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特表2023-534800ウイルスワクチンおよび腫瘍ワクチンの開発、がん免疫療法、ならびに自己免疫疾患の診断および治療における治療用途のためのペプチド性アジュバント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ウイルスワクチンおよび腫瘍ワクチンの開発、がん免疫療法、ならびに自己免疫疾患の診断および治療における治療用途のためのペプチド性アジュバント
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230804BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20230804BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230804BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230804BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230804BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230804BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230804BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230804BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230804BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230804BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230804BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K14/435 ZNA
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/10
A61P31/04
A61P33/00
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502583
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 SG2021050405
(87)【国際公開番号】W WO2022015240
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】10202006656Q
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ジンファ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シャン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4C085AA03
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA20
4H045EA31
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、ワクチン開発、免疫療法ならびに/または核酸やタンパク質の細胞内送達のための、アラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域を含むもしくは該領域からなる単離されたペプチド、その生物活性フラグメントまたは生物活性変異体、ならびに該ペプチドと抗原もしくはカーゴ分子とを含む組成物に関する。さらに、本発明は、前記ペプチドを用いた検出方法および前記ペプチドの製造方法を提供する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域を含むまたは該領域からなるペプチドを含むか、該ペプチドからなる単離されたポリペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドのグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域が、RGG、GGR、FGGおよびGGFを含む群から選択される複数の3残基アミノ酸ならびに/またはRGGG、GGGR、FGGGおよびGGGFを含む群から選択される複数の4残基アミノ酸を含むか、これらからなる、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドのグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域が、RGGG、GGGR、FGGGおよびGGGFを含む群から選択される複数の4残基ならびに/またはRG、GR、FRおよびGDRを含む群から選択される介在アミノ酸をさらに含む、請求項2に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、ならびにアラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するこれらのフラグメントもしくは変異体を含むまたはこれらからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離されたペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号47、ならびにアラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するこれらのフラグメントもしくは変異体を含むまたはこれらからなる群に記載のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離されたペプチド。
【請求項6】
前記ペプチド変異体において、前記GAR/RGG領域内への1つ以上の「G」残基の挿入により、例えば、「RGRGG」から「RGGRGG」に、または「RGGFRGG」から「RGGFGGRGG」にと、トリプレットの形成が補完されている、請求項5に記載の単離されたペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドまたはその変異体が、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号53、配列番号54、配列番号55および配列番号56を含むまたはこれらからなる群に記載のアミノ酸配列からなる、請求項5または6に記載の単離されたペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドまたはその変異体が、アラーミン活性と細胞透過活性の両方を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の単離されたペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドが、配列番号7、配列番号8、配列番号12、配列番号13、配列番号53および配列番号54を含む群に記載のアミノ酸配列からなる、請求項8に記載の単離されたペプチド。
【請求項10】
前記ペプチドが、担体機能を有し、配列番号21、配列番号23および配列番号24を含む群に記載のアミノ酸配列からなる、請求項8に記載の単離されたペプチド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の単離されたペプチドと、該ペプチドに融合した抗原またはカーゴ分子とを含む、単離された融合ポリペプチド。
【請求項12】
前記ペプチドが細胞内に透過し、前記抗原または前記カーゴ分子を該細胞内に運ぶことができる、請求項11に記載の単離された融合ポリペプチド。
【請求項13】
前記細胞が、樹状細胞またはその他の抗原提示細胞である、請求項10~12のいずれか1項に記載の単離された融合ポリペプチド。
【請求項14】
前記少なくとも1つの抗原が、細菌、真菌、寄生虫もしくはウイルスなどの病原体またはがん細胞に対して特異性を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載の単離された融合ポリペプチド。
【請求項15】
前記カーゴ分子が、薬物または標識分子である、請求項10~13のいずれか1項に記載の単離された融合ポリペプチド。
【請求項16】
a)請求項1~10のいずれか1項に記載の単離されたペプチドと少なくとも1つの抗原、
b)請求項11~15のいずれか1項に記載の単離された融合ポリペプチド、または
c)不活化がん細胞と請求項1~12および14のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチド、ならびに
薬学的に許容される添加剤、希釈剤および担体のうちの1つ以上またはこれらの混合物
を含む組成物。
【請求項17】
抗原の免疫原性を高める方法であって、該抗原が細菌、真菌、寄生虫もしくはウイルスなどの病原体またはがん細胞に特異的な抗原であり、
a)請求項1~9のいずれか1項に記載の単離されたアラーミン活性ペプチドと該抗原を融合する工程、または
b)請求項1~9のいずれか1項に記載の単離されたアラーミン活性ペプチドと該抗原を混合する工程
を含む方法。
【請求項18】
疾患の予防用または治療用の医薬を製造するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の単離されたペプチド、請求項10~15のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド、または請求項16に記載の組成物の使用であって、該疾患が、ウイルス性疾患、真菌性疾患、寄生虫性疾患、細菌性疾患およびがん性疾患を含む群から選択される、使用。
【請求項19】
a)抗原もしくはカーゴ分子と融合もしくは混合した請求項1~9のいずれか1項に記載の単離されたアラーミン活性ペプチド、または
b)請求項16に記載の組成物
を対象に投与する工程を含む、そのような治療を必要とする対象における予防方法または治療方法。
【請求項20】
少なくとも1つの樹状細胞もしくはその他の抗原提示細胞、T細胞またはがん細胞を活性化する方法であって、少なくとも1つの樹状細胞もしくはその他の抗原提示細胞、T細胞またはがん細胞を、請求項1~9のいずれか1項に記載の単離されたペプチド、または抗原もしくはカーゴ分子と融合もしくは混合した該ペプチドに接触させる工程を含む方法。
【請求項21】
請求項1~9のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項10~14のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項22】
請求項21に記載のポリヌクレオチドを1つ以上含むクローニングベクターまたは発現ベクター。
【請求項23】
請求項1~9のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項10~14のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドを製造する方法であって、請求項22に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞または無細胞系ポリペプチド製造用組成物を培養する工程、および前記ペプチドまたは前記融合ポリペプチドを単離する工程を含む方法。
【請求項24】
対象においてGAR/RGG含有ペプチドを検出する方法であって、
i)対象の生体試料を準備する工程、および
ii)該生体試料中に含まれるGAR/RGG含有タンパク質の量を測定する工程
を含む方法。
【請求項25】
前記対象が自己免疫疾患を有しており、GAR/RGG含有ペプチドの量がコントロール値より高いことによって、前記対象が自己免疫疾患を有することが示される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
i)の試料を、NCL、FBRLもしくはGAR1などの前記GAR/RGG含有ペプチドのGAR/RGG領域または該GAR/RGG領域の生物活性変異体に特異的な抗体と接触させる工程を含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記生体試料が、血液、脳脊髄液および尿を含む群から選択される、請求項24~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
研究または疾患治療のための、核酸試薬、ポリペプチド試薬または治療薬などの抗原またはカーゴ分子の細胞内送達を促進する方法であって、請求項1~9のいずれか1項に記載のアラーミン活性ペプチドと該抗原または該カーゴ分子とを組み合わせる工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン開発、免疫療法ならびに/または核酸、タンパク質などのカーゴの細胞内送達のための、アラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域を含むもしくは該領域からなる単離されたペプチド、その生物活性フラグメントまたは生物活性変異体、ならびに該ペプチドと抗原もしくはカーゴ分子とを含む組成物に関する。さらに、本発明は、前記ペプチドを用いた検出方法および前記ペプチドの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
自己抗原に対するB細胞の発生・活性化は複数の寛容機構により回避されている [Theofilopoulos, A. N., Kono, D. H. & Baccala, R. Nat Immunol 18: 716-724 (2017); Nemazee, D. Nat Rev Immunol 17: 281-294 (2017)]。しかし、核抗原に反応する多反応性ナイーブB細胞は、ナイーブレパトアでは珍しくない [Wardemann, H. et al., Science 301: 1374-1377 (2003)]。核小体は、このような多反応性B細胞の抗原受容体(BCR)の標的となることが多い [Wardemann, H. et al., Science 301: 1374-1377 (2003)]。ループス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、その他の全身性慢性自己免疫疾患を抱える患者では、多反応性B細胞が免疫グロブリンのクラススイッチを起こし、病原性IgG自己抗体を産生していると考えられる [Mietzner, B. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 105: 9729-9732 (2008)]。自己反応性B細胞が発生するもう一つの経路は、胚中心での体細胞超変異によるものと考えられている [Zhang, J. et al., J Autoimmun 33: 270-274 (2009)]。核小体は、患者の自己抗体の標的となる主要な核領域、あるいは唯一の核領域であると考えられる [Beck, J. S. Lancet 1: 1203-1205 (1961); Nakamura, R. M. & Tan, E. M. Hum Pathol 9: 85-91 (1978)]。ANA陽性患者全体で10~15%の患者が抗核小体自己抗体(ANoA)を優位に産生する [Vermeersch, P. & Bossuyt, X. Autoimmun Rev 12: 998-1003 (2013)]。核小体のタンパク質は、ほとんどがrRNAの転写とプロセシング、リボソームアセンブリに関与しており、その多くは自己抗原である [Welting, T. J., Raijmakers, R. & Pruijn, G. J., Autoimmunity Reviews 2: 313-321 (2003); de la Cruz, J., Karbstein, K. & Woolford, J. L. Jr., Annu Rev Biochem 84: 93-129 (2015)]。核小体が強力な自己免疫原性を有する理由については解明されていないが、必然的にB細胞・T細胞寛容の破綻と内因性・外因性アジュバントが関与しているものと思われる。自己抗原の中には、リボ核タンパク質(RNP)の構成要素となっているものがあり、そのRNA成分はToll様受容体(TLR)を活性化することで、アジュバント活性を発揮する [Suurmond, J. & Diamond, B., J Clin Invest 125: 2194-2202 (2015)]。ある1つのANoA特異的なB細胞クローンにより形成された自己免疫性胚中心で、別の自己反応性B細胞が増殖して、さらに広範囲の自己抗体特異性が生じることが報告されている [Degn, S. E. et al., Cell 170: 913-926 2017]。
【0003】
哺乳動物の免疫系には、一般的な病原体関連分子パターン(PAMP)を捕捉して感知する自然免疫系と、同じ微生物の抗原エピトープをプロファイルする適応免疫系が存在する。基本的に、病原体により自然免疫系がどのように活性化されるかによって、適応免疫系でのエピトープに対する処理や反応は影響を受けるため、それによりB細胞やT細胞による免疫と免疫学的記憶が調整される [Pulendran, B. & Ahmed, R., Cell 124: 849-863 (2006)]。細胞外で細菌や真菌の感染が起こると、抗体が産生され、補体やFc受容体が活性化して、これらの病原体が殺傷・駆除される。細胞内へのウイルス感染は、細胞外と細胞内の両方で抗原提示が行われ、抗体産生とCD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性化が起こり、抗体がウイルス感染を阻止し、活性化されたCTLが感染細胞を殺傷することでウイルスを駆除する [Blum, J S., Wearsch, P. A. & Cresswell, P., Annu Rev Immunol 31: 443-473 (2013)]。がん細胞には、免疫監視機構の特異的な標的であるネオエピトープが蓄積されており、これらはCTLにより最も生産的に標的化される [Hollingsworth, R E. & Jansen, K. NPJ Vaccines 4: 7 (2019); Chen, F. et al. J Clin Invest 129: 2056-2070 (2019)]。
【0004】
数多くの病原体が、病原体の疑似体やワクチンとして弱毒化、不活化、断片化され、病原体が通常引き起こす病気を引き起こすことなく免疫反応や免疫記憶を誘導するよう経験的に最適化されてきた (https://www.cdc.gov/vaccines/vpd/vaccines-list.html)。しかし、多くの病原体は、生産性や安全性の問題から、従来法によるワクチン製造においては対象外とされてきた。この点に関して、ウイルスの表面タンパク質には、病原体(例えば、SARS-CoV2)に対する防御的なT細胞やB細胞の活性化を誘導することができる適切なMHCのクラスIおよびIIエピトープが含まれていることが多い [Grifoni, A. et al., Cell Host Microbe 27: 670-680 (2020); Ahmed, S. F., Quadeer, A. A. & McKay, M. R., Viruses 12 (2020)]。ウイルスの自然感染により細胞質で抗原が産生され、これがMHC Iを介して提示され、CD8 T細胞がCTLへと活性化される [Blum, J S., Wearsch, P. A. & Cresswell, P., Annu Rev Immunol 31: 443-473 (2013)]。生きたウイルスには、Toll様受容体(TLR)などの1つ以上の自然免疫受容体を介してAPCを活性化するアジュバントも含まれている [Duthie, M S., Windish, H. P., Fox, C. B. & Reed, S. G., Immunol Rev 239: 178-196 (2011); Steinhagen, F., Kinjo, T., Bode, C. & Kinman, D. M., Vaccine 29: 3341-3355 (2011)]。しかし、ウイルスという形態でない場合、単一のウイルスタンパク質で構成されているワクチン抗原は、細胞質内に透過せず、またウイルスが本来有するアジュバントシグナルを備えているかは不明である。がん抗原は細胞内抗原であり、MHC Iにより最も効果的に提示され、CTLにより最も効果的に標的化される [Blum, J S., Wearsch, P. A. & Cresswell, P., Annuv Rev Immunol 31: 443-473 (2013)]。経験的なワクチン製造においては、多くの場合、ワクチン組成物に代理アジュバントを配合することで補完されている。ウイルス性病原体やがんに有効な組換えタンパク質ワクチンはほとんどないため、組換えタンパク質抗原が抗原性を発揮できるような革新的なアジュバントが必要とされている [Coffman, R L., Sher, A. & Seder, R. A., Immunity 33: 492-503 (2010); Lee, S. & Nguyen, M T., Immune Netw 15: 51-57 (2015)]。
