(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】水性ポリアミド-アミド酸組成物、前記組成物を形成するプロセス、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20230804BHJP
C08G 73/14 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08G73/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504211
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 US2021042277
(87)【国際公開番号】W WO2022020285
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, アラン
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス, ジェームズ ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ティルフォード, ウィリアム アール.
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ナン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002EN136
4J002FD010
4J002FD090
4J002FD140
4J002FD200
4J002GH00
4J002GK02
4J002HA03
4J043SA06
4J043SA47
4J043TA11
4J043TA21
4J043TA22
4J043TA25
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA151
4J043UA241
4J043UA261
4J043UA262
4J043UB011
4J043UB012
4J043UB061
4J043UB062
4J043UB071
4J043UB072
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB131
4J043UB151
4J043UB152
4J043UB281
4J043UB301
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA061
4J043VA062
4J043ZB03
4J043ZB04
4J043ZB11
(57)【要約】
本開示は、水と、ポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩を含有する水性組成物に関する。そのような水性組成物を生成するプロセス及びそれらの使用が記載される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリアミド-アミド酸組成物であって:
水;及び
それぞれが少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうち少なくとも1つを有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸であって、少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超において、前記アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオンである塩化された形態であるポリアミド-アミド酸
を含む水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項2】
有機溶媒をさらに含み、前記有機溶媒の総重量が、前記ポリアミド-アミド酸の重量に対して20重量%未満である請求項1に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位が:
【化1】
[式中、
Arは、
【化2】
(式中、Xは、
【化3】
(式中、nは、0、1、2、3、4、又は5である)
であり、
Rは、
【化4】
(式中、Yは、
【化5】
(式中、mは、0、1、2、3、4、又は5である)
である]
からなる群からそれぞれ選択される請求項1又は2に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項4】
前記繰り返し単位が:
【化6】
からなる群からそれぞれ選択される請求項3に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項5】
Arが、
【化7】
である請求項3又は4に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項6】
Rが、
【化8】
であり、
且つYが定義した通りである、請求項3~5のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項7】
前記水性ポリアミド-アミド酸組成物が、3級アミン、典型的には3級アルキルアミン、及びそれらの塩を含まない請求項1~6のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項8】
前記水性ポリアミド-アミド酸組成物が、前記組成物の総重量を基準として約0.5~約15重量%のポリアミド-アミド酸含有量を提供するのに十分な量の水を含む請求項1~7のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物を形成するプロセスであって:
水性媒体中で、少なくとも1つの芳香環とアミド酸基及びイミド基のうちの少なくとも1つとをそれぞれが有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸を、アンモニウム塩と反応させるステップ
を備えるプロセス。
【請求項10】
