(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】膨潤性ゼラチン組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/22 20060101AFI20230804BHJP
A61K 8/65 20060101ALI20230804BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230804BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20230804BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230804BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230804BHJP
A23L 29/281 20160101ALI20230804BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
A61L27/22
A61K8/65
A61K47/42
A61K38/18
A61K9/06
A61L27/52
A23L29/281
C12N5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022577470
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2021066847
(87)【国際公開番号】W WO2021255295
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505308917
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート ゲント
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン フリアベルジェ,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ダンム,ラナ
(72)【発明者】
【氏名】デピペール,ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】ブロンドール,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B041
4B065
4C076
4C081
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B041LC03
4B041LD01
4B041LD03
4B041LK05
4B041LK14
4B041LK17
4B041LK36
4B065AA90X
4B065BD42
4B065BD50
4B065CA41
4B065CA44
4C076EE42
4C081AB00
4C081AB11
4C081BA12
4C081CC04
4C081CD151
4C081CD34
4C083AD431
4C083AD432
4C084DB52
4C084MA05
4C084NA13
(57)【要約】
本発明は、ヒドロゲルの分野に関する。より具体的には、本発明は、ゼラチンを含む膨潤性組成物に関し、このゼラチンは膨潤前に架橋状態にあり、該膨潤性組成物は多粒子形態である。本発明は、更に、注射に適した膨潤組成物、その使用及びその組成物を調製する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤性組成物であって、
膨潤前に架橋状態にあるゼラチンを含み、
該膨潤性組成物が多粒子形態であり、破砕された非晶質形状を有するゼラチン粒子を含む、膨潤性組成物。
【請求項2】
前記粒子が、0.80までのWadellの平均球形度Φを有する、請求項1に記載の膨潤性組成物。
【請求項3】
前記粒子が、0.20~0.80、好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する、請求項2に記載の膨潤性組成物。
【請求項4】
前記ゼラチンが、前記架橋状態において架橋性官能基を有する少なくとも第1のポリマー鎖を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の膨潤性組成物。
【請求項5】
前記多粒子形態が、光学顕微鏡法で決定した場合、約0.1μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~約1 mmの粒径を有する粒子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の膨潤性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物と、少なくとも一種の膨潤物質とを含む、膨潤組成物。
【請求項7】
前記膨潤組成物が、レオロジーで決定される場合、約0Pa s超~200 Pa s、好ましくは5 Pa s~150 Pa s、より好ましくは10 Pa s~120 Pa sの粘度を有する、請求項6に記載の膨潤組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物を調製する方法であって、
(a)架橋性ゼラチンを提供する工程と、
(b)工程(a)の前記ゼラチンを架橋して架橋ゼラチンを得る工程と、
(c)工程(b)で得た前記架橋ゼラチンを乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた前記乾燥ゼラチンを粉砕して、破砕された非晶質形状を有するゼラチン粒子を含む多粒子形態を得る工程と、
を含み、
それにより、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記膨潤性組成物を得る、方法。
【請求項9】
工程(d)が、前記乾燥ゼラチンを粉砕することを更に含み、それによって最大0.80、好ましくは0.20~0.80、より好ましくは約0.30~約0.70、更に好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する粒子を得る、請求項8に記載の膨潤性組成物を調製する方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法を適用すること、及び、
(e)工程(d)で得られた前記膨潤性組成物に膨潤物質を添加し、それによって膨潤組成物を得る工程を含む、請求項8又は9に記載の膨潤組成物を調製する方法。
【請求項11】
(f)工程(e)で得られた前記膨潤組成物に、細胞、幹細胞、薬学的活性化合物、成長因子、又はそれらの組合せから選択される成分を添加する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)において、前記ゼラチンがフィルム又はシートの形態で架橋される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において、前記架橋ゼラチンが凍結乾燥される、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヒト及び/又は獣医学における使用のための請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物、又は請求項6若しくは7に記載の膨潤組成物。
【請求項15】
食品産業、化粧品、薬物送達及び/又は細胞送達、及び/又は成長因子送達として、及び/又は化粧用充填剤として、クリーム若しくは軟膏の調製においてゲル化剤又は増粘剤として、細胞外マトリックス模倣物として、組織工学用途(審美的処置、大容量組織再建、少容量組織再建、脂肪移植、リポフィリング、熱傷、歯科用途、軟骨及び骨組織工学等)、軟部組織工学(脂肪、脊椎、心臓組織工学、筋肉及び腱組織工学等)における組成物としての請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物又は請求項6若しくは7に記載の膨潤組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンヒドロゲルの分野に関する。より具体的には、本発明は、多粒子形態であり、食品産業、化粧品、ヒト及び/又は獣医学等の様々な用途に好適に使用することができる架橋ゼラチンを含む膨潤性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは、優れた細胞相互作用特性及びヒドロゲルを形成する能力を有する天然由来のバイオポリマー材料である。その幅広い適用性及びとコスト効率に基づいて、食品産業及び製薬産業で広く応用されている。その結果、この材料は、組織工学及びバイオファブリケーションの分野におけるベンチマークの1つとなっている。しかしながら、ゼラチンは臨界溶液温度の上限が生理的温度(プラス又はマイナス30℃)を下回ることが特徴であるため、天然ゼラチンヒドロゲルは組織工学等の生体医学的用途には不向きである。生物医学用途に適しているためには、生理学的条件下でのゼラチンの安定性及び機械的特性を高めることが必要である。したがって、ゼラチンを架橋し、ゼラチンの安定性及び機械的特性を改善するための複数の戦略が出現している。現行の技術水準の架橋方法は、物理的、化学的及び酵素的の3つのカテゴリーに分けることができる。
【0003】
物理的架橋法は、典型的には、高エネルギー電子ビーム、ガンマ線照射、プラズマ処理、及び/又は熱脱水処理を含む。
【0004】