【0005】
本明細書において、ワクチンに配合されるアジュバントとして使用可能な、かつ/または細胞内にカーゴ分子を運ぶための担体として使用可能な、アラーミン活性および/または細胞透過活性を有するペプチド群について報告する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ワクチン開発、免疫療法、薬物送達および炎症診断のための、アラーミン活性および/または細胞透過活性を有するペプチドを提供する。アラーミンは、単球、マクロファージ、樹状細胞などの抗原提示細胞を活性化させる作用を有する。ヌクレオリン(NCL)は、TLR7多型の増加が見られる重症SLE患者、特に男性のSLE患者で最も顕著に見られるタンパク質自己抗原であり [Wang, T. et al., Front Immunol 10: 1243 2019]、また、ループス易発性マウスでは、早期にNCLの自己抗体が誘導され、その後、他の自己抗体の誘導やループス様疾患を発症が起こることが知られている [Hirata, D. et al., Clin Immunol 97: 50-58 (2000)]。我々は、自己免疫原性を示す自己抗原の一部はアラーミン活性を有するという仮説を立てた。そこで、NCLもアラーミン活性を有するかどうかを調べたところ、その中にアラーミン活性ペプチドがあることを発見した。さらに、このペプチドとこのペプチドに変異を加えたバリアントが細胞透過活性を示すことを発見した。つまり、我々は、アラーミン活性および/または細胞透過活性を有する関連ペプチド群を発見した。
【0007】
第1の態様によれば、本発明は、アラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域を含むまたは該領域からなる単離されたペプチドを提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドのグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域は、RGG、GGR、FGGおよびGGFを含む群から選択される複数の3残基アミノ酸を含むか、これらからなる。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドのグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域は、RGGG、GGGR、FGGGおよびGGGFを含む群から選択される複数の4残基ならびに/またはRG、GR、FRおよびGDRを含む群から選択される介在アミノ酸をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、NCL(配列番号1)、FBRL(配列番号2)、GAR1(配列番号3)、ならびにアラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するこれらのフラグメントもしくは変異体を含むまたはこれらからなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、
NCL-GAR/RGG:
GGFGGRGGGRGGFGGRGGGRGGRGGFGGRGRGGFGGRGGFRGGRGGGG(配列番号4);
FBRL-GAR/RGG:
RGGGFGGRGGFGDRGGRGGRGGFGGGRGRGGGFRGRGRGG(配列番号5);
GAR1-GAR/RGG:
RGGGRGGRGGGRGGGGRGGGRGGGFRGGRGGGGGGFRGGRGGG(配列番号6);
NCL(698)-HA(GAR/RGGが、GGFGGRGGGRGGFGGRGGGRGGRGGFGGRGRGGFGGRGGFRGGRGGGG(配列番号47)を含む);ならびに
アラーミン活性および/もしくは細胞透過活性を有するこれらのフラグメントもしくは変異体を含むまたはこれらからなる群に記載のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列からなる。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ペプチド変異体は、1つ以上のアミノ酸の付加または欠失、例えば、1つ以上の「G」残基の付加を含む。前記変異ペプチドにおいて、前記GAR/RGG領域内への1つ以上の「G」残基の挿入により、例えば、「RGRGG」から「RGGRGG」に、または「RGGFRGG」から「RGGFGGRGG」にと、トリプレットの形成が補完されていることは有利である。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、
NCL-P1:
GGFGGRGGGRGGFGGRGGGRGGRGGFGGRGRG(配列番号7);
NCL-P2:
GGFGGRGGGRGGRGGFGGRGRGGFGGRGGFRGGRGG(配列番号8);
NCL-P6:
RGGFGGRGGGRGGRGGFGGRG(配列番号9);
FBRL-P1:
RGGGFGGRGGFGDRGGRGGRGG(配列番号10);および
FBRL-P2:
RGGFGGGRGRGGGFRGRGRGG(配列番号11)
を含むまたはこれらからなる群に記載のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列からなる。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記変異ペプチドは、
NCL-P2+G:
GGFGGRGGGRGGRGGFGGRGGRGGFGGRGGFRGGRGG(配列番号12);
NCL-P2+3G:
GGFGGRGGGRGGRGGFGGRGGRGGFGGRGGFGGRGGRGG(配列番号13);
NCL-P2+2G:
GGFGGRGGRGGFGGRGGRGGFGGRGGRGGFGGRGGRGG(配列番号14);
NCL-P2R/K:
GGFGGKGGGKGGKGGFGGKGKGGFGGKGGFKGGKGG(配列番号20);
NCL-P2F/R:
GGRGGRGGGRGGRGGRGGRGRGGRGGRGGRRGGRGG(配列番号21);
NCL-P2R/F:
GGFGGFGGGFGGFGGFGGFGFGGFGGFGGFFGGFGG(配列番号22);
NCL-P2F/Y:
GGYGGRGGGRGGRGGYGGRGRGGYGGRGGYRGGRGG(配列番号23);
NCL-P2F/W:
GGWGGRGGGRGGRGGWGGRGRGGWGGRGGWRGGRGG(配列番号24);
NCL-P2+G(F/I):
GGIGGRGGGRGGRGGIGGRGGRGGIGGRGGIRGGRGG(配列番号53);
NCL-P2+G(F/L):
GGLGGRGGGRGGRGGLGGRGGRGGLGGRGGLRGGRGG(配列番号54);
NCL-P2+G(G/A):
GGFGARGGARGARGGFGARGARGGFGARGGFRGARGA(配列番号55);および
NCL-P2+G(G/P):
GGFGPRGGPRGPRGGFGPRGPRGGFGPRGGFRGPRGP(配列番号56)
を含むまたはこれらからなる群に記載のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列からなる。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドまたはその変異体は、アラーミン活性と細胞透過活性の両方を有する。
【0016】
いくつかの実施形態において、アラーミン活性および細胞透過活性を有する前記ペプチドは、配列番号7、配列番号8、配列番号12、配列番号13、配列番号53および配列番号54を含む群に記載のアミノ酸配列からなる。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、細胞透過活性と弱いアラーミン活性を有する。ペプチド変異体NCL-P2F/R(配列番号21)、NCL-P2F/Y(配列番号23)およびNCL-P2F/W(配列番号24)は、細胞透過活性を有するものの、有意なアラーミン活性を有していないため、カーゴ分子の担体として有用である。
【0018】
前記ペプチドは、アジュバント機能および/または担体機能を有していてもよい。アラーミン活性を有するペプチドは、アジュバントとしても機能するため、これらの用語は、本発明において同じ意味で使用される。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明のペプチドは、抗原またはカーゴ分子と融合している。
【0020】
抗原とアジュバント活性を有するペプチドを融合させることは、ワクチン開発において有利である。本発明のペプチドとペプチド抗原などのペプチドを融合させたものを、融合ポリペプチドと表記することもある。
【0021】
融合には、本発明のペプチドおよびペプチド変異体と抗原またはカーゴ分子とを結合または連結するための既知の手段が含まれることは理解されるであろう。このような融合は、組換えDNA法、ペプチド合成または化学結合によって達成される。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドは、細胞内に透過し、抗原またはカーゴ分子を該細胞内に運ぶことができる。いくつかの実施形態において、前記ペプチドと抗原は融合しておらず、混合された状態で組成物を形成している。前記細胞は、好ましくは、樹状細胞もしくはその他の抗原提示細胞、またはT細胞である。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つの抗原は、細菌、真菌、寄生虫もしくはウイルスなどの病原体またはがん細胞に対して特異性を有する。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つの抗原は、ウイルスタンパク質である。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記カーゴ分子は、薬物または標識分子である。
【0025】
第2の態様によれば、本発明は、
a)本発明のいずれかの態様の単離されたペプチドと少なくとも1つの抗原;
b)本発明のいずれかの態様の単離された融合ポリペプチド;または
c)不活化がん細胞と本発明のいずれかの態様のペプチド、ならびに
薬学的に許容される添加剤、希釈剤および担体のうちの1つ以上またはこれらの混合物
を含む組成物を提供する。
【0026】
過去の研究において、代理抗原(オボアルブミン)をTリンパ芽細胞EL4細胞(ATCC TIB-39)にトランスフェクトして発現させた。この細胞を同系マウスに注入すると、オボアルブミン特異的細胞傷害性Tリンパ球がマウスで誘導され、EL4-OVA細胞が殺傷された [Moore, M.W., et al., Cell, 54(6): Pages 777-785 (1988)]。この研究では、注入されたEL4-OVA細胞が抗原提示細胞として機能したのか、それともがん細胞として機能したのかは不明である。理論にとらわれなければ、がん細胞にトランスフェクションを行って、本発明のペプチドを単独であるいは別のがん抗原と共に発現させ、不活化後にワクチンとして注入すれば、このがん細胞は当該ペプチドにより有効ながんワクチンとなる可能性がある。また、本発明のペプチドをがん細胞内に透過させるだけで免疫原性を付与できる(すなわち、がん細胞内に既に存在する抗原に対する免疫を誘導することができる)可能性もある。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、ワクチン組成物である。
【0028】
第3の態様によれば、本発明は、抗原の免疫原性を高める方法であって、該抗原が細菌、真菌、寄生虫もしくはウイルスなどの病原体またはがん細胞に特異的な抗原であり、本発明のペプチド性アラーミンと該抗原を融合または混合する工程を含む方法を提供する。
【0029】
第4の態様によれば、本発明は、疾患の予防用または治療用の医薬を製造するための、本発明のいずれかの態様の単離されたペプチド、単離された融合ポリペプチドまたは組成物の使用であって、該疾患が、ウイルス性疾患、真菌性疾患、寄生虫性疾患、細菌性疾患またはがん性疾患である、使用を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記医薬は、配列番号12、配列番号13、配列番号53および配列番号54を含む群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド性アラーミンを含む単離されたペプチドを含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記医薬は、配列番号12、配列番号13、配列番号53および配列番号54を含む群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド性アラーミンを含む単離されたペプチドと、これに融合した抗原またはカーゴ分子とを含む。
【0032】
第5の態様によれば、本発明は、
a)抗原もしくはカーゴ分子と融合もしくは混合した本発明の単離されたアラーミン活性ペプチド;または
b)a)を含む組成物
を対象に投与する工程を含む、そのような治療を必要とする対象における予防方法または治療方法を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明は、腫瘍細胞を標的とする免疫チェックポイント生物製剤または他のポリペプチド生物製剤と融合した本発明のペプチド性アラーミンを対象に投与する工程を含む、対象における予防方法または治療方法を提供する。前記ペプチド性アジュバントは、好ましくは、配列番号12、配列番号13、配列番号53および配列番号54を含む群から選択される。
【0034】
本発明のペプチドのアラーミン活性および細胞透過活性の1つの用途は、T細胞を活性化することである。これは、樹状細胞の活性化/樹状細胞内への透過により達成されるが、T細胞もまたこのペプチドに対するアラーミン受容体を発現しているため、このペプチドは、直接T細胞をプライミングまたは活性化することもできる。例えば、T細胞の活性化は図24に示す通りである。T細胞はこのペプチドの受容体を発現しているため(図13DおよびH)、このペプチドはT細胞も直接刺激することで、T細胞の活性化において樹状細胞と協同的に作用する可能性がある。さらに、このペプチドを用いることで、図24によれば、T細胞だけでなくB細胞(図24CおよびG)も直接活性化される可能性がある。T細胞は、抗原提示能力を持つこともある。
【0035】
第6の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの樹状細胞もしくはその他の抗原提示細胞またはT細胞を活性化する方法であって、少なくとも1つの樹状細胞もしくはその他の抗原提示細胞またはT細胞を、本発明のいずれかの態様の単離されたペプチド、または抗原もしくはカーゴ分子と融合もしくは混合した該単離されたペプチドに接触させる工程を含む方法を提供する。
【0036】
第7の態様によれば、本発明は、本発明のいずれかの態様のペプチドまたは融合ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0037】
特定の実施形態において、前記核酸がプラスミド配列をさらに含んでいてもよいことは当業者であれば理解できるであろう。このプラスミド配列は、例えば、プロモーター配列、選択マーカー配列および遺伝子座標的化配列のうちの1つ以上の配列を含んでいてもよい。核酸組成物を細胞に導入する方法は、当技術分野で公知である。
【0038】
本発明の第8の態様によれば、プロモーターに作動可能に連結された、本発明のペプチドもしくは融合ポリペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含むクローニングベクターまたは発現ベクターが提供される。
【0039】
第9の態様によれば、本発明は、本発明のいずれかの態様のペプチドまたは融合ポリペプチドを製造する方法であって、プロモーターに作動可能に連結された、前記ペプチドもしくは前記融合ポリペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む、宿主細胞または無細胞系ポリペプチド製造用組成物を培養する工程、および前記ペプチドまたは前記融合ポリペプチドを単離する工程を含む方法を提供する。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記融合ポリペプチドは、アラーミン/アジュバント活性を有するNCL-P2+Gペプチドと、潜在的がん抗原ペプチドIPA1E2などの抗原とを含む。いくつかの実施形態において、IPA1E2は、配列番号57に記載のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、NCL-P2+G-IPA1E2融合ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号58に記載のアミノ酸配列である。
【0041】
第10の態様によれば、本発明は、対象においてGAR/RGG含有ペプチドを検出する方法であって、
i)対象の生体試料を準備する工程、および
ii)該生体試料中に含まれるGAR/RGG含有タンパク質の量を測定する工程
を含む方法を提供する。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記対象は、自己免疫疾患を有しており、GAR/RGG含有ペプチドの量がコントロール値より高いことによって、前記対象が自己免疫疾患を有することが示される。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記対象は、本発明の単離されたペプチド、単離された融合ポリペプチドまたは組成物が投与された対象である。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記方法は、i)の試料を、GAR/RGG含有タンパク質に特異的な抗体と接触させる工程を含む。前記抗体は、好ましくは、ヌクレオリン(NCL)、フィブリラリン(FBRL)またはGAR1などの前記GAR/RGG含有ペプチドのGAR/RGG領域または該GAR/RGG領域の生物活性変異体に特異的な抗体である。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記生体試料は、血液、脳脊髄液および尿を含む群から選択される。
【0046】
第11の態様によれば、本発明は、研究または疾患治療のための、核酸試薬、ポリペプチド試薬または治療薬などの抗原またはカーゴ分子の細胞内送達を促進する方法であって、本発明のペプチドと該抗原または該カーゴ分子とを組み合わせる工程を含む方法を提供する。
【0047】
本発明者らは、短いペプチドおよびその変異体が強力なアジュバント(アラーミン)活性および/または細胞透過活性を有することを確認した。ペプチド性のアラーミンは稀であり、アラーミン活性と細胞透過活性の両方を有するペプチドは特異である。GAR/RGGペプチドは、ワクチン抗原、特にウイルスワクチン抗原またはがんワクチン抗原を含む組成物に配合することにより、これらの免疫原性を高めることができる。
【0048】
GAR/RGGペプチドは、核小体タンパク質であるヌクレオリン(NCL)だけでなく、他の多くの核自己抗原にも存在する。GAR/RGGペプチドは、直鎖状の水溶性ペプチドであり、大きな影響を与える二次構造を持たず細胞毒性もないため、様々なワクチン抗原を連結させるペプチドとして最適である。
