(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】損傷した腎臓に薬物送達するためのデンドリマー組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/59 20170101AFI20230804BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61K47/59
A61K49/00
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503110
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 US2021042097
(87)【国際公開番号】W WO2022016120
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522223121
【氏名又は名称】アシュバッタ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クリーランド, ジェフリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】ランガラマヌジャム, カナン
(72)【発明者】
【氏名】カナン, スジャータ
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ, リシ
(72)【発明者】
【氏名】アピアニ ラ ローザ, サンティアゴ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC04
4C076CC17
4C076EE59
4C085HH13
4C085JJ02
4C085KA40
4C085KB72
4C085LL11
(57)【要約】
一部の態様では、本開示は、腎臓の傷害、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置または予防することを必要とする対象における、腎臓の傷害、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置または予防する方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、腎臓の傷害、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置、軽減または予防するために有効な量の、1種または複数種の治療剤または予防剤と、複合体化されたか、共有結合によりコンジュゲートされたか、または分子内分散もしくはカプセル化されたデンドリマーを、対象に投与することを含む。一部の実施形態では、デンドリマーは4、5、6、7または8世代のポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーであり、治療剤は1種または複数種の抗炎症剤および/またはPPAR-δアゴニストである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓の傷害、疾患および/または障害の1つまたは複数の症状を処置または予防することを必要とする対象における、腎臓の傷害、疾患および/または障害の1つまたは複数の症状を処置または予防するための方法であって、
1種または複数種の治療剤または予防剤と、複合体化されたか、共有結合によりコンジュゲートされたか、または分子内分散もしくはカプセル化されたデンドリマーを含む製剤を、前記対象に投与すること
を含み、
前記デンドリマー-薬剤製剤が、前記腎臓の傷害、疾患および/または障害の1つまたは複数の症状を処置、軽減または予防するために有効な量で投与される、方法。
【請求項2】
前記腎臓の傷害、疾患および/または障害が、急性または慢性腎疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腎臓の傷害、疾患および/または障害が、虚血/再灌流傷害によって引き起こされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記腎臓の傷害、疾患および/または障害が、感染症、敗血症、虚血再灌流傷害、糖尿病合併症、高血圧症、肥満、自己免疫性糖尿病、高血圧、心不全、腎疾患、肝疾患、およびがんからなる群から選択される状態によって引き起こされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記デンドリマーが、ヒドロキシル末端デンドリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記デンドリマーが、4世代、5世代または6世代のポリ(アミドアミン)デンドリマーである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記治療剤が、抗炎症剤である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記治療剤が、PPAR-δアゴニストである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記PPAR-δアゴニストが、GW0742、GW0742アミド誘導体およびGW0742エステル誘導体、GW0742アミド誘導体、またはGW0742エステル誘導体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗炎症剤が、N-アセチルシステイン、ステロイド系抗炎症薬物、非ステロイド系薬物、シクロスポリン、タクロリムス、ラパマイシン、SGLT2阻害剤、LPA1受容体アンタゴニスト、バソプレシンV2受容体アンタゴニスト、エンドセリン(endothelian)受容体アンタゴニスト、および尿酸輸送体阻害剤からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤が、腎臓における炎症を低減させるのに有効な量で投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記製剤が、腎臓における尿細管損傷、尿細管上皮の平坦化、尿細管拡張、ならびに尿細管上皮細胞壊死および/またはアポトーシスを低減させるのに有効な量で投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記製剤が、クレアチニンの血清レベルおよび/もしくは血中尿素窒素(BUN)を低減させるため;尿NGALおよび/もしくはKIM-1含有量を低減させるため;ならびに/または糸球体濾過率(GFR)を改善するために有効な量で投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が、腎臓における1種または複数種の炎症促進性細胞、ケモカインおよび/またはサイトカインの量または存在を低減させるのに有効な量で投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記製剤が、TNF-α、IFN-γ、IL-6、IL-1β、IL-23およびIL-17からなる群から選択される1種または複数種の炎症促進性サイトカインを低減させるのに有効な量で投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記製剤が、化学療法剤、抗血管新生薬、抗興奮毒性剤、グルタメート形成/放出の阻害剤、アフリベルセプトを含む抗VEGF薬剤、免疫調節剤、例えばラパマイシン、尿酸輸送体(URAT1)阻害剤、バソプレシンV2受容体アンタゴニスト、エンドセリン受容体アンタゴニスト、サブタイプ2ナトリウム-グルコース輸送タンパク質(SGLT2)阻害剤、およびLPA1受容体アンタゴニストからなる群から選択される治療剤、予防剤または診断剤を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記製剤が、静脈内、皮下または筋肉内投与用に製剤化される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記製剤が、経腸投与用に製剤化される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記製剤が、静脈内、皮下または筋肉内経路を介して投与される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記製剤が、1つまたは複数の追加の治療または手順を用いる処置の前に、それと共に、その後に、またはそれと交互に投与される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数の追加の手順が、静脈内輸液および/または血液透析を施すことを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の方法において使用するための、医薬製剤。
【請求項23】
(1)1種または複数種のPPAR-δアゴニストと共有結合によりコンジュゲートされたデンドリマーを含む組成物の1つまたは複数の単一単位用量、ならびに
(2)1つまたは複数の腎臓の傷害、疾患および/または状態の処置のために前記用量をどのように投与すべきかに関する使用説明書
を含む、キット。
【請求項24】
エステル、エーテル、またはアミド結合によりPPAR-δアゴニストにコンジュゲートされたデンドリマーを含む化合物を含む組成物であって、前記デンドリマーが、高密度の表面ヒドロキシル基を含む、組成物。
【請求項25】
前記PPAR-δアゴニストが、スペーサーにより前記エステル、エーテルまたはアミド結合にコンジュゲートされている、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記スペーサーが、アルキル基、ヘテロアルキル基またはアルキルアリール基を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記スペーサーが、ペプチドを含む、請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記スペーサーが、ポリエチレングリコールを含む、請求項25から27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記PPAR-δアゴニストのコンジュゲーションが、前記コンジュゲーション前の前記デンドリマーの利用可能な表面官能基全てのうちの50%未満で生じる、請求項24から28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記PPAR-δアゴニストのコンジュゲーションが、前記コンジュゲーション前の前記デンドリマーの利用可能な表面官能基全てのうちの5%未満、10%未満、20%未満、30%未満、または40%未満で生じる、請求項24から29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記PPAR-δアゴニストが、インダニル酢酸誘導体である。請求項24から30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記PPAR-δアゴニストが、GW0742である、請求項24から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記PPAR-δアゴニストが、GW0742アミド誘導体またはGW0742エステル誘導体である、請求項24から32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記デンドリマーが、ポリ(アミドアミン)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルを含む、請求項24から33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記デンドリマーが、ポリ(アミドアミン)デンドリマーである、請求項24から34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記デンドリマーが、4世代、5世代または6世代のポリ(アミドアミン)デンドリマーである、請求項24から35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記化合物のゼータ電位が、-25mVから25mVの間である、請求項24から36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
前記化合物の前記ゼータ電位が-20mVから20mVの間、-10mVから10mVの間、-10mVから5mVの間、-5mVから5mVの間、または-2mVから2mVの間である、請求項24から37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記化合物の表面電荷が、中性であるか、または中性に近い、請求項24から38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
前記デンドリマーが、エーテルまたはアミド結合により前記PPAR-δアゴニストにコンジュゲートされている、請求項24から39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
前記デンドリマーが、エーテル結合により前記PPAR-δアゴニストにコンジュゲートされる、請求項24から40のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、米国特許法第119(e)の下、参考としてその全体が本明細書に援用される2020年7月17日出願の米国特許仮出願第63/053,228号への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
腎臓は、血圧制御、塩および水ホメオスタシス、血球産生、酸-塩基バランス、ならびにカルシウムホメオスタシスを含む多数の基本的な生理機能において中心的役割を有する。したがって、腎機能不全が、様々な病理から生じ得、またはそれらを引き起こし得ることは驚くべきことではない。腎疾患は、典型的には、慢性または急性のいずれかとして分類される。急性腎傷害(AKI)は、一般に、細菌感染症、敗血症または虚血再灌流傷害(慢性腎疾患に遷移し得るI/R)に関連する一方、慢性腎疾患(CKD)は、典型的には、糖尿病合併症、高血圧症、肥満および自己免疫から生じる。腎疾患を促進する起因事象はまったく異なり得る。しかしながら、AKIはCKDをもたらすことがあり、確認されなければ、いずれも、末期腎疾患(ESRD)をもたらし得る。
【0003】
糸球体および間質性マクロファージ浸潤は、急性および慢性腎疾患の両方の特徴である。マクロファージは、腎臓の傷害、炎症および線維症において重要な役割を果たすことが示されている。マクロファージは、高度に異種性の細胞であり、異なるタイプの腎疾患の局所微小環境において様々な刺激に応答して明確な表現型および機能特徴を示す。腎臓の炎症の間、循環単球が動員され、次いで、活性化および分極される。局所微小環境に適応することによって、マクロファージは、明確な表現型に分化し得、腎疾患の異なるステージにおいて両刃の剣として機能する。一般に、M1マクロファージは、炎症性腎傷害をブーストする病原性の役割を果たし、一方、M2マクロファージは、腎臓修復の間、抗炎症および創傷治癒(または線維化促進)の役割を果たす。
【0004】
現在、AKIを予防または処置するために利用可能な薬物は存在しない。臨床兆候は、一部には、AKIをもたらす複数の病態生理学的事象を駆動し、AKIの重症度および慢性腎疾患(CKD)への進行に関連していると思われる早期発症型のミトコンドリア欠損症に起因する。
【0005】
したがって、一部の態様では、本開示は、腎臓における炎症を低減させまたは予防するための組成物および方法を提供する。一部の態様では、本開示は、AKIおよび/またはCKDの発生および進行に関連する病理学的過程を低減させまたは予防する組成物、ならびにそれを作製する方法および使用する方法を提供する。一部の態様では、本開示は、AKIおよび/またはCKDに関連する腎臓の炎症部位における炎症促進性細胞に向けて、活性剤を選択的に標的とするための組成物および方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
一部の態様では、本開示は、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置または予防することを必要とする対象における、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置または予防するための方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置、軽減または予防するために有効な量の、1種または複数種の治療剤または予防剤と、複合体化され、共有結合によりコンジュゲートされ、および/または分子内分散もしくはカプセル化されたデンドリマーを、対象に投与することを含む。
【0007】
一部の実施形態では、急性腎傷害(AKI)および/または慢性腎疾患(CKD)、特に腎虚血/再灌流傷害によって引き起こされたものを有する対象を処置する方法は、1種または複数種の治療剤または予防剤と、複合体化されたか、共有結合によりコンジュゲートされたか、または分子内分散もしくはカプセル化されたデンドリマーを、対象に投与することを含む。一部の実施形態では、デンドリマーは、対象におけるAKIおよび/またはCKDの1つまたは複数の症状を処置、軽減または予防するために有効な量で投与される。一部の実施形態では、AKIおよび/またはCKDは、細菌感染症、敗血症、虚血再灌流傷害、糖尿病合併症、高血圧症、肥満および自己免疫と関連する。
【0008】
一部の実施形態では、デンドリマーは、ヒドロキシル末端デンドリマーである。一部の実施形態では、デンドリマーは、ヒドロキシル末端デンドリマーであり、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマー、例えば、4世代、5世代または6世代のポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである。一部の実施形態では、1種または複数種の治療剤の治療剤は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPAR-δ)アゴニストである。一部の実施形態では、1種または複数種の治療剤の治療剤は、抗炎症剤である。一部の実施形態では、抗炎症剤は、N-アセチルシステインである。
【0009】
一部の実施形態では、本開示のデンドリマー組成物は、腎臓の炎症を低減させるため、例えば、腎臓における尿細管損傷、尿細管上皮の平坦化、尿細管拡張、ならびに尿細管上皮細胞壊死および/またはアポトーシスを低減させるために投与することができる。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、クレアチニンの血清レベルおよび/もしくは血中尿素窒素(BUN)を低減させるため;尿NGALおよび/もしくはKIM-1含有量を低減させるため;ならびに/または糸球体濾過率(GFR)を改善するために有効な量で投与される。一部の実施形態では、方法は、腎臓における1種または複数種の炎症促進性細胞、ケモカインおよび/もしくはサイトカインを低減させる、例えば、TNF-α、IL-6、IL-12、IL-1βおよびIL-18から選択される1種もしくは複数種の炎症促進性サイトカインを低減させるか、または1種もしくは複数種の炎症促進性細胞、例えば、M1様マクロファージを低減させるのに有効な量のデンドリマー組成物を投与することを含む。
