(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ミトコンドリア複合体I欠損症に関連するミトコンドリア疾患又は機能障害の処置のためのアルベリン又はその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20230804BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230804BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230804BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230804BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230804BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230804BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230804BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230804BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230804BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230804BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230804BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230804BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P21/00
A61P9/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P3/10
A61P37/06
A61P37/02
A61P25/18
A61P1/00
A61P35/00
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K9/20
A61P9/10 101
A61P3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504834
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2021070819
(87)【国際公開番号】W WO2022018297
(87)【国際公開日】2022-01-27
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517276848
【氏名又は名称】アソシエーション フランセーズ コントル レス ミオパシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】513324723
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ダンジェ
(71)【出願人】
【識別番号】521549419
【氏名又は名称】ソントル ホスピタリエ ユニヴェルシテール ダンジェ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE D’ANGERS
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・プロカッチオ
(72)【発明者】
【氏名】キャロル・セーレム
(72)【発明者】
【氏名】アニエス・デラホッデ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリー・ルノー
(72)【発明者】
【氏名】デボラ・トリブイヤール-タンヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・アズレ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC09
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4C076CC16
4C076CC21
4C076CC27
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4C084AA19
4C084MA35
4C084MA52
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4C084ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA09
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA16
4C206ZA18
4C206ZA22
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4C206ZA66
4C206ZA94
4C206ZB07
4C206ZB08
4C206ZB26
4C206ZB35
4C206ZC02
4C206ZC21
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患、特にミトコンドリア複合体I欠損症に関連する疾患を処置するためのアルベリン又はその誘導体のうちの1つの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア機能不全に関連する疾患の処置における使用のためのアルベリン又はその誘導体のうちの1つを含む医薬組成物。
【請求項2】
組成物が、クエン酸アルベリン又は4-ヒドロキシアルベリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
疾患がミトコンドリア呼吸鎖疾患であり、有利にはミトコンドリア複合体I欠損症と関連する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
疾患が遺伝子疾患である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
遺伝子疾患が、以下の遺伝子:MTND1 (又はND1)、MTND2 (又はND2)、MTND3 (又はND3)、MTND4 (又はND4)、MTND5 (又はND5)、MTND6 (又はND6)、MTND4L (又はND4L)、NDUFA1、NDUFA2、NDUFA3、NDUFA4、NDUFA5、NDUFA6、NDUFA7、NDUFA8、NDUFA9、NDUFA10、NDUFA11、NDUFA12、NDUFA13、NDUFAB1、NDUFB1、NDUFB2、NDUFB3、NDUFB4、NDUFB5、NDUFB6、NDUFB7、NDUFB8、NDUFB9、NDUFB10、NDUFB11、NDUFC1、NDUFC2、NDUFS1、NDUFS2、NDUFS3、NDUFS4、NDUFS5、NDUFS6、NDUFS7、NDUFS8、NDUFV1、NDUFV2、NDUFV3、NDUFAF1、NDUFAF2、NDUFAF3、NDUFAF4、NDUFAF5、NDUFAF6、NDUFAF7、NDUFAF8、NUBPL、ACAD9、TMEM126B、FOXRED1、ECSIT、AIF、TIMMDC1、MTTL1、ATP6、TAZ、SURF1、POLG、MPV17、OPA1、COA6、及びBCS1Lのうちの少なくとも1つにおける少なくとも1つの遺伝子欠陥を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
遺伝子疾患が、ND3、ND6、NDUFV1、NDUSF8、ATP6、TAZ、SURF1又はMPV17における少なくとも1つの遺伝子欠陥を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
疾患が、MELAS症候群、母性遺伝性ミオパシー及び心筋ミオパシー、NARP症候群、リー症候群、バース症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4A(Alpers型)、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4B(MNGIE型)、ミトコンドリア劣性運動失調症候群、感覚性運動失調性神経障害及び眼筋麻痺、てんかんを伴う脊髄小脳性運動失調、進行性外眼筋麻痺、ミトコンドリアDNA枯渇症候群-6、ナバホ神経障害、ベール症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群14、シトクロム cオキシダーゼ欠損症(COA6変異)による乳児心臓脳ミオパシー、ミトコンドリア複合体III欠損症核1型、GRACILE症候群、レーベル遺伝性視神経症、及びビョルンスタッド症候群からなる群において選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
疾患が、NARP症候群、バース症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群、リー症候群、レーベル遺伝性視神経症及びMELAS症候群からなる群において選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、フリードライヒ運動失調症、心血管疾患、例えば、アテローム性動脈硬化症、糖尿病及び代謝症候群、自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、及び1型糖尿病、神経行動及び精神疾患、例えば、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、並びに双極性及び気分障害、胃腸障害、疲労病、例えば、慢性疲労症候群及び湾岸戦争病、筋骨格疾患、例えば、線維筋痛及び骨格筋肥大/萎縮、筋ジストロフィー、がん、並びに慢性感染症からなる群において選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、同じ疾患に対する他の処置と関連している、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物が、同じ疾患を処置するための別の化合物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が経口投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が毎日投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物が固体形態であり、有利には錠剤の形態である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