少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超において、前記アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオンである塩化された形態に変換されている請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記アンモニウム塩が、アンモニウムカチオン及び弱酸の共役塩基であるアニオンを含む請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記アンモニウム塩が、アンモニウムカチオンと、水酸化物イオン、シュウ酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、亜硝酸イオン、例えば酢酸イオン、プロピオン酸イオン、ブタン酸イオンなどのカルボン酸イオン;過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオンからなる群から選択されるアニオンを含む請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記アンモニウム塩が、アンモニウムカチオンと、水酸化物イオン及び重炭酸イオン、典型的には重炭酸イオンから成る群から選択されるアニオンとを含む請求項9~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
基板の少なくとも一方の表面に接着性ポリアミド-イミドフィルムを提供する方法であって、前記方法が:
前記表面を、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物又は請求項9~13のいずれか一項により得られる水性ポリアミド-アミド酸組成物でコーティングするステップ、
前記湿潤コーティングを第一温度で加熱し、それによりアンモニウムカチオンを含まない前記ポリアミド-アミド酸を含む乾燥コーティングを提供するステップ、
前記物品を第二温度で加熱して、乾燥コーティングを硬化し、それにより少なくとも一方の表面に付着性ポリアミド-イミドフィルムを提供するステップ
を備える方法。
【請求項15】
ポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩を含むフィルムであって、前記フィルムが、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物から調製されたフィルム。
【請求項16】
請求項15に記載のフィルムを含む製造品。
【請求項17】
請求項15に記載のフィルムを含む1種又は複数の繊維。
【請求項18】
前記1種又は複数の繊維が炭素繊維である、請求項17に記載の1種又は複数の繊維。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の1種又は複数の繊維を加熱することにより形成される1種又は複数の熱処理繊維。
【請求項20】
請求項19に記載の1種又は複数の繊維、及び熱硬化性マトリックス樹脂を含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月22日に出願された米国仮特許出願第63/054939号の優先権を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、コーティング用途で使用するのに好適であるポリアミド-アミド酸を含有する水性組成物、前記水性組成物を生成するプロセス、及びそれらの使用の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアミド-アミド酸は、優れた高温安定性を有し、且つコーティング用途で有用であるポリアミド-イミドへの前駆体である。ポリアミド-アミド酸を含有する配合物は、繊維、金属表面、ガラス表面及び他の材料のコーティング及びサイジングに使用することができる。しかしながら、ポリアミド-イミドポリマーは、処理しにくく、実質的に不溶性であるので、コーティング及びサイジング配合物は、一般的に、アミド-アミド酸ポリマー前駆体として作業に適用される。ポリアミド-アミド酸樹脂コーティング又はマトリックスは、一般的に約150℃を超える温度で熱硬化されて、ポリアミド-イミド樹脂を形成する。
【0004】
ポリアミド-アミド酸樹脂、典型的には芳香族ポリアミド-アミド酸樹脂は、一般的に乾燥固体形態で入手可能である。しかしながら、これらの組成物は、水などの環境的に許容できると考えられる溶媒に溶解することも、容易に分散することもできない。高温の双極子溶媒は、ポリアミドを分散させるのに使用されてきたが、コーティングの形成及び繊維サイジングの際に、除去するのが困難であることが知られている。米国特許第6,479,581B1号明細書は、水溶性アミン塩を形成する方向に平衡を駆動するために、化学量論量的に過剰の水溶性3級アミンの使用を開示する。しかしながら、このような塩の形成は、困難であり、且つ好適な分散液を得るにはかなり過剰な3級アミンが必要である。このように作製したポリアミド-アミド酸組成物を炭素繊維などの繊維のサイジングに使用するには、アミン塩を高温で硬化してポリアミド-イミドコーティングを形成する前に、アミン塩を乾燥させるための多段階で長時間の乾燥プロセスだけでなく複数回の挿入又は浸漬を必要とする。コーティング又はサイジングから3級アミン除去するのに高温の加熱プロセスが必要であり、これにより加水分解が起こったり、樹脂に悪影響を及ぼしたりすることがある。
【0005】
したがって、基材に容易に塗布することができ、コーティングを損傷するリスクを最小限に抑えて乾燥及び硬化することができるポリアミド-アミド酸の水溶液又は分散液を形成する新規又は改良した方法に対する継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
この目的及び以下の詳細な説明から明らかにされる他の目的は、全体で、又は一部において、本開示の組成物、方法及び/又はプロセスによって応じられる。
【0007】
第一態様においては、本開示は、水性ポリアミド-アミド酸組成物であって、
水;及び
それぞれが少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうち少なくとも1つを有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸であって、少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超において、アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオンである塩化された形態であるポリアミド-アミド酸を含む水性ポリアミド-アミド酸組成物に関する。
【0008】