【0010】
一部の態様では、本開示は、1つまたは複数の腎臓の傷害、疾患および/または障害の処置または予防を必要とする対象における、1つまたは複数の腎臓の傷害、疾患および/または障害の処置または予防において使用するための医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、乾燥粉末として保存または輸送され得、投与の時点で再懸濁され得る。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、静脈内、皮下または筋肉内投与用に製剤化され、静脈内、皮下または筋肉内経路を介して投与される。1種または複数種の抗炎症剤と共有結合によりコンジュゲートされたデンドリマーを含む組成物の1つまたは複数の単一単位用量を含有する容器、および腎傷害の処置のためにその用量をどのように投与すべきかに関する使用説明書を含むキットもまた、記載される。
【0011】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数の追加の治療または手順を用いる処置の前に、それと共に、その後に、またはそれと交互に投与される。一部の実施形態では、追加の治療または手順は、血中の流体の喪失の場合には静脈内(i.v.)輸液、(例えば、多すぎる体液が四肢の膨張を引き起こす場合)体液の排出を誘発する医薬品(例えば、利尿剤)、血中カリウムを制御する医薬品、例えば、カルシウム、グルコースもしくはポリスチレンスルホン酸ナトリウム(KIONEX(登録商標))、血中カルシウムレベルを回復させる医薬品、例えば、カルシウムの注入、および/または体内の毒素を除去する血液透析を含む。
【0012】
一部の態様では、本開示は、エステル、エーテルまたはアミド結合によりPPAR-δアゴニストにコンジュゲートされたデンドリマーを含む化合物を含む組成物を提供する。一部の実施形態では、デンドリマーは、高密度の表面ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、デンドリマーは、エーテルまたはアミド結合によりPPAR-δアゴニストにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、デンドリマーは、エーテル結合によりPPAR-δアゴニストにコンジュゲートされる。
【0013】
一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、スペーサーによりエステル、エーテルまたはアミド結合にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、スペーサーは、アルキル基、ヘテロアルキル基またはアルキルアリール基を含む。一部の実施形態では、スペーサーは、ペプチドを含む。一部の実施形態では、スペーサーは、ポリエチレングリコールを含む。
【0014】
一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前のデンドリマーの利用可能な表面官能基全てのうちの50%未満で生じる。一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前のデンドリマーの利用可能な表面官能基全てのうちの5%未満、10%未満、20%未満、30%未満、または40%未満で生じる。
【0015】
一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、インダニル酢酸誘導体である。一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、GW0742である。一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、GW0742アミド誘導体またはGW0742エステル誘導体である。
【0016】
一部の実施形態では、デンドリマーは、ポリ(アミドアミン)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)および/または芳香族ポリエーテルを含む。一部の実施形態では、デンドリマーは、ポリ(アミドアミン)デンドリマーである。一部の実施形態では、デンドリマーは、4世代、5世代または6世代のポリ(アミドアミン)デンドリマーである。
【0017】
一部の実施形態では、化合物のゼータ電位は、-25mVから25mVの間である。一部の実施形態では、化合物のゼータ電位は-20mVから20mVの間、-10mVから10mVの間、-10mVから5mVの間、-5mVから5mVの間、または-2mVから2mVの間である。一部の実施形態では、化合物の表面電荷は、中性であるか、または中性に近い。
【0018】
一部の態様では、本開示は、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状の処置を必要とする対象における、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状の処置における組成物または化合物の使用を提供する。一部の態様では、本開示は、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置することを必要とする対象における、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置するための医薬の製造における組成物または化合物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1-1】
図1A~1Gは、表1に定義される実験ラットの4つの群G1~G4における、血清尿素(
図1A)、血清クレアチニン(
図1B)、糸球体濾過率(GFR)(
図1C)、尿KIM-1の濃度(
図1D)、尿NGALの濃度(
図1E)、尿試料中のKIM-1の量(
図1F)および尿試料中のNGALの量(
図1G)のレベルを示す棒グラフである。G1と比較して
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001;G2と比較して#p<0.05、##p<0.01、####p<0.0001;G3と比較して&p<0.05、&&p<0.01。
【
図1-2】
図1A~1Gは、表1に定義される実験ラットの4つの群G1~G4における、血清尿素(
図1A)、血清クレアチニン(
図1B)、糸球体濾過率(GFR)(
図1C)、尿KIM-1の濃度(
図1D)、尿NGALの濃度(
図1E)、尿試料中のKIM-1の量(
図1F)および尿試料中のNGALの量(
図1G)のレベルを示す棒グラフである。G1と比較して
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001;G2と比較して#p<0.05、##p<0.01、####p<0.0001;G3と比較して&p<0.05、&&p<0.01。
【0020】
【
図2】
図2A~2Cは、表1に定義される実験ラットの4つの群G1~G4における、両側腎尿細管変性スコア(
図2A)、両側腎尿細管壊死スコア(
図2B)、両側腎尿細管全損傷スコア(
図2C)を示す棒グラフである。G1と比較して
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001;G2と比較して#p<0.05。
【0021】
【
図3】
図3A~3Bは、表1に定義される実験ラットの4つの群G1~G4における、両側近位尿細管基底膜損傷(
図3A)および両側近位尿細管刷子縁損傷(
図3B)を示す棒グラフである。G1と比較して
****p<0.0001;G2と比較して###p<0.001。
【0022】
【
図4】
図4A~4Bは、実験ラットの4つの群G1~G4における、D-Cy5の腎尿細管取込み(μm
2、
図4A)およびD-Cy5+ED1+細胞の数(
図4B)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
他の態様の中でも、本開示は、デンドリマー複合体(例えば、コンジュゲート)、デンドリマーコンジュゲートを含む組成物、ならびにデンドリマーコンジュゲートおよびその組成物を使用する方法を提供する。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、少なくとも1種の薬剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、腎臓の傷害、疾患および/または状態の1つまたは複数の症状を処置および/または診断するために有用な1種または複数種の薬剤を含む。
【0024】
一部の態様では、本開示は、治療剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む化合物を提供する。本発明者らは、不都合なin vivoプロファイルを有する特定の治療薬を、高密度の末端ヒドロキシル基を有するデンドリマー(例えば、ヒドロキシル末端デンドリマー)へのコンジュゲーションによって修飾して、腎臓の部位炎症へのより高い選択的取込みおよび増加した局在化を示す治療化合物を提供することができることを認識し、認めた。本発明者らは、そのような治療化合物が、そうでなければ治療薬の到達が不十分である腎臓の生物学的標的への特定の治療薬の標的化送達を可能にすることをさらに認識し、認めた。
【0025】
I. 組成物
一部の態様では、本開示は、1種または複数種の活性剤、特に、腎臓の傷害、疾患または障害を予防、処置または診断することを必要とする対象における腎臓の傷害、疾患または障害を予防、処置または診断するための1種または複数種の活性剤を送達するために適したデンドリマー複合体の組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は、虚血/再灌流傷害(IRI)によって引き起こされた急性腎傷害(AKI)および慢性腎疾患(CKD)を処置するために適している。
【0026】
デンドリマー内にカプセル化され、関連付けられ、および/またはコンジュゲートされた1種または複数種の予防剤、治療剤および/または診断剤を含む、デンドリマー複合体の組成物が提供される。一般に、一部の実施形態では、1種または複数種の活性剤は、約0.01重量%から約30重量%、約1重量%から約20重量%、約5重量%から約20重量%の濃度で、デンドリマー複合体内にカプセル化され、関連付けられ、および/またはコンジュゲートされる。一部の実施形態では、活性剤は、1つまたは複数の連結、例えば、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カーボネート、ヒドラジンおよびアミドを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサーを介して、デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされる。一部の実施形態では、スペーサーは、活性剤、例えばN-アセチルシステインである。例示的な活性剤には、抗炎症薬およびPPAR-δアゴニストが含まれる。
【0027】
追加の薬剤の存在は、ゼータ電位または粒子の表面電荷に影響を及ぼす可能性がある。一実施形態では、デンドリマーのゼータ電位は-100mVから100mVの間、-50mVから50mVの間、-25mVから25mVの間、-20mVから20mVの間、-10mVから10mVの間、-10mVから5mVの間、-5mVから5mVの間、または-2mVから2mVの間である。一部の実施形態では、表面電荷は、中性であるか、または中性に近い。先の範囲は、-100mVから100mVまでの全ての値を含む。
【0028】
デンドリマー
デンドリマーは、高密度の表面末端基を含む三次元の高分岐、単分散、球状および多価高分子である(Tomalia, D. A., et al., Biochemical Society Transactions, 35, 61(2007);およびSharma, A., et al., ACS Macro Letters, 3, 1079 (2014))。それら独自の構造および物理的特徴に起因して、デンドリマーは、標的薬物/遺伝子送達、撮像、および診断を含む様々なバイオメディカル適用例でのナノ担体として有用である(Sharma,A., et al., RSC Advances, 4, 19242 (2014); Caminade, A.-M., et al., Journal of Materials Chemistry B, 2, 4055 (2014); Esfand, R., et al., Drug Discovery Today, 6, 427 (2001);およびKannan, R. M., et al., Journal of Internal Medicine,276, 579 (2014))。
【0029】
デンドリマー表面基が、それらの生体内分布に著しい影響を及ぼす(Nance, E.,et al., Biomaterials, 101, 96 (2016))。いかなる標的リガンドも持たないヒドロキシル末端の4世代PAMAMデンドリマー(約4nmサイズ)は、脳性麻痺(CP)のウサギモデルでの全身投与で損なわれたBBBを、健康な対照と比較して著しく多く(>20倍)横断し、活性化ミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的とする(Lesniak,W. G.,et al., Mol Pharm, 10 (2013))。
【0030】
「デンドリマー」という用語は、内部コアと、この内部コアに結合しかつそこから延びる反復単位の層(または「世代」)とを持ち、各層が1つまたは複数の分岐点を有し、末端基の外面が最外世代に結合している、分子アーキテクチャーを含むがこれらに限定されない。一部の実施形態では、デンドリマーは、規則的なデンドリマーまたは「スターバースト」分子構造を有する。
【0031】
一部の実施形態では、デンドリマーは、約1nmから約50nmの間、約1nmから約20nmの間、約1nmから約10nmの間、または約1nmから約5nmの間の直径を有する。一部の実施形態では、直径は、約1nmから約2nmの間である。コンジュゲートは一般に、同じサイズ範囲にあるが、抗体などの大きいタンパク質は、サイズを5~15nm増大させ得る。一部の実施形態では、薬剤は、より大きい世代のデンドリマーに関し、薬剤のデンドリマーに対する比が1:1から4:1の間でカプセル化される。一部の実施形態では、デンドリマーは、腎臓上皮組織に浸透するようかつ長期間にわたり標的細胞内に保持されるよう、有効な直径を有する。
【0032】
一部の実施形態では、デンドリマーは、約500ダルトンから約100,000ダルトンの間、約500ダルトンから約50,000ダルトンの間、または約1,000ダルトンから約20,000ダルトンの間の分子量を有する。
【0033】
使用することができる適切なデンドリマー足場には、PAMAMまたはSTARBURST(商標)デンドリマーとしても公知のポリ(アミドアミン);ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルデンドリマーが含まれる。デンドリマーは、カルボン酸、アミン、および/またはヒドロキシル末端を有することができる。一部の実施形態では、デンドリマーは、ヒドロキシル末端(例えば、ヒドロキシル末端デンドリマー)を有する。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、同じであってもよく、または他デンドリマーと類似のもしくは異なる化学的性質のものであってもよい(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含んでいてもよく、一方、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーであってもよい)。
【0034】
一部の実施形態では、「PAMAMデンドリマー」という用語は、アミドアミン構成単位と共に異なるコアを含有していてもよいポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味し、1世代PAMAMデンドリマー、2世代PAMAMデンドリマー、3世代PAMAMデンドリマー、4世代PAMAMデンドリマー、5世代PAMAMデンドリマー、6世代PAMAMデンドリマー、7世代PAMAMデンドリマー、8世代PAMAMデンドリマー、9世代PAMAMデンドリマー、または10世代PAMAMデンドリマーを含むがこれらに限定されない任意の世代のカルボン酸、アミン、およびヒドロキシル末端を有することができる。一部の実施形態では、デンドリマーは製剤に可溶であり、4、5もしくは6世代の(「G」)デンドリマー(すなわち、G4~G6デンドリマー)、および/またはG4~G10のデンドリマー、G6~G10のデンドリマーもしくはG2~G10のデンドリマーである。デンドリマーは、それらの官能性表面基に結合したヒドロキシル基を有し得る。
【0035】
デンドリマーを作製する方法は、当業者に公知であり、一般に、中心開始剤コア(例えば、エチレンジアミンコア)の周りに樹状β-アラニン単位の同心状のシェル(世代)を生成する2ステップ反復反応順序を含む。各後続成長ステップは、より大きい分子直径を持ち、反応性表面部位の数の2倍であり、先行する世代の分子量の約2倍である、ポリマーの新「世代」を表す。使用に適したデンドリマー足場は、様々な世代として市販されている。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10世代デンドリマー足場をベースにする。そのような足場は、それぞれ4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048、および4096個の反応性部位を有する。したがって、これらの足場をベースにしたデンドリマー化合物は、リンカーを介して直接または間接的にそれに結合された薬剤または部分の対応する数を有し得る。
【0036】
一部の実施形態では、デンドリマーは、複数のヒドロキシル基を含む。一部の例示的な高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、市販のポリエステル樹状ポリマー、例えば多分岐2,2-ビス(ヒドロキシル-メチル)プロピオン酸エステルポリマー(例えば、多分岐ビス-MPAポリエステル-64-ヒドロキシル、4世代)、樹状ポリグリセロールを含む。
【0037】
一部の実施形態では、高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、オリゴエチレングリコール(OEG)様デンドリマーである。例えば、2世代OEGデンドリマー(D2-OH-60)は、Cu(I)で触媒されたアルキン-アジドクリックおよび光触媒されたチオール-エンクリック化学など、高度に効率的で堅牢かつ原子経済的化学反応を使用して合成することができる。最小限に抑えられた反応ステップにおける非常に低い世代での高度に稠密なポリオールデンドリマーは、例えば国際特許公開第WO2019094952号に記載されるような、オルソゴナルハイパーモノマーおよびハイパーコア戦略を使用することによって、実現することができる。一部の実施形態では、デンドリマー主鎖は、in vivoでのデンドリマーの崩壊が回避されるよう、および身体からの単一実体(非生分解性)としてのそのようなデンドリマーの排除が可能になるように、構造全体を通して非切断可能ポリエーテル結合を有する。
