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特表2023-534870バイオアベイラビリティを高めるためのカロテノイド製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】バイオアベイラビリティを高めるためのカロテノイド製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20230804BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230804BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61K31/22
A61P27/02
A61K9/127
A61K47/02
A61K47/24
A61K9/48
A61K47/44
A61K47/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504665
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(85)【翻訳文提出日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 IB2021056562
(87)【国際公開番号】W WO2022018642
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】63/054,653
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/377,092
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506138904
【氏名又は名称】インダストリアル オーガニカ エス.アー. デ サー.ヴェ.
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL ORGANICA S.A. DE C.V.
【住所又は居所原語表記】Av. Almazan No. 100, Col. Topo Chico 64260, Monterrey, N.L. Mexico
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノーラン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】プラド-カブレロ,アルフォンソ
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】トルレス キローガ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】トルレス ゴメス,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】マルケス サンタクルス,ジャスミン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA56
4C076BB01
4C076CC10
4C076DD29
4C076DD59
4C076DD63
4C076EE53
4C076FF16
4C076FF34
4C076FF35
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB04
4C206DB56
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA11
4C206ZA33
(57)【要約】
キサントフィルカロテノイドジアセテートと、遷移金属塩と、リン脂質と、を含む組成物が提供される。この組成物は、ミセルを含まず、エマルジョンでもない。この組成物を使用して、目の健康を助ける必要のある対象において目の健康を助ける方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサントフィルカロテノイドジアセテートと、
遷移金属塩と、
リン脂質と、を含む組成物であって、
ミセルを含まず、エマルジョンではない、組成物。
【請求項2】
前記リン脂質は、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスホイノシチド、ホスホスフィンゴ脂質およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キサントフィルカロテノイドジアセテートは、メソゼアキサンチンジアセテートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテートまたはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
(3R,3’R,6R)-ルテイン、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、メソゼアキサンチン、それらのエステルおよびそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が対象に経口投与された後、前記対象の消化管内で、フリー体のキサントフィルカロテノイドを内包したミセルが形成されるように構成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
抗酸化剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記遷移金属塩は、酸化亜鉛、酸化第二銅、酸化第一銅またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を含む、ソフトゲルカプセル。
【請求項10】
良好な目の健康を助ける必要のある対象において良好な目の健康を助ける方法であって、
安全で有効量のカロテノイド組成物を前記対象に投与することを含み、
前記カロテノイド組成物は、
キサントフィルカロテノイドジアセテートと、
遷移金属塩と、
リン脂質と、を含み、
前記カロテノイド組成物はミセルを含まず、
前記カロテノイド組成物はエマルジョンではなく、
フリー体のキサントフィルカロテノイドを内包したミセルが、前記対象の消化管内で、前記リン脂質から形成される、方法。
【請求項11】
前記対象は、黄斑色素が正常レベル未満であるか、加齢黄斑変性症(AMD)を発症する危険性のあるヒトまたはヒト以外の哺乳動物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記キサントフィルカロテノイドジアセテートは、メソゼアキサンチンジアセテートであり、前記カロテノイド組成物は、約1%(w/w)以上約30%(w/w)以下のメソゼアキサンチンジアセテートを含むゲルカプセルである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記カロテノイド組成物はさらに、(3R,3’R,6R)-ルテインおよび(3R,3’R)-ゼアキサンチンを含み、前記(3R,3’R,6R)-ルテインおよび前記(3R,3’R)-ゼアキサンチンは、ジアセテート体であってもよく、前記メソゼアキサンチンジアセテートおよび前記(3R,3’R,6R)-ルテインは、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R,6R)-ルテインの比を約1:10~約10:1として提供され、前記メソゼアキサンチンジアセテートおよび前記(3R,3’R)-ゼアキサンチンは、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約1:1~約20:1として提供される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記カロテノイド組成物は、前記メソゼアキサンチンジアセテートと、(3R,3’R,6R)-ルテインと、前記(3R,3’R)-ゼアキサンチンとを、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R,6R)-ルテイン:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約10:10:2として含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記遷移金属塩は、亜鉛および銅のうちの少なくとも一方を含み、前記カロテノイド組成物はさらに、ヒマワリ種子油と、ビタミンCおよびビタミンEのうちの少なくとも一方と、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
対象におけるメソゼアキサンチンのバイオアベイラビリティを改善する方法であって、
前記対象の消化管内で、メソゼアキサンチンジアセテートをフリー体のメソゼアキサンチンに変換し、
前記対象の前記消化管内で、フリー体の前記メソゼアキサンチンを内包したリン脂質の単層を含むミセルを形成することを含み、
フリー体の前記メソゼアキサンチンは、結晶形態で前記対象に投与された場合の対応するメソゼアキサンチンよりも多く前記対象の血流内で生物学的に利用可能なまま維持される、方法。
【請求項17】
前記対象の前記消化管内でミセルが形成されるのは、安全で有効量のカロテノイド組成物を前記対象に投与した結果であり、前記カロテノイド組成物は、前記リン脂質と、前記メソゼアキサンチンジアセテートと、遷移金属塩と、を含み、前記カロテノイド組成物は、投与されたときにエマルジョンではなく、ミセルを含んでいない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記カロテノイド組成物は、グルテンを含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記カロテノイド組成物はさらに、メソゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテート、(3R,3’R,6R)-ルテインまたはそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記対象は、黄斑色素レベルを維持または改善することが望ましいヒトまたはヒト以外の哺乳動物である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記対象は、加齢黄斑変性症(AMD)であるか、AMDを発症する危険性のあるヒトまたは非ヒト哺乳動物である、請求項16に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
【0002】
本出願は、2021年7月15日に出願された米国特許出願第17/377,092号の優先権を主張し、かつ、2020年7月21日に出願された米国特許仮出願第63/054,653号の利益を主張するものである。上記出願の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0003】
本開示は、カロテノイドのバイオアベイラビリティを高めることに関する。
【背景技術】
【0004】
背景技術では、必ずしも先行技術ではない、本開示に関連する背景情報を提供する。
【0005】
網膜は、光に敏感なニューロンを含む組織層である。網膜は目の奥にあり、そこで光が像を結ぶ。像は視神経によって脳に伝達され、脳で視覚的知覚が作り出される。
