(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(54)【発明の名称】TGF-β RII突然変異体及びその融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230803BHJP
C07K 14/715 20060101ALI20230803BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230803BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230803BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230803BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230803BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230803BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230803BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230803BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230803BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230803BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230803BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230803BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230803BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230803BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230803BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230803BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/715 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/06
A61K38/17
A61K47/68
A61K47/65
A61K38/19
A61K38/02
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504523
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2021108065
(87)【国際公開番号】W WO2022017487
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】202010721371.4
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522261352
【氏名又は名称】▲邁▼威(上海)生物科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲錦▼超
(72)【発明者】
【氏名】王 双
(72)【発明者】
【氏名】焦 莎莎
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲暢▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲栄▼娟
(72)【発明者】
【氏名】▲曾▼ 大地
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA01
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4C084DB63
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB081
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4C084ZB311
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4C085AA26
4C085BB01
4C085BB12
4C085BB31
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC07
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA51
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
TGF-β RII及びその融合タンパク質が組み換え発現の過程で分解及び切断を起こしやすいという技術的問題に鑑み、TGF-β RII突然変異体及びその融合タンパク質を提供する。配列番号6の野生型TGF-β RIIの細胞外領域と比較して、TGF-β RII突然変異体は6位のGln、12位のAsp及び20位のGlyから選択される突然変異を有する。TGF-β RII突然変異体は、TGF-βに結合することができる。野生型TGF-β RIIと比較して、TGF-β RII突然変異体は、組換え発現時の切断及び/又は分解がより少ない。これは、より安定した品質での抗体/TGF-β RII二官能性タンパク質の大量生産に好都合である。
【選択図】
図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGF-β RII突然変異体であって、野生型TGF-β RIIと比較して6位、12位及び20位からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基位置に突然変異を含み、ここで該野生型TGF-β RIIのアミノ酸残基のナンバリングが配列番号6を指すことを特徴とする、TGF-β RII突然変異体。
【請求項2】
前記野生型TGF-β RIIと比較してQ6N、D12T及びG20Tからなる群から選択される1つ以上の突然変異を含むことを特徴とする、請求項1に記載のTGF-β RII突然変異体。
【請求項3】
TGF-βに結合することができ、該TGF-βがTGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3を含むことを特徴とする、請求項1に記載のTGF-β RII突然変異体。
【請求項4】
前記野生型TGF-β RIIと比較して、組換え発現させた場合に、より少ない切断及び/又は分解を有することを特徴とする、請求項1に記載のTGF-β RII突然変異体。
【請求項5】
2つ以上の機能フラグメントを含む融合タンパク質であって、該機能フラグメントの少なくとも1つが請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有することを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項6】
前記2つ以上の機能フラグメントが互いに独立して機能し、任意に、該機能フラグメントがポリペプチドリンカー(リンカー)を介して互いに連結されることを特徴とする、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記機能フラグメントが抗体又はその抗原結合部分、受容体又はそのリガンド結合部分、サイトカイン又はそのフラグメント、細胞毒素又はその変異体、標識又はトレーサー等を更に含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記機能フラグメントが腫瘍免疫療法又は癌免疫療法の標的、慢性感染性疾患免疫療法の標的、及び自己免疫疾患療法の標的からなる群から選択される標的に特異的に結合することを特徴とする、請求項5又は6に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記標的が上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3、STAT5等を含むことを特徴とする、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
2つ以上の機能活性を有する多機能活性分子であって、該機能活性の少なくとも1つが、請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有するポリペプチドフラグメントによって与えられるTGF-β結合活性であることを特徴とする、多機能活性分子。
【請求項11】
前記機能活性が抗原結合活性、リガンド結合活性、サイトカイン活性、細胞毒性又は標識活性を更に含むことを特徴とする、請求項10に記載の多機能反応性分子。
【請求項12】
前記機能活性が、以下の分子:上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3、STAT5等に対する結合活性を更に含むことを特徴とする、請求項10又は11に記載の多機能活性分子。
【請求項13】
抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子であって、該抗体が腫瘍療法の標的を標的とし、該TGF-β RIIが請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有することを特徴とする、抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項14】
前記抗体が上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3又はSTAT5、好ましくはEGFR、VEGFR、PDGFR、FGFR、HER2、CTLA、CD20、CD133、PD-1又はPD-L1を特異的に標的とすることを特徴とする、請求項13に記載の抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項15】
前記抗体がマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、scFv抗体又はナノボディであることを特徴とする、請求項13に記載の抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項16】
前記抗体が抗ヒトPD-L1抗体又はその抗原結合フラグメントであり、該抗ヒトPD-L1抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号25に示すCDR1、配列番号26に示すCDR2及び配列番号27に示すCDR3を重鎖に有し、配列番号28に示すCDR1、配列番号29に示すCDR2及び配列番号30に示すCDR3を軽鎖に有することを特徴とする、請求項13に記載の抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項17】