【0049】
GAR/RGGペプチドのワクチン開発への応用は、元々は有害な病態生理学的現象をプラスに応用したものである。この応用は、自己抗原の抗原性ではなく、自己抗原が本来有するアジュバント活性をワクチンに転用することを目的としたものである。NCLのGAR/RGG配列は、抗原性予測やSLE患者の自己抗体のスクリーニング用P2+Gコーティングプレートを用いたELISAによれば、エピトープ形成に有意に関与していない(データ示さず)。
【0050】
NCLのGAR/RGGペプチドは、1)APCや一部のリンパ球に発現しているTLR2を活性化することができる、2)細胞膜透過性を有することから、ワクチン抗原との融合体として、またはワクチン抗原と別々に添加する形で、ワクチン抗原をAPCの細胞質内に送達することができる、という2つのアジュバント特性を有している。組換えタンパク質抗原は、病原体をまるごと弱毒化・不活化するよりもはるかに簡単で安全に製造することができるが、ワクチンとしての成功例はほとんどない。しかし、最近ではコロナウイルスの組換えスパイクタンパク質を生成するmRNAワクチンが利用されている。ワクチンとしての成功例に乏しい主な理由は、1)免疫原性/有効性が低いこと、2)APCの細胞質内に入りこめないため、ウイルスやがんなどの細胞内病原体に対する有効な免疫防御に不可欠なCTL免疫を誘導できないことが挙げられる。本発明のGAR/RGGペプチドは、APCを活性化するだけでなく細胞膜を透過することができるため、組換えタンパク質抗原に見られるこのような弱点が有効に補うことができ、多くの疾患に対する安価で安全な新世代のワクチンを実現できる可能性がある。
【0051】
本明細書内の文書、行為、材料、装置、物品などに関する記載は、これらの一部または全部が、本開示に関連する分野の先行技術の基礎の一部を構成するものと解釈すべきではなく、また、添付の各請求項の優先日前の技術常識であると解釈すべきでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A-J】ヌクレオリンがPBMC、単球、マクロファージおよび樹状細胞(DC)を活性化する強力なアラーミンであることを示した図である。A)血液中の各種白血球を刺激するために使用するヌクレオリンなどのタンパク質の単離。HeLa細胞をホモジナイズし、2.2Mスクロース液中で遠心分離することにより核を単離した。核をTriton X-100で処理して脂質膜を除去した。これをTxNと明記する。TxNを0.5M NaClで処理してクロマチン線維を分離し、核内物質を抽出した。これをTxNEと明記する。TxNEからアフィニティークロマトグラフィーによりNCLとHMGB1を単離した。非免疫マウスIgG1カラムにもTxNEを添加し、同様に溶出画分1~3をプールしてコントロールとした(Ms IgG1)。これらのカラムから溶出された10番目の画分ではタンパク質は検出されなかった。これらをまとめてもう1つのコントロールとした(E10)。すべての刺激物質とコントロールをそれぞれプレートにコーティングし、各種細胞に対する刺激を行った。LPSは、ポジティブコントロールとして用いた。細胞の活性化は、培養液中へのTNFαおよびIL-1βの分泌量を測定することにより確認した。B)およびC)PBMCで産生誘導されたTNFαおよびIL-1β。D)およびE)単球で産生誘導されたTNFαおよびIL-1β。F)およびG)DCおよびマクロファージでそれぞれ産生誘導されたTNFα。実験は3連で実施し、データは平均値±SDで示した。**** p<0.0001。n.d.:検出されず。H-J)PBMCにおけるTNFαおよびIL-1βの産生誘導動態。PBMCをNCL(H)、HMGB1(I)またはLPS(J)で2.5時間、5.0時間、10時間、14時間、18時間および24時間刺激した。培養液中のTNFαおよびIL-1βの量を測定した。NCLとHMGB1によるサイトカインの産生誘導動態が類似していることに留意されたい。
【0053】
図2A-B】各精製核タンパク質中のエンドトキシン量を示した図である。NCLおよびHMGB1は、プロテインG-セファロースに架橋結合したマウス抗NCL抗体とマウス抗HMGB1抗体を用いたアフィニティー精製により精製した。NCL-HAおよびその欠失変異体は、プロテインG-セファロースに架橋結合したマウス抗HA抗体を用いたアフィニティー精製により精製した。各タンパク質をPBSで透析した後、40μg/mLに希釈した。プレートにコーティングする前に、ToxinSensor発色LALエンドトキシンアッセイキット(GenScript)を用いて、各タンパク質中のエンドトキシン量を測定した。同様のアッセイを、この実験で使用する他の精製タンパク質でも実施した。検出されたエンドトキシン量は、概して0.1EU/μg未満(A)または0.5EU/mL未満(B)であった。
【0054】
図3A-E】ヌクレオリンがTLR2を活性化することを示した図である。A)NCLによるTLRの活性化を調べるために使用したNF-κBルシフェラーゼアッセイの模式図。TLRの細胞外リガンド結合ドメインは、ロイシンリッチ反復配列を含む。TLR4は、MD2およびCD14と複合体を形成して機能する。TLR2は、ホモダイマーを形成するか、TLR1、TLR6またはTLR10とヘテロダイマーを形成して機能する。TLR5は、共受容体に依らず機能する。各TLRの既知のリガンドがそれぞれ示されている。各TLRの細胞質ドメインは、MyD88と相互作用して、PI3キナーゼ(PI3K)、MAPKおよびNF-κBを活性化し、それにより細胞の活性化とサイトカイン産生が起こる。このアッセイでは、293T細胞にTLRと2種類のルシフェラーゼ発現プラスミドを共にトランスフェクションすることで、NF-κB活性化度を測定することができる。1つのプラスミドは、NF-κBプロモーター配列の5回反復配列(5×NF-κB)の制御下にある誘導性ホタルルシフェラーゼを発現するプラスミドで、TLRシグナルの指標として使用し、もう1つのプラスミドは、CMVプロモーターの制御下で構成的にウミシイタケルシフェラーゼを発現するプラスミドで、実験ごとの細胞数とトランスフェクション効率の補正に使用した。B)NCLによるPBMCの活性化におけるTLRおよびインフラマソームの役割。PBMCをMyD88阻害剤st-2825(30μm)、カスパーゼ1阻害剤(10μm)またはその両方で1時間プレインキュベートした後、NCL、HMGB1またはLPS(0.5μg/mL)と共に24時間培養した。コントロールとして、刺激前に細胞をDMSOでプレインキュベーションしたものを使用した。培地中のTNFαおよびIL-1βの量を測定した。C)およびD)NF-κBルシフェラーゼアッセイ。293T細胞にNF-κBホタルシフェラーゼ発現ベクターとCMVウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターをトランスフェクトし、表示通りにTLR2、TLR4、TLR5、MD2およびCD14発現ベクターもトランスフェクトした。24時間後、細胞を回収し、NCLまたはHMGB1をコーティングしたプレートで再培養した。コントロールとして、これらの細胞をLPS(0.5μg/mL)と共に培養した。ルシフェラーゼ活性は、Dual-Luciferase(登録商標) Reporter Assay Systemを用いて測定した。NF-κB活性化度は、実験ごとにホタルルシフェラーゼ活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性で補正することで算出した。実験は3連で実施し、データは平均値±SDで示した。統計分析は、一元配置ANOVAにより行った。**** p<0.0001、*** p<0.001、** p<0.01、* p<0.05。E)NCL刺激に対するPBMCの応答におけるTLR2、TLR4およびTLR5の役割。PBMCを、TLR2、TLR4またはTLR5とそれぞれのリガンドとの反応をブロックすることが知られているマウスモノクローナル抗体と共に氷上で30分間プレインキュベートし、NCLまたはHMGB1をコーティングしたプレートで24時間培養した。また、コントロールとして、PBMCをブランクプレートでLTA(10μg/mL)、フラジェリン(1μg/mL)またはLPS(10ng/mL)の刺激下で培養した。PBMCの活性化は、TNFαの産生量に基づいて判定した。実験は3連で実施し、スチューデントt検定を行った。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001、**** p<0.0001。
【0055】
図4A-F】NCL(A、D)、HMGB1(B、E)およびLPS(C、F)によるIL-1β依存性およびIL-1β非依存性のTNFα誘導を示した図である。単球を、抗IL-1β中和抗体または非免疫マウスIgGの存在下、NCL、HMGB1またはLPSで刺激した。24時間後、培養物中のTNFα(A~C)およびIL-1β(D~F)をELISAで測定した。実験は3連で実施し、平均値と標準偏差を表示した。統計分析は、スチューデントt検定により行った。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001、**** p<0.0001。
【0056】
図5A-B】MyD88阻害剤st-2825とカスパーゼ1阻害剤Ac-YVADの用量設定実験の結果である。単球を表示濃度の阻害剤で1時間プレインキュベートした後、LPSで24時間刺激した。TNFα(A)およびIL-1β(B)の産生量をELISAで測定し、細胞生存率を比色MTSアッセイで求めた。データは、コントロールを1.0とした相対的な細胞生存率で示した。実験は3連で実施し、スチューデントt検定を行った。* p<0.05、** p<0.01。
【0057】
図6】NCLによる選択的なTLR2活性化を示している。293T細胞に、NF-κBプロモーター制御下のホタルシフェラーゼ発現ベクターとCMVプロモーター誘導下のウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターをトランスフェクトした。また、表示通りにTLR4/MD2/CD14、TLR2/1/6/10、TLR5またはTLR3/7/8/9ベクターを細胞にトランスフェクトした。24時間後、トランスフェクトした細胞を回収し、NCLまたは対照としてマウスIgG1カラムからの溶出物(Ms IgG)をコーティングしたプレートで再び培養した。細胞を24時間刺激した後、NF-κBを介したルシフェラーゼ活性をDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いて測定した。NF-κBの相対的活性化度は、実験ごとのホタルルシフェラーゼ活性を構成的なウミシイタケルシフェラーゼ活性で補正することにより算出した。実験は3連で実施し、データは平均値±SDで示した。統計分析は、一元配置ANOVAにより行った。**** p<0.0001、** p<0.01。
【0058】
図7A-F】NCLのTLR2反応性領域の同定を行ったものである。A)異なるドメインを欠失させて作製した組換えNCL。全長HMGB1と全長NCLにそれぞれC末端HAタグを付加して発現させた(HMGB1-HAとNCL-HA)。NCLは、710アミノ酸長であり、酸性ドメイン、RRM1ドメイン、RRM2ドメイン、RRM3ドメイン、RRM4ドメインおよびグリシン-アルギニンリッチ(GAR)またはRGGドメインの境界を基準にして、C末端の段階的な欠失を行い、N末端から数えて274残基、477残基、522残基、609残基、649残基、670残基および698残基を含むNCL変異体を作製した。GAR/RGGドメインは、2つのタンデム反復配列(黒色枠)と2つのリバース反復配列(灰色枠)を含む。また、第653~698位にわたるこれら4つの反復配列を欠失させた変異体も作製した。B)精製したNCL-HAと各NCL変異体をプレートにコーティングして(40μg/mL)、単離した単球を加えて培養した。24時間後、TNFαとIL-1βの産生量をELISAで測定した。C)精製したNCL、NCL-HA、NCL(649)-HAおよびBSA(10μg/mL)をプレートにコーティングして、0.375~6.0μg/mLの濃度のHisタグ化TLR2と共にインキュベートした。結合したTLR2をマウス抗His抗体(2.6μg/mL)で検出した。D)TLR2(2μg/mL)をプレートにコーティングして、精製したNCL、NCL-HA、NCL(649)-HAまたはBSA(0~20μg/mL)と共にインキュベートした。結合したタンパク質をマウス抗HA抗体(1μg/mL)で検出した。E)TLR2(2μg/mL)をプレートにコーティングして、抗TLR2抗体または抗TLR4抗体(5μg/mL)とインキュベートした後、精製したNCL、NCL-HAおよびBSA(10μg/mL)とインキュベートした。結合したタンパク質をウサギ抗NCL抗体(1μg/mL)で検出した。F)まとめの実験では、NCL、7種類のNCL-HA変異体、およびコントロールとしてBSAをプレートにコーティングした(10μg/mL)。TLR2(2μg/mL)とインキュベートした後、結合したTLR2をマウス抗His抗体(2.6μg/mL)で検出した。* p<0.05、*** p<0.001、**** p<0.0001。
【0059】
図8A-G】NCLのGAR/RGGドメイン(配列番号46)に対応する合成ペプチドがTLR2によって認識され、TLR2を通じて単球を活性化することを示した図である。A)NCLのGAR/RGG配列に基づいて、N末端にビオチンを付加した6種類のペプチドを合成した。コントロールとして、NCLのC末端12アミノ酸残基のペプチドも合成した。B)TLR2をプレートにコーティングして(2μg/mL)、NCL-P1、NCL-P2またはNCL-P3と共にインキュベートした。NCL-P1とNCL-P2で、NCLの48残基のGAR/RGG領域全体の46残基をカバーしており、中央の20残基が重複している。NCL-P3は、NCLのC末端部分に相当し、TLR2との結合は認められなかった。C)NCL-P1とNCL-P2は、TLR2を介したNF-κB活性化を誘導する。293T細胞に、TLR4/CD14/MD2、TLR2/TLR1/TLR6/TLR10、TLR5またはTLR3/7/8/9という組み合わせでトランスフェクトし、24時間後、誘導性NF-κBプロモーター下でホタルルシフェラーゼをコードするベクターと構成的に活性化されているCMVプロモーター下でウミシイタケシフェラーゼをコードするベクターを共にトランスフェクトした。次いで、細胞を各ペプチド(200μg/mL)で24時間刺激した。NF-κB活性化度を、補正したホタルルシフェラーゼ活性で示した。D)単球を異なる濃度の3種類のNCLペプチドと共に24時間培養し、上清中のTNFα産生量をELISAで測定した。E)各ペプチドを10μg/mL、40μg/mLまたは160μg/mLでプレートにコーティングした。このプレートを用いて、単球を24時間刺激した。TNFαの産生量をELISAで測定した。n.d.:検出されず。コーティングされたペプチドの方が可溶型よりも刺激性が低い。F)TLR2をプレートにコーティングして(2μg/mL)、異なる濃度の計5種類のNCLペプチドと共にインキュベートした。NCL-P2をポジティブコントロールとして加えた。NCL-P4、NCL-P5およびNCL-P6は、NCL-P2内のより短い領域をカバーするペプチドである。NCL-P7は、NCL-P2の末端の7残基に相当する。BSAをネガティブコントロールとして使用した。G)単球を7種類のNCLペプチドで24時間刺激した。単球培養物に各ペプチドを50μg/mLまたは200μg/mLで添加し、TNFαの産生量をELISAで測定した。
【0060】
図9】コーティングされたNCL-HAが可溶型NCL-HAよりも強力に単球を刺激することを示した図である。単球(1×105個/well)をプレートで24時間培養した。NCL-HA(40μg/mL)をプレートにプレコーティングするか、可溶形態で添加して単球の培養を行った。また、1/5の量のNCL(0.2×NCL-HA)をコーティングしたプレートでも単球を培養した。Buffer control:バッファーでコーティングしたウェル。Cell alone:コーティングされていないウェル。培養上清中のTNFαおよびIL-1βの量を測定した。実験は3連で実施し、データは平均値±SDで示した。統計分析は、一元配置ANOVAにより行った。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001、**** p<0.0001。n.s.:有意でない。
【0061】
図10】NCLペプチドによる単球の活性化を示した図である。図8Aに詳述した計7種類のNCLペプチドを用い、2種類の濃度(50μg/mLと200μg/mL)で単球を刺激した。24時間後、培養液中のIL-1βをELISAで測定した。
【0062】
図11A-E】フィブリラリン(FBRL)とGAR1のアラーミン活性を示した図である。A)FBRLのアミノ酸配列。GAR/RGG配列モチーフは太字で強調表示されている。また、合成した3種類のペプチドを上線(FBRL-P1、FBRL-P2)、下線(FBRL-P3)で示し、重複する残基を灰色で表示した。FBRLには2つのGAR領域があるが、N末端に近い長いGAR領域のみを研究対象とした。これを欠失させてFBRL(Δ8-64)-HA変異体を作製した。B)2名の異なる献血者のPBMCを用いて得られたデータである。FBRL-HAとFBRL(Δ8-64)-HAをそれぞれプレートにコーティングして(10μg/mL)、PBMCを24時間刺激した後、培地中のTNFαの量をELISAで測定した。C)各FBRLペプチドを50mg/mLまたは160mg/mLで添加して、PBMCを24時間培養した。培地中のTNFαの量をELISAで測定した。D)GAR1のアミノ酸配列。GARモチーフは太字で強調表示されている。C末端にHAタグを付加した組換えGAR1を作製した(GAR1-HA)。E)組換えGAR1-HAを精製し、プレートにコーティングして、PBMCを刺激した。TNFαの産生量をELISAで測定した。Control:コーティングしたタンパク質や添加したペプチドがない状態で培養した細胞。実験は3連で実施し、データを平均値±SDとして得た。データを一元配置ANOVAで分析した。* p<0.05、p<0.0001。n.s.:有意でない。
【0063】
図12A-B】NCLの放出量を示した図と、核抽出物(TxNE)から単離したNCLとUV照射により細胞から放出されたNCLを単球の活性化に関して比較した図である。A)HeLa細胞を、既報の方法(Cai et al., 2017、この文献は参照により本明細書に援用される)と同様にして、150mmディッシュで培養し、無血清培地中でUV照射した。UV照射後、細胞を同条件で0~24時間培養し、開始直後(0時間)、1時間後、3時間後、6時間後、8時間後、12時間後および24時間後に培地を回収した。培地を0.22μmのフィルターに通した後、SDS-PAGE(12.5% (w/v))およびウェスタンブロッティングにより分析し、核タンパク質の放出量を確認した。NPM1:ヌクレオフォスミン1。FBL:フィブリラリン(FBRL)。B)UV照射後24時間培養した細胞の培養液からアフィニティー精製したNCL(NCL UV sup)と、TxNEからアフィニティー精製したNCL(NCL TxNE)を比較した。各タンパク質をプレートにコーティングして、単球を刺激した。コントロールとして、タンパク質が含まれていない10番目の溶出画分(E10)でウェルをコーティングした。また、コーティングしていないウェル(細胞のみ)において、LPSの刺激あり/なしで細胞を培養した。24時間後、TNFαおよびIL-1βの産生量をELISAで測定した。実験は3連で実施し、データは平均値±SDで示した。統計分析は、一元配置ANOVAにより行った。** p<0.01、**** p<0.0001。n.s.:有意でない。
【0064】