【0006】
網膜の中心には、錐体として知られる光受容体細胞が密集した領域である黄斑部がある。黄斑部は、中心視力、大半の色覚、細部まで細かく見えるようにする機能を支えている。
【0007】
黄斑部は、キサントフィルカロテノイドによって提供される黄色い色素を有する。キサントフィルカロテノイドとしては、(3R,3’R,6R)-ルテイン、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、メソゼアキサンチンがあげられる。この色素は青色光を吸収し、黄斑部を酸化傷害から保護する。この色素が破壊されたり劣化したりすると、酸化による黄斑部の損傷が大きくなり、中心部の鮮明な視力が損なわれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
黄斑変性症すなわち加齢黄斑変性症(AMD)は、黄斑部の変性を特徴とする慢性の進行性眼疾患であり、中心視力の低下につながる。この疾患は、北米などの社会で50歳を超えた人々の後天性法的盲および視覚障害の主な原因となっている。色素は短波長の青色光をフィルタリングすることで黄斑部を保護し、抗酸化作用や光学特性を持つことから、キサントフィルカロテノイドを補給することでAMDを治療することができる。黄斑部の色素を増やせば、AMD患者や網膜の病変がない人の視機能が高まることが分かっている。しかしながら、キサントフィルカロテノイドの中には、高レベルで排泄されてしまい、血清中に吸収されて黄斑部まで運ばれる分がほとんど残らないものがある。したがって、キサントフィルカロテノイドのバイオアベイラビリティを高めることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本セクションは、本開示の一般的な概要を提供するものであり、本開示の全範囲またはその特徴のすべてを包括的に開示するものではない。
【0010】
様々な態様において、現在の技術は、キサントフィルカロテノイドジアセテートと、遷移金属塩と、リン脂質と、を含む組成物であって、ミセルを含まず、エマルジョンではない、組成物を提供する。
【0011】
一態様において、リン脂質は、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスホイノシチド、ホスホスフィンゴ脂質およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0012】
一態様において、キサントフィルカロテノイドジアセテートは、メソゼアキサンチンジアセテートを含む。
【0013】
一態様において、組成物は、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテートまたはそれらの組み合わせも含む。
【0014】
一態様において、組成物は、(3R,3’R,6R)-ルテイン、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、メソゼアキサンチン、それらのエステル、それらのジアセテートおよびそれらの組み合わせも含む。
【0015】
一態様において、組成物は、当該組成物が対象に経口投与された後、対象の消化管内で、フリー体のキサントフィルカロテノイドを内包したミセルが形成されるように構成されている。
【0016】
一態様において、組成物は、抗酸化剤も含む。
【0017】
一態様において、遷移金属塩は、酸化亜鉛、酸化第二銅、酸化第一銅またはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
一態様において、組成物は、ソフトゲルカプセルで提供される。
【0019】
様々な態様において、現在の技術は、良好な目の健康を助ける必要のある対象において良好な目の健康を助ける方法であって、安全で有効量のカロテノイド組成物を対象に投与することを含み、カロテノイド組成物は、キサントフィルカロテノイドジアセテートと、遷移金属塩と、リン脂質と、を含み、カロテノイド組成物はミセルを含まず、組成物はエマルジョンではなく、フリー体のキサントフィルカロテノイドを内包したミセルが、対象の消化管内で、リン脂質から形成される、方法を提供する。
【0020】
一態様において、対象は、黄斑色素が正常レベル未満であるか、AMDを発症する危険性のあるヒトまたはヒト以外の哺乳動物である。
【0021】
一態様において、キサントフィルカロテノイドジアセテートは、メソゼアキサンチンジアセテートであり、カロテノイド組成物は、約1%(w/w)以上約30%(w/w)以下のメソゼアキサンチンジアセテートを含むゲルカプセルである。
【0022】
一態様において、カロテノイド組成物はさらに、(3R,3’R,6R)-ルテインおよび(3R,3’R)-ゼアキサンチンを含み、(3R,3’R,6R)-ルテインおよび(3R,3’R)-ゼアキサンチンは、ジアセテート体であってもよく、メソゼアキサンチンジアセテートおよび(3R,3’R,6R)-ルテインは、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R,6R)-ルテインの比を約1:10~約10:1として提供され、メソゼアキサンチンジアセテートおよび(3R,3’R)-ゼアキサンチンは、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約1:1~約20:1として提供される。
【0023】
一態様において、カロテノイド組成物は、メソゼアキサンチンジアセテートと、(3R,3’R,6R)-ルテインと、(3R,3’R)-ゼアキサンチンとを、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R,6R)-ルテイン:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約10:10:2として含む。
【0024】
一態様において、遷移金属塩は、亜鉛および銅のうちの少なくとも一方を含み、カロテノイド組成物はさらに、ヒマワリ種子油と、ビタミンCおよびビタミンEのうちの少なくとも一方と、を含む。
【0025】
様々な態様において、現在の技術はさらに、対象におけるメソゼアキサンチンのバイオアベイラビリティを改善する方法であって、対象の消化管内で、メソゼアキサンチンジアセテートをフリー体のメソゼアキサンチンに変換し、対象の消化管内で、フリー体のメソゼアキサンチンを内包したリン脂質の単層を含むミセルを形成することを含み、フリー体のメソゼアキサンチンは、結晶形態で対象に投与された場合の対応するメソゼアキサンチンよりも多く対象の血流内で生物学的に利用可能なまま維持される、方法を提供する。
【0026】
一態様において、対象の消化管内でミセルが形成されるのは、安全で有効量のカロテノイド組成物を対象に投与した結果であり、カロテノイド組成物は、リン脂質と、メソゼアキサンチンジアセテートと、遷移金属塩と、を含み、カロテノイド組成物は、投与されたときにエマルジョンではなく、ミセルを含んでいない。
【0027】
一態様において、カロテノイド組成物は、グルテンを含まない。
【0028】
一態様において、カロテノイド組成物はさらに、メソゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテート、(3R,3’R,6R)-ルテインまたはそれらの組み合わせを含む。
【0029】
一態様において、対象は、黄斑色素レベルを維持または改善することが望ましいヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0030】
一態様において、対象は、AMDであるか、AMDを発症する危険性のあるヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0031】
さらに適用可能な領域が、本明細書で提供される説明から明らかになるであろう。課題を解決するための手段における説明と具体例は、説明のみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【0032】
本明細書に記載の図面は、すべての可能な実施形態ではなく、選択された実施形態を例示することだけを目的とするものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、現在の技術の様々な態様による、エステル体のメソゼアキサンチン(1A)、フリー体のメソゼアキサンチン(1B)、メソゼアキサンチンジアセテート(1C)の構造を示す図である。
図2図2は、現在の技術の様々な態様による、エステル体の(3R,3’R)-ゼアキサンチン(2A)、フリー体の(3R,3’R)-ゼアキサンチン(2B)、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート(2C)の構造を示す図である。
図3図3は、現在の技術の様々な態様による、エステル体の(3R,3’R,6R)-ルテイン(3A)、フリー体の(3R,3’R,6R)-ルテイン(3B)、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテート(3C)の構造を示す図である。
図4A図4Aは、現在の技術の様々な態様による、キサントフィルカロテノイド組成物の部分代謝を、胃とともに示す模式図である。
図4B図4Bは、現在の技術の様々な態様による、キサントフィルカロテノイド組成物の部分代謝を、小腸の十二指腸とともに示す模式図である。
図4C図4Cは、現在の技術の様々な態様による、キサントフィルカロテノイド組成物の部分代謝を、エンテロサイトとともに示す模式図である。
図5図5は、栄養補助用サプリメント中のルテインジアセテート可溶化溶質および結晶化カロテノイドを示す。製剤には、マリーゴールドの花から得られる(3R,3’R,6R)-ルテインが、ジアセテート誘導体の微結晶として含まれる。(3R,3’R,6R)-ルテインは、脂肪酸とエステル結合した状態で花の中に存在する。このカロテノイドを抽出するには、(3R,3’R,6R)-ルテインを脱エステル化し、結晶化して精製する。この結晶を可溶化し、消化器系で吸収しやすくするために、結晶化時に(3R,3’R,6R)-ルテインや他のヒドロキシカロテノイドを酢酸やプロピオン酸で再度エステル化して、花の脂質マトリックスに再懸濁させて界面活性剤を加え、周囲条件でカロテノイドの可溶性を維持することができる。図5では(3R,3’R,6R)-ルテインを示したが、メソゼアキサンチンおよびゼアキサンチンでも同様の経路になる。
図6図6は、(3R,3’R,6R)-ルテイン(L)、メソゼアキサンチン(MZ)、(3R,3’R)-ゼアキサンチン(Z)を割り当てられた被験者のスクリーニング、無作為化、フォローアップを示すフローチャートである。合計2名の参加者が、絶食状態で摂取した際の胃腸症状、膨満感、胃部不快感に関する有害事象のために介入を中止した。フォローアップがないのは、連絡が取れなくなったためである。
図7A図7Aは、ベースライン(0ヶ月)および6ヶ月の時点での(3R,3’R,6R)-ルテイン(L)の血清濃度レベル示すグラフである。
図7B図7Bは、ベースライン(0ヶ月)および6ヶ月の時点での(3R,3’R)-ゼアキサンチン(Z)の血清濃度レベル示すグラフである。
図7C図7Cは、ベースライン(0ヶ月)および6ヶ月の時点でのメソゼアキサンチン(MZ)の血清濃度レベル示すグラフである。
