(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】呼吸音測定用口腔装置
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20230804BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230804BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20230804BHJP
A61B 5/26 20210101ALI20230804BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20230804BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61B7/04 B
A61B5/08
A61B5/1455
A61B5/26 200
A61B5/33 200
A61B5/01 250
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022529724
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 IL2020051054
(87)【国際公開番号】W WO2021059284
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521553461
【氏名又は名称】オムニセンス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】エルハシド,アミール
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
4C127
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038SS08
4C038SV05
4C038SX02
4C038VB05
4C117XC15
4C117XD08
4C117XE17
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4C117XL01
4C127AA02
4C127BB03
4C127BB05
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】 呼吸器系からの音を検出し記録するため簡単で使いやすい方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、呼吸音を測定するための体温計形状の口腔装置に関する。口腔装置は、舌の下に留置するための金属性の先端を有するマウスピースと、口唇が口を閉じている頸部とを備え、呼吸音の測定を妨げるような外部からのノイズを防止する。口腔装置は、伝統的に聴診器によって行われてきた聴診機能を行う。金属チップは、口腔温度測定用のサーミスタを含むことができ、様々な実施形態では、口腔装置は、他のバイタルサインセンサをさらに含むことができる。口腔装置は、医師による遠隔聴診および/または呼吸器疾患または他の疾患の進行を検出するための医療用ロボットによる聴診および/または他のバイタルサインの分析のためのシステムの一部として、クラウドサーバと通信することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸音を記録するための体温計形状の口腔装置であって、1つ以上のマイクロホンを含むマウスピースを含み、前記マウスピースは患者の口に挿入するように構成され、これによって前記マイクロホンは前記患者の口鼻腔からの呼吸音を検出する、ことを特徴とする口腔装置。
【請求項2】
前記マウスピースが、口腔温度を感知するための金属チップを備える、請求項1に記載の口腔装置。
【請求項3】
ディスプレイをさらに含む、請求項2に記載の口腔装置。
【請求項4】
前記ディスプレイが、前記患者の呼吸数及び口腔温度を表示する、請求項3に記載の口腔装置。
【請求項5】
ECG、パルスオキシメトリセンサ、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の口腔装置。
【請求項6】
前記口腔装置は、肺聴診と等価な機能を可能にする、請求項1に記載の口腔装置。
【請求項7】
肺聴診及び/又はその他のバイタルサインを遠隔測定するためのシステムの他の構成要素をさらに含み、前記システムが、前記口腔装置と無線通信接続されたクラウドサーバをさらに含み、前記クラウドサーバが、前記肺聴診及び/又はバイタルサインデータをアップロードして格納するように構成され、前記クラウドサーバが、医療従事者の表示装置と通信接続している、請求項1から6のいずれか1項に記載の口腔装置。