第二態様においては、本開示は、本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物を形成するプロセスに関し、そのプロセスは:
水性媒体中で、少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうちの少なくとも1つとをそれぞれが有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸をアンモニウム塩と反応させるステップ
を備える。
【0009】
第三態様においては、本開示は、基板の少なくとも一方の表面に接着性ポリアミド-イミドフィルムを提供する方法に関し、その方法は:
前記表面を本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物でコーティングするステップ
湿潤コーティングを第一温度で加熱し、それによりアンモニウムカチオンを含まないポリアミド-アミド酸を含む乾燥コーティングを提供するステップ
前記物品を第二温度で加熱して、乾燥コーティングを硬化し、それにより少なくとも一方の表面に付着性ポリアミド-イミドフィルムを提供するステップ
を備える。
【0010】
第四態様においては、本開示は、ポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩を含むフィルムであって、前記フィルムが本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物から調製されるフィルムに関する。
【0011】
第五態様においては、本開示は、本明細書に記載のフィルムを含む製造品又は1種若しくは複数の繊維に関する。
【0012】
第六態様においては、本開示は、本明細書に記載の1種又は複数の繊維と、マトリックス樹脂とを含む複合材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ポリアミド-アミド酸湿潤ケーキの加熱中のTGAの重量損失を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味し、互いに交換して使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」を含む。用語「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を含む。
【0016】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語の全ては、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0017】
本明細書で使用される場合、特に指示がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能なエラーを意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0018】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、そこに包含される全ての部分的な範囲を含むことを意図することが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間及びそれを含む全ての部分的な範囲を含むことを意図する、即ち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定された様々な数値範囲は概算値である。
【0019】
本開示を通じて、様々な刊行物を参照により組み込むことができる。参照により組み込まれたこのような刊行物における任意の言語の意味が、本開示の言語の意味と矛盾する場合、他に指示がない限り、本開示の言語の意味が優先される。
【0020】
第一態様においては、本開示は、水性ポリアミド-アミド酸組成物であって、
水;及び
それぞれが少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうち少なくとも1つを有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸であって、少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超において、アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオンである塩化された形態であるポリアミド-アミド酸
を含む水性ポリアミド-アミド酸組成物に関する。
【0021】
本開示に従って使用するのに好適であるポリアミド-アミド酸は、それぞれ少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうちの少なくとも1つを有する繰り返し単位を含む。一実施形態においては、ポリアミド-アミド酸は、それぞれが少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのアミド酸基とを有する繰り返し単位を含む。別の実施形態においては、ポリアミドポリアミド-アミドは、それぞれが少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのイミド基とを有する繰り返し単位を含む。更に別の実施形態においては、ポリアミド-アミド酸は、それぞれが少なくとも1つの芳香環と、少なくとも1つのアミド酸基と、少なくとも1つのイミド基とを有する繰り返し単位を含む。
【0022】
少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超においては、アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオン(NH4
+)である塩化された形態又は塩形態である。一実施形態においては、少なくとも1つのアミド酸基を含む繰り返し単位の60モル%超、典型的には80モル%、より典型的には90モル%が、アミド酸基の全て又は一部が塩化された形態である。
【0023】
一実施形態においては、繰り返し単位は、:
【化1】
[式中、
Arは、
【化2】
(式中、Xは、
【化3】
(式中、nは、0、1、2、3、4、又は5である)である)
であり、
Rは、
【化4】
(式中、Yは、
【化5】
(式中、mは、0、1、2、3、4、又は5である)
である]
からなる群からそれぞれ選択される。
【0024】