図13】36アミノ酸のGAR/RGGペプチド(P2)をPBMC、単球、B細胞およびT細胞と4℃または37℃でインキュベートしたところ、いずれの場合も細胞内のペプチド貯留量が高くなったことを示した図である。PBMCをビオチン-P2ペプチドと共に37℃で1時間インキュベートした。コントロールとして4℃でのインキュベーションも行った。次いで、細胞を抗CD14抗体(単球、BV711)、抗CD3抗体(T細胞、PerCP-Cy5-5)、抗CD19抗体(B細胞、Pacific blue)およびZombie NIR Cell Viability reagent(APC-Cy7、BioLegend)とインキュベートした。次いで、細胞をストレプトアビジン Alex Fluor 488(ストレプトアビジン-AF488)とインキュベートし、細胞表面に結合したP2ペプチドを検出した。また、細胞をFix/Perm試薬(ThermoFisher、Waltham、MA)で固定/透過処理した後、ストレプトアビジン-AF488とインキュベートし、細胞内P2ペプチド(当初は37℃でインキュベートした場合のみ検出されると予想していた)を検出した。細胞を洗浄した後、フローサイトメトリーで分析した。細胞表面への結合が顕著に見られたのはPBMCと単球だけであったが、インキュベーションの温度にかかわらず、いずれの細胞でも細胞内で高レベルのP2ペプチドが同様に観察されたことに留意されたい。点線のヒストグラムは、膜透過処理を行わずに検出されたシグナル(細胞表面に結合したペプチド)を示す。実線のヒストグラムは、膜透過処理に行った場合に検出されたシグナル(細胞内ペプチド)を示す。
【0065】
図14】P1とP2では、4℃でPBMCとインキュベートした後に細胞内の貯留が見られたが、P1やP2以外の短いGAR/RGGペプチド(P4~P7;8~20アミノ酸)、P2のRからKへの変異体(P2R/K)および12アミノ酸の非GAR/RGGペプチド(P3)では細胞内の貯留が見られなかったことを示した図である。以下、簡潔に説明する。PBMCを各ビオチン標識ペプチド(P1~P7)またはビオチン-P2(R/K)変異体とそれぞれ4℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞をFix/Perm試薬で固定/透過処理し、ストレプトアビジン-AF488とインキュベートした。洗浄後、細胞をフローサイトメトリーで分析した。左側のパネルは、7種類のペプチドとそれぞれインキュベートした後に得られたヒストグラムである。右側のパネルは、NCL-P1ペプチドとNCL-P2ペプチドのヒストグラムのみを示している。
【0066】
図15】ウイルス自然感染による免疫と、P2融合ワクチン抗原による免疫を模式的に示した図である。このような融合体は、組換えDNA法やEMCS(N-ε-malemidocaproyl-oxysuccinimide ester)などの化学リンカーにより作製することができる。ここで、「P2」または「*」は、請求項1~13に含まれる全ての生理活性を有するGAR/RGGペプチドを表す。「ウイルス」を示す絵は、ワクチン抗原の由来となる全ての病原体やがん細胞を表す。「P2」または「*」が付加された半円状の図形は、ワクチン抗原だけでなく、カーゴ薬物や標識なども想定される。付加方法は、直接的な融合であっても、間接的な混合であってもよい。大きな「細胞」を示す絵は、「P2」ペプチドと融合したカーゴの種類によって、抗原提示細胞を表すこともあれば、その他の細胞種を表すこともある。TCR:T細胞抗原受容体。BCR:B細胞抗原受容体。TLR:Toll様受容体。FcR:Fc受容体。MHC:主要組織適合性複合体。CTL:細胞傷害性Tリンパ球。黒色点線:サイトカイン。
【0067】
図16A-C】NCL-P2ペプチドの8種類の配列バリアントと、そのアジュバント活性の増減を示した図である。A)NCL-P2の配列バリアントの配列。参照実験として、NCL-P6ペプチドとFBRLペプチドを加えた。NCL-P2R/K(配列番号20)では、すべてのR残基がK残基に変更されている。NCL-P2F/R(配列番号21)では、すべてのF残基がR残基に変更されている。NCL-P2R/F(配列番号22)では、すべてのR残基がF残基に変更されている。NCL-P2F/Y(配列番号23)では、すべてのF残基がY残基に変更されている。NCL-P2F/W(配列番号24)では、すべてのF残基がW残基に変更されている。NCL-P2+G(配列番号12)では、G残基の追加によりRG配列がRGG配列に変更されている。NCL-P2+3Gでは、さらに2つのG残基の追加によりFRGG配列がFGGRGG配列に変更されている。NCL-P2+2Gでは、NCL-P2配列が、実質的にFGGRGGRGG配列を4回繰り返した合理的な配列に変更されている。NCL-P2R/F(配列番号22)は設計したものの、合成されていない。B)およびC)NCL-P2、その各種バリアントペプチドおよび3種類のFBRLペプチドを用いて、PBMCを24時間刺激し、培地中のTNFα量を測定して比較を行った。B)およびC)各種NCL-P2バリアントペプチドを用いて、PBMCを24時間刺激し、培地中のTNFα量を測定した。
【0068】
図17A-H】NCL-P2ペプチドとその7種類のバリアントペプチドの細胞透過性ペプチド(CPP)活性を示した図である。PBMC(100μL;3×105個/mL)を各ペプチド(200μg/mL)と共に4℃で1時間インキュベートした。細胞を2% FBS/PBSで2回洗浄し、ストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)とZombie(NIR)Fixable viability stain-APC-Cy7と4℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細胞をフローサイトメトリーで分析し、細胞表面に結合したペプチド(Sur-)を検出した。また、細胞内ペプチドを検出するために、細胞を各ペプチドと共に4℃でインキュベートした後、Zombie NIR Cell Viability reagentとインキュベートした。細胞を洗浄し、BD CYTOFIX/CYTOPERM(登録商標) Kitを用いて4℃で20分間透過処理を行った。洗浄後、細胞をストレプトアビジン-AF488とインキュベートして、フローサイトメトリーで分析し、細胞内ペプチド(Int-)を検出した。コントロールとして、ペプチドとのプレインキュベーションを行わずに、細胞をストレプトアビジン-AF488とインキュベートした(網掛けのヒストグラム)。(A)NCL-P2、(B)NCL-P2R/K、(C)NCL-P2F/R、(D)NCL-P2F/Y、(E)NCL-P2F/W、(F)NCL-P2+G、(G)NCL-P2+2Gおよび(H)NCL-P2+3G。ペプチドおよびストレプトアビジン-AF488とインキュベートした細胞を、中抜きのヒストグラムで示す。縦線は、細胞表面に結合したNCL-P2と細胞内NCL-P2に関するヒストグラムの位置を示す。
【0069】
図18A-B】P2+G(P2M6)とそのストレプトアビジン結合体による樹状細胞(DC)への透過の動態を示した顕微鏡写真である。(A)カバーガラス上のDCを、P2+G(200μg/mL)と共に氷上で最大1時間(1分、5分、15分、30分および60分)インキュベートした。細胞を4% (w/v) パラホルムアルデヒドで20分間固定し、0.1% (v/v) サポニンで30分間透過処理をした後、ストレプトアビジン-AF488と1時間インキュベートした。洗浄後、細胞をDAPI含有培地でマウントして共焦点顕微鏡で観察した。(B)P2+G(200μg/mL)をストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)と氷上で30分間インキュベートして結合体を形成させた後、この結合体を、あらかじめ固定や透過処理を行っていないカバーガラス上のDCと共に1時間インキュベートした。洗浄後、細胞を固定し、DAPI含有培地でマウントした。切片画像を撮影した(0.36μm)。スケールバー:20μm。
【0070】
図19A-B】P2+G(P2M6)とそのストレプトアビジン結合体による濃度依存的な樹状細胞(DC)への透過を示した顕微鏡写真である。(A)カバーガラス上のDCを、10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mLまたは200μg/mLのP2M6と共に氷上で1時間インキュベートした。細胞を4% (w/v) パラホルムアルデヒドで20分間固定し、0.1% (v/v) サポニンで30分間透過処理をした後、ストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)とインキュベートした。洗浄後、細胞をDAPI含有培地でマウントして共焦点顕微鏡で観察した。(B)異なる濃度のP2+G(10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mLまたは200μg/mL)をストレプトアビジン-AF488と氷上で30分間インキュベートし、得られた結合体をDCと共にインキュベートした。洗浄後、細胞を固定し、透過処理は行わずに、DAPI含有培地でマウントして共焦点顕微鏡で解析した。切片画像を撮影した(0.36μm)。スケールバー:20μm。
【0071】
図20A-B】P2+Gとその変異体であるP2+G(F/I)、P2+G(F/L)、P2+G(G/A)およびP2+G(G/P)の配列ならびにこれらのアラーミン活性を示した図である。(A)P2+Gを鋳型として、4個のフェニルアラニン残基をイソロイシン残基(P2+G(F/I))またはロイシン残基(P2+G(F/L))に、また、25個のグリシン残基のうち6個をアラニン残基(P2+G(G/A))またはプロリン残基(P2+G(G/P))に変更してさらに4種類の変異ペプチドを合成した。(B)この4種類の新規ペプチドでPBMCを24時間刺激し、TNFαの産生量をELISAで測定した。P2+Gをポジティブコントロールとして、P2R/Kをネガティブコントロールとして使用した。
【0072】
図21A-B】他の既知の非GAR/RGGタイプの細胞透過性ペプチド(CPP)(表1)のアラーミン活性を示した図である。A)P2+Gをポジティブコントロール、P2F/Rを中間コントロール、P2R/Kをネガティブコントロールとして、GAR/RGG配列を持たない7種類の既知のCPPでPBMCを刺激した。24時間後、培地中のTNFαの産生量を測定した。B)P2+Gをポジティブコントロールとして、CPP4、そのタンデム2量体(2×CPP4)および10種類の変異体でPBMCを刺激した。24時間後、TNFαの産生量をELISAで測定した。実験は3連で実施した。データを一元配置ANOVAで分析し、平均値±SDで示した。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
【0073】
図22A-C】P2+Gペプチドとその変異体ペプチドであるP2+G(F/I)、P2+G(F/L)、P2+G(G/A)およびP2+G(G/P)の細胞透過性ペプチド(CPP)活性を示したフローサイトメトリーのデータである。(A)PBMCを4種類のP2+G変異体ペプチドとそれぞれ4℃で1時間インキュベートした。変異はP2+Gのフェニルアラニン残基またはグリシン残基に関わるものである。P2+Gの4個のフェニルアラニン残基が、イソロイシン(P2+G(F/I))またはロイシン(P2+G(F/L))に変更されている。P2+Gの25個のグリシン残基のうち6個がアラニン残基(P2+G(G/A))またはプロリン残基(P2+G(G/P))に変更されている。これらのペプチド(200μg/mL)をPBMCと共に4℃で1時間インキュベートした。細胞表面に結合したペプチドおよび細胞内のペプチドをストレプトアビジン-AF488で検出した。コントロールとして、PBMCをP2+G、P2F/RまたはP2R/Kとインキュベートした。細胞をフローサイトメトリーで分析した。縦線はそれぞれ、P2+Gで得られた細胞表面の蛍光強度(暗色の縦線)と細胞内の蛍光強度(淡色の縦線)を示すためのものであり、他のペプチドで得られた蛍光強度の基準として用いた。(B)(A)のフローサイトメトリーの結果に基づいて、平均蛍光指数(MFI)を算出し、比較を行った。(C)PBMCを各ペプチドと37℃で1時間インキュベートし、この場合も同様にフローサイトメトリーで分析した。これらの実験については、MFIデータのみを示す。
【0074】
図23】P2+Gによる樹状細胞(DC)の成熟を示した図である。DCは、CD14lo/-とCD1ahiという典型的な表面表現型を示す単球から培養されたものである。DCをLPS(0.5μg/mL)、P2+G(200μg/mL)またはコントロールであるPBSの存在下で48時間培養した。細胞を回収し、CD40、CD80、CD83、CD86およびMHCクラスII(MHC II)の表面染色を行った。細胞をフローサイトメーターにより分析した(中抜きのヒストグラム)。これらの抗体のコントロールとして、対応するアイソタイプのマウスIgGを使用して細胞を染色した(中塗りのヒストグラム)。縦線は、非刺激DC(コントロール)表面に発現しているMHC IIと各共刺激分子の蛍光ピーク指数を示す。
【0075】
図24】P2+G融合ペプチド抗原を負荷した樹状細胞(DC)により自己のCD4 T細胞およびCD8 T細胞が活性化されることを示した図である。単球からDCを培養し、30アミノ酸のペプチド抗原IPA1E2(配列番号57)、P2+GペプチドまたはIPA1E2-P2+G融合ペプチド(配列番号58)と共に、アジュバントを追加せずに、24時間インキュベートした。これらの抗原を負荷したDCを、CellTrace Violetで標識した同じ献血者由来のリンパ球と共培養した。DCとT細胞の比率は1:5とした。2週間後、共培養した細胞を抗CD14抗体(単球、BV711)、抗CD3抗体(T細胞、PerCP-Cy5-5)、抗CD19抗体(B細胞、Pacific blue)で染色し、また、Zombie NIR Cell Viability reagent(APC-Cy7、BioLegend)による染色も行った。CD4+ T細胞、CD8+ T細胞およびCD19+ B細胞をそれぞれフローサイトメトリーで分析し、増殖による各細胞のCellTrace Violetの減少レベルを測定した。増殖した細胞のパーセント値を示した。データは3名の別々の献血者から得られたものであり、データの分析は、スチューデントt検定により行った。* p<0.05、** p<0.01。
【0076】
図25A-B】NCL-P2、各種P2変異ペプチドおよび7種類の既知の非GAR/RGG細胞透過性ペプチド(CPP)の細胞溶解活性を調べた実験である。A)バフィーコート画分(2.5mL)を7.5mLの150mM NaClで洗浄して500×gで5分間遠心分離した後、同様にPBS(pH7.4)で洗浄した。細胞ペレットを7.5mLのPBSに再懸濁した。各ペプチド(2mg/mL)をV底96ウェルプレートにそれぞれ3ウェルずつ10μL/wellで添加した。コントロールとして、10μLのPBSまたは20% (v/v) Triton X-100をウェルに添加した。細胞をPBSで50倍に希釈し、各ウェルに190μL/wellで添加した。37℃で1時間インキュベートした後、プレートを500×gで5分間遠心分離した。上清を平底96ウェルプレートに100μL/wellで移し、OD405を測定した。各ウェルの溶血率は、Triton X-100を添加したコントロールウェルの平均値を100として補正して求めた。B)4mg/mLのP2+GをPBSで2mg/mL、1mg/mL、0.5mg/mL、0.25mg/mL、0.125mg/mLおよび0.0625mg/mLに希釈した。希釈したP2+GをV底96ウェルプレートにそれぞれ3ウェルずつ10μL/wellで添加した。コントロールとして、10μLのPBSまたは20% (v/v) Triton X-100をウェルに添加した。希釈した細胞を各ウェルに190μL/wellで添加した。37℃で1時間インキュベートして遠心分離した後、上清のOD405を測定し、Tritonを含むウェルの平均吸光度で補正したものを溶血率として示した。実験は3連で実施した。データを一元配置ANOVAで分析し、平均値±SDで示した。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
【0077】
図26】本明細書の実施例に基づき、ワクチン開発におけるP2+Gとその関連ペプチドの想定される1つの使用例を示した模式図である。ここでは、一例としてP2+Gを使用している。P2+Gは、TLR2を活性化することができ、またおそらくTLR4も活性化することができる [Wu, S., et al., Cell Death Dis 12: 477 (2021)]。
【発明を実施するための形態】
【0078】
本明細書で言及されている参考文献は、便宜上、実施例の末尾にまとめて記した。このような参考文献の内容は、その全体が参考により本明細書に援用される。
【0079】
本発明は、アラーミン活性および/または細胞透過活性を有するペプチドおよびそのバリアントの開発に一部基づくものである。細胞透過活性は、融合した抗原の免疫系への提示を強化するだけでなく、新生タンパク質鎖、核酸、低分子などの他の分子(カーゴ分子)を細胞内に輸送する機会も提供する。本明細書に記載されているように、本発明のペプチドはアジュバント活性を有し、ワクチンの構成成分としての利点を有する。
【0080】
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0081】
本明細書および添付の請求項において、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の解釈がなされる場合を除き、複数についての言及も含むことに留意されたい。
【0082】
本明細書において、範囲は、「約」の付いたある特定の値から、かつ/または「約」の付いた別の特定の値までとして表すことができる。このような範囲を表す場合、別の実施形態には、ある特定の値から、かつ/または別の特定の値までの範囲が含まれる。同様に、先行詞である「約」の使用により、値が概数として表される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することは理解できるであろう。範囲のそれぞれの端点は、もう一方の端点との関係において意味があるとともに、もう一方の端点とは独立で意味があることもさらに理解できるであろう。また、本明細書において、複数の値が開示されているが、それぞれの値において、その値だけでなく、その特定の値に「約」が付いた値も開示されていることは理解できるであろう。例えば、「10」という値が開示されている場合、「約10」という値も開示されていることになる。また、当業者であれば適切に理解できる内容であると思われるが、ある値が開示されている場合、「その値以下」、「その値以上」、およびそれらの値の間の可能な範囲も開示されていることは理解できるであろう。例えば、「10」という値が開示されている場合、「10以下」だけでなく、「10以上」も開示されていることになる。また、2つの特定のユニットの間にある各ユニットも開示されていることは理解できるであろう。例えば、10と15が開示されている場合、11、12、13、14も開示されていることになる。
【0083】
本明細書において、「アミノ酸」または「アミノ酸配列」という用語は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質の配列、またはこれらの断片(フラグメント)を表し、天然の分子または合成の分子を表す。本明細書において、「アミノ酸配列」が天然のタンパク質分子のアミノ酸配列を意味している場合、「アミノ酸配列」などの用語が表すものは、記載のタンパク質分子に関連する完全な天然アミノ酸配列に限定されない。
【0084】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」という用語は、複数のアミノ酸で構成された1つ以上の鎖を表し、各鎖の複数のアミノ酸は、ペプチド結合により共有結合している。該ポリペプチドまたは該ペプチドは、非共有結合および/またはペプチド結合により共有結合した複数の鎖を含むこともあり、天然タンパク質の配列、すなわち、天然の細胞、具体的には非組換え細胞、または遺伝子操作された細胞もしくは組換え細胞によって産生されるタンパク質の配列を有する。また、該ポリペプチドまたは該ペプチドは、天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子を含むこともあれば、天然配列の1個以上のアミノ酸の欠失、付加および/もしくは置換を有する分子を含むこともある。本明細書において、「バリアント」または「変異体」という用語は、1つ以上のアミノ酸が変更されているが、アラーミン活性および/または細胞透過活性を保持しているアミノ酸配列を意味する。バリアントは、アミノ酸の欠失もしくは挿入またはその両方を有していてもよい。生物活性や免疫活性を損ねることなくアミノ酸残基の置換、挿入あるいは欠失を行うための指針は、当技術分野でよく知られているコンピュータープログラム、例えば、DNASTAR(登録商標)ソフトウェア(DNASTAR、Madison、Wisconsin、USA)により得られる。例えば、NCL-P2ペプチドにG残基を付加することにより(NCL-P2+G)、アジュバント活性がNCL-P2ペプチドの3倍になることが確認されている。さらに2つのG残基を追加したところ、アジュバント活性は保持されていたが、NCL-P2+Gペプチドのアジュバント活性は上回らなかった。「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」は、1つのアミノ酸鎖で構成(「モノマー」と呼ばれる)されていてもよく、複数のアミノ酸鎖で構成(「マルチマー」と呼ばれる)されていてもよい。