前記抗体が抗ヒトPD-L1ナノボディであり、該抗ヒトPD-L1ナノボディのアミノ酸配列が配列番号20であることを特徴とする、請求項13に記載の抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項18】
前記TGF-β RIIがリンカーペプチドを介して前記抗ヒトPD-L1抗体に連結され、該リンカーペプチドが好ましくは(G
4S)nを含み、ここでnが1~4の整数であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子。
【請求項19】
請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体、請求項5~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項に記載の多機能活性分子又は請求項13~18のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む組成物。
【請求項20】
請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体、請求項5~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項に記載の多機能活性分子又は請求項13~18のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子をコードする核酸。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含む組換えベクター又は組換え宿主細胞。
【請求項22】
生成物を生成する方法であって、請求項20に記載の核酸、又は請求項21に記載の組換えベクター若しくは組換え宿主細胞を用いてTGF-β RII突然変異体、その融合タンパク質、その多機能活性分子又はそのコンジュゲート分子を生成することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項23】
TGF-β RIIフラグメントを含む組換えタンパク質の分解又は切断を低減又は排除する方法であって、前記組換えタンパク質中の前記TGF-β RIIフラグメントをコードするコード領域を突然変異誘発に供し、野生型TGF-β RIIと比較して、該コード領域にコードされるTGF-β RIIが6位、12位及び20位からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基位置に突然変異を含むようにし、ここで前記野生型TGF-β RIIのアミノ酸残基のナンバリングが配列番号6を指すことを特徴とする、方法。
【請求項24】
前記野生型TGF-β RIIと比較して、前記TGF-β RIIフラグメントがQ6N、D12T及びG20Tからなる群から選択される1つ以上の突然変異を含むことを特徴とする、請求項23に記載の組換えタンパク質の分解又は切断を低減又は排除する方法。
【請求項25】
疾患を治療する方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体、請求項5~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項に記載の多機能活性分子、請求項13~18のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子、請求項19に記載の組成物、請求項20に記載の核酸、又は請求項21に記載の組換えベクター若しくは組換え宿主細胞からなる群から選択される生成物を有効量、それを必要とする被験体に投与することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項26】
腫瘍若しくは癌、慢性感染性疾患、又は自己免疫疾患を予防又は治療する方法であることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記腫瘍又は癌が、好ましくは咽頭扁平上皮癌、非小細胞肺癌、膵癌、肝癌、尿路上皮癌、大腸癌及び胃癌からなる群から選択されることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
療法用の薬剤の製造における生成物の使用であって、該生成物が請求項1~4のいずれか一項に記載のTGF-β RII突然変異体、請求項5~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項に記載の多機能活性分子、請求項13~18のいずれか一項に記載のコンジュゲート分子、請求項19に記載の組成物、請求項20に記載の核酸、又は請求項21に記載の組換えベクター若しくは組換え宿主細胞を含むことを特徴とする、使用。
【請求項29】
前記薬剤が腫瘍若しくは癌、慢性感染性疾患、又は自己免疫疾患の予防又は治療のためのものであることを特徴とする、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記腫瘍又は癌が、好ましくは咽頭扁平上皮癌、非小細胞肺癌、膵癌、肝癌、尿路上皮癌、大腸癌及び胃癌からなる群から選択されることを特徴とする、請求項29に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年7月24日に出願された中国特許出願第202010721371.4号の優先権の利益を主張し、その全体が引用することで本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は生物薬学の分野、特に腫瘍に対する治療用タンパク質医薬の分野に属する。特に、本発明はTGF-β RII突然変異体及び融合タンパク質、並びにそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0003】
プログラム死因子リガンド1(PD-L1)は、分化抗原群274(CD274)又はB7相同タンパク質1(B7-H1)としても知られ、B7ファミリーのメンバーであり、CD274遺伝子にコードされる。成熟PD-L1タンパク質は、40kDaのサイズであり、272個のアミノ酸からなるI型膜貫通タンパク質であり、活性化T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージ、間葉系幹細胞、骨髄由来マスト細胞及び非造血細胞の表面に誘導発現され、腫瘍組織、例えば肺癌、肝癌、膀胱癌等でも広く発現される。PD-L1の発現は、腫瘍組織及び他の組織においてインターフェロン及び他の炎症因子の刺激に応答して急速に上方調節されることがある。PD-L1の受容体は、プログラム死タンパク質1(PD-1)である。PD-1は、CD279としても知られ、T細胞受容体のCD28ファミリーのメンバーであり、様々な免疫細胞、例えば活性化T細胞、B細胞、単球等の表面に発現される。PD-L1がその受容体PD-1に結合すると、T細胞のアポトーシス、アネルギー及び枯渇が誘導される可能性があり、次いで腫瘍抗原特異的T細胞の活性化、増殖及び抗腫瘍機能が阻害され、腫瘍免疫回避が引き起こされる。PD-1/PD-L1遮断抗体は、PD-L1の免疫抑制効果を緩和し、T細胞等のin vivo免疫細胞による腫瘍細胞の認識及び死滅を増強し、それにより腫瘍死滅効果を達成することができる。これまで、PD-1/PD-L1を標的とする複数の抗体医薬が世界中で販売され、黒色腫、肺癌、腎癌、ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮癌、尿路上皮癌等を含む様々な腫瘍に対して臨床的に良好な治療効果を示している。しかしながら、治療用PD-1/PD-L1抗体には依然として幾つかの問題があり、主な問題は、かかる抗体を臨床的に単独で使用した場合の低い有効率である。殆どの癌について、治療用PD-1/PD-L1抗体を単独で無差別に使用した場合、平均10%~20%の有効率しか達成することができない。したがって、臨床ニーズを満たすために、より有効な抗体分子を開発することが望ましい。
【0004】
トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)は、TGF-βスーパーファミリーのメンバーであり、その主な機能は、細胞の成長及び分化を調節することである。TGF-βは、TGF-β RI、TGF-β RII及びTGF-β RIIIの3つのサブタイプに分けられる高親和性受容体(TGF-β R)を細胞表面に有する。TGF-βは、細胞膜の表面でセリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有するTGF-β RIIに結合することで、TGF-β RIIと複合体を形成し、これがTGF-β RIと複合体を形成することによりシグナルを伝達して、対応するシグナル伝達経路の活性化を引き起こし、細胞増殖、分化及びアポトーシスを調節する役割を果たす。腫瘍微小環境においては、TGF-βは制御性T細胞(Treg)の発生を調節し、DC細胞の成熟を阻害し、B細胞によるIgAの生成を阻害し、NK細胞の活性化を阻害する等の効果を有することで、免疫抑制を引き起こし、腫瘍細胞の成長及び転移を促進する。TGF-βの主要受容体TGF-β RIIへの結合を遮断することで、TGF-βの腫瘍促進活性を阻害することができる。したがって、TGF-β遮断医薬の開発は、腫瘍治療の重要な方向性である。
【0005】
現在、TGF-β経路を標的とする多数の小分子阻害剤及び高分子タンパク質医薬が臨床研究段階にあり、PD-1/PD-L1抗体医薬との併用に関する複数の臨床試験が進行中であり、文献で報告されているように併用の機序が深く検証されている(非特許文献1、非特許文献2)。したがって、PD-1/PD-L1経路及びTGF-β/TGF-β-R経路の両方を遮断することが可能な療法又は薬剤の開発は、腫瘍微小環境における免疫抑制の問題を更に解決することが期待される。
【0006】
TGF-β遮断剤とPD-1/PD-L1阻害剤との併用に基づき、PD-1/PD-L1経路及びTGF-β/TGF-β-R経路の両方を同時に遮断する医薬が更に開発されている。Merck & GSKのPD-L1抗体とTGF-β RIIとによって形成される二官能性融合タンパク質M7824の臨床データから、これが様々な固形腫瘍に対して確実な臨床治療効果を有することが示されている(NCT02699515、NCT02517398及びNCT03427411)。M7824の構造についてMerckにより多数の特許出願が申請されている。特許文献1を参照されたい。同様の構造の幾つかの二官能性分子、例えばHengrui Medicineによって開発されたSHR-1701が続々と臨床試験に入っている(CTR20182404/CTR20181823)。現在、多くの抗体/TGF-β RII融合タンパク質が特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献1等の特許文献に開示されているが、一部の融合タンパク質には不安定であるという問題がある。実際の生産及び適用においては、より安定し、高度に発現される抗体/TGF-β R融合タンパク質の開発が依然として必要とされている。