【0038】
一部の実施形態では、デンドリマーは、特定の組織領域および/または細胞型、ALI/ARDSに関与する炎症促進性マクロファージを特異的に標的とする。一部の実施形態では、デンドリマーは、標的部分なしに特定の組織領域および/または細胞型を、特異的に標的とする。
【0039】
一部の実施形態では、デンドリマーは、デンドリマーの周辺に複数のヒドロキシル(-OH)基を有する。一部の実施形態では、ヒドロキシル(-OH)基の表面密度は、少なくとも1OH基/nm2(ヒドロキシル表面基の数/nm2を単位とする表面積)である。例えば一部の実施形態では、ヒドロキシル基の表面密度は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10基/nm2よりも大きく;好ましくは少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、または50基/nm2よりも大きい。さらなる実施形態では、ヒドロキシル(-OH)基の表面密度は、約1から約50の間、例えば、5~20OH基/nm2(ヒドロキシル表面基の数/nm2を単位とする表面積)であると共に約500Daから約10kDaの間の分子量を有する。
【0040】
一部の実施形態では、デンドリマーは、デンドリマーの内部コアにおける他の基と共に、外面に露出したヒドロキシル基の一部を有していてもよい。一部の実施形態では、デンドリマーは、少なくとも1OH基/nm3(ヒドロキシル基の数/nm3を単位とする体積)のヒドロキシル(-OH)基の体積密度を有する。例えば一部の実施形態では、ヒドロキシル基の体積密度は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10、15、20、25、30、35、40、45、および50基/nm2よりも大きい。一部の実施形態では、ヒドロキシル基の体積密度は、約4から約50基/nm3の間、約5から約30基/nm3の間、約10から約20基/nm3の間である。
【0041】
デンドリマーは、購入することもでき、様々な化学反応ステップを介して調製することもできる。デンドリマーは通常、全ての構築段階でその構造の制御を可能にする方法により合成される。樹状構造は、2つの主な異なる手法:発散または収束によって、ほとんどが合成される。
【0042】
一部の実施形態において、デンドリマーは、一般にMichael反応である一連の反応によって外向きに延びる多官能性コアからデンドリマーが組み立てられる、発散方法を使用して調製される。戦略は、コアの周りに段階的な世代の付加をもたらしその後に保護基が除去される、多官能性コア部分を持つ反応性および保護基を保有するモノマー分子のカップリングを含む。例えばPAMAM-NH2デンドリマーは、アンモニアコアにN-(2-アミノエチル)アクリルアミドモノマーをカップリングすることによって最初に合成される。
【0043】
他の実施形態では、デンドリマーは収束方法を使用して調製され、この方法ではデンドリマーが、球の表面で終わる小分子から構築され、反応は内向きに構築されるように進行し、最終的にはコアに結合する。
【0044】
オルソゴナル手法、加速手法、二段階収束法、またはハイパーコア手法、ハイパーモノマー法、または分岐モノマー手法、二重指数法;オルソゴナルカップリング法、または2ステップ手法、2モノマー手法、AB2-CD2手法などの多くのその他の合成経路が、デンドリマーの調製のために存在する。
【0045】
一部の実施形態では、デンドリマーのコア、1つもしくは複数の分岐単位、1つもしくは複数のリンカー/スペーサー、および/または1つもしくは複数の表面基を修飾して、さらなる官能基(分岐単位、リンカー/スペーサー、表面基など)、モノマー、および/または活性剤に、クリックケミストリーを介して、1つもしくは複数の銅支援型アジド-アルキン環化付加(CuAAC)、Diels-Alder反応、チオール-エンおよびチオール-イン反応、ならびにアジド-アルキン反応を用いて共役させることができる(Arseneault M et al., Molecules. 2015 May 20;20(5):9263-94)。一部の実施形態では、事前に作製されたデンドロンが高密度ヒドロキシルポリマー上にクリックされる。「クリックケミストリー」は、例えば、第1の部分の表面のアルキン部分(またはその均等物)と第2の部分上のアジド部分(例えば、トリアジン組成物またはその均等物上に存在する)または任意の活性末端基、例えば第一級アミン末端基、ヒドロキシル末端基、カルボン酸末端基、チオール末端基など)との間の1,3-双極子環化付加反応を介した2つの異なる部分(例えば、コア基および分岐単位;または分岐単位および表面基)のカップリングを含む。
【0046】
一部の実施形態では、デンドリマー合成は、チオール-エンクリック反応、チオール-インクリック反応、CuAAC、Diels-Alderクリック反応、アジド-アルキンクリック反応、Michael付加、エポキシ開環、エステル化、シラン化学、およびこれらの組合せなどの1つまたは複数の反応に依拠する。
【0047】
任意の既存の樹状プラットフォームを使用して、所望の官能基のデンドリマー、即ち表面ヒドロキシル基の高密度を持つデンドリマーを、1-チオ-グリセロールまたはペンタエリスリトールなどの高ヒドロキシル含有部分をコンジュゲートすることによって作製することができる。例示的な樹状プラットフォーム、例えばポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、ポリ-L-リシン、メラミン、ポリ(エーテルヒドロキシルアミン)(PEHAM)、ポリ(エステルアミン)(PEA)、およびポリグリセロールを合成し、調査することができる。
【0048】
デンドリマーはまた、2つまたはそれよりも多くのデンドロンを組み合わせることによって調製することができる。デンドロンは、反応性焦点官能基を持つデンドリマーの楔形セクションである。多くのデンドロン足場が市販されている。それらは第1、2、3、4、5、および6世代になり、それぞれ2、4、8、16、32、および64個の反応性基を持つ。ある特定の実施形態では、活性剤の1つのタイプがデンドロンの1つのタイプに連結され、活性剤の異なるタイプがデンドロンの別のタイプに連結される。次いで2つのデンドロンが接続されてデンドリマーを形成する。2つのデンドロンは、クリックケミストリーを介して、即ちトリアゾールリンカーが形成されるように1つのデンドロン上のアジド部分と別のデンドロン上のアルキン部分との間の1,3-双極子環化付加反応を介して連結することができる。
【0049】
デンドリマーを作製する例示的な方法は、国際特許公開番号WO2009/046446、WO2015168347、WO2016025745、WO2016025741、WO2019094952、および米国特許第8,889,101号に詳述されている。
【0050】
デンドリマー複合体/コンジュゲート
デンドリマー複合体は、デンドリマー、樹状ポリマーまたは多分枝ポリマーにコンジュゲートされたまたは複合体化された治療剤、予防剤または診断剤から形成することができる。デンドリマーへの1種または複数種の薬剤のコンジュゲーションは、当技術分野で公知であり、米国公開出願番号US2011/0034422、US2012/0003155、およびUS2013/0136697に詳述されている。
【0051】
一部の実施形態では、1種または複数種の活性剤は、デンドリマーに共有結合する。一部の実施形態では、活性剤は、必要に応じて1つまたは複数の連結部分を介して、デンドリマーへのコンジュゲーションのために官能化される。官能化活性剤および/または連結部分は、in vivoでのデンドリマーからの活性剤の所望の放出速度を有するように設計される。官能化活性剤および/または連結部分は、in vivoで活性剤の持続放出がもたらされるように、加水分解により、酵素により、またはこれらの組合せにより切断されるように設計することができる。切断可能な形態が望まれる場合、連結部分の組成と、活性剤へのその結合点との両方は、連結部分の切断が活性剤またはその適切なプロドラッグのいずれかを放出するように、選択される。一部の実施形態では、官能化活性剤および/または連結部分は、in vivoで最小限のまたはわずかな速度で切断されるように設計される。連結部分の組成は、活性剤の所望の放出速度に鑑み、選択することもできる。一部の実施形態では、1種または複数種の活性剤は、例えば、エーテル結合を介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーを用いて、in vivoでデンドリマーから非切断可能または最小限に切断可能となるように官能化される。
【0052】
一部の実施形態では、結合は、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カーボネート、ヒドラジン、またはアミド結合の1つまたは複数を介して引き起こされる。一部の実施形態では、結合は、活性剤の所望の放出動態に応じて、薬剤とデンドリマーとの間にエステル結合またはアミド結合をもたらす適切なスペーサーを介して引き起こされる。ある場合には、エステル結合は、活性剤の切断可能な形態のために導入される。他の場合には、アミド結合は、活性剤の非切断可能形態のために導入される。
【0053】
連結部分は、1つまたは複数の有機官能基を含み得る。適切な有機官能基の例には、第二級アミド(-CONH-)、第三級アミド(-CONR-)、スルホンアミド(-S(O)2-NR-)、第二級カルバメート(-OCONH-;-NHCOO-)、第三級カルバメート(-OCONR-;-NRCOO-)、カーボネート(-O-C(O)-O-)、尿素(-NHCONH-;-NRCONH-;-NHCONR-、-NRCONR-)、カルビノール(-CHOH-、-CROH-)、ジスルフィド基、ヒドラゾン、ヒドラジド、エーテル(-O-)、およびエステル(-COO-、-CH2O2C-、CHRO2C-)が含まれ、Rはアルキル基、アリール基、または複素環基である。一般に、連結部分における1つまたは複数の有機官能基の実体は、活性剤の所望の放出速度に鑑み選択することができる。さらに、1つまたは複数の有機官能基は、活性剤とデンドリマーとの共有結合が容易になるように選択することができる。一部の実施形態では、結合は、薬剤とデンドリマーとの間にジスルフィド架橋をもたらす適切なスペーサーを介して引き起こすことができる。一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、体内に見られる還元条件下、チオール交換反応によって、in vivoでの薬剤の急速放出が可能である。
【0054】
ある特定の実施形態では、連結部分は、スペーサー基と組み合わせて、上述の有機官能基の1つまたは複数を含む。スペーサー基は、オリゴマーおよびポリマー鎖を含む、原子の任意のアセンブリから構成することができ;例えば、一部の実施形態では、スペーサー基の原子の総数は、3から200個の間の原子、3から150個の間の原子、3から100個の間の原子、または3から50個の間の原子である。適切なスペーサー基の例には、アルキル基、ヘテロアルキル基、アルキルアリール基、オリゴ-およびポリエチレングリコール鎖、ならびにオリゴ-およびポリ(アミノ酸)鎖が含まれる。スペーサー基のばらつきは、in vivoでの薬剤の放出に関して、追加の制御をもたらす。連結部分がスペーサー基を含む実施形態では、スペーサー基を活性剤およびデンドリマーの両方に接続するのに、1つまたは複数の有機官能基が一般に使用されることになる。
【0055】
活性剤とデンドリマーとの共有結合に有用な反応および戦略は、当技術分野で公知である。例えば、March, "Advanced Organic Chemistry," 5th Edition, 2001,Wiley-Interscience Publication, New York)およびHermanson, "Bioconjugate Techniques," 1996, Elsevier Academic Press, U.S.A.を参照されたい。所与の活性剤を共有結合するための適切な方法は、所望の連結部分、ならびに全体としての薬剤およびデンドリマーの構造に鑑み選択することができるが、それは官能基の適合性、保護基の戦略、および不安定な結合の存在に関係するからである。
【0056】
最適な薬物負荷は、必然的に、薬物の選択、デンドリマーの構造およびサイズ、ならびに処置される組織を含む多くの因子に依存する。一部の実施形態では、1種または複数種の活性薬は、約0.01%から約45%、約0.1%から約30%、約0.1%から約20%、約0.1%から約10%、約1%から約10%、約1%から約5%、約3%から約20重量%、および約3%から約10重量%の濃度で、デンドリマーにカプセル化され、関連付けられ、および/またはコンジュゲートされる。しかしながら、任意の所与の薬物、デンドリマー、および標的部位に関する最適な薬物負荷は、記載されるもののような通常の方法によって特定することができる。
【0057】
一部の実施形態では、活性剤および/またはリンカーの共役は、1つまたは複数の表面および/または内部基を経て生じる。したがって一部の実施形態では、活性剤/リンカーの共役は、共役前のデンドリマーの利用可能な表面官能基、例えばヒドロキシル基の全ての約1%、2%、3%、4%、または5%を介して行われる。他の実施形態では、活性剤/リンカーの共役は、共役前のデンドリマーの利用可能な表面官能基全ての5%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満、55%未満、60%未満、65%未満、70%未満、75%未満で生じる。一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、疾患または障害を処置し、予防し、および/または撮像するための活性剤の有効量にコンジュゲートされながら、特定の細胞型を標的とするための表面官能基の有効量を保持する。
【0058】
一部の態様では、本開示は、末端エステル、エーテルまたはアミド結合により薬剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む治療化合物および/または診断化合物を提供する。一部の実施形態では、デンドリマーは、必要に応じて薬剤で置換された表面(例えば、末端)ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、薬剤は、治療剤または診断剤(例えば、造影剤)である。
【0059】
一部の態様では、本開示は、末端エステル、エーテルまたはアミド結合により治療剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む治療化合物を含む組成物を提供する。一部の実施形態では、デンドリマーは、必要に応じて治療剤で置換された、高密度の末端ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、治療剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む治療化合物は、治療剤の10~20質量%である。一部の実施形態では、末端エステル、エーテルまたはアミド結合は、リンカーにより治療剤にコンジュゲートされる。
【0060】
一部の実施形態では、治療化合物は、治療剤の約10質量%~約15質量%である。一部の実施形態では、治療化合物は、治療剤の約15質量%~約20質量%である。一部の実施形態では、デンドリマーの末端部位の少なくとも50%が、末端ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、デンドリマーの末端部位の少なくとも50%および99%まで(例えば、50~95%、50~90%、50~80%、50~70%、50~60%、60~80%、70~90%)が、末端ヒドロキシル基を含む。
【0061】
一部の実施形態では、治療剤は、デンドリマーの非存在下で治療剤を含む非コンジュゲート化合物と比較して増加した水溶解度を有する。一部の実施形態では、水溶解度は、非コンジュゲート化合物と比較して少なくとも10%増加する。一部の実施形態では、水溶解度は、非コンジュゲート化合物と比較して約10%から約100%の間、増加する。一部の実施形態では、水溶解度は、非コンジュゲート化合物と比較して、少なくとも約2倍増加する。一部の実施形態では、水溶解度は、非コンジュゲート化合物と比較して約2倍から約10倍の間、増加する。一部の実施形態では、水溶解度は、生理学的条件下での溶解度である。一部の実施形態では、水溶解度は、約7.0から約8.0の間のpHを有する水への溶解度である。一部の実施形態では、治療剤は、生理学的条件下で非コンジュゲート化合物が不溶である濃度で存在する。
【0062】
一部の実施形態では、デンドリマーの表面官能基(例えば、末端官能基)は、1つもしくは複数のヒドロキシル基、1つもしくは複数のアミン基、および/または1つもしくは複数のカルボキシル基を含む。一部の実施形態では、デンドリマーの末端官能基は、それにより少なくとも1種の薬剤がコンジュゲートされてデンドリマーコンジュゲートを形成する結合部位を提供する。したがって、一部の実施形態では、少なくとも1種の薬剤は、デンドリマーの末端官能基へのコンジュゲーションによって形成されたエーテル結合、アミド結合またはエステル結合によりデンドリマーにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、少なくとも1種の薬剤は、エーテル結合またはアミド結合によりデンドリマーにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、少なくとも1種の薬剤は、エーテル結合によりデンドリマーにコンジュゲートされる。
【0063】
一部の実施形態では、デンドリマーの末端部位の数は、特定のデンドリマー足場およびその世代に依存し得る。例えば、一部の実施形態では、デンドリマーは、0世代、1世代、2世代、3世代、4世代、5世代、6世代、7世代、8世代、9世代または10世代のPAMAMデンドリマー足場に基づき、これは、それぞれ、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048および4096の末端部位を有する。しかしながら、各世代で異なる数の末端部位を有する異なるデンドリマー足場が、本開示に従って使用され得ることが認識されるべきである。
【0064】
一部の実施形態では、デンドリマーの全ての末端部位が、ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、デンドリマーの各末端部位は、ヒドロキシル基またはアミン基のいずれかを含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの各末端部位は、ヒドロキシル基、アミン基、またはエーテルもしくはアミド結合によりデンドリマーにコンジュゲートされた薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの各末端部位は、ヒドロキシル基、またはエーテル結合によりデンドリマーにコンジュゲートされた薬剤の、いずれかを含む。