【0085】
本明細書において、「融合ポリペプチド」という用語は、ペプチド抗原またはカーゴ分子のような構成要素と結合または連結した本発明のペプチドとして理解される。このような融合は、組換えDNA法、ペプチド合成または化学結合によって達成される。ペプチドリンカーは、本発明のペプチドと抗原またはカーゴ分子との間に距離を置くことで融合ポリペプチドの有効性が向上する場合に用いられる。さらに、「融合」とは、本発明のペプチドと抗原またはカーゴ分子とが結合して融合体を形成するように、本発明のペプチドを目的の抗原ペプチドにインフレームで連結することを意味する。ただし、この融合により、本発明のペプチドの形成もしくは機能(例えば、アジュバントとして機能する能力および/もしくは細胞内に透過する能力)も、本発明のペプチドに付加された抗原もしくはカーゴ分子の形成もしくは機能も妨げられないものとする。特定の実施形態において、前記ポリペプチド/抗原またはカーゴ分子は、本発明のペプチドのカルボキシ末端に融合されている。例えば、本発明のいずれかの態様に記載の融合ポリペプチドは、実施例14に示すように、ペプチド抗原IPA1E2と融合したNCL-P2+Gペプチドを含んでいてもよい。
【0086】
本発明において、「アジュバント」という用語は、「アラーミン」という用語と交換可能に使用され、免疫学的アジュバントを意味する。すなわち、アジュバントとは、目的の付加抗原に対する免疫系の応答を増強または促進し、それによって対象における免疫応答または一連の免疫応答を誘導することができるペプチド化合物である。例えば、実施例14に示すように、DCに抗原IPA1E2と融合したNCL-P2+Gペプチドを接触させると、T細胞の増殖が有意に亢進されることが確認されている。
【0087】
本明細書において、「カーゴ分子」という用語は、本発明のペプチド性アジュバントと融合し、本発明のペプチド性アジュバントの細胞透過活性の助けを借りて細胞内に輸送される新生タンパク質鎖、核酸または低分子などの分子を包含することを意図している。
【0088】
本明細書において、「担体」または「担体機能」という用語は、例えば、一般にカーゴ分子と融合し、カーゴ分子を細胞にかつ/または細胞内に運ぶことができる本発明のペプチドを意味する。このような担体ペプチドは、好ましくは、細胞透過活性を有する。例としては、NCL-P2F/Y、NCL-P2F/WおよびNCL-P2F/Rが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
「活性フラグメント」という用語は、全長のペプチド性アジュバントの活性または機能(例えば、アラーミン活性/アジュバント活性などの生物活性または生物機能)、例えば、免疫系を賦活する能力および/または細胞内に透過する能力などの一部または全部が保持されているタンパク質の部分を意味する。活性フラグメントは、例えば、免疫系を賦活する能力を保持しているフラグメントであれば、どのようなサイズでもよい。
【0090】
「バリアント」および「変異体」という用語は、本発明において交換可能に用いられ、アミノ酸配列の変化により1個以上の天然アミノ酸および/または非天然アミノ酸が含まれるように変更が施されたペプチドであって、アジュバントとして、かつ/または細胞透過性ペプチドとして機能することができるペプチドを意味する。例えば、これらの用語は、1つ以上の保存的アミノ酸の変更を含むGAR/RGGリッチペプチドを包含する。バリアント/変異体において、1つ以上の「G」残基の挿入により、例えば、「RGRGG」から「RGGRGG」に、または「RGGFRGG」から「RGGFGGRGG」にと、トリプレットの形成が補完されていることは有利である。特定のアミノ酸を置換してGAR/RGGリッチペプチドを変異させることで、ペプチドのアジュバント活性および/または細胞透過活性を向上または低下させることができる。また、「バリアント」/「変異体」という用語は、例えば、1つ以上のD-アミノ酸を含むペプチドを包含する。このようなバリアントは、例えば、プロテアーゼ耐性などの特性を有する。また、バリアントには、例えば、1つ以上のペプチド結合が修飾されたペプチド模倣化合物も含まれる。
【0091】
本明細書において、「核酸」という用語は、複数のヌクレオチドモノマー(例えば、リボヌクレオチドモノマーまたはデオキシリボヌクレオチドモノマー)を含むポリマーを意味する。「核酸」には、例えば、ゲノムDNA、cDNA、RNAおよびDNA-RNAハイブリッド分子が含まれる。核酸分子は、天然由来であってもよく、組換え体であってもよく、合成されたものであってもよい。
【0092】
特定の実施形態において、核酸がプラスミド配列をさらに含むことは、当業者であれば理解できるであろう。プラスミド配列は、例えば、プロモーター配列、選択マーカー配列または遺伝子座標的化配列のうちの1つ以上の配列を含んでいてもよい。核酸組成物を細胞に導入する方法は、当技術分野で公知である。
【0093】
本明細書において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、これらの用語によって示される本明細書に記載の特徴、整数、工程または成分(要素)の存在を明記するものであると解釈されるが、1つ以上の特徴、整数、工程もしくは成分(要素)またはこれらの群の存在または付加を除外するものではない。また、本開示の文脈において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含する。したがって、「comprise」や「comprises」などの「含む(comprising)」という用語のバリエーション、および「include」や「includes」などの「含む(including)」という用語のバリエーションも同様に広い意味を有する。
【実施例
【0094】
当業者であれば、本明細書に示された方法に従って、過度な実験を行うことなく本発明の実施が可能であることは理解できるであろう。本明細書に示されている方法、手法および化学物質は、記載した参考文献、または標準的な生物工学や分子生物学の教科書のプロトコルに記載されている通りである。本明細書において具体的な記載のない、当技術分野で公知の標準的な分子生物学的手法は、概ね、A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (2001) に記載された方法に従ったものである。
【0095】
実施例1
材料および方法
抗体および試薬
NCLに対するウサギポリクローナル抗体(ab22758)およびHMGB1に対するウサギポリクローナル抗体(ab67281)は、Abcam社(Cambridge、UK)から入手した。マウスモノクローナル抗NCL抗体は、Santa Cruz社から購入した。リポポリサッカライド(LPS)およびマウスIgG1(M9269)は、Sigma-Aldrich社から購入した。組換えヒトTLR2-10×His(R&D Systems、Mineapolis、MN)は、R&D Systems社から入手した。抗HA-アガロース樹脂およびストレプトアビジン-Alexa Fluor 488は、ThermoFisher Scientific社(Walthem、MA)から入手した。TLR4遮断マウス抗体(Mabg-htlr4)、TLR5遮断ヒト抗体(Maba-htlr5)、インターロイキン(IL)-1β遮断マウス抗体、リポテイコ酸(LTA、tlr1-slta)、フラジェリン(tlrl-stfla)およびポリI:C(tlrl-picw)は、InvivoGen社(San Diego、CA)から入手した。ペプチドは、N末端にビオチン-Ahxを付加したものと付加しないものをChemPeptide社(Shanghai、China)に合成委託した。CD14に対するマウス抗体(BV711)、CD3に対するマウス抗体(PerCP-Cy5-5)、CD19に対するマウス抗体(Pacific blue)およびCD40に対するマウス抗体(BV785)とZombie NIR Cell Viability reagent(APC-Cy7)は、BioLegend社(San Diego、CA)から入手した。CD1aに対する抗体(PE、#145-040)、CD86に対する抗体(FITC、#307-040)およびMHC IIに対する抗体(FITC、#131-040)は、Ancell社(Bayport、MN)から入手した。CD14に対する抗体(PE、#MA1-80587)は、Invitrogen社から入手した。CD80に対する抗体(PE、#557227)およびCD83に対する抗体(PE、#556855)は、BD社から購入した。
【0096】
タンパク質の精製
核抽出物(TxNE)を、既報の方法と同様にして、HeLa細胞から単離し [Chen, J., et al., J Biol Chem 293: 2358-2369 (2018)]、TxNEからアフィニティー精製により核タンパク質を精製した。以下簡潔に説明する。NCL、HMGB1のそれぞれに特異的な抗体(60μg)または非免疫マウスIgG1を、600μLのプロテインG-セファロースビーズ(GE Health)に一晩かけて結合させ、抗体が結合したビーズを洗浄した後、トリエタノールアミン含有PBS(pH8~9)に溶解した0.2Mピメルイミド酸ジメチル(DMP)溶液と共に30分間インキュベートした。各樹脂をPBS-トリエタノールアミンバッファーで3回洗浄し、エタノールアミン(50mM)を含むPBSでブロッキングした。0.1Mグリシン(pH2.5)で溶出した後、TBS(50mM Tris, pH7.4、150mM NaCl)で樹脂を平衡化した。樹脂をTxNEと共に一晩インキュベートし、50mLの洗浄バッファー(0.25Mスクロース、10mM Tris、3.3mM CaCl2、0.1% (v/v) Tween 20)で洗浄後、0.1Mグリシン(pH2.5)で溶出を行い、0.3mLずつ10本の画分を回収した。タンパク質濃度は、OD280の測定値に基づいて算出し、タンパク質を含む画分(通常、画分1~3)を合わせた。エンドトキシンの混入の有無は、LALエンドトキシンアッセイ(Genscript、Piscataway、NJ)を用いて調べた。
【0097】
組換え核タンパク質を精製するために、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen、Waltham、MA)を用いて、全長NCL、全長FBRLおよび全長GAR1をコードする3種類のマスター発現ベクターを作製した(図7A図11)。NCLとFBRLの欠失変異体を発現するベクターも詳述した方法で作製した。これらの組換え核タンパク質と変異体はすべてC末端にHAタグを含む。HEK293T細胞にリン酸カルシウム法でトランスフェクションを行った後 [Cao, W., et al., Blood 107: 2777-2785 (2006)]、10% (v/v) 熱不活化血清(FBS)、2mM L-グルタミンおよび100units/mLペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEMで、5%CO2の存在下で培養を行った。トランスフェクトした細胞を48時間後に回収し、ホモジナイズして細胞質から核を分離した。次いで、核からTxNEを単離して細胞質と合わせた [Chen, J., et al., J Biol Chem 293: 2358-2369 (2018)]。この細胞溶解液を0.3mLの抗HA-アガロース(ThermoFisher Scientific)を含むカラムにロードして4℃で一晩インキュベートした。50mLの洗浄バッファー(0.25Mスクロース、10mM Tris, pH7.4、250mM NaCl、3.3mM CaCl2、0.1% Tween 20)で洗浄後、結合したタンパク質を3.5M MgCl2で溶出させて、0.3mLずつ10本の画分を回収した。溶出されたタンパク質をSDS-PAGEで確認し、タンパク質が含まれる画分を合わせてPBSで透析を行った。OD280の測定値からタンパク質濃度を算出した。
【0098】
SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティング
タンパク質サンプルをジチオスレイトールで10mMに希釈し、100℃で10分間煮沸した後、12.5% (w/v) SDS-PAGEゲルで分離した。ゲルをクマシーブルーで染色し、タンパク質を観察した。ウェスタンブロッティングでは、ゲルをPVDF膜にエレクトロブロットし、TBS-T(50mM Tris pH7.4、150mM NaCl、0.1% (v/v) Tween 20)に溶解した5% (w/v) スキムミルクで1時間ブロッキングした後、特異的抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。
【0099】
洗浄後、PVDF膜をホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識二次抗体と1時間接触させ、その後、Pierce SuperSignal West Pico化学発光基質(ThermoFisher Scientific)を用いて発光させた。
【0100】
細胞の単離および培養
シンガポール保健科学庁の倫理委員会の承認を得て、健康な献血者からバフィーコート画分を採取し、Ficoll-Paque(GE Healthcare)を用いてPBMCを単離した。単球を分離するために、まず、PBMCを5% (v/v) BCSを含むRPMI培地に1×107個/mLになるように再懸濁し、T75フラスコ(20mL/flask)に移して1時間インキュベートした。接着した単球を回収した。マクロファージとDCの培養 [Cao, W., et al., Blood 107: 2777-2785, (2006)、この文献は参照により本明細書に援用される] においては、単球を1×106個/mLになるように再懸濁し、6ウェルプレートで培養した(2mL/well)。マクロファージは、20ng/mL M-CSFを含む培地で培養し、DCは、20ng/mL GM-CSFと40ng/mL IL-4を含む培地で培養した。M-CSF、GM-CSFおよびIL-4は、R&D Systems社(Mineapolis、MN)から入手した。細胞の培養は、2日ごとに培地の半分を交換しながら、6日間行った。
【0101】
細胞の活性化
PBSに溶解した各精製タンパク質(30μg/mL)を96ウェルプレートにそれぞれ3ウェルずつ(50μL/well)加えて12時間コーティングを行い、PBMC(3×106個/mL)、単球(1×106個/mL)、マクロファージ(0.5×106個/mL)またはDC(0.5×106個/mL)を、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むマクロファージ培養用無血清培地に再懸濁して、コーティングしたプレートにそれぞれ100μL/well加えて24時間培養を行った。これらの細胞をTLRリガンドで刺激する際は、各TLRリガンドを下記の通り培地に添加した:LPS(DCとマクロファージは500ng/mL、PMBCと単球は10ng/mL、InvivoGen)、フラジェリン(1μg/mL、InvivoGen)、リポテイコ酸(LTA、10μg/mL)。細胞の活性化は、ELISAキット(Invitrogen)を用いて、培養液中のTNFαおよびIL-1βの量を測定することによって確認した。
【0102】
いくつかの実験では、TLRリガンドまたは精製核タンパク質で刺激する前に、細胞をMyD88阻害剤st-2825(MedChemExpress)またはカスパーゼ1阻害剤Ac-YVAD(InvivoGen)で1時間前処理した。他のいくつかの実験では、刺激前に細胞を抗TLR2抗体、抗TLR4抗体および抗TLR5抗体(InvivoGen)で1時間プレインキュベートした。最適なst-2825およびAc-YVAD濃度は、細胞生存率とLPS誘導サイトカイン産生の双方への影響に基づいて決定した。細胞生存率は、CELLTITER 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation(MTS) Assay(Promega)により測定した。
【0103】
いくつかの実験では、培養したDCの表面タンパク質を検出するために、細胞を6日目に回収し、マクロファージ培養用無血清培地(Thermo Fisher Scientific、cat#12065074)に1×105個/mLになるように再懸濁した。細胞をCD14に特異的な蛍光抗体(PE)、CD1aに特異的な蛍光抗体(PE)または対応するアイソタイプのIgGと共に氷上で1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。また、回収したDCを5×104個/mLになるように培地に再懸濁し、LPS(0.5μg/mL)、P2M6(200μg/mL)またはコントロールであるPBSを添加して48時間培養を行った。その後、細胞をMHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86にそれぞれ特異的な蛍光タグ化抗体、およびそれぞれに対応するアイソタイプコントロールとインキュベートした。細胞をフローサイトメトリーで分析した。
【0104】
共焦点顕微鏡観察
DCを回収し、カバーガラス上で一晩培養した。細胞をP2M6(200μg/mL)と共に4℃で1分間、5分間、15分間、30分間または60分間インキュベートした後、4% (w/v) パラホルムアルデヒド(PFA)で20分間固定した。細胞を0.1% (w/v) のサポニンで30分間透過処理し、ストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)と共に1時間インキュベートした。その後、細胞をマウントして画像解析を行った。また、P2M6をストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)と氷上で1時間プレインキュベートし、得られたペプチド-ストレプトアビジン複合体を1/10に希釈して、DCと4℃で1分間、5分間、15分間、30分間または60分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、固定や透過処理を行わずにそのままマウントした。
【0105】
別の実験では、DC(2×105個/mL)を異なる濃度(10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mLまたは200μg/mL)のP2M6と共に4℃で1時間インキュベートした。細胞を固定して透過処理し、ストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)と共に1時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、マウントして画像解析を行った。また、異なる濃度のP2M6(100μg/mL、250μg/mL、500μg/mL、1000μg/mLまたは2000μg/mL)をストレプトアビジン-AF488(500μg/mL)と共に氷上で1時間プレインキュベートした。得られた複合体を1/10に希釈して、DCと4℃で1時間インキュベートした。細胞を洗浄した後、固定や透過処理を行わずにそのままマウントした。
【0106】
すべての細胞は、DAPIを含むVectaShieldマウント液(Vector Laboratories)を用いてマウントした。100倍の油浸対物レンズ(開口数1.45)とCool/SNAP HQ2画像取得カメラ(Olympus)を備えたFluoView FV3000共焦点顕微鏡を用いて細胞を分析した。画像はFV-ASW 1.6bソフトウェアで取り込み、Imarisソフトウェア(Bitplane AG)を用いて分析した。
【0107】
溶血アッセイ
