うことによる結晶化によって更に精製し、X線結晶学及び摩擦発光研究に好適な結晶を得た(92.9mg、63%)。
1H NMR(400MHz,CD
2Cl
2):δ7.34-7.25(m,p-H
pyAr-H
benz及びB-m-H
Ph,20H),7.07-7.04(m,Ar-H
benz,4H),7.01(t,B-o-H
Ph,8H),6.86,(t,B-p-H
Ph,4H),6.77(d,
3J
HH=7.8Hz,m-H
py,2H),6.85(d,
3J
HH=7.5Hz,m-H
py,2H),6.08(d,
2J
HH=16.0Hz,CH
2benz,2H),5.66(d,
2J
HH=16.0Hz,CH
2benz,2H),4.70(d,
2J
HH=14.6Hz,Py-CH
2-N,2H),3.77(d,
2J
HH=12.8Hz,Py-CH
2-N,2H),3.51(d,
2J
HH=12.4Hz,Py-CH
2-N,2H),3.49(d,
2J
HH=15.1Hz,Py-CH
2-N,2H),1.37(s,N-C(CH
3)
3,9H),1.00(s,N-C(CH
3)
3,9H).
13C NMR(100MHz,CD
2Cl
2):δ192.6(quat.C
Imd),164.9-163.4(B-C
ipso),160.1(quat.C
Py),155.2(quat.C
Py),137.6(p-C
Py),136.1(B-o-Ph),135.9(Ar-C-
benz),134.4(Ar-C-
benz),129.0(Ar-CH-
benz),128.0(Ar-C-
benz),126.3(Ar-CH
benz),125.7(B-m-Ph),124.4(m-C
Py),123.9(Ar-CH-
benz),121.8(B-p-Ph),121.6(m-C
Py),112.2(Ar-CH-
benz),59.6(Py-CH
2-N),59.2(Py-CH
2-N),59.1(Py-CH
2-N),56.3(N-C(CH
3)
2),52.3(CH
2benz),27.5(N-C(CH
3)
3).
ESI-HRMS:m/z[C
43H
50CuN
6]
+計算値=713.3393、実測値:713.3376、及び[C
24H
20B]
-計算値=319.1664、実測値:319.1682
元素解析:実測値(C
67H
70N
6BCuについての計算値):C:77.81(77.85)、H:6.80(6.83)、N:8.16(8.13)
UV-可視(ジクロロメタン中):λ、nm(ε、M
-1cm
-1)230(40000)、305(16000)
Cu(I)錯体を含有するPMMAフィルムの調製
グローブボックス中で、Cu(I)錯体(2mg)を、磁気撹拌棒を含有するガラスバイアル中のPMMA(200mg)のドライジクロロメタン(2.5mL)溶液に加え、反応混合物を完全に溶解するまで撹拌した。この溶液をバイアル又はガラスペトリ皿中で減圧下ゆっくりとエバポレートした後、真空下、室温にて1日間更に乾燥した。得られたフィルムを注意深く取り出して光物理特性の特製決定に使用した。Cu(I)錯体の比率を変化させることにより、Cu(I)錯体とPMMAとを異なる比率で含有するPMMAフィルムを、同じ方法を用いて調製した。
PMMAフィルム中での1、2、及び3aの空気安定性
1重量%のCu(I)錯体(1、2、及び3a)を含有するPMMAフィルムをガラスバイアル中に入れ、周囲温度にて空気中に保持した。試料を窒素ガスで1時間パージしてから、積分球中でPLQYを測定した。PLQYは、窒素気流下で測定し、3枚のフィルムについての測定の平均値として決定した。
図6を参照のこと。
III.Cu錯体のUV-可視スペクトル
図7を参照のこと。
IV.摩擦発光特性
結晶又はPMMAフィルムを、セプタム付きのガラスバイアル又はガラス管中に入れた。セプタムを通して光学プローブの入ったガラス管を挿入した。測定に先立ち、針を通して気体を5分間パージした。結晶又はPMMAフィルムを気流下で押し砕き又はこすった。
図8~19を参照のこと。
V.X線構造決定の詳細
単結晶1、2、及び3b~dについてのX線回折データは、PILATUS3R200Kハイブリッドピクセルアレイ検出器及びMicro Max
TM-003マイクロフォーカスX線管を備えたRigaku XtaLab PRO計器にて、ωスキャンモードで、多層オプティクスによってモノクロ化したMoKα(0.71073Å)及びCuKα(1.54184Å)照射を使用して、収集した。X線管のパフォーマンスモードは50kV、0.60mAとした。この回折計は、低温実験のためのRigaku GN2システムを装備していた。適切な寸法の好適な結晶を、ループ上にランダムな配向で装着した。推奨された手順に従ってωスキャンモードにてデータを収集した。最終的なセル定数は、ラティスウィザードモジュール(Lattice wizard module)を用い、完全なデータセットからの反射のグローバルリファインメントによって決定した。画像は、CrysAlis
Pro(バージョン1.171.39.7b-1.171.40.79a)データ換算パッケージを用いて、「スマート」バックグラウンド評価を用いて、索引付けし及び積分した。積分されたデータの分析により、減衰(decay)は示されなかった。データを、ABSPACKモジュールを用いて系統誤差及び吸収について補正した。即ち、多面的な結晶モデルに渡るガウス積分(Gaussian integration)に基づく数値的な吸収の補正、及び等価な反射を用いた点群対称性に従う球面調和関数に基づく経験的な吸収補正を行った。消滅法則(systematic absences)及び空間群決定(space-group determination)の分析には、GRALモジュール及びWinGXセットのASSIGN SPACEGROUPルーティンを使用した。SHELXT-2018/2