【0065】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の少なくとも50%が、ヒドロキシル基を含む(例えば、末端部位の少なくとも50%は、アミン基も薬剤も含まない)。例えば、一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、ヒドロキシル基を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の約50~99%、約60~99%、約70~99%、約80~99%、約90~99%、約95~99%、約98~99%、約70~95%、約70~90%、約80~95%、または約80~90%が、ヒドロキシル基を含む。
【0066】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの1つまたは複数の末端部位は、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20またはそれよりも多くの末端部位が、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の少なくとも1%が、薬剤を含む。例えば、一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%が、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位の約1~50%、約1~40%、約1~25%、約1~10%、約5~50%、約5~40%、約5~25%、約5~10%、約10~50%、約10~40%、または約10~25%が、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーの末端部位の約1%、約2%、約3%、約4%、または約5%が、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーの末端部位の5%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満、55%未満、60%未満、65%未満、70%未満、75%未満が、薬剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、特定の細胞型を標的とするための末端官能基(例えば、末端ヒドロキシル基)の有効量を有する一方、本明細書に記載される処置および/または撮像のための薬剤の有効量を有する。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの末端部位は、薬剤および/または末端官能基を有する末端部位のパーセンテージを決定するために、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)、または当技術分野で公知の他の分析法を使用して評価され得る。
【0067】
一部の実施形態では、所望の薬剤負荷は、薬剤の選択、デンドリマーの構造およびサイズ、ならびに処置される細胞または組織を含む特定の因子に依存し得る。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲート(例えば、治療化合物)は、薬剤(例えば、治療剤)の約0.01質量%~約45質量%(m/m)である。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲート(例えば、治療化合物)は、薬剤(例えば、治療剤)の約10質量%~約20質量%である。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、薬剤の約0.1質量%~約30質量%、約0.1質量%~約20質量%、約0.1質量%~約10質量%、約1質量%~約10質量%、約1質量%~約5質量%、約3質量%~約20質量%、約3質量%~約10質量%である。
【0068】
本明細書に記載される通り、一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、薬剤の質量パーセンテージ(例えば、質量%(m/m))に関して特徴付けることができる。一部の実施形態では、質量パーセンテージは、デンドリマーコンジュゲート中の薬剤の分子量(Da)パーセンテージを指す。一部の実施形態では、質量パーセンテージは、一般式:(薬剤MW)/(コンジュゲートMW)×100によって決定することができる。例えば、一部の実施形態では、(薬剤MW)は、薬剤の分子量を、単一分子または化合物(コンジュゲートされたまたはコンジュゲートされていない)として計算または近似し、この値に、デンドリマーコンジュゲート中の薬剤が存在する末端部位の数を掛けることによって、決定することができる。一部の実施形態では、(薬剤MW)は、デンドリマーコンジュゲート中の薬剤を形成する全ての原子の原子質量の合計を計算または近似することによって、決定することができる。(薬剤MW)の値は、デンドリマーコンジュゲートの総分子量(コンジュゲートMW)の分率として得、100を掛けて質量パーセンテージを求めることができる。一部の実施形態では、質量パーセンテージは、実験または経験的手段によって決定することができる。例えば、一部の実施形態では、質量パーセンテージは、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)または当技術分野で公知の他の分析方法を使用して、決定することができる。
【0069】
一部の実施形態では、デンドリマーは、約1nmから約50nmの間の直径を有する。例えば、一部の実施形態では、直径は、約1nmから約20nmの間、約1nmから約10nmの間、または約1nmから約5nmの間である。一部の実施形態では、直径は、約1nmから約2nmの間である。一部の実施形態では、比較的大きな薬剤(例えば、大きなタンパク質、例えば、抗体)にコンジュゲートされたデンドリマーは、これらの値をコンジュゲートされていないデンドリマーと比較して約5~15nm増加させる直径を有し得る。一部の実施形態では、デンドリマーは、約500ダルトン(Da)から約100,000Daの間(例えば、約500Daから約50,000Daの間、または約1,000Daから約20,000Daの間)の分子量を有する。
【0070】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるコンジュゲートのデンドリマーは、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマー、ポリプロピルアミン(POPAM)デンドリマー、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(ビス-MPA)デンドリマー、ポリエチレンイミンデンドリマー、ポリリシンデンドリマー、ポリエステルデンドリマー、イプチセンデンドリマー、脂肪族ポリ(エーテル)デンドリマー、芳香族ポリエーテルデンドリマー、またはこれらの組合せである。
【0071】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、PAMAMデンドリマーを含む。一部の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、アミドアミン構成単位を有する異なるコアを含む。一部の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、1世代、2世代、3世代、4世代、5世代、6世代、7世代、8世代、9世代、または10世代のPAMAMデンドリマーを含むがこれらに限定されない任意の世代のカルボン酸、アミン、および/またはヒドロキシル末端基を含む。一部の実施形態では、PAMAMデンドリマーは、4世代、5世代、6世代、7世代、または8世代のヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーである。
【0072】
一部の実施形態では、デンドリマーは、複数のヒドロキシル基を含む。一部の例示的な高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、市販のポリエステル樹状ポリマー、例えば多分岐2,2-ビス(ヒドロキシル-メチル)プロピオン酸エステルポリマー(例えば、多分岐ビス-MPAポリエステル-64-ヒドロキシル、4世代)、樹状ポリグリセロールを含む。一部の実施形態では、高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、オリゴエチレングリコール(OEG)様デンドリマーである。例えば、2世代OEGデンドリマー(D2-OH-60)は、Cu(I)で触媒されたアルキン-アジドクリックおよび光触媒されたチオール-エンクリック化学など、高度に効率的で堅牢かつ原子経済的化学反応を使用して合成することができる。最小限に抑えられた反応ステップにおける非常に低い世代での高度に稠密なポリオールデンドリマーは、例えばWO2019094952号に記載されるような、オルソゴナルハイパーモノマーおよびハイパーコア戦略を使用することによって、実現することができる。一部の実施形態では、デンドリマー主鎖は、in vivoでのデンドリマーの崩壊が回避されるよう、および身体からの単一実体(例えば、非生分解性)としてのそのようなデンドリマーの排除が可能になるように、構造全体を通して非切断可能ポリエーテル結合を有する。
【0073】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、1種もしくは複数種の治療剤、1種もしくは複数の造影剤、および/または1種もしくは複数の標的化剤にコンジュゲートされたデンドリマーを含む。一部の実施形態では、「少なくとも1種の」薬剤、「1種または複数種の」薬剤、および類似の用語は、特定の薬剤を指すのであり、必ずしもデンドリマーにコンジュゲートされた特定の薬剤の量を指すとは限らないことが認識されるべきである。例えば、一部の実施形態では、2種の薬剤を含むデンドリマーコンジュゲートは、1つまたは複数の末端位置に第1の薬剤、および1つまたは複数の異なる末端位置に第2の薬剤を有するデンドリマーを指し、第1および第2の薬剤は異なる(例えば、化学的に異なる)。一部の実施形態では、第1および第2の薬剤は、類似の目的に有用であってもよく(例えば、両方の薬剤が治療剤である)、または第1および第2の薬剤は、異なる目的に有用であってもよい(例えば、第1の薬剤は治療剤であり、第2の薬剤は標的化剤である)。類似の目的に使用される場合、第1および第2の薬剤は化学的に異なり、したがって、異なる機能性を提供し得、例えば、異なる受容体もしくは生物学的経路を標的とする異なる治療剤、または異なるスペクトル特性を有する異なる造影剤である。
【0074】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートの薬剤(例えば、治療剤、造影剤、標的化剤)は、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、小分子化合物、またはこれらの組合せである。一部の実施形態では、薬剤は、抗体、または抗体の抗原結合性断片である。一部の実施形態では、薬剤は、タンパク質をコードする核酸またはオリゴヌクレオチド、例えば、DNA発現ベクターまたはmRNAである。一部の実施形態では、薬剤は、RNAサイレンシング剤、例えば、siRNA、shRNA、またはマイクロRNAである。
【0075】
一部の実施形態では、薬剤は、小分子化合物、例えば、小分子の有機化合物、有機金属化合物、または無機化合物である。一部の実施形態では、薬剤は、2,000ダルトン(Da)未満、1,500Da未満、1,000Da未満、または500Da未満の分子量を有する小分子化合物である。一部の実施形態では、薬剤は、約100から約2,000Daの間の分子量を有する小分子化合物である。例えば、一部の実施形態では、小分子化合物は、約100から約1,500Daの間、約100から約1,000Daの間、約500から約2,000Daの間、または約300から約700Daの間の分子量を有する。
【0076】
一部の態様では、本明細書に記載されるデンドリマーコンジュゲートの非放出可能形態は、同じコンジュゲートの放出可能形態と比較して、増強された治療効力を提供する。したがって、一部の実施形態では、薬剤は、リンカーによりデンドリマーにコンジュゲートされ、リンカーはデンドリマーおよび薬剤に非放出可能方式で(例えば、エーテルおよび/またはアミド結合によって)結合する。一部の実施形態では、リンカーは、生理学的条件下で、最小限に放出可能(例えば、最小限に切断可能)な組成を有する。
【0077】
一部の実施形態では、デンドリマーは、in vivo条件下で安定である共有結合により、薬剤にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、共有結合は、対象に投与される場合、最小限に切断可能であり、そして/または身体からインタクトに排泄される。例えば、一部の実施形態では、全デンドリマーコンジュゲートの10%未満、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、または0.1%未満は、対象にin vivo投与された後、24時間、または48時間、または72時間以内に切断される薬剤を有する。一部の実施形態では、共有結合は、エーテル結合を含む。一部の実施形態では、デンドリマーと薬剤との間の共有結合は、加水分解により、または酵素により切断可能な結合、例えば、エステル結合ではない。
【0078】
一部の態様では、本開示は、式(I)のデンドリマーコンジュゲート:
【化1】
(式中、Dは、デンドリマーであり;Xは、OまたはNHであり;Y
1は、第1の基であり;Y
2は、第2の基であり;Zは、薬剤であり;Lは、リンカーであり;mは、16~4096(両端を含む)の整数であり;nは、1~100(両端を含む)の整数である)
を提供する。
【0079】
一部の実施形態では、Dは、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ポリマー、ポリプロピルアミン(POPAM)ポリマー、ポリエチレンイミンポリマー、ポリリシンポリマー、ポリエステルポリマー、イプチセンポリマー、脂肪族ポリ(エーテル)ポリマー、芳香族ポリエーテルポリマー、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(ビス-MPA)ポリマー、およびこれらの組合せからなる群から選択されるデンドリマーである。
【0080】
一部の実施形態では、Y1は、生理学的条件下で非加水分解可能である。一部の実施形態では、Y1は、必要に応じて置換されたアルキレン、必要に応じて置換されたアルケニレン、必要に応じて置換されたアルキニレン、または共有結合である。一部の実施形態では、Y1は、必要に応じて置換されたC1~20アルキレンである。一部の実施形態では、Y1は、非置換のC1~10アルキレンである。
【0081】
一部の実施形態では、Y2は、第二級アミド、第三級アミド、スルホンアミド、第二級カルバメート、第三級カルバメート、カーボネート、尿素、カルビノール、ジスルフィド、ヒドラゾン、ヒドラジド、エーテル、カルボニル、およびこれらの組合せからなる群から選択される。一部の実施形態では、Y2は、-CONH-、-CONRA-、-SO2NRA-、-OCONH-、-NHCOO-、-OCONRA-、-NRACOO-、-OC(=O)O-、-NHCONH-、-NRACONH-、-NHCONRA-、-NRCONRA-、-CHOH-、-CRAOH-、-C(=O)-、および-C(=O)RA-(式中、RAは、必要に応じて置換されたアルキル基、必要に応じて置換されたアリール基、または必要に応じて置換された複素環式基である)からなる群から選択される。
【0082】
一部の実施形態では、Zは、本明細書に記載される治療剤、造影剤、または標的化剤である。一部の実施形態では、Zは、治療剤または造影剤である。一部の実施形態では、式(I)のデンドリマーコンジュゲートは、デンドリマーにコンジュゲートされた少なくとも1種の標的化剤をさらに含む。一部の実施形態では、Zの少なくとも1つは、PPARアゴニスト(例えば、PPAR-δアゴニスト)である。
【0083】
一部の実施形態では、Lは、ポリマーおよび少なくとも1つの部分を含むリンカーである。一部の実施形態では、ポリマーは、ポリマーポリオール、ポリペプチド、または非置換アルキル鎖である。一部の実施形態では、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、およびポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーポリオールである。一部の実施形態では、ポリマーは、少なくとも2つのアミノ酸を有するポリペプチドである。一部の実施形態では、ポリマーは、約2から約40の間のアミノ酸(例えば、2~25、5~30、10~25、または5~15アミノ酸)を有するポリペプチドである。一部の実施形態では、ポリマーは、非置換アルキル鎖である。一部の実施形態では、ポリマーは、非置換C2~50アルキル鎖である。一部の実施形態では、ポリマーは、非置換C2~30アルキル鎖である。一部の実施形態では、ポリマーは、非置換C5~25アルキル鎖である。一部の実施形態では、ポリマーは、本明細書の他所に記載されているポリマーである。
【0084】
一部の実施形態では、Lの少なくとも1つの部分は、クリック反応から生じた部分である。一部の実施形態では、少なくとも1つの部分は、コンジュゲートを生成するために使用される反応性クリックケミストリーハンドル(例えば、アジドおよび末端または歪みアルキン、ジエンおよびジエノフィル、チオールおよびアルケン)間の環状電子反応(例えば、3+2環化付加、または4+2環化付加)から生じた5員複素環式環である。一部の実施形態では、少なくとも1つの部分は、1,2,3-トリアゾリル、4,5-ジヒドロ-1,2,3-トリアゾリル、イソオキサゾリル、4,5-ジヒドロイソオキサゾリル、または1,4-ジヒドロピリダジル(1,4-dihydropyridazyl)を含むジラジカルである。
【0085】
一部の態様では、本開示は、式(II)のデンドリマーコンジュゲート:
【化2】
(式中、D、m、nの各例、Xの各例、Y
1の各例、およびY
2の各例は、独立して、式(I)に関して定義された通りであり;L
1およびL
2は、独立して、式(I)に関して定義された通りのリンカーであり;Z
1およびZ
2は、異なる薬剤である)
を提供する。
【0086】
一部の実施形態では、Z1およびZ2は、独立して、治療剤、標的化剤、または造影剤であり、ただし、Z1およびZ2は、異なる(例えば、化学的に異なる)。一部の実施形態では、Z1およびZ2は、異なる治療剤である。一部の実施形態では、Z1およびZ2は、共通の病理に関与する異なる生物学的経路を標的とする異なる治療剤である。一部の実施形態では、Z1およびZ2は、異なる治療剤であり、式(II)のデンドリマーコンジュゲートは、デンドリマーにコンジュゲートされた少なくとも1種の標的化剤をさらに含む。一部の実施形態では、Z1およびZ2は、異なる造影剤である。一部の実施形態では、Z1は、治療剤であり、Z2は、標的化剤である。一部の実施形態では、Z1は、造影剤であり、Z2は、標的化剤である。一部の実施形態では、Z1またはZ2の少なくとも1つは、PPARアゴニスト(例えば、PPAR-δアゴニスト)である。
【0087】
カップリング剤およびスペーサー