化学的方法としては、例えば、EDC/NHS、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ゲニピン及び/又は(メタ)アクリルアミドの使用が挙げられる。酵素的方法としては、例えば、微生物トランスグルタミナーゼ法が挙げられる。これらの方法の中で、化学架橋法は、ゼラチン高分子鎖間の共有結合の形成を提供し、これは、より安定なヒドロゲル及びより制御可能な機械的特性をもたらす。特に、光架橋戦略の使用は、これらの方法が、概してヒドロゲル内に細胞カプセル封入を可能にする比較的穏やかな条件を特徴とするため、特に関心が高い。さらに、ステレオリソグラフィ及び2光子重合(2PP)を含む或る特定の(高分解能)付加製造技術では、材料を構造化するために光架橋が必要である。既知の光架橋戦略は、概して、架橋機構に応じて2つの主要なカテゴリー、すなわち、鎖成長重合及び段階成長重合に大別することができる。
【0005】
歴史的には、光誘起ゼラチン架橋戦略の主要部分は、鎖成長重合(ラジカル媒介鎖成長光重合)を用いて行われる。この点でしばしば報告されるゼラチン誘導体は、ゼラチン-メタクリルアミド(Gel-MOD又はGel-MA)であり、ゼラチンの一級アミン基は架橋可能なメタクリルアミドをもたらすメタクリル無水物を用いて官能化されている。過去10年間、チオール-エン(フォト)クリックヒドロゲル等の段階成長チオール-エンヒドロゲルはますます関心を集めている。
【0006】
官能化ゼラチンの一般的な架橋は、それがin-vivo安定性を高め、機械的特性を改善することから、幾つかの用途において有利であるが、架橋ゼラチンは、膨潤後に得られる材料の粘度のため注入されるように適合されず(注射針を通して架橋されたゼラチンを投与することができない)、注入に適していない。
【0007】
現在、組織工学用途のための幾つかのタイプの官能化ゼラチンは、架橋される前に注入され、その後、in-vivoで架橋される、例えばチオール-エン化学修飾ゼラチンである。in-vivoでの架橋の可能性は、通常、例えば光開始剤のような重合を引き起こし、架橋を付与する反応性種の存在によって提供される。さらに、注射可能な安定なゼラチンベースの組成物は、in-vivoでフリーラジカルを含み、これは埋め込み後に活性酸素種の存在をもたらす。これらの反応性種は、細胞にとって有害であり得る。
【0008】
現在の他の注射剤は、今日、体温付近にLCST(低臨界溶液温度)を示すトリガー材料を用いた熱応答性ポリマーを使用する。これらの注射剤の場合、それらの合成は、それらの機械的性質及びそれらの分解時間に対するより少ない制御を提供し、したがって、必要に応じて容易に調整することができない。
【0009】
さらに、現行の技術水準の注射剤は、コラーゲンベースの充填剤を含む。これらの充填剤には幾つかの欠点がある。第一に、コラーゲンベースの充填剤は、物理的架橋が容易に切断されるという事実により、in-vivoで急速に分解する。第二に、注射後のアレルギー反応の症例が報告されている。コラーゲンから誘導されるゼラチンは、実施される過酷な抽出処理のためにコラーゲンより免疫原性が低く、その結果、ゼラチンは有害なアレルギー効果が有意に低くなる。
【0010】
ペプチドは、剪断減粘効果を示すため、注射用として使用することができる。しかしながら、これらの小鎖はin-vivoで速やかに分解されることがわかっている。
【0011】
さらに、ヒアルロン酸ベースの充填剤、例えば、Juvederm(商標)又はRestylane(商標)等の現行の技術水準の注射用充填剤は高価であり、細胞膜上のインテグリンとの相互作用により細胞生存率を促進する、アルギニン、グリシン、及びアスパラギン酸トリペプチドとしても知られるRGD配列を含有しない。一方、ゼラチンベースの充填剤は、上記RGD配列を含有するが、上述の不利益を伴わない場合、注射可能ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、この分野における進歩は、改良された官能化ゼラチンタイプ、並びに合成及び注入の方法を提供してきたにもかかわらず、現行の技術水準は、低侵襲性で構造的に安定な送達方法を可能にし、また上述の不利益も克服するゼラチン組成物を欠いている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、細胞送達のため、より侵襲性が低く、コスト効率が良く、構造的に安定な方法を可能にするゼラチン含有組成物を提供することである。本発明の更なる目的は、従来技術の欠点を回避する改質ゼラチンを提供することである。本発明の更なる目的は、制御可能な膨潤及び/又は吸水能を有するヒドロゲルを提供することである。本発明の更なる目的は、熱的及び化学的に安定なゼラチンベースの組成物を提供することである。さらに、本発明の目的は、特に高温での保存安定性が改善されたゼラチン組成物を提供することである。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、膨潤性組成物であって、膨潤前に架橋状態にあるゼラチンを含み、該膨潤性組成物が多粒子形態であり、破砕された非晶質形状を有するゼラチン粒子を含む、膨潤性組成物が提供される。
【0015】
本発明の一実施の形態によれば、上記粒子が、0.80までのWadellの平均球形度Φを有する。本発明の更なる実施の形態によれば、上記粒子が、0.20~0.80、好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する。
【0016】
さらに、本発明の一実施の形態によれば、上記多粒子形態は、約1.100からの平均球形度Sを有する粒子を含む。本発明の更なる実施の形態によれば、上記粒子は、約1.100~約1.500、好ましくは約1.200~約1.400の平均球形度Sを有する。
【0017】
本発明の更なる実施の形態によれば、上記粒子は少なくとも140の角張り度を有する。本発明の更なる実施の形態によれば、上記粒子は、140~950の角張り度を有する。本発明の更なる実施の形態によれば、上記粒子は、250~550、好ましくは300~500の平均角張り度を有する。
【0018】
特定の実施の形態においては、本発明のゼラチンが、上記架橋状態において架橋性官能基を有する少なくとも第1のポリマー鎖を含む。
【0019】
更なる特定の実施の形態においては、上記多粒子形態が、光学顕微鏡法で決定した場合、約0.1 μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~約1 mmの粒径を有する粒子を含む。
【0020】
更なる特定の実施の形態においては、上記架橋性官能基は、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、ノルボルネン、マレイミド、チオール、EDC、ゲニピン、グルタルアルデヒド、マレイミド、フルフリル、グリシジルメタクリレート、好ましくはメタクリルアミド、ノルボルネン、チオール及びそれらの組合せから選択される。
【0021】
更なる特定の実施の形態においては、ゼラチンは、合成ポリマー(例えばPEG)、多糖、組換え鎖、タンパク質、ペプチド、成長因子、及びそれらの組合せから選択される第2のポリマー鎖を更に含む。
【0022】
更なる特定の実施の形態においては、ゼラチンは、複数の第1及び/又は第2のポリマー鎖を含む。
【0023】
本発明の特定の実施の形態によれば、ゼラチンは約10%~100%の置換度を有する。
【0024】
本発明の特定の実施の形態によれば、ゼラチンは、約10%~100%、好ましくは25%~100%、より好ましくは40%~100%の架橋度を有する。
【0025】
第2の態様によれば、本発明は、本発明による膨潤性組成物と、少なくとも一種の膨潤物質とを含む、膨潤組成物を提供する。
【0026】
特定の実施の形態においては、膨潤組成物が、レオロジーで決定される場合、約0 Pa.s超~200 Pa.s、好ましくは10 Pa.s~150 Pa.s、より好ましくは20 Pa.s~120 Pa.sの粘度を有する。
【0027】
本発明の更なる実施の形態によれば、膨潤組成物は、約1000 Pa~約3000 Pa、好ましくは約1500 Pa~約2500 Paの貯蔵弾性率を有する。
【0028】
本発明の更なる態様によれば、ここに、膨潤性組成物を調製する方法であって、
(a)架橋性ゼラチンを提供する工程と、
(b)工程(a)のゼラチンを架橋して架橋ゼラチンを得る工程と、
(c)工程(b)で得た架橋ゼラチンを乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた乾燥ゼラチンを粉砕して、破砕された非晶質形状を有するゼラチン粒子を含む多粒子形態を得る工程と、
を含み、
それにより、本発明による他の実施の形態において規定される膨潤性組成物を得る、方法が提供される。
【0029】
本発明の一実施の形態においては、方法は、乾燥ゼラチンを粉砕する工程(d)を更に含み、それによって0.20~0.80、好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する粒子を得る。
【0030】
特定の実施の形態においては、方法は、(f)工程(e)で得られた膨潤組成物に、(幹)細胞、薬学的活性化合物、若しくは成長因子、又はそれらの組合せから選択される成分を添加する工程を更に含む。
【0031】
更なる特定の実施の形態においては、工程(b)において、ゼラチンは、フィルム若しくはシートの形態で架橋されるか、又は架橋をバルクで行うことができる。
【0032】
本発明の更なる実施の形態によれば、工程(c)において、架橋ゼラチンは、空気乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥の技術の非排他的なリストから選択される方法を用いて乾燥される。本発明による好ましい実施の形態においては、架橋ゼラチンが凍結乾燥される。
【0033】
更なる特定の実施の形態においては、工程(d)は、液体窒素の存在下で実施される。
【0034】