【請求項8】
前記無線通信接続の手段が、5Gモデム、シムモジュール、ブルートゥース(登録商標)/BLE8、WiFi、データ通信、または、それらの任意の組み合わせを含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記クラウドサーバが、疾患の進行の証拠についての前記肺聴診の分析のための1つ以上のヘルスケアボットを備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記聴診、その分析、またはそれらの任意の組み合わせを前記表示装置上に表示するようにさらに構成される、請求項7または9に記載のシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムを用いて疾患の進行を遠隔分析する方法。
【請求項12】
疾患進行の前記分析が、さらに、前記口腔口装置によって記録された他のバイタルサインデータの関数である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記他のバイタルサインが、温度、ECGデータ、パルスオキシメトリーデータ、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項7に記載のシステムに基づいて遠隔聴診を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸音を検出するための医療装置の分野におけるものである。より詳しくは、本発明は、強化体温計に似た装置であって、口腔内の呼吸音を検出し、その後の分析のために体温計の読み取り中にこれらの音を収集するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肺音や気道音を含む呼吸音は、呼吸状態を診断し、呼吸器疾患の進行を監視することを可能にする。特定の呼吸状態に関連する典型的な肺音には、喘息、COPD、細気管支炎、嚢胞性線維症およびPAHを特徴づける種々のタイプの喘鳴、断続性ラ音またはそれらの組み合わせがある。例えば、喘鳴は喘息で最もよくみられる症状の1つである。最も軽度の型では、喘鳴は呼気終末期にのみみられる。重症度が高くなるにつれて、喘鳴は呼気中持続する。より重度の喘息エピソードでは、吸気時に喘鳴もみられる。初期吸気相での粗い断続性ラ音は、COPD患者および慢性気管支炎患者で一般的に聴取される。微細な断続性ラ音がIPF患者の大多数で検出される。
【0003】
これらの肺音は、伝統的に聴診によって、すなわち、資格のある医師によって胸部および/または背部に固定された聴診器を使用することによってモニタリングされる。より最近では、聴診のための電子聴診器が使用され始めており、特徴をより良く同定し、病歴を保存する可能性がある結果の電子処理が行われている。電子聴診器は、この膜がエレクトレットマイクロホンのような高感度マイクロホンに連結され、このマイクロホンが増幅器に接続される皮膚に保持された膜を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、呼吸器系からの音を検出し記録するため簡単で使いやすい方法であって、自宅環境における訓練を受けていない患者による使用に適している方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電子聴診器は、医師には適しているが、訓練を受けていない患者や介護者にはなじみがなく、使用するのが困難である。従って、家庭での使用と遠隔医療システムへの接続を考えるとき、呼吸器系からの音を検出し記録し、遠隔医療システムと医師にそれらを伝えることを可能にする、より簡単でより慣れた方法が必要である。
さらに、この目的のための聴診を可能にするシステムが必要であり、これは、最小限の努力で訓練されていない患者によって使用可能である。
【0007】
本発明の装置は、口鼻腔内で検出された呼吸音を記録することができるような構造の体温計形状の装置である。口鼻腔は、頭部内の口腔および鼻腔の構造物であり、呼吸器系の上端を構成する。皮膚を横切る呼吸系内の音を(すなわち、従来の聴診を介して)外部からマイクロホンに検出するのとは対照的に、本発明の装置は、呼吸系内からのこれらの音を記録する。有利には、装置は体温計形状であるので、それは、患者に知られており、受け入れられ、その使用は慣れ親しんでいる。さらに、口を閉じた状態で体温計を使用することにより、肺から(気管を介して)伝わる音が外部音によって妨げられないことを確実にし、肺の聴診と機能的に同等のことを行うことができる。