デンドリマー複合体は、デンドリマーにコンジュゲートされたまたは結合した治療上活性な薬剤または化合物で形成することができる。必要に応じて、活性剤は、ジスルフィド、エステル、カーボネート、カルバメート、チオエステル、ヒドラジン、ヒドラジド、およびアミド結合などの種々の結合を介した1つまたは複数のスペーサー/リンカーを介してデンドリマーにコンジュゲートされる。デンドリマーと薬剤との間の1つまたは複数のスペーサー/リンカーは、in vivoでデンドリマー活性複合体の放出可能なまたは非放出可能な形態を提供するように設計することができる。一部の実施形態では、結合は、薬剤とデンドリマーとの間にエステル結合を提供する適切なスペーサーを介して存在する。一部の実施形態では、結合は、薬剤とデンドリマーとの間にアミド結合を提供する適切なスペーサーを介して存在する。一部の実施形態では、デンドリマーと薬物との間の1つまたは複数のスペーサー/リンカーは、in vivoで所望の有効な放出動態を実現するように添加される。
【0088】
スペーサーは、ポリマーと治療剤または造影剤とを架橋するための、単一の化学的実体、または一緒に結合した2つもしくはそれよりも多くの化学的実体であり得る。スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシニミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート末端を有する、任意の小さい化学的実体、ペプチドまたはポリマーを含み得る。
【0089】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシニミジル、マレイミド、ビニルスルホン、およびカーボネート基で終端する化合物のクラスの中から選択することができる。スペーサーは、チオピリジン末端化合物、例えばジチオジピリジン、N-スクシニミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシニミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオナミド)ヘキサノエートLC-SPDPまたはスルホ-LC-SPDPを含むことができる。スペーサーはペプチドを含むこともでき、このペプチドは、スルフヒドリル基、例えばグルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、シクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys)を本質的に有する直鎖状または環状である。スペーサーは、メルカプト酸誘導体、例えば、3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸、ならびに2メルカプトエタノールおよび2メルカプトエチルアミンなどの他のメルカプト誘導体であってもよい。スペーサーは、チオサリチル酸およびその誘導体、(4-スクシニミジルオキシカルボニル-メチル-アルファ-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジチオ]プロピオニルヒドラジドであってもよい。スペーサーは、マレイミド末端を有することができ、このスペーサーは、ポリマーまたは小さい化学実体、例えばビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドヘキサンを含む。スペーサーは、ビニルスルホン、例えば1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンを含むことができる。スペーサーは、チオグリコシド、例えばチオグルコースを含むことができる。スペーサーは、還元タンパク質、例えばウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン、ジスルフィド結合を形成することが可能な任意のチオール末端化合物であってもよい。スペーサーは、マレイミド、スクシニミジルおよびチオール末端を有するポリエチレングリコールを含むことができる。
【0090】
薬剤および/または標的化部分は、デンドリマーにおいて、共有結合により結合しているか、または分子内分散もしくはカプセル化されているかのいずれかであってよい。一部の実施形態では、デンドリマーは、カルボン酸、ヒドロキシルまたはアミン末端を有する、10世代までのPAMAMデンドリマーである。一部の実施形態では、デンドリマーは、ジスルフィド、エステルまたはアミド結合で終わるスペーサーを介して薬剤に連結される。
【0091】
治療、予防および診断剤
一部の実施形態では、送達されるべき粒子に含まれることになる薬剤(例えば、デンドリマーにコンジュゲートされた薬剤)は、タンパク質またはペプチド、糖または炭水化物、核酸またはオリゴヌクレオチド、脂質、小分子(例えば、2500ダルトン未満、2000ダルトン未満、1500ダルトン未満の分子量)、またはこれらの組合せであってもよい。核酸は、タンパク質をコードするオリゴヌクレオチド、例えば、DNA発現カセットまたはmRNAであってもよい。代表的なオリゴヌクレオチドには、siRNA、マイクロRNA、DNAおよびRNAが含まれる。一部の実施形態では、活性剤は、治療用抗体である。
【0092】
一部の実施形態では、薬剤は、核酸、核酸類似体、2kDa未満、1kDa未満の分子量を有する小分子、ペプチド模倣体、タンパク質もしくはペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、または界面活性剤、あるいはこれらの組合せである。一部の実施形態では、薬剤は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝産物、および類似体を含むがこれらに限定されない、活性剤の薬学的に許容される、薬理学的に活性な誘導体を含む。
【0093】
デンドリマーは、複数の治療剤、予防剤および/または診断剤を、同じデンドリマーを用いて送達することができるという利点を有する。1つまたは複数のタイプの活性剤を、デンドリマー内にカプセル化し、複合体化し、またはコンジュゲートすることができる。一実施形態では、デンドリマーは、2種またはそれよりも多くの異なるクラスの薬剤と複合体化されまたはコンジュゲートされ、標的部位で異なるまたは独立した放出動態による同時送達をもたらす。別の実施形態では、デンドリマーは、少なくとも1つの検出可能な部分および少なくとも1つのクラスの薬剤に共有結合により連結される。さらなる実施形態では、それぞれが異なるクラスの薬剤を運ぶデンドリマー複合体は、併用処置のために同時に投与される。例示的な活性剤には、AKIおよび/またはCKDを処置および予防するために有用な治療剤が含まれる。
【0094】
一部の実施形態では、薬剤は、治療剤である。一部の実施形態では、薬剤は、診断剤(例えば、造影剤)である。一部の実施形態では、治療剤は、アゴニストまたはアンタゴニストである。
【0095】
一部の実施形態では、薬剤は、アンタゴニスト(例えば、阻害剤)である。一部の実施形態では、治療剤は、阻害剤である。一部の実施形態では、1種または複数種の薬剤を含むデンドリマー組成物は、罹患腎臓における炎症促進性(M1様)マクロファージおよび/または炎症促進性サイトカインの活性および/または量を、デンドリマー組成物を受けなかったまたはそのような組成物で処置しなかった対象の腎臓における同じ細胞の活性および/または量から、約10%、20%、30%、40%、50%、75%、85%、90%、95%、または99%阻害しまたは低減させ得る。一部の実施形態では、阻害および低減は、mRNA、タンパク質、細胞、組織、および臓器レベルで比較される。
【0096】
一部の実施形態では、薬剤は、アゴニストである。一部の実施形態では、アゴニストは、in vitro、ex vivo、またはin vivoで結合、それを刺激、増加、活性化、促進、活性化を増強、感作、または活性もしくは発現を上方調節する薬剤を指す。例えば、一部の実施形態では、薬剤は、PPARアゴニスト(例えば、PPAR-δアゴニスト)である。一部の実施形態では、PPARアゴニストは、10μM未満(例えば、5μM未満、1μM未満、0.1μM未満)の最大有効濃度の半分(EC50)でPPAR受容体に結合する分子である。一部の実施形態では、PPARアゴニストは、約0.1nMから約100nMの間(例えば、1~100nM、1~50nM、1~20nM、1~10nM、0.1~5nM)でEC50のPPAR受容体に結合する分子である。結合親和性を、例えば、in vitro結合アッセイ(例えば、蛍光偏光、等温滴定熱量測定、吸光度分光法、および当技術分野で公知の他の方法論)によって、評価して、EC50の値を決定することができる。
【0097】
したがって、一部の実施形態では、本開示は、PPARアゴニスト(例えば、PPAR-δアゴニスト)にコンジュゲートされたデンドリマー、ならびにその組成物およびそれを使用する方法を提供する。
【0098】
A. ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニスト
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、PPAR-α、PPAR-δ、およびPPAR-γを含む核ホルモン受容体であり、これらは、がん細胞の増殖、生存、アポトーシス、および腫瘍増殖の調節において重要な役割を果たす。核受容体スーパーファミリーのPPAR群の3つのメンバーの1つであるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPAR-δ)は、リガンド活性化転写因子である。PPAR-δは、エネルギーバランスの維持に寄与する重要な細胞代謝機能を調節する。PPAR-δは、脂肪酸取込み、輸送、およびβ酸化、ならびにインスリンの分泌および感受性の調節にとりわけ重要である。正常細胞におけるこれらの有益なPPAR-δの機能は、メタボリックシンドローム関連疾患、例えば、肥満、脂質異常、インスリン抵抗性/2型糖尿病、肝臓脂肪症、およびアテローム動脈硬化症、ならびにグルコースおよび脂質代謝、炎症、および増殖に関連する多数の生理学的過程に対する防御であると考えられる。それは、いくつかのがんにおいて上方調節されることが観察されている。PPAR-δは広範に発現するが、異なる組織におけるその発現レベルは、細胞型および疾患状態に依存して様々である。
【0099】
Liu, et al. Int. J. Mol. Sci. 19(11):3339 (2018)によって報告されるように、多くの研究により、PPARは炎症の調節に関与することが明らかになっている。一部の文脈では、PPAR-δは、抗炎症性機能を有することが報告されている。例えば、選択的PPAR-δアゴニストであるGW0742は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において炎症を軽減した一方、PPAR-δのノックアウトはEAE重症度を悪化させた。PPAR-δの抗糖尿病機能も、炎症性シグナル伝達の低下と関連していると思われる。2型糖尿病のラットモデルにおいて、GW0742は、肝組織において炎症促進性サイトカイン腫瘍壊死因子-α(TNF-α)および単球走化性タンパク質-1(MCP-1)を低減させ、同時に、肝脂肪蓄積を低減させたことが示された。GW0742はまた、マウスにおいて、MCP-1およびオステオポンチンを含む炎症性メディエーターの低減によりストレプトゾトシン誘発糖尿病性腎症を阻害することも示された。db/db(レプチン受容体遺伝子(Lepr)における偶発db突然変異について同型接合性)および高脂肪食誘発肥満糖尿病マウスモデルの両方を使用した研究は、PPAR-δが、血管の炎症の運動誘発低減における重要なメディエーターであることを示した。
【0100】
PPAR-δシグナル伝達は、他の文脈では炎症を促進すると思われる。例えば、PPAR-δ発現は、主に皮膚が影響を受ける一般的な免疫媒介疾患である乾癬を有する患者において増加する。遺伝子導入マウスモデルにおいて、表皮におけるPPAR-δ活性化の誘発は、乾癬様皮膚状態の発症をもたらし、これは、IL-1シグナル伝達の増加およびSTAT3のリン酸化と相関した。PPAR-δシグナル伝達は、関節炎のいくつかの形態においても炎症を促進し得る。間葉系幹細胞(MSC)は、炎症を制限し得る免疫調節特性を有する。関節炎のコラーゲン誘導マウスモデルにおいて、低下したPPAR-δ活性を有するMSC(PPAR-δノックアウトマウスから採取したMSCまたはPPAR-δアンタゴニストGSK3787で事前処理したWT PPAR-δ MSC)を受けているマウスは、炎症性免疫応答のより良好な抑制を有し、関節炎スコアの改善がもたらされた。同じ研究において、ヒトMSCにおけるPPAR-δのGSK3787による阻害は、共培養実験において末梢血単核細胞の増殖を制限するその能力を増強した。
【0101】
PPAR-δアゴニストは、これまでに記載されている。一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、Rudolph J et al., J. Med. Chem. 2007, 50, 5, 984-1000 (2007)に記載されるように、4-チアゾリル-フェノキシテール基を担持するインダニル酢酸誘導体である。一部の実施形態では、デンドリマーは、以下の構造から選択される1つまたは複数のPPAR-δアゴニストと複合体化されるか、共有結合によりコンジュゲートされるか、または分子内分散もしくはカプセル化される。
【化3】
【0102】
一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、デンドリマーとのコンジュゲーションの容易さのため、および/または所望の放出動態のために、例えば、エーテル、エステル、またはアミド結合により、必要に応じて、1つまたは複数のスペーサー/リンカーにより官能化される。一部の実施形態では、PPAR-δアゴニストは、例えば、エーテル結合を介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーを伴って、in vivoでデンドリマーから非切断可能または最小限に切断可能となるように官能化される。PPAR-δアゴニストへの官能化基および/または連結部分のコンジュゲーションの例を、以下に示す。
【化4】
【0103】
PPAR-δアゴニストへの官能化基および/または連結部分のコンジュゲーションの追加の例を、以下に示す。Rudolph J et al., J. Med. Chem. 2007, 50, 5, 984-1000 (2007)も参照されたい。
【化5】
【0104】
一部の実施形態では、デンドリマーは、以下の構造から選択される1つまたは複数のPPAR-δアゴニストと複合体化されるか、共有結合によりコンジュゲートされるか、または分子内分散もしくはカプセル化される。
【化6】
【0105】
PPAR-δアゴニストへの官能化基および/または連結部分のコンジュゲーションのさらなる例を、以下に示す。
【化7】
【0106】
PPAR-δアゴニストの追加の例は、例えば、Ham J et al., Eur J Med Chem. 53:190-202 (2012)によって、これまでに記載されている。一部の実施形態では、デンドリマーは、以下の構造から選択される1つまたは複数のPPAR-δアゴニストと複合体化されるか、共有結合によりコンジュゲートされるか、または分子内分散もしくはカプセル化される。
【化8】
【0107】
デンドリマーへのコンジュゲーションに適したPPAR-δアゴニストへの官能化基および/または連結部分のコンジュゲーションのさらなる例を、以下に示す。
【化9】
【0108】
一実施形態では、デンドリマーは、PPAR-δアゴニストGW0742と複合体化されるか、共有結合によりコンジュゲートされるか、または分子内分散もしくはカプセル化される。GW0742アミド誘導体およびGW0742エステル誘導体としてのGW0742のコンジュゲーションの例を、以下に示す。
【化10】
【0109】
別の実施形態では、デンドリマーは、PPAR-δアゴニストGW501516と複合体化されるか、共有結合によりコンジュゲートされるか、または分子内分散もしくはカプセル化される。GW0742アミド誘導体およびGW0742エステル誘導体としてのGW0742のコンジュゲーションの例を、以下に示す。
【化11】
【0110】
B. 抗炎症剤
一部の実施形態では、組成物は、1種または複数種の抗炎症剤を含む。抗炎症剤は、炎症を低減させ、ステロイド系および非ステロイド系薬物を含む。
【0111】
一部の実施形態では、抗炎症剤は、抗酸化薬物、例えば、N-アセチルシステインである。
【0112】
ステロイド系抗炎症薬物の例には、限定なしに、トリアムシノロンアセトニド(Triamicinolone acetonide)、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾン、コルチゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、フルオシノニド(Flucinonide)、アルクロメタゾン、ジフルプレドナート、トリアムシノロンジアセテート、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ベクロメタゾン、ならびにそれらの塩およびプロドラッグが含まれる。グルココルチコイド(Glucocortiocoid)ステロイド系抗炎症薬物には、プレドニゾン、デキサメタゾン、およびコルチコステロイド、例えば、フルオシノロンアセトニドおよびメチルプレドニゾロンが含まれる。
【0113】
非ステロイド系薬物の例は、NSAIDS、およびCOX-2阻害剤に分類することができる。これらには、イブフェナク、アセチルサリチル酸、ベノキサプロフェン、ナプロキセン、アルミノプロキセン、ブクロキシン酸、イブプロフェン、セレコキシブ、カルプロフェン、エトドラク、フルフェナム酸、フルビプロフェン、インドメタシン、イソキセパック、ケトプロフェン、メフェナム酸(mefanemic acid)、オキサプロジン(oxaprozen)、オキシピナク(oxpinac)、パレコキシブ、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、スプロフェン、チアプロフェン酸、トルメチン、トラマドール、バルデコキシブ塩、およびそれらのプロドラッグが含まれる。
【0114】
金およびそのコンジュゲートは、抗炎症剤として使用することができる。
【0115】
一部の実施形態では、抗炎症剤は、免疫調節薬物である。例示的な免疫調節薬物には、シクロスポリン、タクロリムスおよびラパマイシンが含まれる。一部の実施形態では、抗炎症剤は、1種もしくは複数種の免疫細胞型、例えばT細胞の作用を遮断するか、または免疫系のタンパク質、例えば腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)、インターロイキン17-A、インターロイキン-12、およびインターロイキン-23を遮断する、生物学的薬物である。
【0116】