更なる特定の実施形態においては、工程(d)において、架橋されたゼラチンは、約0.1 μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~1 mmの粒径まで粉砕される。
【0035】
更なる態様においては、本発明は、ヒト及び/又は獣医学における使用のための他の関連した実施の形態に従って規定される膨潤性組成物、又は他の関連した実施の形態に従って規定される膨潤組成物を提供する。
【0036】
更なる態様においては、本発明は、本発明に従って規定される膨潤性組成物、又は本発明に従って規定される膨潤組成物の食品産業、化粧品における使用を提供する。
【0037】
特定の実施の形態においては、本発明は、本発明に従って規定される膨潤性組成物、又は本発明に従って規定される膨潤組成物の薬物送達及び/又は細胞送達における使用、及び/又は成長因子送達としての使用を提供する。
【0038】
更なる特定の実施の形態においては、本発明は、本発明に従って規定される膨潤性組成物、又は本発明に従って規定される膨潤組成物の化粧用充填剤としての使用を提供する。
【0039】
更なる特定の実施の形態においては、本発明は、本発明に従って規定される膨潤性組成物、又は本発明に従って規定される膨潤組成物のクリーム又は軟膏の調製におけるゲル化剤又は増粘剤としての使用を提供する。
【0040】
更なる特定の実施の形態においては、本発明は、本発明に従って規定される膨潤性組成物、又は本発明に従って規定される膨潤組成物の細胞外マトリックス模倣物としての使用を提供する。
【0041】
更なる特定の実施の形態においては、本発明は、限定されるものではないが、審美的処置、大容量組織再建、少容量組織再建、脂肪移植、リポフィリング、熱傷、歯科用途、軟骨及び骨組織工学、軟部組織工学、例えば、脂肪、脊椎、心臓等の組織工学、筋肉及び腱組織工学等の組織工学用途における組成物としての本発明に従って規定される膨潤性組成物又は本発明に従って規定される膨潤組成物の使用を提供する。
【0042】
これより図面を具体的に参照するが、示される項目は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】図面1は
図1とも略記され、本発明による膨潤組成物の機械的強度の測定値と、それらがJuvederm(商標)とどのように比較されるかを示す図である。
【
図2】図面2は
図2とも略記され、本発明による膨潤組成物の細胞生存率の測定値と、それらがJuvederm(商標)とどのように比較されるかのグラフを示す図である。
【
図3】図面3は
図3とも略記され、本発明による膨潤性ゼラチン粒子の倍率495倍で得られた2つのSEM像を示す図である。
【
図4】図面4は
図4とも略記され、本発明による膨潤性ゼラチン粒子(左)及び膨潤ゼラチン粒子(右)の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図5】図面5は
図5とも略記され、油中水エマルジョンを用い、その後の架橋によって得られた、本発明によらない膨潤性ゼラチン粒子の光学顕微鏡像を示す図である。
図5で得られた粒子は、特徴的な球形を有する。これは、非球形である本発明の粒子の形状とは対照的である。
【
図6】図面6は
図6とも略記され、室温(RT)と冷蔵(6℃~8℃)で粘度を比較した、種々の時点における本発明による膨潤したゼラチン粒子の粘度測定の結果を示す図である。
【
図7】図面7Aは
図7Aとも略記され、本発明による細胞と組み合わされた膨潤した組成物のin vivo試験の結果を示す図である。図面7Bは
図7Bとも略記され、細胞と組み合わされたJuvederm(商標)のin vivo試験の結果を示す図である。
【
図8】図面8は
図8とも略記され、球形を有する膨潤性ゼラチン粒子(
図5に示される)(説明文では球(黒)として参照される)と比較した、本発明による膨潤ゼラチン粒子(説明文では粒子(薄い灰色)として参照される)の貯蔵弾性率測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
ここで、本発明について更に説明する。以下の節では、本発明の異なる態様をより詳細に規定する。このように規定された各態様は、特段の明確な指示がない限り、任意の他の態様(単数又は複数)と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であるとして示される任意の特徴は、好ましい又は有利であるとして示される任意の他の特徴(単数又は複数)と組み合わせることができる。本発明の化合物を記載する場合、使用される用語は、文脈が別段の指示をしない限り、以下の規定に従って解釈されるものとする。本明細書で使用される場合、「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語は、パラメータ、量、持続時間等の測定可能な値を参照する場合、開示された発明において実施するのに適切である限り、明示される値の+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、更により好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する。修飾語句「約」又は「およそ」が参照する値は、それ自体も具体的に、好ましくは開示されていることを理解されたい。明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の参照を含む。例として、「化合物(a compound)」は、1つの化合物又は2つ以上の化合物を意味する。
【0045】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「膨潤性組成物」という用語を用いて、膨潤物質、例えば水、血漿等の液体を吸収することによってその体積を増加させることができる組成物を指す。
【0046】
本発明の文脈において、「破砕された非晶質形状」という用語を用いて、粒子又は複数の粒子の形状に言及する場合、明確に規定された形態を持たない形状、すなわち、非晶質を指し、これは粉砕又は破砕された材料に特徴的である。粉砕又は破砕された材料は、面及びエッジの存在を特徴とする。本発明の文脈において、「破砕された非晶質形状」という用語は、粉砕又は破砕によっては得られない球形又は楕円形を除外すると理解されたい。
【0047】
本発明の文脈では、「球形度」という用語を用いて、粒子、この場合はゼラチン粒子の形状を完全な球体の形状と比較する方法を説明する特性を指す。粒子の球形度は、球形度S及びWadellの球形度Φ等の様々な方法で計算することができる。
【0048】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、「球形度S」という用語を用いて、粒子の形状を完全な球体の形状と比較する方法を説明する特性を指し、ここで、完全な球体は球形度Sが1に等しい。粒子の球状度Sは、横軸/縦軸の比率として規定され、縦軸≦横軸であり、最大粒径を横軸と規定し、縦軸は横軸から90度回転した位置の直径である。本発明によれば、横軸及び縦軸は、上記粒子のSEM像に基づいて測定されている。
【0049】
本発明の文脈において、「Wadellの球形度Φ」という用語を用いて、粒子の形状を完全な球体の形状と比較する方法を説明する特性を指し、ここで、完全な球体はWadellの球形度Φが1に等しい。Wadellの球形度は次のように規定される:
【数1】
(Wadell, 1935に記載されるように、式中、d
cは最大内接円の直径を表し、D
cは最小外接円の直径を表す)。
【0050】
本発明の文脈では、「角張り度」という用語を用いて、研究対象の粒子の角における真円度の変化を説明するパラメータを指す。
【0051】
本発明の文脈では、「粉砕する、粉砕すること」という用語を用いて、何かを破砕することによって小さな粒子又は粉末まで小さくすることを指す。
【0052】
本発明の文脈では、本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、「膨潤組成物」という用語を用いて、膨潤物質、例えば水、血漿、緩衝液等の液体の吸収の結果としてその体積を増加させた組成物を指す。
【0053】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「ゼラチン」という用語を用いて、通常、コラーゲン、例えば、哺乳動物及び魚のコラーゲン又は組換えゼラチンの加水分解によって得られる生体材料を指す。
【0054】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「架橋状態」という用語を用いて、化学結合等を介する、ゼラチンポリマー鎖間の(共有結合による)相互作用の存在を特徴とする状態を指す。言い換えれば、架橋されたゼラチンを指す。
【0055】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「多粒子形態」という用語を用いて、多数の粒子を含む形態を指す。
【0056】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「粒径」という用語を用いて、多粒子形態の本発明による組成物を構成する個々の粒子の平均サイズを指し、粒径は、次いで、より正確に粉砕粒子を特定することができるふるい分けプロセス等によって計算される。これは、SEMイメージング又はμCTに基づいて定量化することもできる。
【0057】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「架橋性官能基」という用語を用いて、別のポリマー鎖との相互作用を提供することができるポリマー鎖上の官能基の状態を指す。例えば、本発明による架橋性官能基は、限定されるものではないが、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、ノルボルネン、マレイミド、チオール、EDC、ゲニピン、グルタルアルデヒド、マレイミド、フルフリル、グリシジルメタクリレート、好ましくはメタクリルアミド、ノルボルネン、チオール及びそれらの組合せである。