組成物が60mgアルベリン又はその誘導体のうちの1つを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア疾患又は機能障害、特にミトコンドリア複合体I欠損症に関連するものを処置するための新しい薬理学的ツールを提供する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリア疾患は、生体が正常に機能するのに十分なエネルギーをミトコンドリアが生成することができない場合に起こる、慢性の、長期の、ほとんどが遺伝子による、しばしば遺伝性の疾患である。ミトコンドリア疾患は出生時に存在することもあるが、どの年齢でも起こり得る。4300人に1人がミトコンドリア疾患を有すると推定されている(Gormanら、2015)。
【0003】
ミトコンドリア疾患は、脳、神経、筋肉、腎臓、心臓、肝臓、眼、耳又は膵臓の細胞等の、生体のほとんどすべての部分に影響を及ぼす可能性がある。ミトコンドリア疾患の症状は、生体のどの細胞が影響されているかに依存する。患者の症状は、軽度から重度まで、1つ以上の臓器に及ぶことがあり、どの年齢でも起こりうる。ミトコンドリア疾患の症状には以下のものが含まれ得る:
・成長不良
・筋力低下、筋肉痛、筋緊張低下、運動不耐性
・視覚及び/又は聴覚の問題
・学習障害、発達遅滞、精神遅滞
・自閉症、自閉症様の特徴
・心臓、心機能障害、不整脈又は伝導欠陥
・肝疾患又は腎疾患
・胃腸障害、嚥下困難、下痢又は便秘、原因不明の嘔吐、痙攣、逆流
・糖尿病
・感染リスクの増加
・神経学的問題、発作、片頭痛、脳卒中
・運動障害
・甲状腺及び/又は副腎の機能障害
・呼吸(息をすること)の問題
・乳酸アシドーシス(乳酸の蓄積)
・認知症。
【0004】
ミトコンドリア機能不全は、ミトコンドリアが正常に機能しない場合にも起こり、おそらく別の病気又は状態が原因であり得る。多くの状態は、二次性ミトコンドリア機能不全を引き起こし、アルツハイマー病又はパーキンソン病、筋ジストロフィー、ルー・ゲーリック病、糖尿病、がん等の他の疾患に影響を与え得る。二次性ミトコンドリア機能不全の個体は、原発性の遺伝子性ミトコンドリア疾患を有していないが、同様の症状を有する。加えて、一部の医薬はミトコンドリアを傷つける場合がある。
【0005】
ミトコンドリア複合体I欠損症は、ミトコンドリア疾患の30%を超えて見られる最も一般的な欠陥である。これらの中で、複合体I欠損症に関連する最も頻度の高い2つの臨床表現型は、生命を脅かすリー症候群、又はレーベル遺伝性視神経症(LHON)等のより軽度の表現型である。MELAS症候群はまた、ミトコンドリアゲノムにおける変異に起因する一般的な障害と考えられており、ミトコンドリア複合体I活性の重度の減少と関連している。
【0006】
複合体Iは少なくとも44個のサブユニットで構成され、そのうち7個、すなわち、ND1~6とND4Lはミトコンドリア遺伝子にコードされているが、他は核遺伝子にコードされている。結果として、遺伝性複合体I欠損症に関連する臨床的及び分子的特徴はかなり多様である。これらの複合体Iサブユニットのうち、NDUFV1遺伝子を標的とする変異が、重度の神経学的表現型に関与することが示されている(Schuelkeら、1999)。NDUFS8サブユニットに影響を及ぼす変異は、リー症候群(Procaccioら、2004)と関連しており、ミトコンドリアDNAにコードされるND3サブユニットを標的とする変異はリー症候群又はLHON(Sarziら、2007; Wangら、2009)で報告された。更に、ミトコンドリアDNAにコードされるND6サブユニットに影響する変異がLHONで報告された(Johnら、1992)。
【0007】
加えて、パーキンソン病等の加齢に関係する疾患を伴う二次性ミトコンドリア機能不全において、複合体I欠損症が同定されている。
【0008】
ミトコンドリア疾患の大部分が遺伝的起源であるとしても、遺伝子治療は、上記疾患の多様性及び複雑性のために行うことが困難であるように考えられる。
【0009】
現在の処置の目的は、症状を改善し、疾患又は機能不全の進行を遅らせることであり、例えば、以下の推奨事項がある:
・ビタミン療法の使用
・省エネルギー
・ペース活動
・周囲温度の維持
・病気にさらされないようにすること
・十分な栄養と水分補給を確保すること。
【0010】
しかしながら、この種の機能不全又は疾患を処置するための新しい治療薬理学的アプローチを見出す必要性は依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences
【非特許文献2】「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版 (Sambrook、2012)
【非特許文献3】「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984)
【非特許文献4】「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010)
【非特許文献5】「Methods in Enzymology」、「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997)
【非特許文献6】「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987)
【非特許文献7】「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002)
【非特許文献8】「Polymerase Chain Reaction/ Principles, Applications and Troubleshooting」(Babar、2011)
【非特許文献9】「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、機能性胃腸障害に使用される平滑筋弛緩剤として主に公知である薬理学的化合物であるアルベリン(ALV)が、ミトコンドリアの機能障害又は疾患、特に複合体I欠損症に関連する欠陥を処置するための有力な候補であることを示した。本出願は、低毒性を示しながら、広範囲のミトコンドリア疾患に効果的であることを明らかにする。
【0013】
定義
以下の定義は、本発明の文脈において一般的に使用される意味を表しており、別の定義が明示的に記載されていない限り、考慮されるべきである。
【0014】
本発明の骨組みにおいて、冠詞の「a」及び「an」は、物品の文法的対象物の1つ又は複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素」とは、少なくとも1つの要素、すなわち1つ以上の要素を意味する。
【0015】
量、持続時間等の測定可能な値を参照する場合に使用するとき、用語「ほぼ」、「約」又は「およそ」は、指定値から±20%又は±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、更により好ましくは±0.1%の変動を包含するものとして理解されるべきである。
【0016】
区間/範囲:この開示を通じて、本発明の種々の態様を区間値(範囲フォーマット)の形で提示することができる。区間の形での値の記載は、単に便宜上簡潔なものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定と解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、その範囲内の全ての可能なサブ範囲及び個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6等の範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等のサブ範囲、並びに、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6等の範囲内の個々の数値を具体的に開示されているとみなすべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0017】
「単離された」とは、自然環境又は状態から改変又は除去されたことを意味する。例えば、単離された核酸又はペプチドは、例えば、通常、植物又は生きている動物において見出される天然環境から抽出された核酸又はペプチドである。例えば、生きている動物において天然に存在する核酸又はペプチドは、本発明の意味において単離された核酸又はペプチドではなく、一方、天然環境中に存在する他の成分から部分的又は完全に分離された同一の核酸又はペプチドは、本発明の意味においてそれ自体「単離された」ものである。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、又は、例えば、宿主細胞等の非天然環境中に存在することができる。
【0018】
用語「異常」は、生物、組織、細胞又はそれらの成分の文脈において使用される場合、「正常」(予想される)それぞれの特徴を示すそれらの生物、組織、細胞又はそれらの成分からの少なくとも1つの観察可能な又は検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、日時等)が異なるそれらの生物、組織、細胞又はそれらの成分を指す。特徴は正常であるか、又は1つの細胞型若しくは組織型に対して予測されるものであり、異なる細胞型又は組織型に対して異常である可能性がある。
【0019】
用語「患者」、「対象」、「個体」等は、本明細書において互換的に使用され、本明細書に記載される方法に従い、インビトロであるか又はインサイチュであるかを問わず、任意の動物、又はその細胞を指す。ある種の非限定的な実施形態では、患者、対象又は個体は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。また、マウス、ラット、ブタ、イヌ、又はマカクザル等の非ヒト霊長類(NHP)であり得る。
【0020】
本発明の意味において、「疾患」又は「病理学」とは、そのホメオスタシスが悪影響を受け、疾患が処置されなければ悪化し続ける動物の健康状態である。逆に、本発明の意味において、「障害」又は「機能不全」とは、動物がホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康状態が、障害がない場合よりも不利である健康状態である。治療せずに放置しても、傷害が必ずしも経時的に動物の健康状態の悪化につながるとは限らない。
【0021】
疾患又は障害の症状の重症度、このような症状が対象によって経験される頻度、又はこれらの両方が減少する場合、疾患若しくは障害は「緩和」(「減少」)又は「向上」(「改善」)される。これはまた、疾患の進行の消失、すなわち疾患又は障害の進行の停止も含まれる。疾患又は障害の症状の重症度、このような症状が患者によって経験される頻度、又は両方が排除される場合、疾患又は障害は「治癒」(「回復」)する。
【0022】