【0008】
また、聴診は心音を聴くためにも使用されることに注意するべきである。心音は、弁の開閉、開口部を通る血流、心室内への血液の流れ、心臓表面の摩擦によって生成される。心音周波数は弁装置によって影響を受けることがあるが、通常は10~200Hzの範囲である。適切な信号の区別によって、本発明によって検出された心音も記録し、処理することができる。
【0009】
体温計形状の装置を使用するアプローチから得られるさらなる利点は、そのような装置が、追加の医療パラメータを測定するための良好なプラットフォームでもあることである。いくつかの実施形態において、本装置は、標準的な体温計と同様に、口腔温度センサをその先端に含む。さらなる好ましい実施形態では、本装置は、反射型パルスオキシメトリセンサも組み込む。さらなる好ましい実施形態では、本装置は、その参照により本明細書に組み込まれるPCT/IL2020/050874によるECG電極も組み込むであろう。
【0010】
採取した呼吸音を分析して、呼吸数を求めることができる。さらに好ましい実施形態では、これらの音は、肺音を抽出するのに役立つ。この分析は、装置内で行うことができ、および/または信号をスマートフォンに送信して分析し、および/または遠隔地に送信して記録および/または分析することができる。
【0011】
本発明の目的は、呼吸器系からの音を検出し記録するため簡単で使いやすい方法であって、自宅環境における訓練を受けていない患者による使用に適している方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、記録された音から呼吸数およびI:E比を計算することである。
本発明のさらに別の目的は、呼吸音および/または肺音を抽出し、それらを遠隔サーバーまたは医師に送信することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、疾患の進行をモニタリングする方法として、呼吸音および/または肺音の経時的な変化を分析することである。
本発明のさらに別の目的は、呼吸音および/または肺音が収集される時点で追加の生理学的パラメータを測定し、分析のための生理学的データの幅広いセットを提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、呼吸音を記録するための体温計形状の口腔装置であって、1つ以上のマイクロホンを含むマウスピースを含み、前記マウスピースは患者の口内に挿入するように構成され、それによって前記マイクロホンは、患者の口鼻腔からの呼吸音を検出する、口腔装置を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、口腔温度を感知するための金属チップを備える、前記口腔装置を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、ディスプレイをさらに含む、上記口腔装置を提供することである。
【0016】
本発明の更に別の目的は、ディスプレイが患者の呼吸数および口腔温度を表示する上記口腔装置を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、心電図、パルスオキシメトリセンサ、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、上記口腔装置を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、前記口腔装置を提供することであり、前記装置は、肺聴診の機能的等価性を可能にする。
本発明のさらに別の目的は、前記口腔装置を提供することであり、前記装置は、肺の聴診および/またはその他のバイタルサインを遠隔測定するための装置の他の構成要素をさらに含み、前記システムは、口腔装置と無線通信接続されたクラウドサーバをさらに含み、前記クラウドサーバは、前記肺の聴診および/またはバイタルサインデータをアップロードおよび格納するように構成され、前記クラウドサーバは、医療従事者のディスプレイ装置と通信接続される。
【0018】