【0058】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「水分含量」という用語を用いて、重量/体積%で表される水の含有量を指し、これは、パーセンテージで表される、総試料体積に対する水の重量を意味する。
【0059】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「置換度」という用語を用いて、ゼラチン骨格上の架橋可能な部分/官能基の量を指す。この量は、1H-NMR分光法、OPAアッセイ、又はニンヒドリンアッセイを介して計算することができる。ゼラチン骨格上の架橋可能な部分/官能基の量は、J. Van Hoorick et al., 2018、A.I. Van Den Bulcke et al., 2000、又はS. Van Vlierberghe et al., 2011に記載されているように計算することができる。
【0060】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「架橋度」という用語を用いて、S. Van Vlierberghe et al., 2010に記載されているように、HRMAS NMRスペクトロスコピーアッセイを介して評定することができるゼラチン骨格上の架橋部分の量を指す。
【0061】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、「膨潤物質」という用語を用いて、本発明による膨潤性組成物の体積を、物質の吸収によって増加させることができる該物質を指す。例えば、本発明による膨潤物質は、限定されるものではないが、水、血清、脂質吸引物、静脈内輸液、NaCl溶液、グルコース溶液、ハルトマン(Hartmann)溶液、幹細胞溶液、血漿、緩衝液(DMEM、HEPES等)、及びそれらの組合せである。
【0062】
本発明は、膨潤性組成物が、膨潤前に架橋状態にあるゼラチンを含み、該膨潤性組成物が多粒子形態であり、破砕された非晶質形状を有するゼラチン粒子、すなわち明確に規定されていない形状又は形態を有する粒子を含む膨潤性組成物を提供する。本発明によるゼラチン粒子は、エッジ、面、及び/又は不規則性を有する、破砕されたガラス又は粉砕された石等の破砕材料に適した形状を有する。驚くべきことに、本発明は、現行の技術水準と比較して、有利な特性を有する膨潤性組成物を提供し、より具体的には、安定であり、膨潤後に改善された注入性を提供することが見出された。特に、本発明による膨潤性粒子は、その形状により、よりコヒーレントなゲル(膨潤組成物)を提供する。本発明の膨潤性粒子から得られる、本発明による膨潤粒子は、球状/楕円体の粒子と比較して、より高い外部摩擦力を提供し、その結果、剪断変形に対する抵抗が大きく、粘度が高いと考えられる。さらに、より粗い表面及び/又はエッジの存在は、細胞接着及び増殖を改善する。これは、球に似た形状を有し、上述した利点をもたらさない、現行の技術水準の膨潤性粒子及び膨潤粒子とは対照的である。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明による膨潤性組成物中のゼラチン粒子は、破砕された非晶質形状を有し、Wadellの平均球形度Φは1未満、好ましくは0.95未満、好ましくは0.90未満、好ましくは0.85未満、好ましくは0.80未満、好ましくは0.75未満、好ましくは0.70未満、好ましくは0.60未満、好ましくは0.55未満である。
【0063】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記粒子が、0.80までのWadellの平均球形度Φを有する。驚くべきことに、本実施形態によるゼラチン粒子を提供することにより、現行の技術水準と比べて膨潤後の良好な注入性を提供できることがわかった。本発明の実施形態によれば、該粒子は、0.20~0.80、好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する。驚くべきことに、本実施形態によるゼラチン粒子を提供することにより、膨潤後により良好な注入性を提供できることがわかった。
【0064】
さらに、本発明の実施形態によれば、上記多粒子形態は、約1.100、好ましくは約1.100~約1.500、好ましくは約1.200~約1.400の平均球形度Sを有する粒子を含む。驚くべきことに、本実施形態によるゼラチン粒子を提供することにより、膨潤後により良好な注入性を提供できることがわかった。
【0065】
本発明の更なる実施形態によれば、上記粒子は約140の角張り度を有する。
【0066】
言い換えれば、本発明は、架橋ゼラチンを含む多粒子膨潤性組成物を提供する。さらに、本発明による膨潤性組成物は、完全に乾燥してもよく、最終膨潤性組成物は、約0重量/体積%の水分含量を有することを意味する。本発明による膨潤性組成物の利点は、それが安定であり、膨潤性組成物が膨潤物質と接触すると、シリンジからの引き抜きを容易にする濃さ及び粘度を有する膨潤組成物を提供すること、言い換えれば、その適切な量をより容易に注入できるように、針を通過できる膨潤組成物を提供すること、言い換えれば、本発明による膨潤組成物及び膨潤性組成物は、改善された注入性を提供する。例えば、針の直径が21 G~30 Gの場合、本発明による膨潤性組成物は、注射を容易にするための正しい粘度を得るために、水の5重量/体積%~15重量/体積%のいずれかに溶解することができる。しかしながら、当業者は、意図された用途及び/又は想定される粘度に応じて、組成物について理想的な水分含量を決定することができる。
【0067】
さらに、本発明による膨潤性組成物は、乾燥した多粒子形態であり、したがって、食品産業、化粧品、ヒト及び/又は獣医学における特定の用途のニーズに適合するように選択することができる膨潤物質との単なる接触を必要とすることから、容易に貯蔵でき、また容易に使用することができる。したがって、本発明による膨潤性組成物は、労働集約的な使用及び/又は投与を提供しない、すぐに使用できる組成物である。本発明による膨潤性組成物は、特に高温で改善された貯蔵安定性を提供する。膨潤性組成物が膨潤後に注射される場合、本発明による膨潤性組成物は、注射前に組成物が既に架橋されているため、in-vivo重合工程を必要としない。これは、反応性が高く、及び/又はラジカル種がin-vivoではなく、制御されたex-vivo環境でのみ存在するため、組成物の安全上の懸念を制限する。例えば、UV開始剤と共にUV照射を用いてゼラチン組成物をin-vivoで架橋する場合、架橋された組成物は、細胞に有害なフリーラジカル(酸素ラジカル)を含有し得る。さらに、本発明による膨潤組成物は、37℃で完全に安定であり、時間の経過に伴う材料の遅く、より制御された分解を可能にする。さらに、架橋状態は、幾つかの本発明による架橋組成物が約0℃~70℃の水に溶けない状態であることが観察された。
【0068】
さらに、本発明による膨潤性組成物は、骨格として作用するゼラチンを含む。ゼラチンは、細胞膜上のインテグリンとの相互作用により細胞生存率を促進する、アルギニン、グリシン、及びアスパラギン酸トリペプチドとしても知られるRGD配列を含む低コストの天然骨格を有する。
【0069】
本発明による膨潤性組成物の更なる利点は、微粒子が膨潤によりヒドロゲルとして作用し、全ての栄養素を細胞に与えるためのin-vivo支持体に理想的なものとすることである。本発明の特定の実施形態によれば、上記多粒子形態は、約0.1 μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~約1 mmの粒径を有する粒子を含む。本粒径は、容易に注入することができる膨潤組成物を提供する上で有利であることが見出された。さらに、粒径が1 μm~200 μm程度と小さく、膨潤がより速い/容易である。例えば、30 G針のような小さな針を通して膨潤組成物の注入性を提供するために、膨潤性組成物の粒径は、少なくとも150 μm、好ましくは少なくとも100 μmに調節されることが好ましい。
【0070】
膨潤性組成物が提供される架橋状態は、物理的架橋、化学的架橋及び酵素的架橋等の、現行の技術水準の一部である様々な技術によって得ることができる。物理的架橋法としては、エネルギー電子ビーム、ガンマ線照射、プラズマ処理及び熱脱水処理が挙げられ、一方、化学的架橋法としては、EDC、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ゲニピン及びアクリルアミド等が挙げられる。酵素的方法としては、微生物トランスグルタミナーゼ法が挙げられる。これらの方法の中でも特に光架橋戦略の使用が好ましい。
【0071】
本発明の特定の実施形態によれば、ゼラチンは置換度を有し、これは、例えば、上述の方法を介して、約10%~100%まで計算/測定することができる。
【0072】
本発明の特定の実施形態によれば、ゼラチンは架橋度を有し、これは、例えば、上述の方法を介して、約10%~100%、好ましくは25%~100%、より好ましくは40%~100%まで計算/測定することができる。
【0073】
本発明の好ましい実施形態においては、ゼラチンは、上記架橋状態で架橋性官能基を有する少なくとも第1のポリマー鎖を含む。上記少なくとも第1のポリマー鎖は、膨潤した最終組成物の機械的安定性を高めることができる。メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、ノルボルネン、マレイミド、チオール、EDC、ゲニピン、グルタルアルデヒド、マレイミド、フルフリル、グリシジルメタクリレート、好ましくはメタクリルアミド、ノルボルネン、チオール及びそれらの組み合わせから選択されるもの等の架橋性官能基の使用は、ポリマー鎖間の相互作用を提供することができる。本発明による組成物のゼラチン骨格は、経時的にゆっくりと分解し、より安定なヒドロゲル及びより制御可能な機械的特性を達成することができる。