【0007】
M7824は良好な抗腫瘍効果を有するが、生産時にTGF-β RIIで切断されやすいという問題があり、その生産時の処理及び品質管理に幾らか困難をもたらす。この問題を解決するために、Hengrui MedicineはTGF-β RIIの切断型を設計しており、特許文献6に示される研究から、TGF-β RIIのN末端の最初の26個のアミノ酸の欠失、特に14位~21位のアミノ酸の欠失を含む切断型がTGF-β RIIの生理的機能を維持し、より安定していることが見出された。しかしながら、抗体/TGF-β RII融合タンパク質に含まれるTGF-β RIIは、抗体よりも小さいため、融合タンパク質中のTGF-β RIIの機能は、抗体分子によって遮蔽されていても抗体分子による干渉の影響を受けやすい。かかる問題は、可動性リンカーを用いても或る程度しか緩和することができず、TGF-β RIIのN末端での切断により、抗体/TGF-β RII融合タンパク質分子の2つの機能部分の間の分子サイズの差が更に悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2015118175号
【特許文献2】国際公開第2006074451号
【特許文献3】国際公開第2009152610号
【特許文献4】国際公開第9309228号
【特許文献5】国際公開第9409815号
【特許文献6】国際公開第2018/205985号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature, 2018 Feb 22. doi: 10.1038/nature 25492
【非特許文献2】Nature, 2018 Feb 22. doi: 10.1038/nature 25501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする技術的問題は、従来技術における抗体/TGF-β RII融合タンパク質が生産時に切断及び分解を起こしやすく、抗体/TGF-β RII融合タンパク質の2つの機能部分の間の分子サイズの差が、N末端切断型TGF-β RIIを使用した場合に更に悪化することである。
【0011】
本発明者らは、抗体/TGF-β RII融合タンパク質の不安定性の主な理由が以下の通りであることを研究により発見した:抗体のC末端がリンカーペプチドを介してTGF-β RIIに連結された後に、抗体とTGF-β RIIとの間で切断が生じ、融合タンパク質の構造が不完全となることで、融合タンパク質の純度及び品質の均一性に影響を与え、ひいては医薬の安全性及び有効性に関する懸念を生じさせる可能性がある。その知見に基づき、抗体/TGF-β RII融合タンパク質の切断及び分解を起こしやすいという欠点を克服し、更には2つの機能部分の分子サイズのバランスを取り、より安定した品質での大量生産により好都合な抗体/TGF-β RII融合タンパク質を提供することができる、TGF-β RIIに対して突然変異修飾を行う技術的解決策を本明細書で提供する。具体的には、本発明の技術的解決策を以下に提示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様においては、本発明は、TGF-β RII突然変異体であって、野生型TGF-β RIIと比較して6位、12位及び20位からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基位置に突然変異を含み、ここで野生型TGF-β RIIのアミノ酸残基のナンバリングが配列番号6を指すことを特徴とする、TGF-β RII突然変異体を提供する。
【0013】
さらに、本発明によるTGF-β RII突然変異体は、野生型TGF-β RIIと比較してQ6N、D12T及びG20Tからなる群から選択される1つ以上の突然変異を含むことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明によるTGF-β RII突然変異体は、TGF-βに結合することができ、TGF-βがTGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3を含むことを特徴とする。
【0015】
更にまた、本発明によるTGF-β RII突然変異体は、野生型TGF-β RIIと比較して、組換え発現させた場合に、より少ない切断及び/又は分解を有することを特徴とする。
【0016】
第2の態様においては、本発明は、2つ以上の機能フラグメントを含む融合タンパク質である、機能フラグメントの少なくとも1つが本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有することを特徴とする、融合タンパク質を提供する。
【0017】
さらに、本発明による融合タンパク質は、2つ以上の機能フラグメントが互いに独立して機能することを特徴とする。
【0018】
任意に、機能フラグメントは、ポリペプチドリンカー(リンカー)を介して互いに連結される。
【0019】
さらに、本発明による融合タンパク質は、機能フラグメントが抗体又はその抗原結合部分、受容体又はそのリガンド結合部分、サイトカイン又はそのフラグメント、細胞毒素又はその変異体、標識又はトレーサー等を更に含むことを特徴とする。
【0020】
更にまた、本発明による融合タンパク質は、機能フラグメントが腫瘍免疫療法又は癌免疫療法の標的、慢性感染性疾患免疫療法の標的、及び自己免疫疾患療法の標的からなる群から選択される標的に特異的に結合することを特徴とする。
【0021】
更にまた、本発明による融合タンパク質は、標的が上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3、STAT5等を含むことを特徴とする。
【0022】
第3の態様においては、本発明は、2つ以上の機能活性を有する多機能活性分子であって、機能活性の少なくとも1つが、本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有するポリペプチドフラグメントによって与えられるTGF-β結合活性であることを特徴とする、多機能活性分子を提供する。
【0023】
さらに、本発明による多機能活性分子は、機能活性が抗原結合活性、リガンド結合活性、サイトカイン活性、細胞毒性又は標識活性を更に含むことを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明による多機能活性分子は、機能活性が、以下の分子:上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3、STAT5等に対する結合活性を更に含むことを特徴とする。
【0025】
第4の態様においては、本発明は、抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子であって、抗体が腫瘍療法の標的を標的とし、TGF-β RIIが本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体のアミノ酸配列を有することを特徴とする、抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子を提供する。
【0026】
さらに、本発明による抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子は、抗体が上皮成長因子受容体(EGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、インスリン受容体(InsR)、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、HER2、CTLA、CD20、CD52、CD30、CD33、CD133、PD-1、PD-L1、Src、Abl、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、プロテインキナーゼB(PKB/Akt)、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、セリントレオニンプロテインキナーゼRas、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、STAT1、STAT3又はSTAT5、好ましくはEGFR、VEGFR、PDGFR、FGFR、HER2、CTLA、CD20、CD133、PD-1又はPD-L1を特異的に標的とすることを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明による抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子は、抗体がマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、scFv抗体又はナノボディであることを特徴とする。本発明によって提供される抗体又はそのフラグメントは任意の形態、例えばモノクローナル抗体、一本鎖抗体、シングルドメイン抗体、二官能性抗体、ナノボディ、完全ヒト化抗体若しくは部分ヒト化抗体、又はキメラ抗体等である。代替的には、抗体又はそのフラグメントは、半抗体又は半抗体の抗原結合フラグメント、例えばscFv、BsFv、dsFv、(dsFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2又はFvであってもよい。本発明によって提供されるフラグメントに関して、好ましくは、フラグメントはPD-L1に結合することができる抗体の任意のフラグメントであり得る。本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントはマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv又はscFvであってもよい。
【0028】
好ましくは、本発明によって提供される抗体はIgA、IgD、IgE、IgG又はIgM、より好ましくはIgG1である。抗体のフラグメントは、抗体のscFv、Fab、F(ab’)2及びFvフラグメントからなる群から選択される。
【0029】
好ましくは、抗体又はそのフラグメントはヒト又はマウスの定常領域、好ましくはヒト又はマウスの軽鎖定常領域(CL)及び/又は重鎖定常領域(CH)を更に含む。より好ましくは、抗体又はそのフラグメントはIgG、IgA、IgM、IgD及びIgEからなる群から選択される重鎖定常領域及び/又はκ型若しくはλ型軽鎖定常領域を含む。本発明の特定の実施の形態によると、抗体はモノクローナル抗体、好ましくはマウス、キメラ又はヒト化モノクローナル抗体であり得る。より好ましくは、モノクローナル抗体の重鎖定常領域は、IgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプである。
【0030】