別の実施形態においては、繰り返し単位は:
【化6】
からなる群からそれぞれ選択される。
【0025】
一実施形態においては、Arは、
【化7】
である。
【0026】
一実施形態においては、Rは、
【化8】
であり、Yは本明細書に定義したとおりである。
【0027】
ポリアミド-アミド酸は、数平均分子量(Mn)を特徴とし、少なくとも1000、典型的には少なくとも1500、より典型的には少なくとも2000である。数平均分子量は、最大でも20000、典型的には最大でも15000、より典型的には最大でも10000である。
【0028】
ポリアミド-アミド酸は、固有粘度を特徴とし、30℃でN,N-ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定した場合、少なくとも0.1、典型的には少なくとも0.15、より典型的には少なくとも0.2dl/gであり得る。
【0029】
ポリアミド-アミド酸は、商業的供給元から入手しても、又は当業者に公知の方法に従って製造してもよい。例えば、ポリアミド-アミド酸は、無水ピロメリト酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、無水トリメリット酸及び無水トリメリット酸モノ酸ハライドからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを、ジアミン及びジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のコモノマーと重縮合反応することにより製造してもよい。
【0030】
一実施形態においては、少なくとも1種の酸モノマーは、無水ピロメリト酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、無水トリメリット酸及び無水トリメリット酸モノ酸ハライドからなる群より選択される。別の実施形態においては、少なくとも1種の酸モノマーは、無水トリメリット酸モノ酸クロリドである。
【0031】
コモノマーは、典型的には少なくとも1つの芳香環を含み、最大でも2つの芳香環を含む。一実施形態においては、コモノマーはジアミンであり、典型的には4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、m-フェニレンジアミン、パラ-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
重縮合反応は、実質的に化学量論量の酸モノマー及びコモノマーを使用して、極性溶媒中、150℃未満の温度で、実質的に無水条件下で行われる。分子量を制御するために、必要に応じて、いずれかのモノマー、典型的には酸モノマーを、わずかに化学量論量より過剰に、通常約0.5~約5モル%過剰に使用することができ、或いは、この目的のために、及び安定性を改善するために、一官能性反応物をエンドキャッピング剤として使用することができる。
【0033】
上述の方法においては、ポリアミド-アミド酸は、穏やかな条件下で、典型的には、水、低級アルキルアルコールなどの混和性非溶媒を添加して極性反応溶媒から凝固又は析出させることにより、固体形態で単離される。任意選択的には、その後固体樹脂を回収し、水で十分に洗浄し、遠心分離又はプレスすることで、熱をかけずに固体の含水率が更に下げられてもよい。水及び低級アルキルアルコール以外の非溶媒は公知であり、非溶媒を使用して、例えば、エーテル、芳香族炭化水素、ケトンなどを含む溶液からポリアミド-アミド酸を析出してもよい。沈殿及びろ過により反応混合物から単離した、洗浄圧搾したポリアミド-アミド酸の湿潤ケーキは、水及びポリマーの合計重量を基準として、80重量%もの水、典型的には約40~約70重量%の水を含む固体の湿潤粉末となる。更なる加圧により又は含水率を下げる同様な従来の手段によって、樹脂湿潤ケーキの含水率を最小減に抑えることが望ましい場合もある。しかし、樹脂を加熱することもなく、イミド化することがある他の条件も、例えば加水分解による分子量の低減を引き起こすことがある他の条件も樹脂に施すこともなく、これらのプロセスを実施することが重要である。本明細書において以下に更に説明するポリアミド-アミド酸水溶液を提供することをはじめとする殆どの使用に関して、湿潤ケーキを更に乾燥することなく、好都合にも利用することができる。
【0034】
本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物は、有機溶媒を更に含むことがある。本明細書で使用する場合、用語「有機溶媒」は、ポリアミド-アミド酸ポリマーの繰り返し単位のアミド酸基と反応しない有機化合物を指す。したがって、用語「有機溶媒」には、ポリアミド-アミド酸自体を溶解できる極性有機溶媒、又は水と混和性の他の有機液体が包含される。例示的な有機溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、クレジル酸、スルホラン、ホルムアミド及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0035】
一実施形態においては、有機溶媒の総重量は、ポリアミド-アミド酸の重量に対して20重量%未満である。
【0036】
本開示の水性ポリアミド-アミド酸組成物は、3級アミン、典型的には3級アルキルアミン、及びそれらの塩を含んでいない。
【0037】
本明細書に開示の水性組成物を除いた3級アミンの例としては、例えばトリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリ(C1~C4アルキル)アミン;環状3級アミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、ジエチル-2-ヒドロキシエチルアミンなどをはじめとする3級アルカノールアミン;N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、及びN-メチルピロールなどの芳香族アミン;N,N’-ジメチルピペリジン、N,N,N’,N’-テトラアルキル-アルキレンジアミン、及びポリ-N-アルキル化アルキレントリアミンなどの多官能性アミンが挙げられる。
【0038】
水性ポリアミド-アミド酸組成物は、組成物の総重量を基準として約0.5~約15重量%のポリアミド-アミド酸含有量を提供するのに十分な量の水を含む。
【0039】