【0074】
本発明の実施形態によれば、膨潤組成物及び/又は膨潤性組成物は、メタクリルアミド及びノルボルネンである架橋性官能基を含むゼラチンを含む。
【0075】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、膨潤組成物及び/又は膨潤性組成物は、架橋性官能基がメタクリルアミド及びノルボルネンであるゼラチンを含み、ゼラチンは、約66%のメタクリルアミド及び34%のノルボルネンの置換度を有する。
【0076】
さらに、本発明の一実施形態によれば、膨潤組成物及び/又は膨潤性組成物は、架橋性官能基がメタクリルアミド及びノルボルネンであるゼラチンを含み、ゼラチンは、約39%のメタクリルアミド及び61%のノルボルネンの置換度を有する。
【0077】
本発明の更なる実施形態によれば、ゼラチンは、合成ポリマー(例えばPEG)、多糖、タンパク質、ペプチド、成長因子、及びそれらの組合せから選択される少なくとも第2のポリマー鎖を更に含む。更なる実施形態においては、ゼラチンは、複数の第1及び/又は第2のポリマー鎖を含む。本実施形態は、膨潤性組成物の機械的特性の更なる同調性を可能にし、特定の用途により適するように設計することができる。さらに、分解性、機械的強度及び膨潤特性は、いずれも、必要に応じて、上記鎖に付着したポリマー鎖の種類及び官能基の最も適切な組合せを選択することにより、組成物の材料を調整することによって、改善され得るか、又は設定され得る。例えば、粒子がin-vivoで反応するために必要とされる場合、ゼラチンは、例えば、粒子が、例えば血漿中に存在するチオール化された化合物を介してin-vivoで反応することができるようにノルボルネン基を付加することによって修飾することができる。さらに、本発明によれば、膨潤性組成物の提案された材料は、膨潤組成物がECM中に存在するマトリックスメタロプロテイナーゼを介してin-vivoで分解可能であるように提供することができる。
【0078】
更なる態様によれば、本発明は、先の実施形態のいずれか1つによる膨潤性組成物を膨潤させることによって提供される膨潤組成物にも関する。したがって、本発明は、膨潤性組成物及び膨潤物質を含む膨潤組成物を提供する。特に、注射に適した膨潤組成物。本発明による膨潤組成物は、Juvederm(商標)と同様の機械的強度を提供する。さらに、本発明の膨潤組成物は、必要に応じて更に高い機械的強度、及びカプセル化された細胞の改善された生存率を達成するように調整することができる。
【0079】
本発明の一実施形態によれば、膨潤組成物が、約0 Pa s超~200 Pa s、好ましくは10 Pa s~150 Pa s、より好ましくは20 Pa s~120 Pa sの粘度を有する。
【0080】
本発明の更なる実施形態によれば、膨潤組成物は、約1000 Pa~約3000 Pa、好ましくは約1500 Pa~約2500 Paの貯蔵弾性率を有する。
【0081】
本発明の一実施形態によれば、膨潤性組成物を膨潤物質と接触させて膨潤組成物を提供することができ、膨潤物質は、水、血清、脂質吸引物、静脈内輸液、NaCl溶液、グルコース溶液、ハルトマン溶液、幹細胞溶液、血漿、緩衝液(DMEM、HEPES等)、及びそれらの組合せから選択することができる。好ましくは、脂肪吸引物である。
【0082】
更なる態様によれば、本発明は、(a)架橋可能なゼラチンを提供する工程を含む、膨潤性組成物及び/又は膨潤組成物の調製方法を提供する。この工程では、ゼラチンは、例えば、架橋性官能基を含むように修飾されてもよく、又は既に修飾されて提供されてもよく、実際には、架橋性官能基は、化学的、物理的又は酵素的な架橋方法によって架橋され得る任意の官能基であってもよい。好ましくは、ゼラチンは、化学的に架橋されたフィルムを得ることができるように修飾される。より良い膨潤能力を達成するために、本発明の特定の実施形態においては、工程(a)のゼラチンは、約1重量/体積%~40重量/体積%、好ましくは2重量/体積%~30重量/体積%、より好ましくは5重量/体積%~25重量/体積%の水分含量を有する。本実施形態による水分含量は、後により良好な膨潤能力を提供することがわかった。さらに、重量/体積%が高いほど、ゼラチンを水に完全に溶解させることが困難であることがわかっており、その後の架橋を効率的に行うためには、もちろん十分に溶解させる必要がある。
【0083】
更なる工程は、(b)工程(a)のゼラチンを架橋して架橋ゼラチンを得る工程であり、この工程では、ゼラチン鎖間の相互作用を得るために最も適切な方法によってゼラチンを架橋する。化学的架橋法が好ましい。好ましくは、例えば様々な架橋性官能基及びポリマー鎖を有する種々のタイプの出発材料と共に、鎖成長重合及び段階成長重合の両方の方法論を使用することができる。或いは、既に架橋されたゼラチンを提供することもできる。UV照射を用いた化学的架橋法の場合、光開始剤を含む架橋のための出発材料の2Dシートを作製し、次いで、高分子材料を架橋するために2DシートにUV光を照射し、したがって架橋ゼラチンを得ることが好ましいことがわかった。本発明の更なる実施形態によれば、上記方法は、工程(b)において、工程(a)で提供されるゼラチンが、好ましくはフィルム又はシートの形態で架橋されることを更に含む。それにもかかわらず、他の形状を使用することもできる。例えば、架橋は、ゼラチンが例えばフラスコ内にあるようなバルクで行うことができる。出発材料の組成は、異なる重合技術を使用するか、又はゼラチンの置換度を変えることによって調整することができ、その結果、本発明による膨潤性組成物及び膨潤組成物は、特定の求められる特性を有する。
【0084】
更なる工程は、(c)工程(b)で得られた架橋ゼラチンを乾燥する工程である。本発明の更なる実施形態によれば、工程(c)において、架橋ゼラチンは、真空乾燥、空気乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥の技術の非排他的なリストから選択される方法を用いて乾燥される。架橋ゼラチンを噴霧乾燥する場合は、粒子形成工程が必要となる。本発明による好ましい実施形態によれば、架橋ゼラチンが凍結乾燥される。
【0085】
さらに、本発明による方法は、(d)工程(c)において得られた乾燥ゼラチンを粉砕して、Wadellの平均球形度Φが最大0.80、好ましくは0.20~0.80、より好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60であるゼラチン粒子を有する多粒子形態を得ることにより、本発明の先の実施形態のいずれか1つに従って規定された膨潤性組成物を得る工程を提供する。
【0086】
本粉砕は、所望の粒子径が達成されるまで行われるように提供される。有利な実施形態においては、液体窒素を乾燥した架橋ゼラチン上に注ぎ、脆性材料を得て、次いで、それを容易に粉砕することができる。粉砕工程(d)は、液体窒素の存在下又は不在下で行われ得る。
【0087】
膨潤性組成物及び/又は膨潤組成物の本調製方法により、非球形粒子を特徴とする多粒子形態を達成することができる。現行の技術水準の他の方法とは対照的に、本発明による方法は、膨潤後の注入性を改善する架橋ゼラチン粒子を得ることを可能にする。
【0088】
本発明の一実施形態によれば、工程(d)において、乾燥ゼラチンは、約0.1 μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~1 mmの粒径まで粉砕される。この粒径は、膨潤組成物の投与を容易にするため有利である。本発明の特定の実施形態によれば、上記方法は、粉砕工程(d)が液体窒素の存在下で行われることを更に含む。
【0089】
粉砕工程後、本発明による膨潤性組成物が得られる。膨潤性組成物は、多粒子形態であり、細胞の有無にかかわらず、直ちに使用することができ、又は使用前に貯蔵することができる(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、蒸留H2O、自己血漿、脂肪吸引物等)。
【0090】
本発明の実施形態によれば、膨潤組成物を作製する方法をここに提供し、本発明による膨潤性組成物を得る方法は、更に、(e)工程(d)で得られた上記膨潤性組成物に膨潤物質を添加し、それにより膨潤組成物を得る工程を提供する。特定の実施形態においては、膨潤物質は、限定されるものではないが、水、血清、脂質吸引物、静脈内輸液、NaCl溶液、グルコース溶液、ハルトマン溶液、幹細胞溶液、血漿、緩衝液(DMEM、HEPES等)、及びそれらの組合せを含む本リストから選択することができる。好ましくは、膨潤物質は脂肪吸引物である。
【0091】
本発明の一実施形態によれば、上記方法は、工程(e)で得られた膨潤組成物に、限定されるものではないが、幹細胞、間質血管画分又はそれらの組合せから選択される成分を添加する工程(f)を更に含む。特定の機能を実施するために、本発明に従って、例えば注入前に膨潤組成物に種々の成分を添加することができる。例えば、別々に添加しなければならない最も顕著な成分は、膨潤物質の後に膨潤組成物中に導入することができる。例えば、膨潤が生じた後に、間質血管画分を加えることができる。
【0092】
本発明の更なる態様によれば、限定されるものではないが、食品産業、化粧品産業、ヒト及び/又は獣医学等において、先の実施形態のいずれか1つに規定される膨潤性組成物及び/又はそれから得られる膨潤組成物の使用が提供される。
【0093】