さらに、本発明による抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子は、抗体が抗ヒトPD-L1抗体又はその抗原結合フラグメントであり、抗ヒトPD-L1抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号25に示すCDR1、配列番号26に示すCDR2及び配列番号27に示すCDR3を重鎖に有し、配列番号28に示すCDR1、配列番号29に示すCDR2及び配列番号30に示すCDR3を軽鎖に有することを特徴とする。
【0031】
さらに、本発明による抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子は、抗体が抗ヒトPD-L1ナノボディであり、抗ヒトPD-L1ナノボディのアミノ酸配列が配列番号20に示されることを特徴とする。
【0032】
さらに、本発明による抗体-TGF-β RIIコンジュゲート分子は、TGF-β RIIがリンカーペプチドを介して抗ヒトPD-L1抗体に連結され、リンカーペプチドが好ましくは(G4S)nを含み、ここでnが1~4の整数であることを特徴とする。
【0033】
第5の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体、本発明の第2の態様に記載の融合タンパク質、本発明の第3の態様に記載の多機能活性分子又は本発明の第4の態様に記載のコンジュゲート分子と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む組成物を提供する。
【0034】
第6の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体、本発明の第2の態様に記載の融合タンパク質、本発明の第3の態様に記載の多機能活性分子又は本発明の第4の態様に記載のコンジュゲート分子をコードする核酸を提供する。
【0035】
第7の態様においては、本発明は、本発明の第6の態様に記載の核酸を含む組換えベクターを提供する。
【0036】
第8の態様においては、本発明は、本発明の第6の態様に記載の核酸又は本発明の第7の態様に記載の組換えベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。
【0037】
第9の態様においては、本発明は、生成物を生成する方法であって、本発明の第6の態様に記載の核酸、第7の態様に記載の組換えベクター又は第8の態様に記載の組換え宿主細胞を用いてTGF-β RII突然変異体、その融合タンパク質、その多機能活性分子又はそのコンジュゲート分子を生成することを含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0038】
第10の態様においては、本発明は、TGF-β RIIフラグメントを含む組換えタンパク質の分解又は切断を低減又は排除する方法であって、組換えタンパク質中のTGF-β RIIフラグメントをコードするコード領域を突然変異誘発に供し、野生型TGF-β RIIと比較して、コード領域にコードされるTGF-β RIIが6位、12位及び20位からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基位置に突然変異を含むようにし、ここで野生型TGF-β RIIのアミノ酸残基のナンバリングが配列番号6を指すことを特徴とする、方法を提供する。
【0039】
さらに、本発明による組換えタンパク質の分解又は切断を低減又は排除する方法は、野生型TGF-β RIIと比較して、TGF-β RIIフラグメントがQ6N、D12T及びG20Tからなる群から選択される1つ以上の突然変異を含むことを特徴とする。
【0040】
第11の態様においては、本発明は、疾患を治療する方法であって、本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体、第2の態様に記載の融合タンパク質、第3の態様に記載の多機能活性分子、第4の態様に記載のコンジュゲート分子、第5の態様に記載の組成物、第6の態様に記載の核酸、第7の態様に記載の組換えベクター、又は第8の態様に記載の組換え細胞からなる群から選択される生成物を有効量、それを必要とする被験体に投与することを含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0041】
さらに、本発明による方法は、腫瘍若しくは癌、慢性感染性疾患、又は自己免疫疾患を予防又は治療する方法であることを特徴とする。
【0042】
さらに、本発明による方法は、腫瘍又は癌が、好ましくは咽頭扁平上皮癌、非小細胞肺癌、膵癌、肝癌、尿路上皮癌、大腸癌及び胃癌からなる群から選択されることを特徴とする。
【0043】
第12の態様においては、本発明は、薬剤の製造における生成物の使用であって、生成物が本発明の第1の態様に記載のTGF-β RII突然変異体、第2の態様に記載の融合タンパク質、第3の態様に記載の多機能活性分子、第4の態様に記載のコンジュゲート分子、第5の態様に記載の組成物、第6の態様に記載の核酸、第7の態様に記載の組換えベクター、又は第8の態様に記載の組換え細胞を含むことを特徴とする、使用を提供する。
【0044】
さらに、本発明による薬剤の製造における生成物の使用は、薬剤が腫瘍若しくは癌、慢性感染性疾患、又は自己免疫疾患の予防又は治療のためのものであることを特徴とする。
【0045】
さらに、本発明による薬剤の製造における生成物の使用は、腫瘍又は癌が好ましくは咽頭扁平上皮癌、非小細胞肺癌、膵癌、肝癌、尿路上皮癌、大腸癌及び胃癌からなる群から選択されることを特徴とする。
【0046】
本発明のより良い理解を助けるために、幾つかの用語の定義を以下に提供する。他の定義は、以下の発明を実施するための形態の部全体を通して説明する。
【0047】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、完全長抗体及びその任意の抗原結合フラグメント(すなわち、抗原結合部分)又は単鎖を包含することを意図している。完全長抗体は、少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含み、重鎖と軽鎖とがジスルフィド結合によって連結される糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと略される)と重鎖定常領域とから構成される。重鎖定常領域は3つのドメイン、すなわちCH1、CH2及びCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略される)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLから構成される。VH領域及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域と、CDRを隔てる、より保存されたフレームワーク領域(FR)とに更に分けることができる。VH及びVLはそれぞれ、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置された3つのCDR及び4つのFRから構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、様々な免疫系細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主内の組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0048】
本明細書で使用される「単離された抗体」という用語は、異なる抗原に対する特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。
【0049】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合フラグメント」という用語(又は抗体の一部と略される)は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能が完全長抗体のフラグメントによって実現され得ることが実証されている。抗体の「抗原結合部分」に包含される結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CL及びCH1から構成される一価フラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結される2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント、(iii)VH及びCH1から構成されるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHから構成されるFvフラグメント、(v)VHから構成されるdAbフラグメント(Ward et al, (1989) Nature 341: 544-546)、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、並びに(vii)単一の可変ドメイン及び2つの定常ドメインを含む重鎖可変領域であるナノボディが挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVL及びVHは、異なる遺伝子にコードされるが、合成リンカーを介して組換えにより接合されて、VL領域及びVH領域が対になって一価分子を形成する単一タンパク質鎖を形成することができる(一本鎖Fc(scFv)と称される;例えば、Bird et al, (1988) Science 242: 423-426及びHuston et al., (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883を参照されたい)。これらの一本鎖抗体も、この用語の意味に包含されることが意図される。これらの抗体フラグメントは、当業者に既知の従来の手法を用いて得ることができ、インタクト抗体と同様に機能的にスクリーニングすることができる。
【0050】
本発明の抗原結合フラグメントには、抗原に特異的に結合することができるものが含まれる。抗体結合フラグメントの例としては、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)及び単一ドメインフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とを含む。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む数残基が重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に付加している点でFabフラグメントとは異なる。F(ab’)フラグメントは、F(ab’)2ペプシン消化産物のヒンジシステインでのジスルフィド結合の切断によって生成する。抗体フラグメントの付加的な化学的結合は、当業者に既知である。Fab及びF(ab’)2フラグメントは、インタクト抗体のフラグメント結晶化可能(Fc)領域を欠き、動物の循環からより迅速に除去され、インタクト抗体よりも非特異的組織結合が少ない可能性がある(例えば、Wahl et al, 1983, J. Nucl. Med. 24:316を参照されたい)。