一部の実施形態では、抗炎症剤は、SGLT2阻害剤、LPA1受容体アンタゴニストもしくはLPA1シグナル伝達経路阻害剤、バソプレシンV2受容体アンタゴニスト、エンドセリン受容体アンタゴニスト、または尿酸輸送体阻害剤である。SGLT2阻害剤の例には、フロリジン、T-1095、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エルツグリフロジン、およびレモグリフロジンエタボン酸エステルが含まれる。LPA1受容体アンタゴニストまたはLPA1シグナル伝達経路阻害剤の例には、BMS-986202、BMS-986020、VPC12249、AM966、AM095、Ki16425、およびKi16198が含まれる。バソプレシンV2受容体アンタゴニストの例には、リキシバプタン、トルバプタン、サタバプタン、およびモザバプタンが含まれる。エンドセリン受容体アンタゴニストの例には、シタキセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン、およびジボテンタンが含まれる。尿酸輸送体阻害剤の例には、プロベネシド、スルフィンピラゾン、ベンズブロマロン、レシヌラド、RDEA3170、SHR4640、URC-102、およびFYU-981が含まれる。
【0117】
一部の実施形態では、抗炎症薬物は、合成または自然の抗炎症性タンパク質である。免疫成分を選択するために特異的な抗体を、免疫抑制治療に加えることができる。一部の実施形態では、抗炎症薬物は、抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリンもしくは抗リンパ球グロブリン)、抗IL-2Rα受容体抗体(例えば、バシリキシマブもしくはダクリズマブ)、または抗CD20抗体(例えば、リツキシマブ)である。
【0118】
多くの炎症性疾患は、リポ多糖(LPS)のための受容体であるtoll様受容体4(TLR4)を介して、病理学的に上昇したシグナル伝達に関連し得る。したがって、一部の実施形態では、活性剤は、1種または複数種のTLR4阻害剤である。
【0119】
一部の実施形態では、1種または複数種の抗炎症薬は、炎症を阻害するために有効な量で哺乳動物対象に投与された後、少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、好ましくは、少なくとも1週間、2週間または3週間、より好ましくは、少なくとも1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月または6カ月にわたって、デンドリマー複合体から放出される。
【0120】
C. 腎疾患、高血圧症、および他の障害の処置のための薬剤
一部の実施形態では、デンドリマーは、1種または複数種の追加の活性剤、特に、腎傷害および/または関連疾患もしくは状態、例えば、感染症、敗血症、虚血再灌流傷害、糖尿病合併症、高血圧症、肥満、および/または自己免疫性糖尿病、高血圧、心不全、腎疾患、肝疾患、ならびにがんの1つまたは複数の症状を予防または処置するための1種または複数種の治療剤、予防剤および/または診断剤を送達するために使用される。
【0121】
一部の実施形態では、他の薬剤、例えば、化学療法剤、抗血管新生薬、および抗興奮毒性剤、例えば、バルプロ酸、D-アミノホスホノバレレート、D-アミノホスホノヘプタノエート、グルタメート形成/放出の阻害剤、例えばバクロフェン、NMDA受容体アンタゴニスト、ラニビズマブ、ならびにアフリベルセプトを含む抗VEGF薬剤、ならびに免疫調節剤、例えばラパマイシンが組み込まれ得る。
【0122】
送達され得る他の治療剤には、尿酸輸送体(URAT1)阻害剤(例えば、ベリヌラド)、バソプレシン(vasopression)V2受容体アンタゴニスト(例えば、トルバプタン)、エンドセリン受容体アンタゴニスト(例えば、アトラセンタン)、サブタイプ2ナトリウム-グルコース輸送タンパク質(SGLT2)阻害剤(例えば、カナグリフロジン)、およびLPA1受容体アンタゴニストが含まれる。
【0123】
一部の実施形態では、活性剤は、抗感染剤である。例示的な抗感染剤には、抗ウイルス剤、抗菌剤、駆虫剤および抗真菌剤が含まれる。
【0124】
一部の実施形態では、デンドリマーは、AKIおよび/またはCKDを処置および予防するための効力を有することが示された1種または複数種の治療剤を送達する。
【0125】
D. 診断剤
ある場合には、薬剤は、診断剤を含み得る。診断剤の例には、常磁性分子、蛍光化合物、磁気分子ならびに放射性核種、X線造影剤およびコントラスト媒体が含まれる。他の適切なコントラスト剤の例には、放射線不透過性の気体または気体放出化合物が含まれる。デンドリマー複合体はさらに、投与された組成物の場所を決定するのに有用な薬剤を含むことができる。この目的に有用な薬剤は、蛍光タグ、放射性核種、およびコントラスト剤を含む。
【0126】
例示的な診断剤は、色素、蛍光色素、近赤外線色素、SPECT造影剤、PET造影剤、および放射性同位体を含む。
【0127】
さらなる実施形態では、単一のデンドリマー複合体組成物は、体内の1つまたは複数の位置で疾患または状態を同時に処置および/または診断することができる。
【0128】
一部の態様では、本開示は、デンドリマーの1つまたは複数の末端位置で少なくとも1種の造影剤を有するデンドリマーを含むデンドリマーコンジュゲートを提供する。一部の実施形態では、造影剤を含むデンドリマーコンジュゲートは、診断、治療、または標識目的のために使用することができる。一部の実施形態では、造影剤は、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、放射性核種、x線造影剤、またはコントラスト剤である。一部の実施形態では、コントラスト剤は、放射線不透過性であるガスまたはガス放出化合物である。一部の実施形態では、造影剤を含むデンドリマーコンジュゲートは、投与された組成物の場所を決定するために使用することができる。この目的に有用な造影剤には、限定なしに、蛍光タグ、放射性核種、およびコントラスト剤が含まれる。診断目的に有用な造影剤の例には、限定なしに、色素、蛍光色素、近赤外線色素、SPECT造影剤、PET造影剤、および放射性同位体が含まれる。色素の例には、限定なしに、カルボシアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、チアカルボシアニン(thuicarbocyanine)、およびメロシアニン、ポリメチン、クマリン、ローダミン、キサンテン、フルオレセイン、ボロンジピロメタン(BODIPY)、Cy5、Cy5.5、Cy7、VivoTag-680、VivoTag-S680、VivoTag-S750、AlexaFluor660、AlexaFluor680、AlexaFluor700、AlexaFluor750、AlexaFluor790、Dy677、Dy676、Dy682、Dy752、Dy780、DyLight547、Dylight647、HiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750、IRDye 800CW、IRDye 800RS、IRDye 700DX、ADS780WS、ADS830WS、およびADS832WSが含まれる。
【0129】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、シンチグラフィ、単一光子放射断層撮影(SPECT)、またはポジトロン断層撮影(PET)による撮像に適した放射性核種リポーターを含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、放射線療法に適した放射性核種を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、磁気共鳴画像法(MRI)による撮像のためのコントラスト剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、診断撮像に有用な放射性核種のためのキレート剤またはMRIコントラスト剤、および放射線療法に有用なキレート剤を含む。したがって、一部の実施形態では、単一のデンドリマー/造影剤コンジュゲートは、体内の1つまたは複数の位置で疾患または状態を同時に処置および診断することができる。一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、放射活性標識SPECT、または適切な量の放射活性を有するシンチグラフィ造影剤を含む。
【0130】
適切な造影剤は、特定の撮像方法論に基づいて選択することができる。例えば、一部の実施形態では、造影剤は、光学撮像のための近赤外蛍光色素、MRI撮像のためのガドリニウムキレート、PETもしくはSPECT撮像のための放射性核種、またはCT撮像のための金ナノ粒子である。
【0131】
一部の実施形態では、デンドリマーコンジュゲートは、PET撮像のための1種または複数種の造影剤、例えば、1種または複数種の放射性核種を含む。PETは、特別なカメラおよびコンピューターを使用して、in vivoで少量の放射活性のある放射性トレーサーまたは放射性医薬品を検出して、臓器および組織機能を評価する(例えば、疾患の早期発生を検出する)技法である。
【0132】
PETには、一致検出を使用し、約110分の半減期を有する18F、約20分の半減期を有する11C、約10分の半減期を有する13N、および約2分の半減期を有する15Oを含むがこれらに限定されない、短寿命ポジトロンを放出する放射性同位体からの消滅光子の形態のガンマ線の検出が関与する。したがって、一部の実施形態では、PET撮像において使用するための造影剤の例には、限定なしに、様々なポジトロン放出金属イオン、例えば、51Mn、52Fe、60Cu、68Ga、72As、94mTc、または110Inの1つまたは複数が含まれる。一部の実施形態では、造影剤は、18F、124I、125I、131I、123I、77Br、および76Brから選択される放射性核種である。シンチグラフィまたは放射線療法のための金属放射性核種の例には、限定なしに、99mTc、51Cr、67Ga、68Ga、47Sc、51Cr、167Tm、141Ce、111In、168Yb、175Yb、140La、90Y、88Y、153Sm、166Ho、165Dy、166Dy、62Cu、64Cu、67Cu、97Ru、103Ru、186Re、188Re、203Pb、211Bi、212Bi、213Bi、214Bi、105Rh、109Pd、117mSn、149Pm、161Tb、177Lu、225Ac、198Au、および199Auが含まれる。金属の選択は、所望の治療または診断適用例に基づいて決定される。例えば、診断目的のために、一部の実施形態では、有用な放射性核種には、64Cu、67Ga、68Ga、99mTcおよび111Inが含まれる。治療目的のために、一部の実施形態では、有用な放射性核種には、64Cu、90Y、105Rh、111In、117mSn、149Pm、153Sm、161Tb、166Tb、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、225Ac、186/188Re、および199Auが含まれる。
【0133】
一部の実施形態では、造影剤は、テクニチウム-99m(99mTc)である。一部の実施形態では、99mTcは、その低コスト、利用可能性、撮像特性、および高い比放射能のために診断適用例に有用である。99mTcの核および放射性特性により、この同位体は、シンチグラフィ撮像に有用なものとなる。この同位体は、140keVの単一光子エネルギーおよび約6時間の放射性半減期を有し、99Mo-99mTcジェネレーターから容易に利用可能である。一部の実施形態では、PET撮像に有用な放射性核種には、18F、4-[18F]フルオロベンズアルデヒド(18FB)、Al[18F]-NOTA、68Ga-DOTA、および68Ga-NOTAが含まれる。一部の実施形態では、153Smは、キレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、または1,4,7,10-テトラアザシクロドデカンテトラメチレンホスホン酸(DOTMP)と共に造影剤として使用することができる。
【0134】
MRIは、中でも、脳疾患、脊椎障害、血管造影検査、心機能、および筋骨格損傷を評価するために使用することができる。MRIは、電離放射線の使用を必要とせず、走査は、任意の選択された配向で実施することができる。MRIは、完全三次元能、高い軟組織コントラスト、高い空間解像度を提供し、形態学および機能撮像に熟達している。したがって、一部の実施形態では、デンドリマーは、MRIのための1種または複数種の造影剤、例えば、1種または複数種のMRIコントラスト剤を含む。MRIコントラスト剤の例は、当技術分野で公知であり、限定なしに、Gd、Mn、BaSO4、酸化鉄、および鉄白金を含む。
【0135】
II. 医薬製剤
デンドリマーおよび1種または複数種の活性剤(例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPAR-δ)アゴニスト)を含む医薬組成物は、薬学的に使用することができる調製物への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む、1種または複数種の生理学的に許容される担体を使用する従来の手法で製剤化されてもよい。適正な製剤化は、選択される投与経路に依存する。好ましい実施形態では、組成物は、非経口送達用に製剤化される。一部の実施形態では、組成物は、皮下注射用に製剤化される。典型的には、組成物は、処置がなされる組織または細胞への注射のために滅菌生理食塩水または緩衝液で製剤化される。組成物は、使用直前の再水和のため、単回使用のバイアルに凍結乾燥して保存することができる。再水和および投与するためのその他の手段は、当業者に公知である。
【0136】
医薬製剤は、1種または複数種のデンドリマー複合体を、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含有する。代表的な賦形剤には、溶媒、希釈剤、pH調節剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、湿潤剤、粘度調節剤、等張剤、安定化剤、およびこれらの組合せが含まれる。適切な薬学的に許容される賦形剤は、好ましくは、一般的に安全と認められている(GRAS)材料から選択され、望ましくない生物学的副作用または不要な相互作用を引き起こすことなく個体に投与され得る。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th ed., Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore,
MD, 2000, p. 704を参照されたい。
【0137】
組成物は、好ましくは、投与の容易さおよび投薬量の均一性のため、単位剤形で製剤化される。「単位剤形」という文言は、処置がなされる患者に適切なコンジュゲートの物理的に切り離された単位を指す。しかしながら、組成物の単回投与全体は、正しい医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されよう。治療有効用量は、細胞培養アッセイでまたは動物モデル、通常はマウス、ウサギ、イヌ、またはブタで最初に推定することができる。動物モデルは、所望の濃度範囲および投与経路を実現するのにも使用される。次いでそのような情報は、ヒトに有用な用量および投与経路を決定するのに役立てるべきである。コンジュゲートの治療効力および毒性は、細胞培養でまたは実験動物で、標準的な医薬手順によって、例えばED50(用量は、集団の50%で治療上有効である)およびLD50(用量は、集団の50%に致命的である)と決定することができる。毒性の治療効果に対する用量比は治療指標であり、比LD50/ED50として表すことができる。大きい治療指標を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータは、ヒトへの使用のための投薬範囲を製剤化する際に使用することができる。
【0138】
非経口により投与するための(筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下注射)および経腸投与経路により投与するための製剤化された医薬組成物について説明する。
【0139】
「非経口投与」および「非経口的に投与される」という文言は、当技術分野で理解されている用語であり、注射など、経腸および局所投与以外の投与形態を含み、静脈内、筋肉内、胸腔内、血管内、心膜内、動脈内、脊髄内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内注射および輸液が含まれる。デンドリマーは、非経口的に、例えば硬膜下、静脈内、脊髄内、心室内、動脈内、羊水内、腹腔内、または皮下経路により投与され得る。好ましい実施形態では、デンドリマー組成物は、皮下注射を介して投与される。
【0140】
液体製剤の場合、薬学的に許容される担体は、例えば水性または非水性溶液、懸濁液、エマルジョン、または油であってもよい。(皮下、静脈内、動脈内または筋肉内注射のための)非経口ビヒクルは、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲルおよび固定油が含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体には、例えば、水、アルコール性/水性溶液、シクロデキストリン、エマルジョン、または懸濁液が含まれ、生理食塩水および緩衝媒体を含む。デンドリマーは、エマルジョンで、例えば油中水で投与することもできる。油の例は、石油、動物、植物、または合成由来のもの、ワセリン、および鉱油である。非経口製剤に使用される適切な脂肪酸には、例えばオレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が含まれる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0141】
非経口投与に適した製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および意図されるレシピエントの血液に対して製剤を等張性にする溶質、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液を含むことができる。静脈内ビヒクルは、流体および栄養補給剤、電解質補給剤、例えばリンゲルデキストロースをベースにするものを含むことができる。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース、および関連ある糖溶液と、グリコール、例えばポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどは、特に注射可能な溶液に好ましい液体担体である。
【0142】
注射可能な組成物のための注射可能な医薬担体は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J.B. Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker and Chalmers, eds., pages 238-250 (1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs,Trissel, 15th ed., pages 622-630 (2009)参照)。
【0143】
組成物は、経腸的に投与されるように製剤化され得る。担体または希釈剤は、カプセル剤もしくは錠剤などの固体担体、または固体製剤用の希釈剤、液体製剤用の液体担体もしくは希釈剤、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0144】