本発明の文脈において、「治療的」処置とは、これらの症状を減少又は除去する目的で、病理学の症状(徴候)を示す対象に施される処置である。本明細書で使用される場合、「疾患又は障害の処置」とは、対象が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの徴候若しくは症状の頻度又は重症度を低減することを意味する。疾患の発生、拡大又は悪化を予防するために施される場合、特に、対象が疾患の症状を有していない、又はまだ有していない、及び/又は疾患が診断されていない場合、処置は予防的であると言われる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「疾患又は障害を処置する」とは、対象が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの徴候若しくは症状の頻度又は重症度を減少させることを意味する。疾患及び障害は、本明細書において、処置の文脈において互換的に使用される。
【0024】
本発明の意味において、化合物の「有効な量」又は「有効量」は、化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分である化合物の量である。「治療的に有効な量」又は「治療有効量」という表現は、この疾患又は障害の症状を緩和することを含む、疾患又は障害を予防又は処置する(言い換えれば、発症を遅延又は予防し、進行を予防し、阻害し、低下させ、又は回復させる)のに十分又は有効な量を指す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患を処置するためのアルベリン(ALV)又はその誘導体のうちの1つ、例えば、アルベリン分解経路における最初の代謝産物である4-ヒドロキシアルベリンの使用に関する。
【0026】
より具体的には、第1の態様によれば、したがって、本発明は、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患の処置における使用のための少なくともアルベリン(ALV)又はその誘導体のうちの1つ、例えば、4-ヒドロキシアルベリンを含む医薬組成物に関する。
【0027】
換言すれば、アルベリン(ALV)又はその誘導体のうちの1つ、例えば、4-ヒドロキシアルベリンを含む組成物を使用して、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患の処置を目的とする医薬を調製する。
【0028】
したがって、本発明は、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患を処置する方法に関し、それを必要とする対象に、有効な投与量で、アルベリン(ALV)又はその誘導体のうちの1つ、例えば、4-ヒドロキシアルベリンを含む組成物を投与することを含む。
【0029】
アルベリン(ALVとして知られる)は、N-エチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン又はスパスマベリン又はジプロピリン又はセストロン又はフェンプロパミン又はアルベリナ又はN-エチル-3,3'-ジフェニルジプロピルアミン又はアルベリヌム又はフェノプロパミン又はプロフェニルとも呼ばれ、窒素に結合した1つのエチル基と2つの3-フェニルプロパ-1-イル基を有する第三級アミンである。CAS番号は150-59-4であり、以下の式である:
【0030】
【0031】
それは一般的に、例えば、アルコール又はクロロホルム中で高い溶解度を有する白色粉末の形態である。
【0032】
アルベリンは、機能性胃腸運動障害の処置を補助する平滑筋弛緩薬として使用される薬物である。例えば、60mgを含有するカプセルに対応する商品名DOLOSPASMYL又はMETEOSPASMYLで販売されている。アルベリンはクエン酸塩の形態であり、シメチコンとともに製剤化される。その文脈で、1日推奨用量は2又は3カプセル、すなわち120又は180mgである。
【0033】
また、特に実施例において報告されるような、例えばミトコンドリア複合体I活性又はミトコンドリア呼吸において、同じ生物学的活性を有するアルベリンの誘導体も本発明に包含される。
【0034】
用語「アルベリン誘導体」は、医薬組成物を調製するためのエステル及び薬学的に許容される塩と同様に、誘導体及び代謝物を包含する。誘導体は、後者の変換後に別の化合物(典型的には類似の化学構造を有する前駆体)から得られる化合物である。誘導体は、1つ以上の原子又は官能基と異なることができる。代謝物とは、中間的に安定な化合物、又は代謝による最初の分子の生化学的変換に起因する化合物である。
【0035】
本発明によれば、「アルベリン誘導体」とは、特に、フェニル核上のモノ又はポリヒドロキシル化誘導体、及び脂肪族鎖上のモノ若しくはポリヒドロキシル化又はモノ若しくはポリカルボキシル化環を意味する。
【0036】
用語「薬学的に許容される塩」とは、アルベリンの付加塩を意味し、それ自体公知である方法に従って、この化合物を無機酸又は有機酸と反応させることによって得ることができる。この目的に使用することができる酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、4-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、シュウ酸、コハク酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、アスパラギン酸、桂皮酸、乳酸、グルタミン酸がある。N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルタミン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、安息香酸、ニコチン酸及び酢酸、クエン酸及びアルベリン酒石酸は、医薬鎮痙剤に広く使用されている。
【0037】
ヒドロキシ官能基上のエステルには、1~6個の炭素原子を有するカルボン酸エステルを挙げることができる。
【0038】
このような誘導体の例は、以下が含まれる:
【0039】
以下の式のクエン酸アルベリン(CAS番号: 5560-59-8):
【0040】
【0041】
以下の式のアルベリン-d5クエン酸塩(CAS番号: 1215327-00-6):
【0042】
【0043】
以下の式の4-ヒドロキシアルベリン(又はパラヒドロキシアルベリン; CAS番号: 142047-94-7)又は4-ヒドロキシアルベリンHCl(塩酸塩):
【0044】
【0045】
以下の式の4-ヒドロキシアルベリン-d5(CAS番号: 1216415-67-6):
【0046】
【0047】
以下の式の4-ヒドロキシアルベリングルクロニド:
【0048】
【0049】
以下の式のN-デスエチルアルベリンHCl(CAS番号: 93948-20-0):
【0050】
【0051】
特に興味深いのは、クエン酸アルベリン及び4-ヒドロキシアルベリンである。
【0052】
アルベリンを含む上記化合物は、それらの安定性、それらの生物学的利用能、及び/又は標的組織、特にミトコンドリアに到達するそれらの能力を増加させるために更に改変することができる。
【0053】
当業者に公知であるように、上記化合物、特にアルベリンは、裸の形態(遊離)の組成物に存在するか、又はリポソーム等の、安定性、標的化及び/若しくは生物活用性(biodisponibility)を高める送達システムに含有されるか、又はヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、生体接着性マイクロスフェア、ベクター等の担体に組み込まれるか、又はカチオン性ペプチドと組み合わせることができる。
【0054】
本発明はまた、少なくとも上記で定義される化合物を活性成分として含有する医薬組成物、並びに医薬製品又は医薬としてのこの化合物又は組成物の使用に関する。
【0055】
特定の実施形態によれば、特にクエン酸アルベリンに関連して、本発明の医薬組成物はシメチコンを含み得る。別の実施形態によれば、このような組成物はシメチコンがない。
【0056】
次に、本発明は、本発明による化合物を含む医薬組成物を提供する。有利には、このような組成物は、治療有効量の上記化合物、及び薬学的に許容される担体を含む。具体的な実施形態では、用語「薬学的に許容される」とは、動物及びヒトにおける使用のために、連邦若しくは州政府の規制機関により承認されるか、又は米国若しくは欧州薬局方又は他に一般的に認知されている薬局方に列挙されていることを意味する。用語「担体」とは、治療薬が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。このような医薬担体は、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の、石油、動物、植物又は合成起源のものを含む水及び油等の無菌液体であり得る。生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液はまた、液体担体として、特に注射用溶液に用いることができる。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0057】
所望であれば、組成物はまた、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、徐放性製剤等の形態をとることができる。適切な医薬担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、治療有効量の治療薬、好ましくは精製された形態を、適切な量の担体とともに含有し、対象に適切に投与するための形態を提供する。
【0058】
好ましい実施形態では、組成物は、ヒトへの、例えば経口投与のために適合された医薬組成物として、通常の手順に従って製剤化される。典型的には、経口投与用の組成物は、カプセル剤又は錠剤の形態であり、おそらくスコア付けの錠剤又は発泡性錠剤の形態であり、更に、ヒトにおける固形投与形態及び投与に適した賦形剤を含有する。一例として、入手可能な市販形態のアルベリンは、シメチコン、ゼラチン、グリセロール及び二酸化チタンを更に含有するクエン酸アルベリンのカプセル剤である。
【0059】
或いは、組成物は液体形態であり得、有利には水性組成物であり得る。任意の他の適切な溶媒を使用することができる。
【0060】
疾患の処置に有効な本発明の治療剤、すなわち上記で開示した化合物の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、インビボ及び/又はインビトロアッセイは、最適な投与量範囲を予測するのに役立つように、必要に応じて使用され得る。製剤に使用される正確な投与量はまた、投与経路、体重及び疾患の重症度に依存し、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定されるべきである。
【0061】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、固体形態であり、有利にはカプセル又は錠剤であり、より有利には活性化合物60mg又はそれ以下を含む。好ましくは、組成物は、50mg以下、40mg以下、30mg以下、20mg以下、又は10mg以下又は5mg以下の量を含む。