本発明の更に別の目的は、無線通信接続の手段が、5Gモデム、シムモジュール、ブルートゥース(登録商標)/BLE8、WiFi、データ通信、または、それらの任意の組み合わせを含む、前記口腔装置を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、クラウドサーバは、疾患の進行の証拠についての肺の聴診を分析するための1つ以上のヘルスケアボットを備える、前記口腔装置を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、聴診、その分析、またはそれらの任意の組み合わせをディスプレイ装置上に表示するようにさらに構成された、上記の口腔装置を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、上記システムを用いて疾患の進行を遠隔的に分析する方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、疾患進行の分析がさらに口腔装置によって記録された他のバイタルサインデータの関数である上記方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、前記方法を提供することであり、他のバイタルサインは、温度、ECGデータ、パルスオキシメトリーデータ、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、上記システムに基づいて遠隔聴診を実施する方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本開示において定義されるような体温計形状の装置の例示的実施形態の図を提供する。
【
図2】
図2は、本発明のいくつかの実施形態による、呼吸音および/または肺音を検出するための口腔装置の図を提供する。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、本発明のいくつかの実施形態に従った、口腔装置のマウスピースの、それぞれ、分解および組み立てられた外観を示す。
【
図4】
図4Aおよび4Bは、本発明のいくつかの実施形態による、マウスピースの内部の分解および組み立て図をそれぞれ示す。
【
図5】
図5は、本発明のいくつかの実施形態による、口腔装置の制御回路の機能ブロック図を示す。
【
図6】
図6は、口鼻腔、気管を通って肺に至る呼吸器系全体の概略図である。
【
図7】
図7に呼吸系から発生する音の波形の一例を示す。
【
図8】
図8は、肺聴診及び/又は他のバイタルサインの遠隔測定システムの機能ブロック図を示す。
【
図9】
図9A~
図9Dは、異なるフィルタリングおよびノイズ低減条件に従って、口腔装置から受信した実験波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義:
図1に例示するように、「体温計形状の装置」1は、ハンドル部2と、頸部3および先端部4を有するマウスピースとを備える。先端部4は、舌の下に配置されるように構成され、頸部3は、唇によって覆われて密閉されるように構成される。
【0026】
次に、本発明の装置5の好ましい実施形態を示す
図2を参照する。本装置5は、ハンドル部19とマウスピース20とを備える。マウスピース20は、患者の口に置かれたときの呼吸音および肺音を検出し、記録するためのアセンブリを含む。マウスピース20の先端部10が患者の舌の下に置かれると、患者の唇はマウスピース20の頸部11の周囲を閉じて、気管を介して肺から口鼻腔に到達する音ボックスを生成する。このように、本装置を口腔内に置くことにより、呼吸音および肺音の検出が可能となる。いくつかの実施形態では、先端部10は、患者の体温を測定するためのサーミスタを含む。口腔温度感知に適したサーミスタは、Cantherm (カナダ、モントリオール)製のMF51E2252F3950Cビーズ型サーミスタを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、口腔装置5は、ECGおよび/またはパルスオキシメトリセンサをさらに含み、ハンドル部19は、当該装置を保持するための2つの把持点12、13と、ディスプレイ14と、作動ボタン15と、2つの電極接点16,17と、パルスオキシメトリセンサ18とを含む。本装置内に配置されているものは、
図5にブロック図が示されている制御回路50を含む内部電子回路基板である。制御回路50は、種々のセンサから測定された信号を処理し、任意に、信号データの全部または一部をスマートフォン等の外部装置(図示せず)に送信する。
【0028】
次に、本発明のいくつかの実施形態による、マウスピース20の外部の分解図並びに組立図をそれぞれ示す
図3Aおよび
図3Bを参照する。また、本発明のいくつかの実施形態による、マウスピース20の内部の分解図並びに組立図をそれぞれ示す
図4Aおよび