図8図8は、異なる製剤の血清濃度の変化に対する効果を示すグラフである(群1=L10mg+MZ10mg+Z10mg、群2=L10mg+MZ10mg+Z10mg分割投与、群3=L10mg+MZ10mg+オメガ、群4=L10mg+MZ10mg+Z10mgジアセテート、群5=プラセボ。(3R,3’R)-ゼアキサンチン(Z)血清濃度(図8A)およびメソゼアキサンチン(MZ)血清濃度(図8B)の変化の群間差を、ベースラインと6ヶ月の時点からの変化として表してある。群4のZおよびMZの血清での応答が、他の積極的な介入およびプラセボと比較して有意に高かった(p<0.000~p=0.019)。
図9図9は、0ヶ月~6ヶ月のあいだの黄斑色素光学密度(MPOV)の変化を示すグラフである。MPOVの応答が、群5(プラセボ)と比較して、群1および4で有意に高く、p=0.001~p=0.039であった。
図10A図10Aは、カロテノイド血清濃度の変化と組織の変化(応答)との関係を示すグラフであり、総カロテノイド血清濃度とカロテノイド皮膚スコア(r=0.528、p<0.001)の線形回帰分析結果を示してある。介入は、以下の通りである。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセルで提供。群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセルで提供。群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中、2カプセルで提供。群4:Lジアセテート(10mg)+MZジアセテート(10mg)+Zジアセテート(2mg)1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
図10B図10Bは、カロテノイド血清濃度の変化と組織の変化(反応)との関係を示すグラフであり、MPOV(r=0.408、p=0.001)の線形回帰分析結果を示してある。介入は、以下の通りである。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセルで提供。群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセルで提供。群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中、2カプセルで提供。群4:Lジアセテート(10mg)+MZジアセテート(10mg)+Zジアセテート(2mg)1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
図11図11は、群1~5についての皮膚のカロテノイド濃度の経時変化を示すグラフである。
図12図12は、6ヶ月にわたる期間における様々な形態のメソゼアキサンチンのバイオアベイラビリティを示すグラフである。
図13図13は、6ヶ月間にわたる期間における様々な形態の(3R,3’R,6R)-ルテインのバイオアベイラビリティを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示の内容を十分に示し、当業者にその範囲を完全に伝えるように、例示的な実施形態を提供する。本開示の実施形態についての十分な理解を提供するために、具体的な組成物、成分および方法の例など、多数の具体的な詳細を記載してある。具体的な詳細を採用しなくてもよいこと、例示的な実施形態を多くの異なる形態で実施し得ること、いずれも本開示の範囲を限定するように解釈されるべきではないことは、当業者には明らかであろう。いくつかの例示的な実施形態では、周知のプロセス、周知の装置構造および周知の技術についての詳細までは説明していない。
【0035】
本明細書で使用する用語は、特定の例示的な実施形態を説明する目的だけのものであり、限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに複数形を含まないことを示していない限り、複数形も含むと意図される場合がある。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」という表現は、包括的であるため、記載された特徴、要素、組成物、工程、整数、操作および/または成分の存在を規定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの群の存在または付加を排除するものではない。オープンエンドの「含む(comprising)」という語は、本明細書に記載の様々な実施形態を説明し、権利を請求するのに用いられる非制限的な用語として理解されるべきであるが、態様によっては、この用語を、「~からなる(consisting of)」または「本質的に~からなる(consisting essentially of)」などの一層限定的かつ制限的な用語であると理解することができる。したがって、組成物、材料、成分、要素、特徴、整数、操作および/またはプロセスの工程を記載した所与の実施形態のいずれについても、本開示は、そのような記載された組成物、材料、成分、要素、特徴、整数、操作および/またはプロセスの工程からなる、または本質的にこれからなる実施形態も明確に含んでいる。「~からなる(consisting of)」の場合、別の実施形態では、追加の組成物、材料、成分、要素、特徴、整数、操作および/またはプロセスの工程を除外するのに対し、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」の場合、基本的な特性および新規な特性に実質的に影響を及ぼす追加の組成物、材料、成分、要素、特徴、整数、操作および/またはプロセスの工程を実施形態から除外するが、基本的な特性および新規な特性に実質的に影響しない組成物、材料、成分、要素、特徴、整数、操作および/またはプロセスの工程は実施形態に含めることが可能である。
【0036】
本明細書に記載した方法の工程は、実行の順序を具体的に特定した場合を除いて、必ずしも説明または図示した特定の順序で実行する必要があると解釈されることはない。また、別途明記しない限り、追加の工程または代わりの工程を採用してもよいことも理解されよう。
【0037】
本明細書では、第1、第2、第3などの用語を使用して様々な工程、要素、成分、領域、層および/またはセクションを説明する場合があるが、これらの工程、要素、成分、領域、層および/またはセクションは、別途明記しない限り、これらの用語によって限定されるべきものではない。これらの用語は、ある工程、要素、成分、領域、層またはセクションを別の工程、要素、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される場合がある。本明細書で使用する場合、「第1」、「第2」および他の数値用語などは、文脈によって明確に示されない限り、順序または順番を意味しない。よって、後述する第1の工程、要素、成分、領域、層またはセクションを、例示的な実施形態の教示内容から逸脱することなく、第2の工程、要素、成分、領域、層またはセクションと称することができる。
【0038】
数値は、本開示全体を通して、所与の値からのわずかな誤差、言及した値とほぼ同じになる実施形態、言及した値そのものになる実施形態を包含するために、近似値または範囲の限界を表す。詳細な説明の最後にあげた実施例以外では、添付の特許請求の範囲を含む本明細書における(例えば、量または条件の)パラメータの数値はいずれも、数値の前に実際に「約」があるか否かを問わず、すべての場合において「約」という語によって修飾されているものと理解される。「約」は、記載された数値が若干の不正確さ(ちょうどの数値にある程度近い、ある数値におおよそ近いまたは適度に近い、ほぼ)を許容することを示す。「約」によって生じる不正確さが、この通常の意味では当技術分野で他に理解されない場合、本明細書で使用する「約」は、少なくとも、そのようなパラメータに対する通常の測定方法と使用方法で生じる可能性のある変動を示す。例えば、「約」には、5%以下、任意に4%以下、任意に3%以下、任意に2%以下、任意に1%以下、任意に0.5%以下、態様によっては任意に0.1%以下の変動が含まれていてもよい。
【0039】
さらに、範囲の開示は、当該範囲に対して与えられた端点とサブレンジをはじめとして、範囲全体のすべての値と、これらをさらに分割した範囲の開示を含む。本明細書で言及するように、特に明記しない限り、範囲は端点を含み、範囲全体のすべての異なる値およびこれらをさらに分割した範囲の開示を含む。したがって、例えば「AからBまで」または「約Aから約Bまで」の範囲は、AおよびBを含む。
【0040】
次に、添付の図面を参照して、例示的な実施形態について、さらに十分に説明する。
【0041】
黄斑部のキサントフィルカロテノイドを補給することによって、目の健康を維持し、AMDの退行作用を遅らせたり最小にしたりすることができる。しかしながら、キサントフィルカロテノイドの補給による好ましい効果を十分に実現するためには、黄斑部に到達して色素を回復できるように、キサントフィルカロテノイドのバイオアベイラビリティが高くなければならない。よって、現在の技術は、既知のカロテノイド組成物に比べてキサントフィルカロテノイドのバイオアベイラビリティが改善されたカロテノイド組成物を提供する。
【0042】
キサントフィルカロテノイドは、マリーゴールドなどの様々な植物から得られる抽出物に含まれる。抽出時、キサントフィルカロテノイドは、エステル体である。図1A図2Aおよび図3Aは、それぞれ、キサントフィルカロテノイドのメソゼアキサンチンエステル、(3R,3’R)-ゼアキサンチンエステルおよび(3R,3’R,6R)-ルテインエステルを示し、Rはアルキル鎖である。現在の技術に従って、(3R,3’R)-ゼアキサンチンエステルおよび(3R,3’R,6R)-ルテインエステルを鹸化処理し、図2Bおよび図3Bにそれぞれ示すようなフリー体の構造にする。フリー体のメソゼアキサンチンは、(3R,3’R,6R)-ルテインの塩基触媒による異性化反応によって得られる。次に、フリー体のメソゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンおよび(3R,3’R,6R)-ルテインをアセチル化し、図1C図2Cおよび図3Cにそれぞれ示すようなメソゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテートおよび(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテートを形成する。現在の技術は、これらのキサントフィルカロテノイドジアセテートのうちの少なくとも1つを含む組成物を提供する。この組成物は、リン脂質も含む。
【0043】