【0052】
当該技術分野において一般に理解されているように、「Fc」領域は、抗原特異的結合領域を含まない抗体のフラグメント結晶化可能定常領域である。IgG、IgA及びIgDの抗体アイソタイプでは、Fc領域は、抗体の2つの重鎖の第2の定常ドメイン及び第3の定常ドメイン(それぞれCH2ドメイン及びCH3ドメイン)に由来する2つの同一のタンパク質フラグメントからなる。IgM及びIgEのFc領域は、各ポリペプチド鎖に3つの重鎖定常ドメイン(CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン)を含む。
【0053】
「Fv」フラグメントは、完全な標的認識及び結合部位を含む抗体の最小フラグメントである。この領域は、密接に非共有結合性会合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体(VH-VL二量体)からなる。この構成では、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上に標的結合部位を画定する。概して、6つのCDRが抗体に標的結合特異性を与える。しかしながら、場合によっては、単一の可変ドメイン(又は標的に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、標的を認識し結合する能力を有することができる。
【0054】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体結合フラグメントは、単一ポリペプチド鎖に存在する抗体のVHドメイン及びVLドメインを含む。概して、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含み、これによりscFvが標的結合に望ましい構造を形成することができる。
【0055】
「単一ドメインフラグメント」は、抗原に対して十分な親和性を示す単一のVHドメイン又はVLドメインから構成される。特定の実施の形態においては、単一ドメインフラグメントはラクダ化される(例えば、Riechmann, 1999, Journal of Immunological Methods 231:25-38を参照されたい)。
【0056】
本発明の抗体は、誘導体化抗体を包含する。例えば、誘導体化抗体は通例、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解切断、又は細胞リガンド若しくは他のタンパク質への付着によって修飾される。多数の化学修飾のいずれかを、限定されるものではないが、特異的化学切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成等を含む既知の手法によって行なうことができる。加えて、誘導体は、例えばambrxの手法を用いて1つ以上の非天然アミノ酸を含ませたものであってもよい(例えば、Wolfson, 2006, Chem. Biol. 13 (10): 1011-2を参照されたい)。
【0057】
ポリペプチドリンカーは、ポリペプチド連結アーム及びポリペプチドリンカーとも呼ばれ、2つの機能活性分子を連結するために使用されるポリペプチド分子である。融合タンパク質中の2つの活性構成要素がそれぞれ正確な空間構造を形成し、生物学的機能をより良好に発揮することができるかは、融合タンパク質中の2つの構成要素を連結するリンカー配列と密接に関連する。組換え生成される融合タンパク質は、融合タンパク質に挿入されるリンカーが対象のタンパク質のそれぞれの機能を妨げないことを必要とする。
【0058】
リンカー配列の設計及び選択に関して多くの関連研究が行われてきた。現在、2つのタイプ、すなわち(1)[A(EAAAK)nA]等のヘリックスの形態のリンカー、及び(2)ヘリックスを形成し得る異なる長さのペプチド鎖、可動性リンカー、ブドウ球菌プロテインA等を含む、疎水性が低く、荷電効果が低いリンカーが主に研究されている。リンカーの長さが別の重要な要素であり、リンカーが過度に長いと、融合タンパク質がプロテアーゼに対して感受性となり、生産時の活性融合タンパク質の収率が低下することがあり、より短いリンカーを使用すると、2つの分子が過度に密接に融合し、タンパク質の機能が影響を受けることがある。
【0059】
従来技術と比較して、本発明の技術的解決策は、以下の利点を有する。
【0060】
第一に、本発明者らは、バイオインフォマティクス分析と組み合わせた組み換え抗体/TGF-β RII融合タンパク質の質量分析結果により、抗体/TGF-β RII融合タンパク質分子が切断及び分解される部位を同定し、アミノ酸突然変異の設計により切断及び分解部位を更に検証した。したがって、抗体/TGF-β RII融合タンパク質が組み換え発現時に分解を起こしやすいという技術的問題が克服される。
【0061】
第二に、本発明者らは、TGF-β RIIを部位特異的突然変異誘発により修飾した。TGF-β RIIのアミノ酸数及びTGF-β RIIの長さを変えることなく、TGF-β RIIを抗体等のマルチサブユニットタンパク質と融合/コンジュゲートした場合の分子量の差が過度に大きいことによる遮蔽又は機能の喪失が回避される。本開示ではTGF-β RIIの6位、12位及び20位のアミノ酸に対して部位特異的突然変異誘発を行い、得られるTGF-β RIIを融合タンパク質の構成要素として用いる場合、TGF-βに対する特異的結合活性を維持し、それによりTGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3に効果的に結合することができるだけでなく、TGF-β Rの生物学的機能が保持され、それによりTGF-βとTGF-β Rとの結合をin vivoで遮断し、TGF-βの腫瘍促進活性を阻害し、抗腫瘍効果及び機能を有することができる。
【0062】
第三に、本発明者らは、TGF-β RIIと融合させる抗体も操作し、スクリーニングした。分子量が比較的小さいナノボディを採用し、リンカーを介してTGF-β RIIと融合させることで、二官能性融合タンパク質中の2つの構成要素間の分子サイズの差及び組換え二官能性融合タンパク質の構造の複雑さの両方を低減し、より安定した品質での大量生産により好都合な抗体/TGF-β RII二官能性融合タンパク質及びその調製方法を提供する。
【0063】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】還元12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって検出した、9日間~14日間の融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIを発現する細胞の培養上清の結果を示すグラフである。
【
図2a】還元12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって検出した融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体の上清を示す図である。親:H182-MUT4-TGF-β RIIを発現する細胞の培養上清、m1:H182-MUT4-TGF-β RIIm1を発現する細胞の培養上清、m2:H182-MUT4-TGF-β RIIm2を発現する細胞の培養上清、m3:H182-MUT4-TGF-β RIIm3を発現する細胞の培養上清。
【
図2b】還元12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって検出した融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体の精製タンパク質を示す図である。親:H182-MUT4-TGF-β RIIの精製タンパク質、m1:H182-MUT4-TGF-β RIIm1の精製タンパク質、m2:H182-MUT4-TGF-β RIIm2の精製タンパク質、m3:H182-MUT4-TGF-β RIIm3の精製タンパク質。
【
図3】SEC-HPLCによって分析した組換えタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIの結果を示すグラフである。
【
図4a】SEC-HPLCによって分析した組換えタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm1の結果を示すグラフである。
【
図4b】SEC-HPLCによって分析した組換えタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm2の結果を示すグラフである。
【
図4c】SEC-HPLCによって分析した組換えタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm3の結果を示すグラフである。
【
図5】SEC-HPLCによって分析した、高温に置いたタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm2のサンプルの結果を示すグラフである。赤色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-40C、サンプルボトル1:A,1;ローディング1:チャネル2489 ChA、緑色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-40C-1W、サンプルボトル1:A,2;ローディング1:チャネル2489 ChA、青色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-40C-2W、サンプルボトル1:A,3;ローディング1:チャネル2489 ChA、灰色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-40C-3W、サンプルボトル1:A,4;ローディング1:チャネル2489 ChA。
【
図6】SEC-HPLCによって分析した、繰り返し凍結融解したタンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm2のサンプルの結果を示すグラフである。赤色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-20C、サンプルボトル1:A,5;ローディング1:チャネル2489 ChA、緑色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-20C-1回凍結融解、サンプルボトル1:A,6;ローディング1:チャネル2489 ChA、青色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-20C-2回凍結融解、サンプルボトル1:A,7;ローディング1:チャネル2489 ChA、灰色の線:H182-MUT4-TGF-β RIIm2-20C-3回凍結融解、サンプルボトル1:A,8;ローディング1:チャネル2489 ChA。
【