赤血球(RBC)の供給源としてバフィーコート画分を使用した。バフィーコート画分(2mL)を10mLの150mM NaClで洗浄して500gで5分間遠心分離した後、同様にPBS(pH7.4)で2回洗浄した。細胞ペレットを10mLのPBSに再懸濁し、RBCストックとした。各種ペプチドをそれぞれPBS(100μg/mL)で希釈して、V底96ウェルプレートに3ウェルずつ10μL/wellで添加した。コントロールとして、同量のPBSまたは20% (v/v) Triton X-100を添加した。赤血球をPBSで50倍希釈し、プレートに190μL/wellで添加した。37℃で1時間インキュベートした後、プレートを500gで5分間遠心分離した。上清(100μL/well)を平底プレートに移し、吸光度(OD405)を測定した。データは、1% (v/v) Triton X-100で得られた平均のOD405の測定値で補正し、溶血率として示した。
【0108】
TLRおよびNF-κB-ルシフェラーゼアッセイ
TLRによるNF-κBの活性化は、2種類のルシフェラーゼレポータープラスミドを使用するDual Luciferase Reporter Assay(Promega)を用いて確認した。1つのプラスミドは、誘導性NF-κBプロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼを発現し、もう1つのプラスミドは、構成的に活性化されているCMVプロモーターの制御下でウミシイタケルシフェラーゼを発現する [Zhang, H., et al., FEBS Lett 532: 171-176 (2002)]。これらのルシフェラーゼベクターの他に、ヒトTLRをコードするベクターも細胞にトランスフェクトした。TLR4の場合は、CD14とMD2もあわせて細胞にトランスフェクトした [Zhang, H., et al., J. FEBS Lett 532: 171-176 (2002)、この文献は参照により本明細書に援用される]。トランスフェクションは、TurboFect Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。24時間後、細胞を回収し、各精製タンパク質をコーティングした96ウェルプレートで24時間培養した。コントロールとして、コーティングしていない(ブランク)プレートで細胞を培養し、TLRリガンドで刺激した。細胞を溶解してホタルルシフェラーゼとウミシイタケルルシフェラーゼの両方の活性を測定した。各サンプルにおいて、ホタルルシフェラーゼ活性をウミシイタケルルシフェラーゼ活性で補正し、相対NF-κB活性化度として示した。
【0109】
TLR2結合アッセイ
96ウェルELISAプレートに、PBSに溶解した各精製核タンパク質をそれぞれ2ウェルずつ100μL/well(10μg/mL)で添加し、4℃で一晩コーティングを行った。プレートを0.05% (v/v) Tween 20を含むPBSで3回洗浄し、1% (w/v) ウシ血清アルブミンを含むPBS(PBS-BSA)で1時間ブロッキングした。TLR2-10×HisをPBS-BSAで0.375~6μg/mLの濃度に段階希釈し(R&D Systems)、コーティングしたプレートに加えて4℃で一晩インキュベートした。マウス抗His抗体(Sigma)と共に1時間インキュベートした後、HRP結合二次抗体(DAKO)と共に30分間インキュベートすることにより、結合したTLR2-10×Hisを検出した。プレートに3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液(Thermo Fisher Scientific)を加えて発色させ、50μLの2N H2SO4を加えて反応を停止した。450nmの吸光度を測定した。
【0110】
ペプチドのPBMCとの結合
100μLのマクロファージ培養用無血清培地に再懸濁したPBMC(3×106個/mL)を、各種ペプチド(200μg/mL)と共にインキュベートした。PBMC(100μL)と各種ペプチドとのインキュベーションは、37℃または4℃で1時間行った。細胞を2%FBS/PBSで2回洗浄し、ストレプトアビジン-AF488およびZombie(NIR)Fixable viability stain-APC-Cy7と共に4℃で30分間インキュベートした。その後、細胞を室温にて1%PFAで30分間固定し、Fortessa analyser(BD)を用いて分析した。いくつかの実験では、PBMCを各ペプチドとインキュベートした後、Zombie(NIR)Fixable viability stain(APC-Cy7)と共に4℃で30分間、インキュベートした。その後、細胞の固定と透過処理を、BD CYTOFIX/CYTOPERM(商標)キットを用いて4℃で20分間行い、ストレプトアビジン-AF488を添加して4℃で30分間インキュベートした。いくつかの実験では、PBMCを各ペプチドとインキュベートした後、単球に特異的な蛍光マウス抗体(CD14/BV711)、T細胞に特異的な蛍光マウス抗体(CD3/PerCP-Cy5-5)およびB細胞に特異的な蛍光マウス抗体(CD19/Pacific blue)で染色した。その後、細胞を、膜透過処理の有無にかかわらず、Zombie(NIR)Fixable viability stain-APC-Cy7およびストレプトアビジン-AF488で染色した。これらの実験では、単球、T細胞およびB細胞をそれぞれゲーティングし、各ペプチドの細胞表面への結合および細胞内への透過を確認した。
【0111】
実施例2
ヌクレオリンは、PBMC、単球、マクロファージおよび樹状細胞を活性化する強力なアラーミンである
末梢血単核細胞(PBMC)を刺激するために、脂質を除去した核抽出物(TxNE)からアフィニティー精製によりヌクレオリンを精製した [Chen, J., et al., J Biol Chem 293: 2358-2369 (2018)、この文献は参照により本明細書に援用される](図1A)。HMGB1をアラーミンコントロールとして精製した(図1A)。ネガティブコントロールの調製用に非免疫マウスIgG1カラムも作製した。各アフィニティー樹脂をTxNEと共にインキュベートし、洗浄後、結合したタンパク質を溶出した。各カラムから10本の溶出画分を回収し、このうちタンパク質が含まれていない10番目の画分同士を合わせて、第2のネガティブコントロールとして使用した。エンドトキシン混入の有無は、Limulus amoebocyte lysate (LAL)エンドトキシンアッセイ(GenScript、Piscataway、NJ)を用いて確認した(例えば、図2)。
【0112】
NCLをコーティングしたプレートでPBMCを刺激したところ、一貫してTNFαとIL-1βの産生が誘導された(図1B、C)。これらのサイトカインは、単球でも同様に誘導された(図1D、E)。コントロールとして使用した、非免疫IgGカラムからの溶出物や混合した10番目の画分では、いずれのサイトカインも誘導されなかったが、HMGB1ではサイトカインの誘導が確認された(図1B~E)。また、NCLとHMGB1はいずれも、樹状細胞(DC)とマクロファージからのサイトカイン産生を誘導した(図1F、G)。全体として、NCLは、TLR2、TLR4およびTLR5を活性化することが知られているHMGB1よりも多くの量のサイトカインを誘導した [Sims, et al., Annu Rev Immunol 28: 367-388 (2010); Li, J. et al., Mol Med 9: 37-45 (2003)]。しかし、NCLは、HMGB1とは配列が異なる。
【0113】
実施例3
ヌクレオリンはTLR2を活性化する
2種類のタンパク質NCLとHMGB1で、PBMCにおけるTNFαとIL-1βの産生誘導動態に関して比較した。具体的には、PBMCをHMGB1、NCLまたはコントロールとしてLPSで最大24時間刺激し、その間2.5時間後、5.0時間後、10時間後、14時間後、18時間後および24時間後のTNFαとIL-1βの産生量を測定した(図1H~J)。NCLとHMGB1は、IL-1βを誘導し、急速にプラトーに達する同様の動態を示した(図1H、I)。また、TNFαもこの2種類のタンパク質により誘導され、初期は直線的に増加し、後半に顕著に急増する同様のパターンが見られた(図1H、I)。TNFα誘導の後半の急増は、PBMCが産生するIL-1βによる二次的なオートクライン刺激によるものと思われる(図4)。LPSで刺激したPBMCでは、初期のIL-1βの急増も後半のTNFαの急増も見られなかった(図1J)。NCLとHMGB1によるサイトカイン産生が類似していることから、両者は類似の受容体(HMGB1についてはTLRであることがわかっている)を活性化することが示唆される [Sims, G. P., et al., Annu Rev Immunol 28: 367-388 (2010); Li, J. et al., Mol Med 9: 37-45 (2003)]。
【0114】
次に、MyD88を阻害した場合にもNCLがサイトカインを誘導するかを調べた [Kawai, T. and Akira, S., Semin Immunol 19: 24-32 (2007)]。この実験では、MyD88阻害剤であるst-2825を用いた(図3A)。st-2825の至適濃度は、細胞毒性およびLPS誘導サイトカイン産生抑制に関する用量設定実験により30μMと決定した(図5)。カスパーゼ1阻害剤であるAc-YVADも同様に至適濃度を10μMに設定し、他のアラーミン感知経路の寄与を評価するために使用した(図5)。st-2825は、単球におけるNCLによるTNFαとIL-1βの誘導を部分的ではあるが有意に抑制し、さらに予想通り、HMGB1とLPSによるこれらのサイトカインの誘導も抑制した(図3B)。Ac-YVADにより、3種類の刺激物質によるIL-1β誘導はいずれも効果的に低下し、TNFα誘導も部分的に抑制された(図3B)。Ac-YVADによるTNFα産生の抑制は、単球が産生するIL-1βを介したオートクライン型の単球の活性化をブロックしたことによるものと考えられる(図4)。
【0115】
NCLがどのタイプのTLRを活性化するのかを調べるために、NF-κB誘導型ルシフェラーゼ発現ベクターをヒト胚性腎臓由来293T細胞にトランスフェクトしてルシフェラーゼアッセイを行った(図3A) [Zhang, H., et al., FEBS Lett 532: 171-176 (2002)、この文献は参照により本明細書に援用される]。TLRと、必要な場合は対応する共受容体とを組み合わせて、TLR2/1/6/10、TLR4/CD14/MD2、TLR5およびTLR3/7/8/9という計4種類の組み合わせでトランスフェクションを行った。アッセイには2種類のルシフェラーゼ発現ベクターを使用した。1つのベクターは、NF-κB遺伝子プロモーターの5回反復配列の制御下でホタルルシフェラーゼを発現し、もう1つのベクターは、構成的に活性化されているCMVプロモーター制御下でウミシイタケルシフェラーゼを発現する(図3A)。TLR3/7/8/9の4種類の細胞内TLRを発現させた細胞では、NCLに対する検出可能な応答は見られなかった(図6)。TLR4/CD14/MD2を組み合わせて発現させた細胞は、予想通り、強い自己活性化が起こり [Zhang, H., et al., FEBS Lett 532: 171-176 (2002)]、バックグラウンドのルシフェラーゼ活性が高い状態であったが、NCLの刺激により、僅かではあるが有意なさらなるNF-κBの活性化が誘導された(図6)。NCLによるTLR5の活性化は、このアッセイでは一貫して観察されなかったものの、TLR2/TLR1/TLR6/TLR10の組み合わせではNCLにより強力な活性化が見られた(図6図3C)。
【0116】
このアッセイを用いて、NCLとHMGB1で、TLR2、TLR4およびTLR5の活性化に関して比較したところ、いずれもTLR2/TLR1/TLR6/TLR10の組み合わせを顕著に活性化した(図3C)。HMGB1は、NCLとは異なり、TLR5も一貫して活性化した(図3C)。また、TLR4は自己活性化されベースが高い状態であったが、いずれのタンパク質も僅かではあるが有意なさらなるTLR4の活性化をもたらした(図3C)。いずれにしても、以上の結果から、TLR2がNCLとHMGB1を感知する主要な受容体であることが裏付けられた。次に、NCLまたはHMGB1に対する効果的なTLR2応答にTLR1、TLR6またはTLR10が必要かどうか、さらにTLR5がこの機能においてTLR2と共同的に作用するかどうかを調べた。TLR2のみを発現させてTLR1/TLR6/TLR10と一緒に発現させない場合も、TLR2をTLR5と共に発現させた場合も、NCLまたはHMGB1に対するTLR2応答に有意な影響はなかった(図3D)。
【0117】
したがって、TLR2は、HMGB1の感知受容体であると同時に、NCLの感知受容体であることが明らかである。次に、天然の細胞を用いた場合に、TLR2、TLR4およびTLR5がNCLやHMGB1の認識にどのように寄与しているかをさらに分析した。各TLRを遮断することが知られている抗体と共に単球をプレインキュベートし、次いで、各TLRの微生物リガンド、すなわちリポテイコ酸(LTA)、LPSおよびフラジェリンで刺激した(図3E)。3種類の抗体すべてで、HMGB1による単球からのTNFα産生が有意に阻害されたことから、HMGB1は、これまで報告されているようにTLR5やTLR4だけでなく、TLR2も活性化することが示唆された(図3E) [Sims, G. P., et al., Annu Rev Immunol 28: 367-388 (2010); Das, N. et al., Cell Rep 17: 1128-1140 (2016)]。NCLに対する単球の応答では、TLR5抗体による有意な影響は見られず、TLR4抗体による阻害も軽微であった(図3E)。しかし、TLR2抗体では、NCLに対する単球の応答は強く阻害された(図3E)。これらの結果は、ルシフェラーゼを用いて得られた結論と概ね一致している(図3D)。以上より、HMGB1はTLR2、TLR4およびTLR5によってより寛容に認識されるが、NCLはTLR2によってより選択的に認識されることが分かった。NCLは、710アミノ酸からなるタンパク質であり、TLR2の活性化に関わるNCLの特定の領域を同定することは興味深いことである。
【0118】
実施例4
NCLのTLR2反応性領域の同定
NCLポリペプチド(配列番号1)は、酸性残基が特徴的な277残基のN末端ドメインと、4つのRNA認識モチーフがタンデムに連結した375残基からなる領域(RRM1~4) [Maris, C., Dominguez, C. & Allain, F. H., FEBS J 272: 2118-2131 (2005)] と、48残基のRGG型のグリシン-アルギニンリッチ(GAR/RGG)領域(配列番号4) [Thandapani, P., et al., Mol Cell 50: 613-623 (2013)] と、12残基の短いC末端テールの7つのドメインとを含む(図7A)。一般に、GAR配列もRNA結合性を有する [Maris, C. Dominguez, C. & Allain, F. H., FEBS J 272: 2118-2131 (2005); Thandapani, P., et al., Mol Cell 50: 613-623 (2013)]。どのドメインがTLR2とサイトカイン産生を賦活するかを特定するため、C末端にHAを付加したNCL(NCL-HA;配列番号46に示されるGAR/RGGドメイン)を293T細胞で発現させ、抗HA抗体カラムを用いてアフィニティー精製を行った。この組換えNCL-HAは、単球におけるTNFαとIL-1βの産生誘導において、抗NCL抗体を用いてTxNEからアフィニティー精製した内在性NCLとの違いは見られなかった(データ示さず)。次に、C末端から順次アミノ酸を欠失させた6種類のNCL-HA変異体を作製した。C末端から12アミノ酸が欠失したNCL(698)-HA変異体(配列番号47に示されるGAR/RGGドメイン)だけが、単球を刺激することができた(図7B)。欠失部分がC末端の12残基を超えて上流のGAR/RGGの28残基まで及んだ場合、その結果生じるNCL(670)-HA変異体(配列番号48に示されるGAR/RGGドメイン)は単球を刺激できなかった(図7A、B)。
【0119】
NCLの48残基のGAR/RGG領域の完全性は、NCLに対するTLR2応答に必要であると考えられる(図7A)。実際、このGAR/RGG領域内の37残基の内部欠失により作製されたNCL(Δ652-698)-HA変異体(配列番号49に記載のGAR/RGGドメイン)も不活性な変異体であった(図7B)。したがって、特異的なTLR2リガンドは、GAR/RGG領域に存在するものと考えられる。
【0120】
次に、TLR2とNCLの間に直接的な結合があるかどうか、より具体的には、TLR2がNCLのGAR/RGG領域に結合するかどうかを検討した。精製NCL、精製NCL-HAまたは精製NCL(649)-HA変異体をプレートにコーティングして、Hisタグ化TLR2と共にインキュベートした。コントロールとして、BSAをコーティングした。結合したTLR2を抗6×His抗体を用いて検出したところ、TLR2は、NCLとNCL-HAの両方に結合して用量依存性と飽和性を示したが、GAR/RGG領域が欠失したNCL(649)-HA変異体には結合しなかった(図7C)。また、TLR2をプレートにコーティングして、可溶型NCL-HA、可溶型NCL(649)-HAまたは可溶型NCL(522)-HAとインキュベートし、結合したNCLタンパク質を抗HA抗体を用いて検出した。NCL-HAは、TLR2に結合して用量依存性と飽和性を示したが、このような結合はGAR/RGG領域が欠失した2種類のNCL変異体では観察されなかった(図7D)。
【0121】
NCLによる単球表面のTLR2の賦活は、TLR2特異的抗体によってブロックされたことから(図3E)、この抗体がNCLのTLR2への結合もブロックするかどうかを調べた。TLR2をコーティングして、ウサギ抗TLR2抗体と共にプレインキュベートした後、NCLまたはNCL-HAを添加してさらにインキュベートした。コントロールとして、コーティングしたTLR2をウサギ抗TLR4抗体と共にプレインキュベートした(図3E)。抗TLR2抗体とのプレインキュベーションにより、コーティングしたTLR2へのNCLおよびNCL-HAの結合は完全にブロックされたが、抗TLR4抗体とのプレインキュベーションでは阻害されなかった(図7E)。したがって、TLR2はGAR/RGG領域を介してNCLに結合し、この結合によって単球でのシグナル伝達が活性化され、サイトカイン産生につながると考えられる。
【0122】
TLR2がNCLの別の部位にも結合するかどうかを確認するため、NCL-HAと同様に8種類のNCL-HA変異体をコーティングして、TLR2と共にインキュベートした(図7F)。予想通り、TLR2はNCL-HAとNCL(698)-HAには結合したが、他のNCL変異体では、GAR/RGG領域の一部が残存するNCL(670)-HAに対してのみ弱い結合を示した(図7A、F)。しかし、この弱いTLR2との相互作用では、NCL(670)-HAがTLR2とサイトカイン産生を活性化するには明らかに不十分であった(図7B)。これらの結果から、NCLのGAR/RGG領域とTLR2が特異的に結合し、単球のサイトカイン産生を活性化することがわかった。
【0123】
実施例5
GAR/RGGペプチドもTLR2により認識され、TLR2を介して単球を活性化することができる
NCLのC末端GAR/RGG領域(配列番号46)内の48残基のGAR/RGGドメイン(G651~G698、配列番号4)には4つの反復領域、すなわち、head-to-tailに連結した2つの反復配列(GGFGGRGGGRggfggrgggr;配列番号17)とtail-to-tailに連結した2つの反復配列(GGRGGFGGRgRGGFGGRGG;配列番号18)、および非反復C末端領域(FRGGRGGGG;配列番号19)を含む(図7A、8A)。このGAR/RGG領域の特定の配列がTLR2により優先的に認識されるかどうかを確認するために、N末端側の3つの反復配列を含むペプチドNCL-P1(32残基;配列番号7)とC末端側の3つの反復配列を含むペプチドNCL-P2(36残基;配列番号8)という、重複する2種類のペプチドを合成した(図8A)。また、GAR/RGGドメインの外側にあるNCLのC末端12残基を含むコントロールペプチド(配列番号25)も合成した(図8A)。NCL-P1とNCL-P2は、中央の2つの反復配列が重複するように設計した。すべてのペプチドは、N末端にビオチンタグを含むように合成した。