【0062】
別の実施形態によれば、本発明の組成物は液体形態であり、有利には10μM未満の活性化合物、又は3μM未満、有利には1μM以下、より有利には100nM~300nMを含む。
【0063】
適切な投与は、疾患に応じて、治療有効量の治療製品を標的組織に送達することを可能にすべきである。
【0064】
アルベリン又はその誘導体は、このタイプの活性原理について公知である種々の経路の1つによって薬学的に許容される形態で投与することができる。
【0065】
利用可能な投与経路は、局所(局部)、直腸、経腸(系全体の作用であるが、胃腸(GI)管を介して送達されるもの)、鼻腔内又は非経口(全身作用であるが、GI管以外の経路で送達されるもの)である。ミトコンドリア疾患の特定の場合において、本明細書に開示される組成物の好ましい投与経路は、一般に、経口、舌下、口腔内投与、好ましくは経口投与を含む経腸投与である。
【0066】
他の実施形態によれば、それは、非経口投与、特に筋内(すなわち、筋肉内へ)又は全身投与(すなわち、循環系へ)であり得る。この文脈において、用語「注射」(又は「潅流」又は「注入」)は、血管内、特に静脈内(IV)、腹腔内(IP)及び筋内(IM)投与を包含する。注射は、通常、注射器又はカテーテルを用いて行われる。
【0067】
一実施形態によれば、組成物は、経口、筋内、腹腔内、皮下、局所、局部又は血管内に投与される。
【0068】
本発明の医薬組成物は、着色、香り及び安定化のための種々のマスキング物質を含有するエリキシル剤及び懸濁剤等の、錠剤、カプセル剤及び液体調製物を含む通常の経口投与形態のいずれかであり得る。
【0069】
好ましい実施形態によれば、組成物は経口投与用である。有利には、組成物は、経口で、すなわち、口を介して投与される。
【0070】
好ましくは、本発明による組成物は、経口に、特にカプセル剤又は錠剤の形態で投与される。
【0071】
本発明による経口投与形態、特にカプセル剤を製造するために、活性物質を、澱粉、炭酸カルシウム、ラクトース、スクロース及びリン酸二カルシウム等の種々の従来の材料と混合して、カプセル化のプロセスを容易にすることができる。添加剤としてのステアリン酸マグネシウムは、必要であれば有用な潤滑機能を提供する。
【0072】
ある種の場合には、制御された放出、特に公知の生薬形態による持続放出を有する形態を提供することが有利である。
【0073】
同様に、本発明による組成物は、注射可能な経路によって投与することができる医薬組成物を調製するためである。
【0074】
本発明による医薬組成物は、静脈内投与のために、滅菌水、滅菌有機溶媒又はこれら2つの液体の混合物等の、薬学的に許容される滅菌注射可能な液体に溶解又は懸濁することができる。
【0075】
他の投与経路には、限定されないが、皮下インプラント、並びに経口、舌下、経皮、局所、鼻腔内又は直腸投与が含まれ得る。また、生分解性及び非生分解性送達システムを使用することができる。
【0076】
すでに述べたように、本発明による組成物は、経口投与に適した固形投与形態であることが好ましく、有利には、1つ以上のカプセル剤又は錠剤の形態である。したがって、主食の前又はその最中に少量の水で摂取することができる。
【0077】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、毎日、例えば、1日1回、2回、又は1日3回投与される。この処置は数週間、数カ月、数年、又は更には終生継続させることができる。
【0078】
一般的に、治療剤、即ち、アルベリン又はその誘導体のうちの1つの投薬量は、対象の年齢、体重、身長、性別、一般的な医学的状態及び過去の病歴等の因子に依存して変化する。典型的には、患者に、毒性がなく効率的である治療剤の個々の用量を提供することが望ましい。
【0079】
本発明の特定の実施形態によれば、組成物の投薬量、有利には、ヒトが経口摂取する1日投薬量は、10mg/kg又は9、8、7、6、5、4、3mg/kgを下回るか若しくはそれに等しく、又は2.5、2、1.5若しくは1mg/kgを下回るか若しくはそれに等しく、又は0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3若しくは0.1mg/kgを下回るか若しくはそれに等しい。
【0080】
既に述べたように、患者は有利にはヒト、特に新生児、幼児、小児、青年又は成人である。しかしながら、本発明による治療ツールは、他の動物、特にマウス、ブタ、イヌ又はマカクザルの処置に適用され、有用であり得る。
【0081】
既に述べたように、本発明は、ミトコンドリア疾患全般、すなわち、ミトコンドリア機能不全に関連するか、又はミトコンドリア機能不全によって引き起こされる疾患の処置に関する。本出願の骨組みにおいて、「ミトコンドリア機能不全に関連する疾患」という用語は、これらのすべての状況を包含するために使用される。
【0082】
ミトコンドリア呼吸鎖におけるアルベリン又はその誘導体のうちの1つの正の効果を示す例に関連して、特に興味深い疾患はミトコンドリア呼吸鎖疾患である。
【0083】
いくつかのミトコンドリア疾患は、先行技術において十分に立証されている。
【0084】
NARP(神経障害、運動失調、及び網膜色素変性)症候群は、ATPアーゼのaサブユニット(OXPHOS複合体V)をコードするミトコンドリアにコードされたATP6遺伝子の種々の変異によって引き起こされる。変異は、しばしば同一細胞内でヘテロプラスミック(変異体とwtミトコンドリアDNA、mtDNAの両方の共存)である。変異のタイプと変異mtDNAのパーセンテージ(ヘテロプラスミーの程度)の両方に依存して、臨床転帰は多かれ少なかれ重篤である。ATP6m.8993T>C/G変異はNARP患者で最も頻度が高く、重症型のNARP症候群をもたらす。FMC1は、ATPシンターゼのF1セクターのアセンブリに高温(35~37℃)で必要とされるタンパク質をコードする核遺伝子であり、それによってNARP患者において観察されるヘテロプラスミーを模倣する。実際、制限温度(35~37℃)で増殖させた場合、fmc1Δ変異体のミトコンドリアは、野生型(WT)株よりもアセンブリしたATP合成酵素複合体がはるかに少ないが、アセンブリしたミトコンドリアは完全に機能的である。この不均一性はまた、ヘテロプラスミックATP6変異によりATPシンターゼレベルが低下した患者において見出される。したがって、fmc1Δ変異体は、これらの障害の適切なモデル、特にm.8993T>G(MR14,NARP)変異体(Schon, E.A.ら、2001)の同等物を構成する。
【0085】
TAZ遺伝子は、ミトコンドリアトランスアシラーゼであるタファジンをコードし、これは未成熟カルジオリピンのリモデリングを触媒し、テトラリノレオイル部分の優勢を含有するその成熟組成物にする。TAZ変異は、心内膜線維弾性症(EFE)を伴う拡張型心筋症(CMD)、主に近位骨格筋症、成長遅延、好中球減少、及び器質性酸尿、特に3-メチルグルタコン酸の過剰によって、通常特徴付けられるX連鎖疾患であるバース症候群をもたらす(Barth, P.G.ら、1996)。
【0086】
SHY1はヒトSURF1遺伝子の酵母ホモログである。SURF1遺伝子はミトコンドリア複合体IVのアセンブリ因子をコードする。SURF1変異は、生後数カ月又は数年以内に発症する進行性であり、重度の神経変性疾患であるリー症候群と関連しており、早期死亡に至ることがある。罹患者は、通常、全般的な発達遅延又は発達の退行、筋緊張低下、運動失調、ジストニア、眼振又は視神経萎縮等の眼科的異常を示す。
【0087】
SYM1はヒトMPV17遺伝子の酵母ホモログである。MPV17は、機能不明のミトコンドリア内膜タンパク質をコードする。MPV17変異はミトコンドリアDNA枯渇症候群を引き起こし、これは乳児期に進行性肝不全を発症することによって特徴付けられる常染色体劣性遺伝疾患であり、しばしば生後1年以内に死亡する。生存した患者は、運動失調、筋緊張低下、ジストニア、及び精神運動の退行を含む進行性の神経学的障害を発症する(Spinazzola, A.等、2006)。
【0088】
特定の実施形態によれば、本発明の骨組みにおいて処置される疾患は、以下の遺伝子: MTTL1、ATP6、TAZ、SURF1、POLG、MPV17、OPA1、COA6、ND6及びBCS1Lのうちの少なくとも1つの遺伝子欠陥に関連するか又はそれに起因する。
【0089】
特に興味深いのは、MELAS症候群、母性遺伝性ミオパシー及び心筋ミオパシー、NARP症候群、リー症候群、バース症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4A(Alpers型)、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4B(MNGIE型)、ミトコンドリア劣性運動失調症候群、感覚性運動失調性神経障害及び眼筋麻痺、てんかんを伴う脊髄小脳性運動失調、進行性外眼筋麻痺、ミトコンドリアDNA枯渇症候群-6、ナバホ神経障害、ベール症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群14、シトクロム c オキシダーゼ欠損症(COA6 変異)による乳児心臓脳ミオパシー(cardioencephalomyopathy)、ミトコンドリア複合体III欠損症核1型、GRACILE症候群、及びビョルンスタッド症候群からなる群において選択される疾患の処置である。
【0090】
特に興味深いのは、ミトコンドリア複合体I欠損症/複数の欠損症に関連する疾患の処置である。いくつかの疾患は、単に複合体Iの機能不全に関連しているだけであるが、他の疾患は複数の欠損、例えば、いくつかのミトコンドリア複合体に関連している。
【0091】
当該技術分野において公知であるように、ミトコンドリアの呼吸鎖は、酸化的リン酸化の基礎であり、細胞の主要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を生成するために酸素及び単糖を使用する重要な細胞プロセスである。このプロセスには、それぞれいくつかのタンパク質からなる5つのタンパク質複合体が関与している。複合体は、複合体I、複合体II、複合体III、複合体IV、及び複合体Vと呼ばれる。呼吸鎖の最初の酵素である複合体I(CI又はNADHデヒドロゲナーゼ、NADH補酵素Qレダクターゼ)は、ミトコンドリアDNA(ND1~ND6及びND4L)によってコードされている7つを含む少なくとも44のサブユニットで構成される非常に大きなタンパク質複合体(ほぼ1000 kDa)である。
【0092】
特定の実施形態によれば、アルベリン又はその誘導体のうちの1つは、いわゆる「原発性」ミトコンドリア疾患、すなわち、病原性ミトコンドリア又は核DNA変異(複数可)のいずれかに連結された複合体Iの少なくとも1つのサブユニットにおいて同定された遺伝的異常によるものを処置するために使用することができる。これらの病理学は、神経学的、心筋、又は眼科の症状と関連しており、他の臓器又は組織が影響を受ける可能性がある場合であっても、このようなミトコンドリア疾患において最も影響を受ける組織又は臓器である。