ある態様において、現在の技術は、キサントフィルカロテノイドジアセテートとリン脂質とを含むカロテノイド組成物を提供する。キサントフィルカロテノイドジアセテートは、メソゼアキサンチンジアセテート(図1C)、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート(図2C)、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテート(図3C)またはそれらの組み合わせを含む。ある態様において、キサントフィルカロテノイドは、メソゼアキサンチンジアセテートを含み、任意に、少なくとも1種類の他のキサントフィルカロテノイドをさらに含む。存在する場合、少なくとも1種類の他のキサントフィルカロテノイドは、非限定的な例として、メソゼアキサンチン、メソゼアキサンチンエステル、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R)-ゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンエステル、(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテート、(3R,3’R,6R)-ルテイン、(3R,3’R,6R)-ルテインエステルまたはそれらの組み合わせであってもよい。組成物のキサントフィルカロテノイドの内容および/またはカロテノイドの内容は、メソゼアキサンチンジアセテートあるいは、メソゼアキサンチンジアセテートと本明細書で述べる他の例示的カロテノイドの任意の組み合わせから本質的になるものであってもよいし、これらからなるものであってもよいことが理解されよう。「本質的に~からなる(consists essentially of)」とは、キサントフィルカロテノイドをはじめとするカロテノイドを意図的に追加で組成物に含めることはないが、(カロテノイド組成物の総重量を基準にして)約5%(w/w)以下、約2.5%(w/w)以下または約1%(w/w)以下などの濃度で、追加のカロテノイドが意図せずして不純物として含まれる場合があることを意味する。キサントフィルカロテノイドを含むものとして本明細書に記載した例示的な組成物は、キサントフィルカロテノイドから本質的になる、またはキサントフィルカロテノイドからなる対応の組成物を含むことが理解される。
【0044】
様々な態様において、カロテノイド組成物は、メソゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンおよび(3R,3’R,6R)-ルテインのうちの少なくとも1つを含み、メソゼアキサンチン、(3R,3’R)-ゼアキサンチンおよび(3R,3’R,6R)-ルテインは、個々に独立して、塩基体、エステル体、ジアセテート体またはそれらの組み合わせであり、ただし、組成物は、メソゼアキサンチンジアセテート、(3R,3’R)-ゼアキサンチンジアセテートおよび(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテートのうちの少なくとも1つを含む。存在する場合、(ジアセテート体、エステル体、ジアセテート体またはそれらの組み合わせでの)メソゼアキサンチンおよび(3R,3’R,6R)-ルテインは、メソゼアキサンチン:(3R,3’R,6R)-ルテインの比を約1:10~約10:1として提供される。存在する場合、(ジアセテート体、エステル体、ジアセテート体またはそれらの組み合わせでの)メソゼアキサンチンおよび(3R,3’R)-ゼアキサンチンは、メソゼアキサンチン:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約1:1~約20:1として提供される。非限定的な例として、カロテノイド組成物は、メソゼアキサンチンジアセテートと、(フリー体、エステル体および/またはジアセテート体での)(3R,3’R,6R)-ルテインと、(フリー体、エステル体および/またはジアセテート体での)(3R,3’R)-ゼアキサンチンとを、メソゼアキサンチンジアセテート:(3R,3’R,6R)-ルテイン:(3R,3’R)-ゼアキサンチンの比を約10:10:2として含む。他の態様では、カロテノイド組成物中に存在する各キサントフィルカロテノイドは、個々に独立して、約1%(w/w)以上約30%(w/w)以下の濃度で含まれる。
【0045】
カロテノイド組成物は、水を含まないか、実質的に含まない。ここで、「水を実質的に含まない」とは、エマルジョンを形成するには低すぎる濃度、例えば、(カロテノイド組成物の総重量を基準にして)約5%(w/w)以下または約2.5%(w/w)以下の濃度で水が含まれている場合もあることを意味する。このように、いくつかの態様では、カロテノイド組成物は、0%(w/w)、約0.001%(w/w)、約0.05%(w/w)、約0.5%(w/w)、約1%(w/w)、約1.5%(w/w)、約2%(w/w)、約2.5%(w/w)、約3%(w/w)、約3.5%(w/w)、約4%(w/w)、約4.5%(w/w)または約5%(w/w)の水を含むが、これは、湿度が原因で意図せずして含まれてしまう場合があるものである。したがって、いくつかの態様では、カロテノイド組成物はエマルジョンではなく、むしろ、顕著なすなわち観察可能な相の違いがない、均質または均一な組成物である。あるいは、カロテノイド組成物は、少なくとも部分的にリン脂質によって規定される脂質マトリックス中の非ミセル粒子の懸濁液であってもよい。
【0046】
ある態様において、カロテノイド組成物は、質量が約250mg以上から約750mg以下、例えば質量が約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg、約700mgまたは約750mgの錠剤またはカプセル(ゲルカプセルなど)の形態である。錠剤またはカプセルは、存在するキサントフィルカロテノイドジアセテートを各々約0.5mg以上から約20mg以下の量で含む。非限定的な例では、錠剤またはカプセルは、メソゼアキサンチンジアセテート約10mg、(塩基体、エステル体および/またはジアセテート体での)(3R,3’R,6R)-ルテイン約10mgおよび(塩基体、エステル体および/またはジアセテート体での)(3R,3’R)-ゼアキサンチン約2mgを含む。
【0047】
リン脂質は、約0.1%(w/w)以上から約10%(w/w)以下、約0.1%(w/w)以上から約5%(w/w)以下または約0.1%(w/w)以上から約2.5%(w/w)以下の濃度でカロテノイド組成物に含まれる。リン脂質は、ミセルを形成することができる当技術分野で公知の任意の両親媒性リン脂質分子を含むことができる。そのような分子の非限定的な例として、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスホイノシチド、ホスホスフィンゴ脂質およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0048】
ホスファチジルコリンの非限定的な例としては、1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLOPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、卵-PC(EPC)、水添卵PC(HEPC)、高純度水添大豆PC(HSPC)、水添大豆PC(HSPC)、1-ミリストイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ 3-ホスホコリン(牛乳由来スフィンゴミエリンMPPC)、1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MSPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SMPC)、1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SOPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SPPC)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0049】
リゾホスファチジルコリンの非限定的な例としては、1-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LYSOPC MYRISTIC)、1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LYSOPC PALMITIC)、1-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LYLSOPC STEARIC)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0050】
ホスファチジン酸の非限定的な例としては、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DEPA-NA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DLPA-NA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DMPA-NA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DOPA-NA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DPPA-NA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DSPA-NA)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0051】
ホスファチジルエタノールアミンの非限定的な例としては、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DEPE)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0052】
ホスファチジルグリセロールの非限定的な例としては、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DEPG-NA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DLPG-NA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)(DLPG-NH4、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DMPG-NA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)(DMPG-NH4)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム/アンモニウム塩)(DMPG-NH4/NA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DOPG-NA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DPPG-NA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)(DPPG-NH4)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(ナトリウム塩)(DSPG-NA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール...)(アンモニウム塩)(DSPG-NH4)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)...](ナトリウム塩)(POPG-NA)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0053】