特定の実施形態においては、ヒト及び/又は獣医学において、膨潤性組成物及び/又はそれに由来する膨潤組成物の使用は、薬物送達及び/又は細胞送達のためであり得るが、化粧用充填剤のような充填剤としてもあり得る。本発明の更なる特定の実施形態においては、本明細書に記載される膨潤性組成物及び/又はそれに由来する膨潤組成物は、クリーム又は軟膏の調製におけるゲル化剤又は増粘剤として、例えば、食品産業においてアルギン酸塩代替物として、又は化粧品産業において、クリーム若しくは軟膏の調製において、それらに関して可能性のある用途を網羅することを意図せずに使用することができる。
【0094】
本発明の好ましい実施形態によれば、膨潤性組成物及び/又はそれに由来する膨潤組成物は、細胞外マトリックス模倣物として使用される。
【0095】
本発明の更なる実施形態によれば、ここに、審美的処置、大容量組織再建、少容量組織再建、脂肪移植、リポフィリング、熱傷、歯科用途、軟骨及び骨組織工学、軟部組織工学(脂肪、脊椎、心臓等)、筋肉及び腱組織工学等の組織工学用途における組成物としての膨潤性組成物及び/又はそれに由来する膨潤組成物の使用が提供される。
【実施例】
【0096】
実験部分
材料及び方法
ウシの皮膚からアルカリ処理により分離されたゼラチンBタイプ(Gel-B)は、Rousselot(ベルギー国ヘント)によって供給された。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-アセチルホモシステインチオラクトン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、5-ノルボルネン-2-カルボン酸及び無水メタクリル酸を、Sigma-Aldrich(ベルギー国ディーゲム)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)をAcros(ベルギー国ヘール)から得た。Spectrapor透析膜MWCO 12000~14000 DaをPolylab(ベルギー国アントワープ)から購入した。Dulbeccoの改変イーグル培地(DMEM)Glutamax、胎児ウシ血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、及びTrypLE(0.025トリプシン及び0.01 EDTAからなる)を、Gibco, Life technologies(米国カリフォルニア州)から入手した。カルセイン-アセトキシメチルエステル(Calcein-AM)、ヨウ化プロピジウム(PI)、及びBodipyの染色は、Sigma-Aldrichによって供給された。
【0097】
機器:凍結乾燥機:Christ freeze-dryer alpha I-5;NMR:A Bruker WH 500 MHz
【0098】
GelMODNBの合成
本実施例によれば、低い及び高い置換度を有するGELMODNBポリマーの合成が記載され、特に、DS 39/61及びGELMODNB DS 66/34(比はメタクリルアミド/ノルボルネンである)を有するGELMODNBポリマーが記載される。
【0099】
第一段階では、Van den Bulcke et al., 2000.によって最初に報告されたプロトコルによりゼラチンをメタクリル化する。
【化1】
ゼラチン
1時間、pH7.8
【0100】
100 gのゼラチンB(38.5 mmolアミン)を、機械的撹拌下、40℃で1 Lリン酸緩衝液に溶解した。次に、ゼラチンの第一級アミンに対して1(5.736 mL;38.5 mmol)又は0.75(4.302 mL;28.875 mmol)当量のいずれかのメタクリル酸無水物を添加し、その後、溶液を1時間激しく撹拌した。1時間後、1 LのMilli-Qを反応混合物に添加した。溶液を、Milli-RO(spectrapor 4:12 kDa~14 kDaカットオフ)を用いて、40℃で24時間透析した(水を5回交換)。次いで、溶液を室温でペトリ皿に移し、ゼラチンをゲル化させた。ゲル化されると、ペトリ皿を-20℃で凍結し、その後、凍結乾燥により氷を取り除くことができ、60%~70%の間の置換度を有する修飾ゼラチンを得た。
【0101】
次に、乾燥GelMODを、ノルボルネン官能基を残りの遊離アミンに付加する次の工程に使用した。この目的のため、1.2当量(ゼラチンBタイプ中の第一級アミンに対する)の5-ノルボルネン-2-カルボン酸を、室温で50 mlのDMSOに溶解した(J. Van Hoorick et al., 2018を参照されたい)。完全に溶解した後、0.75当量(ゼラチン中に存在するアミン量に対する)の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を溶液に加え、続いて脱気した。5分後、1.125当量のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を溶液に加えた。25時間の反応の後、活性化溶液をGelMOD溶液(下記参照)に加え、一晩反応させ、このようにしてGelMODNBを得た。GelMOD溶液を得るため、不活性雰囲気及び還流条件下、50℃で150 mlの乾燥DMSO中に4時間、10 gのGelMODを溶解した。活性化溶液をGelMODに添加した後、セットアップを3回脱気し、アルゴン雰囲気下に置いた。反応が完了すると、GelMODNBが得られた。材料を10倍過剰のアセトン中に沈殿させ、孔径12 μm~15 μmのペーパーフィルタ上で濾過した。アセトンで洗浄し、milliQに再溶解し、透析を行った(spectrapor 4:12 kDa~14 kDaカットオフ)。水を24時間にわたって5回交換した。透析後、1M NaOH溶液を用いて溶液のpHを7.4に調整し、溶液を透徹させた。次に、この材料を凍結し、凍結乾燥して、水を除去した(Christ凍結乾燥機αI-5)。昇華により材料内部の氷結晶を除去するために、凍結乾燥機内の圧力と温度をそれぞれ0.37 mbar及び-80℃に低減した。
【0102】
異なる置換度を有するGelMODNBは、必要に応じて、上記の手順を適用して、無水メタクリル酸及び/又は5-ノルボルネン-2-カルボン酸及び他の試薬の等価物を変更することによって得ることができる。
【0103】
GelMODNBの特性評価
ノルボルネン及びメタクリルアミド官能基を有するゼラチンの第一級アミン置換度(DS)は、J. Van Hoorick et al., 2018、及びVan Den Bulcke et al., 2000に記載されている方法に従って、1H NMR分光法により定量した。40℃で溶媒として重水素酸化物(D2O)を用い、Bruker WH 500MHzを使用した。
【0104】
GelMODNB粉末
まず、上記の合成材料の10重量/体積%溶液を、40℃のmilliQ中、バイアル内で溶解した。完全に溶解した後、0.6 mmolの光開始剤(リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート;Li-TPO)を添加した。次いで、材料を2枚のガラス板の間に置き、1 mmのスペーサーで分離し、UV-A(+/-9.5 mW/cm2)光の下に30分間置いた。したがって、総UV-A線量は17.1 J/cm2である。UV硬化後、試料を凍結し、続いて凍結乾燥し、所望の粒径1 μm~150 μmまで試料を粉砕した。粉砕工程では、液体窒素を用いて材料をより脆くする。
【0105】
機械的分析
レオメータ(Physica MCR-301;Anton Paar、ベルギー国シント・マルテンス・ラーテム)を用いて、材料の弾性特性を示す貯蔵弾性率(G')を決定した。粉末の10重量/体積%溶液を、milliQ水を用いて作製した。材料をJuvederm(商標)に対してベンチマークした。この溶液300 μLを、0.3 mmのギャップ設定を用いてプレートの間に入れた。次いで、エッジをトリミングし、試料の乾燥を防止するためにシリコングリース(Mittelviskos)(Bayer、Sigma-Aldrich、ベルギー国ディーゲム)を用いて密封した。機械的強度を決定するため、1 Hzの振動周波数及び0.1%の歪を適用し、後者の値は、一定の周波数(1 Hz)と変動する歪(0.01%~10%)での変形の関数として、貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G'')の等温測定(37℃)によって決定される線形粘弾性範囲内にある。
【0106】
細胞カプセル化実験
脂肪吸引物から単離したヒト脂肪間質細胞、すなわちASCを細胞カプセル化実験に用いた。この目的のため、この材料を10重量/体積%で滅菌PBS中において膨潤させた。細胞カプセル化は、膨潤性組成物をASCと10000細胞/100 μLの密度で混合することによって行った。96ウェルプレートを用いて、100 μLの材料を注入し、そこに追加の100 μLの培地を加えた。この材料を、Juvederm(商標)及び組織培養プラスチック(TCP)にベンチマークし、TCPではそれぞれ10000細胞が100 μLの材料中に取り込まれるか、又はウェルプレート上に直接播種された。ウェルプレートを、37℃のインキュベーター中、5%CO2の存在下に置いた。
【0107】
分化アッセイでは、48時間後に基礎培養培地(DMEM、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)を脂肪生成分化培地(DMEM、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1 lMデキサメタゾン、200 lMインドメタシン、10 lg/mLインスリン、0.5 mM IBMX)に置き換えた。培地を2日~3日毎に新しくした。
【0108】
生/死細胞生存率アッセイ