【0093】
別の特定の実施形態によれば、アルベリン又はその誘導体のうちの1つを使用して、いわゆる「二次性」ミトコンドリア疾患を処置することができる。このような場合、遺伝的異常は複合体Iを直接意味するものではないが、病理学はミトコンドリアの機能に影響を及ぼし、特にこの複合体Iの酵素活性を減少させる可能性がある。このような疾患は、環境因子又は加齢等の非遺伝的原因によるものである可能性もある。これは、特にパーキンソン病又は他の加齢に関連した神経変性疾患においてあてはまる。
【0094】
一実施形態によれば、ミトコンドリアの欠損症又は機能不全は、遺伝子疾患に起因する。
【0095】
遺伝子疾患は、定義上、1つ又は複数の遺伝子における1つ又は複数の遺伝子欠陥(又は変異)から生じる疾患である。遺伝子欠陥は、ミトコンドリアDNA及び/又は核遺伝子に影響を及ぼす可能性がある。ミトコンドリア疾患の原因となる遺伝子欠陥は点変異であり、コドン変化をもたらす。しかしながら、疾患は、1つ以上の塩基又はコドンの欠失又は挿入に関連し得る。
【0096】
特定の実施形態によれば、疾患は、複合体I機能性に関与する1つ又は複数の遺伝子における1つ又は複数の遺伝子欠陥(又は変異)から生じる。
【0097】
このような遺伝子の非限定的なリストは、以下:
- 複合体I構造遺伝子、特に、MTND1 (又はND1)、MTND2 (又はND2)、MTND3 (又はND3)、MTND4 (又はND4)、MTND5 (又はND5)、MTND6 (又はND6)、MTND4L (又はND4L)、NDUFA1、NDUFA2、NDUFA3、NDUFA4、NDUFA5、NDUFA6、NDUFA7、NDUFA8、NDUFA9、NDUFA10、NDUFA11、NDUFA12、NDUFA13、NDUFAB1、NDUFB1、NDUFB2、NDUFB3、NDUFB4、NDUFB5、NDUFB6、NDUFB7、NDUFB8、NDUFB9、NDUFB10、NDUFB11、NDUFC1、NDUFC2、NDUFS1、NDUFS2、NDUFS3、NDUFS4、NDUFS5、NDUFS6、NDUFS7、NDUFS8、NDUFV1、NDUFV2、NDUFV3;
- 複合体Iアセンブリ遺伝子、特に、NDUFAF1、NDUFAF2、NDUFAF3、NDUFAF4、NDUFAF5、NDUFAF6、NDUFAF7、NDUFAF8、NUBPL、ACAD9、TMEM126B、FOXRED1、ECSIT、AIF、TIMMDC1
を含む。
【0098】
一例として、アルベリン又はその誘導体のうちの1つは、遺伝的欠陥がND3、ND6、NDUFV1又はNDUSF8に関する遺伝子疾患を処置するために使用することができる。
【0099】
例示的な変異は、主に神経障害又はリー症候群の原因となる、p.Arg386Cysアミノ変化置換をもたらすNDUFV1変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T、又はp.Ala341valアミノ変化置換をもたらすNDUFV1変異である。
【0100】
遺伝的起源のいくつかのミトコンドリア疾患、特にミトコンドリア複合体I欠損症に関連するものは、先行技術において十分に確認されている。
【0101】
LHON症候群又はレーベル遺伝性視神経症は、通常、若年成人に発症する。発症は急激であり、中心視力の低下に対応して、眼球中心部の視力が急速に低下する。ほとんどの場合、周辺視野は、ほぼ盲野の周囲の視覚のハローのように持続する。この疾患は、呼吸鎖複合体Iサブユニットをコードする遺伝子におけるホモプラスミック変異に起因する。実際には、以下のミトコンドリアDNA変異m.11778G>A、m.3460G>A及びm.14484T>Cは、LHON変異の約95%を表す。
【0102】
リー症候群(又はLS)は進行性であり、重度の神経変性疾患である。罹患者は、通常、全般的な発達遅延又は発達の退行、筋緊張低下、運動失調、ジストニア、眼振又は視神経萎縮等の眼科的異常を示す。リー症候群はまた、心臓、肝臓、胃腸、腎臓の組織に有害な多臓器系作用を及ぼすことがある。リー症候群を有する患者を対象とした生化学的研究では、乳酸の増加及びミトコンドリアの酸化的リン酸化の異常を示す傾向がある。リー症候群は、NDUFV1変異又はMTND5 m.13513G>A変異等の複合体Iサブユニットをコードする遺伝子の変異と関連している可能性がある。
【0103】
ミトコンドリアミオパシー、脳症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様エピソードを含むMELAS症候群は、様々な臨床表現型を有する遺伝的に不均一なミトコンドリア障害である。この障害は、痙攣、片麻痺、半盲、皮質盲、及び一過性嘔吐を含む中枢神経系障害の特徴を伴う。この症候群は、ミトコンドリアDNAにおけるm.3243A>G変異、すなわちtRNALeu (UUR)(MTTL1)遺伝子に最初関連しており、複合体I mRNAのタンパク質への翻訳の変化を誘導し、したがってND6等の複合体Iの構造タンパク質の量の減少を誘導する。MELAS症候群はまた、m.3260A>G変異等の他のミトコンドリアDNA変異に関連し、tRNALeu (UUR)にも影響する。このm.3260A>G変異はまた、母性遺伝性ミオパシー及び心筋症を含む他の臨床表現型をもたらす可能性がある。
【0104】
特に興味深いのは、複合体I欠損症と関連することが示されている遺伝子疾患の処置であり、例えば、MELAS症候群、リー症候群、及びレーベル遺伝性視神経症が挙げられる。このような疾患は、心臓、ミオパシー又は神経学的臨床表現型等の他の症状と関連し得ることに留意されたい。
【0105】
より一般的には、アルベリン又はその誘導体のうちの1つは、ミトコンドリア機能不全、特に複合体I欠損症に関連するミトコンドリア機能不全の処置に用いることができる。ミトコンドリア機能不全は、電子伝達鎖の効率の喪失と、アデノシン-5'-三リン酸(ATP)等の高エネルギー分子の合成の減少によって特徴付けられ、加齢を特徴とし、本質的にすべての慢性疾患の特徴である。
【0106】
これらの疾患には、以下が含まれる:
- 神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、及びフリードライヒ運動失調;
- 心血管疾患、例えば、アテローム性動脈硬化症、並びに他の心臓及び血管の状態;
- 糖尿病及びメタボリックシンドローム;
- 自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、及び1型糖尿病;
- 神経行動学的及び精神医学的疾患、例えば、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害及び気分障害;
- 胃腸障害;
- 疲労病(fatiguing illness)、例えば、慢性疲労症候群及び湾岸戦争病;
- 筋骨格系疾患、例えば、線維筋痛及び骨格筋の肥大/萎縮;
- 筋ジストロフィー;
- がん;及び
- 慢性感染。
【0107】
具体的な実施形態によれば、機能性胃腸運動障害は、本発明の骨組みにおいて処置される疾患の定義外である。
【0108】
一態様によれば、本発明による組成物は、同じ疾患の処置のための少なくとも別の化合物と関連する。本発明による組成物及び上記化合物は、それらの特殊性、特にそれらの生物学的利用能を考慮に入れるために、経時的に同時に又は別々に投与することができる。
【0109】
特定の実施形態によれば、本発明は、組成物、有利には、上述の化合物、及び同じ疾患又は異なる疾患、有利には同じ疾患の処置のための潜在的に他の活性分子(他の遺伝子治療タンパク質、化学基、ペプチド又はタンパク質等)を含有する医薬組成物又は医薬製品に関する。
【0110】
好ましくは、同じ疾患又は異なる疾患の処置のための、本発明による医薬組成物及び少なくとも1つの化合物は、同じ疾患又は異なる疾患を処置するために、同時に、別々に又は経時的に蔓延して投与される。
【0111】
より一般的には、ミトコンドリア疾患に関して、ミトコンドリア機能を向上させることができる更なる化合物は、同時に又は異なる時間に投与することができる。同時投与の場合、2つの化合物は、同じ組成物中に関連付けることができる。
【0112】
このような更なる化合物の例は、L-カルニチン、アルファ-リポ酸(α-リポ酸[1,2-ジチオラン-3-ペンタン酸])、補酵素Q10(CoQ10又はユビキノン)、リボフラビン(B2ビタミン)還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、L-アルギニン等の天然補給物であり、可能であれば組み合わせられる。
【0113】
例えば、MELAS症候群の場合に使用される化合物の例は、L-アルギニン及びシトルリン等の一酸化窒素(NO)前駆体である。
【0114】
本発明の組成物から利益を得ることができる対象には、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患、特に複合体I欠損症に関連するミトコンドリア機能不全を有し、このような疾患と診断されるか又はこのような疾患を発症するリスクがある全ての患者が含まれる。
【0115】
本発明による組成物で処理される対象は、種々の基準に基づいて選択することができる。ミトコンドリア機能不全、特に複合体I欠損症に関連して、いくつかの試験を行うことができ、例えば、
- 生化学的レベルでは:生検、特に対象の筋肉又は皮膚の生検に基づいて、O2消費及び/又はミトコンドリア複合体I活性(下記の実施例8~9に開示される)を測定することができる。
呼吸鎖の他の複合体の活性は、ミトコンドリアの機能障害が複合体I欠損症のみによるものかどうかを決定するために更に評価することができる;
- 遺伝的レベルでは:血液、細胞、又は生検試料、例えば、皮膚から抽出されたDNAを配列決定することにより、1つ以上の分子異常、特に、上記に列挙された好ましい遺伝子における変異又は欠失/挿入を同定することが可能になる。或いは、対応するタンパク質発現又は活性は、当業者に公知である任意の方法(例えば、ウエスタンブロット法)によって評価することができる。
【0116】
本発明の標的は、安全な(毒性のない)処置を提供することである。さらなる目的は、疾患の発症を延期させ、遅延させ、又は予防することを可能にし、以下に開示されるように臨床レベルで容易にモニタリングすることができる患者の表現型を向上させることを可能にする、効果的な処置を提供することである。
【0117】
対象において、本発明による組成物は、
- ミトコンドリア機能、特にミトコンドリア呼吸を向上させるために;
- 成長を向上させるために;
- 筋機能を向上させるために;
- 視力及び/又は聴力を向上させるために;
- 呼吸機能を向上させるために;
- 心臓、肝臓又は腎臓の機能を向上させるために;
- 脳機能を向上させるために;
- 消化機能を向上させるために、及び/又は
- 生存期間を延長し、より一般的には、生活の質及び平均余命を向上させるために使用することができる。
【0118】