ホスファチジルセリンの非限定的な例としては、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)(DLPS-NA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)(DMPS-NA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)(DOPS-NA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)(DPPS-NA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(ナトリウム塩)(DSPS-NA)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0054】
ホスホイノシチドの非限定的な例としては、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトール 4-ホスフェート(PIP4)、ホスファチジルイノシトール 5-ホスフェート(PIP5)、ホスファチジルイノシトール 3,4-ビスホスフェート(PI(3,4)P2)、ホスファチジルイノシトール 3,5-ビスホスフェート(PI(3,5)P2)、ホスファチジルイノシトール 4,5-ビスホスフェート(PI(4,5)P2)、ホスファチジルイノシトール 3,4,5-トリホスフェート(PI(3,4,5)P3)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0055】
ホスホスフィンゴ脂質の非限定的な例としては、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、セラミドホスホリル脂質、セレブロシド、ガングリオシドおよびそれらの組み合わせがあげられる。
【0056】
組成物は、ミセルを含まないか、実質的に含まないか、キサントフィルカロテノイドジアセテート(複数のキサントフィルカロテノイドジアセテートが存在する場合は当該複数のキサントフィルカロテノイドジアセテート)を内包したミセルを含まないか、実質的に含まないかのいずれかである。「実質的に含まない」とは、低レベルのミセルが存在する可能性はあるが、組成物が意図的に添加されたミセルまたは意図的に形成されたミセルを含まないことを意味する。例えば、ミセルを実質的に含まない組成物は、(カロテノイド組成物の総重量を基準にして)約5%(w/w)以下のミセルを含んでもよい。
【0057】
しかしながら、本組成物は、消化管内で見られる、より詳細には胃および/または小腸で見られるような酸性条件下におかれたときに、キサントフィルカロテノイドジアセテートを内包したミセルを形成するように構成されている。これらの酸性条件としては、約3.5以下、約3以下または約2以下のpHを含む。pHは、約1以上から約3.5以下または約2以上から約3以下のpHの範囲内であってもよい。例示的な酸性pHは、約1、約1.5、約2、約2.5、約3および約3.5である。また、酸性条件として、約30℃、約31℃、約32℃、約33℃、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃、約41℃、約42℃、約43℃、約44℃および約45℃などの温度をはじめとして、約30℃以上から約45℃以下の温度を含む。よって、組成物は、対象に経口投与された後、すなわち消費されるまたは飲み込まれた後に、キサントフィルカロテノイドジアセテートを内包し、任意に、塩基体、エステル体、ジアセテート体またはそれらの組み合わせの少なくとも1つの他のキサントフィルカロテノイドを内包したミセルが、対象の消化管内に形成されるように構成されている。消化管内で組成物から形成されるミセルは、平均直径が約10nm以上から約500nm以下、約20nm以上から約250nm以下または約40nm以上から約100nm以下である。
【0058】
消化とミセル形成の過程を図4Aに示す。キサントフィルカロテノイド組成物の経口投与後、キサントフィルカロテノイドジアセテート10と、キサントフィルカロテノイド組成物からのリン脂質14を含む脂質滴12とが、胃16の中で放出されることが示されている。キサントフィルカロテノイドジアセテート10は、コレステロールや脂肪酸などの他の親油性分子と一緒に大きな脂肪滴を形成する。図4Bに示すように、脂質滴12中のキサントフィルカロテノイドジアセテート10と水との混合物は、小腸の十二指腸18に移動し、十二指腸でミセル20が形成されて溶解(すなわち、分配または拡散)と吸収が行われる。十二指腸18では、キサントフィルカロテノイドジアセテート10の少なくとも一部が膵臓リパーゼおよび膵臓カルボキシルエステルリパーゼ(CEL)によって加水分解されてフリー体11になり、一層効率的にミセル20に取り込まれて輸送される。しかしながら、キサントフィルカロテノイドジアセテート10およびエステルがミセル20に内包されていてもよい。また、親水性部分24と疎水性部分26とを含む胆汁酸22がリン脂質14と結合し、親油性分子(リン脂質14、胆汁酸22など)の臨界ミセル濃度(CMC)に達したときにキサントフィルカロテノイドジアセテート10とフリー体11とを含むミセル20を形成する。ここではリン脂質14を1本の疎水性テールを持つものとして示してあるが、リン脂質は2本のテールを含み得ることが理解される。次に、キサントフィルカロテノイドジアセテート10を含むミセル20の細胞への取り込み、すなわち吸収または資化(assimilation)が起こる。細胞への取り込みは、SRB1受容体を介した受容体による(能動的な)輸送と受動輸送の両方で行われる。図4Cに示すように、ミセルがエンテロサイト28に接触し、キサントフィルカロテノイドジアセテート10および/またはフリー体11は、トランスポータータンパク質30によってエンテロサイト28に進入する。キサントフィルカロテノイドのフリー体11はエンテロサイト28によって取り込まれるが、キサントフィルカロテノイドジアセテート10およびエステルもエンテロサイト28に拡散する。キサントフィルカロテノイドは、キサントフィルカロテノイドジアセテート10およびフリー体11を含めて、ゴルジ装置32によって荷電され、カイロミクロン34としてリンパ系に放出される。
【0059】
ある態様において、単一のミセルによって、単一のキサントフィルカロテノイドの複数の分子を内包するか、少なくとも1種類のキサントフィルカロテノイドがジアセテート体である少なくとも2種類のキサントフィルカロテノイドの複数の分子を内包することができる。よって、このカロテノイド組成物は、(カロテノイド組成物の総重量を基準にして)約5%(w/w)以上の濃度でキサントフィルカロテノイドとしてメソゼアキサンチンジアセテートを内包したミセルを含む組成物をはじめとして、キサントフィルカロテノイドジアセテートを内包したミセルを含む対応するカロテノイド組成物よりも改善されたバイオアベイラビリティを提供する。
【0060】
様々な態様において、組成物はさらに、約1%(w/w)以上から約10%(w/w)以下の濃度で、少なくとも1種類の界面活性剤などの乳化安定化剤を含む。乳化安定化剤の非限定的な例として、アラビアガム、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸塩ペクチン、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート65、ポリソルベート60、ポリソルベート20およびそれらの組み合わせであり、Tween(登録商標)ポリソルベート80、65、60および/または20を含む)、オレイン酸、中鎖トリグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリリシノレイン酸ポリグリセロール、ジステアリン酸スクロース、ソルビタン(例えば、ステアリン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンおよびそれらの組み合わせ)およびそれらの組み合わせがあげられる。
【0061】
様々な他の態様において、組成物は、任意に、抗酸化剤をさらに含む。抗酸化剤は、非限定的な例として、ビタミンE、ビタミンC、パルミチン酸アスコルビル、ローズマリー抽出物、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ソルビン酸カリウムまたはそれらの組み合わせであってもよい。したがって、組成物は、少なくとも1種類の抗酸化剤を含むことができる。存在する場合、各抗酸化剤は、個々に独立して、約20mg/kg以上から約20g/kg以下、約20mg/kg以上から約10g/kg以下または約10IU以上から約500IU以下の濃度で含まれる。
【0062】
様々な他の態様において、組成物はさらに、非限定的な例として、亜鉛(Zn)、亜鉛イオン(例えば、Zn2+)、銅(Cu)、銅イオン(例えば、Cu2+、Cu3+またはそれらの組み合わせ)、マンガンイオン、鉄イオンまたはそれらの組み合わせなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属もしくは遷移金属イオンを含む。アルカリ金属は、リチウム(Li、Li)、ナトリウム(Na、Na)またはカリウム(K、K)のイオンまたは塩として提供すればよい。アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg、Mg2+)またはカルシウム(Ca、Ca2+)のイオンまたは塩として提供すればよい。遷移金属イオンは、例えば、非限定的な例として、酸化物、硫酸塩、塩化物、グルコン酸塩、ステアリン酸塩およびそれらの組み合わせを含む遷移金属塩として提供すればよい。例示的な遷移金属塩としては、酸化亜鉛、酸化第二銅、酸化第一銅、酸化鉄およびそれらの組み合わせがあげられる。よって、組成物は、少なくとも1種類の遷移金属塩を含むことができる。存在する場合、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および/または遷移金属塩は、約2mg/kg以上から約200mg/kg以下または約20mg/kg以上から約100mg/kg以下の個別かつ独立した濃度で、組成物中に存在する。
【0063】
また、カロテノイド組成物は、(カロテノイド組成物の総重量を基準にして)約50%(w/w)以上から約90%(w/w)以下の濃度でキャリアを含む。非限定的な例として、キャリアは、植物抽出物(例えば、非限定的な例として、ヒマワリ油、大豆油、キャノーラ油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、シトラス油またはそれらの組み合わせなど)、植物油、鉱物油、動物油(魚油など)またはそれらの組み合わせを含むことができる。他のキャリアとしては、グリセリン、ゼラチン(例えば、牛肉および/または豚肉のゼラチン)、蜜蝋および脂肪酸があげられる。ある態様において、カロテノイド組成物は、グルテンを実質的に含まない。
【0064】
ジアセテートの製造方法は、米国特許第5,959,138号に記載されており、そその内容全体を本明細書に援用する。
【0065】