液体製剤の場合、薬学的に許容される担体は、例えば、水性または非水性溶液、懸濁液、エマルジョン、または油であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体には、例えば、水、アルコール/水性溶液、シクロデキストリン、エマルジョン、または懸濁液が含まれ、生理食塩水および緩衝媒体を含む。
【0145】
油の例は、石油、動物、植物、または合成由来のものであり、例えば、ピーナツ油、大豆油、鉱油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリン、およびミネラルである。非経口製剤で使用される適切な脂肪酸には、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が含まれる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0146】
ビヒクルには、例えば塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲルおよび固定油が含まれる。製剤には、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および意図されるレシピエントの血液に対して製剤を等張性にする溶質を含有することができる、水性および非水性、等張性滅菌注射液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液を含有することができる。ビヒクルは、例えば、流体および栄養補給剤、電解質補給剤、例えばリンゲルデキストロースをベースにしたものなどを含むことができる。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース、および関連ある糖溶液が、好ましい液体担体である。これらは、タンパク質、脂肪、糖、およびその他の乳児用調製乳の成分と共に製剤化することもできる。
【0147】
好ましい実施形態では、組成物は、経口投与用に製剤化される。経口製剤は、チューイングガム、ゲルストリップ、錠剤、カプセル剤、またはロゼンジ剤の形態をとってもよい。腸溶性コーティング付き経口製剤の調製のためのカプセル化物質は、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ヒドロキシルプロピルメチルセルロースフタレート、およびメタクリル酸エステルコポリマーを含む。カプセル剤または錠剤などの固体経口製剤が好ましい。エリキシル剤およびシロップ剤も周知の経口製剤である。
【0148】
III. 使用方法
対象における疾患または障害を処置または予防するためにデンドリマー組成物を使用する方法が、記載される。デンドリマー組成物は、1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置、予防および/または診断することを必要とする対象における1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置、予防および/または診断するために使用することができる。1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または予防するための方法は、1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置、軽減または予防するために有効な量の、1種または複数種の治療剤または予防剤と、複合体化されたか、共有結合によりコンジュゲートされたか、または分子内分散もしくはカプセル化されたデンドリマーを、対象に投与することを含む。一部の実施形態では、1種もしくは複数種の抗炎症剤および/もしくはPPAR-δアゴニストを含むデンドリマー組成物、またはその製剤は、1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または予防する、例えば、腎臓における炎症を低減させるのに有効な量で投与される。
【0149】
一実施形態では、1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患を処置または予防するための方法は、1つまたは複数の腎臓の傷害、障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または予防するために有効な量の、1種または複数種のPPAR-δアゴニストに共有結合によりコンジュゲートされたG4、G5またはG6のPAMAMデンドリマーを含む組成物を、対象に投与することを含む。
【0150】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、AKI、例えば、腎臓への血流不全によって引き起こされたか、腎臓への直接損傷によって引き起こされたか、または腎臓における尿の閉塞によって引き起こされたものを処置するために使用される。方法は、典型的には、デンドリマー、ならびに腎臓の障害および/または疾患に関連する1つまたは複数の症状を処置および/または軽減するための1種または複数種の薬剤を含む組成物の有効量を、腎臓の障害および/または疾患に関連する1つまたは複数の症状を処置および/または軽減することを必要とする対象に投与することを含む。
【0151】
腎臓の傷害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または寛解させるための方法について説明する。特に、組成物は、急性腎傷害(AKI)および慢性腎疾患(CKD)の1つまたは複数の症状、例えば、腎臓への血流を緩徐化する状態に関連するものを処置または寛解させるのに有効な量で使用される。腎臓への血流を緩徐化し、腎傷害をもたらし得る疾患および状態には、血液または体液喪失、血圧の薬物治療、心臓発作、心疾患、感染症、肝不全、非ステロイド系抗炎症薬物または関連薬物の使用、重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)、重度の火傷、重度の脱水が含まれる。急性腎不全は、通常、別の医学的状態または事象と関連して生じる。急性腎不全のリスクを上昇させ得る状態には、入院(とりわけ、集中治療を必要とする深刻な状態)、加齢、腕または脚の血管の閉塞(末梢動脈疾患)、糖尿病、高血圧、心不全、腎疾患、肝疾患、特定のがんおよびそれらの処置が含まれる。したがって、一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、死亡率を低減させ、臓器不全の発生率を低減させ、入院時間を低減させるのに有効な量で投与される。
【0152】
尿細管損傷、尿細管上皮の平坦化、尿細管拡張および尿細管上皮細胞壊死、ならびに特に腎臓の近位尿細管のものを低減させるための方法も記載される。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、罹患腎臓における尿細管損傷、尿細管上皮の平坦化、尿細管拡張、ならびに尿細管上皮細胞壊死および/またはアポトーシスを、低減させる、および/または阻害する。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、罹患腎臓における尿細管細胞の完全性および機能の回復を促進する。
【0153】
炎症および免疫系活性化は、AKIおよびCKDの両方に共通の基礎をなす特徴を表す。細胞損傷およびその関連分子産物は、急性組織損傷後の炎症の重要な引き金であると考えられる(Chen GY et al., Nat Rev Immunol 10: 826-837 (2010))。腎臓内で、腎尿細管上皮細胞は、特に、虚血/再灌流(IR)の再灌流期の間、固有の酸化ストレスを極度に受けやすい(Medzhitov R, Cell 140: 771-776 (2010);Kurts C, et al., Nat Rev Immunol 13: 738-753 (2013))。壊死細胞は、損傷に関連する分子パターン、例えば、高移動性グループボックス1、ヒストン、ヒートショックタンパク質、フィブロネクチン、およびバイグリカンを細胞外空間に放出し、これはその後、上皮および内皮細胞、樹状細胞(DC)、単球/マクロファージ、ならびにリンパ球で発現される、パターン認識受容体、例えば、トール様受容体(TLR)、ならびにヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン様受容体、例えば、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン-、LRR-、およびピリンドメイン含有3インフラマソームを活性化する(Anders HJ et al, J Am Soc Nephrol 25: 1387-1400 (2014);Valles PG, et al., Int J Nephrol Renovasc Dis 7: 241-251, 2014)。活性化された腎実質細胞およびDCは、CXCL1、CXCL8、CCL2およびCCL5を含むケモカインも分泌し、これは、AKIにおける急性好中球および単球/マクロファージ依存性炎症反応を促進する(Bolisetty S, et al., Kidney Int 75: 674-676 (2009))。滞留および動員された細胞集団における炎症促進性(例えば、TNF-α、IFN-γ、IL-6、IL-1β、IL-23、IL-17、C3、C5aおよびC5b)および抗炎症性(例えば、IL-4、TGF-β、IL-10、ヘムオキシゲナーゼ1、レゾルビンおよびプロテクチンD1)メディエーターの発現の経時変化は、損傷および回復期の重要な決定因子である。理想的な条件下では、炎症因子と抗炎症因子との間の絶妙なバランスにより、堅牢な組織修復および恒常性状態の回復が確実になる。しかしながら、AKIは、長期間の低酸素症および線維化促進サイトカイン(例えば、IL-13およびTGF-β1)の持続分泌の結果として、異常な修復過程をもたらすことが多く、AKI後線維症および慢性腎機能不全がもたらされる(Anders HJ, et al., J Am Soc Nephrol 25: 1387-1400, (2014))。
【0154】
一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、炎症促進性サイトカインの生成を低減させるならびに/あるいは抗炎症性サイトカインおよび/または1種もしくは複数種の免疫細胞型の抗炎症性表現型の産生を促進するために有効な量で使用される。他の実施形態では、組成物は、処置がなされる1つまたは複数の腎臓の傷害、状態および/または疾患に関与する1種または複数種の免疫細胞の炎症促進性を抑制し、抗炎症特性を促進するために使用される。
【0155】
一部の実施形態では、組成物は、1種または複数種の炎症促進性サイトカイン、例えば、C反応性タンパク質(CRP)、フェリチン、TNF-α、IFN-γ、IL-6、IL-1β、IL-23およびIL-17を阻害もしくは低減させ、1種もしくは複数種のケモカインおよび/もしくはケモカイン受容体、例えば、CCR2およびCX3CR1を阻害もしくは低減させ、ならびに/または活性酸素種および疾患/損傷腎臓における一酸化窒素を阻害もしくは低減させるのに有効な量で投与される。さらなる実施形態では、組成物は、抗炎症性サイトカイン、例えばIL-4、TGF-β、IL-10の生成を増大することができる。
【0156】
炎症促進性細胞または炎症細胞は、炎症促進活性、炎症促進性サイトカイン、例えばIL-12、IFN-γおよびTNF-αの分泌、またはこれらの組合せを促進する免疫細胞を指す。例示的な炎症促進性細胞には、炎症促進性M1マクロファージまたは古典的活性化マクロファージ(CAM)が含まれる。一部の実施形態では、例えば、疾患腎臓における炎症促進性マクロファージの増殖、遊走または活性化の遮断によって、対象の炎症促進性マクロファージまたは古典的活性化マクロファージ(M1様マクロファージ)を枯渇、阻害または低減させるための方法について説明する。一部の実施形態では、方法は、炎症促進性M1マクロファージの数または活性を、デンドリマー組成物を用いる処置の前のこのようなレベルと比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%または300%超、枯渇、阻害または低減させるのに有効な量の、1種または複数種の活性剤を含むデンドリマー複合体を、対象に投与する。
【0157】
一部の実施形態では、1種もしくは複数種の炎症促進性細胞の活性化、増殖および/もしくは動員を低減させるならびに/または1種もしくは複数種の抑制性免疫細胞の活性化、増殖および/もしくは動員を増強するために有効な量の組成物を投与することによって、それを必要とする対象の炎症反応を低減/阻害するために使用される組成物およびその製剤が提供される。一部の実施形態では、炎症促進性細胞は、炎症促進性M1マクロファージである。さらなる実施形態では、抑制性免疫細胞は、M2様マクロファージである。したがって、一部の実施形態では、組成物は、M1マクロファージの増殖および/もしくは産生を低減させ、M2マクロファージの活性化、増殖および/もしくは産生を増強し、ならびに/またはM1マクロファージに対するM2マクロファージの比を増大することによって、腎臓を含む1つまたは複数の罹患組織/臓器において炎症促進性表現型(M1マクロファージ)から抗炎症状態(M2マクロファージ)への切替えを促進することができ、腎臓における炎症状態の1つまたは複数の症状を寛解させるのに有効である。記載される全ての方法は、処置を必要とする対象、または組成物の投与から利益を得る対象を特定し、選択するステップを含むことができる。
【0158】
A. 腎虚血/再灌流傷害を処置するための方法
虚血/再灌流傷害(IRI)は、特定の臓器への血流の急な一時的な障害によって引き起こされる。IRIは、通常、臓器の機能を乱す低酸素症および再灌流への堅牢な炎症および酸化ストレス反応と関連する。腎IR誘発急性腎傷害(AKI)は、広範囲の損傷において高い疾病率および致死率に寄与する。虚血腎およびその後の再酸素負荷において、再灌流期における活性酸素種(ROS)の生成は、炎症、細胞死、および急性腎不全をもたらす有害な細胞反応のカスケードを開始させる。
【0159】
一般に、組成物およびその処置の方法は、腎IR、特に腎IR誘発急性腎傷害(AKI)および慢性腎疾患(CKD)の直接的または間接的な結果である1つまたは複数の腎臓の傷害、状態および/または疾患を処置するために適している。
【0160】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、AKIおよびCKD、特に、腎IR誘発AKIおよびCKDを処置または予防するために使用される。
【0161】
急性腎傷害(AKI)は、腎臓の構造および機能が影響を受ける多数の状態の1つである。AKIは、ARFを含むがこれらに限定されない、腎機能の急激な低下によって定義される。これは、特定の腎疾患(例えば、急性間質性腎炎、急性糸球体および血管炎性腎疾患);非特異的状態(例えば、虚血、毒性傷害);および腎外病理学(例えば、腎前性窒素血症および急性腎後閉塞性腎症)を含む様々な病因を包含する広範な臨床症候群である。これらの状態の1つより多くが、同じ患者において共存することがある。さらに、病因が、主に腎臓内であるか、または主に腎臓への外部ストレスであるかに関わらず、AKIの兆候および臨床結果は、実に類似していることがある(区別できないことさえある)ため、AKIの症候群は、腎臓への直接損傷および急性機能障害の両方を包含する。AKIは、数時間から数週間にわたる、血中尿素窒素(BUN)および血清クレアチニンレベルによって測定した、窒素廃棄物の可逆的な急性の増加として臨床的に現れる。損傷のスペクトルは、軽度から、時に腎代替療法を必要とする進行の範囲である。
【0162】
腎傷害の診断指標の他のバイオマーカーには、糖尿;増加したタンパク尿;または増加した尿中N-アセチル-β-d-グルコサミニダーゼ(N-acetyl-β-d-glucosamininidase)(NAG)、γ-GT、またはAPレベル、尿中腎障害分子-1(KIM-1)、および尿中ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)が含まれる。
【0163】
したがって、組成物は、糖尿、増加したタンパク尿を低減させるもしくは軽減する、クレアチニンの血清レベルおよび/もしくは血中尿素窒素(BUN)を低減させる、尿中N-アセチル-β-d-グルコサミニダーゼ(NAG)、γ-GTおよび/もしくはAPレベルを低減させる、ならびに/または尿NGALおよび/もしくはKIM-1含有量を低減させるのに有効な量で投与される。
【0164】
糸球体濾過率(GFR)は、腎機能の最良の尺度である。GFRは、腎疾患のステージを決定するために使用される数である。GFRは、人の年齢、人種、性別およびその血清クレアチニンを使用する数式を使用して計算される。医師は、血清クレアチニンレベルを測定する血液検査を指示する。クレアチニンは、筋肉活動から生じる廃棄物である。腎臓が十分働いている場合、腎臓は、血液からクレアチニンを除去する。腎機能が緩徐化するにつれて、クレアチニンの血液レベルは上昇する。
【0165】
異なるステージのCKDは、連続体を形成する。CKDのステージは、以下の通り分類される。
・ステージ1:正常または増加したGFRを有する腎臓の損傷(>90mL/分/1.73m2)
・ステージ2:GFRの軽度の減少(60~89mL/分/1.73m2)
・ステージ3a:GFRの中等度の減少(45~59mL/分/1.73m2)
・ステージ3b:GFRの中等度の減少(30~44mL/分/1.73m2)
・ステージ4:GFRの重度の減少(15~29mL/分/1.73m2)
・ステージ5:腎不全(GFR<15mL/分/1.73m2または透析)
【0166】
したがって、デンドリマー組成物またはその製剤は、腎臓における尿細管損傷を低減させる、血中尿素窒素(BUN)および/もしくはクレアチニン(CR)を低減させる、ならびに/または糸球体濾過率(GFR)を改善するもしくは増加させるのに有効な量で、哺乳動物対象、好ましくはヒトに投与される。
【0167】
投薬量および投与レジメンは、重症度および障害もしくは損傷の位置、ならびに/または投与方法に依存し、当業者に決定され得る。腎臓傷害および/または疾患の処置において使用されるデンドリマー組成物の治療有効量は、典型的には、腎臓傷害および/または疾患の1つまたは複数の症状を低減させまたは軽減するために十分なものである。
【0168】
好ましくは、活性剤は、罹患/損傷した腎臓内には存在しないかもしくはそれに関連しない健康な細胞の活性もしくは量を標的とすることもしくはモジュレートすることはなく、または罹患/損傷した腎臓に関連する細胞と比較して低レベルでモジュレートする。このように、組成物に関連する副製品および他の副作用は、低減される。
【0169】
治療有効量のデンドリマー組成物および薬学的に許容される希釈剤、担体または賦形剤を含む医薬組成物について説明する。一部の実施形態では、医薬組成物は、N-アセチルシステインにコンジュゲートされたヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーの有効量を含む。一部の実施形態では、使用に適した投薬量範囲は、約0.1mg/kgから約100mg/kgの間(両端を含む)、約0.5mg/kgから約40mg/kgの間(両端を含む)、約1.0mg/kgから約20mg/kgの間(両端を含む)、および約2.0mg/kgから約10mg/kgの間(両端を含む)である。