【0124】
TLR2をプレートにコーティングして、0.64~1,000ng/mLの濃度の各ペプチドと共にインキュベートした。NCL-P1とNCL-P2では、同様の用量依存性と飽和性を示すTLR2との結合が見られた(図8B)。しかし、NCL-P3(配列番号25)では、検出可能なTLR2との結合は見られなかった。この3種類のペプチドを用いてNF-κBルシフェラーゼアッセイも行った。NCL-P1とNCL-P2では、同様のTLR2を介したNF-κBの活性化が見られたが、NCL-P3では見られなかった(図8C)。また、この3種類のペプチドを10~160μg/mLの濃度で培地に添加し、単球を刺激した。NCL-P3では、いずれの濃度においても、TNFαの誘導は見られなかった(図8D)。NCL-P1とNCL-P2でも、低濃度(10μg/mLと20μg/mL)では、TNFαの誘導はほとんど見られなかったが、高濃度(80μg/mLと160μg/mL)では、NCL-P1とNCL-P2の両方でTNFαの産生が強く誘導された(図8D)。NCL-P1とNCL-P2で違いが見られたのは、濃度が40μg/mLのときであり、このときNCL-P2はNCL-P1の約10倍のTNFαを誘導した(図8D)。この2種類のペプチドをプレートにコーティングして単球を刺激した場合も、NCL-P2はNCL-P1よりも多くのサイトカインを誘導した(図8E)。したがって、NCL-P2はNCL-P1より強いアラーミン活性を有している。
【0125】
全体として、可溶形態で添加した方が、NCL-P2もNCL-P1も、それぞれ固定化した場合より多くの量のサイトカインを誘導した(図8D、8E)。一方、NCL-HAは、表面にコーティングした方が可溶型NCL-HAよりも多くの量のサイトカインを誘導した(図9)。NCLのような大型のタンパク質をプレートにコーティングした場合は、TLR2に対してGAR/RGGによる多重刺激が起こるが、短いGAR/RGGペプチドをコーティングした場合は、これらの配列へのTLR2のアクセスが妨げられるのではないかと推測される。
【0126】
NCLのこの新規のTLR2リガンド領域に対する理解をさらに深めるために、NCL-P1とNCL-P2の重複配列部分に相当するペプチド(NCL-P6;配列番号9)、さらにこの共通配列を半分ずつ含む2種類のペプチド(NCL-P4;配列番号26およびNCL-P5;配列番号50)を合成した(図8A)。また、この48残基のGAR/RGG領域の非反復C末端部分に相当する短いペプチドも合成した(NCL-P7;配列番号51)(図8A)。TLR2をコーティングして、この4種類のペプチドと共に様々な濃度でインキュベートした。NCL-P2をポジティブコントロールとして使用した。NCL-P6は、TLR2との結合においてNCL-P2をほぼ再現していたが、飽和状態に達したのはかなり高い濃度(80μg/mL)になってからであった(図8F)。NCL-P2では、3.2μg/mLで結合が飽和に達した(図8F)。NCL-P4は、NCL-P6ペプチドのN末端側の半分に相当するペプチドであり、試験に用いた最高濃度(200μg/mL)でもTLR2との結合は見られなかった。NCL-P5は、NCL-P6のC末端側の半分に相当するペプチドであり、200μg/mLでのTLR2との結合は低レベルであった(図8A)。このことから、20残基のNCL-P6ペプチドは、NCLのアラーミン活性の中核をなしているものの、最適でないことが示唆される。この7種類のペプチドで、単球におけるサイトカイン誘導についても比較した。NCL-P1とNCL-P2以外では、NCL-P6のみ単球におけるTNFα誘導が見られた(図8G)。IL-1βの産生量を測定した場合も同様の結論に達した(図10)。
【0127】
実施例6
フィブリラリン(FBRL)とGAR1のアラーミン活性
GAR/RGGは、自己抗原として知られているBox C/D型の低分子核小体RNP(snoRNP)サブユニットであるフィブリラリン(FBRL)やBox H/ACA型のsnoRNPサブユニット1(GAR1)などの他の核小体タンパク質を含む核タンパク質において多様な配列と長さを有する共通のモチーフである [Welting, T. JJ., Raijmakers, R. & Pruijn, G. J., Autoimmunity Reviews 2: 313-321 (2003); Thandapani, P., et al., Mol Cell 50: 613-623 (2013)]。NCLに関する我々のデータに基づいて、他のいくつかのGAR/RGG含有自己抗原のGAR/RGGモチーフがアラーミン活性を有し、抗原が本来有する自己免疫原性に寄与しているかどうかを調べた。このような情報は、SLEや他の自己免疫疾患におけるANA誘導の分子機構を明らかにするのに役立つと考えられる。
【0128】
FBRLは、N末端付近に長いGAR/RGG領域(RGGGFGGRGGFGDRGGRGGRGGFGGGRGRGGGFRGRGRGG;FBRL-GAR/RGG;配列番号5)を含み、これに続いて短いGAR/RG領域を含む自己抗原である。組換えFBRLを作製し、アラーミン活性を有するかどうかを確認した(図11A;配列番号2)。作製した組換えFBRLにより、PBMCからのTNFα産生が強く誘導された(図11B)。次に、FBRLから長いGAR/RGG領域を欠失させてFBRL(Δ8-64)-HA変異体を作製したところ、FBRLのTNFα誘導が低下した。このことから、このGAR/RGGもアラーミンモチーフであることが示唆された。同様に、このGAR/RGG領域を含むペプチドとして、FBRL-P1(配列番号10)、FBRL-P2(配列番号11)およびFBRL-P3(配列番号52)を合成した(図11C)。FBRL-P1とFBRL-P2は、PBMCを活性化したが、FBRL-P3は活性化しなかった(図11C)。FBRL-1とFBRL-2はいずれも通常のRGG繰り返し配列を含むが、FBRL-P3は大部分がポリG配列であることから、これは当然の結果であった(図11A)。これらのデータに基づいて、C末端付近に長いGAR/RGG配列(RGGGRGGRGGGRGGGGRGGGRGGGFRGGRGGGGGGFRGGRGGG、GAR1-GAR/RGG、配列番号6)を含むGAR1(配列番号3)がアラーミン活性を有するかどうかを調べた(図11D)。我々は、組換えGAR1-HAを作製し、これが実際にPBMCを活性化することを確認した(図11E)。したがって、Thandapani et al. (2013) に見事にまとめられているようなさらに多くのGAR/RGG含有核タンパク質がアラーミン活性を示すことが予測される。
【0129】
我々のデータは、NCLが自己免疫原性エピトープとアジュバントシグナルの両方を含む核タンパク質のプロトタイプであることを示唆している。また、自己抗原として公知である、GAR/RGG配列を含むFBRLにも同じことが当てはまることが示された。GAR1が自己抗原であるか否かについては、まだ確認できていない。GAR1がPBMCにおいてサイトカインを誘導することは簡単に確認している(図11)。数多くの核タンパク質がGAR/RGGモチーフまたは類似のモチーフを含んでおり、そのアラーミン活性がこれらのモチーフの一部に共通しているとすれば、多くの核タンパク質が自己抗原であることは驚くにはあたらない。このようなGAR/RGG含有核タンパク質のすべてまたは一部が、自己反応性B細胞が認識するエピトープを有しているかどうかは不明である。
【0130】
実施例7
NCL-P1とNCL-P2は、融合抗原を抗原提示細胞の細胞質に送達し、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)免疫を誘導する
従来のウイルスワクチン開発では、弱毒化生ワクチンが有利であった。これは、弱毒化生ワクチンが、CTLの効果的な活性化に必要な抗原提示細胞へのウイルス抗原の送達能力を保持しているという理由からである。細胞質への抗原の透過を促すために、研究者の間で組換えワクチン抗原と細胞透過性合成ペプチド(CPP)を融合させるという試みが行われた。我々はNCL-P2アジュバント活性ペプチドがどのようにPBMCに結合するかを調べている際に、NCL-P2が細胞膜を透過するという予想外の特性を発見した。このことから、このアジュバント活性ペプチドは、融合したワクチン抗原によってAPCのTLR2を活性化することができるだけでなく、融合したワクチン抗原をAPCの膜を通過させて、CD8 T細胞にMHC Iを介して抗原提示し、CTL免疫を誘導することができるという2つの能力を有する稀なペプチド性アジュバントであることが分かった。なお、NCL-P1もCPPである。
【0131】
GAR/RGGペプチドであるNCL-P2は、強力なCPP活性を有する
まず、NCL-P2ペプチドが、主に単球、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞を含むPBMCの異なる細胞系統にどのように結合するかを調べるため、これらの細胞を健康なヒト献血者から単離した。ビオチンタグ化NCL-P2ペプチドをPBMCと共に37℃で1時間インキュベートした後、単球(CD14)、B細胞(CD19)、T細胞(CD3)にそれぞれ結合する蛍光標識した細胞系統特異的抗体と共にPBMCをインキュベートした(図13)。死細胞の同定は、BioLegend社のZombie Cell Viability reagent(APC-Cy7)とのインキュベーションにより行った。結合したNCL-P2の検出は、ストレプトアビジン-AF488を用いて行い、細胞を洗浄して、フローサイトメトリーで分析した。37℃でのNCL-P2の細胞表面への結合レベルは、3種類の細胞で明らかに異なっており、単球では大部分の細胞で、B細胞とT細胞ではそれよりは少ない一部の細胞で、NCL-P2の細胞表面への結合が見られた(図13)。しかし、細胞を透過処理した場合は、PBMCのすべての種類の細胞ではるかに高いレベルのNCL-P2が検出され、NCL-P2が細胞内に多く貯留していたことが示唆された。1つの理由としては、結合したNCL-P2ペプチドが3種類のいずれの細胞でも37℃で急速にエンドサイトーシスされたということが考えられる。単球のエンドサイトーシス能力がB細胞や特にT細胞よりもはるかに高いということは広く知られているが、3種類の細胞で同程度の細胞内NCL-P2ペプチドが検出されていることから、当該ペプチドが受容体非依存的かつ非特異的にこれらの細胞内に透過しているのではないかという疑問が生じた。
【0132】
この実験を、細胞表面への結合には影響しないがエンドサイトーシスを妨げると予想される4℃でも行った(図13)。単球では、細胞表面に結合したNCL-P2ペプチドの量が4℃で有意に増加した。このことは、エンドサイトーシスが阻害されてNCL-P2ペプチドが細胞表面に蓄積されていると考えれば矛盾しない。T細胞表面にも少量ながらNCL-P2の蓄積が見られたが、B細胞では蓄積は見られなかった(図13)。しかし、単球、B細胞、T細胞の3種類のいずれの細胞においても、エンドサイトーシスでは説明できないほど多くのNCL-P2が細胞内に貯留していた(図13)。これは、アンテナペディア転写因子ペネトラチン(RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号15)およびHIVタンパク質TAT(YGRKKRRQRRR、配列番号16)のペプチドで最初に報告された細胞透過性ペプチド(CPP)の挙動と一致する [Derossi, D. et al., J Biol Chem 269: 10444-10450 (1994); Vives, E., et al., J Biol Chem 272: 16010-16017 (1997)]。CPPの細胞膜の透過は受容体非依存的であり、4℃で起こりうる [Derossi, D. et al., J Biol Chem 269: 10444-10450 (1994); Derossi, D. et al., J Biol Chem 271: 18188-18193 (1996)]。
【0133】
一部の公知のカチオン性CPPは、アルギニン残基(R)とリジン残基(K)が多いという特徴がある [Brock, R., Bioconjug Chem 25: 863-868 (2014); Takeuchi, T. and Futaki, S., Chem Pharm Bull (Tokyo) 64: 1431-1437 (2016)]。実際、NCL-P2ペプチドにはアルギニン残基(R)が多く含まれている。これらのアルギニン残基をリジン残基に変更した後も、NCL-P2ペプチドがCPP活性を保持しているかどうかを評価するために、NCL-P2の8個のアルギニン残基をすべてリジン残基に変更した変異体NCL-P2(R/K)(図16;配列番号20)を作製した。驚くべきことに、この変異ペプチドは、37℃でも4℃でもNCL-P2のようにPBMC内に透過しなかったことから(図17B図22)、NCL-P2のアルギニン残基は、細胞表面への結合と細胞内への透過に重要であることがわかった。
【0134】
次に、NCL-P1ペプチドも細胞膜を透過するかどうかを調べた。NCL-P1ペプチドも同様にPBMCと共にインキュベートし、細胞を固定して透過処理した後、ストレプトアビジン-AF488とインキュベートして、細胞内に貯留しているNCL-P1ペプチドを検出した(図14)。NCL-P1ペプチドとNCL-P2ペプチドは、4℃で同様の細胞透過性を示した(図14、右図)ことから、NCL-P1ペプチドもCPPである。次に、ペプチドP3、P4、P5、P6、P7についても同様に検討した。P3は、GAR/RGGモチーフとは無関係の短い12個のアミノ酸からなるペプチドであり、細胞内での貯留は認められなかった(図14、左図)。NCL-P4ペプチド、NCL-P5ペプチド、NCL-P6ペプチドおよびNCL-P7ペプチドは短いGAR/RGGペプチドであり、いずれも細胞透過性を示さなかった。これらの4種類の短いペプチドの中で最も長いのはNCL-P6であり、これはNCL-P1ペプチドとNCL-P2ペプチドで重複する配列部分に相当する。NCL-P6はわずかにアジュバント活性を保持していたが(図8G図10)、有意なCPP活性は示さなかった。
【0135】
NCL-P2ペプチドとNCL-P1ペプチドのCPPとしての特性により、TLR2との結合とAPCの活性化以外に、別のアジュバント活性が提供される。これは他のTLRリガンドではほぼ見られない。このアジュバント活性ペプチド、特にNCL-P2、を組換えワクチン抗原と融合させるだけで、単離したワクチン抗原を「分子ウイルス」に変換することができる可能性がある。この「分子ウイルス」は、1)B細胞とT細胞のエピトープを有し、防御抗体とT細胞を誘導する、2)TLR2リガンドを有し、APCとCD4 T細胞を活性化してB細胞とT細胞の活性化を助ける、かつ3)APCに「感染」してワクチン抗原を細胞質に送達し、CD8 T細胞へのMHC I提示とCTLの生成を促す(図15)という特徴を有する。したがって、NCL-P2ペプチドのデュアルアジュバント特性は、組換えウイルスタンパク質やがんタンパク質を、生ウイルスベースのワクチンや弱毒化生ウイルスワクチンのように体液性免疫と細胞性免疫を誘導する(不活化ウイルスワクチンでは失われている特性)強力なワクチンにする上での大きな技術障壁(図15)を克服するものである。
【0136】
実施例8
NCL-P2のアジュバント活性とCPP活性は配列変更により増減する
NCL-P2以外にも、アジュバント活性を示すGAR/RGG配列が存在した(図11)。また、NCL-P2のR/K変異体では、アジュバント活性が失われた(図16)。そこで、NCL-P2ペプチドのいくつかのアミノ酸を置換することでそのアジュバント活性に影響が生じるかどうかを調べるために、一連の変異体NCL-P2ペプチドを合成し、いくつかの変更がアジュバント活性を高めることを見出した。8種類のNCL-P2変異体を図16Aに示す。このうち、すべてのアルギニンをフェニルアラニン残基に変更した変異体(NCL-P2R/F、配列番号22)は合成できなかった。合成することができた7種類のNCL-P2変異体でPBMCを刺激し、変更に伴うアジュバント活性の増減を調べた。グリシン残基(G)の割合が高いことを除けば、NCL-P2配列に含まれる残基は、規則的な間隔で配置されているR残基とF残基のみである(図16A)。図16Bに示すように、NCL-P2のR残基を最も近縁のK残基に置換すると(配列番号20)、そのアジュバント活性が完全に消失し、F残基を近縁のY残基(配列番号23)またはW残基(配列番号24)に変更した場合も、そのアジュバント活性は顕著に低下した。すべてのF残基をR残基に置き換えると(配列番号21)、そのアジュバント活性は大幅に低下した。これらのデータから、NCL-P2がアジュバント活性を示すためには、特定のRとFの組成と位置が必須条件であることが示唆される。
【0137】
次に、NCL-P2の「RGRGG」という不規則な配列を、1個のG残基を加えることによって、NCL-P2ペプチドのその他の部分に見られる規則的な配列「RGGRGG」に変更した。このNCL-P2+G(配列番号12)変異体ペプチドは、野生型NCL-P2ペプチドと比較してアジュバント活性が3倍に増加した(図16B)。次に、NCL-P2+G変異体の配列「RGGFRGG」を規則的な配列「RGGFGGRGG」にする試みをさらに行った。このNCL-P2+3G変異体ペプチド(配列番号13)では、アジュバント活性のさらなる向上は見られず、むしろNCL-P2+G変異体ペプチドの高いアジュバント活性より若干低下した(図16C)。同時に、NCL-P2+Gにおけるアジュバント活性の増加は、G残基を追加することで作られたより規則的な配列「FGGRGGRGG」に起因すると推測し、NCL-P2の配列を、基本的に「FGGRGGRGG」を4回繰り返した配列に再編した。このNCL-P2+2G変異体ペプチド(配列番号14)では、野生型NCL-P2ペプチドと比べて、アジュバント活性が増加するというよりむしろ減少していることから、NCL-P2+Gのようにアジュバント活性を高めることができる内因性の配列決定因子がNCL-P2に存在することが示唆される。
【0138】
7種類のNCL-P2変異体では、CPP活性の増減も見られた(図17)。NCL-P2R/K変異体(配列番号20)では、アラーミン活性だけでなく、CPP活性も失われた。NCL-P2F/R変異体(配列番号21)では、アラーミン活性は有意に失われたが、CPP活性は大幅に増加した(図17C)。NCL-P2F/Y変異体(配列番号23)では、アラーミン活性は減少したが、CPP活性は有意に増加した(図17D)。NCL-P2F/W変異体(配列番号24)では、アラーミン活性は失われたが、CPP活性は保持された(図17E)。NCL-P2+G(配列番号12)とNCL-P2+3G(配列番号13)では、いずれもアラーミン活性は有意に増加したが、CPP活性はわずかな上昇に過ぎなかった(それぞれ図17F、H)。NCL-P2+2G(配列番号14)変異体では、アラーミン活性は若干低下したが、CPP活性はNCL-P2と同程度であった(図17G)。NCL-P2R/F変異体(配列番号22)は合成することができなかったため、検討されていない(図16A)。
【0139】
実施例9
9.1 ペプチドP2+Gは樹状細胞(DC)内に透過する
DCは、宿主にとって、ワクチンを効果的な免疫に変換するのに不可欠な存在である [Steinman and Hemmi, 2006]。P2+GペプチドがDC内に透過することができれば、ワクチン抗原をDCの細胞質に送達し、CD8 T細胞へのMHCクラスI提示が可能になる [Blum, J. S., Wearsch, P. A., Cresswell, P., Annu Rev Immunol 31:443-473, (2013)]。健康な献血者から単離した単球からDCを培養した [実施例1とCao, W., et al., Blood 107: 2777-2785 (2006) に記載の方法と同様に実施した。この文献はその全体が本明細書に援用される]。カバーガラス上で、DCをP2+G(200μg/mL)と共に4℃で1~60分間(1分、5分、15分、30分および60分)インキュベートした。細胞を固定して透過処理した後、ストレプトアビジン-Alexa Fluor 488(AF488)(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)と共にインキュベートした。細胞を洗浄後、DAPI含有培地でマウントして共焦点顕微鏡で観察した。図18Aに示すように、P2+Gはインキュベーション開始後1分以内にDC内に透過し、P2+Gの細胞内貯留量は5~60分後で漸増した。このペプチドは、細胞質への透過よりも速く核小体に透過した。