場合により、水性組成物は、コーティング組成物に典型的な以下の(i)~(vii)の有益剤を更に含んでいてもよい:(i)分散剤;(ii)カーボンブラック、シリケート、金属酸化物及び硫化物などの顔料;(iii)コーティング助剤又は流動促進剤などの添加剤;(iv)無機充填剤であって、炭素繊維、ガラス繊維、例えばBaSO4、CaSO4、SrSO4などの金属硫酸塩、Al2O3及びSiO2などの酸化物、ゼオライト、マイカ、タルク、カオリンのような無機充填剤;(v)有機充填剤、典型的には芳香族系重縮合物のような熱安定性ポリマー;(vi)フィルム硬化剤であって、金属シリケート例えばケイ酸アルミニウムなどのシリケート化合物、及び二酸化チタン及び酸化アルミニウムなどの金属酸化物のようなフィルム硬化剤;(vii)接着促進剤であって、例えばコロイドシリカ、及びリン酸金属例えばZn、Mn又はFeのリン酸塩などのリン酸化合物のような接着促進剤。
【0040】
第二態様においては、本開示は、本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物を形成するプロセスに関し、そのプロセスは:
水性媒体中で、少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうちの少なくとも1つとをそれぞれが有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸をアンモニウム塩と反応させるステップ
を備える。
【0041】
それぞれ少なくとも1つの芳香環と、アミド酸基及びイミド基のうちの少なくとも1つを有する繰り返し単位を含むポリアミド-アミド酸をアンモニウム塩と反応させるステップは、当業者に公知の方法を用いて、達成してよい。ポリアミド-アミド酸とアンモニウム塩との反応は、アミド酸基上のカルボン酸プロトン(H+)がアンモニウム塩のアンモニウムカチオンに見掛上置換されることを伴う。その反応は、アンモニウム塩を含有する必要量の水に、通常は固体形態のポリアミド-アミド酸を加えることにより、便利にも1回の操作で実施できる。しかしながら、成分を組み合わせる任意の方法を採用してもよい。好適な方法においては、固体形態のポリアミド-アミド酸を、アンモニウム塩と水との撹拌混合物に段階的に加え、ポリアミド-アミド酸が溶解するまで撹拌を続けることができる。別の好適な方法においては、塩基性化合物は、固体が溶解するまで撹拌を続けながら、ポリアミド-アミド酸の撹拌した水性懸濁液にゆっくりと添加することができる。反応を開始する当初には外部冷却が必要となることがあり、妥当な時間内に反応を完了して、ポリアミド-アミド酸を溶解させるためには、続いて加温及び撹拌がおそらく望まれることがある。
【0042】
いくつかの実施形態においては、ポリアミド-アミド酸とアンモニウム塩との混合物を少なくとも40℃、典型的には少なくとも45℃、より典型的には少なくとも50℃の温度で加熱してもよい。
【0043】
場合によっては、固体形態のポリアミド-アミド酸を、対応する塩化したポリアミド-アミド酸を実質的に形成するのに有効な量の適切なアンモニウム塩と組み合わせることは、通常、ポリアミド-アミド酸を溶解するのに十分であり、追加の有機溶媒も融合助剤(coalescing agent)も必要としない。
【0044】
使用するアンモニウム塩の量は、特に限定されない。しかし、使用されるアンモニウム塩の最小量は、ポリマー中のアミド酸基を塩化するのに必要なほぼ化学量論量となり、ポリアミド-アミド酸中のアミド酸基の各モルに対して、典型的には少なくとも0.8、より典型的には少なくとも0.9モルとなる。
【0045】
使用されるアンモニウム塩の最大量は、ポリアミド-アミド酸中のアミド酸基の各モルに対して、最大5モル、典型的には最大4.5モル、より典型的には最大4.0モルとなる。
【0046】
一実施形態においては、少なくとも1つのアミド酸基を含む前記繰り返し単位の50モル%超は、アミド酸基の全て又は一部が、カチオンがアンモニウムカチオンである塩化された形態に変換されている。
【0047】
本明細書に記載のプロセスで使用されるアンモニウム塩は、アンモニウムカチオンと、弱酸の共役塩基であるアニオンとを含む。当業者には公知であるが、弱酸は、水中で部分的に平衡解離する化合物を包含しており、水そのものも含まれる。
【0048】
一実施形態においては、アンモニウム塩は、アンモニウムカチオンと、水酸化物イオン、シュウ酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、ブタン酸イオンなどのカルボン酸イオン;過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオンからなる群から選択されるアニオンとを含む。
【0049】
別の実施形態においては、アンモニウム塩は、アンモニウムカチオンと、水酸化物イオン及び重炭酸イオンから成る群から選択されるアニオン、典型的には重炭酸イオンとを含む。
【0050】
第三態様においては、本開示は、基板の少なくとも一方の表面に接着性ポリアミド-イミドフィルムを提供する方法に関し、その方法は:
前記表面を本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物でコーティングするステップ
湿潤コーティングを第一温度で加熱し、それによりアンモニウムカチオンを含まないポリアミド-アミド酸を含む乾燥コーティングを提供するステップ
前記物品を第二温度で加熱して、乾燥コーティングを硬化し、それにより少なくとも一方の表面に付着性ポリアミド-イミドフィルムを提供するステップ
を備える。
【0051】
本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物での基板表面のコーティングは、当業者に公知の任意の好適な方法を用いて達成できる。例えば、水性ポリアミド-アミド酸組成物は、スピンキャスティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、ブラシ、電着、又は他のそのような従来の方法により、基板の表面に堆積させることができる。少なくとも一方の表面は、部分的に又は完全にコーティングされる。
【0052】