また、本技術は、良好な目の健康を助ける必要のある対象において良好な目の健康を助ける方法を提供する。本明細書で使用する場合、良好な目の健康を助けることは、黄斑部のカロテノイドを補給すること、対象において低下した(例えば、正常レベル未満の)カロテノイドレベルを回復することおよび/または対象において黄斑色素(正常レベル未満の黄斑色素など)を回復させることを含む。このように、本方法は、AMDを治療する、AMDの進行を遅らせる、あるいは、AMDまたは他の黄斑関連疾患にかかる機会を最小限に抑える(またはAMDまたは他の黄斑関連疾患を予防する)ものである。対象は、AMDを有するか、AMDを有する危険性のあるヒトまたは非ヒト哺乳動物とすることができる。ある態様において、組成物は、対象における視力を維持し、助け、あるいは高める。
【0066】
本方法は、安全で治療有効量の本明細書に記載のカロテノイド組成物を対象に投与することを含む。本明細書で使用する場合、「治療有効量」という語は、AMDのある対象、AMDを有する危険性がある対象または黄斑部の健康を助けることを望む対象に投与した場合、単独でまたは追加の治療と組み合わせて、AMDを治療するか、そうでなければ少なくとも1種類のカロテノイドを、助けになるレベルで黄斑部に提供するのに十分な化合物の量を意味する。「治療有効量」は、例えば、化合物、医薬組成物または医薬剤形、治療対象となる状態とその重症度、治療対象となる患者の年齢および体重などに応じて変動することになる。様々な態様において、治療有効量の組成物は、含有されるカロテノイドごとに約0.5mg以上から約25mg以下の用量を提供する。
【0067】
また、現在の技術は、非限定的な例として、対象におけるメソゼアキサンチンなどのキサントフィルカロテノイドのバイオアベイラビリティを改善する方法を提供するものである。対象は、良好な目の健康を助けることを望むヒトまたは非ヒト哺乳動物の対象、AMDのある対象、AMDを有する危険性がある対象または別の黄斑関連状態があるか、別の黄斑関連状態を有する危険性がある対象であってもよい。
【0068】
本方法は、対象の消化管内で、キサントフィルカロテノイドジアセテートをフリー体のキサントフィルカロテノイドに変換し、対象の消化管内(例えば、胃および/または小腸によって提供される酸環境内)で、フリー体のキサントフィルカロテノイドを内包したリン脂質の単層を含むミセルを形成することを含む。消化管内でキサントフィルカロテノイドを含むミセルを形成することにより、キサントフィルカロテノイドが対象の消化管内でミセルに被包されていない場合に生物学的に利用可能であろう量よりも、一層多くのキサントフィルカロテノイドが対象の血流内で生物学的に利用可能である。このように、投与されたキサントフィルカロテノイドのうち、より多くが、結晶の形態で投与された場合に利用可能であるよりも、対象の黄斑部で利用可能な状態に保たれる。
【0069】
対象の消化管内でミセルが形成されるのは、上述したように安全で有効量のカロテノイド組成物を対象に投与した結果である。よって、カロテノイド組成物は、本明細書に記載されるどのカロテノイド組成物であってもよい。
【実施例
【0070】
本技術の実施形態を、以下の非限定的な例を通してさらに説明する。
実施例1
【0071】
(3R,3’R,6R)-ルテイン(L)、(3R,3’R)-ゼアキサンチン(Z)、およびメソゼアキサンチン(MZ)は、人間の健康における用途の点で研究と商業的関心の的になっている。これらの物質のバイオアベイラビリティを向上させるための製剤に関する研究が必要とされている。81名の健康なボランティアが関与した6ヶ月間の無作為化プラセボ対照試験では、ヒマワリ油またはオメガ-3油中のL結晶、Z結晶およびMZ結晶と、マイクロミセル前駆体製剤中のLジアセテート、ZジアセテートおよびMZジアセテート(Ld、ZdおよびMZd)の5種類の製剤のバイオアベイラビリティを比較した。ここで、「マイクロミセル前駆体」という用語には、対象の消化管内でフリー体のキサントフィルカロテノイドを含むミセルを形成する製剤の能力が反映されている。ベースラインと6ヶ月間の空腹時血清カロテノイド、黄斑色素、皮膚のカロテノイドスコアを分析した。プラセボと比較して、すべての積極的な介入で血清中のL、Z、MZ濃度が増加した(p<0.001~p=0.008)。ジアセテートマイクロミセル前駆体製剤では、他の積極的な介入と比較して、ZとMZの血清濃度の平均応答が有意に大きかった(p=0.002~0.019)。可溶化したZジアセテートとMZジアセテートを含むマイクロミセル前駆体製剤は、従来のカロテノイド製剤と比較して、これらのカロテノイドのバイオアベイラビリティを向上させる技術の進歩である。
緒言
【0072】
L、ZおよびMZは、ヒトの黄斑に極めて多く沈着するキサントフィルカロテノイド(XC)であり、黄斑色素(MP)として知られている。LとZは食餌だけから摂取される。MZは網膜色素上皮におけるLの内因性変換によって得られるが、食餌にも微量に含まれている場合がある。過去20年にわたって、人間の健康におけるL、Z、MZの役割が、栄養補助用サプリメントを使用して、介入試験によって研究されてきた。報告によれば、これらのカロテノイドが視覚特性や認知機能を高め、非進行性AMDなどの網膜病変の予防薬や治療薬となる可能性があることが確認されている。
【0073】
栄養補助用サプリメントに用いられるLは、マリーゴールドの花(Tagetes erecta L.)から抽出されるのに対し、Zは、この花とコショウ属やナス科トウガラシ属の特定の品種から得られる。MZは、Lのε環をβ環にする二重結合の移動を促進する過程を経て、Lから得られる。いずれの場合も、最終的な精製工程でXCの微結晶を形成し、それをさらに加工して可溶化XCを作る。(図5)。栄養補助食品企業は、これらの微結晶を酸化から保護し、水性マトリックスへの溶解性を向上させ、消化器系でのバイオアベイラビリティを高めるための新たな方法を開発しようとしつづけている。XC微結晶を保護する最も一般的な方法には、食用油への分散やバイオポリマーによるカプセル化がある。バイオアベイラビリティと異なるマトリックスへの溶解性とを高めるために、研究者らは、様々な方法でXCを乳化状態にする。しかしながら、どの方法でも、微結晶を完全に溶解させることはできなかった。最近になって、短い有機酸を用いてXCをエステル化する新たな方法が、環境条件下の温度と圧力で、微結晶を形成することなくXCを可溶化状態に保つとの主張がなされた。このプロセスでは、酢酸またはプロピオン酸でXCをエステル化し、L、Z、MZのジアセテート(それぞれLd、Zd、MZd)を形成する。この反応がなされた後、XCを可溶性のまま保つために、脂質、リン脂質、脂肪酸および乳化剤の存在下で、元の自然のままの花のマトリックス中でXC誘導体を均質化する。消化器系では、この可溶性の状態であれば、界面活性剤として知られる両親媒性化合物の存在下で、脂質分子の球状凝集体であるマイクロミセルにXCが取り込まれやすくなる。この製剤では、過去に臨床試験が行われ、結晶化製剤(フリーL)と比較されている。
【0074】
本実施例は、マイクロミセル前駆体製剤中のLd、ZdおよびMZdのバイオアベイラビリティを、遊離カロテノイドを油中に懸濁した微結晶として含む従来の製剤と比較するために実施したカロテノイド-オメガアベイラビリティ研究(COAST)による知見を示すものである。
材料および方法
【0075】
設計と被験者
【0076】
COASTは、18歳から65歳の健康な参加者81名が関与した、6ヶ月間の二重盲検ブロック無作為化プラセボ対照試験であった。参加者の募集と評価を2017年12月に開始し、2018年12月に終了した。この募集は、ウォーターフォード工科大学(Waterford Institute of Technology)、地元のフィットネスセンター、さらにはアイルランドのウォーターフォードに拠点をおく産業の従業員による地元メディアと広告を通じて行われた。重症または急性疾患の医学的診断を受けている参加者および/またはL、Z、MZまたはオメガ3脂肪酸を含む栄養補助用サプリメントを摂取している参加者は除外した。この試験に登録した参加者は、全員が開始前に書面によるインフォームドコンセントを行った。試験プロトコールには、2017年5月に、ウォーターフォード工科大学(アイルランドのウォーターフォード)およびHSE、南東地域(アイルランドのウォーターフォードにある大学病院ウォーターフォード(University Hospital Waterford))の研究倫理委員会(Research Ethics Committees)による承認を受けた。栄養補助用サプリメントの製造業者であるIndustrial Organica, S.A. de C.V.は、試験の設計、データの収集と分析、原稿の作成に一切関与していない。データの正確さと、試験がプロトコールを遵守していることを、全員が保証する。
【0077】
介入
【0078】
COASTは5群の介入試験であり、参加者を等確率で男女別々に4つの積極的介入群の1つまたはプラセボ群のいずれかに無作為に割り当てた。介入に用いたサプリメントに含まれる栄養成分のラベル表示は、群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセル、群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセル、群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中で2カプセル、群4:Ld(10mg)+MZd(10mg)+Zd(2mg)をマイクロミセル前駆体製剤で1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)であった。なお、研究所で行った群ごとのサプリメントの分析では、カロテノイドの濃度がラベルの表示とわずかに異なることが示された(表1参照)。分析で得られた濃度とラベルに表示された濃度とを比較するために実施した統計解析では、有意な差異は認められなかった。したがって、製剤の用量についてはラベル表示の記載に従うことにした。L、ZおよびMZは、ミセル化用に調製した可溶化溶質中のL、ZおよびMZのジアセテートとして提供した群4以外、いずれもヒマワリ油懸濁液中のフリー体で提供した。群3のL、ZおよびMZを、Epax社(ノルウェーのオーレスン;製品番号:EPAX1050TG)から供与されたDHAおよびEPAに溶解した。ビタミンE(酢酸DL-α-トコフェロール;5g/kg)を保存料として添加した。サプリメントを密閉容器に入れて参加者に提供し、すべての介入群のカプセルの見た目は同一であった。被験者には、介入群に応じて1日1カプセルまたは2カプセルを食事と一緒に摂取するように指示した。サプリメントはIndustrial Organica(メキシコのモンテレイ)から試験用に無償で供与された。
【0079】
【表1】
1 プラスマイナス値は、平均±SDである。値は、1カプセルあたりの総カロテノイド濃度(mg)である。摂取1gあたりのLの血清濃度の変化には、群間の有意差はなかった(p=0.419)。摂取1gあたりのZおよびMZの血清濃度の変化は、群4で大きかった(p<0.001)。P値は、適宜、カイ二乗およびANOVAまたはKruskall-Wallisを基準にした。ポストホック解析のためにボンフェローニ補正を実施した。栄養素の総濃度のラベル表示は、以下のとおりであった。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセル、群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセル、群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中で2カプセル、群4:Ld(10mg)+MZd(10mg)+Zd(2mg)を1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