一態様によれば、本発明は、ミトコンドリア機能、特に複合体I活性を、有利には有害作用なしに向上させる方法に関し、それを必要とする対象に、上記で開示した組成物の治療量を投与することを含む。
【0119】
有利には、上記向上は、処置開始後の最大1カ月、又は3カ月若しくは6カ月若しくは9カ月間、より有利には、処置開始後の最大1年、2年、5年、10年まで、又は対象の全生涯にわたって観察される。
【0120】
一実施形態では、上記向上は、症状の重症度及び/又は頻度の減少、及び/又は出現の遅延をもたらす。
【0121】
向上は、例えば、MELASの場合、当該技術分野において公知である方法:
- 例えば、磁気共鳴分光法(MRS)により測定した場合、乳酸レベル、特に脳室乳酸の評価;
- 臨床スケール、例えば、NMDAS (成人向けニューカッスルミトコンドリア疾患スケール(Newcastle Mitochondrial Disease Scale for Adults))スコア又はSF-36(簡単な健康調査(Short Form Health Survey))スコアによる生活の質及び/又は平均余命の評価;
- 例えば、磁気共鳴画像法(MRI)を用いた、脳の変化の評価;
- 6分間歩行テスト等の身体検査を用いた筋肉活動の変化の評価;
- 静脈内乳酸及びGDF 15濃度の変化の評価;
- 尿及び血液中のmtDNAヘテロプラスミーの変化の評価
に基づいて評価することができる。
【0122】
特定の症例に対する適切なパラメータは、疾患に応じて適応させることができる。
【0123】
したがって、請求項に記載される処置は、未処置の対象と比較して、臨床状態及び上記に開示された種々のパラメータを改善することを可能にする。
【0124】
本発明の実施は、特に断らない限り、当業者の範囲内に十分にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術を採用する。このような技術は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版 (Sambrook、2012); 「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984); 「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010); 「Methods in Enzymology」、「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997); 「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987); 「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002); 「Polymerase Chain Reaction/ Principles, Applications and Troubleshooting」(Babar、2011); 「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)等の文献で十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの製造に適用可能であり、それ自体、本発明の製造及び実施において考慮され得る。以下のセクションでは、特定の実施形態のための特に有用な技術について説明する。
【0125】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を製造及び利用し、請求項に記載された方法を実施することができると考えられる。
【実施例】
【0126】
本発明及びその利点は、添付の図面を支持する、以下に示される実施例からよりよく理解される。特に、本発明は、ミトコンドリア疾患のための種々のモデル生物、並びに患者細胞株におけるクエン酸アルベリン(ALV)の効果に関して説明される。
【0127】
ALVは、以下のサブユニット:NDUFV1 (Schuelkeら、1999)、NDUFS8(Procaccioら、2004)、ND2又はND3 (Sarziら、2007)、及びND6 (Johnら、1992)サブユニットにおいて変異を有する異なる生物のいくつかの複合体Iサブユニットに対して活性であることが示されている。
【0128】
加えて、ALVの代謝産物である4-ヒドロキシアルベリン(4-ヒドロキシALV)は、変異A357Vを有するポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)nuo-51遺伝子に対して活性であることが示された。
【0129】
更に、アルベリンの有効性は、他のミトコンドリア酵母変異体において実証されている。しかしながら、これらの実施例は、決して限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【
図1】ヒトにおける病原性NDUFV1 A341V変異体を模倣したポドスポラ・アンセリナnuo-51遺伝子における熱感受性変異A357Vの増殖速度における影響を示す図である。
【
図2】ヒトにおける病原性NDUFV1 A341V変異体を模倣したポドスポラ・アンセリナnuo-51遺伝子における熱感受性変異A357Vの31.5℃での呼吸(O2)及び複合体I活性(CI)における効果を示す図である。CS:クエン酸シンターゼ活性。アスタリスク(**又は***)は、野生型株(WT)に対する統計的有意差を示す。
【
図3】ヒト病原性変異NDUFV1
A341Vを模倣したポドスポラ・アンセリナのnuo-51
A357V変異体の、33℃での熱感受性増殖におけるDMSO(C)と比較したALV(A)及び4-ヒドロキシALV(B)の影響を示す図である。
【
図4】31.5℃でのnuo-51
A357V(NDUFV1)、28℃でのΔnuo-19(NDUFS7)及びnd2-nd3(ND)変異株の増殖速度における種々の濃度のALV(0.001~10μM;VEH=0)の影響を示す図である。アスタリスク(*又は**)は、未処理培養物に対する統計的有意差を示す(VEH=ビヒクル)。
【
図5】31.5℃でのnuo-51
A357V(NDUFV1)のO2消費速度におけるALV 1μMの影響を示す図である。アスタリスク(**)は、未処理培養物に対する統計的有意差を示す(VEH=ビヒクル)。
【
図6】31.5℃でのnuo-51
A357V(NDUFV1)の複合体I活性(CI)におけるALV 1μMの影響を示す図である。アスタリスク(***)は、未処理培養物に対する統計的有意差を示す(VEH=ビヒクル)。CS:クエン酸シンターゼ活性。
【
図7】C. エレガンスnuo-1
A352V(NDUFV1)変異子孫におけるALV 1μMの影響を示す図である。アスタリスク(**)は、未処理培養物に対する統計的有意差を示す。
【
図8】NDUFV1又はNDUFS8 RNAiに曝露された野生型蠕虫の子孫におけるALV 1μMの影響を示す図である。アスタリスク(**)は、未処理培養物に対する統計的有意差を示す。
【
図9】複合ヘテロ接合性変異c1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1変異細胞の増殖に無毒性である最大ALV濃度の決定を示す図である。30nM~30μMのALV濃度の範囲。
【
図10】複合ヘテロ接合性変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1変異細胞のクエン酸シンターゼ活性における活性ALV濃度の決定を示す図である。アスタリスク(*)は、未処理細胞(ビヒクル)に対する統計的有意差を示す。
【
図11】複合ヘテロ接合性変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1変異細胞の複合体I酵素活性における活性ALV濃度の決定を示す図である。アスタリスク(*又は**又は***)は、未処理細胞(ビヒクル)に対する統計的有意差を示す。
【
図12】複合ヘテロ接合変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1変異細胞のクエン酸シンターゼ活性(CS)に関して標準化された複合体I酵素活性(CI)における活性ALV濃度の決定を示す図である。アスタリスク(*又は**)は、未処理細胞(ビヒクル)に対する統計的有意差を示す。
【
図13】m.14484T>C(p.Met64Val)ミトコンドリアDNA変異を有するND6変異細胞の増殖に無毒性である最大ALV濃度の決定を示す図である。30nM~10μMのALV濃度の範囲。Veh:ビヒクル。n=4+/-SEM。*P<0.05。
【
図14】Alvの存在下におけるND6変異体の複合体I酵素活性の測定を示す図である。(A):異なる濃度のAlvで48時間処理した後に、ND6細胞株のクエン酸シンターゼにより標準化。(B):ND6変異細胞株のクエン酸シンターゼ活性の酵素測定。n=4+/-SEM。*P<0.05。
【
図15】Alvによる48時間曝露した後の対照線維芽細胞、NDUFV1及びND6変異線維芽細胞株の乳酸産生の決定を示す図である。(A)、対照細胞; NDUFV1(B)及びND6(C)。(A)及び(B): n=3。(C): n=4+/-SEM。*P<0.05。
【
図16】ハロー試験で検出した場合、固形呼吸培地上での種々の変異酵母株の増殖におけるアルベリンの影響を示す図である。
【
図17】taz1変異酵母株の呼吸成長欠損の抑制をもたらすALV濃度の活性範囲の決定を示す図である。
【0131】
(実施例1~5)
ポドスポラ・アンセリナモデル
実施例1~5で使用される糸状菌であるポドスポラ・アンセリナ株は、ミトコンドリア疾患をもたらす複合体IのNDUFV1サブユニットにおけるヒト変異をモデリングする特異的変異を含有する。この株は、31.5℃を超える非許容温度で成長欠陥を示す。
【0132】
ポドスポラ・アンセリナ変異株:
〇nuo-51 A357V→ノーセオスリシン耐性カセット(NatR)と関連して、S野生型株のnuo-51遺伝子にA357V変異を導入した。ヒトNDUFV1A341V疾患を完全に模倣するために、NDI-1及びAOX遺伝子を不活化した(El-Khouryら、2008)。
株の遺伝子型:S, mat-, nuo-51 A357V, Δndi-1, Δaox, NatR, HygroR
〇nd2-nd3→Wa32-LL株は、対応するサブユニットND2及びND3のレベルを下方制御する、ミトコンドリア共転写ユニットnd2/nd3の5'-UTRに組み込まれたミトコンドリアプラスミドを有する(Maasら、2007)。
〇Δnuo-19→ヒトPSST(NDUFS7)サブユニットのホモログをコードする遺伝子は、S野生型株において不活化された(Maasら、2010)。
【0133】
(実施例1)
ヒトにおける病原性変異NDUFV1
A341Vを模倣するポドスポラ・アンセリナnuo-51遺伝子における熱感受性変異A357Vの増殖速度(1)、呼吸及び複合体I活性(2)における影響
材料及び方法