5を用いた直接法によって全ての構造を解明し、及び球状原子に基づく原子散乱のモデルを用いるSHELXL-2018/3
6を用いたF
2上の完全行列最小二乗法によって精密化した。計算は主に、WinGX-2018.3セットのプログラム
7を用いて行った。非水素原子は異方的に精密化した。計算位置にて水素原子を挿入し、ライディング原子として精密化した。理想化正四面体角による回転基精密化(rotating group refinement)を用いて、メチル基の水素原子の位置を見出した。構造の乱れ(ディスオーダー(disorder))が存在する場合には、幾何学及び異方性変位パラメータにおける自由変数及び合理的抑制(reasonable restraints)を用いて解析した。検討された全ての化合物は、異常な(unusual)結合長さ及び角度を有さない。フラック変数(Flack parameter)
8に基づいて錯体2及び3b~cの絶対結晶構造を決定した。
デポジション番号2009593~2009597は、本稿のための補足的結晶学データを含む。これらのデータは、ケンブリッジ(Cambridge)結晶学データセンター及びFachinformationszentrum Karlsruhe Access Structures service www.ccdc.cam.ac.uk/structuresにより共同で、無料で提供されている。
1についての結晶学データ
C
37H
44CuN
6
+F
6P
-×0.5C
4H
10O、黄色角柱(0.248×0.218×0.158mm
3)、式量818.35;単斜、P2
1/n(No.14)、a=11.46796(15)Å、b=19.4563(2)Å、c=17.9268(3)Å、β=106.3314(15)°、V=3838.52(9)Å
3、Z=4、Z’=1、T=103(2)K、d
calc=1.416gcm
-3、μ(MoKα)=0.679mm
-1、F(000)=1708;T
max/min=1.000/0.401;111295の反射を収集した(2.093°≦θ≦32.347°、指数範囲:-16≦h≦17、-29≦k≦27、-26≦l≦26)、このうち12827がユニークであった、R
int=0.0308、R
σ=0.0183;θ
maxに対する完全性93.5%。27の抑制(restraints)を有する515パラメータの精密化により、I>2σ(I)である11273の反射についてはR
1=0.0321及びwR
2=0.0867に収束し、及びS=1.060及び残留電子密度ρ
max/min=1.018及び-0.475eÅ
-3である全てのデータについては、R
1=0.0380及びwR
2=0.0892に収束した。結晶は、室温でのアセトニトリル-ジエチルエーテル系における蒸気拡散により成長させた。
2についての結晶学データ
C
43H
56CuN
6
+F
6P
-×CH
2Cl
2、黄色の角柱(0.248×0.185×0.087mm
3)、式量950.37;斜方晶、P2
12
12
1(No.19)、a=12.1264(7)Å、b=18.4915(15)Å、c=19.9843(14)Å、V=4481.2(5)Å
3、Z=4、Z’=1、T=95(2)K、d
calc=1.409gcm
-3、μ(MoKα)=0.706mm
-1、F(000)=1984;T
max/min=1.000/0.591;41059の反射を収集した(1.964°≦θ≦27.648°、指数範囲:-15≦h≦15、-23≦k≦21、-26≦l≦24)、このうち10348がユニークであった、R
int=0.0350、R
σ=0.0314;θ
maxに対する完全性99.7%。抑制を有さない551パラメータの精密化により、I>2σ(I)である9808の反射についてはR
1=0.0308及びwR
2=0.0739に収束し、S=1.049及び残留電子密度ρ
max/min=0.642及び-0.598eÅ
-3の全てのデータについてはR
1=0.0330及びwR
2=0.0748に収束した。フラック変数x=-0.005(3)はパーソン法(Parsons’ method)による4130の選択された商(quotients)を用いて決定された。結晶は室温におけるDCM-ジエチルエーテル系中での蒸気拡散により成長させた。
3bについての結晶学データ
C
43H
50CuN
6
+CF
3O
3S
-、黄色厚板(plank)(0.078×0.062×0.025mm
3)、式量863.50;斜方晶、Pca2
1(No.29)、a=20.1211(2)Å、b=13.39232(18)Å、c=15.13962(18)Å、V=4079.64(9)Å
3、Z=4、Z’=1、T=95(2)K、d
calc=1.406gcm
-3、μ(CuKα)=1.752mm
-1、F(000)=1808;T
max/min=1.000/0.865;29635の反射を収集した(3.965°≦θ≦74.769°、指数範囲:-24≦h≦25、-16≦k≦16、-18≦l≦18)、このうち8154はユニークであった、R
int=0.0383、R
σ=0.0380;θ
maxに対する完全性99.8%。354の抑制を有する603のパラメータの精密化により、I>2σ(I)である7899の反射についてはR
1=0.0371及びwR
2=0.1018に収束し、及びS=1.039及び残留電子密度ρ