好適な基板は、様々な材料含んでよく、それらは特に限定されない。しかしながら、好適な材料としては、これらに限定されないが、ポリエーテルなどのプラスチック、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテルフタレート(polybutylene terphtalate)(PBT)などのポリエステル、ビスフェノールAポリカーボネートなどのポリカーボネート、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)(SAN)又はポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(ABS)などのスチレン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)又はポリフェニスルホン(PPSU)などのポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、ポリポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、フッ化ビニリデン(PVDF)、及びポリウレタン;鉄、鋳鉄、銅、真鍮、アルミニウム、チタン、金、炭素鋼(C-steel)、ステンレス鋼、及びこれらの酸化物や合金などの金属;ハイドロキシアパタイト、炭酸カルシウム(非晶質、方解石、アラゴナイト)、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウムなどの多価金属カチオンを含む材料;石英及びガラスなどのシリケート材料;土器、石器、及び磁器などのセラミックス、並びにグラファイト材料が挙げられる。
【0053】
湿潤コーティングの第一温度での加熱は、アンモニウムカチオン無含有のポリアミド-アミド酸を含む乾燥したコーティングを提供し、当業者に公知の任意の従来方法を用いて達成できる。例えば、コーティングした基板は、減圧の有無に関わらず例えばオーブン中で加熱することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、湿潤コーティングを第一温度まで加熱することにより、結果としてアンモニウムカチオンがアンモニア発生の形で除去されると考えられている。アンモニア発生の形でのアンモニウムイオンの除去は、材料を本来のポリアミド-アミド酸に戻す。同時に、いずれかの残留溶媒、通常は水が除去される。第一温度は、アンモニウムカチオンがアンモニアの形態で除去される及び/又はいずれかの残留溶媒、通常は水がイミド化を回避しつつ除去される限り、特に制限されない。しかしながら、150℃未満、典型的には120℃未満の第一温度が好適である。この手法では、アンモニウムカチオン無含有のポリアミド-アミド酸を含む乾燥したコーティングが得られ、それは、アンモニウム塩との反応に使用されて水性ポリアミド-アミド酸組成物を形成するポリアミド-アミド酸である。
【0054】
乾燥したコーティングを硬化して付着性ポリアミド-イミドフィルムを得ることは、第二温度で前記基板を加熱することにより達成され、当業者に公知の任意の従来方法を用いて達成することが可能である。例えば、コーティングした基板は、減圧の有無に関わらず例えばオーブン中で加熱することができる。硬化により、ポリアミド-アミド酸がイミド化されてポリアミド-イミドフィルムが形成される。第二温度は、ポリアミド-アミド酸のイミド化に影響を及ぼしポリアミド-イミドフィルムを形成するのに十分である限り、特に限定されない。しかしながら、150℃超の第二温度が好適である。一実施形態においては、第二温度は180℃~290℃である。
【0055】
硬化プロセスは、場合により、マトリックス樹脂の存在下で行われてもよい。このような実施形態においては、フィルムは、マトリックスと架橋することができ、又はその場でフィルムを形成することができる。
【0056】
ポリアミド-アミド酸をイミド化して対応するポリアミド-イミドフィルムを形成するのが容易に達成できるため、硬化ステップは、一般的に約15分未満、典型的には約5分未満、より典型的には約2分未満で終了する。一実施形態においては、硬化ステップは、1~2分かかる。
【0057】
乾燥ステップと硬化ステップは、一つのステップで行うこともある。このような実施形態においては、ポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩の湿潤コーティングを有する基板に第一温度と第二温度が同じである加熱を施してもよい。この実施形態においては、第一温度と第二温度は、それぞれ、150℃超、典型的には180℃~290℃である。
【0058】
第四態様においては、本開示は、ポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩を含むフィルムであって、前記フィルムが水性ポリアミド-アミド酸組成物から調製されるフィルムに関する。フィルムは、基板の表面を本明細書に記載の水性ポリアミド-アミド酸組成物でコーティングすることにより、形成され、本明細書に記載の方法などの当業者に公知の任意の好適な方法を用いて、達成することができる。例えば、水性ポリアミド-アミド酸組成物は、スピンキャスティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、ブラシ、電着、又は他のそのような従来の方法により、堆積させることができる。
【0059】
好適な基板は、本明細書に記載の基板から選択してよい。
【0060】
第五態様においては、本開示は、本明細書に記載のポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩を含むフィルムを含む製造品又は1種若しくは複数の繊維に関する。
【0061】
フィルムは、繊維だけでなく、製造品に形成してもよく、更に熱処理により乾燥及び/又は硬化させてもよい。一実施形態においては、1種又は複数の熱処理繊維は、前記フィルムを含む1種又は複数の繊維を加熱することにより、形成される。
【0062】
第六態様においては、本開示は、フィルムを含む1種又は複数の繊維を加熱することにより形成される1種又は複数の熱処理繊維を含む複合材料であって、そのフィルムが、本明細書に記載のポリアミド-アミド酸のアンモニウム塩と、マトリックス樹脂とを含む複合材料に関する。
【0063】
複合材料は、プリフォームを成形して、そのプリフォームに熱硬化性樹脂を注入することにより、様々な液状成形プロセスで作製することができる。使用可能な液状成形プロセスとしては、真空で生じる差圧を用いてプリフォームに樹脂を注入する真空含浸工法(VARTM)が挙げられるが、これに限定されない。別の方法は、密閉した金型においてプリフォームに樹脂を加圧注入する含浸工法(RTM)である。3番目の方法は、樹脂フィルム注入法(RFI)であり、半固形の樹脂をプリフォームの下又は上に置き、適切な工具を部品に配置し、その部品を袋に入れた後に、オートクレーブに入れて溶解して、プリフォームに樹脂を注入する。