菌糸体は、子嚢胞子から開始して、28℃にて固体合成M2培地を含有するペトリディッシュ上で増殖させる。培養物は、菌糸体の小片から固体合成培地(M2、
http://podospora.i2bc.paris-saclay.fr/)上で増殖させる。増殖速度は、1日あたりの菌糸成長のセンチメートルで測定される。
図1では、増殖速度は野生型と比較して表されている。
【0134】
酸素消費について、31.5℃で増殖させた菌糸体の40mg試料を、Oxytherm装置(Hansatech電極)に導入する。2分間の登録後、試料を回収し、Bradfordタンパク質アッセイ(Biorad)によりタンパク質含量を推定する。呼吸は、消費された酸素のnmol/分/μgタンパク質として登録され、次に野生型と比較して表される。各株につき少なくとも3つの試料を実験ごとに調べた。実験を少なくとも5回繰り返した。
【0135】
0.4Mスクロース緩衝液中で菌糸体とガラスビーズを混合し、分別遠心分離した後に得られた粗ミトコンドリア上で複合体I活性(CI)を行った。ロテノンの存在下及び非存在下でのNADH消費速度を、NADH及びキノン添加から始まる25μgのミトコンドリアを用いた分光光度法(340~380nm)により記録した。クエン酸シンターゼ活性(CS)を、クエン酸シンターゼ活性に対するNADHデヒドロゲナーゼ-ロテノン感受性活性(CI/CS)として複合体I活性を表すために、ミトコンドリアの同等試料で決定した。
【0136】
結果
結果を
図1、
図2に示す。
nuo-51
A357V株は、野生型株と比較して熱感受性であり、31.5℃では増殖速度の30%の減少であり、33℃では増殖しない(
図1)。
nuo-51
A357V変異株は、酸素消費量が40%減少し、複合体I活性が70%低下する(
図2)。
【0137】
(実施例2)
NDUFV1A341Vのヒト病原性変異を模倣するポドスポラ・アンセリナのnuo-51A357V変異体の熱感受性増殖におけるALV及び4-ヒドロキシALVの影響
材料及び方法
分子(ALV、4-ヒドロキシALV及びDMSO)を、薬物滴下試験により、nuo-51A357V変異株の熱感受性成長欠陥を回復するそれらの能力について試験した。28℃のM2プレート上で2日間の培養からかき取られた変異体菌糸体を、FastPrep装置中で混合し、新鮮な四角プレート上に広げた。次に、6mmセルロースディスクを落とし、DMSO中の10mMで種々の化合物でスポットし、プレートを33℃でインキュベートした。4~6日以内に、フィルター周囲の増殖の推定再開(すなわち、ハロー)が観察される。
【0138】
結果
結果を
図3に示す。
クエン酸アルベリン(A:左上隅)及びアルベリンの分解経路の最初の代謝物である4-ヒドロキシアルベリン(B:右上隅)は、毒性を示さずにnuo-51
A357V変異株の増殖を回復させる。両方の化合物で同じ効果が観察されたという事実は、クエン酸アルベリンという化合物では活性のあるアルベリンであることを示す。
【0139】
(実施例3)
nuo-51A357V(NDUFV1)、Δnuo-19(NDUFS7)及びnd2-nd3(ND)変異株の増殖速度におけるALVの影響
材料及び方法
変異株は、種々の濃度のALVの存在下で31.5℃(実施例1において決定した)、3~6日で増殖させた熱感受性nuo-51A357V株を除き、28℃で増殖された。増殖速度は、実施例1に記載したように計算した。
【0140】
実験は少なくとも三重にして行われた。処理対未処理の培養物(VEH)の差を標準偏差(誤差バー)に従って評価した。
【0141】
結果
データを
図4に示す。
nuo-51
A357V及びnd2-nd3変異株は、ALVの存在下で増加した増殖速度を示す。逆に、ALVはΔnuo-19株の増殖速度を増加させない(機能的複合体Iの完全な不存在)。5つの独立した実験から決定された最適なALV用量反応は、nuo-51
A357V株について1μMであり、さらなる実験に使用される。毒性は10μM以下では検出することができない。
【0142】
(実施例4)
nuo-51A357V(NDUFV1)のO2消費速度におけるALVの影響
材料及び方法
nuo-51 A357V変異株を、ALVの非存在下(VEH)又は1μM ALVの存在下(実施例3で決定した最適濃度)、31.5℃で増殖させ、40mg菌糸体を、実施例1に記載されるように、Oxytherm装置(Hansatech電極)に導入した。
【0143】
実験は少なくとも5回行い、誤差バーは標準偏差を表す。処理対未処理の培養物(VEH)の差は、Pearsonのカイ二乗検定を用いて評価し、有意なp値は<0.05であった。
【0144】
結果
結果を
図5に示す。
nuo-51
A357V変異体の呼吸速度は、1μMのALVの存在下で有意に増加する。
【0145】
(実施例5)
nuo-51A357V(NDUFV1)の複合体I活性におけるALVの影響
材料及び方法
nuo-51 A357V変異株を、ALV(1μM)の存在下又は非存在下(VEH)、31.5℃で増殖させ、ロテノン感受性NADHデヒドロゲナーゼ活性を、実施例1に記載されるように、粗ミトコンドリア抽出物で決定した。
【0146】
実験は少なくとも5回行い、誤差バーは標準偏差を表した。
処理対未処理の培養物(VEH)の差は、Pearsonのカイ二乗検定を用いて評価し、有意なp値は<0.05であった。
【0147】
結果
結果を
図6に示す。
nuo-51
A357V変異体の複合体I活性は、1μM ALVの存在下で有意に増加する。
【0148】
(実施例6~7)
シノラブディス・エレガンス(caenorhabditis elegans)モデル
実施例6~7で使用されるC. エレガンス線虫は、Caenorhabditis Genetics Center(CGC)コンソーシアムの野生型BRISTOL N2株である。ヒトにおける病原性変異NDUFV1A341Vを模倣する、nuo-1A352V変異(Δnuo-1、ex:nuo-1(A352V))を有する変異株LB25は、B. Lemire(カナダ; Grad and Lemire, 2004)によって構築された。
【0149】
(実施例6)
C. エレガンスnuo-1A352V (NDUFV1)子孫におけるALVの影響
材料及び方法
1μMのALV有り又は無でL1段階から発生させた個々のL4動物(F0)をマイクロプレート内の別々のウェルに移し、産卵中、毎日モニタリングし、新鮮なウェルに移し、それらを子孫から分離しておいた。孵化2~3日後、子孫の成体(F1-成体)を計数した。
【0150】
30を超えるF0-成体の子孫を3つの独立した実験で実験により記録し、誤差バーは標準偏差を表す。処理細胞対未処理細胞間の差は、スチューデントt検定を用いて評価され、有意なp値は<0.05であった。
【0151】
結果
結果を
図7に示す。
培地中での1μMのALVの存在下、nuo-1
A352V蠕虫の成虫子孫、すなわちF0-成体によって得られたF1-成体の数が有意に増加する(p=0.02)。
【0152】
(実施例7)
NDUFV1又はNDUFS8 RNAiに曝露された野生型蠕虫の子孫におけるALVの影響
材料及び方法
野生型蠕虫(N2)におけるNDUFV1又はNDUFS8の発現低下は、給餌法(Kamath RS and Ahringer J., 2003)によるRNAiによって達成された。野生型蠕虫は、RNAi条件下、1μM ALVの存在下又は非存在下で、L1段階からL4段階まで同期的に発生させた。次に、個々のL4動物をマイクロプレート中の別々のウェル(同じ培地及びRNAi条件)に移し、次の3~7日以内にモニタリングした。
【0153】
NDUFV1(C09H10.3)のRNAi及びNDUFS8(T20H4.5)のRNAiは、幼虫の子孫を与えることができるF0成体をほとんど生じさせない。したがって、幼虫の子孫を与えることができるF0-成体の数をモニタリングした。30を超えるF0-成体の子孫を3つの独立した実験で記録した(t検定、p=0.02)。RNAiの効率はリアルタイムqRT-PCR(RNAi条件下でF0-成体におけるNDUFV1又はNDUFS8の20%残存mRNA)により決定した。
【0154】
結果
結果を
図8に示す。
NDUFV1(Nモジュールの一部)又はNDUFS8(Qモジュールの一部)の発現を低下させるRNAi条件下、ALV 1μMは子孫を増加させることができる。
【0155】
(実施例8~12) ヒト細胞モデル
アルベリン(ALV)は、P. アンセリナ変異株及び蠕虫変異体に基づいて正の効果を有することが判明したため、次に患者由来のヒト変異細胞で試験した:複合体I変異を有する皮膚線維芽細胞(c.1162+2A>C、c.1156C>TのNDUFV1変異;(p.Arg386Cys))を実施例8及び9に使用した。
【0156】
(実施例8)
複合ヘテロ接合性変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1線維芽細胞変異細胞の細胞増殖におけるALV(30nM~30μMの濃度)の影響
材料及び方法
Lemanら(2015)に記載されるように、10%ウシ胎児血清、1%グルタミンを補充した低グルコース培地(0.5g/l)DMEM-F12中、24ウェルプレートにおいてNDUFVI変異線維芽細胞を培養した。IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムデバイスのCCDカメラを用いて、自動化された方法で、同じ細胞密度で播種されたウェルにおいて、5% CO2の存在下、37℃で、96時間、増殖及びコンフルエンスをリアルタイムでモニタリングした。変異細胞を、ビヒクルに対して異なる濃度のALV(30nM~30μM)で処理した。増殖時間-経過は、細胞コンフルエンスに従った濃度依存的な処理効果を明らかにした。
【0157】
結果
結果を
図9に示す。
異なるALV薬物濃度(30nM~30μM)に曝露した複合ヘテロ接合変異c.1162+2A>C及びc.1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1変異線維芽細胞の細胞増殖は、ビヒクルと比較して10μM及び30μM濃度のALVで減少したことを表す。
【0158】
(実施例9)
複合ヘテロ接合性変異c1162+2A>C及びc1156C>T(p.Arg386Cys)を有するNDUFV1線維芽細胞変異細胞上の複合体I酵素活性上の活性ALV濃度の決定
材料及び方法
複合体I欠損症の原因となるNDUFV1複合ヘテロ接合性変異を有する複合体I変異体細胞を、他の文献(Lemanら、2015)に記載されるように、5% CO2の存在下、37℃で10%ウシ胎児血清、1%グルタミン及び50μg/mlウリジンを補充した標準DMEM高グルコース培地(4.5g/L)又は低グルコース(0.5g/L)中で培養した。薬物濃度の効果を最適化するために、細胞を、48時間、種々の濃度の10nM~10μMのアルベリン又はビヒクル(DMSO)を補充した低グルコース-培地0.5g/lにシフトさせた(解糖ではなくOXPHOSに依存するよう細胞に強制するため)。
【0159】