図4Bを参照する。マウスピース10は、呼吸音を聴くために、1つまたは複数の口内マイクロホン33および34を含む。マウスピース20が口の中に挿入されると、先端部10が舌の下に配置され、口唇が頸部11に当接するように置かれる。このように口唇が口腔装置5のマウスピース20の周囲を密閉すると、音響アクセス孔21、22が口腔内に配置され、その結果、口腔内で検出可能な音に曝される。音響アクセス孔21、22は、空気/液体フィルタ材料30,31のディスクを挿入する場所があるように、わずかに凹んでいてもよく、そこでは、マイクロホン33,34は、孔21、22の反対側でマウスピース内に取り付けられる。この構成は、マイクロホンが口腔内で検出可能な音を確実に捕捉できるようにしながら、マイクロホンへの液体の侵入を防止する。この目的のために、複数のマイクロホンを使用することが可能であり、このとき、分析された音はマイクロホンによって検出された音の和(または何らかの他の機能)を表す可能性がある。2つのマイクロホンを使用する利点の1つは、一方が明確な信号を発し、他方が(例えば舌によって)ブロックされているように見える場合には、より強い信号を使用できることである。この目的に適したマイクロホンとしては、STMicroelectronics NV (オランダ、Eindhoven)のMP34DT06J PDM型マイクロホンのようなデジタルマイクロホン、およびCUI Devices(米国、Lake Oswego)のCMC-4015-25L100エレクトレットコンデンサマイクロホンのような高感度アナログマイクロホンが挙げられる。空気/液体フィルタ30、31のための好適な材料の例は、W. L.ゴア・アンド・アソシエーツ社(米国、DE、ニューアーク)の疎水性膜である。
【0029】
次に、本発明のいくつかの実施形態に係る、口腔装置5の制御回路50の機能ブロック図を示す
図5を参照する。好ましい実施形態では、マイクロホン33、34はデジタル式であり、プロセッサ52のバス内に直接インターフェースすることができる。この好ましい実施形態では、例示的なプロセッサ52は、サイプレスセミコンダクター社(Cypress Semiconductor Corp)(米国、CAサンホセ)(San Jose, CA, USA)から販売されているサイプレスBLEマイクロプロセッサモジュールCYBLE-416045-02であり、これを使用することができる。有利には、サイプレス製プロセッサは集積ブルートゥース(登録商標)低エネルギーモジュールを含み、それにより、別個の通信チップ58を制御回路50に組み込む必要がなくなる。有利には、上述のサーミスタはまた、その内部A/D変換チャネルを使用して、サイプレス製プロセッサに直接接続することができる。
【0030】
本装置の本体19上のECG電極16,17は、マイクロプロセッサ52にデジタル的にインターフェース接続されるECGチップ54に接続される。回路の好ましい実施形態では、単一のチップは、ECGモジュール54と、センサ18がその一部であるパルスオキシメトリモジュール56の両方を含んでいる。このタイプの集積センサチップの例は、Maxim Integrated (米国カリフォルニア州サンノゼ)製MAX86150チップである。有利には、集積マイクロプロセッサ+BLEモジュールと集積センサチップの2つの主要チップの周りに回路を構築することにより、コストを最小限に抑えながら複雑さを低減することができる。本発明のデバイスに適したディスプレイには、KSF社 (香港)から販売されている1.44"グラフィカルTFT型LCDディスプレイモデルKSF128128A0-1.44などのLCDおよびLEDが含まれる。
【0031】
好ましい実施形態では、呼吸音および肺音を検出および記録するための本発明の装置の動作は、以下のように進行する。スイッチを使用して装置を作動させた後、患者は、好ましくは把持位置12及び13を使用して装置を把持し、口腔温チップが舌の下にあり、口唇が頸部11の周囲で閉じられるようにマウスピースを口の中に配置する。把持位置は、その位置で対向する親指が装置の下面を押さえながら、指が凹みに載るように使用することが推奨される。約20~30秒後に、本装置は、「温度読み取り」が完了したことを示すために、ビープ音および/またはディスプレイ14上に表示を発する。本装置の体温計タイプの設計のため、この間に行われた測定は(最低限)口腔温と、この間にマイクロホンによって口腔内で検出された音の記録の両方を含むことに注意するべきである。これらの音のデジタル記録は、選択された解像度およびサンプリングレート(例えば、4kHzで12ビット)で、制御回路50のメモリ66に記憶されるか、および/または通信モジュールを介してコンピュータまたはスマートフォン(図示せず)に送信されるか、またはインターネット(例えば、WiFi)にアップロードされる。好ましい実施形態では、データはBLEを介してスマートフォンに送信され、遠隔コンピュータシステムに記録およびアップロードされる。この構成により、遠隔にいる医師は録音された音を聞き、それらを分析することができる。医師は、典型的には、任意の身体位置でわずか数秒間の聴診を行うので、典型的には、本発明の装置によって取得された5~10秒間の音声を記録し転送することで十分であろう。