【0064】
本明細書に記載のプリフォームを含浸又は注入するためのマトリックス樹脂は、硬化性樹脂である。マトリックス樹脂に関して「硬化(Curing)」又は「硬化(cure)」は、ポリマー鎖の化学架橋による典型的なポリマー材料の固化を意味する。マトリックス樹脂に関して用語「硬化性」は、マトリックス樹脂が、マトリックス樹脂を固化又は熱硬化状態にする条件に供され得ることを意味する。マトリックス樹脂は、典型的には、1種又は複数の未硬化の熱硬化性樹脂を含有する固化性又は熱硬化性樹脂である。好適な熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、オキセタン、イミド(ポリイミド又はビスマレイミドなど)、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールなど)、ポリエステル、アクリル、これらのハイブリッド、ブレンド、及び組み合わせが挙げられる。
【0065】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のグリシジル誘導体、及びオレフィン性二重結合の過酸化により生成する非グリシジル樹脂が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールK及びビスフェノールZなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル;クレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル、脂肪族ジアルのグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン、複素環式グリシジルイミド及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂又はそれらの組合せが挙げられる。
【0066】
具体的な例は、4,4’-ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o-クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル又はテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0067】
分子あたり少なくとも1つのオキセタノ基を含む化合物である好適なオキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3[[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル]オキセタン、オキセタン-3-メタノール、3,3-ビス-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-ブチル-3-メチルオキセタン、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3,3-ジプロピルオキセタン、及び3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタンなどの化合物が挙げられる。
【0068】
硬化性マトリックス樹脂は、場合により、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー制御剤、粘着付与剤、無機又は有機充填剤、強化剤としての熱可塑性及び/又は弾性ポリマー、安定剤、抑制剤、顔料、染料、難燃剤、反応性稀釈剤、UV吸収剤及び硬化前及び/又は硬化後のマトリックス樹脂の特性を改良するための当業者に公知のその他の添加剤などの1種又は複数の添加剤を含んでもよい。
【0069】
好適な硬化剤の例としては、芳香族、脂肪族及び脂環式アミン、又はグアニジン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。好適な芳香族アミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、及び3,3’ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアンモジフェニルメタン、ベンゼンジアミン(BDA)が挙げられ;好適な脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン(EDA)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)(M-DEA)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、トリオキサトリデカンジアミン(TTDA)、ポリオキシプロピレンジアミン、及び更なる同族体、ジアミノシクロヘキサン(DACH)、イソホロンジアミン(IPDA)、4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、ビスアミノプロピルピペラジン(BAPP)、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)などの脂環式アミンが挙げられ;他の好適な硬化剤としては、無水物、典型的にはポリカルボン酸無水物、例えば、無水ナジック酸、メチルナジック酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ピロメリト酸二無水物、無水クロレンド酸、及び無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0070】
更に他の硬化剤は、ルイス酸:ルイス塩基錯体である。好適なルイス酸:好適な塩基錯体としては、例えば、BCl3:アミン錯体、BF3:アミン錯体、例えば、BF3:モノエチルアミン、BF3:プロピルアミン、BF3:イソプロピルアミン、BF3:ベンジルアミン、BF3:クロロベンジルアミン、BF3:トリメチルアミン、BF3:ピリジン、BF3:THF、AlCl3:THF、AlCl3:アセトニトリル、及びZnCl2:THFなどの錯体が挙げられる。
【0071】
追加の硬化剤は、ポリアミド、ポリアミン、アミドアミン、ポリアミドアミン、多脂環式、ポリエーテルアミド、イミダゾール、ジシアンジアミド、置換尿素及びウロン(urones)、ヒドラジン及びシリコーンである。