複合体Iの酵素活性は、記載されるように(Lemanら、2015; Desquiret-Dumasら、2012)、UVmc2分光光度計(SAFAS)上で37℃にて測定された。複合体Iの酵素活性について、50万個の細胞を超音波処理(5秒に6サイクル)し、次に反応培地(KH2PO4 100mM、pH7.4、KCN 1mM、NaN3 2mM、BSA 1mg/ml、ユビキノン-1 0.1mM及びDCPIP 0.075mM)中、37℃でインキュベートした。0.15mMのNADHを添加して反応を開始し、DCPIPの消失速度を600nmで2分間測定した。非特異的活性はロテノン(5μM)の存在下で決定した。
【0160】
複合体Iの酵素活性はミトコンドリア質量のマーカーとして考えられるクエン酸シンターゼ(CS)活性に関して標準化された。5,5'-ジチオビス2-ニトロ安息香酸(DTNB) 0.15mM、オキサロ酢酸0.5mM、アセチルcoA 0.3mM、triton X100 0.1%で構成される予め温められた反応混合物に、10万個の細胞を添加することによりクエン酸シンターゼ活性を測定し、412nmにおけるCoA-SHの出現速度をDTNB還元後に評価した。
【0161】
実験は少なくとも三重にして行われ、誤差バーは標準偏差を表す。処理細胞対未処理細胞(DMSO)の差は、スチューデントのt検定を用いて評価され、有意なp値は<0.05であった。
【0162】
結果
結果を
図10~
図12に示す。アスタリスク(*、**又は***)は、未処理細胞(ビヒクル)に対する統計的有意差を示す。
【0163】
データは、ALVが、100nM及び300nMの濃度で、NDUFV1変異細胞の複合体I酵素活性に有益な効果を有し、300nMから最大10μMのALV濃度が、変異細胞における複合体Iの活性に有害な影響を及ぼさないことを示す。
【0164】
(実施例10)
MT-ND6遺伝子中のm.14484T>C(p.Met64Val)を有するND6線維芽細胞変異細胞株の細胞増殖におけるALV(30nM~10μMの濃度)の影響
複合体Iは核ゲノムとミトコンドリアゲノムにコードされる。Alvは核にコードされたサブユニットであるNDUFV1の変異を有する線維芽細胞において正の効果を有することが示されたため、次に、LHON疾患の原因であることが示されるホモプラスミックm.14484T>C(p.Met64Val)ミトコンドリアDNA変異を有する線維芽細胞複合体I欠損細胞で試験した。
【0165】
材料及び方法
ND6変異線維芽細胞を、Lemanら(2015)に記載されるように、10%ウシ胎児血清、1%グルタミンを補充した低グルコース培地(0.5g/l)DMEM-F12中、24ウェルプレート中で培養した。IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムデバイスのCCDカメラを用いて自動化した方法で、同じ細胞密度で播種したウェルにおいて、5% CO2存在下、37℃で96時間、増殖及びコンフルエンスをリアルタイムでモニタリングした。変異細胞を、ビヒクルに対して異なる濃度のALV(30nM~10μM)で処理した。増殖時間-経過は、細胞コンフルエンスに従った濃度依存的な処理効果を明らかにした。
【0166】
結果
結果を
図13に示す。
異なるALV薬物濃度(30nM~10μM)に曝露したホモプラスミックm.14484T>C(p.Met64Val)ミトコンドリアDNA変異を有するND6変異線維芽細胞の細胞増殖は、30、100及び300nMの濃度で変化しなかった。しかしながら、ビヒクルと比較して1μM以上のALV濃度では、倍加時間の有意な増加(すなわち、細胞増殖の減少)が観察された。
【0167】
(実施例11)
Alv処理後のホモプラスミックm.14484T>C(p.Met64Val)ミトコンドリアDNA変異を有するND6変異細胞株に対する複合体I酵素活性の測定
材料及び方法
複合体I欠損症の原因となるホモプラスミックm.14484T>C(p.Met64Val)ミトコンドリアDNA変異体を有する複合体I変異体細胞を、他の文献に記載されるように(Lemanら, 2015)、5% CO2の存在下、37℃で10%ウシ胎児血清、1%グルタミン及び50μg/mlウリジンを補充した標準DMEM高グルコース培地(4.5g/L)又は低グルコース(0.5g/L)中で培養した。薬物濃度の効果を最適化するために、細胞を、48時間、種々の濃度の30nM~10μMのアルベリン又はビヒクル(DMSO)を補充した低グルコース-培地0.5g/lにシフトさせた(解糖ではなくOXPHOSに依存するよう細胞に強制するため)。
【0168】
複合体Iの酵素活性は、記載されるように(Lemanら、2015; Desquiret-Dumasら、2012)、UVmc2分光光度計(SAFAS)上で37℃にて測定された。複合体Iの酵素活性について、50万個の細胞を超音波処理(5秒で6サイクル)し、次に反応培地(KH2PO4 100mM、pH7.4、KCN 1mM、NaN3 2mM、BSA 1mg/ml、ユビキノン-1 0.1mM及びDCPIP 0.075mM)中、37℃でインキュベートした。0.15mMのNADHを添加して反応を開始し、DCPIPの消失速度を600nmで2分間測定した。非特異的活性はロテノン(5μM)の存在下で決定した。
【0169】
複合体Iの酵素活性はミトコンドリア質量のマーカーとして考えられるクエン酸シンターゼ(CS)活性に関して標準化された。5,5'-ジチオビス2-ニトロ安息香酸(DTNB) 0.15mM、オキサロ酢酸0.5mM、アセチルcoA 0.3mM、triton X100 0.1%で構成される予め温められた反応混合物に、10万個の細胞を添加することによりクエン酸シンターゼ活性を測定し、412nmにおけるCoA-SHの出現速度をDTNB還元後に評価した。
【0170】
実験は少なくとも三重にして行われ、誤差バーは標準偏差を表す。処理細胞対未処理細胞(DMSO)の差は、スチューデントのt検定を用いて評価され、有意なp値は<0.05であった。
【0171】
結果
結果を
図14に示す。アスタリスク(*)は、未処理細胞(ビヒクル)に対する統計的有意差を示す。
【0172】
データは、30nM及び300nMの濃度のALVが、クエン酸シンターゼ活性に標準されたND6変異細胞の複合体I酵素活性に有益な効果を有することを明らかにする。
【0173】
(実施例12)
30nM~10μMの異なる濃度のAlvに曝露されたNDUFV1及びND6変異細胞株における乳酸産生の決定
変異細胞株は、対照細胞と比較して優先的な嫌気的解糖代謝を有する。乳酸産生の決定は、30nM~10μMの異なる濃度のAlvの存在下で48時間の曝露後に評価された。
【0174】
材料及び方法
合計15,000細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種し、5% CO2の存在下、37℃で増殖させた。24時間後、細胞を30nM~10μMの異なる濃度のAlvで処理した。48時間後、上清を回収し、製造業者に従って乳酸決定キット(Abcamキットab65330)を用いて乳酸をアッセイした。乳酸濃度は、マイクロプレート分光光度計(CLARIOstar装置、BMG Labtech)を用いて測定した。
【0175】
結果
結果を
図15に示す。
Alvは対照線維芽細胞株(
図15A)及びNDUFV1細胞株(
図15B)の乳酸産生を変化させなかった。ND6細胞株(
図15C)の乳酸産生は、ビヒクルと比較して、上記1μM及び3μMの濃度で有意に増加した。
【0176】
(実施例13~14)
他のミトコンドリア酵母変異体におけるアルベリンの有効性
(実施例13)
種々の変異酵母株の増殖におけるアルベリンの影響
材料及び方法
酵母変異株:
W303-1A株において、TAZ1のオープンリーディングフレームをTRP1のものに置換することにより、taz1Δ酵母株を構築した(MATa ade 2-1 ura3-1 his311,15 trp1-1 leu2-3,112 can1-100)(de Taffin de Tilques, M.ら、2018)。
W303-1A株において、SYM1のオープンリーディングフレームをkanMX6のものに置換することにより、sym1Δ酵母株を構築した(MATa ade 2-1 ura3-1 his311,15 trp1-1 leu2-3,112 can1-100)。
fmc1 MC6 MATa ade2-1 his3-11,15 trp1-1 leu2-3,112 ura3-1 fmc1::HIS3 [Δi ER OR] (Schwimmer, C.ら、2005)。
NARP MR14 MATa ade2-1 his3-11,15 trp1-1 leu2-3,112 ura3-1 CAN1 arg8::HIS3 ρ+ atp6-L183R (Rak, M.ら、2007)。
shy1Δ酵母株は、W303-1A株において、SHY1のオープンリーディングフレームをHISのものに置換することによって構築した(MATa ade 2-1 ura3-1 his311,15 trp1-1 leu2-3,112 can1-100) (Barrientos, A.ら、2002)。
【0177】
液体YPDリッチ発酵培地(1%酵母抽出物、0.5%バックトペプトン、2%グルコース)中で0.5 OD600で増殖させた種々の酵母変異株の200μLを、寒天ベース固体呼吸培地上に広げた: fmc1、shy1及びNARP変異体についてはYPG(1%酵母抽出物、0.5%バックトペプトン、2%グリセロール)、又はtaz1及びsym1変異体についてはYPE(1%酵母抽出物、0.5%バックトペプトン、2%エタノール)のいずれかである。次に、小さな滅菌フィルターを寒天表面に置き、100nmolのアルベリン(ALV)をフィルターに添加した。次に、プレートを、shy1変異体について28℃で、又はfmc1、taz1、sym1及びNARP変異体について36℃で4~5日間インキュベートし、その後、スキャンした。DMSO、複合ビヒクルを陰性対照として用いる。
【0178】
結果
図16に示されるように、増強された増殖のハローは、ALVがスポットされたフィルターの周囲で観察され、ALVがミトコンドリア疾患の試験されたすべての酵母モデルにおいて有効であることを示す。
【0179】
(実施例14)
taz1変異酵母株の呼吸成長欠陥の抑制をもたらすALV濃度の活性範囲の決定
材料及び方法
指数関数的に増殖した細胞を、ALV濃度を増加させながら、補充されたか又はされていない新鮮な非発酵性YPG培地に接種した。これらのアッセイは、バイオスクリーンデバイス内の96ウェルプレートで行われた。経時的に細胞密度を追跡し、呼吸成長欠陥を抑制するALV能力に関してのALVの最適濃度と、ALVが毒性を示す濃度の両方を決定した。taz1細胞を、炭素源として2%グリセロールを含有する液体培地中で70時間増殖させ、ALV濃度を増加させた(100pMから100μM)。
【0180】
結果
図17に示されるように、100pMから10μMで、増加した呼吸成長が観察され、治療域が非常に大きいことを示す。毒性は100μMから見出されている。
【0181】
(参考文献)
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【国際調査報告】