max/min=1.131及び-0.394eÅ
-3の全てのデータについてはR
1=0.0382及びwR
2=0.1029に収束した。フラック変数x=0.16(2);構造は逆双晶として精密化された。結晶は室温におけるDCM-ジエチルエーテル系中での蒸気拡散により成長させた。
3cについての結晶学データ
C
43H
50CuN
6
+C
2F
3O
2
-、薄黄色の厚板(plank)(0.131×0.120×0.048mm
3)、式量827.45;斜方晶、Pca2
1(No.29)、a=19.77529(5)Å、b=13.53091(4)Å、c=15.04125(5)Å、V=4024.70(2)Å
3、Z=4、Z’=1、T=93(2)K、d
calc=1.366gcm
-3、μ(CuKα)=1.261mm
-1、F(000)=1736;T
max/min=1.000/0.626;74939の反射を収集した(3.266°≦θ≦79.715°、指数範囲:-25≦h≦25、-17≦k≦17、-19≦l≦19)、このうち8588はユニークであった、R
int=0.0367、R
σ=0.0188;θ
maxに対する完全性99.8%。218の抑制を有する578のパラメータの精密化により、I>2σ(I)である8504の反射についてはR
1=0.0253及びwR
2=0.0674に収束し、及びS=1.046及び残留電子密度ρ
max/min=0.188及び-0.379eÅ
-3の全てのデータについてはR
1=0.0256及びwR
2=0.0676に収束した。フラック変数x=0.174(17);構造は逆双晶として精密化された。結晶は室温におけるDCM-ジエチルエーテル系中での蒸気拡散により成長させた。
3dについての結晶学データ
C
43H
50CuN
6
+C
24H
20B
-×0.175C
4H
10O×0.825C
3H
6O、黄色の角柱(0.166×0.129×0.076mm
3)、式量1094.52;斜方晶、Pbca(No.61)、a=19.42866(14)Å、b=20.15442(13)Å、c=30.18361(19)Å、V=11819.09(14)Å
3、Z=8、Z’=1、T=100(2)K、d
calc=1.230gcm
-3、μ(CuKα)=0.894mm
-1、F(000)=4654;T
max/min=1.000/0.666;71255の反射を収集した(2.928°≦θ≦77.389°、指数範囲:-24≦h≦24、-19≦k≦25、-29≦l≦38)、このうち12385はユニークであった、R
int=0.0347、R
σ=0.0248;θ
maxに対する完全性98.6%。119の抑制を有する768のパラメータの精密化により、I>2σ(I)である11080の反射についてはR
1=0.0356及びwR
2=0.0948に収束し、及びS=1.041及び残留電子密度ρ
max/min=0.328及び-0.657eÅ
-3の全てのデータについてはR
1=0.0398及びwR
2=0.0976に収束した。結晶は室温におけるアセトン-ジエチルエーテル系における蒸気拡散により成長させた。
図20~24を参照のこと。
VI.参考文献
1. N. I. Korotkikh, V. S. Saberov, A. V. Kiselev, N. V. Glinyanaya, K. A. Marichev, T. M. Pekhtereva, G. V. Dudarenko, N. A. Bumagin, O. P. Shvaika, Chem. Heterocycl. Compd. (N. Y.) 2012, 47, 1551-1560.
2. F. Bottino, M. Di Grazia, P. Finocchiaro, F. R. Fronczek, A. Mamo, S. Pappalardo, J. Org. Chem. 1988, 53, 3521-3529.
3. C.-M. Che, Z.-Y. Li, K.-Y. Wong, C.-K. Poon, T. C. W. Mak, S.-M. Peng, Polyhedron 1994, 13, 771-776.
4. A. Karimata, P. H. Patil, E. Khaskin, S. Lapointe, R. R. Fayzullin, P. Stampoulis, J. R. Khusnutdinova, Chem. Commun. 2020, 56, 50-53.
5. G. Sheldrick, Acta Crystallogr., Sect. A 2015, 71, 3-8.
6. G. Sheldrick, Acta Crystallogr., Sect. C 2015, 71, 3-8.
7. L. J. Farrugia, J. Appl. Crystallogr. 2012, 45, 849-854.
8. S. Parsons, H. D. Flack, T. Wagner, Acta Crystallogr., Sect. B: Struct. Sci., Cryst. Eng. Mater. 2013, 69, 249-259.
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明において使用するN-複素環式カルベン配位子、ピリジノファン配位子、及び対アニオンを有するCu錯体は、摩擦発光材料として有用であり、及び中心金属がCuであるため、容易に入手可能である。当該Cu錯体を含む摩擦発光材料を用いることによって、安価なセンサーを提供することが可能となる。
【国際調査報告】