【0032】
次に、
図6を参照する。呼吸系は、口鼻腔70から気管72を通って肺74まで下方に延びる。肺の内部構造76も示されている。有利には、マイクロホン33,34が呼吸系内に配置されているので、呼吸系全体の呼吸音を検出することが可能となる。加えて、体温計の標準的な使用と相乗的に、口は、体温測定の間、患者によって閉じたままにされ、それによって、呼吸音および肺音がほとんど閉じた空間内にトラップされる程度を増加させ、外部干渉を減少させる。本発明の重要な利点は、(聴診器が使用される場合のように)体外の外部膜インターフェースを必要とするのとは対照的に、この音波検出が体内で内部的に行われることである。このようにして、本発明は、聴診器を使用せずに、肺聴診の機能的等価物を実施することを可能にするのに役立つ。
【0033】
ここで、従来のデジタル聴診器によって撮影された単一の呼吸サイクルの胸部聴診によって検出された肺音の典型的な波形77を示す、
図7を参照する。(以下「実験」の項では、デジタル聴診器波形77を口腔装置5からの波形と比較する。) 波形は、口腔で検出された空気流プロット78(吸気/実験)によって重ね合わせられる。呼吸作用に関連する低周波数の周期(成人では典型的には10~15回/分)があり、各呼吸の吸気フェーズと呼気フェーズの両方で高周波数の肺音が検出されることに留意されたい。
【0034】
示されている低周波は、患者の呼吸数とI:E比を算出するために分離されている。呼吸数は重要なバイタルサインであるため、好ましい実施形態では、この呼吸数は、装置の制御回路50内で計算され、その内部ディスプレイ14に表示される。
【0035】
図1に示す口腔装置5は、呼吸数と口腔温を測定し表示する。いくつかの実施形態において、追加のセンサは、さらなる医療パラメータを検出し、それを表示することを可能にする。パルスオキシメトリセンサ18は、指把持位置(12又は13)に沿って配置することができる。この構成では、指示通りに患者が口腔装置5を握ると、患者の脈拍と酸素飽和度(SpO2)パラメータが、体温測定中にパルスオキシメータによって測定される。好ましい実施形態では、これらのデータはまた、本装置のディスプレイ14上に示され、ディスプレイ上に4つのバイタルサイン、すなわち、温度、呼吸数、脈拍数、およびSpO2を表示することが可能である。バイタルサインは、同時に表示されてもよいし、例えば、スイッチ15を使用して、異なるパラメータの表示を切り替えてもよい。
【0036】
同様に、患者が装置を自分の口の中で保持して温度測定を実行している間、患者が装置を指示通りに保持し、両手の指を把持位置12,13に置くと、把持領域12、13に位置する電極16,17は、同時にECG読み取りを行うことを可能にする。電極16,17は、
図4に示されるブロック図と関連して説明されるECGチップ54に接続される。いくつかの実施形態では、追加の第3の電極が、マウスピース20上の金属セクション23を介して、または温度センサを収容する金属チップ10を使用することによって、口に適用される。3電極構成(各指に1本、口に1本)を用いる場合、発生したECGトレースは、現在係属中の特許PCT/IL2020/050874に記載されている説明に従って計算することができる。
【0037】
従って、本発明の口腔装置5を適切に使用することにより、多数の医学的パラメータを同時に測定することができる。この情報の一部または全部は、通信モジュールを介して、スマートフォンまたはその他の適切な手段を介して、遠隔コンピュータに送信することができる。
【0038】
本発明の口腔装置5によって検出される肺音は、呼吸状態を診断することに役立ち、呼吸疾患の進行をモニターすることを可能にする。上述のように、特定の呼吸状態に関連する典型的な肺音は、喘息、COPD、細気管支炎、嚢胞性線維症およびPAHを特徴づけるのに役立つ異なるタイプの喘鳴、断続性ラ音、またはそれらの組み合わせを含む。例えば、喘息は典型的には、早期吸気ラ音と遅発性吸気性微細ラ音の組み合わせによって同定されるが、気管支拡張症は湿性ラ音によって同定される。同様に、吸気中期の喘鳴と呼気中期の喘鳴の組み合わせは、細気管支疾患を示唆する。
【0039】