【0080】
試験の評価
【0081】
人口統計、生活様式、医療および食事の評価。標準化された症例報告書を使用して、ベースラインと補給後6ヶ月の2つの時点における人口統計、生活様式、病歴および身体計測結果を記録した。喫煙については、喫煙状態に応じて、過去に100本より多く吸ったことがない場合は「なし」、過去1年間に100本より多く吸っていたが前月には吸わなかった場合は「以前」、そうでなければ「現在」として記録した。学歴には、高校以下、学士号または大学院のいずれかを記録した。身体検査では、身長と体重を測定し、ボディマス指数(BMI、kg/m)を求めた。標準、過体重および肥満の国際的なカットオフ値を使用した。
【0082】
アウトカム測定。血清濃度および組織濃度の応答としてのL、ZおよびMZのバイオアベイラビリティについての測定結果が、試験の主なアウトカムであった。血清カロテノイド濃度については、血清中の各カロテノイドの総濃度(μmol/L)として分析した。カロテノイドの総濃度は、Lの濃度と、Zの濃度と、MZの濃度とを合計して求めた。L、ZおよびMZの組織濃度は、MPと皮膚のカロテノイドスコアの合成値として測定した。すべての方法を以下に述べる。ベースラインと6ヵ月後の時点で、アウトカムの可変量を記録した。
【0083】
MPの測定。Spectralis治験用MP光学密度(MPOD)モジュール(ドイツのハイデルベルグのHeidelberg Engineering GmbH)を用いて、二波長AFでMPを測定した。技術および画像取得に関する仕様と詳細については、過去に説明がなされている。簡単に述べると、MP測定の前に瞳孔を広げ、患者の詳細をHeidelberg Eye Explorer(HEYEXバージョン1.7.1.0)ソフトウェアに入力した。まず、近赤外反射モードで、アライメント、フォーカス、カメラの感度を最適化した。次に、BAF+GAF(青と緑の同時AF)動画を取得した。一方、HEYEXソフトウェアでは、MP密度マップを作成するために、これらの画像の適切なアライメントと平均化とを保証した。基準とする離心角を、定点からの網膜離心角7°(ここでMPODはゼロと定義)に定めた。MPの測定値は、すでに標準化されているように、MPOVで報告される。
【0084】
皮膚のカロテノイド濃度。ラマン分光技術を使用する非侵襲的機器であるNu Skin Pharmanex S3スキャナーを使用して、皮膚中の総カロテノイド濃度を得た。この技術では、Pharmanex BioPhotonic Scanner装置を使用して、右手の小指の真下にある最大(maximal)手掌皮線と遠位手掌皮線の間の皮膚のカロテノイド濃度を測定することにより、皮膚のカロテノイドスコア(SCS)を生成する。
【0085】
カロテノイドの血清濃度。XC血清分析のために、0ヶ月目、3ヶ月目および6ヶ月目に、絶食(9時間よりも長く一晩絶食)血液試料を採取した。血液試料は、標準的な静脈穿刺技術によって、「Z Serum Sep Clot Activator」の入った9mLの採血管(BD Vacutainer SST血清分離用チューブ)に採取した。採血管の血栓溶解剤(clot activator)を十分に混合した。血液試料を室温で30分間放置して凝固させた後、GruppeGC12遠心機(Desaga Sarstedt)にて725gで10分間遠心処理し、血清を全血から分離した。遠心処理後、血清を耐光性マイクロチューブに移し、バッチ分析を行うときまで約-80℃で保存した。血清のカロテノイド分析は、過去に説明がなされている方法を用いて、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で実施した。使用した検量線、定量下限値および定量上限値(それぞれLLOQおよびULOQ)は、過去に実施されているものと同様である。16の独立したバッチで血清カロテノイド分析を完了したところ、最大日内精度は7.28%(RSDとして測定)、日間精度は3.16%(RSD)であった。
【0086】
本試験で使用したサプリメントのカロテノイド含有量を、既知のプロトコールに沿って分析した。ジアセテートカロテノイドを含む製剤のカロテノイド含有量については、ヘキサン:イソプロパノールの比が99:1(v/v)になるように移動相を調整する必要がある。
【0087】
フォローアップおよびアドヒアランス
【0088】
ベースラインの3ヶ月後の時点と、6ヶ月の時点(端点)に、フォローアップ試験のための訪問が計画された。治療計画に対するアドヒアランスを、各訪問時の錠剤数と3ヶ月の時点での血清分析によって評価した。それぞれの訪問時に、生活習慣や健康状態の変化ならびに有害事象に関する情報を収集した。有害事象の収集は、未検証の質問票によって実施した。
【0089】
統計解析
【0090】
データについては、量的な可変量には平均(±SD)、中央値、最小値、最大値を、質的な可変量には頻度と百分率を、通常の統計を用いて記述した。ベースライン時点での群間差については、量的な可変量には分散分析またはクラスカルウォリス検定を適宜使用して、質的な可変量にはカイ二乗検定を用いて分析した。ベースライン時のBMIに群間で有意差が認められ、ANCOVAを用いてこれをさらにコントロールした。しかしながら、これらのモデルにおけるBMIは、どのアウトカムの可変量にも有意に関連してはいなかったため、後にそれぞれのモデルから削除した。よって、以下に報告する結果はいずれも、アウトカムの可変量の変化を介入だけに関連させた、より単純なモデルに対するものである。
【0091】
主なアウトカムの可変量の変化(カロテノイド血清濃度、MPOV、皮膚カロテノイドスコアそれぞれの変化)を分析するために、一般線形モデルを使用した。これらの変化を、ベースラインおよび6ヶ月からのアウトカムの可変量の差として分析した。ここで、(a)積極的介入群(無関係な治療)はいずれも、プラセボ群と比較して、6ヵ月後の血清濃度および組織濃度の平均応答が増すであろうこと、(b)ジアセテートマイクロミセル前駆体製剤は、他の積極的介入と比較して、平均応答が大きくなるであろうという仮説を立てた。これらの仮説のうち、1つ目はフィットさせた線形モデルから直接調べ、2番目は、両側独立標本T検定に基づく一対の比較によって調べた。多重比較の調整は、いずれも適切ではないと判断した。カロテノイド濃度の血清中の変化と組織中の変化との間の関係を調べるために、ピアソン係数を使用した。統計パッケージIBM SPSSバージョン25(ニューヨーク州アーモンク)を使用し、5%の有意水準を全体に適用した。
結果
【0092】
ベースラインの時点で合計81名の参加者が登録され、6ヶ月目に68名(84%)の参加者が最終評価を完了した。9名(11%)の参加者がフォローアップを受けず、4名(5%)の参加者が試験を中止した。このうち1名は妊娠、2名は軽度の有害事象、1名は一般開業医の依頼による中止であった(図6参照)。6ヶ月間の試験を通して報告された有害事象はいずれも、腹部膨満感、酸逆流、不快感などの軽度の胃腸症状に関連するものであった。積極的な介入とプラセボとの間に統計的な差異は認められなかった(p>0.05)。プラセボ群に割り当てられた1名の参加者は、試験期間中にカロテノイドの補給を報告しており、6ヵ月目の時点で血清中に高濃度のMZが検出されたことから、分析対象外とした。
【0093】
ベースラインデータ
【0094】
参加者の平均(範囲)年齢は44.2歳(25~62歳)であり、50%(n=40)が女性であった。ベースラインの特徴は、BMI(p=0.008)を除いて5つの群で統計的に同等であり、BMIは群2と群5では正常範囲内であったが、群1、群3、群4では高かった(表2参照)。
【0095】
試験栄養素のベースライン血清および組織レベルは、表2に示すように、治療群間でバランスが取れていた。参加者全員、MZ濃度がベースラインで検出されなかった。このことから、MZ補給の除外基準が確認される。
【0096】
【表2】
1 プラスマイナス値は、平均±SDである。ベースラインの時点で、BMI(p=0.014)を除いて、有意な群間差はなかった。P値は、適宜、カイ二乗およびANOVAまたはKruskall-Wallisを基準にした。略語:Lはルテイン、Zはゼアキサンチン、BMIはボディマス指数、yは歳、MPOVは黄斑色素光学密度。介入は、以下のとおりとした。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセル、群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセル、群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中で2カプセル、群4:Ld(10mg)+MZd(10mg)+Zd(2mg)を1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
【0097】
L、Z、MZの血清濃度
【0098】
すべての積極的な群におけるL、ZおよびMZの血清濃度の増加は、群2(p=0.366)を除いて、プラセボと比較して統計的に有意であった(p<0.001からp=0.008)(表3)。0ヶ月目と6ヶ月目のL、Z、MZの血清濃度を示すグラフを、それぞれ図7A図7B図7Cに示す。また、群4(ジアセテートマイクロミセル前駆体製剤)のZおよびMZの血清濃度の増加は、他の3つの積極的な群と比較して有意に大きかった(p=0.002~0.019)。データを表4に示し、群のZとMZの血清濃度を比較した棒グラフを、それぞれ図8Aおよび図8Bに示す。
【0099】
【表3】
1 値は平均±SDである。
Lは(3R,3’R,6R)-ルテイン血清濃度、μmol/L)を示し、Zはゼアキサンチン血清濃度、μmol/L)を示し、MZはメソゼアキサンチン血清濃度、μmol/L);MPOVは黄斑色素光学密度、Skinは皮膚カロテノイドスコアを示す。
2 各介入群とプラセボのベースラインからの変化を比較する群間差については、独立標本t検定を用いて解析した。変化をベースラインからの差として求めた。
介入は、以下のとおりとした。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセル、群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセル、群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中で2カプセル、群4:Ld(10mg)+MZd(10mg)+Zd(2mg)を1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
【0100】
【表4】
1 値は平均値(95%CI)。
略語:Lはルテイン(L血清濃度、μmol/Lを示す)、Zはゼアキサンチン(Z血清濃度、μmol/Lを示す)、MZはメソゼアキサンチン(MZ血清濃度、μmol/Lを示す)、MPOVは黄斑色素光学密度、Skinは皮膚カロテノイドスコアを示す。