図7】還元12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって検出した、10日間及び15日間の抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質の培養上清を示す図である。
【
図8】SEC-HPLCによって分析した、15日間のM7824の培養上清からの精製タンパク質の結果を示すグラフである。
【
図9】SEC-HPLCによって分析した、15日間のhzF2-TGF-β RIIm2の培養上清からの精製タンパク質の結果を示すグラフである。
【
図10】組換えヒトPD-L1細胞外ドメインタンパク質に対するhzF2-TGF-β RIIm2の親和性分析の結果を示すグラフである。
【
図11】組換えヒトPD-L1細胞外ドメインタンパク質に対するM7824の親和性分析の結果を示すグラフである。
【
図12】組換えヒトTGF-β1タンパク質に対するhzF2-TGF-β RIIm2の親和性分析の結果を示すグラフである。
【
図13】組換えヒトTGF-β1タンパク質に対するM7824の親和性分析の結果を示すグラフである。
【
図14】ELISAによって検出した、組換えヒトPD-L1細胞外ドメインタンパク質に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性の結果を示すグラフである。
【
図15】ELISAによって検出した、組換えヒトTGF-β1タンパク質に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性の結果を示すグラフである。
【
図16】ELISAによって検出した、組換えヒトTGF-β2タンパク質に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性の結果を示すグラフである。
【
図17】ELISAによって検出した、組換えヒトTGF-β3タンパク質に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性の結果を示すグラフである。
【
図18】FACSによって検出した、細胞表面上の天然PD-L1タンパク質に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性の結果を示すグラフである。
【
図19】ELISAによって検出した、ヒトPD-L1とその受容体PD-1との結合に対する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の阻害効果を示す図である。
【
図20】融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の生物活性の検出を示す図である。
【
図21】PBMC免疫再構築マウスにおける皮下移植腫瘍の腫瘍体積の統計値を示す図である。
【
図22】PBMC免疫再構築マウスにおける皮下移植腫瘍の腫瘍重量の統計値を示す図である。
【
図23】HCC827細胞を皮下接種したヒトCD34+臍帯血幹細胞ヒト化マウスの腫瘍モデルにおける融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の抗腫瘍活性の評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
TGF-β RII及びその融合タンパク質が組み換え発現時に分解及び切断を起こしやすいという技術的問題を解決するために、本発明は、配列番号6に示す野生型TGF-β RIIの細胞外ドメインと比較して、TGF-β RII突然変異体が6位(Gln)、12位(Asp)及び20位(Gly)から選択される位置(複数の場合もある)に突然変異(複数の場合もある)を有する、TGF-β RII突然変異体及びその融合タンパク質を提供する。TGF-β RII突然変異体は、TGF-βに結合することができる。TGF-β RII突然変異体は、野生型TGF-β RIIと比較して、組換え発現させた場合に、より少ない切断及び/又は分解を有する。より安定した品質での大量生産により好都合な抗体/TGF-β RII二官能性タンパク質及びその融合タンパク質を提供する。
【0066】
以下に本発明を、具体例を参照して説明する。これらの実施例は本発明の単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではないことが当業者には理解されよう。
【0067】
以下の実施例における実験手順は、特に明示がない限り、全て慣用のものである。以下の実施例で用いた原材料及び試薬は、特に明示がない限り、いずれも市販品である。
【実施例】
【0068】
実施例1:抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質及び対照のサンプルの調製
1.1 抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質の調製
PCR法を用いて、PD-L1抗体H182-MUT4(MW22、中国特許出願第201911419802.5号より)の重鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号1)を、リンカーペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号3)を介して、TGF-β RII細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列(配列番号5)にC末端で連結し、PD-L1抗体重鎖-TGF-β RIIを含むH182-MUT4-H-TGF-β RIIをコードする配列(配列番号9)を得た。H182-MUT4-H-TGF-β RIIをコードするヌクレオチド配列及びPD-L1抗体(H182-MUT4-L)の軽鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号7)を酵素消化によってライゲートし、グルタミンシンテターゼ(GS)遺伝子を含む安定発現ベクターにクローニングし、安定トランスフェクション用のH182-MUT4-TGF-β RIIの真核生物発現ベクターを構築した。ベクターを大腸菌(Escherichia coli)細胞に移入して増殖させ、H182-MUT4-TGF-β RIIの真核生物発現プラスミドを大量に単離し、得た。調製したH182-MUT4-TGF-β RIIの真核生物発現プラスミドを懸濁培養液中のCHO-K1細胞に電気的にトランスフェクトし(Nucleofector IIb、Lonza)、MSX圧力スクリーニングによって融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIを安定発現する細胞を得た。細胞を流加培養にて培養し、細胞の密度及び活性について毎日観察した。細胞の培養上清の一部を9日目から毎日回収し、細胞活性が20%未満になった時点で全ての細胞培養ブロスの高速遠心分離によって上清を回収した。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを用いて発現上清の一部を精製し、抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIを得た。
【0069】
1.2 抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質対照の調製
M7824の軽鎖及び重鎖-TGF-β RIIの遺伝子(配列については特許文献1を参照されたい)を人工的に全合成し、酵素消化によってライゲートし、グルタミンシンテターゼ(GS)遺伝子を含む安定発現ベクターにクローニングし、安定トランスフェクション用の真核生物発現ベクターを構築した。ベクターを懸濁培養液中のCHO-K1細胞に電気的にトランスフェクトし(Nucleofector IIb、Lonza)、MSX圧力スクリーニングによって組換えタンパク質M7824を安定発現する細胞を得た。細胞を培養してタンパク質を発現させ、組換えタンパク質M7824を得て、対照として使用した。
【0070】
実施例2:H182-MUT4-TGF-β RIIにおける切断部位の分析
2.1 SDS-PAGE電気泳動によるH182-MUT4-TGF-β RIIの分析
H182-MUT4-TGF-β RIIの発現上清を還元SDS-PAGEによる電気泳動分析に供した。結果から、電気泳動ゲルには3つの明確なバンドがあり、そのうち70kDa超の分子量を有するバンドは、H182-MUT4-TGF-β RIIの重鎖が融合したタンパク質鎖であり、20kDa~30kDaの分子量を有するバンドは、抗PD-L1抗体H182-MUT4の軽鎖であり、タンパク質マーカーの50kDa~70kDaの明確なタンパク質バンドは、TGF-β RIIが脱落したH182-MUT4の重鎖と推定されることが示された(
図1)。培養時間の延長に伴い、切断したタンパク質のバンドの割合が増加した。M7824の分析結果は、H182-MUT4-TGF-β RIIと同様であり、同様に切断によるバンドの問題があった。
【0071】
2.2 質量分析によるH182-MUT4-TGF-β RIIにおける切断部位の分析
SDS-PAGE電気泳動ゲル中の50kDa~70kDaの分子量を有するバンドを回収した。脱色バッファーをサンプルに添加して十分に脱色し、還元バッファーを添加して還元処理を行った。その後、トリプシンを添加し、酵素消化を37℃で一晩行った。次いで、酵素消化産物を抽出し、脱塩し、最後にペプチドフラグメントを、その後の質量分析のために0.1%ギ酸水溶液に再溶解した。質量分析のために、適量のペプチドフラグメントのサンプルを、Easy nLC 1200システム(Thermo Scientific)をナノリットル流量で用いたクロマトグラフ分離に供した。ペプチドフラグメントを分離した後、Q-exactive Plus質量分析計(Thermo Scientific)を用いたDDA(データ依存的取得)質量分析によって分析した。最後に、質量スペクトルデータベース検索用のMaxQuant 1.6.1.0ソフトウェアを並列分析に用いた。質量分析による分析結果を下記表1に提示し、サンプルが478位以降のアミノ酸を欠くことが示された。トリプシンによって消化される部位がアミノ酸Lys及びArgの後にある可能性があるという推測と併せて、包括的分析後に、H182-MUT4-TGF-β RIIの重鎖がアミノ酸位置477/478で切断し得ると考えた。
【0072】
【0073】
実施例3:抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体の設計、発現及び分析
3.1 抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体の設計及び発現