【0072】
尿素系硬化剤は、商品名DYHARD(Alzchem社により販売)で入手可能な材料、及びUR200、UR300、UR400、UR600、UR700として市販されているものなどの尿素誘導体の範囲である。ウロン促進剤としては、例えば、4,4-メチレンジフェニレンビス(N,N-ジメチル尿素)(U52MとしてOnmicure社から入手可能)などが挙げられる。
【0073】
存在する場合、硬化剤の総重量は、樹脂組成物の1重量%~60重量%の範囲内である。典型的には、硬化剤は、15重量%~50重量%の範囲、より典型的には20重量%~30重量%の範囲で存在する。
【0074】
好適な強化剤には、これらに限定されないが、ポリアミド、コポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリケトン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンオキシド(PPO)及び変性PPO、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリプロピレンオキシド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリル、ポリフェニルスルホン、高性能炭化水素ポリマー、液晶ポリマー、エラストマー、セグメント化エラストマー、及びコア-シェル粒子の単独又は組合せのどちらかのホモポリマー又はコポリマーが含まれてよい。
【0075】
強化粒子又は強化剤は、存在する場合、樹脂組成物の0.1重量%~30重量%の範囲であってよい。一実施形態においては、強化粒子又は強化剤は、10重量%~25重量%の範囲で存在してよい。別の実施形態においては、強化粒子又は強化剤は、0.1~10重量%の範囲で存在してよい。好適な強化粒子又は強化剤としては、例えば、SolvayからのVirantage VW10200 FRP、VW10300 FP及びVW10700 FRP、住友化学からのBASF Ultrason E2020及びSumikaexcel5003Pが挙げられる。
【0076】
強化粒子又は強化剤は、繊維層に組み込まれるのを防ぐために20ミクロン超の直径を有する粒子の形態であってよい。強化粒子又は強化剤のサイズは、繊維強化材により濾過されないように選択することができる。場合により、組成物はまた、無機セラミック粒子、微小球、マイクロバルーン及び粘土を含んでもよい。
【0077】
樹脂組成物は、国際公開第2013/141916号パンフレット、国際公開第2015/130368号パンフレット及び国際公開第2016/048885号パンフレットなどに記載される導電性粒子を含有してもよい。
【0078】
樹脂注入のための金型は、二成分の密閉型であっても、又は真空バックで密閉した片面型であってもよい。マトリックス樹脂を金型に注入した後、金型を加熱して樹脂を硬化する。
【0079】
加熱中、樹脂はそれ自体と反応して、複合材料のマトリックスに架橋を形成する。初期の加熱後に、樹脂はゲル化する。ゲル化すると、樹脂は、もはや流動しなくなり、むしろ固体として挙動する。ゲル化後、温度又は硬化を最終温度まで上昇させて硬化を完了させてもよい。最終硬化温度は、選択した熱硬化性樹脂の性質及び特性に応じて異なる。したがって、好適な方法においては、マトリックス樹脂をゲル化するのに好適な第一温度まで複合材料を加熱し、その後、温度を第二温度まで上昇させて、第二温度で時間を保持して硬化を完了させる。
【0080】
本発明の組成物、方法、及びプロセスの用途が本明細書に記載されているが、本開示の精神から逸脱することなく、当業者は他の用途を想定することが可能である。このような用途としては繊維強化射出成形、引抜成形、ATL(自動テープ積層)、AFP(自動繊維配置)、及び付加製造/3Dプリントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本開示による組成物、方法、及びプロセスは、それらに有用な材料を含んで、以下の非限定の実施例により、更に例証される。
【実施例】
【0082】
実施例1.水酸化アンモニウムを用いる水性ポリアミド-アミド酸組成物の調製
脱イオン水(2000~2500mL)を、オーバーヘッド機械式攪拌機を備える4口ジャケット付きガラス反応器に投入した。水酸化アンモニウム溶液(29重量%)(100~150グラム)を加え、溶液を70℃まで加熱した。激しく攪拌しながら(400rpm)、湿潤ケーキ形態のポリアミド-アミド酸(固形分30~40%;750~1000グラム)を約10~15分かけて段階的に添加した。全てのポリマーを反応器に投入した後に、1~2時間加熱を続けた。ポリアミド-アミド酸を完全に溶解させて、水溶液を得た。
【0083】
実施例2.重炭酸アンモニウムを用いる水性ポリアミド-アミド酸組成物の調製
重炭酸アンモニウム(119g)を反応容器内の脱イオン水(3174g)に撹拌しながら加えた。湿潤ケーキ形態のポリアミド-アミド酸(固形分30~40%;591g)を撹拌しながら重炭酸アンモニウム溶液に添加した。得られた混合物を4~7時間激しく攪拌しながら約75℃まで加熱した。CO2ガスの発生を、ポリアミド-アミド酸の完全且つ効率的な溶解に伴って観察した。水溶液を得た。
【0084】
理論に拘束されることを望むものではないが、プロセス中に形成したCO2ガスの発生は、アンモニウム塩の形成に向けて平衡を駆動すると考えられている。
【0085】
実施例3.炭素繊維上における付着性ポリアミド-イミドフィルムの形成
実施例2により調製した水性ポリアミド-アミド酸組成物で炭素繊維をディップコートした。低温(80℃~120℃)で乾燥した場合に、アンモニアの発生を観察した。アンモニアは直ちに解離して放出されて、2分未満で繊維表面に元のポリアミド-アミド酸のコーティング又はサイズを迅速且つ効率的に形成した。
【0086】
実施例4.ポリアミド-アミド酸の湿潤ケーキの熱重量分析(TGA)
ポリアミド-アミド酸湿潤ケーキでTGAを実施した。ポリアミド-アミド酸の湿潤ケーキの温度の関数としての重量のグラフを
図1に示す。
【0087】
図1に示すように、溶媒の水を除去することによる重量の減少は、100℃付近で起こった。180℃を超えて更に加熱すると、対応するイミドを形成した。195℃~275℃の公称1.5%の重量損失は、イミド形成中の水損失であり、元のポリアミド-アミド酸の酸価と一致する。
【国際調査報告】