群間差は、独立標本t検定を用いて、群4と他の3つの積極的な群との比較により分析した。介入は、以下のとおりとした。群1:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を1カプセル、群2:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)を2カプセル、群3:L(10mg)+MZ(10mg)+Z(2mg)をDHA(430mg)およびEPA(90mg)中で2カプセル、群4:Ld(10mg)+MZd(10mg)+Zd(2mg)を1カプセルまたは群5:プラセボ(ヒマワリ油)。
【0101】
L、Z、MZの組織濃度
【0102】
MPおよびMPOV。全群におけるMPOVの増加は、プラセボと比較して統計的に有意であった(表3参照)。MPOVの経時変化を示すグラフを図9に示す。興味深いことに、総血清カロテノイドの変化とMPOVとの相関は、r=0.408、p=0.001であった(図10Aおよび図10Bを参照のこと)。MPOVの改善を比較すると、4つの積極的介入群間に有意差はなかった。
【0103】
カロテノイド皮膚濃度。皮膚カロテノイド濃度の変化は、血清濃度の総変化量と正の相関があった(r=0.528、p<0.001)(図4)。皮膚カロテノイド濃度の変化は、プラセボと比較して、群1と群4のみ統計的に有意であった(それぞれp=0.024、p=0.012)(表3参照)。また、群4における皮膚カロテノイドスコアの増加は、群2と比較して有意に大きかった(p=0.034)(表4参照)。群1~5における皮膚カロテノイド濃度の経時変化を示すグラフを図11に示す。
考察
【0104】
この多群無作為化臨床試験において、異なる製剤を用いたL、ZおよびMZの組み合わせによる毎日の補給は、プラセボと比較して、これらの栄養素の血清濃度を有意に増加させた。6ヶ月の補給後、Lの血清濃度の中央値は202%、Zの血清濃度の中央値は36%増加した。この用量応答効果は、サプリメントで提供したLとZの比(すなわち、約5:1)と整合している。また、MZの血清濃度は、ベースラインから有意に増加した。血清でのこれらの増加率は、類似のカロテノイド製剤と量を使用した以前の試験と同等であった。例えば、LはAREDS 2試験で200%、CREST AMD試験で304%増加した。
【0105】
ジアセテートマイクロミセル前駆体製剤が摂取されたカロテノイドの吸収に与える影響は、注目に値する。本試験では、ZdおよびMZd(群4、事前に可溶化したアセテートエステル化XC)に対する血清の応答が、遊離カロテノイドを結晶として含む製剤と比較して著しく大きかった。しかしながら、Ldに対する血清応答が遊離Lの場合と同程度にとどまったことは印象的であった。これは、以前の臨床試験で、Ldに対する血清応答が遊離Lを補給した群と比較してわずかに高く、統計的な差異はないと報告されたことと一致している。
【0106】
補給の6ヶ月後、組織における平均MPOVは、プラセボと比較して、すべての介入について平均33%有意に増加したが、積極的な介入間の経時的な改善には、(すべての介入においてMPOVが改善したため)有意差はなかった(表3参照)。しかしながら、群2、群3、群4でMPOVの最大の増加が見られ、群1のMPOVの増加と比較するとほぼ2倍であった点に留意すべきである。それにもかかわらず、製剤中のカロテノイド量が最も少ない群4(表1参照)が最大の応答を示した(表3参照)。MPOVの応答と機能的利点の観点から、これらの介入間の長期的な差異を評価するには、より長期間にわたる補給が必要である。皮膚カロテノイドスコアに関しては、プラセボと比較して統計的に有意な改善は、群2と群4だけで見られた。しかしながら、群4のほうが群2より有意に優れていた(表4参照)。この知見は、マイクロミセル前駆体製剤でZdとMZdのバイオアベイラビリティが高まったことに起因する可能性が高い。
【0107】
上述したように、これらの結果は、Ldを補給した対象の血清中のLが、遊離Lの場合と比較して大きいが、有意ではない増加を示した以前の報告と一致する。MPODの改善という点で、遊離Lの補給と比較した場合のLdの有意で優れた応答が報告されている。この試験では、有意な増加を推進したのが高齢の対象であったことが示唆されている。なお、本試験の対象の平均年齢は44歳であった。興味深いことに、ジアセテートカロテノイドのバイオアベイラビリティを研究するための雌鶏での試験では、本試験と同様の結果になった。簡単に言うと、ZdおよびMZdは、これらのカロテノイドのフリー体を補給する場合と比較して、卵黄中のZおよびMZの沈着を増加させる能力が大きかった。上記で提供したように、Ldによって達成された増加は、遊離Lで観察された増加と同様であった。
【0108】
この試験において、XC濃度の経時的な増加は、すべての群で血清および組織において有意に相関した(それぞれ、r=0.408、p=0.001およびr=0.528、p<0.001)。なお、過去の介入試験では、血清カロテノイドの変化はMPの変化との相関が低く、血液/網膜の非奏功者にも見られたため、これは重要な結果である。したがって、今回の知見は、血中のカロテノイドの存在量が多いほど、これらの栄養素が組織中に発生しやすいことを意味するという直感的な考えを支持し、一層確実な結果を追求するために、これらのパラメータを測定することの難しさを克服し得ることを示唆している。
【0109】
群4で使用した製剤は、アセテートエステル化XCと、微結晶を形成することなくこれらのカロテノイド誘導体をカプセル中で可溶化した状態に保つのを助ける一連の脂質および界面活性剤とを含有していた。これらの事前に可溶化したXCは、腸管粘膜での吸収用に消化器系でミセル形成の準備が整うことになる。一方、遊離カロテノイドは結晶を形成し、ミセルに取り込む前に消化器系で可溶化する必要がある。事前に可溶化したアセテートエステル化XCのこの利点は、これらのカロテノイドの微結晶体と比較して、ZdおよびMZdの血清ZおよびMZレベルの増加効率が高いことを説明できるだろう。したがって、微結晶に対するアセテートエステル化XCの理論的優位性が、ZdとMZdでは評価されるが、Ldでは評価されないのは、驚くべきことである。Ldが吸収を促進するのを複数の機序が妨げている可能性がある。例えば、LはZやMZのβ環とは配向が異なるε環を含み、これが脂質膜でこのXCが占める位置に影響しているように思われる。Ldではε環にアセテート基が付加されているため、できたばかりのミセルではZdやMZdより位置が悪く、腸管細胞への取り込みのためのCELによるプロセッシングやその後のスカベンジャー受容体クラスBタイプ1(SRB-1)との接触が制限されている可能性がある。一方、Ldの異なる挙動を説明するために、Lの微結晶が消化管内で十分に処理され、ミセル形成のために可溶性の遊離Lが効率的に得られるという別の仮説が提示された。このように、Ldは、ZdやMZdで見られたようなL微結晶に対する優位性を持たないことになる。この仮説を検証するためには、これらのキサントフィルの消化器系における結晶体の物理化学的挙動を理解する必要があるだろう。
【0110】
この試験では、ミセル化用に調製した可溶化溶質中のジアセテート製剤の挙動を、結晶性製剤と比較して、黄斑部のカロテノイドで説明する。この試験は、学際的なアプローチで評価された栄養および栄養補助用サプリメントの分野に質の高いエビデンスを提供する二重盲検プラセボ対照試験であった。本発明者らによる知見は、XCのバイオアベイラビリティに追加のエビデンスを提供するものである。ZdとMZdに対して応答が改善されたことは、ZとMZがLより優先的にヒトの網膜に蓄積されることを示唆している、時宜を得た最近の研究である。しかしながら、Lを含む3種類のカロテノイドは、まとめてMPの形成に寄与し、これらのカロテノイドの重要性が認められている。
【0111】
本試験の一つの限界は、複数の介入を比較するために、各群のサンプルサイズを小さくしなければならなかったことである。しかしながら、多群RCT設計を用いることで、サンプルの制約を克服することができた。他の試験では、より長期間にわたる血清と組織の経時変化を報告しており、これらの報告は、MPOVと機能的アウトカムを最大限に改善するためには、カロテノイドの持続的な補給が必要であることを示唆している。より長期の研究であれば、MPOVにより大きな改善が見られる可能性が高いにもかかわらず、今回の6ヶ月間の介入で、プラセボと比較してMPOV(全群)および皮膚カロテノイドスコア(群1および群4)に有意な改善が生じている。このような臨床試験で直面するもう一つの課題は、コンプライアンスである。錠剤を数えることでRCTガイドラインを遵守したが、追加のコンプライアンスマーカーとして、3ヶ月の時点で血清中のXC濃度を追加で測定した。最後に、本試験の参加者は、既知の疾患のない健康なアイルランド人の成人であった。このため、同じ生物学的機序が作用していると推測されるものの、他の民族、疾患または小児において同様の結果が得られるか否かは不明である。
結論
【0112】
結論として、マイクロミセル前駆体製剤中のZジアセテートおよびMZジアセテートは、ミセル化および吸収効率の改善による可能性が最も高い、バイオアベイラビリティの増加を示した。この製剤は、従来のカロテノイドサプリメントと比較して、ZおよびMZのバイオアベイラビリティを高める技術の進歩である。
実施例2
【0113】
現在の技術によるメソゼアキサンチンジアセテートを含むミセルフリー組成物、結晶性(3R,3’R)-ゼアキサンチンを含む比較組成物およびプラセボ(ヒマワリ油)を提供した。これらの組成物を、錠剤として対象に投与する。
【0114】
結果を図12に示す。ミセルフリー組成物は、6ヶ月後、プラセボおよび比較結晶性組成物より高いレベルで生物学的に利用可能な状態を維持していることが分かる。
【0115】
(3R,3’R,6R)-ルテインジアセテートを含むミセルフリー組成物、結晶性(3R,3’R,6R)-ルテインを含む比較組成物およびプラセボ(ヒマワリ油)も提供する。これらの組成物を、錠剤として対象に投与する。
【0116】
結果を図13に示す。ミセルフリー組成物と比較結晶実施例のどちらも、6ヶ月後に、プラセボより高いレベルで生物学的に利用可能な状態を維持していることが分かる。しかしながら、ミセルフリー組成物および比較例によって提供される(3R,3’R,6R)-ルテインのレベルは、似たようなものである。
【0117】
この実施例は、予想外かつ驚くべきことに、現在の技術によるメソゼアキサンチンジアセテートを含むミセルを含まない組成物のほうが、メソゼアキサンチンを含む結晶性組成物よりも多く生物学的に利用可能であることを実証している。
【0118】
上記の実施形態の説明は、例示および説明の目的で提供されている。この説明は、網羅的であることや、本開示を限定することを意図したものではない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は、一般に、その特定の実施形態に限定されないが、該当する場合は入れ替えが可能であり、具体的に図示または説明されていなくても、選択された実施形態で使用することが可能である。また、同じものを多くの方法で変更することができる。そのような変形例は、本開示からの逸脱とみなされることはなく、そのような改変はいずれも本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
【国際調査報告】