【0170】
デンドリマー組成物を含む医薬組成物の剤形も、提供される。「剤形」は、患者への投与が意図されるカプセルまたはバイアルなど、治療化合物の用量の物理形態を指す。「投薬単位」という用語は、単一用量で患者に投与される治療化合物の量を指す。一部の実施形態では、使用に適した投薬単位は、(平均的成人患者の体重が70kgであると仮定すると)5mg/投薬単位から約7000mg/投薬単位の間(両端を含む)、約35mg/投薬単位から約2800mg/投薬単位の間(両端を含む)、および約70mg/投薬単位から約1400mg/投薬単位の間(両端を含む)、および約140mg/投薬単位から約700mg/投薬単位の間(両端を含む)である。
【0171】
デンドリマー複合体の実際の有効量は、投与される特定の活性剤、製剤化される特定の組成物、投与方法、および処置される対象の年齢、体重、状態、ならびに投与経路および疾患または障害を含めた、因子に従って変わり得る。対象は、好ましくはヒトである。一般に、投薬量は、静脈内注射または輸液のためにはより低い。
【0172】
一般に、投与のタイミングおよび頻度は、所与の処置または診断スケジュールの効力と、所与の送達系の副作用とのバランスをとるように調節されることになる。例示的な投薬頻度は、連続輸液、単一および多数の投与、例えば、毎時、毎日、毎週、毎月または毎年の投薬を含む。
【0173】
一部の実施形態では、投薬量は、毎日1回、2回もしくは3回、または1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おきもしくは6日おきに、ヒトに投与される。一部の実施形態では、投薬量は、毎週、2週ごと、3週ごとまたは4週ごとに、約1回または2回投与される。一部の実施形態では、投薬量は、毎月、2カ月ごと、3カ月ごと、4カ月ごと、5カ月ごと、または6カ月ごとに、約1回または2回投与される。
【0174】
投与レジメンは、対象の障害を処置するために十分な任意の時間の長さとすることができることが、当業者に理解されよう。一部の実施形態では、レジメンは、1回または複数回のサイクルの、1ラウンドの治療、その後の休薬日(例えば、薬物なし)を含む。休薬日は、1、2、3、4、5、6もしくは7日、または1、2、3、4週、または1、2、3、4、5もしくは6カ月であり得る。
【0175】
1種または複数種の薬剤を含むデンドリマー組成物の効果は、対照と比較することができる。適切な対照は、当技術分野で公知であり、例えば、未処置対象、またはプラセボで処置された対象を含む。典型的な対照は、標的剤の投与の前および後の対象の状態または症状の比較である。状態または症状は、生化学的、分子、生理学的、または病理学的な読取りとすることができる。例えば、特定の症状、薬理学的、または生理学的指標に対する組成物の影響は、未処置の対象、または処置前の対象の状態と比較することができる。一部の実施形態では、症状、薬理学的、または生理学的指標は、処置前の対象で測定され、再び処置が開始された後に1回または複数回測定される。一部の実施形態では、対照は、処置がなされる疾患または状態を持たない1または複数の対象(例えば、健康な対象)における症状、薬理学的、または生理学的指標の測定に基づいて決定された参照レベルまたは平均である。一部の実施形態では、処置の効果は、当技術分野で公知の従来の処置と比較される。
【0176】
B. 併用治療および手順
組成物は、単独で、または1つもしくは複数の従来の治療と組み合わせて投与することができる。一部の実施形態では、従来の治療は、組成物の1つまたは複数を、1種または複数種の追加の活性剤と組み合わせて投与することを含む。併用治療は、活性剤を同じ混和物でまたは別々の混和物で一緒に投与することを含むことができる。したがって、一部の実施形態では、医薬組成物は、2種、3種、またはそれよりも多い活性剤を含む。このような製剤は、典型的には、処置部位を標的とする薬剤の有効量を含む。1種または複数種の追加の活性剤は、同じまたは異なる作用機構を有することができる。一部の実施形態では、組合せは、腎状態の処置に対して相加効果をもたらす。一部の実施形態では、組合せは、疾患または障害の処置に対して相加効果以上の効果をもたらす。
【0177】
追加の治療または手順は、デンドリマー組成物の投与と同時または連続的に行うことができる。一部の実施形態では、追加の治療は、薬物サイクル間で、または組成物投薬レジメンの一部である休薬日中に実施される。
【0178】
例示的な追加の治療または手順は、血中の流体の喪失の場合には静脈内(IV)輸液、多すぎる体液が四肢の膨張を引き起こす場合には身体の余剰体液の排出を引き起こす医薬品(利尿剤)、血中カリウムを制御する医薬品、例えば、カルシウム、グルコースもしくはポリスチレンスルホン酸ナトリウム(KIONEX(登録商標))、血中カルシウムレベルを回復させる医薬品、例えば、カルシウムの注入、および/または体内の毒素を除去する血液透析を含む。
【0179】
一部の実施形態では、組成物および方法は、1つまたは複数の追加の治療または手順を用いる処置の前もしくはそれと共に、その後、またはそれと交互に使用される。
【0180】
IV. キット
組成物は、キットにパッケージすることができる。キットは、デンドリマー内にカプセル化されるか、関連付けられるか、またはコンジュゲートされた1種または複数種の活性剤を含む、単回用量または複数回用量の組成物と、組成物を投与するための使用説明書を含むことができる。具体的には、使用説明書は、組成物の有効量が、AKIまたはCKDなどの特定の腎状態/疾患を有する個体に、指示される通りに投与されるべきであることを指導している。組成物は、特定の処置方法を参照することにより前述の通り製剤化することができ、任意の好都合な手法でパッケージすることができる。
【0181】
本開示は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解されよう。
【実施例】
【0182】
(実施例1)
実験用糖尿病ラットにおける腎虚血/再灌流傷害モデル
材料および方法
糖尿病を、単回腹腔内(IP)注射としてのストレプトゾトシン(STZ)(70mg/kg)の投与によって、Wistarラットにおいて誘発させた。STZ注射の4日後、血糖値を測定した。>16.7mMの血糖を有するラットを、4つの群(G1~G4;n=3/群)に割当てた。6週後、虚血再灌流傷害(IRI)を、60分の虚血(I)/6時間の再灌流(R)(G2)、または45分I/24時間R(G3およびG4)で与えた。対照(G1)として、偽手術を実施した。Cy5(D-Cy5)で標識したヒドロキシルデンドリマーを、G1、G2およびG3においてIRIの1時間後、ならびにG4においてIRIの12時間後に、腹腔内注射を介して投与した。腎機能を、臨床化学、糸球体濾過率(GFR)、および腎傷害バイオマーカーによって評価した。ラットを、手術の6時間後(G2)または24時間後(G1、G3、G4)に安楽死させた。腎臓を、10%ホルマリン中で固定し、パラフィンに包埋し、切片化し、尿細管損傷および尿細管上皮細胞壊死について評価した。切片はまた、DAPIおよび抗CD68抗体(マクロファージ)によって染色した。
【0183】
STZ-誘発I型糖尿病ラットモデリング
1)単回用量のSTZ(70mg/kg)を、Wistarラット(SPF)に腹腔内注射して、I型糖尿病を誘発させた。
2)STZ注射の4日後、末梢血試料を、血糖値決定のために収集した。糖尿病は、>16.7mmol/Lの血糖値によって定義される。
【0184】
両側性腎虚血/再灌流モデルの確立
1)IRIモデリングを、STZ注射の6週後に実施した。
2)IRI手術前に、ラットを、イソフルラン(空気中2~5%)による吸入麻酔を使用することによって麻酔した。
3)両側腹壁を、層に開き、腎動脈を露出させた。
4)腎虚血を、非外傷性動脈クランプを使用する両側腎動脈の閉塞を介して誘発し、続いて、各群について割当てた長さの時間、再灌流した。2種類の手術条件を使用した:60分I/6時間Rおよび45分I/24時間R。偽手術されたラットは、動脈クランプを適用しなかったことを除いて、I/Rについて使用した手術手順と同一の手術手順を受けた。
5)全ての動物を、意識が戻るまで温度制御パッド(37℃)下で維持し、次いで、ホームケージに移した。
【0185】
群分けおよび処置
体重に基づいて、全てのラットを、BioBookシステム(IDBS)において4群に割当てた。各動物に固有番号を割当てた。処置群への動物の割当て前に、ケージに、研究番号、種/株、性別、ケージ番号、および動物番号を識別するカードで標識した。処置群への割当て後、ケージに、色分けし、処置群および上記で概説した情報を識別したカードで標識した。群割当ては、無作為化記録に文書化した。ケージは、研究への環境による影響の効果を低減させるためにラック内で重層した。群分けは、以下のスキームによる。
【表1】
【0186】
化学的観察および体重
動物を、体重変化(1日おき)、健康状態および死亡可能性について詳しくモニタリングした。全ての手術されたラットは、実験者が観察し、データシートを使用して、どのような動物の異常も記録した。動物の体重が著しく低下した場合(48時間で25%超)、動物福祉を考慮し、動物は安楽死させる。安楽死させた体は、追って解剖され、解剖学的報告が提供される。この研究の間に死亡したラットはいなかった。
【0187】
動物の安楽死および試料収集
尿収集:D-Cy5の注射後、動物を、従来の代謝ケージに入れ、安楽死まで尿試料を収集した。
【0188】
末梢血収集:全てのラットを、100mg/kgペントバルビタールナトリウムリドカインのi.p.注射によって安楽死させた。末梢血を収集し、血清を調製した(血液を室温で30分間静置し、4℃、5000rpmで5分間遠心分離した)。次いで、血清は、後の生化学分析のために-80℃で保存した。
【0189】
腎臓収集:安楽死後、動物を、左心室を通して塩水で灌流した。両側の腎臓を収集し、腎臓全体の画像を撮った。各腎臓を、門に沿って2つの部分に分離した。腎臓の2つの部分(一方は左の腎臓から、もう一方は右の腎臓から)を、IF撮像のために凍結切片に処理した。また、両側の腎臓の他の2つの部分は、10%ホルマリンで固定し、病理組織分析のためにパラフィンブロックに処理した。
【0190】
血糖測定
血糖測定を、STZ注射の4日後、および手術の前日に血糖測定器を用いて実施した。
【0191】
生化学分析
腎機能を、Hitachi 7060 Biochemical Analyserを使用して、血清クレアチニン、尿クレアチニン、およびBUNレベルを測定することによって評価した。GFRは、血中および尿中のクレアチニンの比較値を使用して測定した。尿NGALおよびKIM-1レベルは、ELISAキットによって、キットと共に提供された説明書に従って測定した。
【0192】
腎臓病理分析
10%ホルマリン中で固定した腎組織を、病理染色のために使用した。パラフィンで包埋した後、4μm厚の腎組織切片を脱パラフィンさせ、次いで、CBL標準手順による光学顕微鏡評価のために、H&EまたはPASで染色した。各動物から1つの切片を、それぞれH&EおよびPAS染色のために使用した。病理学的変化を、研究室内の病理学者が検定して、腎傷害の程度を決定した。切片を、5つの無作為に選択した視野(1mm
2)に対して、以下の採点システムに従って採点した。
【表2】
【表3】
【表4】
【0193】
共局在化研究
腎臓を、スクロース勾配中に置き、次いで、10μm切片に切片化した。各動物からの両側腎臓の1つの切片を評価した。腎臓を、細胞核を可視化するためにDAPIで、およびマクロファージを可視化するためにED1で染色した。切片を、一次抗ED1抗体(Seritec.INC)、続いて二次抗体Alexa Fluor 488ファロイジン(CST)と一緒にインキュベートした。切片を、DAPIで対染色し、DAKO蛍光封入媒体でカバーガラスにし、-20℃で保存した。画像を、5つの無作為に選択した視野に対して、倍率400×で取得した。ED1およびD-Cy5で共染色された細胞数を計数し、腎臓の単位面積当たりのD-Cy5の陽性領域を計算した。
【0194】
統計分析
結果は、平均±SEMとして表し、GraphPad prism 7.0で一元ANOVA(Dunnettの多重比較検定)を使用して統計的に評価した。群間の差は、P値<0.05で有意であると考えた。
【0195】
結果
研究は、腎IRIモデルである、WistarラットにおけるSTZ誘発1型糖尿病モデルを使用した。モデル発症結果に基づいて、モデリング手術条件および投薬レジメンを、抗炎症薬化合物のin vivo効力評価のために決定することができる。
【0196】
モデル確立および化合物投与
1型糖尿病を、STZ(70mg/kg)の単回i.p.注射によって誘発した。STZ注射の4日後、血糖値を測定し、血糖値>16.7mmol/Lの動物を、群当たり3匹のラットで4群に割当てた:
1. G2からのラットを、60分I/6時間RでIRI手術に供し、D-Cy5を手術の1時間後に投与した;
2. G3およびG4からのラットを、45分I/24時間RでIRI手術に供し、D-Cy5を手術の1時間および12時間後にそれぞれ投与した;
3. G1からのラットを、動脈クランプを適用しなかったことを除いて実施した類似の手術手順による偽手術に供した。D-Cy5を、手術の1時間後に投与した。
【0197】
健康観察および体重変化
健康観察を、生存中の研究期間の間、実施した。動物は、飲用水の消費および尿量の増加を含む1型糖尿病の臨床症状を示した。明らかな身体または挙動の異常は観察されなかった。体重変化および成長曲線をモニタリングした。動物の体重は、STZ適用後最初の週は上下し、次いで、ゆっくり増加した。体重増加率は、全研究中、10%以内に維持された。
【0198】
血糖値
血糖を、STZ注射の4日後、および手術の前日に測定した。全てのラットの血糖値は、16.7mmol/L超であった。
【0199】
血液生化学およびGFR
腎機能を評価するために、BUN、血清クレアチニン、尿クレアチニンレベルを測定した。
図1A~1Cに示されるように、高いBUNおよび血清クレアチニンが、モデル群(G2~G4)において観察された。G3およびG4のBUNおよび血清クレアチニンレベルは、G2におけるBUNおよび血清クレアチニンレベルよりも大幅に高かった。G3およびG4の尿クレアチニン濃度は、G1の尿クレアチニン濃度よりも大幅に低かった。GFRを、クレアチニンクリアランス時に計算し、両方の条件(G2およびG3)下での虚血/再灌流手術の結果、偽手術群(G1)と比較して大幅に低いGFRがもたらされた。
【0200】
NGALおよびKIM-1
尿NGALおよびKIM-1レベルを、ELISAキットを使用して測定した。
図1D~1Gに示されるように、G2およびG4からの尿試料中のNGALおよびKIM-1含有量は、G1のNGALおよびKIM-1含有量よりも大幅に低く(
図1Fおよび1G)、一方、G3からの尿試料中のNGALおよびKIM-1含有量は、G1におけるNGALおよびKIM-1含有量よりも高かった。しかしながら、NGALおよびKIM-1濃度は、群間で有意差を示さなかった(
図1Dおよび1E)。
【0201】
腎臓の全観察
安楽死後、両側の腎臓を収集し、撮像した。腎臓は、様々な度合いの緑に見えた。G2~G4における腎臓のサイズは、G1のサイズよりも大きかった。
【0202】
組織病理学分析
組織病理学分析を、H&EおよびPAS法を使用して実施した。
- H&E:上皮の平坦化および尿細管拡張によって主に特徴付けられる様々な度合いの虚血/再灌流誘発腎傷害(
図2A~2C)。これとは対照的に、偽群動物において病理学的病変は観察されなかった。
- PAS:腎尿細管の膨張、刷子縁の剥離、および基底膜の損傷を含む病理学的特徴が、モデル群からは観察された(
図3A~3B)が、偽手術群では存在しなかった。
【0203】
共局在化研究
D-Cy5の腎臓取込みおよびマクロファージとのその共局在化を、免疫蛍光(IF)染色によって評価した。マクロファージは、抗CD68抗体によって可視化した[ED1]。蛍光画像は、D-Cy5陽性領域が、主に近位尿細管に位置したことを示した。G2~G4群におけるD-Cy5の腎臓取込みは、G1におけるD-Cy5の腎臓取込みよりも高いと思われた(
図4A)。抗体ED1およびD-Cy5の共染色結果は、ED1陽性細胞の数が小さいことを示した。G2~G4におけるCD68陽性細胞の数は、G1におけるCD68陽性細胞の数よりも高いと思われた(
図4B)。
【0204】
結論として、STZの単回i.p.注射は、Wistarラットにおいて1型糖尿病を成功裡に誘発した。グルコースレベルは、IRI前に約30mMに増加した。その後、両側腎IRIおよび腎機能不全が、この糖尿病モデルで誘発された。GFRは、1.8mL/分(偽)からIRIラットにおける<0.1mL/分まで大幅に減少した。血清クレアチニンおよびBUNは、IRI群において大幅に高かった(G4>G3>G2)。腎臓の損傷の度合いは、安楽死前の再灌流時間が長いほど増加した(G4、G3>G2)。60分I/6時間Rの後の腎傷害の度合いは、45分I/24時間Rの後の腎傷害の度合いよりもわずかに低かった。全てのIRI群において、腎尿細管壊死は中等度から重度であり、近位尿細管損傷は重度であった。D-Cy5の最大取込みは、G2において観察された反応性マクロファージにおいて腎尿細管で観察された。腎細胞および腎マクロファージによるD-Cy5の取込みは、損傷の度合いと相関した。
【0205】
AKIおよびCKDにおいて、腎臓の虚血は、炎症および組織損傷をもたらす。例えば糖尿病において見られるような基礎をなす腎機能不全を有する患者は、AKIおよびCKDにより罹りやすい。損傷への初期反応は、腎臓への反応性マクロファージの湿潤と、その後の炎症促進性サイトカインの発現である。ヒドロキシルデンドリマーに基づく新規プラットフォーム技術は、腎クリアランスにより腎曝露を最大にし、全身投与時、虚血腎において反応性マクロファージを選択的に標的とすることを可能にする。ヒドロキシルデンドリマーは、ヒトにおいて40mg/kgまでの用量での安全性が実証され、尿中にインタクトなまま回収される。ヒドロキシルデンドリマーへの薬物のコンジュゲーションは、選択的に標的とすることを可能にし得、AKIおよびCKDの処置における効力および安全性を改善し得る。
【0206】
本研究において、ヒドロキシルデンドリマーの反応性マクロファージへの標的化を評価するためのAKIの糖尿病モデルが成功裡に確立された。長期虚血に続く急速な再灌流は、反応性マクロファージ、およびその後のヒドロキシルデンドリマーの取込みを増加させた。糖尿病性腎症の高い発症率およびこれらの患者における急性腎傷害のより高いリスクを考慮すると、これらの結果は、AKIおよびCKDを処置するためのヒドロキシルデンドリマー薬物コンジュゲートによる標的化治療を評価するためのモデルおよび処置戦略を提供した。
【0207】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当該技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に引用される刊行物およびそれらが引用される文献は、参照により具体的に組み込まれる。
【0208】
当業者であれば、単なる通常の実験を使用して、本明細書に記載される態様の特定の実施形態の、多くの均等物を認識するであろうしまたは確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲により包含されることが意図されている。
【国際調査報告】