【0140】
9.2 P2+Gは膜を通過してストレプトアビジンをDCの細胞質へと運ぶ
P2+Gをストレプトアビジン-AF488と共に氷上で30分間インキュベートして、ストレプトアビジン-P2+G結合体を形成させた。このようにして予め形成した結合体を、固定や透過処理を行っていないカバーガラス上のDCと共にインキュベートした。細胞を洗浄して固定し、透過処理は行わずに、そのままマウントして共焦点顕微鏡で解析した。P2+Gと同様に、P2+G-ストレプトアビジン結合体もDC内に速やかに透過した(図19B)。ストレプトアビジンは、約56kDaの4量体タンパク質である。P2+G-ストレプトアビジン結合体は、P2+Gとは異なり、核小体に集積しなかった。その代わり、細胞質に多く局在していた。
【0141】
また、P2+G-ストレプトアビジン結合体は、P2+Gペプチドよりもはるかに速くDC内に透過し、5分以内に飽和状態に達することが確認された(図18B)。P2+GペプチドがDCの細胞質で飽和状態に達したのは30分後であった(図18A)。我々は、ストレプトアビジンが複数のP2+Gペプチドと結合することで、P2+Gの細胞膜との結合と細胞膜の透過が促進されたのではないかと考えている。いずれにしても、P2+Gは細胞膜を透過して細胞質へカーゴタンパク質を輸送することができる。
【0142】
9.3 P2+G単独では、高濃度で効果的にDC内に透過する
P2+Gペプチドは、概してカチオン性である。このカテゴリーに属するペプチドの代表として、さまざまな長さのオリゴアルギニンペプチドがある [Mitchell, D. J., et al., J Pept Res 56: 318-325 (2000)]。オリゴアルギニンペプチドは、CaCl2のようにまず細胞膜に集積し、その後、膜の再編成を誘導することで膜を透過するというメカニズムを有すると考えられている [Mitchell, D. J., et al., J Pept Res 56: 318-325, (2000); Allolio, C. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 115: 11923-11928 (2018)]。P2+Gの濃度がその細胞透過性に与える影響を調べるために、DCを異なる濃度(10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mLまたは200μg/mL)のP2+Gと共にインキュベートした。P2+GをDCとインキュベートした場合、10μg/mLの濃度では透過は確認されなかった(図19A)。25μg/mLのP2+Gでは、DCへの透過は低レベルであった(図19)。P2+Gの細胞内貯留量は、25~200μg/mLの範囲ではペプチド濃度の増加に従い増加した(図19A)。
【0143】
9.4 ストレプトアビジンに結合したP2+Gは、より低いペプチド濃度でDC内に透過した
DCとインキュベートする前に、異なる濃度のP2+G(10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mLまたは200μg/mL)とストレプトアビジン-AF488(50μg/mL)を氷上で30分間反応させた場合、10μg/mLの濃度でDCへの透過が認められた(図19B)。この濃度では、遊離型のP2+GのDCへの透過は確認されなかった(図19A)。しかし、P2+G-ストレプトアビジンのDCへの透過は、P2+Gの濃度が10μg/mLの時点で明らかに飽和状態に達していた(図19B)。P2+Gの濃度が10μg/mLから100μg/mLに増加しても、DCにおける細胞内貯留量はそれ以上増加しなかった(図19B)。したがって、さらに低いP2+G濃度で、DCへの透過が飽和状態に達している可能性が高い。
【0144】
ストレプトアビジン(50μg/mL)を200μg/mLのP2+Gと共にインキュベートした場合、形成される結合体は、DC内に効果的に透過しなかったのは驚くべき結果であったが、現時点ではその理由は分かっていない(図19B、右図)。
【0145】
実施例10
強力なアラーミン活性とCPP活性を有するさらなる2種類のP2+G変異ペプチドの作製
実施例8に示すように、NCL-P2にグリシンを1つ加えることで、アラーミン活性が3倍に増加したP2+Gペプチドが得られた。P2+Gにさらに変更を加えて、アラーミン活性またはCPP活性のさらなる向上を実現できるかどうかを調べた。P2+Gの4個のフェニルアラニン残基をイソロイシン残基(P2+G(F/I);配列番号53)またはロイシン残基(P2+G(F/L);配列番号54)に変更することによって2種類の変異ペプチドを合成し、25個のグリシン残基のうち6個をアラニン残基(P2+G(G/A);配列番号55)またはプロリン残基(P2+G(G/P);配列番号56)に変更することによってさらに2種類のP2+Gの変異ペプチドを合成した(図20A)。この4種類の新規ペプチドでPBMCを24時間刺激し、TNFαの産生量をELISAで測定した。P2+Gをポジティブコントロールとして、P2R/Kをネガティブコントロールとして使用した。2種類のフェニルアラニン変異ペプチドは、いずれもP2+Gと同等のアラーミン活性を示した(図20B)。むしろ、P2+G(F/L)の方がP2+Gよりも強いアラーミン活性を有するようである(図20B)。一方、2種類のグリシン系変異体では、アラーミン活性は完全に失われた(図20B)。
【0146】
実施例11
他の既知CPPのアラーミン活性
本明細書で開示したNCL由来のCPP以外にも、多くのCPPがこれまでの研究により同定されている。我々は、このような他の既知のCPPもアラーミン活性を示すかどうかを調べた。もっともよく研究されているCPP1~CPP7の7種類のCPPを合成した(表1)。このCPPをP2+G、P2F/RおよびP2R/Kと比較するために、各種CPPでPBMCを24時間刺激した後、TNFαの誘導量をELISAで測定した(図21A)。CPP1(Tat)(配列番号28)、CPP5(pVEC)(配列番号32)、CPP6(TP10)(配列番号33)およびCPP7(M918)(配列番号34)では、有意なTNFαの誘導はみられなかったが、CPP2(ペネトラチン)(配列番号29)、CPP3(オリゴアルギニン)(配列番号30)およびCPP4(FHV)(配列番号31)、特にCPP3とCPP4により、少量のTNFαが誘導された(図21A)。CPP3は16残基のアルギニンからなる人工ペプチドであり、CPP4は15残基のペプチドであり、そのうち11残基がアルギニンである。
【0147】
CPP3とCPP4は、いずれも36残基のNCL-P2や37残基のP2+Gの半分の長さである。我々の発表した研究では、さらに短いNCL-P2内部のペプチドも合成したが、短いペプチドはいずれもアラーミン活性が低下した [Wu, S., et al., Cell Death Dis 12: 477 (2021)]。また、これらの短いペプチド(21残基のNCL-P6を含む)は、CPP活性も低下した(図14)。
【0148】
CPP4を2回タンデムに繰り返してCPP4の長さを長くする(2×CPP4)ことで、そのアラーミン活性が変化するかどうかを調べた。2×CPP4(配列番号35)とCPP4を比較したところ、アラーミン活性の増加はほとんど見られなかった(図21B)。NCL-P2の変異により、アラーミン活性が上昇した変異ペプチドが得られたことから、欠失および点変異によるCPP4変異体(CPP4M1~CPP4M10;配列番号36~45)を10種類合成した(表1)。これらのCPP4変異体をアラーミン活性の低いCPP4と比較したものの、いずれもアラーミン活性の有意な増減は見られなかった(図21B)。したがって、NCL-P2は、優れたアラーミン活性とCPP活性を併せ持ち、変異導入により両活性をそれぞれ別々に向上させることができる柔軟性を備えた特異な存在であることに変わりはない。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例12
P2+Gの2種類のフェニルアラニン変異体はCPP活性を保持していたが、P2+Gの2種類のグリシン変異体はCPP活性が完全に失われた
4種類の新たなP2+G変異体ペプチドのアラーミン活性を調べた後(図20)、CPP活性についても調べた。
【0151】
PBMCを4種類のP2+G変異体ペプチドとそれぞれ4℃で1時間インキュベートした。変異はP2+Gのフェニルアラニン残基またはグリシン残基に関わるものである。P2+Gの4個のフェニルアラニン残基が、イソロイシン(P2+G(F/I))またはロイシン(P2+G(F/L))に変更されている。P2+Gの25個のグリシン残基のうち6個がアラニン残基(P2+G(G/A))またはプロリン残基(P2+G(G/P))に変更されている。これらのペプチド(200mg/mL)をPBMCと共に4℃で1時間インキュベートした。細胞表面に結合したペプチドおよび細胞内のペプチドをストレプトアビジン-AF488で検出した。コントロールとして、PBMCをP2+G、P2F/RまたはP2R/Kとインキュベートした。細胞をフローサイトメトリーで分析した(図22A)。縦線は、P2+Gで得られた細胞表面と細胞内のそれぞれの蛍光強度を示すためのものであり、他のペプチドで得られた蛍光強度の基準として用いた。図22Aのフローサイトメトリーの結果に基づいて、平均蛍光指数(MFI)を算出し、比較を行った(図22B)。また、PBMCを各ペプチドと共に37℃で1時間インキュベートし、この場合も同様にフローサイトメトリーで分析して、MFIを算出した(図22C)。これらの実験については、MFIデータのみを示す。
【0152】
P2+Gの2種類のグリシン変異体、すなわちP2+G(G/A)とP2+G(G/P)は、アラーミン活性が失われていることは確認済みだが(図20B)、CPP活性も完全に失われていることが分かった(図22A~C)。このことは、NCL-P2とそのP2+G変異体におけるグリシン残基の数と配置が、そのアラーミン活性とCPP活性に必須であることを示している。一方、P2+Gの2種類のフェニルアラニン変異体、すなわちP2+G(F/I)およびP2+G(F/L)は、アラーミン活性が保持されていることは確認済みだが(図20B)、CPP活性が向上していることが分かった(図22B、C)。したがって、P2+G(F/I)とP2+G(F/L)は、P2+GとP2+3Gと共に、ワクチン開発のためのペプチド性アジュバント群を成すものである。この4種類のP2+G変異ペプチドによるPBMCへの透過性を、4℃(図22A、22B)と37℃(図22A、22C)で調べたところ、同様の結果が得られた。
【0153】
実施例13
P2+GペプチドはDCの成熟を活性化する
NCL-P2は、そのTNFα誘導性から、DCを活性化することがこれまでに明らかになっている [Wu, S., et al., Cell Death Dis 12: 477 (2021)]。P2+Gがこれらの細胞を成熟した抗原提示細胞(APC)へと効果的に活性化し、T細胞を効果的に活性化するかどうかについては、これまで検討されていない。そこで、DCをP2+G(200μg/mL)またはポジティブコントロールとしてLPS(0.5μg/mL)で48時間刺激した。ネガティブコントロールとして、等量のPBSを加え、特に刺激することなくDCを培養した。DCは単球から培養したものであり、概してCD14lo/-CD1ahiであった [Cao, W., et al., Blood 107: 2777-2785 (2006)]。細胞表面における、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83およびCD86の発現の有無を調べた。図23に示すように、P2+Gにより、DC表面におけるこれらの分子すべての発現が増加しており、DCの成熟が効果的に活性化されたことが分かる。このことから、P2+Gは十分に強力なワクチンアジュバントとなる可能性が高いことが示唆された。
【0154】
実施例14
樹状細胞は、P2+Gと30アミノ酸のペプチド抗原IPA1E2で構成される融合ポリペプチドとの接触により、自己のヒトCD4 T細胞およびヒトCD8 T細胞を活性化する
P2+Gペプチドと抗原を融合することで、抗原に有意なアジュバント活性が付与されるかどうかを評価するために、P2+Gを30アミノ酸のペプチド抗原(IPA1E2;配列番号57)と融合したものをChemPeptide社に合成委託した(図24)(Shanghai、China)。また、P2+GとIPA1E2を別々のペプチドとしても合成した。
【0155】
健康な献血者からPBMCを単離し、そのうち単球を単離してDCを培養し、残りの細胞(ほとんどがリンパ球)を自己リンパ球の供給源として凍結保存した。次に、DCを、丸底96ウェルプレート(5×104個/well)でP2+G、IPA1E2またはIPA1E2-P2+G融合ポリペプチド(配列番号58)と共に、アジュバントを追加せずに、24時間インキュベートした。凍結リンパ球を融解し、CellTrace Violet(2.5μM)で37℃、10分間標識した後、DCの入ったウェルに2.5×105個/well(DC:T=1:5)で添加した。共培養を2週間行った後、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞およびCD19+ B細胞の増殖をフローサイトメトリーで分析した。図24に示すように、IPA1E2-P2+G融合抗原を負荷されたDCにより、IPA1E2ペプチド単体またはP2+Gペプチド単体で負荷された場合よりも有意にT細胞増殖が亢進された。これは、P2+G部分それ自体は有意なT細胞活性化を誘導しなかったと思われるが(低い抗原性)、IPA1E2抗原のT細胞活性化を可能にしたことを示している。
【0156】
実施例15
NCL-P2とその変異体ペプチドは細胞溶解活性をほとんど持たない
NCL-P2やその変異ペプチドをワクチンや薬物送達に利用する場合、宿主細胞に対する細胞毒性を示すかどうかが一つの懸念材料となる。これらのペプチドのCPP活性は、細胞溶解を引き起こすのではないかという懸念があった。そこで、これらのペプチドの細胞溶解活性を、赤血球の溶解に基づく溶血アッセイにより調べた [Evans, B. C. et al., J Vis Exp, e50166, (2013)]。NCL-P2関連ペプチドは、その11種類の変異体を含めて、すべてPBSコントロールのレベルを有意に上回る溶血を引き起こさないことが分かった(図25A)。残りの7種類の既知のCPPのうち、CPP1~4はほとんど溶血を起こさなかったが、CPP5~7は明らかに溶血を引き起こし、特にCPP5が顕著であった(図25A)。
【0157】
P2+Gでも、異なる濃度(3.125~200μg/mL)で溶血の有無を調べた。この場合も同様に、低いバックグラウンドレベルの溶血がすべての濃度で観察されたことから、ペプチド特異的な溶血は引き起こされないことが示唆された(図25B)。以上より、他の既知のCPPでは実際に溶血や細胞溶解が見られるものがあるが、NCL-P2とその変異ペプチドは細胞溶解を起こすことなく効果的に細胞膜を透過できることが分かった。また、Zombie(NIR) Fixable viability stain-APC-Cy7 assayまたはCELLTITER 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation(MTS) Assayを用いてNCL-P2とその変異ペプチドの細胞毒性を確認したところ、有意な細胞毒性は認められなかった(データ示さず)。この結果より、これらのペプチドが幅広い生物医学的用途や臨床用途に展開される際の安全性に関する大きな懸念が払拭された。
【0158】
まとめ
我々は、核小体が高い自己免疫原性を持つ理由を解明することを目標とし [Beck, J. S., Lancet 1: 1203 (1961); Welting, T. J., Raijmakers, R. & Pruijn, G. J., Autoimmunity Rev 2:313, (2003); Cai, Y., et al., J Biol Chem 290: 22570 (2015); Cai, Y. et al. J Immunol 199: 3981 (2017)]、主要な核小体自己抗原であるヌクレオリン(NCL)に強力なアラーミン活性があることを発見した [Wu, S., et al., Cell Death Dis 12:477, (2021)]。我々は、ヌクレオリン(NCL)内の48アミノ酸長のGAR/RGGモチーフにアラーミン活性があることを突き止めた。このモチーフ内の36アミノ酸のペプチド、すなわちNCL-P2は、PBMCや他の免疫細胞の活性化においてNCLの機能を再現した。NCLとNCL-P2のいずれも、主要な受容体はTLR2であるが、TLR4も関与している可能性が高い [Wu, S., Teo, B. H. D., Wee, S. Y. K., Chen, J. & Lu, J., Cell Death Dis 12:477, (2021)]。NCL-P2は強力なアラーミン活性を有することから、ワクチンのアジュバントとしての可能性が期待されている。
【0159】
NCL-P2に強力なCPP活性があるという驚くべき発見は、APCを活性化してT細胞の活性化を誘導することができると同時に、カーゴ抗原を抗原提示細胞(APC)内に運ぶことができる特異なワクチンアジュバントであることを意味している。ワクチン抗原に特異的なCD8 T細胞を効果的にCTLへと活性化するためには、APC内に抗原を運ぶことが重要である。NCL-P2の多様な変異体の作製により、特定のNCL-P2の変異体でアラーミン活性とCPP活性をそれぞれ別々に大きく向上させることが可能であることが示された。具体的には、P2F/Rではアラーミン活性は低下するが、CPP活性は約8倍になることが示された。また、P2+G、P2+3G、P2+G(F/I)およびP2+G(F/L)では、アラーミン活性は2~5倍になったが、CPP活性は微増であった。
【0160】
また、一例として、P2+Gは、DC内に透過し、DCの細胞質内にカーゴタンパク質であるストレプトアビジンを運ぶことが示された(図18および図19)。別の例では、P2+Gは、オボアルブミンをDCの細胞質内に運ぶことが示された(データ示さず)。細胞内病原体やがんを標的とするワクチンの多くは、ワクチン抗原がDCや他の抗原提示細胞(APC)の細胞質に送達され、MHC Iを介してCD8 T細胞が細胞傷害性Tリンパ球(CTL)へと活性化されれば、最も効果的である。まだ実証実験は行っていないが、P2+3G、P2+G(F/I)、P2+G(F/L)、そしておそらく他の既知および未検討のNCL-P1やNCL-P2の変異体も、DC内や他のAPC内に透過すると考えられ、様々なワクチン抗原と組み合わせた場合は、そのようなカーゴ抗原をAPC内に運ぶのではないかと考えられる。
【0161】
P2F/RはCPP活性は強いがアラーミン活性が低いことから、薬物カーゴや標識が細胞に送達される際に激しい炎症反応を引き起こさないことが想定される。
【0162】
ワクチン開発や薬物送達にCPPを使用する際の共通の懸念の1つは、CPPが細胞膜を透過する際に細胞溶解を引き起こすかどうかということである。NCL-P2とその変異ペプチドの細胞毒性活性または細胞溶解活性を評価するために3つの系統の研究が行われたが、いずれのペプチドも検出可能な細胞溶解活性や細胞毒性活性を示さなかった。この結果より、これらのペプチドのワクチン、免疫療法、薬物送達などでの使用における大きな懸念が払拭された。
【0163】
以上より、NCL-P2や、特にNCL-P2の既知の変異体であるP2+G、P2+3G、P2+G(F/I)、P2+G(F/L)およびP2F/Rは、単一のペプチドでアラーミン活性とCPP活性という2つの活性を有する、強力な一連の生物活性ペプチドであり、ワクチンアジュバントとして、また薬物や標識を細胞内に送達するための担体として非常に望ましいことが示された。また、これらのペプチドの抗原性が低いこともエピトープ予測(データ示さず)と実験上の数値(図24)から予想されており、このことは、これらのペプチドを患者に使用する際の安全性と有効性に関するもう1つの共通の懸念も軽減するものである。
【0164】
参考文献
本明細書で引用された既に出版されている一連の文献およびこれらに記載の考察は、当技術分野の技術水準や技術常識の一部を構成するものであると認識する必要は必ずしもない。
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【国際調査報告】