上記で得られたカプセル化材料の細胞適合性を、カルセインアセトキシメチルエステル(Calcein-AM)染色及びヨウ化プロピジウム(PI)染色を用いた生/死生存率アッセイにより試験した。1 mLのPBS毎に、2 μlのカルセイン-AM及び2 μlのPIを添加した。96ウェルプレートを使用し、0.15 mLの溶液を各ウェルに加えた。ウェルを、アルミニウム箔の下に室温で10分間置くことにより、暗所でインキュベートした。生細胞を可視化するために、カルセインの緑色蛍光蛋白質(GFP)フィルタを備えた蛍光顕微鏡を用いた。テキサスレッド(TxRed)フィルタを適用し、PIを用いて死細胞を可視化した。生死比の定量化は、ImageJソフトウェアにより実現し、生死細胞の両方の細胞計数を可能にした。細胞生存率アッセイに関連して得られたグラフの結果を
図2に示す。
【0109】
脂肪生成分化
まず、Bodipy(493/503)色素0.5 mg/mL(1.9 mM)のストック溶液をエタノール(100%)中で作製した。Bodipyを完全に溶解した後、ストック溶液をEppendorf管に保管し、凍結し、遮光した。ストック溶液を含むEppendorfバイアルを融解し、1 mLの無血清培地に12 mLを溶解することにより、蛍光染色を行った。この溶液を激しく混合することにより機械的に乳化した。細胞のBodipy染色は、この材料を含む96ウェルプレート中の75 μLの新鮮培地に75 μL mLのBodipy溶液を加え、15分間インキュベートすることによって実現した。GFPフィルタを用いた蛍光顕微鏡によりイメージングを実施した。
【0110】
SEMイメージング
ゼラチン粒子の形態を、Phenom FEI(タングステンヘアピン電子銃、後方散乱電子検出器)走査電子顕微鏡を用いて得た。試料の帯電を避けるため、測定前に試料表面に金被覆プラズママグネトロンスパッタ被覆を施した(RV3二段ロータリーベーンポンプ付き自動Sputter Coater K550X)。
【0111】
球形度及び角張り度
球形度の計算は、得られたSEM像に対してImageJソフトウェアを用いて行った。このため、最大粒径と90度回転した位置での粒径を測定することにより、球形度Sを計算した。粒子の球状度Sは、縦軸/縦軸の比率として規定され、縦軸≦横軸である。
【0112】
Wadellの球形度Φは、ソフトウェア内に最大内接円と最小外接円を引いて、これらの得られた円の直径を測定することによって測定した。Wadellの球形度は次のように規定される:
【数2】
(式中、d
cは最大内接円の直径を表し、D
cは最小外接円の直径を表す)。粒子の角張り度は、以下によって規定されるように、Lees et al., 1964によって最初に記載された方法によって得られた:
【数3】
(式中、αは測定した角張り度を表し、xは最大内接円の中心からの角の先端の距離を表し、rは最大内接円の半径を表す)。Wadellの球形度Φ、球形度S及び角張り度の全ての測定を25個の粒子について行った。
【0113】
安定性データ
レオメータ(Physica MCR-301;Anton Paar、ベルギー国シント・マルテンス・ラーテム)を用いて、貯蔵弾性率(G')、及び所定の時点での粘度を決定した。粉末の10重量/体積%溶液を、milliQ水を用いて作製した。この溶液300 μLを、0.3 mmのギャップ設定を用いてプレートの間に入れた。機械的強度を決定するため、1 Hzの振動周波数と0.1%の歪を適用した。粘度は剪断速度の関数として測定し、0.1 s-1~1000 s-1の間で変化した。安定性測定を3回実施した。
【0114】
In vivoデータ
Swissヌードマウスを用いて、細胞と組み合わせたJuvederm(商標)と比較して、ヒト脂肪吸引物由来の間質血管画分及び脂肪細胞の存在下で、膨潤した組成物の乳腺下注入を行った。3ヶ月後、マウスを屠殺し、ex vivo組織学を実施した。全試料を4%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、等級化アルコール系列で脱水し、トルエンで透徹し、パラフィンに包埋した。ミクロトーム(Reichert-Jung 2040)を用いて、試料を5 μmの厚さで切断し、続いて脱パラフィンし、再水和し、染色した。全体的な形態を評価するため、ヘマトキシリン/エオシン(HE)(VWR、ThermoFisher)を標準プロトコルに従って実施した。
【0115】
比較データ-球状対本発明
さらに、
図8は、油中水エマルジョン(
図5に示される)によって得られる球形を有する膨潤性ゼラチン粒子と比較した、本発明による膨潤ゼラチン粒子(説明文では粒子(薄い灰色)として参照される)の貯蔵弾性率測定の比較結果を示す。レオメータ(Physica MCR-301;Anton Paar、ベルギー国シント・マルテンス・ラーテム)を用いて、材料の弾性特性を示す貯蔵弾性率(G')を決定した。この粉末の10重量/体積%溶液を、milliQ水を用いて作製した。この材料は、本発明で説明される粒子と同じ出発材料の油エマルジョン中の水を介して得られた球状粒子に対してベンチマークされた。機械的強度を決定するために、1 Hzの振動周波数と0.1%の歪を適用した。
【0116】
結果
機械的分析結果
得られたゲルを機械的特性に関してJuvederm(商標)と比較したところ、本発明者らは、GelMODNBゲルが得られたことを確認でき、ベンチマークのJuvederm(商標)と比較して、GelMODNB DS39/61(39%メタクリルアミド及び61%ノルボルネンの置換度を有するゼラチン)、GelMODNB DS66/34(66%メタクリルアミド及び34%ノルボルネンの置換度を有するゼラチン)及び血清を含むGelMODNB DS66/34が同様の機械的強度を有することを意味し、GelMODNB DS66/34バリアントが最高の性能を発揮する。
図1を参照されたい。
【0117】
図1は、GelMODNBゲルの機械的強度が、市販の化粧品充填剤として既によく規定されているJuvederm(商標)のそれと同等であることを示す。材料が膨潤する液体及び架橋性部分に依存して、機械的性質(例えば、DS39/61バリアントとDS66/34バリアントとの間)には相違が存在することがわかる。これらの違いは、架橋性部分の数が良好な注射可能充填剤系を得るために重要であることを示唆する。
【0118】
細胞生存率アッセイの結果及び脂肪生成分化
カプセル化脂肪由来幹細胞の細胞生存率を、異なる時点(1日目、3日目、7日目)でのカルセイン-AM及びヨウ化プロピジウムによる生/死染色に基づいて、TCP、Juvederm(商標)、GelMODNB DS66/34、及び血清を含むGelMODNB DS66/34について評定した。ここでは、ベンチマークのJuvederm(商標)と比較して、細胞増殖と優れた生存率を有する本発明者らの材料上で良好な細胞形態を観察した。グラフについて
図2を参照されたい。
図2は、グラフにおいて、Juvederm(商標)と比較して細胞生存率が有意に増加したことを示す。細胞生存率%は、3日目、特に7日目における本発明による材料の明確な優位性を示す。
【0119】
図2に提供されたアッセイに関連する細胞生存率に関するイメージング(図示せず)は、更に、GelMODNB DS66/34及び血清を含むGelMODNB DS66/34が、より良好な細胞生存率を提供し、特に、Juvedermと比較して本材料中に存在する細胞数の増加が目に見えることを示す。より良好な細胞生存率は、本発明による材料を、例えば組織工学の目的のために有利に使用することを可能にする。さらに、イメージングは、細胞が自身のECMを発達させ始めることができる間、材料がECM模倣物として作用することを示す。
【0120】
脂肪生成分化に関する更なるイメージング(図示せず)は、本発明による材料中のカプセル化された細胞が、それらの正しい形態に広がり、良好な増殖能を持つことを示し、これは、材料の生体適合性と並んでRGD配列の存在の両方に起因し得る。さらに、分化イメージングは、脂肪由来幹細胞の脂肪生成系統への分化を示す。Bodipy染色を用いて、(前)脂肪細胞にのみ存在する細胞内脂質滴を評定した。ここでは、Juvedermに比べて、GelMODNB DS 66/34にはより多くの分化細胞が存在することを観察することができたが、これは、Juvedermにカプセル化された細胞の7日目での低い生存率に関連している可能性が最も高い。
【0121】
SEMイメージング及び球形度
図3のSEMイメージングでわかるように、エッジ表面と高い角張り度を有する不規則な形状の粒子が得られた。この目的のため、Wadellの球形度を計算し、本発明に従って粒子に対して0.46±0.28の平均値を得た。さらに、それらの形状は、1.302±0.2159の平均球形度Sを有することを更に測定した。最後に、試料の平均角張り度Aiは406.6±271.9と算出された。さらに、
図4は、本発明による膨潤性ゼラチン粒子(左)及び膨潤ゼラチン粒子(右)の光学顕微鏡像を示す。
【0122】
さらに、
図5は、油中水エマルジョンを用い、その後の架橋によって得られる、本発明によらない膨潤性ゼラチン粒子の光学顕微鏡像を示す。油中水エマルジョンによって得られたこれらの球状粒子のWadellの球形度も測定し、Wadellの平均球形度値0.93±0.04を得た。Wadellの球形度の違いは、油中水エマルジョンを介して得られたゼラチン粒子が、本発明によるゼラチン粒子とは対照的に、球の1つに類似した形状を有することを明確に示す。
【0123】
安定性
乾燥粒子を、室温又は冷蔵庫(6℃~8℃)のいずれかで乾燥状態で数ヶ月間貯蔵した。得られた貯蔵弾性率の値は、以下の表に見ることができる。
【0124】
【0125】
いずれの保存法においても、経時的にも有意差は認められなかった。したがって、膨潤性組成物は経時的に安定であると結論付けることができた。膨潤組成物の粘度測定を
図6に示す。
【0126】
In vivoデータ
剪断変形に対する抵抗が高いため、膨潤した組成物は、
図7Aに示すように、局在したままであった。さらに、ベンチマークのJuvederm(