切断が生じる部位についての推測に従い、TGF-β RIIのN末端酵素切断部位の前後のグリコシル化部位を、切断部位の保護を実現し、切断の発生を防止するように設計した。突然変異体の設計を表2に提示する。抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIの発現ベクター中のTGF-β RII細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列を、StarMut遺伝子部位特異的突然変異誘発キット(カタログ番号:T111-01、GenStar)を用いた部位特異的突然変異誘発に供し、突然変異体の発現プラスミドを得た。次いで、プラスミドを大腸菌細胞に移入して増殖させ、抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体、すなわちH182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3のプラスミドを得た。調製したH182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3のプラスミドを懸濁培養液中のCHO-K1細胞に電気的にトランスフェクトし(Nucleofector IIb、Lonza)、MSX圧力スクリーニングによってPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体を安定発現する細胞を得た。H182-MUT4-TGF-β RII、並びにその突然変異体H182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3を発現する細胞を流加培養にて培養し、細胞の密度及び活性について毎日観察した。細胞活性が20%未満になった時点で全ての細胞培養ブロスの高速遠心分離によって上清を回収した。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを用いて上清の一部を精製し、融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体を得た。
【0074】
【0075】
3.2 SDS-PAGE電気泳動によるH182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体の検出
融合タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体の発現上清及び精製タンパク質のサンプルを還元SDS-PAGE電気泳動に供した。結果から、H182-MUT4-TGF-β RIIのタンパク質突然変異体の電気泳動ゲルには2つの明確なバンドがあり、そのうち70kDa超の分子量を有するバンドは、それぞれのH182-MUT4-TGF-β RII突然変異体の重鎖が融合したタンパク質鎖であり、20kDa~30kDaの分子量を有するバンドは、抗PD-L1抗体H182-MUT4の軽鎖であり、TGF-β RIIが脱落したH182-MUT4の重鎖であるタンパク質マーカーの50kDa~70kDaのバンドが消失することが示された(
図2a及び
図2b)。
【0076】
3.3 SEC-HPLCによるH182-MUT4-TGF-β RII及びその突然変異体の検出
タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII、並びにその突然変異体H182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3のサンプルをSEC-HPLC分析に供した。結果から、H182-MUT4-TGF-β RIIが分解フラグメントの明白な特性ピークを有し(
図3及び表3)、突然変異修飾後に分解問題が解決され、分解フラグメントの特性ピークが消失し、主HPLCピークの純度が明らかに上昇することが示された(
図4a、
図4b及び
図4c、並びに表3)。
【0077】
【0078】
実施例4:抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体の安定性検出
二官能性タンパク質H182-MUT4-TGF-β RIIm2のサンプルを3週間40℃に置き、毎週サンプルのチューブを1本取り、安定性について検出した。加えて、タンパク質のサンプルを-20℃で3回繰り返し凍結融解し、毎回1つのサンプルを凍結融解安定性について検出した。処理したサンプル及び常に4℃に置いた対照サンプルをSEC-HPLCによって純度について検出し、それらの安定性を検証した。結果を
図5及び
図6に示す。示されるように、高温に置き、繰り返し凍結融解に供したサンプルの純度は、基本的に対照サンプルの純度と一致し、生成物が安定しており、切断が生じないことが示された。
【0079】
実施例5:抗ヒトPD-L1抗体/TGF-β RII融合タンパク質の親和性検出
抗体親和性は、FortebioのOctet QKeシステム機器上の抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサーで抗体Fcフラグメントを捕捉することを含むアッセイによって検出した。アッセイのために、二官能性タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII、H182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3、並びにH182-MUT4及びTGF-β RII-hFc(カタログ番号:CC10、Novoprotein Scientific Inc.)の各々をPBSで5μg/mlに希釈し、AHCバイオセンサー(カタログ番号:18-0015、PALL)の表面に120秒間流した。組換えヒトPD-L1-hisタンパク質及び組換えヒトTGF-β1タンパク質(カタログ番号:CA59、Novoprotein Scientific Inc.)を60nMの濃度で移動相として使用した。結合時間を300秒間、解離時間を300秒間とした。アッセイが終了した後、ブランク対照の応答値を差し引いたデータを、ソフトウェアを用いて1:1ラングミュア結合モデルにフィッティングした後、抗原-抗体結合の動態パラメーターを算出した。結果を表4に提示する。示されるように、PD-L1及びTGF-β1に対する二官能性タンパク質H182-MUT4-TGF-β RII、H182-MUT4-TGF-β RIIm1、H182-MUT4-TGF-β RIIm2及びH182-MUT4-TGF-β RIIm3の親和性は、PD-L1及びTGF-β1に対するH182-MUT4及びTGF-β RII-hFcの親和性とは明らかには異ならなかった。
【0080】
【0081】
実施例6:抗ヒトPD-L1ナノボディ/TGF-β RII融合タンパク質突然変異体の設計及び発現
PCR法を用いて、ヒト化抗ヒトPD-L1ナノボディhzF2(中国特許出願第202010324761.8号より)をコードするヌクレオチド配列(配列番号19)を、リンカーペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号2)を介して、TGF-β RIIm2をコードするヌクレオチド配列(配列番号13)にC末端で連結し、PD-L1ナノボディ-TGF-β RIIm2を含むhzF2-TGF-β RIIm2をコードする配列(配列番号23)を得た。ヌクレオチド配列を、酵素消化部位を介してグルタミンシンテターゼ(GS)遺伝子を含む安定発現ベクターにクローニングし、安定トランスフェクション用のhzF2-TGF-β RIIm2の真核生物発現ベクターを構築した。ベクターを大腸菌細胞に移入して増殖させ、融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の真核生物発現プラスミドを大量に単離し、得た。調製した真核生物発現プラスミドを懸濁培養液中のCHO-K1細胞に電気的にトランスフェクトし(Nucleofector IIb、Lonza)、MSX圧力スクリーニングによって融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2を安定発現する細胞を得た。細胞を培養して発現させ、精製し、融合タンパク質突然変異体hzF2-TGF-β RIIm2を得た。
【0082】
実施例7:融合タンパク質hzF2 TGF-β RIIm2の純度検出
M7824及びhzF2-TGF-β RIIm2を発現する細胞を流加培養にて培養し、細胞の密度及び活性について毎日観察した。培養中期(10日目)に細胞培養ブロスの一部を回収し、培養後期に細胞活性が20%未満になった時点で残りの細胞培養ブロスを回収した(15日目)。培養ブロスの高速遠心分離によって上清を回収した後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを用いて精製した。次いで、精製した発現上清をタンパク質定量に供し、サブパッケージングして使用した。発現上清を還元SDS-PAGE電気泳動及びSEC-HPLCによって検出した。SDS-PAGE結果(
図7)から、M7824の電気泳動ゲルには3つの明確なバンドがあり、そのうち70kDa超の分子量を有するバンドは、M7824の重鎖が融合したタンパク質鎖であり、20kDa~30kDaの分子量を有するバンドは、M7824の軽鎖であり、タンパク質マーカーの50kDa~70kDaの明確なタンパク質バンドは、TGF-β RIIが脱落したM7824の重鎖と推定されることが示された。培養時間の延長に伴い、切断したタンパク質のバンドの割合が増加した。対照的に、hzF2-TGF-β RIIm2の電気泳動ゲルでは、50kDa~70kDaに1本の明確な主バンドがあり、他の明白なタンパク質バンドは見られなかった。SEC-HPLCによる同定結果を
図8及び
図9、並びに表5に示す。示されるように、M7824は低分子量のフラグメントの明確なピークを有していたが、hzF2-TGF-β RIIm2では明らかに分解が減少した。
【0083】
【0084】
実施例8:融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の親和性分析
抗体親和性は、FortebioのOctet QKeシステム機器上の抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサーで抗体Fcフラグメントを捕捉することを含むアッセイによって検出した。アッセイのために、タンパク質(hzF2-TGF-β RIIm2及びM7824)の各々をPBSで4μg/mlに希釈し、AHCバイオセンサー(カタログ番号:18-0015、PALL)の表面に120秒間流した。組換えヒトPD-L1-hisタンパク質(アクセッション番号:NP_054862.1、19aa~238aa)及びヒトTGF-β1(カタログ番号:CA59、Novoprotein Scientific Inc.)を移動相として使用した。結合時間を300秒間、解離時間を300秒間とした。アッセイが終了した後、ブランク対照の応答値を差し引いたデータを、ソフトウェアを用いて1:1ラングミュア結合モデルにフィッティングした後、抗原-抗体結合の動態定数を算出した。
【0085】
組換えヒトPD-L1タンパク質に対するhzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824の応答曲線を
図10及び
図11に示し、組換えヒトTGF-β1タンパク質に対するそれらの応答曲線を
図12及び