同様に、装置を介して検出された特定の心音もまた、心臓の状態を示すことができ、それらが悪い方に向かうことは、状態の悪化を示し得る。次に、肺聴診および/または他のバイタルサインの遠隔測定のためのシステム80の機能ブロック図を示す
図8を参照する。口腔装置5は、肺音をデジタル的にサンプリングし、サンプリングしたデータをクラウドサーバ90にワイヤレスで送信する。例えば、データは、口腔装置5からシムモジュール又は5Gモデム82によって、又は、例えば、ブルートゥース(登録商標)/BLE84によってスマートフォン86に送信された後、WiFi又はデータ通信88を介してスマートフォン86からクラウドサーバ90に送信される。クラウドサーバ90は、本明細書でさらに記載されるように、医師またはコンピュータ分析部に送信するために、サンプリングされたデータをアップロードし、格納する。あるいは、当該分析の一部または全部を、制御回路50および/またはスマートフォン86内で実施することもできる。制御回路50、スマートフォン86、またはクラウドサーバ90は、サンプリングされたデータにタイムスタンプを付けることができる。
【0040】
医療従事者94のクラウドサーバ90に接続された表示装置92は、患者を遠隔監視するために、医療従事者94に聴診波形を表示することができる。あるいは、さらに、ヘルスケアロボットは、時間の経過に伴う音の変化を監視し、分析することができる。例えば、クラウドサーバ90内の、またはクラウドサーバ90にアクセス可能なヘルスケアボットは、患者の聴診波形を、疾患の進行の兆候について経時的に分析することができる。特に、喘鳴およびラ音の数値指標は、これらの音を録音から分離することによって生成することができ、これらの指標の傾向を観察することができる。例えば、Twheeze /Ttotalの指標は、呼吸が喘鳴成分も含む時間の比率を記録し、追跡することができ、この比率の上昇は、状態の悪化傾向を示す。同様に、「断続性ラ音」が検出され、断続性ラ音の総数に加えて、呼吸の初期/後期吸気相および呼吸の初期/後期呼気相の間の断続性ラ音の数が分かるように、好ましくは呼吸相に従って組織化された「断続性ラ音」の数が維持される。これらの3つの指標のすべては、一定傾向をモニターすることができ、この場合、断続性ラ音の数の増加は肺の状態の悪化を意味する。初期の吸気性および呼気性の断続性ラ音は慢性気管支炎の特徴であるが、後期の吸気性の断続性ラ音は肺炎、うっ血性心不全、または無気肺を意味することがある。
【0041】
次いで、これらの潜在的な問題は、医療従事者94、介護者、および/または患者に対する警告として通知することができる。このような遠隔分析システム及び方法は、この追加のデータが装置5によって収集されるか又は他の装置によって収集されるかどうかにかかわらず、追加の生理学的データ(ECG及びバイタルサインのような)及びそれらの傾向を考慮することもできる。
・実験データ
本装置を口腔内に留置し、その周囲の口唇をシールすると、マイクロホンが口鼻腔内に配置された。数回の呼吸サイクルの生音波形を
図9Aに示す。口鼻腔内に存在する高周波数の笛声およびノイズは、根底にある音のパターンを不明瞭にする。しかしながら、このデータに1,000Hzのハイパスフィルタセットを適用することにより、6dB/オクターブのロールオフで、
図9Bに示される受信データは、聴診器を胸部に適用することによって聴取されるであろう典型的な吸気および実験パターンを明確に示している。
【0042】
ノイズ低減の相対的重要性を決定するために、3つの周波数平滑バンドを用いて感度6.0の16dBのノイズ低減を適用し、その結果を
図9Cに示す。次に、
図9Dに示す音波を得るために、上記のハイパスフィルタ(すなわち、ロールオフが6dB/オクターブの1,000Hz)をノイズ低減データに適用した。
【0043】
容易に理解されるように、信号処理は、従来の聴診における胸部に対する聴診器の使用によってもたらされるものと有意に等価な聴診型音波の生成を可能にする。
図9Bおよび
図9Dにおける実験的に導出した波形を、
図7に示されるように胸部聴診の構成要素の標準的な「テキストブック」と比較すると、本発明の口腔装置5によって検出されて処理される、音波データ中の主な構成要素(吸気、実験、及び肺音)が全て存在することが明らかである。
【0044】
口腔装置5は、医師が、遠隔位置で音声データファイルを受信し、聞くことによって、遠隔聴診を行うことを可能にする。有利なことに、このシステムは、遠隔聴診の実施を、患者が胸部に電子聴診器を設置するという従来の要件を必要とせずに実施することを可能にする。本質的に、患者は単に「体温を測る」だけで済み、データの記録、信号処理、および送信のプロセスは自動的に行われる。
【国際調査報告】