図7B)と比較して、良好な血管新生が、複数の脂肪細胞クラスタと並んで観察され得る。
【0127】
比較データ-球形対本発明
さらに、
図8は、油中水エマルジョン(
図5に示される)によって得られる球形を有する膨潤性ゼラチン粒子(説明文では球(黒)として参照される)と比較した、本発明による膨潤ゼラチン粒子(説明文では粒子(薄い灰色)として参照される)の貯蔵弾性率測定の比較結果を示す。本結果は、球状粒子を含む膨潤組成物と比較して、ゼラチン粒子の破砕された非晶質形状が膨潤組成物を与える正の効果を示す。本発明に由来する膨潤組成物は、これらの球状粒子に比べて高い機械的強度を得た。両者の材料、水分含量及び架橋度が類似しているため、貯蔵弾性率の増加は、より高い外部摩擦力によって説明でき、よりコヒーレントなゲルをもたらす。これらの高い摩擦力は、剪断変形に対するより大きな抵抗と直接的に相関する。
【0128】
参考文献
1. J. Van Hoorick, P. Gruber, M. Markovic, M. Rollot, G.J. Graulus, M. Vagenende, M. Tromayer, J. Van Erps, H. Thienpont, J.C. Martins, S. Baudis, A. Ovsianikov, P. Dubruel, S. Van Vlierberghe, Highly reactive thiol-norbornene photo-click hydrogels: toward improved processability, Macromol. Rapid Commun. 39 (2018) 1-7, https://doi.org/10.1002/marc.201800181
2. A.I. Van Den Bulcke, B. Bogdanov, N. De Rooze, E.H. Schacht, M. Cornelissen, H. Berghmans, Structural and rheological properties of methacrylamide modified gelatin hydrogels, Biomacromolecules 1 (2000) 31-38, https://doi.org/ 10.1021/bm990017d.
3. S. Van Vlierberghe, E. Schacht, P. Dubruel, Reversible gelatin-based hydrogels: Finetuning of material properties, Eur. Polym. J. 47 (2011) 1039-1047, https://doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2011.02.015.
4. Van Vlierberghe, S., Fritzinger, B., Martins, J. C., & Dubruel, P. (2010). Hydrogel Network Formation Revised: High-Resolution Magic Angle Spinning Nuclear Magnetic Resonance as a Powerful Tool for Measuring Absolute Hydrogel Cross-Link Efficiencies. Applied Spectroscopy, 64(10), 1176-1180. https://doi.org/10.1366/000370210792973550.
5. Wadell, H. (1935). Volume, Shape, and Roundness of Quartz Particles. The Journal of Geology, 43(3), 250-280. doi:10.1086/624298.
6. LEES, G. (1964), A new method for determining the angularity of particles. Sedimentology, 3: 2-21. https://doi.org/10.1111/j.1365-3091.1964.tb00271.x
【0129】
図面訳
図1
Mechanical strength gels (Pa) 機械強度ゲル(Pa)
bloodserum 血清
図2
Cell viability (%) 細胞生存率(%)
Day 1 1日目
serum 血清
図6
Viscosity (Pa.s) 粘度(Pa.s)
Shear rate (1/s) 剪断速度(1/s)
Month 1 1ヶ月
図7A
Injected material 注入した物質
Adipocytes 脂肪細胞
Blood vessels with red blood cells 赤血球を含む血管
図7B
Adipocyte cluster 脂肪細胞クラスタ
Small vasculature with red blood cells 赤血球を含む微小血管
図8
Storage Modulus (Pa) 貯蔵弾性率(Pa)
Spheres 球
Particles 粒子
【手続補正書】
【提出日】2022-04-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤性組成物であって、
膨潤前に架橋状態にあるゼラチンを含み、
該膨潤性組成物が多粒子形態であり、
面とエッジを有するゼラチン粒子を含む、膨潤性組成物。
【請求項2】
前記粒子が、0.80までのWadellの平均球形度Φを有する、請求項1に記載の膨潤性組成物。
【請求項3】
前記粒子が、0.20~0.80、好ましくは約0.30~約0.70、より好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する、請求項2に記載の膨潤性組成物。
【請求項4】
前記ゼラチンが、前記架橋状態において架橋性官能基を有する少なくとも第1のポリマー鎖を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の膨潤性組成物。
【請求項5】
前記多粒子形態が、光学顕微鏡法で決定した場合、約0.1μm~2 mm、好ましくは1 μm~1.5 mm、より好ましくは5 μm~約1 mmの粒径を有する粒子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の膨潤性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物と、少なくとも一種の膨潤物質とを含む、膨潤組成物。
【請求項7】
前記膨潤組成物が、
0.1 s
-1
~ 1000 s
-1
の間で変化する剪断速度の関数としてレオロジーで決定される場合、約0Pa s超~200 Pa s、好ましくは5 Pa s~150 Pa s、より好ましくは10 Pa s~120 Pa sの粘度を有する、請求項6に記載の膨潤組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物を調製する方法であって、
(a)架橋性ゼラチンを提供する工程と、
(b)工程(a)の前記ゼラチンを架橋して架橋ゼラチンを得る工程と、
(c)工程(b)で得た前記架橋ゼラチンを乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた前記乾燥ゼラチンを粉砕して、
面とエッジを有するゼラチン粒子を含む多粒子形態を得る工程と、
を含み、
それにより、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記膨潤性組成物を得る、方法。
【請求項9】
工程(d)が、前記乾燥ゼラチンを粉砕することを更に含み、それによって最大0.80、好ましくは0.20~0.80、より好ましくは約0.30~約0.70、更に好ましくは約0.40~約0.60のWadellの平均球形度Φを有する粒子を得る、請求項8に記載の膨潤性組成物を調製する方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法を適用すること、及び、
(e)工程(d)で得られた前記膨潤性組成物に膨潤物質を添加し、それによって膨潤組成物を得る工程を含む、請求項8又は9に記載の膨潤組成物を調製する方法。
【請求項11】
(f)工程(e)で得られた前記膨潤組成物に、細胞、幹細胞、薬学的活性化合物、成長因子、又はそれらの組合せから選択される成分を添加する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)において、前記ゼラチンがフィルム又はシートの形態で架橋される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において、前記架橋ゼラチンが凍結乾燥される、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヒト及び/又は獣医学における
医薬として使用のための請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物、又は請求項6若しくは7に記載の膨潤組成物。
【請求項15】
食品産業、化粧品、薬物送達及び/又は細胞送達、及び/又は成長因子送達として、及び/又は化粧用充填剤として、クリーム若しくは軟膏の調製においてゲル化剤又は増粘剤として、細胞外マトリックス模倣物として、組織工学用途(審美的処置、大容量組織再建、少容量組織再建、脂肪移植、リポフィリング、熱傷、歯科用途、軟骨及び骨組織工学等)、軟部組織工学(脂肪、脊椎、心臓組織工学、筋肉及び腱組織工学等)における組成物としての請求項1~5のいずれか一項に記載の膨潤性組成物又は請求項6若しくは7に記載の膨潤組成物の使用。
【国際調査報告】