図13に示す。曲線をフィッティングし、親和性を算出した。結果から、hzF2-TGF-β RIIm2が1.58E-09MのKDでPD-L1に対する親和性、2.46E-09MのKDでTGF-β1に対する親和性を有し、M7824が3.21E-09MのKDでPD-L1に対する親和性、2.81E-09MのKDでTGF-β1に対する親和性を有することが示された。詳細な動態パラメーターを下記表6に提示する。結果から、hzF2-TGF-β RIIm2がヒトPD-L1及びTGF-β1の両方に対して高い親和性を有することが示された。
【0086】
【0087】
実施例9:ELISAによって検出した融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性
プレートに組換えヒトPD-L1-hisタンパク質(アクセッション番号:NP_054861.2、19aa~238aa)、ヒトTGF-β1(カタログ番号:CA59、Novoprotein Scientific Inc.)、ヒトTGF-β2(カタログ番号:CJ79、Novoprotein Scientific Inc.)及びヒトTGF-β3(カタログ番号:CJ44、Novoprotein Scientific Inc.)のそれぞれを、各タンパク質を1μg/mlの濃度にし、4℃で一晩コーティングした。その後、プレートを恒温インキュベーターにて37℃で60分間、5%BSAでブロッキングした。HzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824、並びにアイソタイプ対照NC-hIgG1(10μg/mlの初期濃度から3倍段階希釈して得た12濃度の希釈物)をプレートに添加し、これを続いて恒温インキュベーターにて37℃で60分間インキュベートした後、プレートをPBSTで4回洗浄した。5000倍希釈のHRP-抗ヒトFc(カタログ番号:109-035-098、Jackson ImmunoResearch)をプレートに添加して45分間インキュベートした後、プレートをPBSTで4回洗浄した。TMB基質(カタログ番号:ME142、GalaxyBio、北京)を添加して15分間発色させた。2M HClを添加して反応を停止させ、450nmでのプレートの吸光度を読み取り、記録した。
【0088】
結果から、hzF2-TGF-β RIIm2がヒトPD-L1、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3に対して結合活性を有し、それがM7824と同等であり、50%有効濃度(EC50)値がそれぞれ0.261nM、0.394nM、18.045nM及び1.121nMであり、M7824がヒトPD-L1、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3に対してそれぞれ0.209nM、0.472nM、18.172nM及び0.981nMの50%有効濃度(EC50)値を有することが示された(
図14~
図17)。
【0089】
実施例10:FACSによって検出した融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の結合活性
ヒトPD-L1を自然発現するヒト乳癌細胞MDA-MB-231を96ウェルプレートに2×104細胞/ウェルで添加した後、5%BSAを添加して室温で30分間ブロッキングした。その後、hzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824、並びにアイソタイプ対照NC-hIgG1(10nMの初期濃度から3倍段階希釈して得た12濃度の希釈物)をプレートに添加し、これを続いて氷上で1時間インキュベートした。細胞を氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄した後、200倍希釈のヤギ抗ヒトIgG Fc-FITC(カタログ番号:F9512、Sigma)をプレートに添加し、その後氷上で45分間インキュベートした。次いで、細胞を氷冷PBS(0.05%Tween含有)で2回洗浄した後、200μLのPBSに再懸濁した。平均蛍光強度(MFI)値をフローサイトメーターによって測定した。
【0090】
結果から、細胞表面上のPD-L1と結合する際のhzF2-TGF-β RIIm2及びM7824の50%有効濃度(EC50)値がそれぞれ0.0717nM及び0.197nMであることが示された(
図18)。
【0091】
実施例11:ELISAによって検出した融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の遮断活性
プレートに組換えヒトPD-1-hFcタンパク質(アクセッション番号:NP_005009.2、21aa~167aa)を、1μg/mlの濃度にし、4℃で一晩コーティングした。その後、プレートを恒温インキュベーターにて37℃で60分間、5%BSAでブロッキングした。50μlのhzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824、並びにアイソタイプ対照NC-hIgG1(60nMの初期濃度から1.5倍段階希釈して得た12濃度の希釈物)をプレートに添加し、続いて50μLのPD-L1-mFc(アクセッション番号:NP_054862.1、19aa~238aa)を1μg/mlの濃度で添加した。次いで、プレートを恒温インキュベーターにて37℃で60分間インキュベートした後、PBSTで4回洗浄した。5000希釈のHRP-抗マウスFc(カタログ番号:115-035-071、Jackson ImmunoResearch)をプレートに添加して45分間インキュベートした後、プレートをPBSTで4回洗浄した。TMB基質(カタログ番号:ME142、GalaxyBio、北京)を添加して15分間発色させた。2M HClを添加して反応を停止させ、450nmでのプレートの吸光度を読み取り、記録した。
【0092】
結果から、hzF2-TGF-β RIIm2が組換えヒトPD-L1とその受容体PD-1との結合を効果的に遮断し得ることが示された。ヒトPD-L1とその受容体PD-1との結合に対するhzF2m9-TGF-β RIIm2及びM7824の競合阻害効果をELISAによって検出し、それらの50%阻害濃度(IC50)値は、それぞれ7.533nM及び6.935nMであった(
図19)。
【0093】
実施例12:PD-L1とその受容体PD1との結合を遮断する融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の細胞学的活性の観察
ヒトPD-L1及び抗CD3-ScFvを組換え発現するCHO細胞(CHO-PD-L1-CD3L、JIANGSU T-MAB BIOPHARMA CO., LTD.)を96ウェルプレート(カタログ番号:3917、Corning)に5000細胞/ウェルで接種し、細胞インキュベーターにて一晩インキュベートした後、上清を捨てた。HzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824(5μg/mlの初期濃度から2.5倍段階希釈して得た8濃度の希釈物)(25μL/ウェル)、並びにヒトPD-1及びルシフェラーゼを組換え発現するJurkat細胞(Jurkat-PD1-NFAT、JIANGSU T-MAB BIOPHARMA CO., LTD.)の50μLの懸濁液(1×10
6細胞/mL)をプレートに添加し、これを細胞インキュベーターにて6時間インキュベートした。Bio-Turboホタルルシフェラーゼ基質(カタログ番号:RA-GL03、RHINOZYME BIOTECHNOLOGY)をプレートに125μL/ウェルで添加し、プレートをマイクロプレート恒温オシレーターに入れ、暗所にて800rpmで5分間インキュベートした。多機能マイクロプレートリーダーを発光モード下で動作するよう設定し、解釈を500(機器のデフォルト値)とした。RLU値を読み取り、検出結果を
図20に示す。示されるように、hzF2-TGF-β RIIm2及び対照タンパク質M7824は、それぞれ10.122nM及び8.537nMのEC50値でPD-L1/PD1経路に対する遮断効果を示した。
【0094】
【0095】
実施例13:ヒト咽頭扁平上皮癌Fadu細胞を皮下移植したPBMC免疫再構築マウスのモデルにおける融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の抗腫瘍効力の評価
5週齢~6週齢の雄性NCGマウスの右脇腹にヒト咽頭扁平上皮癌(FaDu)細胞を5×10
6細胞/0.1mLの濃度で皮下接種し、ヒトPBMCをマウスに2×10
6細胞/マウスで接種した。腫瘍が40mm
3~60mm
3に成長した時点で、腫瘍体積が要件を満たすマウスを各群6匹のマウスで無作為に2群に分けた後、それぞれhzF2-TGF-β RIIm2及びアイソタイプ対照hIgG1を投与した。投与スケジュールを表8に提示する。結果を
図21及び
図22に示す。示されるように、hzF2-TGF-β RIIm2は、腫瘍成長を有意に阻害し、明確な抗腫瘍効力を有し、53%の腫瘍成長阻害(TGI;腫瘍重量)率を達成した。
【0096】
【0097】
実施例14:HCC827細胞を皮下接種したヒトCD34+臍帯血幹細胞ヒト化マウスの腫瘍モデルにおける融合タンパク質hzF2-TGF-β RIIm2の抗腫瘍活性の評価
ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株を回収及び培養し、37℃、5%CO
2インキュベーターにてRMPI 1640培地(不活性化10%FBSを添加)中で培養及び継代した。対数増殖期の腫瘍細胞をin vivo腫瘍接種に使用した。20匹の適格な雌性ヒトCD34+臍帯血幹細胞ヒト化マウスに、1週間の適応給餌後にヒト非小細胞肺癌HCC827細胞を接種し、腫瘍細胞の接種後の腫瘍体積及び体重について観察した。腫瘍体積が120mm
3~200mm
3のマウスを選択し、腫瘍体積及び体重に応じて各群5匹のマウスで無作為に3群に分けた。群分け当日に投与を開始し、投与開始日を0日目とみなした。投与スケジュール及び群分け情報を表9に提示する。本実験では、それぞれ単独で投与した、等モル量の試験hzF2-TGF-β RIIm2及び対照薬物アテゾリズマブの抗腫瘍効力を、HCC827細胞を皮下接種したヒトCD34+臍帯血幹細胞ヒト化マウスの腫瘍モデルにおいて検出した。結果から、単独で投与した場合に8mg/kgのhzF2-TGF-β RIIm2及び10mg/kgのアテゾリズマブがどちらも強い効力を示し、hzF2-TGF-β RIIm2を投与した群では、腫瘍成長阻害(TGI;腫瘍体積)率が80%超に達し、アテゾリズマブを投与した場合よりも優れていることが示された(
図23及び表10)。
【0098】
【0099】
【0100】
本発明の実施形態に関する以上の説明は、本発明を限定することを意図するものではなく、当業者は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で本発明に種々の変更及び修正を加えることができ、これは添付の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】